説明

圧電振動装置、発振回路及び電子装置

【課題】Qが高く、耐電力性に優れているだけでなく、印加電圧によるインピーダンス特性曲線の乱れが生じ難い、圧電振動装置を得る。
【解決手段】圧電薄膜4の下面に下部電極5が、上面に上部電極6が形成されている圧電振動部3が基板2から浮かされた状態で支持部9,10により支持されており、矩形の圧電振動部3の輪郭振動を利用しており、該輪郭振動と、圧電振動部3において生じる屈曲振動とが結合しないように、上記輪郭振動の共振周波数と屈曲振動の共振周波数とが隔てられている、圧電振動装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜を用いて形成された圧電振動装置に関し、より詳細には、長さ振動、幅振動または拡がり振動などの輪郭振動を利用した圧電振動部を有する圧電振動装置、該圧電振動装置が備えられた発振回路及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電振動装置の薄型化及び耐電力性を高め得るために、圧電薄膜を利用した圧電振動装置が提案されている。例えば下記の特許文献1には、図9に示す圧電振動装置が開示されている。
【0003】
圧電振動装置101では、基板102の上面から浮かされた状態で、圧電振動部103が設けられている。圧電振動部103は、圧電薄膜104と、圧電薄膜104の下面に設けられた下部電極105と上面に設けられた上部電極106とを有する。下部電極105と上部電極106とは、圧電薄膜104を介して重なり合っており、それによって圧電振動部103が形成されている。
【0004】
上記圧電振動部103の下面及び上面には、圧電振動部103を保護するために、付加膜107,108が積層されている。
【0005】
圧電振動部103を基板102の上面からギャップDを隔てて浮かせるために、圧電振動部103に、支持部109,110の一端が連結されており、支持部109,110の他端が基板102の上面に固定されている。
【0006】
ここで、支持部109,110は、上記圧電薄膜104及び付加膜107,108を圧電振動部103外に延長することにより形成されている。
【0007】
上部電極105と下部電極106との間に交流電界を印加することにより、圧電振動部103が長さ振動や幅振動などの輪郭振動で励振される。
【0008】
特許文献1に記載の圧電振動装置101では、上記圧電薄膜104を用いているため、1〜10MHz帯のような比較的低い周波数領域で用いることができるとともに、Qが高く、かつ耐電力性に優れているとされている。
【特許文献1】WO2007/088696
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記圧電振動装置101は、例えば1〜10MHz帯などの周波数帯域の発振周波数を有する発振回路の発振回路素子として用いることができる。
【0010】
しかしながら、実際に、圧電振動装置101を発振回路素子として用いた場合、発振周波数が不安定になることがあった。また、場合によっては、発振が停止することもあった。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、Qが高く、耐電力性に優れているだけでなく、発振回路素子として用いられた際に、発振周波数の変動が生じ難く、安定に発振することを可能とする圧電振動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、上記圧電振動装置101を発振回路素子として用いた場合に、発振が不安定になる現象について種々検討した。その結果、圧電振動装置101の共振特性すなわちインピーダンス特性が、印加電圧により変化することを見出した。図3は、圧電振動装置101のインピーダンス特性を示し、破線が印加電圧が0.1Vrmsの場合の結果を示し、実線は印加電圧が1.0Vrmsの場合の結果を示す。
【0013】
図3から明らかなように、印加電圧が0.1Vrmsの場合には、共振周波数である18.32MHz付近において、インピーダンスが十分に低下し、山谷比が十分大きくなっていることがわかる。なお、山谷比とは、反共振周波数におけるインピーダンスの共振周波数におけるインピーダンスに対する比である。
【0014】
これに対して、印加電圧が1.0Vrmsの場合には、18.3〜18.35MHz間においてインピーダンスが最も低くなる位置が18.34MHz付近に移動し、しかも最もインピーダンスが低い部分におけるインピーダンス値が、0.1Vrmsの電圧が印加された場合比べて高くなり、その付近における波形が乱れていることがわかる。
【0015】
そして、1.0Vrmsの電圧が印加された場合のように、インピーダンス特性が共振周波数近傍で乱れた場合に、該圧電振動装置101を用いて発振回路を構成した場合の発振周波数の変動や、発振停止などが生じていることを見出した。
【0016】
本願発明者は、印加電圧の値によっては、インピーダンス特性曲線における乱れ、特に共振周波数近傍におけるインピーダンス特性曲線の乱れが生じていることについてその原因を種々検討した結果、利用している輪郭振動と、圧電振動部において生じている屈曲振動が結合していることによることを見出した。
【0017】
本発明は、このような知見に基づきなされたものであり、本発明によれば、圧電薄膜を用いた圧電振動装置であって、基体と、前記基体の上面から浮かされて設けられた圧電振動部と、前記圧電振動部に一端が連結されており、他端が前記基体に固定されている支持部とを備え、前記圧電振動部が、圧電薄膜と、圧電薄膜の上面に形成された上部電極と、圧電薄膜を介して前記上部電極と対向するように前記圧電薄膜の下面に設けられた下部電極とを備え、輪郭振動を利用した圧電振動装置であって、利用しようとする輪郭振動と、前記圧電振動部における屈曲振動とが結合しないように、前記利用しようとする輪郭振動の共振周波数と、前記屈曲振動の共振周波数とが隔てられていることを特徴とする、圧電振動装置が提供される。
【0018】
すなわち、本発明によれば、利用しようとする輪郭振動の共振周波数と、屈曲振動の共振周波数とが隔てられているので、振動の結合による共振周波数近傍におけるインピーダンス特性曲線の乱れが抑制され、それによって発振回路素子として用いた場合に、安定な発振を得ることができる。
【0019】
本発明に係る圧電振動装置では、好ましくは、前記屈曲振動の共振周波数が、利用しようとする前記輪郭振動の共振周波数と反共振周波数との間の周波数域を除いた周波数域にある。輪郭振動の共振周波数と反共振周波数との間の周波数域は発振が生じる周波数帯域であるが、屈曲振動の共振周波数がこの周波数帯域外に存在する場合、屈曲振動の結合による発振異常をより確実に防止することができる。
【0020】
本発明に係る圧電振動装置では、好ましくは、前記圧電振動部において、利用しようとする前記輪郭振動と、前記屈曲振動に加えて、さらに他の振動モードの振動が励振され、前記屈曲振動の共振周波数が、利用しようとする前記輪郭振動の共振周波数よりも低く、前記他の振動モードの共振周波数が、利用しようとする前記輪郭振動の反共振周波数よりも高くされている。このように輪郭振動の共振周波数、反共振周波数、屈曲振動及び他のモードの共振周波数を設定することにより、輪郭振動の共振周波数と反共振周波数の間に他の振動モードが入らず結合による発振異常を確実に抑止できる。
【0021】
本発明に係る圧電振動装置では、上記屈曲振動は、基本波であってもよく、高次の屈曲振動であってもよい。
【0022】
また、利用しようとする輪郭振動と屈曲振動に加えて、さらに他のモードの振動が励振される場合、屈曲振動がn次(nは1以上の自然数)の屈曲振動であり、他の振動モードがn+1次の屈曲振動であってもよい。
【0023】
また、本発明に係る圧電振動装置では、好ましくは、圧電振動部は、長辺と短辺とを有する矩形の平面形状を有する。この場合、利用する上記輪郭振動の種類は特に限定されず、長辺方向に沿う長さ振動であってもよく、短辺方向に沿う振動である幅振動であってもよく、長辺方向に沿う振動と短辺方向に沿う振動とが結合してなる拡がり振動であってもよい。
【0024】
本発明の他の特定の局面では、振動方向の端面の表面粗さがRmsで振動方向の幅の2000ppmより小さくされている。
【0025】
本発明に係る圧電振動装置は、特に限定されないが、好ましくは、発振回路における共振子として用いられ、それによって、所望とする発振周波数において安定に発振する発振回路を提供することができる。
【0026】
本発明に係る発振回路は、本発明に従って構成された圧電振動装置が発振回路素子として備えられていることを特徴とし、本発明に係る電子装置は、本発明に従って構成された圧電振動装置が発振回路素子として備えられた発振回路を有することを特徴とする。本発明に係る発振回路及び電子装置では、本発明に従って構成された圧電振動装置を発振回路素子として備えるため、該発振回路が、所望とする発振周波数において安定に発振する。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る圧電振動装置では、圧電薄膜の上面及び下面に上部電極及び下部電極が積層されており、輪郭振動を利用した圧電振動装置であるため、Qが高く、耐電力性を高めることができ、しかも利用しようとする輪郭振動と、該圧電振動部において生じている屈曲振動とが結合しないように、利用しようとする輪郭振動の共振周波数と、上記屈曲振動の共振周波数とが隔てられているため、輪郭振動と屈曲振動との結合に起因するインピーダンス特性曲線の乱れが生じ難い。そのため、例えば発振回路の発振回路素子として本発明の圧電振動装置を用いた場合、印加電圧の如何にかかわらず安定に発振させることができ、発振周波数の所望でない変動が生じ難く、また発振停止も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0029】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る圧電振動装置の模式的平面図及び(a)中のB−B線に沿う部分に相当する断面図であり、図2(a)及び(b)は、(a)中のB−B線及びC−C線に沿う部分に相当する断面図である。
【0030】
なお、図1(a)は、後述の付加膜8を省略して、圧電振動部及び支持部等の形状を示す模式的平面図である。
【0031】
圧電振動装置1は、特許文献1に記載の圧電振動装置101と同様に、基板102の上面から浮かされた圧電振動部3を有する。
【0032】
そして、圧電振動部3においては、圧電薄膜4の下面に下部電極5が、上面に上部電極6が形成されている。下部電極5と上部電極6とが圧電薄膜4を介して対向している部分により圧電振動部3が形成されている。
【0033】
上記圧電振動部3は、図1(a)に示すように、長辺と短辺とを有する矩形の平面形状を有する。
【0034】
圧電薄膜4は、適宜の圧電材料からなる。このような圧電材料としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス(PZT系圧電セラミックス)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、水晶などが挙げられる。すなわち、圧電薄膜は、圧電単結晶あるいは圧電セラミックスのいずれにより形成されていてもよい。圧電薄膜4では、その厚み方向に分極軸が揃っている。
【0035】
上記下部電極5及び上部電極6を構成する材料については特に限定されず、適宜の導電性材料を用いることができる。このような導電性材料としては、Al、Cu、Au、Pt、Niもしくはこれらの合金、例えばエリンバーやインバーなどを挙げることができる。
【0036】
下部電極5と上部電極6との間に交流電圧を印加することにより、圧電振動部3が拡がり振動で振動する。拡がり振動とは、図3に示すように、矩形の平面形状の長辺に沿う振動と短辺に沿う振動とが結合して生じ、圧電薄膜4の面内方向での振動である。
【0037】
上記圧電振動部3は、ギャップDを隔てて基板2の上面から浮かされている。本実施形態においても、支持部7,8の一端が圧電振動部3に連結されており、支持部7,8の他端が基板2の上面に固定されている。支持部7,8により、圧電振動部3が、ギャップDを隔てて基板2の上面から浮かされた状態で支持されている。
【0038】
特許文献1に記載の圧電振動装置101と同様に、圧電振動部3の保護を図るために、付加膜7,8が圧電振動部3の下面及び上面に積層されている。支持9,10は、上記圧電薄膜4及び付加膜7,8を圧電振動部3の外側に延長することにより形成されている。
【0039】
本実施形態の圧電振動装置1の特徴は、上記圧電振動部3における利用しようとする輪郭振動である拡がり振動と、圧電振動部3において生じる屈曲振動とが結合しないように、上記拡がり振動の共振周波数と、屈曲振動の共振周波数とが隔てられていることにある。それによって、印加電圧の如何にかかわらず、インピーダンス周波数特性曲線における乱れが生じ難く、例えば発振回路の発振回路素子として用いられた場合に、発振周波数がばらついたり、発振停止が生じ難くされている。これを、以下において詳細に説明する。
【0040】
図4は、圧電振動装置1の設計に際して本願発明者が作成したモードチャートの一例を示す図である。ここで、モードチャートとは、特開2003−37462号に開示されているように、振動子の振動モードを解析し、振動子において生じる複数の振動の共振周波数を、例えば振動部の膜厚に対してプロットすることにより得られる。
【0041】
図4は、圧電振動装置1の圧電振動部3におけるモードチャートを示し、縦軸は周波数を、横軸は圧電振動部における圧電薄膜4の膜厚を示す。
【0042】
なお、図4に示すモードチャートは、付加膜8、上部電極6、圧電薄膜4、下部電極5、付加膜7の材料及び厚みを以下の場合とし、圧電振動部3の平面形状が以下の寸法の場合の有限要素法によるシミュレーションの結果である。
【0043】
積層構造:上方から順にSiO/AlN/Pt/AlN/Pt/SiO。付加膜8がSiO膜及びAlN膜の積層膜であり、上部電極6及び下部電極5はPtからなり、圧電薄膜4がAlNからなり、下方の付加膜7がSiO膜からなる。
【0044】
膜厚比率:積層構造において上方から順に33:8:1:16:1:17。
【0045】
素子形状:圧電振動部3の平面形状は、長さ480μm×320μmの矩形とした。
【0046】
圧電振動部3において利用される拡がり振動は、輪郭振動であり、面内方向の振動であるため、圧電薄膜4の膜厚にかかわらず共振周波数はほぼ一定である。従って、図4の実線Eで示すように、圧電薄膜の膜厚が変化しても、共振周波数は11.4MHz付近でほぼ一定である。
【0047】
これに対して、屈曲振動は、圧電薄膜4の膜厚の変化により変化する。すなわち、屈曲振動の共振周波数は、圧電薄膜の膜厚に比例するため、各共振周波数をプロットした点を結ぶ直線は、図4の周波数と膜厚とのグラフ上の原点を通る直線となる。
【0048】
屈曲振動では、一般に、その基本波の共振周波数は、拡がり振動の共振周波数よりも低い。従って、図4に示すように、屈曲振動の様々な次数の振動が、拡がり振動と交差することとなる。
【0049】
拡がり振動と屈曲振動の共振周波数同士が近接すると、非線形振動が誘発され、波形異常が生じる。例えば、図4において、矢印Fで示す屈曲振動と、拡がり振動とが交差している点G近傍では、上記非線形振動が誘発され、波形異常が生じる。このような場合に、図3に示したように、印加電圧によっては、インピーダンス特性曲線において共振周波数近傍において波形が乱れることが分った。
【0050】
これに対して、図4の矢印H1〜H3で示す部分のように、拡がり振動の共振周波数をプロットした直線に対し、屈曲振動の共振周波数をプロットした直線が交差している部分から隔てられた領域、言い換えれば拡がり振動の共振周波数と、屈曲振動の共振周波数とが隔てられている部分では、双方の振動が結合し難いため、非線形振動が誘発され難い。そのため、インピーダンス特性曲線上における波形の乱れが生じ難い。
【0051】
よって、利用しようとする拡がり振動と、屈曲振動とが結合しないため、インピーダンス周波数特性曲線における共振周波数近傍における波形の乱れが生じ難い。そのため、発振回路素子として用いた場合、印加電圧が変化しても、発振周波数が不安定になったり、発振停止が生じたりすることがない。
【0052】
なお、上記モードチャートを利用して圧電振動装置1における圧電薄膜4の厚みを設定するに際し、屈曲振動の各次数のモードの間隔は一定でないため、好ましくは、屈曲振動の隣接する次数のモード間の広い領域を選択することが望ましい。すなわち、図4のH1〜H3で示すように、隣接する次数の屈曲振動同士の間隔が広い領域を選択することが望ましい。言い換えれば、n次の屈曲振動と(n+1)次の屈曲振動間であって、両者の間隔が広い領域が望ましい。それによって、製造ばらつきによる特性のばらつきが生じ難い。
【0053】
また、発振回路素子として圧電振動装置1を用いる場合、発振が生じる周波数は、通常、圧電振動装置1の共振周波数と反共振周波数との間の周波数帯域である。従って、上記非線形振動によるインピーダンス特性曲線の異常が、共振周波数と反共振周波数との間の周波数域に存在する場合には、特に発振が不安定となるおそれがある。そのため、屈曲振動の共振周波数が、拡がり振動の共振周波数と反共振周波数との間の周波数域外の周波数域に存在することが特に好ましい。
【0054】
図4に示したモードチャートでは、圧電薄膜4の膜厚と、共振周波数との関係によりモードチャートを作成したが、横軸の膜厚に代えて、他のパラメータを用いてもよい。この他のパラメータとしては、例えば、圧電振動部の長さ方向寸法、幅方向寸法、圧電振動部3を構成している材料、支持方法などを用いてもよい。これらの各パラメータを非線形振動によるインピーダンス特性不良が生じないように設計すればよい。
【0055】
なお、本実施形態では、圧電振動部3が矩形の平面形状を有し、短辺方向に沿う方向が振動方向である幅振動や、長辺方向に沿う方向が振動方向である長さ振動を用いてもよい。すなわち、図5に略図的に示すように、長辺23aと短辺23bとを有する矩形の平面形状の圧電振動部23が長辺23aに沿う方向に伸縮する長さ振動であってもよい。また、図6に示すように、長辺33aと短辺33bとを有する矩形の平面形状の圧電振動部33の短辺33bに沿う方向に伸縮する幅振動が利用する輪郭振動であってもよい。
【0056】
上記実施形態の圧電振動装置1は、上記のように、発振回路の発振回路素子として用いた場合に、印加電圧の如何にかかわらず、安定に発振させることができる。このような発振回路としては、例えば図7に示す電子装置の発振回路を例示することができる。
【0057】
図7では、発振回路41において、共振子42が用いられているが、この共振子42として、本発明の圧電振動装置を用いればよい。電子装置43では、上記発振回路41が1つの回路として備えられている。
【0058】
以上のように、利用する輪郭振動である拡がり振動の共振周波数と、屈曲振動の共振周波数とが近接すると、両振動が結合し、それによって、輪郭振動本来の面内方向の振動変位に加え、圧電振動部の面内に対して垂直な方向の振動変位が重なり合い、歪みが生じる。この歪みの絶対量の増大により、弾性線形領域を超えて、インピーダンス特性曲線における共振周波数近傍における波形の乱れを生じる現象が生じる。それによって、前述した発振周波数が不安定になったり、発振停止などの重大な問題が生じていた。
【0059】
これに対して、本実施形態では、上記のように、利用する輪郭振動である拡がり振動の共振周波数と、屈曲振動の共振周波数の両者が結合しないように隔てられているため、上記インピーダンス特性曲線上における波形の乱れが生じない。
【0060】
すなわち、拡がり振動と屈曲振動とが結合しないため、上記弾性線形領域を超えるような歪みが生じ難いため、インピーダンス特性曲線上における波形の乱れが生じない。
【0061】
なお、上記実施形態では、有限要素法によるシミュレーションにより、圧電薄膜の膜厚変化に対してのモードチャートを作成したが、実際に作成した圧電振動装置の特性に基づいて同様のモードチャートを作成してもよい。この場合には、まず、圧電薄膜の膜厚を異ならせて、複数の圧電振動装置を製造する。次に、各圧電振動装置に交流電圧を印加しつつ、圧電振動部に垂直な方向の変位を振動変位計測装置で周波数を変化させつつ測定する。そして、圧電振動部に垂直な方向の変位であって屈曲振動による変位が優性となる周波数と、その場合の圧電薄膜の膜厚を記録し、プロットすればよい。そして、各膜厚の圧電振動装置に対し、同一の振動姿態を有する屈曲振動の共振周波数を結ぶ。各圧電振動装置のインピーダンス特性を測定し、拡がり振動による主要な共振の共振周波数を記録し、プロットする。
【0062】
上記のようにして、図4と同様のモードチャートを、実際の圧電振動装置の計測結果に基づいて作成することができる。従って、このようにして得られたモードチャートを用いて、上記実施形態の場合と同様にして、圧電振動装置を設計することができる。この場合には、実測結果に基づいてモードチャートが作成されるので、形状や材料の不一致や計算誤差が生じ難いため、より正確に所望とする圧電振動装置を設計することができる。
【0063】
次に、上記圧電振動装置1の製造方法の具体的な一例を説明する。
【0064】
まず、厚さ500μmのガラス基板からなる基板2を用意する。基板2の材料としては、ガラス以外の絶縁性材料、あるいは半導体材料を用いてもよく、あるいは半導体基板を用いてもよい。
【0065】
次に、ギャップDに相当する部分に、後工程で貯蔵される犠牲層を形成する。犠牲層を構成する材料としては、Ge、Sb、Ti、AlまたはCuなどの金属、Si、SiOもしくはリン酸シリケートガラス(PSG)や有機ポリマーなどを適宜用いることができる。
【0066】
犠牲層上に、全面を覆うように、スパッタリング、CVDまたは電子ビーム蒸着などの薄膜形成法により、付加膜7としての誘電体膜を形成する。この誘電体膜を構成する誘電体材料については、窒化珪素などの窒化物、酸化珪素などの酸化物などの適宜の誘電体材料を用いることができる。これらの誘電体材料からなる複数の誘電体膜を積層して付加膜7や後述の付加膜8を形成してもよい。
【0067】
上記付加膜上に、スパッタリング、めっき、CVDまたは電子ビーム蒸着などによる薄膜形成法及びフォトリソグラフィー法を用い、下部電極5を形成する。下部電極5を形成する材料としては、特に限定されず、Mo、Pt、Al、Au、CuまたはTiなどの金属もしくは合金などを挙げることができる。
【0068】
次に、スパッタリングなどの薄膜形成方法及びフォトリソグラフィー等によるパターニング法を用い、圧電薄膜4を形成する。圧電薄膜4は、酸化亜鉛や窒化アルミニウムなどの適宜の圧電材料からなる。
【0069】
圧電薄膜4上に、下部電極5と同様に上部電極6を形成する。
【0070】
上部電極6上に、付加膜7と同様にして、誘電体膜からなる付加膜8を形成する。付加膜8の材料については、誘電体材料、あるいは適宜の絶縁性材料を用いることができる。
【0071】
しかる後、犠牲層をエッチングにより除去する。
【0072】
上記のような工程を経て、SiO(付加膜8)/AlN(付加膜8)/Pt(上部電極6)/AlN(圧電薄膜4)/Pt(下部電極5)/SiO(付加膜7)からなる積層構造を有する圧電振動装置1を作製した。なお、厚みについては、上層から順に、3300/800/100/1600/100/1700(単位全てnm)とした。
【0073】
このようにして得られた圧電振動装置1について、インピーダンス特性を測定したところ、印加電圧によってインピーダンス特性不良の生じることがあった。そこで、図3に示したようなインピーダンス波形の不良が生じる圧電振動装置についてさらに検討した結果、インピーダンス特性曲線における不良は、ある周波数範囲にわたり発生することがわかった。そして、この範囲は、圧電振動部の振動方向の端面の表面粗さに比例することがわかった。図5は、12MHz帯におけるインピーダンス不良発生幅と、圧電振動部の端面の粗さとの関係を示す図である。
【0074】
上記インピーダンス特性不良が発生する間隔は、500〜2000ppm(12MHzに対する周波数範囲の大きさ)であり、500ppmの間隔の周波数及び2000ppmの間隔の周波数を使用する場合、端面の粗さは、平均端面粗さRmsでそれぞれ150nm及び500nmより小さくなければ、全ての周波数でインピーダンス特性不良が発生することとなった。端面の平均粗さRmsとは、端面の平均的な形状と端面の各粗さの測定値の偏差の2乗を平均して得られた値の平方根により表される値である。
【0075】
なお、上記Rmsで150nm及び500nmの値は、振動方向の幅に対しそれぞれ500ppm及び2000ppmとなる。
【0076】
従って、圧電振動部の端面の粗さRmsは500nmより小さいこと、すなわち2000ppmより小さいことが好ましく、より好ましくは150nmより小さくすることが望ましいことが分る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る圧電振動装置の模式的平面図及び(a)中のA−A線に沿う部分に相当する断面図である。
【図2】(a)及び(b)は、図1(a)中のB−B線及びC−C線に沿う部分に相当する部分の断面図である。
【図3】印加電圧によるインピーダンス周波数特性曲線の乱れが生じる現象を説明するための図である。
【図4】拡がり振動と屈曲振動との関係を示すモードチャートを示す図である。
【図5】圧電振動部の長さ振動を利用する場合の長さ振動の振動姿態を模式的に示す平面図である。
【図6】圧電振動部の幅振動を利用する場合の幅振動の振動姿態を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の発振回路素子が備えられた発振回路を有する電子装置の一例を示すブロック図である。
【図8】インピーダンス不良発生幅と圧電振動部の端面粗さRmsとの関係を示す図である。
【図9】従来の圧電振動装置を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1…圧電振動装置
2…基板
3…圧電振動部
4…圧電薄膜
5…下部電極
6…上部電極
7,8…付加膜
9,10…支持部
23…圧電振動部
23a…長辺
23b…短辺
33…圧電振動部
33a…長辺
33b…短辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電薄膜を用いた圧電振動装置であって、
基体と、
前記基体の上面から浮かされて設けられた圧電振動部と、
前記圧電振動部に一端が連結されており、他端が前記基体に固定されている支持部とを備え、前記圧電振動部が、圧電薄膜と、圧電薄膜の上面に形成された上部電極と、圧電薄膜を介して前記上部電極と対向するように前記圧電薄膜の下面に設けられた下部電極とを備え、輪郭振動を利用した圧電振動装置であって、
利用しようとする輪郭振動と、前記圧電振動部における屈曲振動とが結合しないように、前記利用しようとする輪郭振動の共振周波数と、前記屈曲振動の共振周波数とが隔てられていることを特徴とする、圧電振動装置。
【請求項2】
前記屈曲振動の共振周波数が、利用しようとする前記輪郭振動の共振周波数と反共振周波数との間の周波数帯を除いた周波数域にあることを特徴とする、請求項1に記載の圧電振動装置。
【請求項3】
前記圧電振動部において、利用しようとする前記輪郭振動と、前記屈曲振動に加えて、さらに他の振動モードの振動が励振され、前記屈曲振動の共振周波数が、利用しようとする前記輪郭振動の共振周波数よりも低く、前記他の振動モードの共振周波数が、利用しようとする前記輪郭振動の反共振周波数よりも高いことを特徴とする、請求項2に記載の圧電振動装置。
【請求項4】
前記屈曲振動が、高次の屈曲振動である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項5】
前記屈曲振動がn次の屈曲振動であり、前記他の振動モードがn+1次の屈曲振動である、請求項3に記載の圧電振動装置。
【請求項6】
前記圧電振動部が、長辺と短辺とを有する矩形の平面形状を有し、利用しようとする前記輪郭振動が、前記矩形の長さ方向に沿う長さ振動である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項7】
前記圧電振動部が短辺と長辺とを有する矩形の平面形状を有し、利用しようとする前記輪郭振動が、該矩形の幅方向に沿う幅振動である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項8】
前記圧電振動部が、長辺と短辺とを有する矩形の平面形状を有し、利用しようとする前記輪郭振動が、長辺方向に沿う振動と短辺方向に沿う振動とが結合してなる拡がり振動である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項9】
振動方向の端面の表面粗さがRmsで振動方向の幅の2000ppmより小さいことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の圧電振動装置であって、発振回路の共振子として用いられる圧電振動装置。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の圧電振動装置が発振回路素子として搭載されていることを特徴とする、発振回路。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の圧電振動装置を発振回路素子として備える発振回路が備えられていることを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−94829(P2009−94829A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263890(P2007−263890)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】