説明

希土類磁石及びその製造方法

【課題】 十分な耐食性を有するとともに、優れた耐熱性を有する希土類磁石及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 希土類磁石1は、磁石素体3と、その磁石素体3の表面を被覆する保護層5とを備えている。保護層5は、磁石素体3を覆い希土類元素を含有する第1の層6と、第1の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第2の層7と、第2の層を覆い第1及び第2の層とは異なる組成を有する酸化物層8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石、特に表面に保護層が形成された希土類磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
25MGOe以上の高エネルギー積を示す永久磁石として、いわゆる希土類磁石(R−Fe−B系磁石;Rはネオジム(Nd)などの希土類元素を示す。以下、同様。)が開発されている。このような希土類磁石としては、例えば、特許文献1では焼結により形成されるものが、また特許文献2では高速急冷により形成されるものが開示されている。
【0003】
この希土類磁石は高エネルギー積を示すものの、主成分として比較的容易に酸化される希土類元素及び鉄を含有するため耐食性が比較的低い。
【0004】
このような希土類磁石の耐食性を改善することを目的として、保護層を形成することが提案されている。この中でも、特許文献3では、希土類磁石を酸化性雰囲気下にて200〜500℃で加熱することで、保護層を形成することが提案されている。
【特許文献1】特開昭59−46008号公報
【特許文献2】特開昭60−9852号公報
【特許文献3】特開平5−226129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献3においては、酸化性雰囲気下において特定の温度で保護層を形成することが提案されているが、かかる文献では保護層を形成する際の条件をどのように調整するのか具体的には開示されていない。そのため、希土類磁石を酸化性雰囲気下で熱処理した場合には、希土類磁石の腐食を防止するために満足な保護層は形成できず、耐食試験において粉ふきや重量減少が生じるという問題があった。
【0006】
また、近年、希土類磁石は、ハイブリッド自動車におけるモーター用磁石としての利用が検討されている。この場合、希土類磁石はエンジン周辺で用いられ、150℃を超えるような高温に晒されることになる。ところが、上記特許文献3に記載の希土類磁石は、このような高温環境下では腐食劣化が生じ易い傾向にあり、保護層の耐熱性の点で未だ改良の余地があった。
【0007】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、十分な耐食性を有するとともに、優れた耐熱性を有する希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究を行った結果、磁石素体の表面上に、それぞれ組成の異なる複数の層を形成することで、従来に比して優れた耐食性と耐熱性が得られるようになることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の希土類磁石は、希土類元素を含む磁石素体と、この磁石素体の表面上に形成された保護層とを備え、保護層は、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第1の層と、第1の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第2の層、第2の層を覆い第1及び第2の層とは異なる組成を有する酸化物層とを含むことを特徴とする。
【0010】
このように、本発明の希土類磁石は、組成の異なる層を少なくとも3層有する保護層を備えるものである。磁石素体に隣接する第1の層は、希土類元素を含むことから磁石素体に対して密着性良く形成されており、この外側に形成された第2の層は、希土類元素を実質的に含有しないことから酸化され難い。このため、これらの両層を備える希土類磁石は、極めて耐食性に優れるものとなる。また、第2の層の外側には、第1及び第2の層とは異なる組成を有する酸化物層が更に形成されていることから、希土類磁石は耐食性のみならず優れた耐熱性をも有するものとなる。特に、酸化物層が、第1及び第2の層に含まれる金属元素とは異なる金属元素の酸化物を含む層であると、このような効果に優れるようになる。
【0011】
上記本発明の希土類磁石において、磁石素体は、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含むものであり、第1の層は、上記希土類元素、上記遷移元素及び酸素を含有し、第2の層は、上記遷移元素及び酸素を含有し、且つ、上記希土類元素を実質的に含有しないことが好ましい。
【0012】
こうすれば、第1の層は磁石素体と同じ希土類元素を含み、第2の層は第1の層と同じ遷移元素を含むこととなるため、各層の密着性が更に良好となり得る。その結果、希土類磁石の耐食性が更に向上する。
【0013】
また、上記第1の層における希土類元素、第1の層における遷移元素、及び、第2の層における遷移元素は、磁石素体由来の元素であるとより好ましい。つまり、第1及び第2の層は、磁石素体が反応等によって変化してなるものであると好ましい。かかる構成とすれば、各層の密着性が一層良好となるほか、それぞれ極めて緻密な膜となり得る。その結果、希土類磁石の耐食性が更に良好となる。
【0014】
さらに、本発明の希土類磁石における酸化物層は、非晶質であると好ましい。非晶質の酸化物からなる保護層は、微視的には粒界を有していないものとなる。通常、結晶性の物質においては、粒界部分が劣化することにより粒子の欠落等が生じ、これが腐食の一因となり得るが、このように最外層の酸化物層を非晶質とすることで、かかる原因による腐食の発生を抑制することが可能となる。
【0015】
また、第2の層は、p型酸化物半導体からなる層であり、酸化物層は、n型酸化物半導体からなる層であるとより好ましい。希土類磁石の腐食は、希土類元素が酸化される、すなわち、希土類元素が電子を奪われることにより生じるものであると考えられている。したがって、このように磁石素体側から順にp型半導体酸化物からなる層、n型半導体酸化物からなる層を形成すれば、かかる結合による整流作用によって上述した方向への電子の流れが阻害されることとなり、その結果、希土類磁石の耐食性が更に向上する。
【0016】
より具体的には、酸化物層は、Al、Ta、Zr、Hf、Nb、P、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb、In及びMnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物を含むことが好ましい。これらの元素の酸化物からなる層は、優れた耐熱性を有するものとなる。なかでも、酸化物層としては、Mo又はWの酸化物を含むものが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記本発明の希土類磁石を好適に製造する方法を提供する。すなわち、本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に保護層を形成する希土類磁石の製造方法であって、磁石素体を熱処理して、磁石素体を覆い希土類元素を含有する第1の層、及び、この第1の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第2の層を形成する第1工程と、第2の層の表面上に第1及び第2の層とは異なる組成を有する酸化物層を形成する第2工程とを有することを特徴とする。
【0018】
かかる製造方法では、第1工程において、磁石素体の表面上に第1の層及び第2の層が形成されるように、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも一つの条件を調整することが好ましい。これらの条件を適宜調整することで、上述した第1及び第2の層が良好に形成されるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、十分な耐食性を有するとともに、優れた耐熱性を有する希土類磁石及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の希土類磁石を示す模式斜視図であり、図2は図1に示す希土類磁石のII−II線に沿う断面構造を模式的に示す図である。図1、2に示すように、希土類磁石1は磁石素体3と、その磁石素体3の表面を被覆する保護層5とを備えている。また、保護層5は、磁石素体3側から順に、第1の層6、第2の層7及び酸化物層8を備えている。以下、希土類磁石1の各構成についてそれぞれ説明する。
【0022】
(磁石素体)
まず、磁石素体3について説明する。磁石素体3は、希土類元素を含有する永久磁石である。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイド元素のことをいう。ここで、ランタノイド元素には、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビニウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が含まれる。
【0023】
磁石素体3の構成材料としては、上記希土類元素と、希土類元素以外の遷移元素とを組み合わせて含有させたものが例示できる。この場合、希土類元素としては、Nd、Sm、Dy、Pr、Ho及びTbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、これらの元素にLa、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含有したものであるとより好適である。
【0024】
また、希土類元素以外の遷移元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、Fe及び/又はCoがより好ましい。
【0025】
より具体的には、磁石素体3の構成材料としては、R−TM−B系やR−Co系のものが例示できる。前者の構成材料においては、RとしてはNdを主成分とした希土類元素が好ましい。また、TMとしてはFe、Co等の遷移元素が挙げられる。さらに、後者の構成材料においては、RとしてはSmを主成分とした希土類元素が好ましい。
【0026】
磁石素体3の構成材料としては、特に、R−Fe−B系の構成材料が好ましい。このような材料は実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有しており、また、この主相の粒界部分に希土類元素の配合割合が高い希土類リッチ相、及びホウ素原子の配合割合が高いホウ素リッチ相を有している。これらの希土類リッチ相及びホウ素リッチ相は磁性を有していない非磁性相であり、このような非磁性相は通常、磁石構成材料中に0.5〜50体積%含有されている。また、主相の粒径は、通常1〜100μm程度である。
【0027】
このようなR−Fe−B系の構成材料においては、希土類元素の含有量が8〜40原子%であると好ましい。希土類元素の含有量が8原子%未満である場合、主相の結晶構造がα鉄とほぼ同じ結晶構造となり、保持力(iHc)が小さくなる傾向にある。一方、40原子%を超えると希土類リッチ相が過度に形成されてしまい、残留磁束密度(Br)が小さくなる傾向にある。
【0028】
Feの含有量は42〜90原子%であると好ましい。Feの含有量が42原子%未満であると残留磁束密度が小さくなり、また、90原子%を超えると保持力が小さくなる傾向にある。さらに、Bの含有量は2〜28原子%であると好ましい。Bの含有量が2原子%未満であると菱面体構造が形成されやすく、これにより保持力が小さくなる傾向にあり、また28原子%を超えると、ホウ素リッチ相が過度に形成されて、これにより残留磁束密度が小さくなる傾向にある。
【0029】
上述した構成材料においては、R−Fe−B系におけるFeの一部が、Coで置換されていてもよい。このようにFeの一部をCoで置換すると、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。この場合、Coの置換量は、Feの含有量よりも大きくならない程度とすることが望ましい。Co含有量がFe含有量を超えると、磁石素体3の磁気特性が低下する傾向にある。
【0030】
また上記構成材料におけるBの一部は、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)又は銅(Cu)等の元素により置換されていてもよい。このようにBの一部を置換することによって、磁石素体の製造が容易となるほか、製造コストの低減も図れるようになる。このとき、これらの元素の置換量は、磁気特性に実質的に影響しない量とすることが望ましく、構成原子総量に対して4原子%以下とすることが好ましい。
【0031】
さらに、保持力の向上や製造コストの低減等を図る観点から、上記構成に加え、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、ハフニウム(Hf)等の元素を添加してもよい。これらの添加量も磁気特性に影響を及ぼさない範囲とすることが好ましく、具体的には、構成原子総量に対して10原子%以下とする。また、その他、不可避的に混入する成分としては、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、カルシウム(Ca)等が考えられ、これらは構成原子総量に対して3原子%程度以下の量で含有されていても構わない。
【0032】
このような構成を有する磁石素体3は、粉末冶金法によって製造することができる。この方法においては、まず鋳造法やストリップキャスト法等の公知の合金製造プロセスにより所望の組成を有する合金を作製する。次に、この合金をジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いて10〜100μmの粒径となるように粉砕した後、更にジェットミル、アトライター等の微粉砕機により0.5〜5μmの粒径となるようにする。こうして得られた粉末を、好ましくは600kA/m以上の磁場強度を有する磁場のなかで、0.5〜5t/cmの圧力で成形する。
【0033】
その後、得られた成形体を、好ましくは不活性ガス雰囲気又は真空下中、1000〜1200℃で0.5〜10時間焼結させた後に急冷する。さらに、この焼結体に、不活性ガス雰囲気又は真空中、500〜900℃で1〜5時間の熱処理を施し、必要に応じて焼結体を所望の形状(実用形状)に加工して、磁石素体3を得る。
【0034】
このようにして得られた磁石素体3には、さらに酸洗浄が施されることが好ましい。すなわち、後述する熱処理の前段において磁石素体3の表面に対して酸洗浄が施されることが好ましい。
【0035】
酸洗浄で使用する酸としては、硝酸を用いることが好ましい。一般の鋼材にメッキ処理を施す場合、塩酸、硫酸等の非酸化性の酸が用いられることが多い。しかし、本実施形態での磁石素体3のように、磁石素体3が希土類元素を含む場合には、これらの酸を用いて処理を行うと、酸により発生する水素が磁石素体3の表面に吸蔵され、吸蔵部位が脆化して多量の粉状未溶解物が発生する。この粉状未溶解物は、表面処理後の面粗れ、欠陥および密着不良を引き起こすため、上述した非酸化性の酸を酸洗浄処理液に含有させないことが好ましい。したがって、水素の発生が少ない酸化性の酸である硝酸を用いることが好ましい。
【0036】
このような酸洗浄による磁石素体3の表面の溶解量は、表面から平均厚みで5μm以上、好ましくは10〜15μmとするのが好適である。磁石素体3の表面の加工による変質層や酸化層を完全に除去することで、後述する熱処理により、所望の酸化膜をより精度よく形成することができる。
【0037】
酸洗浄に用いられる処理液の硝酸濃度は、好ましくは1規定以下、特に好ましくは0.5規定以下である。硝酸濃度が高すぎると、磁石素体3の溶解速度が極めて速く、溶解量の制御が困難となり、特にバレル処理のような大量処理ではバラツキが大きくなり、製品の寸法精度の維持が困難となる傾向がある。また、硝酸濃度が低すぎると、溶解量が不足する傾向がある。このため、硝酸濃度は1規定以下とすることが好ましく、特に0.5〜0.05規定とすることが好ましい。また、処理終了時のFeの溶解量は、1〜10g/l程度とする。
【0038】
酸洗浄を行った磁石素体3の表面から少量の未溶解物、残留酸成分を完全に除去するため、超音波を使用した洗浄を実施することが好ましい。この超音波洗浄は、磁石素体3の表面に錆を発生させる塩素イオンが極めて少ない純水中で行うのが好ましい。また、上記超音波洗浄の前後、及び酸洗浄の各過程で必要に応じて同様な水洗を行ってもよい。
【0039】
(保護層)
次に、保護層5について説明する。保護層5は、上述の如く、磁石素体3側から順に、希土類元素を含む第1の層6、希土類元素を実質的に含有しない第2の層7、並びに、第1及び第2の層とは異なる組成を有する酸化物層8を備える3層構造を有している。
【0040】
第1の層6及び第2の層7は、磁石素体3由来の元素及び酸素を含む層である。ここで、磁石素体3由来の元素とは、磁石素体3の構成材料であって、少なくとも希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素が含まれ、さらにB、Bi、Si、Alなどが含まれる場合がある。第1の層6及び第2の層7は、磁石素体3上に塗布等によって別途付着させたものではなく、磁石素体3の構成元素が反応する等して、当該磁石素体3が変化することによりその表面に形成される層である。かかる反応としては、酸化反応が挙げられる。このため、保護層5には磁石素体を構成しない新たな金属元素は含まれないが、酸素、窒素などの非金属元素が含まれる場合がある。
【0041】
第1の層6は、磁石素体3由来の希土類元素と酸素とを含有し、より具体的には、酸素、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含有している。例えば、磁石素体3の構成材料がR−Fe−B系のものである場合、遷移元素としてはFeを主として含み、その構成材料の組成によりCoなどを含んでいてもよい。
【0042】
また、第2の層7は、磁石素体3由来の元素及び酸素を含有しているが、希土類元素を実質的に含有しない層である。より具体的には、第2の層7は、酸素及び磁石素体3に含まれている希土類元素以外の遷移元素を含有する。例えば、磁石素体3の構成材料がR−Fe−B系のものである場合には、遷移元素はFeを主として含み、その構成材料の組成によりCoなどを含んでいてもよい。
【0043】
第1の層6及び第2の層7の各構成材料の含有量は、EPMA(X線マイクロアナライザー法)、XPS(X線光電子分光法)、AES(オージェ電子分光法)又はEDS(エネルギー分散型蛍光X線分光法)等の公知の組成分析法を用いて確認することができる。ここで、第2の層7における「希土類元素を実質的に含有しない」態様としては、上述した組成分析法によって希土類元素が検出されない態様が考えられる。すなわち、第2の層7においては、希土類元素の含有率が、上記組成分析法による検出限界以下程度となっている。換言すれば、第2の層7には、上記組成分析法により検出限界以下の希土類元素が含まれていてもよい。
【0044】
酸化物層8は、第2の層7を覆うように形成されており、第1の層6及び第2の層7とは異なる組成を有する酸化物からなる層である。この酸化物層8は、第1の層6や第2の層7とは異なり、磁石素体3が反応する等して形成された層ではなく、磁石素体3の表面上に酸化物を付着させることによって新たに設けられた層である。したがって、酸化物層8には、磁石素体3に由来する元素は含まれないこととなる。
【0045】
このような酸化物層8は、結晶質であっても非晶質であってもよいが、非晶質であるとより好ましい。非晶質の酸化物層8は、結晶質の構造において比較的劣化が生じ易い粒界部分が少ないため、優れた耐食性及び耐熱性を発揮し得るものとなる。
【0046】
酸化物層8としては、金属酸化物からなる層が挙げられる。例えば、Al、Ta、Zr、Hf、Nb、P、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb、In又はMnの酸化物により構成される層であると好ましく、これらを複数種類含む層であってもよい。なかでも、Mo、Mg又はWの酸化物、更にはMo又はWの酸化物が好ましく、Moの酸化物が特に好ましい。これらの酸化物層8は、特に優れた耐食性及び耐熱性を発揮し得る。なお、好適な酸化物層8は、上述した各元素の酸化物を含有するものであるが、必ずしもかかる酸化物のみから構成されるものではなく、酸化物の酸素の一部が窒素(N)、硫黄(S)等によって置換されたものが含まれていてもよい。具体的には、例えば、酸化窒化ケイ素(SiO1−x(0<x<1)が挙げられる。一般に、SiO1−x(0<x<1)は、n型半導体となる。
【0047】
このように、希土類磁石1においては、上述の如く、磁石素体3の表面上に、保護層5として、第1の層6、第2の層7及び酸化物層8が順に形成されている。かかる構成の保護層5においては、より良好な耐食性を得る観点から、第2の層7がp型酸化物半導体から構成されており、酸化物層8がn型酸化物半導体から構成されていることが好ましい。かかる構成とすれば、磁石素体3に含まれる希土類元素の酸化反応が生じ難くなり、磁石素体3ひいては希土類磁石1の劣化が低減される。
【0048】
このような第2の層7及び酸化物層8の組み合わせとしては、例えば、磁石素体3がR−Fe−B系の構成材料からなる場合、Feの酸化物(Fe等)から形成される第2の層7と、Cr又はCuの酸化物から形成される酸化物層8との組み合わせが挙げられる。
【0049】
上記各層からなる保護層5は、以下に示す方法によって製造することができる。すなわち、まず、磁石素体3を熱処理して第1の層6及び第2の層7を形成した後(第1工程)、第2の層7の表面上に酸化物層8を形成する(第2工程)。
【0050】
第1の層6及び第2の層7は、酸化性ガスを含有する酸化性雰囲気中で、磁石素体3を、酸化性ガス雰囲気下で熱処理(加熱)することにより形成することができる。この第1工程の熱処理においては、磁石素体3の表面に、第1の層6及び第2の層7の両方が形成されるように、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。なお、かかる熱処理の際には、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間の3つの条件全てを調整することがより好ましい。
【0051】
ここで、酸化性雰囲気とは、酸化性ガスを含有する雰囲気であれば特に限定されず、例えば、大気、酸素雰囲気(好ましくは酸素分圧調整雰囲気)、水蒸気雰囲気(好ましくは水蒸気分圧調整雰囲気)等の酸化が促進される雰囲気である。酸化性ガスとしては、酸素、水蒸気等が挙げられる。この中で、例えば、水蒸気雰囲気とは水蒸気分圧が10hPa以上の雰囲気であり、その雰囲気には、水蒸気と共に不活性ガスが共存していてもよい。かかる不活性ガスとしては窒素が挙げられる。酸化性雰囲気を水蒸気雰囲気とすることで、より簡易に保護層を形成することができる傾向にある。
【0052】
上記条件を調整する際には、先ず、磁石素体3を、酸化性ガス分圧、処理温度、処理時間を適宜変化させながら熱処理して、磁石素体3の表層部の構成と、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件との相関を求める。次に、その相関に基づき、磁石素体3の表面に第1の層6及び第2の層7の両方が形成されるように、熱処理の際に、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。
【0053】
熱処理により第1の層6及び第2の層7を形成するためには、処理温度を、300〜550℃の範囲で調製することが好ましく、350〜500℃の範囲で調整することがより好ましい。処理温度が上記上限値を超えると、磁石素体3の腐食が発生し易くなる傾向にある。一方、上記下限値未満であると、上記第1及び第2の層6,7が良好に形成され難くなる傾向にある。
【0054】
また、処理時間は、1分〜24時間の範囲で調整することが好ましく、5分〜10時間の範囲で調整することがより好ましい。処理時間が上記上限値を超えると、磁気特性が劣化する傾向にある。一方、上記下限値未満であると、上記第1及び第2の層6,7が良好に形成され難くなる傾向にある。
【0055】
酸化性雰囲気が水蒸気雰囲気である場合には、先ず、磁石素体3を、水蒸気分圧、処理温度、処理時間を適宜変化させながら熱処理して、磁石素体3の表層部の構成と、水蒸気分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも一つの条件との相関を求める。次に、その相関に基づき、磁石素体3表面に第1の層6及び第2の層7の両方が形成されるように、熱処理における水蒸気分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも1つの条件を調整する。このとき、処理温度及び処理時間は、上述した範囲内で調整することが好ましい。また、水蒸気分圧は、10〜2000hPaの範囲で調整することが好ましい。
【0056】
第1の層6と第2の層7との総膜厚は、0.1〜20μmとすることが好ましく、0.1〜5μmとすることがより好ましい。この総膜厚を0.1μm未満としようとすると、第1の層6と第2の層7の両層が良好に形成され難くなる傾向にある。一方、総膜厚が20μmを超えるように第1の層6及び第2の層7を形成するのは困難な傾向にある。また、第2の層7の膜厚は、20nm以上であると好ましい。この膜厚が20nm未満であると、第1の層6の腐食を抑制する効果が不十分となり、希土類磁石1の耐食性が低下する傾向にある。
【0057】
酸化物層8の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法若しくは溶射法等の気相成長法、塗布法若しくは溶液析出法等の液相成長法、ゾルゲル法等の公知の成膜技術が挙げられる。これらのなかでも、気相成長法(ドライプロセス)を用いると好ましく、反応性真空蒸着法、反応性スパッタ法、反応性イオンプレーティング法、プラズマCVD法、熱CVD法若しくはCat−CVD法を用いるとより好ましい。このようなドライプロセスによれば、磁石素体3の構成材料の溶出に伴う希土類磁石1の機能低下を防止することができるようになる。
【0058】
さらに酸化物層8をより低コストで形成する観点からは、一度に大面積を均一に形成できる方法が好ましい。このような酸化物層8の形成方法としては、スパッタ法やCVD法等が挙げられる。これらの具体的な方法としては、フラットパネルディスプレイの分野等で確立された、大面積の層を均一に形成する成膜技術を応用して適用することができる。
【0059】
例えば、上記のように酸化物半導体からなる酸化物層8を形成する場合、原料にアルコキシドを用いた常圧熱CVD法を適用することが好ましい。かかる方法によれば、安価に良質な酸化物層8を形成することができる。原料に用いるアルコキシドとしては、Si(OC、B(OCH、B(OC、Ge(OC、Al(CHCOCHCOCH、Al(O−i−C、Ga(O−i−C、In(O−i−C、Sn(O−i−C、Pb(O−i−C、Bi(O−t−C11、Ti(O−i−C、TiO(CHCOCHCOCH、V(OC、VO(CHCOCHCOCH、Cr(CHCOCHCOCH、Fe(O−i−C、Co(CHCOCHCOCH、Co(CHCOCHCOCH、Ni(O、Ni(CHCOCHCOCH、Cu(O、Cu(CHCOCHCOCH、Zn(OC、Zn(CHCOCHCOCH、Zr(O−i−C、Zr(O−t−C、Zr(O−n−C、Nb(OC、Mo(OC、Hf(O−i−C、Ta(OC、W(OC、Mg(OC、Ca(OC、Sr(O−i−C、Ba(OC、La(O−i−C、P(OCH、PO(OCH、あるいはPO(OCなどの金属アルコキシドが挙げられる。
【0060】
また、真空蒸着法は、一般的に蒸着源が点源であるため、一度に大面積の層を均一に形成する必要のあるディスプレイの形成に用いるには不利な面があるが、本実施形態の希土類磁石1は比較的小型であるため、真空蒸着法によっても容易に酸化物層8を形成することができる。ところが、真空蒸着法は、一度に成膜できる面積が小さいため、酸化物層8の形成コストが高くなる傾向にある。そこで、真空蒸着法を用いる場合には、酸化物層8の形成コストを下げるため、成膜速度を上げることが望ましい。ただし、成膜速度が高くなりすぎるとスプラッシュ等の粗大粒子が発生し、それに起因して、均一な表面を有する酸化物層8が得られなくなる場合もある。
【0061】
イオンプレーティング法は、減圧容器中で、陽極としてコーティング材(本実施形態においては酸化物層8の構成材料)、陰極として被コーティング基板(本実施形態においては第1及び第2の層6,7が形成された磁石素体3)を配置し、反応性ガスの存在下若しくは非存在下で、陽極を加熱することによりコーティング材を原子状、分子状又は微粒子状とし、これを熱電子等でイオン化したものを陰極の被コーティング基板に付着させる手法である。
【0062】
このイオンプレーティング法において、イオン化する物質の加熱方法としては、るつぼ方式若しくは直接抵抗加熱方式の抵抗加熱法、高周波誘導加熱法、又は電子線加熱法などを用いることができる。これらのうち抵抗加熱法は、蒸気圧の低い無機化合物を成膜するには適さない傾向にある。また、電子線加熱法は、様々な材料を蒸発することができるが、成膜速度が高くなるとスプラッシュ等の粗大粒子が発生し、それに起因して、均一な表面を有する酸化物層8が得られなくなる場合がある。
【0063】
さらにイオンプレーティング法は、蒸着源が点源であるため、上記真空蒸着法と同様に比較的低コストで酸化物層8を形成することが困難な傾向にある。そこで、イオンプレーティング法を用いて、比較的低コストで酸化物層8を形成するには、「月刊ディスプレイ」の1999年9月号、第28頁に提案されている圧力勾配型ホローカソード型プラズマガンによる高密度プラズマを利用した成膜装置を用いればよい。この方法はイオンプレーティング法の1種であり、特開平2−209475号公報に記載されているようなシート状プラズマを用いるので、比較的低コストで大面積の層を均一に形成することができる。しかも、この方法はプラズマガンのイオン化率が従来のものと比較して極めて高いため、蒸発粒子のイオン化率が高くなり、基板温度が比較的低温であっても膜密度を高く維持することができ、表面形状を含めた結晶性及び反応性等の膜質改善効果が得られる、などの効果を奏することができる傾向にある。
【0064】
酸化物層8を形成する際の成膜温度は特に限定されないが、成膜時の熱履歴が磁石素体3の磁気特性を劣化させない程度とすることが好ましい。そのような観点から、成膜温度は、500℃以下であると好ましく、300℃以下であるとより好ましい。
【0065】
酸化物層8を形成する際の雰囲気ガスの組成は特に限定されないが、例えば、酸化物層8中の酸素含有量を、これを構成している酸化物中の酸素の化学量論量よりも少なくする場合には、成膜速度、基板温度あるいは雰囲気ガス中の酸素濃度を調整するのがよい。具体的には、例えば、酸化物層8の構成材料として酸化アルミニウムを用いる場合、成膜速度が0.4nm/秒以上となるように成膜条件を調整すると、得られる酸化物層8中の酸素含有量は、Al含有量に対して、原子基準で1.5倍未満となる傾向にある。ここでいう成膜条件とは、例えば、上述のイオンプレーティング法の場合、イオン化する物質の加熱条件などをいう。また、抵抗加熱法及び高周波誘導加熱法においては投入電力、電子線加熱法においては電子線の電流量などがその成膜条件に該当する。
【0066】
また、酸化物層8を形成する際には、まず酸化物を構成する金属元素を形成した後、高温酸化法、プラズマ酸化法、陽極酸化法等の後処理を行うことにより酸素量を制御してもよい。
【0067】
さらに、酸化物層8の形成方法としては、拡散浸透法が挙げられる。拡散浸透法とは、スパッタリング等により金属等の膜を形成した後、200〜500℃に加熱して空気酸化させる方法である。
【0068】
以上、好適な実施形態に係る希土類磁石1及びその製造方法について説明したが、このような構成を有する希土類磁石1においては、まず、第1の層6及び第2の層7が、磁石素体3の表面が変化することによって形成されたものであるから、緻密な構造を有し、また磁石素体3への密着性に優れるものとなる。このため、磁石素体3に対する外気の影響を良好に低減し得る。また、最外層の保護層である酸化物層8は、磁石素体3(第2の層7)の表面上に別途設けられたものであるから、磁石素体3由来の層では得られ難い優れた耐熱性を発揮し得る。
【0069】
従来、保護層としては、磁石素体の表面を酸化して得られる単層の酸化物層、又は、磁石素体の表面に塗布等により形成された樹脂層等が知られているが、単層の酸化物層のみでは十分な耐食性が得られ難く、また、樹脂層のみでは十分な耐熱性(具体的には、120℃程度を超える温度に耐え得る耐熱性)が得られ難い傾向にあった。これに対し、本実施形態の希土類磁石1は、上記3層構造からなる保護層を備えていることから、耐食性に優れるのみならず、ハイブリッドカーのモーター等の用途において要求される200℃以上の高温にも耐え得る耐熱性を有するものとなる。
【0070】
なお、本発明の希土類磁石及びその製造方法は、上述した実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、酸化物層8としては単層構造のものを例示したが、酸化物層は、複数の層から構成される層であってもよい。また、酸化物層8中には磁石素体由来の元素が含まれないこととしたが、当該層の特性を低下させない程度であれば、例えば、第1の層6や第2の層7を介して移動する等によって、磁石素体由来の元素が含まれていてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[希土類磁石の製造]
【0072】
(実施例1)
粉末冶金法により、組成が13.2Nd−1.5Dy−77.6Fe−1.6Co−6.1B(数字は原子百分率を表す。)である鋳塊を作製し、これを粗粉砕した。その後、不活性ガスによるジェットミル粉砕を行って、平均粒径約3.5μmの微粉末を得た。得られた微粉末を金型内に充填し、磁場中で成形した。次いで、真空中で焼結後、熱処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体を35mm×19mm×6.5mmの寸法に切り出し加工し、実用形状に加工した磁石素体を得た。
【0073】
次に、得られた磁石素体を2%HNO水溶液中に2分間浸漬し、その後超音波水洗を施した。それから、この酸洗浄(酸処理)を施した磁石素体を、酸素分圧70hPa(酸素濃度7%)の酸素−窒素混合雰囲気中、450℃で8分間の熱処理を行った。
【0074】
その後、磁石素体を真空製膜チャンバー内に固定し、1×10−3Pa以下の真空度が得られるまで真空排気した。次いで、気相成長法である真空蒸着法を用いて、酸化アルミニウム(アルミナ)からなる酸化物層を、その膜厚が5μmとなるように磁石素体表面上に形成した。
【0075】
この酸化物層の形成は、具体的には、酸化アルミニウム粒子(粒子径2〜3mm程度)に電子ビームを照射し、溶解と同時に蒸発させることにより行なった。電子ビームを発生させる際の印可電圧は5kV、電流値は200mAとした。また、酸化物層を形成する間、真空成膜チャンバー内に酸素ガスを1.0sccmの流量で流通させ、このチャンバー内の圧力を1×10−2Paに維持した。この際の磁石素体の表面温度は200℃になるように調整し、0.4nm/秒の成膜速度を維持した。このようにして実施例1の希土類磁石を得た。
【0076】
得られた希土類磁石を、集束イオンビーム加工装置を用い薄片化し、表面近傍の膜構造を透過型電子顕微鏡(日本電子製のJEM-3010)で観察したところ、磁石素体の表面上には、磁石素体と酸化物層の間に、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側から順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDS(NoraanInstruments社製のVoyagerIII)を用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、酸化物層側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
【0077】
(実施例2)
まず、実施例1と同様にして、磁石素体を製造した後、酸洗浄を行った。次に、この磁石素体に対し、酸素濃度0.5%、水蒸気分圧74hPaの酸化性雰囲気下、390℃で10分の熱処理を行った。
【0078】
次いで、この磁石素体を、常圧熱CVD装置に設置した。この常圧熱CVD装置は、蒸着源となる金属アルコキシド、及び、水蒸気を、窒素ガス等のキャリアガスによって反応炉内に導入し、磁石素体上に金属酸化物層を形成し得るものである。
【0079】
そして、蒸着源としてMo(C)、Ti(O−i−C)、及び60℃に加熱した水を用い、これらを、200cm/minのキャリアガスにより200℃に加熱した磁石素体に供給した。これにより、磁石素体の表面上に、厚さ0.1μmの酸化モリブデン及び酸化チタンからなる混合酸化物層を形成した。このようにして実施例2の希土類磁石を得た。
【0080】
得られた希土類磁石を、実施例1と同様にして透過型電子顕微鏡で観察したところ、磁石素体の表面上には、磁石素体と酸化物層の間に、平均膜厚が1.7μmの層及び平均膜厚が100nmの層の2つの層が、磁石素体側から順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、酸化物層側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。また、この希土類磁石の表面に形成された混合酸化物層の蛍光X線分析を行った結果、当該層内の金属比は、Moが3原子%であり、Tiが97原子%であった。
【0081】
(実施例3)
まず、実施例1と同様にして、磁石素体を製造した後、酸洗浄を行い、更に、この磁石素体に対して、実施例1と同様の条件で熱処理を行った。
【0082】
次いで、蒸着源としてCr(C)及び60℃に加熱した水を用い、これらを、200cm/minのキャリアガスにより200℃に加熱した磁石素体に供給した。これにより、磁石素体の表面上に、厚さ0.3μmの酸化クロムからなる酸化物層を形成した。このようにして実施例3の希土類磁石を得た。
【0083】
なお、この製造方法においては、上記熱処理後に、磁石素体の表面に形成された層の半導体特性を調べたところ、当該層は、n型の半導体特性を示すことが確認された。また同様に酸化物層の半導体特性を調べたところ、当該層は、p型の半導体特性を示すことが確認された。
【0084】
そして、得られた希土類磁石を、実施例1と同様にして透過型電子顕微鏡で観察したところ、磁石素体の表面上には、磁石素体と酸化物層の間に、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側から順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、酸化物層側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
【0085】
(比較例1)
粉末冶金法により、組成が13.2Nd−1.5Dy−77.6Fe−1.6Co−6.1B(数字は原子百分率を表す。)である鋳塊を作製し、これを粗粉砕した。その後、不活性ガスによるジェットミル粉砕を行って、平均粒径約3.5μmの微粉末を得た。得られた微粉末を金型内に充填し、磁場中で成形した。次いで、真空中で焼結後、熱処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体を35mm×19mm×6.5mmの寸法に切り出し加工し、実用形状に加工した磁石素体を得た。
【0086】
次に、得られた磁石素体を2%HNO水溶液中に2分間浸漬し、その後超音波水洗を施した。次いで、この酸洗浄(酸処理)を施した磁石素体を、酸素分圧70hPa(酸素濃度7%)の酸素−窒素混合雰囲気中、450℃で8分間の熱処理を行い、保護層を形成した。このようにして比較例1の希土類磁石を得た。
【0087】
得られた希土類磁石を、実施例1と同様にして透過型電子顕微鏡で観察したところ、磁石素体の表面上には、磁石素体と酸化物層の間に、平均膜厚が1μmの層及び平均膜厚が50nmの層の2つの層が、磁石素体側から順に形成されていることが確認された。そして、この2つの層に含まれる元素を、EDSを用いて分析した結果、磁石素体側の層からは主な成分としてNd,Fe,Oが検出され、酸化物層側の層からはFe,Oが検出され、Ndは検出されなかった。
【0088】
(比較例2)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を製造した後、得られた磁石素体を2%HNO水溶液中に2分間浸漬し、その後超音波水洗を施した。次いで、この酸洗浄(酸処理)を施した磁石素体の表面に、10μmの厚さとなるようにアクリル樹脂塗料を塗装し、保護層を形成させた。このようにして比較例2の希土類磁石を得た。
[特性評価]
【0089】
(塩水噴霧試験)
実施例1〜3及び比較例1〜2の希土類磁石に対して、JIS K5600−7−1に準拠し、5%の塩水を用いて35℃で、96時間塩水噴霧試験を行った。その結果、実施例1〜3及び比較例2の希土類磁石では錆の発生が見られなかったのに対し、比較例1の希土類磁石では錆の発生が見られた。
【0090】
(耐熱試験)
実施例1〜3及び比較例1〜2の希土類磁石を、新日本石油社製ATF(オートミッショントランスファーフィールド)に、200℃、1000時間の条件で浸漬する浸漬試験を行った。その結果、実施例1〜3及び比較例1の希土類磁石は、浸漬後の磁束劣化がいずれも0.2%以下であったのに対し、比較例2の希土類磁石は、5.2%であった。
【0091】
以上の塩水噴霧試験及び耐熱試験の結果から、実施例1〜3の希土類磁石は、耐食性及び耐熱性の両方の特性に優れるものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施形態の希土類磁石を示す模式斜視図である。
【図2】図1に示す希土類磁石のII−II線に沿う断面構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1…希土類磁石、3…磁石素体、5…保護層、6…第1の層、7…第2の層、8…酸化物層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む磁石素体と、該磁石素体の表面上に形成された保護層と、を備え、
前記保護層は、前記磁石素体を覆い希土類元素を含有する第1の層と、前記第1の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第2の層と、前記第2の層を覆い前記第1及び第2の層とは異なる組成を有する酸化物層と、を含むことを特徴とする希土類磁石。
【請求項2】
前記酸化物層は、前記第1及び第2の層に含まれる金属元素とは異なる金属元素を含む層であることを特徴とする請求項1記載の希土類磁石。
【請求項3】
前記磁石素体は、希土類元素及び希土類元素以外の遷移元素を含むものであり、
前記第1の層は、前記希土類元素、前記遷移元素及び酸素を含有し、
前記第2の層は、前記遷移元素及び酸素を含有し、且つ、前記希土類元素を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1又は2記載の希土類磁石。
【請求項4】
前記第1の層における前記希土類元素、前記第1の層における前記遷移元素、及び、前記第2の層における前記遷移元素は、前記磁石素体由来の元素であることを特徴とする請求項3記載の希土類磁石。
【請求項5】
前記酸化物層は、非晶質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の希土類磁石。
【請求項6】
前記第2の層は、p型酸化物半導体からなる層であり、前記酸化物層は、n型酸化物半導体からなる層であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の希土類磁石。
【請求項7】
前記酸化物層は、Al、Ta、Zr、Hf、Nb、P、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb、In及びMnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の希土類磁石。
【請求項8】
前記酸化物層は、Mo又はWの酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の希土類磁石。
【請求項9】
希土類元素を含有する磁石素体の表面上に保護層を形成する希土類磁石の製造方法であって、
前記磁石素体を熱処理して、前記磁石素体を覆い希土類元素を含有する第1の層、及び、当該第1の層を覆い希土類元素を実質的に含有しない第2の層を形成する第1工程と、
前記第2の層の表面上に前記第1及び第2の層とは異なる組成を有する酸化物層を形成する第2工程と、
を有することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程において、前記磁石素体の表面上に前記第1の層及び前記第2の層が形成されるように、酸化性ガス分圧、処理温度及び処理時間のうちの少なくとも一つの条件を調整することを特徴とする請求項9記載の希土類磁石の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−245064(P2006−245064A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55011(P2005−55011)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】