説明

圧電体薄膜とその製造方法、インクジェットヘッド、インクジェットヘッドを用いて画像を形成する方法、角速度センサ、角速度センサを用いて角速度を測定する方法、圧電発電素子ならびに圧電発電素子を用いた発電方法

【課題】圧電特性の良い非鉛材料薄膜を実現するために、結晶配向性に優れた(Na,Bi)TiO3−BaTiO3薄膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】基板12上の(111)面方位である電極膜13上に形成された、
ペロブスカイト型複合酸化物(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層15において、電極膜13との界面に隣接して、(111)面方位である(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3(0.29≦x≦0.4)界面膜14を設けている。本発明による(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層15は、(111)面方位にのみに強く結晶配向することで優れた圧電特性を示し、鉛を含まない元素による圧電体薄膜を提供することができ、インクジェットヘッド、角速度センサ、圧電発電素子等への応用が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体層を備える圧電体薄膜とその製造方法に関する。さらに、本発明は、当該圧電体薄膜を備えるインクジェットヘッドと当該ヘッドを用いて画像を形成する方法、当該圧電体薄膜を備える角速度センサと当該センサを用いて角速度を測定する方法ならびに当該圧電体薄膜を備える圧電発電素子と当該素子を用いた発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(ZrxTi1-x)O3、0<x<1)は、大きな
電荷を蓄えることができる代表的な強誘電材料である。PZTは、コンデンサおよび薄膜メモリに使用されている。PZTは、強誘電性に基づく焦電性および圧電性を有する。PZTは高い圧電性能を有する。組成の調整または元素の添加によって、PZTの機械的品質係数Qmは容易に制御され得る。これらが、センサ、アクチュエータ、超音波モータ、フィルタ回路および発振子へのPZTの応用を可能にしている。
【0003】
しかし、PZTは多量の鉛を含む。近年、廃棄物からの鉛の溶出による、生態系および環境への深刻な被害が懸念されている。このため、国際的にも鉛の使用の制限が進められている。従って、PZTとは異なり、鉛を含有しない強誘電材料(非鉛強誘電材料)が求められている。
【0004】
現在開発が進められている非鉛(lead-free)強誘電材料の一例が、ビスマス(Bi)
、ナトリウム(Na)、バリウム(Ba)およびチタン(Ti)からなるペロブスカイト型複合酸化物[(Bi0.5Na0.51-yBay]TiO3である。特許文献1および非特許
文献1は、バリウム量y(=[Ba/(Bi+Na+Ba)])が5〜10%である場合に、当該強誘電材料が、およそ125pC/Nの圧電定数d33を有し、高い圧電性能を有することを開示している。ただし、当該強誘電体材料の圧電性能は、PZTの圧電性能より低い。
【0005】
特許文献2、非特許文献2、および非特許文献3は、特定の方向に配向した(Bi,Na,Ba)TiO3膜の作製を開示している。配向により(Bi,Na,Ba)TiO3膜の分極軸を揃えることによって、当該膜が有する残留分極および圧電性能のような強誘電特性の向上が期待される。
【0006】
しかし、(Bi,Na,Ba)TiO3バルクとは異なり、(Bi,Na,Ba)Ti
3薄膜は、リーク電流を生じる。非特許文献1は、厚み1mmの(Bi,Na,Ba)
TiO3ディスクであって、およそ1%の誘電損失tanδを有するディスクを開示する
。これに対して、非特許文献3は、kHz以下の低周波領域における(Bi,Na)TiO3薄膜の誘電損失が20%に届くことを開示する。リーク電流が多い(Bi,Na,B
a)TiO3膜の強誘電特性は著しく劣化する。このため、(Bi,Na,Ba)TiO3膜のリーク電流を抑えることが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−60073号公報
【特許文献2】特開2007−266346号公報
【特許文献3】特開平10−182291号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T. Takenaka et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol.30, No. 9B (1991) 2236-2239
【非特許文献2】H.W. Cheng et al., Applied Physics Letters, Vol.85 (2004) 2319-2321
【非特許文献3】M. Abazari et al., Applied Physics Letters, Vol.96 (2010) 082903-082905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、非鉛強誘電材料を含み、低い誘電損失およびPZTと同一の高い圧電性能を有する非鉛圧電体薄膜およびその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、当該非鉛圧電体薄膜を備えるインクジェットヘッド、角速度センサおよび圧電発電素子を提供することである。本発明のさらに他の目的は、当該インクジェットヘッドを用いて画像を形成する方法、当該角速度センサを用いて角速度を測定する方法および当該圧電発電素子を用いた発電方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧電体薄膜の構成は、下記の通りとなる。
(111)面方位である電極層上に形成された
(111)面方位である(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層において、
電極層との界面に隣接して、(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
界面層を設けることで、(111)面方位への結晶配向性に優れた(Na,Bi)TiO3−BaTiO3薄膜が作製可能となり、圧電特性の良い非鉛圧電体薄膜を実現できる。
また、本発明の圧電体薄膜の製造方法は、
(111)面方位である電極層上に、
界面層として(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記界面層上に主体層として(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記圧電体薄膜上に電極層を形成する工程とを含む圧電体薄膜の製造方法であって、
上記圧電体薄膜を形成する工程は、上記界面層により、結晶面方位を(111)面方位とさせる工程であることを特徴とする。
前記電極層はPtであり得る。
【0011】
上記の圧電体薄膜を備えたインクジェットヘッド、角速度センサ、および圧電発電素子、ならびにそれらを製造する方法は、本発明の趣旨に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、実施の形態1による圧電体薄膜の断面模式図
【図1B】図1Bは、実施の形態1による圧電体薄膜の断面模式図
【図2】図2は、本発明のインクジェットヘッドの一例を模式的に示す、部分的に当該インクジェットヘッドの断面が示された斜視図
【図3】図3は、図2に示すインクジェットヘッドにおける、圧力室部材およびアクチュエータ部を含む要部を模式的に示す、部分的に当該要部の断面が示された分解斜視図
【図4A】図4Aは、図2に示すインクジェットヘッドにおける、圧力室部材およびアクチュエータ部を含む要部の一例を模式的に示す断面図
【図4B】図4Bは、図2に示すインクジェットヘッドにおける、圧力室部材およびアクチュエータ部を含む要部の別の一例を模式的に示す断面図
【図5A】図5Aは、図2に示すインクジェットヘッドを製造する方法の一例における、圧電体層を含む積層体の形成工程を模式的に示す断面図
【図5B】図5Bは、図2に示すインクジェットヘッドを製造する方法の一例における、後に圧力室部材となる部材の形成工程を模式的に示す断面図
【図5C】図5Cは、図2に示すインクジェットヘッドを製造する方法の一例における、接着層を形成する工程を模式的に示す断面図
【図6A】図6Aは、図2に示すインクジェットヘッドを製造する方法の一例における、図5Aに示す工程で形成した積層体と図5Bに示す工程で形成した部材とを接合する工程を模式的に示す断面図
【図6B】図6Bは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、図6Aに示す工程に続く工程(中間層のエッチング工程)を模式的に示す断面図
【図7A】図7Aは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、図6Bに示す工程に続く工程(下地基板の除去工程)を模式的に示す断面図
【図7B】図7Bは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、図7Aに示す工程に続く工程(個別電極層の形成工程)を模式的に示す断面図
【図8A】図8Aは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、図7Bに示す工程に続く工程(圧電体層の微細加工工程)を模式的に示す断面図
【図8B】図8Bは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、図8Aに示す工程に続く工程(基板の切断工程)を模式的に示す断面図
【図9A】図9Aは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、インク流路部材およびノズル板の準備工程を模式的に示す断面図
【図9B】図9Bは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、インク流路部材とノズル板との接合工程を模式的に示す断面図
【図9C】図9Cは、図2に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例における、アクチュエータ部と圧力室部材との接合体と、インク流路部材とノズル板との接合体との接合工程を模式的に示す断面図
【図9D】図9Dは、図5A〜図9Cに示す工程によって得たインクジェットヘッドを模式的に示す断面図
【図10】図10は、圧力室部材とする基板上に、アクチュエータ部とする積層体を配置した一例を模式的に示す平面図
【図11】図11は、本発明のインクジェットヘッドの別の一例を模式的に示す断面図
【図12A】図12Aは、図11に示すインクジェットの製造方法の一例を説明するための模式的な断面図
【図12B】図12Bは、図11に示すインクジェットの製造方法の一例を説明するための模式的な断面図
【図13A】図13Aは、本発明の角速度センサの一例を模式的に示す斜視図
【図13B】図13Bは、本発明の角速度センサの別の一例を模式的に示す斜視図
【図14A】図14Aは、図13Aに示す角速度センサにおける断面E1を示す断面図
【図14B】図14Bは、図13Bに示す角速度センサにおける断面E2を示す断面図
【図15A】図15Aは、本発明の圧電発電素子の一例を模式的に示す斜視図
【図15B】図15Bは、本発明の圧電発電素子の別の一例を模式的に示す斜視図
【図16A】図16Aは、図15Aに示す圧電発電素子における断面F1を示す断面図
【図16B】図16Bは、図15Bに示す圧電発電素子における断面F2を示す断面図
【図17】実施例1〜5および比較例2、3による圧電体薄膜の断面図
【図18】比較例1、4、5による圧電体薄膜の断面図
【図19】実施例1〜5および比較例1〜5による圧電体薄膜のX線解析結果を示す図
【図20】実施例1および比較例1による圧電体薄膜のP−Eヒステリシス曲線を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明では、同一の部材に同一の符号を与える。これにより、重複する説明が省略され得る。
【0014】
[圧電体薄膜、圧電体薄膜の製造方法]
図1Aは、実施の形態1による圧電体薄膜を示す。当該圧電体薄膜は、積層構造16aを具備する。積層構造16aは、(111)配向を有する電極膜13と、(111)配向を有する(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3層14(0.29≦x≦0.4)と、(111)配向を有する(Bi,Na,Ba)TiO3圧電体層15とをこの順に有する。これらの層13〜15は互いに接している。(Bi,Na,Ba)TiO3圧電体層15は、高い結晶性および高い(111)配向性を有する。このため、圧電体薄膜は、鉛を含有しないにも拘わらず、低い誘電損失およびPZTと同一の高い圧電性能を有する。
【0015】
圧電体薄膜は、導電膜17をさらに具備することが好ましい。(Bi,Na,Ba)TiO3圧電体層15は、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14と導電膜17との間に挟まれている。積層構造16cは、積層構造16aおよび導電膜17を具備する。
【0016】
圧電体薄膜は、図1Bに示すように、基板12をさらに具備することが好ましい。電極膜13は、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14と基板12との間に挟まれている。
【0017】
好ましくは、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14は、2nm以上の厚みを有する。
【0018】
基板12の材料の例は、Si単結晶、酸化物、および金属である。当該酸化物は、(a)MgOのようなNaCl型構造、(b)SrTiO3、LaAlO3、NdGaO3のようなペロブスカイト型構造、(c)Al23のようなコランダム型構造、(d)MgAl24のようなスピネル型構造、(e)TiO2のようなルチル型構造、または(f)CaF2のような蛍石型構造を具備し得る。当該酸化物の他の例は、立方晶系構造を有する(La,Sr)(Al,Ta)O3(LSAT)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、およびガラスである。
【0019】
次に、圧電体薄膜を製造する方法を説明する。
まず、基板12上に、(111)配向を有する電極膜13が形成される。電極膜13は、基板12の格子定数および基板12からの熱膨張係数による応力のため、(111)配向を有する。
【0020】
電極膜13は、低い電気抵抗を有し、かつ耐熱性を有することが好ましい。電極膜13の材料の例は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、および金(Au)のような金属、ならびに酸化ニッケル(NiO)、酸化イリジウム(IrO2)、およびルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)のような酸化物導電体である。白金(Pt)が好ましい。
【0021】
電極膜13は、スパッタ法、パルスレーザー堆積法(PLD法)、化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、およびエアロゾルデポジション法(AD法)により形成され得る。スパッタ法が好ましい。
【0022】
電極膜13は、複数の層を具備し得る。例えば、電極膜13は、SrRuO3/Ptからなる積層体であり得る。(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3層(0.29≦x≦0.4)3に接する層は、(111)配向を具備することを必要とする。
【0023】
基板12と電極膜13との間には、必要に応じて第1の密着層(図示せず)が挟まれ得る。第1の密着層の材料の例は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、またはこれらの化合物である。
【0024】
次に、電極膜13上に、(111)配向を有する(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14(0.29≦x≦0.4)が形成される。
【0025】
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14は、スパッタ法、PLD法、CVD法、ゾルゲル法、およびAD法によって形成され得る。スパッタ法が好ましい。
【0026】
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14は、微量の1価の金属元素を含み得る。当該1価の金属元素の例は、カリウム(K)、リチウム(Li)、および銀(Ag)である。2種以上の当該一価の金属元素が含まれ得る。
【0027】
チタン酸ナトリウム・ビスマスの酸素量を表す「0.5x+2.75」は、誤差を含み得る。例えば、x=0.4であれば0.5×0.4+2.75=2.95である。しかし、ナトリウムの量が0.4である場合、チタン酸ナトリウム・ビスマスの酸素量は完全に2.95に一致するとは限らない。
【0028】
高い結晶性、高い配向性、および小さいリーク電流を有する圧電体層の形成のために好適な界面層の組成を、圧電体層および界面層が有する格子定数の類似性または組成の類似性に基づいて予測することは困難である。即ち、圧電体層の格子定数または組成に類似する格子定数または組成を有する界面層を単に設けることによって、上記の望ましい圧電体層は得られない。この理由は、(Bi,Na,Ba)TiO3のような多元系複合酸化物
を構成する各元素(酸素を除く)が異なる蒸気圧を有するため、良好な結晶性および良好な配向性を有する、当該複合酸化物により構成される薄膜を形成することが一般に困難であるからである。本発明者らは、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14(0.29≦x≦0.4)の上に設けられた(Bi,Na,Ba)TiO3圧電体層15が、高い結晶性、高い配向性、および小さいリーク電流を有することを見出した。
【0029】
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14の上に、(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層15が形成される。圧電体層15は、スパッタ法、パルスレーザー堆積法(PLD法)、化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、およびエアロゾルデポジション法(AD法)によって形成され得る。スパッタ法が好ましい。
【0030】
圧電体層15は、ABO3ペロブスカイト構造を有する。圧電体層15は微量の不純物を含み得る。当該不純物の例は、Naを置換するKまたはLi、Baを置換するSrまたはCa、Tiを置換するZrである。結晶性または圧電特性を向上させるため、圧電体層15は、Mn、Fe、Nb、またはTaを含み得る。
【0031】
圧電体層15は、0.5μm以上10μm以下の厚みを有することが好ましい。
【0032】
圧電体層15上に、導電膜17がスパッタ法によって形成される。導電膜17の材料の例は、低い電気抵抗を有するPt、Pd、およびAuのような金属、ならびにNiO、RuO2、IrO2、SrRuO3、およびLaNiO3のような酸化物導電体である。複数のこれらの材料が組み合わされ得る。
【0033】
圧電体層15と導電膜17との間には、必要に応じて第2の密着層(図示せず)が挟まれ得る。第2の密着層の材料の例は、Ti、Ta、Fe、Co、Ni、Cr、またはこれらの化合物である。
【0034】
[インクジェットヘッド]
以下、本発明のインクジェットヘッドを、図2〜図12Bを参照しながら説明する。
【0035】
図2は、本発明のインクジェットヘッドの一形態を示す。図3は、図2に示されるインクジェットヘッド100における、圧力室部材およびアクチュエータ部を含む要部を示す分解図である。
【0036】
図2および図3における符号Aは、圧力室部材を指し示す。圧力室部材Aは、その厚み方向(図の上下方向)に貫通する貫通孔101を具備する。図3に示される貫通孔101は、圧力室部材Aの厚み方向に切断された当該貫通孔101の一部である。符号Bは、圧電体薄膜および振動層を具備するアクチュエータ部を指し示す。符号Cは、共通液室105およびインク流路107を具備するインク流路部材Cを指し示す。圧力室部材A、アクチュエータ部Bおよびインク流路部材Cは、圧力室部材Aがアクチュエータ部Bおよびインク流路部材Cに挟まれるように、互いに接合している。圧力室部材A、アクチュエータ部Bおよびインク流路部材Cが互いに接合した状態で、貫通孔101は、共通液室105から供給されたインクを収容する圧力室102を形成する。
【0037】
アクチュエータ部Bが具備する圧電体薄膜および振動層は、平面視において圧力室102と重複する。図2および図3における符号103は、圧電体薄膜の一部である個別電極層を指し示す。図2に示されるように、インクジェットヘッド100は、平面視においてジグザグ状に配置された2以上の個別電極層103を、即ち、圧電体薄膜を、具備する。
【0038】
インク流路部材Cは、平面視においてストライプ状に配置された2以上の共通液室105を具備する。1つの共通液室105は、平面視において2以上の圧力室102と重複する。共通液室105は、インクジェットヘッド100におけるインク供給方向(図2における矢印方向)に伸びている。インク流路部材Cは、共通液室105内のインクを圧力室102に供給する供給口106と、圧力室102内のインクをノズル孔108から吐出するインク流路107とを具備する。通常、1つの供給孔106および1つのノズル孔108が、1つの圧力室102に対応付けられている。ノズル孔108は、ノズル板Dに形成されている。ノズル板Dは、圧力室部材Aとともにインク流路部材Cを挟むように、インク流路部材Cに接合している。
【0039】
図2における符号EはICチップを指し示す。ICチップEは、アクチュエータ部Bの表面に露出する個別電極層103に、ボンディングワイヤBWを介して電気的に接続されている。図2を明瞭にするために、一部のボンディングワイヤBWのみが図2に示される。
【0040】
図4Aおよび図4Bは、圧力室部材Aおよびアクチュエータ部Bを含む要部の構成を示す。図4Aおよび図4Bは、圧力室部材Aおよびアクチュエータ部Bにおける、インク供給方向(図2における矢印方向)に直交する断面を示す。アクチュエータ部Bは、第1の電極(個別電極層103)および第2の電極(共通電極層112)に挟まれた圧電体層15を有する圧電体薄膜104(104a〜104d)を具備する。1つの個別電極層103は、1つの圧電体薄膜104a〜104dに対応付けられている。共通電極層112は、圧電体薄膜104a〜104dに共通する電極である。
【0041】
図4Aに示される圧電体薄膜104は、図1Aに示される積層構造16cを有する。当該積層構造は、個別電極層103である電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜14(0.29≦x≦0.4)、(Bi,Na,Ba)TiO3圧電体層15および共通電極層112である導電膜17を、電極膜13側から、この順に具備する。
【0042】
図4Bに示される圧電体薄膜104は、図1Bに示される積層構造16dを有する。当該構造は、個別電極層103である基板12および電極膜13、ならびに(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、圧電体層である(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および共通電極層112である導電膜17を、基板12側からこの順に有する。電極膜13は、基板12上に形成されている。
【0043】
図4Aおよび図4Bに示される圧電体薄膜104において、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15、および導電膜17は、基本的に、その好しい形態を含め、本発明の圧電体薄膜に関する上述の説明のとおりである。
共通電極層112である導電膜17は、導電性材料からなる密着層を表面に有するPt膜であり得る。当該導電性材料は、Tiが好ましい。なぜなら、Tiは、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15に対して高い密着性を有し、圧電体層と共通電極層との密着層として良好に機能し得るからである。
【0044】
第1の電極および第2の電極の間に印加される電圧が圧電体層15の変形を誘起し得る限り、第1の電極および第2の電極のいずれもが個別電極層であり得る。すなわち、本発明のインクジェットにおける圧電体薄膜は、共通電極層112、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、圧電体層である(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および個別電極層103を、この順に具備し得る。この場合、第1の電極である共通電極層112は電極膜13からなる。あるいは、共通電極層112は、電極膜13と基板12との積層体からなり、当該圧電体薄膜において電極膜13が(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14と接するように配置される。個別電極層103は、導電膜17からなる。
【0045】
個別電極層103は0.05μm以上1μm以下の厚みを有することが好ましい。個別電極層103が基板12および電極膜13の積層体である場合、電極膜13は0.05μm以上0.5μm以下の厚みを有することが好ましい。(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14は0.05μm以上0.5μm以下の厚みを有することが好ましい。(Bi,Na,Ba)TiO3膜15は0.5μm以上5μm以下の厚みを有することが好ましい。共通電極層112は0.05μm以上0.5μm以下の厚みを有することが好ましい。
【0046】
アクチュエータ部Bは、振動層111をさらに具備する。振動層111は、圧電体薄膜104の共通電極層112に接合している。振動層111は、圧電効果による圧電体薄膜104の変形に応じて、振動層111の膜厚方向に変位する。個別電極層103および共通電極層112を介する圧電体層15への電圧の印加が、圧電効果による圧電体薄膜104の変形をもたらす。
【0047】
圧力室部材Aは、中間層113および接着層114を介して振動層111に接合している。圧力室部材Aおよび圧電体薄膜104が、振動層111を間に挟んでいる。
(1)圧電効果による圧電体薄膜104の変形に応じて振動層111が変位し、 (2)振動層111の変位に応じて圧力室102の容積が変化し、かつ、 (3)圧力室102の容積の変化に応じて圧力室102内のインクが吐出し得る限り、振動層111の構成、圧電体薄膜104と振動層111との間の接合の状態、ならびに振動層111と圧力室部材Aとの間の接合の状態は、限定されない。図4Aおよび図4Bでは、振動層111は圧力室102の壁面を構成している。
【0048】
振動層111を構成する材料は、例えば、Crである。当該材料は、Ni、アルミニウム(Al)、Ta、タングステン(W)、シリコン、あるいはこれらの元素の酸化物、窒化物(例えば、二酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化シリコン)であり得る。振動層111の厚みは、2μm以上5μm以下が好ましい。
【0049】
接着層114を構成する材料は、例えば、接着剤または粘着剤である。当業者は、接着剤および粘着剤の種類を適切に選択し得る。
【0050】
中間層(縦壁)113は、圧力室部材Aが接着層114を介して振動層111に接合する際に、圧力室102に露出する振動層111の一部分に接着層114が付着することを防ぐ。当該一部分に付着した接着剤は、振動層111の変位を妨げる。中間層113を構成する材料は、インクジェットヘッド100の機能が維持される限り、限定されない。中間層113の材料は、例えば、Tiである。中間層113は、省略され得る。
【0051】
圧力室部材Aは、隣り合う圧力室102間に区画壁102aを有する。
【0052】
図2に示されるインクジェットヘッド100を製造する方法の一例を、図5A〜図10を参照しながら説明する。
最初に、図5Aに示されるように、基板120の上に、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)(界面層)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜(圧電体層)15、導電膜17、振動層111および中間層113をこの順に形成して、積層体132を得る。各層(膜)を形成する薄膜形成手法は特に限定されない。当該手法の例は、PLD法、CVD法、ゾルゲル法、AD法、スパッタリング法である。当該手法は、スパッタリング法が好ましい。
【0053】
積層体132の形成とは別に、後に圧力室部材Aとなる部材を形成する。この部材は、例えば、Si基板(好ましくはSi単結晶基板)を微細加工して形成し得る。Si基板のサイズは、基板120のサイズよりも大きいことが好ましい(図10参照。図10における符号130が、Si基板。符号130は、Si基板以外の他の基板であり得る)。より具体的には、図5Bに示されるように、複数の貫通孔101が基板130に形成される。貫通孔101は、この部材が、別途形成したアクチュエータ部およびインク流路部材に接合した後、圧力室102として機能する。図5Bでは、1つの貫通孔群が4つの貫通孔101から構成される。基板130は、複数の当該貫通孔群を具備する。第1区画壁102aは、1つの貫通孔群に属する隣接する2つの貫通孔101を区分する。隣接する2つの貫通孔群を、第2区画壁102bが区分する。第2区画壁102bは、第1区画壁102aが有する幅の2倍以上の幅を有することが好ましい。貫通孔101は公知の微細加工手法により、基板130に設けられ得る。当該手法は、例えば、パターニングとエッチングとの組み合わせであり得る。エッチングは、ケミカルエッチングまたはドライエッチングであり得る。貫通孔101の形状は、望まれる圧力室102の形状に対応付けられ得る。以下、第1区画壁102aおよび第2区画壁102bを、まとめて区画壁102と呼ぶ。
【0054】
次に、図5Cに示されるように、区画壁102の上に接着層114を形成する。接着層114の形成方法は限定されない。当該方法は、例えば、電着法であり得る。
その後、図6Aに示されるように、基板130は積層体132に接合する。当該接合によって、中間層113が基板130および積層体132の間に挟まれる。基板130のサイズが基板120のサイズよりも大きい場合、図10に示されるように、複数の積層体132(図10に示される例では14の積層体。図10では、積層体132が具備する基板120が見えている)が基板130に接合し得る。図6Aでは、基板130に2つの積層体132が接合する。図6Aでは、2つの積層体132の中心は、第2区画壁102bの延長線上に位置する。基板130の積層体132への接合により、導電膜17は共通電極層112となる。
【0055】
接着層114が熱硬化性の接着剤により構成される場合、基板130が積層体132に接合した後、熱を加えて接着層114を完全に硬化させることが好ましい。接合時に貫通孔101にはみ出した接着層114は、プラズマ処理によって除去され得る。
【0056】
次に、図6Bに示されるように、区画壁102をマスクとして用いて中間層113をエッチングする。当該エッチングは、貫通孔101の断面の形状に合致させるように行う。これにより、振動層111が貫通孔101に露出する。当該エッチングによって、中間層113は、平面視において区画壁102と同一の形状に変化する。中間層113は、区画壁102および接着層114とともに、縦壁を構成する。このようにして、基板130、中間層113および接着層114を具備する圧力室部材Aが形成される。
【0057】
図5B〜図6Bに示される例では、貫通孔101が形成された基板130が、圧電体層15を含む積層体132に接合する。この手順に代えて、貫通孔101を具備しない基板130が積層体132に接合し、そして当該基板130に貫通孔101を形成して振動層111を露出させることによっても、圧力室部材Aは形成され得る。
【0058】
その後、図7Aに示されるように、基板120が、例えば、エッチングにより除去される。
【0059】
次に、図7Bに示されるように、フォトリソグラフィとエッチングとを組み合わせた微細加工によって、基板12および電極膜13は、2以上の個別電極層10
3に変化する。各個別電極層103は、平面視において、個々の貫通孔101に対応付けられる。
【0060】
その後、図8Aに示されるように、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14および(Bi,Na,Ba)TiO3膜15が微細加工される。微細加工した(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14および(Bi,Na,Ba)TiO3膜15は、いずれも、平面視において個別電極層103の形状と同一の形状を有する。当該微細加工では、平面視における各層(膜)の中心が貫通孔101の中心に高い精度で一致することが好ましい。このようにして、個別電極層103(基板12および電極膜13)、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15、および共通電極層112(導電膜17)から構成される圧電体薄膜104と、振動層111とを備えるアクチュエータ部Bが形成される。
【0061】
次に、図8Bに示されるように、共通電極層112、振動層111および基板130を、第2区画壁102bごとに切断して、2以上の部材133を得る。1つの部材133は、アクチュエータ部Bと、2以上の貫通孔101を有する圧力室部材Aとを具備している。アクチュエータ部Bは圧力室部材Aに接合している。
【0062】
上述した各手順とは別に、図9Aに示されるように、共通液室105、供給口106およびインク流路107を具備するインク流路部材Cと、ノズル孔108を具備するノズル板Dとが準備される。
【0063】
次に、図9Bに示されるように、インク流路部材Cの主面に垂直な方向から見てインク流路107がノズル孔108に重複するように、インク流路部材Cをノズル板Dに接合して接合体を得る。インク流路107に、ノズル孔108の全体が露出することが好ましい。両部材の接合方法は限定されず、例えば、接着剤が用いられ得る。
【0064】
その後、図9Cに示されるように、部材133は、図9Bに示される工程で準備した接合体に接合する。より具体的には、圧力室部材Aにおけるアクチュエータ部B側とは反対側の面が、インク流路部材Cにおけるノズル板D側とは反対側の面に接合する。接合時にはアライメント調整が行われ、当該接合によって貫通孔101を圧力室102として機能させる。接合方法は限定されず、例えば、接着剤が用いられ得る。このようにして、図9D(図2)に示されるインクジェットヘッド100が得られる。
【0065】
当業者は、基板12を具備しない圧電体薄膜104を備えるインクジェットヘッドを、図5A〜図10に示される方法を応用して製造し得る。
【0066】
図11は、本発明の他のインクジェットヘッドを示す。図11に示されるインクジェットヘッド141は、図2〜図4に示されるインクジェットヘッド100と比較して、簡易な構造を有する。具体的には、インクジェットヘッド100からインク流路部材Cが除去されている。
【0067】
図11に示されるインクジェットヘッド141は、以下の(1)〜(6)を除き、図2〜図4に示されるインクジェットヘッド100と同一である:(1)インク流路部材Cがなく、そしてノズル孔108を具備するノズル板Dが、直接、圧力室部材Aに接合している;(2)中間層113がなく、そして振動層111が、直接、圧力室部材Aに接合している;(3)振動層111と共通電極層112との間に密着層142が配置されており、当該密着層142がこれらの間の密着性を向上させている;(4)共通電極層112が、基板12と電極膜13との積層体である;(5)個別電極層103が導電膜17である;(6)共通電極層112側から、共通電極層112(基板12および電極膜13)、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および個別電極層103(導電膜17)が順に積層されている。
【0068】
共通電極層112は、第1の電極として機能する。個別電極層103は、第2の電極として機能する。密着層142を構成する材料は、例えば、Tiである。
図11に示されるインクジェットヘッド141は、例えば、図12Aおよび図12Bに示される方法によって製造され得る。最初に、図12Aに示されるように、基板130の一方の主面に、振動層111、密着層142、共通電極層112(基板12および電極膜13)、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および導電膜17を、この順に形成する。各層(膜)の形成手法は、上述したとおりである。当該手法は、スパッタリング法が好ましい。
【0069】
この実施形態では、基板130がSiである場合、当該基板の表面を酸化することによって、二酸化シリコンにより構成される振動層111を形成し得る。このとき、振動層111の厚みは、0.5〜10μmであり得る。
【0070】
次に、図12Bに示されるように、基板130において圧力室102が形成される位置に貫通孔101が形成される。次に、基板130の主面に垂直な方向から見て、貫通孔101の中心が、導電膜17、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および(NaxBi0.5
)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14の各層の中心に一致するように、これらの層に微細加工が施される。当該微細加工によって、導電膜17が個別電極層103に変化する。貫通孔101の形成および各層の微細加工には、パターニングとエッチングとを組み合わせた公知の微細加工手法が用いられ得る。パターニングには、レジストのスピンコートが用いられ得る。エッチングはドライエッチングが好ましい。貫通孔101の形成には異方性ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングでは、フッ素原子を含む有機ガスとアルゴンとの混合ガスが使用され得る。異方性ドライエッチングでは、当該混合ガスが、さらに六フッ化硫黄ガスを含み得る。
【0071】
最後に、基板130は、別途形成しておいたノズル孔108を有するノズル板と接合し、図11に示されるインクジェットヘッド141を得る。接合時には、アライメント調整が行われ、これらの接合によって貫通孔101を圧力室102として機能させる。接合する方法は限定されず、例えば、接着剤が用いられ得る。ノズル孔108は、リソグラフィー法、レーザー加工法、放電加工法のような微細加工手法により、ノズル板に形成し得る。
【0072】
[インクジェットヘッドを用いた画像形成方法]
本発明の画像を形成する方法は、上述した本発明のインクジェットヘッドにおいて、第1および第2の電極(すなわち、個別電極層および共通電極層)を介して圧電体層に電圧を印加し、圧電効果により振動層を当該層の膜厚方向に変位させて圧力室の容積を変化させる工程、ならびに当該変位により圧力室からインクを吐出させる工程を含有する。
紙のような画像形成対象物とインクジェットヘッドとの間の相対位置を変化させながら、圧電体層に印加する電圧を変化させてインクジェットヘッドからのインクの吐出タイミングおよび吐出量を制御することによって、対象物の表面に画像が形成される。本明細書において用いられる用語「画像」は、文字を含む。換言すれば、本発明の画像を形成する方法により、紙のような印刷対象物に、文字、絵、図形などが印刷される。当該方法では、高い表現力を有する印刷をなし得る。
【0073】
[角速度センサ]
図13A、図13B、図14Aおよび図14Bは、本発明の角速度センサの一例を示す。図14Aは、図13Aに示される角速度センサ21aの断面E1を示す。図14Bは、図13Bに示される角速度センサ21bの断面E2を示す。図13A〜図14Bに示される角速度センサ21a、21bは、いわゆる音叉型角速度センサである。これは車両用ナビゲーション装置およびデジタルスチルカメラの手ぶれ補正センサに使用され得る。
【0074】
図13A〜図14Bに示される角速度センサ21a、21bは、振動部200bを有する基板200と、振動部200bに接合された圧電体薄膜208とを備える。
【0075】
基板200は、固定部200aと、固定部200aから所定の方向に伸びた一対のアーム(振動部200b)とを具備する。振動部200bが延びる方向は、角速度センサ21が測定する角速度の回転中心軸Lが延びる方向と同一である。具体的には、当該方向は、図13A、13BではY方向である。基板200の厚み方向(図13A、13BにおけるZ方向)から見て、基板200は2本のアーム(振動部200b)を有する音叉の形状を有している。
【0076】
基板200を構成する材料は限定されない。当該材料は、例えば、Si、ガラス、セラミクス、金属である。基板200は、Si単結晶基板であり得る。基板200の厚みは、角速度センサ21a、21bとしての機能が発現できる限り、限定されない。より具体的には、基板200の厚みは0.1mm以上0.8mm以下である。固定部200aの厚みは、振動部200bの厚みと異なり得る。
【0077】
圧電体薄膜208は、振動部200bに接合している。圧電体薄膜208は、圧電体層である(Bi,Na,Ba)TiO3膜15と、界面層である(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14と、第1の電極202および第2の電極205と、を備える。圧電体層15は、第1の電極202および第2の電極205の間に挟まれている。圧電体薄膜208は、第1の電極202、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および第2の電極205が、この順に積層された積層構造を有する。
【0078】
図13Aおよび図14Aに示される圧電体薄膜208では、第1の電極202は、基板12および電極膜13の積層体である。電極膜13が(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14に接する。当該圧電体薄膜208は、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および第2の電極205が、この順に積層された積層構造を有する。すなわち、図13Aおよび図14Aに示される圧電体薄膜208は、第2の電極205を導電膜17と考えて、図1Bに示される圧電体薄膜1dと同一である。
【0079】
図13Bおよび図14Bに示される圧電体薄膜208では、第1の電極202は、電極膜13である。当該圧電体薄膜208は、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および第2の電極205が、この順に積層された積層構造を有する。すなわち、図13Bおよび図14Bに示される圧電体薄膜208は、第2の電極205を導電膜17と考えて、図1Aに示される圧電体薄膜1cと同一である。
【0080】
図13A〜図14Bに示される圧電体薄膜208において、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4
)14および(Bi,Na,Ba)TiO3膜15は、その好ましい形態を含め、基本的
に、本発明の圧電体薄膜に関する上述の説明のとおりである。
第2の電極205を構成する材料は限定されず、例えば、Cuである。Cu電極は、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15に対する高い密着性を有することから、好ましい。第
2の電極205は、導電性材料からなる密着層を表面に有するPt電極膜またはAu電極膜であり得る。密着層を構成する材料は、例えば、Tiである。Tiは、(Bi,Na,Ba)TiO3膜に対する高い密着性を有する。
【0081】
第2の電極205は、駆動電極206およびセンス電極207を含む電極群を具備する。駆動電極206は、振動部200bを発振させる駆動電圧を圧電体層15に印加する。センス電極207は、振動部200bに加わった角速度によって振動部200bに生じた変形を測定する。振動部200bの発振方向は、通常、その幅方向(図13A、13BにおけるX方向)である。より具体的には、図13A〜図14Bに示される角速度センサでは、一対の駆動電極206が、振動部200bの幅方向に対する両端部に、振動部200bの長さ方向(図13A、13BのY方向)に沿って設けられている。1本の駆動電極206が、振動部200bの幅方向に対する一方の端部に設けられ得る。図13A〜図14Bに示される角速度センサでは、センス電極207は、振動部200bの長さ方向に沿って設けられており、かつ一対の駆動電極206の間に挟まれている。複数のセンス電極207が、振動部200b上に設けられ得る。センス電極207によって測定される振動部200bの変形は、通常、その厚み方向(図13A、13BにおけるZ方向)の撓みである。
【0082】
本発明の角速度センサでは、第1の電極および第2の電極から選ばれる一方の電極が、駆動電極とセンス電極とを含む電極群により構成され得る。図13A〜図14Bに示される角速度センサ21a、21bでは、第2の電極205が当該電極群により構成される。当該角速度センサとは異なり、第1の電極202が当該電極群により構成され得る。一例として、基板200から見て、第2の電極205、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15
、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14および第1の電極202(第1の電極は、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14に接する電極膜13を具備する)が、この順に積層され得る。
【0083】
接続端子202a、206aおよび207aが、第1の電極202の端部、駆動電極206の端部およびセンス電極207の端部に、それぞれ形成されている。各接続端子の形状および位置は限定されない。図13A、13Bでは、接続端子は固定部200a上に設けられている。
【0084】
第1の電極202の厚みは、0.05μm以上1μm以下が好ましい。第1の電極202が基板12と電極膜13との積層体である場合、電極膜13の厚みは0.05μm以上0.5μm以下が好ましい。(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75
BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14の厚みは、0.05μm以上0.5μm以
下が好ましい。(Bi,Na,Ba)TiO3膜15の厚みは、0.5μm以上5μm以
下が好ましい。第2の電極205の厚みは、0.05μm以上0.5μm以下が好ましい。
【0085】
図13A〜図14Bに示される角速度センサでは、圧電体薄膜208は、振動部200bおよび固定部200aの双方に接合している。しかし、圧電体薄膜208が振動部200bを発振させることができ、かつ振動部200bに生じた変形が圧電体薄膜208によって測定され得る限り、圧電体薄膜208の接合の状態は限定されない。例えば、圧電体薄膜208は、振動部200bのみに接合され得る。
【0086】
本発明の角速度センサは、一対の振動部200bからなる振動部群を2以上有し得る。そのような角速度センサは、複数の回転中心軸に対する角速度を測定し得、2軸あるいは3軸の角速度センサとして機能し得る。図13A〜図14Bに示される角速度センサは、一対の振動部200bからなる1つの振動部群を有する。
【0087】
本発明の角速度センサは、上述した本発明の圧電体薄膜の製造方法を応用して、例えば、以下のように製造され得る。ただし、以下に示される方法は、第1の電極202が基板12を具備する場合の方法である。当業者は、第1の電極202が基板12を具備しない場合についても、以下の方法を応用し得る。
【0088】
最初に、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および導電膜17を、基板(例えばSi基板)の表面に、この順に形成する。各層(膜)の形成には、上述した薄膜形成手法を適用し得る。当該手法は、スパッタリング法が好ましい。
【0089】
次に、導電膜17をパターニングにより微細加工して、駆動電極206およびセンス電極207により構成される第2の電極205を形成する。さらに、微細加工により、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、電極膜13および基板12をパターニングする。そして、微細加工により基板をパターニングして、振動部200bを形成する。このようにして、本発明の角速度センサが製造され得る。
【0090】
微細加工の方法は、例えばドライエッチングである。
【0091】
本発明の角速度センサは、下地基板を用いた転写を応用して製造され得る。具体的には、例えば、以下の方法を適用し得る。最初に、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および導電膜17を、下地基板の表面に、この順に形成する。次に、形成された積層体を他の新たな基板に、当該基板と当該導電膜17とが接するように、接合する。次に、下地基板を公知の方法により除去する。次に、各層(膜)を微細加工によりパターニングして、本発明の角速度センサが製造され得る。当該積層体および当該新たな基板は、例えば接着層を介して接合し得る。当該接着層の材料は、当該積層体が当該新たな基板に安定して接着する限り限定されない。より具体的には、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シリコーン系接着剤、およびポリイミド系接着剤が用いられ得る。このとき、接着層は0.2μm以上1μm以下の厚みを有することが好ましい。
【0092】
[角速度センサによる角速度の測定方法]
本発明の角速度を測定する方法は、本発明の角速度センサを用いて、駆動電圧を圧電体層に印加して、基板の振動部を発振させる工程、および発振中の振動部に加わった角速度によって振動部に生じた変形を測定することによって当該角速度の値を得る工程、を有する。第1の電極および第2の電極のうち、駆動電極およびセンス電極として機能しない電極(他方の電極)と、駆動電極との間に駆動電圧が印加され、圧電体層に駆動電圧が印加される。他方の電極およびセンス電極が、角速度によって、発振中の振動部に生じた変形を測定する。
【0093】
以下、図13A、13Bに示される角速度センサ21a、21bを用いた角速度の測定方法を説明する。振動部200bの固有振動と共振する周波数の駆動電圧が、第1の電極202および駆動電極206を介して圧電体層である(Bi,Na,Ba)TiO3膜15に印加され、振動部200bを発振させる。印加された駆動電圧の波形に応じて圧電体層15が変形し、当該層と接合されている振動部200bが発振する。駆動電圧は、例えば、第1の電極202を接地し、かつ駆動電極206の電位を変化させることで印加され得る(換言すれば、駆動電圧は、第1の電極202と駆動電極206との間の電位差である)。角速度センサ21a、21bは、音叉の形状に配列された一対の振動部200bを有する。通常、一対の振動部200bのそれぞれが有する各駆動電極206に、正負が互いに逆である電圧をそれぞれ印加する。これにより、各振動部200bを、互いに逆方向に振動するモード(図13A、13Bに示される回転中心軸Lに対して対称的に振動するモード)で発振させることができる。図13A、13Bに示される角速度センサ21a、21bでは、振動部200bはその幅方向(X方向)に発振する。一対の振動部200bの一方のみを発振させることによっても角速度の測定は可能である。しかし、高精度の測定のためには、両方の振動部200bを互いに逆方向に振動するモードで発振させることが好ましい。
【0094】
振動部200bが発振している角速度センサ21a、21bに対して、その回転中心軸Lに対する角速度ωが加わるとき、各振動部200bは、コリオリ力によって厚み方向(Z方向)に撓む。一対の振動部200bが互いに逆方向に振動するモードで発振している場合、各振動部200bは、互いに逆向きに、同じ変化量だけ撓むことになる。この撓みに応じて、振動部200bに接合した圧電体層15も撓み、第1の電極202とセンス電極207との間に、圧電体層15の撓みに応じた、即ち、生じたコリオリ力に対応した電位差が生じる。この電位差の大きさを測定することで、角速度センサ21a、21bに加わった角速度ωを測定することができる。
【0095】
コリオリ力Fcと角速度ωとの間には以下の関係が成立する:
Fc=2mvω
ここで、vは、発振中の振動部200bにおける発振方向の速度である。mは、振動部200bの質量である。この式に示されているように、コリオリ力Fcから角速度ωを算出し得る。
【0096】
[圧電発電素子]
図15A、図15B、図16Aおよび図16Bは、本発明の圧電発電素子の一例を示す。図16Aは、図15Aに示される圧電発電素子22aの断面F1を示す。図16Bは、図15Bに示される圧電発電素子22bの断面F2を示す。圧電発電素子22a、22bは、外部から与えられた機械的振動を電気エネルギーに変換する素子である。圧電発電素子22a、22bは、車両および機械の動力振動および走行振動、ならびに歩行時に生じる振動、に包含される種々の振動から発電する自立的な電源装置に好適に適用される。
【0097】
図15A〜図16Bに示される圧電発電素子22a、22bは、振動部300bを有する基板300と、振動部300bに接合された圧電体薄膜308とを具備する。
【0098】
基板300は、固定部300aと、固定部300aから所定の方向に伸びた梁により構成される振動部300bと、を有する。固定部300aを構成する材料は、振動部300bを構成する材料と同一であり得る。しかし、これらの材料は互いに異なり得る。互いに異なる材料により構成された固定部300aが、振動部300bに接合され得る。
【0099】
基板300を構成する材料は限定されない。当該材料は、例えば、Si、ガラス、セラミクス、金属である。基板300は、Si単結晶基板であり得る。基板300は、例えば、0.1mm以上0.8mm以下の厚みを有する。固定部300aは振動部300bの厚みと異なる厚みを有し得る。振動部300bの厚みは、振動部300bの共振周波数を変化させて効率的な発電が行えるように調整され得る。
【0100】
錘荷重306が振動部300bに接合している。錘荷重306は、振動部300bの共振周波数を調整する。錘荷重306は、例えば、Niの蒸着薄膜である。錘荷重306の材料、形状および質量ならびに錘荷重306が接合される位置は、求められる振動部300bの共振周波数に応じて調整され得る。錘荷重は省略され得る。振動部300bの共振周波数が調整されない場合には、錘荷重は不要である。
【0101】
圧電体薄膜308は、振動部300bに接合している。圧電体薄膜308は、圧電体層である(Bi,Na,Ba)TiO3膜15と、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14と、第1の電極302および第2の電極305
と、を備える。(Bi,Na,Ba)TiO3膜15は、第1の電極302および第2の
電極305の間に挟まれている。圧電体薄膜308は、第1の電極302、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および第2の電極305が、この順に積層された積層構造を有する。
【0102】
図15Aおよび図16Aに示される圧電体薄膜308では、第1の電極302は、基板12および電極膜13の積層体である。電極膜13が(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14に接する。当該圧電体薄膜308は、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および第2の電極305が、この順に積層された積層構造を有する。すなわち、図15Aおよび図16Aに示される圧電体薄膜308は、第2の電極305を導電膜17と考えて、図1Bに示される積層構造16dと同一である。
【0103】
図15Bおよび図16Bに示される圧電体薄膜308では、第1の電極302は、電極膜13である。当該圧電体薄膜308は、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および第2の電極305が、この順に積層された積層構造を有する。すなわち、図15Bおよび図16Bに示される圧電体薄膜308は、第2の電極305を導電膜17と考えて、図1Aに示される積層構造16cと同一である。
【0104】
図15A〜図16Bに示される圧電体薄膜308において、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14および(Bi,Na,Ba)TiO3膜15は、その好ましい形態を含め、基本的に、本発明の圧電体薄膜に関する上述の説明のとおりである。
【0105】
第2の電極305は、例えば、Cu電極膜であり得る。Cu電極は、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15に対する高い密着性を有することから、好ましい。第2の電極305は、導電性材料からなる密着層を表面に有するPt電極膜またはAu電極膜であり得る。密着層を構成する材料は、例えば、Tiである。Tiは、(Bi,Na,Ba)TiO3膜に対する高い密着性を有する。
【0106】
図15A〜図16Bに示される圧電発電素子では、第1の電極302の一部分が露出している。当該一部分は接続端子302aとして機能し得る。
【0107】
第1の電極302の厚みは、0.05μm以上1μm以下が好ましい。第1の電極302が基板12と電極膜13との積層体である場合、電極膜13の厚みは0.05μm以上0.5μm以下が好ましい。(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14の厚みは、0.05μm以上0.5μm以下が好ましい。(Bi,Na,Ba)TiO3膜15の厚みは、0.5μm以上5μm以下が好ましい。第2の電極305の厚みは、0.05μm以上0.5μm以下が好ましい。
【0108】
図15A〜図16Bに示される圧電発電素子では、振動部300bを有する基板300側から見て、第1の電極302、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および第2の電極305が、この順に積層されている。これらの層の積層順序は逆であり得る。即ち、振動部を有する基板側から見て、第2の電極、(Bi,Na,Ba)TiO3膜、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)および第1の電極(第1の電極は、当該(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)に接するLaNiO3膜を具備する)が、この順に積層され得る。
【0109】
図15A〜図16Bに示される圧電発電素子では、圧電体薄膜308は、振動部300bおよび固定部300aの双方に接合し得る。圧電体薄膜308は、振動部300bのみに接合し得る。
【0110】
本発明の圧電発電素子では、複数の振動部300bを有することで、発生する電力量を増大し得る。各振動部300bが有する共振周波数を変化させることにより、広い周波数成分からなる機械的振動への対応が可能となる。
【0111】
本発明の圧電発電素子は、上述した本発明の圧電体薄膜の製造方法を応用して、例えば、以下のように製造され得る。ただし、以下に示される方法は、第1の電極302が基板12を具備する場合の方法である。当業者は、第1の電極302が基板12を具備しない場合についても、以下の方法を応用し得る。
【0112】
最初に、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および導電膜17を、基板(例えばSi基板)の表面に、この順に形成する。各層(膜)の形成には、上述した薄膜形成手法を適用し得る。当該手法は、スパッタリング法が好ましい。
【0113】
次に、導電膜17をパターニングにより微細加工して、第2の電極305を形成する。さらに微細加工により、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、電極膜13および基板12をパターニングする。電極膜13および基板12のパターニングにより、接続端子302aが併せて形成される。そして、微細加工により基板をパターニングして、固定部300aおよび振動部300bが形成される。このようにして、本発明の圧電発電素子が製造され得る。振動部300bの共振周波数の調整が必要とされる場合は、公知の方法により、錘荷重306が振動部300bに接合する。
【0114】
微細加工の方法は、例えばドライエッチングである。
【0115】
本発明の圧電発電素子は、下地基板を用いた転写を応用して製造され得る。具体的には、例えば、以下の方法を適用し得る。最初に、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15および導電膜17を、下地基板の表面に、この順に形成する。次に、形成された積層体を他の新たな基板に、当該基板と当該導電膜17とが接するように、接合する。次に、下地基板を公知の方法により除去する。次に、各層(膜)を微細加工によりパターニングして、本発明の圧電発電素子が製造され得る。当該積層体および当該新たな基板は、例えば接着層を介して接合し得る。当該接着層の材料は、当該積層体が当該新たな基板に安定して接着する限り限定されない。より具体的には、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シリコーン系接着剤、およびポリイミド系接着剤が用いられ得る。このとき、接着層は0.2μm以上1μm以下の厚みを有することが好ましい。
【0116】
[圧電発電素子を用いた発電方法]
上述した本発明の圧電発電素子に振動を与えることにより、第1の電極および第2の電極を介して電力が得られる。
【0117】
外部から圧電発電素子22a、22bに機械的振動が与えられると、振動部300bが、固定部300aに対して上下に撓む振動を始める。当該振動が、圧電効果による起電力を圧電体層である(Bi,Na,Ba)TiO3膜15に生じる。このようにして、圧電体層15を挟持する第1の電極302と第2の電極305との間に電位差が発生する。圧電体層15が有する圧電性能が高いほど、第1および第2の電極間に発生する電位差は大きくなる。特に、振動部300bの共振周波数が、外部から素子に与えられる機械的振動の周波数に近い場合、振動部300bの振幅が大きくなることで発電特性が向上する。そのため、錘荷重306によって、振動部300bの共振周波数が外部から素子に与えられる機械的振動の周波数に近くなるように調整されることが好ましい。
【0118】
(実施例)
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0119】
(実施例1)
実施例1では、図17に示される圧電体薄膜を形成した。当該圧電体薄膜は、基板12、電極膜13、(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)14、(Bi,Na,Ba)TiO3膜15、および導電膜17を具備している。当該圧電体薄膜を作製する方法は以下の通りであった。
【0120】
Si(100)単結晶からなる基板12の上に、2.5nmの厚みを有するTi膜をスパッタ法により形成した。
【0121】
Si(100)単結晶からなる基板12の上に、(111)配向を有するPt膜からなる電極膜13をスパッタ法によって形成した。当該Pt膜は250nmの厚みを有していた。
【0122】
TiおよびPtのためのスパッタ法の条件は以下の通りであった。
ターゲット:金属Ti、金属Pt
雰囲気:Arガス
RFパワー:15W
基板12の温度:300℃
【0123】
次に、Pt膜の上に、(111)配向を有する0.93(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−0.07BaTiO3膜14(x=0.350)をスパッタ法により形成した。膜14は、100nmの厚みを有していた。
【0124】
膜14のためのスパッタ法の条件は以下の通りであった。
ターゲット:上記の通り
ガス(流量比):Ar/O2=50/50
RFパワー:170W
基板12の温度:650℃
【0125】
膜14の組成は、エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)を用いて確認された。
SEM−EDXを用いた測定では、酸素(O)のような軽元素の分析精度が劣るため、当該軽元素の正確な定量は困難であった。しかし、作製された0.93(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−0.07BaTiO3膜(x=0.350)14に含まれるNa,Bi,Ba,およびTiは、ターゲットと同一の組成を有することが確認された。
【0126】
膜14の上に、(111)配向を有する0.93(Bi0.5Na0.5)TiO3−0.07BaTiO3膜15をスパッタ法によって形成した。膜15は、2.7μmの厚みを有していた。
【0127】
膜15のためのスパッタ法の条件は以下の通りであった。
ターゲット:上記の通り
ガス(流量比):Ar/O2=50/50
RFパワー:170W
基板12の温度:650℃
【0128】
膜15の組成は、SEM−EDXを用いて確認された。膜15に含まれるNa,Bi,Ba,およびTiは、ターゲットと同一の組成を有することが確認された。
【0129】
(膜15の結晶性の評価)
得られた膜15の結晶構造を、X線回折によって解析した。X線回折は、膜15の上からX線を入射して行なわれた。
【0130】
図19は、X線回折の結果、すなわち、X線回折のプロファイルを示す。以降の比較例においても、同一のX線回折が適用された。図19は、実施例1のX線回折の結果だけでなく、実施例2〜5および比較例1〜5のX線解析の結果も示す。
【0131】
図19は、X線回折プロファイルの結果を示す。Si基板およびPt層に由来する反射ピークを除き、(111)配向を有する(Bi,Na,Ba)TiO3膜に由来する反射ピークのみが観察された。当該(111)反射ピークの強度は、6,615cpsであり、非常に強かった。図17に示されるプロファイルは、実施例で作製された(Bi,Na,Ba)TiO3膜が極めて高い(111)配向性を有することを意味する。
【0132】
(強誘電特性および圧電特性の評価)
次に、膜15の上に、100nmの厚みを有する金属Auからなる導電膜17を蒸着法によって形成し、圧電体薄膜を得た。
【0133】
図20は、当該圧電体薄膜のP−Eヒステリシス曲線を示す。
【0134】
図20に示されるように、電極膜13および導電膜17を介して圧電体膜15へ印加する電圧を増加させると、圧電体薄膜が良好な強誘電特性を現すことが確認された。インピーダンスアナライザを用いて1kHzにおける誘電損失(tanδ)を測定した。当該圧電体薄膜のtanδは5.8%であった。これは、当該圧電体薄膜のリーク電流が小さいことを意味する。
【0135】
圧電体薄膜の圧電性能は、以下のように評価した。圧電体薄膜を幅2mmに切り出して、カンチレバー状に加工した。次に、電極膜13および導電膜17との間に電位差を印加してカンチレバーを変位させて得られた変位量をレーザー変位計により測定した。次に、測定された変位量を圧電定数d31に変換し、当該圧電定数d31により圧電性能を評価した。実施例で作製した圧電体薄膜のd31は−40pC/Nであった。
【0136】
(実施例2)
x=0.40である他は、実施例1と同様に実験を行った。
実施例2による(001)反射ピークの強度は、5,143cpsであり、非常に強かった。
【0137】
(実施例3)
x=0.290である他は、実施例1と同様に実験を行った。
実施例3による(001)反射ピークの強度は、4,243cpsであり、非常に強かった。
【0138】
(実施例4)
以下の点を除き、実施例1と同様に実験を行った。
(a)Ti膜を有するSi(100)単結晶からなる基板12に代えて、MgO(111)単結晶基板が用いられたこと、
(b)Ptのためのスパッタ法における下地基板の温度が400℃であったこと、
(c)膜14が、0.95(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−0.05BaTiO3(x=0.350)の組成を有していたこと、および
(d)膜15が、0.95(Bi0.5Na0.5)TiO3−0.05BaTiO3の塑性を有していたこと。
実施例4による(001)反射ピークの強度は、21,222cpsであった。
【0139】
(実施例5)
以下の点を除き、実施例4と同様に実験を行った。
(e)基板12として、ステンレス板が用いられたこと
実施例5による(001)反射ピークの強度は、2,065cpsであった。
【0140】
(比較例1)
膜14を形成しなかったことを除き、実施例1と同様に実験を行った。
【0141】
図19に示されるように、得られたX線回折プロファイルプロファイルは、(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層135(111)配向を有することによる反射ピークのほか、(001)および(110)配向に起因する反射ピークも有していた。
【0142】
比較例1による(001)反射ピークの強度は、1,986cpsであった。これは、実施例1(6,615cps)による反射ピークのおよそ1/3であり、非常に弱かった。このことは、得られた圧電体膜15が、低い結晶配向性を有することを意味していた。
【0143】
さらに、得られた圧電体膜15について測定された誘電損失(Tanδ)は非常に大きく、50%以上であった。そのため、図20に示されるように、正確なヒステリシス曲線の測定が困難であった(図20)。
【0144】
比較例1の圧電体薄膜は、このような大きなリーク電流を有するため、比較例1の圧電体薄膜が有する正確な圧電定数d31の値を求めることは困難であった。推定される圧電定数d31は、およそ−16pC/Nであった。
【0145】
(比較例2)
比較例2では、x=0.425であること以外は、実施例1と同様に実験した。
(111)配向を有する(Bi,Na,Ba)TiO3膜に由来する反射ピークのみが観察された。しかし、比較例2による(001)反射ピークの強度は、2,217cpsであり、非常に弱かった。従って、半値幅を測定する意味はなかった。
【0146】
(比較例3)
比較例3では、x=0.280であること以外は、実施例1と同様に実験した。
(111)配向を有する(Bi,Na,Ba)TiO3膜に由来する反射ピークのみが観察された。しかし、比較例3による(001)反射ピークの強度は、2,502cpsであり、非常に弱かった。従って、半値幅を測定する意味はなかった。
【0147】
(比較例4)
比較例4では、膜14を形成しないこと以外は、実施例4と同様に実験した。
(111)配向を有する(Bi,Na,Ba)TiO3膜に由来する反射ピークのみが観察された。しかし、比較例4による(001)反射ピークの強度は、9.839cpsであり、実施例4のそれ(21,222cps)と比較して非常に弱かった。従って、半値幅を測定する意味はなかった。
【0148】
(比較例5)
比較例5では、膜14を形成しないこと以外は、実施例5と同様に実験した。
(111)配向を有する(Bi,Na,Ba)TiO3膜に由来する反射ピークのみが観察された。しかし、比較例4による(001)反射ピークの強度は、1.123cpsであり、実施例5のそれ(2,065cps)と比較して非常に弱かった。従って、半値幅を測定する意味はなかった。
【0149】
以下の表1は、実施例および比較例の評価結果を要約している。
【0150】
【表1】

【0151】
表1に示されるように、(111)配向を有するPt膜上に形成された(111)配向を有する(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)が、高い(111)配向性および高い結晶性を有する(Bi,Na,Ba)TiO3膜を得るために有用であった。
【0152】
比較例1、4、5、および6は、当該(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)が用いられない場合、高い(111)配向性および高い結晶性を有する(Bi,Na,Ba)TiO3膜が得られないことを示す。
【0153】
比較例2は、xが0.4を超えてはならないことを意味する。
【0154】
比較例3は、xが0.28未満であってはならないことを意味する。
【0155】
当該(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(0.29≦x≦0.4)を得るために、(111)配向を有する電極膜が必要とされることを示す。圧電体薄膜のリーク電流を反映する誘電損失の結果に関しても、同様である。
【0156】
本発明は、その意図および本質的な特徴から逸脱しない限り、他の実施形態に適用しうる。この明細書に開示されている実施形態は、あらゆる点で説明的なものであってこれに限定されない。本発明の範囲は、上記説明ではなく添付したクレームによって示されており、クレームと均等な意味および範囲にあるすべての変更はそれに含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
(Bi,Na,Ba)TiO3圧電体層が、高い結晶性、高い(111)配向性、および小さいリーク電流を有するので、本発明の圧電体薄膜は、高い強誘電特性(例えば、低い誘電損失)および高い圧電性能を有する。本発明の圧電体薄膜は、従来の鉛系酸化物強誘電体に代わる圧電体薄膜として有用である。本発明の圧電体薄膜は、焦電センサ、圧電デバイスのような圧電体薄膜が使用されている分野に好適に使用され得る。その一例として、本発明のインクジェットヘッド、角速度センサおよび圧電発電素子が挙げられる。
【0158】
本発明のインクジェットヘッドは、PZTのような鉛を含有する強誘電材料を含まないにも拘わらず、インクの吐出特性に優れる。当該インクジェットヘッドを用いた画像を形成する方法は、優れた画像の精度および表現性を有する。本発明の角速度センサは、PZTのような鉛を含有する強誘電材料を含まないにも拘わらず、高いセンサ感度を有する。当該角速度センサを用いた角速度を測定する方法は、優れた測定感度を有する。本発明の圧電発電素子は、PZTのような鉛を含有する強誘電材料を含まないにも拘わらず、優れた発電特性を有する。当該圧電発電素子を用いた本発明の発電方法は、優れた発電効率を有する。本発明に係るインクジェットヘッド、角速度センサおよび圧電発電素子ならびに画像形成方法、角速度の測定方法および発電方法は、様々な分野および用途に幅広く適用できる。
【0159】
上記の開示内容から導出される発明は以下の通りである。

1.
圧電体薄膜であって、
(111)配向を有する電極膜(13)と、
(111)配向を有する(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(14)(0.29≦x≦0.4)と、
(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層(15)と
を備え、
前記電極膜(13)、前記(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(14)、および(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層(15)は、この順に積層されている。

1. A piezoelectric thin film comprising,
an electrode film(13) with (111) orientation,
a (NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75-BaTiO3 film(14) with (111) orientation ( x is not less than 0.29 and not more than 0.4), and
a (Na,Bi)TiO3-BaTiO3 piezoelectric layer(15),
the electrode film(13), the (NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75-BaTiO3 film(14), and the (Na,Bi)TiO3-BaTiO3 piezoelectric layer(15) being laminated in this order.

2.
前記電極膜(13)が金属から構成される、前記項目1に記載の圧電体薄膜。
2. A piezoelectric thin film of item 1, wherein the electrode film(13) is composed of a metal.

3.
前記金属が、白金、パラジウム、または金である、前記項目2に記載の圧電体薄膜。
3. A piezoelectric thin film of item 2, wherein the metal is platinum, palladium, or gold.

4.
前記金属が白金である、前記項目3に記載の圧電体薄膜。
4. A piezoelectric thin film of item 3, wherein the metal is platinum.

5.
前記電極膜(13)が酸化物導電体から構成される、前記項目1に記載の圧電体薄膜。5. A piezoelectric thin film of item 1, wherein the electrode film(13) is composed of an oxide conductor.

6.
前記酸化物導電体が、酸化ニッケル、酸化イリジウム、またはルテニウム酸ストロンチウム、前記項目5に記載の圧電体薄膜。
6. A piezoelectric thin film of item 5, wherein the oxide conductor is nickel oxide, iridium oxide, or strontium ruthenate.

7.
基板(12)をさらに備え、
前記電極膜(13)は、前記基板(12)および前記(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(14)との間に挟まれている、前記項目1に記載の圧電体薄膜。
7. A piezoelectric thin film of item 1, further comprising a substrate(12), wherein the electrode film(13) is interposed between the substrate(12) and (NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75-BaTiO3 film(14).

8.
導電膜(17)をさらに備え、
前記(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層(15)は、前記導電膜(17)と前記(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3膜(14)との間に挟まれている、前記項目1に記載の圧電体薄膜。
8. A piezoelectric thin film of item 1, further comprising a conductive film(17), wherein the (Na,Bi)TiO3-BaTiO3 piezoelectric layer(15) is interposed between the conductive film(17) and (NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75-BaTiO3 film(14).

本発明は、前記項目1に記載の圧電体薄膜を備えるインクジェットヘッドおよび、当該インクジェットヘッドを用いて画像を形成する方法も含む。
The present invention includes an ink jet head comprising a piezoelectric film according to item 1, and a method for forming an image with the same.

本発明は、前記項目1に記載の圧電体薄膜を備える角速度センサおよび、当該角速度センサを用いて角速度を測定する方法も含む。
The present invention includes an angular velocity sensor comprising a piezoelectric film according to item 1, and a method for measuring an angular velocity with the same.

本発明は、前記項目1に記載の圧電体薄膜を備える圧電発電素子および、当該圧電発電素子を用いて発電する方法も含む。
The present invention includes a piezoelectric power generation device comprising a piezoelectric film according to item 1, and the method for generating electric power with the same.
【符号の説明】
【0160】
12 基板
13 電極膜
14 (111)配向を有する(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3層14(0.29≦x≦0.4)
15 (111)配向を有する(Bi,Na,Ba)TiO3圧電体層
16 積層構造
17 導電膜
101 圧力室開口部
102 圧力室
102a 区画壁
102b 区画壁
103 個別電極層
104 界面層
105 共通液室
106 供給口
107 インク流路
108 ノズル孔
109 接着剤
110 圧電体層
111 振動層
112 共通電極層
113 中間層
114 接着剤
120 下地基板
121 密着層
130 Si基板
151 圧力室基板
152 圧力室
153 振動層
154 密着層
156 共通電極層
157 界面層
158 圧電体層
159 個別電極層
160 ノズル孔
162 ノズル板
163 側壁
200 センサ基板
200a 固定部
200b 振動部
201 第1の電極層
201a 接続端子
202 界面層
203 圧電体層
204 第2の電極層
205 駆動電極
205a 接続端子
206 検出電極
206a 接続端子
300 振動基板
300a 固定部
300b 振動部
301 第1の電極層
301a 接続端子
302 界面層
303 圧電体層
304 第2の電極層
305 錘荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(111)面方位である電極層上に形成された
(111)面方位である(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体層において、
電極層との界面に隣接して、(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
界面層を設けたことを特徴とする圧電体薄膜。
【請求項2】
前記電極層がPtである、
請求項1に記載の圧電体薄膜。
【請求項3】
(111)面方位である電極層上に、
界面層として(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記界面層上に主体層として(Na,Bi) TiO3−BaTiO3圧電体薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記圧電体薄 膜上に電極層を形成する工程とを含む圧電体薄膜の製造方法であって、
上記圧電体薄膜を形成する工程は、上記界面層により、結晶面方位を(111)面方位 とさせる工程であることを特徴とする圧電体薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記電極層がPtである、
請求項3に記載の圧電体薄膜。
【請求項5】
(111)面方位である個別電極層、界面層、圧電体層、共通電極層とが順に積層され てなる圧電素子と、上記圧電素子の共通電極層側の面に設けられた振動層と、上記振動 層の圧電素子とは反対側の面に接合され、インクを収容する圧力室を有する圧力室部材 とを備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により上記振動層を層厚方向に変位させ て上記圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドであって 、
上記界面層が(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなり、
上記圧電体層が(111)面方位である(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体 薄膜からなることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記個別電極層がPtである、
請求項5に記載の圧電体薄膜。
【請求項7】
(111)面方位である個別電極層、界面層、圧電体層、共通電極層とが順に積層され てなる圧電素子を備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により振動層を層厚方向に 変位させて圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドの製 造方法であって、
個別電極層上に(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなる界面層をスパッタ法により形成する工程と、上記界面層上に(Na,Bi )TiO3−BaTiO3圧電体薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記圧電体 層上に共通電極層を形成する工程と、共通電極層上に振動層を形成する工程と、上記振 動層の共通電極層とは反対側の面に圧力室を形成するための圧力室部材を接合する工程 と、上記接合工程後に上記基板を除去する工程を含み、
上記圧電体層を形成する工程は、上記界面層により上記圧電体層を(111)面方位に 配向させる工程であることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記個別電極層がPtである、
請求項7に記載の圧電体薄膜。
【請求項9】
(111)面方位である共通電極層、界面層、圧電体層、個別電極層とが順に積層され てなる圧電素子と、上記圧電素子の共通電極層側の面に設けられた振動層と、上記振動 層の圧電素子とは反対側の面に接合され、インクを収容する圧力室を有する圧力室部材 とを備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により上記振動層を層厚方向に変位させ て上記圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドであって 、
上記界面層が(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなり、
上記圧電体層が(111)面方位である(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体 薄膜からなることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記共通電極層がPtである、
請求項9に記載の圧電体薄膜。
【請求項11】
(111)面方位である共通電極層、界面層、圧電体層、個別電極層とが順に積層され てなる圧電素子を備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により振動層を層厚方向に 変位させて圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドの製 造方法であって、
圧力室を形成するための圧力室基板上に、振動層を形成する工程と、個別電極層上に( 111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなる界面層をスパッタ法により形成する工程と、上記界面層上に(Na,Bi )TiO3−BaTiO3圧電体薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記圧電体 層上に共通電極層を形成する工程と、上記圧力室基板に圧力室を形成する工程とを含み 、
上記圧電体層を形成する工程は、上記界面層により上記圧電体層を(111)面方位に 配向させる工程であることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記共通電極層がPtである、
請求項11に記載の圧電体薄膜。
【請求項13】
固定部と、上記固定部から所定の方向に伸びる少なくとも一対の振動部を有する基板を 備え、上記基板の少なくとも各振動部上に、(111)面方位である第1の電極層、界 面層、圧電体層、第2の電極層とが順に積層されており、該各振動部上における第2の 電極層が、当該振動部を振動部の幅方向に振動させるための少なくとも1つの駆動電極 と、当該振動部の厚み方向の変形を検出するための少なくとも1つの検出電極とにパタ ーン化された角速度センサであって、
上記圧電体層が(111)面方位である(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体 薄膜からなり、
上記界面層が(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなることを特徴とする角速度センサ。
【請求項14】
前記基板がSi基板である、
請求項13に記載の角速度センサ。
【請求項15】
前記第1の電極層がPtである、
請求項13に記載の角速度センサ。
【請求項16】
固定部と、上記固定部から所定の方向に伸びる少なくとも一対の振動部を有する基板を 備え、上記基板の少なくとも各振動部上に、(111)面方位である第1の電極層、界 面層、圧電体層、第2の電極層とが順に積層されており、該各振動部上における第2の 電極層が、当該振動部を振動部の幅方向に振動させるための少なくとも1つの駆動電極 と、当該振動部の厚み方向の変形を検出するための少なくとも1つの検出電極とにパタ ーン化された角速度センサの製造方法であって、
上記第1の電極上に(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなる界面層をスパッタ法により形成する工程と、上記界面層上に(Na,Bi )TiO3−BaTiO3圧電体薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記圧電体 層上に第2の電極層を形成する工程と、第2の電極層をパターニングして上記駆動電極 および検出電極を形成する工程と、第1の電極層、界面層および圧電体層をパターニン グする工程と、上記センサ基板をパターニングして上記固定部および振動部を形成する 工程を含み、
上記圧電体層を形成する工程は、上記界面層により上記圧電体層を(111)面方位に 配向させる工程であることを特徴とする角速度センサの製造方法。
【請求項17】
前記基板がSi基板である、
請求項16に記載の角速度センサ。
【請求項18】
前記第1の電極層がPtである、
請求項16に記載の角速度センサ。
【請求項19】
固定部と、上記固定部から所定の方向に伸びる少なくとも一本の梁からなる振動部を有 する基板を備え、該振動部上に、(111)面方位である第1の電極層、界面層、圧電 体層、第2の電極層とが順に積層されて構成された圧電発電素子であって、
上記圧電体層が(111)面方位である(Na,Bi)TiO3−BaTiO3圧電体 薄膜からなり、
上記界面層が(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなることを特徴とする圧電発電素子。
【請求項20】
前記基板がSi基板である、
請求項19に記載の圧電発電素子。
【請求項21】
前記第1の電極層がPtである、
請求項19に記載の圧電発電素子。
【請求項22】
固定部と、上記固定部から所定の方向に伸びる少なくとも一本の梁からなる振動部を有 する基板を備え、該振動部上に、(111)面方位である第1の電極層、界面層、圧電 体層、第2の電極層とが順に積層されて構成された圧電発電素子の製造方法であって、
上記第1の電極上に(111)面方位である
(NaxBi0.5)TiO0.5x+2.75−BaTiO3 (0.29≦x≦0.4)
薄膜からなる界面層をスパッタ法により形成する工程と、上記界面層上に(Na,Bi )TiO3−BaTiO3圧電体薄膜をスパッタ法により形成する工程と、上記圧電体 層上に第2の電極層を形成する工程と、第2の電極層をパターニングする工程と、第1 の電極層、界面層および圧電体層をパターニングする工程と、上記振動基板をパターニ ングして上記固定部および振動部を形成する工程を含み、
上記圧電体層を形成する工程は、上記界面層により上記圧電体層を(111)面方位に 配向させる工程であることを特徴とする圧電発電素子の製造方法。
【請求項23】
前記基板がSi基板である、
請求項22に記載の圧電発電素子。
【請求項24】
前記第1の電極層がPtである、
請求項22に記載の圧電発電素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−249489(P2011−249489A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120018(P2010−120018)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】