説明

変速機の同期装置

【課題】 摩擦面の潤滑性を向上する変速機の同期装置を提供する。
【解決手段】 回転軸上に固定して組み付けられるシンクロナイザハブ11と、前記回転軸に対して遊転可能に組み付けられるギア12と、前記シンクロナイザハブと前記ギア間に配置されて前記シンクロナイザハブの回転を前記ギアに伝達するための摩擦面16aを備えたシンクロナイザリング16からなるテーパーコーンクラッチとを備える変速機の同期装置において、前記シンクロナイザリング16は、その内部を前記軸方向に貫通して、前記摩擦面16aに供給される潤滑油が流通する第1貫通孔16gを所定間隔で備え、この第1貫通孔と連通し、前記摩擦面に潤滑油を供給する第2貫通孔16hを形成し、前記第2貫通孔は、互いに前記回転軸方向にオフセットして形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の同期装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の変速機の同期装置の一例として、いわゆるトリプルコーン型同期装置がある(特許文献1参照)。この同期装置は、シャフト上に互いに相対回転可能に組付けられるシンクロナイザハブとギヤ間にてアウタリングおよびインナリングを配置してこれら両リングを前記シンクロナイザハブに一体回転可能に連結するとともに、これら両リング間にダブルコーンを配置して前記ギヤに一体回転可能に連結し、これら3つのリングおよび前記ギヤ間に3つのテーパーコーンクラッチを形成したものである。
【特許文献1】特開平7−63251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この従来の同期装置においては、同期作用時に生じる熱が、特にインナリングから放熱されにくいという課題があった。また、インナリングの摩擦面に十分な潤滑油が供給されず、潤滑不良を生じるという課題があった。
【0004】
そこで本発明は、インナリングの過熱と潤滑不良とを防止する同期装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、回転軸上に固定して組み付けられるシンクロナイザハブと、前記回転軸に対して遊転可能に組み付けられるギアと、前記シンクロナイザハブと前記ギア間に配置されて前記シンクロナイザハブの回転を前記ギアに伝達するための摩擦面を備えたシンクロナイザリングからなるテーパーコーンクラッチとを備える変速機の同期装置において、前記シンクロナイザリングは、その内部を前記軸方向に貫通する第1貫通孔を所定間隔で備え、この第1貫通孔と連通し、前記摩擦面に潤滑油を供給する第2貫通孔を形成し、前記第2貫通孔は、互いに前記回転軸方向にオフセットして形成される。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、前記シンクロナイザリングが、シンクロナイザスリーブを介して前記シンクロナイザハブに接続するアウタリングと、前記アウタリングと摩擦係合するダブルコーンと、前記ダブルコーンと摩擦係合するインナリングとから構成され、前記インナリングに前記第1、第2貫通孔を形成した。
【0007】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記ギアのテーパー面と摩擦係合する前記インナリングの摩擦面に潤滑油を供給する第3貫通孔を前記第1貫通孔に連通するように前記インナリングに形成した。
【0008】
第4の発明は、第1から第3のいずれか一つの発明において、前記第1貫通孔が、潤滑油の流れ方向下流側ほど前記回転軸から遠くなるように所定角度を持って形成される。
【0009】
第5の発明は、第1から第3のいずれか一つの発明において、前記第1貫通孔が、前記インナリングの摩擦面と平行に形成される。
【0010】
第6の発明は、第1または第2の発明において、前記第2貫通孔が、前記摩擦面全体に渡りほぼ均一に分布するように形成される。
【発明の効果】
【0011】
したがって、第1の発明では、シンクロナイザリングの摩擦面の全体に渡り潤滑油を供給する第2貫通孔を形成したため、第1貫通孔によるシンクロナイザリングの冷却を可能とするとともに、この摩擦面の潤滑不良を防止することができる。
【0012】
第2と第3の発明では、シンクロナイザリングの内、最も高温となるインナリングに第1、第2貫通孔を設けたので、インナリングの冷却とインナリング摩擦面の潤滑不良を防止することができる。
【0013】
第4と第5の発明では、遠心力の作用により、潤滑油をスムースに下流側に流すことができる。
【0014】
第6の発明では、第2貫通孔を摩擦面全体に渡って形成するようにしたので、摩擦面への潤滑油の供給を均一に行うことで、摩擦面の潤滑不良を全体に渡り防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明を適用する同期装置を示していて、この同期装置は、周知のトリプルコーン型同期装置の構成を備えている。図1の状態は、シンクロナイザハブ11とギア12とが係合された状態を示している。
【0016】
この同期装置10について説明すると、図示しないシャフト上にスプライン結合されて一体的に回転するシンクロナイザハブ11と、シャフト上にベアリングを介して回転自在に組付けられてシンクロナイザハブ11に対して相対回転可能なギア12と、シンクロナイザハブ11に軸方向に移動可能にスプライン結合されたスリーブ13と、図示しないシンクロナイザキーと、シンクロナイザハブ11とギア12間に配置されてテーパーコーンクラッチを形成するシンクロナイザリングとしてのアウタリング14、ダブルコーン15及びインナリング16によって構成されている。
【0017】
アウタリング14は、内周にテーパーコーン面14aを有していて、ダブルコーン15の外周面に形成されたテーパーコーン面15aと摩擦係合し、また外周に形成した凸部14bを介して軸方向に移動可能なスリーブ13の内周と係止可能に嵌合する。ダブルコーン15のギア12側端部には軸方向に突出する凸部15cが形成されて、ギア12に形成された係合孔12a内に配置され、ダブルコーン15はギア12と一体的に回転する。さらにダブルコーン15の内周にはテーパーコーン面15bが形成され、インナリング16の外周に形成されたテーパーコーン面16aと摩擦係合する。インナリング16の内周面にもテーパーコーン面16bが形成され、このテーパーコーン面16bは、ギア12に形成されたテーパーコーン面12bと摩擦係合する。ここでテーパーコーン面15b、16aが請求項の摩擦面に相当する。
【0018】
なお、アウタリング14とインナリング16とは互いに軸方向に変位可能で、かつ一体的に回転するように構成されている。具体的には、アウタリング13のシンクロナイザハブ11側の端部は、シャフト中心に延出した爪部14cが形成され、この爪部14cは、インナリング16とほぼ同等の径寸法となるまで延出する。この爪部14cのインナリング16と軸方向に重なる所定箇所に凹部が軸方向に形成される。そしてこの凹部にインナリング16の一端16cから延出する凸部16dが軸方向に移動可能に嵌合する。なお、テーパーコーン面12bを形成するギア12の凸部12cは、インナリング部16の一端16cと軸方向に略同一位置まで延出する。
【0019】
このように構成されて、アウタリング14をギア12側に押し付ける軸方向の力が生じることにより、各テーパーコーン面間で摩擦係合が生じ、シンクロナイザハブ11の回転が各リングを介してギア12に伝達される。
【0020】
図2はシンクロナイザリング部の詳細を示す構成図である。
【0021】
各テーパーコーン面間の摩擦面に供給される潤滑油は、主としてシャフト内の油路に連通する、シンクロナイザハブ11に形成された供給孔11aから各部に供給される。インナリング16には、供給孔11aに対面する位置に凹部16eが形成され、潤滑油が溜まりやすい構造としている。この凹部16eに連通して、インナリング16内を貫通して凸部16dのシンクロナイザハブ11側の端部16iとギア12側の他端16fに開口する第1貫通孔16gが形成され、この第1貫通孔16gを潤滑油が流通することにより、インナリング16の熱を吸熱して発熱を抑制することができる。
【0022】
なお、第1貫通孔16gは、図に示すように潤滑油の流れ方向下流側ほど、シャフト中心線に対して径方向に遠くなるように、例えばシャフト中心線に対して所定角度α(αはテーパーコーン面16aの傾斜角度と略同一の角度)となるように形成することで、遠心力の作用により潤滑油を流れ易くすることができ、さらに効率よくインナリング16の熱を奪うことができる。
【0023】
さらに、第1貫通孔16gに連通してテーパーコーン面16aに開口する第2貫通孔16hが形成され、ダブルコーン15のテーパーコーン面15bとインナリング16のテーパーコーン面16aとの摩擦面に、遠心力の作用により効率良く潤滑油を供給することができ、この摩擦面での潤滑不良を防止することができる。このとき、第2貫通孔16hは、第1貫通孔16gの中心線に対して角度βの位置に形成され、シャフトの中心線に対して略直交する方向に形成される。
【0024】
また、第1貫通孔16gからテーパーコーン面16bに開口する第3貫通孔16jを形成して、テーパーコーン面16bとテーパーコーン面12bとの摩擦面に潤滑油を供給するように形成してもよい。
【0025】
図3はインナリング16の正面図であり、図4は、平面展開図である。図に示すように第2貫通孔16hは、第1貫通項16gに連通するとともに、テーパーコーン面16aに開口するように形成される。第2貫通孔16hは、等間隔で径方向に形成されており、また、その軸方向の間隔は、図4に示すように互いにオフセットして形成されている。このように軸方向にオフセットして第2貫通孔16hを形成することにより、インナリング16のテーパーコーン面16aとダブルコーン15のテーパーコーン面15bとの摩擦面全体に渡り均一に潤滑油を供給することになり、この摩擦面での潤滑不良を防止することができる。なお、第3貫通孔16jについても同様の構成とすることができる。
【0026】
なお、本実施形態では、トリプルコーン型同期装置の構成を用いて本発明を説明したが、これに限らず、いわゆるダブルコーン型同期装置やシングルコーン型同期装置に本発明の技術思想を容易に適用することが可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
同期機構を構成するシンクロナイザリングの摩擦面の潤滑不良を抑制し、同期装置の品質向上に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】トリプルコーン型同期装置の全体図である。
【図2】シンクロナイザリング部の詳細構成図である。
【図3】インナリングの正面図である。
【図4】インナリングの平面展開図である。
【符号の説明】
【0029】
10 同期装置
11 シンクロナイザハブ
12 ギア
12a 係合孔
12b テーパーコーン面
12c 凸部
13 スリーブ
14 アウタリング
14a テーパーコーン面
14b 凸部
14c 爪部
15 ダブルコーン
15a テーパーコーン面
15b テーパーコーン面
15c 凸部
16 インナリング
16a テーパーコーン面
16b テーパーコーン面
16c 一端
16d 凸部
16e 凹部
16f 他端
16g 第1貫通孔
16h 第2貫通孔
16i 端部
16j 第3貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸上に固定して組み付けられるシンクロナイザハブと、
前記回転軸に対して遊転可能に組み付けられるギアと、
前記シンクロナイザハブと前記ギア間に配置されて前記シンクロナイザハブの回転を前記ギアに伝達するための摩擦面を備えたシンクロナイザリングからなるテーパーコーンクラッチとを備える変速機の同期装置において、
前記シンクロナイザリングは、
その内部を前記軸方向に貫通して、前記摩擦面に供給される潤滑油が流通する第1貫通孔を所定間隔で備え、
この第1貫通孔と連通し、前記摩擦面に潤滑油を供給する第2貫通孔を形成し、
前記第2貫通孔は、互いに前記回転軸方向にオフセットして形成されることを特徴とする変速機の同期装置。
【請求項2】
前記シンクロナイザリングは、シンクロナイザスリーブを介して前記シンクロナイザハブに接続するアウタリングと、前記アウタリングと摩擦係合するダブルコーンと、前記ダブルコーンと摩擦係合するインナリングとから構成され、
前記インナリングに前記第1、第2貫通孔を形成することを特徴とする請求項1に記載の変速機の同期装置。
【請求項3】
前記ギアにテーパー面を形成し、
前記ギアのテーパー面と摩擦係合する前記インナリングの摩擦面に潤滑油を供給する第3貫通孔を前記第1貫通孔に連通するように前記インナリングに形成することを特徴とする請求項1または2に記載の変速機の同期装置。
【請求項4】
前記第1貫通孔は、潤滑油の流れ方向下流側ほど前記回転軸から遠くなるように所定角度を持って形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の変速機の同期装置。
【請求項5】
前記第1貫通孔は、前記インナリングの摩擦面と平行に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の変速機の同期装置。
【請求項6】
前記第2貫通孔は、前記摩擦面全体に渡りほぼ均一に分布するように形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の変速機の同期装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−9953(P2006−9953A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188087(P2004−188087)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】