説明

基板処理方法及び基板処理装置

【課題】洗浄槽から引き上げた基板の下端部に液滴が残って不純物やパーティクル等が基板に残留するのを抑制することができる基板処理方法及び基板処理装置を提供する。
【解決手段】洗浄液を貯留し、該洗浄液に対して基板を浸漬することができる洗浄槽と、前記洗浄槽の上方に配置され、前記基板を収容可能な乾燥室と、複数の基板を直立に保持し、前記洗浄槽と前記乾燥室とを往復可能に設けられる基板保持搬送部と、前記乾燥室に設けられ、前記乾燥室内へ有機溶剤の蒸気を供給する第1の供給部と、前記基板保持搬送部により前記乾燥室において保持される前記基板の下端部に乾燥ガスを供給可能な第2の供給部とを備える基板処理装置により上記課題が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハやフラットパネルディスプレー製造用のガラス基板などの基板を洗浄し乾燥する基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの製造工程では、薬液が貯留される洗浄槽において半導体ウエハ(以下、ウエハと称する)を洗浄することにより、ウエハに付着した金属や有機物などの不純物やパーティクルを除去する洗浄プロセスが行われる。例えば、洗浄プロセスは、洗浄槽内に貯留される薬液に複数のウエハをほぼ直立に保持して浸漬し、洗浄槽に純水を供給することにより純水で薬液を置換し、洗浄槽からウエハを引き上げ、アルコール等を用いてウエハを乾燥させることにより行われる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−209109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の洗浄プロセスにおいて、洗浄槽からウエハを引き上げたときには、ウエハの表面(及び裏面)には純水が膜状に残っており、重力によりウエハ表面を流れ落ちていく。このとき、ほぼ直立に保持されるウエハの下端部には、下端部から落ちきれない純水(アルコール等を含む)の液滴が残ってしまう。この液滴が乾燥すると、液滴中に含まれていた不純物やパーティクルがウエハの下端部に残留する。残留した不純物やパーティクルは、後のプロセスにおいてウエハの表面に飛散する可能性があるため、製造歩留まり低下の要因となる。
【0005】
本発明は、上記の事情を考慮して為され、洗浄槽から引き上げた基板の下端部に液滴が残って不純物やパーティクル等が基板に残留するのを抑制することができる基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、リンス液が貯留された洗浄槽から、該洗浄槽の上方に配置される乾燥室に基板を収容するステップと、前記基板が収容される前記乾燥室に第1の供給部から有機溶剤の蒸気を供給するステップと、液膜が前記基板の表面を流れ落ちて前記基板の下端部に形成される液滴に対して、第2の供給部から乾燥ガスを供給するステップとを含む基板処理方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、少なくともリンス液を貯留可能で、該リンス液に複数の基板が浸漬されるよう構成される洗浄槽と、前記洗浄槽の上方に配置され、前記複数の基板を収容可能な乾燥室と、前記複数の基板を直立に保持し、前記洗浄槽と前記乾燥室とを往復可能に設けられる基板保持搬送部と、前記乾燥室に設けられ、前記乾燥室内へ有機溶剤の蒸気を供給する第1の供給部と、前記基板保持搬送部により前記乾燥室において保持される前記基板の下端部に乾燥ガスを供給可能な第2の供給部と、前記第2の供給部からの前記乾燥ガスの供給が、前記第1の供給部からの前記有機溶剤の蒸気の供給以降に開始されるように、前記第1の供給部及び前記第2の供給部を制御する制御部とを備える基板処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、洗浄槽から引き上げた基板の下端部に液滴が残って不純物やパーティクル等が基板に残留するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態による基板処理装置を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態による基板処理方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態による基板処理方法の要部を説明するための模式図である。
【図4】本発明の実施形態による基板処理装置の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一または対応する部材または部品については、同一または対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1を参照すると、本発明の実施形態による基板処理装置1は、ウエハWの液処理を行う液処理部2と、液処理部2の上方に配置され、液処理部2でのリンス処理が終了したウエハWの乾燥を行う乾燥処理部3と、液処理部2と乾燥処理部3との間で複数のウエハWを一括して移動させる移動機構としてのウエハガイド4を有している。
【0012】
ウエハガイド4は、例えば50枚のウエハWをほぼ直立に保持する保持部26と、保持部26を支持する支柱部27とを有している。保持部26は、図1の紙面に垂直な方向に延びる4つのウエハ支持部26Sを有している。ウエハ支持部26Sには、その長手方向(紙面に垂直な方向)に沿って配列される例えば50個の切欠部(図示せず)を有しており、4つのウエハ支持部26Sに対応して設けられる4つの切欠部でウエハWのエッジを支持する。これにより、ウエハWが保持部26にほぼ直立に保持される。なお、ウエハ支持部26Sは、ほぼ直立に保持されるウエハWの下端部を避けて配置されている。
【0013】
また、支柱部27は、後述するチャンバ5の蓋62を気密に貫通している。支柱部27はガイド昇降機構28により昇降自在であり、保持部26に保持されたウエハWを液処理部2と乾燥処理部3との間で移動させることができる。
【0014】
液処理部2は、ボックス13内に配置される液処理槽6を有する。液処理槽6は、本実施形態においては希釈フッ酸(DHF)及び脱イオン水(DIW)が貯留され、ウエハWを収容して液処理する洗浄槽30と、洗浄槽30の上部の開口を囲むように形成された中槽31と、中槽31の開口を囲むように形成された外槽32と、を含む。
【0015】
洗浄槽30内の下部には、DHFおよびDIWを洗浄槽30内に供給する処理液供給ノズル35が設けられている。処理液供給ノズル35には、DHF供給源からDHFを洗浄槽30に供給するDHF供給ライン51と、DIW供給源からDIWを供給するDIW供給ライン52と、を有する処理液供給ライン20が接続されている。DHF供給ライン51に設けられた開閉バルブ51aと、DIW供給ライン52に設けられた開閉バルブ52aとを相補的に開閉することによって、DHF及びDIWのいずれか一方を供給することができる。また、DHF供給ライン51及びDIW供給ライン52には、それぞれ流量制御器(図示せず)が設けられ、これにより、DHF及びDIWは流量制御されて洗浄槽30内へ供給される。
【0016】
洗浄槽30の底部には、開閉バルブ37が設けられた排液管36が接続されている。開閉バルブ37を開くと、排液管36を通して洗浄槽30内のDHFやDIWがからボックス13内に排出される。また、ボックス13の下部には、バルブが設けられた排液管141が接続されている。洗浄槽30からボックス13内に排出されたDHFやDIWは、排液管141を通してボックス13内から排出され得る。さらに、ボックス13には排気管142が設けられており、排気管142を通して、例えば、ボックス13に排出されたDHFから発生する蒸気を排気することができる。
【0017】
中槽31は、洗浄槽30の上面開口からオーバーフローした純水を受け止める。中槽31の底部には、中槽31から純水を排出するための排液管41の一端が接続されている。排液管41の他端はトラップ42内に挿入されている。また、トラップ42には、トラップ42内に挿入された排液管41の他端よりも高い位置に開口する排液管43が設けられている。これにより、中槽31から排液管41を通してトラップ42に流入した純水は、排液管43の開口の高さまで貯留され、純水が更に流入すると、排液管43の開口から排出される。このような構成により、例えばボックス13内の蒸気やガスが、排液管43やトラップ42を通して中槽31に到達するのが抑制される。例えば、洗浄槽30からボックス13内に排出されたDHFから発生した蒸気が排液管41を通じて液処理槽6内に混入するのを抑制することができる。
【0018】
外槽32には、常時、純水が貯留されている。また、環状のシール板46が、その下部が外槽32中の純水に浸され、かつ、その上端が外槽32の上方に配置されたシャッタボックス11の下板に密着するように、配設されている。このような構成により、外槽32は純水を利用したシール機能を有し、洗浄槽30の雰囲気が外部に漏れるのを抑制することができる。なお、シャッタボックス11には、開閉バルブ137が設けられた排気管136が接続され、シャッタボックス11内の雰囲気を排気することができる。
【0019】
乾燥処理部3にはウエハWを収容するチャンバ5が設けられている。チャンバ5は、ウエハガイド4により保持されるウエハWを収容可能な略角筒状の本体部61と、本体部61の上面開口を開閉する蓋62とから構成されている。本体部61の下面開口は、後述するシャッタ10により開閉可能である。
【0020】
蓋62は、上に凸の略半円形の断面形状を有している。蓋62は、蓋昇降機構64により昇降自在であり、本体部61から持ち上げられたときに、本体部61の内部に対してウエハWが搬入出される。具体的には、ウエハガイド4の保持部26が本体部61の上方に維持され、この保持部26と図示しない外部搬送装置等との間でウエハWが受け渡しされ、ウエハガイド4を上下動することにより、ウエハWの搬入出が行われる。
蓋62が本体部61に載置されたときは、蓋62は、シール部材63を介して、本体部61の上面開口を気密に塞ぐことができる。
【0021】
チャンバ5内には、2本の第1ガス供給ノズル71が設けられている。2本の第1ガス供給ノズル71は、保持部26に保持される例えば50枚のウエハWの両側に1本ずつ、保持部26の長手方向(紙面垂直方向)に沿って延びている。第1ガス供給ノズル71は、保持部26において50枚のウエハWが保持される保持範囲よりも長いことが好ましい。また、第1ガス供給ノズル71には、その長手方向に沿って所定の間隔で配列される複数のガス吐出孔71a(図2参照)が設けられている。第1ガス供給ノズル71には処理ガス供給管21が接続されている。処理ガス供給管21には蒸気発生器22が接続されている。蒸気発生器22は、開閉バルブ83a、流量制御器24a、加熱器24h、及び開閉バルブ83bが設けられたガス配管24により、図示しない窒素ガス供給源と接続され、開閉バルブ82a、流量制御器23a、及び開閉バルブ82bが設けられたガス配管23により、図示しないイソプロピルアルコール(IPA)供給源と接続されている。流量制御器24aにより流量制御された窒素ガスが加熱器24hにより加熱されて蒸気発生器22へ供給され、流量制御器23aにより流量制御されたIPAが蒸気発生器22へ供給される。これにより、蒸気発生器22においてIPA蒸気が発生し、窒素ガスをキャリアガスとしてIPA蒸気が処理ガス供給管21を通して第1ガス供給ノズル71へ供給され、第1ガス供給ノズル71のガス吐出孔71aから本体部61内へ供給される。
【0022】
なお、第1ガス供給ノズル71に設けられるガス吐出孔71aは、水平方向よりも上方に向かって開口している。好ましくは、ガス吐出孔71aは、ガス吐出孔71aから吐出されたIPA蒸気が、チャンバ5内に収容されたウエハWに直接にあたらずに斜め上方に噴射されるように設けられる。より好ましくは、ガス吐出部71aは、IPA蒸気が、ウエハWの左上と右上を通過して蓋62の内周面上部に向かって上昇し、蓋62の上部中央において合流して下降し、ウエハWどうしの間に流入してウエハWの表面に沿って流下するように設けられる。
【0023】
また、チャンバ5内には、2本の第2ガス供給ノズル72が設けられている。第2ガス供給ノズル72は、対応する第1ガス供給ノズル71の下方に第1ガス供給ノズル71とほぼ平行に配置されている。第2ガス供給ノズル72は、本実施形態においては、複数のガス吐出孔72a(図2参照)が水平方向よりも下方に開口している点を除き、第1ガス供給ノズル72と同じ構成を有している。また、第2ガス供給ノズル72は、開閉バルブ86a、流量制御器25a、加熱器25h、及び開閉バルブ86bが設けられた乾燥ガス供給管25により、乾燥ガス供給源と接続されている。これにより、乾燥ガス供給源からの乾燥ガスが乾燥ガス供給管25を通して第2ガス供給ノズル72へ供給され、第2ガス供給ノズル72のガス吐出孔72aから供給される。乾燥ガスとしては、窒素ガスや希ガスなどの不活性ガスや清浄化された乾燥気体(又は乾燥空気)を用いることができる。
なお、第2ガス供給ノズル72のガス吐出孔72aは、チャンバ5内に収容されたウエハWの下端部に向かって開口し、下端部に向けて乾燥ガスを吐出することができるように設けられていることが好ましい。
【0024】
また、チャンバ5の本体部61の側壁下方部に排気口73が形成され、排気口73は所定の配管を介して排気装置(ともに図示せず)に接続されている。排気装置は、チャンバ5内にIPA蒸気や乾燥ガスが供給されている間は起動されており、これにより、IPA蒸気や乾燥ガスがチャンバ5から排気される。また、チャンバ5の蓋62が開いている場合に、排気装置を起動し、後述するファンフィルタユニット(FFU)12からの清浄気体のダウンフローをチャンバ5の本体部61を通して排気するようにしても良い。
【0025】
液処理部2と乾燥処理部3との間にはシャッタ10が設けられている。シャッタ10は、液処理部2と乾燥処理部3との間でウエハWを移動させるとき、及び液処理部2において液処理を行うときは、シャッタボックス11に収容されており、したがって液処理部2と乾燥処理部3とは連通している。一方、ウエハWが乾燥処理部3に収容され、乾燥処理が行われるに際して、シャッタ10は、シール部材135を介して乾燥処理室3の下端に密着し、これにより乾燥処理室3内の気密が保たれる。シャッタ10の上面は、両端から中心に向かって傾斜しており、中心部には排液口(図示せず)が形成されている。また、排液口には吸引機構としてのポンプ(図示せず)が接続されている。これにより、液処理槽6からチャンバ5内へ引き上げられたウエハWから流れ落ちる純水が、チャンバ5内から排出される。なお、吸引機構としてポンプの代わりにアスピレータを用いても良い。
【0026】
また、基板処理装置1には、上方に設けられたファンフィルタユニット(FFU)12から清浄気体が供給され、清浄気体によるダウンフローが生成される。これにより、液処理部2と乾燥処理部3は清浄な雰囲気に置かれる。
【0027】
さらに、基板処理装置1には、基板処理装置1の各部(構成部材、構成部品)を制御する制御部99が設けられている。制御部99は、例えば中央演算部(CPU)を含むコンピュータと、メモリ装置とを含み、後述する基板処理方法を基板処理装置1に実施させるコンピュータプログラムを実行することができる。このコンピュータプログラムは、コンピュータ可読記録媒体99aに記憶され、制御部99のメモリ装置にロードされて制御部により実行される。コンピュータ可読記録媒体99aは、例えばフレキシブルディスク、光ディスク、半導体メモリなどであって良い。また、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読記録媒体99aからではなく、所定のネットワークを通して制御部99のメモリ装置にロードしても良い。
【0028】
次に、図2及び図3を参照しながら、上述の基板処理装置1を用いて行われる、本発明の実施形態による基板処理方法を説明する。なお、図3は、基板処理方法の主なステップにおけるウエハWと、ガス供給ノズル71,72からのガスの供給とを模式的に示しており、チャンバ5やシャッタ10等は省略する。
【0029】
まず、乾燥処理部3のチャンバ5内にウエハWが搬入される(ステップS21)。具体的には、チャンバ5の蓋62が本体部61から持ち上げられ、チャンバ5の本体部61の上方において、基板処理装置1の外部の搬送装置からウエハガイド4の保持部26へ50枚のウエハWが受け渡される。受け渡されたウエハWは、ウエハ支持部26Sによりほぼ直立に支持されている。次いで、ウエハガイド4が下降して、ウエハWが本体部61内に収容され、蓋62が閉まる。
【0030】
次に、シャッタ10をシャッタボックス11内に収容することにより、乾燥処理部3のチャンバ50と液処理部2の洗浄槽30とを連通させ、ウエハガイド4を下降させる。これにより、DHF供給ライン51を通して洗浄槽30に供給され貯留されたDHF内にウエハWが浸漬され(ステップS22)、DHFによりウエハWの表面(及び裏面)が洗浄される。
【0031】
DHFによるウエハWの洗浄を所定の期間行った後、ウエハWを洗浄槽30内に配置したまま、処理液供給ノズル35から洗浄槽30内にDIWを供給して、洗浄槽30内のDHFをDIWに置換し、ウエハWをリンスする(ステップS23)。このとき、洗浄槽30からオーバーフローしたDHFやDIWは、中槽31に受け止められ、排液管41およびトラップ42を通して排出される。
【0032】
濃度センサ53により洗浄槽30内のDHFの濃度をモニターしつつ、DHF濃度が所定の濃度以下に下がったことが確認された後、ウエハガイド4によりウエハWが洗浄槽30から取り上げられる。これによりリンスが終了する。
【0033】
ウエハWが洗浄槽30から取り上げられて、乾燥処理部3のチャンバ5内に収容されると(ステップS24)、シャッタ10が閉じて、チャンバ5内が密閉される。また、アスピレータ(図示せず)が起動され、シャッタ10の中央部に設けられた排気口(図示せず)から、ウエハWからシャッタ10へたれた純水が排出される。このとき図3(a)に示すように、ウエハWの表面(及び裏面)のほぼ全体に純水が液膜となって残っている。
次に、排気装置(図示せず)を起動することにより排気管73を通してチャンバ5内を排気するとともに、図3(b)に示すように、第1ガス供給ノズル71からチャンバ5内へIPA蒸気を供給する(ステップS25)。本実施形態では、上述のとおり、ウエハWの両側に位置する各第1ガス供給ノズル71から供給されるIPA蒸気は、蓋62の内面に向かって供給され、その内面に当たって合流してからウエハWに向かって流れていく。このようにして、ウエハWの表面に残る純水の液膜がIPA蒸気(又はIPAガス)に晒されると、純水の液膜にIPA蒸気が溶け込み、ウエハWの表面はIPA水溶液の液膜で覆われることとなる。ところが、IPA水溶液の表面張力は純水の表面張力よりも小さく、ウエハWの表面に膜状に残ることができなくなるため、図3(b)に示すように、ウエハWの表面を流れ落ちていく。これにより、ウエハWの表面は上部からIPA水溶液に濡れていない状態となる。
【0034】
なお、このステップ(S25)における条件を例示すると、蒸気発生器22(図1)に供給する窒素ガスの流量は、例えば20リットル/分(l/min)から300l/minまでであり、好ましくは70l/minから150minまでである。また、加熱器24hにて加熱される窒素ガスの温度は、IPAを蒸発(気化)させるに十分な温度に設定して良く、例えば140℃から230℃までの範囲の温度であって良い。さらに、蒸気発生器22に供給するIPAの流量は、例えば0.1cc/minから6.0cc/minまでであって良い。また、第1ガス供給ノズル71からのIPA蒸気の供給時間は、例えば60秒程度であって良い。
【0035】
次いで、図3(c)に示すように、第1ガス供給ノズル71からは窒素ガスだけが供給される(ステップS26)。これは、図1に示すガス配管23の開閉バルブ82a及び82bを閉めることにより行われる。この窒素ガスによりウエハWの表面に残留する水分やIPAが蒸発し、ウエハWの表面が乾燥される。なお、本実施形態においては、このときの流量制御器24a及び加熱器24h(図1)は、IPA蒸気を供給するときと同一に設定されている。また、窒素ガスの供給時間は80秒であって良い。
第1ガス供給ノズル71からの窒素ガスの供給を停止した後、ステップS27において、第2ガス供給ノズル72からウエハWの下端部に向けて窒素ガスが供給される。このとき、ウエハWの下端部には、図3(c)に示すように、ウエハWの表面を流れ落ちたIPA水溶液が落ちきれずに残こる液滴がある。しかし、図3(d)に示すように、第2ガス供給ノズル72からの窒素ガスにより吹き飛ばされる。このようにして、図3(e)に示すように、ウエハWの洗浄された表面(下端部を含む)が乾燥される。
【0036】
次いで、窒素ガスの供給とチャンバ5内の排気とが停止され(ステップS28)、チャンバ5の蓋52が本体部61から持ち上げられる。そして、チャンバ5内にウエハWを搬入したときの手順と逆の手順に従って、ウエハWがチャンバ5から搬出され(ステップS29)、ウエハWに対する処理が終了する。
【0037】
以上のとおり、本発明の実施形態による基板処理方法においては、ほぼ直立に保持されたウエハWが洗浄槽30から取り上げられたときにウエハWの下端部に液滴が残ったとしても、第2ガス供給ノズル72からの窒素ガスにより吹き飛ばすことができる。下端部に残る液滴には不純物やパーティクルが残っている可能性があるため、液滴が乾燥して不純物やパーティクル等がウエハWに残留してしまうおそれがある。しかし、本発明の実施形態による基板処理方法によれば、液滴を吹き飛ばすことができるため、不純物やパーティクルがウエハWに残留するのを抑制することが可能となる。
【0038】
また、本発明の実施形態による基板処理装置1を用いた基板処理方法によれば、ウエハW上の純水の液膜に対してIPA蒸気が直接に当たることがないため、IPA水溶液による一様な液膜が形成され、ウエハWの表面上部から一様に流れ落ちることができる。仮に、液膜に対してIPA蒸気が直接に当たると、その部分でのIPA濃度が高くなり、その部分の液膜が速く流れ落ちる。この結果、液膜が分断され、その部分よりも上側の液膜が液滴となってウエハWの表面に残る可能性がある。しかし、基板処理方法によれば、液膜が一様に流れ落ちることができるため、ウエハWの表面に液滴が残るのを抑制することができる。したがって、清浄化されたウエハWの表面は、ウォータマークが生じることなく、乾燥され得る。
【0039】
以上、幾つかの実施形態を参照しながら本発明を説明したが、本発明の上述の実施形態に限定されることなく、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変形又は変更が可能である。
【0040】
例えば、第2ガス供給ノズル72からの窒素ガスの供給(ステップS27)は、第1ガス供給ノズル71からの窒素ガスの供給(ステップS26)が終了する前に開始しても良く、第1ガス供給ノズル71からの窒素ガスの供給(ステップS26)と同時に行っても良い。このようにすれば、ウエハWの表面(下端部を除く)を乾燥しつつ、ウエハWの下端部に残る液滴を吹き飛ばすことができるため、処理時間を短縮することができる。
【0041】
また、第2ガス供給ノズル72からの窒素ガスの供給(ステップS27)は、第1ガス供給ノズル71からのIPA蒸気の供給(ステップS25)と時間的に重複するように行っても良い。特に、IPA水溶液の液膜がウエハWの表面を流れ落ち、ウエハWの下端部に液滴が残るのとほぼ同時に、第2ガス供給ノズル72から窒素ガスを下端部へ向けて供給することが好ましい。そして、この後に、第1ガス供給ノズル71から供給されるガスをIPA蒸気から窒素ガスに切り替え、ウエハWの表面全体を乾燥させると好ましい。
【0042】
また、乾燥ガスとしてのIPA蒸気を第2ガス供給ノズル72から供給しても良い。この場合は、第1ガス供給ノズル71から窒素ガスを供給して、ウエハWの表面を窒素ガスにより乾燥させる前(ステップS26の前)に、第2ガス供給ノズル72からウエハWの下端部に向けてIPA蒸気を供給すること(ステップS27)が好ましい。また、第1ガス供給ノズル71からのIPA蒸気の供給(ステップS25)を停止する前に、第2ガス供給ノズル72からウエハWの下端部に向けてIPA蒸気を供給すること(ステップS27)がより好ましい。さらに、第1ガス供給ノズル71からのIPA蒸気の供給(ステップS25)によりIPA水溶液の液膜がウエハWの表面を流れ落ち、ウエハWの下端部に液滴が残ったときに、第2ガス供給ノズル72から下端部へ向けてIPA蒸気を供給することが一層好ましい。そして、第1ガス供給ノズル71及び72からのIPA蒸気の供給を停止した後に、第1ガス供給ノズル71から窒素ガスを供給することにより、ウエハWの表面を更に乾燥する。
【0043】
また、上述の実施形態においては、第2ガス供給ノズル2からウエハWの下端部に向けて乾燥ガスを供給して、ウエハWの下端部に残る液滴を吹き落とすようにしたが、この液滴を下端部から落下させることができる限りにおいて、乾燥ガスの供給方法は限定されない。例えば、図4(a)に示すように、チャンバ5内に収容されるウエハWの下端部とほぼ同じ高さに第2ガス供給ノズル72を配置し、第2ガス供給ノズル72から水平方向に乾燥ガスを供給しても良い。このようにすれば、ウエハWの下端部に残る液滴は、この乾燥ガスにより揺動され、下端部から落下し得る。
【0044】
また、図4(b)に示すように、第2ガス供給ノズル72から、水平方向よりも上向きに乾燥ガスを供給しても構わない。この場合、ウエハWの下端部の近くで乾燥ガスが衝突し、乱流が発生する。これにより、ウエハWの下端部に残る液滴は揺動されて落下し得る。さらに、図4(c)に示すように、第2ガス供給ノズル72から、水平方向よりも下方に向けて乾燥ガスを供給しても良い。この場合、乾燥ガスは、シャッタ10の上面に当たって上向きに流れることとなるため、ウエハWの下端部の液滴を下方から揺動することができる。これにより、液滴が落下し得る。
【0045】
また、第1ガス供給ノズル71は、上向き(斜め上向き)と下向き(斜め下向き)にIPA蒸気又は窒素ガスを供給することができるように、中心軸を中心に回動可能に構成しても良い。これによれば、IPA蒸気の供給、ウエハWの表面を乾燥させるための窒素ガスの供給、及びウエハWの下端部に向けた乾燥ガスの供給を第1ガス供給ノズル71により行うことができる。
【0046】
さらに、上述の実施形態においては、IPA蒸気と、ウエハWの表面を乾燥させるための窒素ガスとを第1ガス供給ノズル71から切り替えて供給したが、ウエハWの表面を乾燥させるための窒素ガスを供給するノズルを、第1ガス供給ノズル71と別に設けても構わない。
【0047】
また、上述の実施形態では、第1ガス供給ノズル71においてIPA蒸気からウエハWの表面を乾燥させるための窒素ガスに切り替えるときに、流量制御器24a及び加熱器24(図1)の設定温度を同一としたが、窒素ガス供給時の窒素ガスの温度を変えても良い。例えば、ウエハWの表面を乾燥させるための窒素ガスの流量を350ml/minと設定し、温度を200℃と設定しても良い。
【0048】
また、第1ガス供給ノズル71からの窒素ガスの供給(ステップS26)は、場合によっては、行わなくても良い。例えば、第1ガス供給ノズル71からIPA蒸気を供給することにより、チャンバ5内の温度が高くなった結果、ウエハWの表面が乾燥し得る場合には、ステップS26を省略しても構わない。
【0049】
また、ウエハガイド4の保持部26には4つのウエハ支持部26Sが設けられていたが、少なくとも2つのウエハ支持部26Sを設ければよい。この場合においても、2つのウエハ支持部26SはウエハWの下端部を避けて配置される。
【0050】
また、ウエハWの下端部に液滴が形成されるのを光学的に検知し、その検知に基づいて、第2ガス供給ノズル72からウエハWの下端部に向けて乾燥ガスを供給するようにしても良い。そのような検知は、チャンバ5内において保持部26により保持されるウエハWの下端部に向けてレーザ光を照射するレーザ光光源と、ウエハWの下端部で反射されるレーザ光を受光する受光器とをチャンバ5の本体部61に設けることにより可能となる。すなわち、ウエハWの下端部に形成される液滴によりレーザ光が散乱されるため、受光器での受光量が減少したことをもって、ウエハWの下端部における液滴の形成を検出し得る。また、ウエハWの下端部の上方、すなわち、液滴に覆われる部分の上方の位置に対してレーザ光を照射し、その反射光を受光するようにしても良い。このようにすれば、ウエハWの下端部に液滴が形成される際には、その上方の位置においては液膜が消失しているため、液膜による散乱が減少する。したがって、受光器による受光量が増大することをもって、ウエハWの下端部における液滴の形成を検出し得る。また、ウエハWの下端部表面と平行に、かつ、レーザ光の光路がウエハWの下端部表面に接するようにレーザ光光源からレーザ光を発し、そのレーザ光を受光器により受光するようにしても良い。さらに、レーザ光光源の代わりに、例えば発光ダイードやランプなどの所定の光源と、この光源から発せられる光をほぼ平行な光に変換する所定の光学系とを用いて良い。
【0051】
また、上述の実施形態においては、DHFによりウエハWを洗浄する場合を例示したが、洗浄液としてDIWのみを用いることもできる。この場合、図1に示すDHF供給ライン51の開閉バルブ51aを閉めたままで良い。また、DHF供給源に代わり、他の薬液の供給源を洗浄槽30に接続しても良い。他の薬液としては、例えばアルコール(例えばイソプロピルアルコール(IPA))、SC1(NHOH+H+HO)、又はSC2(HCl+H+HO)などを用いることができる。また、薬液として、バッファードフッ酸(BHF)、又はHNOなどを用いても良い。
【0052】
また、有機溶剤として、IPAを用いた場合について説明したが、IPA以外の有機溶剤、例えばメタノールやエタノールなどを用いても良い。メタノールは、水との混和性が高く、水との置換性を高めることができるため、乾燥性能をより向上させることができる。
【0053】
さらに基板は半導体ウエハに限定されるものではなく、液晶ディスプレイ用のガラス基板、プリント配線基板、セラミック基板等であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1・・・基板処理装置、2・・・液処理部、3・・・乾燥処理部、4・・・ウエハガイド、5・・・チャンバ、6・・・液処理槽、10・・・シャッタ、11・・・シャッタボックス、13・・・ボックス、20・・・処理液供給ライン、21・・・処理ガス供給管、22・・・蒸気発生器、23・・・ガス配管、24・・・ガス配管、26・・・保持部、26S・・・ウエハ支持部、27・・・支柱部、30・・・洗浄槽、31・・・中槽、32・・・外槽、35・・・処理液供給ノズル、36・・・排液管、51・・・DHF供給ライン、52・・・DIW供給ライン、61・・・本体部、62・・・蓋、71・・・第1ガス供給ノズル、71a・・・ガス吐出孔、72・・・第2ガス供給ノズル、99・・・制御部、W・・・ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンス液が貯留された洗浄槽から、該洗浄槽の上方に配置される乾燥室に基板を収容するステップと、
前記基板が収容される前記乾燥室に第1の供給部から有機溶剤の蒸気を供給するステップと、
液膜が前記基板の表面を流れ落ちて前記基板の下端部に形成される液滴に対して、第2の供給部から乾燥ガスを供給するステップと
を含む基板処理方法。
【請求項2】
前記乾燥室に不活性ガスを供給するステップを更に含む、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記不活性ガスを供給するステップが、前記基板の表面の液膜を流し落とすステップと、前記乾燥ガスを供給するステップとの間に行われる、請求項1又は2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記乾燥ガスを水平方向よりも下向きに供給する、請求項1から3のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記収容するステップにおいて、前記基板が、少なくとも2つの支持部により下端部を避けた位置において支持される、請求項1から4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記基板の表面の液膜を流し落とすステップが、前記有機溶剤の蒸気を排気するステップを含み、
前記乾燥ガスを供給するステップが、前記乾燥ガスを排気するステップを含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
少なくともリンス液を貯留可能で、該リンス液に複数の基板が浸漬されるよう構成される洗浄槽と、
前記洗浄槽の上方に配置され、前記複数の基板を収容可能な乾燥室と、
前記複数の基板を直立に保持し、前記洗浄槽と前記乾燥室とを往復可能に設けられる基板保持搬送部と、
前記乾燥室に設けられ、前記乾燥室内へ有機溶剤の蒸気を供給する第1の供給部と、
前記基板保持搬送部により前記乾燥室において保持される前記基板の下端部に乾燥ガスを供給可能な第2の供給部と、
前記第2の供給部からの前記乾燥ガスの供給が、前記第1の供給部からの前記有機溶剤の蒸気の供給以降に開始されるように、前記第1の供給部及び前記第2の供給部を制御する制御部と
を備える基板処理装置。
【請求項8】
前記第1の供給部が、前記有機溶剤の蒸気と切り替えて不活性ガスを供給することができる、請求項7に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記第2の供給部が、前記乾燥ガスを水平方向よりも下向きに供給する、請求項7又は8に記載の基板処理装置。
【請求項10】
基板保持搬送部が、前記基板の端部を保持する少なくとも2つの支持部を有し、該少なくとも2つの支持部が前記基板の下端部を避けて配置される、請求項7から9のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項11】
前記第1の供給部から供給される前記有機溶剤の蒸気、及び前記第2の供給部から供給される前記乾燥ガスを排気可能な排気部を更に備える、請求項7から10のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項12】
前記基板の下端部に向かう方向に光を発する光源部と、
前記光源部からの前記光を受光する受光部と
を更に備え、
前記受光部により受光される前記光の受光量に基づいて、前記基板の下端部に形成される液滴を検出する、請求項7から11のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項13】
請求項7から12のいずれか一項に記載の基板処理装置に請求項1から6のいずれか一項に記載の基板処理方法を実施させるプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを記憶するコンピュータ可読記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−222306(P2012−222306A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89597(P2011−89597)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】