説明

変速機付き圧縮機

【課題】製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能な変速機付き圧縮機を提供する。
【解決手段】クラッチ210は、ハウジング10とリングギヤ160との間に設けられ、リングギヤ160の移動によりハウジング10に対してリングギヤ160を固定する摩擦層300と、リングギヤ160に向かってハウジング10に形成された制御室211と、制御室211内に移動可能に収納された制御ピストン212と、制御ピストン212とリングギヤ160との間に設けられたスラストベアリング214と、制御室211内に制御圧力を供給して制御ピストン212を移動させる流路切替電磁弁91とからなる。摩擦層300は、振動を吸収可能な制振材300bを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機付き圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の変速機付き圧縮機が開示されている。この変速機付き圧縮機は、ハウジングと、ハウジング内に構成されて冷媒を圧縮可能な圧縮機構と、外部からハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持された入力軸と、ハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持されて圧縮機構を駆動可能な出力軸と、ハウジング内で入力軸と出力軸との間に設けられ、入力軸のトルクを出力軸に伝達しつつ入力軸の回転速度を増減して出力軸に伝達することにより圧縮機構を変速して駆動可能な変速機構と、変速機構を制御する制御機構とを備えている。
【0003】
変速機構は、軸芯方向の前方(入力軸側)に設けられた第1遊星歯車機構と、軸芯方向の後方(出力軸側)に設けられた第2遊星歯車機構とにより構成されている。第1、2遊星歯車機構はそれぞれ、サンギヤ、複数個の遊星ギヤ、各遊星ギヤを回転可能に保持するキャリヤ及び各遊星ギヤと噛合するリングギヤを有する。各リングギヤとハウジングとの間にはスラストベアリング及びラジアルベアリングが配設されており、各リングギヤは、ハウジングに対して固定と回動とが選択可能となっている。
【0004】
制御機構は、第1遊星歯車機構のリングギヤとハウジングとの間に設けられた第1ワンウェイクラッチと、第1遊星歯車機構のリングギヤとキャリヤとの間に設けられた第1クラッチと、第2遊星歯車機構のリングギヤとキャリヤとの間に設けられた第2ワンウェイクラッチと、第2遊星歯車機構のリングギヤとハウジングとの間に設けられた第2クラッチとを有している。第1、2クラッチは、それぞれ前方向又は後方向に変位することにより、各リングギヤをキャリヤ又はハウジングに対して固定するように構成されている。
【0005】
このような構成である従来の圧縮機では、第1、2クラッチが個別に又は同時に各リングギヤを上記固定状態にしたり、上記固定状態を解除したりする。そうすると、第1、2ワンウェイクラッチが各リングギヤと、ハウジング又はキャリヤとの間の相対回転を許容又は規制する。これにより、変速手段は、圧縮機構を段階的に変速して駆動可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−107412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の変速機付き圧縮機は、構造が複雑であることから製造コストの高騰化を生じるとともに、振動による騒音が大きいという問題がある。
【0008】
本発明は、製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能な変速機付き圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の変速機付き圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジング内に構成されて冷媒を圧縮可能な圧縮機構と、外部から前記ハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持された入力軸と、前記ハウジング内に延在し、前記軸芯回りに回転可能に支持されて前記圧縮機構を駆動可能な出力軸と、前記ハウジング内で前記入力軸と前記出力軸との間に設けられ、前記入力軸のトルクを前記出力軸に伝達しつつ前記入力軸の回転速度を等速のまま又は増速して前記出力軸に伝達することにより前記圧縮機構を2段階に変速して駆動可能な変速機構と、前記変速機構を制御する制御機構とを備え、
前記変速機構は、サンギヤ、複数個の遊星ギヤ、キャリヤ及びリングギヤを有する遊星歯車機構であり、
前記キャリヤは、前記各遊星ギヤを回転可能に保持しつつ前記入力軸と一体回転可能であり、
前記サンギヤは、前記各遊星ギヤと噛合しつつ前記出力軸と一体回転可能であり、
前記リングギヤは、前記各遊星ギヤと噛合しつつ前記ハウジングに対して固定と回動とが選択可能に構成されているとともに、前記ハウジングに対して前記軸芯と平行な方向に移動可能に構成され、
前記制御機構は、前記キャリヤと前記リングギヤとの間に設けられ、前記キャリヤと前記リングギヤとの一方向の相対回転を許容しつつ他方向の相対回転を規制するワンウェイクラッチと、前記ハウジングと前記リングギヤとの間に設けられ、係合によって前記リングギヤの前記回動を規制するクラッチとを有する変速機付き圧縮機であって、
前記クラッチは、前記ハウジングと前記リングギヤとの間に設けられ、前記リングギヤの移動により前記ハウジングに対して前記リングギヤを固定する摩擦層と、前記リングギヤに向かって前記ハウジングに形成された制御室と、前記制御室内に移動可能に収納された制御ピストンと、前記制御ピストンと前記リングギヤとの間に設けられたスラストベアリングと、前記制御室内に制御圧力を供給して前記制御ピストンを移動させる圧力調整手段とからなり、
前記摩擦層は振動を吸収可能な制振手段を有していることを特徴とする(請求項1)。
【0010】
本発明の変速機付き圧縮機(以下、単に「圧縮機」という。)では、リングギヤが制御機構の制御ピストンに押されれば、ハウジングとリングギヤとの間に摩擦層による摩擦力が生じ、リングギヤがハウジングに対して固定される。この際、キャリヤとリングギヤとは制御機構のワンウェイクラッチによって一方向の相対回転が許容され、出力軸は入力軸に対して回転速度が増速された増速回転状態となる。
【0011】
また、リングギヤが制御機構の制御ピストンに押される状態が解除されれば、ハウジングとリングギヤとの間に摩擦層による摩擦力が生じなくなり、リングギヤがハウジングに対して回動する。この際、キャリヤとリングギヤとは制御機構のワンウェイクラッチによって他方向の相対回転が規制され、出力軸は入力軸に対して回転速度が等速のままの等速回転状態となる。
【0012】
このため、この圧縮機は、圧縮機構を2段階に変速可能でありながら、構造が簡素化されているため、製造コストの低廉化を実現可能である。
【0013】
また、この圧縮機では、出力軸が増速回転状態である間、リングギヤがハウジングに対して固定された状態の下、各遊星ギヤがサンギヤ及びリングギヤと噛合しつつ入力軸及びキャリヤとともに回転する。このため、各遊星ギヤの歯とサンギヤの歯とが衝突することによる振動と、各遊星ギヤの歯とリングギヤの歯とが衝突することによる振動とがリングギヤからハウジングに伝達しようとする。
【0014】
しかしながら、この圧縮機では、摩擦層が制振手段を有していることから、これらの振動は制振手段によって吸収され、リングギヤからハウジングに伝達しない。このため、この圧縮機では、低騒音も実現可能である。
【0015】
したがって、本発明の変速機付き圧縮機は、製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能である。
【0016】
制御室と制御ピストンとの間には、Oリングが設けられていることが好ましい(請求項2)。振動がリングギヤから制御ピストンを経てハウジングに伝達しようとする場合には、制御室と制御ピストンとの間に設けられたOリングがその振動を吸収する。このため、この場合には、圧縮機がより低騒音になる。
【0017】
摩擦層は、ハウジング及びリングギヤの一方に固定された摩擦材と、ハウジング及びリングギヤの他方に固定され、リングギヤの移動により摩擦材と当接する制振材とからなり得る(請求項3)。この場合、制振材が制振手段となる。
【0018】
また、摩擦層は、ハウジング及びリングギヤの一方に制振材を介して固定された第1摩擦材と、ハウジング及びリングギヤの他方に固定され、リングギヤの移動により第1摩擦材と当接する第2摩擦材とからなり得る(請求項4)。この場合も、制振材が制振手段となる。
【0019】
さらに、摩擦層は、ハウジング及びリングギヤの一方に固定された第1摩擦材と、ハウジング及びリングギヤの他方に制振材を介して固定され、リングギヤの移動により第1摩擦材と当接する第2摩擦材とからなり得る(請求項5)。この場合も、制振材が制振手段となる。
【0020】
また、摩擦層は、ハウジング及びリングギヤの一方に第1制振材を介して固定された第1摩擦材と、ハウジング及びリングギヤの他方に第2制振材を介して固定され、リングギヤの移動により第1摩擦材と当接する第2摩擦材とからなり得る(請求項6)。この場合も、第1、2制振材が制振手段となる。
【0021】
制振材としては、防振合金、ゴムやばねを用いた部材、積層鋼板等を採用することができる。防振合金は、内部の分子摩擦によって振動エネルギーを熱に変換して振動を吸収する。また、防振合金は、温度依存の小さい振動吸収特性を有し、高い減衰能を持つ。しかも、防振合金は、形状自由度が大きい上に耐久性に優れている。防振合金としては、(1)Fe−Cr−Al、Fe−Cr−Al−Mn、Fe−Cr−Mo、Co−Ni、Fe−Cr等の強磁性型の防振合金、(2)複合型のAl−Zn防振合金、(3)Mn−Cu、Cu−Mn−Al等の転移型の防振合金、(4)Cu−Zn−Al、Cu−Al−Ni、Ni−Ti等の双晶型の防振合金を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の変速機付き圧縮機の縦断面図である。
【図2】実施例1変速機付き圧縮機の要部拡大縦断面図である。
【図3】実施例1変速機付き圧縮機の要部拡大縦断面図である。
【図4】実施例2変速機付き圧縮機の要部拡大縦断面図である。
【図5】実施例3変速機付き圧縮機の要部拡大縦断面図である。
【図6】実施例4変速機付き圧縮機の要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施例1〜4を図面を参照しつつ説明する。なお、各図において、入力軸110側(紙面左側)を前側と規定し、出力軸120側(紙面右側)を後側と規定して、前後方向を表示する。
【0024】
(実施例1)
図1に示すように、実施例の変速機付き圧縮機(以下、単に「圧縮機」という。)1は、スクロール式の圧縮機構40に変速機構20及び制御機構30を一体に組み合わせたものであり、例えば車両に搭載されて空調装置を構成する。まず、ハウジング10、入力軸110、出力軸120及び圧縮機構40について説明し、変速機構20及び制御機構30については後で詳しく説明する。
【0025】
圧縮機1は、第1ハウジング部材11、第2ハウジング部材12、第3ハウジング部材13及び第4ハウジング部材14がこの順序で一体に締結されてなるハウジング10を備えている。
【0026】
第1ハウジング部材11は、前後方向に延びる円筒部11cと、円筒部11cの前端から径内方向に延びる内フランジ11bと、内フランジ11bの内周側から前方に向けて突出するボス11aとを有している。第2ハウジング部材12は、前後方向に延びる円筒部12aと、円筒部12aの前後方向中間から径内方向に延びる内フランジ12bと、内フランジ12bの内周側から前方に向けて突出するボス12cとを有している。
【0027】
第1ハウジング部材11の円筒部11cの後端面と、第2ハウジング部材12の円筒部12aの前端面とが当接され、互いに締結されることによって変速室10aが形成されている。
【0028】
第3ハウジング部材13は、後述する固定スクロール41を一体に有している。第2ハウジング部材12と第3ハウジング部材13との間には、後述する可動スクロール42等が収容されている。第3ハウジング部材13及び第4ハウジング部材14が互いに締結されることにより、内部に吸入室51及び吐出室52が形成されている。
【0029】
第1ハウジング部材11のボス11aには、入力軸110がシール部材111及びラジアル軸受112を介して軸芯O1回りに回転可能に支持されている。入力軸110の前端はボス11a内に位置しており、電磁クラッチ70を介してプーリ73に連結されている。
【0030】
プーリ73は、ラジアル軸受74を介してボス11aの外周側に回転可能に支持されている。そして、プーリ73には、外部駆動源としてのエンジン等と接続された図示しないベルトが巻き掛けられている。
【0031】
電磁クラッチ70は、入力軸110の前端に一体回転可能に固定された円盤状のハブ71と、ハブ71にばね71aによって繋がれたアーマチュア72と、内フランジ11bの前面からプーリ73内に位置するように配設されたコイル75とにより構成されている。この電磁クラッチ70では、コイル75に通電した場合、ハブ71のアーマチュア72がばね71aの弾性力に抗してプーリ73に磁着され、入力軸110がプーリ73と一体回転し、エンジンの駆動力が入力軸110に伝達される。その一方、コイル75への通電を停止した場合、アーマチュア72がばね71aの弾性力によってプーリ73から離れ、エンジンの駆動力が入力軸110に伝達されなくなる。こうして、入力軸110は、電磁クラッチ70によって外部からの駆動力が断接されるようになっている。
【0032】
入力軸110の後端は、変速室10a内の後方に向かって突出しており、その途中には、内フランジ11bと間隔を有して対面しつつ、径外方向に円盤状に延びるキャリヤ本体131が一体に形成されている。キャリヤ本体131は、後で詳述する変速機構20を構成するものである。
【0033】
第2ハウジング部材12のボス12cには、出力軸120がラジアル軸受121を介して軸芯O1回りに回転可能に支持されている。出力軸120の前端側は変速室10a内に位置し、その外周側にサンギヤ150が形成されている。サンギヤ150も、後で詳述する変速機構20を構成するものである。また、出力軸120の前端には後方に凹む穴部120aが形成されており、その穴部120a内に、ラジアル軸受122を介して入力軸110の後端が内挿されている。一方、出力軸120の後端は、可動スクロール42に向かうように後方に延びている。
【0034】
次に圧縮機構40について説明する。第2ハウジング部材12と第3ハウジング部材13との間には、駆動ブッシュ43と可動スクロール42とが収容されている。
【0035】
駆動ブッシュ43は、出力軸120の後端に偏心された状態で固定され、出力軸120と一体回転可能とされている。駆動ブッシュ43の外周面にはラジアル軸受46が配設されている。
【0036】
可動スクロール42は、ラジアル軸受46を介して駆動ブッシュ43に回転可能に支持されるボス42aと、このボス42aと一体をなし、径方向に延びる円板状の可動側板42bと、この可動側板42bから後方に向けて軸芯O1と平行に突出する渦巻状の可動渦巻部42cとからなる。可動渦巻部42cの先端にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるチップシール42dが設けられている。
【0037】
内フランジ12bの後面には、3本以上の固定ピン47が軸芯O1と平行に固定されている。また、可動スクロール42の可動側板42bには、固定ピン47と同数の可動ピン48が軸芯O1と平行に固定されている。さらに、内フランジ12bと可動側板42bとの間には、固定ピン47及び可動ピン48と同数の可動リング49が配設されている。可動リング49には貫通孔49aが形成されており、その貫通孔49a内に、対をなす固定ピン47及び可動ピン48が各々の軸芯間を可動スクロール42の公転距離とした状態で収納されている。これら固定ピン47、可動ピン48及び可動リング49により、可動スクロール42の自転を防止する自転防止手段50が構成されている。
【0038】
第3ハウジング部材13は固定スクロール41を一体に有している。固定スクロール41は、径方向に延びる円板状の固定側板41bと、この固定側板41bから前方に向けて軸芯O1と平行に突出する渦巻状の固定渦巻部41cとからなる。固定渦巻部41cの先端にもPTFEからなるチップシール41dが設けられている。
【0039】
固定スクロール41の固定渦巻部41c及び可動スクロール42の可動渦巻部42cは軸芯O1方向の突出長さが等しく設定されている。そして、固定スクロール41の固定渦巻部41cがチップシール41dを介して可動スクロール42の可動側板42bと摺動し、可動スクロール42の可動渦巻部42cがチップシール42dを介して固定スクロール41の固定側板41bと摺動するようになっている。
【0040】
固定側板41bの中心部分には、吐出室52と連通可能に吐出口52aが貫設されている。また、吐出室52内には、吐出口52aを塞ぐように吐出弁53及びリテーナ54が固定側板41に固定されている。さらに、固定側板41bの外周部分には、吸入室51と連通する吸入口51aが貫設されている。
【0041】
以上の第2〜4ハウジング部材12、13、14、出力軸120、駆動ブッシュ43、可動スクロール42、自転防止手段50及び固定スクロール41等によってスクロール式の圧縮機構40が構成されている。
【0042】
吐出室52は配管81を介して凝縮器82に接続され、凝縮器82は配管83によって膨張弁84を介して蒸発器85に接続され、蒸発器85は配管86を介して吸入室51に接続されている。吐出室52には、後述する流路切替電磁弁91に対して、吐出室52内の吐出圧Pdを供給する吐出圧供給通路(図1に示す経路Pd−Pd)が設けられている。また、吸入室51には、流路切替電磁弁91に対して、吸入室51内の吸入圧Psを供給する吸入圧供給通路(図1に示す経路Ps−Ps)が設けられている。さらに、図示は省略するが、吸入室51と変速室10aとを連通させて、変速室10a内の圧力を吸入圧Psに保持する連通路が第2、3ハウジング部材12、13間に設けられている。
【0043】
次に変速機構20について説明する。図2に示すように、変速室10a内において、キャリヤ本体131の後面の外周側に仮想される軸芯O1を中心とする円周上には、後方に向けて3本の第1支持軸131aと、3本の第2支持軸131bとが交互に突設されている(各図において、第1支持軸131aと第2支持軸131aとを1本ずつ図示する。)。各第1支持軸131aは円柱軸体であり、各第2支持軸131bは中間部が太い段付き円柱軸体である。各第1支持軸131aには、ラジアル軸受141を介して、遊星ギヤ140が1個ずつ回転可能に支持されている。3個の遊星ギヤ140の外歯149は、それぞれサンギヤ150の外歯159と噛合している。
【0044】
各第1支持軸131a及び各第2支持軸131bの後端には、図2に示すように、後部キャリヤ132が固定されている。後部キャリヤ132は、ボス部12cを覆うように後方に延びる略円筒形状とされており、ラジアル軸受133を介して、ボス部12cに軸芯O1回りに回転可能に支持されている。
【0045】
キャリヤ本体131と、各第1支持軸131a及び各第2支持軸131aと、後部キャリヤ132とにより、3個の遊星ギヤ140を回転可能に支持しつつ入力軸110と一体回転可能なキャリヤ130が構成されている。
【0046】
各遊星ギヤ140と円筒部11cとの間は、リングギヤ160が配設されている。リングギヤ160は、前後方向に延びる円筒部160bと、円筒部160bの前端側で径外方向に延びる第1フランジ部160aと、円筒部160bの後端側で径外方向に延びる第2フランジ部160cとを有している。
【0047】
円筒部160bの前端側の内周面には、各遊星ギヤ140と噛合する内歯169が形成されている。内歯169は各遊星ギヤ140の外歯149と噛合している。
【0048】
サンギヤ150、各遊星ギヤ140、リングギヤ160及びキャリヤ130によって、遊星歯車機構である変速機構20が構成されている。
【0049】
円筒部160bの後端側の内周面と、後部キャリヤ132の外周面との間には、ワンウェイクラッチ200が配設されている。ワンウェイクラッチ200は、周知の汎用品であり、キャリヤ130に対するリングギヤ160の一方向の相対回転を許容しつつ他方向の相対回転を規制するようになっている。本実施例では、入力軸110及びキャリヤ130が軸芯O1周りに回転する方向は、圧縮機1を前方から見て、時計方向に設定されている。そして、ワンウェイクラッチ200は、キャリヤ130に対してリングギヤ160が反時計方向に相対回転することを許容する一方、キャリヤ130に対してリングギヤ160が時計方向に相対回転することを規制するように配設されている。
【0050】
図3に示すように、リングギヤ160の第1フランジ部160aの前面と、第1ハウジング部材11の内フランジ11bの後面との間には、摩擦層300が設けられている。摩擦層300は、第1フランジ部160aの前面に固定された摩擦材300aと、内フランジ11bの後面に固定された制振材300bとからなる。摩擦材300aは、摺動性の低い材料からなる円環状の平板である。制振材300bは防振合金からなる円環状の平板である。後述するように、リングギヤ160が前方向に移動すると、摩擦材300aと制振材300bとが当接する。制振材300bが制振手段である。
【0051】
図1及び図2に示すように、第2ハウジング部材12の内フランジ12bの前面には、リングギヤ160の第2フランジ部160cの後面と対向する位置に制御室211が凹設されている。制御室211内には、円環状の制御ピストン212が前後方向(軸芯O1方向)に移動可能に収納されている。制御ピストン212の内周面と外周面とには、制御ピストン212と制御室211との間をシールするゴム製のOリング218a、218bが装着されている。
【0052】
制御室211には、圧力供給経路12dを介して圧力調整手段としての流路切替電磁弁91が接続されている。流路切替電磁弁91は、制御室211を吐出圧供給通路(図1に示す経路Pd−Pd)又は吸入圧供給通路(図1に示す経路Ps−Ps)に切り替えて接続するようになっている。上述した通り、制御ピストン212が臨む変速室10a内の圧力は、吸入圧Psに保持されている。
【0053】
制御ピストン212の前部は、内周側を残したままで外周側が段状に凹む形状とされている。制御ピストン212の前部内周側の端面は、第2フランジ部160cの後面と当接可能な押圧面212aとされている。一方、制御ピストン212の前部外周側の段状凹部は、収納室212bとされている。収納室212b内には、スラストベアリング214が収納されている。
【0054】
制御室211内に吐出圧Pdが付加されると、制御室211内の圧力が変速室10a内の圧力より高くなり、制御ピストン212が前方向に移動する。そうすると、押圧面212aが第2フランジ部160cの後面に当接してリングギヤ160を前方向に移動させ、第1ハウジング部材11に対してリングギヤ160を押し付ける。このため、摩擦層300の摩擦材300aと制振材300bとが当接し、双方の間に摩擦力が作用するので、第1ハウジング部材11に対してリングギヤ160が固定される。このため、第2フランジ部160cの後面と押圧面212aとが接触して、双方の間に摩擦力が作用する。
【0055】
一方、制御室211内に吸入圧Psが付加されると、制御室211内の圧力が変速室10a内の圧力と等しくなり、制御ピストン212が第1ハウジング部材11に対してリングギヤ160を押し付けなくなる。そうすると、摩擦層300の摩擦材300aと制振材300bとが離反して、双方の間に摩擦力が作用しなくなり、第1ハウジング部材11に対してリングギヤ160が回動可能となる。この状態では、リングギヤ160と制御ピストン212とが接近しているが、押圧面212aは接触せず、スラストベアリング214が接触して転動する。
【0056】
摩擦層300、制御室211、制御ピストン212、圧力供給経路12d及び流路切替電磁弁91等により、第1ハウジング部材11に対してリングギヤ160を固定又は回動させるクラッチ210が構成されている。
【0057】
クラッチ210、ワンウェイクラッチ200、流路切替電磁弁91及び圧力供給経路12d等によって、制御機構30が構成されている。
【0058】
このような構成である変速機構20及び制御機構30は下記のように作動する。
【0059】
制御室211内に吐出圧Pdが付加されると、上述した通り、制御ピストン212がリングギヤ160を前方向に押す。このため、摩擦層300の摩擦材300aと制振材300bとの間、及び第2フランジ部160cと押圧面212aとの間に摩擦力が作用し、第1ハウジング部材11に対してリングギヤ160が固定される。そうすると、ワンウェイクラッチ200は、キャリヤ130に対してリングギヤ160が一方向に相対回転すること(圧縮機1を前方から見て、キャリヤ130に対してリングギヤ160が反時計方向に相対回転すること)を許容する。このため、入力軸110、キャリヤ130の回転に伴って軸芯O1周りに時計方向に公転する各遊星ギヤ140は、リングギヤ160との噛合により、各第1支持軸131a周りに反時計方向に自転する。その結果、各遊星ギヤ140と噛合するサンギヤ150及びサンギヤ150と一体回転する出力軸120は、入力軸110の回転が増速されて伝達される増速回転状態となる。
【0060】
一方、制御室211内に吸入圧Psが付加されると、上述した通り、制御ピストン212がリングギヤ160を前方向に押さなくなる。このため、摩擦層300の摩擦材300aと制振材300bとの間、及び第2フランジ部160cと押圧面212aとの間に摩擦力が作用しなくなり、第1ハウジング部材11に対するリングギヤ160の固定が解除される。そうすると、リングギヤ160が入力軸110の回転につられて軸芯O1周りに時計方向に回転しようとする。この際、サンギヤ150と噛合する各遊星ギヤ140が時計方向に自転することにより、リングギヤ160が入力軸110を相対的に時計方向に追い越そうとする。そして、ワンウェイクラッチ200は、キャリヤ130に対してリングギヤ160が他方向に相対回転すること(圧縮機1を前方から見て、キャリヤ130に対してリングギヤ160が時計方向に相対回転すること)を規制する。その結果、入力軸110、キャリヤ130、各遊星ギヤ140、サンギヤ150、リングギヤ160及び出力軸120が一体回転することとなり、入力軸110の回転が出力軸120に等速のまま伝達される等速回転状態となる。
【0061】
以上のように構成された実施例の圧縮機1においては、入力軸110が車両のエンジン等によって軸芯O1回りに回転駆動されれば、入力軸110の回転が変速機構20により等速のまま又は増速されて出力軸120に伝達される。
【0062】
そして、圧縮機構40においては、出力軸120が回転駆動されることにより、駆動ブッシュ43が自己の軸芯に偏心して回転し、可動スクロール42が自転防止手段50によって自転が規制された状態で公転する。これにより、固定スクロール41と可動スクロール42との間に形成される圧縮室は、外周側から中心部分に向かって容積が縮小される。このため、吸入室51内の冷媒が圧縮室で圧縮され、吐出室52に吐出される。吐出室52内の冷媒は凝縮器83に供給され、蒸発器86によって車両の冷房が実現される。
【0063】
このため、この圧縮機1は、圧縮機構40を2段階に変速可能でありながら、構造が簡素化されているため、製造コストの低廉化を実現可能である。
【0064】
また、この圧縮機1では、出力軸120が増速回転状態である間、リングギヤ160がハウジング10に対して固定された状態の下、各遊星ギヤ140がサンギヤ150及びリングギヤ160と噛合しつつ入力軸110及びキャリヤ130とともに回転する。このため、各遊星ギヤ140の外歯149とサンギヤ150の外歯159とが衝突することによる振動と、各遊星ギヤ140の外歯149とリングギヤ160の内歯169とが衝突することによる振動とがリングギヤ160からハウジング10に伝達しようとする。
【0065】
しかしながら、この圧縮機1では、摩擦層300が制振材300bを有していることから、これらの振動は制振材300bによって吸収され、リングギヤ160からハウジング10に伝達しない。また、この圧縮機1では、制御ピストン212の内周面と外周面とにOリング218a、218bが装着されているため、リングギヤ160から制御ピストン212を経てハウジング10に伝達しようとする振動もそのOリング218a、218bが吸収する。このため、この圧縮機1では、低騒音も実現可能である。
【0066】
したがって、この圧縮機1は、製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能である。
【0067】
(実施例2)
実施例2の圧縮機では、図4に示すように、リングギヤ160の第1フランジ部160aの前面と、第1ハウジング部材11の内フランジ11bの後面との間に摩擦層301が設けられている。摩擦層301は、第1フランジ部160aの前面に固定された第2摩擦材301aと、内フランジ11bの後面に制振材301cを介して固定された第1摩擦材301bとからなる。第1、2摩擦材301a、301bは、摺動性の低い材料からなる円環状の平板である。制振材301cは防振合金からなる円環状の平板である。制振材301bが制振手段である。この圧縮機においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0068】
(実施例3)
実施例3の圧縮機では、図5に示すように、リングギヤ160の第1フランジ部160aの前面と、第1ハウジング部材11の内フランジ11bの後面との間に摩擦層302が設けられている。摩擦層302は、第1フランジ部160aの前面に制振材302cを介して固定された第1摩擦材302aと、内フランジ11bの後面に固定された第2摩擦材302bとからなる。第1、2摩擦材302a、302bは、摺動性の低い材料からなる円環状の平板である。制振材302cは防振合金からなる円環状の平板である。制振材302bが制振手段である。この圧縮機においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0069】
(実施例4)
実施例4の圧縮機では、図6に示すように、リングギヤ160の第1フランジ部160aの前面と、第1ハウジング部材11の内フランジ11bの後面との間に摩擦層303が設けられている。摩擦層303は、第1フランジ部160aの前面に第1制振材303aを介して固定された第1摩擦材303bと、内フランジ11bの後面に第2制振材303cを介して固定された第2摩擦材303dとからなる。第1、2摩擦材303b、303dは、摺動性の低い材料からなる円環状の平板である。第1、2制振材303a、303cは防振合金からなる円環状の平板である。第1、2制振材303a、303cが制振手段である。この圧縮機においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0070】
以上において、本発明を実施例1〜4に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜4に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0071】
圧縮機構はスクロール式に限定されず、一般的な圧縮機構を採用できる。また、クラッチは、例えば、複数の可動部材が組み合わされたリンク機構等を有し得る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は変速機付き圧縮機に利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10…ハウジング
40…圧縮機構(スクロール式圧縮機構)
O1…軸芯
110…入力軸
120…出力軸
20…変速機構(遊星歯車機構)
30…制御機構
150…サンギヤ
140…遊星ギヤ
130…キャリヤ
160…リングギヤ
200…ワンウェイクラッチ
210…クラッチ
1…変速機付き圧縮機
300、301、302、303…摩擦層
211…制御室
212…制御ピストン
214…スラストベアリング
91…圧力調整手段(流路切替電磁弁)
300a、301a、301b、302a、302b、303b、303d…摩擦材
300b、301c、302c、303a、303c…制振手段、制振材
Oリング…218a、218b

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に構成されて冷媒を圧縮可能な圧縮機構と、外部から前記ハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持された入力軸と、前記ハウジング内に延在し、前記軸芯回りに回転可能に支持されて前記圧縮機構を駆動可能な出力軸と、前記ハウジング内で前記入力軸と前記出力軸との間に設けられ、前記入力軸のトルクを前記出力軸に伝達しつつ前記入力軸の回転速度を等速のまま又は増速して前記出力軸に伝達することにより前記圧縮機構を2段階に変速して駆動可能な変速機構と、前記変速機構を制御する制御機構とを備え、
前記変速機構は、サンギヤ、複数個の遊星ギヤ、キャリヤ及びリングギヤを有する遊星歯車機構であり、
前記キャリヤは、前記各遊星ギヤを回転可能に保持しつつ前記入力軸と一体回転可能であり、
前記サンギヤは、前記各遊星ギヤと噛合しつつ前記出力軸と一体回転可能であり、
前記リングギヤは、前記各遊星ギヤと噛合しつつ前記ハウジングに対して固定と回動とが選択可能に構成されているとともに、前記ハウジングに対して前記軸芯と平行な方向に移動可能に構成され、
前記制御機構は、前記キャリヤと前記リングギヤとの間に設けられ、前記キャリヤと前記リングギヤとの一方向の相対回転を許容しつつ他方向の相対回転を規制するワンウェイクラッチと、前記ハウジングと前記リングギヤとの間に設けられ、係合によって前記リングギヤの前記回動を規制するクラッチとを有する変速機付き圧縮機であって、
前記クラッチは、前記ハウジングと前記リングギヤとの間に設けられ、前記リングギヤの移動により前記ハウジングに対して前記リングギヤを固定する摩擦層と、前記リングギヤに向かって前記ハウジングに形成された制御室と、前記制御室内に移動可能に収納された制御ピストンと、前記制御ピストンと前記リングギヤとの間に設けられたスラストベアリングと、前記制御室内に制御圧力を供給して前記制御ピストンを移動させる圧力調整手段とからなり、
前記摩擦層は振動を吸収可能な制振手段を有していることを特徴とする変速機付き圧縮機。
【請求項2】
前記制御室と前記制御ピストンとの間には、Oリングが設けられている請求項1記載の変速機付き圧縮機。
【請求項3】
前記摩擦層は、前記ハウジング及び前記リングギヤの一方に固定された摩擦材と、前記ハウジング及び前記リングギヤの他方に固定され、前記リングギヤの移動により前記摩擦材と当接する制振材とからなる請求項1又は2記載の変速機付き圧縮機。
【請求項4】
前記摩擦層は、前記ハウジング及び前記リングギヤの一方に制振材を介して固定された第1摩擦材と、前記ハウジング及び前記リングギヤの他方に固定され、前記リングギヤの移動により前記第1摩擦材と当接する第2摩擦材とからなる請求項1又は2記載の変速機付き圧縮機。
【請求項5】
前記摩擦層は、前記ハウジング及び前記リングギヤの一方に固定された第1摩擦材と、前記ハウジング及び前記リングギヤの他方に制振材を介して固定され、前記リングギヤの移動により前記第1摩擦材と当接する第2摩擦材とからなる請求項1又は2記載の変速機付き圧縮機。
【請求項6】
前記摩擦層は、前記ハウジング及び前記リングギヤの一方に第1制振材を介して固定された第1摩擦材と、前記ハウジング及び前記リングギヤの他方に第2制振材を介して固定され、前記リングギヤの移動により前記第1摩擦材と当接する第2摩擦材とからなる請求項1又は2記載の変速機付き圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−214409(P2011−214409A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80275(P2010−80275)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】