説明

回路基板の製造方法及び回路基板

【課題】耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することが可能な回路基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】導電層を有する絶縁基板と回路素子とを備え、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子とがはんだにより接合される回路基板の製造方法であって、前記はんだで構成されるはんだシートに、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子との間隔を規制する規制部材を配設する配設工程(ステップST1)と、前記絶縁基板、前記規制部材が配設された前記はんだシート、及び前記回路素子を、その順番で積層する積層工程(ステップST2)と、積層されている前記絶縁基板、前記はんだシート及び前記回路素子を、還元雰囲気下において加熱して前記はんだシートを溶融することによって、前記絶縁基板と前記回路素子とを接合する接合工程(ステップST3)と、を含む回路基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだシートを用いて回路素子と絶縁基板とが接合される回路基板の製造方法及び回路基板に関する。詳しくは、耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することが可能な回路基板の製造方法及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パワーモジュール用半導体素子等の回路素子の絶縁基板への接合には、熱伝導及び電気伝導が共に良好でかつ安価なはんだが用いられている。はんだには、一般的に、酸化防止と接合性向上の役割を持つ活性剤が含有されていることが多い。この活性剤は、回路素子の絶縁基板への接合にも寄与する。この活性剤を含有したはんだによる回路素子の接合は、後の製造工程において、ワイヤボンディングの密着力低下や樹脂封入不足等を誘発する。このため、当該はんだから活性剤を洗浄して完全に除去する必要があるが、洗浄管理不足による残渣の発生や、洗浄不足を招くことが多かった。そのため、活性剤を含有しないはんだと、水素や蟻酸等の還元ガスとを用いた回路基板の製造方法も提供されている。
【0003】
このような製造方法においては、回路素子と絶縁基板との間の接合面での密着力を得るために、回路素子に対して錘荷重が加えられて、回路素子と絶縁基板とが、はんだにより接合される。このようなはんだによる接合を以下、「はんだ接合」という。
このような製造方法に適用可能な技術として、例えば、セラミックス回路基板(絶縁基板)の裏面へワイヤバンプを施し、当該裏面とヒートシンクとをはんだにより接合する技術が、例えば特許文献1に記載されている。なお、このような技術を、以下、「特許文献1に記載の技術」という。特許文献1に記載の手法を適用することで、はんだの接合時に発生するセラミックス回路基板の傾きを抑制することが可能になる。
また、はんだの濡れ性を良好にし、はんだが想定外の領域を超えて流出しないようにする流出抑止手段を備えた回路基板を提供する技術が、特許文献2に記載されている。なお、このような技術を、以下、「特許文献2に記載の技術」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−158328号公報
【特許文献2】特開2004−119944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、セラミックス回路基板の傾きを抑制しているものの、回路素子の傾きが考慮されていない。そのため、はんだ接合時に回路素子の傾きが発生すると、はんだ接合部における厚みの薄い箇所は、回路素子とはんだの線膨張係数の差により歪が発生し、素子側のはんだ部分の亀裂進展が加速され、熱特性(放熱性)の悪化や耐久信頼性の低下を招く虞があった。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の技術は、はんだが想定外の領域を超えて流出しないものの、回路素子の傾きを抑制する手段を備えていない。そのため、上記特許文献1に記載の技術の場合と同様に、はんだ接合時に回路素子の傾きが発生すると、素子側のはんだ部分の亀裂進展が加速され、熱特性の悪化や耐久信頼性の低下を招く虞があった。
【0007】
従って、耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することが可能な回路基板が近年要求されている。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、はんだシートを用いて回路素子と絶縁基板とが接合される回路基板の製造方法及び回路基板であって、耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することが可能な回路基板の製造方法及び回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、導電層(例えば、後述の表面側導電層3,裏面側導電層4)を有する絶縁基板(例えば、後述の絶縁基板2)と回路素子(例えば、後述の半導体素子5)とを備え、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子とがはんだにより接合される回路基板(例えば、後述の半導体基板1)の製造方法であって、前記はんだで構成されるはんだシート(例えば、後述のはんだシート7)に、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子との間隔(例えば、後述の間隔d)を規制する規制部材(例えば、後述の突起部材8)を配設する配設工程(例えば、後述のステップST1の配設工程)と、前記絶縁基板、前記規制部材が配設された前記はんだシート、及び前記回路素子を、その順番で積層する積層工程(例えば、後述のステップST2の積層工程)と、積層されている前記絶縁基板、前記はんだシート及び前記回路素子を、還元雰囲気(例えば、後述の還元ガス12)下において加熱して前記はんだシートを溶融することによって、前記絶縁基板と前記回路素子とを接合する接合工程(例えば、後述のステップST3の接合工程)と、を含むことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、はんだシートに規制部材が配設されることにより、はんだシートと回路素子との間に、規制部材の高さに相当する隙間が形成される。そのため、この隙間に還元雰囲気が十分に供給され、接合面におけるはんだの濡れ性を向上することができ、接合の信頼性を向上することができる。また、回路素子が、絶縁基板に対して傾いて接合されることを抑制することができ、はんだの厚みを均一にすることができる。つまり、はんだ厚みの不均一に基づく亀裂の発生及び進展を抑制することができ、放熱性の悪化(熱特性の信頼性の低下)を抑制することができる。従って、回路基板の耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することができる。
【0011】
この場合、前記規制部材(例えば、後述の突起部材8)は、前記はんだよりも、融点が高く、かつ、はんだ濡れ性が低い金属素材からなることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、はんだシートが、はんだの融点よりも高く、かつ、規制部材の融点よりも低い所定の温度で加熱される場合に、はんだシートのみが溶融し、規制部材は、溶融せずにはんだ内に固体の状態で残る。また、規制部材は、はんだよりも、はんだ濡れ性が低いので、溶融したはんだは、規制部材の周囲に容易に流動する。
従って、絶縁基板の導電層と回路素子との間に、規制部材の高さに相当する間隔が確実に設定され、はんだの厚みを均一にすることができる。
【0013】
この場合、前記規制部材(例えば、後述の突起部材8)には、アルミニウムを主成分とする金属素材(例えば、後述のアルミニウム合金)を用いることができる。
【0014】
この発明によれば、規制部材に汎用性のある金属素材を用いることにより、製造コストを低減することができる。
【0015】
この場合、前記規制部材(例えば、後述の突起部材8)は、ボンディングワイヤからなることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、規制部材を、ボンディングワイヤとすることで、ワイヤボンディングするための新たな装置は不要であり、既存の装置を利用することできる。また、ワイヤボンディングすることにより、規制部材をはんだシートに容易かつ迅速に配設することができる。特に、規制部材を、予めはんだシートにワイヤボンディングすることで、量産工程への自動供給が可能となる。
【0017】
この場合、前記はんだシート(例えば、後述のはんだシート7)は、平面視で矩形状に形成され、前記規制部材(例えば、後述の突起部材8)は、前記はんだシートにおける対向する二辺(例えば、後述の辺7c,7d)に沿って配設されることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、前記積層工程において、はんだシートの規制部材の上に回路素子を安定して載置することができると共に、前記接合工程において、はんだシートが溶融した場合にも規制部材によって回路素子を支持することができる。これにより、絶縁基板に対する回路素子の傾きの発生を抑制することができ、はんだの厚みを均一化することができる。従って、はんだからなる接合部に亀裂(クラック)が発生することを抑制することができ、回路基板の耐久信頼性を向上することができる。
【0019】
この場合、前記はんだシート(例えば、後述のはんだシート7)は、鉛フリーはんだからなることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、回路基板において、鉛を含まないはんだ接合部を構成することができ、環境に優しい回路基板を提供することができる。
【0021】
また、本発明の回路基板(例えば、後述の半導体基板1)は、導電層(例えば、後述の表面側導電層3,裏面側導電層4)を有する絶縁基板(例えば、後述の絶縁基板2)と、回路素子(例えば、後述の半導体素子5)と、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子とをはんだにより接合している接合部(例えば、後述の接合部6)と、を備え、前記接合部には、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子との間隔(例えば、後述の間隔d)を規制する規制部材(例えば、後述の突起部材8)が設けられていることを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、規制部材を設けたことによって、回路素子が絶縁基板に対して傾いて接合されることを抑制することができ、接合部(はんだ)の厚みを均一にすることができる。従って、はんだ厚みの不均一に基づく亀裂の発生及び進展を抑制することができ、放熱性の悪化(熱特性の信頼性の低下)を抑制することができる。従って、耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することが可能な回路基板の製造方法及び回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の半導体基板を示す断面図である。
【図2】半導体基板の積層構造を分解して示す断面図である。
【図3】はんだシートの表面に配設された突起部材を示す平面図である。
【図4】突起部材の配設位置とはんだ歪みとの関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態の半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図5の製造方法における接合工程において絶縁基板と半導体素子との間に還元ガスが供給される様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態の半導体基板について図1から図4を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態の半導体基板を示す断面図であり、完成した半導体基板を示している。図2は、半導体基板の積層構造を分解して示す断面図であり、完成前の半導体基板を示している。図3は、はんだシートの表面に配設された突起部材を示す平面図である。図4は、突起部材の配設位置とはんだ歪みとの関係を示す図である。
【0026】
本実施形態の回路基板として、自動車等における電源装置(例えば、モータ駆動用の電源装置)のパワーモジュール(半導体装置)に用いられる半導体基板1を例にして説明する。
半導体基板1は、導電層としての表面側導電層3及び裏面側導電層4を有する絶縁基板2と、回路素子としての半導体素子5と、絶縁基板2と半導体素子5とをはんだにより接合している接合部6と、接合部6に設けられる規制部材としての突起部材8と、を備える。
【0027】
絶縁基板2は、電気絶縁性を有する基板であり、例えば、セラミックス等からなる。絶縁基板2は、例えば、平面視で矩形状に形成されている。
表面側導電層3は、絶縁基板2の表面2aに設けられている。ここで、絶縁基板2の表面2aとは、絶縁基板2の外表面であって、半導体素子5に対向する側の面をいう。図1及び図2においては、絶縁基板2の上面に該当する。表面側導電層3は、例えば、銅やアルミニウム等の導電パターン(金属回路層)として構成されている。
【0028】
裏面側導電層4は、絶縁基板2の裏面2bに設けられている。ここで、絶縁基板2の裏面2bとは、絶縁基板2の外表面であって、表面2aと逆側の面をいう。図1及び図2においては、絶縁基板2の下面に該当する。裏面側導電層4も、例えば、銅やアルミニウム等の導電パターンとして構成されている。
【0029】
半導体素子5は、例えば、インバータ回路を構成する素子群、具体的には例えば、スイッチング素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)、及びFWD(Free Wheeling Diode:転流ダイオード)を含む素子群である。
【0030】
この半導体素子5は、素子毎に物理的に分離される場合もあるが、本実施形態では説明の便宜上、平面視で矩形状に形成されている。半導体素子5の裏面5aには、絶縁基板2の表面側導電層3とはんだにより接合可能な所定の導電パターン(図示せず)を有している。ここで、半導体素子5の裏面5aとは、半導体素子5の外表面であって、絶縁基板2に対向する側の面をいう。図1及び図2においては、半導体素子5の裏面5aは、半導体素子5の下面に該当する。半導体素子5の表面(上面)には、符号5bを付してある。
【0031】
図1に示すように、接合部6は、絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aとをはんだにより接合している部分である。
接合部6には、2つの突起部材8が設けられている。突起部材8については、後述する。
【0032】
ここで、図2及び図3を参照して、接合部6の製造方法の概略について説明する。
接合部6は、後述する接合工程(図5におけるステップST3参照)において、図2に示すように、はんだシート7が溶融した後、固化することにより形成される。
図2及び図3に示すように、はんだシート7は、シート状に構成されたはんだである。はんだシート7は、例えば、鉛を含有しない鉛フリーはんだからなる。はんだシート7は、図3に示すように、平面視で矩形状に形成されており、平面視で半導体素子5とほぼ同じ大きさ(面積)となっている。
【0033】
図2及び図3に示すように、はんだシート7の表面7aには、2つの突起部材8が配設されている。ここで、はんだシート7の表面7aとは、はんだシート7の外表面であって、半導体素子5に対向する側の面をいう。図2においては、はんだシート7の表面7aは、はんだシート7の上面に該当する。はんだシート7の裏面(下面)には、符号7bを付してある。
【0034】
突起部材8は、後述する接合工程(図4におけるステップST3参照)において、はんだシート7が溶融した場合に、絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aとの間隔d(図1参照)を規制するように、接合部6内に配設される。この間隔d、つまり、突起部材8の高さは、はんだ接合の信頼性を確保できる最小の寸法として規定され、同時に、半導体素子5から絶縁基板2への放熱性を確保できる寸法として規定される。突起部材8は、例えば、断面形状がほぼ円形となっている。2つの突起部材8の高さ(直径)は、ほぼ同じである。
【0035】
2つの突起部材8は、図2及び図3に示すように、矩形状のはんだシート7における対向する2つの辺(二辺)7c,7dに沿ってほぼ平行に配設されている。つまり、2つの突起部材8は、半導体素子5の裏面5aにおける両端部側に対応してそれぞれ配置される。
【0036】
具体的には、突起部材8は、はんだシート7において、辺7c又は辺7dから少なくとも1.5mm以上内方の位置に配設されることが好ましい。その理由は、図4に示すように、辺7c又は辺7d(図4の横軸において、0mmの位置に相当)から少なくとも1.5mm以上内方の位置に突起部材8が配設されていれば、接合部6にはんだ歪みが生じにくくなり、この歪みに起因した亀裂(クラック)の発生を抑制できるからである。ここで、図4の縦軸に示すはんだ歪みは、その数値が1よりも大きい場合に、所定方向にはんだ歪みが生じており、その数値が1である場合に、はんだ歪みが生じていないことを意味する。
【0037】
突起部材8は、例えばアルミニウムを主成分とする金属素材からなる。ここで、アルミニウムを主成分とする金属素材とは、アルミニウムの成分比率(含有量)が大きい金属素材、すなわち、アルミニウム合金をいう。以下、このようなアルミニウム合金を単にアルミニウムという。アルミニウムは、はんだシート7の素材であるはんだよりも、融点が高く、かつ、はんだ濡れ性(溶けたはんだが、濡れ広がる程度)が低い金属素材である。
【0038】
具体的には、突起部材8は、アルミニウム製のボンディングワイヤからなる。このアルミニウム製のボンディングワイヤは、一般的に、半導体素子5の表面側電極(図示せず)と、図示しない樹脂ケース等に設けられた外部端子とを電気的に接合(ワイヤボンディング)する際に配線として用いられるワイヤである。すなわち、本実施形態では、配線用のボンディングワイヤが突起部材8として流用されている。
【0039】
なお、絶縁基板2の裏面側導電層4には、半導体素子5からの放熱性を向上するために、図示しない金属製放熱板(ヒートシンク)が、はんだ等を用いて固着される。この放熱板は、絶縁基板2よりも厚く、銅やアルミニウム等により構成されている。
【0040】
次に、半導体基板1の製造方法について図5及び図6を参照しながら説明する。図5は、本発明の実施形態の半導体基板1の製造方法を示すフローチャートである。図6は、図5の製造方法における接合工程において絶縁基板と半導体素子との間に還元ガスが供給される様子を示す図である。
なお、以下、説明の便宜上、半導体基板1を製造する動作主体は、図示しない装置(ロボットを含む)であるとする。ただし、装置以外の動作主体、例えば作業者等の自然人が、以下のステップの少なくとも一部を実行してもよい。
【0041】
図5に示すように、ステップST1において、装置は、配設工程の動作を実施する。この配設工程は、装置が、はんだシート7(図2及び図3参照)の所定箇所に突起部材8を配設する工程である。例えば、装置は、突起部材8となるアルミニウム製のボンディングワイヤをワイヤボンディングすることにより、突起部材8をはんだシート7に配設する。これにより、図6に示すように、はんだシート7の表面7aには、突起部材8が配設された部分と配設されていない部分において、突起部材8の高さ(間隔d)に相当する高低差ができる。
【0042】
次に、ステップST2において、装置は、積層工程の動作を実施する。この積層工程は、図6に示すように、装置が、絶縁基板2、突起部材8が配設されたはんだシート7、及び半導体素子5を、その順番で同図中上方向に積層する工程である。その際、積層される各部材間の密着力を得るために、装置は、所定の錘10を半導体素子5の表面5b(上面)に載置する。
はんだシート7の表面7aには、突起部材8が配設されているので、はんだシート7の表面7aと半導体素子5の裏面5aとの間には、間隔dの隙間が形成される。
【0043】
次に、ステップST3において、装置は、接合工程の動作を実施する。この接合工程は、図6に示すように、装置が、ステップST2において積層された絶縁基板2、はんだシート7、半導体素子5及び錘10を、リフロー炉(図示せず)内に入れ、還元ガス12を供給しながら、所定の温度で加熱してはんだシート7を溶融することによって、絶縁基板2と半導体素子5とをはんだ接合する工程である。
【0044】
還元ガス12としては、例えば、水素ガスが用いられる。水素ガスを用いた還元反応によれば、汚染物質を発生させず、水(水蒸気)のみが発生するため、環境にとって好ましい。
【0045】
はんだシート7の表面7aに突起部材8を配設したことにより、はんだシート7の表面7aと半導体素子5の裏面5aとの間には、上記間隔dの隙間が形成されている。そのため、この隙間によって水素ガスの流路を確保することができ、この隙間に水素ガスを十分に供給することができる。
【0046】
この隙間に水素ガスが供給されると、水素ガスの還元作用により、溶融したはんだに含まれる酸化物が除去されると共に、絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aに形成されている酸化皮膜等も除去される。従って、はんだの濡れ性が向上し、はんだ接合の信頼性が向上する。
【0047】
加熱時における上記所定の温度とは、はんだシート7は溶融するが、突起部材8は溶融しない温度である。この温度で加熱されることにより、はんだシート7のみが溶融する。すると、錘10の作用によって半導体素子5及び突起部材8が、絶縁基板2の表面側導電層3側に向かって沈下し、突起部材8が表面側導電層3に当接する。そして、その後、溶融したはんだは、冷却され、固化する。つまり、はんだによって絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aとが接合され、接合部6(図1参照)が形成される。また、接合部6内に突起部材8が配設されることにより、接合部6の厚みが部分的に突起部材8の高さ以下になることがない。
【0048】
以上のように、本実施形態の半導体基板1の製造方法は、はんだで構成されるはんだシート7に、絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aとの間隔dを規制する突起部材8を配設する配設工程(ステップST1)と、絶縁基板2、突起部材8が配設されたはんだシート7、及び半導体素子5を、その順番で積層する積層工程(ステップST2)と、積層されている絶縁基板2、はんだシート7及び半導体素子5を、還元ガス12下において加熱してはんだシート7を溶融することによって、絶縁基板2と半導体素子5とを接合する接合工程(ステップST3)と、を含む。
これにより、以下の(1)乃至(6)として示す各効果が奏される。
【0049】
(1)はんだシート7に突起部材8が配設されることにより、はんだシート7の表面7aと半導体素子5の裏面5aとの間に、この突起部材8の高さに相当する間隔dの隙間が形成される。そのため、この隙間に還元ガス12が十分に供給され、接合面におけるはんだの濡れ性を向上することができ、はんだ接合の信頼性を向上することができる。また、半導体素子5が、絶縁基板2に対して傾いてはんだ接合されることを抑制することができ、接合部6(はんだ)の厚みを均一にすることができる。つまり、接合部6が部分的に薄くなることを抑制することができるため、はんだ厚みの不均一に基づく亀裂の発生及び進展を抑制することができ、放熱性の悪化(熱特性の信頼性の低下)を抑制することができる。従って、回路基板1の耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することができる。
【0050】
(2)また、突起部材8は、アルミニウム製のボンディングワイヤからなる。アルミニウムは、汎用性のある金属素材であり、これを用いることにより、製造コストを低減することができる。また、アルミニウムは、はんだシート7の素材であるはんだよりも、融点が高く、かつ、はんだ濡れ性が低い金属素材である。そのため、はんだシート7を所定の温度で加熱することによって、はんだシート7のみを溶融させ、突起部材8を溶融したはんだ内に固体の状態で残すことができる。また、突起部材8は、はんだよりも、はんだ濡れ性が低いので、溶融したはんだは、突起部材8の周囲に容易に流動する。
従って、絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aとの間に、突起部材8の高さ(直径)に相当する間隔dが確実に設定され、接合部6(はんだ)の厚みを均一にすることができる。
【0051】
(3)また、突起部材8を、アルミニウム製のボンディングワイヤとすることで、ワイヤボンディングするための新たな装置は不要であり、既存の装置を利用することできる。また、ワイヤボンディングすることにより、突起部材8をはんだシート7に容易かつ迅速に配設することができる。特に、突起部材8を、予めはんだシート7にワイヤボンディングすることで、量産工程への自動供給が可能となる。
【0052】
(4)また、はんだシート7は、平面視で矩形状に形成され、突起部材8は、はんだシート7における対向する2つの辺7c,7dに沿って配設される。そのため、前記積層工程時において、はんだシート7の2つの突起部材8の上に半導体素子5を安定して載置することができると共に、前記接合工程において、はんだシート7が溶融した場合にも突起部材8によって半導体素子5を支持することができる。これにより、絶縁基板2に対する半導体素子5の傾きの発生を抑制することができ、はんだ(接合部6)の厚みを均一化することができる。従って、接合部6に亀裂(クラック)が発生することを抑制することができ、半導体基板1の耐久信頼性を向上することができる。
【0053】
(5)また、はんだシート7は、鉛フリーはんだからなる。そのため、半導体基板1において、鉛を含まない接合部6を構成することができ、環境に優しい半導体基板1を提供することができる。この鉛フリーはんだは、鉛系はんだや錫−鉛系はんだよりも硬いことが知られている。そのため、半導体基板1の接合部6(はんだ)の厚みが均一に形成されない場合には、半導体素子5とはんだの線膨張係数差により、はんだ厚みの薄い箇所に歪みが発生し、亀裂の進展が早まる虞がある。しかし、本実施形態においては、前述したように、接合部6の厚みを均一に形成することができるため、亀裂の進展が早まる虞がなく、鉛フリーはんだを用いることができる。
【0054】
(6)また、接合面におけるはんだ濡れ性を確保するために、従来は、はんだ材料を、シートよりも厚みのある円柱状に加工することが行われていた。そのため、金型使用回数が激減し、加工コストが大幅に増加していた。しかし、本実施形態においては、前述した理由により、シート状の鉛フリーはんだを用いても、はんだ濡れ性を容易に確保できるため、はんだ材料を円柱状に加工する必要がない。従って、製造コストを低減することができる。
【0055】
また、前記製造方法によって製造される半導体基板1は、表面側導電層3及び裏面側導電層4を有する絶縁基板2と、半導体素子5と、絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aとをはんだにより接合している接合部6と、を備え、接合部6には、絶縁基板2の表面側導電層3と半導体素子5の裏面5aとの間隔dを規制する突起部材8が設けられている。
【0056】
そのため、突起部材8を設けたことによって、半導体素子5が絶縁基板2に対して傾いてはんだ接合されることを抑制することができ、接合部6(はんだ)の厚みを均一にすることができる。従って、はんだ厚みの不均一に基づく亀裂の発生及び進展を抑制することができ、回路基板1の耐久信頼性及び熱特性を一定以上に確保することができる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態においては、突起部材8は、はんだシート7における対向する2つの辺7c,7dに沿って配設されるものとして説明したが、これに制限されない。還元ガス12の流路を確保することができ、かつ、半導体素子5を安定して載置することができれば、突起部材8は、1つ又は3つ以上配設されてもよく、その形状や配設位置も任意である。
【0058】
また、前記実施形態においては、回路素子として、パワーモジュールに用いられる半導体素子5を例にして説明したが、これに制限されない。例えば、回路素子は、半導体素子でなく、その他の電気部品であってもよい。
【0059】
また、前記実施形態においては、はんだシート7は、鉛を含有しない鉛フリーはんだからなるものとして説明したが、これに制限されない。例えば、はんだシート7は、鉛はんだ、錫−鉛共晶はんだ等からなるものでもよい。また、このようなはんだは、半導体素子5の接合用に用いられるもののほか、放熱性を高めるためのアルミニウムや銅等の金属製放熱板に、ニッケルメッキ等の表面処理を施したものとの接合に用いることも可能である。
【0060】
また、前記実施形態においては、接合工程において、還元ガス12として水素を用いるものとして説明したが、これに制限されない。例えば、還元ガス12として、蟻酸を用いてもよい。
【0061】
また、前記実施形態においては、自動車等における電源装置のパワーモジュールに用いられる半導体基板1を例にして説明したが、これに制限されない。例えば、はんだ接合される回路基板であれば、どのような基板であってもよく、また回路基板以外の電気部品であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 半導体基板(回路基板)
2 絶縁基板
3 表面側導電層(導電層)
4 裏面側導電層(導電層)
5 半導体素子(回路素子)
6 接合部
7 はんだシート
7c,7d 辺
8 突起部材(規制部材)
12 還元ガス(還元雰囲気)
d 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層を有する絶縁基板と回路素子とを備え、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子とがはんだにより接合される回路基板の製造方法であって、
前記はんだで構成されるはんだシートに、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子との間隔を規制する規制部材を配設する配設工程と、
前記絶縁基板、前記規制部材が配設された前記はんだシート、及び前記回路素子を、その順番で積層する積層工程と、
積層されている前記絶縁基板、前記はんだシート及び前記回路素子を、還元雰囲気下において加熱して前記はんだシートを溶融することによって、前記絶縁基板と前記回路素子とを接合する接合工程と、
を含む回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記規制部材は、前記はんだよりも、融点が高く、かつ、はんだ濡れ性が低い金属素材からなる請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記規制部材は、アルミニウムを主成分とする金属素材からなる請求項2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記規制部材は、ボンディングワイヤからなる請求項3に記載の回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記はんだシートは、平面視で矩形状に形成され、
前記規制部材は、前記はんだシートにおける対向する二辺に沿って配設される請求項1から4のいずれか一つに記載の回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記はんだシートは、鉛フリーはんだからなる請求項1から5のいずれか一つに記載の回路基板の製造方法。
【請求項7】
導電層を有する絶縁基板と、
回路素子と、
前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子とをはんだにより接合している接合部と、
を備え、
前記接合部には、前記絶縁基板の前記導電層と前記回路素子との間隔を規制する規制部材が設けられている回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−228604(P2011−228604A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99442(P2010−99442)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】