説明

導電性ペーストおよび電子部品の製造方法

【課題】電子部品の構造欠陥を抑えることが可能な導電性ペーストおよびこの導電性ペーストから形成される内部電極層を有する電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属粒子と、溶剤と、樹脂と、第1共材と、第2共材と、第3共材と、を含み、前記第1共材、第2共材および第3共材の焼結開始温度が前記金属粒子の焼結開始温度よりも高く、前記第1共材の平均粒径をa、第2共材の平均粒径をb、第3共材の平均粒径をcとした場合、a、bおよびcは所定の関係式を満たすことを特徴とする導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、およびこの導電性ペーストから形成される内部電極層を有する電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に実装される電子部品の一例としては、積層型セラミック電子部品が例示され、コンデンサ、バンドパスフィルタ、インダクタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、またはバリスタ等が知られている。
【0003】
これら積層型セラミック電子部品を構成するコンデンサ素子本体は、たとえば、焼成後に誘電体層となるグリーンシートと、焼成後に内部電極層となる内部電極パターン層とが積層されて構成される直方体形状のグリーンチップを準備し、同時焼成して製造される。近年では、電子部品の小型化にともなう各部品の高密度化に対する要求は高く、これに伴い誘電体層の積層数の増加傾向が進んでいる。
【0004】
しかし、積層型セラミック電子部品の誘電体層の積層数を増加させることで、積層型セラミック電子部品の構造欠陥の発生率が高まるという問題がある。
【0005】
このような実情から、積層型セラミック電子部品の誘電体層の積層数を増加させても構造欠陥を抑えることができる技術が求められている。たとえば、特許文献1には、ニッケル粉末を主成分とし、焼成後に内部電極層となる導電性ペーストに誘電体層と同じ組成物の共材を一種類添加することにより積層型電子部品の構造欠陥、静電容量の低下を防ぐ旨が開示されている。しかし、共材を一種類添加しただけではグリーンシートと内部電極パターン層の収縮のタイミングのずれを効果的に抑えることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−110233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、電子部品の構造欠陥を抑えることが可能な導電性ペーストおよびこの導電性ペーストから形成される内部電極層を有する電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、電子部品に構造欠陥が生じる現象について鋭意検討した結果、以下のような課題を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
まず、本発明者等は、第一に、電子部品の構造欠陥はグリーンシートに含まれる誘電体原料と内部電極パターン層に含まれる金属粒子との焼結開始温度に差異があることに起因していることを見出した。具体的な機構は以下のとおりである。すなわち、グリーンシートおよび内部電極パターン層は焼結により体積が収縮するが、内部電極パターン層はグリーンシートに比べて焼結開始温度が低い。このため、グリーンシートと内部電極パターン層とでは収縮開始のタイミングにずれが生じる。また、このような収縮開始のタイミングのずれによる応力は電子部品の各層に垂直な方向、すなわち積層方向に加わりやすく、電子部品の各層の水平方向に生じるクラックを引き起こす。
【0010】
本発明者等は、第二に、誘電体層の積層数が増加することにより、内部電極パターン層の収縮が開始するタイミングが早まる傾向となり、これによりグリーンシートと内部電極パターン層との間の収縮が開始するタイミングのずれが大きくなり、クラックの発生率をより高める原因となることを見出した。
【0011】
本発明者等は電子部品の積層数が増加した場合に生じる構造欠陥は、上記した機構が原因であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る導電性ペーストは、
金属粒子と、溶剤と、樹脂と、第1共材と、第2共材と、第3共材と、を含み、
前記第1共材、第2共材および第3共材の焼結開始温度が前記金属粒子の焼結開始温度よりも高く、
前記第1共材の平均粒径をa、第2共材の平均粒径をb、第3共材の平均粒径をcとした場合、a、bおよびcは以下の関係式(1)および(2)を満たすことを特徴とする導電性ペースト。
a/b=0.8〜1.2 (1)
a,b<c (2)
【0013】
本発明の実施形態に係る導電性ペーストは、上記した特定の共材を複数有しているため、共材を含まない場合に比べ、内部電極パターン層における焼結が高温側で起こり、なおかつ、焼結が段階的に分散して開始する。したがって、内部電極パターン層の収縮開始のタイミングが遅くなり、収縮速度も緩和される。このため、本実施形態に係る導電性ペーストを用いることで、グリーンシートと内部電極パターン層の収縮のタイミングのずれが原因で生じる電子部品の構造欠陥、具体的にはクラックを抑えることができる。
【0014】
好ましくは、第2共材を構成する材料の焼結開始温度が第1共材を構成する材料の焼結開始温度より高い。
【0015】
好ましくは、第3共材を構成する材料の焼結開始温度は、第1共材を構成する材料の焼結開始温度より高く、かつ、第2共材を構成する材料の焼結開始温度より低い。
【0016】
好ましくは、第1共材100重量部に対して、第2共材が40〜65重量部、第3共材が12.5〜22.5重量部含まれる。
【0017】
好ましくは、第1共材、第2共材および第3共材の総重量の割合が前記金属粒子に対して25〜45重量%である。
【0018】
好ましくは、第1共材を構成する材料はATiOを含み、
第2共材を構成する材料はBZrOを含み、
前記AおよびBはBa、Ca、Srの少なくともいずれか1種である。
【0019】
また、本発明に係る電子部品の製造方法は、セラミックペーストからなるグリーンシートと、上記導電性ペーストからなる内部電極パターン層と、を積層した後に切断してグリーンチップを得る工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、
を有する。
【0020】
好ましくは、前記第1共材は、電子部品の誘電体層を形成するために用いるセラミックペーストの主成分と同一の材料から構成され、
前記第2共材および第3共材は前記セラミックペーストの副成分と同一の材料から構成される。
【0021】
好ましくは、第3共材を構成する材料は前記セラミックペーストの副成分に含まれる成分のうち第2共材を除く成分を含む。
【0022】
好ましくは、前記焼成工程は第1焼成工程と第2焼成工程とを有する。
【0023】
好ましくは、第2焼成工程の保持温度は第1焼成工程の保持温度より10〜30℃高い。
【0024】
好ましくは、前記焼成工程における水素濃度が3%以下である。
【0025】
本発明の実施形態に係る電子部品としては、特に限定されないが、誘電体層を含む積層型電子部品、具体的には、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、誘電体層の積層数を増加させても、電子部品の構造欠陥を抑えることが可能な導電性ペーストおよびこの導電性ペーストから形成される内部電極層を有する電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2(a)は焼結開始温度の説明図、図2(b)は、図2(a)に示す説明図のIIB部分の拡大図である。
【図3】図3(a)〜図3(c)は本発明の実施形態に係る導電性ペースト中の金属粒子、第1共材、第2共材および第3共材の分散状態を示す模式図である。
【図4a】図4aは、図1に示す積層セラミックコンデンサの製造過程を示す工程概略図である。
【図4b】図4bは、図4aの続きの工程を示す工程概略図である。
【図4c】図4cは、図4bの続きの工程を示す工程概略図である。
【図5】図5(a)は本発明の実施例または比較例に係る電子部品の製造方法の焼成工程における時間に対する積層方向の収縮率および温度の関係を示すグラフであり、図5(b)は図5(a)のVB部分を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0029】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。
【0030】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。また、一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0031】
(誘電体層2)
本実施形態に係る誘電体層2はグリーンシートを焼成することにより得られる。誘電体層2に含まれる成分については後述する。
【0032】
(内部電極層3)
本実施形態に係る内部電極層3は導電性ペーストを焼成することにより得られる。また、導電性ペーストは、金属粒子と、溶剤と、樹脂と、第1共材と、第2共材と、第3共材とを含むことを特徴とする。
【0033】
(外部電極4)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、通常、CuやCu合金あるいはNiやNi合金等を用いる。なお、AgやAg−Pd合金等も、もちろん使用可能である。なお、本実施形態では、安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。
【0034】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の製造方法を説明する。本実施形態では、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0035】
(セラミックペースト)
まず、セラミックペーストに含まれる誘電体原料を準備し、これを塗料化して、セラミックペーストを調製する。セラミックペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0036】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサに用いられる誘電体原料の組成は特に限定されないが、主成分がATiO(AはBa、Ca、Srの少なくともいずれか1種)であることが好ましく、副成分がBZrO(BはBa、Ca、Srの少なくともいずれか1種)を含むことが好ましい。
【0037】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサに用いられる誘電体原料のその他の副成分としては特に限定されないが、例えばMgの酸化物と、Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、を有していてもよい。
【0038】
BZrOの含有量は、ATiO100モルに対して、BZrO換算で、好ましくは35〜65モルであり、より好ましくは40〜55モルである。BaZrOを上記範囲で添加することにより、容量温度特性および耐圧の向上を図ることができる。
【0039】
Mgの酸化物の含有量は、ATiO100モルに対して、MgO換算で、好ましくは4〜12モルであり、より好ましくは6〜10モルである。Mgの酸化物は、容量温度特性や耐圧の低下防止に加えて、電圧印加時における電歪量を小さくする。
【0040】
Rの酸化物の含有量は、ATiO100モルに対して、R換算で、好ましくは4〜15モルであり、より好ましくは6〜12モルである。Rの酸化物は、主に、耐圧の低下防止を図ると共に、電圧印加時における電歪量の低下を図る。なお、上記Rの酸化物を構成するR元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物の含有量は、ATiO100モルに対して、MnO、Cr、CoまたはFe換算で、好ましくは0.5〜3モルである。これらの酸化物を上記範囲で添加することにより、寿命特性、比誘電率および容量温度特性を良好なものとすることができる。
【0042】
Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物の含有量は、ATiO100モルに対して、SiO、Li、Al、GeまたはB換算で、好ましくは3〜9モルであり、より好ましくは4〜8モルである。これらの酸化物を上記範囲で添加することにより、比誘電率、寿命特性および容量温度特性を良好なものとすることができる。
【0043】
誘電体原料が上記各成分を上記所定量含有することにより、グリーンチップを還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低く、容量温度特性、比誘電率、耐圧および絶縁抵抗の加速寿命を良好なものとすることができる。特に、主として母材として含有されるATiOに起因する不具合、たとえば、印加電圧に対する容量依存性や、電圧印加時における電歪現象を有効に緩和することができる。加えて、BZrOの含有量を比較的に多いものとしているため、上記各特性を良好に保ちながら、容量温度特性および耐圧の向上が可能となる。
【0044】
なお、本明細書では、各成分を構成する各酸化物または複合酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物または複合酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各成分の上記比率は、各成分を構成する酸化物または複合酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物または複合酸化物に換算して求める。
【0045】
また、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサに用いられる誘電体原料として、上記した各成分の酸化物やその他混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。
【0046】
また、上記各成分の原料のうち、ATiO以外の原料のうち少なくとも一部については、各酸化物または複合酸化物、焼成により各酸化物または複合酸化物となる化合物を、そのまま用いても良いし、あるいは、予め仮焼し、焙焼粉として用いても良い。
【0047】
有機ビヒクルとは、樹脂を有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いる樹脂は特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種樹脂から適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、ターピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0048】
また、セラミックペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性の樹脂や分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0049】
(導電性ペースト)
本実施形態に係る導電性ペーストは、金属粒子と、溶剤と、樹脂と、第1共材と、第2共材と、第3共材とを含有する。
【0050】
本実施形態に係る導電性ペーストに含有される金属粒子は特に限定されないが、主成分をNiまたはNi合金とした粒子であることが好ましく、より好ましくはNi含有量が90重量%以上の粒子、さらに好ましくはNi含有量が95重量%以上の粒子を使用する。なお、金属粒子の平均粒径は、好ましくは0.1μm〜0.7μmである。
【0051】
Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。金属粒子としては、他には合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等が挙げられる。
【0052】
本実施形態に係る導電性ペーストは、金属粒子、溶剤および樹脂に加えて、第1共材、第2共材および第3共材を含有する点に最大の特徴を有する。
【0053】
本実施形態に係る導電性ペーストに含まれる第1共材、第2共材および第3共材の焼結開始温度は前記金属粒子の焼結開始温度よりも高い。このように、導電性ペーストに焼結開始温度の高い共材を含ませることにより、金属粒子同士の接触を抑制し、内部電極パターン層の焼結開始温度が高温側にシフトする。そして、焼結開始温度の高温側へのシフトにより、グリーンシートと内部電極パターン層の収縮のタイミングのずれによる電子部品のクラックの発生を抑えることができる。
【0054】
なお、焼結開始温度は、各層の垂直方向、すなわち積層方向の収縮率の変化から求める。上記のとおり、内部電極パターン層は焼結により収縮するため、収縮率の変化は焼結開始の指標となるからである。説明図を図2(a)および図2(b)に示す。
【0055】
まず、任意の温度αにおける収縮率(Cα)は下記式(1)より求める。
【数1】

【0056】
なお、式(1)において、焼成工程直前の積層方向の高さとは、脱バインダ工程直後の積層方向の高さであり、焼成工程によって積層方向の高さが変化し始める前の積層方向の高さをいう。
【0057】
図2(a)において、区間P1は積層方向の収縮率に変化がない区間であり、区間P2は積層方向の収縮率が降下する区間である。本発明では区間P1の接線と区間P2の接線の交点における温度を焼結開始温度と定義する。
【0058】
また、導電性ペーストに第1共材、第2共材および第3共材の三種類の共材を含ませることにより、内部電極層の焼結開始を段階的に分散させることができる。これによって、グリーンシートと内部電極パターン層の収縮速度が緩やかになり、電子部品のクラックの発生を効果的に防止することができる。
【0059】
本実施形態では、さらに、第1共材の平均粒径をa、第2共材の平均粒径をb、第3共材の平均粒径をcとした場合、以下の関係式(1)および(2)を満たすことを特徴とする。
a/b=0.8〜1.2 (1)
a,b<c (2)
【0060】
一般的に共材の平均粒径は大きいほど焼結開始温度は高くなる傾向にある。上記のように、第1共材、第2共材および第3共材の平均粒径を変えることにより、焼結開始温度を段階的に分散させることができ、電子部品のクラックを防止することができる。
【0061】
上記式(1)のa/bは、好ましくは0.85〜1.15であり、より好ましくは0.9〜1.1である。a/bがこの範囲よりも大きくても小さくても、クラック発生率が高まる傾向にある。
【0062】
第2共材の平均粒径bは、内部電極層3の厚みに応じて上記範囲内で適宜設定すれば良いが、好ましくは0.05〜0.4μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。
【0063】
第3共材の平均粒径cは、内部電極層3の厚みに応じて上記範囲内で適宜設定すれば良いが、好ましくはc/bが1.1〜2.3であり、より好ましくは1.5〜2.3である。
【0064】
図3(a)は、平均粒径a、bおよびcが上記式(1)および(2)の関係式を満たす場合の導電性ペースト中の金属粒子30と各共材の分散状態を示す模式図である。また、図3(b)は、第3共材の平均粒径cが平均粒径aおよびbと同程度である場合の導電性ペースト中の金属粒子30と各共材の分散状態を示す模式図である。
【0065】
上記のとおり、金属粒子どうしが接触すると焼結が進行しやすくなり、焼結開始温度が低下する傾向になり、ひいてはクラックの原因となる。したがって、図3(a)のように、第1〜3共材の平均粒径が所定の大きさ、特に第3共材36の粒径が第1共材および第2共材の粒径に比べて大きい場合は、図3(b)に比べクラックが発生しない傾向にあると考えられる。
【0066】
本実施形態では、好ましくは第2共材を構成する材料の焼結開始温度が第1共材を構成する材料の焼結開始温度より高く、より好ましくは第3共材を構成する材料の焼結開始温度は、第1共材を構成する材料の焼結開始温度より高く、かつ、第2共材を構成する材料の焼結開始温度より低い。これにより、段階的に焼結が開始することによりクラックを防止することができる。
【0067】
本実施形態では、第1共材100重量部に対して、第2共材が好ましくは40〜65重量部、より好ましくは40〜60重量部、さらに好ましくは45〜55重量部、第3共材が好ましくは12.5〜22.5重量部、より好ましくは14〜21重量部、さらに好ましくは15〜20重量部含まれる。第2共材および第3共材の含有量がこの範囲内にあると、クラック発生率を低下させることができる。
【0068】
本実施形態では、第1共材、第2共材および第3共材の総重量が金属粒子に対して25〜45重量%であることが好ましく、より好ましくは28〜40重量%、さらに好ましくは31〜38重量%である。第1共材、第2共材および第3共材の総重量がこの範囲内にあると、クラック発生率を低下させることができる。また、共材の総重量がこの範囲より多いと比誘電率が低下する傾向にある。
【0069】
なお、図3(c)は、共材の総重量が少ない場合の導電性ペースト中の金属粒子30および各共材の分散状態を示す模式図である。上記のとおり、金属粒子どうしが接触すると焼結が進行しやすくなり、焼結温度が低下する傾向になり、ひいてはクラックの原因となる。すなわち、図3(a)は図3(c)に比べて共材の総重量が多いため、図3(a)では、金属粒子どうしが接触しにくい傾向になりこれによりクラックを防止することができると考えられる。
【0070】
本実施形態では、好ましくは、第1共材がセラミックペーストの主成分と同一の材料から構成され、第2共材および第3共材はセラミックペーストの副成分と同一の材料から構成される。また、より好ましくは、第1共材はATiO、第2共材はBZrO、第3共材は誘電体原料のうち第2共材を除く副成分からなり、AおよびBはBa、Ca、Srの少なくともいずれか1種である。
【0071】
導電性ペーストに含まれる共材をこのような構成にすることにより、内部電極パターン層とグリーンシートに含まれる成分の組成が近いものとなり、内部電極パターン層に含まれる誘電体原料が誘電体層へ拡散することを防ぎ、電子部品の電気特性の劣化を防ぐことができる。
【0072】
上記した溶剤および樹脂は有機ビヒクルとして含まれる。溶剤および樹脂の含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、樹脂は1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。
【0073】
導電性ペーストは、上記した金属粒子、有機ビヒクル、第1共材、第2共材および第3共材を混練して調製される。また、導電性ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0074】
(外部電極用ペースト)
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0075】
グリーンチップ
印刷法を用いる場合、セラミックペーストおよび導電性ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。グリーンチップを得る工程としては、具体的には、以下の工程が例示される。
【0076】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0077】
(グリーンシート10aの形成)
上記の工程を経て作製されたセラミックペーストを、図4aに示すように、たとえばPETフィルムなどで構成される支持シート20の表面に、たとえばドクターブレード法などで塗布して、グリーンシート10aを形成する。グリーンシート10aは、焼成後に図1に示す誘電体層2となる。
【0078】
(内部電極層12aの形成)
図1の内部電極層3は、図4bに示す内部電極パターン層12aを焼成して得られる。内部電極パターン層12aは、上記の工程を経て作製された導電性ペーストを、所定のパターン状に成形することにより得られる。
【0079】
次に、図4bに示すように、支持シート20上に形成されたグリーンシート10aの表面に、導電性ペーストを所定のパターンに塗布して、内部電極パターン層12aを形成する。内部電極パターン層12aは、焼成後に図1に示す内部電極層3となる。
【0080】
図4bの内部電極パターン層12aの形成方法は、層を均一に形成できる方法であれば特に限定されず、たとえばスクリーン印刷法あるいはグラビア印刷法などの厚膜形成方法、あるいは蒸着、スパッタリングなどの薄膜法が例示される。
【0081】
図4cに示すように、内部電極パターン層12aが形成されたグリーンシート10aを支持シート20から剥がして順次積層して積層体24を形成する。このグリーンシート10aは、図1に示す誘電体層2となる部分であり、内部電極層3となる内部電極パターン層12aと共に交互に積層され、その後に切断され、グリーンチップとなる。
【0082】
なお、各誘電体層2の厚みは、通常0.5〜50μmであり、積層数としては、本発明に係る実施形態では、20〜300層に積層することができる。本発明の実施形態に係る導電性ペーストを用いれば、内部電極パターン層の焼結開始温度が段階的に分散し、なおかつ、高温側にシフトするため、グリーンシートと内部電極パターン層との間の収縮のタイミングのずれによるクラックを軽減することができる。通常、誘電体層が薄層化し、積層数が増加するとクラックの発生率は高まるが、本発明の実施形態では上記の構成をとることにより、誘電体層を薄層化し、積層数を増加させても、クラックの発生率を抑制することができる。
【0083】
(脱バインダ処理)
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とすることが好ましく、還元性雰囲気における雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0084】
(焼成工程)
本実施形態に係る焼成工程としては、第1焼成工程と第2焼成工程とを有することが好ましい。第2焼成工程の保持温度は第1焼成工程の保持温度よりも好ましくは10〜30℃高く、より好ましくは15〜28℃、さらに好ましくは18〜25℃高い。第1焼成工程と第2焼成工程の保持温度の差がこの範囲に含まれると焼結による収縮速度、特に高温雰囲気での収縮速度が緩やかになり、クラックを防止することができる。
【0085】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1360℃である。保持温度が前記範囲内であると緻密化が十分となり、内部電極層の異常焼結による電極の途切れがなく、内部電極パターン層を構成する材料の拡散による容量温度特性の悪化がないとともに、誘電体層の還元が生じにくい。
【0086】
また、本実施形態に係るグリーンチップ焼成時の雰囲気は、水素濃度が3%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5〜0.2%、さらに好ましくは0.7〜0.2%である。内部電極パターン層は、焼成時の雰囲気温度が最大になった時に収縮が止まる。この際、水素濃度が前記範囲に含まれることで、グリーンシートの収縮が緩やかになる。これにより、誘電体層と内部電極層に生じる応力が抑制され、クラックを抑えることができる。
【0087】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。
【0088】
(アニール)
グリーンチップは上記の工程を経てコンデンサ素子本体10となる。グリーンチップを還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体10にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0089】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0090】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度を前記範囲内にすることで誘電体層の酸化が十分となり、IRが高く、また、IR寿命が長くなりやすい。
【0091】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0092】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0093】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。これらを連続して行なう場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成の際の保持温度まで昇温して焼成を行ない、次いで冷却し、アニールの保持温度に達したときに雰囲気を変更してアニールを行なうことが好ましい。一方、これらを独立して行なう場合、焼成に際しては、脱バインダ処理時の保持温度までNガスあるいは加湿したNガス雰囲気下で昇温した後、雰囲気を変更してさらに昇温を続けることが好ましく、アニール時の保持温度まで冷却した後は、再びNガスあるいは加湿したNガス雰囲気に変更して冷却を続けることが好ましい。また、アニールに際しては、Nガス雰囲気下で保持温度まで昇温した後、雰囲気を変更してもよく、アニールの全過程を加湿したNガス雰囲気としてもよい。
【0094】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体10に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0095】
本発明に係る製造方法により製造された積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0096】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々
に改変することができる。たとえば、本発明は、積層セラミックコンデンサに限らず、誘電体層および内部電極層を有する電子部品であれば何でも良く、具体的にはインダクタ、バリスタなどが例示される。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0098】
試料1〜12
(セラミックペースト)
まず、セラミックペーストに含まれる誘電体材料の主成分としてBaTiOを準備した。また、誘電体材料の副成分としては、BaTiO:100モル部に対し、BaZrO:43モル部、MgCO:9モル部、Gd:12モル部、MnCO:2.5モル部、およびSiO:4.5モル部準備した。
【0099】
次にBaZrOを除く副成分をボールミルにて混合し、得られた混合粉を1200℃で予め仮焼して焙焼粉を調製した。次に、主成分のBaTiOと、副成分のBaZrOと、焙焼粉と、をボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体材料を得た。なお、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体層中に含有されることとなる。以下では、上記した誘電体原料の副成分のうちBaZrOを除く成分を添加材とする。
【0100】
次いで、得られた誘電体材料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、セラミックペーストを得た。
【0101】
(導電性ペースト)
上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部を準備し、さらに第1共材としてNi粒子:100重量部に対して、第1共材としてBaTiO:20重量部、第2共材としてBaZrO:10重量部、第3共材として上記したMgCO、Gd、MnCO、およびSiOからなる添加材の焙焼粉:3.4重量部、を3本ロールにより混練し、スラリー化して導電性ペーストを作製した。なお、試料1〜12における第1共材、第2共材および第3共材の平均粒径は表1に示したとおりである。
【0102】
そして、上記にて作製したセラミックペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが30μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に導電性ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、内部電極パターン層を有するグリーンシートを作製した。次いで、内部電極パターン層を有するグリーンシートを200層に積層し、加圧接着することにより積層体とし、この積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0103】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、コンデンサ素子本体10を得た。
【0104】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0105】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間とし、第1焼成工程として保持温度:1250℃、保持時間:1時間で焼成した後、第2焼成工程として保持温度:1260℃、保持時間:1時間で焼成し、冷却速度:200℃/時間で冷却した。この間、雰囲気は加湿したN+H混合ガス(水素濃度3%、酸素分圧:10−12MPa)とした。
【0106】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000〜1100℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0107】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×3.2mmであり、誘電体層の厚みは20μm、内部電極層の厚みは1.5μmであった。そして、試料1〜12について、以下に示す方法で焼結後におけるクラック発生率を求めた。結果を表1に示す。
【0108】
(焼結後におけるクラック発生率)
焼結後におけるクラックの発生率は、得られた10000個のコンデンサ素子本体10の中で、焼結後においてクラックの発生したものの個数から算出した。結果を表1に示す。
【0109】
試料13〜24
本実施例の試料13〜24では、導電性ペーストに含まれる第1共材、第2共材および第3共材のそれぞれの種類、平均粒径および含有重量比を変化させた以外は試料1〜12と同様にして導電性ペーストを作製し、これらの導電性ペーストから形成した内部電極層を有する複数のコンデンサ試料を作製し、焼結後におけるクラック発生率を求めた。各導電性ペーストの条件および焼結後におけるクラック発生率を表1に示す。
【0110】
試料31〜34
本実施例の試料31〜34では、導電性ペーストに含まれる第1共材、第2共材および第3共材のそれぞれの種類、平均粒径、含有重量比および焼結開始温度を変化させた以外は試料1〜12と同様にして導電性ペーストを作製し、これらの導電性ペーストから形成した内部電極層を有する複数のコンデンサ試料を作製し、焼結後におけるクラック発生率を求めた。
【0111】
なお、試料31〜34の各共材の焼結開始温度は以下の関係になるように調整した。
【0112】
試料31は、第1共材にATiO、第2共材にBZrOを選択することで、第2共材の焼結開始温度が第1共材より高くなるように調整し、第3共材に含まれるMgCO、Gd、MnCOおよびSiOのうちSiOの量を変化させることにより、第3共材の焼結開始温度が、第2共材より高くなるように調整した。
【0113】
試料32は、第1共材にATiO、第2共材にBZrOを選択することで、第2共材の焼結開始温度が第1共材より高くなるように調整し、第3共材に含まれるMgCO、Gd、MnCOおよびSiOのうちSiOの量を変化させることにより、第3共材の焼結開始温度が、第1共材より高く、第2共材より低くなるように調整した。
【0114】
試料33は、第1共材にATiO、第2共材にBZrOを選択することで、第2共材の焼結開始温度が第1共材より高くなるように調整し、第3共材に含まれるMgCO、Gd、MnCOおよびSiOのうちSiOの量を変化させることにより、第3共材の焼結開始温度が、第1共材より低くなるように調整した。
【0115】
試料34は、第2共材の焼結開始温度が第1共材より低くなるように第1共材と第2共材の材料種類を選択した。
【0116】
各導電性ペーストの条件および焼結後におけるクラック発生率を表2に示す。
【0117】
試料41〜50
本実施例の試料41〜50では、導電性ペーストに含まれる第1共材、第2共材および第3共材のそれぞれの平均粒径、含有重量比を変化させた以外は試料1〜12と同様にして導電性ペーストを作製し、これらの導電性ペーストから形成した内部電極層を有する複数のコンデンサ試料を作製し、焼結後におけるクラック発生率を求めた。各導電性ペーストの条件および焼結後におけるクラック発生率を表3に示す。
【0118】
試料51〜55
本実施例の試料51〜55では、導電性ペーストに含まれる第1共材、第2共材および第3共材のそれぞれの平均粒径、含有重量比、共材の総重量を変化させた以外は試料1〜12と同様にして導電性ペーストを作製し、これらの導電性ペーストから形成した内部電極層を有する複数のコンデンサ試料を作製し、焼結後におけるクラック発生率を求め、さらに以下の方法により誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率の差および比誘電率も測定した。各導電性ペーストの条件、焼結後におけるクラック発生率、誘電体層と内部電極層の収縮率の差および比誘電率を表4に示す。
【0119】
(誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率の差)
50個のコンデンサ試料について下記式(2)および(3)により誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率をそれぞれ求め、誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率の差を求め、その平均を求めた。
【数2】

・・・(2)
【数3】

・・・(3)
【0120】
(比誘電率ε)
まず、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率ε(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。比誘電率は高いほうが好ましい。
【0121】
試料61〜65
本実施例の試料61〜65では、グリーンチップの焼成条件において第1焼成工程と第2焼成工程の保持温度を変化させた以外は試料2と同様にして導電性ペーストを作製し、これらの導電性ペーストから形成した内部電極層を有する複数のコンデンサ試料を作製した。焼結後におけるクラック発生率を測定し、さらに以下に示す方法によりサーマル試験におけるクラック発生率およびCR積を測定した。各グリーンチップの焼成条件および測定結果を表5に示す。
【0122】
(サーマル試験におけるクラック発生率)
サーマル試験におけるクラックの発生率は、得られた10000個のコンデンサ素子本体10を、雰囲気温度360℃の中に2秒間置き、その中で、クラックの発生したものの個数から算出した。
【0123】
(CR積)
コンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、20℃において5V/μmの直流電圧を、コンデンサ試料に1分間印加した後の絶縁抵抗IRを測定した。CR積は、上記にて測定した静電容量C(単位はμF)と、絶縁抵抗IR(単位はMΩ)との積を求めることにより測定した。
【0124】
試料71〜73
本実施例の試料71〜73では、グリーンチップの焼成条件において、焼成工程の水素濃度を変化させた以外は試料2と同様にして導電性ペーストを作製し、これらの導電性ペーストから形成した内部電極層を有する複数のコンデンサ試料を作製した。焼結後におけるクラック発生率、誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率の差を測定した。各グリーンチップの焼成条件および測定結果を表6に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
表1より、第1共材、第2共材および第3共材をすべて備えるものは(試料1〜12、14〜18)、第1共材、第2共材および第3共材のうち一つでも備えないものがある場合(試料13、19〜24)に比べ、クラック発生率が低くなる結果となることが確認できる。これは、共材の種類が少ないと段階的な焼結により内部電極パターン層の収縮速度を緩める効果が発揮できないためであると考えられる。
【0132】
また、表1より、第1共材、第2共材および第3共材の平均粒径をa/b=0.8〜1.2およびa,b<cの関係式を満たすようにした場合(第1共材の平均粒径をa、第2共材の平均粒径をb、第3共材の平均粒径をcとする)、焼結後におけるクラック発生率を低下させることが可能となることが確認できる(試料2〜4、7、8、15〜18)。これに対して、第1共材、第2共材および第3共材の平均粒径を範囲外とすると、焼結後におけるクラック発生率が高くなる結果となることが確認できた(試料1、5、6、9〜14、19〜24)。
【0133】
これは、図5(a)または図5(b)に示すように、試料1では第1共材の平均粒径が小さすぎ、試料9では第2共材の平均粒径が小さすぎることから、焼結開始温度が試料2よりも低温側にシフトしたため焼結後におけるクラック発生率が高まったと考えられる。
【0134】
また、試料5では第1共材が第2共材に比べ平均粒径が大きすぎ、試料6では第2共材が第1共材に比べ平均粒径が大きすぎるため、試料5では第1共材、試料6では第2共材の焼結が高温側で一気に開始され、焼結後におけるクラック発生率が高まったと考えられる。
【0135】
さらに、試料10および11では、比較的焼結開始温度が低い第3共材がより細かくなったことで、焼結開始温度が低下し、クラック発生率が高まったと考えられる。なお、試料10の導電性ペースト中の金属粒子および各共材の分散状態は模式図の図3(b)に相当すると考えられる。
【0136】
表2より、第1共材、第2共材、第3共材の焼結開始温度の大小関係が、第1共材<第2共材であり、かつ第1共材<第3共材<第2共材である場合は(試料32)、第1共材<第2共材と第1共材<第3共材<第2共材のいずれかまたは両方を満たしていない場合(試料31、33、34)に比べて焼結後におけるクラック発生率が良好となることが確認できた。また、第1共材<第2共材と第1共材<第3共材<第2共材のいずれかを満たしていない場合(試料31、33)は、第1共第<第2共材と第1共材<第3共材<第2共材のいずれも満たしていない場合(試料34)に比べ、焼結後におけるクラック発生率が良好となることが確認できた。
【0137】
表3より、第1共材100重量部に対して、第2共材が40〜65重量部、第3共材が12.5〜22.5重量部含まれる場合には(試料42〜44、48、49)、当該範囲から外れる場合(試料41、45〜47、50)に比べ、焼結後におけるクラック発生率が低くなる結果となることが確認できた。
【0138】
表4より、共材の総重量の割合が、金属粒子に対して25〜45重量%に含まれる場合には(試料52〜54)、当該範囲から外れる場合(試料51、55)に比べ、誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率の差、比誘電率および焼結後におけるクラック発生率のいずれもが良好な値となることが確認できた。
【0139】
表5より、第2焼成工程の保持温度が第1焼成工程の保持温度より10〜30℃高い場合には(試料62、63)、当該範囲に含まれない場合に比べ(試料61、64、65)、サーマル試験におけるクラック発生率およびCR積のいずれもが良好な値となることが確認できた。これは、焼成工程を2段階とし、なおかつ第1焼成工程と第2焼成工程の雰囲気温度が10〜30℃と狭い範囲になるようにしたことで、内部電極パターン層の収縮速度が緩やかになったためであると考えられる。
【0140】
表6より、焼成工程における水素濃度が3%以下の場合には(試料72、73)、水素濃度が3%を超える場合に比べ(試料71)、誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率の差および焼結後におけるクラック発生率のいずれもが良好な値となることが確認できた。これは水素濃度が所定の範囲に含まれたことで、焼成時の雰囲気温度が最大になった際に、グリーンシートの収縮が緩やかになり、誘電体層と内部電極層に生じる応力が抑制されたためであると考えられる。
【符号の説明】
【0141】
1… 積層セラミックコンデンサ
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
10… コンデンサ素子本体
10a… グリーンシート
12a… 内部電極パターン層
20… 支持シート
24… 積層体
30… 金属粒子
32… 第1共材
34… 第2共材
36… 第3共材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、溶剤と、樹脂と、第1共材と、第2共材と、第3共材と、を含み、
前記第1共材、第2共材および第3共材の焼結開始温度が前記金属粒子の焼結開始温度よりも高く、
前記第1共材の平均粒径をa、第2共材の平均粒径をb、第3共材の平均粒径をcとした場合、a、bおよびcは以下の関係式(1)および(2)を満たすことを特徴とする導電性ペースト。
a/b=0.8〜1.2 (1)
a,b<c (2)
【請求項2】
第2共材を構成する材料の焼結開始温度が第1共材を構成する材料の焼結開始温度より高い請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
第3共材を構成する材料の焼結開始温度は、第1共材を構成する材料の焼結開始温度より高く、かつ、第2共材を構成する材料の焼結開始温度より低い請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
第1共材100重量部に対して、第2共材が40〜65重量部、第3共材が12.5〜22.5重量部含まれる請求項1〜3のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項5】
第1共材、第2共材および第3共材の総重量の割合が前記金属粒子に対して25〜45重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項6】
第1共材を構成する材料はATiOを含み、
第2共材を構成する材料はBZrOを含み、
前記AおよびBはBa、Ca、Srの少なくともいずれか1種である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項7】
セラミックペーストからなるグリーンシートと、請求項1〜6のいずれかに記載の導電性ペーストからなる内部電極パターン層と、を積層した後に切断してグリーンチップを得る工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、
を有する電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記第1共材は、電子部品の誘電体層を形成するために用いるセラミックペーストの主成分と同一の材料から構成され、
前記第2共材および第3共材は前記セラミックペーストの副成分と同一の材料から構成される請求項7に記載の電子部品の製造方法。
【請求項9】
第3共材を構成する材料は前記セラミックペーストの副成分に含まれる成分のうち第2共材を除く成分を含む請求項7〜8のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程は第1焼成工程と第2焼成工程とを有する請求項7〜9のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記第2焼成工程の保持温度は第1焼成工程の保持温度より10〜30℃高い請求項10に記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記焼成工程における水素濃度が3%以下である請求項7〜11のいずれかに記載の電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−150982(P2011−150982A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13383(P2010−13383)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】