説明

導電性ゴム部材

【課題】 電気抵抗値が低く、且つ環境特性や耐汚染性に優れた導電性ゴム部材を提供する。
【解決手段】 エピクロルヒドリン系ゴムを主体とするゴム基材と、加硫剤として、チオウレア系加硫剤とチウラム系加硫剤とを少なくとも含み且つ硫黄を含まないゴム組成物を硬化・成形した導電性弾性層からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式複写機及びプリンター、又はトナージェット式複写機及びプリンター等の画像形成装置に用いられる帯電ロール、転写ロール、現像ロール、トナー供給ロール、クリーニングロール等の導電性ロールや、クリーニングブレード、転写ベルト等に好適な導電性ゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機及びプリンターなどの画像形成装置の導電性ロールには、感光体等への非汚染性、導電性等が要求される。
【0003】
そこで、本出願人は、エピクロルヒドリン系ゴム基材からなる弾性層に、イソシアネート化合物を含む処理溶液により表面処理を施した導電性ロール(特許文献1〜3参照)を提案している。
【0004】
しかしながら、より低い電気抵抗値を得るためにイオン導電剤を多量に配合した場合は、硬化処理により表面処理層を設けたとしても、電気抵抗値の環境依存性が大きくなったり、イオン導電剤がブリードアウトして感光体を汚染したりする可能性があった。
【0005】
また、イオン導電剤のブリード防止や、圧縮永久ひずみ及び研磨加工性の向上の目的で硫黄や硫黄を含有する加硫促進剤を増量した場合には、電気抵抗値が高くなってしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3444391号公報
【特許文献2】特開2004−191960号公報
【特許文献3】特開2004−191961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、電気抵抗値が低く、且つ環境特性や耐汚染性に優れた導電性ゴム部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、エピクロルヒドリン系ゴムを主体とするゴム基材と、加硫剤として、チウラム系加硫剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫剤からなる群から選択される少なくとも1つと、チオウレア系加硫剤とを含み且つ硫黄を含まないゴム組成物を硬化・成形した導電性弾性層を具備することを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム組成物は導電性付与剤を含まず、前記導電性弾性層はNN環境(25℃、50%RH)下、印加電圧100Vで測定される電気抵抗値が5.0×10〜5.0×10Ωの範囲であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム組成物は導電性付与剤を含まず、前記導電性弾性層はLL環境(10℃、30%RH)からHH環境(35℃、85%RH)に変化させた際に、印加電圧100Vで測定される電気抵抗値(Ω)の変化が1.5桁以下であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記エピクロルヒドリン系ゴムは、エピクロルヒドリンと、アルキレンオキサイド及びアリルグリシジルエーテルから選択される少なくとも1つとの共重合体であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性層の表層部は、少なくともイソシアネート成分及び有機溶媒を含有する表面処理液を含浸させて形成した表面処理層となっていることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0013】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記表面処理液がカーボンブラック、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマーから選択される少なくとも一つを含有することを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0014】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材がロール形状、ブレード形状、又はベルト形状であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、硫黄を配合せずに、チオウレア系加硫剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫剤の少なくとも一方と、チウラム系加硫剤とを併用することにより、電気抵抗値が低く、且つ環境特性や耐汚染性に優れた導電性ゴム部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】試験例1の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の導電性ゴム部材は、エピクロルヒドリン系ゴムを主体とするゴム基材と、チウラム系加硫剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫剤からなる群から選択される少なくとも1つと、チオウレア系加硫剤とを含み、且つ硫黄を含まないゴム組成物を硬化・成形した導電性弾性層からなり、イオン導電剤やカーボンブラック等の導電性付与材を用いることなく、低い電気抵抗値を実現するものである。イオン導電剤や硫黄等がブリードアウトしたり、温度や湿度、印加電圧の変化により電気抵抗値が変化したりする虞がなく、耐汚染性に優れ、環境特性に優れたものとなる。
【0018】
かかるゴム組成物は、加硫剤として、チウラム系加硫剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫剤からなる群から選択される少なくとも1つと、チオウレア系加硫剤とを併用し、硫黄は用いないものである。
【0019】
ゴム組成物は、エピクロルヒドリン系ゴムと、チオウレア系加硫剤と、チウラム系加硫剤とを少なくとも含むものであり、エピクロルヒドリン系ゴムの塩素の部分(及び炭素−炭素二重結合を含む場合はこの部分)と、チオウレア系加硫剤と、チウラム系加硫剤とが反応することにより架橋が進行する。このとき、加熱によりチウラム系加硫剤から硫黄が放出され、この硫黄を放出したチウラム系加硫剤は、エピクロルヒドリン系ゴムから放出される塩素と塩を形成する。また、チウラム系加硫剤は、ゴム組成物に含まれる金属塩(例えば、亜鉛華)及び放出された硫黄と反応して、ゴム分子に結合したペンダントを形成する。なお、ここでいうペンダントとは、エピクロルヒドリン系ゴムの分子鎖に窒素原子の非共有電子対(ローンペア)を有するチウラム系加硫剤の残渣がぶら下がった状態のことをいう。このポリマー構造や塩が導電剤のような作用をするためか、導電性ゴム部材は、電気抵抗値が低くなる。なお、ゴム組成物にチオウレア系加硫剤及びチウラム系加硫剤のいずれか一方を単独で用いると、低い電気抵抗値とすることができない。また、ゴム組成物に硫黄を配合すると架橋密度が上がり、結果として電気抵抗値が上昇してしまう。
【0020】
また、導電性ゴム部材は、チオウレア系加硫剤と、チウラム系加硫剤とを併用することにより、所望の硬度で且つ耐汚染性に優れたものとなる。具体的には、チオウレア系加硫剤を配合することにより所望の硬度となり、チウラム系加硫剤を配合することにより耐汚染性に優れたものとすることができる。
【0021】
本発明にかかるゴム基材は、エピクロルヒドリン系ゴムを主体とするものである。エピクロルヒドリン系ゴムは、エピクロルヒドリンと、アルキレンオキサイド及びアリルグリシジルエーテルのから選択される少なくとも1つとの共重合体であることが好ましく、具体的には、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体やその誘導体から選択される少なくとも1つであることが好ましい。なお、これらは、勿論、併用してもよい。エピクロルヒドリン系ゴムとして、三元系を用いる場合には、チウラム系加硫剤から放出する硫黄がエピクロルヒドリン系ゴムの炭素−炭素二重結合と反応して硫黄架橋するためか、耐汚染性が特に優れたものとなる。また、二元系を用いる場合には、三元系を用いた場合よりもより電気抵抗値の低い導電性ゴム部材を得ることができる。
【0022】
ゴム基材は、上記エピクロルヒドリン系ゴムを主体とするものであればよく、適宜、他のゴム材料をブレンドしてもよい。ブレンドできるゴム基材としては、エピクロルヒドリン単独重合体、ポリウレタン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンゴム(SBR)等を挙げることができる。
【0023】
チオウレア系加硫剤としては、具体的には、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、ジブチルチオウレア、ジフェニルチオウレア、トリメチルチオウレア等が挙げられ、特にエチレンチオウレアやトリメチルチオウレアなどの分子量が比較的小さいものは反応性が高く、好ましい。
【0024】
チウラム系加硫剤としては、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)、TETD(テトラエチルチウラムジスルフィド)、TBTD(テトラブチルチウラムジスルフィド)、DPTT(ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド)、TBZTD(テトラベンジルチウラムジスルフィド)等が挙げられる。ブルームする虞が高くなるが、電気抵抗値を低下させるという面では、分子量が比較的小さいものが好ましく、特に、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)及びTETD(テトラエチルチウラムジスルフィド)が好ましい。
【0025】
また、チウラム系加硫剤の代わりに、ジチオカルバミン酸塩系加硫剤を配合してもよい。ジチオカルバミン酸塩系加硫剤は、チウラム系加硫剤の反応残渣と同じ構造を持つ金属塩であり、チウラム系加硫剤を用いた場合と同様に、ゴム分子に結合してペンダントを形成したり、エピクロルヒドリン系ゴムから放出される塩素と塩を形成したりするため、同様の効果が得られる。ジチオカルバミン酸塩系加硫剤としては、ZnMDC(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、ZnEDC(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)、CuMDC(ジメチルジチオカルバミン酸銅)、NaEDC(ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム)などが挙げられる。
【0026】
また、ジチオカルバミン酸塩系加硫剤と、チウラム系加硫剤とを併用してもよい。
【0027】
ゴム基材100質量部に対して、チオウレア系加硫剤は0.3〜5質量部、チウラム系加硫剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫剤の総量は0.1〜5質量部となるように配合するのが好ましい。また、チオウレア加硫剤と、チウラム系加硫剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫剤の総量との配合割合は、例えば、質量比が5:1〜1:1となるようにするのが好ましい。
【0028】
かかるゴム組成物は、亜鉛華を含むのが好ましい。圧縮永久ひずみを低減すると共に、低抵抗を維持することができるためである。
【0029】
かかるゴム組成物は、モルホリン・ジスルフィドを含むのが好ましい。圧縮永久ひずみを低減すると共に、研磨加工等の加工成形性が良好となるためである。
【0030】
また、ゴム組成物は、トリアジン化合物を含むことが好ましく、具体的には、2,3,6−トリメルカプト−S−トリアジン等が挙げられる。トリアジン化合物を含むことにより、加硫が促進され、加硫時間を短縮することができる。
【0031】
上述したゴム組成物を硬化・成形して得られる導電性弾性層は、NN環境(25℃、50%RH)下、印加電圧100Vで測定される電気抵抗値が5.0×10〜5.0×10、好ましくは、5.0×10〜5.0×10Ωである。また、この導電性弾性層は、LL環境(10℃、30%RH)からHH環境(35℃、85%RH)に変化させた際に、印加電圧100Vで測定される電気抵抗値(Ω)の変化が1.5桁以下となる。
【0032】
本発明の導電性ゴム部材は、イオン導電剤やカーボンブラック等の導電性付与材を用いることなく、低い電気抵抗値とすることができるが、イオン導電剤やカーボンブラック等を配合して電気抵抗値をさらに低下させるようにしてもよい。このとき、上記ゴム組成物に少量のイオン導電剤やカーボンブラックを配合することで電気抵抗値がより低下する。すなわち、本発明にかかるゴム組成物に従来よりも少量のイオン導電剤やカーボンブラックを配合することにより、導電性弾性層は所望の電気抵抗値を得ることができる。具体的には、ゴム基材100質量部に対し、イオン導電剤を1質量部以下の配合で、電気抵抗値がさらに半桁程度低下する。
【0033】
導電性付与材を配合する場合は、各種カーボンブラックが好ましいが、金属粉などの電子導電性付与材や、イオン導電付与材、又はこれらの両者を混合して用いることができる。イオン導電付与材としては、有機塩類、無機塩類、金属錯体、イオン性液体等が挙げられる。有機塩類、無機塩類としては、過塩素酸リチウム、4級アンモニウム塩、三フッ化酢酸ナトリウムなどが挙げられる。また、金属錯体としては、ハロゲン化第二鉄−エチレングリコールなどを挙げることができ、具体的には、特許第3655364号公報に記載されたジエチレングリコール−塩化第二鉄錯体などを挙げることができる。一方、イオン性液体は、室温で液体である溶融塩であり、常温溶融塩とも呼ばれるものであり、特に、融点が70℃以下、好ましくは30℃以下のものをいう。具体的には、特開2003−202722号公報に記載された1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムトリフルオロメチルスルフォニル)イミドなどを挙げることができる。
【0034】
本発明の導電性ゴム部材は、導電性弾性層の表層部が、少なくともイソシアネート成分及び有機溶媒を含有する表面処理液を含浸させて形成した表面処理層となっていてもよい。
【0035】
ここで、表面処理液は、有機溶剤に、少なくともイソシアネート成分を溶解させたものである。
【0036】
表面処理液に含まれるイソシアネート成分としては、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4'−ジイソシアネート(TODI)などのイソシアネート化合物、及び前記の多量体及び変性体などを挙げることができる。さらに、ポリオールとイソシアネートからなるプレポリマーを挙げることができる。
【0037】
また、表面処理液には、ポリエーテル系ポリマーを含有させてもよい。ここで、ポリエーテル系ポリマーは、有機溶剤に可溶であるのが好ましく、また、活性水素を有して、イソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものが好ましい。
【0038】
活性水素を有する好適なポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、エピクロルヒドリンゴムが挙げられる。ここでいうエピクロルヒドリンゴムは未加硫状態のものを指す。エピクロルヒドリンゴムは、表面処理層に導電性と共に弾性を付与することができるため好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムは、末端に活性水素(水酸基)を有しているが、ユニットに水酸基、アリル基などの活性水素を有しているものも好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体やその誘導体などを挙げることができる。
【0039】
活性水素を有する他の好適なポリエーテル系ポリマーとしては、水酸基又はアリル基を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリオール、グリコール等が挙げられる。このようなポリエーテル系ポリマーは活性水素を有する基を両末端に備えたものよりも片末端にのみ備えたものが好ましい。また、数平均分子量が300〜1000であることが好ましい。表面処理層に弾性を付与することができるためである。このようなポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル、ポリアルキレングリコールジメチルエーテル、アリル化ポリエーテル、ポリアルキレングリコールジオール、ポリアルキレングリコールトリオール等を挙げることができる。
【0040】
このように表面処理液にポリエーテル系ポリマーを添加することで、表面処理層の柔軟性や強度が向上し、その結果、所望のロールの表面が磨耗したり、当接する感光体表面を傷つけたりする虞がなくなる。
【0041】
また、表面処理液には、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーから選択されるポリマーを含有させてもよい。
【0042】
本発明の表面処理液に用いられるアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものである。アクリルフッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【0043】
また、表面処理液には、導電性付与材としてさらにアセチレンブラック、ケッチェンブラック、トーカブラック等のカーボンブラックを添加してもよい。本発明にかかる導電性弾性層は、少量のカーボンブラックにより電気抵抗値が低下するので、表面処理液におけるカーボンブラックの配合量は少なくてよい。
【0044】
また、表面処理液中のアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、イソシアネート成分に対し、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーの総量を10〜70質量%となるようにするのが好ましい。10質量%より少ないとカーボンブラック等を表面処理層中に保持する効果が小さくなる。一方、ポリマー量が70質量%より多いと、電気抵抗値が上昇し放電特性が低下するという問題や、相対的にイソシアネート成分が少なくなって有効な表面処理層が形成できないという問題がある。
【0045】
さらに、表面処理液は、イソシアネート成分、及び必要に応じて含有されるこれらポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーを溶解する有機溶剤を含有する。有機溶剤としては特に限定されないが、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン等の有機溶剤を用いればよい。
【0046】
表面処理層は、導電性弾性層を表面処理液に浸漬させる又は表面処理液をスプレー塗布などにより塗布し、乾燥硬化させることにより形成することができる。表面処理液が導電性弾性層の表層部に含浸されて、導電性弾性層と一体的に設けられた表面処理層となる。このような表面処理層は、主にイソシアネート成分が硬化して形成されたもので、イソシアネート成分の密度が表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成される。従って、より導電性ゴム部材表面への汚染物質のブリードを防ぐことができるため、感光体への非汚染性に優れた導電性ゴム部材となる。
【0047】
本発明にかかる導電性ゴム部材は、例えば、ロール、ブレード、ベルト等に好適なものであり、帯電ロール、転写ロール、現像ロール、トナー供給ロール、クリーニングロールや、クリーニングブレード、転写ベルト等に特に好適である。
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
<ロールの製造>
エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(EPION301;ダイソー社製)100質量部に、亜鉛華5質量部、ステアリン酸2質量部、チオウレア系加硫剤(アクセル22−S;川口化学工業社製)1質量部、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)1質量部をそれぞれ添加してロールミキサーで混練りし、直径6mmの芯金の表面にプレス成形及び外表面研磨することにより、厚さ1.5mm、直径9mmに研磨加工して、ロール部材を得た。このロール部材を実施例1の導電性ロールとした。
【0050】
(実施例2)
<表面処理液の調製>
酢酸エチル100質量部に、イソシアネート化合物(MDI)20質量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0051】
<ロールの表面処理>
表面処理液を23℃に保ったまま、実施例1のロール部材を60秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例2の導電性ロールとした。
【0052】
(実施例3)
実施例2において、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)1質量部の代わりにTETD(テトラエチルチウラムジスルフィド)1質量部を用いて、実施例3の導電性ロールを得た。
【0053】
(実施例4)
実施例2において、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)1質量部の代わりにTBTD(テトラブチルチウラムジスルフィド)1質量部を用いて、実施例4の導電性ロールを得た。
【0054】
(実施例5)
実施例2において、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)1質量部の代わりにDPTT(ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド)1質量部を用いて、実施例5の導電性ロールを得た。
【0055】
(実施例6)
実施例2において、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(EPION301;ダイソー社製)100質量部の代わりにエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体(エピクロマーD;ダイソー社製)を100質量部用いて、実施例6の導電性ロールを得た。
【0056】
(実施例7)
<表面処理液の調製>
酢酸エチル100質量部、アセチレンブラック(電気化学社製)4質量部、及びアクリルフッ素系ポリマー(モディパーF600;日本油脂社製)2質量部をボールミルで3時間分散混合した後、イソシアネート化合物(MDI)20質量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0057】
<ロールの表面処理>
表面処理液を23℃に保ったまま、実施例1のロール部材を60秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例7の導電性ロールとした。
【0058】
(実施例8)
<表面処理液の調製>
酢酸エチル100質量部、アセチレンブラック(電気化学社製)4質量部、及びアクリルシリコーン系ポリマー(モディパーFS700;日本油脂社製)2質量部をボールミルで3時間分散混合した後、イソシアネート化合物(MDI)20質量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0059】
<ロールの表面処理>
表面処理液を23℃に保ったまま、実施例1のロール部材を60秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例8の導電性ロールとした。
【0060】
(実施例9)
実施例7において、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)1質量部の代わりにTETD(テトラエチルチウラムジスルフィド)1質量部を用いて、実施例9の導電性ロールを得た。
【0061】
(比較例1)
実施例2において、チオウレア系加硫剤を用いず、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)3質量部を配合して、比較例1の導電性ロールを得た。
【0062】
(比較例2)
実施例6において、DPTTを用いず、チオウレア系加硫剤1.5質量部を配合して、比較例2の導電性ロールを得た。
【0063】
(比較例3)
実施例2において、チオウレア加硫剤1質量部の代わりに硫黄1質量部を用い、さらにMBTS(ジベンゾチアゾール・ジスルフィド)及びイオン導電剤(過塩素酸アンモニウム塩)1質量部を配合して、比較例3の導電性ロールを得た。
【0064】
(比較例4)
比較例2において、イオン導電剤(過塩素酸アンモニウム塩)1質量部を配合して、比較例4の導電性ロールを得た。
【0065】
(比較例5)
比較例3において、さらに、チオウレア系加硫剤1質量部を配合し、イオン導電剤(過塩素酸アンモニウム塩)を1.2質量部として、比較例5の導電性ロールを得た。
【0066】
(試験例1)電気抵抗測定
各実施例及び各比較例の導電性ロールについて、電気抵抗値を測定した。図1に示すように、導電性ロール10をSUS304板からなる電極部材40の上に載置し、芯金11の両端に100g荷重をかけた状態で、芯金11と電極部材40との間の電気抵抗値を、LL環境(10℃、30%RH)、NN環境(25℃、50%RH)、及びHH環境(35℃、85%RH)にて、ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A(株式会社アドバンテスト製)を用いて測定した。なお、このときの印加電圧はDC−100Vであった。結果を表1及び表2に示す。
【0067】
(試験例2)画像評価
各実施例及び各比較例の導電性ロールを帯電ロールとして、市販のプリンター(MICROLINE9600PS 株式会社沖データ製)に実装し、LL環境(10℃、30%RH)、NN環境(25℃、50%RH)、及びHH環境(35℃、85%RH)の下で印刷を行い、その印刷物の画像評価を行った。なお、画像が良好であった場合は○、画像が不良であった場合は×とした。「画像が不良」とは濃度ムラや劣化などが見られる状態を指す。また、LL環境からHH環境における電気抵抗値の変化から、環境依存性を評価した。この結果を表1及び表2に示す。
【0068】
(試験例3)OPC汚染試験
実施例2〜6及び各比較例の導電性ロールを帯電ロールとして、市販のレーザープリンターのトナーカートリッジに組付けて感光体に500gfの押圧力で当接させ、カートリッジごと50℃、90%RHの環境に30日間保持した後、カートリッジ及び帯電ロールをプリンターに組付けて画像を出力した。このときの当接させていたOPCの表面を顕微鏡観察した。この結果を表1及び表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
(結果のまとめ)
実施例1〜9のロール部材はいずれも研磨加工性が良好であったのに対し、チオウレア系加硫剤を配合していない比較例1及び比較例3のロール部材は、硬度が低かったためか研磨加工性が悪かった。
【0072】
実施例1の導電性ロールは、いずれの環境においても電気抵抗値が低かった。表面処理を行なった実施例2の導電性ロールは、いずれの環境においてもチオウレア系加硫剤を配合していない比較例1の導電性ロールよりも電気抵抗値が低かった。また、実施例6の導電性ロールは、いずれの環境においてもチウラム系加硫剤を配合していない比較例2の導電性ロールよりも電気抵抗値が低かった。これより、チオウレア系加硫剤と、チウラム系加硫剤とを併用することにより、電気抵抗値が低下するということがわかった。
【0073】
さらに、分子量の低いTMTD又はTETDを用いた実施例1〜3及び6は、特に低い電気抵抗値となった。
【0074】
また、実施例2の導電性ロールは、硫黄等にイオン導電剤を配合して形成した比較例3及び比較例5の導電性ロールと同程度又はそれ以下の電気抵抗値であった。
【0075】
実施例1〜6の導電性ロールは、LL環境、NN環境、HH環境のいずれにおいても電気抵抗値にほとんど変化がなく、環境特性に優れたものであった。また、表面処理液にカーボンブラックを配合した実施例7〜8及び9の導電性ロールは、それぞれ実施例2及び3の導電性ロールよりもさらに環境特性に優れたものであった。
【0076】
これに対し、チオウレア系加硫剤又はチウラム系加硫剤の一方のみを配合した比較例1及び2の導電性ロールは、電気抵抗値がHH環境において大きく低下し、LL環境において大きく上昇した。一方、イオン導電剤を配合した比較例3〜5の導電性ロールは、LL環境において大きく上昇した。このように比較例1〜5の導電性ロールは、いずれも環境依存性が大きいものであった。
【0077】
LL環境において電気抵抗値が大きく上昇した比較例1及び2の導電性ロールは、LL環境における印刷物の画像が不良であった。また、比較例1は、研磨加工性が悪かったため、各環境下における印刷物の画像には研磨目模様が見られた。イオン導電剤を配合した比較例3の導電性ロールは、比較例1に比べて環境依存性が小さかったものの、研磨加工性が悪かったために、各環境下における印刷物の画像には研磨目模様が見られた。
【0078】
チオウレア系加硫剤のみを配合し、チウラム系加硫剤を配合していない比較例2及び4の導電性ロールは、OPCの表面に汚染が確認された。これに対し、チオウレア系加硫剤及びチウラム系加硫剤を併用した実施例2〜9の導電性ロールは、OPCの表面は良好であった。一方、チオウレア系加硫剤及びチウラム系加硫剤に硫黄を配合し、電気抵抗値を下げるためにイオン導電剤を添加した比較例5の導電性ロールは、OPCの表面に汚染が確認された。
【0079】
また、3元系のエピクロルヒドリン系ゴムを用いた実施例1〜5及び7〜9の導電性ロールは、2元系のエピクロルヒドリン系ゴムを用いた実施例6の導電性ロールよりもさらに耐汚染性に優れるものであった。
【符号の説明】
【0080】
10 導電性ロール
11 芯金
40 電極部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピクロルヒドリン系ゴムを主体とするゴム基材と、加硫剤として、チウラム系加硫剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫剤からなる群から選択される少なくとも1つと、チオウレア系加硫剤とを含み且つ硫黄を含まないゴム組成物を硬化・成形した導電性弾性層を具備することを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム組成物は導電性付与剤を含まず、前記導電性弾性層はNN環境(25℃、50%RH)下、印加電圧100Vで測定される電気抵抗値が5.0×10〜5.0×10Ωの範囲であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム組成物は導電性付与剤を含まず、前記導電性弾性層はLL環境(10℃、30%RH)からHH環境(35℃、85%RH)に変化させた際に、印加電圧100Vで測定される電気抵抗値(Ω)の変化が1.5桁以下であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記エピクロルヒドリン系ゴムは、エピクロルヒドリンと、アルキレンオキサイド及びアリルグリシジルエーテルから選択される少なくとも1つとの共重合体であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性層の表層部は、少なくともイソシアネート成分及び有機溶媒を含有する表面処理液を含浸させて形成した表面処理層となっていることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項6】
請求項5に記載の導電性ゴム部材において、前記表面処理液がカーボンブラック、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマーから選択される少なくとも一つを含有することを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の導電性ゴム部材がロール形状、ブレード形状、又はベルト形状であることを特徴とする導電性ゴム部材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−15141(P2010−15141A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129266(P2009−129266)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】