説明

回転電機制御装置

【課題】回転電機制御装置において、コスト上昇を抑制しつつ、回転電機のロック相当状態での電流制限される機会を少なくして、回転電機の出力を有効に活用できるようにすることである。
【解決手段】回転電機制御装置10は、インバータ14を制御する制御部16を備える。制御部16は、回転電機12がロック相当状態である場合に、各相電流の電気角を取得する状態取得手段34と、各相電流の電気角から複数のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうちで最も温度的に厳しくなる最高温度予測素子を特定する素子特定手段36と、最高温度予測素子への通電電流に応じた継続通電許容時間である最短出力許容時間を推定する最短許容時間推定手段38と、最短出力許容時間経過後に回転電機12の電流制限を実行する電流制限実行手段40とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれスイッチング素子を有する複数相のアームを含み、複数相の回転電機を駆動する回転電機駆動部と、回転電機駆動部を制御する制御部と、を備える回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転電機である走行用のモータを搭載した電気自動車またはハイブリッド車等の電動車両では、回転電機駆動制御装置が設けられている。回転電機制御装置では、モータと電源装置との間に回転電機駆動部であるインバータが設けられ、制御部によりインバータを制御して、インバータによりモータにモータ電流を送り、モータを駆動する。インバータは、電源装置からの直流電力をトルク指令値に応じて決定された交流電力に変換し、モータにモータ電流を送る。
【0003】
このような回転電機駆動制御装置では、インバータは、IGBT、トランジスタ等の複数のスイッチング素子を有する。一方、モータは、負荷とトルクとが釣り合うと回転が停止するロック状態となる場合があり、その場合、特定のスイッチング素子に直流電流が継続して流れ続けるので、局所的に温度上昇が大きくなる可能性がある。このため、従来から、このような場合にモータの電流指令値を制限する等により、スイッチング素子の保護を行うことが考えられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、複数のトランジスタを選択的にスイッチングして相電流を発生させ、モータに供給するモータ制御装置において、モータのロック状態が検出されたときに、ケースに形成されたフィンの温度と、相電流から得られるトランジスタのジャンクション損失とから、時間に応じたトランジスタのジャンクション温度を推定し、その温度が上限温度に達する時間の経過後に、モータの電流指令値を制限することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、インバータによりモータを駆動するモータ制御装置において、モータのロック状態が検出されたときに、インバータの初期温度を取得し、トルク指令値に応じてインバータのスイッチング素子の発熱量を演算し、その発熱量に対応する温度を初期温度に加算してスイッチング素子の温度推定値を算出し、その温度推定値が閾値を超えるとトルク指令値を制限することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、インバータによりアシストモータを駆動するステアリング装置において、アシストモータのロック状態が所定時間継続したときに、アシストモータのロータの回転位置を変更して、ステータコイルの電流を変化させることが記載されている。
【0007】
特許文献4には、インバータによりモータを駆動するモータ制御装置において、モータのロック状態と判定されたときに、連続通電初期時に特定のスイッチング素子に流れる電流を、瞬時許容電流閾値を上回らない一定電流値に制限し、ある時間以降でその制限を解除して、電流値の増減を繰り返させ電流上側ピーク値が瞬時許容電流値以下で連続許容電流閾値以上となるように制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−56182号公報
【特許文献2】特開2005−80485号公報
【特許文献3】特開2005−247078号公報
【特許文献4】特開2010−11647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1,2に記載された制御装置の場合、回転電機のロック時の電流制限やトルク制限の際に、温度センサの検出値を使用しているが、インバータを構成する複数のスイッチング素子のすべての近傍に温度センサを設けていない。このため、インバータにおいて出力可能な余力がある場合でも電流制限やトルク制限をされる可能性がある。例えば、回転電機制御装置を搭載した電動車両で坂道を登坂したり、段差を乗り越えようとする場合に、ロック状態で停止する場合があり、この場合に過度にトルク制限が行われると、車両の過度のずり下がりが生じたり、迅速に登坂できない等、登坂性能の低下が生じたり、段差の十分な乗り越え性能を得られない可能性がある。このため、回転電機の出力を有効に活用する面から改良の余地がある。
【0010】
これに対して、インバータのすべてのスイッチング素子の近傍に温度センサを設けて、各素子がどこまで発熱したかを検出することも考えられるが、その場合には過度のコスト上昇につながる可能性があり、コスト抑制の面から好ましくない。
【0011】
また、上記の特許文献3に記載された制御装置の場合、回転電機のロック時の電流制限やトルク制限の際に温度センサの検出値を使用する構成を備えていない。ただし、この構成の場合には、回転電機が出力可能な余力がある場合でも電流制限される可能性がある。また、特許文献4に記載された制御装置の場合、インバータのスイッチング素子が取り付けられたパッケージ構成の温度を検出する温度検出器が設けられ、連続許容電流閾値の設定を検出温度に応じて可変としているが、やはり回転電機が出力可能な余力がある場合でも電流制限される可能性がある。
【0012】
また、温度センサを使用せず、回転電機のロック時に、予め設定した一定の通電継続時間の経過時にトルク制限を行う回転電機制御装置も考えられる。ただし、この場合も、インバータに余力がある場合でも、回転電機の出力を低下しなければならない可能性があり、回転電機の出力を有効に活用する面から改良の余地がある。
【0013】
本発明の目的は、回転電機制御装置において、コスト上昇を抑制しつつ、回転電機のロック相当状態での電流制限される機会を少なくして、回転電機の出力を有効に活用できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る回転電機制御装置は、それぞれスイッチング素子を有する複数相のアームを含み、複数相の回転電機を駆動する回転電機駆動部と、回転電機駆動部を制御する制御部と、を備え、制御部は、回転電機がロック状態を含むロック相当状態である場合に、回転電機に関係する状態取得値を取得する状態取得手段と、ロック相当状態である場合に、状態取得値から複数のスイッチング素子のうちで最も温度的に厳しくなるスイッチング素子である最高温度予測素子を特定する素子特定手段と、素子特定手段により特定された最高温度予測素子への通電電流に応じた継続通電許容時間である最短出力許容時間を推定する最短許容時間推定手段と、継続通電開始からの最短出力許容時間経過後に回転電機の電流制限を実行する電流制限実行手段とを有することを特徴とする回転電機制御装置である。
【0015】
本発明に係る回転電機制御装置によれば、コスト上昇を抑制しつつ、回転電機のロック相当状態で電流制限される機会を少なくして、回転電機の出力を有効に活用できる。すなわち、回転電機のロック相当状態での電流制限やトルク制限の際に、温度センサの検出値を使用する必要がないので、回転電機駆動部に設ける温度センサをなくすか、または少なくすることができる。しかも、各相のスイッチング素子のうちで、最も温度的に厳しくなるスイッチング素子である最高温度予測素子をまず特定し、特定した最高温度予測素子への通電電流に応じた継続通電許容時間である最短出力許容時間を推定し、その最短出力許容時間に応じて電流制限を実行する。このように最高温度となると予測される素子に対応して電流制限を実行するので、回転電機のロック時等、ロック相当状態でも電流制限されずに十分な出力を発揮できる機会を増やすことができ、回転電機制御装置を搭載した電動車両の登坂性能を向上できる等、回転電機の出力を有効に活用できる。しかもロック相当状態での電流制限のために温度センサを使用しないので、コスト上昇を抑制できる。
【0016】
また、本発明に係る回転電機制御装置において、好ましくは、素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、状態取得値である、各相電流の電気角と電流値との取得値から、最高温度予測素子を特定する。
【0017】
また、本発明に係る回転電機制御装置において、好ましくは、素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、各相電流の電気角と電流値との取得値から、各相でスイッチング素子に対する通電電流に応じた継続通電許容時間である出力許容時間をそれぞれ推定し、推定された各相の出力許容時間のうち、最短の出力許容時間に対応するスイッチング素子を、最高温度予測素子として特定する。
【0018】
また、本発明に係る回転電機制御装置において、好ましくは、素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、状態取得値である、各相電流の電流値の取得値から、最高温度予測素子を特定する。
【0019】
また、本発明に係る回転電機制御装置において、好ましくは、素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、各相電流の電流値の取得値から対応する相のスイッチング素子の通電電流に応じた発熱温度上昇時間をそれぞれ推定し、推定された各相の発熱温度上昇時間のうち、最長の温度上昇時間に対応するスイッチング素子を、最高温度予測素子として特定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る回転電機制御装置によれば、コスト上昇を抑制しつつ、回転電機のロック相当状態での電流制限される機会を少なくして、回転電機の出力を有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態の回転電機制御装置を示す構成図である。
【図2】第1の実施の形態において、回転電機がロック相当状態になった場合の電流制限方法を示すフローチャートである。
【図3】回転電機の各相電流を、電気角と電流値との関係で示す図である。
【図4】図1に示した回転電機の各相電流の電気角に対する関係を、インバータのU相アームに最大電流が集中して流れる場合で示す図である。
【図5】図4の状態で、回転電機のロック時に、一部のスイッチング素子の温度が上昇する様子を示す図である。
【図6】図1の回転電機のU相電流またはインバータのU相アームのスイッチング素子の温度と、U相電流の電気角との関係を示す図である。
【図7】第1の実施の形態で使用する電流と出力許容時間との関係を表すマップの図である。
【図8】従来の回転電機制御装置において、ロック時から一定時間経過後に電流指令を制限する場合の回転電機の出力が低下する様子を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態において、回転電機がロック相当状態となった場合の電流制限方法を示すフローチャートである。
【図10】第2の実施の形態の回転電機制御装置で使用する、スイッチング素子の通電電流と発熱温度上昇時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の発明の実施の形態]
以下に図面を用いて本発明に係る第1の実施の形態につき詳細に説明する。なお以下では、回転電機が、電動車両であるハイブリッド車両に搭載されるモータジェネレータである場合を説明する。ただし、電動車両は電気自動車であってもよい。また、回転電機は、単にモータとしての機能を有するものでもよく、あるいは単に発電機としての機能を有するものでもよい。また、車両に搭載される回転電機の数は複数であってもよい。また、回転電機制御装置の構成として、二次電池及び回転電機駆動部であるインバータを有するものを説明するが、これ以外の要素、例えば、二次電池とインバータとの間に設けられるDC/DCコンバータ等を有するものであってもよい。また、以下では、回転電機のトルク制限の手段として、トルク指令値の制限を行う場合を説明するが、回転数制限等によってトルク制限を行うものであってもよい。
【0023】
図1は、回転電機制御装置10の構成を示している。回転電機制御装置10は、回転電機12を駆動する回転電機駆動部であるインバータ14と、インバータ14を制御する制御部16と、電源部であり、蓄電部であるバッテリ18とを備える。回転電機12は、複数相である3相型の同期電動機または誘導電動機であり、ステータ20と、ステータ20に対し回転可能な図示しないロータとを備える。ステータ20は、複数相であるU相、V相、W相の3相のステータコイル22u、22v、22wを含み、各相のステータコイル22u、22v、22wの一端を中性点Zで接続している。このような回転電機12のステータコイル22u、22v、22wに3相の交流電流を流すことにより、ステータ20に回転磁界が発生し、回転磁界の影響を受けてロータが回転する。ロータは、例えばコアに複数の永久磁石を配置した磁石付ロータである。
【0024】
また、回転電機12は、車両に搭載されるモータジェネレータであって、電力が供給されるときはモータとして機能し、車両の制動時には発電機として機能する。図1には、3相のステータコイル22u、22v、22wのU相、V相、W相に対応して、u,v,wの符号を付している。
【0025】
また、インバータ14は、バッテリ18の正極及び負極に互いに並列に接続したU相、V相、W相の3相のアームAu、Av、Awを含む。各相のアームAu、Av、Awは、それぞれ直列に接続された上側、下側の2のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2を有する。各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうち、正極側に接続されたスイッチング素子Su1、Sv1、Sw1を上側スイッチング素子といい、負極側に接続されたスイッチング素子Su2、Sv2、Sw2を下側スイッチング素子という。各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2は、IGBTやトランジスタ等である。
【0026】
また、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2には逆並列に保護用の図示しないダイオードが接続されている。また、各相のアームAu、Av、Awにおいて、2個のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2の中点を回転電機12の3相のステータコイル22u、22v、22wの他端側にそれぞれ接続している。また、バッテリ18とインバータ14との間に、平滑化用のコンデンサ21が接続されている。また、本実施の形態では、インバータ14を冷却するための冷却水温度を検出するための水温センサ24が設けられている。水温センサ24の検出信号は、制御部16に入力される。この水温センサ24の検出値は、後述するロック相当状態ではない通常走行時にインバータ14の温度に応じて変化する。このため、水温センサ24の検出温度が過度に上昇した場合には、制御部16で算出される後述するトルク指令を制限する等により、インバータ14の保護制御が行われる。なお、水温センサ24の代わりに、複数のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうち、いずれか1のスイッチング素子の近傍に、このスイッチング素子の温度を検出する1の温度センサを設けて、この温度センサの検出値を用いて通常走行時のインバータ14の保護制御を行うこともできる。
【0027】
制御部16は、インバータ14を制御する、例えばインバータ14の出力電圧や出力電流を制御することにより、回転電機12の作動を制御する機能を有する。すなわち、制御部16が各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のオンオフのスイッチングを制御することにより、バッテリ18からインバータ14の入力側(図1のP,Q間)に入力される直流電力を、3相の交流電力に変換し、変換した交流電力を各相のステータコイル22u、22v、22に供給する。また、制御部16は、後述するように、回転電機12がロック状態になったときの制御を行う機能も有する。
【0028】
一般的に、複数相の回転電機における各相のステータコイルは、互いに所定の位相差を有する交流電流により駆動される。図示の例のように、3相回転電機の場合には、各相のステータコイルには、360度/3=120度の位相差を有する3相の交流電流が供給される。ここでいう360度、120度というのはいわゆる電気角で、360度を1周期としたときの位相角度を示すものである。
【0029】
また、ロータの機械的な回転角度が求められれば、その回転角度に対応するロータの電気角や、回転電機12及びインバータ14についての各相電流の電気角が求められる。
【0030】
また、回転電機制御装置10は、電流検出手段である電流センサ26,28と、回転角検出手段であるレゾルバ30とを備える。すなわち、インバータ14から回転電機12の2つの相、例えばU相及びV相の電流を供給する電力線に対応して、電流センサ26,28が設けられている。各電流センサ26,28は、インバータ14のU相、V相アームAu、Avの出力電流をそれぞれ検出する。W相アームAwに対応する電流センサは設けられていないが、この理由は、通常は、上記2つの電流センサ26,28の検出データから、W相アームAwの出力電流を推定できるためである。すなわち、各相のステータコイル22u、22v、22wは、それぞれの一端が接続されて中性点Zとなっているので、2つの相のステータコイル22u、22vを流れる電流の和から、残りの相ステータコイル22wを流れる電流が求められる。このことから、W相アームAwの出力電流を直接検出する必要がない。
【0031】
上記では、2つの電流センサ26,28によってU相、V相のアームAu、Avの出力電流を検出するものとしたが、これは1例であって、異なる組み合わせの2相のアームの出力電流を検出する電流センサを設けてもよく、3相のすべてのアームの出力電流を検出する電流センサを設けるものとしてもよい。電流センサ26,28の検出信号は、制御部16に伝送される。
【0032】
また、回転電機12にレゾルバ30が設けられている。レゾルバ30は、回転電機12の回転角度を検出し、その検出信号が制御部16に伝送される。なお、回転角度検出手段として、レゾルバ30以外の構成を使用することもできる。また、インバータ14には、電圧を検出可能な図示しない電圧センサが設けられており、電圧センサの検出信号が制御部16に入力されている。
【0033】
また、バッテリ18は、回転電機12がモータとして機能するときに回転電機12に電力を供給し、回転電機12が発電機として機能するときに回生電力を受け取って充電される。バッテリ18は、例えば、約200Vから約300Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池等を使用できるが、バッテリ18の代わりの蓄電部としてキャパシタを用いることもできる。
【0034】
また、バッテリ18とインバータ14との間には、DC/DCコンバータを設けてもよく、その場合、例えば、DC/DCコンバータを昇降圧用として機能させ、回転電機12をモータとして作用させる場合にバッテリ18の電圧を昇圧させてインバータ14に供給し、回転電機12を発電機として作用させる場合には、インバータ14のバッテリ18側の電圧を降圧してバッテリ18に供給する。
【0035】
インバータ14は、直流電力を交流3相駆動電力に変換し、これを回転電機12に供給する機能と、逆に回転電機12からの交流3相回生電力を直流充電電力に変換する機能とを有する。
【0036】
また、制御部16は、回転電機12がロック状態を含むロック相当状態になったときにインバータ14の制御により、インバータ14の各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2が過度に発熱しないように保護し、かつ、過度にトルクが制限されないようにするため、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2に対応する相の電流の電気角と電流値とに応じて、制御部16で設定するトルク指令を制限することにより、電流を制限する機能を有する。すなわち、回転電機制御装置10は、図示しない加速指示部であるアクセルペダルの操作量である踏み込み量を検出するアクセル操作量センサや、車両の速度を検出する車速センサを備えており、アクセル操作量や車速の検出値を表す信号を制御部16に入力している。制御部16は、入力されたアクセル操作量や車速から回転電機12のトルク指令値を設定し、トルク指令値、電流センサ26,28等の各種センサの検出値等を用いて電流指令値を設定する。また、電流指令値は、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のスイッチングを制御するためのPWM信号等の駆動信号に変換された後、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2に入力される。これにより、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のスイッチングがトルク指令や電流指令に応じて制御され、回転電機12がトルク指令に応じたトルクで駆動される。このような回転電機12には、図示しない動力伝達機構を介して車輪が連結されており、回転電機12の駆動により車両が走行する。
【0037】
これに対して、回転電機制御装置10を搭載したハイブリッド車両等の電動車両が坂道上に位置したり、段差の乗り越え時等で、回転電機12の駆動力と回転電機12に作用する負荷とが釣り合ってバッテリ18からインバータ14に電力が供給されている状態で、回転電機12の回転が停止されるロック状態となる可能性がある。このように回転電機12がロック状態になると、そのロック状態のまま、電気角が進まなくなり、各相電流がその電気角のときの電流値で維持される。この場合には、インバータ14の一部のスイッチング素子に継続して電流が流れ続ける状態となるため、一部のスイッチング素子が発熱により温度上昇する。このため、制御部16は、ロック状態を含むロック相当状態でかつ、特定の場合に回転電機12のトルクを制限する、すなわち回転電機12及びインバータ14に入力する電流を制限することにより、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2の保護制御を行う。
【0038】
また、スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2の保護制御は、上記のロック状態に限定するものではなく、例えば、回転電機12が100回転/分等の低速度以下で回転しようとする場合も、同じスイッチング素子に長時間電流が継続して流れる可能性があり、このような低速度以下の低速度回転状態である場合もロック相当状態として、上記の保護制御を行うことが好ましい。次に、制御部16の構成を説明する。
【0039】
制御部16は、図示しない記憶部を有し、記憶部に回転電機制御プログラムや、後述するマップのデータを記憶している。また、制御部16は、回転電機12がロック状態を含む低速度回転状態または回転停止であるロック相当状態であるか否かを判定するロック相当判定手段32と、ロック相当状態であると判定された場合に、回転電機12に関係する状態取得値である各相電流の電気角と電流値との取得値を取得する状態取得手段34と、ロック相当状態である場合に、各相電流の電気角と電流値との取得値から複数のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうちで最も温度的に厳しくなるスイッチング素子である「最高温度予測素子」を特定する素子特定手段36とを有する。また、制御部16は、素子特定手段36により特定された「最高温度予測素子」への通電電流に応じた継続通電許容時間である最短出力許容時間を推定する最短許容時間推定手段38と、継続通電開始からの最短出力許容時間経過後に回転電機12の電流制限を実行する電流制限実行手段40とを有する。
【0040】
このような制御部16はCPU、メモリ等によって構成することができる。また、制御部16の各機能はソフトウェアを実行することで実現することもでき、具体的には、回転電機制御プログラムのロック状態対応処理プログラムを実行することで実現してもよい。また、制御部16のこれらの機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
【0041】
上記構成の作用、特に制御部16の各機能について、図2のフローチャート等を用いて説明する。なお、以下では、図1の符号を用いて説明する。図2は、回転電機12がロック相当状態となったときの電流制限方法を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、ステップS10等を単にS10等として説明する。
【0042】
図2に示すように、電流センサ26,28により検出されたU相電流、V相電流の電流値と、レゾルバ30で検出されたロータの回転角度とが制御部16に入力、すなわち取得され、制御部16で読み込みがされた(S10)後、検出された回転角度から、回転電機12がロック相当状態であるか否かが判断される(S12)。すなわち、制御部16で回転電機12のある時間当たりでの回転角度を取得することでロータの回転速度が算出され、その回転速度が0または100回転/分等の予め設定した低速度以下で回転している場合をロック相当状態として、ロック相当状態であるか否かが判断される。このような処理は、制御部16のロック相当判定手段32で実行する。
【0043】
S12でロック相当状態であると判断されると、次にロック相当状態における各相電流の電気角が計算される、すなわち取得される(S14)。電気角の計算は、レゾルバ30で測定されたロータの回転角度に基づいて、状態取得手段34で実行することができる。すなわち、複数相の回転電機12は、電気角で所定の位相差を保ちながらステータコイル22u、22v、22wを流れる各相電流が変化するように駆動されており、正弦波駆動の場合は、各相電流は電気角で360度を1周期とする正弦波でその電流値が規則的に変化する。その規則性は予め分かっており、ロータの機械的な回転角度から各相電流の電気角が求められる。
【0044】
これについて図3を用いて説明する。図3では、横軸に電気角をとり、縦軸に電流値をとり、各相電流の電気角に対する変化を示している。図3で実線、破線、一点鎖線で示されるものが、3相電流のそれぞれ、すなわちU相電流、V相電流、W相電流を表す。図3から分かるように、電気角で360度の範囲では、U相電流値、V相電流値、及びW相電流値の組合せにおいて、同じ値を2以上の電気角で取ることはない。また、3相電流の電気角は、ロータの回転角度に応じて変化する。このため、ロータの回転角度が取得されれば、この回転角度に対応する各相電流の電気角を特定できる。なお、電気角の原点は適当に定めることができる。図3の例では、実線で示した相電流、例えばU相電流について、電流値がゼロで、電気角に対する電流値の微分係数がプラスとなる電気角を原点としている。
【0045】
再び図2に戻り、S14でロック相当状態における各相電流の電気角が特定されると、次にインバータ14の複数のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうち、最も温度的に厳しくなる1のスイッチング素子である「最高温度予測素子」を特定するステップを行う。すなわち、本実施の形態は、次に説明する原理に基づいて考えたものである。図4、図5は、これを説明するための図である。図4は、図1に示した回転電機12の各相電流の電気角に対する関係を、インバータ14のU相アームAuに最大電流が集中して流れる場合で示す図であり、図5は、図4の状態で、回転電機12のロック時に、一部のスイッチング素子の温度が上昇する様子を示す図である。
【0046】
図4に示すように、各相の電流を電気角と電流値との関係で表すと、各相電流は、120度の電気角の位相のずれを持った状態で正弦波状の電流値が変動する。図4も、図3と同様に、実線、破線、一点鎖線でそれぞれ、U相電流、V相電流、W相電流を表している。この場合、例えば各相電流の電気角がαで回転電機12がロックしたとすると、図4に太線の実線で示すように、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwがそれぞれ一定値で維持される。この場合、U相電流iuが最も電流値が高くなる。このため、U相電流iuに対応するU相アームAuの一部のスイッチング素子に過度に電流が集中し、継続して流れることとなる。そして、この一部のスイッチング素子の発熱による温度上昇が、すべてのスイッチング素子のうちで最も高くなる。より具体的には、図1のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうち、U相アームAuの上側スイッチング素子Su1と、V相アームAv及びW相アームAwの下側スイッチング素子Sv2、Sw2とに電流がそれぞれ一定値で継続して流れるが、このうち上側スイッチング素子Su1に流れる電流が最も高くなる。
【0047】
したがって、図5に示すように、実線aで示すU相の上側スイッチング素子Su1がロック時である図5の時間t1から急激に温度上昇して、使用上の許容可能な上限である素子許容上限温度を超える可能性がある。このため、実線aが素子許容上限温度に達する時間t2以降では、電流制限によりスイッチング素子の保護を行う保護制御を行う。なお、図5の実線bで示すV相及びW相の下側スイッチング素子Sv2、Sw2は温度上昇するが、素子許容上限温度を超えることはない。
【0048】
このような保護制御を行うために、継続して電流が通電された場合に図5に示したように、スイッチング素子の温度が素子許容上限温度を超える可能性がある、電流制限範囲U1,U2を予め設定しておく。図6に示すように、電流制限範囲U1は、0から180度の電気角の間の予め設定したαからβまでの範囲である。なお、図6の横軸は、0から360度までの電気角が、回転電機12の1周に対応する分まで繰り返されるものとする。すなわち、U相電流の電気角は、0から360度までの値をとるものとし、ロータの回転角度に対応する電気角がこれ以上となる場合でも、U相電流の電気角は、回転角度の変化に応じて、0から360度の範囲を繰り返すものとする。これは、V相、W相の場合も同様である。
【0049】
また、電流制限範囲U2は、180から360度の電気角の間のγからδまでの範囲である。電流制限範囲U2は、U相アームAuの下側スイッチング素子Su2の保護制御を行うために設定している。例えば、図4に丸印Rで示す位置でロック状態が発生した場合も、上記と同様にU相アームに流れる電流値の絶対値が高くなる。この場合、U相アームAuの下側スイッチング素子Su2と、V相アームAv及びW相アームAwの上側スイッチング素子Sv1,Sv1とに電流が継続して流れるが、U相アームAuの下側スイッチング素子Su2に流れる電流が最大となる。図6では、これらの場合を考慮して、U1,U2を設定している。
【0050】
なお、図6で、破線の曲線は、U相電流が負になる場合を、正負反転して示している。U相電流がU1,U2のいずれかに位置する場合には、U相アームAuの対応するスイッチング素子Su1(またはSu2)に流す電流を制限することにより、保護制御を行う。上記ではU相電流に対応するU相アームAuのスイッチング素子Su1、Su2の場合を説明したが、V相、W相の場合も同様である。この場合、電気角は、例えばそれぞれの相で電流制限範囲U1,U2を設定したU相電流の電気角に対してそれぞれ120度ずつずれるため、V相、W相で設定する電流制限範囲もそれぞれU1,U2に対して120度ずつずれる。
【0051】
図2に戻って、このような考え方で保護制御を行うために、まずS16でU相電流の電気角がα以上でβ未満の範囲にあるか否かを判定する。S16で判定結果が肯定である場合、S20に移行する。これに対して、S16で判定結果が否定である場合はS18に移行し、U相電流の電気角がγ以上でδ未満の範囲にあるか否かを判定し、その判定結果が肯定である場合は、S20に移行する。これに対して、S18での判定結果が否定である場合は、S22に移行する。
【0052】
S20では、U相電流の電気角がα以上でβ未満の範囲か、またはγ以上でδ未満の範囲にある場合であるので、電流制限の必要ありとして、電流値と出力許容時間との関係を表すマップのデータを参照しつつ、電流センサ26で取得されたU相電流の検出値から、対応する出力許容時間を取得する、すなわち推定する。ここで「出力許容時間」とは、通電される、すなわちオンされているU相アームAuの上側スイッチング素子Su1または下側スイッチング素子Su2の通電電流に応じて予めマップにより設定されるもので、これは継続通電を許可する上限時間である継続通電許容時間を意味する。また、この出力許容時間は、各相での出力余裕度を表す。図7は、電流値と出力許容時間との関係の1例を示している。このように、電流値の絶対値が0に近づくある範囲で出力許容時間は最大となり、この範囲の両側で電流値の絶対値が大きくなるほど出力許容時間は短くなる。なお、図7は1例であり、この線図の関係に限定されるものではない。
【0053】
図2に戻って、このようにしてU相アームAuに対応する出力許容時間が取得されたならば、S22に移行し、V相、W相についても同様の処理を行う。また、このような処理において、U相、V相、及びW相の少なくとも1相の電流の電気角が電流制限範囲(例えばU1,U2)から外れる可能性があるが、その場合には、その相では出力許容時間を短く設定する必要がないと判断し、例えばS20で設定される出力許容時間の上限よりも長い、電流値にかかわらず一定の最大出力許容時間を設定する。なお、この場合に設定される最大出力許容時間として、実用上実質的に無限大に相当する有限の時間を設定することもできる。
【0054】
次いで、S24では、S16からS22で得られた各相の出力許容時間のうち、最小となる1の出力許容時間を選択し、S26で、選択した出力許容時間に対応する相で通電されている、すなわちオンされている対応するスイッチング素子を、複数のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうちで最も温度的に厳しくなるスイッチング素子である、「最高温度予測素子」として特定する。このようなS16からS26の処理は、素子特定手段36により実行する。すなわち、素子特定手段36は、ロック相当状態である場合に、各相電流の電気角と電流値との取得値から、各相でスイッチング素子に対する通電電流に応じた継続通電許容時間である出力許容時間をそれぞれ推定し、推定された各相の出力許容時間のうち、最短の出力許容時間に対応するスイッチング素子を、「最高温度予測素子」として特定する。
【0055】
次いで、S28で、特定された「最高温度予測素子」への通電電流に応じた出力許容時間を、最短出力許容時間tminとして推定する。すなわち、最も温度的に厳しくなる「最高温度予測素子」に対応して得られた出力許容時間が、他の相のスイッチング素子に対応する出力許容時間も含めた全体で最も短い、最短出力許容時間tminとして推定できる。この推定処理は、最短許容時間推定手段38により実行する。
【0056】
また、S28では、回転電機12がロック相当状態、例えばロック状態が開始されてからの経過時間であるロック時間、すなわち「最高温度予測素子」への継続通電開始からの時間が、上記の最短出力許容時間tmin以上となる場合である、最短出力許容時間経過後に、S30に移行し、保護制御を実施する。この保護制御では、例えば、制御部16で取得、すなわち算出されるトルク指令値を予め設定された1未満の所定比率を乗じることで低下させ、これにより電流指令を低下させて電流制限を実行する。このような保護制御は、電流制限実行手段40により実行する。S30のステップの後は、再びS10に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0057】
このような回転電機制御装置10によれば、コスト上昇を抑制しつつ、回転電機12のロック相当状態での電流制限される機会を少なくして、回転電機12の出力を有効に活用できる。すなわち、回転電機12のロック相当状態での電流制限やトルク制限の際に、温度センサの検出値を使用する必要がないので、インバータ14に設ける温度センサをなくすか、または少なくすることができる。しかも、各相のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうちで、最も温度的に厳しくなるスイッチング素子である「最高温度予測素子」を特定し、特定した「最高温度予測素子」への通電電流に応じた継続通電許容時間である最短出力許容時間を推定し、その最短出力許容時間に応じて電流制限を実行する。このため、回転電機12のロック時等、ロック相当状態でも電流制限されずに十分な出力を発揮できる機会を増やすことができ、回転電機制御装置10を搭載したハイブリッド車両の登坂性能を向上できる等、回転電機12の出力を有効に活用できる。しかも、ロック相当状態での電流制限のために温度センサを使用しないので、コスト上昇を抑制できる。
【0058】
また、「最高温度予測素子」の特定の際に、ロック相当状態での各相アームAu,Av,Aw毎にスイッチング素子の発熱に対する余力に相当する出力許容時間を、各相電流の電気角と電流値との取得値から推定する。このため、多くの温度センサを使用することなく、より有効に回転電機12の出力の有効活用を図れる。
【0059】
これに対して、図8は、本実施の形態との比較のための従来の制御装置の場合を示している。具体的には、図8は、従来の回転電機制御装置において、ロック時から一定時間経過後に電流指令を制限する場合の回転電機の出力が低下する様子を示す図である。すなわち、本実施の形態と異なり、回転電機のロック時に、一定時間経過後に回転電機の出力を通常時の出力から、直線的に低下させるようにトルク指令を制限することにより保護制御を行うことが考えられる。このような従来の制御装置の場合には、保護制御時の出力が車両の登坂に必要な出力よりも小さくなる可能性があり、この場合には迅速に車両が登坂できない等の不都合が生じる可能性がある。これに対して、上記の本実施の形態によれば、ロック時を含むロック相当状態で回転電機12の出力が低下する機会を少なくできるため、このような不都合が生じることを抑制できる。
【0060】
[第2の発明の実施の形態]
図9は、本発明に係る第2の実施の形態において、回転電機がロック相当状態となった場合の電流制限方法を示すフローチャートである。本実施の形態では、上記の第1の実施の形態と異なり、各相電流の電気角から最高温度予測素子を特定するのではなく、その代わりに、素子特定手段36(図1参照)は、状態取得値である各相電流の電流値の取得値、すなわち検出値から最高温度予測素子を特定する。
【0061】
本実施の形態において、素子特定手段36以外の構成は、上記の第1の実施の形態と同様であるため、以下、図1に示した要素と同等の要素には同一の符号を付して説明する。また、素子特定手段36も、図1と同一の符号を付して説明する。本実施の形態では、上記の第1の実施の形態において、素子特定手段36は、回転電機12がロック相当状態である場合に、状態取得値である各相の電流の電流値の取得値から、対応する相のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2の通電電流に応じた発熱温度上昇時間をそれぞれ推定する。そして、推定された各相の発熱温度上昇時間のうち、最長となる温度上昇時間に対応するスイッチング素子を、「最高温度予測素子」として特定する。これについて、図9のフローチャートを用いてより詳しく説明する。
【0062】
図9のS40で、制御部16で、電流センサ26,28からの電流値の読み込みと、レゾルバ30からのロータの回転角度の読み込みとが行われ、S42でロック相当状態であるか否かの判定が行われる。その結果、ロック相当状態であると判定されると、S44に移行する。
【0063】
S44では、まずU相電流の電流値の取得ちが正の値であるか否かを判定し、正の値である場合にはU相アームAuの上側スイッチング素子Su1が発熱したと判定し(S46)、それ以外、例えばU相電流の取得値が負である場合にはU相アームAuの下側スイッチング素子Su2が発熱したと判定し(S48)、いずれの場合もS50に移行する。S50では、予め制御部16に記憶されたマップであって、スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2への通電電流に対するそのスイッチング素子の発熱温度上昇時間の関係を表すマップから、U相電流の電流値の取得値を用いて発熱温度上昇時間を取得する。
【0064】
図10は、第2の実施の形態の回転電機制御装置で使用する、スイッチング素子の通電電流と発熱温度上昇時間との関係を示す図である。図10では、複数(図示の例では4つ)の電流値がそれぞれ一定である等電流曲線I1,I2,I3,I4を示している。電流値の大きさは、I1,I2,I3,I4の順で大きくなっており、I1で最も電流値の大きさが高くなっている。また、横軸に時間をとり、縦軸に素子許容率をとっている。「素子許容率」とは、発熱温度上昇時間を設定する対象であるスイッチング素子が設計上の使用限界に対しどの程度近づいているかを表すもので、例えば100%は使用限界に達したことを意味する。例えば回転電機12のロック状態開始時から使用限界に達するまでの時間は「限界時間」となり、これは出力許容時間に相当する。また、素子許容率は、スイッチング素子の温度に比例するため、図10の縦軸をスイッチング素子の温度に置き換えて表すこともできる。この場合の傾向も図10の曲線と同様になる。
【0065】
また、図10では、ロック状態開始時から対応する各通電電流I1,I2,I3,I4に対してスイッチング素子が定常状態となるそれぞれの最高温度に対してどれだけ温度上昇するかを表す「発熱温度上昇時間」も合わせて示している。この発熱温度上昇時間は、図10の下部の矢印でその大きさを示している。なお、図10に示す例では、発熱温度上昇時間として、対応する通電電流毎の最高温度に対して予め設定する所定割合(例えば90%等)に達した時点を温度上昇の終了と設定している。ただし、発熱温度上昇時間として単純に、対応する通電電流毎の最高温度に達した時点を、温度上昇の終了と設定してもよく、また、温度が直線上に増大する場合の傾きを表す直線から外れた時点を、温度上昇の終了と設定してもよい。
【0066】
図10から分かるように、スイッチング素子に対する通電電流が大きくなるほどそのスイッチング素子の発熱温度上昇時間は大きくなっている。このため、通電電流と発熱温度上昇時間との関係を予めマップのデータを記憶させておけば、このマップのデータを参照して、取得された通電電流の電流値から、対応する発熱温度上昇時間を取得可能であることが分かる。本実施の形態では、このような考えから、図9のS50では、予め記憶された、通電電流と発熱温度上昇時間との関係を表すマップのデータを参照して、検出されたU相電流の電流値から、U相アームAuの通電されている、すなわち発熱するスイッチング素子Su1(またはSu2)の発熱温度上昇時間を取得する、すなわち推定する。なお、この場合、通電電流と温度上昇との関係を表すマップで、対応するマップのデータがない、例えば通電電流がI1とI2との間等である場合には、対応する両側のマップのデータ、例えばI1とI2とのデータから線形補間等を用いて、対応する発熱温度上昇時間を算出する。また、S52で、V相、W相の場合も同様にして、発熱するスイッチング素子の発熱温度上昇時間を取得する。
【0067】
次いで、S54で取得された各相の発熱温度上昇時間のうち、最長となる1の発熱温度上昇時間を選択する。この最長の発熱温度上昇時間は、複数のスイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2のうち、最も発熱するスイッチング素子に対応するものである。このため、S56で最長温度上昇時間に対応するスイッチング素子を「最高温度予測素子」として特定する。このようなS44からS56までの処理は、素子特定手段36により実行する。そして、S58で「最高温度予測素子」に対応する素子許容率100%までの最短出力許容時間に相当する「限界時間」を、最短許容時間推定手段38により推定する。次いで、ロック時間が「限界時間」に達する限界時間経過後に、上記の第1の実施の形態と同様に電流制限実行手段40により保護制御を実行する。
【0068】
このような本実施の形態の場合も、過度なコスト上昇を抑制しつつ、回転電機12のロック相当状態で電流制限される機会を少なくして、回転電機12の出力を有効に活用できる。また、「最高温度予測素子」の特定の際に、温度上昇時間が得られれば、ロック相当状態での最長の温度上昇時間に対する対応する温度上昇時間の短さを各相電流の電流値の取得値から推定できる。この温度上昇時間の短さは、各相アームAu,Av,Awのスイッチング素子の発熱に対する余力に相当する。このため、多くの温度センサを使用することなく、より有効に回転電機12の出力の有効活用を図れる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施の形態と同様であるため、重複する説明を省略する。
【符号の説明】
【0069】
10 回転電機制御装置、12 回転電機、14 インバータ、16 制御部、18 バッテリ、20 ステータ、21 コンデンサ、22u,22v,22w ステータコイル、24 水温センサ、26,28 電流センサ、30 レゾルバ、32 ロック相当判定手段、34 状態取得手段、36 素子特定手段、38 最短許容時間推定手段、40 電流制限実行手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれスイッチング素子を有する複数相のアームを含み、複数相の回転電機を駆動する回転電機駆動部と、
回転電機駆動部を制御する制御部と、を備え、
制御部は、
回転電機がロック状態を含むロック相当状態である場合に、回転電機に関係する状態取得値を取得する状態取得手段と、
ロック相当状態である場合に、状態取得値から複数のスイッチング素子のうちで最も温度的に厳しくなるスイッチング素子である最高温度予測素子を特定する素子特定手段と、
素子特定手段により特定された最高温度予測素子への通電電流に応じた継続通電許容時間である最短出力許容時間を推定する最短許容時間推定手段と、
継続通電開始からの最短出力許容時間経過後に回転電機の電流制限を実行する電流制限実行手段とを有することを特徴とする回転電機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機制御装置において、
素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、状態取得値である、各相電流の電気角と電流値との取得値から、最高温度予測素子を特定することを特徴とする回転電機制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機制御装置において、
素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、各相電流の電気角と電流値との取得値から、各相でスイッチング素子に対する通電電流に応じた継続通電許容時間である出力許容時間をそれぞれ推定し、推定された各相の出力許容時間のうち、最短の出力許容時間に対応するスイッチング素子を、最高温度予測素子として特定することを特徴とする回転電機制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機制御装置において、
素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、状態取得値である、各相電流の電流値の取得値から、最高温度予測素子を特定することを特徴とする回転電機制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機制御装置において、
素子特定手段は、ロック相当状態である場合に、各相電流の電流値の取得値から対応する相のスイッチング素子の通電電流に応じた発熱温度上昇時間をそれぞれ推定し、推定された各相の発熱温度上昇時間のうち、最長の温度上昇時間に対応するスイッチング素子を、最高温度予測素子として特定することを特徴とする回転電機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−100435(P2012−100435A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246075(P2010−246075)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】