説明

失火検出システム

【課題】失火検出をより正確に行う。
【解決手段】内燃機関の運動エネルギを利用して作動し、発電電圧を変更可能な発電機110と、充電電圧が相違する複数のバッテリ102a,103aと、複数のバッテリバッテリ102a,103aのそれぞれに接続される電気負荷バッテリ102b,103bと、内燃機関の回転変動に基づいて失火を検出する検出手段20と、複数のバッテリバッテリ102a,103aのなかで、発電機110を接続することで発電負荷が最も大きくなる一のバッテリを選択する選択手段20と、検出手段20により失火を検出するときに、選択手段により選択される一のバッテリを発電機110に接続すると共に、発電機110の発電電圧を該一のバッテリの充電電圧に合わせて該発電機を作動させる制御手段20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、失火検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
失火判定中に発電機の発電負荷を、失火判定し易いように制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、充電電圧の異なる複数のバッテリを備えている場合には、夫々のバッテリの残容量(SOC)、電気負荷、発電電圧などによって、発電機の発電負荷が異なる。したがって、失火判定中に充電しているバッテリによっては、失火判定がし難くなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−352332号公報
【特許文献2】特開2001−271701号公報
【特許文献3】特開2010−101197号公報
【特許文献4】特開平10−252453号公報
【特許文献5】特開2006−183536号公報
【特許文献6】特開2006−226205号公報
【特許文献7】特開2004−308582号公報
【特許文献8】特開2004−239217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、失火検出をより正確に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために本発明による失火検出システムは、
内燃機関の運動エネルギを利用して作動し、発電電圧を変更可能な発電機と、
充電電圧が相違する複数のバッテリと、
前記複数のバッテリのそれぞれに接続される電気負荷と、
前記内燃機関の回転変動に基づいて失火を検出する検出手段と、
前記複数のバッテリのなかで、前記発電機を接続することで発電負荷が最も大きくなる一のバッテリを選択する選択手段と、
前記検出手段により失火を検出するときに、前記選択手段により選択される一のバッテリを発電機に接続すると共に、前記発電機の発電電圧を該一のバッテリの充電電圧に合わせて該発電機を作動させる制御手段と、
を備える。
【0007】
ここで、内燃機関の低負荷領域では、燃焼ばらつきが大きくなる。このため、内燃機関の低負荷領域において回転変動を利用して失火を検出すると精度が低くなる虞がある。そこで、制御手段は、内燃機関の低負荷領域において失火の検出を行わないように、発電機の発電負荷を増加させることで、内燃機関の負荷を増加させている。これにより、燃焼ばらつきの小さくなる内燃機関の中、高負荷領域で失火の検出を行うことができるため、検出精度を高めることができる。
【0008】
そして、複数のバッテリの中から最も発電負荷の大きくなるバッテリを選択することで、より大きな負荷を内燃機関に与えることができるので、燃焼ばらつきをより小さくすることができる。したがって、失火の検出精度をより高めることができる。
【0009】
本発明においては、前記選択手段は、前記複数のバッテリの夫々の残容量及び前記複数のバッテリの夫々に接続される電気負荷の消費電力に基づいて、発電負荷を算出することができる。
【0010】
ここで、バッテリの残容量(SOC)によって発電負荷が変化する。また、発電機の発電電圧によっても発電負荷が変化する。そして、SOCが小さくなるほど、また、充電電圧が高いほど、バッテリの充電電力(バッテリの受入性)は大きくなるため、発電負荷が大きくなる。
【0011】
また、充電時に使用している電気負荷によっても発電負荷が変化する。すなわち、消費電力が大きいほど発電負荷が大きくなる。
【0012】
以上より、バッテリごとに発電負荷を算出し、その中から最も大きな発電負荷となるバッテリを発電機に接続すれば、内燃機関の負荷を最も大きくすることができるため、失火の検出精度をより高めることができる。
【0013】
本発明においては、前記内燃機関の排気通路に設けられ、電力の供給により発熱する担体に触媒を担持させた電気加熱式触媒と、
前記検出手段により失火を検出するときに、前記電気加熱式触媒へ電力を供給する触媒制御手段と、
を備えることができる。
【0014】
ここで、失火を検出している最中にも燃焼が安定せずに失火が発生している場合がある。そして、失火が発生すると、内燃機関からHCが排出され、該HCが触媒に付着する虞がある。その後、排気温度が上昇したときに、触媒に付着しているHCが一斉に燃焼すると、該触媒が過熱する虞がある。これに対し、失火を検出するときに電気加熱式触媒へ通電することにより、内燃機関から排出されるHCを該電気加熱式触媒にて随時燃焼させることができるので、多くのHCが一斉に燃焼することを抑制できる。また、電気加熱式触媒へ電力を供給することにより、発電機の発電負荷を大きくし得る。このため、内燃機関の負荷を増加させることができるので、失火の検出精度を高めることができる。また、バッテリに充電されることによりSOCが大きくなると、発電負荷が減少するが、電気加熱式触媒へ電力を供給することにより、SOCが大きくなることを抑制できる。
【0015】
本発明においては、前記内燃機関の吸気通路に設けられ、電力の供給により過給を行うターボチャージャと、
前記内燃機関の吸気通路に設けられ、電力の供給により発熱して前記内燃機関の吸気の温度を上昇させる吸気ヒータと、
前記検出手段により失火が検出される頻度に応じて、前記ターボチャージャまたは前記吸気ヒータに電力を供給する供給手段と、
を備えることができる。
【0016】
すなわち、失火が発生する頻度に応じて内燃機関の吸入空気の温度を上昇させれば、吸入空気の温度を上昇させ過ぎることもないため、失火の発生を効率よく抑制できる。また、発電機の発電負荷を増加させることで、内燃機関の負荷を増加させることができるため、失火の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、失火検出をより正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例に係る車両の概略構成を示す図である。
【図2】電気系回路の概略構成を示す図である。
【図3】機関トルクと、失火シグナルとノイズとの比(失火シグナル/ノイズ)であるS/N比と、の関係を示した図である。
【図4】バッテリの充電電圧とバッテリの充電電力との関係を示した図である。
【図5】失火頻度に対して作動させる高電圧負荷を示した図である。
【図6】筒内圧力と筒内温度と着火限界との関係を示した図である。
【図7】失火を抑制するときの各装置の作動状態を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る失火検出システムの具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【0020】
<実施例1>
図1は、本実施例に係る車両の概略構成を示す図である。図1において、車両には、原動機としての内燃機関1が搭載されている。内燃機関1の出力軸はトランスミッション2の入力軸に連結されている。トランスミッション2の出力軸はプロペラシャフト3を介してデファレンシャルギア4に連結されている。デファレンシャルギア4には、二本のドライブシャフト5が接続され、ドライブシャフト5は左右の駆動輪6にそれぞれ接続されている。前記したトランスミッション2としては、トルクコンバータまたはクラッチ機構と、変速比を段階的または無段階に変更する変速機構と、を組み合わせたものを例示することができる。
【0021】
内燃機関1から出力された動力(出力軸の回転トルク)は、トランスミッション2により速度変換された後にプロペラシャフト3に伝達され、次いでデファレンシャルギア4により減速された後にドライブシャフト5及び駆動輪6に伝達される。
【0022】
内燃機関1には、電気系回路100が併設されている。図2は、電気系回路100の概略構成を示す図である。電気系回路100は、図2に示すように、発電ユニット101、高電圧系回路102、低電圧系回路103を備えている。
【0023】
発電ユニット101は、オルタネータ110と切替スイッチ120を備えている。なお、本実施例ではオルタネータ110が、本発明における発電機に相当する。
【0024】
オルタネータ110は、内燃機関1の出力軸(または、該出力に連動して回転する部材)とプーリやベルトなどを介して連結され、出力軸の運動エネルギ(回転エネルギ)を電気エネルギに変換する発電機である。詳細には、オルタネータ110は、三相の捲線を有するステータコイルと、ロータに巻回されたフィールドコイルと、ステータコイルに発生した交流電流を直流電流に整流する整流器と、フィールドコイルに対する界磁電流(フィールド電流)の通電(オン)と非通電(オフ)を切り換えるレギュレータ110aと、を具備する三相交流発電機である。このように構成されたオルタネータ110は、フィールドコイルに界磁電流(フィールド電流)が通電されたときに、ステータコイルに誘起電流(三相交流電流)を発生させ、発生した三相交流電流を直流電流に整流して出力する。
【0025】
切替スイッチ120は、オルタネータ110の出力を低電圧系回路103又は高電圧系回路102の何れか一方に入力させるための機器である。切替スイッチ120は、一つの
入力端子120aと二つの出力端子120b,120cを具備し、2つの出力端子120b,120cの何れか一方を入力端子120aと導通させる。入力端子120aには、オルタネータ110の出力が入力されるようになっている。2つの出力端子120b,120cの一方の出力端子(以下、「第1出力端子」と称する)120bは、高電圧系回路102に接続されている。二つの出力端子120b,120cの他方(以下、「第2出力端子」と称する)120cは、低電圧系回路103に接続されている。なお、切替スイッチ120としては、有接点スイッチを利用することもできるが、無接点スイッチを利用することが望ましい。
【0026】
高電圧系回路102は、高電圧Vh(たとえば、43.5V程度)の電気を入出力可能な回路であり、高電圧バッテリ102aや高電圧負荷102bが並列に接続された回路である。高電圧負荷102bは、たとえば、内燃機関1の潤滑油を加熱するためのオイルヒータ、内燃機関1の冷却水を加熱するための冷却水ヒータ、電気加熱式触媒、内燃機関1の吸気を加熱するための吸気ヒータ、内燃機関1の燃料または吸気を加熱するグロープラグ、或いはモータアシスト式のターボチャージャ(以下、モータアシストターボという。)などである。オイルヒータは、電力を供給することで発熱して潤滑油の温度を上昇させる。冷却水ヒータは、電力を供給することで発熱して冷却水の温度を上昇させる。吸気ヒータは、電力を供給することで発熱して吸気の温度を上昇させる。また、グロープラグは、電力を供給することで発熱して吸気または燃料の温度を上昇させる。また、モータアシストターボは、電力を供給することで過給を行う。
【0027】
そして、電気加熱式触媒は、内燃機関1の排気通路に設けられる。電気加熱式触媒は、電気抵抗となって、通電により発熱する材質の触媒担体に、酸化機能を有する触媒が担持されている。触媒担体は、排気の流れる方向に伸び且つ排気の流れる方向と垂直な断面がハニカム状をなす複数の通路を有している。この通路を排気が流通する。また、触媒は、たとえば酸化触媒、三元触媒、吸蔵還元型NOx触媒、選択還元型NOx触媒などを挙げることができる。なお、通電により発熱する発熱体よりも下流側に触媒を備えることで電気加熱式触媒としてもよい。
【0028】
一方、低電圧系回路103は、低電圧Vl(たとえば、14.5V程度)の電気を入出力可能な回路であり、低電圧バッテリ103aや低電圧負荷103bが並列に接続された回路である。低電圧負荷103bは、たとえば、各種のアクチュエータやラジエータ用ファンなどである。
【0029】
ここで図1に戻り、車両には、内燃機関1、トランスミッション2、及び電気系回路100を電気的に制御するための電子制御ユニット(ECU)20が併設されている。なお、図1においては、ECU20は一つであるが、内燃機関1を制御するためのECUとトランスミッション2を制御するためのECUと電気系回路100を制御するためのECUとに分割されていてもよい。
【0030】
ECU20には、アクセルポジションセンサ21、シフトポジションセンサ22、ブレーキセンサ23、クランクポジションセンサ24、車速センサ25等の各種センサの出力信号が入力されるようになっている。また、ECU20には、高電圧バッテリ102aおよび低電圧バッテリ103aの放電電圧も入力されるようになっている。
【0031】
アクセルポジションセンサ21は、アクセルペダルの操作量(踏み込み量)に応じた電気信号を出力するセンサである。シフトポジションセンサ22は、シフトレバーの操作位置に応じた電気信号を出力するセンサである。ブレーキセンサ23は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じた電気信号を出力するセンサである。クランクポジションセンサ24は、内燃機関1の出力軸(クランクシャフト)の回転位置に応じた電気信号を出
力するセンサである。車速センサ25は、車両の走行速度に応じた電気信号を出力するセンサである。
【0032】
ECU20は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、内燃機関1、トランスミッション2、電気系回路100などを制御する。以下、電気系回路100の制御方法について述べる。
【0033】
ECU20は、レギュレータ110aのオン/オフをデューティ制御することにより、オルタネータ110の発電電圧を変更する。たとえば、ECU20は、オルタネータ110の発電電圧を高める場合は、レギュレータ110aのオン時間が長く(オフ時間が短く)なるようにデューティ比を決定する。オルタネータ110の発電電圧を低める場合は、ECU20は、レギュレータ110aのオン時間が短く(オフ時間が長く)なるようにデューティ比を決定する。ECU20は、オルタネータ110の実際の発電電圧をセンシングし、実際の発電電圧と目標発電電圧との差に応じてデューティ比のフィードバック制御も行う。
【0034】
高電圧系回路102に電気を供給するときは、ECU20は、オルタネータ110の発電電圧圧を高電圧系回路102に適した電圧(高電圧)Vhと一致するようにレギュレータ110aをデューティ制御するとともに、入力端子120aと第1出力端子120bとが接続されるように切替スイッチ120を制御する。
【0035】
低電圧系回路103に電気を供給するときは、ECU20は、オルタネータ110の発電電圧を低電圧系回路103に適した電圧(低電圧)Vlと一致するようにレギュレータ110aをデューティ制御するとともに、入力端子120aと第2出力端子120cとが接続されるように切替スイッチ120を制御する。
【0036】
また、車両が減速走行状態にあるとき、たとえば、車速が零より大きく且つアクセルペダルの操作量が零であるときは、駆動輪6の運動エネルギがドライブシャフト5、デファレンシャルギア4、プロペラシャフト3、トランスミッション2、及び内燃機関1を介してオルタネータ110へ伝達される。つまり、オルタネータ110のロータが駆動輪6に連動して回転する。その際、オルタネータ110にフィールド電流が印加されれば、駆動輪6の運動エネルギを電気エネルギに変換(回生)することができる。
【0037】
また、ECU20は、内燃機関1の失火を検出する。ここで、ECU20は、クランクポジションセンサ24の出力信号に基づいて内燃機関1の回転変動を検出することで、該内燃機関1に失火が発生している否か判定する。なお、本実施例では、内燃機関1の回転変動に基づいて失火検出を行えばよく、その手法については限定しない。なお、本実施例においては失火を検出するECU20が、本発明における検出手段に相当する。
【0038】
例えば、10CA(クランクアングル)回転するのに要する時間を検出し、この時間を30CA回転するのに要する時間に変換する。この時間に基づいて、クランク角速度ωを算出する。さらに、11回前のクランク角速度ωn−11から最新のクランク角速度ωまでの移動平均Sを算出する。この移動平均Sは、クランク軸1回転に対応する平均値である。次に、コムフィルタ処理によりコムフィルタ値Cを算出する。コムフィルタ値Cは、最新の移動平均Sからクランクアングル180度前に算出された移動平均Sn−6を減算することにより得る。本実施例では、クランク軸が180度回転する毎に何れかの気筒で膨張行程となる。したがって、移動平均Sn−6は、1つ前の燃焼サイクルで算出された平均値に相当する。このコムフィルタ値Cを基にして、気筒平均処理により気筒平均処理値Mを算出する。気筒平均処理値Mは、5回前のコムフィルタ値Cn−5から最新のコムフィルタ値Cまでの平均値である。すなわち、クランクアングル
で180度の期間におけるコムフィルタ値Cの平均値に相当する。そして、最新の気筒平均処理値Mから1回前の気筒平均処理値Mn−1を減算することで、気筒間差分ΔMを算出する。次いで、3回前から最新までの気筒間差分ΔMの平均値を算出する。この平均値から気筒間差分ΔMの減算を、3回前の気筒間差分ΔMn−3から最新の気筒間差分ΔMまで行い、これら4回分の算出結果の絶対値の総和を失火インデックスMSとする。この失火インデックスMSは、失火の発生に応じて値が大きくなる。
【0039】
そして、失火インデックスMSと閾値とを比較し、該失火インデックスMSが閾値以上であれば失火が発生したと判定され、閾値未満であれば失火は発生していないと判定される。また、所定期間において失火が発生した回数に応じて失火の頻度を検出することもできる。なお、失火インデックスMSが閾値未満となる頻度を該頻度の閾値と比較し、この頻度が閾値以上であったときに失火していると確定してもよい。そして、失火が検出されるか、または、失火の頻度が所定値以上であれば、たとえばEGRガスの供給量を減少させることで失火の発生を抑制してもよい。
【0040】
このようにクランクアングルを使用して失火の検出を行う場合には、高回転、低負荷において失火の検出精度が低くなる。
【0041】
ここで、図3は、機関トルクと、失火シグナルとノイズとの比(失火シグナル/ノイズ)であるS/N比と、の関係を示した図である。図3に示されるように、機関トルクが高いほど、S/N比が高くなり、失火を検出し易くなる(一点鎖線参照)。一方、低トルクでは、燃焼ばらつきが元々大きいため、失火との切り分けが困難となる。
【0042】
そこで本実施例では、低負荷時において失火の検出が行われないようにする。このため、失火の検出を行うときには、オルタネータ110の発電負荷を増加させることで、内燃機関1の負荷を増加させる。
【0043】
ところで、本実施例のように高電圧系回路102と低電圧系回路103とを備えている場合には、どちらの回路に対して発電を行うのかにより、発電負荷が異なる。このため、より発電負荷の大きな方を選択することにより、内燃機関1の負荷をより大きくすることができる。この選択はECU20により行われる。なお、本実施例においてはこのような選択を行うECU20が、本発明における選択手段に相当する。
【0044】
ここで、高電圧バッテリ102a及び低電圧バッテリ103aの残容量(SOC)に応じてオルタネータ110の発電負荷が変わる。また、高電圧負荷102b及び低電圧負荷103bの作動状況に応じてもオルタネータ110の発電負荷が変わる。さらに、発電電圧によってオルタネータ110の発電効率が変わる。これらを考慮すれば、何れの回路に対して発電を行えば、発電負荷が大きくなるか判断できる。
【0045】
ここで、図4は、バッテリの充電電圧とバッテリの充電電力との関係を示した図である。充電電圧が36Vのバッテリは高電圧バッテリ102aに相当し、充電電圧が12Vのバッテリは低電圧バッテリ103aに相当する。夫々のバッテリにおいては充電電圧に幅があり、夫々のバッテリにおいて充電電圧が大きくなるほど、充電電力が大きくなる。また、バッテリの充電電力(バッテリ受入性)は、バッテリのSOCが低いほど、また、充電電圧が大きいほど、大きくなる。そして、バッテリの充電電力が大きいほど、オルタネータ110の発電負荷が大きくなり、内燃機関1の負荷を大きくすることができる。
【0046】
また、高電圧負荷102b及び低電圧負荷103bにおいては、電気負荷が大きくなるほど、オルタネータ110の発電負荷が大きくなる。なお、本実施例においては高電圧負荷102b及び低電圧負荷103bが、本発明における電気負荷に相当する。
【0047】
そこで、本実施例では、各バッテリの充電状態と各バッテリに接続された電気負荷の消費電力とをパラメータとして各回路の電気負荷を夫々演算し、高電圧バッテリ102a及び低電圧バッテリ103aのうち、電気負荷が大きい方の回路へオルタネータ110から電力を供給する。
【0048】
ここで、各回路に接続したときにオルタネータ110が発生させる電力Wは、以下の数式(1)により演算することができる。
W=(Valt−Vba*Valt)/{R1+(R2*R3)/(R2+R3)}・・・(1)
【0049】
上記した式中のValtはオルタネータ110の発電電圧を示し、Vbaは各バッテリの定格電圧を示し、R1はオルタネータ110から各バッテリに至る電気配線の抵抗の大きさを示し、R2は各バッテリのSOCをパラメータとして特定される内部抵抗の大きさを示し、R3は各電気負荷の消費電力を抵抗値に換算した値を示す。
【0050】
ECU20は、高電圧系回路102と低電圧系回路103とのそれぞれについて発生電力Wを演算する。なお、以下では、高電圧系回路102の発生電力をWhと記し、低電圧系回路103の発生電力をWlと記すものとする。
【0051】
そして、ECU20は、高電圧系回路102の発生電力Whと、低電圧系回路103の発生電力Wlとを比較し、発生電力Wが大きい方の回路に電力が供給されるように、オルタネータ110及び切替スイッチ120を制御する。なお、本実施例においてはこのようにオルタネータ110及び切替スイッチ120を制御するECU20が、本発明における制御手段に相当する。
【0052】
また、発電効率は発電電圧によって大きく異なるため、上記数式(1)により得られる発生電力Wに発電効率を乗算した値を発電電力Wとしてもよい。
【0053】
ところで、失火が発生しているか否かを判断する処理を行っている最中に、失火が発生することもあり得る。そして、失火が発生すると、内燃機関1からHCが排出される。このHCが触媒へ付着すると、失火検出後に正常な燃焼状態となり排気の温度が上昇したときに、該HCが急激に燃焼して該触媒が過熱する虞がある。
【0054】
そこで、失火を検出する処理の最中には、高電圧負荷102bの一つである電気加熱式触媒に電力を供給する。これにより、内燃機関1から排出されたHCを電気加熱式触媒にて燃焼させることができる。すなわち、HCが電気加熱式触媒へ到達すると該HCがすぐに燃焼されるため、触媒にHCが多く付着した状態で一斉に燃焼することを抑制できる。これにより、電気加熱式触媒およびその下流側の触媒の過熱を抑制できる。
【0055】
また、電気加熱式触媒に電力を供給することで、オルタネータ110の電気負荷を増加させることができる。ここで、失火が発生しているか否かを判断する処理の最中にバッテリへの充電が進んでSOCが高くなると、発電負荷が減少してしまう。これに対し、電気加熱式触媒に電力を供給することで、SOCが高くなることを抑制できる。これにより、発電負荷の減少を抑制できる。なお、本実施例においては失火検出中に電気加熱式触媒へ通電するECU20が、本発明における触媒制御手段に相当する。
【0056】
ここで、本実施例では、高電圧負荷102bとして、モータアシストターボ、吸気ヒータ、グロープラグ等を備えている。これらの高電圧負荷102bを作動させることで燃焼状態を改善して失火を抑制できる。また、これらの高電圧負荷102bを作動させると、
高電圧バッテリ102aのSOCが低下する虞がある。これに対し、高電圧負荷102bを作動させると同時に、オルタネータ110による発電を行うことにより、電気負荷を大きくしつつ、失火を抑制できる。
【0057】
なお、失火の頻度に基づいて、作動させる高電圧負荷102bを選択してもよい。ここで、図5は、失火頻度に対して作動させる高電圧負荷を示した図である。失火頻度は、所定サイクル中に失火が発生した回数に応じて3段階に分けられる。
【0058】
失火が多く発生する場合を「多」、失火の発生頻度が中程度の場合を「中」、失火の発生が少ない場合を「少」としている。また、図5中で示される「発電」は、オルタネータ110による発電を示し、ONのときに発電が行われ、OFFのときに発電が停止される。「EGR」は、EGRガスの供給を示し、「低減」は、EGRガスの供給量を内燃機関1の運転状態に応じて決定されるEGRガスの供給量を低減させることを示している。内燃機関1の運転状態に応じて決定されるEGRガスの供給量、及び、失火頻度に応じて決定されるEGRガスの供給量は予め実験等により最適値を求めておく。「噴射時期」は、気筒内への燃料噴射の時期を示している。「進角」とは、内燃機関1の運転状態に応じて決定される噴射時期よりも進角させることを示している。内燃機関1の運転状態に応じて決定される噴射時期、及び、失火頻度に応じて決定される噴射時期は予め実験等により最適値を求めておく。「モータアシストターボ」及び「吸気ヒータ」は、夫々「ON」のときに作動し、「OFF」のときに停止される。
【0059】
失火頻度が「多」のときには、燃焼状態を速やかに改善させるため、EGRガスの供給量を低減させ、且つ、噴射時期を進角させる。また、オルタネータ110で発電を行いつつ、モータアシストターボ及び吸気ヒータを作動させる。
【0060】
失火頻度が「中」のときには、モータアシストターボまたは吸気ヒータの何れか一方で、より効果が大きな方を選択して作動させる。例えば、吸気温度、吸気圧力等から筒内圧力及び筒内温度を推定する。そして、着火限界まで圧力または温度を上昇させるために、圧力または温度のどちらがより低い電力で上昇可能なのか演算を行う。そして、低電力で着火限界に達することができる方を作動させる。
【0061】
ここで、図6は、筒内圧力と筒内温度と着火限界との関係を示した図である。着火限界を示す実線よりも筒内圧力及び筒内温度が高くなければ着火しない。現時点における筒内圧力がAで示され、現時点における筒内温度がCで示される。モータアシストターボにより筒内圧力を上昇させて着火限界に到達させるためには、筒内圧力をCで示される値まで上昇させなければならない。一方、吸気ヒータにより筒内温度を上昇させて着火限界に到達させるためには、筒内温度をDで示される値まで上昇させなければならない。なお、筒内温度の上昇量および筒内圧力の上昇量と、モータアシストターボ及び吸気ヒータの夫々の電力消費量と、の関係を予め実験等により求めてECU20に記憶させておく。
【0062】
なお、失火頻度が「多」のときのほうが、「中」のときよりも、EGR率をより高くし、噴射時期の進角量をより大きくする。これにより、失火頻度に応じたEGR率の設定及び噴射時期の設定が可能となる。
【0063】
また、失火頻度が「少」のときには、EGR率及び噴射時期をマップを用いて設定する。このマップは予め実験等により求めておく。なお、失火頻度が高いほど、EGR率を低くしてもよく、または、噴射時期を進角させてもよい。また、失火頻度が「少」のときには、モータアシストターボ及び吸気ヒータを停止させる。なお、本実施例においてはモータアシストターボおよび吸気ヒータに電力を供給するECU20が、本発明における供給手段に相当する。
【0064】
このように、失火頻度に応じて失火を抑制することで、短時間且つ低電力で失火を抑制できる。
【0065】
図7は、失火を抑制するときの各装置の作動状態を示したタイムチャートである。横軸は時間であり、始点において内燃機関1が始動される。
【0066】
機関回転数は始動と共に上昇し、アイドル回転数で略一定となる。機関回転数が一定となると、失火検出が行われる。失火検出が行われているときには、失火検出中フラグがONとなる。そして、失火頻度が算出される。なお、図7では、失火検出中フラグがONからOFFとなるときに、失火頻度が「中」と判定されたものとする。
【0067】
図7中の「発電」は、オルタネータ110により発電が行われている時期を示している。ONのときに発電が行われる、OFFのときに発電が停止されている。オルタネータ110による発電は、機関回転数が一定となってから開始される。
【0068】
また、図7中の「EHC」は、電気加熱式触媒へ通電が行われる時期を示している。ONのときに通電され、OFFのときに通電が停止される。電気加熱式触媒への通電は、機関回転数が一定となってから行われる。電気加熱式触媒への通電は、失火の発生時に内燃機関1から排出される未燃燃料を酸化させるためにONとされるので、失火頻度が十分に少なくなるとOFFとされる。
【0069】
「オイルヒータ」は、オイルヒータへ通電が行われる時期を示している。ONのときに通電され、OFFのときに通電が停止される。そして、オイルヒータは、内燃機関1の始動時に通電される。しかし、失火を抑制する必要がある場合には、他の失火を抑制し得る高電圧負荷102bに電力を供給するため、オイルヒータへの通電はOFFとされる。
【0070】
モータアシストターボと、吸気ヒータとは、たとえば吸気ヒータが選択されて通電させる。そして、吸気ヒータへの通電のみでは失火を抑制することができない場合には、さらにモータアシストターボを作動させる。また、失火頻度が「中」のときには、EGR率が比較的低くされる。
【0071】
以上説明したように本実施例によれば、失火の検出を行うときには、オルタネータ110の発電負荷を増加させることで、内燃機関1の負荷を増加させることができるため、失火検出をより正確に行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
1 内燃機関
2 トランスミッション
3 プロペラシャフト
4 デファレンシャルギア
5 ドライブシャフト
6 駆動輪
20 ECU
21 アクセルポジションセンサ
22 シフトポジションセンサ
23 ブレーキセンサ
24 クランクポジションセンサ
25 車速センサ
100 電気系回路
101 発電ユニット
102 高電圧系回路
102a 高電圧バッテリ
102b 高電圧負荷
103 低電圧系回路
103a 低電圧バッテリ
103b 低電圧負荷
110 オルタネータ
120 切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運動エネルギを利用して作動し、発電電圧を変更可能な発電機と、
充電電圧が相違する複数のバッテリと、
前記複数のバッテリのそれぞれに接続される電気負荷と、
前記内燃機関の回転変動に基づいて失火を検出する検出手段と、
前記複数のバッテリのなかで、前記発電機を接続することで発電負荷が最も大きくなる一のバッテリを選択する選択手段と、
前記検出手段により失火を検出するときに、前記選択手段により選択される一のバッテリを発電機に接続すると共に、前記発電機の発電電圧を該一のバッテリの充電電圧に合わせて該発電機を作動させる制御手段と、
を備える失火検出システム。
【請求項2】
前記選択手段は、前記複数のバッテリの夫々の残容量及び前記複数のバッテリの夫々に接続される電気負荷の消費電力に基づいて、発電負荷を算出する請求項1に記載の失火検出システム。
【請求項3】
前記内燃機関の排気通路に設けられ、電力の供給により発熱する担体に触媒を担持させた電気加熱式触媒と、
前記検出手段により失火を検出するときに、前記電気加熱式触媒へ電力を供給する触媒制御手段と、
を備える請求項1または2に記載の失火検出システム。
【請求項4】
前記内燃機関の吸気通路に設けられ、電力の供給により過給を行うターボチャージャと、
前記内燃機関の吸気通路に設けられ、電力の供給により発熱して前記内燃機関の吸気の温度を上昇させる吸気ヒータと、
前記検出手段により失火が検出される頻度に応じて、前記ターボチャージャまたは前記吸気ヒータに電力を供給する供給手段と、
を備える請求項1から3の何れか1項に記載の失火検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−219688(P2012−219688A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85236(P2011−85236)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】