始動制御装置
【課題】燃料噴霧とグロープラグとの位置関係を常に最適に維持する。
【解決手段】圧縮自着火式内燃機関(200)における始動制御装置(100)は、噴射される燃料の動粘度を特定する特定手段と、グロープラグ(219)が使用される期間において、グロープラグに対する燃料の噴霧の位置が所望の位置となるように、特定された動粘度に基づいて、噴霧特性を規定する、噴射手段(370)、高圧ポンプ(350)及びスワール弁(208)のうち少なくとも一つの制御条件を決定する決定手段と、決定された制御条件に従って上記少なくとも一つを制御する制御手段と、グロープラグの駆動電流(Igp)の特性に基づいてグロープラグに対する噴霧の位置を推定する推定手段と、推定された位置と所望の位置との偏差に応じて上記決定された制御条件を補正する補正手段とを具備する。
【解決手段】圧縮自着火式内燃機関(200)における始動制御装置(100)は、噴射される燃料の動粘度を特定する特定手段と、グロープラグ(219)が使用される期間において、グロープラグに対する燃料の噴霧の位置が所望の位置となるように、特定された動粘度に基づいて、噴霧特性を規定する、噴射手段(370)、高圧ポンプ(350)及びスワール弁(208)のうち少なくとも一つの制御条件を決定する決定手段と、決定された制御条件に従って上記少なくとも一つを制御する制御手段と、グロープラグの駆動電流(Igp)の特性に基づいてグロープラグに対する噴霧の位置を推定する推定手段と、推定された位置と所望の位置との偏差に応じて上記決定された制御条件を補正する補正手段とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロープラグを備えた圧縮自着火式内燃機関における始動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、特許文献1にディーゼルエンジンの始動制御装置が開示されている。
【0003】
この装置によれば、グロープラグをスワール流の流れ方向に対して噴霧の上流側に近接配置するにあたって、グロープラグ先端部の球面状の曲面を含む球体の中心を先端部中心とした時に、該先端部中心を通り噴霧の噴射方向に垂直な断面において、先端部中心と噴霧の中心とを結ぶ線と、噴霧の中心を通りスワール流の流れ方向と垂直な線とのなす角が55°〜70°の範囲となるようにグロープラグが配される。その結果、気流を妨げることなく且つグロープラグにより暖められた空気を噴霧に供給することができ、良好な始動性が確保されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−230471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気筒内における燃料の噴霧特性は、燃料の動粘度により変化する。然るに、特許文献1に開示された装置では、動粘度変化に起因する燃料の噴霧特性の変化は考慮されていない。このため、特許文献1に開示された装置では、燃料噴霧とグロープラグとの位置関係を常に最適に維持することはできない。
【0006】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、燃料噴霧とグロープラグとの位置関係を常に最適に維持し、もって冷間始動時における燃料の着火性の低下を抑制し得る始動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る始動制御装置は、気筒内に形成される吸気スワール流の流速を制御可能なスワール弁と、前記気筒内のガスに対し駆動電流に応じた熱エネルギを供与可能なグロープラグと、前記気筒の筒内圧以上の燃圧で燃料を貯留可能な貯留手段と、前記燃圧を制御可能な高圧ポンプと、前記貯留された燃料を噴霧として気筒内へ噴射可能な噴射手段とを備えた圧縮自着火式内燃機関における始動制御装置であって、前記噴射される燃料の動粘度を特定する特定手段と、前記グロープラグが使用される期間において、前記グロープラグに対する前記噴霧の位置が所望の位置となるように、前記特定された動粘度に基づいて、前記噴霧に係る噴霧特性を規定する、前記噴射手段、前記高圧ポンプ及び前記スワール弁のうち少なくとも一つの制御条件を決定する決定手段と、前記決定された制御条件に従って前記少なくとも一つを制御する制御手段と、前記駆動電流の特性に基づいて前記グロープラグに対する噴霧の位置を推定する推定手段と、前記推定された位置と前記所望の位置との偏差に応じて前記決定された制御条件を補正する補正手段とを具備することを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明に係る内燃機関は、例えばディーゼルエンジン等の圧縮自着火式内燃機関であり、特に、スワール流の流速を制御可能なスワール弁と、気筒内ガス(吸気、噴霧或いはそれらの混合ガス)に熱エネルギを供与可能なグロープラグと、燃料タンクからフィードされる低圧燃料を昇圧する高圧ポンプと、高圧ポンプから吐出される高圧燃料を貯留可能な例えばコモンレール等の貯留手段と、気筒内に燃料を噴射可能な直噴インジェクタとを備えた機関である。その限りにおいて、本発明に係る内燃機関において使用される燃料種に関する制限はない。即ち、本発明に係る内燃機関は、燃料として、軽油、ガソリン、アルコール又はこれらの混合燃料等を使用可能である。
【0009】
本発明に係る始動制御装置は、このような内燃機関における始動時の燃料着火性を向上させる、或いは燃料着火性の低下を抑制する装置であって、好適な一形態として、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ等を備えた、単体或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)やコンピュータシステム等の形態を採り得る。また、これらには適宜ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等が付帯し得る。尚、本発明に係る始動制御装置は、内燃機関の他の各部(例えば、動弁系、点火系或いは冷却系等)を制御するコンピュータ装置の一部として構成されていてもよい。
【0010】
グロープラグによる熱エネルギの供与により燃料の着火性を向上させ、もって始動性を向上させるにあたっては、グロープラグに対する燃料噴霧の位置が重要となる。グロープラグに対する噴霧の位置に関する最適値は、無論実験的に、経験的に又は理論的に定められるところであって必ずしも一義的ではないが、いずれにせよ、始動性向上を図る上では、噴霧の位置制御性を十分に確保することが重要である。
【0011】
噴霧の位置制御性を確保するためには、気筒内における噴霧の動的振る舞い又は状態(これらをまとめて適宜「噴霧特性」と表現する)を把握する必要がある。例えば、このような噴霧特性とは、ペネトレーション(噴霧の到達距離或いは噴霧の長さ)、噴霧角(噴孔に対する噴霧のなす角度)或いは噴霧移動角(スワール流により噴霧が移動した角度)等を好適に含み得る。噴霧特性は、一般的に、燃圧や噴射量等、内燃機関の動作制御上ある程度定まり得る噴射手段に関する可制御要素及び固有要素(特に、L/Dと称される、噴孔長を噴孔直径で除した指標値等)等に応じて可変である。また、噴霧特性は、気筒内のガス状態に対しても可変である。ここで定義される気筒内のガス状態とは、噴霧の動的振る舞いに影響を与え得るガス状態であって、好適な一形態としては、例えば気筒内のガス温度(筒内温度)、ガス密度(筒内密度)或いはガス圧力(筒内圧力)等を意味する。
【0012】
然るに、グロープラグに対する噴霧の位置を、単にこれらの要素に応じて可変とするだけでは、噴霧の位置制御精度は必ずしも十分でない。噴霧特性は、燃料の粘性に応じて変化するからである。但し、粘性と言っても、物質固有の粘度である静的粘度(絶対粘度)は、この場合必ずしも有効な指標とならない。例えば、静的粘度が小さくても燃料が相応に軽ければその動的特性は緩慢となり、反対に、静的粘度が大きくても燃料が相応に重ければその動的特性は鋭敏となるからである。即ち、噴射手段から噴射される燃料の噴霧は流体であるから、燃料の噴霧特性を正確に把握するためには、流体の動的粘性の指標が必要となる。
【0013】
本発明に係る始動制御装置は、係る点に鑑み、特定手段により燃料の動粘度が特定される構成となっている。動粘度とは、概念的には流体の動的粘性の度合い(動き難さ)を意味し、静的粘度を、当該流体の同一条件下(例えば、温度及び圧力)における密度で除した値(即ち、静的粘度/密度)として定義される。特定手段により特定される燃料の動粘度とは、このように定義される動粘度又は当該動粘度と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応付けられた物理量、制御量或いは指標値を意味する。
【0014】
動粘度は、例えば気筒内における燃料の蒸発特性(例えば、蒸発温度)に影響し、蒸発特性は、例えば、噴霧特性の一例として述べたペネトレーションに影響する。また、例えば、燃料噴霧の噴霧角も動粘度に対し変化する。即ち、実際に噴射される燃料の動き難さの指標としての燃料の動粘度は、噴霧特性の推定に必要欠くべからざる要素と言える。
【0015】
本発明によれば、この特定された動粘度に基づいて、或いは、特定された動粘度から推定される噴霧特性に基づいて、噴霧特性を規定する、噴射手段、高圧ポンプ及びスワール弁のうち少なくとも一つの制御条件が決定される。より具体的には、この制御条件は、グロープラグに対する噴霧の位置が所望の位置(既に述べたように多義的である)となるように決定される。従って、制御手段が、この決定された制御条件に従って少なくとも一つを制御することにより、理想的には、グロープラグに対する噴霧の位置を、所望の位置に維持することが可能となる。
【0016】
ところで、決定手段により決定される制御条件は、言うなればフィードフォワード(F/F)的手法により決定された制御条件であるから、グロープラグに対する噴霧の位置が真に所望の位置に維持されているか否かは、制御手段により制御だけでは知ることが出来ない。その点に鑑み、本発明に係る始動制御装置では、補正手段が、決定された制御条件を適宜補正する構成となっている。ここで特に、補正手段は、推定手段により推定されるグロープラグに対する噴霧の位置を、決定された制御条件にフィードバック(F/B)して補正する構成となっている。
【0017】
ここで、出願人の長年の研究に基づいた知見によれば、グロープラグの駆動電流、例えば、ピーク値、時間変化率、時間推移等は、グロープラグと噴霧との接触の度合いに応じて変化する。例えば、駆動電流のピーク値は、グロープラグが噴霧に接触している度合いが大きい程大きくなる。従って、所望の位置における駆動電流の特性を予め実験的に、経験的に又は理論的に求めておけば、上述したようにF/F的手法により算出された制御条件により実際にグロープラグと噴霧との位置関係が所望の位置関係に対してどの程度乖離しているのかを、正確に把握することができる。
【0018】
即ち、本発明に係る始動制御装置によれば、グロープラグを稼動させる始動期間、特に冷間始動期間において、グロープラグと噴霧との位置関係を常に最適に維持することが可能となり、もって始動性を向上させることが、或いは始動性の低下を抑制することが可能となるのである。
【0019】
尚、本発明に係る「特定」とは、その実践的プロセスに関係なく、特定対象を制御上利用し得る参照値として直接的に又は間接的に確定させることを意味する概念である。従って、動粘度を特定する特定手段は、燃料の動粘度を検出するセンサ等の検出手段であってもよいし、別途備わるこの種の検出手段から検出結果を取得する手段であってもよいし、予め策定されたアルゴリズムや演算式等に従って算出する手段であってもよい。或いは、参照値に基づいて予め設定された制御マップ等から該当値を選択する手段であってもよい。
【0020】
本発明に係る始動制御装置の一の態様では、前記推定手段は、前記燃料の噴射期間に対応する期間における前記駆動電流の変化の度合いに基づいて前記位置を推定する(請求項2)。
【0021】
この態様によれば、推定手段は、燃料の噴射期間に対応する期間(噴射期間そのものであってもよいが、好適には、予め実験的に、経験的に又は理論的に求められた、駆動電流の変化が顕著に現れ得る期間)における駆動電流の変化の度合いに基づいてグロープラグに対する噴霧の位置を推定する。駆動電流の変化の度合いは、ある程度の時間領域における駆動電流の振る舞いを表すから、単なるピーク値による判定と較べるとより高い精度が確保され得る。
【0022】
本発明に係る始動制御装置の他の態様では、前記噴射手段の制御条件は前記燃料の噴射量であり、前記高圧ポンプの制御条件は前記燃圧であり、前記スワール弁の制御条件は前記流速であり、前記決定手段は、(1)前記噴射量を決定し、(2)該決定された噴射量が制約を満たさない場合に、前記噴射量及び前記燃圧を決定し、(3)該決定された噴射量及び燃圧が制約を満たさない場合に、前記噴射量、燃圧及び流速を決定する(請求項3)。
【0023】
この態様によれば、制御条件に、噴射量、燃圧及び流速の順に優先順位が付与されており、必要な噴射量が噴射手段の物理的又は制御上の制約を満たさない場合には、噴射量に加えて燃圧の制御が許可される。同様に噴射量及び燃圧の要求値のうち少なくとも一方が物理的又は制御上の制約を満たさない場合には、噴射量及び燃圧に加えてスワール流の流速の制御が許可される。このように、内燃機関の燃焼状態に与える影響が限定的である要素から順に制御条件として選択されることにより、効率的な始動制御が可能となる。
【0024】
本発明に係る始動制御装置の他の態様では、前記噴射手段は、前記気筒の内部を下面から見た場合に前記気筒の内壁に沿って周状に配列してなる複数の噴孔を備え、前記決定手段は、(1)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴霧の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした下流側において最も近接する下流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定すると共に、前記下流側噴孔に対応する噴霧について決定された制御条件が制約を満たさない場合には、(2)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴霧の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした上流側において最も近接する上流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定する(請求項4)。
【0025】
下面視された状態において噴孔の中心軸線(スワール流が存在しない場合の噴霧の中心軸線)がグロープラグに対しスワール方向上流側で最も近接する上流側噴孔に対応する噴霧は、定性的には、スワール流に乗ってグロープラグに近付いてくる噴霧である。これに対し、同じく噴孔の中心軸線がグロープラグに対しスワール方向下流側で最も近接する下流側噴孔に対応する噴霧は、定性的には、スワール流に乗ってグロープラグから離れてゆく噴霧である。従って、グロープラグの有効利用を図る観点からは、当該下流側噴孔に対応する噴霧とグロープラブとの位置関係を制御した方がよい。この態様によれば、このような観点から制御プロセスの順序が規定されており、グロープラグを効率的に利用して、始動時間の可及的短縮化を図ることが可能となる。
【0026】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のエンジンシステムにおけるエンジンの概略断面図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおける燃料噴射システムの構成を概念的に示す概略構成図である。
【図4】図3の燃料噴射システムにおける高圧ポンプの概略構成図である。
【図5】図3の燃料噴射システムにおける直噴インジェクタの下面視概略断面図である。
【図6】図1のエンジンシステムにおいてECUにより実行される燃料噴射制御処理のフローチャートである。
【図7】噴霧特性の推定に使用される推定用マップの概念図である。
【図8】図6の燃料噴射制御処理における制御条件算出処理のフローチャートである。
【図9】図6の燃料噴射制御処理における上流側噴霧の制御条件算出処理のフローチャートである。
【図10】図8の制御条件算出処理における制御条件の概念図である。
【図11】図9の上流側噴霧の制御条件算出処理における制御条件の概念である。
【図12】噴霧位置に対するグロープラグ駆動電流の時間特性を例示する図である。
【図13】図12の時間特性に係り、噴霧位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0029】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の一実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0030】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100、エンジン200、燃料噴射システム300及びEGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)装置400を備える。
【0031】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、エンジンシステム10の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「始動制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する燃料噴射制御処理を実行可能に構成されている。
【0032】
尚、ECU100は、本発明に係る「特定手段」、「決定手段」、「制御手段」、「推定手段」及び「補正手段」の夫々一例として機能し得る一体の電子制御ユニットであるが、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、これら各手段は、例えば複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0033】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるディーゼルエンジンである。ここで、図2を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、エンジン200の概略断面図である。
【0034】
エンジン200は、シリンダブロック201に収容された気筒202内において、後述する直噴インジェクタ370から噴射された軽油(本発明に係る「燃料」の一例)と吸入空気との混合気を圧縮自着火させると共に、その燃焼に伴う爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換可能に構成された圧縮自着火型内燃機関である。
【0035】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたエンジン200のクランク角は、一定又は不定の周期でECU100に参照される構成となっている。
【0036】
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に気筒202が複数配列した直列多気筒ディーゼルエンジンであるが、個々の気筒202の構成は相互いに等しいため、図2においては一の気筒202についてのみ説明を行うこととする。また、このような構成は、本発明に係る「内燃機関」が採り得る一例に過ぎない。
【0037】
エンジン200において、外部から吸入された空気は、吸気管207に導かれる。吸気管207における、吸気ポート209の上流側には、吸気ポート209に導かれる新気の量(新気量)を調節するSCV(Swirl Control Valve)208が配設されている。このSCV208は、ECU100と電気的に接続された不図示のアクチュエータによってその駆動状態が制御される構成となっている。
【0038】
ここで、吸気ポート209は、SCV208を通過した新気と後述するEGRガスとの混合ガス(以下、適宜「吸気」と表現する)が気筒202内に吸入された時に当該吸気の旋回流(以下、適宜「スワール流」と表現する)が形成されるように、紙面奥行き方向に湾曲している。SCV208は、その弁開度(SCV開度)に応じて、このスワール流の流速Vswを変化させることが出来る。尚、このスワール流は、概ね紙面左右方向に沿った断面に沿って形成される。別言すれば、このスワール流は、略円筒状の気筒202の湾曲した内壁に沿って形成される。
【0039】
気筒202と吸気ポート209とは、吸気バルブ210の開閉によってその連通状態が制御されており、上述した吸気は、この吸気バルブ210の開弁時に気筒202内に吸入される。尚、この吸気バルブ210は、クランクシャフト205に不図示のスプロケット等を介して連結された吸気カムシャフトICS(不図示)に取り付けられた、断面視楕円形状を有する吸気カム211のカムプロフィールに従って開閉駆動される構成となっている。
【0040】
気筒202内には、直噴インジェクタ370の燃料噴射弁が露出しており、直噴インジェクタ370から噴射された燃料噴霧は、この気筒202内において、吸気ポート209を介して吸入された吸気と混合され上述した混合気となる。気筒202で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ212の開弁時に排気ポート213を介して排気管214に導かれる。
【0041】
排気管214には、エンジン200の排気圧Pexを検出可能に構成された排気圧センサ215が設置されている。また、気筒202を収容するシリンダブロック201を取り囲むように張り巡らされたウォータジャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温Twを検出するための冷却水温センサ216が配設されている。更に、ピストン203がTDC(Top Death Center:上死点)に位置する状態でピストン203の上面部分と気筒202の内壁部分とにより規定される空間である燃焼室には、気筒202内部の温度である筒内温度Tcyを検出可能な筒内温センサ217のセンサ端子が露出している。また、この燃焼室には、気筒202内部の圧力である筒内圧力Pcyを検出可能な筒内圧センサ218が配設されている。これら各センサは、ECU100と電気的に接続されており、夫々検出された排気圧Pex、冷却水温Tw、筒内温度Tcy及び筒内圧力Pcyは、ECU100により、夫々一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0042】
一方、エンジン200は、グロープラグ219を備える。グロープラグ219は、不図示の駆動系を介してECU100と電気的に接続され、ECU100が当該駆動系を制御することにより当該駆動系から供給される駆動電流Igpに応じて赤熱するヒートコイルと、当該ヒートコイルが埋め込まれたセラミック体とを備え、このヒートコイルが燃焼室に露出する構成となっている。ヒートコイルは、その通電時に数百℃程度の高温状態となり、燃焼室内で筒内ガスに熱エネルギを直接又は間接的に供与することによって、筒内ガスを昇温可能に構成されている。尚、駆動電流Igpは、ヒートコイルを収容するセラミック体の熱負荷に応じて可変となる。即ち、ヒートコイルの温度と較べて冷たい燃料噴霧との接触の度合いが大きい程、奪われた熱を補うべく駆動電流Igpは上昇側に制御される。この駆動電流Igpの特性は、後述する燃料噴射制御処理において利用される。
【0043】
EGR装置400は、EGR管410、EGRクーラ420及びEGRバルブ430を備える。
【0044】
EGR管410は、一方の端部が排気ポート213に連結され、他方の端部が吸気ポート209に連結される金属製の管状部材である。排気ポート213と吸気ポート209とは、EGRバルブ430の開弁時に、このEGR管410を介して適宜連通する構成となっている。
【0045】
EGRクーラ420は、排気直後の比較的高温のEGRガスを冷却水との間の熱交換により冷却する水冷型冷却装置である。
【0046】
EGRバルブ430は、EGR管410を介した排気ポート213と吸気ポート209との連通面積を連続的に変化させることが可能な電磁開閉弁装置である。EGRバルブ430を駆動する不図示の駆動装置(例えば、ソレノイド)は、ECU100と電気的に接続されており、EGRバルブ430の開度であるEGR開度Aegrは、ECU100により制御可能となっている。尚、「開度」とは、開弁の度合いを意味しており、EGR開度Aegrは、Aegr=0(%)が全閉(又は全開)に、Aegr=100(%)が全開(又は全閉)に、夫々対応している。いずれにせよ、EGRバルブ430を挟んだ上流側(排気ポート213側)と下流側(吸気ポート209側)との連通断面積Segrは、このEGR弁開度Aegrと一対一に対応している。
【0047】
尚、EGR装置400においては、排気ポート213に排出された排気の一部が、排気圧Pexと吸気ポート209の圧力である吸気圧Pinとの圧力差とEGR開度Aegrとに応じて、EGRガスとして吸気ポート209に循環される。
【0048】
次に、図3を参照し、燃料噴射システム300の構成について説明する。ここに、図3は、燃料噴射システム300を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、既出の各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0049】
図3において、燃料噴射システム300は、燃料タンク310、フィード管320、フィードポンプ330、フィード圧センサ340、高圧ポンプ350、コモンレール360、直噴インジェクタ370、レール圧センサ380及び動粘度センサ390を備える。
【0050】
燃料タンク310は、燃料(本実施形態では軽油)を貯留するタンクである。
【0051】
フィード管320は、一端部が燃料タンク310に連結され、他端部が高圧ポンプ350に連結された金属製の管状部材である。
【0052】
フィードポンプ330は、燃料タンク310から燃料を汲み上げ、フィード管320に所望の燃料吐出速度(時間当たりの吐出量)で燃料を供給可能に構成された低圧電動ポンプ装置である。フィードポンプ330の燃料吐出速度は、ECU100と電気的に接続された不図示の駆動装置により制御される。尚、フィードポンプ330は、この燃料吐出速度の制御を介して、フィード管320内の燃圧であるフィード圧Pfdを可変に制御することが出来る。
【0053】
フィード圧センサ340は、上述した燃料のフィード圧Pfdを検出可能に構成されたセンサである。フィード圧センサ340は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたフィード圧Pfdは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0054】
高圧ポンプ350は、フィードポンプ330を介して供給される燃料を昇圧するための機械式ポンプ装置である。
【0055】
ここで、図4を参照し、高圧ポンプ350の構成について説明する。ここに、図4は、高圧ポンプ350の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、既出の各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0056】
図4において、高圧ポンプ350は、電磁調量弁351、吸入弁352、シリンダ353、プランジャ354、加圧室355、カム356、吐出弁357及び高圧管358を備える。
【0057】
電磁調量弁351は、フィード管320に設けられ、フィードポンプ320により送出された、フィード圧Pfdを有する燃料(低圧燃料)の流量を調節する電磁開閉弁である。フィードポンプ320により燃料タンク310から汲み上げられた低圧燃料は、この電磁調量弁351によりその流量が調節され、フィード管320の一端部が接続された加圧室355へ供給される。電磁調量弁351は、ECU100と電気的に接続されており、その開弁期間を規定する駆動デューティが、ECU100により制御される構成となっている。
【0058】
プランジャ354は、シリンダ353内に設置された加圧部材であり、下端部に接続されたロッド状部材が、エンジン200の吸気カムシャフトICSに固定され且つ吸気カムシャフトICSの回転に連動して回転する、楕円形状を有するカム356のカムプロフィールに従って図中上下方向に往復運動するのに伴い、その上端部が図示TDC(Top Death Center:上死点)と図示BDC(Bottom Death Center:下死点)との間で往復運動する構成となっている。
【0059】
加圧室355は、シリンダ353の内壁部分と、プランジャ354の上端部分とによって規定される空間であり、プランジャ354の前述した往復運動に伴って、その容積が変化する空間である。
【0060】
電磁調量弁351により調量された燃料は、プランジャ354がシリンダ353内をTDCからBDCへ向かって移動する際(即ち、減圧期)に、吸入弁352を押し開いて加圧室に吸入される。その後、プランジャ354がシリンダ353内をBDCからTDCへ向かって移動する際(即ち、加圧期)に、プランジャ354によって加圧室355内部の燃料が圧縮(即ち、加圧)される。加圧された燃料は、吐出弁357を押し開いて高圧管358に供給され、高圧管358に接続されたコモンレール360へと圧送される構成となっている。
【0061】
尚、ここに例示する高圧ポンプ350は、気筒202内に燃料を直接噴射する筒内噴射手段における高圧ポンプ装置の一例であり、無論公知の他の態様を採り得る。
【0062】
図3に戻り、コモンレール360は、高圧ポンプ350から供給された高圧燃料を蓄積し複数の直噴インジェクタ370に安定供給するための燃料バッファである。コモンレール360に貯留された高圧燃料の圧力であるレール圧Pcr(Pcr>Pfd)は、レール圧センサ380により検出される。レール圧センサ380は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたレール圧Pcrは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。尚、ECU100は、電磁調量弁351の駆動制御により高圧ポンプ350の駆動負荷を制御することにより、レール圧Pcrを所望の目標圧に維持することが出来る。尚、レール圧Pcrは、本発明に係る「燃圧」の一例である。
【0063】
動粘度センサ390は、コモンレール360に貯留された高圧燃料の動粘度Vkを検出可能に構成されたセンサである。動粘度センサ390は、ECU100と電気的に接続されており、検出された高圧燃料の動粘度Vkは、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。尚、動粘度センサ390は、必ずしもコモンレール360に配設されている必要はなく、コモンレール360と高圧ポンプ350とを繋ぐ高圧燃料配管や、コモンレール360と直噴インジェクタ370とを繋ぐ高圧燃料配管等に配設されていてもよい。
【0064】
直噴インジェクタ370は、コモンレール360に連結された、本発明に係る「噴射手段」の一例たる燃料噴射装置である。
【0065】
直噴インジェクタ370は気筒202毎に設けられており、各直噴インジェクタ370の燃料噴射弁371は、先述したように各気筒202の内部に露出している。直噴インジェクタ370は、燃料噴射弁の開弁期間及びレール圧Pcrにより定まる量の燃料を、噴霧として気筒202の内部に噴射可能に構成されている。尚、直噴インジェクタ370は、所謂多孔式の噴射装置であり、燃料噴射弁における燃料噴射用の噴孔は、周状に形成された気筒202の内壁(側壁)に沿って周状に複数形成されている。
【0066】
直噴インジェクタ370の構成について補足すると、直噴インジェクタ370は、ECU100から供給される指令に基づいて作動する電磁弁と、この電磁弁への通電時に燃料を噴射するノズル(いずれも不図示)とを備える。当該電磁弁は、コモンレール360に蓄積された高圧燃料が印加される圧力室と、当該圧力室に接続された低圧側の低圧通路との間の連通状態を制御可能に構成されており、通電時に当該圧力室と低圧通路とを連通させると共に、通電停止時に当該圧力室と低圧通路とを相互に遮断する構成となっている。
【0067】
一方、ノズルは、噴孔を開閉するニードルを内蔵し、圧力室の燃料圧力がニードルを閉弁方向(噴孔を閉じる方向)に付勢している。従って、電磁弁への通電により圧力室と低圧通路とが連通し、圧力室の燃料圧力が低下すると、ニードルがノズル内を上昇して開弁する(噴孔を開く)ことにより、コモンレール360より供給された高圧燃料が噴孔より噴射される。また、電磁弁への通電停止により加圧室と低圧通路とが相互に遮断されて圧力室の燃料圧力が上昇すると、ニードルがノズル内を下降して閉弁することにより、噴射が終了する構成となっている。
【0068】
ここで、図5を参照し、燃料噴射弁371について説明する。ここに、図5は、気筒202の内部において下面から(即ち、燃焼室の方向へ)見た、燃料噴射弁371の下面視概略断面図である。尚、同図において、既出の各図と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0069】
図5において、燃料噴射弁371は、下面視円状に構成されており、外周部に複数の噴孔371i(i=1,2,・・・,8)が形成されている。尚、図では噴孔3711及び噴孔3712のみ符号が記載されている。吸気ポート209の形状及びSCV208の作用により気筒内に形成されるスワール流の方向及びグロープラグ219の位置は図示の通りであり、噴孔3711は、鎖線で示す噴孔中心軸線がスワール方向下流側においてグロープラグに最も近接する噴孔であり、本発明に係る「下流側噴孔」の一例である。本実施形態では、噴孔3711の噴孔中心軸線と、燃料噴射弁371の中心とグロープラグ219とを結んだ線とのなす角が、グロープラグ取り付け角θgと表現される。
【0070】
尚、本実施形態では、直噴インジェクタ370の各噴孔から噴射される燃料の噴射圧Pinjとレール圧Pcrとは同義に扱われる。
【0071】
<実施形態の動作>
次に、図6を参照し、本実施形態の動作として、ECU100により実行される燃料噴射制御処理について説明する。ここに、図6は、燃料噴射制御処理のフローチャートである。
【0072】
図6において、ECU100は、気筒202の筒内状態を表す各種指標値を読み込む(ステップS101)。この指標値は、例えば、冷却水温Tw或いは潤滑油温(本実施形態では、冷却水温により代替される)等である。尚、筒内状態の指標値としては、筒内温度Tcyが用いられてもよい。
【0073】
筒内状態が読み込まれると、ECU100は、エンジン200が冷間始動状態にあるか否かを判別する(ステップS102)。冷間始動状態にない場合(ステップS102:NO)、処理はステップS101に戻される。エンジン200が冷間始動状態にある場合(ステップS102:YES)、ECU100はグロープラグ219をオン状態(即ち、稼動状態)に制御する(ステップS103)。
【0074】
グロープラグ219をオン状態に制御すると、ECU100は、動粘度センサ390のセンサ出力に基づいて、コモンレール360に貯留された高圧燃料の動粘度Vkを判定する(ステップS104)。ステップS104は、本発明に係る「特定手段」の動作の一例である。
【0075】
尚、ここでは、動粘度センサ390により直接高圧燃料の動粘度が検出される構成としたが、無論、本発明に係る特定手段の採り得る実践的態様はこれに限定されるものではない。例えば、ECU100は、燃料の静的粘度Vsとコモンレール360における燃料密度Dfとに基づいて、下記(1)式に従って動粘度を算出してもよい。
【0076】
Vk=Vs/Df・・・(1)
ここで、静的粘度Vsは、経時的な劣化等の不測要因を除けば燃料種に固有の値であり、使用される燃料毎に予め固定値として記憶しておくことができる。一方、燃料密度Dfは、単位体積当たりの質量であるから、高圧ポンプ350の燃料吐出量又は燃料吐出速度(即ち、供給量)、各直噴インジェクタ370の燃料噴射量(即ち、排出量)及びコモンレール360の体積から算出することが出来る。或いは、コモンレール360についてレール圧Pcrと質量との関係を予め実験的に、経験的に又は理論的に求めておけば、レール圧センサ380により検出されるレール圧Pcrに基づいて燃料密度Dfを求めることも可能である。
【0077】
或いは、動粘度Vkは、直噴インジェクタ370の先述したニードルのリフト量を検出する手段が設置されている場合には、当該ニードルリフト量から求めることも出来る。ニードルリフト量の大小は、動粘度Vkの高低に夫々対応する。従って、ニードルリフト量と動粘度Vkとの対応関係を規定するマップ等を予め用意しておけば、当該マップから該当値を選択することにより動粘度Vkを求めることが出来る。また、動粘度Vkは、コモンレール360におけるレール圧Pcrの変動の度合いにも影響を与える。即ち、検出されるレール圧Pcrの時間特性を一種の変動指標値とすると、当該時間特性は動粘度Vkに応じて変化する。従って、レール圧Pcrの変動の度合いから動粘度Vkを求めることも出来る。
【0078】
動粘度Vkが判定されると、更にエンジン200の運転条件が読み込まれる(ステップS105)。ステップS105で読み込まれる運転条件とは、目標燃料噴射量Qmtgの決定に必要な条件であり、例えば、機関回転速度NE及び不図示のアクセルペダルの操作量(アクセル開度Ta)等を意味する。
【0079】
ECU100は、ステップS104で判定された動粘度Vkを含む各種要素に基づいて、燃料の噴霧特性を推定する(ステップS106)。燃料の噴霧特性は多義的であるが、本実施形態では、噴霧角θsp、ペネトレーションPN及び噴霧移動角θswが推定される。これら噴霧特性を推定するにあたり、ECU100は、各噴霧特性について予め作成された推定用マップを参照する。即ち、ECU100は、噴霧角推定用マップ、ペネトレーション推定用マップ及び噴霧移動角推定用マップを参照する。
【0080】
ここで、図7を参照し、これら噴霧特性の推定に利用される推定用マップについて説明する。ここに、図7は、推定用マップの概念図である。
【0081】
図7において、図7(a)、図7(b)及び図7(c)は、夫々噴霧角推定用マップ、ペネトレーション推定用マップ及び噴霧移動角推定用マップの概念を示している。
【0082】
図7(a)において、図中左側の図は、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、噴射量Qに対する噴霧角θspの変化特性を示す図である。動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka1(実線参照)、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb1(破線参照)として表される。また、図中右側の図は、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、レール圧Pcrに対する噴霧角θspの変化特性を示す図である。動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka2(実線参照)、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb2(破線参照)として表される。図示するように、噴霧角θspは、噴射量Q及びレール圧Pcrが一定であっても、動粘度Vkに応じて異なる。従って、動粘度Vkを考慮しない噴霧特性に基づいて噴霧の位置を制御しようとしても、噴霧を最適位置に維持することができない。
【0083】
噴霧角推定用マップには、図7(a)に例示される関係が数値化されて格納されている。この際、動粘度Vkは、無論図示する二通りではなく、より多段階に規定されていることは言うまでもない。
【0084】
図7(b)において、図中左側の図は、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、ペネトレーションPNの時間変化特性を示す図である。動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka3及びL_Vka4(実線参照)であり、前者が噴射量Qa、後者が噴射量Qb(Qb<Qa)に対応している。また、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb3及びL_Vkb4(破線参照)であり、同じく前者が噴射量Qa、後者が噴射量Qb(Qb<Qa)に対応している。一方、図中右側の図も、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、ペネトレーションPNの時間変化特性を示す図である。但し、動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka5及びL_Vka6(実線参照)であり、前者がレール圧Pcra、後者がレール圧Pcrb(Pcrb<Pcra)に対応している。また、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb5及びL_Vkb6(破線参照)であり、同じく前者がレール圧Pcra、後者がレール圧Pcrb(Pcrb<Pcra)に対応している。図示するように、ペネトレーションPNは、噴射量Q及びレール圧Pcrが一定であっても、動粘度Vkに応じて異なる。従って、動粘度Vkを考慮しない噴霧特性に基づいて噴霧の位置を制御しようとしても、噴霧を最適位置に維持することができない。
【0085】
ペネトレーション推定用マップには、図7(b)に例示される関係が数値化されて格納されている。この際、動粘度Vkは、無論図示する二通りではなく、より多段階に規定されていることは言うまでもない。
【0086】
一方、図7(c)において、図中左側の図は、スワール流の流速VswがVswaである場合における、噴霧移動角θswの時間変化特性を示す図である。流速Vswaに対応する変化特性は図示L_swa(実線参照)として表される。また、図中右側の図は、スワール流の流速VswがVswb(Vswb>Vswa)である場合における、噴霧移動角θswの時間変化特性を示す図である。流速Vswbに対応する変化特性は図示L_swb(実線参照)として表される。図示するように、噴霧移動角θswは、スワール流の流速Vswに応じて変化する。従って、流速Vswを考慮しない噴霧特性に基づいて噴霧の位置を制御しようとしても、噴霧を最適位置に維持することができない。
【0087】
噴霧移動角推定用マップには、図7(c)に例示される関係が数値化されて格納されている。この際、流速Vswは、無論図示する二通りではなく、より多段階に規定されていることは言うまでもない。
【0088】
このように、噴霧角θsp及びペネトレーションPNは、夫々動粘度Vk、噴射量Q及びレール圧Pcrの関数であり、噴霧移動角θswはスワール流の流速Vswの関数である。本実施形態では、これら噴霧特性に基づいて、グロープラグに対する噴霧の位置を最適化することができる。
【0089】
図6に戻り、動粘度Vkを始めとする各パラメータに応じて変化する燃料の噴霧特性が推定されると、ECU100は、制御条件算出処理を実行する(ステップS200)。制御条件算出処理は、グロープラグ219に対する噴霧の位置を着火性向上の観点から設定された最適位置に維持するための制御条件を算出するサブルーチンである。
【0090】
ここで、図8を参照し、制御条件算出処理の詳細について説明する。ここに、図8は、制御条件算出処理のフローチャートである。
【0091】
図8において、ECU100は先ず、下流側噴霧の制御条件の算出を開始する(ステップS201)。下流側噴霧とは、図5を参照すれば、グロープラグ219に対して噴射中心線(鎖線)がスワール方向下流側に位置する噴孔、即ち噴孔3711からの噴霧を意味する。尚、この場合、噴孔3711は、本発明に係る「気筒の内部を下面から見た場合の噴孔の中心軸線が、グロープラグに対しスワール流の方向を基準とした下流側において最も近接する下流側噴孔」の一例である。
【0092】
下流側噴霧の制御条件を算出するプロセスは多義的であるが、以下に一例を記載する。下流側噴霧の制御条件は、下記(2)式に基づいて決定される。
【0093】
a=sin−1[{d*sin(θg+θsw)}/{b+r+d*cos(θg+θsw)*tanθsp}]・・・(2)
上記(2)式におけるパラメータ値は以下の通りである。
【0094】
a:グロープラグ・噴霧間角度
b:グロープラグ・噴霧間距離
d:グロープラグの中心軸と噴孔出口との距離
r:グロープラグの先端部半径
θsp:噴霧角
θsw:噴霧移動角
θg:グロープラグ取り付け角
先端部半径rはグロープラグ219の仕様により定まる固定値であり、距離dはエンジン200の仕様により定まる固定値である。グロープラグ取り付け角θgもまた、グロープラグ219が設置された状態では固定値である。
【0095】
一方、距離bは、グロープラグ219に対する噴霧の位置を規定する要素の一つであり、予め所望の値を設定することができる。本実施形態では、b≒0(b>0)、即ち、噴霧の目標位置は、グロープラグ219と殆ど隣接した位置となる。
【0096】
上記の過程を辿ると、結果的に、噴霧の位置を規定する他の一要素であるグロープラグ・噴霧間角度aは、噴霧角θsp及び噴霧移動角θswの関数となる。ここで、グロープラグ・噴霧間角度aの最適範囲は、予め実験的に、経験的に又は理論的に定めることができ(例えば55°〜70°)、最終的に、下流側噴霧の制御条件として噴霧角θsp及び噴霧移動角θswの関係を満たす目標噴射量Qtg、目標レール圧Pcrtg及び目標流速Vswtgを決定することができる。
【0097】
尚、上記例では、噴霧角θsp及び噴霧移動角θswを満たすように制御条件が決定されており、図7に例示されたペネトレーションPNは参照されない構成となっている。然るに、ペネトレーションPNが噴霧状態の一要素であることは変わりなく、例えば、ペネトレーションPNと噴霧角θspとを達成要素として制御条件が決定されてもよいし、ペネトレーションPNと噴霧移動角θswとを達成要素として制御条件が決定されても問題はない。
【0098】
上記(2)式に基づいた下流側噴霧の制御条件の算出は、先ず、噴射量Qのみを操作パラメータとして実行される。グロープラグ219に対する下流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q1が算出されると、ECU100は、噴射量Q1が制約の範囲内であるか否かを判別する(ステップS202)。
【0099】
この場合の制約とは、噴射量の物理的制約及び制御上の制約を意味しており、直噴インジェクタ370を多段階噴射させることにより実現可能な値であるか否かが主たる制約要件となる。エンジン200に要求される噴射量は、このような着火性向上の観点とは別に定まっており、要求噴射量を無視して制御条件を算出することに合理性はない。従って、制御条件としての噴射量が本来的な要求噴射量よりも小さい場合には、複数の噴孔を使用した多段階噴射により全体的な噴射量を確保する必要がある。逆に、制御条件としての噴射量が本来的な要求噴射量よりも大きい場合には、無条件に制約違反となる。
【0100】
噴射量Q1が制約を満たす場合(ステップS202:YES)、ECU100は、下流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q1に設定して(ステップS203)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q1が制約を満たさない場合(ステップS202:NO)、処理はステップS204に進められる。
【0101】
ステップS204では、噴射量Qとレール圧Pcrとを操作パラメータとして下流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する下流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q2及びレール圧Pcr2が算出された後、ECU100は、噴射量Q2及びレール圧Pcr2が制約の範囲内であるか否かを判別する。尚、レール圧Pcrの制約も、物理的制約と制御上の制約とを含んで規定される。
【0102】
噴射量Q2及びレール圧Pcr2が共に制約を満たす場合(ステップS204:YES)、ECU100は、下流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q2に設定し、また目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr2に設定して(ステップS205)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q2又はレール圧Pcr2或いはその両方が制約を満たさない場合(ステップS204:NO)、処理はステップS206に進められる。
【0103】
ステップS206では、噴射量Q、レール圧Pcr及びスワール流の流速Vswを操作パラメータとして下流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する下流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3が算出された後、ECU100は、噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3が制約の範囲内であるか否かを判別する。尚、流速Vswの制約も、物理的制約と制御上の制約とを含んで規定される。
【0104】
噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3が共に制約を満たす場合(ステップS206:YES)、ECU100は、下流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q3に設定し、目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr3に設定し、更にスワール流の目標流速Vswを流速Vsw3に設定して(ステップS207)、制御条件算出処理を終了する。
【0105】
一方、噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3のうち少なくとも一つが制約を満たさない場合(ステップS206:NO)、処理はステップS300に進められ、上流側噴霧の制御条件算出処理が実行される。上流側噴霧の制御条件算出処理は、グロープラグ219に対する噴霧の位置を着火性向上の観点から設定された最適位置に維持するための、上流側噴霧の制御条件を算出するサブルーチンである。上流側噴霧とは、図5を参照すれば、グロープラグ219に対して噴射中心線(鎖線)がスワール方向上流側に位置する噴孔、即ち噴孔3712からの噴霧を意味する。尚、この場合、噴孔3712は、本発明に係る「気筒の内部を下面から見た場合の噴孔の中心軸線が、グロープラグに対しスワール流の方向を基準とした上流側において最も近接する上流側噴孔」の一例である。
【0106】
ここで、図9を参照し、上流側噴霧の制御条件算出処理の詳細について説明する。ここに、図9は、上流側噴霧の制御条件算出処理のフローチャートである。尚、図9において、図8と重複する箇所については、その説明を適宜省略することとする。
【0107】
図9において、ECU100は先ず、上流側噴霧の制御条件の算出を開始する(ステップS301)。
【0108】
上流側噴霧の制御条件を算出するプロセスもまた多義的であるが、ここでは上記下流側噴霧の制御条件を算出するプロセスと等しいものとする。
【0109】
上流側噴霧の制御条件の算出は、先ず、噴射量Qのみを操作パラメータとして実行される。グロープラグ219に対する上流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q4が算出されると、ECU100は、噴射量Q4が制約の範囲内であるか否かを判別する(ステップS302)。
【0110】
噴射量Q4が制約を満たす場合(ステップS302:YES)、ECU100は、上流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q4に設定して(ステップS303)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q4が制約を満たさない場合(ステップS302:NO)、処理はステップS304に進められる。
【0111】
ステップS304では、噴射量Qとレール圧Pcrとを操作パラメータとして上流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する上流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q5及びレール圧Pcr5が算出された後、ECU100は、噴射量Q5及びレール圧Pcr5が制約の範囲内であるか否かを判別する。
【0112】
噴射量Q5及びレール圧Pcr5が共に制約を満たす場合(ステップS304:YES)、ECU100は、上流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q5に設定し、また目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr5に設定して(ステップS305)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q5又はレール圧Pcr5或いはその両方が制約を満たさない場合(ステップS304:NO)、処理はステップS306に進められる。
【0113】
ステップS306では、噴射量Q、レール圧Pcr及びスワール流の流速Vswを操作パラメータとして上流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する上流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6が算出された後、ECU100は、噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6が制約の範囲内であるか否かを判別する。
【0114】
噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6が共に制約を満たす場合(ステップS306:YES)、ECU100は、上流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q6に設定し、目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr6に設定し、更にスワール流の目標流速Vswを流速Vsw6に設定して(ステップS307)、制御条件算出処理を終了する。
【0115】
一方、噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6のうち少なくとも一つが制約を満たさない場合(ステップS306:NO)、処理はステップS308に進められる。ステップS308では、下流側噴霧の制御範囲の境界値(Qlim、Pcrlim、Vsmlim)が制御範囲として決定される。ステップS308が実行されると、上流側噴霧の制御条件算出処理は終了する。
【0116】
図8又は図9に例示した処理において噴霧の制御条件が決定されると、ECU100は、制御条件に対応する装置、即ち、噴射量Qであれば直噴インジェクタ370を、レール圧Pcrであれば高圧ポンプ350を、また流速VswであればSCV208を夫々制御する。制御条件に対応する制御量は、予めマップ化されてROMに格納されているものとする。
【0117】
ここで、図10及び図11を参照し、このような噴霧の位置制御を視覚的に説明する。ここに、図10は、下流側噴霧に関する位置制御の概念図であり、図11は、上流側噴霧に関する位置制御の概念図である。尚、これら各図において、既出の各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0118】
図10において、図10(a)は、図5と同様、直噴インジェクタ370の燃料噴射弁371とグロープラグ219との平面視位置関係が示される。
【0119】
図10(b)は、実際の下流側噴霧FSrが、グロープラグ219に対して離れている(即ち、上述した距離bが大き過ぎる)場合の位置制御の概念が示される。即ち、このような場合、噴霧角θspが拡大され、下流側噴霧の目標位置が、図示目標下流側噴霧Fstg(破線参照)の位置に設定される。
【0120】
図10(c)は、実際の下流側噴霧FSrが、グロープラグ219に重なり過ぎている(即ち、上述した距離bが負値である)場合の位置制御の概念が示される。即ち、このような場合、流速Vswの増速により噴霧移動角θswが拡大され、下流側噴霧の目標位置が、図示目標下流側噴霧Fstg(破線参照)の位置に設定される。
【0121】
一方、図11において、図11(a)は、上流側噴孔たる噴孔3712からの噴霧(上流側噴霧)の位置制御において、燃料噴射弁371とグロープラグ219との位置関係を示した図である。
【0122】
図11(b)には、このような位置関係において、実際の上流側噴霧FSr(実線)が、グロープラグ219に対して離れている(即ち、上述した距離bが大き過ぎる)場合の位置制御の概念が示される。即ち、このような場合、流速Vswの増速により噴霧移動角θswが拡大され、上流側噴霧の目標位置が、図示目標下流側噴霧Fstg(破線参照)の位置に設定される。
【0123】
図6に戻り、制御条件算出処理(ステップS200)が終了すると、ECU100は、実際に気筒202内に目標噴霧が形成されているか否かを判定する(ステップS107)。制御条件算出処理における噴霧の位置制御は、一種のF/F制御であり、実際の噴霧の位置は反映されていない。従って、理論上は正しい位置制御が行われていたとしても、必ずしも実際の噴霧がグロープラグ219に対し望ましい位置を維持している保証はない。
【0124】
そこで、本実施形態では、グロープラグ219の駆動電流Igpに基づいて、グロープラグ219に対し噴霧(下流側噴霧又は上流側噴霧)が如何なる位置関係にあるかが判定される。
【0125】
ここで、図12を参照し、駆動電流Igpと噴霧の位置との関係について説明する。ここに、図12は、駆動電流Igpの時間特性を例示する図である。
【0126】
図12において、縦軸には駆動電流Igpが、また横軸には時間が示される。ここで、駆動電流Igpは、グロープラグ219と噴霧との位置関係に応じて、図示実線、破線及び細い破線の特性のように変化する。実線が噴霧位置Aにおける駆動電流Igpの時間特性であり、破線が噴霧位置Bにおける駆動電流Igpの時間特性であり、細い破線が噴霧位置Cにおける駆動電流Igpの時間特性である。
【0127】
ここで、図13を参照し、各噴霧位置について説明する。ここに、図13は、図12に例示された各噴霧位置を説明するための燃料噴射弁371の模式的な下面視平面図である。尚、同図において、図5と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0128】
図13において、噴霧位置A、B及びCは、夫々図13(a)、図13(b)及び図13(c)に対応している。即ち、噴霧位置Aとは、噴霧FSがグロープラグ219に重なる位置であり、噴霧位置Bは噴霧FSがグロープラグ219と隣接する(即ち、本実施形態では、目標とされる)位置であり、噴霧位置Cは噴霧FSがグロープラグ219と全く重ならない位置である。
【0129】
図12に戻り、図13を参照すれば、グロープラグ219の駆動電流Igpは、グロープラグ219と噴霧との重複範囲が大きくなる程上昇することが分かる。従って、駆動電流Igpを継続的に監視し、その時間変化率(時間勾配)を一定周期で算出することにより、実際の噴霧がグロープラグ219に対して如何なる位置に存在するのかを明確に把握することができる。ECU100は、実践的には、噴霧位置Bに対応する破線の時間特性における駆動電流Igpの時間変化率を基準値とし、時間変化率が当該基準値を含む一定の範囲にあれば、実際に噴霧が目標位置に維持できていると判定する。時間変化率が当該範囲を超えていれば、実際の噴霧はグロープラグ219に対して重なり過ぎであり、逆に時間変化率が当該範囲よりも小さければ、実際の噴霧はグロープラグ219から離れ過ぎていることになる。
【0130】
図6に戻り、目標噴霧が形成されていれば(ステップS107:YES)、ECU100は、冷間始動が終了したか否かを判別し(ステップS108)、冷間始動期間が終了していなければ(ステップS108:NO)、冷間始動期間が終了するまで処理を待機する。冷間始動期間が終了した場合(ステップS108:YES)、グロープラグ219はオフ制御され(ステップS109)、燃料噴射制御処理は終了する。
【0131】
一方、ステップS107において、目標噴霧が形成されていないと判定された場合(ステップS107:NO)、ECU100は、ステップS200において算出された制御条件を補正する(ステップS110)。補正後は、処理が再びステップS107に戻される。即ち、この補正は、目標噴霧が形成された旨の判定が下されるまで継続する。
【0132】
例えば、ECU100は、図12に例示された駆動電流Igpの時間特性から算出される駆動電流Igpの時間変化率が、所定範囲よりも大きい側に逸脱していれば、噴霧が目標位置よりもグロープラグ219側に寄っているものとして、噴霧とグロープラグ219との重複が回避される側へ、例えば噴霧角θspを減少させ、或いは噴霧移動角θswを増加又は減少(下流側噴霧か上流側噴霧かによって異なる)させる。
【0133】
一方、当該時間変化率が、所定範囲よりも小さい側に逸脱していれば、噴霧が目標位置よりもグロープラグ219から離れているものとして、噴霧がグロープラグ219に近づくように、例えば噴霧角θspを増大させ、或いは噴霧移動角θswを増加又は減少(下流側噴霧か上流側噴霧かによって異なる)させる。
【0134】
この際、グロープラグ219と噴霧との位置関係と、駆動電流Igpの時間変化率(尚、時間変化率は一例であり、例えばピーク値で比較してもよい)とは、一対一、一体多、多対一又は多対多に対応する。従って、駆動電流Igpから派生する指標値と基準値との偏差は、概ねグロープラグ219と噴霧との位置偏差として扱ってよい。
【0135】
以上説明したように、本実施形態に係る燃料噴射制御処理によれば、グロープラグ219に対する噴霧の位置制御に、燃料の動粘度が反映される。従って、燃料種の変化により静的粘度が変化した場合は勿論、同種の燃料で密度が変化した場合(例えば、レール圧Pcrが変化した場合)等においても、気筒内における燃料の噴霧特性を正確に推定することができる。更に、本実施形態によれば、グロープラグ219の駆動電流Igpがグロープラグ219と噴霧との位置関係により変化することを見出し、駆動電流Igpの時間特性から、気筒内の実際の噴霧位置を推定することを可能としている。更には、動粘度を反映して噴霧の位置制御条件を正確に決定することに加えて、実際の噴霧位置をこの位置制御条件の補正にフィードバックする構成となっている。従って、グロープラグ219が稼働状態におかれる顕著には冷間始動期間において、燃料の着火性を可及的に向上させ、極めて良好な始動性を実現することが可能となっているのである。
【0136】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う始動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、グロープラグを備えた圧縮自着火式内燃機関の始動制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0138】
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、202…気筒、208…スワール弁、219…グロープラグ、300…燃料噴射システム、330…フィードポンプ、350…高圧ポンプ、360…コモンレール、370…直噴インジェクタ、371…燃料噴射弁、3711、3712…噴孔、380…燃圧センサ、390…動粘度センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロープラグを備えた圧縮自着火式内燃機関における始動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、特許文献1にディーゼルエンジンの始動制御装置が開示されている。
【0003】
この装置によれば、グロープラグをスワール流の流れ方向に対して噴霧の上流側に近接配置するにあたって、グロープラグ先端部の球面状の曲面を含む球体の中心を先端部中心とした時に、該先端部中心を通り噴霧の噴射方向に垂直な断面において、先端部中心と噴霧の中心とを結ぶ線と、噴霧の中心を通りスワール流の流れ方向と垂直な線とのなす角が55°〜70°の範囲となるようにグロープラグが配される。その結果、気流を妨げることなく且つグロープラグにより暖められた空気を噴霧に供給することができ、良好な始動性が確保されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−230471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気筒内における燃料の噴霧特性は、燃料の動粘度により変化する。然るに、特許文献1に開示された装置では、動粘度変化に起因する燃料の噴霧特性の変化は考慮されていない。このため、特許文献1に開示された装置では、燃料噴霧とグロープラグとの位置関係を常に最適に維持することはできない。
【0006】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、燃料噴霧とグロープラグとの位置関係を常に最適に維持し、もって冷間始動時における燃料の着火性の低下を抑制し得る始動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る始動制御装置は、気筒内に形成される吸気スワール流の流速を制御可能なスワール弁と、前記気筒内のガスに対し駆動電流に応じた熱エネルギを供与可能なグロープラグと、前記気筒の筒内圧以上の燃圧で燃料を貯留可能な貯留手段と、前記燃圧を制御可能な高圧ポンプと、前記貯留された燃料を噴霧として気筒内へ噴射可能な噴射手段とを備えた圧縮自着火式内燃機関における始動制御装置であって、前記噴射される燃料の動粘度を特定する特定手段と、前記グロープラグが使用される期間において、前記グロープラグに対する前記噴霧の位置が所望の位置となるように、前記特定された動粘度に基づいて、前記噴霧に係る噴霧特性を規定する、前記噴射手段、前記高圧ポンプ及び前記スワール弁のうち少なくとも一つの制御条件を決定する決定手段と、前記決定された制御条件に従って前記少なくとも一つを制御する制御手段と、前記駆動電流の特性に基づいて前記グロープラグに対する噴霧の位置を推定する推定手段と、前記推定された位置と前記所望の位置との偏差に応じて前記決定された制御条件を補正する補正手段とを具備することを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明に係る内燃機関は、例えばディーゼルエンジン等の圧縮自着火式内燃機関であり、特に、スワール流の流速を制御可能なスワール弁と、気筒内ガス(吸気、噴霧或いはそれらの混合ガス)に熱エネルギを供与可能なグロープラグと、燃料タンクからフィードされる低圧燃料を昇圧する高圧ポンプと、高圧ポンプから吐出される高圧燃料を貯留可能な例えばコモンレール等の貯留手段と、気筒内に燃料を噴射可能な直噴インジェクタとを備えた機関である。その限りにおいて、本発明に係る内燃機関において使用される燃料種に関する制限はない。即ち、本発明に係る内燃機関は、燃料として、軽油、ガソリン、アルコール又はこれらの混合燃料等を使用可能である。
【0009】
本発明に係る始動制御装置は、このような内燃機関における始動時の燃料着火性を向上させる、或いは燃料着火性の低下を抑制する装置であって、好適な一形態として、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ等を備えた、単体或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)やコンピュータシステム等の形態を採り得る。また、これらには適宜ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等が付帯し得る。尚、本発明に係る始動制御装置は、内燃機関の他の各部(例えば、動弁系、点火系或いは冷却系等)を制御するコンピュータ装置の一部として構成されていてもよい。
【0010】
グロープラグによる熱エネルギの供与により燃料の着火性を向上させ、もって始動性を向上させるにあたっては、グロープラグに対する燃料噴霧の位置が重要となる。グロープラグに対する噴霧の位置に関する最適値は、無論実験的に、経験的に又は理論的に定められるところであって必ずしも一義的ではないが、いずれにせよ、始動性向上を図る上では、噴霧の位置制御性を十分に確保することが重要である。
【0011】
噴霧の位置制御性を確保するためには、気筒内における噴霧の動的振る舞い又は状態(これらをまとめて適宜「噴霧特性」と表現する)を把握する必要がある。例えば、このような噴霧特性とは、ペネトレーション(噴霧の到達距離或いは噴霧の長さ)、噴霧角(噴孔に対する噴霧のなす角度)或いは噴霧移動角(スワール流により噴霧が移動した角度)等を好適に含み得る。噴霧特性は、一般的に、燃圧や噴射量等、内燃機関の動作制御上ある程度定まり得る噴射手段に関する可制御要素及び固有要素(特に、L/Dと称される、噴孔長を噴孔直径で除した指標値等)等に応じて可変である。また、噴霧特性は、気筒内のガス状態に対しても可変である。ここで定義される気筒内のガス状態とは、噴霧の動的振る舞いに影響を与え得るガス状態であって、好適な一形態としては、例えば気筒内のガス温度(筒内温度)、ガス密度(筒内密度)或いはガス圧力(筒内圧力)等を意味する。
【0012】
然るに、グロープラグに対する噴霧の位置を、単にこれらの要素に応じて可変とするだけでは、噴霧の位置制御精度は必ずしも十分でない。噴霧特性は、燃料の粘性に応じて変化するからである。但し、粘性と言っても、物質固有の粘度である静的粘度(絶対粘度)は、この場合必ずしも有効な指標とならない。例えば、静的粘度が小さくても燃料が相応に軽ければその動的特性は緩慢となり、反対に、静的粘度が大きくても燃料が相応に重ければその動的特性は鋭敏となるからである。即ち、噴射手段から噴射される燃料の噴霧は流体であるから、燃料の噴霧特性を正確に把握するためには、流体の動的粘性の指標が必要となる。
【0013】
本発明に係る始動制御装置は、係る点に鑑み、特定手段により燃料の動粘度が特定される構成となっている。動粘度とは、概念的には流体の動的粘性の度合い(動き難さ)を意味し、静的粘度を、当該流体の同一条件下(例えば、温度及び圧力)における密度で除した値(即ち、静的粘度/密度)として定義される。特定手段により特定される燃料の動粘度とは、このように定義される動粘度又は当該動粘度と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応付けられた物理量、制御量或いは指標値を意味する。
【0014】
動粘度は、例えば気筒内における燃料の蒸発特性(例えば、蒸発温度)に影響し、蒸発特性は、例えば、噴霧特性の一例として述べたペネトレーションに影響する。また、例えば、燃料噴霧の噴霧角も動粘度に対し変化する。即ち、実際に噴射される燃料の動き難さの指標としての燃料の動粘度は、噴霧特性の推定に必要欠くべからざる要素と言える。
【0015】
本発明によれば、この特定された動粘度に基づいて、或いは、特定された動粘度から推定される噴霧特性に基づいて、噴霧特性を規定する、噴射手段、高圧ポンプ及びスワール弁のうち少なくとも一つの制御条件が決定される。より具体的には、この制御条件は、グロープラグに対する噴霧の位置が所望の位置(既に述べたように多義的である)となるように決定される。従って、制御手段が、この決定された制御条件に従って少なくとも一つを制御することにより、理想的には、グロープラグに対する噴霧の位置を、所望の位置に維持することが可能となる。
【0016】
ところで、決定手段により決定される制御条件は、言うなればフィードフォワード(F/F)的手法により決定された制御条件であるから、グロープラグに対する噴霧の位置が真に所望の位置に維持されているか否かは、制御手段により制御だけでは知ることが出来ない。その点に鑑み、本発明に係る始動制御装置では、補正手段が、決定された制御条件を適宜補正する構成となっている。ここで特に、補正手段は、推定手段により推定されるグロープラグに対する噴霧の位置を、決定された制御条件にフィードバック(F/B)して補正する構成となっている。
【0017】
ここで、出願人の長年の研究に基づいた知見によれば、グロープラグの駆動電流、例えば、ピーク値、時間変化率、時間推移等は、グロープラグと噴霧との接触の度合いに応じて変化する。例えば、駆動電流のピーク値は、グロープラグが噴霧に接触している度合いが大きい程大きくなる。従って、所望の位置における駆動電流の特性を予め実験的に、経験的に又は理論的に求めておけば、上述したようにF/F的手法により算出された制御条件により実際にグロープラグと噴霧との位置関係が所望の位置関係に対してどの程度乖離しているのかを、正確に把握することができる。
【0018】
即ち、本発明に係る始動制御装置によれば、グロープラグを稼動させる始動期間、特に冷間始動期間において、グロープラグと噴霧との位置関係を常に最適に維持することが可能となり、もって始動性を向上させることが、或いは始動性の低下を抑制することが可能となるのである。
【0019】
尚、本発明に係る「特定」とは、その実践的プロセスに関係なく、特定対象を制御上利用し得る参照値として直接的に又は間接的に確定させることを意味する概念である。従って、動粘度を特定する特定手段は、燃料の動粘度を検出するセンサ等の検出手段であってもよいし、別途備わるこの種の検出手段から検出結果を取得する手段であってもよいし、予め策定されたアルゴリズムや演算式等に従って算出する手段であってもよい。或いは、参照値に基づいて予め設定された制御マップ等から該当値を選択する手段であってもよい。
【0020】
本発明に係る始動制御装置の一の態様では、前記推定手段は、前記燃料の噴射期間に対応する期間における前記駆動電流の変化の度合いに基づいて前記位置を推定する(請求項2)。
【0021】
この態様によれば、推定手段は、燃料の噴射期間に対応する期間(噴射期間そのものであってもよいが、好適には、予め実験的に、経験的に又は理論的に求められた、駆動電流の変化が顕著に現れ得る期間)における駆動電流の変化の度合いに基づいてグロープラグに対する噴霧の位置を推定する。駆動電流の変化の度合いは、ある程度の時間領域における駆動電流の振る舞いを表すから、単なるピーク値による判定と較べるとより高い精度が確保され得る。
【0022】
本発明に係る始動制御装置の他の態様では、前記噴射手段の制御条件は前記燃料の噴射量であり、前記高圧ポンプの制御条件は前記燃圧であり、前記スワール弁の制御条件は前記流速であり、前記決定手段は、(1)前記噴射量を決定し、(2)該決定された噴射量が制約を満たさない場合に、前記噴射量及び前記燃圧を決定し、(3)該決定された噴射量及び燃圧が制約を満たさない場合に、前記噴射量、燃圧及び流速を決定する(請求項3)。
【0023】
この態様によれば、制御条件に、噴射量、燃圧及び流速の順に優先順位が付与されており、必要な噴射量が噴射手段の物理的又は制御上の制約を満たさない場合には、噴射量に加えて燃圧の制御が許可される。同様に噴射量及び燃圧の要求値のうち少なくとも一方が物理的又は制御上の制約を満たさない場合には、噴射量及び燃圧に加えてスワール流の流速の制御が許可される。このように、内燃機関の燃焼状態に与える影響が限定的である要素から順に制御条件として選択されることにより、効率的な始動制御が可能となる。
【0024】
本発明に係る始動制御装置の他の態様では、前記噴射手段は、前記気筒の内部を下面から見た場合に前記気筒の内壁に沿って周状に配列してなる複数の噴孔を備え、前記決定手段は、(1)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴霧の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした下流側において最も近接する下流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定すると共に、前記下流側噴孔に対応する噴霧について決定された制御条件が制約を満たさない場合には、(2)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴霧の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした上流側において最も近接する上流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定する(請求項4)。
【0025】
下面視された状態において噴孔の中心軸線(スワール流が存在しない場合の噴霧の中心軸線)がグロープラグに対しスワール方向上流側で最も近接する上流側噴孔に対応する噴霧は、定性的には、スワール流に乗ってグロープラグに近付いてくる噴霧である。これに対し、同じく噴孔の中心軸線がグロープラグに対しスワール方向下流側で最も近接する下流側噴孔に対応する噴霧は、定性的には、スワール流に乗ってグロープラグから離れてゆく噴霧である。従って、グロープラグの有効利用を図る観点からは、当該下流側噴孔に対応する噴霧とグロープラブとの位置関係を制御した方がよい。この態様によれば、このような観点から制御プロセスの順序が規定されており、グロープラグを効率的に利用して、始動時間の可及的短縮化を図ることが可能となる。
【0026】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のエンジンシステムにおけるエンジンの概略断面図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおける燃料噴射システムの構成を概念的に示す概略構成図である。
【図4】図3の燃料噴射システムにおける高圧ポンプの概略構成図である。
【図5】図3の燃料噴射システムにおける直噴インジェクタの下面視概略断面図である。
【図6】図1のエンジンシステムにおいてECUにより実行される燃料噴射制御処理のフローチャートである。
【図7】噴霧特性の推定に使用される推定用マップの概念図である。
【図8】図6の燃料噴射制御処理における制御条件算出処理のフローチャートである。
【図9】図6の燃料噴射制御処理における上流側噴霧の制御条件算出処理のフローチャートである。
【図10】図8の制御条件算出処理における制御条件の概念図である。
【図11】図9の上流側噴霧の制御条件算出処理における制御条件の概念である。
【図12】噴霧位置に対するグロープラグ駆動電流の時間特性を例示する図である。
【図13】図12の時間特性に係り、噴霧位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0029】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の一実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0030】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100、エンジン200、燃料噴射システム300及びEGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)装置400を備える。
【0031】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、エンジンシステム10の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「始動制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する燃料噴射制御処理を実行可能に構成されている。
【0032】
尚、ECU100は、本発明に係る「特定手段」、「決定手段」、「制御手段」、「推定手段」及び「補正手段」の夫々一例として機能し得る一体の電子制御ユニットであるが、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、これら各手段は、例えば複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0033】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるディーゼルエンジンである。ここで、図2を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、エンジン200の概略断面図である。
【0034】
エンジン200は、シリンダブロック201に収容された気筒202内において、後述する直噴インジェクタ370から噴射された軽油(本発明に係る「燃料」の一例)と吸入空気との混合気を圧縮自着火させると共に、その燃焼に伴う爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換可能に構成された圧縮自着火型内燃機関である。
【0035】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたエンジン200のクランク角は、一定又は不定の周期でECU100に参照される構成となっている。
【0036】
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に気筒202が複数配列した直列多気筒ディーゼルエンジンであるが、個々の気筒202の構成は相互いに等しいため、図2においては一の気筒202についてのみ説明を行うこととする。また、このような構成は、本発明に係る「内燃機関」が採り得る一例に過ぎない。
【0037】
エンジン200において、外部から吸入された空気は、吸気管207に導かれる。吸気管207における、吸気ポート209の上流側には、吸気ポート209に導かれる新気の量(新気量)を調節するSCV(Swirl Control Valve)208が配設されている。このSCV208は、ECU100と電気的に接続された不図示のアクチュエータによってその駆動状態が制御される構成となっている。
【0038】
ここで、吸気ポート209は、SCV208を通過した新気と後述するEGRガスとの混合ガス(以下、適宜「吸気」と表現する)が気筒202内に吸入された時に当該吸気の旋回流(以下、適宜「スワール流」と表現する)が形成されるように、紙面奥行き方向に湾曲している。SCV208は、その弁開度(SCV開度)に応じて、このスワール流の流速Vswを変化させることが出来る。尚、このスワール流は、概ね紙面左右方向に沿った断面に沿って形成される。別言すれば、このスワール流は、略円筒状の気筒202の湾曲した内壁に沿って形成される。
【0039】
気筒202と吸気ポート209とは、吸気バルブ210の開閉によってその連通状態が制御されており、上述した吸気は、この吸気バルブ210の開弁時に気筒202内に吸入される。尚、この吸気バルブ210は、クランクシャフト205に不図示のスプロケット等を介して連結された吸気カムシャフトICS(不図示)に取り付けられた、断面視楕円形状を有する吸気カム211のカムプロフィールに従って開閉駆動される構成となっている。
【0040】
気筒202内には、直噴インジェクタ370の燃料噴射弁が露出しており、直噴インジェクタ370から噴射された燃料噴霧は、この気筒202内において、吸気ポート209を介して吸入された吸気と混合され上述した混合気となる。気筒202で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ212の開弁時に排気ポート213を介して排気管214に導かれる。
【0041】
排気管214には、エンジン200の排気圧Pexを検出可能に構成された排気圧センサ215が設置されている。また、気筒202を収容するシリンダブロック201を取り囲むように張り巡らされたウォータジャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温Twを検出するための冷却水温センサ216が配設されている。更に、ピストン203がTDC(Top Death Center:上死点)に位置する状態でピストン203の上面部分と気筒202の内壁部分とにより規定される空間である燃焼室には、気筒202内部の温度である筒内温度Tcyを検出可能な筒内温センサ217のセンサ端子が露出している。また、この燃焼室には、気筒202内部の圧力である筒内圧力Pcyを検出可能な筒内圧センサ218が配設されている。これら各センサは、ECU100と電気的に接続されており、夫々検出された排気圧Pex、冷却水温Tw、筒内温度Tcy及び筒内圧力Pcyは、ECU100により、夫々一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0042】
一方、エンジン200は、グロープラグ219を備える。グロープラグ219は、不図示の駆動系を介してECU100と電気的に接続され、ECU100が当該駆動系を制御することにより当該駆動系から供給される駆動電流Igpに応じて赤熱するヒートコイルと、当該ヒートコイルが埋め込まれたセラミック体とを備え、このヒートコイルが燃焼室に露出する構成となっている。ヒートコイルは、その通電時に数百℃程度の高温状態となり、燃焼室内で筒内ガスに熱エネルギを直接又は間接的に供与することによって、筒内ガスを昇温可能に構成されている。尚、駆動電流Igpは、ヒートコイルを収容するセラミック体の熱負荷に応じて可変となる。即ち、ヒートコイルの温度と較べて冷たい燃料噴霧との接触の度合いが大きい程、奪われた熱を補うべく駆動電流Igpは上昇側に制御される。この駆動電流Igpの特性は、後述する燃料噴射制御処理において利用される。
【0043】
EGR装置400は、EGR管410、EGRクーラ420及びEGRバルブ430を備える。
【0044】
EGR管410は、一方の端部が排気ポート213に連結され、他方の端部が吸気ポート209に連結される金属製の管状部材である。排気ポート213と吸気ポート209とは、EGRバルブ430の開弁時に、このEGR管410を介して適宜連通する構成となっている。
【0045】
EGRクーラ420は、排気直後の比較的高温のEGRガスを冷却水との間の熱交換により冷却する水冷型冷却装置である。
【0046】
EGRバルブ430は、EGR管410を介した排気ポート213と吸気ポート209との連通面積を連続的に変化させることが可能な電磁開閉弁装置である。EGRバルブ430を駆動する不図示の駆動装置(例えば、ソレノイド)は、ECU100と電気的に接続されており、EGRバルブ430の開度であるEGR開度Aegrは、ECU100により制御可能となっている。尚、「開度」とは、開弁の度合いを意味しており、EGR開度Aegrは、Aegr=0(%)が全閉(又は全開)に、Aegr=100(%)が全開(又は全閉)に、夫々対応している。いずれにせよ、EGRバルブ430を挟んだ上流側(排気ポート213側)と下流側(吸気ポート209側)との連通断面積Segrは、このEGR弁開度Aegrと一対一に対応している。
【0047】
尚、EGR装置400においては、排気ポート213に排出された排気の一部が、排気圧Pexと吸気ポート209の圧力である吸気圧Pinとの圧力差とEGR開度Aegrとに応じて、EGRガスとして吸気ポート209に循環される。
【0048】
次に、図3を参照し、燃料噴射システム300の構成について説明する。ここに、図3は、燃料噴射システム300を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、既出の各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0049】
図3において、燃料噴射システム300は、燃料タンク310、フィード管320、フィードポンプ330、フィード圧センサ340、高圧ポンプ350、コモンレール360、直噴インジェクタ370、レール圧センサ380及び動粘度センサ390を備える。
【0050】
燃料タンク310は、燃料(本実施形態では軽油)を貯留するタンクである。
【0051】
フィード管320は、一端部が燃料タンク310に連結され、他端部が高圧ポンプ350に連結された金属製の管状部材である。
【0052】
フィードポンプ330は、燃料タンク310から燃料を汲み上げ、フィード管320に所望の燃料吐出速度(時間当たりの吐出量)で燃料を供給可能に構成された低圧電動ポンプ装置である。フィードポンプ330の燃料吐出速度は、ECU100と電気的に接続された不図示の駆動装置により制御される。尚、フィードポンプ330は、この燃料吐出速度の制御を介して、フィード管320内の燃圧であるフィード圧Pfdを可変に制御することが出来る。
【0053】
フィード圧センサ340は、上述した燃料のフィード圧Pfdを検出可能に構成されたセンサである。フィード圧センサ340は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたフィード圧Pfdは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0054】
高圧ポンプ350は、フィードポンプ330を介して供給される燃料を昇圧するための機械式ポンプ装置である。
【0055】
ここで、図4を参照し、高圧ポンプ350の構成について説明する。ここに、図4は、高圧ポンプ350の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、既出の各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0056】
図4において、高圧ポンプ350は、電磁調量弁351、吸入弁352、シリンダ353、プランジャ354、加圧室355、カム356、吐出弁357及び高圧管358を備える。
【0057】
電磁調量弁351は、フィード管320に設けられ、フィードポンプ320により送出された、フィード圧Pfdを有する燃料(低圧燃料)の流量を調節する電磁開閉弁である。フィードポンプ320により燃料タンク310から汲み上げられた低圧燃料は、この電磁調量弁351によりその流量が調節され、フィード管320の一端部が接続された加圧室355へ供給される。電磁調量弁351は、ECU100と電気的に接続されており、その開弁期間を規定する駆動デューティが、ECU100により制御される構成となっている。
【0058】
プランジャ354は、シリンダ353内に設置された加圧部材であり、下端部に接続されたロッド状部材が、エンジン200の吸気カムシャフトICSに固定され且つ吸気カムシャフトICSの回転に連動して回転する、楕円形状を有するカム356のカムプロフィールに従って図中上下方向に往復運動するのに伴い、その上端部が図示TDC(Top Death Center:上死点)と図示BDC(Bottom Death Center:下死点)との間で往復運動する構成となっている。
【0059】
加圧室355は、シリンダ353の内壁部分と、プランジャ354の上端部分とによって規定される空間であり、プランジャ354の前述した往復運動に伴って、その容積が変化する空間である。
【0060】
電磁調量弁351により調量された燃料は、プランジャ354がシリンダ353内をTDCからBDCへ向かって移動する際(即ち、減圧期)に、吸入弁352を押し開いて加圧室に吸入される。その後、プランジャ354がシリンダ353内をBDCからTDCへ向かって移動する際(即ち、加圧期)に、プランジャ354によって加圧室355内部の燃料が圧縮(即ち、加圧)される。加圧された燃料は、吐出弁357を押し開いて高圧管358に供給され、高圧管358に接続されたコモンレール360へと圧送される構成となっている。
【0061】
尚、ここに例示する高圧ポンプ350は、気筒202内に燃料を直接噴射する筒内噴射手段における高圧ポンプ装置の一例であり、無論公知の他の態様を採り得る。
【0062】
図3に戻り、コモンレール360は、高圧ポンプ350から供給された高圧燃料を蓄積し複数の直噴インジェクタ370に安定供給するための燃料バッファである。コモンレール360に貯留された高圧燃料の圧力であるレール圧Pcr(Pcr>Pfd)は、レール圧センサ380により検出される。レール圧センサ380は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたレール圧Pcrは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。尚、ECU100は、電磁調量弁351の駆動制御により高圧ポンプ350の駆動負荷を制御することにより、レール圧Pcrを所望の目標圧に維持することが出来る。尚、レール圧Pcrは、本発明に係る「燃圧」の一例である。
【0063】
動粘度センサ390は、コモンレール360に貯留された高圧燃料の動粘度Vkを検出可能に構成されたセンサである。動粘度センサ390は、ECU100と電気的に接続されており、検出された高圧燃料の動粘度Vkは、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。尚、動粘度センサ390は、必ずしもコモンレール360に配設されている必要はなく、コモンレール360と高圧ポンプ350とを繋ぐ高圧燃料配管や、コモンレール360と直噴インジェクタ370とを繋ぐ高圧燃料配管等に配設されていてもよい。
【0064】
直噴インジェクタ370は、コモンレール360に連結された、本発明に係る「噴射手段」の一例たる燃料噴射装置である。
【0065】
直噴インジェクタ370は気筒202毎に設けられており、各直噴インジェクタ370の燃料噴射弁371は、先述したように各気筒202の内部に露出している。直噴インジェクタ370は、燃料噴射弁の開弁期間及びレール圧Pcrにより定まる量の燃料を、噴霧として気筒202の内部に噴射可能に構成されている。尚、直噴インジェクタ370は、所謂多孔式の噴射装置であり、燃料噴射弁における燃料噴射用の噴孔は、周状に形成された気筒202の内壁(側壁)に沿って周状に複数形成されている。
【0066】
直噴インジェクタ370の構成について補足すると、直噴インジェクタ370は、ECU100から供給される指令に基づいて作動する電磁弁と、この電磁弁への通電時に燃料を噴射するノズル(いずれも不図示)とを備える。当該電磁弁は、コモンレール360に蓄積された高圧燃料が印加される圧力室と、当該圧力室に接続された低圧側の低圧通路との間の連通状態を制御可能に構成されており、通電時に当該圧力室と低圧通路とを連通させると共に、通電停止時に当該圧力室と低圧通路とを相互に遮断する構成となっている。
【0067】
一方、ノズルは、噴孔を開閉するニードルを内蔵し、圧力室の燃料圧力がニードルを閉弁方向(噴孔を閉じる方向)に付勢している。従って、電磁弁への通電により圧力室と低圧通路とが連通し、圧力室の燃料圧力が低下すると、ニードルがノズル内を上昇して開弁する(噴孔を開く)ことにより、コモンレール360より供給された高圧燃料が噴孔より噴射される。また、電磁弁への通電停止により加圧室と低圧通路とが相互に遮断されて圧力室の燃料圧力が上昇すると、ニードルがノズル内を下降して閉弁することにより、噴射が終了する構成となっている。
【0068】
ここで、図5を参照し、燃料噴射弁371について説明する。ここに、図5は、気筒202の内部において下面から(即ち、燃焼室の方向へ)見た、燃料噴射弁371の下面視概略断面図である。尚、同図において、既出の各図と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0069】
図5において、燃料噴射弁371は、下面視円状に構成されており、外周部に複数の噴孔371i(i=1,2,・・・,8)が形成されている。尚、図では噴孔3711及び噴孔3712のみ符号が記載されている。吸気ポート209の形状及びSCV208の作用により気筒内に形成されるスワール流の方向及びグロープラグ219の位置は図示の通りであり、噴孔3711は、鎖線で示す噴孔中心軸線がスワール方向下流側においてグロープラグに最も近接する噴孔であり、本発明に係る「下流側噴孔」の一例である。本実施形態では、噴孔3711の噴孔中心軸線と、燃料噴射弁371の中心とグロープラグ219とを結んだ線とのなす角が、グロープラグ取り付け角θgと表現される。
【0070】
尚、本実施形態では、直噴インジェクタ370の各噴孔から噴射される燃料の噴射圧Pinjとレール圧Pcrとは同義に扱われる。
【0071】
<実施形態の動作>
次に、図6を参照し、本実施形態の動作として、ECU100により実行される燃料噴射制御処理について説明する。ここに、図6は、燃料噴射制御処理のフローチャートである。
【0072】
図6において、ECU100は、気筒202の筒内状態を表す各種指標値を読み込む(ステップS101)。この指標値は、例えば、冷却水温Tw或いは潤滑油温(本実施形態では、冷却水温により代替される)等である。尚、筒内状態の指標値としては、筒内温度Tcyが用いられてもよい。
【0073】
筒内状態が読み込まれると、ECU100は、エンジン200が冷間始動状態にあるか否かを判別する(ステップS102)。冷間始動状態にない場合(ステップS102:NO)、処理はステップS101に戻される。エンジン200が冷間始動状態にある場合(ステップS102:YES)、ECU100はグロープラグ219をオン状態(即ち、稼動状態)に制御する(ステップS103)。
【0074】
グロープラグ219をオン状態に制御すると、ECU100は、動粘度センサ390のセンサ出力に基づいて、コモンレール360に貯留された高圧燃料の動粘度Vkを判定する(ステップS104)。ステップS104は、本発明に係る「特定手段」の動作の一例である。
【0075】
尚、ここでは、動粘度センサ390により直接高圧燃料の動粘度が検出される構成としたが、無論、本発明に係る特定手段の採り得る実践的態様はこれに限定されるものではない。例えば、ECU100は、燃料の静的粘度Vsとコモンレール360における燃料密度Dfとに基づいて、下記(1)式に従って動粘度を算出してもよい。
【0076】
Vk=Vs/Df・・・(1)
ここで、静的粘度Vsは、経時的な劣化等の不測要因を除けば燃料種に固有の値であり、使用される燃料毎に予め固定値として記憶しておくことができる。一方、燃料密度Dfは、単位体積当たりの質量であるから、高圧ポンプ350の燃料吐出量又は燃料吐出速度(即ち、供給量)、各直噴インジェクタ370の燃料噴射量(即ち、排出量)及びコモンレール360の体積から算出することが出来る。或いは、コモンレール360についてレール圧Pcrと質量との関係を予め実験的に、経験的に又は理論的に求めておけば、レール圧センサ380により検出されるレール圧Pcrに基づいて燃料密度Dfを求めることも可能である。
【0077】
或いは、動粘度Vkは、直噴インジェクタ370の先述したニードルのリフト量を検出する手段が設置されている場合には、当該ニードルリフト量から求めることも出来る。ニードルリフト量の大小は、動粘度Vkの高低に夫々対応する。従って、ニードルリフト量と動粘度Vkとの対応関係を規定するマップ等を予め用意しておけば、当該マップから該当値を選択することにより動粘度Vkを求めることが出来る。また、動粘度Vkは、コモンレール360におけるレール圧Pcrの変動の度合いにも影響を与える。即ち、検出されるレール圧Pcrの時間特性を一種の変動指標値とすると、当該時間特性は動粘度Vkに応じて変化する。従って、レール圧Pcrの変動の度合いから動粘度Vkを求めることも出来る。
【0078】
動粘度Vkが判定されると、更にエンジン200の運転条件が読み込まれる(ステップS105)。ステップS105で読み込まれる運転条件とは、目標燃料噴射量Qmtgの決定に必要な条件であり、例えば、機関回転速度NE及び不図示のアクセルペダルの操作量(アクセル開度Ta)等を意味する。
【0079】
ECU100は、ステップS104で判定された動粘度Vkを含む各種要素に基づいて、燃料の噴霧特性を推定する(ステップS106)。燃料の噴霧特性は多義的であるが、本実施形態では、噴霧角θsp、ペネトレーションPN及び噴霧移動角θswが推定される。これら噴霧特性を推定するにあたり、ECU100は、各噴霧特性について予め作成された推定用マップを参照する。即ち、ECU100は、噴霧角推定用マップ、ペネトレーション推定用マップ及び噴霧移動角推定用マップを参照する。
【0080】
ここで、図7を参照し、これら噴霧特性の推定に利用される推定用マップについて説明する。ここに、図7は、推定用マップの概念図である。
【0081】
図7において、図7(a)、図7(b)及び図7(c)は、夫々噴霧角推定用マップ、ペネトレーション推定用マップ及び噴霧移動角推定用マップの概念を示している。
【0082】
図7(a)において、図中左側の図は、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、噴射量Qに対する噴霧角θspの変化特性を示す図である。動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka1(実線参照)、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb1(破線参照)として表される。また、図中右側の図は、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、レール圧Pcrに対する噴霧角θspの変化特性を示す図である。動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka2(実線参照)、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb2(破線参照)として表される。図示するように、噴霧角θspは、噴射量Q及びレール圧Pcrが一定であっても、動粘度Vkに応じて異なる。従って、動粘度Vkを考慮しない噴霧特性に基づいて噴霧の位置を制御しようとしても、噴霧を最適位置に維持することができない。
【0083】
噴霧角推定用マップには、図7(a)に例示される関係が数値化されて格納されている。この際、動粘度Vkは、無論図示する二通りではなく、より多段階に規定されていることは言うまでもない。
【0084】
図7(b)において、図中左側の図は、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、ペネトレーションPNの時間変化特性を示す図である。動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka3及びL_Vka4(実線参照)であり、前者が噴射量Qa、後者が噴射量Qb(Qb<Qa)に対応している。また、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb3及びL_Vkb4(破線参照)であり、同じく前者が噴射量Qa、後者が噴射量Qb(Qb<Qa)に対応している。一方、図中右側の図も、動粘度VkがVka及びVkb(Vka<Vkb)である場合における、ペネトレーションPNの時間変化特性を示す図である。但し、動粘度Vkaに対応する変化特性は図示L_Vka5及びL_Vka6(実線参照)であり、前者がレール圧Pcra、後者がレール圧Pcrb(Pcrb<Pcra)に対応している。また、動粘度Vkbに対応する変化特性は図示L_Vkb5及びL_Vkb6(破線参照)であり、同じく前者がレール圧Pcra、後者がレール圧Pcrb(Pcrb<Pcra)に対応している。図示するように、ペネトレーションPNは、噴射量Q及びレール圧Pcrが一定であっても、動粘度Vkに応じて異なる。従って、動粘度Vkを考慮しない噴霧特性に基づいて噴霧の位置を制御しようとしても、噴霧を最適位置に維持することができない。
【0085】
ペネトレーション推定用マップには、図7(b)に例示される関係が数値化されて格納されている。この際、動粘度Vkは、無論図示する二通りではなく、より多段階に規定されていることは言うまでもない。
【0086】
一方、図7(c)において、図中左側の図は、スワール流の流速VswがVswaである場合における、噴霧移動角θswの時間変化特性を示す図である。流速Vswaに対応する変化特性は図示L_swa(実線参照)として表される。また、図中右側の図は、スワール流の流速VswがVswb(Vswb>Vswa)である場合における、噴霧移動角θswの時間変化特性を示す図である。流速Vswbに対応する変化特性は図示L_swb(実線参照)として表される。図示するように、噴霧移動角θswは、スワール流の流速Vswに応じて変化する。従って、流速Vswを考慮しない噴霧特性に基づいて噴霧の位置を制御しようとしても、噴霧を最適位置に維持することができない。
【0087】
噴霧移動角推定用マップには、図7(c)に例示される関係が数値化されて格納されている。この際、流速Vswは、無論図示する二通りではなく、より多段階に規定されていることは言うまでもない。
【0088】
このように、噴霧角θsp及びペネトレーションPNは、夫々動粘度Vk、噴射量Q及びレール圧Pcrの関数であり、噴霧移動角θswはスワール流の流速Vswの関数である。本実施形態では、これら噴霧特性に基づいて、グロープラグに対する噴霧の位置を最適化することができる。
【0089】
図6に戻り、動粘度Vkを始めとする各パラメータに応じて変化する燃料の噴霧特性が推定されると、ECU100は、制御条件算出処理を実行する(ステップS200)。制御条件算出処理は、グロープラグ219に対する噴霧の位置を着火性向上の観点から設定された最適位置に維持するための制御条件を算出するサブルーチンである。
【0090】
ここで、図8を参照し、制御条件算出処理の詳細について説明する。ここに、図8は、制御条件算出処理のフローチャートである。
【0091】
図8において、ECU100は先ず、下流側噴霧の制御条件の算出を開始する(ステップS201)。下流側噴霧とは、図5を参照すれば、グロープラグ219に対して噴射中心線(鎖線)がスワール方向下流側に位置する噴孔、即ち噴孔3711からの噴霧を意味する。尚、この場合、噴孔3711は、本発明に係る「気筒の内部を下面から見た場合の噴孔の中心軸線が、グロープラグに対しスワール流の方向を基準とした下流側において最も近接する下流側噴孔」の一例である。
【0092】
下流側噴霧の制御条件を算出するプロセスは多義的であるが、以下に一例を記載する。下流側噴霧の制御条件は、下記(2)式に基づいて決定される。
【0093】
a=sin−1[{d*sin(θg+θsw)}/{b+r+d*cos(θg+θsw)*tanθsp}]・・・(2)
上記(2)式におけるパラメータ値は以下の通りである。
【0094】
a:グロープラグ・噴霧間角度
b:グロープラグ・噴霧間距離
d:グロープラグの中心軸と噴孔出口との距離
r:グロープラグの先端部半径
θsp:噴霧角
θsw:噴霧移動角
θg:グロープラグ取り付け角
先端部半径rはグロープラグ219の仕様により定まる固定値であり、距離dはエンジン200の仕様により定まる固定値である。グロープラグ取り付け角θgもまた、グロープラグ219が設置された状態では固定値である。
【0095】
一方、距離bは、グロープラグ219に対する噴霧の位置を規定する要素の一つであり、予め所望の値を設定することができる。本実施形態では、b≒0(b>0)、即ち、噴霧の目標位置は、グロープラグ219と殆ど隣接した位置となる。
【0096】
上記の過程を辿ると、結果的に、噴霧の位置を規定する他の一要素であるグロープラグ・噴霧間角度aは、噴霧角θsp及び噴霧移動角θswの関数となる。ここで、グロープラグ・噴霧間角度aの最適範囲は、予め実験的に、経験的に又は理論的に定めることができ(例えば55°〜70°)、最終的に、下流側噴霧の制御条件として噴霧角θsp及び噴霧移動角θswの関係を満たす目標噴射量Qtg、目標レール圧Pcrtg及び目標流速Vswtgを決定することができる。
【0097】
尚、上記例では、噴霧角θsp及び噴霧移動角θswを満たすように制御条件が決定されており、図7に例示されたペネトレーションPNは参照されない構成となっている。然るに、ペネトレーションPNが噴霧状態の一要素であることは変わりなく、例えば、ペネトレーションPNと噴霧角θspとを達成要素として制御条件が決定されてもよいし、ペネトレーションPNと噴霧移動角θswとを達成要素として制御条件が決定されても問題はない。
【0098】
上記(2)式に基づいた下流側噴霧の制御条件の算出は、先ず、噴射量Qのみを操作パラメータとして実行される。グロープラグ219に対する下流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q1が算出されると、ECU100は、噴射量Q1が制約の範囲内であるか否かを判別する(ステップS202)。
【0099】
この場合の制約とは、噴射量の物理的制約及び制御上の制約を意味しており、直噴インジェクタ370を多段階噴射させることにより実現可能な値であるか否かが主たる制約要件となる。エンジン200に要求される噴射量は、このような着火性向上の観点とは別に定まっており、要求噴射量を無視して制御条件を算出することに合理性はない。従って、制御条件としての噴射量が本来的な要求噴射量よりも小さい場合には、複数の噴孔を使用した多段階噴射により全体的な噴射量を確保する必要がある。逆に、制御条件としての噴射量が本来的な要求噴射量よりも大きい場合には、無条件に制約違反となる。
【0100】
噴射量Q1が制約を満たす場合(ステップS202:YES)、ECU100は、下流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q1に設定して(ステップS203)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q1が制約を満たさない場合(ステップS202:NO)、処理はステップS204に進められる。
【0101】
ステップS204では、噴射量Qとレール圧Pcrとを操作パラメータとして下流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する下流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q2及びレール圧Pcr2が算出された後、ECU100は、噴射量Q2及びレール圧Pcr2が制約の範囲内であるか否かを判別する。尚、レール圧Pcrの制約も、物理的制約と制御上の制約とを含んで規定される。
【0102】
噴射量Q2及びレール圧Pcr2が共に制約を満たす場合(ステップS204:YES)、ECU100は、下流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q2に設定し、また目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr2に設定して(ステップS205)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q2又はレール圧Pcr2或いはその両方が制約を満たさない場合(ステップS204:NO)、処理はステップS206に進められる。
【0103】
ステップS206では、噴射量Q、レール圧Pcr及びスワール流の流速Vswを操作パラメータとして下流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する下流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3が算出された後、ECU100は、噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3が制約の範囲内であるか否かを判別する。尚、流速Vswの制約も、物理的制約と制御上の制約とを含んで規定される。
【0104】
噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3が共に制約を満たす場合(ステップS206:YES)、ECU100は、下流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q3に設定し、目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr3に設定し、更にスワール流の目標流速Vswを流速Vsw3に設定して(ステップS207)、制御条件算出処理を終了する。
【0105】
一方、噴射量Q3、レール圧Pcr3及び流速Vsw3のうち少なくとも一つが制約を満たさない場合(ステップS206:NO)、処理はステップS300に進められ、上流側噴霧の制御条件算出処理が実行される。上流側噴霧の制御条件算出処理は、グロープラグ219に対する噴霧の位置を着火性向上の観点から設定された最適位置に維持するための、上流側噴霧の制御条件を算出するサブルーチンである。上流側噴霧とは、図5を参照すれば、グロープラグ219に対して噴射中心線(鎖線)がスワール方向上流側に位置する噴孔、即ち噴孔3712からの噴霧を意味する。尚、この場合、噴孔3712は、本発明に係る「気筒の内部を下面から見た場合の噴孔の中心軸線が、グロープラグに対しスワール流の方向を基準とした上流側において最も近接する上流側噴孔」の一例である。
【0106】
ここで、図9を参照し、上流側噴霧の制御条件算出処理の詳細について説明する。ここに、図9は、上流側噴霧の制御条件算出処理のフローチャートである。尚、図9において、図8と重複する箇所については、その説明を適宜省略することとする。
【0107】
図9において、ECU100は先ず、上流側噴霧の制御条件の算出を開始する(ステップS301)。
【0108】
上流側噴霧の制御条件を算出するプロセスもまた多義的であるが、ここでは上記下流側噴霧の制御条件を算出するプロセスと等しいものとする。
【0109】
上流側噴霧の制御条件の算出は、先ず、噴射量Qのみを操作パラメータとして実行される。グロープラグ219に対する上流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q4が算出されると、ECU100は、噴射量Q4が制約の範囲内であるか否かを判別する(ステップS302)。
【0110】
噴射量Q4が制約を満たす場合(ステップS302:YES)、ECU100は、上流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q4に設定して(ステップS303)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q4が制約を満たさない場合(ステップS302:NO)、処理はステップS304に進められる。
【0111】
ステップS304では、噴射量Qとレール圧Pcrとを操作パラメータとして上流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する上流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q5及びレール圧Pcr5が算出された後、ECU100は、噴射量Q5及びレール圧Pcr5が制約の範囲内であるか否かを判別する。
【0112】
噴射量Q5及びレール圧Pcr5が共に制約を満たす場合(ステップS304:YES)、ECU100は、上流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q5に設定し、また目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr5に設定して(ステップS305)、制御条件算出処理を終了する。一方、噴射量Q5又はレール圧Pcr5或いはその両方が制約を満たさない場合(ステップS304:NO)、処理はステップS306に進められる。
【0113】
ステップS306では、噴射量Q、レール圧Pcr及びスワール流の流速Vswを操作パラメータとして上流側噴霧の制御条件が算出される。グロープラグ219に対する上流側噴霧の位置を所望の位置に制御するための噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6が算出された後、ECU100は、噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6が制約の範囲内であるか否かを判別する。
【0114】
噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6が共に制約を満たす場合(ステップS306:YES)、ECU100は、上流側噴孔の目標噴射量Qtgを噴射量Q6に設定し、目標レール圧Pcrtgをレール圧Pcr6に設定し、更にスワール流の目標流速Vswを流速Vsw6に設定して(ステップS307)、制御条件算出処理を終了する。
【0115】
一方、噴射量Q6、レール圧Pcr6及び流速Vsw6のうち少なくとも一つが制約を満たさない場合(ステップS306:NO)、処理はステップS308に進められる。ステップS308では、下流側噴霧の制御範囲の境界値(Qlim、Pcrlim、Vsmlim)が制御範囲として決定される。ステップS308が実行されると、上流側噴霧の制御条件算出処理は終了する。
【0116】
図8又は図9に例示した処理において噴霧の制御条件が決定されると、ECU100は、制御条件に対応する装置、即ち、噴射量Qであれば直噴インジェクタ370を、レール圧Pcrであれば高圧ポンプ350を、また流速VswであればSCV208を夫々制御する。制御条件に対応する制御量は、予めマップ化されてROMに格納されているものとする。
【0117】
ここで、図10及び図11を参照し、このような噴霧の位置制御を視覚的に説明する。ここに、図10は、下流側噴霧に関する位置制御の概念図であり、図11は、上流側噴霧に関する位置制御の概念図である。尚、これら各図において、既出の各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0118】
図10において、図10(a)は、図5と同様、直噴インジェクタ370の燃料噴射弁371とグロープラグ219との平面視位置関係が示される。
【0119】
図10(b)は、実際の下流側噴霧FSrが、グロープラグ219に対して離れている(即ち、上述した距離bが大き過ぎる)場合の位置制御の概念が示される。即ち、このような場合、噴霧角θspが拡大され、下流側噴霧の目標位置が、図示目標下流側噴霧Fstg(破線参照)の位置に設定される。
【0120】
図10(c)は、実際の下流側噴霧FSrが、グロープラグ219に重なり過ぎている(即ち、上述した距離bが負値である)場合の位置制御の概念が示される。即ち、このような場合、流速Vswの増速により噴霧移動角θswが拡大され、下流側噴霧の目標位置が、図示目標下流側噴霧Fstg(破線参照)の位置に設定される。
【0121】
一方、図11において、図11(a)は、上流側噴孔たる噴孔3712からの噴霧(上流側噴霧)の位置制御において、燃料噴射弁371とグロープラグ219との位置関係を示した図である。
【0122】
図11(b)には、このような位置関係において、実際の上流側噴霧FSr(実線)が、グロープラグ219に対して離れている(即ち、上述した距離bが大き過ぎる)場合の位置制御の概念が示される。即ち、このような場合、流速Vswの増速により噴霧移動角θswが拡大され、上流側噴霧の目標位置が、図示目標下流側噴霧Fstg(破線参照)の位置に設定される。
【0123】
図6に戻り、制御条件算出処理(ステップS200)が終了すると、ECU100は、実際に気筒202内に目標噴霧が形成されているか否かを判定する(ステップS107)。制御条件算出処理における噴霧の位置制御は、一種のF/F制御であり、実際の噴霧の位置は反映されていない。従って、理論上は正しい位置制御が行われていたとしても、必ずしも実際の噴霧がグロープラグ219に対し望ましい位置を維持している保証はない。
【0124】
そこで、本実施形態では、グロープラグ219の駆動電流Igpに基づいて、グロープラグ219に対し噴霧(下流側噴霧又は上流側噴霧)が如何なる位置関係にあるかが判定される。
【0125】
ここで、図12を参照し、駆動電流Igpと噴霧の位置との関係について説明する。ここに、図12は、駆動電流Igpの時間特性を例示する図である。
【0126】
図12において、縦軸には駆動電流Igpが、また横軸には時間が示される。ここで、駆動電流Igpは、グロープラグ219と噴霧との位置関係に応じて、図示実線、破線及び細い破線の特性のように変化する。実線が噴霧位置Aにおける駆動電流Igpの時間特性であり、破線が噴霧位置Bにおける駆動電流Igpの時間特性であり、細い破線が噴霧位置Cにおける駆動電流Igpの時間特性である。
【0127】
ここで、図13を参照し、各噴霧位置について説明する。ここに、図13は、図12に例示された各噴霧位置を説明するための燃料噴射弁371の模式的な下面視平面図である。尚、同図において、図5と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0128】
図13において、噴霧位置A、B及びCは、夫々図13(a)、図13(b)及び図13(c)に対応している。即ち、噴霧位置Aとは、噴霧FSがグロープラグ219に重なる位置であり、噴霧位置Bは噴霧FSがグロープラグ219と隣接する(即ち、本実施形態では、目標とされる)位置であり、噴霧位置Cは噴霧FSがグロープラグ219と全く重ならない位置である。
【0129】
図12に戻り、図13を参照すれば、グロープラグ219の駆動電流Igpは、グロープラグ219と噴霧との重複範囲が大きくなる程上昇することが分かる。従って、駆動電流Igpを継続的に監視し、その時間変化率(時間勾配)を一定周期で算出することにより、実際の噴霧がグロープラグ219に対して如何なる位置に存在するのかを明確に把握することができる。ECU100は、実践的には、噴霧位置Bに対応する破線の時間特性における駆動電流Igpの時間変化率を基準値とし、時間変化率が当該基準値を含む一定の範囲にあれば、実際に噴霧が目標位置に維持できていると判定する。時間変化率が当該範囲を超えていれば、実際の噴霧はグロープラグ219に対して重なり過ぎであり、逆に時間変化率が当該範囲よりも小さければ、実際の噴霧はグロープラグ219から離れ過ぎていることになる。
【0130】
図6に戻り、目標噴霧が形成されていれば(ステップS107:YES)、ECU100は、冷間始動が終了したか否かを判別し(ステップS108)、冷間始動期間が終了していなければ(ステップS108:NO)、冷間始動期間が終了するまで処理を待機する。冷間始動期間が終了した場合(ステップS108:YES)、グロープラグ219はオフ制御され(ステップS109)、燃料噴射制御処理は終了する。
【0131】
一方、ステップS107において、目標噴霧が形成されていないと判定された場合(ステップS107:NO)、ECU100は、ステップS200において算出された制御条件を補正する(ステップS110)。補正後は、処理が再びステップS107に戻される。即ち、この補正は、目標噴霧が形成された旨の判定が下されるまで継続する。
【0132】
例えば、ECU100は、図12に例示された駆動電流Igpの時間特性から算出される駆動電流Igpの時間変化率が、所定範囲よりも大きい側に逸脱していれば、噴霧が目標位置よりもグロープラグ219側に寄っているものとして、噴霧とグロープラグ219との重複が回避される側へ、例えば噴霧角θspを減少させ、或いは噴霧移動角θswを増加又は減少(下流側噴霧か上流側噴霧かによって異なる)させる。
【0133】
一方、当該時間変化率が、所定範囲よりも小さい側に逸脱していれば、噴霧が目標位置よりもグロープラグ219から離れているものとして、噴霧がグロープラグ219に近づくように、例えば噴霧角θspを増大させ、或いは噴霧移動角θswを増加又は減少(下流側噴霧か上流側噴霧かによって異なる)させる。
【0134】
この際、グロープラグ219と噴霧との位置関係と、駆動電流Igpの時間変化率(尚、時間変化率は一例であり、例えばピーク値で比較してもよい)とは、一対一、一体多、多対一又は多対多に対応する。従って、駆動電流Igpから派生する指標値と基準値との偏差は、概ねグロープラグ219と噴霧との位置偏差として扱ってよい。
【0135】
以上説明したように、本実施形態に係る燃料噴射制御処理によれば、グロープラグ219に対する噴霧の位置制御に、燃料の動粘度が反映される。従って、燃料種の変化により静的粘度が変化した場合は勿論、同種の燃料で密度が変化した場合(例えば、レール圧Pcrが変化した場合)等においても、気筒内における燃料の噴霧特性を正確に推定することができる。更に、本実施形態によれば、グロープラグ219の駆動電流Igpがグロープラグ219と噴霧との位置関係により変化することを見出し、駆動電流Igpの時間特性から、気筒内の実際の噴霧位置を推定することを可能としている。更には、動粘度を反映して噴霧の位置制御条件を正確に決定することに加えて、実際の噴霧位置をこの位置制御条件の補正にフィードバックする構成となっている。従って、グロープラグ219が稼働状態におかれる顕著には冷間始動期間において、燃料の着火性を可及的に向上させ、極めて良好な始動性を実現することが可能となっているのである。
【0136】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う始動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、グロープラグを備えた圧縮自着火式内燃機関の始動制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0138】
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、202…気筒、208…スワール弁、219…グロープラグ、300…燃料噴射システム、330…フィードポンプ、350…高圧ポンプ、360…コモンレール、370…直噴インジェクタ、371…燃料噴射弁、3711、3712…噴孔、380…燃圧センサ、390…動粘度センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に形成される吸気スワール流の流速を制御可能なスワール弁と、
前記気筒内のガスに対し駆動電流に応じた熱エネルギを供与可能なグロープラグと、
前記気筒の筒内圧以上の燃圧で燃料を貯留可能な貯留手段と、
前記燃圧を制御可能な高圧ポンプと、
前記貯留された燃料を噴霧として気筒内へ噴射可能な噴射手段と
を備えた圧縮自着火式内燃機関における始動制御装置であって、
前記噴射される燃料の動粘度を特定する特定手段と、
前記グロープラグが使用される期間において、前記グロープラグに対する前記噴霧の位置が所望の位置となるように、前記特定された動粘度に基づいて、前記噴霧に係る噴霧特性を規定する、前記噴射手段、前記高圧ポンプ及び前記スワール弁のうち少なくとも一つの制御条件を決定する決定手段と、
前記決定された制御条件に従って前記少なくとも一つを制御する制御手段と、
前記駆動電流の特性に基づいて前記グロープラグに対する噴霧の位置を推定する推定手段と、
前記推定された位置と前記所望の位置との偏差に応じて前記決定された制御条件を補正する補正手段と
を具備することを特徴とする始動制御装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記燃料の噴射期間に対応する期間における前記駆動電流の変化の度合いに基づいて前記位置を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の始動制御装置。
【請求項3】
前記噴射手段の制御条件は前記燃料の噴射量であり、
前記高圧ポンプの制御条件は前記燃圧であり、
前記スワール弁の制御条件は前記流速であり、
前記決定手段は、(1)前記噴射量を決定し、(2)該決定された噴射量が制約を満たさない場合に、前記噴射量及び前記燃圧を決定し、(3)該決定された噴射量及び燃圧が制約を満たさない場合に、前記噴射量、燃圧及び流速を決定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の始動制御装置。
【請求項4】
前記噴射手段は、前記気筒の内部を下面から見た場合に前記気筒の内壁に沿って周状に配列してなる複数の噴孔を備え、
前記決定手段は、(1)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴孔の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした下流側において最も近接する下流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定すると共に、前記下流側噴孔に対応する噴霧について決定された制御条件が制約を満たさない場合には、(2)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴孔の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした上流側において最も近接する上流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の始動制御装置。
【請求項1】
気筒内に形成される吸気スワール流の流速を制御可能なスワール弁と、
前記気筒内のガスに対し駆動電流に応じた熱エネルギを供与可能なグロープラグと、
前記気筒の筒内圧以上の燃圧で燃料を貯留可能な貯留手段と、
前記燃圧を制御可能な高圧ポンプと、
前記貯留された燃料を噴霧として気筒内へ噴射可能な噴射手段と
を備えた圧縮自着火式内燃機関における始動制御装置であって、
前記噴射される燃料の動粘度を特定する特定手段と、
前記グロープラグが使用される期間において、前記グロープラグに対する前記噴霧の位置が所望の位置となるように、前記特定された動粘度に基づいて、前記噴霧に係る噴霧特性を規定する、前記噴射手段、前記高圧ポンプ及び前記スワール弁のうち少なくとも一つの制御条件を決定する決定手段と、
前記決定された制御条件に従って前記少なくとも一つを制御する制御手段と、
前記駆動電流の特性に基づいて前記グロープラグに対する噴霧の位置を推定する推定手段と、
前記推定された位置と前記所望の位置との偏差に応じて前記決定された制御条件を補正する補正手段と
を具備することを特徴とする始動制御装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記燃料の噴射期間に対応する期間における前記駆動電流の変化の度合いに基づいて前記位置を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の始動制御装置。
【請求項3】
前記噴射手段の制御条件は前記燃料の噴射量であり、
前記高圧ポンプの制御条件は前記燃圧であり、
前記スワール弁の制御条件は前記流速であり、
前記決定手段は、(1)前記噴射量を決定し、(2)該決定された噴射量が制約を満たさない場合に、前記噴射量及び前記燃圧を決定し、(3)該決定された噴射量及び燃圧が制約を満たさない場合に、前記噴射量、燃圧及び流速を決定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の始動制御装置。
【請求項4】
前記噴射手段は、前記気筒の内部を下面から見た場合に前記気筒の内壁に沿って周状に配列してなる複数の噴孔を備え、
前記決定手段は、(1)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴孔の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした下流側において最も近接する下流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定すると共に、前記下流側噴孔に対応する噴霧について決定された制御条件が制約を満たさない場合には、(2)前記複数の噴孔のうち、前記気筒の内部を下面から見た場合の前記噴孔の中心軸線が、前記グロープラグに対し前記スワール流の方向を基準とした上流側において最も近接する上流側噴孔に対応する前記噴霧について前記制御条件を決定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の始動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−24054(P2013−24054A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157118(P2011−157118)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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