説明

四輪駆動車用駆動力配分装置

【課題】変速制御とクラッチ制御とに対するシフト操作性を改良した四輪駆動車用駆動力配分装置を提供する。
【解決手段】四輪駆動車用駆動力配分装置は、シフトカム駆動機構を備えている。シフトカム駆動機構は、シフトカム47に形成された噛合溝47bと噛み合うことでシフトカム47を回転させる駆動爪91と、シフトカム47のシフト完了位置において、駆動爪91を弾力に抗して噛合溝47bと噛み合わない方向に回転させる駆動爪開放機構84と、シフト完了位置から基準位置へ戻すとき、駆動爪91が噛合溝47bと噛み合わないように駆動爪開放機構84の開放状態を保持する開放状態保持機構110とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後輪間又は左右輪間に駆動力を配分制御する四輪駆動車用駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、副変速機の切替えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とを単一のアクチュエータで制御する四輪駆動車用の駆動力配分装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この特許文献1に記載された駆動力配分装置は、アクチュエータの出力軸と同軸に回転駆動部材が固定されており、この回転駆動部材の軸方向両側には、副変速機に連結されるシフトフォークを移動するシフト用円筒カム、及びボールカムプレートの駆動ギヤと噛み合うピニオンギヤが相対回転可能に配置されている。
【0004】
制御原点を起点としてアクチュエータの左回転により、回転駆動部材に回転軸方向出没自在に装着されたスライド型のラチェットをシフト用円筒カムの端面に形成されたラチェット溝に嵌合してシフト用円筒カムを回転させ、そのシフト用円筒カムの回転運動をシフトフォークにより直線運動に変換させることで、副変速機の変速制御が行われる。一方、制御原点を起点としてアクチュエータの右回転で、回転駆動部材のスライド型ラチェットをシフト用円筒カムのラチェット溝から離脱させ、回転駆動部材のピニオンギヤがボールカムプレートの駆動ギヤを介して摩擦クラッチのクラッチ押付力を変化させることで、クラッチ制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−176329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の駆動力配分装置は、回転駆動部材の回転駆動に伴い回転駆動部材のスライド型ラチェットをシフト用円筒カムのラチェット溝にならって移動させることでラチェット溝から離脱させるように構成されている。このような構成によると、スライド型ラチェットがラチェット溝から離脱するのに必要な回転駆動部材の周方向の回転角度範囲が大きくなり、アクチュエータを多く回転駆動する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、変速制御とクラッチ制御とに対するシフト操作性を改良した四輪駆動車用駆動力配分装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明は、入力軸への動力を少なくとも高速と低速の2段に切替えて主出力軸へ伝達する副変速機構と、前記主出力軸の動力を副出力軸に伝達する摩擦クラッチと、前記副変速機構のポジションを切替えるシフトカムと、前記副変速機構の切替え、もしくは前記摩擦クラッチの押付力の調整を行う単一のアクチュエータと、前記アクチュエータを基準位置から一方側へ回転駆動させる場合は、前記摩擦クラッチの押付力を調整し、前記アクチュエータを前記基準位置から他方側の前記シフトカムのシフト完了位置へ回転駆動した後に前記シフト完了位置から前記基準位置に戻す場合には、前記シフトカムを順送り動作させることで前記副変速機構のポジションを切替えるシフトカム駆動機構とを備えており、前記シフトカム駆動機構は、前記シフトカムに形成された噛合溝と噛み合うことで前記シフトカムを回転させる駆動爪と、前記駆動爪を前記シフトカムと噛み合う方向に付勢するバネと、前記シフト完了位置において、前記バネの弾力に抗して前記駆動爪を前記シフトカムの噛合溝と噛み合わない方向に回転させる駆動爪開放機構と、前記アクチュエータを前記シフト完了位置から前記基準位置へ戻すとき、前記駆動爪が前記シフトカムの噛合溝と噛み合わないように前記駆動爪開放機構の開放状態を保持する開放状態保持機構とを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力配分装置にある。
【0009】
[2]上記[1]記載の前記開放状態保持機構は、前記駆動爪の開放に伴って前記駆動爪のシフトカム噛合側に挿入されるシャッター部材を備えたことを特徴とする。
【0010】
[3]上記[1]記載の前記開放状態保持機構は、前記駆動爪の開放に伴って前記シフトカムに形成されたチェック溝に嵌め込むことで前記シフトカムを前記シフト完了位置に引き込むチェック機構を備えており、前記チェック機構が前記チェック溝に引き込まれる前に、前記駆動爪が前記シフトカムの噛合溝と噛み合わない位置に開放されるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シフトを途中で戻すことが可能となり、優れたシフト操作性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる典型的な第1の実施の形態であるシフト・クラッチ制御機構を備えたトランスファの内部構造を一部省略して概略的に示す説明図である。
【図2】シフト・クラッチ制御機構の分解斜視図である。
【図3】シフト・クラッチ制御機構に好適に用いられる回転操作部材の斜視図である。
【図4】シフト・クラッチ制御機構に好適に用いられるチェック機構の断面図である。
【図5】シフト・クラッチ制御機構の要部平面図である。
【図6】シフト・クラッチ制御機構に好適に用いられるシャッター機構のシャッター部材を示す斜視図である。
【図7】(a)〜(e)はシャッター機構の動きを説明するための図である。
【図8】(a)及び(b)はシフト・クラッチ制御機構におけるクラッチ制御の説明図である。
【図9】(a)〜(e)は第2の実施の形態であるシフト・クラッチ制御機構の動きを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0014】
[第1の実施の形態]
(トランスファの全体構成)
図1において、全体を示す符号1は、この第1の実施の形態に係る典型的な四輪駆動車用駆動力配分装置を備えたトランスファの全体構成を概略的に示している。図示例によるトランスファ1は、例えばFR(フロントエンジン、リヤドライブ)方式をベースにした四輪駆動車に適用されるものである。
【0015】
このトランスファ1は、図1に示すように、フロントケース2及びリアケース3からなるトランスファケースを有している。このフロントケース2の前側部位には、図示しないエンジンからの回転駆動を同じく図示を省略した自動変速機あるいは手動変速機を介して入力する入力軸4がベアリング5を介して回転可能に固定支持されている。この入力軸4には、フロントケース2内に同軸的に配された副変速機20を介してリアケース3内に同軸的に配された主出力軸である後輪出力軸6が直結されている。この後輪出力軸6には、4WDモードにおける前後輪駆動力の配分制御を行う摩擦クラッチ装置30が同軸的に配されている。
【0016】
この後輪出力軸6と平行な部位には、図1に示すように、主出力軸に対する副出力軸となる前輪出力軸7が設けられている。この後輪出力軸6の副変速機20及び摩擦クラッチ装置30の間には、駆動スプロケットギヤ8が同軸的に設けられている。一方の前輪出力軸7の同軸上には、駆動スプロケットギヤ8に対する従動スプロケットギヤ9が設けられている。この駆動スプロケットギヤ8と従動スプロケットギヤ9とには、環状のチェーン10が掛け回されている。
【0017】
このトランスファ1は、図1に示すように、副変速機20において高速段H又は低速段Lの走行変速切替えを行うH−Lシフト機構40を備えている。トランスファ1は更に、H−Lシフト機構40の切替え、及び摩擦クラッチ装置30の接断を操作する単一のアクチュエータ11を備えている。
【0018】
このアクチュエータ11には、図1に示すように、モータ12のトルクを増幅する減速機13が内蔵されている。その減速機13による回転駆動は、アクチュエータ出力軸14を介して摩擦クラッチ装置30、及びH−Lシフト機構40に伝達される。
【0019】
(副変速機の構成)
この副変速機20は、図1に示すように、H−Lシフト機構40の操作により、入力軸4に入力するエンジン駆動力を少なくとも高速段H又は低速段Lの2段の減速比に切替えを行う。このH−Lシフト機構40は、副変速機20の遊星歯車機構に同軸的に配されたH−L切替え用のクラッチスリーブ41を備えている。
【0020】
この遊星歯車機構は、図1に示すように、入力軸4の外周に一体形成されたサンギヤ21と、フロントケース2に固定されたリングギヤ22と、このサンギヤ21の外周に噛み合うとともに、リングギヤ22の内周に噛み合う複数のプラネタリギヤ23,…,23とを備えている。
【0021】
このプラネタリギヤ23のそれぞれは、図1に示すように、同一の位相差をもって配された支軸24を介して円形のキャリアケース25に自転可能に固定支持されている。このキャリアケース25は、サンギヤ21と相対回転可能に入力軸4の軸回りに固定支持されている。このキャリアケース25の後端部には、内スプライン(歯部)26aを有する円形のプラネタリキャリア26が一体に固定されており、支軸24の両端がキャリアケース25とプラネタリキャリア26とに支持固定されている。
【0022】
低速状態においては、クラッチスリーブ41のスプラインがサンギヤ21から脱することで、プラネタリキャリア26の内スプライン26aにクラッチスリーブ41のスプラインをスプライン係合させ、プラネタリギヤ23から伝達された回転駆動力が、低速回転駆動力として後輪出力軸6に伝達される。一方、図1に示す高速状態においては、クラッチスリーブ41のスプラインとサンギヤ21とが互いに噛合して連結されており、入力軸4の回転駆動力が、高速回転駆動力として後輪出力軸6に伝達される。
【0023】
(摩擦クラッチ装置の構成)
この摩擦クラッチ装置30は、図1に示すように、環状のクラッチハブ31を後輪出力軸6に固定するとともに、環状のクラッチドラム32を駆動スプロケットギヤ8の延長筒部に固定している。このクラッチハブ31とクラッチドラム32とにより形成された第1環状空間内には、トルク伝達を行うための多数枚のクラッチプレート33,…,33が軸方向移動可能に支持されている。このクラッチハブ31とクラッチドラム32とにより形成された第2環状空間内には、リターンスプリング34が設けられている。
【0024】
この摩擦クラッチ装置30は、図1に示すように、後輪出力軸6と同一軸上に移動可能な環状のクラッチ押付部材35と、アクチュエータ11の回転運動を直線運動に変換し、クラッチ押付部材35に軸方向変位を付与するボールカム機構50とを備えている。このクラッチ押付部材35は、リターンスプリング34により摩擦クラッチ開放方向に付勢されており、アクチュエータ11の回転駆動により軸方向へ移動されるようになっている。クラッチプレート33の接断動作を制御することで、クラッチプレート33のクラッチ締結力に応じて、後輪出力軸6及び前輪出力軸7に対して伝達されるトルク配分が変更可能である。
【0025】
(ボールカム機構の構成)
このボールカム機構50は、図1に示すように、摩擦クラッチ装置30のクラッチ締結力を無段階に制御する。このボールカム機構50には、後輪出力軸6と同一軸上に反力側のカムプレート(反力カムプレート)51、及び駆動側のカムプレート(駆動カムプレート)52により構成された一対のボールカムが設けられている。この反力カムプレート51は、スラスト軸受53を介して環状の固定部材54に固定されている。一方の駆動カムプレート52は、スラスト軸受55を介してクラッチ押付部材35に当接して連結されている。
【0026】
この反力カムプレート51は、図2に示すように、アクチュエータ出力軸14側に向けて延在する自由端部を位置決めロッド107に支持している。この位置決めロッド107は、アクチュエータ出力軸14と同軸上に回転可能に支持された摩擦クラッチ駆動用の板カム60の逆回転を阻止するストッパとしての機能をも有している。
【0027】
一方の駆動カムプレート52は、図2に示すように、反力カムプレート51とは所定角度の位相差をもってアクチュエータ出力軸14側に向けて延在する先細り状のアーム部52aが一体形成されている。そのアーム部52aの先端部分にはカムフォロア56が回転自在に軸支されている。そのカムフォロア56は、板カム60のカム面60aに常時接触されており、アクチュエータ11の回転をボールカム機構50に伝達するようになっている。
【0028】
この駆動カムプレート52は、カムフォロア56を介して板カム60のカム面60aにならって回転駆動するので、例えばピニオンギヤにより駆動カムプレートを回転駆動する構成と比べて、クラッチプレート33の間が離間しているクラッチ締結解除状態からクラッチ締結状態へ移る際の長い移動距離をアクチュエータ11による小さい回転角度で移動させることが可能となる。
【0029】
この板カム60のカム面60aは、図2に示すように、カム立ち上がり部分60bをシフトロッド45及びカム面60a間の距離の変化率が二次曲線的に変化する非線形に形成されるとともに、そのカム立ち上がり部分60bから駆動回転方向にわたって線形形状に形成されている。
【0030】
この板カム60の作用により、摩擦クラッチ装置30のクラッチプレート33の遊び部分を少ない回転角で摩擦クラッチ装置30の初期位置からクラッチプレート33間の隙間を縮めてクラッチ押付力が作用する。従って、摩擦クラッチ装置30の初期位置からクラッチプレート33間の隙間を縮めてクラッチ押付力が作用する位置までのストロークが長い区間を短時間でクラッチ接断動作を行うことが可能になる。
【0031】
この摩擦クラッチ装置30を締結する場合は、アクチュエータ11の後側からみて、板カム60がアクチュエータ出力軸14の軸心回りに正回転方向に右回転することで、駆動カムプレート52が反力カムプレート51に対して一定方向に回転駆動される。この駆動カムプレート52が回転駆動すると、駆動カムプレート52は、ボールカム溝内のボール57による押圧を受けながら、後輪出力軸6の軸方向に移動する。駆動カムプレート52が移動すると、クラッチ押付部材35は、後輪出力軸6の軸方向前方に押されてクラッチプレート33を押圧する。これにより、アクチュエータ11の回転量に応じてクラッチ押付力が増加する。
【0032】
一方、摩擦クラッチ装置30の締結を解除する場合は、上記操作とは逆に板カム60が回転することで、上記操作と逆の操作を行うこととなる。これにより、板カム60のカム面60aの形状に対応する変化パターンで、摩擦クラッチ装置30のクラッチ押付部材35を後輪出力軸6の軸方向に移動させることができる。
【0033】
(H−Lシフト機構の構成)
このH−Lシフト機構40は、図1に示すように、フォーク本体42及び摺動ホルダ43がコイルバネ44を介して相対移動可能な二部材により主に構成されている。このフォーク本体42の一側は、シフトロッド45に移動可能に挿通支持されている。このフォーク本体42の他側には、H−L切換え用のクラッチスリーブ41に係合した二股状のフォークが延出されている。フォーク本体42の幅方向両側に相対する立設側壁の内面には、内方に膨出した細長い柱状の一対のバネ荷重受部42a,42aがシフトロッド軸方向両側にそれぞれ形成されている。
【0034】
一方の摺動ホルダ43は、図1に示すように、シフトロッド45と同軸上に挿通支持される一対の摺動脚部43a,43aを介してフォーク本体42に相対移動可能に設けられている。この摺動脚部43aは、フォーク本体42のバネ荷重受部42a間の間隔より小さく設定されるとともに、この一対の摺動脚部43aの間の間隔は、フォーク本体42の長さ方向両側一対のバネ荷重受部42a間の間隔に略等しく設定されている。
【0035】
この一対の摺動脚部43aの対向内面には、図1に示すように、一対の円形のワッシャ46,46がシフトロッド45と同軸上に配されている。このワッシャ46には、フォーク本体42の幅方向両側一対のバネ荷重受部42a間の間隔より大径に形成されている。この一対の摺動脚部43a及びワッシャ46は、コイルバネ44の両端を保持するバネ保持機能と、コイルバネ44を作動させるバネ作動機能とを兼ね備えている。フォーク本体42のバネ荷重受部42aと摺動ホルダ43の摺動脚部43aとの相対移動で生じるコイルバネ44の圧縮力及び復元力によってシフト操作力を蓄積する待ち機構が構成される。
【0036】
この摺動ホルダ43の長さ方向一端部には、図1に示すように、シフトロッド45に沿って延びるアーム部43bが一体に形成されている。このアーム部43bの先端部には円柱状のシフターピン43cが突出して支持されている。このシフターピン43cは、シフトカム47の回転運動をH−Lシフト機構40の直線運動に変換するカム溝47a内に摺動自在に所定の間隙をもって遊嵌されている。シフターピン43cは、アーム部43bを介してフォーク本体42よりもシフトカム47側に配置される構成となっており、装置内の狭小な設置空間を合理的に使用することができる。
【0037】
このシフトカム47の回転運動は、図1に示すように、カム溝47aの傾斜部に沿って移動するシフターピン43cを介して摺動ホルダ43へと伝達され、摺動ホルダ43の直線運動に変換される。この直線運動は、コイルバネ44を介してシフトロッド45に沿ってフォーク本体42を直線運動させる。図示例では、シフトカム47の回転で、シフターピン43cを副変速機20の高速段H位置及び低速段L位置の切替えに必要な軸方向のシフト量だけ移動させる。このフォーク本体42の直線運動により、フォーク本体42を介して副変速機20のサンギヤ21とプラネタリギヤ23との間で駆動力の連結・切断を行うクラッチスリーブ41をシフトさせ、高速と低速の切替えが行われる。
【0038】
(シフト・クラッチ制御機構の全体構成)
この第1の実施の形態に係る一つの主要な基本の構成は、図1〜図3に示すように、摩擦クラッチ装置30とH−Lシフト機構40とを制御するシフト・クラッチ制御機構80にある。従って、上記のように構成されたトランスファ1の全体構成は、従来のものと基本的な構成において変わるところはない。よって、トランスファ1の全体構成は、図示例に限定されるものではない。
【0039】
この第1の実施の形態に係る典型的なシフト・クラッチ制御機構80は、図1〜図3に示すように、単一のアクチュエータ11によって副変速機20の切替え動作、及び摩擦クラッチ装置30の接断動作を個別に制御することを可能とする。図示例によると、この制御は、シフトカム47のシフト完了位置(アクチュエータ11の基準位置)を制御原点とした一方側に所定の回転角でクラッチ制御を行い、シフトカム47のシフト完了位置を制御原点とした一方側とは逆の他方側に所定の回転角で副変速機20の切替えを行っている。
【0040】
このシフト・クラッチ制御機構80は、図1〜図3に示すように、H−Lシフト機構40をシフトロッド45に沿って直線移動させるシフトカム47と、摩擦クラッチ装置30のクラッチ押付力を変化させる板カム60と、シフトカム47及び板カム60を個別に回転駆動させる回転駆動部材81と、シフトカム47のシフト完了位置を決めるチェック機構100とにより主に構成されている。このシフトカム47、板カム60、回転駆動部材81及びチェック機構100は、アクチュエータ出力軸14と同軸上に配されており、アクチュエータ11の回転量に応じて動作する。
【0041】
(回転駆動部材の構成)
この回転駆動部材81は、図2及び図3に示すように、シフトカム対向側の大径部分82と板カム対向側の小径部分83とが中心線方向に段差をもつ中間段差部83aを介して一体形成された円筒体からなる。この大径部分82は、シフトカム47の端面と対向して配置されており、シフトロッド45の一端部が大径部分82及び中間段差部83aに連通して形成された中心孔部に相対回転可能に支持されている。
【0042】
この小径部分83の外周部は、図1及び図2に示すように、一対のベアリング15,15を介してリアケース3に回転可能に支持されている。小径部分83の内周部は、スプラインによる固定状態でアクチュエータ出力軸14と結合されている。中間段差部83aの外周部には、板カム60が相対回転可能に支持されている。
【0043】
この回転駆動部材81の大径部分82には、図2及び図3に示すように、矩形状を有する一対のクラッチ制御機構用の駆動突起84とシフト制御機構用の駆動突起85とが板カム60側に突出して形成されている。この駆動突起84,85は、所定の位相差をもって大径部分82の同一円周上に配されている。
【0044】
この駆動突起84は、図2及び図3に示すように、板カム60に形成された被駆動突起61に当接して板カム60を同期回転させる駆動面84aを有している。一方の駆動突起85は、板カム60の被駆動突起61に当接して回転駆動部材81の動作を停止させるストッパ面85aを有している。板カム60の被駆動突起61は、駆動突起84の駆動面84aと駆動突起85のストッパ面85aとの間の同一円周上に突出形成されている。
【0045】
この一対の駆動突起84,85の間に切欠して形成された平坦状の大径部分82の外面には、図2及び図3に示すように、外面の法線方向に延びる回転軸86を介してラチェットレバー87が双方向回転可能に支持されている。このラチェットレバー87は、バネ89によりシフトカム47の端面側に向けて付勢されており、回転駆動部材81の回転方向と交差する方向に回転する。
【0046】
このラチェットレバー87の回転基部には、図2及び図3に示すように、回転軸86を中心として設けられたラチェット部90が一体に形成されている。このラチェット部90の駆動爪であるラチェット爪91は、シフトカム47の端面をシフト方向、及びシフト方向とは反対側の戻し方向の両方向に駆動可能な外形形態に形成されている。この回転駆動部材81の回転中心線の法線方向の軸線を中心としてラチェットレバー87が双方向回転可能に固定支持された構成となっているので、ラチェット爪91がラチェット溝47bから離脱するのに必要となるラチェット爪91の作動回転角を小さくすることができるようになっている。
【0047】
このラチェット爪91は、図2及び図3に示すように、シフトカム47の端面に形成されたラチェット溝47bにバネ89の弾力に抗して係脱可能とされている。このラチェット爪91の外面には、シフト完了の戻り時にラチェット溝47bとの係合を阻止する円柱の突部92が突出して形成されている。
【0048】
このラチェットレバー87には、図3に示すように、回転軸86と直交してシフトカム47側の腕部88と板カム60側の腕部88とが一体に形成されている。この一対の腕部88は、回転駆動部材81の回転中心線から右回り方向に傾斜している。この一対の腕部88の右回り方向の側面は、回転軸86に対称に形成されたカム面88a,88bをそれぞれ有している。
【0049】
このカム面88aは、回転駆動部材81が制御原点からシフト方向とは逆方向(摩擦クラッチ押付方向)へ回転駆動したとき、ラチェット爪91をシフトカム47のラチェット溝47bから離脱させる開放状態に保持し、クラッチ制御動作中にシフトカム47を回転させないようにするものである。一方のカム面88bは、回転駆動部材81が制御原点からシフト完了位置の方向(シフト方向)へ回転駆動したとき、ラチェット爪91を開放させるものである。
【0050】
(シフトカム駆動機構の構成)
一方の板カム60には、図2に示すように、回転駆動部材81側の対向面に円柱状の長短一対の駆動ピン62,63が突出して形成されている。この長尺の駆動ピン62は、ラチェットレバー87のシフトカム47側の腕部88の回転軌跡内に配されている。一方の短尺の駆動ピン63は、ラチェットレバー87の板カム60側の腕部88の回転軌跡内に配されている。この駆動ピン62,63は、ラチェット爪91をラチェット溝47bと噛み合わない方向に回転させる駆動爪開放機構となる。
【0051】
長尺の駆動ピン62は、図2に示すように、回転駆動部材81が制御原点からクラッチ押付方向へ回転駆動したとき、回転駆動部材81の腕部88のカム面88aに当接して押圧することで、ラチェット爪91をシフトカム47のラチェット溝47bから離脱させ、ラチェット爪91を開放する。一方の短尺の駆動ピン63は、回転駆動部材81が制御原点からシフト方向へ回転駆動したとき、回転駆動部材81の腕部88のカム面88bに当接して押圧することで、ラチェット爪91を開放する。
【0052】
上記のように構成されたシフト・クラッチ制御機構80の構成部品のうち、シフトカム47のラチェット溝47b、板カム60の駆動ピン62,63、及び回転駆動部材81により、シフト・クラッチ制御機構80の一つの主要部を構成するシフトカム駆動機構が主に構成される。このシフトカム駆動機構は、アクチュエータ11を基準位置から一方側へ回転駆動させる場合は、摩擦クラッチ装置30の押付力を調整し、アクチュエータ11を基準位置から他方側のシフトカム47のシフト完了位置へ回転駆動した後にシフト完了位置から基準位置に戻す場合には、シフトカム47を順送り動作させることで副変速機20のポジションを切替えるように構成されている。
【0053】
(シフトチェック機構の構成)
このシフトカム47の回転駆動部材81寄りの端部には、図1、図2及び図4に示すように、シフトカム駆動機構のもう一つの主要部を構成するシフトカム用のチェック機構100が同軸に支持されている。このチェック機構100は、シフトカム47と相対回転する円形筐体状のチェック部101と、そのチェック部101と一体形成された一対の細長い円筒状のチェックブロック102,102とを備えている。
【0054】
このチェックブロック102は、図2及び図4に示すように、チェック部101の外周に放射状に延在されている。このチェックブロック102の内部には、コイルスプリング103の弾性反発力(付勢力)によりシフトカム47のチェック溝47cに押付けられるチェックボール104が設けられている。チェックブロック102の先端部開口は、プラグ105により閉鎖されている。
【0055】
このチェックボール104が係合するチェック溝47cは、図2及び図4に示すように、シフトカム47の端部外周面に形成されている。このシフトカム47のチェック溝47cは、シフトカム47のラチェット溝47bで決まるシフト完了位置となる2箇所のシフトエンドに対応して形成されている。このチェック溝47cに対する係合で、副変速機20のHポジション及びLポジションのシフト位置を位置決めしている。
【0056】
このチェック部101とチェックブロック102との間には、図2及び図4に示すように、チェック機構100の回り止めとなる扁平状の保持片106が一体に形成されている。この保持片106は、板カム60の逆回転を阻止するとともに、反力カムプレート51を支持する位置決めロッド107に貫通して支持されている。
【0057】
ところで、クラッチプレート33を押付けた状態でアクチュエータ11が駆動力を失うと、摩擦クラッチ装置30の反発力によりアクチュエータ11が逆転駆動する場合がある。チェック機構100の吸収エネルギーが摩擦クラッチ装置30の反発力によりアクチュエータ11を逆転駆動させるときに放出するエネルギーよりも大きくなるように、チェック機構100のチェックトルクと回転角とを設定する。
【0058】
ここで、チェックトルクとは、コイルスプリング103の弾力によりシフトカム47のチェック溝47cに付勢された状態で係合するチェックボール104が、このコイルスプリング103の付勢力に抗してチェックボール104とチェック溝47cとの係合を解除する抵抗トルクをいう。チェック機構100の吸収エネルギーは、次式(1)により計算される。
【0059】
チェック機構100の吸収エネルギー=チェック機構100の抵抗トルク×シフトカム47の回転角……(1)
【0060】
このチェック機構100は、シフトカム47の回転を停止するストッパとしての機能を有する。チェック機構100により、アクチュエータ11の駆動を失うような故障に対してシフトカム47をシフト方向に回転駆動させることなく、車両走行中の副変速機20の切替えを未然に防止することが可能となる。このチェック部101の円形外周の対角位置にチェックボール104を設けた構成となっているため、安価なチェックボール104及びコイルスプリング103により強いチェックトルクを発生することができる。
【0061】
(シャッター機構の構成)
この回転駆動部材81が、シフトカム47のシフト完了位置から戻り方向へ回転駆動するとき、ラチェットレバー87のラチェット爪91がシフトカム47のラチェット溝47bに嵌まり込むと、シフトカム47は、回転駆動部材81と一緒に回転してしまうことになる。
【0062】
この第1の実施の形態では、図2及び図5に示すように、シフトカム駆動機構のもう一つの主要部を構成するシャッター部材110が、板カム60を介して回転駆動部材81に相対回転可能に取り付けられている。このシャッター部材110は、アクチュエータ11がシフト完了位置から基準位置へ戻るとき、ラチェットレバー87のラチェット爪91がシフトカム47のラチェット溝47bと噛み合わないように、板カム60の駆動ピン63による回転駆動部材81の開放状態を保持する。このシャッター部材110により、ラチェット爪91のラチェット溝47bに対する嵌まり込みを阻止することができる。
【0063】
このシャッター部材110は、図6に示すように、回転駆動部材81の小径部分83の外周に挿入される挿入孔111を有する円形の薄板材からなる。その薄板材の外周辺から回転駆動部材81側へ交差する方向に第1突出片112が屈曲して突出されており、この第1突出片112の先端から円周方向に第2突出片113が延びている。この突出片112,113の形状は、円形の薄板材と同一曲率に設定されている。このシャッター部材110は、捻りバネ114により第2突出片113がラチェットレバー87の突部92と当接する方向に付勢されている。板カム60、シャッター部材110、及び捻りバネ114により、回転駆動部材81の開放状態を保持する開放状態保持機構(シフト噛み合い解除機構)が構成される。
【0064】
(シフトカムの順送り動作)
H−Lシフト機構40のシフト動作は、アクチュエータ11を基準位置からシフト方向に所定の回転角で回転させた後に基準位置に戻すアクチュエータ11の往復回転動作を繰返すことで、シフトカム47がHポジション及びLポジションの2つのシフトポジションに順送り動作する。一方、アクチュエータ11を基準位置からクラッチ押付方向に駆動回転させた場合は、シフトカム47を回転させることなく、摩擦クラッチ装置30のみを駆動する。
【0065】
アクチュエータ11を基準位置からシフト方向に駆動回転させた場合でも、所定の回転角まで駆動回転させない場合は、回転駆動部材81のラチェットレバー87のラチェット爪91は常に、シフトカム47のラチェット溝47bに噛み合っており、アクチュエータ11とシフトカム47とは一体回転する。よって、アクチュエータ11が所定の回転角に達する前であれば、元の位置に戻すことができる。
【0066】
(シフトカム駆動機構によるシフトカム順送り動作)
図7を参照すると、同図には、シフトカム47、板カム60、及び回転駆動部材81を組み付けた状態が展開して示されている。同図において、チェックボール104の両側に位置する2つのラチェット溝47b、チェック溝47c、被駆動突起61、及び駆動ピン63は同一のものであるが、展開図としては別々に表している。
【0067】
以下に、図7を参照しながら、回転駆動部材81がシフトカム47のシフト方向へ回転駆動するときのシャッター部材110の動作の一例を説明する。図7(a)においては、回転駆動部材81が基準位置からシフト方向に回転駆動しているシフト途中にある。回転駆動部材81のラチェット爪91は、シフトカム47のラチェット溝47bに噛み合っており、シフトカム47と回転駆動部材81とが一体に回転している。板カム60は、停止位置に残ったままの状態で停止している。
【0068】
この回転駆動部材81が、図7(b)に示すように、シフトカム47のカム溝端面方向に回転駆動する動きで、回転駆動部材81のラチェットレバー87の突部92は、捻りバネ114の弾力に抗してシャッター部材110の第2突出片113に当接して押圧荷重を受ける。
【0069】
このラチェットレバー87における腕部88のカム面88bは、図7(c)に示すように、回転駆動部材81の回転駆動に伴い板カム60の駆動ピン63に当接する。このラチェットレバー87は、回転駆動部材81の回転駆動に伴い板カム60の駆動ピン63の押圧荷重により回転軸86を中心としてシフトカム47のラチェット溝47bから離脱する方向に回転する。
【0070】
このラチェットレバー87のラチェット爪91は、図7(d)に示すように、シフトカム47のラチェット溝47bから離脱して開放される。このラチェット爪91が開放されると、ラチェットレバー87の突部92が捻りバネ114の弾力に抗してシャッター部材110の第2突出片113を乗り越えて、シャッター部材110の内側にラチェット爪91を押し込む。
【0071】
この回転駆動部材81がシフト完了位置(シフトエンド)からシフト方向とは反対方向に回転駆動して戻るとき、このシャッター部材110は、図7(e)に示すように、捻りバネ114の弾性反発力により初期の位置に復帰し、ラチェットレバー87の突部92がシャッター部材110の第2突出片113から離脱するまで、シフトカム47のラチェット溝47bを閉鎖する。このとき、シフトカム47はシフトポジションに残ったままの状態で停止している。
【0072】
(シフトカム駆動機構の効果)
この第1の実施の形態に係るシフトカム駆動機構によれば、回転駆動部材81がシフトを完了して制御原点に戻るとき、シャッター部材110によりラチェットレバー87の開放状態が維持されるので、ラチェット爪91がシフトカム47のラチェット溝47b内に嵌まり込むのを阻止することができる。ラチェット爪91とラチェット溝47bとの間の引っ掛かりを防止することができるため、シフトカム47の回転を阻止することができるようになり、変速制御とクラッチ制御とに対する優れたシフト操作性が得られる。
【0073】
(クラッチ制御機構の構成)
このシフト・クラッチ制御機構80のもう一つの主要部を構成するクラッチ制御機構は、図2に示すように、板カム60の被駆動突起61と回転駆動部材81の駆動突起84とにより主に構成されており、アクチュエータ11を制御原点からシフト方向とは反対側に駆動回転させることで、シフトカム47を回転させることなく、摩擦クラッチ装置30のみを駆動するように構成されている。
【0074】
(回転操作部材によるクラッチ制御の構成)
図8を参照すると、同図には、図7と同様に、シフトカム47、板カム60、及び回転駆動部材81を組み付けた状態が展開して示されている。図8(a)において、回転駆動部材81は基準位置にあり、回転駆動部材81のラチェット爪91は、シフトカム47のラチェット溝47bに噛み合った状態にある。シフトカム47はシフト完了位置に停止している。回転駆動部材81を回転駆動させることで、回転駆動部材81の駆動突起84の駆動面84aが板カム60の被駆動突起61に当接する位置が、摩擦クラッチ装置30における制御開始位置となる。
【0075】
この摩擦クラッチ装置30においては、図8(b)に示すように、回転駆動部材81を回転駆動させると、回転駆動部材81のラチェットレバー87における腕部88のカム面88aが、板カム60の長尺の駆動ピン62に当接して押圧される。ラチェットレバー87のラチェット爪91は、弾力に抗して回転軸86を中心にシフトカム47のラチェット溝47bから離脱する方向に回転して開放する。
【0076】
この板カム60の被駆動突起61は、図8(b)に示すように、回転駆動部材81の駆動突起84の駆動面84aにより押圧荷重を受ける。この回転駆動部材81は、シフトカム47をシフトポジションに残したままの状態で、板カム60を回転駆動させることになる。このとき、ラチェット爪91は、板カム60の駆動ピン62の作用により開放状態に保持される。
【0077】
この板カム60は、回転駆動部材81と一緒に回転駆動し、回転駆動部材81による板カム60の回転に伴い、駆動カムプレート52が反力カムプレート51に対して一定方向に回転駆動される。駆動カムプレート52は、ボールカム溝内のボール57による押圧を受けながら、カムフォロア56を介してクラッチプレート33を押圧することで、クラッチ押付力を増加させる。一方、この回転駆動部材81がシフト方向に回転すると、上記操作とは逆に板カム60の回転に応じてクラッチ押付力を減少させる。
【0078】
(第1の実施の形態の効果)
上記第1の実施の形態に係るシフト・クラッチ制御機構80によると、上記効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0079】
(1)回転駆動部材81の回転方向と交差する方向に回転するラチェットレバー87を装着した構成となっているため、ラチェット溝47bから離脱するのに必要となるラチェット爪91の作動回転角を小さくすることが可能となり、シフト時間を短縮することができる。
(2)H−Lシフト機構40の切替え時間が短くなるので、回転駆動部材81がシフト途中で停止することはない。回転駆動部材81がシフト途中で停止したとしても、元の位置に戻すことができる。
(3)回転駆動部材81の駆動突起85、及び板カム60の被駆動突起61が、シフトカム47のシフトエンドに対応して設定されているので、回転駆動部材81がシフトエンドでオーバーランすることがなくなり、制御バラツキがあったとしても確実にシフトを完了することができる。
(4)単一のアクチュエータ11を用いることで、変速制御とクラッチ制御とを行うことが可能となる。
(5)摩擦クラッチ装置30、及びH−Lシフト機構40を駆動操作する機構をモジュール化することが容易な構造が得られる。
(6)一つのアクチュエータ11で、変速制御とクラッチ制御とを行うことが可能であるため、トランスファ1の全体構造を安価にかつ小型軽量に設計することができる。
【0080】
[第2の実施の形態]
図9を参照すると、同図には、アクチュエータ11がシフト完了位置から基準位置へ戻るとき、回転駆動部材81のラチェット爪91がシフトカム47のラチェット溝47bと噛み合わないように開放状態を保持する開放状態保持機構の他の一構成例が例示されている。
【0081】
上記第1の実施の形態では、シャッター部材110を開放状態保持機構としていたものを、この第2の実施の形態にあっては、シャッター部材110を排除して、シフトカム47をシフトポジションに保持するチェック機構100を開放状態保持機構としている点で上記第1の実施の形態とは異なっている。なお、図9において上記第1の実施の形態と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。従って、これらの部材に関する詳細な説明は省略する。
【0082】
ところで、トランスファ1の切替え操作後にトランスミッションをあまり早く操作すると、シフトの途中でエンジン駆動力が入力され、H−Lシフト機構40のフォーク本体42が動かなくなってシフト完了前で停止する場合がある。そのような場合は、フォーク本体42を元の位置に戻すことで、車両が走り始めてから突然にシフトするような動作を回避することが望ましい。
【0083】
フォーク本体42がシフト完了前に停止した場合は、図9(a)に示すように、チェック機構100がシフトカム47のチェック溝47cに吸い込まれていない状態にあり、回転駆動部材81のラチェット爪91をシフトカム47のラチェット溝47bにおけるシフト方向の端面に引っ掛かった係合状態からラチェット溝47bのシフト方向とは反対側の端面に引っ掛かった係合状態で、シフトカム47と回転駆動部材81とをアクチュエータ11と一体に回転させる。これにより、フォーク本体42を元の位置に戻すことができるため、車両が走り始めてからの突然のシフト動作を回避することができる。
【0084】
以下に、図9(b)〜図9(e)を参照しながら、この第2の実施の形態に係る開放状態保持機構の動作の一例を説明する。
【0085】
図9(b)において、回転駆動部材81は、アクチュエータ11を基準位置からシフト方向に回転駆動しているシフト途中にある。回転駆動部材81のラチェット爪91は、シフトカム47のラチェット溝47bに噛み合っており、シフトカム47と回転駆動部材81とが一体に回転している。図示を省略した板カムは、停止位置に残ったままの状態を維持している。
【0086】
この回転駆動部材81によりシフトカム47を押しながら、ラチェットレバー87の腕部88のカム面88bが板カムの駆動ピン63に達すると、チェック機構100のチェックボール104は、図9(b)に示すように、シフトカム47のチェック溝47cに押し付ける吸い込み開始位置に達する。
【0087】
この回転駆動部材81が、図9(c)に示すように、シフトカム47のシフトエンド方向に回転駆動する動きで、ラチェットレバー87のカム面88bは、駆動ピン63により押圧荷重を受ける。ラチェットレバー87は、回転駆動部材81の回転駆動に伴い駆動ピン63の押圧荷重により回転軸86を中心としてラチェット溝47bから離脱する方向に回転することで、回転駆動部材81のバネ89の弾力に抗してラチェット溝47bから離脱する。
【0088】
このとき、チェックボール104がチェック溝47bに引き込まれる前に、ラチェット爪91がラチェット溝47bと噛み合わない位置に開放される。チェックボール104はチェック溝47cに嵌め入れる吸い込みを開始する。
【0089】
図9(d)において、チェックボール104はチェック溝47cに吸い込まれており、シフトカム47はシフト完了位置に停止している。このとき、ラチェットレバー87が閉じようとしても、シフトカム47の端面に当接しており、ラチェット爪91がラチェット溝47bと噛み合うことが防止される。
【0090】
図9(e)において、回転駆動部材81がシフトカム47のシフト完了位置からシフト方向とは反対方向に回転駆動して戻るとき、ラチェットレバー87は、シフトカム47をシフトポジションに残したままの状態で、シフトカム47の端面を滑りながら回転し、アクチュエータ11の基準位置である初期の位置に戻る。
【0091】
(第2の実施の形態の効果)
この第2の実施の形態に係る開放状態保持機構にあっても、上記第1の実施の形態に係る開放状態保持機構と同様の効果が得られる。それに加えて、シャッター部材を省略した構造では、シフト・クラッチ制御機構80の製作コストを低減することができる。
【0092】
[他の実施の形態]
上記四輪駆動車用トランスファにあっては、FRタイプの四輪駆動車用トランスファについて説明したが、本発明は、これに限定されるものではないことは勿論であり、例えばセンターデフを備えたFRタイプの四輪駆動車用トランスファやFFタイプの四輪駆動車用トランスファに効果的に使用することができる。また、上記各実施の形態では、HポジションとLポジションとの走行変速切替えを行う副変速機構を説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、例えば副変速機構における切替えポジションとして、ニュートラルや4WDロックなどの各種のポジションを増加させて設定することができる。
【0093】
なお、例えば入力側と出力側の間でトルクを伝達する各種の装置に使用することができることは勿論であり、例えば農業機械、建設土木機械、運搬機械等の作業用車両、不整地用四輪走行車(ATV)、鉄道等の各種の車両、各種の産業機械や工作機械等にも適用可能であり、本発明の初期の目的を十分に達成することができる。
【0094】
以上の説明からも明らかなように、本発明の四輪駆動車用トランスファの代表的な構成例を上記実施の形態、変形例及び図示例を挙げて説明したが、上記実施の形態、変形例及び図示例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。上記実施の形態、変形例及び図示例の中で説明した特徴の組合せの全てが本発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきであり、本発明の技術思想の範囲内において種々の構成が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
1…トランスファ、2…フロントケース、3…リアケース、4…入力軸、5,15…ベアリング、6…後輪出力軸、7…前輪出力軸、8…駆動スプロケットギヤ、9…従動スプロケットギヤ、10…チェーン、11…アクチュエータ、12…モータ、13…減速機、14…アクチュエータ出力軸、20…副変速機、21…サンギヤ、22…リングギヤ、23…プラネタリギヤ、24…支軸、25…キャリアケース、26…プラネタリキャリア、26a…内スプライン、30…摩擦クラッチ装置、31…クラッチハブ、32…クラッチドラム、33…クラッチプレート、34…リターンスプリング、35…クラッチ押付部材、40…H−Lシフト機構、41…クラッチスリーブ、42…フォーク本体、42a…バネ荷重受部、43…摺動ホルダ、43a…摺動脚部、43b…アーム部、43c…シフターピン、44…コイルバネ、45…シフトロッド、46…ワッシャ、47…シフトカム、47a…カム溝、47b…ラチェット溝、47c…チェック溝、50…ボールカム機構、51…反力カムプレート、52…駆動カムプレート、52a…アーム部、53,55…スラスト軸受、54…固定部材、56…カムフォロア、57…ボール、60…板カム、60a,88a,88b…カム面、60b…カム立ち上がり部分、61…被駆動突起、62,63…駆動ピン、80…シフト・クラッチ制御機構、81…回転駆動部材、82…大径部分、83…小径部分、83a…中間段差部、84,85…駆動突起、84a…駆動面、85a…ストッパ面、86…回転軸、87…ラチェットレバー、88…腕部、89…バネ、90…ラチェット部、91…ラチェット爪、92…突部、100…チェック機構、101…チェック部、102…チェックブロック、103…コイルスプリング、104…チェックボール、105…プラグ、106…保持片、107…位置決めロッド、110…シャッター部材、111…挿入孔、112…第1突出片、113…第2突出片、114…捻りバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸への動力を少なくとも高速と低速の2段に切替えて主出力軸へ伝達する副変速機構と、
前記主出力軸の動力を副出力軸に伝達する摩擦クラッチと、
前記副変速機構のポジションを切替えるシフトカムと、
前記副変速機構の切替え、もしくは前記摩擦クラッチの押付力の調整を行う単一のアクチュエータと、
前記アクチュエータを基準位置から一方側へ回転駆動させる場合は、前記摩擦クラッチの押付力を調整し、前記アクチュエータを前記基準位置から他方側の前記シフトカムのシフト完了位置へ回転駆動した後に前記シフト完了位置から前記基準位置に戻す場合には、前記シフトカムを順送り動作させることで前記副変速機構のポジションを切替えるシフトカム駆動機構とを備えており、
前記シフトカム駆動機構は、
前記シフトカムに形成された噛合溝と噛み合うことで前記シフトカムを回転させる駆動爪と、
前記駆動爪を前記シフトカムと噛み合う方向に付勢するバネと、
前記シフト完了位置において、前記バネの弾力に抗して前記駆動爪を前記シフトカムの噛合溝と噛み合わない方向に回転させる駆動爪開放機構と、
前記アクチュエータを前記シフト完了位置から前記基準位置へ戻すとき、前記駆動爪が前記シフトカムの噛合溝と噛み合わないように前記駆動爪開放機構の開放状態を保持する開放状態保持機構とを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力配分装置。
【請求項2】
前記開放状態保持機構は、前記駆動爪の開放に伴って前記駆動爪のシフトカム噛合側に挿入されるシャッター部材を備えたことを特徴とする請求項1記載の四輪駆動車用駆動力配分装置。
【請求項3】
前記開放状態保持機構は、前記駆動爪の開放に伴って前記シフトカムに形成されたチェック溝に嵌め込むことで前記シフトカムを前記シフト完了位置に引き込むチェック機構を備えており、
前記チェック機構が前記チェック溝に引き込まれる前に、前記駆動爪が前記シフトカムの噛合溝と噛み合わない位置に開放されるように構成されたことを特徴とする請求項1記載の四輪駆動車用駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−71534(P2013−71534A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210927(P2011−210927)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】