説明

対地速度測定装置及び車両

【課題】 車両に既存の構成を利用して、対地速度を測定することができる対地速度測定装置及び車両を提供すること。
【解決手段】 複数の車輪の内の少なくとも1輪を自由転動させ(S15)、その自由転動する車輪の周速度を算出する(S16)。そして、その周速度に基づいて車両の対地速度を算出する(S17)。これにより、車両の対地速度を既存の構成を利用して安価に且つ安定して測定することができる。即ち、車両に既存の車輪を利用して対地速度を測定することができ、従来品のように、第5輪や光学センサなどの装置を別途設ける必要がない。その結果、部品コストや組み立てコストの低減を図り、安価に対地速度を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動可能に構成される複数の車輪と、それら複数の車輪の全部又は一部に回転駆動力を付与する車輪駆動装置とを有する車両に使用され、その車両の対地速度を測定する対地速度測定装置及び車両に関し、特に、車両に既存の構成を利用して、対地速度を測定することができる対地速度測定装置及び車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の対地速度を正確に測定するための技術としては、例えば、第5輪を車両後方に路面上を転動するように取り付け、車両の走行時における第5輪の回転数を計測することにより、その第5輪の回転数と外径とから車両の対地速度を求める技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、光学センサを車両の底面部に取付け、路面に対して送光した光と路面から反射した反射光とから対地速度を計測する技術も知られている(例えば、特許文献2)。また、光学センサの代わりに、電波式のセンサ、即ち、光よりも波長が十分に大きな電波を用いて対地速度を計測する技術も知られている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開平5−52710号公報
【特許文献2】特開2001−315630号公報
【特許文献3】特開2003−231460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した技術によれば、前者のように第5輪を利用する技術では、第5輪を車体に別途設ける必要があるため、その分、部品点数が増加して、部品コストや組み立てコストが嵩むという問題点があった。また、車両重量増による燃費・操安性能の悪化や構造の複雑化による信頼性の低下という問題点もあった。更に、第5輪によって、車両の外観が損なわれるという問題点もあった。そのため、一般の市販車に適用することは困難であった。
【0005】
一方、後者のように路面からの反射波を利用する技術では、路面状態に起因する測定ばらつきが大きいため、一般公道では、高精度な測定を安定して行うことができないという問題点があるばかりか、雨天時など路面が濡れている場合には、測定自体が不能になるという問題点があった。また、路面からの反射波を検出するべく、装置を車体の底部に設置する必要があるため、受光レンズの汚れや飛び石による損傷などにより、測定不能になるという問題点もあった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両に既存の構成を利用して、対地速度を測定することができる対地速度測定装置及び車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載の対地速度測定装置は、転動可能に構成される車輪と、前記車輪に回転駆動力を付与する車輪駆動装置とを有する車両に使用され、その車両の対地速度を測定するものであり、前記車輪が自由転動する際の周速度を算出する周速度算出手段と、その周速度算出手段により算出された前記自由転動する車輪の周速度に基づいて前記車両の対地速度を算出する対地速度算出手段とを備えている。
【0008】
請求項2記載の対地速度測定装置は、請求項1記載の対地速度測定装置において、前記車輪に回転駆動力を付与している車輪駆動装置に対し、前記車輪への回転駆動力の付与を解除させ、前記車輪を自由転動させる回転駆動力解除手段を備え、その回転駆動力解除手段は、前記車輪駆動装置から前記車輪に付与されている回転駆動力の値を徐々に減少させる。
【0009】
請求項3記載の対地速度測定装置は、請求項2記載の対地速度測定装置において、前記車輪が前記車両に複数設けられている場合に、前記車輪駆動装置からの回転駆動力の付与が前記回転駆動力解除手段によって解除される車輪を前記複数の車輪の内から選択する解除車輪選択手段を備え、その解除車輪選択手段は、前記複数の車輪の内の左右対称または対角線上の車輪を選択する。
【0010】
請求項4記載の対地速度測定装置は、請求項1から3のいずれかに記載の対地速度測定装置において、前記周速度算出手段は、少なくとも2輪の自由転動する車輪の周速度を算出し、前記対地速度算出手段は、前記周速度算出手段により算出された少なくとも2輪の周速度に基づいて前記車両の対地速度を算出する。
【0011】
請求項5記載の車両は、請求項1から4のいずれかに記載の対地速度測定装置を備えている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の対地速度測定装置によれば、自由転動する車輪の周速度を周速度算出手段により算出すると共に、その周速度算出手段により算出された自由転動する車輪の周速度に基づいて車両の対地速度を対地速度算出手段により算出するように構成したので、対地速度を既存の構成を利用して安価に且つ安定して測定することができるという効果がある。
【0013】
即ち、本発明によれば、車両に既存の車輪を利用して対地速度を測定することができ、従来品のように、第5輪や光学センサなどの装置を別途設ける必要がないので、部品コストや組み立てコストの低減を図り、安価に対地速度を測定することができるという効果がある。
【0014】
また、本発明によれば、第5輪や光学センサなどの装置を別途設ける必要がないので、車両重量増による燃費・操安性能の悪化や構造の複雑化による信頼性の低下を回避することができると共に、車両の外観が損なわれることも回避することができるという効果がある。
【0015】
更に、本発明によれば、自由転動する車輪の周速度に基づいて車両の対地速度を測定(算出)するので、回転駆動力が付与されている駆動輪の周速度から車両の対地速度を測定する場合と比較して、車輪と路面との間の滑りによる影響を最小限とすることができ、その結果、車両の対地速度を高精度に測定することができるという効果がある。
【0016】
また、このように、自由転動する車輪の周速度に基づいて車両の対地速度を測定(算出)する構成であれば、路面からの反射光を利用する従来の技術と比較して、路面状態に起因する測定ばらつきの縮小を図ることができるという効果がある。
【0017】
同様に、路面からの反射光を利用する従来の技術では、路面が濡れている場合や受光レンズの汚れ・飛び石による損傷などが生じた場合、測定自体が不能になるという不具合があったところ、本発明によれば、これらの不具合を未然に回避することができるという効果がある。
【0018】
請求項2記載の対地速度測定装置によれば、請求項1記載の対地速度測定装置の奏する効果に加え、車輪駆動装置から車輪への回転駆動力の付与を回転駆動力解除手段により解除し得るように構成した、即ち、必要な場合のみ車輪を自由転動させることができるので、対地速度を測定するために少なくとも1の車輪を車両の走行中に常に自由転動させておくことを不要とすることができるという効果がある。その結果、前記複数の車輪の内のより多くの車輪(例えば、全ての車輪)を駆動輪として活用して、駆動力の向上を図ることができるという効果がある。
【0019】
更に、本発明によれば、車輪に付与されている回転駆動力を解除する場合、かかる回転駆動力を一気に解除するのではなく、徐々に減少させるように構成したので、車輪に作用する慣性力の影響を低減して、路面に対する追従特性を向上させることができるという効果がある。これにより、車輪の回転速度を路面に対して早期に同期させるができ、その結果、車両の対地速度の測定を高効率かつ高精度に行うことができる。
【0020】
請求項3記載の対地速度測定装置によれば、請求項2記載の対地速度測定装置の奏する効果に加え、車輪駆動装置からの回転駆動力の付与が回転駆動力解除手段によって解除される車輪を複数の車輪の内から選択する解除車輪選択手段を備えると共に、その解除車輪選択手段が複数の車輪の内の左右対称の車輪または対角線上の車輪を選択するように構成したので、車両の挙動を安定に保ちつつ、車輪を自由転動させることができるという効果がある。
【0021】
即ち、複数(例えば、全て)の車輪に車輪駆動装置から回転駆動力が付与されている場合に、それら各車輪の内の1輪のみが自由転動される(即ち、回転駆動力が解除される)と、車両に作用する駆動力が全体として不均一となるため、バランスが悪化し(例えば、車両を回転させようとする回転モーメントが発生し)、車両の挙動の不安定化を招く。
【0022】
これに対し、本発明のように、左右対称の車輪又は対角線上の車輪を自由転動させる構成とすれば、車両に作用する駆動力をより均一化して、バランスを確保(車両を回転させようとする回転モーメントの発生を抑制)することができるので、車両の挙動を安定に保つことができる。
【0023】
なお、車両が例えば前輪、中間輪及び後輪をそれぞれ2輪ずつ合計6輪の車輪を有して構成されている場合であれば、上記した左右対称の車輪とは、前輪の2輪、中間輪の2輪又は後輪の2輪のいずれであっても良い。また、上記した対角線上の車輪としては、例えば、左の前輪と右の中間輪又は後輪との2輪、左の中間輪と右の前輪又は後輪との2輪、左の後輪と右の前輪又は中間輪との2輪のいずれであっても良い。これらいずれによっても、上述した効果を奏することができる。
【0024】
請求項4記載の対地速度測定装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の対地速度測定装置の奏する効果に加え、周速度算出手段が少なくとも2輪の自由転動する車輪の周速度を算出すると共に、その周速度算出手段により算出された少なくとも2輪の周速度に基づいて対地速度算出手段が車両の対地速度を算出するように構成したので、1輪だけの場合と比較して、より多くの情報に基づいて車両の対地速度を算出することができ、その結果、車両の対地速度をより高精度に算出することができるという効果がある。
【0025】
請求項5記載の車両によれば、請求項1から4のいずれかに記載の対地速度測定装置を備えている車両と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。また、図1では、全車輪2に所定の舵角が付与された状態が図示されている。
【0027】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2を独立に回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2を独立に操舵駆動するアクチュエータ装置4とを主に備え、走行時には、車輪2の路面に対するすべり速度を後述する制御装置100により制御することで、車輪2と路面との間の摩擦係数を増大させ、発進性能や制動性能、或いは、旋回性能の向上を図ることができるように構成されている。
【0028】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、これら前後輪2FL〜2RRは、ステアリング装置20,30により転舵可能に構成されている。
【0029】
なお、車輪2は、ゴム材料から主に構成されるタイヤと、そのタイヤを保持すると共にスチール、アルミニウム合金或いはマグネシウム合金などの金属材料から構成されるホイールとを備えており、ホイールが車輪駆動装置3の駆動軸に連結され、その駆動軸を介して、車輪駆動装置3からホイール(車輪2)に回転駆動力が伝達される。
【0030】
ステアリング装置20,30は、各車輪2を操舵するための操舵装置であり、図1に示すように、各車輪2を揺動可能に支持するキングピン21と、各車輪2のナックルアーム(図示せず)に連結されるタイロッド22と、そのタイロッド22にアクチュエータ装置4の駆動力を伝達する伝達機構部23とを主に備えて構成されている。
【0031】
アクチュエータ装置4は、上述したように、各車輪2を独立に操舵駆動するための操舵駆動装置であり、図1に示すように、4個のアクチュエータ(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)を備えて構成されている。運転者がハンドル51を操作した場合には、アクチュエータ装置4の一部(例えば、前輪2FL,2FRのみ)又は全部が駆動され、ハンドル51の操作量に応じた舵角が付与される。
【0032】
ここで、本実施の形態では、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRが電動モータで構成されると共に、伝達機構部23がねじ機構で構成される。電動モータが回転されると、その回転運動が伝達機構部23により直線運動に変換され、タイロッド22に伝達される。その結果、各車輪2がキングピン21を揺動中心として揺動駆動され、各車輪2に所定の舵角が付与される。
【0033】
車輪駆動装置3は、各車輪2を独立に回転駆動するための回転駆動装置であり、図1に示すように、4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)を各車輪2ごとに(即ち、インホイールモータとして)配設して構成されている。これにより、各車輪2の回転速度がそれぞれ独立に制御可能とされている。
【0034】
運転者がアクセルペダル53を操作した場合には、車輪駆動装置3から回転駆動力が各車輪2に付与され、各車輪2がアクセルペダル53の操作量に応じた回転速度で回転される。本発明では、この場合に、各車輪2の路面に対するすべり速度が後述する目標すべり速度に近づくようにする回転制御が行われる。なお、回転制御の詳細については、後述する。
【0035】
制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための制御装置であり、例えば、車輪駆動装置3とアクチュエータ装置4とを作動させ、車輪2の回転速度を制御することで、車輪2の回転制御を行う。ここで、図2を参照して、制御装置100の詳細構成について説明する。
【0036】
図2は、制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。制御装置100は、図2に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動モータ3等の複数の装置が接続されている。
【0037】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図5から図7に図示される各処理のフローチャート)や固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリであり、RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリである。
【0038】
ROM72には、図2に示すように、すべり速度テーブル72aが設けられている。すべり速度テーブル72aは、目標すべり速度の値を記憶したテーブルである。なお、目標すべり速度とは、車輪2の回転制御を行う際の目標値であり、CPU71は、車両1の走行中、各車輪2の路面に対するすべり速度が目標すべり速度に近づくように、各車輪2の回転速度を制御する。
【0039】
ここで、図3を参照して、すべり速度と摩擦係数との関係について説明する。図3は、すべり速度と摩擦係数との関係を示す図であり、本実施の形態における車輪2(タイヤ)の物性を用いて測定した結果が例示されている。なお、図3において、横軸は、車輪2の路面に対するすべり速度を示し、縦軸は、車輪2と路面との間の摩擦係数を示している。
【0040】
図3に示すように、車輪2と路面との間の摩擦係数は、すべり速度の値に応じて変化し、かつ、所定のすべり速度(本実施の形態では、1cm/s)で最大値を有する。
【0041】
そこで、本発明では、摩擦係数が最大となるすべり速度を予め測定すると共に、この測定値を目標すべり速度としてROM72(すべり速度テーブル72a)内に記憶しておき、車輪2の路面に対するすべり速度が目標すべり速度の値に近づくように、車輪2の回転速度を制御する。これにより、車輪2と路面との間の摩擦係数を増大させることができるので、制動・加速性能や旋回性能の向上を図ることができる。
【0042】
なお、従来のアンチロック制御では、上述したように、車輪2のスリップ率が非スリップ領域からスリップ領域へ移行する直前の値を取るように制御するが、この場合の目標スリップ率は、通常、0.2〜0.3程度である。これに対し、本発明の回転制御における目標すべり速度は、スリップ率に換算すれば、従来の目標スリップ率の1〜2桁小さな値に相当する。このような領域で車輪2の回転速度(すべり速度)を制御して、摩擦係数の増大を図るという技術は従来にない新規なものである。
【0043】
図2に戻って説明する。ROM72には、図2に示すように、駆動解除テーブル72bと駆動復帰テーブル72cとが設けられている。
【0044】
ここで、本発明では、車両1の走行中、いずれかの車輪2を自由転動させることで、その車輪2の周速度から車両1の対地速度を算出する。そのため、車輪2を自由転動させるべく、車輪駆動装置3から付与される回転駆動力を解除する必要がある。
【0045】
そこで、駆動解除テーブル72bには、車両1の対地速度を計測するべく、車輪駆動装置3から車輪2に付与されている回転駆動力を解除する際の解除速度が規定されている。一方、駆動復帰テーブル72cには、車両1の対地速度の計測が完了し、車輪駆動装置3から車輪2への回転駆動力の付与を再開する際の付与速度が規定されている。
【0046】
これら駆動解除テーブル72b及び駆動復帰テーブル72cの詳細について、図4を参照して説明する。図4(a)は、駆動解除テーブル72bの内容を模式的に図示した模式図であり、図4(b)は、駆動復帰テーブル72cの内容を模式的に図示した模式図である。
【0047】
なお、図4(a)及び図4(b)において、横軸は、回転駆動力の解除又は付与を開始してからの経過時間を示し、縦軸は、車輪駆動装置3から車輪2に付与される回転駆動力の大きさを示している。
【0048】
例えば、車輪2に付与される回転駆動力を解除する場合には、CPU71は、図4(a)に示す駆動解除テーブル72bから解除速度(即ち、経過時間に対する回転駆動力の変化率)を読み出し、その読み出した解除速度に基づいて、車輪駆動装置3を制御することで、車輪2に付与する回転駆動力を徐々に減少させる。
【0049】
このように、車輪2に既に付与されている回転駆動力を解除する場合には、かかる回転駆動力を一気に解除するのではなく、徐々に減少させることで、車輪2に作用する慣性力の影響を低減して、路面に対する追従特性を向上させることができる。これにより、車輪2と路面との同期を安定させると共に早めることができ、その結果、車両1の対地速度の測定を高効率かつ高精度に行うことができる。
【0050】
一方、車輪2への回転駆動力の付与を再開する場合には、CPU71は、図4(b)に示す駆動復帰テーブル72cから付与速度(即ち、経過時間に対する回転駆動力の変化率)を読み出し、その読み出した付与速度に基づいて、車輪駆動装置3を制御することで、車輪2に付与する回転駆動力を徐々に増加させる。
【0051】
このように、車輪2への回転駆動力の付与を再開する場合には、かかる回転駆動力を一気に付与するのではなく、徐々に増加させることで、上述した場合と同様に、車輪2に作用する慣性力の影響を低減して、路面に対する追従特性を向上させることができる。その結果、車両1の挙動の安定化を図ることができる。また、車輪駆動装置3に過大な回転駆動力を発揮させる必要がないので、駆動負担を抑制して、耐久性の向上を図ることができると共に、車輪駆動装置3の小型化を図ることもできる。
【0052】
図2に戻って説明する。車輪駆動装置3は、上述したように、各車輪2(図1参照)を回転駆動するための装置であり、各車輪2に回転駆動力を付与する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを備えている。
【0053】
また、アクチュエータ装置4は、上述したように、各車輪2を操舵駆動するための装置であり、各車輪2に操舵駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを備えている。
【0054】
舵角センサ装置31は、各車輪2の舵角を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2の舵角をそれぞれ検出する4個のFL〜RR舵角センサ31FL〜31RRと、それら各舵角センサ31FL〜31RRの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0055】
なお、本実施の形態では、各舵角センサ31FL〜31RRが各伝達機構部23にそれぞれ設けられ、その伝達機構部23において回転運動が直線運動に変換される際の回転数を検出する非接触式の回転角度センサとして構成されている。この回転数は、タイロッド22の変位量に比例するので、CPU71は、舵角センサ装置31から入力された検出結果(回転数)に基づいて、各車輪2の舵角を得ることができる。
【0056】
ここで、舵角センサ装置31により検出される舵角とは、各車輪2の中心線と車両1(車体フレームBF)の基準線とがなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度である。
【0057】
車輪回転速度センサ装置33は、各車輪2の回転速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2の回転速度をそれぞれ検出する4個のFL〜RR回転速度センサ33FL〜33RRと、それら各回転速度センサ33FL〜33RRの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0058】
なお、本実施の形態では、各回転センサ33FL〜33RRが各車輪2に設けられ、各車輪2の角速度を回転速度として検出する。即ち、各回転センサ33FL〜33RRは、各車輪2に連動して回転する回転体と、その回転体の周方向に多数形成された歯の有無を電磁的に検出するピックアップとを備えた電磁ピックアップ式のセンサとして構成されている。
【0059】
CPU71は、車輪回転速度センサ装置33から入力された各車輪2の回転速度と、各車輪2の外径とから、各車輪2の周速度を得ることができる。また、本発明では、後述するように、車輪2の周速度に基づいて、車両1の対地速度が算出される。なお、車両1の対地速度の算出方法については、後述する。
【0060】
図2に示す他の入出力装置35としては、例えば、ハンドル51、ブレーキペダル52及びアクセルペダル53(いずれも図1参照)の操作状態(回転角や踏み込み量、操作速度など)を検出するための操作状態検出センサ装置(図示せず)が例示される。
【0061】
例えば、アクセルペダル53が操作された場合には、その操作状態量が操作状態検出センサ装置により検出され、CPU71に出力される。CPU71は、車輪駆動装置3を駆動して、各車輪2の回転速度を制御する。
【0062】
次いで、図5から図7を参照して、制御装置100で実行される処理を説明する。図5は、回転制御処理を示すフローチャートである。この処理は、制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理であり、車輪2の路面に対するすべり速度を目標すべり速度に近づけることで、車輪2と路面との間の摩擦係数を増大させ、発進・制動性能や旋回性能の向上を図る。
【0063】
CPU71は、回転制御処理に関し、まず、車両1の対地速度を算出するべく、対地速度算出処理を実行する(S1)。ここで、図6を参照して、対地速度算出処理について説明する。
【0064】
図6は、対地速度算出処理を示すフローチャートである。CPU71は、この対地速度算出処理(S1)に関し、まず、車両1が走行中であるか否かを判断する(S11)。その結果、車両1が走行中でないと判断される場合には(S11:No)、車両1が停車中(対地速度が0)であり、対地速度を算出する必要がないので、この対地速度算出処理を終了する。
【0065】
一方、S11の処理において、車両1が走行中であると判断される場合には(S11:Yes)、次いで、複数(本実施の形態では4輪)の車輪2のうちで自由転動している車輪、即ち、車輪駆動装置3から回転駆動力が付与されていない車輪2が有るか否かを判断する(S12)。
【0066】
即ち、本発明では、上述したように、車両1の走行中に、いずれかの車輪2を自由転動させることで、その車輪2の周速度から車両1の対地速度を算出する。そのため、S12の処理において、自由転動している車輪2があると判断される場合(例えば、左右の後輪2RL,2RRのみを駆動輪として走行し、左右の前輪2FL,2FRが自由転動している場合)には(S12:Yes)、この既に自由転動している車輪2(即ち、左右の前輪2FL,2FR)を利用して、車両1の対地速度を算出することができる。
【0067】
よって、この場合には(S12:Yes)、車輪2を自由転動させるための処理であるS13からS15の処理をスキップして、S16の処理へ移行する。
【0068】
一方、S12の処理において、全ての車輪2が車輪駆動装置3により回転駆動されており、自由転動している車輪2はないと判断される場合には(S12:No)、まず、各車輪2の舵角を検出し(S13)、次いで、その検出結果に基づいて、自由転動させる車輪2を決定する(S14)。
【0069】
即ち、車両1が旋回中であると、各車輪2がスリップ角を有する(路面に対して滑動している)ため、本実施の形態では、車輪2のスリップ角による影響を最小限に抑制するべく、S13の処理の結果、舵角が付与されていない車輪2があれば、この車輪2を自由転動させる車輪に決定する(S14)。一方、S13の処理の結果、舵角が付与されていな車輪2がない場合、即ち、全ての車輪2が舵角を有している場合には、付与されている舵角の絶対値が小さい車輪2を自由転動させる車輪に決定する(S14)。
【0070】
例えば、車両1の旋回モードが、運転者によるハンドル51の操作により、前輪2FL,2FRのみに舵角を付与して旋回するモードであれば、これら前輪2FL,2FRよりも後輪2RL,2RRの方がスリップ角による影響が少ないと判断し、後輪2RL,2RRを自由転動転させる車輪に決定する(S14)。
【0071】
また、車両1の旋回モードが、運転者によるハンドル51の操作により、前後輪2FL〜2RRの全てに舵角を付与して旋回するモードであれば、これら前後輪2FL〜2RRの中で舵角の絶対値が小さい車輪を自由転動転させる車輪に決定する(S14)。これにより、車両1の対地速度をより高精度に算出することができる。
【0072】
なお、S14の処理では、自由転動させる車輪として決定される車輪2を2輪とし、かつ、この2輪は、左右の車輪2(左右の前輪2FL,2FR、又は、左右の後輪2RL,2RR)とすることが好ましい。なお、全ての車輪2に舵角が付与されている場合には、舵角の絶対値が最も小さい車輪2を含む左右の2輪とすることが好ましい。
【0073】
即ち、全ての車輪2が車輪駆動装置3により回転駆動されている場合に(S12:No)、それら各車輪2のうちの1輪のみが自由転動される(即ち、回転駆動力が解除される)と、車両1に作用する駆動力が全体として不均一となるため、バランスが悪化し(車両1を回転させようとする回転モーメントが発生し)、車両1の挙動の不安定化を招くところ、自由転動させる車輪を左右の2輪とすることで、バランスを確保して(車両1を回転させようとする回転モーメントの発生を抑制し)、車両1の挙動を安定に保つことができるからである。
【0074】
S14の処理において、自由転動させる車輪を決定した後は、これら決定した車輪2を自由転動させるべく、駆動解除及び復帰処理(S15)を実行し、車輪駆動装置3から付与されている回転駆動力を解除する。ここで、図7を参照して、駆動解除及び復帰処理について説明する。
【0075】
図7は、駆動解除及び復帰処理を示すフローチャートである。なお、この駆動解除及び復帰処理(S15)では、車輪2に付与されている回転駆動力の解除と、車輪2への回転駆動力の付与の再開とが行われる。
【0076】
CPU71は、駆動解除及び復帰処理(S15)に関し、まず、駆動解除か否かを判断する(S21)。即ち、車輪2に付与されている回転駆動力を解除するのか、或いは、車輪2への回転駆動力の付与を再開するのかを判断する。
【0077】
今回は、S14の処理の後に実行される処理であり、このS14の処理で決定された車輪2を自由転動させるべく、この車輪2に付与されている回転駆動力の付与を解除するための処理であるので、駆動解除であると判断される(S21:Yes)。
【0078】
よって、この場合には(S21:Yes)、S22の処理へ移行して、まず、駆動解除テーブル72bから解除速度を読み出し、次いで、その読み出した解除速度で車輪2に付与されている回転駆動力が徐々に減少するように、車輪駆動装置3を制御し(S22)、この駆動解除及び復帰処理を終了する。
【0079】
これにより、車輪2への回転駆動力の付与が解除され、かかる車輪2は、路面上を滑動することなく転動(自由転動)する。なお、このように、回転駆動力を徐々に減少させることで、上述した通り、自由転動となった車輪2の路面に対する追従特性が向上されるので、車輪2と路面との同期を安定させると共に早めることができ、車両1の対地速度の測定を高効率かつ高精度に行うことができる。
【0080】
図6に戻って説明する。駆動解除及び復帰処理(S15)により車輪2を自由転動させた後、或いは、既に自由転動する車輪2が有った場合(S12:Yes)には、まず、その自由転動する車輪2の回転速度を検出し(S16)、次いで、検出した車輪2の回転速度に基づいて、車両1の対地速度を算出する(S17)。
【0081】
具体的には、車輪2の回転速度を車輪回転速度センサ装置33により検出し(S16)、その検出された車輪2の回転速度と、ROM72に予め記憶される車輪2の外径とから、車輪2の周速度、即ち、車両1の対地速度を算出する(S17)。
【0082】
なお、自由転動車輪が2輪ある場合には、それら2輪の周速度(例えば、平均値)に基づいて、車両1の対地速度を算出することが好ましい。また、自由転動される車輪2が舵角を有する場合には、スリップ角を推定すると共に、そのスリップ角に基づいて車輪2の周速度を補正して、車両1の対地速度を算出することが好ましい。
【0083】
S17の処理により、車両1の対地速度を算出した後は、自由転動させるために回転駆動力の付与が解除された車輪2に対し、回転駆動力の付与を再開するべく、駆動解除及び復帰処理(S18)を実行し、この対地速度算出処理(S1)を終了する。
【0084】
図7を参照して、説明する。CPU71は、駆動解除及び復帰処理(S18)に関し、まず、駆動解除か否かを判断する(S21)。今回は、S17の処理の後に実行される処理であり、自由転動させるべく回転駆動力の付与が解除された車輪2に対し、回転駆動力の付与を再開する処理であるので、駆動解除ではないと判断される(S21:No)。
【0085】
よって、この場合には(S21:No)、S23の処理へ移行して、まず、駆動復帰テーブル72cから復帰速度を読み出し、次いで、その読み出した復帰速度で車輪2に付与される回転駆動力が徐々に増加するように、車輪駆動装置3を制御し(S23)、この駆動解除及び復帰処理を終了する。
【0086】
なお、S15の処理により回転駆動力の解除が行われていない場合(即ち、S12:Yesの場合)には、回転駆動力の付与を再開する処理を実行する必要はないので、S23の処理をスキップして、この駆動解除及び復帰処理を終了する。
【0087】
S23の処理により、車輪2への回転駆動力の付与が再開され、かかる車輪2は、駆動輪として機能する。なお、このように、回転駆動力を徐々に増加させることで、上述した通り、車両1の挙動の安定化を図ることができ、また、車輪駆動装置3の駆動負担を抑制して、耐久性の向上を図ることができると共に、車輪駆動装置3の小型化を図ることもできる。
【0088】
図5に戻って説明する。対地速度算出処理(S1)を実行し、車両1の対地速度を算出した後は、次いで、その算出した車両1の対地速度に基づいて、車輪2のすべり速度を算出する(S2)。
【0089】
具体的には、上述したように、車輪回転速度センサ装置33により検出された車輪2の回転速度とROM72に予め記憶される車輪2の外径とから車輪2の周速度を得ることができるので、その周速度と車両1の対地速度との差を取ることで、車輪2のすべり速度を算出することができる。
【0090】
次いで、すべり速度テーブル72aから目標すべり速度を読み出し(S3)、アクセルペダル53の操作状態を検出した後(S4)、駆動輪とされている車輪2のすべり速度が目標すべり速度となるように、車輪駆動装置3を制御して(S5)、この回転制御処理を終了する。
【0091】
これにより、車輪2と路面との間の摩擦係数を増大させて、車両1の発進性能、制動性能或いは旋回性能の向上を図ることができる。
【0092】
なお、アクセルペダル53の操作状態を検出した結果(S4)、車両1の加速が指示されている場合には、車輪2の周速度が車両1の対地速度よりも大きくなるように、車輪駆動装置3が制御される(S5)。これにより、車両1の加速が指示されているにも関わらず、車両1が減速されてしまうことを回避しつつ、路面と車輪2との間の摩擦係数を増大させることができる。
【0093】
一方、アクセルペダル53の操作状態を検出した結果(S4)、車両1の減速が指示されている場合には、車輪2の周速度が車両1の対地速度よりも小さくなるように、車輪駆動装置3が制御される(S5)。これにより、車両1の減速が指示されているにも関わらず、車両1が加速されてしまうことを回避しつつ、路面と車輪2との間の摩擦係数を増大させることができる。
【0094】
なお、図6に示すフローチャート(対地速度算出処理)において、請求項1記載の周速度算出手段としてはS16の処理が、対地速度算出手段としてはS17の処理が、請求項3記載の解除車輪選択手段としてはS14の処理が、図7に示すフローチャート(駆動解除及び復帰処理)において、請求項2記載の回転駆動力解除手段としてはS22の処理が、それぞれ該当する。
【0095】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0096】
例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0097】
また、上記実施の形態では、車両1の走行状態に関わらず、即ち、車両1が定速走行中であっても加減速中であっても、車輪2のすべり速度を目標すべり速度に近づける回転制御を実行する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、所定の条件を満たしている場合のみ、回転制御が実行されるように構成しても良い。なお、所定の条件を満たしている場合としては、例えば、車両1の加速度又は減速度が所定値以上となった場合や、車両1が旋回中である場合が例示される。
【0098】
また、上記実施の形態では、車両1の走行状態に関わらず、即ち、車両1が直進中であっても旋回中であっても、車両1の対地速度を算出するように構成したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、車両1が直進中である場合のみ対地速度を算出するように構成することは当然可能である。車両1が直進中であるか否かは、上述したように、車輪2の舵角に基づいて判断しても良く、或いは、加速度センサ装置(例えば、圧電素子を利用した圧電型センサ)を利用しても良い。
【0099】
また、上記実施の形態では、車両1の対地速度を算出するために自由転動させる車輪2としては左右の2輪とすることが好ましいと説明したが、自由転動させる車輪2の数は必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、1輪のみを、或いは、3輪以上を自由転動させることは当然可能である。同様に、自由転動させる車輪2が左右の2輪である必要は必ずしもなく、例えば、前後の2輪であっても良い。
【0100】
また、上記実施の形態では、各車輪2の外径が固定値データとしてROM72内に予め記憶されている場合を説明したが、かかる固定値データをEEPROMなどの書き替え可能な不揮発性のメモリに記憶させると共に、その固定値データの値を運転者等が任意に変更可能に構成しても良い。
【0101】
或いは、車輪2の累積回転回数(即ち、摩耗度合い)に応じて固定値データの値を補正する(即ち、摩耗分だけ外径を小さくする)補正手段を設けても良い。これらの構成により、車輪2が変更(いわゆるインチアップ)された場合や車輪2のトレッドが摩耗した場合などでも、車輪2の周速度(即ち、車両1の対地速度)をより高精度に算出することができる。
【0102】
また、上記実施の形態では、すべり速度テーブル72aに1種類の目標すべり速度のみが記憶される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、複数種類の目標すべり速度を記憶させておき、車輪2のすべり速度を制御する際には、S3の処理で読み出す目標すべり速度を適宜変更するように構成しても良い。これにより、車輪2と路面との間の摩擦係数をより高効率に増大させ、発進性能等のより一層の向上を図ることができる。
【0103】
例えば、路面又は車輪(タイヤ)2の温度別に複数種類の目標すべり速度をすべり速度テーブル72aに記憶させておき、車両1の走行中に路面又は車輪2の表面温度を測定しつつ、その表面温度に対応する目標すべり速度を読み出して、車輪2のすべり速度を制御するように構成しても良い。表面温度は、外気温から推定しても良く、或いは、非接触の温度センサ(赤外線センサなど)により計測しても良い。
【0104】
また、降雨の有無や降雨量別に複数種類の目標すべり速度をすべり速度テーブル72aに記憶させておき、車両1の走行中に降雨量を測定しつつ、その降雨の有無や降雨量に対応する目標すべり速度を読み出して、車輪2のすべり速度を制御するように構成しても良い。降雨量は、公知の雨量センサにより計測することができる。
【0105】
また、路面の種類別(例えば、アスファルトの物性別)に複数種類の目標すべり速度をすべり速度テーブル72aに記憶させておき、車両1の走行中に路面の種類を監視しつつ、その路面の種類に対応する目標すべり速度を読み出して、車輪2のすべり速度を制御するように構成しても良い。
【0106】
路面の種類は、非接触の光センサ装置を用いて推定しても良く、或いは、ナビゲーションシステムに予め路面の種類情報を位置情報に対応付けて記憶させておき、GPSから得られる車両1の位置情報を取得し、その位置情報に対応する路面の種類情報をナビゲーションシステムから取得するように構成しても良い。
【0107】
また、車輪(タイヤ)2の種類別(例えば、タイヤのトレッドを構成するゴム素材の物性別)に複数種類の目標すべり速度をすべり速度テーブル72aに記憶させておき、車両1に装着されている車輪2に対応する目標すべり速度を読み出して、車輪2のすべり速度を制御するように構成しても良い。車輪2の種類は、運転者により入力可能に構成することが好ましい。
【0108】
また、上述した種々の目標すべり速度を、単独で、或いは、組み合わせて、使用しても良い。
【0109】
また、上記実施の形態では、駆動解除テーブル72b及び駆動復帰テーブル72cに記憶される解除速度及び復帰速度(即ち、図4に示す直線の傾き)が一定値とされる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、解除速度及び復帰速度を変化させることは当然可能である。
【0110】
例えば、車両1の加減速度に応じて変化させる場合や路面状態に応じて変化させる場合などが例示される。具体的には、例えば、車両1の加減速度が大きいほど、回転駆動力の解除等を行う際に車輪2へ作用する慣性力の影響が大きいため、解除速度等を遅く設定することで、慣性力の影響を低減させる。同様に、路面の摩擦抵抗が大きいほど、回転駆動力の解除等を行う際に車輪2へ作用する慣性力の影響が大きいため、解除速度等を遅く設定することで、慣性力の影響を低減させる。
【0111】
また、上記実施の形態では、車両1が前後輪2FL〜2RRの4輪を備えて構成される場合を説明したが、車輪2の数は必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、3輪であっても良く、5輪以上であっても良い。
【0112】
また、上記実施の形態では、アクチュエータ装置4を電動モータで、伝達機構部23をねじ機構で、それぞれ構成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、アクチュエータ装置4を油圧・空圧シリンダーで構成しても良い。これにより、伝達機構部23を省略することができるので、構造を簡素化して、軽量化と部品コストの削減とを図ることができる。
【0113】
また、上記実施の形態では、ブレーキ装置(例えば、摩擦力を利用したドラムブレーキやディスクブレーキ)が車両1に設けられていない場合を説明したが、かかるブレーキ装置を車両1に設けることは当然可能である。
【0114】
また、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)をいわゆる回生ブレーキとして構成しても良い。回生ブレーキを作動させることにより発生する電力は、車輪駆動装置3を駆動するためのバッテリー装置(図示せず)に充填するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の一実施の形態における制御装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図2】制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図3】すべり速度と摩擦係数との関係を示す図である。
【図4】(a)及び(b)は、駆動解除テーブル及び駆動復帰テーブルの内容を模式的に図示する模式図である。
【図5】回転制御処理を示すフローチャートである。
【図6】対地速度算出処理を示すフローチャートである。
【図7】駆動解除及び復帰処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0116】
100 制御装置(対地速度測定装置)
1 車両
2 車輪
2FL 前輪(車輪、左車輪)
2FR 前輪(車輪、右車輪)
2RL 後輪(車輪、左車輪)
2RR 後輪(車輪、右車輪)
3 車輪駆動装置
3FL〜3RR FL〜RRモータ(車輪駆動装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動可能に構成される車輪と、前記車輪に回転駆動力を付与する車輪駆動装置とを有する車両に使用され、その車両の対地速度を測定する対地速度測定装置において、
前記車輪が自由転動する際の周速度を算出する周速度算出手段と、
その周速度算出手段により算出された前記自由転動する車輪の周速度に基づいて前記車両の対地速度を算出する対地速度算出手段とを備えていることを特徴とする対地速度測定装置。
【請求項2】
前記車輪に回転駆動力を付与している車輪駆動装置に対し、前記車輪への回転駆動力の付与を解除させ、前記車輪を自由転動させる回転駆動力解除手段を備え、
その回転駆動力解除手段は、前記車輪駆動装置から前記車輪に付与されている回転駆動力の値を徐々に減少させることを特徴とする請求項1記載の対地速度測定装置。
【請求項3】
前記車輪が前記車両に複数設けられている場合に、前記車輪駆動装置からの回転駆動力の付与が前記回転駆動力解除手段によって解除される車輪を前記複数の車輪の内から選択する解除車輪選択手段を備え、
その解除車輪選択手段は、前記複数の車輪の内の左右対称または対角線上の車輪を選択することを特徴とする請求項2記載の対地速度測定装置。
【請求項4】
前記周速度算出手段は、少なくとも2輪の自由転動する車輪の周速度を算出し、
前記対地速度算出手段は、前記周速度算出手段により算出された少なくとも2輪の周速度に基づいて前記車両の対地速度を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の対地速度測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の対地速度測定装置を備えていることを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−327242(P2006−327242A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149539(P2005−149539)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】