回折法によるひずみ測定装置及びひずみ測定方法
【課題】 被測定物に対して斜めから測定波を照射し被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定するひずみ測定方法において測定精度を向上する。
【解決手段】 本発明のひずみ測定装置は、被測定物24に所定の光束の測定波を照射する照射手段10と、被測定物24によって反射された反射波を検出する検出手段20と、検出手段20で検出される反射波を、被測定物24中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波に制限する制限手段16,18と、検出手段20で得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する第1補正手段と、を備えた。
【解決手段】 本発明のひずみ測定装置は、被測定物24に所定の光束の測定波を照射する照射手段10と、被測定物24によって反射された反射波を検出する検出手段20と、検出手段20で検出される反射波を、被測定物24中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波に制限する制限手段16,18と、検出手段20で得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する第1補正手段と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等のエネルギ波を被測定物(例えば、多結晶体材料)に斜めから照射し、被測定物から反射される反射波の回折角を測定することで被測定物に発生しているひずみを測定する測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造材料に発生している応力(ひずみ)を測定する方法として、X線等のエネルギ波の回折現象を利用して測定する方法が知られている(例えば、sin2Ψ法)。sin2Ψ法では、通常、被測定物に斜めからX線を照射する。被測定物に入射したX線は、被測定物中の回折条件を満たす結晶格子面で反射され回折を生じる。被測定物で反射された反射波は、回折を起こした結晶格子面の法線と被測定物表面の法線とのなす角(Ψ角)を所定値に固定した状態で散乱角2θを走査しつつ測定される。散乱角2θの操作及びX線強度の測定は、Ψ角を変更しながら繰り返し実行される。これによって、散乱角2θに応じたX線の散乱強度分布のΨ角に対する依存性が測定され、この依存性から被測定物に発生した応力の被測定物表面に平行な成分を測定する。
上述したsin2Ψ法では、被測定物に発生している応力を精度良く測定できる反面、Ψ角を一定に保った状態で散乱角2θを走査しながらX線強度を測定しなければならないため、測定に長時間を要するという問題があった。また、sin2Ψ法は、被測定物の平面応力状態しか測定できず、被測定物の垂直方向に発生している応力(ひずみ)を測定することができなかった。
なお、sin2Ψ法によるひずみ測定に関する先行技術としては、例えば、特許文献1に開示された技術が知られている。
【0003】
上述したsin2Ψ法の問題点を解決するため、ひずみスキャニング法が注目を集めている。ひずみスキャニング法では、被測定物に斜めからX線等の測定波を照射し、被測定物から反射される反射波をスリット等を介して検出装置で検出する。このため、検出装置で検出される反射波は、被測定物の一部の領域(入射する測定波束と受光側のスリットで作られた領域(以下、測定領域という))から反射された反射波に制限される。したがって、検出装置で検出された検出結果から測定領域の平均ひずみを求め、被測定物に発生している応力を測定する。
上述の説明から明らかなように、ひずみスキャニング法では、被測定物中に設定される測定領域を移動させることで、被測定物に発生している任意の方向の応力分布を測定できる。また、sin2Ψ法のようにΨ角を一定にして散乱角2θを走査する等の複雑な操作が不要となるため、短時間で測定することができる。
【0004】
しかしながら、ひずみスキャニング法では、被測定物の表面近傍のひずみを測定する際に測定領域が被測定物からはみ出して設定される。このため、検出される回折ピークがシフトし、見かけ上のひずみが測定されてしまうという問題があった(いわゆる、表面効果)。この表面効果を解消する技術としては、受光側に単結晶アナライザを設置する測定方法も提案されているが(非特許文献1)、この測定方法によっても表面効果の影響を十分に解消し、満足な測定精度を得ることはできていない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−132936号公報
【非特許文献2】P.J.Withers,「in Analysys of Residual Stress by Diffraction using Neutron and Synchrotron Radiation」,edited by M.E. Fitzpatrick and A. Lodini,(2003) pp.170−189,Taylor&Francis,London and New York
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、被測定物に発生しているひずみを測定するひずみスキャニング法において、表面効果による影響を解消し測定精度を向上することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1のひずみ測定装置は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置である。この測定装置は、被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射手段と、被測定物によって反射された反射波を検出する検出手段と、検出手段で検出される反射波を、被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波に制限する制限手段を有する。そして、検出手段で得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する第1補正手段を備えている。
このひずみ測定装置では、検出手段で得られる検出結果を、(A)測定装置によって設定される測定領域(すなわち、照射手段、検出手段及び制限手段の位置関係によって設定される測定領域)と、(B)その測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係に基づいて補正される。すなわち、測定される回折角度に誤差が生じる原因は、測定装置によって設定される測定領域と、実際に測定波が反射される反射領域(被測定物が存在する領域)とが異なることによって生じる。そこで、検出手段で得られる検出結果を、測定領域と反射領域との幾何学的関係に基づいて補正することで、表面効果による測定精度の低下を効果的に解消することができる。
【0008】
上記測定装置において被測定物から反射される反射波は発散するため、その分だけ測定装置によって設定される測定領域が広がり、検出精度を低下させることとなる。そこで、上記測定装置においては、前記制限手段が、(1)被測定物と検出手段の間に配置され、被測定物から検出手段に向かう反射波の一部を遮断する第1遮断部材と、(2)第1遮断部材と検出手段の間に配置され、第1遮断部材を通過した反射波の一部をさらに遮断する第2遮断部材と、を有することが好ましい。
このような構成によると、検出手段で検出される反射波は、第1遮断部材と第2遮断部材によってより制限され、反射波の発散による影響を低減することができる。特に、第1遮断部材と第2遮断部材が光軸方向に離間して配置されると、光軸と略平行な反射波のみが検出手段で検出されることとなる。
【0009】
また、被測定物に入射した測定波は被測定物中を進む際に減衰するため、被測定物の表面から測定領域までの距離(光路長)が異なると測定波の減衰の程度も異なる。そこで、上記測定装置においては、前記検出手段で得られた検出結果を、被測定物の表面から前記測定領域までの距離に応じて補正する第2補正手段をさらに備えることが好ましい。これによって、より測定精度を高めることができる。
【0010】
また、本発明は、回折法により被測定物に発生しているひずみを測定する測定方法において、測定精度を向上することができる新規な測定装置を提供する。すなわち、本発明の第2の測定装置は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置である。この測定装置は、被測定物を載置する試料台と、試料台に載置された被測定物に測定波を照射する照射手段と、被測定物によって反射される反射波を検出する検出手段と、被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波が検出手段で検出されるように、試料台に対して照射手段及び検出手段の位置を調整する位置調整手段を有する。そして、検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段を備える。
この測定装置では、試料台に対して照射手段及び検出手段の位置を調整することで、測定領域が被測定物の深さ方向に変化し、これによって深さ方向のひずみ分布を測定することができる。その際、検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する。このため、測定波の減衰等が考慮されて測定精度が向上する。
【0011】
さらに、本発明の一態様に係るひずみ測定装置では、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する。このひずみ測定装置は、前記被測定物を載置するゴニオメータと、前記ゴニオメータに載置された被測定物に所定の光束のX線を照射するX線照射装置と、前記被測定物から反射されるX線を検出するX線検出装置と、前記ゴニオメータと前記X線検出装置との間に配置され、被測定物から反射されたX線の一部を通過させる第1スリットと、前記第1スリットと前記X線検出装置との間に配置され、前記第1スリットを通過したX線の一部を通過させて前記X線検出装置に導く第2スリットと、前記被測定物へのX線の入射角を変更するためにゴニオメータを回転駆動する第1駆動装置と、前記第1駆動装置によるゴニオメータの回転に応じて前記第1スリット、前記第2スリット及び前記X線検出装置を移動させる第2駆動装置と、前記X線照射装置、X線検出装置並びに第1及び第2駆動装置を制御するコントローラと、を備る。
そして、前記コントローラは、(1)前記第1及び第2駆動装置を駆動して前記被測定物への入射角を変更しながら前記X線照射装置からX線を照射させると共に前記X線検出装置に被測定物から反射されたX線を検出させ、(2)前記(1)によって得られた「入射角−X線強度」の関係からX線の回折角を特定し、(3)前記X線照射装置から照射される所定の光束のX線並びに前記第1スリット及び第2スリットによって決まる装置ゲージ体積と、その装置ゲージ体積内において被測定物の存在する領域である測定ゲージ体積の幾何学的関係から前記(2)で特定された回折角を補正するものであり、前記(3)の補正は装置ゲージ体積の重心と測定ゲージ体積の重心のずれ量に基づいて回折角を補正する。
このひずみ測定装置では、被測定物を載置するゴニオメータが回転し、被測定物へのX線入射角を変更することができる。ゴニオメータが回転すると、それに応じて第2駆動装置が作動し、被測定物から反射されるX線を検出可能な位置にX線検出装置と第1スリット及び第2スリットが移動する。そして、コントローラは、X線の入射角を変更しながらX線の照射とX線の検出を行い、これによって「入射角−X線強度」の関係が分かりX線の回折角が特定される。特定されたX線の回折角は装置ゲージ体積の重心に対して得られたものであり、装置ゲージ体積と測定ゲージ体積が異なる場合は誤差を生じる。このため、コントローラは、特定された回折角を装置ゲージ体積と測定ゲージ体積の重心のずれ量に基づいて補正する。したがって、補正された回折角は表面効果の影響が除去され、測定精度の高い値となっている。
なお、上記の本発明の一態様に係るひずみ測定装置の技術(内容)を、次述する「ひずみを測定する測定方法」および「測定装置を制御するコンピュータのプログラム」に適用することができる。
【0012】
さらに、本発明は、回折法により被測定物に発生しているひずみを測定する測定方法において、その測定精度を向上するための新規な測定方法を提供する。すなわち、本発明の第1の測定方法は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定するひずみ測定方法である。この測定方法は、(1)被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、(2)被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波を検出する検出工程と、(3)検出工程で検出された検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正工程を備える。
この測定方法によると、上述した第1の測定装置と同様に、表面効果による測定精度の低下を効果的に解消することができる。
【0013】
また、本発明の第2の測定方法は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定するひずみ測定方法であって、(1)被測定物に測定波を照射する照射工程と、(2)被測定物の表面から所定の深さの領域から反射された反射波を検出する検出工程と、(3)検出工程で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する補正工程とを有する。
この測定方法によると、測定波の被測定物への侵入深さによる影響(測定波の減衰等)が補正されるため、精度の良い測定が可能となる。
【0014】
さらに、本発明は、回折法により被測定物のひずみを測定する測定装置を制御するコンピュータに有用な新規なプログラムを提供する。すなわち、本発明の第1のプログラムは、コンピュータを、(1)所定の光束の測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、(2)被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射された反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、(3)検出装置によって得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正手段として機能させる。
また、本発明の第2のプログラムは、コンピュータを、(1)測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、(2)被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、(3)検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段として機能させる。
これらのプログラムを従来のひずみ測定装置に組み込むことで測定精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を具現化した一実施形態に係るひずみ測定方法について説明する。まず、ひずみスキャニング法で測定される回折角から応力を算出する手順と、ひずみスキャニング法の原理について、簡単に説明しておく。
図5(a)は試験片に設定された座標系を示している。図5(a)に示すように、試験片表面と平行な平面内の応力(ひずみ)をσ1(ε1),σ2(ε2)とし、試験片の深さ方向の応力(ひずみ)をσ3(ε3)とすると、3軸応力の関係は次式で与えられる。
ε1={σ1−ν(σ2+σ3)}/E
ε2={σ2−ν(σ1+σ3)}/E (1)
ε3={σ3−ν(σ1+σ2)}/E
ここで、格子面の間隔dとひずみεとの関係は次式で与えられる(d0は無ひずみの格子面間隔である)。
ε=(d−d0)/d0 (2)
また、格子面間隔dと回折角θとの関係は次式のブラッグの条件で与えられる(λは測定波の波長である)。
λ=2dsinθ (3)
ここで、測定波の波長λと無ひずみの格子面間隔d0は既知であるため、回折角θを測定できれば上記(3)式より格子面間隔dを算出することができ、その格子面間隔dからひずみεを算出することができる(上記(2)式)。したがって、試験片の3軸方向それぞれについて回折角θ1,θ2,θ3を測定できれば、それら回折角θ1,θ2,θ3から格子面間隔d1,d2,d3を算出でき、その格子面間隔d1,d2,d3からひずみε1,ε2,ε3を算出できる。ひずみε1,ε2,ε3が算出できれば、これらの値を上記(1)式に用いて、試験片の3軸方向の応力を全て算出できることとなる。
【0016】
図5(b)は試験片の深さ方向のひずみε3を測定する際の光学系の模式図を示している。深さ方向のひずみε3を測定する場合は、試験片のx−y面(表面)を上に向けて試験片がセットされる(図5(b))。セットされた試験片には斜め上方から測定波(例えば、X線,中性子線等のエネルギ波)を照射する。照射される測定波は、発散スリットSdによって所定の光束とされる。試験片で反射された反射波は、受光スリットSrを介して検出装置(図示省略)で検出される。この反射波の検出を試験片への入射角を変更しながら行うことで「反射波の強度−入射角」の関係が求まり、反射波の強度がピークとなる角度(すなわち、回折角)を特定することができる。特定した回折角からひずみε3の算出は、既に説明した手順で行うことができる。
なお、図5(b)から明らかなように、検出装置で検出される測定波は、発散スリットSdと受光スリットSrによって制限された測定領域(図中の菱形の領域)から反射された反射波のみが検出される。このため、特定された回折角から得られるひずみε3は、この測定領域における平均ひずみである。したがって、測定領域を試験片の深さ方向に移動させながら回折角を測定することで、試験片の深さ方向のひずみ分布を求めることができる。
【0017】
また、図5(c)は試験片の平面内ひずみ(詳細にはx方向)を測定する際の光学系の模式図を示している。図5(c)に示すようにx方向のひずみε1を測定する場合は、試験片のx−y面(表面)が測定波の入射側に対向し、かつ、測定領域を移動させる方向が試験片のx方向と一致するように試験片をセットする。試験片への測定波の照射及び試験片からの反射波の検出並びに回折角の特定等は、上述した場合と同様に行われる。
なお、y方向のひずみε2の測定は、試験片をセットする方向を変えるだけでよい。すなわち、試験片のx−y面(表面)が測定波の入射側に対向し、かつ、測定領域を移動させる方向が試験片のy方向と一致するように試験片をセットすればよい。
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係るひずみ測定方法について説明する。本実施形態のひずみ測定方法も、上述したひずみスキャニング法によるひずみ測定方法である。ただし、本実施形態のひずみ測定方法では、(A)反射波の発散の影響を小さくするため受光側に2つのスリットを配置した点、(B)表面効果の影響を考慮して検出結果を補正する点、(C)測定波の侵入深さを考慮して検出結果を補正する点に特徴がある。以下、各特徴点について説明する。
【0019】
(A)受光側に2つのスリットを配置した点
図6には、受光側(検出装置側)に配置した2つのスリットと、そのスリットによって形成される光学系が模式的に示されている。図6に示すように、本実施形態では2つのスリットG1,G2が光軸方向に所定の間隔R2だけ離れて配置される。2つのスリットG1,G2を光軸方向に離間して配置することで、2つのスリットG1,G2を通過する反射波の発散角はαに制限することができる。これによって、反射波の発散の影響が抑えられ、測定精度を上げることが可能となる。なお、図6から明らかなように発散角αは次の式で求められる(rはスリットG1,G2の幅)。
α/2=tan−1(r/R2) (4)
【0020】
(B)表面効果の影響を考慮して検出結果を補正する点
ひずみスキャニング法では、発散スリットと受光スリットによって形成される測定領域と、実際に測定波を反射する反射領域(被測定物が存在する領域)とが異なると、見かけ上のひずみが測定される。本実施形態では、測定領域(いわゆる、装置ゲージ体積)と反射領域(いわゆる、測定ゲージ体積)のずれ(すなわち、測定領域の重心位置と反射領域の重心位置のずれ)を幾何学的な関係から求め、そのずれを用いて測定される回折角を補正する。
図7は本実施形態の光学系の全体構成を示しており、図8は図7に示す装置ゲージ体積を拡大して示している。図7に示すように、測定波は発散スリットDsで幅rの光束とされ、試験片に入射する。試験片で反射(回折)された反射波は、幅rの受光スリットRS1,RS2により検出装置SCに導かれる(検出装置SCは図12に図示されている。)。受光スリットRS1,RS2を通過する反射波の発散角はαであることから、装置ゲージ体積は中央のひし形の領域(公称ゲージ体積)の上下に広がっている。まず、図8〜13に示されている各寸法[ru(=rd),b,y,BO,h]を求める。
図8の回折計の回転中心O(公称ゲージ体積の中心)において発散角αに対応する反射波の幅をそれぞれ上下でru,rdとすると、図7の△d1d2Aにおいて∠d1d2A=α/2となることから次式が成立する。
(ru+r/2)/(R1+R2)=tan(α/2) (5)
したがって、ru,rdは次式で表わされる。
ru=rd=(R1+R2)tan(α/2)−r/2 (6)
ここで、発散角α≒0とすると、図9の△E1E2E3において∠E3E1E2=θ(測定波の入射角)となることから、公称ゲージ体積の横幅b(図中のひし形の領域の対角線の長さ)は次式で求められる。なお、図9は反射波の発散が殆ど無いとした場合の公称ゲージ体積を拡大して示している。
sinθ=r/b (7)
b=r/sinθ (8)
また、△E1OE4において∠OE1E4=θとなることから、回転中心Oから公称ゲージ体積の下端(上端)までの長さyは次式で求められる。
tanθ=y/(b/2) (9)
y=(b/2)tanθ (10)
上記(10)式に(8)式を代入すると、yは次の式で与えられる。
y=(b/2)tanθ=r/(2cosθ) (11)
また、図8に示す△ABOにおいて∠ABO=2θ−α/2であることから次式が成立する。
sin(2θ−α/2)=ru/BO (12)
BO=ru/sin(2θ−α/2) (13)
また、図10に示す関係から明らかなように図中の寸法hは次式で与えられる。
h=BFsinθ+y/2 (14)
ここで、△OFBにおいて∠FOB=θより、
BF=BOsinθ (15)
よって、式(13)を用いると、
h=BOsinθ+y/2=(ru/sin2θ)sinθ+y/2 (16)
以上により各寸法が特定できたため、次に、これらの寸法を用いて表面効果による回折角2θの測定への誤差Δ2θを求める。ここで、図11に示すように、理想的なゲージ体積(すなわち、公称ゲージ体積)の中心に対する試験片表面の位置をzで表すこととする(図11において、灰色で塗り潰した部分が試験片の部分である)。測定時には試験片表面が下方から上方に移動しながらゲージ体積が変化するので、回折に関係する体積(測定ゲージ体積(反射領域の体積))の重心位置uが試験片表面位置zに従い変化する。すなわち、重心位置uについては、下記の関係式が成立する。
【0021】
【数1】
【0022】
また、図12に示すように、回折の重心G(測定ゲージ体積の重心)が公称ゲージ体積の中心Oからu,vだけ移動した場合、△OH1H4において∠H1OH4=θとなることから次式が成立する。
l=u/cosθ , tanθ=H4H1/u (17)
また、△H1GH2において∠H1GH2=θより
H1G=v−H4H1=v−utanθ (18)
したがって、公称ゲージ体積の中心Oから測定ゲージ体積の重心Gへのずれwは、下記の式変形によって求められる。すなわち、
sinθ=m/H1G (19)
m=(v−utanθ)sinθ (20)
となることから、
w=l+m
=(v−utanθ)sinθ+u/cosθ (21)
したがって、公称ゲージ体積の中心Oから測定ゲージ体積の重心Gへのずれwが回折角2θの測定に与える誤差Δ2θは、次の式で与えられる。
Δ2θ=sin−1[w/(R1+R2)] (22)
したがって、公称ゲージ体積の中心Oに対する試験片表面の位置zが与えられれば、数1に示した関係から測定ゲージ体積の重心位置uを求めることができる。重心位置uが特定できると、公称ゲージ体積の中心から測定ゲージ体積の重心Gへのずれ量u,vを特定することができる。ずれ量u,vが決まると式(22)より誤差Δ2θを算出することができ、この値を用いて測定された回折角が補正される。これによって、表面効果の影響を効率的に解消することができる。
【0023】
なお、上述した説明では測定波(反射波)の発散を考慮して誤差Δ2θを算出したが、測定波の発散の影響が小さい場合には、測定波の発散を考慮することなく誤差Δ2θを算出することができる。すなわち、公称ゲージ体積と装置ゲージ体積のずれから回折角の測定誤差Δ2θを算出することができる。このような場合には、検出装置側に配設するスリットを1つだけとすることができる。
【0024】
(C)測定波の侵入深さを考慮して検出結果を補正する点
本実施形態では、上記(B)の補正に加えて、測定波の侵入深さに応じた補正を行う。図13には試験片表面zの移動に伴うゲージ体積の重心の変化を示している。ゲージ体積が試験片の深さ方向に移動するのに伴い、測定波(X線)の強度も深さに伴って変化する。X線を例に説明すると、深さyの位置でのX線回折強度Iは、次式で与えられる。
I=I0exp(−y/T) (23)
T=sinθ/(2μ) (24)
ここで、I0は表面での回折強度、Tは有効X線長さ、μは試験片の材料のX線吸収係数である。
試験片表面zの移動に伴うゲージ体積の重心の位置gは、次の関係式により導かれる。
【0025】
【数2】
【0026】
したがって、公称ゲージ体積の中心(理想ゲージ体積中心)からの重心のずれuは
u=z−g
となる。重心のずれuが求まると、上述した(B)の補正と同様に、ずれuの回折角2θの測定へ与える誤差を算出する。そして、その算出した誤差を用いて測定された回折角を補正することとなる。
【0027】
なお、図5(b)に示す反射法によるひずみ測定では、z=0の位置の割り出し精度が確保できず、そのずれ分だけ深さ方向に相対的にシフトする場合がある。このような場合の補正方法としては、例えば、理論的に計算される積分強度Sの深さ方向の分布を用いて、実測した回折強度の積分強度と比較してz位置を最適化する等の補正方法を用いることができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のひずみ測定方法では、検出装置側に2つのスリットを配置することで、反射波の散乱を抑制することができる。このため、反射波の散乱による測定精度の低下を防止することができる。
また、装置ゲージ体積と測定ゲージ体積が異なることによる表面効果の影響を、装置ゲージ体積の重心位置と測定ゲージ体積の重心位置のずれを幾何学的に算出し、そのずれを用いて測定された回折角を補正する。このため、表面効果の影響が解消され、精度の良い測定が可能となる。さらに、測定波の侵入深さによる重心のずれを考慮して測定された回折角の補正を行うため、より精度の高い測定が可能となる。
【実施例】
【0029】
次に、上述したひずみ測定方法を実施するひずみ測定装置の一実施例について説明する。図1は本実施例に係るひずみ測定装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施例のひずみ測定装置は、ゴニオメータ14と、ゴニオメータ14を挟んで両側にそれぞれ配置されたX線照射装置10とX線検出器(X線カウンタ)20を備える。
ゴニオメータ14は、試験片(試料)24を載置する回転試料台であり、θ軸回転駆動装置28(図2に図示)によって回転するようになっている。ゴニオメータ14上にはzステージ22が配設されている。zステージ22は、z軸駆動装置30(図2に図示)によってゴニオメータ14に対して図中の矢印の方向に進退動するようになっている。試験片24は、ゴニオメータ14上に載置されると共にzステージ22に保持される。したがって、ゴニオメータ14が回転することで試験片24も回転し、zステージ22が進退動することで試験片24もゴニオメータ14上を進退動する。
【0030】
X線照射装置10は、高エネルギのX線を生成し、その生成したX線を出射する装置である。X線照射装置10はゴニオメータ14の回転中心に対して移動不能に設けられており、また、X線照射装置10の向きはX線照射装置10からのX線がゴニオメータ14の回転中心に向かって出射するように調整されている。このため、ゴニオメータ14が回転しても、X線照射装置10から出射したX線はゴニオメータ14の回転中心に入射することとなる。
また、X線照射装置10の出射口には発散スリット12が配置されている。このため、X線照射装置10から出射したX線は、発散スリット12によって所定の幅のX線束となり、試験片24に入射することとなる。したがって、本実施例ではX線照射装置10と発散スリット12によって請求項でいう照射手段が構成されている。
【0031】
X線検出器20は、試験片24で反射(回折)したX線を検出する装置である(すなわち、本実施例ではX線検出器20が請求項でいう検出手段に相当する)。X線検出器20は、ゴニオメータ14の回転中心に対して回動可能となっており、2θ軸駆動装置32(図2に図示)によって駆動されるようになっている。2θ軸駆動装置32はθ軸駆動装置28と同期して駆動され、θ軸駆動装置28がθ1回転すると2θ軸駆動装置32は2θ1だけ回転する。これによって、ゴニオメータ14がθ1回転するとX線検出器20はゴニオメータ14の回転中心に対して2θ1だけ回動し、照射装置10から照射され試験片24で反射(回折)したX線がX線検出器20で検出されるようになっている。
X線検出器20の入射口側には受光スリット16,18が配置されている。このため、X線検出器20では受光スリット16,18を通過したX線だけが検出される。したがって、本実施例では受光スリット16,18が請求項でいう制限手段に相当する。
なお、図6を用いて説明したように、受光スリット16,18は光軸方向に所定の距離だけ離れて配置されている。これによって、X線の散乱の影響が抑制され、検出精度の向上に寄与している。
また、受光スリット16,18は、2θ軸駆動装置32によるX線検出器20の回動に伴って回動し、X線検出器20に試験片24で反射されたX線を誘導する。具体的な構造例としては、ゴニオメータ14の回転中心に回動可能に取り付けられたアーム上に受光スリット16,18及びX線検出器20が配設し、アームの回動に伴って受光スリット16,18及びX線検出器20が回動するような構造を採用することができる。
【0032】
上述の説明から明らかなように、ゴニオメータ14が回転すると試験片24へのX線の入射角θが変化し、これに応じてX線検出器20も回動し試験片24から反射されたX線を検出する。また、zステージ22が進退動すると、試験片24へのX線の入射深さが変化することとなる(すなわち、装置ゲージ体積が試験片24の表面側から内部方向に移動する。)。したがって、本実施例ではzステージ22とz軸駆動装置30によって請求項でいう位置調整手段が構成されている。
【0033】
上述した各装置を制御する制御系の構成について説明する。図2は本実施例に係るひずみ測定装置の制御系の構成を示している。図2に示すように、ひずみ測定装置を構成する各装置の制御はコントローラ(コンピュータ)34によって行われる。
コントローラ34は、CPU,ROM,RAM等によって構成することができる。コントローラ34には、入力装置26及びX線検出器20が接続されている。入力装置26はオペレータによって操作される。オペレータは入力装置26からコマンドを入力し、回折角を自動測定するためのプログラム等を起動する。また、X線検出器20で検出されたX線強度は、コントローラ34のRAM等に記憶される。
また、コントローラ34には、各駆動装置28,30,32が接続され、さらにX線照射装置10も接続されている。コントローラ34は、各駆動装置28,30,32を駆動して試験片24を所定の位置にセットし、X線照射装置10を駆動して試験片24にX線を照射する。
【0034】
次に、上述したひずみ測定装置の動作について説明する。試験片24のひずみを測定するには、まず、ゴニオメータ14上に試験片24を設置すると共に、試験片24をzステージ22に保持する。試験片24のセットが完了すると、オペレータは入力装置26を操作し、これによってコントローラ34は試験片24のひずみ自動測定を開始する。なお、ゴニオメータ14に試験片24を設置する時は、ゴニオメータ14及びzステージ22は初期位置に位置決めされている。
図4はコントローラ34で行われる処理のフローチャートを示している。図4に示すように、コントローラ34は、まず、z軸駆動装置30を駆動してzステージ22をゴニオメータ14に対して進退動させる(S10)。これによって、試験片のz軸方向の位置調整が行われる。なお、ひずみ測定を開始した最初のステップでは、試験片のz=0となる位置の割り出しが行われる。
z軸方向の位置調整が終了すると、コントローラ34はθ回転軸駆動装置28を駆動してゴニオメータ14の位置調整を行う(S12)。これによって、試験片24へのX線の入射角の調整が行われる。なお、コントローラ34は、ゴニオメータ14の回転に応じて2θ軸駆動装置32を駆動し、X線検出器20の位置調整も行う。
【0035】
ステップS10,S12で各装置14,20の位置調整が完了すると、コントローラ34は、X線照射装置10をONにしてX線の照射を開始し(S14)、X線検出器20によって試験片24で反射(回折)したX線を検出する(S16)。X線の検出が終了すると、コントローラ34はθ軸方向の走査が終了しているか否かを判断する(S18)。θ軸方向の走査が終了している場合(ステップS18でYES)はステップS20に進み、θ軸方向の走査が終了していない場合(ステップS18でNO)はステップS12に戻ってステップS12からの処理を繰り返す。これによって、予め設定されていた全ての入射角についてX線の回折強度が測定され、「入射角−X線回折強度」の関係が得られることとなる。
図4は測定された回折角2θとX線回折強度との関係の一例を模式的に示している。図4に示すように、試験片24の格子面間隔と回折角2θが回折条件(フラッグの条件)を満足するときにX線強度がピークとなる。このため、「入射角−X線回折強度」の関係からX線回折強度がピークとなる回折角を求めることとなる。なお、図4ではX線回折強度のピークが複数観察されるが、試験片の結晶構造は既知である。このため、観察された複数のピークのうちひずみ測定方向の格子面間隔に対応したX線ピークを特定でき、そのピークが観察されるときの回折角2θが回折角となる。
【0036】
ステップS18でYESとなると、コントローラ34は、まず、測定された「入射角−X線回折強度」から特定された回折角について表面効果を考慮した補正を行う(S20)。ステップS20の具体的な手順は、既に「(B)表面効果の影響を考慮して検出結果を補正する点」において詳述している。本実施例では、このステップ20が請求項でいう幾何学的関係に基づいて補正を行う工程に相当し、コントローラ34が幾何学的関係に基づいて補正を行う補正手段として機能している。
ステップS22に進むとコントローラ34は、ステップS20で補正された回折角をさらにX線の侵入深さに応じて補正する(S22)。ステップS22の具体的な手順は、既に「(C)測定波の侵入深さを考慮して検出結果を補正する点」において詳述している。本実施例では、このステップ22が請求項でいう測定波の侵入深さに基づいて補正を行う工程に相当し、コントローラ34が測定波の侵入深さに基づいて補正を行う補正手段として機能している。
測定された回折角についての補正が完了すると、コントローラ34はz軸方向の走査が終了しているか否かを判断する(S24)。z軸方向の走査が終了している場合(ステップS24でYES)は測定処理を終了し、z軸方向の走査が終了していない場合(ステップS24でNO)はステップS10に戻ってステップS10からの処理を繰り返す。これによって、予め設定されていたz軸方向の全ての深さについてX線の回折強度が測定され、試験片24の各深さについて回折角が測定されることとなる。
【0037】
図14,15に上述したひずみ測定装置において測定された測定結果の一例が示されている。図14は炭素鋼(JIS S45C)のアニール材をバフ研磨した試験片に対して反射法によるひずみスキャニングを行った結果を示している。試験片に用いた炭素鋼は表面処理等を施しておらず、無ひずみ状態のものを使用した。図中●で示されているものは実測値であり、◆で示されているものは実測値を補正した補正値である。図14に示すように、実測値は表面効果等によって試験片の表面近傍の回折角が理論値より低く測定されており、実測値を補正した補正値は表面効果等の影響が補正され試験片の深さによらず略一定の回折角となっている。
【0038】
図15はNi基超合金(IN738LC)の基材上にボンドコートとしてCoNiCrAlYを減圧プラズマ溶射し、さらにトップコートとして8mass%Y2O3−ZrO2を大気プラズマ溶射した試験片に対して応力測定した結果を示している。各コートの厚さは、ボンドコート0.1mm、トップコート0.5mmであった。また、試験片には、溶射したままの試験片(As−sprayed)と、トップコート面に500回の熱サイクルを加えた試験片(500cycles)の2種類を用いた。熱サイクルは、トップコート表面を室温から1733Kまでレーザ照射して空冷(試験片裏面は強制空冷)するサイクルであり、トップコート表面加熱まで約90秒、室温冷却まで約60秒とした。
図15に示すように、溶射したままの試験片(As−sprayed)の残留応力σ1は表面から深さ方向で略一定の応力となり、コーティング膜を剥離する方向の応力である残留応力σ3は表面からコーティング界面に近づくにつれて0から約60MPaまで増加していた。一方、熱サイクルを施した試験片の残留応力σ1は、表面から深さ0.2mm程度までは略0となり、熱サイクルによって応力が開放されていた。また、熱サイクルを施した試験片の残留応力σ3は、表面からの深さが深くなるに伴って徐々に漸増しているが、熱サイクル前と比較して緩和していることがわかった。熱サイクルを施した試験片は、試験片表面に亀甲状の亀裂が目視でき、この亀裂によって残留応力が緩和されたものと考えられる。これらの結果から、試験片の目視から予想される残留応力の状態と測定結果に基づく残留応力の状態が一致し、本測定方法によってコーティングを施した試験片の残留応力を正確に測定できることが確認された。
【0039】
上述したことから明らかなように、本実施例の測定装置によると、表面効果による補正及びX線の侵入深さによる補正を行うことで、試験片の表面近傍のひずみ(残留応力)を正確に測定することができる。
また、X線検出器20側に2つの受光スリット16,18が配置することで、X線の発散の影響が抑制され、測定ゲージ体積を小さくすることができる。このため、精度の高いひずみ分布状態を測定することができる。なお、X線の発散の影響を抑制する手段として2つの受光スリット16,18を用いるため、これらの位置調整を容易に行うことができる。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、図16に示すように、試験片24で反射(回折)したX線を受光スリット16,32の間に配置した単結晶アナライザ38を介してX線検出器20で検出するようにしてもよい。このような構成によると、所定の角度で単結晶アナライザ38に入射したX線のみがX線検出器20で検出される。このため、X線の発散の影響をより抑制することができ、測定精度を向上することができる。
さらに、図17に示すような構成を採ることもできる。図17に示す例では、試験片24で反射(回折)されたX線はソーラスリット36を介してX線検出器20で検出される。このような構成によっても2つの受光スリットを設けた場合と略同様の効果を得ることができる。
また、上述した実施例では、ひずみを測定する測定波にX線を用いたが、本発明の測定方法にはX線以外の測定波を用いることができ、例えば、中性子線等のエネルギ波を用いることもできる。中性子線を用いた場合は、被測定物の深さ方向の影響が少ないため、簡易的には測定波の侵入深さに基づく補正を行わなくてもよい。
なお、本発明に係る測定技術の応用分野としては、例えば、機械構造材料の残留応力を測定する方法に好適に用いることができる。すなわち、近年、機械構造材料の高機能化のために表面改質あるいはコーティングが多用されており、このような高機能材料の強度特性は表面下の残留応力分布によって大きく影響される。従って、本発明に係る測定技術を用いることで、機械構造材料の深さ方向の残留応力分布を簡便に測定することができ、高機能材料の強度特性の評価を精度良く簡便に行うことができる。
【0041】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例に係るひずみ測定装置の全体構成を示す図。
【図2】図1に示す測定装置の制御系の構成を示すブロック図。
【図3】コントローラで行われる処理手順を示すフローチャート。
【図4】回折角2θと検出されたX線強度との関係を模式的に示す図。
【図5】ひずみスキャニング法の原理を説明するための図。
【図6】ダブルスリットの光学系を簡単に示す模式図。
【図7】発散スリットと2つの受光スリットによって形成される光学系を模式的に示す図。
【図8】図7において装置ゲージ体積の部分を拡大して示す図。
【図9】公称ゲージ体積を拡大して示す図。
【図10】装置ゲージ体積を拡大して示す図。
【図11】装置ゲージ体積と試験片の表面とを併せて示す図。
【図12】装置ゲージ体積と測定ゲージ体積のずれによって生じる回折角の誤差を説明するための図。
【図13】測定波の侵入深さによる測定誤差を説明するための図。
【図14】本実施例のひずみ測定装置で測定された「ひずみ−試験片の深さ方向の距離」の関係を示すグラフ。
【図15】本実施例のひずみ測定装置で測定された「残留応力−試験片の深さ方向の距離」の関係を示すグラフ。
【図16】本発明の変形例に係るひずみ測定装置の全体構成を示す図。
【図17】本発明の他の変形例に係るひずみ測定装置の全体構成を示す図。
【符号の説明】
【0043】
10・・X線照射装置
12・・発散スリット
14・・ゴニオメータ
16,18・・受光スリット
20・・X線検出器
22・・zステージ
24・・試験片
34・・コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等のエネルギ波を被測定物(例えば、多結晶体材料)に斜めから照射し、被測定物から反射される反射波の回折角を測定することで被測定物に発生しているひずみを測定する測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造材料に発生している応力(ひずみ)を測定する方法として、X線等のエネルギ波の回折現象を利用して測定する方法が知られている(例えば、sin2Ψ法)。sin2Ψ法では、通常、被測定物に斜めからX線を照射する。被測定物に入射したX線は、被測定物中の回折条件を満たす結晶格子面で反射され回折を生じる。被測定物で反射された反射波は、回折を起こした結晶格子面の法線と被測定物表面の法線とのなす角(Ψ角)を所定値に固定した状態で散乱角2θを走査しつつ測定される。散乱角2θの操作及びX線強度の測定は、Ψ角を変更しながら繰り返し実行される。これによって、散乱角2θに応じたX線の散乱強度分布のΨ角に対する依存性が測定され、この依存性から被測定物に発生した応力の被測定物表面に平行な成分を測定する。
上述したsin2Ψ法では、被測定物に発生している応力を精度良く測定できる反面、Ψ角を一定に保った状態で散乱角2θを走査しながらX線強度を測定しなければならないため、測定に長時間を要するという問題があった。また、sin2Ψ法は、被測定物の平面応力状態しか測定できず、被測定物の垂直方向に発生している応力(ひずみ)を測定することができなかった。
なお、sin2Ψ法によるひずみ測定に関する先行技術としては、例えば、特許文献1に開示された技術が知られている。
【0003】
上述したsin2Ψ法の問題点を解決するため、ひずみスキャニング法が注目を集めている。ひずみスキャニング法では、被測定物に斜めからX線等の測定波を照射し、被測定物から反射される反射波をスリット等を介して検出装置で検出する。このため、検出装置で検出される反射波は、被測定物の一部の領域(入射する測定波束と受光側のスリットで作られた領域(以下、測定領域という))から反射された反射波に制限される。したがって、検出装置で検出された検出結果から測定領域の平均ひずみを求め、被測定物に発生している応力を測定する。
上述の説明から明らかなように、ひずみスキャニング法では、被測定物中に設定される測定領域を移動させることで、被測定物に発生している任意の方向の応力分布を測定できる。また、sin2Ψ法のようにΨ角を一定にして散乱角2θを走査する等の複雑な操作が不要となるため、短時間で測定することができる。
【0004】
しかしながら、ひずみスキャニング法では、被測定物の表面近傍のひずみを測定する際に測定領域が被測定物からはみ出して設定される。このため、検出される回折ピークがシフトし、見かけ上のひずみが測定されてしまうという問題があった(いわゆる、表面効果)。この表面効果を解消する技術としては、受光側に単結晶アナライザを設置する測定方法も提案されているが(非特許文献1)、この測定方法によっても表面効果の影響を十分に解消し、満足な測定精度を得ることはできていない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−132936号公報
【非特許文献2】P.J.Withers,「in Analysys of Residual Stress by Diffraction using Neutron and Synchrotron Radiation」,edited by M.E. Fitzpatrick and A. Lodini,(2003) pp.170−189,Taylor&Francis,London and New York
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、被測定物に発生しているひずみを測定するひずみスキャニング法において、表面効果による影響を解消し測定精度を向上することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1のひずみ測定装置は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置である。この測定装置は、被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射手段と、被測定物によって反射された反射波を検出する検出手段と、検出手段で検出される反射波を、被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波に制限する制限手段を有する。そして、検出手段で得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する第1補正手段を備えている。
このひずみ測定装置では、検出手段で得られる検出結果を、(A)測定装置によって設定される測定領域(すなわち、照射手段、検出手段及び制限手段の位置関係によって設定される測定領域)と、(B)その測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係に基づいて補正される。すなわち、測定される回折角度に誤差が生じる原因は、測定装置によって設定される測定領域と、実際に測定波が反射される反射領域(被測定物が存在する領域)とが異なることによって生じる。そこで、検出手段で得られる検出結果を、測定領域と反射領域との幾何学的関係に基づいて補正することで、表面効果による測定精度の低下を効果的に解消することができる。
【0008】
上記測定装置において被測定物から反射される反射波は発散するため、その分だけ測定装置によって設定される測定領域が広がり、検出精度を低下させることとなる。そこで、上記測定装置においては、前記制限手段が、(1)被測定物と検出手段の間に配置され、被測定物から検出手段に向かう反射波の一部を遮断する第1遮断部材と、(2)第1遮断部材と検出手段の間に配置され、第1遮断部材を通過した反射波の一部をさらに遮断する第2遮断部材と、を有することが好ましい。
このような構成によると、検出手段で検出される反射波は、第1遮断部材と第2遮断部材によってより制限され、反射波の発散による影響を低減することができる。特に、第1遮断部材と第2遮断部材が光軸方向に離間して配置されると、光軸と略平行な反射波のみが検出手段で検出されることとなる。
【0009】
また、被測定物に入射した測定波は被測定物中を進む際に減衰するため、被測定物の表面から測定領域までの距離(光路長)が異なると測定波の減衰の程度も異なる。そこで、上記測定装置においては、前記検出手段で得られた検出結果を、被測定物の表面から前記測定領域までの距離に応じて補正する第2補正手段をさらに備えることが好ましい。これによって、より測定精度を高めることができる。
【0010】
また、本発明は、回折法により被測定物に発生しているひずみを測定する測定方法において、測定精度を向上することができる新規な測定装置を提供する。すなわち、本発明の第2の測定装置は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置である。この測定装置は、被測定物を載置する試料台と、試料台に載置された被測定物に測定波を照射する照射手段と、被測定物によって反射される反射波を検出する検出手段と、被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波が検出手段で検出されるように、試料台に対して照射手段及び検出手段の位置を調整する位置調整手段を有する。そして、検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段を備える。
この測定装置では、試料台に対して照射手段及び検出手段の位置を調整することで、測定領域が被測定物の深さ方向に変化し、これによって深さ方向のひずみ分布を測定することができる。その際、検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する。このため、測定波の減衰等が考慮されて測定精度が向上する。
【0011】
さらに、本発明の一態様に係るひずみ測定装置では、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する。このひずみ測定装置は、前記被測定物を載置するゴニオメータと、前記ゴニオメータに載置された被測定物に所定の光束のX線を照射するX線照射装置と、前記被測定物から反射されるX線を検出するX線検出装置と、前記ゴニオメータと前記X線検出装置との間に配置され、被測定物から反射されたX線の一部を通過させる第1スリットと、前記第1スリットと前記X線検出装置との間に配置され、前記第1スリットを通過したX線の一部を通過させて前記X線検出装置に導く第2スリットと、前記被測定物へのX線の入射角を変更するためにゴニオメータを回転駆動する第1駆動装置と、前記第1駆動装置によるゴニオメータの回転に応じて前記第1スリット、前記第2スリット及び前記X線検出装置を移動させる第2駆動装置と、前記X線照射装置、X線検出装置並びに第1及び第2駆動装置を制御するコントローラと、を備る。
そして、前記コントローラは、(1)前記第1及び第2駆動装置を駆動して前記被測定物への入射角を変更しながら前記X線照射装置からX線を照射させると共に前記X線検出装置に被測定物から反射されたX線を検出させ、(2)前記(1)によって得られた「入射角−X線強度」の関係からX線の回折角を特定し、(3)前記X線照射装置から照射される所定の光束のX線並びに前記第1スリット及び第2スリットによって決まる装置ゲージ体積と、その装置ゲージ体積内において被測定物の存在する領域である測定ゲージ体積の幾何学的関係から前記(2)で特定された回折角を補正するものであり、前記(3)の補正は装置ゲージ体積の重心と測定ゲージ体積の重心のずれ量に基づいて回折角を補正する。
このひずみ測定装置では、被測定物を載置するゴニオメータが回転し、被測定物へのX線入射角を変更することができる。ゴニオメータが回転すると、それに応じて第2駆動装置が作動し、被測定物から反射されるX線を検出可能な位置にX線検出装置と第1スリット及び第2スリットが移動する。そして、コントローラは、X線の入射角を変更しながらX線の照射とX線の検出を行い、これによって「入射角−X線強度」の関係が分かりX線の回折角が特定される。特定されたX線の回折角は装置ゲージ体積の重心に対して得られたものであり、装置ゲージ体積と測定ゲージ体積が異なる場合は誤差を生じる。このため、コントローラは、特定された回折角を装置ゲージ体積と測定ゲージ体積の重心のずれ量に基づいて補正する。したがって、補正された回折角は表面効果の影響が除去され、測定精度の高い値となっている。
なお、上記の本発明の一態様に係るひずみ測定装置の技術(内容)を、次述する「ひずみを測定する測定方法」および「測定装置を制御するコンピュータのプログラム」に適用することができる。
【0012】
さらに、本発明は、回折法により被測定物に発生しているひずみを測定する測定方法において、その測定精度を向上するための新規な測定方法を提供する。すなわち、本発明の第1の測定方法は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定するひずみ測定方法である。この測定方法は、(1)被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、(2)被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波を検出する検出工程と、(3)検出工程で検出された検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正工程を備える。
この測定方法によると、上述した第1の測定装置と同様に、表面効果による測定精度の低下を効果的に解消することができる。
【0013】
また、本発明の第2の測定方法は、被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定するひずみ測定方法であって、(1)被測定物に測定波を照射する照射工程と、(2)被測定物の表面から所定の深さの領域から反射された反射波を検出する検出工程と、(3)検出工程で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する補正工程とを有する。
この測定方法によると、測定波の被測定物への侵入深さによる影響(測定波の減衰等)が補正されるため、精度の良い測定が可能となる。
【0014】
さらに、本発明は、回折法により被測定物のひずみを測定する測定装置を制御するコンピュータに有用な新規なプログラムを提供する。すなわち、本発明の第1のプログラムは、コンピュータを、(1)所定の光束の測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、(2)被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射された反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、(3)検出装置によって得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正手段として機能させる。
また、本発明の第2のプログラムは、コンピュータを、(1)測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、(2)被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、(3)検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段として機能させる。
これらのプログラムを従来のひずみ測定装置に組み込むことで測定精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を具現化した一実施形態に係るひずみ測定方法について説明する。まず、ひずみスキャニング法で測定される回折角から応力を算出する手順と、ひずみスキャニング法の原理について、簡単に説明しておく。
図5(a)は試験片に設定された座標系を示している。図5(a)に示すように、試験片表面と平行な平面内の応力(ひずみ)をσ1(ε1),σ2(ε2)とし、試験片の深さ方向の応力(ひずみ)をσ3(ε3)とすると、3軸応力の関係は次式で与えられる。
ε1={σ1−ν(σ2+σ3)}/E
ε2={σ2−ν(σ1+σ3)}/E (1)
ε3={σ3−ν(σ1+σ2)}/E
ここで、格子面の間隔dとひずみεとの関係は次式で与えられる(d0は無ひずみの格子面間隔である)。
ε=(d−d0)/d0 (2)
また、格子面間隔dと回折角θとの関係は次式のブラッグの条件で与えられる(λは測定波の波長である)。
λ=2dsinθ (3)
ここで、測定波の波長λと無ひずみの格子面間隔d0は既知であるため、回折角θを測定できれば上記(3)式より格子面間隔dを算出することができ、その格子面間隔dからひずみεを算出することができる(上記(2)式)。したがって、試験片の3軸方向それぞれについて回折角θ1,θ2,θ3を測定できれば、それら回折角θ1,θ2,θ3から格子面間隔d1,d2,d3を算出でき、その格子面間隔d1,d2,d3からひずみε1,ε2,ε3を算出できる。ひずみε1,ε2,ε3が算出できれば、これらの値を上記(1)式に用いて、試験片の3軸方向の応力を全て算出できることとなる。
【0016】
図5(b)は試験片の深さ方向のひずみε3を測定する際の光学系の模式図を示している。深さ方向のひずみε3を測定する場合は、試験片のx−y面(表面)を上に向けて試験片がセットされる(図5(b))。セットされた試験片には斜め上方から測定波(例えば、X線,中性子線等のエネルギ波)を照射する。照射される測定波は、発散スリットSdによって所定の光束とされる。試験片で反射された反射波は、受光スリットSrを介して検出装置(図示省略)で検出される。この反射波の検出を試験片への入射角を変更しながら行うことで「反射波の強度−入射角」の関係が求まり、反射波の強度がピークとなる角度(すなわち、回折角)を特定することができる。特定した回折角からひずみε3の算出は、既に説明した手順で行うことができる。
なお、図5(b)から明らかなように、検出装置で検出される測定波は、発散スリットSdと受光スリットSrによって制限された測定領域(図中の菱形の領域)から反射された反射波のみが検出される。このため、特定された回折角から得られるひずみε3は、この測定領域における平均ひずみである。したがって、測定領域を試験片の深さ方向に移動させながら回折角を測定することで、試験片の深さ方向のひずみ分布を求めることができる。
【0017】
また、図5(c)は試験片の平面内ひずみ(詳細にはx方向)を測定する際の光学系の模式図を示している。図5(c)に示すようにx方向のひずみε1を測定する場合は、試験片のx−y面(表面)が測定波の入射側に対向し、かつ、測定領域を移動させる方向が試験片のx方向と一致するように試験片をセットする。試験片への測定波の照射及び試験片からの反射波の検出並びに回折角の特定等は、上述した場合と同様に行われる。
なお、y方向のひずみε2の測定は、試験片をセットする方向を変えるだけでよい。すなわち、試験片のx−y面(表面)が測定波の入射側に対向し、かつ、測定領域を移動させる方向が試験片のy方向と一致するように試験片をセットすればよい。
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係るひずみ測定方法について説明する。本実施形態のひずみ測定方法も、上述したひずみスキャニング法によるひずみ測定方法である。ただし、本実施形態のひずみ測定方法では、(A)反射波の発散の影響を小さくするため受光側に2つのスリットを配置した点、(B)表面効果の影響を考慮して検出結果を補正する点、(C)測定波の侵入深さを考慮して検出結果を補正する点に特徴がある。以下、各特徴点について説明する。
【0019】
(A)受光側に2つのスリットを配置した点
図6には、受光側(検出装置側)に配置した2つのスリットと、そのスリットによって形成される光学系が模式的に示されている。図6に示すように、本実施形態では2つのスリットG1,G2が光軸方向に所定の間隔R2だけ離れて配置される。2つのスリットG1,G2を光軸方向に離間して配置することで、2つのスリットG1,G2を通過する反射波の発散角はαに制限することができる。これによって、反射波の発散の影響が抑えられ、測定精度を上げることが可能となる。なお、図6から明らかなように発散角αは次の式で求められる(rはスリットG1,G2の幅)。
α/2=tan−1(r/R2) (4)
【0020】
(B)表面効果の影響を考慮して検出結果を補正する点
ひずみスキャニング法では、発散スリットと受光スリットによって形成される測定領域と、実際に測定波を反射する反射領域(被測定物が存在する領域)とが異なると、見かけ上のひずみが測定される。本実施形態では、測定領域(いわゆる、装置ゲージ体積)と反射領域(いわゆる、測定ゲージ体積)のずれ(すなわち、測定領域の重心位置と反射領域の重心位置のずれ)を幾何学的な関係から求め、そのずれを用いて測定される回折角を補正する。
図7は本実施形態の光学系の全体構成を示しており、図8は図7に示す装置ゲージ体積を拡大して示している。図7に示すように、測定波は発散スリットDsで幅rの光束とされ、試験片に入射する。試験片で反射(回折)された反射波は、幅rの受光スリットRS1,RS2により検出装置SCに導かれる(検出装置SCは図12に図示されている。)。受光スリットRS1,RS2を通過する反射波の発散角はαであることから、装置ゲージ体積は中央のひし形の領域(公称ゲージ体積)の上下に広がっている。まず、図8〜13に示されている各寸法[ru(=rd),b,y,BO,h]を求める。
図8の回折計の回転中心O(公称ゲージ体積の中心)において発散角αに対応する反射波の幅をそれぞれ上下でru,rdとすると、図7の△d1d2Aにおいて∠d1d2A=α/2となることから次式が成立する。
(ru+r/2)/(R1+R2)=tan(α/2) (5)
したがって、ru,rdは次式で表わされる。
ru=rd=(R1+R2)tan(α/2)−r/2 (6)
ここで、発散角α≒0とすると、図9の△E1E2E3において∠E3E1E2=θ(測定波の入射角)となることから、公称ゲージ体積の横幅b(図中のひし形の領域の対角線の長さ)は次式で求められる。なお、図9は反射波の発散が殆ど無いとした場合の公称ゲージ体積を拡大して示している。
sinθ=r/b (7)
b=r/sinθ (8)
また、△E1OE4において∠OE1E4=θとなることから、回転中心Oから公称ゲージ体積の下端(上端)までの長さyは次式で求められる。
tanθ=y/(b/2) (9)
y=(b/2)tanθ (10)
上記(10)式に(8)式を代入すると、yは次の式で与えられる。
y=(b/2)tanθ=r/(2cosθ) (11)
また、図8に示す△ABOにおいて∠ABO=2θ−α/2であることから次式が成立する。
sin(2θ−α/2)=ru/BO (12)
BO=ru/sin(2θ−α/2) (13)
また、図10に示す関係から明らかなように図中の寸法hは次式で与えられる。
h=BFsinθ+y/2 (14)
ここで、△OFBにおいて∠FOB=θより、
BF=BOsinθ (15)
よって、式(13)を用いると、
h=BOsinθ+y/2=(ru/sin2θ)sinθ+y/2 (16)
以上により各寸法が特定できたため、次に、これらの寸法を用いて表面効果による回折角2θの測定への誤差Δ2θを求める。ここで、図11に示すように、理想的なゲージ体積(すなわち、公称ゲージ体積)の中心に対する試験片表面の位置をzで表すこととする(図11において、灰色で塗り潰した部分が試験片の部分である)。測定時には試験片表面が下方から上方に移動しながらゲージ体積が変化するので、回折に関係する体積(測定ゲージ体積(反射領域の体積))の重心位置uが試験片表面位置zに従い変化する。すなわち、重心位置uについては、下記の関係式が成立する。
【0021】
【数1】
【0022】
また、図12に示すように、回折の重心G(測定ゲージ体積の重心)が公称ゲージ体積の中心Oからu,vだけ移動した場合、△OH1H4において∠H1OH4=θとなることから次式が成立する。
l=u/cosθ , tanθ=H4H1/u (17)
また、△H1GH2において∠H1GH2=θより
H1G=v−H4H1=v−utanθ (18)
したがって、公称ゲージ体積の中心Oから測定ゲージ体積の重心Gへのずれwは、下記の式変形によって求められる。すなわち、
sinθ=m/H1G (19)
m=(v−utanθ)sinθ (20)
となることから、
w=l+m
=(v−utanθ)sinθ+u/cosθ (21)
したがって、公称ゲージ体積の中心Oから測定ゲージ体積の重心Gへのずれwが回折角2θの測定に与える誤差Δ2θは、次の式で与えられる。
Δ2θ=sin−1[w/(R1+R2)] (22)
したがって、公称ゲージ体積の中心Oに対する試験片表面の位置zが与えられれば、数1に示した関係から測定ゲージ体積の重心位置uを求めることができる。重心位置uが特定できると、公称ゲージ体積の中心から測定ゲージ体積の重心Gへのずれ量u,vを特定することができる。ずれ量u,vが決まると式(22)より誤差Δ2θを算出することができ、この値を用いて測定された回折角が補正される。これによって、表面効果の影響を効率的に解消することができる。
【0023】
なお、上述した説明では測定波(反射波)の発散を考慮して誤差Δ2θを算出したが、測定波の発散の影響が小さい場合には、測定波の発散を考慮することなく誤差Δ2θを算出することができる。すなわち、公称ゲージ体積と装置ゲージ体積のずれから回折角の測定誤差Δ2θを算出することができる。このような場合には、検出装置側に配設するスリットを1つだけとすることができる。
【0024】
(C)測定波の侵入深さを考慮して検出結果を補正する点
本実施形態では、上記(B)の補正に加えて、測定波の侵入深さに応じた補正を行う。図13には試験片表面zの移動に伴うゲージ体積の重心の変化を示している。ゲージ体積が試験片の深さ方向に移動するのに伴い、測定波(X線)の強度も深さに伴って変化する。X線を例に説明すると、深さyの位置でのX線回折強度Iは、次式で与えられる。
I=I0exp(−y/T) (23)
T=sinθ/(2μ) (24)
ここで、I0は表面での回折強度、Tは有効X線長さ、μは試験片の材料のX線吸収係数である。
試験片表面zの移動に伴うゲージ体積の重心の位置gは、次の関係式により導かれる。
【0025】
【数2】
【0026】
したがって、公称ゲージ体積の中心(理想ゲージ体積中心)からの重心のずれuは
u=z−g
となる。重心のずれuが求まると、上述した(B)の補正と同様に、ずれuの回折角2θの測定へ与える誤差を算出する。そして、その算出した誤差を用いて測定された回折角を補正することとなる。
【0027】
なお、図5(b)に示す反射法によるひずみ測定では、z=0の位置の割り出し精度が確保できず、そのずれ分だけ深さ方向に相対的にシフトする場合がある。このような場合の補正方法としては、例えば、理論的に計算される積分強度Sの深さ方向の分布を用いて、実測した回折強度の積分強度と比較してz位置を最適化する等の補正方法を用いることができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のひずみ測定方法では、検出装置側に2つのスリットを配置することで、反射波の散乱を抑制することができる。このため、反射波の散乱による測定精度の低下を防止することができる。
また、装置ゲージ体積と測定ゲージ体積が異なることによる表面効果の影響を、装置ゲージ体積の重心位置と測定ゲージ体積の重心位置のずれを幾何学的に算出し、そのずれを用いて測定された回折角を補正する。このため、表面効果の影響が解消され、精度の良い測定が可能となる。さらに、測定波の侵入深さによる重心のずれを考慮して測定された回折角の補正を行うため、より精度の高い測定が可能となる。
【実施例】
【0029】
次に、上述したひずみ測定方法を実施するひずみ測定装置の一実施例について説明する。図1は本実施例に係るひずみ測定装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施例のひずみ測定装置は、ゴニオメータ14と、ゴニオメータ14を挟んで両側にそれぞれ配置されたX線照射装置10とX線検出器(X線カウンタ)20を備える。
ゴニオメータ14は、試験片(試料)24を載置する回転試料台であり、θ軸回転駆動装置28(図2に図示)によって回転するようになっている。ゴニオメータ14上にはzステージ22が配設されている。zステージ22は、z軸駆動装置30(図2に図示)によってゴニオメータ14に対して図中の矢印の方向に進退動するようになっている。試験片24は、ゴニオメータ14上に載置されると共にzステージ22に保持される。したがって、ゴニオメータ14が回転することで試験片24も回転し、zステージ22が進退動することで試験片24もゴニオメータ14上を進退動する。
【0030】
X線照射装置10は、高エネルギのX線を生成し、その生成したX線を出射する装置である。X線照射装置10はゴニオメータ14の回転中心に対して移動不能に設けられており、また、X線照射装置10の向きはX線照射装置10からのX線がゴニオメータ14の回転中心に向かって出射するように調整されている。このため、ゴニオメータ14が回転しても、X線照射装置10から出射したX線はゴニオメータ14の回転中心に入射することとなる。
また、X線照射装置10の出射口には発散スリット12が配置されている。このため、X線照射装置10から出射したX線は、発散スリット12によって所定の幅のX線束となり、試験片24に入射することとなる。したがって、本実施例ではX線照射装置10と発散スリット12によって請求項でいう照射手段が構成されている。
【0031】
X線検出器20は、試験片24で反射(回折)したX線を検出する装置である(すなわち、本実施例ではX線検出器20が請求項でいう検出手段に相当する)。X線検出器20は、ゴニオメータ14の回転中心に対して回動可能となっており、2θ軸駆動装置32(図2に図示)によって駆動されるようになっている。2θ軸駆動装置32はθ軸駆動装置28と同期して駆動され、θ軸駆動装置28がθ1回転すると2θ軸駆動装置32は2θ1だけ回転する。これによって、ゴニオメータ14がθ1回転するとX線検出器20はゴニオメータ14の回転中心に対して2θ1だけ回動し、照射装置10から照射され試験片24で反射(回折)したX線がX線検出器20で検出されるようになっている。
X線検出器20の入射口側には受光スリット16,18が配置されている。このため、X線検出器20では受光スリット16,18を通過したX線だけが検出される。したがって、本実施例では受光スリット16,18が請求項でいう制限手段に相当する。
なお、図6を用いて説明したように、受光スリット16,18は光軸方向に所定の距離だけ離れて配置されている。これによって、X線の散乱の影響が抑制され、検出精度の向上に寄与している。
また、受光スリット16,18は、2θ軸駆動装置32によるX線検出器20の回動に伴って回動し、X線検出器20に試験片24で反射されたX線を誘導する。具体的な構造例としては、ゴニオメータ14の回転中心に回動可能に取り付けられたアーム上に受光スリット16,18及びX線検出器20が配設し、アームの回動に伴って受光スリット16,18及びX線検出器20が回動するような構造を採用することができる。
【0032】
上述の説明から明らかなように、ゴニオメータ14が回転すると試験片24へのX線の入射角θが変化し、これに応じてX線検出器20も回動し試験片24から反射されたX線を検出する。また、zステージ22が進退動すると、試験片24へのX線の入射深さが変化することとなる(すなわち、装置ゲージ体積が試験片24の表面側から内部方向に移動する。)。したがって、本実施例ではzステージ22とz軸駆動装置30によって請求項でいう位置調整手段が構成されている。
【0033】
上述した各装置を制御する制御系の構成について説明する。図2は本実施例に係るひずみ測定装置の制御系の構成を示している。図2に示すように、ひずみ測定装置を構成する各装置の制御はコントローラ(コンピュータ)34によって行われる。
コントローラ34は、CPU,ROM,RAM等によって構成することができる。コントローラ34には、入力装置26及びX線検出器20が接続されている。入力装置26はオペレータによって操作される。オペレータは入力装置26からコマンドを入力し、回折角を自動測定するためのプログラム等を起動する。また、X線検出器20で検出されたX線強度は、コントローラ34のRAM等に記憶される。
また、コントローラ34には、各駆動装置28,30,32が接続され、さらにX線照射装置10も接続されている。コントローラ34は、各駆動装置28,30,32を駆動して試験片24を所定の位置にセットし、X線照射装置10を駆動して試験片24にX線を照射する。
【0034】
次に、上述したひずみ測定装置の動作について説明する。試験片24のひずみを測定するには、まず、ゴニオメータ14上に試験片24を設置すると共に、試験片24をzステージ22に保持する。試験片24のセットが完了すると、オペレータは入力装置26を操作し、これによってコントローラ34は試験片24のひずみ自動測定を開始する。なお、ゴニオメータ14に試験片24を設置する時は、ゴニオメータ14及びzステージ22は初期位置に位置決めされている。
図4はコントローラ34で行われる処理のフローチャートを示している。図4に示すように、コントローラ34は、まず、z軸駆動装置30を駆動してzステージ22をゴニオメータ14に対して進退動させる(S10)。これによって、試験片のz軸方向の位置調整が行われる。なお、ひずみ測定を開始した最初のステップでは、試験片のz=0となる位置の割り出しが行われる。
z軸方向の位置調整が終了すると、コントローラ34はθ回転軸駆動装置28を駆動してゴニオメータ14の位置調整を行う(S12)。これによって、試験片24へのX線の入射角の調整が行われる。なお、コントローラ34は、ゴニオメータ14の回転に応じて2θ軸駆動装置32を駆動し、X線検出器20の位置調整も行う。
【0035】
ステップS10,S12で各装置14,20の位置調整が完了すると、コントローラ34は、X線照射装置10をONにしてX線の照射を開始し(S14)、X線検出器20によって試験片24で反射(回折)したX線を検出する(S16)。X線の検出が終了すると、コントローラ34はθ軸方向の走査が終了しているか否かを判断する(S18)。θ軸方向の走査が終了している場合(ステップS18でYES)はステップS20に進み、θ軸方向の走査が終了していない場合(ステップS18でNO)はステップS12に戻ってステップS12からの処理を繰り返す。これによって、予め設定されていた全ての入射角についてX線の回折強度が測定され、「入射角−X線回折強度」の関係が得られることとなる。
図4は測定された回折角2θとX線回折強度との関係の一例を模式的に示している。図4に示すように、試験片24の格子面間隔と回折角2θが回折条件(フラッグの条件)を満足するときにX線強度がピークとなる。このため、「入射角−X線回折強度」の関係からX線回折強度がピークとなる回折角を求めることとなる。なお、図4ではX線回折強度のピークが複数観察されるが、試験片の結晶構造は既知である。このため、観察された複数のピークのうちひずみ測定方向の格子面間隔に対応したX線ピークを特定でき、そのピークが観察されるときの回折角2θが回折角となる。
【0036】
ステップS18でYESとなると、コントローラ34は、まず、測定された「入射角−X線回折強度」から特定された回折角について表面効果を考慮した補正を行う(S20)。ステップS20の具体的な手順は、既に「(B)表面効果の影響を考慮して検出結果を補正する点」において詳述している。本実施例では、このステップ20が請求項でいう幾何学的関係に基づいて補正を行う工程に相当し、コントローラ34が幾何学的関係に基づいて補正を行う補正手段として機能している。
ステップS22に進むとコントローラ34は、ステップS20で補正された回折角をさらにX線の侵入深さに応じて補正する(S22)。ステップS22の具体的な手順は、既に「(C)測定波の侵入深さを考慮して検出結果を補正する点」において詳述している。本実施例では、このステップ22が請求項でいう測定波の侵入深さに基づいて補正を行う工程に相当し、コントローラ34が測定波の侵入深さに基づいて補正を行う補正手段として機能している。
測定された回折角についての補正が完了すると、コントローラ34はz軸方向の走査が終了しているか否かを判断する(S24)。z軸方向の走査が終了している場合(ステップS24でYES)は測定処理を終了し、z軸方向の走査が終了していない場合(ステップS24でNO)はステップS10に戻ってステップS10からの処理を繰り返す。これによって、予め設定されていたz軸方向の全ての深さについてX線の回折強度が測定され、試験片24の各深さについて回折角が測定されることとなる。
【0037】
図14,15に上述したひずみ測定装置において測定された測定結果の一例が示されている。図14は炭素鋼(JIS S45C)のアニール材をバフ研磨した試験片に対して反射法によるひずみスキャニングを行った結果を示している。試験片に用いた炭素鋼は表面処理等を施しておらず、無ひずみ状態のものを使用した。図中●で示されているものは実測値であり、◆で示されているものは実測値を補正した補正値である。図14に示すように、実測値は表面効果等によって試験片の表面近傍の回折角が理論値より低く測定されており、実測値を補正した補正値は表面効果等の影響が補正され試験片の深さによらず略一定の回折角となっている。
【0038】
図15はNi基超合金(IN738LC)の基材上にボンドコートとしてCoNiCrAlYを減圧プラズマ溶射し、さらにトップコートとして8mass%Y2O3−ZrO2を大気プラズマ溶射した試験片に対して応力測定した結果を示している。各コートの厚さは、ボンドコート0.1mm、トップコート0.5mmであった。また、試験片には、溶射したままの試験片(As−sprayed)と、トップコート面に500回の熱サイクルを加えた試験片(500cycles)の2種類を用いた。熱サイクルは、トップコート表面を室温から1733Kまでレーザ照射して空冷(試験片裏面は強制空冷)するサイクルであり、トップコート表面加熱まで約90秒、室温冷却まで約60秒とした。
図15に示すように、溶射したままの試験片(As−sprayed)の残留応力σ1は表面から深さ方向で略一定の応力となり、コーティング膜を剥離する方向の応力である残留応力σ3は表面からコーティング界面に近づくにつれて0から約60MPaまで増加していた。一方、熱サイクルを施した試験片の残留応力σ1は、表面から深さ0.2mm程度までは略0となり、熱サイクルによって応力が開放されていた。また、熱サイクルを施した試験片の残留応力σ3は、表面からの深さが深くなるに伴って徐々に漸増しているが、熱サイクル前と比較して緩和していることがわかった。熱サイクルを施した試験片は、試験片表面に亀甲状の亀裂が目視でき、この亀裂によって残留応力が緩和されたものと考えられる。これらの結果から、試験片の目視から予想される残留応力の状態と測定結果に基づく残留応力の状態が一致し、本測定方法によってコーティングを施した試験片の残留応力を正確に測定できることが確認された。
【0039】
上述したことから明らかなように、本実施例の測定装置によると、表面効果による補正及びX線の侵入深さによる補正を行うことで、試験片の表面近傍のひずみ(残留応力)を正確に測定することができる。
また、X線検出器20側に2つの受光スリット16,18が配置することで、X線の発散の影響が抑制され、測定ゲージ体積を小さくすることができる。このため、精度の高いひずみ分布状態を測定することができる。なお、X線の発散の影響を抑制する手段として2つの受光スリット16,18を用いるため、これらの位置調整を容易に行うことができる。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、図16に示すように、試験片24で反射(回折)したX線を受光スリット16,32の間に配置した単結晶アナライザ38を介してX線検出器20で検出するようにしてもよい。このような構成によると、所定の角度で単結晶アナライザ38に入射したX線のみがX線検出器20で検出される。このため、X線の発散の影響をより抑制することができ、測定精度を向上することができる。
さらに、図17に示すような構成を採ることもできる。図17に示す例では、試験片24で反射(回折)されたX線はソーラスリット36を介してX線検出器20で検出される。このような構成によっても2つの受光スリットを設けた場合と略同様の効果を得ることができる。
また、上述した実施例では、ひずみを測定する測定波にX線を用いたが、本発明の測定方法にはX線以外の測定波を用いることができ、例えば、中性子線等のエネルギ波を用いることもできる。中性子線を用いた場合は、被測定物の深さ方向の影響が少ないため、簡易的には測定波の侵入深さに基づく補正を行わなくてもよい。
なお、本発明に係る測定技術の応用分野としては、例えば、機械構造材料の残留応力を測定する方法に好適に用いることができる。すなわち、近年、機械構造材料の高機能化のために表面改質あるいはコーティングが多用されており、このような高機能材料の強度特性は表面下の残留応力分布によって大きく影響される。従って、本発明に係る測定技術を用いることで、機械構造材料の深さ方向の残留応力分布を簡便に測定することができ、高機能材料の強度特性の評価を精度良く簡便に行うことができる。
【0041】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例に係るひずみ測定装置の全体構成を示す図。
【図2】図1に示す測定装置の制御系の構成を示すブロック図。
【図3】コントローラで行われる処理手順を示すフローチャート。
【図4】回折角2θと検出されたX線強度との関係を模式的に示す図。
【図5】ひずみスキャニング法の原理を説明するための図。
【図6】ダブルスリットの光学系を簡単に示す模式図。
【図7】発散スリットと2つの受光スリットによって形成される光学系を模式的に示す図。
【図8】図7において装置ゲージ体積の部分を拡大して示す図。
【図9】公称ゲージ体積を拡大して示す図。
【図10】装置ゲージ体積を拡大して示す図。
【図11】装置ゲージ体積と試験片の表面とを併せて示す図。
【図12】装置ゲージ体積と測定ゲージ体積のずれによって生じる回折角の誤差を説明するための図。
【図13】測定波の侵入深さによる測定誤差を説明するための図。
【図14】本実施例のひずみ測定装置で測定された「ひずみ−試験片の深さ方向の距離」の関係を示すグラフ。
【図15】本実施例のひずみ測定装置で測定された「残留応力−試験片の深さ方向の距離」の関係を示すグラフ。
【図16】本発明の変形例に係るひずみ測定装置の全体構成を示す図。
【図17】本発明の他の変形例に係るひずみ測定装置の全体構成を示す図。
【符号の説明】
【0043】
10・・X線照射装置
12・・発散スリット
14・・ゴニオメータ
16,18・・受光スリット
20・・X線検出器
22・・zステージ
24・・試験片
34・・コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射手段と、
前記被測定物によって反射された反射波を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出される反射波を、被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波に制限する制限手段と、
前記検出手段で得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する第1補正手段と、を備えた回折法によるひずみ測定装置。
【請求項2】
前記制限手段が、被測定物と検出手段の間に配置され、被測定物から検出手段に向かう反射波の一部を遮断する第1遮断部材と、
前記第1遮断部材と検出手段の間に配置され、第1遮断部材を通過した反射波の一部をさらに遮断する第2遮断部材と、を有する請求項1に記載の回折法によるひずみ測定装置。
【請求項3】
前記検出手段で得られた検出結果を、被測定物の表面から前記測定領域までの距離に応じて補正する第2補正手段をさらに備えた請求項1又は2に記載の回折法によるひずみ測定装置。
【請求項4】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物を載置する試料台と、
前記試料台に載置された被測定物に測定波を照射する照射手段と、
前記被測定物によって反射される反射波を検出する検出手段と、
前記被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波が検出手段で検出されるように、試料台に対して前記照射手段及び前記検出手段の位置を調整する位置調整手段と、
前記検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段と、を備えた回折法によるひずみ測定装置。
【請求項5】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物を載置するゴニオメータと、
前記ゴニオメータに載置された被測定物に所定の光束のX線を照射するX線照射装置と、
前記被測定物から反射されるX線を検出するX線検出装置と、
前記ゴニオメータと前記X線検出装置との間に配置され、被測定物から反射されたX線の一部を通過させる第1スリットと、
前記第1スリットと前記X線検出装置との間に配置され、前記第1スリットを通過したX線の一部を通過させて前記X線検出装置に導く第2スリットと、
前記被測定物へのX線の入射角を変更するためにゴニオメータを回転駆動する第1駆動装置と、
前記第1駆動装置によるゴニオメータの回転に応じて前記第1スリット、前記第2スリット及び前記X線検出装置を移動させる第2駆動装置と、
前記X線照射装置、X線検出装置並びに第1及び第2駆動装置を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、(1)前記第1及び第2駆動装置を駆動して前記被測定物への入射角を変更しながら前記X線照射装置からX線を照射させると共に前記X線検出装置に被測定物から反射されたX線を検出させ、(2)前記(1)によって得られた「入射角−X線強度」の関係からX線の回折角を特定し、(3)前記X線照射装置から照射される所定の光束のX線並びに前記第1スリット及び第2スリットによって決まる装置ゲージ体積と、その装置ゲージ体積内において被測定物が存在する領域である測定ゲージ体積との幾何学的関係から前記(2)で特定された回折角を補正するものであり、前記(3)の補正は装置ゲージ体積の重心と測定ゲージ体積の重心とのずれ量に基づいて回折角を補正することを特徴とする回折法によるひずみ測定装置。
【請求項6】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定方法であり、
前記被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、
前記被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射された反射波を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正工程と、を備えた回折法によるひずみ測定方法。
【請求項7】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定方法であって、
前記被測定物に測定波を照射する照射工程と、
前記被測定物の表面から所定の深さの領域から反射された反射波を検出する検出工程と、
前記検出工程で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する補正工程と、を有することを特徴とする回折法によるひずみ測定方法。
【請求項8】
コンピュータを、
所定の光束の測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、
前記被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射された反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、
前記検出装置によって得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正手段として機能させるための回折法によるひずみ測定を可能とするプログラム。
【請求項9】
コンピュータを、
測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、
前記被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、
前記検出装置で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段として機能させるための回折法によるひずみ測定を可能とするプログラム。
【請求項1】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射手段と、
前記被測定物によって反射された反射波を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出される反射波を、被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射される反射波に制限する制限手段と、
前記検出手段で得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する第1補正手段と、を備えた回折法によるひずみ測定装置。
【請求項2】
前記制限手段が、被測定物と検出手段の間に配置され、被測定物から検出手段に向かう反射波の一部を遮断する第1遮断部材と、
前記第1遮断部材と検出手段の間に配置され、第1遮断部材を通過した反射波の一部をさらに遮断する第2遮断部材と、を有する請求項1に記載の回折法によるひずみ測定装置。
【請求項3】
前記検出手段で得られた検出結果を、被測定物の表面から前記測定領域までの距離に応じて補正する第2補正手段をさらに備えた請求項1又は2に記載の回折法によるひずみ測定装置。
【請求項4】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物を載置する試料台と、
前記試料台に載置された被測定物に測定波を照射する照射手段と、
前記被測定物によって反射される反射波を検出する検出手段と、
前記被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波が検出手段で検出されるように、試料台に対して前記照射手段及び前記検出手段の位置を調整する位置調整手段と、
前記検出手段で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段と、を備えた回折法によるひずみ測定装置。
【請求項5】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定装置であって、
前記被測定物を載置するゴニオメータと、
前記ゴニオメータに載置された被測定物に所定の光束のX線を照射するX線照射装置と、
前記被測定物から反射されるX線を検出するX線検出装置と、
前記ゴニオメータと前記X線検出装置との間に配置され、被測定物から反射されたX線の一部を通過させる第1スリットと、
前記第1スリットと前記X線検出装置との間に配置され、前記第1スリットを通過したX線の一部を通過させて前記X線検出装置に導く第2スリットと、
前記被測定物へのX線の入射角を変更するためにゴニオメータを回転駆動する第1駆動装置と、
前記第1駆動装置によるゴニオメータの回転に応じて前記第1スリット、前記第2スリット及び前記X線検出装置を移動させる第2駆動装置と、
前記X線照射装置、X線検出装置並びに第1及び第2駆動装置を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、(1)前記第1及び第2駆動装置を駆動して前記被測定物への入射角を変更しながら前記X線照射装置からX線を照射させると共に前記X線検出装置に被測定物から反射されたX線を検出させ、(2)前記(1)によって得られた「入射角−X線強度」の関係からX線の回折角を特定し、(3)前記X線照射装置から照射される所定の光束のX線並びに前記第1スリット及び第2スリットによって決まる装置ゲージ体積と、その装置ゲージ体積内において被測定物が存在する領域である測定ゲージ体積との幾何学的関係から前記(2)で特定された回折角を補正するものであり、前記(3)の補正は装置ゲージ体積の重心と測定ゲージ体積の重心とのずれ量に基づいて回折角を補正することを特徴とする回折法によるひずみ測定装置。
【請求項6】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定方法であり、
前記被測定物に所定の光束の測定波を照射する照射工程と、
前記被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射された反射波を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正工程と、を備えた回折法によるひずみ測定方法。
【請求項7】
被測定物に対して斜めから測定波を照射し、被測定物から反射される反射波の回折角から被測定物のひずみを測定する回折法によるひずみ測定方法であって、
前記被測定物に測定波を照射する照射工程と、
前記被測定物の表面から所定の深さの領域から反射された反射波を検出する検出工程と、
前記検出工程で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する補正工程と、を有することを特徴とする回折法によるひずみ測定方法。
【請求項8】
コンピュータを、
所定の光束の測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、
前記被測定物中及び/又はその近傍に設定される測定領域から反射された反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、
前記検出装置によって得られた検出結果を、前記測定領域とその測定領域内に存在する被測定物との幾何学的関係から補正する補正手段として機能させるための回折法によるひずみ測定を可能とするプログラム。
【請求項9】
コンピュータを、
測定波を照射装置によって被測定物に対して斜めから照射させる照射制御手段と、
前記被測定物の所定の深さの領域から反射される反射波を検出装置によって検出させる検出制御手段と、
前記検出装置で得られた検出結果を、測定波の被測定物への侵入深さに応じて補正する侵入深さ対応補正手段として機能させるための回折法によるひずみ測定を可能とするプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−177731(P2006−177731A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370074(P2004−370074)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
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