説明

回転式ポンプおよびそれを備えたブレーキ装置

【課題】閉じ込み部と吸入口もしくは吐出口の液圧差に起因した脈動を抑制する。
【解決手段】シール部材100、101の樹脂部100b、101bの密閉部100f、101fにボリューム部100g、101gを備え、空隙部53が閉じ込み部53bとなる範囲から吸入口60に連通される場所に移動するまでにボリューム部100g、101gに連通させるようにしている。これにより、空隙部53内のブレーキ液圧をほぼボリューム部100g、101g内のブレーキ液圧まで上昇させられ、ほとんど負圧が発生しないようにすることが可能となる。したがって、吸入口60の直前で閉じ込み部53bのブレーキ液圧を吸入圧に近づけることができるため、空隙部53が閉じ込み部53bを通過して吸入口60に連通させられたときに液圧差に起因した脈動が発生することを抑制することを可能にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を吸入・吐出する回転式ポンプおよびそれを備えたブレーキ装置に関し、特にトロコイドポンプ等の内接歯車ポンプに適用すると好適である。
【背景技術】
【0002】
トロコイドポンプ等の内接歯車型の回転式ポンプは、外周に外歯部を備えたインナーロータ、内周に内歯部を備えたアウターロータおよびこれらアウターロータとインナーロータを収納するケーシング等から構成されている。インナーロータおよびアウターロータは、内歯部と外歯部とが互いに噛み合わさり、これら互いの歯によって複数の空隙部を形成した状態でケーシング内に配置されている。
【0003】
このような回転式ポンプにおいて、アウターロータおよびインナーロータの端面と対応するケーシングの内壁面に溝を形成すると共に、この溝内にシール部材を配置し、シール部材をアウターロータおよびインナーロータの端面に押し当てた構造が開示されている(特許文献1参照)。これにより、アウターロータおよびインナーロータの端面とケーシングの内壁面における高圧部位と低圧部位との間をシールし、高圧部位から低圧部位へのブレーキ液洩れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−355274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の回転式ポンプの場合、複数の空隙部のうち吸入口および吐出口の双方と連通しない閉じ込み部のブレーキ液圧と吸入口や吐出口内のブレーキ液圧(以下、それぞれ吸入圧と吐出圧という)とに差がある。具体的には、回転方向において吸入口の手前に位置する体積が最も小さくなる側の閉じ込み部では、空隙部の膨張によってブレーキ液圧が低下し、負圧が発生するため、大気圧とされる吸入圧よりも低圧となる。逆に、回転方向において吐出口の手前に位置する上側閉じ込み部では、空隙部の圧縮によってブレーキ液圧が上昇するため、高圧な吐出圧よりも更に高圧となる。このため、回転に伴って空隙部が閉じ込み部を通過したのち吸入口もしくは吐出口に連通したときに、ブレーキ液圧の差があるため、その差に起因した大きな脈動が発生する。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、閉じ込み部と吸入口もしくは吐出口との液圧差に起因した脈動を抑制できる回転式ポンプおよびそれを備えたブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1ないし6に記載の発明では、ケーシング(50)におけるアウターロータ(51)およびインナーロータ(52)の軸方向端面と対応する面に形成されたシール溝(71b、72b)内に配置され、インナーロータおよびアウターロータの軸方向端面とケーシングとの間の間隙部において、軸方向にみたとき吐出口と駆動軸との間を通ると共に閉じ込み部を通ってアウターロータの外周まで至り、閉じ込み部(53a、53b)を覆うことでこれを密閉すると共にアウターロータおよびインナーロータの軸方向端面と摺接する摺接面を有する密閉部(100e、100f、101e、101f)を有するシール手段(100、101)が備えられ、このシール手段の密閉部に、摺接面に開口する凹みによって構成され、回転運動に伴って、密閉状態にある閉じ込み部とされた空隙部と連通させられるボリューム部(100g、101g)を備えることを特徴としている。
【0008】
このような回転式ポンプによれば、空隙部が閉じ込み部となる範囲から吸入口もしくは吐出口に連通される場所に移動するまでに、閉じ込み部とされた空隙部をボリューム部に連通させることができる。これにより、空隙部内のブレーキ液圧をほぼボリューム部内のブレーキ液圧にすることができる。したがって、吸入口もしくは吐出口の直前で閉じ込み部のブレーキ液圧を吸入圧もしくは吐出圧に近づけることができるため、空隙部が閉じ込み部となる範囲を通過して吸入口もしくは吐出口に連通させられたときに、液圧差に起因した脈動が発生することを抑制できる。
【0009】
例えば、請求項2に記載したように、空隙部が吐出口と連通した状態から吸入口と連通した状態へ移行する間の部位に設けられた、体積が最小となる側の閉じ込み部を密閉する密閉部(100f、101f)に対してボリューム部を備えることができる。このようにすれば、吸入口の直前で閉じ込み部のブレーキ液圧を吸入圧もしくは吐出圧に近づけることができ、請求項1に記載した効果を得ることができる。
【0010】
この場合、請求項3に記載したように、ボリューム部は、体積が最小となる側の閉じ込み部となる空隙部の体積が増加する領域に配置されるようにすれば良い。
【0011】
また、請求項4に記載したように、閉じ込み部となった空隙部が回転運動に伴ってボリューム部を経てから吸入口もしくは吐出口に連通させられたときに、該空隙部を通じて吸入口もしくは吐出口と連通するようにボリューム部を構成すると好ましい。
【0012】
このような構成とすれば、例えば空隙部がボリューム部を経て閉じ込み部となる範囲から吸入口もしくは吐出口に連通される場所に移動したときに、吸入口もしくは吐出口に連通した空隙部を通じてブレーキ液が充填される。このため、次の閉じ込み部となった空隙部と連通する前に、ボリューム部のブレーキ液圧を吸入圧もしくは吐出圧相当に戻しておくことができる。
【0013】
請求項6に記載の発明では、シール手段をケーシングにおけるアウターロータおよびインナーロータの軸方向の一方の端面にのみ備え、ケーシングにおける他方の端面については該端面が直接アウターロータおよびインナーロータと接触してシールするメカニカルシールを採用し、該メカニカルシールとされる端面のうち閉じ込み部(53a、53b)を覆うことでこれを密閉すると共にアウターロータおよびインナーロータの軸方向端面と摺接する摺接面に開口する凹みによって構成され、回転運動に伴って、密閉状態にある閉じ込み部の空隙部と連通させられるボリューム部(72c)が備えられるようにすることを特徴としている。
【0014】
このように、ケーシングにおけるアウターロータおよびインナーロータの軸方向の一方の端面についてはシール手段によるシール、他方の端面についてはメカニカルシールによるシールとすることもできる。この場合、メカニカルシールが為される側の端面にボリューム部を備えることができる。
【0015】
請求項7に記載の発明では、ケーシングにおけるアウターロータおよびインナーロータの軸方向端面と対応する端面は、該端面が直接アウターロータおよびインナーロータと接触してシールするメカニカルシールとされており、該メカニカルシールとされる端面のうち閉じ込み部(53a、53b)を覆うことでこれを密閉すると共にアウターロータおよびインナーロータの軸方向端面と摺接する摺接面に、開口する凹みによって構成され、回転運動に伴って、密閉状態にある閉じ込み部の空隙部と連通させられるボリューム部(72c)が備えられていることを特徴としている。
【0016】
このように、メカニカルシールが採用される場合においても、摺接面にボリューム部を備えることにより、請求項1と同様の効果を得ることができる。そして、このようなメカニカルシールが採用される場合においても、請求項8〜10に示すように、請求項2〜4に記載した構成を採用することで、上記各請求項と同様の効果を得ることができる。
【0017】
以上説明したような回転式ポンプは、高圧な液圧が用いられるブレーキ装置に適用されると好ましい。具体的には、請求項11に記載したように、踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段(1〜3)と、ブレーキ液圧に基づいて車輪に制動力を発生させる制動力発生手段(4、5)と、ブレーキ液圧発生手段に接続され、制動力発生手段にブレーキ液圧を伝達する主管路(A)と、ブレーキ液圧発生手段に接続され、制動力発生手段が発生させる制動力を高めるために、主管路側にブレーキ液を供給する補助管路(C、D)と、を有したブレーキ装置において、吸入口が補助管路を通じてブレーキ液圧発生手段側のブレーキ液を吸入でき、吐出口が主管路を通じて制動力発生手段に向けてブレーキ液を吐出できるように回転式ポンプを配置することができる。
【0018】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる回転式ポンプ10を備えたブレーキ装置の管路構成図である。
【図2】図1における回転式ポンプ10の具体的構成を示す図であり、(a)は、回転式ポンプ10の模式図、(b)は、(a)のA−O−A断面図である。
【図3】シール部材100における樹脂部材100bを拡大したものであり、(a)は正面図、(b)は斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ10における閉じ込み部53bおよびボリューム部100g、101gの近傍の拡大図である。
【図5】回転式ポンプ10の回転に伴う空隙部53の体積変化を示したものである。
【図6】回転式ポンプ10の回転に伴う閉じ込み部53bのブレーキ液圧(絶対圧)の変化を示したグラフである。
【図7】(a)は、本実施形態のブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ10の模式図、(b)は、(a)のB−O−B断面図である。
【図8】回転式ポンプ10の回転に伴う閉じ込み部53bのブレーキ液圧(絶対圧)の変化を示したグラフである。
【図9】本発明の第3実施形態のブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ10の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0021】
(第1実施形態)
まず、ブレーキ装置の基本構成を、図1に基づいて説明する。ここでは前輪駆動の4輪車において、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の油圧回路を構成する車両に本発明によるブレーキ装置を適用した例について説明するが、前後配管などにも適用可能である。
【0022】
図1に示すように、ブレーキペダル1は倍力装置2と接続されており、この倍力装置2によりブレーキ踏力等が倍力される。
【0023】
そして、倍力装置2は、倍力された踏力をマスタシリンダ3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがマスタシリンダ3に配設されたマスタピストンを押圧することによりマスタシリンダ圧が発生する。なお、これらブレーキペダル1、倍力装置2およびマスタシリンダ3はブレーキ液圧発生手段に相当する。
【0024】
また、このマスタシリンダ3には、マスタシリンダ3内にブレーキ液を供給したり、マスタシリンダ3内の余剰ブレーキ液を貯留するマスタリザーバ3aが接続されている。そして、マスタシリンダ圧は、ABS制御等を行うブレーキ液圧制御用アクチュエータを介して制動力発生手段としての右前輪FR用のホイールシリンダ4および左後輪RL用のホイールシリンダ5へ伝達されている。
【0025】
以下の説明は、右前輪FRおよび左後輪RL側について説明するが、第2の配管系統である左前輪FLおよび右後輪RR側についても全く同様であるため、説明は省略する。
【0026】
ブレーキ装置は、マスタシリンダ3に接続する管路(主管路)Aを備えており、この管路Aには逆止弁22aと共にリニア差圧制御弁22が備えられている。そして、このリニア差圧制御弁22によって管路Aは2部位に分けられている。すなわち管路Aは、マスタシリンダ3からリニア差圧制御弁22までの間においてマスタシリンダ圧を受ける管路A1と、リニア差圧制御弁22から各ホイールシリンダ4、5までの間の管路A2に分けられる。
【0027】
リニア差圧制御弁22は、通常は連通状態であるが、マスタシリンダ圧が所定圧よりも低い際にホイールシリンダ4、5に急ブレーキをかける時、或いはトラクションコントロール時に、マスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間に所定の差圧を発生させる状態(差圧状態)となる。このリニア差圧制御弁22は、差圧の設定値をリニアに調整することができる。
【0028】
また、管路A2において、管路Aは2つに分岐しており、開口する一方にはホイールシリンダ4へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁30が備えられ、他方にはホイールシリンダ5へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁31が備えられている。
【0029】
これら増圧制御弁30、31は、電子制御装置(以下、ECUという)により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、この2位置弁が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ圧あるいは後述するポンプ10の吐出によるブレーキ液圧を各ホイールシリンダ4、5に加えることができる。これら第1、第2の増圧制御弁30、31は、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキ時には、常時連通状態に制御されている。
【0030】
なお、増圧制御弁30、31には、それぞれ安全弁30a、31aが並列に設けられており、ブレーキ踏み込みを止めてABS制御が終了したときにおいてホイールシリンダ4、5側からブレーキ液を排除するようになっている。
【0031】
第1、第2の増圧制御弁30、31と各ホイールシリンダ4、5との間における管路Aと調圧リザーバ40とを結ぶ管路(吸入管路)Bには、ECUにより連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁32、33がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁32、33は、ノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では、常時遮断状態とされている。
【0032】
管路Aのリニア差圧制御弁22および増圧制御弁30、31の間と調圧リザーバ40とを結ぶ管路(補助管路)Cには回転式ポンプ10が配設されている。この回転式ポンプ10の吐出口側には、安全弁10Aが備えられており、ブレーキ液が逆流しないようになっている。また、この回転式ポンプ10にはモータ11が接続されており、このモータ11によって回転式ポンプ10が駆動される。
【0033】
そして、調圧リザーバ40とマスタシリンダ3とを接続するように管路(補助管路)Dが設けられている。この管路Dには2位置弁23が配置されており、通常時には2位置弁23が遮断状態とされ、管路Dが遮断されるようになっている。この2位置弁23はブレーキアシスト時やトラクションコントロール時等に連通状態とされ管路Dが連通状態にされると、回転式ポンプ10は管路Dを介して管路A1のブレーキ液を汲み取り、管路A2へ吐出してホイールシリンダ4、5におけるホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧よりも高くして車輪制動力を高めるようになっている。なお、この際にはリニア差圧制御弁22によって、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧が保持される。
【0034】
調圧リザーバ40は、管路Dに接続されてマスタシリンダ3側からのブレーキ液を受け入れるリザーバ孔40aと、管路Bおよび管路Cに接続されホイールシリンダ4、5から逃がされるブレーキ液を受け入れるリザーバ孔40bとを備えている。リザーバ孔40aより内側には、ボール弁41が配設されている。このボール弁41には、ボール弁41を上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド43がボール弁41と別体で設けられている。
【0035】
また、リザーバ室40c内には、ロッド43と連動するピストン44と、このピストン44をボール弁41側に押圧してリザーバ室40c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング45が備えられている。
【0036】
このように構成された調圧リザーバ40は、所定量のブレーキ液が貯留されると、ボール弁41が弁座42に着座して調圧リザーバ40内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、回転式ポンプ10の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室40c内に流動することがなく、回転式ポンプ10の吸入側に過剰な高圧が印加されないようになっている。
【0037】
次に、図2(a)に回転式ポンプ10の模式図を示すと共に、図2(b)に図2(a)のA−O−A断面図を示し、これら図2(a)、(b)に基づき回転式ポンプ10の構造について説明する。
【0038】
この回転式ポンプ10におけるケーシング50のロータ室50a内には、アウターロータ51およびインナーロータ52がそれぞれの中心軸(図中の点Xと点Y)が偏心した状態で組付けられて収納されている。アウターロータ51は内周に内歯部51aを備えており、インナーロータ52は外周に外歯部52aを備えている。そして、これらアウターロータ51とインナーロータ52とが互いの歯部51a、52aによって複数の空隙部53を形成して噛み合わさっている。なお、図2(a)からも判るように、本実施形態の回転式ポンプ10は、アウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとで空隙部53を形成する、仕切り板(クレセント)なしの多数歯トロコイドタイプのポンプである。また、インナーロータ52の回転トルクを伝えるために、インナーロータ52とアウターロータ51とは複数の接触点を有している。
【0039】
図2(b)に示されるように、ケーシング50は、両ロータ51、52を両側から挟むように配置される第1のサイドプレート部71および第2のサイドプレート部72と、これら第1、第2のサイドプレート部71、72間に配設され、アウターロータ51およびインナーロータ52を収容する孔が設けられた中央プレート部73とから構成されており、これらによってロータ室50aが形成される。
【0040】
また、第1、第2のサイドプレート部71、72の中心部には、ロータ室50a内と連通する中心孔71a、72aが形成されており、これら中心孔71a、72aにはインナーロータ52に配設された駆動軸54が嵌入されている。そして、アウターロータ51およびインナーロータ52は、中央プレート部73の孔内において回転自在に配設される。つまり、アウターロータ51およびインナーロータ52で構成される回転部は、ケーシング50のロータ室50a内を回転自在に組み込まれ、図2(a)に示すようにアウターロータ51は点Xを軸として回転し、インナーロータ52は点Yを軸として回転することになる。
【0041】
さらに、アウターロータ51およびインナーロータ52のそれぞれの回転軸となる点Xと点Yを通る線を回転式ポンプ10の中心線Zとすると、第1のサイドプレート部71のうち中心線Zを挟んだ左右には、ロータ室50aへ連通する吸入口60と吐出口61が形成されている。これら吸入口60および吐出口61は、複数の空隙部53に連通する位置に配設されている。そして、吸入口60を介して外部からのブレーキ液を空隙部53内に吸入して、吐出口61を介して空隙部53内のブレーキ液を外部へ吐出することができるようになっている。
【0042】
複数の空隙部53のうち、体積が最大となる側の閉じ込み部53a、および体積が最小となる側の閉じ込み部53bは、吸入口60および吐出口61のいずれにも連通しないようになっており、これら閉じ込み部53a、53bによって吸入口60における吸入圧と吐出口61における吐出圧との差圧を保持している。
【0043】
中央プレート部73の内壁面であって、アウターロータ51の回転軸となる点Xを中心として中心線Zから吸入口60方向へ約45度の位置には、それぞれ凹部73aと凹部73bが形成されており、これら凹部73a、73b内にアウターロータ51の外周におけるブレーキ液の流動を抑制するためのシール部材80、81が備えられている。これらシール部材80、81により、アウターロータ51の外周においてブレーキ液圧が低圧になる部分と高圧になる部分をシールしている。
【0044】
シール部材80は、球状若しくは略円筒状をしたゴム部材80aと、直方体形状をした樹脂部材80bとから構成されている。樹脂部材80bとしては、PTFE、カーボン繊維入りのPTFE、若しくはグラファイト入りのPTFEを用いている。そして、樹脂部材80bはゴム部材80aによって押されて、アウターロータ51に接するようになっている。すなわち、製造誤差等によってアウターロータ51の大きさに若干の誤差分が生じるため、この誤差分を弾性力を有するゴム部材80aによって吸収できるようにしている。
【0045】
樹脂部材80bの幅(アウターロータ51の回転方向の幅)は、凹部73a内に樹脂部材80bを配置したときに、ある程度隙間が空く程度になっている。つまり、樹脂部材80bの幅を凹部73aの幅と同等に形成すると、ポンプ駆動時におけるブレーキ液圧の流動によって樹脂部材80bが凹部73a内に入り込んだときに出てきにくくなるため、多少隙間が空く程度の大きさで樹脂部材80bを形成することで樹脂部材80bのゴム部材80a側にブレーキ液が入り込むようにして、このブレーキ液の圧力によって樹脂部材80bが凹部73a内から出てき易いようにしている。なお、シール部材81も、ゴム部材81aおよび樹脂部材80bを備えた構成とされるが、シール部材80と同様の構造であるため説明は省略する。
【0046】
さらに、図2(b)に示されるように、第1、第2のサイドプレート部71、72にはシール溝部71b、72bが形成されている。このシール溝部71b、72bは、図2(a)の一点鎖線で示されるように、駆動軸54を囲む円環状(枠体形状)で構成されていると共に、所定領域において溝幅が広げられた構成となっている。また、シール溝部71b、72bの中心は、駆動軸54の軸中心に対して吸入口60側(紙面左側)に偏心した状態となっている。
【0047】
これにより、シール溝部71b、72bは、吐出口61と駆動軸54の間を通って、閉じ込み部53a、53b、シール部材80、81がアウターロータ51をシールしている部分を通過するような配置となる。
【0048】
このような構成のシール溝部71b、72bの中には、シール部材100、101が配置されている。シール部材100、101は、ゴム等の弾性体からなる弾性部材100a、101aと、樹脂からなる樹脂部材100b、101bとによって構成されており、弾性部材100a、101aによって樹脂部材100b、101bがアウターロータ51およびインナーロータ52側に押し付けられるようになっている。
【0049】
図3は、シール部材100における樹脂部材100bを拡大したものであり、図3(a)は正面図、図3(b)は斜視図である。以下、図3を用いて樹脂部材100b、101bの詳細構造について説明するが、樹脂部材100bと樹脂部材101bはアウターロータ51およびインナーロータ52を挟んだ対称形状とされ、基本的に同一の構造であるため、樹脂部材100bを例に挙げて説明する。
【0050】
図3に示されるように、樹脂部材100bは、シール溝部71bの形状と同様の形状を成しており、円環状になっている。また、樹脂部材100bは、一端面側に凹部100cと凸部100dが形成された段付きプレートとされている。
【0051】
また、樹脂部材100bは、凸部100dが形成された面側がシール溝部71bの開孔側に配置されることにより、凸部100dが両ロータ51、52および中央プレート部73の一端面に接するようになっている。そして、樹脂部材100bよりもシール溝部71bの底側に弾性部材100aが配置されることで、弾性部材100aの弾性力とシール溝部71bに導入されたブレーキ液の吐出圧により樹脂部材100bが押圧されてシール機能を果たす。
【0052】
凸部100dは、密閉部100eと密閉部100fを有している。密閉部100eと密閉部100fは、空隙部53が吸入口60と連通した状態から吐出口61に連通した状態に移行するまでの間と、空隙部53が吐出口61と連通した状態から吸入口60に連通した状態に移行するまでの間にそれぞれ備えられている。これら密閉部100e、100fは、少なくとも閉じ込み部53a、53bを全面的に覆えるような幅で構成されており、閉じ込み部53a、53bを密閉している。
【0053】
さらに、複数の空隙部53のうち体積が最小となる側の閉じ込み部53b(図2(a)の下側の閉じ込み部)を覆う密閉部100fの内部には、部分的に凸部100dを凹ませたボリューム部100gが形成されている。このボリューム部100gの開口は、密閉部100f内において終端するように、つまりアウターロータ51およびインナーロータ52の軸方向端面と摺接する摺接面の内部にのみ設けられている。このボリューム部100gには、樹脂部材100bとアウターロータ51およびインナーロータ52との間の隙間などを通じてブレーキ液が入り込むことで、ブレーキ液が収容されている。そして、アウターロータ51およびインナーロータ52の回転に伴って閉じ込み部53bとなった空隙部53が回転方向に移動させられると、このボリューム部100gに連通させられる構造とされている。
【0054】
なお、シール部材101における樹脂部材101bに関しても、アウターロータ51およびインナーロータ52を挟んで樹脂部材100bと対称形状となる。図3は、樹脂部材100bを示したものであるため、実際には樹脂部材101bはこの図とは対称形状となるが、本図中に示したように、樹脂部材100bに備えられる各部100c〜100gと同様の各部101c〜101gを備えた構造とされる。
【0055】
このように配置されたシール部材100、101によって、インナーロータ52およびアウターロータ51の軸方向端面と第1、第2のサイドプレート部71、72の間における隙間において、高圧な吐出口61と、低圧な駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙部および吸入口60とをシールする。
【0056】
インナーロータ52およびアウターロータ51の軸方向端面と第1、第2のサイドプレート部71、72の間における隙間において、高圧な部分と低圧な部分とをシールするためには、シール部材100、101が、吐出口61と駆動軸54との間および吐出口61と吸入口60との間を通過し、アウターロータ51の外周まで達していることが必要とされる。
【0057】
本実施形態においては、シール部材100、101のうち、シール部材80から駆動軸54と吐出口61との間を通過してシール部材81に至るまでの領域が、高圧な部分と低圧な部分とをシールするために必要とされる領域になり、シールが必要とされないその他の領域でインナーロータ52およびアウターロータ51に接している部分は無視できる程度に少ない。このため、シール部材100、101による接触抵抗を少なくすることができ、機械損失を低減することができる。
【0058】
次に、このように構成されたブレーキ装置および回転式ポンプ10の作動について説明する。
【0059】
ドライバによるブレーキペダル1の操作により発生させられるマスタシリンダ圧よりも大きなホイールシリンダ圧を発生させて大きな制動力を発生させたい場合、例えばブレーキ踏力に対応した制動力が得られない場合やブレーキペダル1の操作量が大きい場合に、ブレーキ装置に備えられた二位置弁23が適宜連通状態にされると共に、リニア差圧制御弁22が差圧状態とされる。
【0060】
一方、回転式ポンプ10は、モータ11の駆動により駆動軸54の回転に応じてインナーロータ52が回転運動し、それに伴って内歯部51aと外歯部52aの噛合によりアウターロータ51も同方向へ回転する。このとき、それぞれの空隙部53の体積がアウターロータ51およびインナーロータ52が1回転する間に大小に変化するため、吸入口60からブレーキ液を吸入し、吐出口61から管路A2に向けてブレーキ液を吐き出す。この吐出されたブレーキ液によってホイールシリンダ圧を増圧する。つまり、回転式ポンプ10は、ロータ51、52が回転することによって吸入口60からブレーキ液を吸入し、吐出口61からブレーキ液を吐出するという基本的なポンプ動作を行う。
【0061】
そして、リニア差圧制御弁22によって差圧が発生させられる状態になっているため、回転式ポンプ10の吐出圧がリニア差圧制御弁22の下流側、つまり各ホイールシリンダ4、5に対して作用し、マスタシリンダ圧よりも大きなホイールシリンダ圧が発生させられる。このため、ブレーキ装置により、ドライバによるブレーキペダル1の操作によって発生させられるマスタシリンダ圧よりも大きなホイールシリンダ圧を発生させることができる。
【0062】
このときのポンプ動作において、アウターロータ51の外周のうち吸入口60側は調圧リザーバ40を介して吸入されるブレーキ液によって吸入圧(大気圧)とされ、アウターロータ51の外周のうち吐出口61側は高圧に吐出されるブレーキ液によって吐出圧とされる。
【0063】
このため、アウターロータ51の外周において低圧な部分と高圧な部分が生じる。しかしながら、上述したように、シール部材80、81によって、アウターロータ51の外周の低圧な部分と高圧な部分をシールして分離しているため、アウターロータ51の外周を通じて吐出口61側の高圧部分から吸入口60側の低圧部分に向けてブレーキ液洩れが発生しない。また、シール部材80、81により、アウターロータ51の外周のうちの吸入口60側は低圧となって、吸入口60と連通する空隙部53と同様の圧力となり、アウターロータ51の外周のうちの吐出口61側は高圧となって、吐出口61と連通する空隙部53と同様の圧力となる。このため、アウターロータ51の内外における圧力バランスが保持され、ポンプ駆動を安定して行うようにすることができる。
【0064】
また、本実施形態に示す回転式ポンプ10では、シール部材80、81が吸入口60側に位置しているため、アウターロータ51の外周のうち閉じ込み部53a、53bを囲む位置まで高圧な吐出圧とされる。このため、アウターロータ51が紙面上下方向に押圧され、閉じ込み部53aにおいてアウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとの歯先隙間が縮まる方向に荷重がかけられ、内歯部51aと外歯部52aとの歯先隙間が縮むように作用する。これにより、アウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとの歯先隙間を通じて発生するブレーキ液洩れを抑制できる。
【0065】
一方、インナーロータ52およびアウターロータ51の軸方向端面と第1、第2のサイドプレート部71、72との間の隙間に関しても、低圧な吸入口60および駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙と、高圧な吐出口61とによって、低圧な部分と高圧な部分が生じる。しかしながら、シール部材100、101によって、インナーロータ52およびアウターロータ51の軸方向端面と第1、第2のサイドプレート部71、72との間の隙間の低圧な部分と高圧な部分とをシールしているため、高圧な部分から低圧な部分に向けてブレーキ液洩れが発生しない。そして、シール部材100、101がシール部材80、81を通過するように形成されているため、シール部材100、101とシール部材80、81との間において隙間が生じないため、この間からもブレーキ液洩れが発生することはない。
【0066】
さらに、本実施形態のブレーキ装置では、回転式ポンプ10の樹脂部100b、101bにおける閉じ込み部53bを密閉するための密閉部100f、101fに対してボリューム部100g、101gを形成している。ボリューム部100g、101gは、正面から見た形状が例えば三角形状とされ、所定深さとされている。また、ボリューム部100g、101gから吐出口61までの距離は、閉じ込み部53bとされた空隙部53を介してボリューム部100g、101gが吐出口61と連通しない長さとすることで、ボリューム部100g、101gに吐出圧が印加されないようにされている。
【0067】
このようなボリューム部100g、101gを備えた構造としているため、回転式ポンプ10の回転(アウターロータ51およびインナーロータ52の回転)に伴って閉じ込み部53b内のブレーキ液圧が、大気圧となる吸入圧よりも低下すること、すなわち負圧となることを抑制できる。このメカニズムの詳細については定かではないが、以下のように想定される。これについて、図4〜図6を参照して説明する。
【0068】
図4は、閉じ込み部53bおよびボリューム部100g、101gの近傍における回転式ポンプ10の拡大図である。図5は、回転式ポンプ10の回転に伴う空隙部53の体積変化を示したものであり、空隙部53の容量が最も小さくなる場所を回転角θ=0°として表してある。図6は、回転式ポンプ10の回転に伴う閉じ込み部53bのブレーキ液圧(絶対圧)の変化を示したグラフである。
【0069】
図4に示すように、吐出口61と連通していた空隙部53が回転に伴って移動して密閉部100f、101fに挟み込まれ密閉されることで閉じ込み部53bが構成される。空隙部53の体積は回転に伴って大小変化する。このとき、図5に示したように閉じ込み部53bとなる範囲から吸入口60内に至るまでに空隙部53の体積が徐々に大きくなる過程がある。このため、閉じ込み部53bとなった空隙部53内の体積の膨張によってブレーキ液圧が低下し、負圧が発生することになる。
【0070】
しかしながら、本実施形態では密閉部100f、101fにボリューム部100g、101gを備えているため、回転が更に進むと、閉じ込み部53bとなった空隙部53がボリューム部100g、101gに連通させられる。このため、閉じ込み部53bとなった空隙部53内のブレーキ液圧は、空隙部53の体積とボリューム部100g、101gの体積およびこれらの間に存在するブレーキ液量によって決まることになる。したがって、図6に示すように、空隙部53内のブレーキ液圧をほぼボリューム部100g、101g内のブレーキ液圧まで上昇させられ、ほとんど負圧が発生しないようにすることが可能となる。
【0071】
この後、空隙部53が閉じ込み部53bとなる範囲から吸入口60に連通される場所に移動するまでに空隙部53の体積変化に伴って若干ブレーキ液圧の低下が生じる。しかし、この変化も空隙部53b内の体積だけでなくボリューム部100g、101gの容量も含めて決まるようにできるため、閉じ込み部53b内のブレーキ液圧をほぼ大気圧に近づけることができる。
【0072】
したがって、回転式ポンプ10の回転に伴って閉じ込み部53bとなった空隙部53内のブレーキ液圧が、大気圧となる吸入圧よりも低下することを抑制できる。そして、吸入口60の直前で閉じ込み部53bとなった空隙部53内のブレーキ液圧を吸入圧に近づけることができるため、空隙部53が閉じ込み部53bとなる範囲を通過して吸入口60に連通させられたときに、液圧差に起因した脈動が発生することを抑制することを可能となる。
【0073】
ここで、回転式ポンプ10の回転中心を中心とした周方向における密閉部100f、101fの長さが厳密に1歯分の空隙部53を閉じ込み部53bにする長さに設定できれば、空隙部53の体積が膨張する範囲がなくなる。このため、吸入圧と空隙部53内の負圧に起因する脈動が発生しないようにできると考えられる。しかしながら、現実には製造誤差や組みつけのバラツキなどを考慮して密閉部100f、101fの長さを設定しなければならない。したがって、必ず負圧は発生してしまうため、本実施形態のように、ボリューム部100g、101gを備えることにより、負圧が発生しても、吸入口60の直前で閉じ込み部53bのブレーキ液圧を吸入圧に近づけ、脈動を抑制することが有効である。
【0074】
なお、密閉部100f、101f内におけるボリューム部100g、101gの位置については任意であるが、少なくとも回転式ポンプ10の回転に伴って空隙部53の体積が増加する領域にボリューム部100g、101gが配置されていれば良い。
【0075】
また、ボリューム部100g、101g内のブレーキ液圧も、閉じ込み部53bと連通することで若干低下させられるが、アウターロータ51およびインナーロータ52の端面と密閉部100f、101fとの間の隙間を通じて、もしくは、空隙部53がボリューム部100g、101gを経て閉じ込み部53bとなる範囲から吸入口60に連通される場所に移動したときに、吸入口60に連通した空隙部53を通じてブレーキ液が充填される。このため、次の閉じ込み部53bとなった空隙部53と連通する前に、ボリューム部100g、101gのブレーキ液圧を吸入圧(大気圧)相当に戻しておくことができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態では、空隙部53が閉じ込み部53bとなる範囲から吸入口60に連通される場所に移動するまでに、空隙部53をボリューム部100g、101gに連通させるようにしている。これにより、閉じ込み部53bとなった空隙部53内のブレーキ液圧をほぼボリューム部100g、101g内のブレーキ液圧まで上昇させられ、ほとんど負圧が発生しないようにすることが可能となる。したがって、吸入口60の直前で閉じ込み部53bとなった空隙部53のブレーキ液圧を吸入圧に近づけることができるため、空隙部53が閉じ込み部53bとなる範囲を通過して吸入口60に連通させられたときに液圧差に起因した脈動が発生することを抑制することを可能にできる。
【0077】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して回転式ポンプ10に備えたボリューム部100g、101gの場所を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0078】
図7(a)は、本実施形態のブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ10の模式図、図7(b)は、図7(a)のB−O−B断面図である。また、図8は、回転式ポンプ10の回転に伴う閉じ込み部53bのブレーキ液圧(絶対圧)の変化を示したグラフである。これら図7、図8と第1実施形態で示した図5を参照して、本実施形態の回転式ポンプ10の構造および作動について説明する。
【0079】
上記第1実施形態では、空隙部53が吸入口60と連通した状態から吐出口61に連通した状態に移行するまでの間に位置する密閉部100f、101fに対してボリューム部100g、101gを備えた構造としている。これにより、閉じ込み部53bと吸入口60との液圧差に起因した脈動の発生を抑制している。これに対し、本実施形態では、図7(a)、(b)に示すように、空隙部53が吸入口60と連通した状態から吐出口61に連通した状態に移行するまでの間に位置する密閉部100e、101eに対してボリューム部100g、101gを備えた構造としている。
【0080】
このような構成の回転式ポンプ10とした場合、吸入口60と連通していた空隙部53が回転に伴って移動して密閉部100e、101eに挟み込まれ密閉されることにより、閉じ込み部53aが構成される。空隙部53の体積は回転に伴って大小変化する。このとき、図5に示したように閉じ込み部53aとなる範囲から吐出口61内に至るまでに空隙部53の体積が徐々に小さくなる過程がある。このため、閉じ込み部53bとなった空隙部53の体積の縮小によってブレーキ液圧が上昇し、過大圧が発生することになる。
【0081】
しかしながら、本実施形態では密閉部100e、101eにボリューム部100g、101gを備えているため、回転が更に進むと閉じ込み部53aとなった空隙部53がボリューム部100g、101gに連通させられる。このため、閉じ込み部53aとなった空隙部53内のブレーキ液圧は、空隙部53の体積とボリューム部100g、101gの体積およびこれらの間に存在するブレーキ液量によって決まることになる。したがって、図8に示すように、閉じ込み部53aとなった空隙部53内のブレーキ液圧をほぼボリューム部100g、101g内のブレーキ液圧まで低下させられ、ほとんど過大圧が発生しないようにすることが可能となる。
【0082】
この後、空隙部53が閉じ込み部53aとなる範囲から吐出口61に連通される場所に移動するまでに空隙部53の体積変化に伴って若干ブレーキ液圧が上昇するが、この変化も空隙部53b内の体積だけでなくボリューム部100g、101gの容量も含めて決まるようにできるため、閉じ込み部53b内のブレーキ液圧をほぼ吐出圧に近づけられる。
【0083】
したがって、回転式ポンプ10の回転に伴って閉じ込み部53b内のブレーキ液圧が吐出圧よりも過大に上昇することを抑制できる。そして、吐出口61の直前で閉じ込み部53aとなった空隙部53のブレーキ液圧を吐出圧に近づけることができるため、空隙部53が閉じ込み部53aとなる範囲を通過して吐出口61に連通させられたときに、液圧差に起因した脈動が発生することを抑制することを可能にできる。
【0084】
なお、本実施形態でも、密閉部100e、101e内におけるボリューム部100g、101gの位置については任意であるが、少なくとも回転式ポンプ10の回転に伴って空隙部53の体積が減少する領域にボリューム部100g、101gが配置されていれば良い。
【0085】
また、ボリューム部100g、101g内のブレーキ液圧も、閉じ込み部53aとなった空隙部53と連通することで若干上昇させられるが、アウターロータ51およびインナーロータ52の端面と密閉部100e、101eとの間の隙間を通じて、もしくは、空隙部53がボリューム部100g、101gを経て閉じ込み部53aとなる範囲から吐出口61に連通される場所に移動したときに、吐出口61に連通した空隙部53を通じてブレーキ液が充填される。このため、次の閉じ込み部53aとなった空隙部53と連通する前に、ボリューム部100g、101gのブレーキ液圧を吐出圧相当に戻しておくことができる。
【0086】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して回転式ポンプ10のシール構造およびボリューム部の場所を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0087】
図9は、本実施形態のブレーキ装置に備えられる回転式ポンプ10の断面図であり、図2(a)のA−O−A断面に相当する図である。
【0088】
この図に示されるように、本実施形態では、第2のサイドプレート部72に対してシール部材101を備えておらず、アウターロータ51およびインナーロータ52が第2のサイドプレート部72に直接接触することでメカニカルシールが行われるようにしている。そして、第1サイドプレート部71に備えられたシール部材100の樹脂部材100bの密閉部100fにボリューム部100gを備えると共に、第2のサイドプレート部72のうち閉じ込み部53bと対応する場所(摺接面72d)を凹ませることでボリューム部72cを備えた構造としている。
【0089】
このように、メカニカルシールを採用した構造とする場合にも、第2のサイドプレート部72に直接ボリューム部72cを備える構造とすることができる。このような構造としても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、ボリューム部100g、101gの構造の一例を示したが、形状や深さ等に関しては適宜変更できる。
【0091】
また、第1実施形態ではボリューム部100g、101gを密閉部100f、101fに備え、第2実施形態ではボリューム部100g、101gを密閉部100e、101eに備えた構造としている。これら第1、第2実施形態の構造を組み合わせ、ボリューム部100g、101gを密閉部100e、100f、101e、101fそれぞれに形成しても良い。さらに、第1のサイドプレート71側のシール部材100の樹脂部100bや第2のサイドプレート72側のシール部材101の樹脂部100bのいずれか一方のボリューム部100g、101gのみを備える構造としても良い。また、第3実施形態に示したメカニカルシールを採用する場合には、第1のサイドプレート71側のシール部材100の樹脂部100bと第2のサイドプレート72のいずれか一方のボリューム部100g、72cのみを備える構造としても良い。
【0092】
また、シール部材100、101をいずれも設けることなく、両サイドプレート71、72において上記同様のメカニカルシール構造とし、両サイドプレート71、72の摺接面の少なくとも一方にボリューム部を設けるようにしても良い。
【0093】
上記実施形態では、シール部材100、101を円環状に構成しているが、このような形状以外でもよい。すなわち、シール部材100、101が、吐出口61と駆動軸54との間および閉じ込み部53a、53bを通過し、アウターロータ51の外周まで達していればどの様な形状であってもよい。ただし、シールする必要がない部分、例えば、吐出口61、吸入口60、これら吐出口61や吸入口60と同等の圧力にしたいアウターロータ51の外周等をシール部材で覆う量を少なくすることによって接触抵抗を低減することが可能である。また、シール部材100、101を円環状にすることで、アウターロータ51およびインナーロータ52の回転中心軸の周囲を全周にわたってシールできる。このため、シール部材100、101の径方向の一方側に薄肉部を設けられ、変位可能な薄肉部を容易に形成することが可能となる。
【0094】
さらに、上記各実施形態では、内接歯車ポンプとしてトロコイドポンプを例に挙げて説明したが、これに限らず、他の構造の内接歯車ポンプに対して本発明を適用しても良い。また、上記各実施形態では、吸入口60がシール部100、101の内周側に配置され、吐出口61がシール部100、101の外周側に配置された構造の回転式ポンプ10を例に挙げて説明したが、吸入口60がシール部100、101の外周側に配置され、吐出口61がシール部100、101の内周側に配置された構造であっても良い。
【符号の説明】
【0095】
1…ブレーキペダル、2…倍力装置、3…マスタシリンダ、4、5…ホイールシリンダ、10…回転式ポンプ、50…ケーシング、50a…ロータ室、51…アウターロータ、51a…内歯部、52…インナーロータ、52a…外歯部、53…空隙部、53a、53b…閉じ込み部、54…駆動軸、60…吸入口、61…吐出口、71…第1のサイドプレート部、72…第2のサイドプレート部、72c…ボリューム部、73…中央プレート、80、81…シール部材、100、101…シール部材、100a、101a…弾性部材、100b、101b…樹脂部材、100c、101c…凹部、100d、101d…凸部、100e、100f、101e、101f…密閉部、72c、100g、101g…ボリューム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に内歯部(51a)を有するアウターロータ(51)と、外歯部(52a)を有すると共に駆動軸(54)を軸として回転運動するインナーロータ(52)とを備え、前記内歯部と前記外歯部とを噛み合わせることによって複数の空隙部(53)を形成するように組み付けて構成した回転部と、
前記駆動軸を嵌入する開口部(71a、72a)を有すると共に、前記回転部に流体を吸入する吸入口(60)および前記回転部から前記流体を吐出する吐出口(61)とを有し、前記回転部を覆うケーシング(50)とを備え、
前記複数の空隙部のうち、体積が最小となる側の閉じ込み部(53b)と体積が最大となる側の閉じ込み部(53a)にて前記吸入口と前記吐出口との圧力差を保持しつつ、前記回転部の回転運動によって前記吸入口から前記流体を吸入し、前記吐出口を通じて前記流体を吐出するように構成された回転式ポンプであって、
前記ケーシングにおける前記アウターロータおよび前記インナーロータの軸方向端面と対応する面に形成されたシール溝(71b、72b)内に配置され、前記インナーロータおよび前記アウターロータの軸方向端面と前記ケーシングとの間の間隙部において、前記軸方向に見たとき前記吐出口と前記駆動軸との間を通ると共に前記閉じ込み部を通って前記アウターロータの外周まで至り、前記閉じ込み部(53a、53b)を覆うことでこれを密閉すると共に前記アウターロータおよび前記インナーロータの軸方向端面と摺接する摺接面を有する密閉部(100e、100f、101e、101f)を有するシール手段(100、101)が備えられ、
前記シール手段の前記密閉部には、前記摺接面に開口する凹みによって構成され、前記回転運動に伴って、密閉状態にある前記閉じ込み部とされた前記空隙部と連通させられるボリューム部(100g、101g)が備えられていることを特徴とする回転式ポンプ。
【請求項2】
前記ボリューム部は、前記空隙部が前記吐出口と連通した状態から前記吸入口と連通した状態へ移行する間の部位に設けられた前記体積が最小となる側の閉じ込み部を密閉する密閉部(100f、101f)に備えられていることを特徴とする請求項1に記載の回転式ポンプ。
【請求項3】
前記ボリューム部は、前記体積が最小となる側の閉じ込み部となる前記空隙部の体積が増加する領域に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の回転式ポンプ。
【請求項4】
前記ボリューム部は、前記閉じ込み部となった前記空隙部が前記回転運動に伴って前記ボリューム部を経てから前記吸入口もしくは前記吐出口に連通させられたときに、該空隙部を通じて前記吸入口もしくは前記吐出口と連通することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の回転式ポンプ。
【請求項5】
前記ボリューム部の開口は、前記摺接面にのみ設けられ、前記密閉部内部で終端していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の記載の回転式ポンプ。
【請求項6】
前記シール手段は、前記ケーシングにおける前記アウターロータおよび前記インナーロータの軸方向の一方の端面にのみ備えられており、前記ケーシングにおける他方の端面は該端面が直接前記アウターロータおよび前記インナーロータと接触してシールするメカニカルシールとされており、該メカニカルシールとされる端面のうち前記閉じ込み部(53a、53b)を覆うことでこれを密閉すると共に前記アウターロータおよび前記インナーロータの軸方向端面と摺接する摺接面に、開口する凹みによって構成され、前記回転運動に伴って、密閉状態にある前記閉じ込み部の前記空隙部と連通させられるボリューム部(72c)が備えられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の回転式ポンプ。
【請求項7】
内周に内歯部(51a)を有するアウターロータ(51)と、外歯部(52a)を有すると共に駆動軸(54)を軸として回転運動するインナーロータ(52)とを備え、前記内歯部と前記外歯部とを噛み合わせることによって複数の空隙部(53)を形成するように組み付けて構成した回転部と、
前記駆動軸を嵌入する開口部(71a、72a)を有すると共に、前記回転部に流体を吸入する吸入口(60)および前記回転部から前記流体を吐出する吐出口(61)とを有し、前記回転部を覆うケーシング(50)とを備え、
前記複数の空隙部のうち、体積が最小となる側の閉じ込み部(53b)と体積が最大となる側の閉じ込み部(53a)にて前記吸入口と前記吐出口との圧力差を保持しつつ、前記回転部の回転運動によって前記吸入口から前記流体を吸入し、前記吐出口を通じて前記流体を吐出するように構成された回転式ポンプであって、
前記ケーシングにおける前記アウターロータおよび前記インナーロータの軸方向端面と対応する端面は、該端面が直接前記アウターロータおよび前記インナーロータと接触してシールするメカニカルシールとされており、該メカニカルシールとされる端面のうち前記閉じ込み部(53a、53b)を覆うことでこれを密閉すると共に前記アウターロータおよび前記インナーロータの軸方向端面と摺接する摺接面に、開口する凹みによって構成され、前記回転運動に伴って、密閉状態にある前記閉じ込み部の前記空隙部と連通させられるボリューム部(72c)が備えられていることを特徴とする回転式ポンプ。
【請求項8】
前記ボリューム部は、前記空隙部が前記吐出口と連通した状態から前記吸入口と連通した状態へ移行する間に備えられた前記体積が最小となる側の閉じ込み部を密閉する密閉部(100f、101f)に備えられていることを特徴とする請求項7に記載の回転式ポンプ。
【請求項9】
前記ボリューム部は、前記体積が最小となる側の閉じ込み部となる前記空隙部の体積が増加する領域に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の回転式ポンプ。
【請求項10】
前記ボリューム部は、前記閉じ込み部となった前記空隙部が前記回転運動に伴って前記ボリューム部を経てから前記吸入口もしくは前記吐出口に連通させられたときに、該空隙部を通じて前記吸入口もしくは前記吐出口と連通することを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1つに記載の回転式ポンプ。
【請求項11】
踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段(1〜3)と、
前記ブレーキ液圧に基づいて車輪に制動力を発生させる制動力発生手段(4、5)と、
前記ブレーキ液圧発生手段に接続され、前記制動力発生手段に前記ブレーキ液圧を伝達する主管路(A)と、
前記ブレーキ液圧発生手段に接続され、前記制動力発生手段が発生させる制動力を高めるために、前記主管路側にブレーキ液を供給する補助管路(C、D)と、を有し、
前記回転式ポンプが、前記吸入口が前記補助管路を通じて前記ブレーキ液圧発生手段側のブレーキ液を吸入でき、前記吐出口が前記主管路を通じて前記制動力発生手段に向けてブレーキ液を吐出できるように配置されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の回転式ポンプを備えたブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21526(P2011−21526A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166617(P2009−166617)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】