説明

基板処理システム、プロセスモジュール制御装置、基板処理装置及び基板処理プログラム

【課題】 基板ごとに処理条件の指定を可能にする。
【解決手段】 基板に対する処理を実行するプロセスモジュールを制御するプロセスモジュール制御装置を備え、プロセスモジュール制御装置は、処理すべき基板がプロセスモジュールに搬送される搬送タイミングを取得する搬送タイミング取得手段と、プロセスモジュールにおける基板の処理条件に関する処理条件基本情報を取得する基本情報取得手段と、プロセスモジュールにおける基板の処理条件の一部であって、基板ごとに設定される処理条件に関する処理条件差分情報を取得する差分情報取得手段と、搬送タイミング取得手段により取得される基板の搬送タイミングに応じ、基本情報取得手段及び差分情報取得手段により取得される処理条件に基づいて、プロセスモジュールに対し搬送される基板の処理条件を設定する制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
基板ごとに異なる処理を実行するための基板処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラスタ方式の基板処理システムなどでは、基板ごとに異なる処理を行うことがある。このような先行技術の例としては、例えば、特許文献1などがあげられる。
特許文献1では、基板ごとに設定された処理条件のデータを逐次制御装置からチャンバに送信し、設定することで、基板ごとの処理を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−213295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インライン方式の基板処理装置は、量産機として使用されることが多いため、基板ごとに異なる処理を行う例があまり見られない。しかし、実際には、例えば、装置メンテナンス後や装置立ち上げ時などに製品の品質に変化がないかを評価するために、処理条件を微妙に変化させたサンプルを作製するなど、基板ごとに異なる処理を実行する必要がある場合がある。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、インライン装置などにおいても基板ごとに異なる処理を実行するための手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
インライン装置の特徴としては、以下の2点がある。
1.装置のタクトタイムが短いため(例えば5秒程度)、基板ごとの処理条件を指定するデータ(以下、「レシピデータ」と記述することもある)の転送に使える時間が短い。
2.装置を構成するプロセスモジュールの数が多いため、レシピデータの量も多い。
【0006】
そこで、本発明による基板処理システムは、基板に対する処理を実行するプロセスモジュールを制御するプロセスモジュール制御装置を備え、前記プロセスモジュール制御装置は、処理すべき基板がプロセスモジュールに搬送される搬送タイミングを取得する搬送タイミング取得手段と、前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件に関する処理条件基本情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する基本情報取得手段と、前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件の一部であって、基板ごとに設定される処理条件に関する処理条件差分情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する差分情報取得手段と、前記搬送タイミング取得手段により取得される基板の搬送タイミングに応じ、前記基本情報取得手段及び前記差分情報取得手段により取得される処理条件に基づいて、前記プロセスモジュールに対し搬送される基板の処理条件を設定する制御手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インライン装置などでも処理遅滞をもたらすことなく、基板ごとに処理条件を指定した処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態にかかる基板処理システムの概略平面図である。
【図2】本実施形態にかかる基板処理システムの機能ブロック図である。
【図3】本実施形態で用いる(1)基本動作レシピファイルの構成例、(2)差分パラメータ記述ファイルの構成例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、本実施形態にかかる基板処理システムの概略平面図を示す。
図1の基板処理システムは、インライン方式であり、プロセスモジュールPMを構成するプロセスチャンバPが複数無端状に接続され、プロセスチャンバP間で基板Sが図示しない基板搬送系により順次受け渡され、処理されるようになっている。プロセスモジュールPMは、例えば、スパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法による成膜処理、プラズマCVDによるドライエッチング処理、加熱や冷却などの温度調整処理などが実行可能である。従って、図示していないが、プロセスチャンバ内部にて基板に対しする処理を実行するための各装置(ガス導入系、排気系、放電用電極・電源、バイアス電極・電源など)を備えている。
【0010】
また、図1には、ライン中の所定の位置に、基板の向きを転換可能な方向転換チャンバ91や基板を基板搬送系に搭載する基板搭載チャンバ92、基板搬送系から基板を取り出す基板解除チャンバ93が設置されている。なお、本実施形態では、各チャンバP、91〜93は、内部を減圧可能な真空ポンプ(図示せず)などの排気系に接続されると共に、各チャンバ間はゲートバルブGVを介して接続されており、減圧雰囲気下で基板Sを搬送可能である。
【0011】
図2に、本実施形態にかかる基板処理システムの機能ブロック図を示す。
図2の基板処理システムは、基板処理システムに共通して設けられる装置全体制御装置2と、装置PC3と、各プロセスモジュールPM(1)〜(9)に対応して設けられるプロセスモジュール制御装置PMC(1)〜(9)と、を備えて構成される。これらは相互に通信可能に接続され、データの送受が可能である。また、これらは夫々、データやプログラムを記憶可能な記憶機能、プログラムを実行可能な演算処理機能を有するパーソナルコンピュータやPLCなどの処理装置を備えて構成される。
【0012】
以下、具体的に本実施形態にかかる機能を実現するための各装置の構成及び動作について説明する。
装置PC3は、基本動作レシピファイルを取得する基本動作レシピファイル取得部32と、差分パラメータ記述ファイルを取得する差分パラメータ記述ファイル取得部31と、送信部33と、を備えて構成される。
【0013】
図3(1)に基本動作レシピファイルの構成例を、図3(2)に差分パラメータ記述ファイルの構成例を示す。基本動作レシピファイルは、各プロセスモジュールPMにおける基板に対する処理の条件に関する情報を含む。図中では、「ガス導入流量」、「圧力」、「コンダクタンス」、「ターゲット電力」、「バイアス電力」などの各処理条件の設定項目に対する設定値が、各プロセスモジュールごとに規定されている。一方、差分パラメータ記述ファイルは、各基板に対応づけて設定された各プロセスモジュールにおける処理条件の情報を含む。図中では、「ターゲット電力」と「バイアス電力」の設定値が、プロセスモジュールに搬送される基板を特定可能な基板識別情報(図中、「No.1」等)に対応付けられている。つまり、差分パラメータ記述ファイルでは、基本動作レシピファイルにおいて設定可能だった処理条件の全てではなく、一部の項目に対してのみ(以下、「差分項目」、「差分パラメータ」と記述することもある)、設定値が対応付けられている。
【0014】
なお、図示していないが、装置PC3は、ユーザからの入力が可能な入力装置(キーボードやマウスなど)と、ユーザの入力内容を表示可能な液晶ディスプレイなどの表示装置と、を備える。上述の基本動作レシピファイルや差分パラメータ記述ファイルは、ユーザ入力を介して取得することができる。
【0015】
図2に戻り、送信部33は、上述のようにして取得した基本動作レシピファイルや差分パラメータ記述ファイルから各プロセスモジュールPMに対応するデータを抽出し、対応する各プロセスモジュール制御装置PMCに送信する。本実施形態では、この送信動作は、処理対象の基板に対する一連の処理を開始する前に実行する。これにより、処理中に処理条件の指定データを追加送信することなく、差分パラメータ記述ファイルにおいて条件を指定した全ての基板に対する処理を実行可能である。また、本実施形態では、装置PC3から直接プロセスモジュール制御装置PMCに送信しているが、装置全体制御装置2を介して送信するようにしてもよい。
【0016】
装置全体制御装置2は、各プロセスモジュール制御装置PMCや基板搬送系を含む装置全体の動作を管理、制御する。本実施形態では、基板搬送系から取得する基板搬送状態を示す情報に基づき、各プロセスモジュールPMに搬送されている基板の情報を取得する基板情報管理部21を備えて構成される。基板情報管理部21は、基板に対する順次処理の開始後、基板SがプロセスモジュールPMに搬送される度に、各プロセスモジュール制御装置PMCに対応するプロセスモジュールPMに搬送される基板の識別情報を送信する。なお、このとき基板識別情報を含まなくても、基板搬送のタイミング知らせる信号だけでもよい。
【0017】
プロセスモジュール制御装置PMCは、受信部11と、記憶部12と、基板搬送情報取得部13と、設定部14と、を備える。受信部11は、装置PC3から基本動作レシピファイルおよび差分パラメータ記述ファイルに含まれる情報を受信し、対応する記憶部12の各領域に格納する。記憶部12は、各処理条件についての設定値である基本動作レシピデータ、及び、各基板に対応づけられた差分パラメータの設定値を記憶する。基板搬送情報取得部13は、装置全体制御装置2の基板情報管理部21からプロセスモジュールPMに搬送される基板の識別情報を受信する。設定部14では、これに基づいて、搬送される基板の差分パラメータの設定値、及び、差分パラメータ以外の処理条件に関しては基本動作レシピデータに含まれる設定値をプロセスモジュールPMの各装置に設定する。これにより、プロセスモジュールPMでは、基板ごとに指定された処理条件での処理が実行される。
【0018】
以上説明したように、本実施形態によれば、予め基板ごとの処理条件に関する情報をプロセスモジュール側に送信しているので、基板が搬送されるたびに、各プロセスモジュール側には搬送タイミング信号や基板識別情報のみを送信すればよい。このため、タクトタイム(例えば、5秒)が短く、プロセスモジュール数の多いインライン方式の基板処理システムであっても、装置全体制御装置や通信経路の過負荷による処理遅延等を招くことなく、基板ごとに異なる処理を実現可能である。また、予めプロセスモジュール側に送信する基板ごとに異なる情報は、異なる部分を送信するため、プロセスモジュール側の記憶装置の容量を大幅に圧迫することもない。
【0019】
さらに、これは装置側のみでなく、ユーザ側にも大きなメリットがある。すなわち、基板ごとに異なる処理条件に関しては、異なる条件のみをまとめて差分パラメータ記述ファイルに指定できるので、変更しない処理条件の指定ミスを防ぐことができる。同様に、指定に関わらないデータ量が多すぎることによるデータ変更作業の煩雑さを軽減できるので、変更作業の効率化にも寄与する。
【0020】
なお、本発明の適用は、上記実施形態に限定されない。例えば、本実施形態では、基板ごとに設定可能な処理条件の項目が固定されていたが、これに限らず、基板ごとに異なる項目とその設定値の両方を指定可能にしてもよい。これは、変化させる項目が基板ごとにまちまちで、かつ、変化させる項目量が少ない場合に有効である。また、本実施形態では、基板の処理中は基板処理条件の指定情報を送信していないが、一度に差分パラメータ記述ファイルで処理条件を指定する基板数を減らし、当該ファイルにより指定される基板の処理中に並行して次の基板処理条件の指定情報を送信するようにしてもよい。この場合にも、本発明では、差分パラメータのみを送信することで、送信するデータ量を圧縮しているので、通信路に大きな負荷をかけずに済む。これは、プロセスモジュール制御装置の記憶容量がさほど大きくない場合に有効である。
【符号の説明】
【0021】
P プロセスチャンバ
91 方向転換チャンバ
92 基板搭載チャンバ
93 基板解除チャンバ
S 基板
GV ゲートバルブ
PM プロセスモジュール
PMC プロセスモジュール制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対する処理を実行するプロセスモジュールを制御するプロセスモジュール制御装置を備え、
前記プロセスモジュール制御装置は、
処理すべき基板がプロセスモジュールに搬送される搬送タイミングを取得する搬送タイミング取得手段と、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件に関する処理条件基本情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する基本情報取得手段と、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件の一部であって、基板ごとに設定される処理条件に関する処理条件差分情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する差分情報取得手段と、
前記搬送タイミング取得手段により取得される基板の搬送タイミングに応じ、前記基本情報取得手段及び前記差分情報取得手段により取得される処理条件に基づいて、前記プロセスモジュールに対し搬送される基板の処理条件を設定する制御手段と、
を備えることを特徴とする基板処理システム。
【請求項2】
プロセスモジュールへの基板の搬送を制御する基板搬送制御手段を備え、
前記搬送タイミング取得手段は、搬送対象の基板を特定可能な基板識別情報を含む搬送タイミング信号を前記基板搬送制御手段から受信するものであることを特徴とする請求項1に記載の基板処理システム。
【請求項3】
前記プロセスモジュールが複数隣設され、前記プロセスモジュール間を搬送される基板に対して順次処理を実行するインライン方式のシステムにおいて、前記プロセスモジュール制御装置は、前記プロセスモジュールに搭載されたものであることを特徴とする請求項1に記載の基板処理システム。
【請求項4】
基板に対する処理を実行するプロセスモジュールに処理すべき基板が搬送される搬送タイミングを取得する搬送タイミング取得手段と、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件に関する処理条件基本情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する基本情報取得手段と、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件の一部であって、基板ごとに設定される処理条件に関する処理条件差分情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する差分情報取得手段と、
前記搬送タイミング取得手段により取得される基板の搬送タイミングに応じ、前記基本情報取得手段及び前記差分情報取得手段により取得される処理条件に基づいて、前記プロセスモジュールに対し搬送される基板の処理条件を設定する制御手段と、
を備えることを特徴とするプロセスモジュール制御装置。
【請求項5】
基板に対する処理を実行するプロセス実行手段としてのプロセスモジュールと、前記プロセスモジュールを制御するプロセスモジュール制御手段とを備え、
前記プロセスモジュール制御手段は、
前記プロセスモジュールに処理すべき基板が搬送される搬送タイミングを取得する搬送タイミング取得手段と、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件に関する処理条件基本情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する基本情報取得手段と、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件の一部であって、基板ごとに設定される処理条件に関する処理条件差分情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する差分情報取得手段と、
前記搬送タイミング取得手段により取得される基板の搬送タイミングに応じ、前記基本情報取得手段及び前記差分情報取得手段により取得される処理条件に基づいて、前記プロセスモジュールに対し搬送される基板の処理条件を設定する制御手段と、
を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項6】
基板に対する処理を実行するプロセスモジュールを制御するプロセスモジュールコントローラにより実行されるプログラムであって、
基板に対する処理を実行するプロセスモジュールに処理すべき基板が搬送される搬送タイミングを取得する搬送タイミング取得ステップと、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件に関する処理条件基本情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する基本情報取得ステップと、
前記プロセスモジュールにおける基板の処理条件の一部であって、基板ごとに設定される処理条件に関する処理条件差分情報を前記基板の搬送タイミングより低い頻度で取得する差分情報取得ステップと、
前記搬送タイミング取得ステップにおいて取得される基板の搬送タイミングに応じ、前記基本情報取得ステップ及び前記差分情報取得ステップにおいて取得される処理条件に基づいて、前記プロセスモジュールに対し搬送される基板の処理条件を設定する制御ステップと、
を有することを特徴とする基板処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−142397(P2012−142397A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293525(P2010−293525)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】