説明

外観検査方法および外観検査装置、半導体検査装置ならびに半導体ウェハの断面検査装置

【課題】半導体デバイスの複雑な構造のばらつきを直感的かつ定量的に評価することができる外観検査装置を提供する。
【解決手段】被検査物の像を検出する画像検出部6、検出した画像を処理する画像処理部91、被検査物をスキャンするビーム制御系92およびステージ制御系93を有するスキャン制御部を備えた画像検出部10と、検出した画像から外観を検査する外観検査処理部20とを備えた外観検査装置において、外観検査処理部10が、取得した複数の像を重ね合わせ、像の各点(x,y)における代表的な値(代表値データμ(x,y))を求める代表値データ作成処理機能212と、複数の像の各点(x、y)における許容範囲の値(ばらつきデータσ(x,y))とを求めるばらつきデータ作成処理機能213と、代表的値データとばらつきデータとを元に、検査対象物の良否を判定する判定処理機能214を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観検査装置に関わり、特に電子ビームを利用した半導体素子の外観検査方法および外観検査装置、半導体検査装置ならびに半導体ウェハの断面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の量産ラインにおいては、被検査物の検査を自動的に行うさまざまな外観検査装置が使用されている。これら外観検査装置には、可視光や赤外線、X線などの電磁波や、電子線、原子間力などを使用して外観を観察し、画像化して表示するものが多い。さらに検査を自動化するために、これらの画像から特徴的な部分を計算機などに認識させ、被検査物におけるその部分のさまざまな寸法を測定したり、あるいは異物が混入していたりしないか確認したり、混入している元素の分布を測定したりする。
【0003】
例として半導体ウェハ表面に電子線を照射して検査する場合を述べると、反射電子や透過電子、X線などを検出することで、プラズマエッチングなどの加工後の形状を判定したり、あるいはイオン注入などで埋め込まれた元素の濃度や分布を測定したりする。このとき、例えばトランジスタのゲート幅、穴の直径、配線間の間隙などの特徴的な長さを測定したり、特定の元素の濃度や分布などを計測したりして、あらかじめ定められた管理値と比較することで、半導体ウェハの加工結果の良否を判定する。あるいは、典型的な良品の画像をあらかじめ用意し、この画像と、現に観測されている半導体ウェハから取得された画像との比較を行うことで、異物や傷など欠陥の有無を判定し、半導体ウェハの良否を判定する。
【0004】
以上に示したような方法で半導体ウェハの加工結果を検査するのが、一般的な手法である。しかしながら、半導体ウェハの断面形状のように、複雑な形状の良否を判定する方法は、いまだに十分ではない。例えばトランジスタのゲート電極の断面形状の検査においては、ウェハ表面に多量に形成されたゲート電極のうち、1つを選んでその断面画像を取得し、その断面形状の良否を熟練した技術者が判定することが一般的である。しかし、1つの画像からでは、選ばれたゲート電極の断面形状がたまたま良品であったのか否か、判別がつかない。もちろん、この問題に対処するために、熟練した技術者がいくつかのゲート電極の断面を比較して、もっとも平均に近そうな断面形状を選択することはあるが、結局のところ断面形状のばらつきの程度を評価することは容易ではない。特に近年、プラズマエッチングなどの微細加工の加工特性を、計算機を用いたシミュレーションにより再現しようという試みがなされているが、シミュレーションと実験の結果とを対比するにあたり、実験結果として取得された断面形状の平均やばらつきの程度が明瞭でないと、精巧なシミュレーターを作成することが難しくなる。
【0005】
さらに、半導体の微細化と高機能化がさらに進むにつれて、ゲート電極にもFin−FETと呼ばれる立体の複雑な形状などが採用されることが見込まれており、複雑化したゲート電極形状を評価することは、さらにいっそう困難になる。
【0006】
複雑な概観を検査するための技術として、各種の提案がなされている。例えば、半導体チップの外観検査装置として、半導体チップの擬似欠陥を取り除き、欠陥の認識率を向上させることを目的として、1枚のウェハをダイシングすることによって得られる複数の半導体チップの濃淡情報を順次一時的に記憶する第1の画像メモリと、第1の画像メモリの濃淡情報と比較判定を行なうための基準の濃淡情報を記憶する第2の画像メモリと、第1の画像メモリと第2の画像メモリの濃淡情報を比較し良品の半導体チップを検出する良品検出部と、良品検出が良品と判断したときに第1の画像メモリと第2の画像メモリの濃淡情報の演算を行い、演算結果で第2の画像メモリを書替え、新たな基準の濃淡情報となるようにする画像平均化処理部を具備することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、固体撮像素子の固定パターンノイズを容易に検出可能な検出方法として、検査用の証明項の所凹者によって固体撮像素子が生成した画像信号を取得するステップと、画像信号が示す画像である全体画像を用い、全体画像に対する複数の部分画像をそれぞれ同じサイズで生成する抽出ステップと、少なくともいずれかの部分画像に対し、画像サイズが変わらないように、上下反転、左右反転、回転の少ないともいずれかの処理を施す反転ステップと、反転ステップの後、複数の部分画像を合成し、部分画像と同じサイズの基準画像を生成するステップと、複数の部分画像に対し、基準画像との差分に相当する検査画像をそれぞれ生成するステップと、検査画像に基づいて、固体撮像素子が良品か否かを判定するステップとを有する個体撮像素子の検査方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
プリント基板撮像して外観検査を行なう外観検査装置において、ピクセル配置がX軸方向に沿う1次元イメージセンサおよびX軸に直交するYテーブルを備え、基板あるいは1次元イメージセンサを相対的にY軸に移動して基板全面画像を獲得する撮像手段と、基板画像を保存する保存手段と、複数基板全面画像の同一出力値を加算平均して平均化画像を作成する画像平均化手段と、保存手段に保存した平均化基準画像と検体画像の同一画素出力値の差分処理を行ない、差分を生じた画素を異同画素として検出する差分処理アルゴリズムを備えた画像処理手段と、表示手段とからなる外観検査装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
これらの技術は、複数の類似画像を取得して、その類似画像を重ね合わせ、平均的な画像を作成することで、良品を不良品と誤判定することを避ける方法を提案している。
【特許文献1】特開平5−218160号公報
【特許文献2】特開2006−222514号公報
【特許文献3】特開2006−242873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、量産設備における製品の良否判定でのもっとも重要な要因は、製品形状の平均値ではなく、ばらつきである。平均が良品に近かったとしても、ばらつきが大きい場合には製品の規格からはずれたものが多いということであり、結局のところばらつきを管理しない限りは検査の意味を成さない。前記の特許文献に示された技術は、その観点を全く欠いており、効率的な検査を行うには十分とは言いがたい。また、従来の外観検査装置では、被検査物の定められた箇所の寸法を測るなどの単純な評価しか行うことができず、とりわけ複雑な形状のばらつきを定量的に評価することが難しかった。
【0011】
本発明の目的は、半導体装置の外観検査において、複雑な形状を有した被検査物に対しても、誤差などの統計量を適切に評価し、さらに、適切に不良検知を行えるように、検査者に直感的に理解しやすい方法でかつ定量的に、複雑な形状のばらつきの評価基準を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明は、いくつかの類似の画像から、その平均的な画像と、平均からのばらつきを意味する画像とを構成することにより、形状の良否を判定しやすくする方法により、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、半導体における製品形状の良否の判定を容易に行うことができるとともに、形状の良否判定の自動化も容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本願発明の実施例を、図面を用いて説明する。なお、以下の各実施例において、第1実施例と同様の機能を有するものは第1実施例と同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。まず、本発明を適用する対象である外観検査装置の例として、代表的な走査線電子顕微鏡を用いた外観検査装置の概略構成を、図2を用いて説明する。
【0015】
画像取得部を構成する被検査物の画像を取得する走査線電子顕微鏡10は、電子源1と、コンデンサレンズ2と、ビームセパレータ3と、対物レンズ4と、結像レンズ5と、画像結像部6と、負電源7と、予備電源装置8と、画像処理部91と、ビーム制御系92と、ステージ制御系93を有して構成され、図示を省略したステージ上には、半導体ウェハや半導体ウェハから切り出した切片などの被検査物Wが載置される。
【0016】
上記走査線電子顕微鏡を用いた外観検査装置は、例えば上記走査線電子顕微鏡からなる画像取得部10と、外観検査処理部20を備えている。外観検査処理部20は、演算処理21部と、記憶部22と、表示部23とを少なくとも有している。
【0017】
演算処理部21は、外観検査装置における通常の処理機能のほかに、テンプレート画像(基準となる画像)を作成するテンプレート画像作成処理機能211と、前記画像取得部10で取得した複数の画像データを用いて代表値データ(例えば、取得した複数の画像データの平均値、最頻値、中央値など)を作成する代表値データ作成処理機能212と、前記画像取得部10で取得した複数の画像データを用いてばらつきデータ(例えば、取得した複数の画像データの標準偏差、分散、最大値と最小値の差など、またはこれらを任意定数倍したデータ)を作成するばらつきデータ作成処理機能213と、テンプレート画像と取得した画像を比較したり検査処理における一連の手順の終了を判定したりする比較判定処理機能214を少なくとも備えている。
【0018】
記憶部22は、外観検査装置における通常の記憶部の記憶機能(領域)のほかに、テンプレート画像データを格納するテンプレートデータ格納領域221と、代表値データを格納する代表値データ格納領域222と、ばらつきデータを格納するばらつきデータ格納領域223を少なくとも備えている。
【0019】
表示部23は、代表値データを画像として、ばらつきデータを画像として表示するとともに、被検査物から取得した画像をこれら代表値画像やばらつき画像に重ねて表示する表示手段である。
【0020】
外観検査処理部は、上記の各機能に加え、代表値データ(例えば代表的な値)とばらつきデータ(例えば許容範囲の値)とを、画像に変換して表示する機能と、代表値データとばらつきデータとを、現に検査対象から得られた像に重ね合わせて表示する機能を有している。
【0021】
電子源1より放出された電子ビームは、コンデンサレンズ2により収束されビームセパレータ3の周辺で、かつ対物レンズの前焦点面にクロスオーバを形成する。電子ビームは、ビームセパレータ3により被検査物Wに垂直な光軸に偏向される。ビームセパレータ3は上方からの電子ビームに対してのみ偏向作用を持つ。例えば、電場と磁場を直行させたE×B偏向器を用いる。ビームセパレータ3により偏向された電子ビームは、対物レンズ4により被検査物W表面に垂直な方向にそろった面状の電子ビームが形成される。
【0022】
被検査物Wには、電子ビームの加速電圧とほぼ等しいか、わずかに高い負の電位が電源7によって印加されており、被検査物Wの表面には形成された半導体パターン形状や帯電の状態を反映した電界が形成されている。この電界によって面状電子ビームの大部分が被検査物Wに衝突する直前で引き戻され、被検査物Wのパターン情報を反映した方向や強度を持って上がってくる。
【0023】
引き戻された電子ビームは、対物レンズ4により収束作用を受け、ビームセパレータ3は下方から進行した電子ビームに対しては偏向作用を持たないのでそのまま垂直に上昇し、結像レンズ5により画像検出部6上に被検査物W表面の画像を結像させる。これにより、被検査物W表面の局部的な帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いが画像として形成される。この画像は電気信号に変換され画像処理部91に送られる。
【0024】
被検査物Wはステージに載置されており、ステージはステージ制御系93により連続的に移動される。ステージ制御系93とビーム制御系92は連動しており、ステージの移動に伴って電子ビームの位置を偏向器(図示せず)により微調整しながら画像取得領域を連続的に移動させていく。
【0025】
被検査物Wの表面に絶縁物が存在する場合には、電源7だけでは被検査物Wの表面電位を決定できない。そのために、被検査物W表面の電位を所望の電位に帯電させるための機能として予備帯電制御装置8を備えている。予備帯電制御装置8は、被検査物W表面に近接したグリッド電極へ電圧を印加しつつ電子ビームを被検査物Wに照射することで被検査物Wの表面の帯電電位を制御する装置である。その動作原理と構造については後述する。被検査物Wの表面を検査前にあらかじめ帯電させる場合には、この予備帯電制御装置8の下を通過させて検査領域を所望の帯電電圧に設定した後に対物レンズ4の直下を通過させて画像を取得するようにする。以上に述べた走査型電子顕微鏡は、外観検査処理部20とともに外観検査装置を構成する。
【0026】
[実施例1]この走査型電子顕微鏡(外観検査処理部)とからなる外観検査装置を用いて外観検査を行う際の第1の実施例を、図1を用いて簡単に説明する。図1において、走査型電子顕微鏡で得られた像101には、被検査物Wの断面102が写っている。例えば半導体ウェハの場合には、断面102上には概略同形のゲート電極103a、103b、103c、103d、103e、103fが形成されている。ここでは例としてゲート電極を挙げたが、配線ホールやトレンチなどであっても以下の議論は同じである。
【0027】
画像処理部91は、これらゲート電極103a、103b、103c、103d、103e、103fの像を個別に取得し、それぞれのゲート電極の輝度分布p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)とする。ここで、輝度分布p(x,y)は、画像内の任意の位置(x,y)における、輝度を表現している。外観検査処理部20は、画像処理部91において得られた輝度分布p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)、p(x,y)のそれぞれについて、ゲート電極の部分がほぼ重なるように回転や平行移動などの適切なアフィン変換を行い、輝度分布p´(x,y)、p´(x,y)、p´(x,y)、p´(x,y)、p´(x,y)、p´(x,y)を得る。代表値データ作成処理機能212は、これらの画像から、代表値データμ(x,y)104を作成する。ばらつきデータ作成処理機能213は、これらの画像からばらつきデータσ(x,y)105を構成する。
【0028】
代表値画像104の輝度分布を代表値データμ(x,y)、ばらつき画像105の輝度分布をばらつきデータσ(x,y)とすると、画像の平均値を表す代表値データμ(x,y)と画像の分散の程度を表すばらつきデータσ(x,y)は、例えば下記式(1)と式(2)で計算される。下記式で、Nは、合成する画像の数を意味しており、この場合は、ゲート電極103a〜103fの6つ画像があるから、N=6である。Aの値は、検査者が任意に決定することができる定数であり、例えば標準偏差の3倍の値、いわゆる3σを許容値とする場合にはA=3とすればよい。
【数1】

【0029】
すなわち、代表値データμ(x,y)は、取得した画像の輝度データを処理して重ね合わせた画像データである。また、ばらつきデータσ(x,y)は、取得した画像の輝度データを重ね合わせた画像データであり、輪郭部分の分散の程度が輝度で示される。
【0030】
代表値画像104は、ゲート電極画像103a〜103f全ての画像の平均値なので、それぞれのゲート電極構造の個体差に影響されず、概略どのようなゲート電極形状が得られたかを示している。例えば、画像101に表示された6つのゲート電極画像103a〜103fはそれぞれ真ん中でくびれた形をしているが、これら6つの画像を漫然と見比べただけでは、どの高さにくびれができているのかが判然としない。熟練した技術者ならば、6つの画像に示されるゲート電極のうちどれが平均的な形状に近いのかおおよそ判断できるが、例えばこれが50個、100個と増えていくと、熟練した技術者でも容易には平均的な形状に近いものがどれなのか決めがたい。しかし、代表値画像104を見れば、くびれの位置が平均してどのくらいの高さにあるのかがはっきりと分かり、ゲート電極構造がいくつあっても平均的な形状を一目瞭然に知ることができる。
【0031】
しかし、代表値画像104から平均的な形状がわかっても、前記画像に示されたゲート電極103a〜103fにどのくらいのばらつきがあるのかは依然として判然としない。一方でばらつき画像105は、画像103a〜103f全ての画像の標準偏差を示しているので、それぞれの電極形状の個体差がどのくらいあるのかを示しており、標準偏差が小さい部分ほど黒く、大きい部分ほど白く表示される。前述と同様に、画像103〜103fを漫然と見比べただけでは、くびれの高さがどの程度ばらついているのかが判然としないが、ばらつき画像105からはどのくらいの高さに分布しているのかが一目瞭然である。さらには、ゲート電極の頭頂部にある方形の部分はほとんどばらつきがないのが分かるのと同時に、ゲート電極のくびれ前後におおきなばらつきがあることが一目瞭然である。
【0032】
このような状況を踏まえて、さらに本発明の効果を、走査型電子顕微鏡で得られた被検査物Wの断面151が写っている図3を用いて説明する。図3(a)では、6つの画像に示されるゲート構造153a、153b、153c、153d、153e、153fのうち、ゲート構造153cの下部にノッチ形状(くびれ)が発生している。これらのばらつきデータσ(x,y)を画像化したものがばらつき画像155であるが、ノッチ形状になったゲート構造が153cだけであるので、ばらつき画像155に写ったノッチ形状も薄く表示されるだけである。図3(a)のように、非常に少数の個体の中に異常が発生しているだけならば、このような異常は偶発的で確率の低いものであり、生産には大きな影響を与えないということが視覚的に判断できる。一方、図3(b)のように、6つの画像のゲート構造154a、154b、154c、154d、154e、154fのうち、ゲート構造154a、153c、154dの下部にノッチ形状(くびれ)が発生してノッチ形状が多くなってくると、そのばらつき画像156にははっきりとノッチ形状が写り、ノッチが形成される異常が頻発していることを一目瞭然に知ることができる。
【0033】
このように、本発明の第1の実施例によれば、検査者は、類似画像の標準偏差から作成された画像(ばらつき画像)を見ることで、異常の発生具合とその種類とを、直感的かつ定量的に把握することができるようになる。
【0034】
以上の説明では、代表値データμ(x,y)を画像中の任意の点(x,y)における平均値として定義したが、例えば任意の点(x,y)における中央値や最頻値などの、適切な統計指標を代わりに使用してもよい。ばらつきデータσ(x,y)も同様に、以上の説明では任意の点(x,y)における標準偏差として定義したが、例えば任意の点(x,y)における分散や最大値と最小値の差を2で割ったものなど、適切な統計指標を代わりに使用してもよい。また、これらの統計量を計算する前に、適当な画像処理を行って、例えば輝度やコントラストの調整などを行ってから演算を行っても良い。
【0035】
また、説明を簡単にするため、画像p(x,y)をモノクロームの輝度を例として説明したが、グレースケールではなくRGBで指定されたカラー画像の場合は、例えば赤の輝度をr(x,y)、緑の輝度をg(x,y)、青の輝度をb(x,y)として、(r(x,y)、g(x,y)、b(x,y))などのベクトルで表現してもよい。他にもカラー画像の場合は、シアン・イエロー・マゼンタを使用したCYM表示や、さらにカラー座標を変換したXYZ表示があるが、いずれを使用してもよい。
【0036】
また、ばらつき画像105を構成する際に、ばらつきの大きい場所ほど輝度を高く、ばらつきの小さい場所ほど輝度を小さくすると述べたが、輝度とばらつきの関係がこの逆であっても本発明の実施にはなんら支障はない。また、ばらつきデータσ(x,y)の値と画像の輝度が線形に対応する必要もなく、強調したいばらつきデータσ(x,y)の範囲が目立つようにばらつきデータσ(x,y)を画像化した後、輝度やコントラスト、色調などを調整しても良い。
【0037】
以上、この実施例によれば、複雑な構造をもつ被検査物を対象としてもその形状の統計量を適切に評価することができるようになる。
【0038】
[変形例]上記第1の実施例では、検査者がばらつきデータσ(x,y)を視認することで被検査物の良否を判断する方法を述べたが、自動的に良否を判断する方法について変形例1として説明する。式(1)、式(2)で説明したとおり、選択された良品の画像の群について、代表値データμ(x,y)は平均値、ばらつきデータσ(x,y)は標準偏差をA倍したものとする。すると、ほかの良品についても、取得した画像はμ(x,y)±σ(x,y)の範囲に収まるはずである。つまり、新たに検査した被検査物の画像をp(x,y)とすると、p(x,y)は任意の点(x,y)において下記式(3)を満たすと期待される。下記式(3)のように、代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)とを用いることで、被検査物の良否を自動的に判断できるようになる。
【数2】

【0039】
かかる手法で大量の被検査物の良否を判断するには、まず代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を構成しなくてはならない。その手順の一例を、図4を用いて説明する。まず、検査したい対象を自動的に見つけ出すには、検査対象の典型となるような代表画像が必要になる。これをテンプレート画像と呼ぶことにする。手順201において、このテンプレート画像がまだない場合には手順202に進み、テンプレート画像をひとつ取得し、テンプレート画像格納部221に格納する。このテンプレート画像を作成する操作は自動的に行うことができないので、検査者が外観検査装置を手動で操作してテンプレート画像処理機能211を用いてテンプレート画像を取得する必要がある。テンプレート画像の取得手法として、例えば、検査者がある被検査物の複数の画像を観察して代表となる画像を選択して取得する方法、検査者が複数の画像を重ね合わせて平均的な画像を作成する方法などによる。手順202が終了した状態、あるいは手順201においてすでにテンプレート画像が取得されている状態になると、手順203に進む。手順203では、テンプレート画像と類似の画像を外観検査装置の比較判定処理機能214が自動的に探す。このとき、類似の形状が見つかりやすくなるよう、観察する場所をあらかじめ指定できるとなお良い。
【0040】
類似の画像がみつかった場合は手順204に進み、演算処置部21は表示部23に類似画像を表示する。次に手順205に進み、見つかった類似画像を良品としてよいかを判断する。画像の良否の判断を比較判定処理機能214が自動的に行う方法の一例は後述するが、検査者に良否を問う形で良品と不良品の判断を下してもよい。もしも不良品、あるいは検査対象ではないということがわかれば、手順206に進み、検査者または比較判定処理機能214がこれを不良品として認識させる。検査対象であり、かつ良品であると判断されれば手順207に進み、検査者または比較判定処理機能214がこれを良品として認識させる。
【0041】
このとき得られた画像と、良品・不良品の判断とを対にして手順208において記憶部22に保存する。さらに手順209に進み、比較判定処理機能214がこれでテンプレート画像作成処理を終了してよいか否かを判断する。終了の条件が整っていれば手順211に進み、代表値データ作成処理機能212とばらつきデータ作成処理機能213がそれぞれ代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を計算する。しかし、終了の条件が整っていない場合、たとえば、良品の画像の数があらかじめ設定された数だけそろっていない場合などには、手順210に移行し、演算処理部21がステージ制御系93に指示して被検査物を移動して検査箇所を変更し、あるいは被検査物を交換するなどの操作を行ってから手順203に戻る。
【0042】
以上の手順により、良品についての代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を得ることができる。しかし、検査する対象が増えると、手動で手順205を行うことが検査者の負担になる。この部分を自動化する方法として、例えば図5に示した手順を採用することもできる。
【0043】
図5においては、手順201〜手順204、手順209、手順210までが図4と同じであるが、手順205、手順206、手順207、手順208が無く、テンプレート画像作成処理機能211が、良品・不良品の区別無しにいったん大量の類似画像を取得してしまう。続いて、手順209において比較判定処理機能214が、終了条件が満たされたことを確認した後、手順212において代表値データ作成処理機能212が取得した全ての画像を元に代表値データμ(x,y)を、ばらつきデータ作成処理機能213がばらつきデータσ(x,y)とを計算する。続いて、手順213により比較判定処理機能214が取得した画像データp(x,y)と代表値データμ(x,y)を重ねてみて、比較判定処理機能214が手順214において両者が一致することを確認する。ここで、比較判定処理機能214が取得した画像p(x,y)と代表値データμ(x,y)が一致することを確認するには、すでに知られているどのような方法を用いてもよいが、例えばあらかじめ定められたばらつきデータσ(x,y)の値に対して、|p(x,y)−μ(x,y)|≦σ(x,y)が満たされるか(平均との差が予め定めたばらつきデータσ(x,y)の範囲以内か)を確認しても良い。あるいは比較判定処理機能214が内積∫dx dy p(x,y)μ(x,y)が、あらかじめ定められたI以上になることを確認しても良いし、画像間のユークリッド距離やマハラノビス汎距離などが、あらかじめ定められたD以下になることを確認しても良い。
【0044】
以上に示した例などによって取得した画像p(x,y)と代表値データμ(x,y)が不一致であることが確認されたら、手順215に移り、テンプレート画面作成処理機能211が取得した画像p(x,y)を破棄して残りの画像p(x,y)(k≧2)を元に、代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を再構築する。その後、手順213に戻り、比較判定処理機能214が今度は新たに取得した画像p(x,y)と代表値データμ(x,y)を重ねてみる。これをk=1,2,3,…の順番に繰り返すことで、最終的には不良品の画像は手順215で破棄され、良品だけの画像が選別される。良品だけの画像で代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)とを構築すると、手順214において画像は一致し、手順216でも比較判定機能214が重ならない画像が存在しないことを判定するので、手順217に移行し、代表値データ作成処理機能212とばらつきデータ作成処理機能213が良品だけで構成された代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を取得する。
【0045】
これら一連の処理において、得られたテンプレート画像は記憶部22のテンプレート格納領域221に、代表値データμ(x,y)は代表値データ格納領域222に、ばらつきデータσ(x,y)はばらつきデータ格納領域223に格納される。
【0046】
この概念を図6に示す。まず、図6(a)に示したように、手順212において、代表値データ作成処理機能212が良品・不良品を問わず、画像251に写っているゲート電極構造を、良品・不良品を問わず重ね合わせて代表値データμ(x,y)を構築し、画像化した結果が代表値画像252である。この代表値データμ(x,y)とこの連続した処理において取得したゲート電極構造の画像との内積を、図6(b)のグラフ253に示した。ノッチ形状になっているゲート電極のみが、低い内積の値を持っている。すなわち、この内積よりも大きな値を基準値254として設定しておけば、このノッチ形状になっているゲート電極の画像は不良品として認識され、すなわち手順214において代表値データμ(x,y)と不一致であることが示され、手順215において破棄される。
【0047】
以上、図4あるいは図5に述べられた手順で、良品のみで構成された代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を自動的に得ることができる。すなわち、これ以降に取得された画像p(x,y)が式(3)を満たさなければ、取得した画像p(x,y)として認識された被検査物は不良品ということがすぐに分かる。このことを検査手順として示したのが図7である。
【0048】
まず手順301において、演算処理部21は、図5の手順217で得た検査に必要な代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を代表値データ格納領域222およびばらつきデータ格納領域223から読み込む。続いて手順302において、比較判定処理機能214が代表値データμ(x,y)と類似の取得した画像p(x,y)を持つ箇所を被検査対象から見つけ出す。さらに演算処理部21が手順303にて新たな画像p(x,y)を取得し、手順304にて比較判定処理機能214が取得した画像p(x,y)と代表値データμ(x,y)を重ねる。その後、手順305において比較判定処理機能214がp(x,y)−μ(x,y)すなわち検査対象箇所の画像と代表値画像の差分を計算し、手順306において比較判定処理機能214が|p(x,y)−μ(x,y)|≦σ(x,y)すなわちその差分がばらつきデータσ(x,y)の範囲内であることが満たされるか否かを判断する。満たされていれば手順310に移行し、もしも満たされなければ、手順307に移行し、比較判定処理機能214が画像p(x,y)を取得した位置で不良が発生していると判断する。その後手順308に移行し、演算処理部21が指定された必要な処理を行う。必要な処理とは、例えば検査者に音声、文字情報、電子メールなどで不良の発生を伝達した上で検査者が外観検査装置を操作するまで処理を待機しても良いし、あるいは不良があったということを電子ファイルや紙媒体などに出力した上で手順310へ移行しても良い。
【0049】
手順310では、演算処理部21は外観検査が終了したか否かを判断する。例えば、被検査物表面であらかじめ指定された箇所の外観検査が全て終了しているなどの条件が満たされていれば、手順312に移行して演算処理部21が検査処理を終了する。満たされていなければ、手順311に移行し、演算処理部21がステージ制御系93に対し指令を発して被検査物の検査箇所を移動したり、あるいは被検査物そのものを交換したり、必要な処理を行ってから手順302に戻り、外観検査処理を繰り返す。
【0050】
なお、ゲート電極構造など半導体ウェハ上の構築物を観察するにあたっては、半導体ウェハ表面を基準にしてそこからの高さなどが検査対象となることが多い。したがって、単に画像を重ねるだけではなく、半導体ウェハの表面を基準にして画像を重ねると本発明の実施に好ましい。そのためには、ハフ変換やクラス分類などの良く知られた手法を用いて、半導体ウェハの表面を認識させ、ここに大きな重みをつけて画像の重ねあわせを行うとよい。
【0051】
以上が本発明の第1の実施例である。まとめると、本発明により、複数の類似画像から代表値データμ(x,y)(例えば平均値、最頻値、中央値など)とばらつきデータσ(x,y)(例えば標準偏差、分散、最大値と最小値の差、などを正数倍したデータ)とを計算することで、複雑な形状であっても良品・不良品の判断を容易に行えるようになる。特に、代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を画像化することにより、複数の被検査対象のばらつきの状況が、検査者にとって一目瞭然になる。
【0052】
ところで、ばらつきデータσ(x,y)の計算にあたって、以下に述べる処理を行うと本発明の実施がさらに容易になる。図8(a)は、複数の画像351a、351b、351c、351d、351eからばらつきデータσ(x,y)を構築するところを模式的にあらわしている。画像351a〜351eを重ね合わせた結果が画像352であるが、この画像のx=xにおける、ばらつきデータσ(x,y)の値を示した結果がグラフ353である。画像351a〜351eにおいて、輝度の低い部分と輝度の高い部分の輪郭が大きくばらついているため、ばらつきデータσ(x,y)の値は、それぞれの輪郭を境界に離散的に変化するような挙動を示している。このような場合、画像351a〜351eから計算したばらつきデータσ(x,y)を元に、他の被検査対象を検査しても、正確に良品・不良品の判断ができないことがある。なぜならば、通常のばらつきを考えると輝度の低い部分の幅はガウス分布などの連続的な分布に従うためである。グラフ353に示されたような離散化されたばらつきデータσ(x,y)では、このような連続的な分布には十分に対応できない。
【0053】
そこでこの問題の解決方法を図8(b)に示した。同じ被検査対象に対し、意図的にフォーカスなどの合っていない(フォーカスアウトの)状態で画像354a、354b、354c、354d、354eを取得するか、あるいは図8(a)の画像351a〜351eに平滑化処理などを行って輪郭がぼやけた状態にして画像354a〜354eを取得する。画像354a〜354eを重ね合わせた結果が画像355である。画像355は、画像352に比べて、元の画像の輪郭が露になっていない。したがって、画像355のx=xにおけるばらつきデータσ(x,y)は、グラフ356に表したように、グラフ353よりも滑らかでより連続に近いばらつきデータσ(x,y)として得られることになる。
【0054】
このように、少ない画像から代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を構築するにあたっては、検査対象の画像を取得する段階でフォーカスをはずすなどしてぼやけた画像を取得するか、あるいは画像を取得した後で輪郭をぼやかす処理を行ってから代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を作成すると、良品・不良品の判断がより正確になる。
【0055】
[実施例2]次に、第2の実施例として、被検査物の表面に対して垂直な方向から被検査物を検査する場合について、図9および図10を用いて説明する。図9の(a)は、例えばCD−SEMと呼ばれる電子顕微鏡を用いて、半導体ウェハの表面を表面から垂直な方向から観察した写真であり、(b)は本発明を使用したCD−SEMでの検査の様子の写真である。図10の(a)(b)は図9の(a)(b)をそれぞれ模式的に図示した図である。従来のCD−SEMでは、図9(a)、図10(a)、に示されたような画像について、ライン401の幅404を計測したり、ホール402の直径405を計測したり、あるいは何らかの構造物403に対するライン401やホール402との距離406、409などを計測していた。検査項目が少ない場合は、これらの正常値とその許容幅を検査者が指定することで検査を行うことができた。しかし、構造物403などの複雑な形状を検査する場合や、あるいはライン401やホール402などの数が増えて全体的に複雑な構造を呈した場合には、さらに長さ407、408を測定するなど、検査項目が飛躍的に増えていくことになり、これらを設定することが検査者にとって負担になってくる。
【0056】
これに対し、図9(b)、図10(b)は、本発明を使用したCD−SEMでの検査の様子であり、観測されたライン401、ホール402、構造物403に対して、代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を重ねた様子を概念的に示している。輪郭410、412、414(最も輝度の高い部分)は、画像化した代表値データμ(x,y)におけるライン401、ホール402、構造物403の輪郭であり、ハロー411、413、415(元のライン401、ホール402、構造物403に比べて輝度を高くしてある部分)は、ばらつきデータσ(x,y)を示している。この図からは、ライン401、ホール402、構造物403の輪郭やその位置が、輪郭410、412、414を中心にハロー411、413、415の範囲に収まっていることがわかる。したがって、図9(b)に示された画像は、式(3)を満たすことが容易にわかり、したがって良品であることがわかる。また、検査者にとっても、このような画像から、良品か不良品かを一目瞭然に知ることができる。
【0057】
なお、図9の写真が印刷される場合を考えて、図10に模式図で示したが、輪郭410、412、414を最も輝度の高い部分、ハロー411、413、415を、元のライン401、ホール402、構造物403に比べて輝度を高くしてある部分とした画像として示すことができる。さらに、実際の外観検査装置では、例えば輪郭410、412、414を赤、ハロー411、413、415を半透明表示にした赤で示すなどの表示方法を採用すると、検査者に対してさらに理解しやすい画像になる。
【0058】
以上、本発明の第2の実施例に依れば、良品の画像から代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を構築するので、これらを用いて検査している視野全体が良品か不良品かを一括で判断することができる。さらに、代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)のうち、少なくともばらつきデータσ(x,y)を画像化することで、検査者にとっても検査状況を直感的に理解しやすくなる。
【0059】
ところで、第1の実施例および第2の実施例では、検査対象を画像として認識したうえで評価を行っているが、外観検査装置の中には、取得した画像から3次元構造を認識して評価を行うものもある。このような3次元構造は、通常ボクセル(voxcel)などで表現される。第1の実施例および第2の実施例では、検査対象から得られた画像をp(x,y)とし、ここから代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を計算するとして説明したが、このことをボクセルv(x,y,z)に対する、代表値データμ(x,y,z)とばらつきデータσ(x,y,z)に拡張することは上記の説明から非常に容易になすことができる。この様子を示したのが図11である。
【0060】
この例は、被検査対象から得られたボクセル451a、451b、451cに対して、代表値データμ(x,y,z)をボクセル化したものを平均ボクセル452、ばらつきデータσ(x,y,z)をボクセル化したものをばらつきボクセル453として示した。ばらつきボクセル453は、一見すると元の立体物と変わらないように見えるが、この理由は、元の立体物の表面の荒れをばらつきとして表示しているためである。稜線の部分はさらに荒れの程度が大きいので、元のボクセルよりも輝度が高く表示されている。
【0061】
以上のようにして、本発明は立体物にも適用することができる。しかし、電子顕微鏡でボクセルなどの立体構造を構築するには、半導体ウェハから被検査部分をイオンビームなどで切り出したりする必要がある。このような破壊検査を行うと、その部分は結局のところ製品にならなくなってしまうので、量産ラインではあまり好まれない。
【0062】
[実施例3]このような状況にかんがみて、非破壊検査で立体構造を検査する方法を第3の実施例として説明する。第3の実施例では、図12に示したように、被検査物の表面に対して斜めの方向から観察を行い、鳥瞰図を取得する。鳥瞰図では、各部分の長さを測ることが困難になるが、本発明の第2の実施例で述べたとおり、本発明では長さを直接測定する必要が無いので、このような困難に直面することがない。
【0063】
まず、3つの被検査対象から鳥瞰図501a、501b、501cを取得する。後はこの鳥瞰図を画像p(x,y)として、第1の実施例または第2の実施例と同様、代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を計算すれば、第1の実施例および第2の実施例と全く同じ手順で検査を行うことができる。また、鳥瞰図501a、501b、501cの代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)をそれぞれ画像化したものを代表値画像502、ばらつき画像503に示した。
【0064】
ところで、この鳥瞰図501a、501b、501cは、Fin−FETと呼ばれる3次元構造をもったトランジスタのものであるが、鳥瞰図の左下から右上に走る、輝度が低く写った構造物と、鳥瞰図の左上から右下に走る、輝度が高く写った構造物とが接触する部分の付近が、Fin−FET型のトランジスタの電気特性に重要な部分である。したがって検査においては、この部分のばらつきの管理を厳しく行うことが望ましい。ばらつき画像503では、その交点付近の輝度が低く表示されており、この部分はばらつきデータσ(x,y)が小さい部分である。つまり、このようなばらつきデータσ(x,y)を用いることで、検査者が望んだような検査を実施することが可能になる。また、すでに撮影された画像から得られたばらつきデータσ(x,y)よりも、さらに厳しく管理したい場合は、例えばパソコンなどに備えられた画像編集ソフトを用いて、ばらつきデータσ(x,y)を手動で編集できるようにするとさらに好適である。
【0065】
このような鳥瞰図を取得するには、被検査物を載置するステージを傾けるか、あるいは観測に用いる電子ビームなどを、被検査物の表面に対して角度をつけて入射させるなどの構造を、外観検査装置に設ければよい。しかしながら鳥瞰図では、立体構造の影になっている部分見ることができない。陰になっている部分と、見えている部分とでは概略同じような構造になっていることが多いので、見ることのできない影の部分があっても大きな問題にはならないが、このような場合に対処するために、ステージを回転させるか、あるいは観測に用いる電子ビームなどの方向を可変にできるとさらに好適である。
【0066】
また、図7のような手順で検査を始める前に、図4か図5のような方法で代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を構築しておく必要があると述べたが、検査を行ううちに良品と認定された画像で徐々に代表値データμ(x,y)とばらつきデータσ(x,y)を構築してもよい。このようにすることで、外観検査装置が平均的な良品の外見とそのばらつきを徐々に学習していくことができる。
【0067】
上記の説明では、外観検査装置について説明したが、本発明の外観検査装置を半導体検査装置および半導体ウェハの断面検査装置に適用することが可能である。
【0068】
また、以上の説明では外観の物理的な構造を評価する方法について述べたが、検査対象中の元素の分布や、応力などの任意の物理量の測定に応用することもできる。たとえば、以上の実施例で述べている電子顕微鏡には、電子線を対象に照射することにより発生する蛍光X線のスペクトルから、検査対象中の元素量を分析することができるものがある。この蛍光X線スペクトルを元に検査対象中の元素分布を測定する際に本願発明を適用すれば、検査対象ごとの平均的な元素の分布に対する分布のばらつきを視覚的に分析することができるようになる。
【0069】
また、応力の測定には、たとえば測定対象に入射したX線の回折像を測定する方法がある。回折像は物体を構成する結晶の格子サイズに依存するが、検査対象内に応力が存在すると結晶格子が変形するため、X線回折像も変形する。これを元に検査対象内に存在する応力分布を測定することができるが、これに本願発明を適用すると、検査対象語との平均的な応力分布に対する分布のばらつきを視覚的に分析することができるようになる。
【0070】
以上の実施例では、電子線やX線を用いた検査装置について述べたが、たとえばFTIR(フーリエ変換赤外線吸収スペクトル)の分析装置などに本願発明を適用すると、赤外線吸収スペクトルのばらつきから、検査対象を構成する化学組成のばらつきを視覚的に評価することができるようになる。このように、本願発明は様々な検査手法・検査対象に対して、そのばらつきを視覚的に評価することができ、膨大な情報量を検査者にわかりやすい形で提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の概念図であり、類似画像を重ね合わせて代表値画像とばらつき画像を生成する様子を説明する図。
【図2】本発明を適用する対象の一例として示した、走査型電子顕微鏡を用いた外観検査装置の概念図。
【図3】異常形状が少ない場合と多い場合とで、ばらつき画像が異なることを、ゲート形状の根元の“ノッチ形状”が少ない場合(a)と、ゲート形状の根元の“ノッチ形状”が多い場合(b)で示した図。
【図4】代表値画像とばらつき画像の構成手順の一例を示すフローチャート。
【図5】代表値画像とばらつき画像の構築手順の一例を示すフローチャート。
【図6】代表値画像とばらつき画像の自動構築の様子を表した模式図(a)、および取得した画像と代表値画像との一致度を説明するグラフ(b)。
【図7】検査の実施手順を示すフローチャート。
【図8】輪郭が大きくばらつく場合に、画像をデフォーカスすることで対処できることを示した図。
【図9】ウェハ表面の画像を用いた検査方法を、従来の検査方法(a)と本発明での検査方法(b)で説明する写真。
【図10】図9の画像を従来の検査方法(a)と本発明での検査方法(b)での写真を線画で示す図。
【図11】立体物に対する本発明の適用結果。
【図12】立体物における本発明の2つめの検査方法。
【符号の説明】
【0072】
1:電子源、2:コンデンサレンズ、3:ビームセパレータ、4:対物レンズ、5:結像レンズ、6:画像検出部、7:負電源、8:予備電源装置、10:走査線電子顕微鏡(画像取得部)、20:外観検査処理部、21:演算処理部、211:テンプレート作成処理機能、212:代表値データ作成処理機能、213:ばらつきデータ作成処理機能、214:比較判定処理機能、22:記憶部、221:テンプレート画像格納領域、222:代表値データ格納領域、223:ばらつきデータ格納領域、23:表示部、91:画像処理部、92:ビーム制御系、93:スキャン制御系、101:画像、102:被検査物の断面、103:ゲート電極、104:代表値画像、105:ばらつき画像、151:被検査物の断面、152:被検査物の断面、153:ゲート構造、154:ゲート構造、155:ばらつき画像、156:ばらつき画像、251:画像、252:代表値画像、253:グラフ、254:基準値、351:画像、352:重ね合わせ画像、353:ばらつき画像σ(x,y)、354:デフォーカス画像、355:重ね合わせ画像、356:ばらつき画像σ(x,y)、401:ライン、402:ホール、403:構造物、404:ラインの幅、405:ホールの直径、406:距離、407:構造物の長さ、408:構造物の長さ、409:距離、410:ラインの輪郭、411:ラインのハロー、412:ホールの輪郭、413:ホールのハロー、414:構造物の輪郭、415:構造物のハロー、451:ボクセル、452:平均ボクセル、453:ばらつきボクセル、501:鳥瞰図、502:代表値画像、503:ばらつき画像、W:被検査物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物の像を取得する外観検査装置を用いた外観検査方法において、
複数の像を重ね合わせ、像の各点における代表的な値とばらつきの大きさとを求める
ことを特徴とする外観検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の外観検査方法において、
前記代表的な値とばらつきの大きさの値とを元に、検査対象物の良否を判定する
ことを特徴とする外観検査方法。
【請求項3】
請求項1記載の外観検査方法において、
前記代表的な値とばらつきの大きさの値とを、画像に変換して表示する
ことを特徴とする外観検査方法。
【請求項4】
請求項3記載の外観検査方法において、
前記代表的な値とばらつきの大きさの値とを、現に検査対象から得られた像に重ね合わせて表示する
ことを特徴とする外観検査方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の外観検査方法において、
前記代表的な値は、平均値、最頻値、中央値のうちいずれかひとつである
ことを特徴とする外観検査方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の外観検査方法において、
前記ばらつきの大きさの値は、標準偏差に任意の定数を乗じた値、最大値と最小値、最大値と最小値から演算される値のうちいずれかひとつとする
ことを特徴とする外観検査方法。
【請求項7】
被検査物の像を検出する画像検出部および画像検出部が検出した画像を処理する画像処理部ならびに被検査物をスキャンするスキャン制御部を備えた画像検出部と、検出した画像から外観を検査する外観検査処理部とを備えた外観検査装置において、
前記外観検査処理部が、取得した複数の像を重ね合わせ、像の各点における代表的な値を求める代表値データ作成処理機能と、複数の像の各点におけるばらつきの大きさの値とを求めるばらつきデータ作成処理機能を有する
ことを特徴とする外観検査装置。
【請求項8】
請求項7記載の外観検査装置において、
前記外観検査処理部が、代表的な値とばらつきの大きさの値とを元に、検査対象物の良否を判定する判定処理機能を有する
ことを特徴とする外観検査装置。
【請求項9】
請求項7記載の外観検査装置において、
前記外観検査処理部が、前記代表的な値とばらつきの大きさの値とを、画像に変換して表示する機能を有する
ことを特徴とする外観検査装置。
【請求項10】
請求項7記載の外観検査装置において、
前記外観検査処理部が、代表的な値とばらつきの大きさの値とを、現に検査対象から得られた像に重ね合わせて表示する機能を有する
ことを特徴とする外観検査装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれか1項記載の外観検査装置において、
前記代表的な値は、平均値、最頻値、中央値のうちいずれかひとつである
ことを特徴とする外観検査装置。
【請求項12】
請求項7乃至請求項11のいずれか1項記載の外観検査装置において、
前記ばらつきの大きさの値は、標準偏差に正数を乗じた値、最大値と最小値、最大値と最小値から演算される値のうちいずれかひとつとする
ことを特徴とする外観検査装置。
【請求項13】
請求項7に記載した外観検査装置を用いる
ことを特徴とする半導体検査装置。
【請求項14】
請求項7に記載した外観検査装置を用いる
ことを特徴とする半導体ウェハの断面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−25836(P2010−25836A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189507(P2008−189507)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】