説明

圧縮機およびその製造方法

【課題】主にアルミニウム−シリコン系合金で構成されている圧縮機の摺動部材の摺動部においては、その最表面に存在してシリコンを覆っている薄いアルミニウム層が剥離し、焼付きに至る可能性があるため、十分な信頼性を保証するために最表面層の無害化が重要な課題となっている。
【解決手段】本発明は、少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射させて当て、水中保持後、大気に均等に触れさせ、摺動部最表面のアルミニウムを微少量剥離させ、硬質粒子であるシリコンを露出させるとともに最表面層に油溜りとアルミニウムの酸化皮膜とを形成させて、圧縮機の摺動部材の耐焼付き、耐摩耗性を著しく向上せしめ、無害化を図ると共に高性能で、かつ安価な構成により製造可能な圧縮機を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用及び家庭用の空気調和機(空調機)等に圧縮機として使用されるものであって、主としてスクロール圧縮機の摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール圧縮機の例として、以下図面とともに説明する。
【0003】
スクロール圧縮機は、静止した固定スクロールと、この固定スクロールと噛み合った状態で揺動する旋回スクロールとを備えている。ここで、スクロール圧縮機の圧縮原理については、すでに公知であるので、省略する。
【0004】
図5に示すように、旋回スクロール101は、円板状の鏡板102と、この鏡板102の上面部103から渦巻状に直立して形成されたラップ部104と、鏡板102の下部に形成された軸受部105とを備えて構成されている。この旋回スクロール101は、従来において鉄系の鋳造品の表面を切削して仕上げ加工することにより製作されていたが、近年では、スクロール圧縮機の高効率化を図るために、旋回スクロール101を毎分1万回転前後の高い回転数で駆動することが要求されるに到り、旋回スクロール101の形成素材として、鉄系の材料に代えて、これよりも比重の小さいアルミニウム合金を用いることにより、スクロール圧縮機の高効率化および軽量化を図ることが要望されている。
【0005】
このような事情から、従来では、図6に示すように、上記鏡板102およびラップ部104の基材部106、107を、30%のシリコンと若干のニッケル、マグネシウムを含有した材料からなるアルミニウムダイキャスト品として一体形成し、鏡板102の上面部103および側面部108(図5)とラップ部104の表層部109とを、基材部106、107と同じ材質、つまり10%以上のシリコンを含有するアルミニウム合金の粉末焼結材で構成した旋回スクロールが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この旋回スクロール101は、鏡板102およびラップ部104を上述のアルミニウム合金でダイキャスト成形したのちに、このダイキャスト成形品の基材部106、107の表面を、同種材料の粉末焼結材をバインダとともにインサート成形することにより被覆し、バインダを除去したのちに焼結する工程を経て製造される。
【0007】
上記のように構成された旋回スクロール101は、軽量であるため、毎分1万回転前後の高速回転においても軸受機構などに対する面圧などのダメージが少ないものとなり、また、基材部106、107にシリコンの偏析部が存在しても、鏡板102およびラップ部104の各々の表層部103、108、109がシリコン等を均一に分散した粉末焼結材で形成されていることから、表層部103、108、109の切削仕上げ面も良好なものとなって、表面に疲労破壊の起点となるようなシリコンの脱落部が生じなく、信頼性の高いものとなる。したがって、この旋回スクロール101を搭載したスクロール圧縮機は、高速回転が可能となって高効率化を図ることができるとともに、小型化および軽量化を達成することができる。
【特許文献1】特開平3−242486号公報(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記旋回スクロール101は、表層部103、108、109がアルミニウム合金の粉末焼結体で形成されているが、この表層部103、108、109が、上
述したようにインサート成形により基材部106、107を被覆するように形成されたのちにバインダを除去して焼結する工程を経て構成されることから、この表層部103、108、109の最表面に部分的に薄いアルミニウムリッチ層が形成されており、この薄いアルミニウムリッチ層の存在によって以下のような課題がある。すなわち、スクロール圧縮機では、過度運転時、特に除霜運転の開始時に液戻りが激しいために、旋回スクロール101の回りにおいて一時的に潤滑油が不足する事態が発生する。また、除霜が進行するに従って吐出圧力が上昇するが、その吐出圧力の上昇によって旋回スクロール101のスラスト面が固定スクロールに強く押し付けられるために、スラスト面で油膜切れが起こり易い。さらに、除霜運転に際しては、短時間で除霜を完了させることを目的として高速運転されるために、摩擦熱によってスラスト面の温度が高くなる。また、上記除霜などの過度運転時では、吸入温度と吐出温度との温度差が拡がることから、旋回スクロール101の中央部の羽根が大きく熱膨張して伸び、この羽根の先端部が固定スクロールと接触して潤滑油が切れ、これに伴う摩擦熱によって摺動温度が高くなって熱膨張が更に促進され、潤滑状態が一層厳しくなる。
【0009】
上述のように潤滑状態が厳しくなったときには、旋回スクロール101のスラスト面におけるシリコンを覆っている最表面の薄いアルミニウムリッチ層のシリコンに対する密着性が低いことから、このアルミニウムリッチ層が剥離する可能性があり、剥離した場合に焼付きを起こすおそれがある。そのため、上記旋回スクロール101を備えたスクロール圧縮機は十分な信頼性を確保することができない。本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたもので、軽量化と高速回転による高効率化を達成しながらも、潤滑状態が厳しくなる過度運転時においても焼付きが発生するおそれのない高い信頼性を有する圧縮機の摺動部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために、本発明の圧縮機の摺動部材は、基材にそれよりも硬い硬質粒子を分散させた軟質材料により形成され、摺動部に少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射することで、摺動部の軟質材料を微少量剥離させ、摺動部最表面に硬質材料の露出率を増加させると共に、表面に油溜りともなるくぼみを形成し、更にこの軟質材料表面に均一な酸化皮膜を形成せしめたものである。
【0011】
このような構成では、軟質材料で構成した摺動部材によって軽量化と高速回転による高効率化とを達成しながらも、摺動部分での潤滑状態が厳しくなったときに、適度に露出された硬質粒子の非凝着性と適度に形成された油溜り、更には最表面の軟質材料自体の酸化皮膜とによって、カーボン材等とほぼ同等程度の耐焼付き・耐摩耗特性が得られる。したがって、この摺動部材を備えた圧縮機は、潤滑状態が厳しくなる過度運転時、特に除霜運転時における焼付きの発生や摩耗が効果的に防止され、大容量で多冷媒のシステムにおいても不具合が発生するおそれのない極めて高い信頼性を有したものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の圧縮機の摺動部材、またはその製造方法によれば、信頼性が高く、短時間な処理により、部品点数の少ない安価で効率の良い圧縮機を得ることが可能となるので、エネルギー消費効率の優れた業務用及び家庭用の空気調和機等が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
第1の発明、および第9の発明は、基材にそれより硬い硬質粒子を分散させた軟質材料より形成され、摺動部に少なくとも基材よりも硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧により噴射することで、摺動部の軟質材料を微少量剥離させ、摺動部表面に硬質材料の露出率を増加させるとともに、表面に油溜りともなるくぼみを形成し、更にこ
の軟質材料表面に均一な酸化皮膜を形成せしめたものである。この構成によれば軽量化と高速回転による高効率化とを達成しながらも、焼付きの発生を効果的に防止することができ、大容量で多冷媒のシステムにおいても不具合が発生するおそれのない高い信頼性を有した圧縮機を得ることができ、またこの方法によれば極めて短時間で処理が行えるため、製造が簡単で安価な圧縮機を得ることができる。
【0014】
第2の発明は、軟質材料として、硬質粒子としてのシリコンを基材としてのアルミニウムに分散させたアルミニウム―シリコン系合金を用いたものであり、低価格な摺動部材が得られる。
【0015】
第3の発明は、シリコンは共晶シリコンまたは微細化された初晶シリコンであり、平均粒子径は2〜10μmであり、面積率は4.7%以上、また軟質材料であるアルミニウムの酸素濃度が2%以上に設定されているものであり、極めて優れた耐焼き特性と耐摩耗特性が得られる。
【0016】
第4の発明は、圧縮機はスクロール圧縮機であり、摺動部材は旋回スクロールであり、固定スクロールなどの摺動部材に比較して旋回スクロールの形状が小さいので、軽量化と高速回転による高効率化とを達成しながらも、焼付きの発生を効果的に防止できる高い信頼性を備えたスクロール圧縮機を安価に製作することができる。
【0017】
第5の発明は、圧縮機はスクロール圧縮機であり、摺動部材は固定スクロールであり、軽量化と高速回転による高効率化とを達成しながらも、焼付きの発生が効果的に防止される効果が得られるのに加えて、リード弁の弁座の強度が向上する効果を得ることができる。
【0018】
第6の発明は、圧縮機はスクロール圧縮機であり、摺動部材はオルダムリングであり、軽量化と高速回転による高効率化とを達成しながらも、焼付きの発生が効果的に防止される効果が得られるのに加えて、回転の偏心量が大きいロータリ式圧縮機や直線運動を回転運動に変換するレシプロ式圧縮機に比較して、アンバランス量が小さくなって極めて低振動なスクロール圧縮機となる利点がある。
【0019】
第7の発明は、圧縮機はスクロール圧縮機であり、摺動部材は軸受を一体に備えたフレームであり、軽量化と高速回転による高効率化とを達成しながらも、焼付きの発生が効果的に防止される効果が得られるのに加えて、特に、旋回スクロールを受けるスラスト軸受をフレームに設置している低圧型スクロール圧縮機では、フレームの一部形状を変更することによってスラスト軸受をフレームに容易に一体形成することが可能となり、部品点数を削減できる利点がある。
【0020】
第8の発明は、圧縮機は二酸化炭素を冷媒とし、PAG、エーテル、エステル、PAO、アルキルベンゼンまたは鉱油を潤滑油とするものであり、塩素を含まない自然冷媒とこれに適合する潤滑油との組み合わせによってオゾン層の破壊や温暖化現象に大きな影響を与えない効果を得ながらも、高圧冷媒である二酸化炭素冷媒を用いることによって旋回スクロールに非常に大きな圧力がかかり鏡板に極めて高い面圧が発生するが、適度な潤滑性と非凝着性が発揮されることによって焼付きの発生を効果的に防止でき、高圧および高差圧の発生状態においても高い信頼性が得られ、効率の高い高圧型スクロール圧縮機が得られる。
【0021】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1は本発明を旋回スクロール201に適用して構成したスクロール圧縮機を示す一部破断した正面図である。このスクロール圧縮機は、これの外体をなす密閉容器202内に圧縮機構部203とこれの駆動源のモータ部(図示せず)が内装されている。圧縮機構部203は、フレーム204に固定された固定スクロール205と、この固定スクロール205に対向配置された旋回スクロール201と、フレーム204と旋回スクロール201との間に設けられたオルダムリング206と、旋回スクロール201をモータ部に連結するクランク軸207とを備えて構成されている。固定スクロール205は、鏡板208、ラップ部209、底面210および吸入ポート211を備えて構成されており、吸入ポート211には吸入管212が接続されている。旋回スクロール201は、これの縦断面図である図2に示すように、鏡板(スラスト面)213、(フレーム側)214、ラップ部215、ラップ先端部216、軸受217およびキー溝218を備えて構成されている。この旋回スクロール201のラップ部215と固定スクロール205のラップ部209とは齟齬状に対向配置されて互いに噛み合っているが、旋回スクロール201のラップ部215の高さは固定スクロール205のラップ部209の高さよりも若干低く設定されている。
【0023】
フレーム204には環状溝219が形成されており、この環状溝219には、フレーム204と旋回スクロール201間をシールするシール部材220が設けられ、このシール部材220における環状溝219に対する内側が高い圧力になるように設定されている。圧縮機運転時、旋回スクロール201は、上記高い圧力によって固定スクロール205に押し付けられ、旋回スクロール201のラップ先端部216と固定スクロール205の底面210との隙間は潤滑油(図示せず)によってシールされる。
【0024】
つぎに、上記旋回スクロール201の特徴とする構成について、図3、図4を参照しながら説明する。図3は旋回スクロール201の加工後表層部の断面組織を模式的に示した図で、図4は本発明の実施の形態1における旋回スクロール201の表層部の断面組織を模式的に示した図である。
【0025】
この旋回スクロール201は、軟質基材であるアルミニウム221に硬質粒子である微細な共晶シリコン222を分散させてなるアルミニウム−シリコン系合金からなる軟質材料223を用いて鋳造、または鍛造することにより形成されている。また、共晶シリコン222は平均粒子径が2〜10μmであり、その面積率が4.7%以上となるように設定してアルミニウム221に分散されている。さらに、旋回スクロール201における摺動部、つまり鏡板213、214、ラップ部215、ラップ先端部216、軸受217およびキー溝218等の各摺動部には、部位的に、または全面にわたって、少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射させて当てる。図3に示すような、加工後約1μm以下の表層部を覆うアルミニウム221は前述の非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水とガスによって微少量剥離され、その後図4のように摺動部の表面は共晶シリコン222が残留・露出し、それと共に基材であるアルミニウム221に微細な油溜り224が形成される。このとき、表面に露出した基材であるアルミニウム221は純アルミの状態であるため、これが大気に触れないように水中保持し、その後大気に均等に触れさせることで、この軟質材料表面に均等な酸化皮膜229を形成させる。
【0026】
つぎに、上記スクロール圧縮機の動作について説明する。モータ部の回転は、クランク軸207を介して旋回スクロール201に伝達されて、オルダムリング206と協働して旋回スクロール201を旋回運動させる。旋回スクロール201のラップ部215と固定スクロール205のラップ部209とは、齟齬状に対向配置されて互いに噛み合っており、旋回スクロール201の旋回運動に伴って吸入管212から吸入ポート211を介して
冷媒を吸入し、この冷媒を圧縮する。この圧縮された冷媒は、吐出ポート225からリード弁226を押し開いて密閉容器202内に吐出されたのち、吐出管227から密閉容器202の外部に導き出される。この運転時には密閉容器202内が高圧に保持されている。
【0027】
ところで、スクロール圧縮機における低温時の暖房運転では、着霜が激しくなると、除霜運転に強制的に切り換えられるが、その際に、激しい液戻りが発生して旋回スクロール201の鏡板213とラップ部215、及びラップ先端部216に残留していた潤滑油が洗い流されてしまう。このとき、上記旋回スクロール201では、鏡板213とラップ部215、ラップ先端部216の表面に露出している共晶シリコン222が対向する固定スクロール205の各摺動部(鏡板208、ラップ部209、底面210等)と摺動し、この共晶シリコン222の非凝着性と更に基材であるアルミニウム221に形成された酸化皮膜229とによって、上記の潤滑油不足に伴う旋回スクロール201の焼付きや、摩耗の発生が極めて効果的に防止される。
【0028】
また、上記除霜運転によって除霜効果が進むのに伴い吐出圧力が上昇して、この高い吐出圧力がシール部材220の内側に作用するため、旋回スクロール201が固定スクロール205に強く押し付けられる。そのため、旋回スクロール201の鏡板213と固定スクロール205の鏡板208およびラップ部209の先端部228と固定スクロール205の底面210との間に高面圧が発生する。一方、密閉容機202の下部に貯留されている潤滑油(図示せず)は圧縮機構部203に供給されるが、除霜運転の液戻りの影響を受けて大きく粘度低下するため、旋回スクロール201と固定スクロール205は非常に厳しい潤滑状態にある。しかしながら、旋回スクロール201の鏡板213とラップ部215に露出している共晶シリコン221の非凝着性と基材であるアルミニウム221に形成された酸化皮膜229に加え、基材であるアルミニウム220に形成されている微細な油溜り223に保持された潤滑油によって、旋回スクロール201の焼付きの発生が極めて効果的に防止される。
【0029】
また、旋回スクロール201の軸受217やキー溝218においても、粘度低下した潤滑油が供給されて潤滑は厳しくなるが、露出している共晶シリコン222の非凝着性と基材であるアルミニウム221に形成された酸化皮膜229に加え、基材であるアルミニウム221に形成されている微細な油溜り224に保持された潤滑油によって、旋回スクロール201の焼付きの発生が極めて効果的に防止される。
【0030】
したがって、この旋回スクロール201は、軟質材料223の鋳造品、または鍛造品とすることによって軽量化および高速回転による高効率化を達成しながらも、焼付きの発生や摩耗が極めて効果的に防止されるので、境界潤滑状態において、カーボン等と同等の極めて高い信頼性が得られる。
【0031】
特に、この旋回スクロール201では、共晶シリコン222の面積率が4.7%以上、また軟質材料であるアルミニウムの酸素濃度が2%以上になるように設定されているから、以下の理由により、上記焼付きの発生や摩耗が確実に防止される。すなわち、共晶シリコン222の面積率、及び基材であるアルミニウム221の酸素濃度に対する焼付き発生・摩耗量との関係を摩擦摩耗・焼付き試験によって調べた結果、共晶シリコン222の面積率が4.6%以下、基材であるアルミニウム221の酸素濃度が2%未満に設定した場合には、摩擦摩耗・焼付き試験での試験結果が不良となり、共晶シリコン222の面積率が4.7%以上、基材であるアルミニウム221の酸素濃度が2%以上に設定した場合には、摩擦摩耗・焼付試験での試験結果が良となり、カーボンと同等程度の結果となった。このように共晶シリコン222の面積率と基材であるアルミニウム221の酸素濃度は焼付き及び摩耗の発生に大きな影響を及ぼすが、上述の摩擦摩耗・焼付試験を行った結果に
より、共晶シリコン222の面積率を4.7%以上、基材であるアルミニウム221の酸素濃度を2%以上に設定すれば、耐焼付き、及び耐摩耗性を確実に確保できることが判明した。
【0032】
上記実施の形態1では、摺動部材として旋回スクロール201を例示して説明したが、この旋回スクロール201に代えて、あるいは旋回スクロール201に加えて、固定スクロール205を、軟質基材であるアルミニウム221に硬質粒子である微細な共晶シリコン222を分散させた軟質材料223としてのアルミニウム−シリコン系合金による鋳造品、または鍛造品で構成し、且つ共晶シリコン222を平均粒子径2〜10μmに、その面積率を4.7%以上、基材であるアルミニウム221の酸素濃度が2%以上に設定するとともに、固定スクロール205の摺動部である鏡板208、ラップ部209、ラップ先端部228に加えてリード弁226の弁座等の各部位に、部位的に、または全面にわたって、少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射させて当て、水中保持後、大気に均等に触れさせる処理を施すことにより、上述したと同様の効果が得ることができる。さらに、露出した共晶シリコン222と基材であるアルミニウム221の酸化皮膜229とによって弁座の強度が向上する効果も得られる。
【0033】
また、旋回スクロール201に代えて、あるいは旋回スクロール201に加えて、オルダムリング206を、軟質基材であるアルミニウム221に硬質粒子である微細な共晶シリコン222を分散させた軟質材料223としてのアルミニウム−シリコン系合金による鋳造品、または鍛造品で構成し、且つ共晶シリコン222を平均粒子径2〜10μmに、その面積率を4.7%以上、基材であるアルミニウム221の酸素濃度を2%以上に設定するとともに、オルダムリング206の摺動部であるキーに、少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射させて当て、水中保持後、大気に均等に触れさせる処理を施すことにより、上述したと同様の効果が得られるのに加えて、回転の偏心量が大きいロータリ式圧縮機や直線運動を回転運動に変換するレシプロ式圧縮機に比較して、アンバランス量が小さくなって極めて低振動なスクロール圧縮機となる利点がある。さらに、旋回スクロール201に代えて、あるいは旋回スクロール201に加えて、フレーム204を、軟質基材のアルミニウム221に硬質粒子である微細な共晶シリコン222を分散させた軟質材料223としてのアルミニウム−シリコン系合金による鋳造品、または鍛造品で構成し、且つ共晶シリコン222を平均粒子径2〜10μmに、その面積率を4.7%以上、基材であるアルミニウム221の酸素濃度を2%以上に設定するとともに、摺動部である軸受に少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射させて当て、水中保持後、大気に均等に触れさせる処理を施すことにより、上述したと同様の効果を得られるのに加えて、特に、旋回スクロール201を受けるスラスト軸受をフレーム204に設置している低圧型スクロール圧縮機においては、フレーム204の一部形状を変更することによってスラスト軸受をフレーム204に一体形成することが可能となるため、部品点数を削減できる利点がある。
【0034】
また、二酸化炭素を冷媒とし、且つPAGを潤滑油とするスクロール圧縮機は、塩素を含まない自然冷媒とこれに適合する潤滑油との組み合わせによってオゾン層の破壊や温暖化現象に大きな影響を与えないことから、給湯システムに搭載されている。ところが、二酸化炭素冷媒は高圧冷媒であることから、特に、旋回スクロール201においては非常に大きな圧力がかかって鏡板213に極めて高い面圧が発生し、潤滑状態が厳しくなるが、露出した共晶シリコン222と基材であるアルミニウム221に形成された酸化皮膜229、および微細な油溜り224によって、焼付きと摩耗の発生が効果的に防止されるから、高圧および高差圧の発生状態においても極めて高い信頼性が得られるだけでなく、安価で効率の高い二酸化炭素用高圧型スクロール圧縮機が得られる。なお、二酸化炭素冷媒に適合する潤滑油として、エーテル、エステル、PAO、アルキルベンゼンまたは鉱油を用いる場合にも、上述と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明にかかる圧縮機の摺動部材、またはその製造方法は、信頼性が高く、部品点数の少ない安価で効率の良い圧縮機を得ることが可能となるので、エネルギー消費効率の優れた業務用及び家庭用の空気調和機等が得られ、また、同構成により、圧縮機構の異なる、例えばロータリ圧縮機部材への用途、または圧縮機にかかわらず、一般的な軸受ブッシュ材表面構成の用途等の実運転時に境界潤滑領域以上の極めて厳しい潤滑状態となる摺動部においても、同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の摺動部材を適用したスクロール圧縮機の正面図
【図2】本発明の旋回スクロールの縦断面図
【図3】加工後の旋回スクロールの表層部の断面組織を示す模式図
【図4】本発明の旋回スクロールの表層部の断面組織を示す模式図
【図5】従来の旋回スクロールの外観を示す斜視図
【図6】従来の旋回スクロールを示す一部の断面図
【符号の説明】
【0037】
101 従来の旋回スクロール
102 従来の旋回スクロール・鏡板
103 従来の旋回スクロール・鏡板上面部
104 従来の旋回スクロール・ラップ部
105 従来の旋回スクロール・軸受部
106 従来の旋回スクロール・ラップ基材部
107 従来の旋回スクロール・ラップ基材部
108 従来の旋回スクロール・鏡板側面部
109 従来の旋回スクロール・ラップ表層部
201 旋回スクロール
202 密閉容器
203 圧縮機構部
204 フレーム
205 本発明の1実施例に於ける固定スクロール
206 オルダムリング
207 クランク軸
208 固定スクロール・鏡板
209 固定スクロール・ラップ部
210 固定スクロール・底面
211 吸入ポート
212 吸入管
213 旋回スクロール・鏡板(スラスト面)
214 旋回スクロール・鏡板(フレーム側)
215 旋回スクロール・ラップ部
216 旋回スクロール・ラップ先端部
217 旋回スクロール・軸受
218 旋回スクロール・キー溝
219 フレーム・環状溝
220 シール部材
221 アルミニウム
222 共晶シリコン
223 軟質材料(アルミニウム−シリコン系合金)
224 油溜り
225 吐出ポート
226 リード弁
227 吐出管
228 固定スクロール・ラップ先端部
229 酸化皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にそれより硬い硬質粒子を分散させた軟質材料より形成され、摺動部に少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射することで、摺動部の軟質材料を微少量剥離させ、摺動部最表面に硬質材料の露出率を増加させると共に、表面に油溜りとなるくぼみを形成し、更に前記軟質材料表面に均一な酸化皮膜を形成せしめた圧縮機。
【請求項2】
軟質材料は、硬質粒子としてのシリコンを基材としてのアルミニウムに分散させた、アルミニウム−シリコン系合金であることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
シリコンは共晶シリコンまたは微細化された初晶シリコンであり、平均粒子径が2〜10μmであり、最表面での析出面積率が4.7%以上、また軟質材料であるアルミニウムの酸素濃度が2%以上であることを特徴とする、請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
容器内に軸受により支承されたクランク軸を介して圧縮動作を行う圧縮機構部と、これを駆動する電動機とから成る冷凍空調用圧縮機で、圧縮機構部が固定枠体上に形成した固定スクロールと、この固定スクロールと互いに噛み合わせて複数個の圧縮空間を形成するように配設した旋回スクロールと、この旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構とから成るスクロール圧縮機において、摺動部材が旋回スクロールであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項5】
容器内に軸受により支承されたクランク軸を介して圧縮動作を行う圧縮機構部と、これを駆動する電動機とから成る冷凍空調用圧縮機で、圧縮機構部が固定枠体上に形成した固定スクロールと、この固定スクロールと互いに噛み合わせて複数個の圧縮空間を形成するように配設した旋回スクロールと、この旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構とから成るスクロール圧縮機において、摺動部材が固定スクロールであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項6】
容器内に軸受により支承されたクランク軸を介して圧縮動作を行う圧縮機構部と、これを駆動する電動機とから成る冷凍空調用圧縮機で、圧縮機構部が固定枠体上に形成した固定スクロールと、この固定スクロールと互いに噛み合わせて複数個の圧縮空間を形成するように配設した旋回スクロールと、この旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構とから成るスクロール圧縮機において、摺動部材が自転阻止機構の一部を構成するオルダムリングである請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項7】
容器内に軸受により支承されたクランク軸を介して圧縮動作を行う圧縮機構部と、これを駆動する電動機とから成る冷凍空調用圧縮機で、圧縮機構部が固定枠体上に形成した固定スクロールと、この固定スクロールと互いに噛み合わせて複数個の圧縮空間を形成するように配設した旋回スクロールと、この旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構とから成るスクロール圧縮機において、摺動部材が軸受を一体に備えたフレームである請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項8】
圧縮機は二酸化炭素を冷媒とし、PAG、エーテル、エステル、PAO、アルキルベンゼンまたは鉱油を潤滑油とするものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項9】
基材にそれより硬い硬質粒子を分散させた軟質材料より形成され、摺動部に少なくとも基材より硬く、非凝着性の高い硬質微粒子を含んだ水を、ガス圧力により噴射することで、摺動部の軟質材料を微少量剥離させ、摺動部最表面に硬質材料の露出率を増加させると共
に、表面に油溜りとなるくぼみを形成し、更に前記軟質材料表面に均一な酸化皮膜を形成せしめた圧縮機の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−332838(P2007−332838A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164302(P2006−164302)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】