説明

導電性接着剤、及びそれを用いた回路基板、電子部品モジュール

【課題】従来の導電性接着剤では、0.8mmより更に細かいファインピッチのランドを有する電子回路基板への印刷が出来なかったという課題。
【解決手段】本発明の導電性接着剤は、10〜90wt%のSnBi系はんだ粉末と、残部が有機酸を含有する接着剤とを含む導電性接着剤であって、SnBi系はんだ粉末は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子A〜Dと、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子Eから構成されており、SnBi系はんだ粉末の混合割合は、粒子径が20〜30μmのはんだ粒子A〜Dがはんだ粉末全体の40〜90wt%で、残部が8〜12μmのはんだ粒子Eである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電子回路基板に電子部品などをはんだ付けする際に用いられる導電性接着剤、及びそれを用いた回路基板、電子部品モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品をはんだ付けする方法としては、リフローソルダリング法、フローソルダリング法などが挙げられるが、近年、ICチップ、QFPなどの表面実装には、部品間およびリード間にブリッジが発生しにくく、かつ生産性にも優れているリフローソルダリング法が採用されている。通常、リフローソルダリング法では、はんだ合金の粉末とフラックスとを混和したはんだペーストが用いられ、そのはんだペーストをメタルマスクを用いて電子回路基板の所定の位置に印刷し、リフロー炉で加熱されて、はんだ付けが行われる。
【0003】
リフローソルダリングに用いられてきたはんだペーストのはんだの1つには、SnBi系の低融点はんだがある。尚、本明細書において、はんだペーストとは、(1)はんだ粉末と、(2)はんだ粒子表面や、はんだペーストが塗布される金属表面に生成された酸化皮膜を除去する有機酸やロジン、溶剤、及び増粘剤から構成されているフラックスと、からなる材料のことである。
【0004】
しかしながら、SnBi系においては、はんだが脆いことから一部の電子機器のみにしか使用できないという問題がある。
【0005】
特に、携帯電話機やデジタルカメラ等のモバイル系においては、使用時の落下などによる外部からの衝撃、振動による接合部への影響でクラックが発生したり、はんだ付け部品の脱落などが発生することから、接合強度の向上が望まれてきた。
【0006】
そこで、接合強度の改善を図るために、はんだに代わる接合材料として、最近では、特許文献1に記載されているような、はんだ粉末と、フラックス作用を有するエポキシ系接着剤とを混和した導電性接着剤が開発されている。
【0007】
尚、本明細書において、導電性接着剤とは、はんだ粉末、エポキシ樹脂、硬化剤、有機酸、および増粘剤からなる材料のことである。
【0008】
この様な導電性接着剤は、メタルマスクを用いて電子回路基板の所定の位置に印刷後、リフローにより加熱され、フラックス作用を有するエポキシ系接着剤に含まれる有機酸の作用により、はんだの酸化被膜を除去後、はんだによる接合と樹脂の硬化により、電子回路基板と部品の接合と補強を同時に行う材料である。
【0009】
特許文献1に開示された導電性接着剤の構成は、フラックス作用を有するエポキシ系接着剤と、SnBi系はんだ粉末とを混合してなる導電性接着剤である。尚、特許文献1に開示された、フラックス作用を有するエポキシ系接着剤とは、樹脂に硬化剤および有機酸が含まれているものをいう。
【0010】
特許文献1では、SnBi系はんだ粉末の粒子径に関しては、粒子径を小さくし過ぎると、粒子接合が良好に達成されず、一方、大きくし過ぎると、ファインピッチ化された回路基板のランド部分の印刷が良好に行えないことから、25〜45μmの粒子径のSn42Bi58はんだ粉末を用いている。
【0011】
このような導電性接着剤は、電子回路基板へのチップ部品などの実装に用いられる場合、メタルマスクなどによって、導電性接着剤を所定の位置に印刷し、チップ部品をマウント後、加熱により、はんだ粉末を溶融させる。
【0012】
このとき、導電性接着剤は、はんだが溶融して接着剤を分離する。はんだは、はんだ付け部の金属に濡れ、はんだ接合するが、接着剤は、樹脂膜をはんだの周囲を覆うように形成する。樹脂膜は、はんだ溶融と同時にその熱により硬化が始まり、はんだ付けが終了した後に硬化が完了する。
【0013】
尚、特許文献1の導電性接着剤では、はんだ付け時のはんだ溶融から、金属部への濡れ(はんだ凝集性)をスムーズに進行させるために、即ち、エポキシ樹脂あるいは、硬化剤との混合物中への有機酸の溶解性をあげるために、側鎖にアルキル基を有する二塩基酸を有機酸として使用している。この有機酸は、2,5−ジエチルアジピン酸を用いており、直鎖の炭素数が6以上であり、側鎖のアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−199937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記特許文献1の導電性接着剤では、0.8mmのファインピッチに対して、導電性接着剤の基板への印刷性能が確保できることの開示はあるものの、0.8mmより更に細かいファインピッチに対しては、印刷性能が確保出来るか難しい。
【0016】
本発明は、従来の導電性接着剤のこの様な課題を考慮し、従来に比べてより細かなファインピッチのランドを有する回路基板に対して印刷性能を確保できる導電性接着剤、及びそれを用いた回路基板、電子部品モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の本発明は、
10〜90wt%のSnBi系はんだ粉末と、残部が有機酸を含有する接着剤とを含む導電性接着剤であって、
前記SnBi系はんだ粉末は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子と、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子から構成されており、
前記SnBi系はんだ粉末の混合割合は、前記粒子径が20〜30μmのはんだ粒子がはんだ粉末全体の40〜90wt%で、残部が8〜12μmのはんだ粒子である、導電性接着剤である。
【0018】
また、第2の本発明は、
10〜90wt%のSnBi系はんだ粉末と、残部が有機酸を含有する接着剤とを含む導電性接着剤であって、
前記SnBi系はんだ粉末は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子と、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子から構成されており、
前記SnBi系はんだ粉末の混合割合は、前記粒子径が20〜30μmのはんだ粒子がはんだ粉末全体の60〜80wt%で、残部が8〜12μmのはんだ粒子である、導電性接着剤である。
【0019】
また、第3の本発明は、
前記有機酸を含有する接着剤は、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、前記有機酸、及び増粘剤から構成され、
前記有機酸は、アジピン酸とグルタル酸を含むものである、上記第1または第2の本発明の導電性接着剤である。
【0020】
また、第4の本発明は、
前記アジピン酸と前記グルタル酸の割合は、前記アジピン酸が10〜50wt%で、残部が前記グルタル酸である、上記第3の本発明の導電性接着剤である。
【0021】
また、第5の本発明は、
前記アジピン酸と前記グルタル酸の割合は、前記アジピン酸が20〜40wt%で、残部が前記グルタル酸である、上記第4の本発明の導電性接着剤である。
【0022】
また、第6の本発明は、
前記有機酸の粒度分布において、粒子径が10μm以下の粒子量が、前記有機酸の粒子全体の中で5〜70%含まれている、上記第3から第5の何れか一つの本発明の導電性接着剤である。
【0023】
また、第7の本発明は、
前記SnBi系はんだ粉末は、Sn42/Bi58、Sn42/Bi57/Ag1.0、または、Sn16/Bi56/In28である、上記第1から第6の何れか一つの本発明の導電性接着剤である。
【0024】
また、第8の本発明は、
10〜90wt%のSnBi系はんだ粉末と、残部が有機酸を含有する接着剤とを含む導電性接着剤であって、
前記SnBi系はんだ粉末は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子と、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子から構成されており、
前記SnBi系はんだ粉末の混合割合は、前記粒子径が20〜30μmのはんだ粒子がはんだ粉末全体の60〜80wt%で、残部が8〜12μmのはんだ粒子であり、
前記有機酸を含有する接着剤は、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、前記有機酸、及び増粘剤から構成されており、
前記有機酸は、アジピン酸とグルタル酸を含むものであり、
前記アジピン酸と前記グルタル酸の割合は、前記アジピン酸が有機酸全体の20〜40wt%で、残部が前記グルタル酸である、導電性接着剤である。
【0025】
また、第9の本発明は、
前記粒子径Lは、前記粒子径Lの0.4倍である、上記第1、第2、第8の何れか一つの本発明の導電性接着剤である。
【0026】
また、第10の本発明は、
基材と、
前記基材上に、上記第1から第7の何れか一つの本発明の導電性接着剤を用いて形成された導電部と、
を備えた回路基板である。
【0027】
また、第11の本発明は、
回路基板と、
前記回路基板上に、上記第1から第7の何れか一つの本発明の導電性接着剤を用いて形成された導電部と、
前記導電部を介して前記回路基板上に実装された電子部品と、
を備えた、電子部品モジュールである。
【発明の効果】
【0028】
上記構成によれば、2種類の粒子径のSnBi系はんだ粉末を混合することにより、0.8mmより更に細かいファインピッチのランドを有する電子回路基板への印刷が可能となる。
【0029】
以上のように、本発明によれば、より細かなファインピッチのランドを有する回路基板に対して印刷性能を確保できる導電性接着剤、及びそれを用いた回路基板、電子部品モジュールを提供することが出来る。
【0030】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、はんだ溶融時の金属部への濡れ(はんだ凝集性)をスムーズに進行させることが出来、且つ、スキージライフ(印刷時の粘度安定性)を確保出来る導電性接着剤、及びそれを用いた回路基板、電子部品モジュールを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態における導電性接着剤のはんだ粒子の粒子径を説明するための模式図
【図2】(2−a)〜(2−c):本発明の実施の形態5における導電性接着剤により形成された導電部の製造方法の模式的な断面図
【図3】(3−a)〜(3−d):本発明の実施の形態6における導電性接着剤により形成された多層回路基板の製造方法の模式的な断面図
【図4】(4−a)〜(4−d):本発明の実施の形態7における導電性接着剤を用いて接合した電子部品モジュールの製造方法の模式的な断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0033】
ここでは、後述する各実施の形態の説明に共通する事項(材料名、評価方法)を、先にまとめて説明する。
【0034】
本発明の実施の形態における導電性接着剤は、有機酸を含有する接着剤とSnBi系はんだ粉末から構成されている。
【0035】
尚、本実施の形態の「有機酸を含有する接着剤」は、フラックス作用(ここで、フラックス作用とは、導電性接着剤が塗布される金属表面に生じた酸化皮膜を除去する作用、及び、溶融はんだの表面張力を低下させて、はんだの接合金属表面への濡れ性を促進する作用を意味する)を有する。
【0036】
SnBi系はんだ粒子は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子と、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子の2種類の粒子径を混合していることを特徴としている。
【0037】
また、有機酸を含有する接着剤は、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、有機酸、増粘剤から構成されており、有機酸は、具体的には、アジピン酸とグルタル酸の両方が混合されていることを特徴としている。
【0038】
後述する実施例、比較例及び参考例に用いた材料は、下記の方法で作成したもの、あるいは入手したものである。
(1)導電性接着剤の材料調整
a)はんだ粒子:下記のはんだ粒子No.1とNo.2を混合して使用した。
【0039】
このはんだ粒子No.1とNo.2の粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定し、積算粒子量が50%になる粒子径であるメディアン径(D50)を用いている。
【0040】
a−1)SnBi系はんだ粒子No.1(粒子径20〜30μm)
商品名:Sn/Bi58 (20-30)(三井金属鉱業株式会社製)
a−2)SnBi系はんだ粒子No.2(粒子径8〜12μm)
商品名:Sn/Bi58(DS10)(三井金属鉱業株式会社製)
なお、ここでの粒子径は、1つの粒子が真球の場合では直径を示すが、その他の形状の場合では、その形状の外接直方体の最大の長さを示すこととする。
b)エポキシ樹脂:
b−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂
商品名:エピコートYL980(ジャパンエポキシレジン株式会社製)
b−2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂
商品名:エピコート806(ジャパンエポキシレジン株式会社製)
c)硬化剤:
イミダゾール系硬化剤(10μm以下の粉体)
商品名:2P4MHZ(2−フェニル−4−メチル―5−ヒドロキシメチルイミダゾール:四国化成工業株式会社製)
d)有機酸:
d−1)アジピン酸(関東化学株式会社製)
d−2)グルタル酸(関東化学株式会社製)
e)増粘剤:ジベンジリデンソルビトール
商品名:ゲルオールD(新日本理化株式会社製)
以上の材料を用いて、有機酸を含有する接着剤とSnBi系はんだ粉末から構成される導電性接着剤に関して、以下の処方にて作成した。
【0041】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、イミダゾール系硬化剤、アジピン酸、グルタル酸、増粘剤を計量し、18℃〜28℃の環境下で、全体が均一になるまで約30分間撹拌し、有機酸を含有する接着剤を作成した。
【0042】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤に、任意の量の、2種類の粒子径のはんだ粒子を添加し、攪拌機、ライカイ機、3本ロール、プラネタリーミキサーなどの分散装置を用いて、18℃〜28℃の環境下で、全体が均一になるまで約120分間撹拌し、導電性接着剤を作成した。
【0043】
各実施例ならびに比較例の品質評価に関しては、以下の(2)〜(4)の手法で行った。
(2)印刷性能の評価方法
印刷性能に関しては、下記方法にて評価を実施した。
【0044】
即ち、後述する本実施の形態では、メタルマスクを用いた導電性接着剤の印刷により、ブリッジの有無と、カケの有無を観察して、双方の結果を総合して印刷性能の合否を判定した。ここで、ブリッジとは、隣り合う導電性接着剤の塗布部分の間を繋ぐ部分を意味し、カケとは、導電性接着剤の塗布されるべき部分に生じた未塗布部分を意味する。
【0045】
導電性接着剤を厚みが0.12mmで、長方形状の開口(3mm×0.25mm)が0.4mmピッチ間隔で形成されている第1メタルマスクと、同じ長方形状の開口(3mm×0.25mm)が0.3mmピッチ間隔で形成されている第2メタルマスクの2種類のマスクで印刷機を用いて印刷し、印刷形状を顕微鏡を用いて観察した。このときの顕微鏡の倍率は150倍とした。
【0046】
0.4mmピッチ間隔の第1メタルマスクを用いたのは、ファインピッチのランドを有する電子回路基板に対して、印刷可否判断を評価したいためである。
【0047】
また、0.3mmピッチ間隔の第2メタルマスクを用いたのは、更に細かいピッチのランドを有する電子回路基板に対して、印刷可否判断を評価するためである。
【0048】
メタルマスクを用いた印刷により、ブリッジの有無と、カケの有無を観察して、以下の通り、双方の結果を総合して印刷性能の合否を判定した。
【0049】
a)ブリッジの有無:
第1メタルマスク及び第2メタルマスクを用いた印刷結果において、共にブリッジが発生しなかった場合に◎印(合格を意味する印)を付した。また、第1メタルマスクを用いた印刷結果においてのみ、ブリッジが発生しなかった場合に○印(合格を意味する印)を付した(第2メタルマスクを用いた印刷結果においてのみ、ブリッジが発生した。)。
【0050】
また、第1メタルマスクを用いた印刷結果において、ブリッジが発生した場合に×印(不合格を意味する印)を付した。
【0051】
b)カケの有無:
第1メタルマスク及び第2メタルマスクを用いた印刷結果において、共にカケが発生しなかった場合に◎印(合格を意味する印)を付した。また、第1メタルマスクを用いた印刷結果においてのみ、カケが発生しなかった場合に○印(合格を意味する印)を付した(第2メタルマスクを用いた印刷結果においてのみ、カケが発生した。)。
【0052】
また、第1メタルマスクを用いた印刷結果において、カケが発生した場合(はんだ量が少ないものなど)に×印(不合格を意味する印)を付した。
【0053】
c)印刷性能の評価
上記の2つの項目a)とb)の評価結果が、共に○印の場合には、印刷性能の評価として○印を付し、合格と判断した。また、上記の2つの項目a)とb)の評価結果が、共に◎印の場合には、印刷性能の評価として◎印を付し、○印より更にファインピッチの印刷が可能であると判断した。また、上記の2つの項目a)とb)の評価結果が、ひとつでも×印の場合には、印刷性能の評価として×印を付した。
(3)はんだ凝集性評価(凝集性評価)
JIS Z3197に則り、開口の大きさの異なる2種類のメタルマスクとして、第3メタルマスク(開口のサイズがφ0.3mm又は□0.3mmである)と第4メタルマスク(開口のサイズがφ0.1mm又は□0.1mmである)を用いて、はんだセラミック基板上でのはんだボールの発生量について調べた。
【0054】
第3メタルマスク及び第4メタルマスクを用いたセラミック基板上の各ランド上において、凝集したはんだ粒子の周囲に、凝集しているか否かに関わらず如何なる状態のはんだ粒子も存在していない場合には◎印(合格を意味する印)を付した。また、第3メタルマスクを用いたセラミック基板上の各ランド上においてのみ、凝集したはんだ粒子の周囲に、凝集しているか否かに関わらず如何なる状態のはんだ粒子も存在していない場合には○印(合格を意味する)を付した(第4メタルマスクを用いた結果においてのみ、凝集したはんだ粒子の周囲に、はんだ粒子が如何なる状態であろうとも存在した。)。
【0055】
また、第3メタルマスクを用いたセラミック基板上の各ランド上において、凝集したはんだ粒子の周囲に、はんだ粒子が、如何なる状態であろうとも存在する場合には×印(不合格を意味する印)を付した。
(4)スキージライフ評価(導電性接着剤の粘度測定方法)
E型粘度計を用い、25℃の雰囲気で、0.5rpm、5rpmでロータを回転させたときの粘度を測定した。また、このときの5rpmの粘度の値を代表値とした。
【0056】
導電性接着剤のスキージングテスト前の初期粘度(σ:5rpm)をE型粘度計で測定した後、この導電性ペーストを25±1℃の雰囲気下で印刷機を用いてスキージングテスト(導電性接着剤を印刷機により所定の時間ローリングさせる)を行い、24時間後の粘度(σ24:5rpm)を測定した。σ24の比の値により、導電性接着剤の増粘度合いを評価した。
【0057】
σ24の値が、1〜1.2以下であるときを合格(○と表記)とし、1.2を超えるときを不合格(×と表記)とした。
【0058】
(実施の形態1:SnBi系はんだ粒子No.1とSnBi系はんだ粒子No.2の割合)
実施の形態1では、SnBi系はんだ粉末の粒子径と混合割合について検討した。
【0059】
まず最初に、本実施の形態で用いる有機酸を含有する接着剤の配合比について説明し、その後、それを用いた導電性接着剤の作成について述べる。
【0060】
即ち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂16wt%、ビスフェノールF型エポキシ樹脂62wt%、イミダゾール系硬化剤12wt%、アジピン酸3.0wt%、グルタル酸6.0wt%、増粘剤1.0wt%を計量し、18℃〜28℃の環境下で、全体が均一になるまで約30分間撹拌し、有機酸を含有する接着剤を作成した。
【0061】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%がSnBi系はんだ粒子とし、そのSnBi系はんだ粒子の内、SnBi系はんだ粒子No.1とSnBi系はんだ粒子No.2の割合を変化させながら、所望の導電性接着剤を作成し、印刷性能を評価した(表1参照)。
【0062】
このときのSnBi系はんだ粒子の組成はSn42/Bi58とした。
【0063】
はんだ粒子径に関しては、次のような考えのもと、粒子径比を計算し、配合比を変化させることにより、最適な割合を導き出した。
【0064】
即ち、近年、各種電気機器において、高密度実装が進むにつれ、電子部品が小型化され、電子部品の配置間隔が狭ピッチ化されている。これに伴い、はんだ接合面積の狭小化が進んでいる。
【0065】
そこで、有機酸を含有する接着剤とはんだ粒子からなる導電性接着剤は、はんだ接合後、はんだの周囲を樹脂で覆うため、はんだ接合面積が狭くなった場合においても、樹脂の補強効果により、十分なはんだ接合強度を得ることができる。
【0066】
これを、材料使用時の必要条件に当てはめると、ファインピッチのランドを有する電子回路基板に対する印刷性能が求められる。この課題を解決する方法として、はんだ粒子径を小さくすることが求められるが、はんだ溶融時の凝集性が課題となる。はんだ粒子径が小さいと、はんだ粒子全体の実質上の表面積が大きくなり酸化皮膜が増えるからである。
【0067】
また、はんだ粒子径が大きいと、0603チップ部品や0402チップ部品などのランドパターンを印刷する場合、ブリッジが発生し易くなる。
【0068】
そのため、基準となるはんだ粒子径に関して、20〜30μmのはんだ粒子径により、ランドパターンへ導電性接着剤が良好な印刷性能を確保出来ることがわかった。
【0069】
一方、0603チップ部品や0402チップ部品では、メタルマスクの開口の一辺が0.3mm、0.2mmとなり、30μmを超えるはんだ粒子では、必要とされる量の導電性接着剤がランド上へ転写されなかった。
【0070】
粒子径が20〜30μmのはんだ粒子に対し、研究を重ねた結果8〜12μmの粒子径を有するはんだ粒子を混合することとした。
【0071】
この様に2種類の粒子径のはんだ粒子を混合した理由としては、ファインピッチのランドを有する電子回路基板への印刷性能を達成するために、有機酸を含有する接着剤に対し、隙間無く、はんだ粒子を充填することが重要となると考えたからである。
【0072】
この粒子径の選定について、図1を用いて更に説明する。
【0073】
図1は、理解を容易にするために、仮想のモデルを示した図であり、粒子径の大きい4つのはんだ粒子は全て同じ直径(L1)であると仮定した。
【0074】
図1に示す様に、粒子径の大きいはんだ粒子をA、B、C、Dとし、それぞれの直径をL1、粒子径の小さいはんだ粒子をEとして、その直径をL2、A−C間距離をLとした場合、以下の関係となる(数1参照)。尚、はんだ粒子A〜E以外のところは、隙間100であり、樹脂などが充填される。
【0075】
【数1】

【0076】
そこで、上記(数1)の第2行目の式の右辺の、はんだ粒子A、B、C、Dの直径のLに、20μm、25μm、30μmを代入し計算すると、Lは、それぞれ8.0μm、10μm、12μmとなる。
【0077】
上記の仮想モデルによる検討結果をヒントにして、はんだ粒子径が20〜30μmに対し、8〜12μmのものを混合することで、ランドがファインピッチの電子回路基板への印刷が可能になると考え、はんだ粒子の混合割合と印刷性能の関係を検討した。
【0078】
ここで、異なる粒径のはんだ粒子を混合する場合、上記(数1)がどのように関係しているかについて更に説明する。
【0079】
即ち、本実施の形態では、上述した通り、粒子径は積算粒子量が50%になる粒子径であるメディアン径(D50)を用いている。そのため、粒子径が20μmのはんだ粒子は、粒度分布として、粒子径が30μmの粒子も含んでいるので、粒子径が12μmのはんだ粒子と組み合わせた場合でも、上記(数1)の関係が成り立つ粒子が存在する。
【0080】
また、粒子径が30μmのはんだ粒子は、粒度分布として、粒子径が20μmの粒子も含んでいるので、粒子径が8.0μmのはんだ粒子と組み合わせた場合でも、上記(数1)の関係が成り立つ粒子が存在する。
【0081】
以上のことから、本願発明者は、メディアン径で表した2種類の粒子径が、それぞれ、20〜30μmの範囲内と、8〜12μmの範囲内に入っておりさえすれば、それら2種類の粒子径のはんだ粒子の組み合わせの如何に関わらず、本発明の効果であるファインピッチのランドを印刷することが出来ると考えたのである。
【0082】
実施例1〜15と、比較例1〜12とで作成した導電性接着剤の配合比および印刷性能の評価結果を表1〜表3に示す。
【0083】
尚、表1〜表3の上から4〜5ブロック目の数値は、はんだ粒子の配合割合を示す重量比である。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示す様に、実施例1〜5において、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合を変化させ、第1メタルマスクを用いて、印刷性能を評価した結果、ブリッジおよびカケは発生しなかったので、合格であると判断した。
【0086】
更に、実施例1〜5において、第2メタルマスクを用いて、印刷性能を評価したところ、実施例2〜4については、ブリッジおよびカケは発生しなかったので、合格であると判断した(表1の◎印参照)。
【0087】
つまり、はんだ粒子No.1の割合が、40〜90wt%、残部がはんだ粒子No.2のとき、第1メタルマスクを使用する場合において、印刷性能が確保出来た。
【0088】
また、はんだ粒子No.1の割合が、60〜80wt%、残部がはんだ粒子No.2のとき、第2メタルマスクを使用する場合において、印刷性能が確保出来た(表1中の◎印参照)。
【0089】
次に、はんだ粒子No.1のみで、導電性接着剤を調整し、印刷性能を評価したところ、ブリッジが発生したため、不合格であると判断した(表1の比較例1参照)。
【0090】
また、逆に、はんだ粒子No.2のみで導電性接着剤を調整したところ、ブリッジは発生しないが、印刷後にメタルマスクを外した時に、印刷された導電性接着剤の一部がそのメタルマスクの開口の縁部に付着することにより、カケが発生したので不合格であると判断した(表1の比較例2参照)。
【0091】
更に、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合を詳細に検討すべく、はんだ粒子No.1を35wt%、はんだ粒子No.2を65wt%の割合で配合した導電性接着剤を調整し、印刷性能を評価した。その結果、ブリッジは発生しなかったが、カケが発生したため、不合格であると判断した(表1の比較例3参照)。
【0092】
また、逆に、はんだ粒子No.1を過剰に供給し、印刷性能を評価したところ、カケは発生しなかったが、ブリッジが発生したため、不合格であると判断した(表1の比較例4参照)。
【0093】
また、表2〜表3では、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合を表1の例と一致させて、有機酸を含有する接着剤とはんだ粒子との混合割合を変化させ、印刷性能を評価した。
【0094】
つまり、導電性接着剤に含まれる有機酸を含有する接着剤とはんだ粒子との重量比を変化させた。
【0095】
表2に示す様に、有機酸を含有する接着剤10wt%に対し、残部の90wt%がはんだ粒子とし、SnBi系はんだ粒子No.1と、SnBi系はんだ粒子No.2の割合を変化させながら、所望の導電性接着剤を作成し、印刷性能を評価した。
【0096】
【表2】

【0097】
具体的には、実施例6〜10において、第1メタルマスクを用いて、印刷性能を評価したところ、ブリッジおよびカケは発生しなかったので、合格であると判断した。
【0098】
更に、実施例6〜10において、第2メタルマスクを用いて、印刷性能を評価したところ、実施例7〜9については、ブリッジおよびカケは発生しなかったので、合格であると判断した(表2の◎印参照)。
【0099】
次に、はんだ粒子No.1のみで、導電性接着剤を調整し、印刷性能を評価したところ、ブリッジが発生したので、不合格であると判断した(表2の比較例5参照)。
【0100】
また、逆に、はんだ粒子No.2のみで導電性接着剤を調整したところ、ブリッジは発生しないが、印刷後にメタルマスクを外した時に、印刷された導電性接着剤の一部がそのメタルマスクの開口の縁部に付着することにより、カケが発生したため、不合格であると判断した(表2の比較例6参照)。
【0101】
更に、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合を詳細に検討すべく、はんだ粒子No.1を35wt%、はんだ粒子No.2を65wt%の割合で配合した導電性接着剤を調整し、印刷性能を評価した。その結果、ブリッジは発生しなかったが、カケが発生したため、不合格であると判断した(表2の比較例7参照)。
【0102】
また、逆に、はんだ粒子No.1を過剰に供給し、印刷性能を評価すると、カケは発生しなかったが、ブリッジが発生したため、不合格であると判断した(表2の比較例8参照)。
【0103】
次に、表3に示す様に、有機酸を含有する接着剤90wt%に対し、残部の10wt%がはんだ粒子とし、SnBi系はんだ粒子No.1と、SnBi系はんだ粒子No.2の割合を変化させながら所望の導電性接着剤を作成し、印刷性能を評価した。
【0104】
【表3】

【0105】
具体的には、実施例11〜15において、第1メタルマスクを用いて、印刷性能を評価したところ、ブリッジおよびカケは発生しなかったので、合格であると判断した。
【0106】
更に、実施例11〜15において、第2メタルマスクを用いて、印刷性能を評価したところ、実施例12〜14については、ブリッジおよびカケは発生しなかったので、合格であると判断した(表3の◎印参照)。
【0107】
次に、はんだ粒子No.1のみで、導電性接着剤を調整し、印刷性能を評価したところ、ブリッジが発生したため、不合格であると判断した(表3の比較例9参照)。
【0108】
また、逆に、はんだ粒子No.2のみで導電性接着剤を調整したところ、ブリッジは発生しないが、印刷後にメタルマスクを外した時に、印刷された導電性接着剤の一部がそのメタルマスクの開口の縁部に付着することにより、カケが発生したので不合格であると判断した(表3の比較例10参照)。
【0109】
更に、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合を詳細に検討すべく、はんだ粒子No.1を35wt%、はんだ粒子No.2を65wt%の割合で配合した導電性接着剤を調整し、印刷性能を評価した。その結果、ブリッジは発生しなかったが、カケが発生したため、不合格であると判断した(表3の比較例11参照)。
【0110】
また、逆に、はんだ粒子No.1を過剰に供給し、印刷性能を評価すると、カケ発生しなかったが、ブリッジが発生したため、不合格であると判断した(表3の比較例12参照)。
【0111】
この結果から、本発明の導電性接着剤において、はんだ粒子No.1の割合が、40〜90wt%、残部がはんだ粒子No.2のとき、ファインピッチ(0.4mmピッチ)のランドを確実に印刷出来ることが明らかとなった。
【0112】
また、この結果から、本発明の導電性接着剤において、はんだ粒子No.1の割合が、60〜80wt%、残部がはんだ粒子No.2のとき、更にファインピッチ(0.3mmピッチ)のランドを確実に印刷出来、より好ましいことが明らかとなった。
【0113】
これは、はんだ粒子No.1と有機酸を含有する接着剤の混練時に生じる隙間の大きさがはんだ粒子No.2の大きさに合致するためだと考えられる。
【0114】
更に、本発明の導電性接着剤において、好ましくは、はんだ粒子No.1の割合が、60〜80wt%、残部がはんだ粒子No.2のときであることが明らかになった。
【0115】
これは、はんだ粒子の粒子径の大きいものに着目すれば、粒子径の大きい粒子が多いほど、隙間が大きくなるためブリッジが発生し易く、一方、粒子径の大きい粒子が少ないほど、カケが発生し易くなる傾向があるためと考えられる。
【0116】
以上の結果より、従来より更にファインピッチのランドの印刷性能を確保するための2種類の粒子径のはんだ粒子の大きさの比としては、次の通りである。
【0117】
即ち、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の粒子径の比は、20〜30対8〜12、つまり、概ね5対2が良く、且つ、はんだ粒子No.1の割合が、40〜90wt%、残部がはんだ粒子No.2のとき、印刷性能を確保出来ることが明らかとなった。
【0118】
更に、好ましくは、はんだ粒子No.1の割合が、60〜80wt%、残部がはんだ粒子No.2のときであることが明らかになった。
【0119】
(実施の形態2:有機酸の割合)
実施の形態2では、有機酸を含有する接着剤を構成する有機酸について検討する。有機酸としては、アジピン酸(融点:152℃)とグルタル酸(97℃)で検討した。
【0120】
まず最初に、本実施の形態で用いる有機酸を含有する接着剤の配合比について説明し、その後、それを用いた導電性接着剤の作成について述べる。
【0121】
即ち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂16wt%、ビスフェノールF型エポキシ樹脂62wt%、イミダゾール系硬化剤12wt%、有機酸(アジピン酸とグルタル酸)9.0wt%、増粘剤1.0wt%を計量し、18℃〜28℃の環境下で、全体が均一になるまで約30分間撹拌し、有機酸を含有する接着剤を作成した。
【0122】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%がSnBi系はんだ粒子とし、且つ、そのSnBi系はんだ粒子の内、SnBi系はんだ粒子No.1を70wt%、SnBi系はんだ粒子No.2を30wt%として、所望の導電性接着剤を作成し、はんだ凝集性の評価ならびにスキージライフの評価を実施した(表4参照)。
【0123】
このときのSnBi系はんだ粒子の組成はSn42/Bi58とした。
【0124】
実施例16〜20、参考例1〜2、比較例13〜16で作成した導電性接着剤の配合比、および、はんだ凝集性評価結果、スキージライフ評価結果を表4〜6に示す。
【0125】
尚、表4〜6の上から4〜5ブロック目の数値は、アジピン酸とグルタル酸の割合を示す重量比である。
【0126】
【表4】

【0127】
実施例16〜20において、有機酸として用いているアジピン酸とグルタル酸の割合を変化させ、はんだ凝集性評価(第3メタルマスク、および第4メタルマスクを用いた)とスキージライフ評価を実施した(表4参照)。
【0128】
実施例16において、アジピン酸10wt%に対し、残部をグルタル酸とし、はんだ凝集性とスキージライフを評価したところ、両評価とも合格の結果を得ることができた(表4参照)。
【0129】
尚、表4〜表6において、○印は、第3メタルマスクを用いた場合において、はんだ凝集性が合格であることを示し、◎印は、第4メタルマスクを用いた場合において、はんだ凝集性が合格であることを示し、×印は不合格であることを示している。また、表4〜表6において、スキージライフ評価は、メタルマスクの開口のサイズに左右されないため、合格の場合は○印を付し、不合格の場合は×印を付した。
【0130】
また、アジピン酸50wt%に対し、残部をグルタル酸にした場合でも、実施例6と同様の結果を得ることができた(実施例20)。
【0131】
もちろんのことながら、アジピン酸33wt%に対して、残部をグルタル酸にした場合においても合格の結果を得ている(実施例18)。特に、実施例18では、第4メタルマスクを用いたはんだ凝集性評価においても、合格の結果を得ている。
【0132】
また、アジピン酸20wt%に対して、残部をグルタル酸にした場合、および、アジピン酸40wt%に対して、残部をグルタル酸にした場合においても、実施例18と同様の結果を得ている(実施例17、19)。
【0133】
次に、参考例として、アジピン酸33wt%、残部をグルタル酸として、有機酸を含有する接着剤を調整し、接着剤18wt%に対し、はんだ粒子を82wt%投入して、導電性接着剤を調整した。
【0134】
このとき、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合を変化させ、はんだ粒子No.1を10wt%とし、残部をはんだ粒子No.2とした場合(参考例1)と、はんだ粒子No.1を90wt%に対し、残部をはんだ粒子No.2とした場合(参考例2)のそれぞれにおいて、導電性接着剤を調整し、はんだ凝集性とスキージライフ評価したところ、何れの場合も合格の結果を得ることができた(表4参照)。
【0135】
以上の様に、本実施の形態では、有機酸は、はんだ粒子との反応が進行しないようにするために、アジピン酸とグルタル酸の2種類から構成した。また、その割合は、アジピン酸が10〜50wt%で残部がグルタル酸である。
【0136】
この割合にすることにより、有機酸とはんだ粒子との反応を抑制することができ、はんだ凝集性とスキージライフを確保することが出来た。
【0137】
尚、ここで、本実施の形態の上記効果の理解を一層深めるために、上記特許文献1の導電性接着剤についての、有機酸(二塩基酸)とはんだ粒子との反応に関して本発明者が確認した結果を説明する。
【0138】
即ち、特許文献1では、導電性接着剤を製造後、所定時間内(例えば、24時間以内)にそれをプリント配線基板上に印刷した後、直ちにはんだ溶融工程を実行する場合であれば、はんだ付け性能は確保されている。しかし、本願発明者は、特許文献1の場合、エポキシ樹脂又は硬化剤に溶解した二塩基酸が、導電性接着剤の製造後において徐々にはんだ粒子と反応し、塩が形成されることを確認した。
【0139】
その結果、第1の問題として、その様な反応が一定以上進行した後に、その導電性接着剤を印刷した場合、はんだ溶融工程を実行する際には、有機酸(二塩基酸)が酸として作用せず、はんだが金属部へ濡れ広がらないので、はんだ付け性能は確保出来ないことが確認出来た。
【0140】
また、第2の問題として、有機酸(二塩基酸)とはんだ粒子との反応により形成された塩は、強い求核性を有するために、エポキシ樹脂と反応する。このため、印刷時のスキージライフや長期間の保存安定性を確保出来ないことが確認出来た。即ち、特許文献1の場合、材料製造時から出荷、または、客先で使用する際の、はんだ付け性能を確保出来る期間が限られてしまうことが確認出来た。
【0141】
上記説明から明らかな様に、本実施の形態の導電性接着剤によれば、有機酸とはんだ粒子との反応を抑制することが出来るので、特許文献1における上記第1及び第2の問題は生じない。
【0142】
次に、再び、本実施の形態の比較例の説明に戻る。
【0143】
即ち、比較例13として、アジピン酸9wt%、残部をグルタル酸にした場合には、はんだ凝集性評価は合格の結果を得ることができたが、スキージライフ評価は実施例16〜20と比較して劣り、不合格となることが分かった。つまり、粘度の上昇が確認された(表4参照)。
【0144】
これの原因を分析した結果は、次の通りである。
【0145】
即ち、スキージライフ評価時にメタルマスク上に置かれている導電性接着剤が、空気中の水分を吸収し、材料中の水分にグルタル酸が溶解する。そのため、グルタル酸がメタルマスク上で不必要に酸として働いたために、はんだと酸の反応を進行させ、結果的に、スキージライフ評価を不合格とさせてしまったと考えられる。実際、20℃の水溶液に対し、グルタル酸は、38.7%溶解するのに対し、アジピン酸は、1.5%溶解することが知られている。
【0146】
次に、比較例14において、アジピン酸とグルタル酸の割合を51wt%対49wt%にし、評価を行ったところ、はんだ凝集性評価の結果が不合格であった(表4参照)。これは、SnBiはんだの融点138℃に対し、アジピン酸の融点152℃、グルタル酸は97℃と、アジピン酸の融点がSnBiはんだ粒子よりも高いことが要因であると考えられる。
【0147】
つまり、材料加熱時に、はんだが溶融した後に、アジピン酸が溶解し、酸として働くため、はんだが溶融し、凝集するまでの間に必要とされる酸がアジピン酸からは供給されていないことを示していると考えられる。
【0148】
確認のために、比較例15,16において、アジピン酸、グルタル酸、単体でのはんだ凝集性評価とスキージライフ評価を行った(表4参照)。
【0149】
次に、表5に示す様に、有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%がはんだ粒子とし、そのはんだ粒子の内、SnBi系はんだ粒子No.1を60wt%、SnBi系はんだ粒子No.2を40wt%として、所望の導電性接着剤を作成し、はんだ凝集性評価ならびにスキージライフ評価を実施した(表5の実施例21〜25参照)。
【0150】
【表5】

【0151】
実施例21〜25の場合も、実施例16〜20と同様の結果を得ている。特に、実施例22〜24では、第4メタルマスクを用いたはんだ凝集性評価においても、合格の結果を得ている。
【0152】
次に、表6に示す様に、有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%がはんだ粒子となる様にして、且つ、SnBi系はんだ粒子No.1を80wt%、SnBi系はんだ粒子No.2を20wt%として、所望の導電性接着剤を作成し、はんだ凝集性評価ならびにスキージライフ評価を実施した(表6の実施例26〜30参照)。
【0153】
【表6】

【0154】
実施例26〜30の場合も、実施例16〜20と同様の結果を得ている。特に、実施例27〜29では、第4メタルマスクを用いたはんだ凝集性評価においても、合格の結果を得ている。
【0155】
以上の結果より、本実施の形態の導電性接着剤において、はんだ粒子No.1の割合が、40〜90wt%、残部がはんだ粒子No.2であって、且つ、アジピン酸とグルタル酸の割合が、アジピン酸が10〜50wt%で、残部がグルタル酸であるときに、良好な印刷形状を得て、且つ、はんだ凝集性評価とスキージライフ評価の双方において合格の結果を得ることができることが明らかとなった。
【0156】
更に好ましくは、はんだ粒子No.1の割合が、60〜80wt%、残部がはんだ粒子No.2であって、且つ、アジピン酸とグルタル酸の割合が、アジピン酸が20〜40wt%で、残部がグルタル酸であるときであることが明らかになった。
【0157】
(実施の形態3:有機酸の大きさ)
実施の形態3では、有機酸を含有する接着剤を構成する有機酸の粒子の大きさについて検討する。
【0158】
尚、本実施の形態で用いる有機酸を含有する接着剤の配合比と撹拌工程については、上記実施の形態1で説明したものと同じであるので、その説明は省略する。
【0159】
また、本実施の形態の有機酸に含まれるアジピン酸とグルタル酸の割合は、アジピン酸33wt%、グルタル酸67wt%とした。
【0160】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%をSnBi系はんだ粒子とした。そして、そのSnBi系はんだ粒子の内、SnBi系はんだ粒子No.1の割合を70wt%、SnBi系はんだ粒子No.2の割合を30wt%として、所望の導電性接着剤を作成した。
【0161】
このときの、SnBi系はんだ粒子の組成はSn42/Bi58とした。
【0162】
実施例31〜34、比較例17〜18で作成した導電性接着剤の配合比およびはんだ凝集性評価およびスキージライフ評価結果を表7に示す。
【0163】
尚、実施の形態3のはんだ凝集性評価においては、第3メタルマスクを用いた評価のみ行った。
【0164】
尚、表7の上から4ブロック目の数値は、有機酸の粒子の粒度分布において、活性剤(有機酸)の粒子径が10μm以下の粒子量の全体に占める割合である。
【0165】
【表7】

【0166】
有機酸の粉砕に関しては、大阪ケミカル製のアブソリュートミルを用い、粉砕時間を調整することにより、所望の大きさを有する有機酸を調整した。
【0167】
本発明の導電性接着剤に用いる有機酸(アジピン酸とグルタル酸)の粒の大きさについて検討した。
【0168】
また、図1に示している通り、有機酸を含有する接着剤とはんだ粒子からなる本発明の導電性接着剤において、はんだ粒子の大きさが、20〜30μmのものに対して、有機酸として他の粒子径の粒子を充填したいという目的と、有機酸と2種類の粒子径のはんだ粒子との接触面積を大きく取りたいという目的から、有機酸の大きさは10μm以下が好ましいと考え、評価を行った。
【0169】
有機酸の粒子の粒度分布において、粒子径が10μm以下の粒子量の全体に占める割合が5〜70%のとき、はんだ凝集性評価、スキージライフ評価共に合格の結果を得ることができた(表7の実施例31、32参照)。
【0170】
次に、82wt%のはんだ粒子の中の2種類の粒子径のはんだの割合を、はんだ粒子No.1について10wt%、残部がはんだ粒子No.2とした場合(表7の実施例33参照)と、はんだ粒子No.1について90wt%、残部がはんだ粒子No.2とした場合(表7の実施例34参照)について、上記と同様の評価を行ったところ、実施例31と同様、合格の結果を得ることができた(表7の実施例33、34参照)。
【0171】
しかしながら、有機酸の粒子の粒度分布において、粒子径が10μm以下の粒子量の全体に占める割合が4%のときは、スキージライフ評価は合格の結果を得たが、はんだ凝集性評価に関しては、不合格となった(表7の比較例17参照)。
【0172】
これは、本発明の導電性接着剤に用いているはんだ粒子に対して、有機酸の粒子の粒子径が大きいものの比率が高くなることにより、はんだ粒子の粒子径が小さいはんだに関しては、効果が無いことを示している。なぜなら、はんだ粒子の粒子径が小さいほど、はんだ粒子全体の実質上の表面積が大きくなり、酸化被膜が多く存在することになる。そのため、大きい粒子径の活性剤(有機酸)は、活性剤自身の表面積も小さくなることから、有機酸として、作用しにくいことを示している。
【0173】
次に、有機酸の粒子の粒度分布において、粒子径が10μm以下の粒子量の全体に占める割合が71%のときの評価を行った。
【0174】
その結果、粒子径が10μm以下の粒子量の全体に占める割合が71%の有機酸の粒子を用いることで、はんだ凝集性は合格の結果を維持できたものの、スキージライフ評価に悪影響を与えて不合格の結果を得た(表7の比較例18参照)。
【0175】
これは、有機酸の粒子の粒子径が10μm以下の粒子量の割合が多すぎると、本発明の導電性接着剤が、メタルマスク上に置かれると導電性接着剤が空気中の水分を吸収し、吸収された水分に小さく砕かれたグルタル酸がまず最初に溶解し、メタルマスク上で不必要に酸として働いたために、はんだと酸の反応を進行させ、結果的に、スキージライフ評価を悪化させてしまったと考えられる。
【0176】
これらの結果より、本発明の導電性接着剤に用いる有機酸(アジピン酸とグルタル酸)の粒子の大きさは、はんだ凝集性とスキージライフを両立させるためには、有機酸の大きさは10μm以下が好ましく、且つ、有機酸の粒子の粒度分布において、粒子径が10μm以下の粒子量の全体に占める割合は、5〜70%であることが好ましいことが明らかとなった。
【0177】
また、本実施の形態によれば、樹脂に対し、はんだ粒子、有機酸を効率よく充填することが可能で、ファインピッチのランドパターンを有する電子回路基板に対する印刷性能やはんだ凝集性、及びスキージライフ性能を確保出来る。
【0178】
つまり、印刷性能、はんだ凝集性とスキージライフ性能を両立させるためには、有機酸の配合割合だけでなく、有機酸の粒子の大きさ、はんだ粒子の大きさまで管理しなければならないことが明らかとなった。
【0179】
(実施の形態4:はんだ組成)
実施の形態4では、SnBi系はんだの合金組成について検討する。
【0180】
尚、本実施の形態で用いる有機酸を含有する接着剤の配合比と撹拌工程については、上記実施の形態1で説明したものと同じであるので、その説明は省略する。
【0181】
また、本実施の形態の有機酸に含まれるアジピン酸とグルタル酸の割合は、上記実施の形態3と同様、アジピン酸を33wt%、グルタル酸を67wt%とした。
【0182】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%をSnBi系はんだ粒子として、そのSnBi系はんだ粒子の内、SnBi系はんだ粒子No.1を70wt%、SnBi系はんだ粒子No.2を30wt%として、所望の導電性接着剤を作成した。
【0183】
実施例3、35〜36で作成した導電性接着剤の配合比およびはんだ凝集性評価およびスキージライフ評価結果を表8に示す。
【0184】
尚、実施の形態4のはんだ凝集性評価においては、第3メタルマスクを用いた評価のみ行った。
【0185】
【表8】

【0186】
実施の形態1〜3に示しているような方法にて本発明の導電性接着剤に関して、はんだ組成について検討した。
【0187】
その結果、実施の形態1で示したSn42/Bi58のはんだ組成では、はんだ凝集性評価ならびにスキージライフ性能に関して合格の結果が得られた(表8の実施例3参照)。
【0188】
それと同様に、SnBi系はんだ粉末として、はんだ組成が、Sn42/Bi57/Ag1.0のはんだ粉末を用いて、はんだ凝集性評価ならびにスキージライフ評価を行った結果、実施例3と同様の結果を得た(表8の実施例35参照)。
【0189】
また、はんだ組成が、Sn16/Bi56/In28のはんだ粉末を用いて、はんだ凝集性評価ならびにスキージライフ評価を行った結果、実施例2と同様の結果を得た(表8の実施例36参照)。
【0190】
以上のことから、本発明の導電性接着剤のはんだ粉末としては、Sn42/Bi58、Sn42/Bi57/Ag1.0、Sn16/Bi56/In28のはんだ粉末に適用できることを示しており、はんだ組成としては、はんだ固相線の値が、有機酸としてのアジピン酸とグルタル酸のそれぞれの融点の間、または、それらの融点以下であれば有用であることが分かる。
【0191】
(実施の形態5:導電性接着剤により形成された導電部)
実施の形態5では、本発明の導電性接着剤を用いて導電部を形成することを検討した。
【0192】
尚、本実施の形態で用いる有機酸を含有する接着剤の配合比と撹拌工程については、上記実施の形態1で説明したものと同じであるので、その説明は省略する。
【0193】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%をSnBi系はんだ粒子No.1とSnBi系はんだ粒子No.2で混合し、所望の導電性接着剤を作成した。
【0194】
このときの、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合は、70wt%対30wt%とし、SnBi系はんだ粒子の組成はSn42/Bi58とした。
【0195】
図2には、本発明における実施の形態5に関わる電子回路基板の製造方法を示す。
【0196】
まず、図2(2-a)に示した、基材1を用意する。この基材1には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリイミド、熱可塑性樹脂、エポキシ、熱硬化性樹脂、アラミド不織布、ガラス織布、ガラス不織布などからなる基材を用いることができるが、これに限るものではない。
【0197】
次に、図2(2-b)に示したように、本実施の形態5に関わる導電性接着剤2を用いて、基材1の表面に、メタルマスク3及びスキージ4により、回路パターンを描画する。描画する方法としては、スクリーン印刷の他に、インクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなどの各種方法が使用できる。
【0198】
次に図2(2-c)に示したように、回路パターン20に、熱5あるいは、紫外線、電子線等を作用させ導電性接着剤を硬化させる。上記方法により、上記実施の形態5に関わる導電部を製造することができる。
【0199】
尚、回路パターン20は、本発明の導電部の一例である。
【0200】
従来、導電性接着剤により形成される導電部に用いられる導電性接着剤の代表として、Ag系のものが挙げられるが、Ag系の導電性接着剤は、接触抵抗が高く、また、マイグレーションの発生などの問題があり、代替品の開発が求められてきた。
【0201】
Ag系の場合、接触抵抗が高くなるのは、樹脂を硬化する際の硬化収縮により、Ag粒子同士が隣接して導通を得るものであるから、電気抵抗が比較的高いものになり、Ag粒子を溶融させないためセルフアライメント性も有しない。
【0202】
また、樹脂硬化時に、Ag粒子の表面に還元剤として作用する酸により、回路が腐食するマイグレーションという課題が発生する。
【0203】
それに加え、Ag系の導電性接着剤は、硬化温度が100〜300℃、硬化時間は10〜180分と長く、面実装に関して使用できるものではない。
【0204】
そこで、本発明の有機酸を含有する接着剤とはんだ粒子からなる導電性接着剤は、硬化温度が150〜170℃、硬化時間が4〜8分と短く、はんだを溶融させることで、セルフアライメント性を発現するので、安定した電気抵抗を得ることができ、酸もはんだ溶融時に消費されることから、回路の腐食やマイグレーションなどの心配が無くなる。
【0205】
(実施の形態6:導電性接着剤により形成された多層回路基板)
実施の形態6では、本発明の導電性接着剤を用いて多層回路基板を形成することを検討した。
【0206】
尚、本実施の形態で用いる有機酸を含有する接着剤の配合比と撹拌工程については、上記実施の形態1で説明したものと同じであるので、その説明は省略する。
【0207】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%をSnBi系はんだ粒子No.1とSnBi系はんだ粒子No.2で混合し、所望の導電性接着剤を作成した。
【0208】
このときの、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合は、70wt%対30wt%とし、SnBi系はんだ粒子の組成はSn42/Bi58とした。
【0209】
図3には本発明における実施の形態6に関わる多層回路基板の製造方法を示す。
【0210】
まず、図3(3−a)に示した、任意の位置に貫通孔を持つ基材10を用意する。この基材10には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリイミド、熱可塑性樹脂、エポキシ、熱硬化性樹脂、アラミド不織布、ガラス織布、ガラス不織布などからなる基材を用いることができるが、これに限るものではない。
【0211】
また、貫通孔6は、ドリルやパンチャーなどの機械加工、またはレーザー等を用いた熱加工等により形成できる。
【0212】
次に、図3(3−b)に示したように、メタルマスク3及びスキージ4を用いて、貫通孔6に導電性接着剤2を充填する(図3(3−c))。充填方法としては、図2(2−b)で説明したものと同様のスクリーン印刷の他に、インクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなどの各種方法が使用できる。
【0213】
次に、スクリーン印刷を用いて、図3(3-d)に示したように、回路パターン7を形成する。回路パターン7の形成は上記実施の形態5の方法、または一般的な回路パターン形成方法が使用できる。
【0214】
図3(3-d)に示したように、回路パターンに、熱5あるいは、紫外線、電子線等を作用させ導電性接着剤を硬化させる。上記方法により、上記実施の形態6に関わる多層回路基板を製造することができる。
【0215】
従来、導電性接着剤により形成される導電部に用いられる導電性接着剤の代表として、Ag系のものが挙げられるが、Ag系の導電性接着剤は、接触抵抗が高く、また、マイグレーションの発生などの問題があり、代替品の開発が求められてきた。
【0216】
Ag系の場合、接触抵抗が高くなるのは、樹脂を硬化する際の硬化収縮により、Ag粒子同士が隣接して導通を得るものであるから、電気抵抗が比較的高いものになり、Ag粒子を溶融させないためセルフアライメント性も有しない。
【0217】
また、樹脂硬化時に、Ag粒子の表面に還元剤として作用する酸により、回路が腐食するマイグレーションという課題が発生する。
【0218】
それに加え、Ag系の導電性接着剤は、硬化温度が100〜300℃、硬化時間は10〜180分と長く、面実装に関して使用できるものではない。
【0219】
そこで、本発明の有機酸を含有する接着剤とはんだ粒子からなる導電性接着剤は、硬化温度が150〜170℃、硬化時間が4〜8分と短く、はんだを溶融させることで、セルフアライメント性を発現するので、安定した電気抵抗を得ることができ、酸もはんだ溶融時に消費されることから、回路の腐食やマイグレーションなどの心配が無くなる。
【0220】
(実施の形態7:導電性接着剤を用いて接合した電子部品モジュール)
実施の形態7では、本発明の導電性接着剤を用いて電子部品モジュールを接合し、形成することを検討した。
【0221】
まず最初に、本実施の形態で用いる有機酸を含有する接着剤の配合比と撹拌工程については、上記実施の形態1で説明したものと同じであるので、その説明は省略する。
【0222】
次に、上記撹拌工程により得られた有機酸を含有する接着剤18wt%に対し、残部の82wt%をSnBi系はんだ粒子No.1とSnBi系はんだ粒子No.2で混合し、所望の導電性接着剤を作成した。
【0223】
このときの、はんだ粒子No.1とはんだ粒子No.2の割合は、70wt%対30wt%とし、SnBi系はんだ粒子の組成はSn42/Bi58とした。
【0224】
図4には本発明における実施の形態7に関わる電子部品モジュールの製造方法を示す。
【0225】
まず、図4(4-a)に示した、電子回路基板8を用意する。この電子回路基板8には、一般的に入手できる電子回路基板を使用することができる。
【0226】
次に図4(4-b)に示したように、本実施の形態7に関わる導電性接着剤2を電子回路基板8の表面に塗布する。塗布方法としては、図2(2−b)で説明したものと同様のスクリーン印刷の他に、インクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなどの各種方法が使用できる。このようにして、回路パターン30を形成する(図4(4-c))。
【0227】
次に図4(4-d)に示したように、電子部品9を実装する。
【0228】
次に図4(4-d)に示したように、導電性接着剤2の塗布部に、熱5あるいは、紫外線、電子線等を作用させる。この後導電性接着剤が硬化し電子部品を固定する。上記方法により、上記実施の形態7に関わる電子部品モジュールを製造することができる。
【0229】
これにより、本発明における導電性接着剤2を用いることにより、はんだによる電子回路基板8と電子部品9との接合とはんだの周囲を覆う樹脂により接合部の補強が可能となる。
【0230】
つまり、これまで、Sn96.5/Ag3.0/Cu0.5などのクリームはんだで接合を行った後、アンダーフィルなどによる接合部の保護を行っていたものが、接合部保護工程を大幅に削減できるなどの効果がある。また、鉛フリーはんだの高温リフローソルダリングではなく、低温リフローソルダリングで電子部品を実装できることから、省資源化の貢献できる。
【0231】
また、商品に求められる機能の多様化や、携帯電話機やデジタルカメラなどのモバイル機器においては、軽薄短小化が進んでいる。これに対しても、低温リフローソルダリングは、薄板実装時の反りを低減でき、両面実装時の印刷性能や部品搭載品質の向上に繋がる。
【0232】
尚、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、上記の実施例に記載されていなくても、一般に導電性接着剤に含まれているような他の材料と組み合わせることもできるのは言うまでもない。
【0233】
また、上記実施の形態では、有機酸として、アジピン酸とグルタル酸を用いる場合について説明したが、これに限らず例えば、アジピン酸とグルタル酸の他に、補助活性剤として、グリコール酸(m.p141℃)、チオジグリコール酸(m.p121℃)、セバシン酸(m.p134.4℃)等を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0234】
本発明の導電性接着剤は、より細かなファインピッチのランドを有する回路基板に対して印刷性能を確保できるという効果を有し、電子回路形成用導電性接着剤や、部品実装用導電性接着剤等として有用である。
【符号の説明】
【0235】
A〜D はんだ粒子No.1
E はんだ粒子No.2
1 はんだ粒子No.1の直径
2 はんだ粒子No.2の直径
3 はんだ粒子No.1の粒子間距離
1、10 基材
2 導電性接着剤
3 メタルマスク
4 スキージ
5 熱
6 貫通孔
7、20、30 回路パターン
8 電子回路基板
9 電子部品
100 隙間(樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜90wt%のSnBi系はんだ粉末と、残部が有機酸を含有する接着剤とを含む導電性接着剤であって、
前記SnBi系はんだ粉末は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子と、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子から構成されており、
前記SnBi系はんだ粉末の混合割合は、前記粒子径が20〜30μmのはんだ粒子がはんだ粉末全体の40〜90wt%で、残部が8〜12μmのはんだ粒子である、導電性接着剤。
【請求項2】
10〜90wt%のSnBi系はんだ粉末と、残部が有機酸を含有する接着剤とを含む導電性接着剤であって、
前記SnBi系はんだ粉末は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子と、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子から構成されており、
前記SnBi系はんだ粉末の混合割合は、前記粒子径が20〜30μmのはんだ粒子がはんだ粉末全体の60〜80wt%で、残部が8〜12μmのはんだ粒子である、導電性接着剤。
【請求項3】
前記有機酸を含有する接着剤は、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、前記有機酸、及び増粘剤から構成され、
前記有機酸は、アジピン酸とグルタル酸を含むものである、請求項1または2に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
前記アジピン酸と前記グルタル酸の割合は、前記アジピン酸が10〜50wt%で、残部が前記グルタル酸である、請求項3に記載の導電性接着剤。
【請求項5】
前記アジピン酸と前記グルタル酸の割合は、前記アジピン酸が20〜40wt%で、残部が前記グルタル酸である、請求項4に記載の導電性接着剤。
【請求項6】
前記有機酸の粒度分布において、粒子径が10μm以下の粒子量が、前記有機酸の粒子全体の中で5〜70%含まれている、請求項3から請求項5の何れか一つに記載の導電性接着剤。
【請求項7】
前記SnBi系はんだ粉末は、Sn42/Bi58、Sn42/Bi57/Ag1.0、または、Sn16/Bi56/In28である、請求項1から請求項6の何れか一つに記載の導電性接着剤。
【請求項8】
10〜90wt%のSnBi系はんだ粉末と、残部が有機酸を含有する接着剤とを含む導電性接着剤であって、
前記SnBi系はんだ粉末は、粒子径Lが20〜30μmのはんだ粒子と、粒子径Lが8〜12μmのはんだ粒子から構成されており、
前記SnBi系はんだ粉末の混合割合は、前記粒子径が20〜30μmのはんだ粒子がはんだ粉末全体の60〜80wt%で、残部が8〜12μmのはんだ粒子であり、
前記有機酸を含有する接着剤は、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、前記有機酸、及び増粘剤から構成されており、
前記有機酸は、アジピン酸とグルタル酸を含むものであり、
前記アジピン酸と前記グルタル酸の割合は、前記アジピン酸が有機酸全体の20〜40wt%で、残部が前記グルタル酸である、導電性接着剤。
【請求項9】
前記粒子径Lは、前記粒子径Lの0.4倍である、請求項1、2、8の何れか一つに記載の導電性接着剤。
【請求項10】
基材と、
前記基材上に、請求項1から請求項7の何れか一つに記載の導電性接着剤を用いて形成された導電部と、
を備えた回路基板。
【請求項11】
回路基板と、
前記回路基板上に、請求項1から請求項7の何れか一つに記載の導電性接着剤を用いて形成された導電部と、
前記導電部を介して前記回路基板上に実装された電子部品と、
を備えた、電子部品モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−92296(P2012−92296A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169966(P2011−169966)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】