説明

平面アンテナ及びその製造方法

【課題】作製時の技術閾値が低く、アンテナの電波特性を良好に保ちつつ、耐環境性能にも優れる平面アンテナ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の平面アンテナは、誘電体で構成される基板1と、基板1上に形成された所定のパターンと、上記所定のパターン以外の基板1の表面を被覆する導体膜2と、保護膜6とを備える平面アンテナ100であって、上記所定のパターンは、放射用スロットパターン3を含み、放射用スロットパターン3は、基板1の一方の主面に形成され、保護膜6は、放射用スロットパターン3、放射用スロットパターン3が形成された基板1の一方の主面を被覆する導体膜2、及び基板1の側面を被覆する導体膜2のそれぞれの上に形成されており、保護膜6は、膜厚が1〜200nmである。また、本発明の平面アンテナの製造方法は、スパッタリング法で導体膜2を形成する工程と、スパッタリング法で保護膜6を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面アンテナ及びその製造方法に関し、具体的には、耐環境性能を向上させた平面アンテナ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会を背景に無線を利用した通信システムが汎用されており、とりわけ情報量の多いマイクロ波やミリ波領域を使用した通信システムの発展が著しい。このような通信システムにおいて、平面アンテナは短波長無線システムの入出力装置として好適である。
【0003】
ところで、アンテナの大きさは電(磁)波の波長の大きさにあわせて作る必要があり、波長を短波長化すると入出力装置であるアンテナの形状も小型化する必要がある。これにより、近年のアンテナではアンテナの寸法精度についても微細加工技術が要求されるようになっている。従来では、エッチング技術を用いてアンテナの例えばスロットパターンやパッチパターンを形成していたが、微細加工がアンテナ特性に与える影響は大きく、従来のエッチング技術では精度良く大量にアンテナを生産できないという欠点があった。特に、ミリ波における寸法精度は少なくとも波長の1%以下は必要とされ、例えば、周波数が50GHzの場合においては数十μmの寸法精度が必要とされる。このような要求に対してLSI(Large Scale Integration)の製造工程に適用可能な微細加工技術を適用することも考えられるが、かかる技術では安価なアンテナを製造することはできない。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1では、基板上の導体を被覆しない領域である所定のパターンと基板とを射出成形法により一体に形成することにより、所定のパターンを有する平面アンテナのスロットを寸法精度良く形成する方法が提案されている。射出成形法で所定のパターンを有する基板を作製することは、一度所定のパターンを有する基板の金型を形成してしまえばアンテナの量産が容易であり、安価にアンテナを成形することができる。また、射出成形法はミクロン単位で所定のパターンを成形可能であり、短波長化に好適な小型のアンテナを提供できる。
【0005】
そして、アンテナにより電磁波を空間に放射するためには、まず能動素子によって作られた電磁波を導波管などにより所定の場所まで誘導し、更にこの電磁波をその外部への放射パターンが目的のものとなるように適切に基板各所にまで誘導する必要がある。そのため、通常、基板を誘電体で構成し、表面に導体膜を配置する。基板の一部には電磁波を放射するために導電体膜が無い領域を適切に設ける。ここで、上記誘電体からなる基板は金属やセラミック材料と比較して一般に吸水性が大きく、また熱膨張も大きい。そのため外部環境にアンテナを設置した場合、導体膜が無い場所から水分が入り、更には温度により膨張収縮を繰り返すことにより導体膜が腐蝕や剥離する懸念がある。
【0006】
そこで、特許文献2では、スパッタリングによりBN(窒化ホウ素)からなる保護膜を形成して導体膜の腐食などを防止している。また、特許文献3及び特許文献4のように、アンテナ電磁波送信受信部と給電部との一体型としてアンテナを作製することで、導体膜の腐食を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−15833号公報
【特許文献2】特開2006−237478号公報
【特許文献3】特許第3356866号公報
【特許文献4】特許第3356867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2では、アンモニアなどを用いており、保護膜を形成するための技術閾値が高いという問題がある。また、特許文献3及び特許文献4では、精度良く一体型とするための技術閾値が高いという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、作製時の技術閾値が低く、アンテナの電波特性を良好に保ちつつ、耐環境性能にも優れる平面アンテナ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の平面アンテナは、誘電体で構成される基板と、上記基板上に形成された所定のパターンと、上記所定のパターン以外の上記基板の表面を被覆する導体膜と、保護膜とを備える平面アンテナであって、上記所定のパターンは、放射用スロットパターンを含み、上記放射用スロットパターンは、上記基板の一方の主面に形成されており、上記保護膜は、上記放射用スロットパターン、上記放射用スロットパターンが形成された上記基板の一方の主面を被覆する導体膜、及び上記基板の側面を被覆する導体膜のそれぞれの上に形成されており、上記保護膜は、膜厚が1〜200nmであることを特徴とする。
【0011】
本発明の平面アンテナの製造方法は、上記平面アンテナを製造する方法であって、所定のパターンが形成された基板を準備する工程と、スパッタリング法で導体膜を形成する工程と、スパッタリング法で保護膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の平面アンテナは、放射用スロットパターン、上記放射用スロットパターンが形成された上記基板の一方の主面を被覆する導体膜、及び上記基板の側面を被覆する導体膜のそれぞれの上に、膜厚が1〜200nmである保護膜を形成することにより、アンテナの電波特性を良好に保ちつつ、耐環境性能にも優れる平面アンテナを提供できる。また、本発明の平面アンテナの製造方法は、導体膜と保護膜をスパッタリング法で形成することにより、低い技術閾値と、短縮された作業工程時間で、本発明の平面アンテナを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例における平面アンテナの構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施例における所定のパターンを有する基板の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明で用いるスパッタリング装置におけるキャリアとパレットの関係を示す模式的断面図である。
【図4】本発明における環境試験後の比較例1の平面アンテナの表面を示す顕微鏡写真(倍率500倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面などに基づいて、本発明の平面アンテナ及びその製造方法について説明する。
【0015】
本発明の平面アンテナは、特に限定されないが、例えば、直径60mm、厚さ1.2mmのディスク形状を有することができ、小型のラジアルスロットアンテナとして用いられる。また、例えば、パッチアンテナ、マイクロストリップアンテナなど導体被覆面の一部に導体を被覆しない領域を有する誘電体で構成されるいかなるアンテナとしても適用することができる。また、本発明の平面アンテナにおいて、形状及び大きさなどは特に限定されず、用途に応じて適宜決めればよい。
【0016】
本発明の平面アンテナ100は、図1に示しているように、誘電体で構成される基板1と、基板1上に形成された所定のパターンと、上記所定のパターン以外の基板1の両主面及び側面を被覆する導体膜2と、保護膜6とを備えている。また、上記所定のパターンは、放射用スロットパターン3を含み、放射用スロットパターン3は、基板1の一方の主面に形成されており、保護膜6は、放射用スロットパターン3、放射用スロットパターン3が形成された基板1の一方の主面を被覆する導体膜2、及び基板1の側面を被覆する導体膜2のそれぞれの上に形成されており、保護膜6は、膜厚が1〜200nmである。また、平面アンテナ100は、放射用スロットパターン3が形成された基板1の主面とは反対側の基板1の他方の主面に形成された、給電用スロットパターン4を備えている。
【0017】
基板1は、所定の厚みを有し、かかる厚み部分が導波路となって給電回路として機能する。なお、本明細書においては、基板1の表面において、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4が形成される部分を除き、導体膜2が形成される部分を基板の導体被覆面5と定義する。図1では、基板1の上面(放射面)に放射用スロットパターン3が凸部からなるパターンとして、基板1の下面(給電面)に給電用スロットパターン4が凸部からなるパターンとして、それぞれ基板1に一体成形されている。上記凸部からなるパターンの高さは、導体膜2の厚さと同じでもよく、導体膜2の厚さより高くてもよい。本明細書において、「凸部からなるパターンの高さ」は、基板1の平坦部からの高さ、つまり導体被覆面5からの高さで示される。また、上記凸部からなるパターンの高さは、凸部の高さ方向に共振回路を構成しないという観点から、基板1内を伝搬する波長の1/10以下であることが好ましい。
【0018】
放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を構成する、凸部からなるパターンにおいて、凸部は柱型状の形状を有することが好ましい。断面積がほぼ一定の柱型状であれば、腐食した場合でも、形状の同一性が保たれ、長期間に亘って安定した特性を維持することができる。
【0019】
放射用スロットパターン3は、例えば凸部が、基板1の上面にスパイラル状に形成されている。一方、給電用スロットパターン4は、例えばプラス形状の凸部が、基板1の下面の中心位置に形成されている。なお、給電用スロットパターン4の形状は、プラス形状に限られず、場合によっては円柱状でも良い。また、給電用スロットパターン4が平面アンテナ100のスロットの中心に給電できないと、放射電力パターンが偏った特性となるため、給電用スロットパターン4は、上述したスパイラル状の放射用スロットパターン3の中心に対向する位置に精度良く設けられている。
【0020】
また、放射用スロットパターン3の中心と給電用スロットパターン4の中心(電位的意味の中心)のずれが、放射電磁波の波長λの1/50以内であることが好ましい。このように放射電磁波の位相のずれを抑えることにより、それらの放射電磁波が合成されることにより形成される放射用スロットパターンが良好なものとなる。
【0021】
基板1の上面(放射面)側の放射用スロットパターン3と基板1の下面(給電面)側の給電用スロットパターン4とを別々に成形を行っても良いが、位置合せジグなどを用いてスロットパターン3及び給電用スロットパターン4を同時に一体成形した方が中心位置のずれが少なくて好ましい。
【0022】
基板1を構成する誘電体としては、特に限定されないが、耐水性、耐腐食性を高めるという観点から、例えば、シクロオレフィンポリマー樹脂などの低誘電率や低吸水性のある樹脂を用いることができる。低誘電率の樹脂は、一般に分子内に親水性の高い極性基を持たないため、飽和吸水量が小さく疎水性である。また、低誘電率の樹脂は、多孔質でもないために、アルミナなどの無機材料と比較して撥水性である。具体的な低誘電率の樹脂としては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、ポリスチレンなどの芳香族系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ノルボルネンなどのポリオレフィン系樹脂、炭化水素系樹脂、ジメタノナフタレン系樹脂などが挙げられる。なお、これらの樹脂には、熱膨張率を低減させるなどのため、必要に応じて、二酸化ケイ素などのフィラーやファイバーを混入することも可能である。コストやプロセスを考慮すると、炭化水素系樹脂が特に好ましい。50GHz以上の高周波での使用を考えた場合、ジメタノナフタレン系樹脂が優れている。
【0023】
また、基板1を構成する誘電体として、耐水性及び耐腐食性をより高めるという観点から、吸水率が0.01%以下である樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ノルボルネンなどのポリオレフィン系樹脂が含まれる。
【0024】
また、基板1を構成する誘電体として、耐水性及び耐腐食性をより高めるという観点から、熱膨張率が7×10-5以下である樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂には、例えば、ジメタノナフタレン系樹脂が含まれる。
【0025】
導体膜2は、導体材料で構成されていればよく、特に限定されない。導体材料としては、例えば、銅、銀、ニッケル、導電性カーボンなどを用いることができる。中でも、高周波に用いるという観点から、銅が好ましい。また、本発明のアンテナをアルミ材で構成される給電構造物と組合せて使用する場合は、簡便に電蝕を防ぐという観点から、導電性カーボンを用いることが好ましい。
【0026】
導体膜2は、表皮効果の影響を受けないように、表皮深さ以上の所定の膜厚に形成されている。例えば、導体材料として銅を用い、60GHzでの使用を目的とする場合は、厚さが0.5μm程度であればよい。また、コスト低減の観点から、導体膜の膜厚は、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0027】
保護膜6は、誘電体で構成されている。上記誘電体としては、アンテナの電波特性に影響を及ぼさないものであればよく、特に限定されない。例えば、酸化シリコン、窒化シリコンなどのシリコンを含む誘電体が挙げられる。また、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどを用いてもよい。中でも、コストなどの観点から、シリコンを含む誘電体が好ましく、酸化シリコン、窒化シリコンがより好ましい。
【0028】
また、保護膜6は、膜厚が1〜200nmである。保護膜6の膜厚が1nm未満であると、アンテナ表面の腐食や吸水による劣化が生じる。また、保護膜の膜厚が200nmを超えると、基板の変形が生じやすく、アンテナの電波特性が影響を受けてアンテナの利得が低下する。
【0029】
なお、給電用スロットパターン4、給電用スロットパターン4が形成された基板1の他方の主面を被覆する導体膜2上には、保護膜が形成されていてもよいが、少なくとも給電部の一部と電気的な接触が保たれるように保護膜を形成する。
【0030】
次に、本発明の平面アンテナの製造方法について説明する。
【0031】
<所定のパターンが形成された基板の準備>
まず、図2Aに示すように、誘電体で構成された平板基板7と、放射用スロットパターン3に対応する凹部8を有する金型9と、給電用スロットパターン4に対応する凹部10を有する金型11とを用意し、金型9の凹部8が形成されている面と、金型11の凹部10が形成されている面との間に、平板基板7を配置する。このとき、基板1の完成時に放射用スロットパターン3と給電用スロットパターン4の中心位置が合うように金型9及び金型11の位置を調整する。
【0032】
そして、平板基板7と、金型9及び金型11とを密着させ、図2Bに示すように、熱ナノインプリント装置(図示せず)により、金型9の上面側及び金型11の下面側から平板基板7に対して、所定の熱と圧力12を同時に加える。例えば、170℃で30kNの圧力を加えることができる。これにより、金型9の凹部8に対応する放射用スロットパターン3、及び金型11の凹部10に対応する給電用スロットパターン4を、それぞれ平板基板7の上面及び下面に転写させる。
【0033】
上記の転写終了後、金型9及び金型11を取り除き、図2Cに示すように、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4が一体に形成された基板1を得る。
【0034】
金型9の凹部8に対応する放射用スロットパターン3及び金型11の凹部10に対応する給電用スロットパターン4は、凸部からなるパターンになる。上記の凸部からなるパターンの高さは、後の導体膜の形成工程で研磨を行う場合は、20μmぐらいにすることが好ましい。
【0035】
このように、所定のパターンに対応する凹部を有する金型と誘電体で構成される平板基板とを、ある特定の温度下で圧力をかけながら密着させ、基板表面に所定のパターンを転写させることにより、基板表面にミクロン単位の高精度で、例えばスロットやパッチなどを形成することができ、最終的には短波長化に好適な小型のアンテナを製造できる。更に、所定のパターンに対応する凹部を有する金型を用いることで、高精度でアンテナの指向性に優れる基板の量産が容易であり、最終的には安価にアンテナを製造可能となる。
【0036】
また、転写を熱ナノインプリント法で行うことにより、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4の大きさや配置を忠実に再現することが可能であり、精度が高く、アンテナの指向性に優れるスロットパターン3及び給電用スロットパターン4が一体に形成された基板1が得られる。なお、熱ナノインプリント法に限られず、光ナノインプリント法や射出成形法を用いても良い。
【0037】
<導体膜の形成>
次いで、スパッタリング法で、図2Dに示すように、スロットパターン3及び給電用スロットパターン4が一体に形成された基板1(以下において、単にワークとも記す。)の表面を被覆するように導体膜2を形成する。これにより、スロットパターン3及び給電用スロットパターン4が一体に形成された基板1本体一様に導体膜2が形成される。
【0038】
上記において、ワーク表面に対して導体膜を形成する装置として、以下のようなスパッタリング装置を用いる。スパッタリング装置は、ワークを導入して適切な位置に設置するためのキャリアを備えている。また、スパッタリング装置は、大気からの荒引きを行うロードロック室と実際にスパッタリング成膜を行う成膜室から成るが、キャリアにはこの2つの部屋間を移動するための移動機構が備わっている。また、図3に示しているように、キャリア51内には、パレット52と呼ぶ、ワークを固定する面53を120rpmまで回転させる機構があり、かつギアの連結によってパレット52自身を自転させることができる。即ち、キャリア51の回転機構であるパレット52により、ワークは成膜中にターゲット材料とある時間間隔をもって対向非対向を繰り返すとともに、その間ワーク自身もキャリア51の回転を受けて回転している。またギアと連動してパレット52内でワーク自身も自転している。ここでワークのパレット52に対する固定方法をワークとパレット52が接する面だけにしている。即ち、ワーク側面には固定用の治具が無いようにしている。スパッタリングによる成膜は通常スパッタリングターゲットから対向した面にしか材料が成膜されないが、上記のようにすることにより、ワークは成膜中に高速回転しているため、薄くではあるがワーク側面にもスパッタリングターゲットを付着させることができる。
【0039】
上記のスパッタリング装置を用い、導体膜2を形成する場合、プロセスガスとしては、例えば、99.99%以上の高純度アルゴンガスを用い、ガス流量は、例えば、5〜200sccmにすることが好ましく、10〜100sccmにすることがより好ましい。また、スパッタリングレートは、例えば、0.05〜1.0nm/kWsであることが好ましく、0.1〜0.5nm/kWsであることがより好ましい。また、導体膜2は、基板1の両面から同時にスパッタリング法により形成した方がストレスや熱の影響が少なくて好ましい。また、スパッタリング時の熱を低減するため、一定厚さ毎にワークの成膜面を変え、数回に分けて成膜することにより導体膜をワーク両面に形成してもよい。
【0040】
なお、上記図2Dに示した状態では、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4は、導体が被覆された凸部からなるパターンであり、電気的なアンテナパターンとして機能しない。そこで、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を電気的なアンテナパターンとするため、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を被覆した導体膜2を剥離する。放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を被覆した導体膜2の剥離は、機械的な手段、例えば、研削や研磨作業により行うことができる。この際、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を形成する凸部を被覆する導体膜2と凸部の先端部を同時に除去することにより、凸部の高さと基板1の導体被覆面5を被覆した導体膜2の高さをほぼ同じにすることができる。もちろん、後述するように導体膜のみを剥離してもよい。製造の容易性の観点から、凸部の先端部と導体膜を同時に除去することが好ましい。この際、スロット径が変化しないように凸部は柱状であることが好ましい。なお、放射面の平坦性が充分でないと研磨は偏ってしまいうまく剥離できないため、上記の表面アンテナの製造工程で、基板が変形しないようにすることが好ましい。
【0041】
そして、導体膜2を形成する前に、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4と導体膜との密着力を下げるための処理(以下において、単に密着力低下処理とも記す。)を行った場合は、導体膜のみを簡単に剥離することができる。上記密着力低下処理としては、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4に、顔料インクなどの離型剤を塗布する方法や紫外線を照射する方法などを用いることができる。なお、紫外線照射を行う場合、樹脂からなる誘電体で構成される基板は、ある程度のエネルギー(所定量の紫外線照射量)の紫外線を照射することにより基板表面が改質され、導体膜に対する密着力が向上するため、上記基板密着力低下処理工程では、上記密着力が向上する紫外線照射量よりも多量の紫外線の照射を行うことで、基板表面と導体膜との密着力を低下させる。具体的には、基板に対する紫外線の照射時間を長くすれば良い。例えば、波長が185nmの紫外線照射用ランプを用い、このランプと基板1との距離を5cm離間させた状態で、照度が約15mW/cm2の紫外線照射を5分間行う。上記のように導体膜を形成した後、有機溶剤などによる超音波洗浄又は粘着テープなどの接着力を用いて、手作業で導体膜を簡単に剥離することができる。
【0042】
上記のように、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を被覆した導体膜2を剥離することにより、図2Eに示すように、基板1上の所定の領域に形成されたスロットパターン3及び給電用スロットパターン4以外の、基板1の導体被覆面5を被覆する導体膜2が形成される。
【0043】
<保護膜の形成>
次いで、上記で得られた導体膜が被覆されたワークに対し、図2Fに示すように、放射用スロットパターン3が形成されている主面と側面側だけに、スパッタリング法で保護膜6を形成して、平面アンテナ100を得る。なお、スパッタリングには、上述した導体膜2の形成時に用いたスパッタリング装置を用い、スパッタリングレートは、例えば0.1〜0.5nm/kWsとする。
【0044】
保護膜を窒化シリコンで構成する場合は、スパッタリングターゲットとしてはシリコンを用い、スパッタリング装置に、ガス流量が異なる窒素ガスとアルゴンガスを共に導入し、アルゴンガスの流量は、例えば、10〜100sccmにし、窒素ガスの流量は10〜100sccmにする。また、放電安定性の観点から、窒素ガスの流量とアルゴンガスの流量の比は、0.5〜3であることが好ましい。
【0045】
保護膜を酸化シリコンで構成する場合は、スパッタリングターゲットとしてはシリコンを用い、スパッタリング装置に、ガス流量が異なる酸素ガスとアルゴンガスを共に導入し、アルゴンガスの流量は、例えば、10〜100sccmにし、酸素ガスの流量は10〜100sccmにする。また、放電安定性の観点から、窒素ガスの流量とアルゴンガスの流量の比は、0.5〜3であることが好ましい。
【0046】
本発明の平面アンテナの製造方法によれば、導体膜と保護膜をスパッタリング法で形成することにより、低い技術閾値と、短縮された作業工程時間で、電波特性を良好に保ちつつ、耐環境性能にも優れる平面アンテナを作製できる。また、金型成形によりすべてのスロットの寸法及び位置関係を高い精度で均一化することができるので、指向性の鋭い、特性の良好なアンテナを得ることができる。また、量産性にも優れる為、製造コストの削減をもたらすことができる。
【0047】
以上において、スロットアンテナを例として示したが、例えば、パッチアンテナではスロットパターンが導体膜として構成されるだけで、その他においてはスロットアンテナと同様の構成を示しており、製造方法にも変わりは無い。
【0048】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明はその要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<所定のパターンが形成された基板の準備>
まず、図2Aに示すように、シクロオレフィンポリマー樹脂で構成される平板基板7(厚さ1.2mm、直径60mm)と、放射用スロットパターン3に対応する凹部8を有する金型9と、給電用スロットパターン4に対応する凹部10を有する金型11とを用意し、金型9の凹部8が形成されている面と、金型11の凹部10が形成されている面との間に、平板基板7を配置した。このとき、基板1の完成時に放射用スロットパターン3と給電用スロットパターン4の中心位置が合うように金型9及び金型11の位置を調整した。
【0051】
そして、平板基板7と、金型9及び金型11とを密着させ、図2Bに示すように、熱ナノインプリント装置(図示せず)により、金型9の上面側及び金型11の下面側から平板基板7に対して、所定の熱と圧力12を同時に加えた。具体的には、170℃で30kNの圧力を加えた。これにより、金型9の凹部8に対応する放射用スロットパターン3及び金型10の凹部9に対応する給電用スロットパターン4をそれぞれ平板基板7の上面及び下面に転写させた。
【0052】
上記の転写終了後、金型9及び金型11を取り除き、図2Cに示すように、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4が一体に形成された基板1を得た。得られたワークは、直径60mm、厚さ1.2mmの円盤状であった。
【0053】
<導体膜の形成>
まず、導体膜を形成する前に、放射用スロットパターン及び給電用スロットパターンと導体膜との密着力を下げるため、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4を形成する凸部に離型剤を塗布した。
【0054】
ワーク表面に対して導体膜を形成する装置として、以下のようなスパッタリング装置を用いた。スパッタリング装置は、ワークを導入して適切な位置に設置するためのキャリアを備えている。また、スパッタリング装置は、大気からの荒引きを行うロードロック室と実際にスパッタリング成膜を行う成膜室から成るが、キャリアにはこの2つの部屋間を移動するための移動機構が備わっている。また、図3に示しているように、キャリア51内には、パレット52と呼ぶ、ワークを固定する面53を120rpmまで回転させる機構があり、かつギアの連結によってパレット52自身を自転させることができる。即ち、キャリア51の回転機構であるパレット52により、ワークは成膜中にターゲット材料とある時間間隔をもって対向非対向を繰り返すとともに、その間ワーク自身もキャリア51の回転を受けて回転している。またギアと連動してパレット52内でワーク自身も自転している。ここでワークのパレット52に対する固定方法をワークとパレット52が接する面だけにしている。即ち、ワーク側面には固定用の治具が無いようにしている。スパッタリングによる成膜は通常スパッタリングターゲットから対向した面にしか材料が成膜されないが、上記のようにすることにより、ワークは成膜中に高速回転しているため、薄くではあるがワーク側面にもスパッタリングターゲットを付着させることができる。
【0055】
上記のスパッタリング装置を用い、以下のように、銅で構成される導体膜2を形成した。まず、スパッタリングターゲットとして99.99%の純銅を用い、プロセスガスとしては高純度アルゴンガスを用い、そのガス流量は100sccmにした。なお、スパッタリングレートは0.8nm/kWsであった。スパッタリングはワークの両面に対して行い、スパッタリング時の熱を低減するため500nm厚さ毎にワークの成膜面を変え、2回づつ成膜することにより膜厚が1μmの銅で構成される導体膜をワーク両面に形成した。なお、上記のようにワークの両面に対して銅で構成される導体膜2が成膜されている間に、ワークの側面にも導体膜2が成膜されていることを確認した。次に、放射用スロットパターン3及び給電用スロットパターン4の凸部に付着した導体膜2をスクライバーで取り除いた。上述したように凸部には導体膜を形成する前に離型剤を塗布しておいたため、簡単な手作業でも取り除く(剥離する)ことができた。
【0056】
<保護膜の形成>
続いて、上記で得られたワークの放射用スロットパターンが形成されている面側だけに、スパッタリング法で、膜厚が2nmの誘電体薄膜を保護膜6として形成し、平面アンテナ100を得た。上記において、スパッタリングターゲットとしては99.99%のシリコンを用い、スパッタリング装置に窒素ガスとアルゴンガスを共に導入し、ガス流量はアルゴンガス50sccmに対して窒素ガスは30sccmとした。上記のように形成した保護膜は、窒化シリコンで構成されている。
【0057】
(実施例2)
保護膜形成時に、スパッタリング装置に30sccmの酸素ガスと50sccmのアルゴンガスを共に導入した以外は、実施例1と同様にして、平面アンテナを得た。実施例2において、保護膜は、酸化シリコンで構成されている。
【0058】
(実施例3)
保護膜の膜厚を50nmにした以外は、実施例2と同様にして、実施例3の平面アンテナを得た。
【0059】
(実施例4)
保護膜の膜厚を100nmにした以外は、実施例2と同様にして、実施例4の平面アンテナを得た。
【0060】
(実施例5)
保護膜の膜厚を200nmにした以外は、実施例2と同様にして、実施例5の平面アンテナを得た。
【0061】
(比較例1)
保護膜の膜厚を0.5nmにした以外は、実施例2と同様にして、比較例1の平面アンテナを得た。
【0062】
(比較例2)
保護膜の膜厚を500nmにした以外は、実施例2と同様にして、比較例2の平面アンテナを得た。
【0063】
実施例及び比較例の平面アンテナと、アルミ材で構成される給電構造物とを銀ペーストにて構造的、電気的に接続させた後、下記のように環境試験、基板変形及びアンテナ特性測定を行い、その結果を下記表1に示した。上記において、接続に関しては少なくともアンテナ表面の導体膜と給電構造物とが銀ペースと接するようにした。なお、銀ペーストで平面アンテナと給電構造物を接触させたのは、銅で構成された導体膜とアルミ材で構成された給電構造物の直接接触による電蝕を防止するためである。
【0064】
〔環境試験〕
温度60℃、相対湿度(RH)90%の条件下で、1週間保存した後、放射用スロットパターンが形成された側のアンテナの表面を顕微鏡(キーエンス製)で観察し、導体膜の腐食の有無について判断した。
【0065】
〔基板変形〕
キーエンス製レーザー変位計を用いて基板変形を測定した。なお各測定点への移動は回転ステージとx軸ステージを組合せることによりアンテナ面全体を測定できるようにした。
【0066】
〔アンテナの電波特性〕
アンテナの電波特性は、アンテナ利得で示しており、具体的には、以下のように測定した。
【0067】
<測定系の準備>
ミリ波帯でのアンテナ測定のために、電波暗室内に送受信機を配置し、送受信アンテナ部が互いに対向位置となるように設置した。また送信機入力部に別に用意したカメラからの出力信号を、受信機出力信号をモニター入力端子に繋げた。
【0068】
<アンテナ利得の測定>
まず、準備した測定系のチェックのため、送受信機のアンテナ部にアンテナ利得の基準となるホーンアンテナを設置し、更に送受信アンテナの間にミリ波帯仕様のパワーメータを配置し、送受信のチェックを行った。次に、上記送信側ホーンアンテナにアッテネーターを配置し、アッテネーター値を増やしながら送受信が正しく出来なくなる量を調べた。具体的にはモニター画面が正常に映らなくなる点を閾値とした。ホーンアンテナの利得は分かっているため、以上により測定系の利得基準値が分かった。次に、ホーンアンテナの代わりに実施例及び比較例のアンテナを設置し、同様にしてアッテネーター値を調べることによりアンテナ利得を調べた。得られた実施例及び比較例のアンテナ利得を、測定系の利得基準値と比較して、アンテナ電波特性の低下量とした。
【0069】
【表1】

【0070】
また、図4に、環境試験後における比較例1の平面アンテナの表面を示す顕微鏡写真(倍率500倍)を示した。図4から分かるように、比較例1の平面アンテナの表面の一部に銅の錆び61が出てきた。具体的データを示してないが、保護膜を他の誘電体材料で構成した場合でも、保護膜の膜厚が1nm未満であると同様の結果が得られた。これは、保護膜の膜厚が1nm未満であると、保護膜がアンテナ上に一様に形成されなかったためであると考えられる。
【0071】
上記表1から分かるように、実施例の平面アンテナは、温度60℃、相対湿度(RH)90%の条件下で、1週間保存した後でも導体膜の腐食がなく、アンテナの電波特性も良好である。一方、保護膜の厚みが1nm未満である比較例1では、平面アンテナ表面の一部において、導体膜が腐食している。また、保護膜の厚みが200nmを超える比較例2では、基板の変形が大きく、アンテナの電波特性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の平面アンテナは、ミリ波帯(周波数30乃至300GHz、波長1乃至10mmの電波)に適した小型な平面アンテナである。特に、大容量で低コストな多様な無線システムに適用可能である。具体的には、本発明の平面アンテナは、例えば、自動車衝突防止用のレーダ、短距離通信システム、無線LAN、及び家庭の屋内配線の無線化などに好適である。
【符号の説明】
【0073】
1 基板
2 導体膜
3 凸部からなる放射用スロットパターン
4 凸部からなる給電用スロットパターン
5 導体被覆面
6 保護膜
7 誘電体の平板基板
8 放射用スロットパターンに対応する凹部
9 放射用スロットパターン用金型
10 給電用スロットパターンに対応する凹部
11 給電用スロットパターン用金型
12 熱ナノインプリント時の加圧方向
51 キャリア
52 パレット
53 ワークを固定する面
61 銅の錆び
100 平面アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体で構成される基板と、前記基板上に形成された所定のパターンと、前記所定のパターン以外の前記基板の表面を被覆する導体膜と、保護膜とを備える平面アンテナであって、
前記所定のパターンは、放射用スロットパターンを含み、前記放射用スロットパターンは、前記基板の一方の主面に形成されており、
前記保護膜は、前記放射用スロットパターン、前記放射用スロットパターンが形成された前記基板の一方の主面を被覆する導体膜、及び前記基板の側面を被覆する導体膜のそれぞれの上に形成されており、
前記保護膜は、膜厚が1〜200nmであることを特徴とする平面アンテナ。
【請求項2】
前記保護膜は、誘電体で構成されている請求項1に記載の平面アンテナ。
【請求項3】
前記保護膜は、シリコンを含む誘電体で構成されている請求項1又は2に記載の平面アンテナ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の平面アンテナの製造方法であって、
所定のパターンが形成された基板を準備する工程と、
スパッタリング法で導体膜を形成する工程と、
スパッタリング法で保護膜を形成する工程とを含むことを特徴とする平面アンテナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−54826(P2012−54826A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196824(P2010−196824)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】