説明

基板洗浄方法及び基板洗浄装置

【課題】基板に付着した異物を取り除きつつ、基板や該基板上に形成された膜の劣化を防止することができる基板洗浄方法を提供する。
【解決手段】異物22が付着し且つほぼ真空の雰囲気中に配されるウエハWに向けて0.3MPa〜2.0MPaのいずれかの圧力で洗浄ガスを噴霧して複数のガス分子20からなるクラスター21を形成し、該クラスター21をイオン化することなくウエハWへ衝突させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板洗浄方法及び基板洗浄装置に関し、特に、液体を用いずに基板を洗浄する基板洗浄方法及び基板洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の工程を経て基板、例えば、ウエハ上に電子デバイスを製造する場合、各工程においてウエハに成膜処理やエッチング処理を施してウエハ上に、例えば、トレンチやホールからなる所望のパターンを形成していく。このとき、成膜処理やエッチング処理において反応生成物や意図しない異物が生じ、ウエハ上に付着することがある。ウエハ上の異物等は次の工程の処理に悪影響を及ぼすので、極力除去する必要がある。
【0003】
従来、ウエハ上の異物除去方法として、薬液槽にウエハを浸漬して異物を洗い流す方法や、ウエハに純水や薬液を噴霧して異物を洗い流す方法が用いられていた。これらの方法では、ウエハの洗浄後、ウエハ上に純水や薬液が残るため、スピン乾燥等によってウエハを乾燥させていた。
【0004】
ところが、ウエハの乾燥の際、図4(A)に示すようにトレンチ41、42に、例えば、薬液43が残っていると、薬液43の表面において気液界面張力Fが発生し、該気液界面張力Fはパターンの凸部44a〜44cに作用し、図4(B)に示すように、パターンの凸部44aや44cを倒すおそれがある。
【0005】
パターンの凸部の倒れを防止するためには、純水や薬液を用いずにウエハを洗浄するドライ洗浄方法が適しており、ドライ洗浄方法としては、ウエハ上にレーザを照射して異物を蒸発させる方法や、プラズマによるスパッタリングによって異物を物理的に除去する方法が知られているが、レーザを照射するとウエハ上に形成された膜が変質するおそれがあり、また、プラズマはエネルギーが高いため、異物だけでなくパターンをスパッタリングによって削ってしまうおそれがある。
【0006】
そこで、近年、ウエハへ付与するエネルギーがさほど高くないドライ洗浄方法として、GCIB(Gas Cluster Ion Beam)を利用する方法が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。GCIBとは、真空雰囲気に向けてガスを吹き付けてガス分子のクラスターを形成し、さらに該クラスターをイオン化し、ウエハにバイアス電圧を印加することでイオン化されたクラスターをウエハに衝突させる方法である。ウエハに衝突したクラスターはウエハへ運動エネルギーを付与した後、分解されてガス分子となり飛散する。このとき、ウエハ上では運動エネルギーによって異物とガス分子との化学反応が促進されて反応物が生成され、該反応物が昇華することにより、異物が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−29691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、GCIBではイオン化されたクラスターがバイアス電圧によって加速されてウエハに衝突するため、クラスター中のガス分子がウエハ上に形成された膜やウエハそのものに欠陥を生じさせたり、所定量のガス分子がドープされて膜やウエハが劣化することがある。
【0009】
本発明の目的は、基板に付着した異物を取り除きつつ、基板や該基板上に形成された膜の劣化を防止することができる基板洗浄方法及び基板洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の基板洗浄方法は、異物が付着し且つ低圧の雰囲気中に配される基板に向けて前記低圧の雰囲気より高圧のガスを噴霧して複数のガス分子からなるクラスターを形成し、該クラスターをイオン化することなく前記基板へ衝突させることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の基板洗浄方法は、請求項1記載の基板洗浄方法において、前記クラスターが到達した前記基板から除去された前記異物を前記基板とは別の場所に配された冷却部に捕捉させることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の基板洗浄方法は、請求項1又は2記載の基板洗浄方法において、前記高圧のガスを前記基板に対して斜めに噴霧することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の基板洗浄方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板洗浄方法において、前記異物は自然酸化膜であり、前記ガスは三弗化塩素ガスであることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の基板洗浄方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板洗浄方法において、前記異物は有機物であり、前記ガスは二酸化炭素ガスであることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の基板洗浄方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板洗浄方法において、前記異物は金属であり、前記ガスはハロゲン化水素ガスであることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の基板洗浄方法は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の基板洗浄方法において、前記クラスターが前記基板へ衝突する際、前記基板を加熱することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の基板洗浄方法は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の基板洗浄方法において、前記ガスの噴霧時の圧力は0.3MPa〜2.0MPaのいずれかであることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項9記載の基板洗浄装置は、異物が付着した基板を収容する内部が低圧の雰囲気である処理室と、前記基板に向けて前記低圧の雰囲気より高圧のガスを噴霧して複数のガス分子からなるクラスターを形成し、該クラスターをイオン化することなく前記基板へ衝突させるガス噴霧部とを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の基板洗浄装置は、請求項9記載の基板洗浄装置において、前記基板よりも低温であって、前記クラスターが到達した前記基板から除去された前記異物を捕捉する冷却部をさらに備え、前記冷却部は前記基板とは別の場所に配されることを特徴とする。
【0020】
請求項11記載の基板洗浄装置は、請求項9又は10記載の基板洗浄装置において、前記ガス噴霧部が前記高圧のガスを噴霧しつつ前記基板の表面に沿って移動することを特徴とする。
【0021】
請求項12記載の基板洗浄装置は、請求項9乃至11のいずれか1項に記載の基板洗浄装置において、前記ガス噴霧部は前記高圧のガスを前記基板に対して斜めに噴霧することを特徴とする。
【0022】
請求項13記載の基板洗浄装置は、請求項9乃至12のいずれか1項に記載の基板洗浄装置において、前記基板を加熱する加熱部をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
請求項14記載の基板洗浄装置は、請求項10記載の基板洗浄装置において、前記冷却部に向けてCOブラストまたは複数のガス分子からなる他のクラスターを噴出する噴出部をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
請求項15記載の基板洗浄装置は、請求項9乃至14のいずれか1項に記載の基板洗浄装置において、前記ガス噴霧部は直径が0.02mm〜1.0mmの穴から前記高圧のガスを噴霧することを特徴とする。
【0025】
請求項16記載の基板洗浄方法は、請求項1又は2記載の基板洗浄方法において、前記高圧のガスを前記基板に対して複数の方向から噴霧することを特徴とする。
【0026】
請求項17記載の基板洗浄方法は、請求項16記載の基板洗浄方法において、前記複数の方向から噴霧される前記各高圧のガスの圧力を互いに異なるように設定し、及び/又は前記各高圧のガスの噴霧タイミングを互いにずらすことを特徴とする。
【0027】
請求項18記載の基板洗浄装置は、請求項9乃至11のいずれか1項に記載の基板洗浄装置において、前記ガス噴霧部を複数備え、前記各ガス噴霧部は前記高圧のガスを前記基板に対して複数の方向から噴霧することを特徴とする。
【0028】
請求項19記載の基板洗浄装置は、請求項18記載の基板洗浄装置において、前記各ガス噴霧部が前記複数の方向から噴霧する前記各高圧のガスの圧力は互いに異なり、及び/又は前記各ガス噴霧部が前記各高圧のガスの噴霧タイミングを互いにずらすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
請求項1記載の基板洗浄方法及び請求項9記載の基板洗浄装置によれば、異物が付着した基板にイオン化されていない複数のガス分子からなるクラスターが衝突する。イオン化されていないクラスターはバイアス電圧等によって加速されることがないので、クラスターが分解して飛散するガス分子は基板上に形成された膜や基板そのものにドープされることがない。一方、クラスターは加速されなくても質量が大きいので、衝突時に基板へ付与する運動エネルギーは、1つのガス分子が基板に付与する運動エネルギーよりも大きく、これにより、異物とガス分子との化学反応を促進することができる。したがって、基板に付着した異物を取り除きつつ、基板や該基板上に形成された膜の劣化を防止することができる。
【0030】
請求項2記載の基板洗浄方法及び請求項10記載の基板洗浄装置によれば、基板から除去されて飛散する異物は、熱泳動力によって、低温に設定された冷却部(パーティクル回収部)に引き寄せられて捕捉される。したがって、基板から除去された反応物が再び基板に到達して付着するのを防止することができる。
【0031】
請求項3記載の基板洗浄方法及び請求項12記載の基板洗浄装置によれば、高圧のガスが基板に対して斜めに噴霧される。クラスターが基板に衝突すると基板から反射波が発生するが、クラスターが基板に対して斜めに衝突するため、反射波はクラスターの移動方向とは別の方向に向けて発生する。したがって、反射波が他のクラスターと正対して衝突することがなく、該他のクラスターが分解することがないので、クラスター及び基板の衝突を継続することができ、基板からの異物の除去の効率が低下するのを防止することができる。
【0032】
請求項4記載の基板洗浄方法によれば、異物は自然酸化膜であり、ガスは三弗化塩素ガスである。自然酸化膜は三弗化塩素と化学反応を起こして反応物を生成する。したがって、基板から異物としての自然酸化膜を確実に除去することができる。
【0033】
請求項5記載の基板洗浄方法によれば、異物は有機物であり、ガスは二酸化炭素ガスである。有機物は二酸化炭素と化学反応を起こして反応物を生成する。したがって、基板から異物としての有機物を確実に除去することができる。
【0034】
請求項6記載の基板洗浄方法によれば、異物は金属であり、ガスはハロゲン化水素ガスである。金属はハロゲン化水素と化学反応を起こして反応物を生成する。したがって、基板から異物としての金属を確実に除去することができる。
【0035】
請求項7記載の基板洗浄方法及び請求項13記載の基板洗浄装置によれば、クラスターが基板へ衝突する際、基板が加熱される。基板が加熱されると、異物とガス分子との化学反応が促進される。したがって、基板から異物を確実に除去することができる。
【0036】
請求項8記載の基板洗浄方法によれば、ガスの噴霧時の圧力は0.3MPa〜2.0MPaのいずれかであるので、ガスが噴霧された際、低圧の雰囲気において急激な断熱膨張を起こして複数のガス分子が急冷される。その結果、クラスターの形成を促進することができる。
【0037】
請求項11記載の基板洗浄装置によれば、ガス噴霧部が高圧のガスを噴霧しつつ基板の表面に沿って移動するので、基板の表面全体から異物を除去することができる。
【0038】
請求項14記載の基板洗浄装置によれば、冷却部に向けてCOブラストまたは複数のガス分子からなる他のクラスターが噴出され、冷却部に捕捉された異物は冷却部から剥離する。これにより、冷却部へ多量の反応物が付着するのを防止することができ、もって、基板から除去された異物の冷却部による回収の効率が低下するのを防止することができる。
【0039】
請求項15記載の基板洗浄装置によれば、ガス噴霧部は直径が0.02mm〜1.0mmの穴からガスを噴霧するので、噴霧時のガスの膨張率を大きくすることができ、もって、クラスターの形成をより促進することができる。
【0040】
請求項16記載の基板洗浄方法及び請求項18記載の基板洗浄装置によれば、高圧のガスが基板に対して複数の方向から噴霧されるので、基板においてクラスターが衝突しない箇所が発生するのを防止することができる。
【0041】
請求項17記載の基板洗浄方法及び請求項19記載の基板洗浄装置によれば、複数の方向から噴霧される各高圧のガスの圧力は互いに異なり、及び/又は各高圧のガスの噴霧タイミングが互いにずらされるので、高圧のガスに脈動を与えることができ、もって、高圧のガスによる洗浄能力を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る基板洗浄方法を実行する基板洗浄装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の基板洗浄装置が実行する基板洗浄方法を示す工程図である。
【図3】図1におけるパーティクル回収部の洗浄方法を示す工程図である。
【図4】従来のウエハ洗浄方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0044】
図1は、本実施の形態に係る基板洗浄方法を実行する基板洗浄装置の構成を概略的に示す断面図である。
【0045】
図1において、基板洗浄装置10は、内部雰囲気がほぼ真空、例えば、1Paまで減圧されて基板としての半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)Wを収容するチャンバ11(処理室)と、該チャンバ11内に配されてウエハを載置するテーブル状の載置台12と、該載置台12に載置されたウエハに対向するようにチャンバ11内に配されるガス噴霧ノズル13(ガス噴霧部)と、載置台12の近傍に配されるクリーニングノズル14(噴出部)と、チャンバ11内のガスを排気する排気管15とを備える。
【0046】
載置台12は、例えば、紐状のカーボンヒータ(加熱部)(図示しない)を内蔵し、該載置台12に載置されたウエハW(以下、「載置ウエハW」という。)を加熱する。ガス噴霧ノズル13は、筒状の基部16と、該基部16を中心軸方向に沿って貫通する、例えば、直径が0.02mm〜1.0mmであるガス噴出穴17と、基部16におけるウエハW側端部に穿孔されて該端部に向けて漏斗状に直径が大きくなるガス膨張穴18と、基部16におけるウエハW側端部において載置ウエハWと略平行に延出する板状のパーティクル回収部19とを有する。
【0047】
基部16は載置ウエハWに対し、例えば、45°だけ傾けて配され、ガス噴出穴17は圧力が0.3MPa〜2.0MPaのいずれかでガス膨張穴18を介してガスを噴霧する。したがって、ガス噴霧ノズル13はウエハWに対して45°でガスを噴霧する。
【0048】
パーティクル回収部19は冷却装置、例えば、ペルチェ素子を内蔵し、該ペルチェ素子はパーティクル回収部19の表面の温度を、載置ウエハWの温度よりも低下、例えば、10℃まで低下させる。
【0049】
また、ガス噴霧ノズル13は、載置ウエハWの表面に対して平行に移動することでき、その移動量は載置ウエハWの直径よりも大きい。したがって、ガス噴霧ノズル13は載置ウエハWの表面全体に向けてガスを噴霧することができる。ガス噴霧ノズル13では、該ガス噴霧ノズル13が移動可能範囲において図中の最も左側に移動した際、パーティクル回収部19が載置ウエハWと対向しないように、基部16の図中の左側に設けられる。
【0050】
クリーニングノズル14は筒状のノズルであり、チャンバ11内において図中上方に向けて開口し、クリーニングノズル14の開口部14aは、ガス噴霧ノズル13が移動可能範囲において図中の最も左側に移動した際、パーティクル回収部19と対向する。
【0051】
排気管15は下流側においてドライポンプ(DP)やターボ分子ポンプ(TMP)と接続され、チャンバ11内を排気してチャンバ11内の雰囲気をほぼ真空まで減圧するとともに、チャンバ11内に浮遊するパーティクルを排出する。
【0052】
図2は、図1の基板洗浄装置が実行する基板洗浄方法を示す工程図である。
【0053】
載置ウエハWから異物22を除去する際、まず、ガス噴霧ノズル13はウエハWに向けてガス噴出穴17から圧力が0.3MPa〜2.0MPaのいずれかで洗浄ガス(高圧のガス)を噴霧する。このとき、ガス膨張穴18内の雰囲気はチャンバ11内の雰囲気と同様にほぼ真空であるため、洗浄ガスの圧力が急激に低下するとともに、該ガス膨張穴18の直径もガス分子20の進路に沿って急激に大きくなるため、洗浄ガスの体積が急激に大きくなる。すなわち、ガス噴出穴17から噴霧された洗浄ガスは急激な断熱膨張を起こして各ガス分子20が急冷される。当初1つ1つ独立して移動していた各ガス分子20は急冷されると、運動エネルギーが低下し各ガス分子20間に作用する分子間力(ファンデルワールス力)によって互いに密着し、これにより、多数のガス分子20からなるクラスター21が形成される(図2(A))。
【0054】
次いで、クラスター21はイオン化されることなくそのままウエハWに付着した異物22に衝突する。このとき、クラスター21は異物22へ運動エネルギーを付与した後、分解されて複数のガス分子20となり飛散する(図2(B))。
【0055】
ここでクラスター21はイオン化されていないため、例え、載置台12へ載置ウエハWを吸着するためにバイアス電圧が印加されていても、該バイアス電圧によって加速されることがない。その結果、クラスター21は異物22へ穏やかに衝突する。一方、クラスター21は加速されていなくても質量が大きいので、1つのガス分子20が異物22に付与するエネルギーよりも大きいエネルギーを異物22に付与することができる。したがって、クラスター21から飛散した各ガス分子20は異物22や載置ウエハWへ穏やかに衝突し、載置ウエハW上に形成された膜や載置ウエハWそのものに欠陥を生じさせたり、ドープされることがない一方、クラスター21が衝突した異物22では付与された大きい運動エネルギーによって異物22とガス分子20の一部との化学反応が促進されて反応物23が生成される。ここで、載置台12に内蔵されたカーボンヒータがウエハWを介して反応物23を加熱するため、これによっても、異物22とガス分子20の一部との化学反応が促進される。
【0056】
次いで、反応物23は、続いて衝突する他のクラスターによって運動エネルギーを付与され続けるとともに、載置台12に内蔵されたカーボンヒータによって加熱され続ける。また、反応物23の周りの雰囲気はほぼ真空である。したがって、反応物23は容易に昇華し、載置ウエハWから剥離してチャンバ11内を漂う。ここで、パーティクル回収部19の表面が内蔵するペルチェ素子によって載置ウエハWよりも低温に設定されるので、昇華した反応物23は熱泳動力によってパーティクル回収部19へ向けて移動し、該パーティクル回収部19へ付着する(図2(C))。すなわち、パーティクル回収部19は載置ウエハWから剥離した反応物23を回収する(図2(D))。
【0057】
上述した図2(A)乃至図2(D)の工程は、ガス噴霧ノズル13が載置ウエハWの表面に対して平行に移動する間、繰り返して実行される。
【0058】
ガス噴霧ノズル13が噴霧する洗浄ガスの種類は、ウエハWに付着している異物22の種類に応じて適宜決定される。例えば、異物22が自然酸化膜、例えば、二酸化硅素(SiO)であれば、三弗化塩素(ClF)は自然酸化膜と化学反応を起こして反応物23を生成するので、洗浄ガスとして三弗化塩素ガスを用いればよく、異物22が有機物であれば、二酸化炭素(CO)は有機物と化学反応を起こして反応物23を生成するので、洗浄ガスとして二酸化炭素ガスを用いればよく、異物22が金属であれば、ハロゲン化水素、例えば、弗化水素(HF)や塩化水素(HCl)は金属と化学反応を起こして反応物23を生成するので、洗浄ガスとしてハロゲン化水素ガスを用いればよい。
【0059】
また、ガス噴霧ノズル13の基部16は載置ウエハWに対し、例えば、45°だけ傾けて配されるので、ガス噴霧ノズル13から噴霧された洗浄ガスから形成されたクラスター21は載置ウエハWに対して45°の方向で衝突する。仮に、クラスター21が載置ウエハWに対して垂直に衝突すると、クラスター21の衝突の反作用として発生する反射波がウエハWに対して垂直に発生する。したがって、反射波が続く他のクラスターと正対して衝突するため、該他のクラスターが分解してしまう。一方、図2の基板洗浄方法ではクラスター21が載置ウエハWに対して45°の方向で衝突するので、クラスター21の衝突の反作用として発生する反射波が135°の方向で発生し、反射波が続く他のクラスターと正対して衝突することがなく、該他のクラスターが分解することがない。
【0060】
図2の基板洗浄方法を継続すると、パーティクル回収部19に付着する反応物23の量が多くなり、パーティクル回収部19の表面が殆ど反応物23によって覆われることになるため、続いて発生する反応物23がパーティクル回収部19に付着することができず、チャンバ11内を漂い続けるおそれがある。
【0061】
本実施の形態では、これに対応して、パーティクル回収部19を定期的に洗浄する。具体的には、所定枚数のウエハWを洗浄した後、チャンバ11内にウエハWが存在しない状況でガス噴霧ノズル13を移動可能範囲において図中の最も左側に移動させ、パーティクル回収部19をクリーニングノズル14の開口部14aと対向させる(図3(A))。
【0062】
次いで、クリーニングノズル14の開口部14aからパーティクル回収部19へ向けてたとえば、COブラストまたはガス分子のクラスターが噴出される。パーティクル回収部19に付着している反応物23は吹き付けられたCOブラストまたはガス分子のクラスターによってパーティクル回収部19から剥離する(図3(B))。剥離した反応物23は排気管15によってチャンバ11から排出される。これにより、パーティクル回収部19の表面が殆ど反応物23によって覆われるのを防止することができ、もって、反応物23のパーティクル回収部19による回収の効率が低下するのを防止することができる。
【0063】
本実施の形態に係る基板洗浄方法によれば、異物22が付着した載置ウエハWにイオン化されていない複数のガス分子20からなるクラスター21が衝突する。イオン化されていないクラスター21はバイアス電圧等によって加速されることがないので、クラスター21が分解して飛散した各ガス分子20は載置ウエハW上に形成された膜や載置ウエハWそのものに欠陥を生じさせたり、ドープされることがない。一方、クラスター21は加速されなくても質量が大きいので、衝突時に異物22へ付与する運動エネルギーは、1つのガス分子20が異物22に付与する運動エネルギーよりも大きく、これにより、異物22とガス分子20の一部との化学反応を促進することができる。したがって、載置ウエハWに付着した異物22を取り除きつつ、載置ウエハWや該載置ウエハW上に形成された膜の劣化を防止することができる。
【0064】
上述した本実施の形態に係る基板洗浄方法では、載置ウエハWから除去された反応物23が載置ウエハWとは別の場所に配されたパーティクル回収部19に引き寄せられ捕捉される。したがって、載置ウエハWから除去された反応物23が再び載置ウエハWに到達して付着するのを防止することができる。
【0065】
また、上述した本実施の形態に係る基板洗浄方法では、洗浄ガスが載置ウエハWに対し、例えば、45°の方向で噴霧されるので、クラスター21の衝突の反作用として発生する反射波は135°の方向で発生する。したがって、反射波が他のクラスターと正対して衝突することがなく、該他のクラスターが分解することがないので、クラスター21及び載置ウエハWの衝突を継続することができ、載置ウエハWからの異物22の除去の効率が低下するのを防止することができる。
【0066】
さらに、上述した本実施の形態に係る基板洗浄方法では、洗浄ガスの噴霧時の圧力は0.3MPa〜2.0MPaのいずれかであるので、ガスが噴霧された際、洗浄ガスの圧力を急激に低下させることができ、また、洗浄ガスは直径が0.02mm〜1.0mmであるガス噴出穴17から噴霧されるので、噴霧時のガスの膨張率を大きくすることができ、もって、急激な断熱膨張を起こして複数のガス分子20を急冷することができる。その結果、クラスター21の形成をより促進することができる。
【0067】
また、上述した本実施の形態に係る基板洗浄装置では、クラスター21をイオン化する必要がないので、基板洗浄装置10はイオナイザー等のイオン化装置を備える必要がなく、基板洗浄装置10の構造を簡素化することができる。
【0068】
さらに、上述した本実施の形態に係る基板洗浄装置では、ガス噴霧ノズル13が洗浄ガスを噴霧しつつ載置ウエハWの表面に沿って移動するので、載置ウエハWの表面全体から異物22を除去することができる。
【0069】
なお、洗浄ガスの種類によってはクラスター21を形成しにくいものもあるが、この場合、クラスター21の質量がさほど大きくならないので、異物22とガス分子20の一部との化学反応を促進するために、異物22をカーボンヒータによってより強く加熱するのが好ましい。一方、洗浄ガスがクラスター21を形成しやすいものである場合、クラスター21の質量が必要十分以上に大きくなるため、異物22をカーボンヒータによって加熱しなくても、異物22とガス分子20の一部との化学反応を促進することができる。
【0070】
上述した本実施の形態に係る基板洗浄装置では、1つのガス噴霧ノズル13が載置ウエハWに対して45°で洗浄ガスを噴霧するように配置されたが、この場合、載置ウエハW上に形成されたパターンなどによって局所的に洗浄ガスが遮られてクラスター21が衝突しない箇所が発生する虞がある。したがって、これに対応して、載置ウエハWに対して複数方向からそれぞれ洗浄ガスを噴霧できるように複数のガス噴霧ノズル(例えば、載置ウエハWに対して45°及び85°からそれぞれガスを噴霧するように2つのガス噴霧ノズル)を配置してもよい。これにより、載置ウエハWに対して複数方向から洗浄ガスを噴霧することができ、もって、局所的に洗浄ガスが遮られるのを防止してクラスター21が衝突しない箇所が発生するのを防止することができる。また、複数方向から洗浄ガスを噴霧することにより、クラスター21と異物22との衝突の頻度を向上することもできる。
【0071】
複数のガス噴霧ノズルを配置する場合、各ガス噴霧ノズルのガス噴出穴の直径や噴霧される洗浄ガスの圧力を互いに異なるように設定してもよい。また、各ガス噴霧ノズルの洗浄ガスの噴霧タイミングを互いにずらしてもよい。これにより、洗浄ガスに脈動を与えることができ、もって、洗浄ガスによる洗浄能力を飛躍的に向上させることができる。
【0072】
さらに、上述した本実施の形態に係る基板洗浄装置では、ガス噴霧ノズル13を載置ウエハWの表面に沿って移動させるが、ガス噴霧ノズルの位置を固定し、載置ウエハWを所定の方向へスライドさせる、若しくは、回転させてもよい。これによっても、載置ウエハWの表面全体から異物22を除去することができる。
【0073】
また、上述した実施の形態において基板洗浄方法が適用される基板は半導体ウエハに限られず、LCD(Liquid Crystal Display)等を含むFPD(Flat Panel Display)等に用いる各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
W ウエハ
10 基板洗浄装置
12 載置台
13 ガス噴霧ノズル
14 ヒータノズル
19 パーティクル回収部
20 ガス分子
21 クラスター
22 異物
23 反応物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異物が付着し且つ低圧の雰囲気中に配される基板に向けて前記低圧の雰囲気より高圧のガスを噴霧して複数のガス分子からなるクラスターを形成し、
該クラスターをイオン化することなく前記基板へ衝突させることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項2】
前記クラスターが到達した前記基板から除去された前記異物を前記基板とは別の場所に配された冷却部に捕捉させることを特徴とする請求項1記載の基板洗浄方法。
【請求項3】
前記高圧のガスを前記基板に対して斜めに噴霧することを特徴とする請求項1又は2記載の基板洗浄方法。
【請求項4】
前記異物は自然酸化膜であり、前記ガスは三弗化塩素ガスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板洗浄方法。
【請求項5】
前記異物は有機物であり、前記ガスは二酸化炭素ガスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板洗浄方法。
【請求項6】
前記異物は金属であり、前記ガスはハロゲン化水素ガスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板洗浄方法。
【請求項7】
前記クラスターが前記基板へ衝突する際、前記基板を加熱することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の基板洗浄方法。
【請求項8】
前記ガスの噴霧時の圧力は0.3MPa〜2.0MPaのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の基板洗浄方法。
【請求項9】
異物が付着した基板を収容する内部が低圧の雰囲気である処理室と、
前記基板に向けて前記低圧の雰囲気より高圧のガスを噴霧して複数のガス分子からなるクラスターを形成し、該クラスターをイオン化することなく前記基板へ衝突させるガス噴霧部とを備えることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項10】
前記基板よりも低温であって、前記クラスターが到達した前記基板から除去された前記異物を捕捉する冷却部をさらに備え、前記冷却部は前記基板とは別の場所に配されることを特徴とする請求項9記載の基板洗浄装置。
【請求項11】
前記ガス噴霧部が前記高圧のガスを噴霧しつつ前記基板の表面に沿って移動することを特徴とする請求項9又は10記載の基板洗浄装置。
【請求項12】
前記ガス噴霧部は前記高圧のガスを前記基板に対して斜めに噴霧することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の基板洗浄装置。
【請求項13】
前記基板を加熱する加熱部をさらに備えることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の基板洗浄装置。
【請求項14】
前記冷却部に向けてCOブラストまたは複数のガス分子からなる他のクラスターを噴出する噴出部をさらに備えることを特徴とする請求項10記載の基板洗浄装置。
【請求項15】
前記ガス噴霧部は直径が0.02mm〜1.0mmの穴から前記高圧のガスを噴霧することを特徴とする請求項9乃至14のいずれか1項に記載の基板洗浄装置。
【請求項16】
前記高圧のガスを前記基板に対して複数の方向から噴霧することを特徴とする請求項1又は2記載の基板洗浄方法。
【請求項17】
前記複数の方向から噴霧される前記各高圧のガスの圧力を互いに異なるように設定し、及び/又は前記各高圧のガスの噴霧タイミングを互いにずらすことを特徴とする請求項16記載の基板洗浄方法。
【請求項18】
前記ガス噴霧部を複数備え、前記各ガス噴霧部は前記高圧のガスを前記基板に対して複数の方向から噴霧することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の基板洗浄装置。
【請求項19】
前記各ガス噴霧部が前記複数の方向から噴霧する前記各高圧のガスの圧力は互いに異なり、及び/又は前記各ガス噴霧部が前記各高圧のガスの噴霧タイミングを互いにずらすことを特徴とする請求項18記載の基板洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−171584(P2011−171584A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35053(P2010−35053)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】