説明

廃熱回収装置搭載車両

【課題】廃熱回収装置によって回生された動力を利用して燃料カットの継続時間を延ばし、廃熱回収装置を搭載した車両の燃費をさらに向上させる。
【解決手段】走行中にアクセルペダルが離された場合、ECU40は、エンジン10の燃料噴射を停止する燃料カットを開始し、エンジン10の回転速度が燃料カットリカバ回転速度まで低下すると燃料カットを終了してエンジン10の燃料噴射を再開する。このとき、ECU40は、廃熱回収装置(例えば、ランキンサイクルシステム20)によって動力が回生されているときは、動力が回生されていないときに比べ、燃料カットリカバ回転速度を下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの廃熱を動力として回生する廃熱回収装置を搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気、冷却水から車外へ捨てられていた熱エネルギーを動力として回生する廃熱回収装置を備え、回生した動力を用いてエンジンをアシストすることで、エンジンの燃費を向上させる技術が提案されている。
【0003】
特許文献1は、このような廃熱回収装置としてランキンサイクルシステムを搭載した車両を開示している。特許文献1においては、ランキンサイクルシステムにより回生された動力は、もっぱら加速時や定常走行時にエンジンをアシストするために利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−115573公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両減速時に回生される動力は、バッテリの充電量が少ないときは、回生される動力によりジェネレータを駆動してバッテリを充電することで、有効に利用できる。しかしながら、バッテリの充電量が十分なときは、このような利用はできず、回生された動力を廃棄せざるを得ない。
【0006】
また、ジェネレータを駆動してバッテリを充電する場合であっても、発電時の損失、充電時の損失があるため、回生される動力をエンジンのアシストに利用する場合と比べると、回生した動力の利用効率が低い。また、燃費の低減効果としては、エンジンの燃料噴射を停止する燃料カットを行うのが最も効果的である。
【0007】
本発明は、このようが技術的課題に鑑みてなされたもので、廃熱回収装置によって回生された動力を利用して燃料カットの継続時間を延ばし、廃熱回収装置を搭載した車両の燃費をさらに向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、エンジンと、前記エンジンの廃熱を動力として回生し(以下、この動力を「回生動力」という。)、該回生動力を前記エンジンに伝達する廃熱回収装置と、を備えた廃熱回収装置搭載車両であって、走行中にアクセルペダルが離された場合、前記エンジンの燃料噴射を停止する燃料カットを開始し、前記エンジンの回転速度が燃料カットリカバ回転速度まで低下すると前記燃料カットを終了して前記エンジンの燃料噴射を再開する燃料カット制御手段と、前記廃熱回収装置によって動力が回生されているときは、動力が回生されていないときに比べ、前記燃料カットリカバ回転速度を下げる、燃料カットリカバ回転速度変更手段と、を備えたことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両が提供される。
【発明の効果】
【0009】
廃熱回収装置によって回生された動力によりエンジンのアシストが行われているときは、アクセルオフ後のエンジンの回転速度の落ち込みが緩やかになり、エンジンのストール耐性(ストールし難さ)が向上するので、燃料カットリカバ回転速度を下げることができる。上記態様によれば、廃熱回収装置によって動力が回生されているときは、エンジンのストール耐性の向上に合わせ、燃料カットリカバ回転速度が回生されていないときに比べて低く設定される。これにより、エンジンのストールを防止しつつ、燃料カットの継続時間を延ばすことができ、エンジンの燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る廃熱回収装置搭載車両の概略構成図である。
【図2A】動力伝達機構の一例を示した図である。
【図2B】動力伝達機構の別の例を示した図である。
【図3】電子制御ユニット(ECU)の制御内容を示したフローチャートである。
【図4】膨張機トルクマップである。
【図5】燃料カットリカバ回転速度テーブルである。
【図6】本発明の作用効果を説明するためのタイムチャートである。
【図7A】ECUの制御内容の別の例を示したフローチャートである(第2実施形態)。
【図7B】ECUの制御内容の別の例を示したフローチャートである(第2実施形態)。
【図8】膨張機出力マップである。
【図9】燃料カットリカバ回転速度テーブルである。
【図10】オルタネータ回生電圧テーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
−第1実施形態−
図1は、本発明の第1実施形態に係る廃熱回収装置搭載車両の概略構成図である。車両は、エンジン10と、廃熱回収装置としてのランキンサイクルシステム20を備える。
【0013】
エンジン10は、水冷式の内燃機関であり、内部を流通する冷却水によって温度制御される。エンジン10冷却後の冷却水は、流路11により後述する蒸発器22、図示しないラジエータへと送られ、冷却される。
【0014】
エンジン10には、自動変速機16が接続されており、エンジン10の出力回転は、自動変速機16を介して図示しない駆動輪へと伝達される。自動変速機16は、ロックアップクラッチ16cを備えたロックアップ機構付きトルクコンバータ16tを備えている。ロックアップクラッチ16cは、電子制御ユニット(以下、「ECU」という。)40により締結、解放を制御される。
【0015】
エンジン10には、回転速度Neを検出するクランク角センサ34、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ35、吸気量を検出するエアフローメータ36が取り付けられている。また、自動変速機16には車速VSPを検出する車速センサ37が取り付けられている。これらセンサ34〜37はECU40に電気的に接続されており、これらセンサ34〜37の検出信号はECU40に入力される。
【0016】
ランキンサイクルシステム20は、エンジン10の冷却水からエンジン10の廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を動力として回生するシステムである。ランキンサイクルシステム20は、ポンプ21、蒸発器22、膨張機23及び凝縮器24を備え、各構成要素はR134a等の冷媒が流通する流路25a〜25dにより接続される。
【0017】
ポンプ21は電動ポンプである。蒸発器22は、エンジン10の冷却水と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を加熱し気化する熱交換器である。膨張機23は、気化した冷媒を膨張させることにより熱を回転エネルギーに変換する蒸気タービンである。凝縮器24は外気と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を冷却し液化する熱交換器である。凝縮器24により液化された冷媒はポンプ21により再び蒸発器22に送られ、ランキンサイクルシステム20の各構成要素を循環する。
【0018】
蒸発器22と膨張機23を接続する流路25aには、膨張機23に流入する冷媒の温度である上流側冷媒温度Tcを検出する上流側冷媒温度センサ31、膨張機23に流入する冷媒の圧力である上流側冷媒圧力Pdを検出する上流側冷媒圧力センサ32が取り付けられている。また、膨張機23と凝縮器24を接続する流路25bには、膨張機23から流出する冷媒の圧力である下流側冷媒圧力Psを検出する下流側冷媒圧力センサ33が取り付けられている。これらセンサ31〜33は電子制御ユニット(以下、「ECU」という。)40に電気的に接続されており、これらセンサ31〜33の検出信号はECU40に入力される。
【0019】
ランキンサイクルシステム20は以上のように構成され、膨張機23のトルク(以下、「膨張機トルク」という。特許請求の範囲中の「回生動力」に対応。)Texは、動力伝達機構50を介してエンジン10へと伝達される。
【0020】
図2Aは、動力伝達機構50の一例を示している。動力伝達機構50は、膨張機23の出力軸に取り付けられた膨張機プーリ51と、膨張機プーリ51、オルタネータ56のプーリ52、エンジン10のクランクプーリ53及びエアコンコンプレッサ57のプーリ54に掛け回されるベルト55により構成される。膨張機トルクTexは、ベルト55を介して、エンジン10、オルタネータ56、エアコンコンプレッサ57に伝達され、エンジン10のアシストが行われる。
【0021】
図2Bは、動力伝達機構50の別の例を示している。この例では、動力伝達機構50は、膨張機23の出力軸に連結されるギヤ61と、エンジン10の出力軸に連結され、ギヤ61に係合するギヤ62と、で構成される。膨張機トルクTexは、ギヤ61、62を介して、エンジン10、図示しないオルタネータ56、エアコンコンプレッサ57に伝達され、エンジン10のアシストが行われる。
【0022】
図1に戻り、ECU40は、CPU41、RAM・ROMからなる記憶装置42、入出力インターフェース43等を含む。記憶装置42には、後述する制御を実行するためのプログラム、マップ、テーブル等が格納されている。入出力インターフェース43には、センサ31〜37の検出信号の他、アクセルペダルの操作量を検出するアクセル開度センサ38からアクセル開度信号が入力される。CPU41は、記憶装置42に格納されるプログラムを読み出して実行し、入力される各種信号に基づき、目標燃料噴射量、目標スロットル開度、目標変速段(あるいは目標変速比)等の各種目標値を設定し、これら目標値が実現されるようエンジン10、自動変速機16に指令を出す。
【0023】
また、車速VSP、アクセル開度APO等から決まるロックアップ条件が成立すると、ECU40は自動変速機16にロックアップクラッチ16cを締結するよう指示し、ロックアップクラッチ16cを締結する。これにより、トルクコンバータ16tにおける損失を抑え、エンジン10の燃費を向上させる。ロックアップ中、ECU40は、車速VSPとエンジン10の回転速度Neを監視し、車速VSPとエンジン10の回転速度Neから決まるロックアップ解除条件が成立したら、自動変速機16にロックアップクラッチ16cを解放するよう指示し、ロックアップクラッチ16cを解放する。これにより、エンジン10がストールするのを防止する。
【0024】
また、走行中、運転者がアクセルペダルから足を離すことでアクセル開度APOがゼロになり、車両がコースト状態になると、ECU40は、目標燃料噴射量をゼロに設定し、燃料インジェクタの駆動を停止してエンジン10の燃料噴射を停止する燃料カットを開始する。これによっても、エンジン10の燃費を向上させる。燃料カット中は、ECU40は、エンジン10の回転速度Neを監視し、エンジン10の回転速度Neが所定の燃料カットリカバ回転速度Nefcrまで低下したら、燃料カットを終了してエンジン10の燃料噴射を再開(燃料カットリカバ)する。これにより、エンジン10がストールするのを防止する。
【0025】
燃料カットリカバ回転速度Nefcrは、通常、固定値である。しかしながら、本実施形態では、膨張機トルクTexによりエンジン10のアシストが行われているときは、見かけ上、エンジン10のフリクションが減って、燃料カット中のエンジン10の回転速度Neの落ち込みが非アシスト時に比べ緩やかになり、エンジン10のストール耐性(ストールし難さ)が向上する。
【0026】
そこで、ECU40は、燃料カット中、膨張機23のトルクTexを監視し、膨張機トルクTexが正のとき、すなわち、ランキンサイクルシステム20によって動力が回生されているときは、動力が回生されていないときに比べ、燃料カットリカバ回転速度Nefcrを低く設定する。より具体的には、ECU40は、膨張機トルクTexが大きいほど、すなわちランキンサイクルシステム20によって回生される動力が大きいほど、燃料カットリカバ回転速度Nefcrを低く設定する。これにより、エンジン10の燃料噴射が再開されるまでの時間、すなわち、燃料カットの継続時間を延ばし、エンジン10の燃費を向上させる。
【0027】
また、ロックアップクラッチ16cが解放されると、車輪側からエンジン10に回転が伝達されなくなり、エンジン10の回転速度が落ち込むため、通常は、ロックアップ解除後、燃料噴射を直ちに再開し、エンジン10のストールを防止する。しかしながら、膨張機トルクTexによりエンジン10のアシストが行われているときは、上記の通り、エンジン10のストール耐性が向上する。このため、本実施形態では、ECU40は、ロックアップクラッチ16cが解放されたとしても燃料噴射を再開せず、エンジン10の回転速度Neが燃料カットリカバ回転速度Nefcrまで下がるのを待って燃料噴射を再開する。
【0028】
図3は、ECU40の制御内容を示したフローチャートである。このフローチャートはECU40において実行される。以下、これを参照しながら燃料カット時のECU40の制御内容についてさらに説明する。
【0029】
まず、ST01では、ECU40は、燃料カット条件が成立しているか判定する。具体的には、ECU40は、アクセル開度APOがゼロで、かつ、車速VSPがゼロよりも大きいときに、燃料カット条件が成立していると判定する。燃料カット条件が成立していると判定された場合は、処理がST02に進み、そうでない場合はST01を繰り返す。
【0030】
ST02では、ECU40は、目標燃料噴射量をゼロに設定し、燃料カットを開始する。なお、燃料カット中であっても、燃料カット後しばらくはエンジン10の廃熱が十分にあり、また、廃熱が動力として回生されるまでには遅れがあるので、燃料カット中も膨張機23はトルクTexを発生し、エンジン10のアシストが継続される。また、このとき、必要に応じて、オルタネータ56やエアコンコンプレッサ57を用いて車両の減速エネルギーを回生する。
【0031】
ST03では、ECU40は、ロックアップ解除条件が成立しているか判定する。具体的には、ECU40は、車速VSPがロックアップ解除車速VSPlup以下で、かつ、エンジン10の回転速度Neがロックアップ解除回転速度Nelup以下のときにロックアップ解除条件が成立していると判定する。ロックアップ解除条件が成立していると判定された場合は処理がST04に進み、そうでない場合はST03を繰り返す。
【0032】
ST04では、ECU40は、自動変速機16にロックアップクラッチ16cを解放するよう指令を出し、ロックアップクラッチ16cを解放する。
【0033】
ST05では、ECU40は、膨張機トルクTexを予測する。具体的には、ECU40は、膨張機23の回転速度Nex及び上流側冷媒圧力Pdに基づき、図4に示す膨張機トルクマップから対応する値を検索することで、膨張機トルクTexを予測する。膨張機23の回転速度Nexは、エンジン10の回転速度Neと、クランクプーリ53と膨張機プーリ51のプーリ比とに基づき、演算によって求めることができる。
【0034】
膨張機23は上流側冷媒圧力Pdを受けて回転するので、膨張機トルクTexは、膨張機23の回転速度Nexが同一であれば、上流側冷媒圧力Pdが高くなるほど大きくなる。また、膨張機23の回転速度Nexが高いと、膨張機23に流入する冷媒量が不足するので、高回転域では膨張機トルクTexはゼロ以下となる。
【0035】
なお、膨張機トルクTexの予測に、上流側冷媒圧力Pdに代えて、膨張機23の上流側と下流側の冷媒圧力差ΔPexを用いてもよい。膨張機トルクTexは、膨張機23の上流側冷媒圧力Pdだけでなく下流側冷媒圧力Psの影響も受け、両者の差が大きいほど膨張機トルクTexも大きくなる。したがって、上流側と下流側の冷媒圧力差ΔPexに基づき膨張機トルクTexを予測するようにすることで、膨張機トルクTexの予測精度が向上する。冷媒圧力差ΔPexは、上流側冷媒圧力Pdと下流側冷媒圧力Pdの差として演算によって求めることができるが、差圧センサを用いて直接的に検出するようにしてもよい。
【0036】
さらに、膨張機トルクTexに影響を及ぼす冷媒温度、外気温等を加味して膨張機トルクTexを予測するようにし、膨張機トルクTexの予測精度をさらに向上させてもよい。
【0037】
ST06では、ECU40は、膨張機トルクTexがゼロ以上か判定する。膨張機トルクTexがゼロ以上のときは処理がST07に進む。
【0038】
ST07では、ECU40は、燃料カットリカバ回転速度Nefcrを設定する。具体的には、ECU40は、膨張機トルクTexに基づき、図5に示す燃料カットリカバ回転速度テーブルから対応する値を検索することで、燃料カットリカバ回転速度Nefcrを設定する。膨張機トルクTexが大きいほどエンジン10の回転速度の落ち込みが緩やかになり、エンジン10のストール耐性が向上するので、燃料カットリカバ回転速度Nefcrは膨張機トルクTexが大きいほど低い回転速度に設定される。
【0039】
ST08では、ECU40は、エンジン10の回転速度Neが燃料カットリカバ回転速度Nefcr以下か判定する。エンジン10の回転速度Neが燃料カットリカバ回転速度Nefcr以下になると、エンジン10がストールする可能性が出てくるので、処理がST09に進み、燃料噴射が再開される。これに対し、エンジン10の回転速度Neが燃料カットリカバ回転速度Nefcrよりも高いときは、処理がST05に戻り、燃料カットが継続される。
【0040】
一方、ST06で、膨張機トルクTexがゼロ以上でない、すなわち、負であると判定された場合はST09に進み、ECU40は、直ちに燃料噴射を再開する。これは、膨張機トルクTexが負のときは、ランキンサイクルシステム20がエンジン10の負荷になっており、エンジン10の回転速度Neの落ち込みが大きいので、直ちに燃料噴射を再開し、エンジン10のストールを回避する必要があるからである。
【0041】
したがって、上記制御によれば、燃料カット条件が成立するとエンジン10の燃料カットが開始されるが、ロックアップ解除条件が成立してロックアップ解除が行われても、燃料噴射は再開されない(ST01〜ST04)。
【0042】
燃料カットは、エンジン回転速度Neが燃料カットリカバ回転速度Nefcrに下がるまで継続される(ST08)。このとき、膨張機トルクTexによりエンジン10のアシストが行われていれば、アクセルオフ後のエンジン10の回転速度の落ち込みが緩やかになり、エンジン10のストール耐性(ストールし難さ)が向上することに鑑み、膨張機トルクTexが大きいほど燃料カットリカバ回転速度Nefcrが低く設定される(ST07、図5)。
【0043】
このため、上記制御によれば、膨張機トルクTexが大きいほど燃料カットの継続時間が延び、その分、エンジン10の燃費を向上させることができる。膨張機トルクTexを用いてジェネレータを駆動する従来技術に比べ、発電時の損失、充電時の損失がないので回生した動力の利用効率が高く、また、燃料カットにより燃料消費を直接的に低減でき、エンジン10の燃費を従来技術以上に高めることができる。
【0044】
なお、エンジン10の回転速度Neが燃料カットリカバ回転速度Nefcrまで下がった場合、あるいは、膨張機トルクTexが負の場合には、燃料噴射が直ちに再開されるので(ST08、ST06→ST09)、燃料カットの継続時間が延びてもエンジン10がストールすることはない。
【0045】
図6は、走行中に運転者がアクセルペダルを離し、燃料カットが行われるときの様子を示したタイムチャートである。図中実線が本実施形態に対応し、波線は比較のため、減速中、膨張機トルクTexによるエンジン10のアシストがない場合を示している。
【0046】
これについて説明すると、まず、時刻t1では、運転者がアクセルペダルを離し、アクセル開度APOがゼロになる。
【0047】
アクセル開度APOがゼロになると、所定のカットインディレイの経過を待って、燃料カットが開始される(時刻t2)。燃料カット時は、目標燃料噴射量がゼロに設定され、燃料噴射パルス幅TPがゼロになる。燃料カット開始後は、エンジン10のトルクTeが減少するため、エンジン10の回転速度Neが減少する。
【0048】
時刻t3でエンジン10の回転速度Neがロックアップ解除回転速度Nelup(この例では、1200rpm)まで下がると、ロックアップクラッチ16cが解放される。比較例では、エンジン10のストールを防止するために、ロックアップクラッチ16cが解放されると、直ちに燃料噴射が再開される。
【0049】
これに対し、本実施形態では、膨張機トルクTexによってエンジン10がアシストされている分、エンジン10の回転速度Neの落ち込みが緩やかで、エンジン10がストールしにくいので、ロックアップクラッチ16cの解放は燃料噴射再開の条件になっていない。したがって、本実施形態では、ロックアップクラッチ16cの解放後も、燃料カットが継続される(時刻t3以降)。
【0050】
本実施形態では、エンジン10の回転速度Neが、膨張機トルクTexに応じて設定されるロックアップ解除回転速度Nelupまで低下したところで、燃料噴射が再開される(時刻t4)。
【0051】
したがって、本実施形態では、比較例に比べ、燃料カットの継続時間がΔt(=t4−t3)だけ延び、図中波線領域Xに対応する燃料量を節約することができる。
【0052】
−第2実施形態−
続いて本発明の第2実施形態について説明する。
【0053】
第2実施形態に係る廃熱回収装置搭載車両の構成は図1〜図2A(あるいは図2B)に示したものと同じであるので、説明を省略する。
【0054】
第2実施形態はECU40の制御内容が第1実施形態と異なる。第2実施形態では、燃料カット時に、膨張機23の出力Wex(以下、「膨張機出力」という。特許請求の範囲中の「回生動力」に対応。)をオルタネータ56で優先的に消費する。そして、膨張機出力Wexをオルタネータ56で消費してもなお、膨張機出力Wexが余るようであれば、エンジン10をアシストし、上記第1実施形態同様に燃料カットリカバ回転速度Nefcrを下げるようにする。
【0055】
図7A、図7BはECU40の制御内容を示したフローチャートである。このフローチャートはECU40において実行される。以下、これを参照しながら第2実施形態におけるECU40の制御内容について説明する。
【0056】
ST21〜ST24の処理は、図3のST01〜ST04と同じであり、燃料カット条件が成立するとエンジン10の燃料カットが行われ、ロックアップ解除条件が成立するとロックアップ解除が行われる。
【0057】
ST25では、ECU40は、膨張機出力Wexを予測する。具体的には、ECU40は、膨張機23の回転速度Nex及び上流側冷媒圧力Pdに基づき、図8に示す膨張機出力マップから対応する値を検索することで、膨張機出力Wexを予測する。膨張機23は上流側冷媒圧力Pdを受けて回転するので、膨張機出力Wexは、膨張機23の回転速度Nexが同一であれば、上流側冷媒圧力Pdが高くなるほど大きくなる。また、膨張機23の回転速度Nexが高いと、膨張機23に流入する冷媒量が不足するので、高回転域では膨張機出力Wexはゼロ以下となる。
【0058】
なお、膨張機トルクTex同様に、膨張機23の上流側と下流側の冷媒圧力差ΔPに基づき膨張機出力Wexを予測するようにしてもよく、冷媒温度、外気温等を加味して、膨張機出力Wexの予測精度を向上させてもよい。あるいは、第1実施形態同様に膨張機トルクTexを予測し、これに膨張機23の回転速度Nexを掛けて膨張機出力Wexを求めるようにしてもよい。
【0059】
ST26では、ECU40は、オルタネータ回生限界吸収出力Waltlimを設定する。オルタネータ回生限界吸収出力Waltlimはオルタネータ56の耐熱限界等から決まる、オルタネータ56で吸収可能な出力の最大値であり、例えば、300Wに設定される。
【0060】
次いで、図7BのST27に処理が進む。ST27では、ECU40は、膨張機出力Wexがオルタネータ回生限界吸収出力Waltlim以上か判定する。オルタネータ回生限界吸収出力Waltlim以上と判定された場合は処理がST28に進み、そうでない場合は処理がST32に進む。
【0061】
ST28では、ECU40は、オルタネータ回生電圧Valtをその上限値、例えば、14.5V(固定値)に設定する。
【0062】
ST29では、ECU40は、オルタネータ56によって消費される出力であるオルタネータ吸収出力Waltを次式により予測する。Iはオルタネータ56の出力電流、ηはオルタネータ56の動力−電力変換効率である。
Walt=I×14.5[V]÷η
【0063】
ST30では、ECU40は、膨張機出力Wexからオルタネータ吸収出力Waltを減じて、余裕出力Wspを演算する。余裕出力Wspは、膨張機出力Wexのうち、オルタネータ56で吸収されずにエンジン10のアシストに振り向けられる分である。
Wsp=Wex−Walt
【0064】
ST31では、ECU40は、燃料カットリカバ回転速度Nefcrを設定する。具体的には、ECU40は、余裕出力Wspに基づき、図9に示すテーブルから対応する値を検索することで、燃料カットリカバ回転速度Nefcrを設定する。エンジン10のアシストに用いられる余裕出力Wspが大きいほどエンジン10の回転速度の落ち込みが緩やかになり、エンジン10のストール耐性が向上するので、燃料カットリカバ回転速度Nefcrは余裕出力Wspが大きいほど低い回転速度に設定される。
【0065】
一方、ST32では、ECU40は、オルタネータ回生電圧Valtを設定する。具体的には、ECU40は、膨張機出力Wexに基づき、図10に示すテーブルから対応する値を検索することで、オルタネータ回生電圧Valtを設定する。図10に示すテーブルを参照して得られるオルタネータ回生電圧Valtは、膨張機出力Wexを全てオルタネータ56で消費するのに必要なオルタネータ56の回生電圧である。
【0066】
ST33では、ECU40は、燃料カットリカバ回転速度Nefcrを設定する。膨張機出力Wexが全てオルタネータ56で消費されるので、ここで設定される燃料カットリカバ回転速度Nefcrは、膨張機出力Wexによりエンジン10のアシストが行われない場合の燃料カットリカバ回転速度Nefcrに等しく、例えば、1200rpm(固定値)に設定される。
【0067】
ST34、ST35は図3のST08、ST09と同じ処理であり、エンジン10の回転速度Neが燃料カットリカバ回転速度Nefcr以下になると、エンジン10の燃料噴射が再開される。
【0068】
したがって、上記制御によれば、膨張機出力Wexをオルタネータ56で優先的に消費し、それでもなお膨張機出力Wexが余るようであれば、その余裕出力Wspでエンジン10のアシストが行われる。そして、このような状況では、余裕出力Wspに応じて第1実施形態同様に燃料カットリカバ回転速度Nefcrが下げられるので(ST27→ST28以降)。第1実施形態同様に燃料カットの継続時間が延び、エンジン10の燃費を向上させることができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0070】
例えば、上記実施形態におけるランキンサイクルシステム20は、エンジン10の冷却水からエンジン10の廃熱を回収するシステムであるが、エンジン10の排気からエンジン10の廃熱を回収するシステムであってもよい。この場合、冷媒としてはより沸点の高い水等を用いる。
【0071】
さらに、廃熱回収装置はランキンサイクルシステム20に限定されず、スターリングエンジン、ブレイトンサイクル等、ランキンサイクルシステム以外の廃熱回収装置を用いることも可能である。
【0072】
また、第1実施形態では膨張機トルクTexに基づき、第2実施形態では膨張機出力Wexに基づき制御が行われるが、上記制御はトルク、出力いずれに基づいて行うことも可能である。特許請求の範囲で用いられる「動力」という表現には、これらトルク、出力が含まれるものとする。
【0073】
また、第1実施形態と第2実施形態は組み合わせてもよい。例えば、車両に搭載されるバッテリの充電量が少ない場合は第2実施形態の制御により膨張機23の出力Wexをオルタネータ56での発電に優先的に利用し、そうでないときは、第1実施形態の制御により燃料カットによる燃費低減効果を最大限に得る、というように、両実施形態の制御をバッテリの充電量に応じて切り換えることが可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…エンジン
16t…トルクコンバータ
16c…ロックアップクラッチ
16…自動変速機
20…ランキンサイクルシステム(廃熱回収装置)
23…膨張機
40…電子制御ユニット(ECU)
56…オルタネータ(ジェネレータ)
ST01、ST02、ST08、ST09、ST21、ST22、ST34、ST
35…燃料カット制御手段
ST05、ST25…回生動力予測手段
ST07、ST31…燃料カットリカバ回転速度変更手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの廃熱を動力として回生し(以下、この動力を「回生動力」という。)、該回生動力を前記エンジンに伝達する廃熱回収装置と、を備えた廃熱回収装置搭載車両であって、
走行中にアクセルペダルが離された場合、前記エンジンの燃料噴射を停止する燃料カットを開始し、前記エンジンの回転速度が燃料カットリカバ回転速度まで低下すると前記燃料カットを終了して前記エンジンの燃料噴射を再開する燃料カット制御手段と、
前記廃熱回収装置によって動力が回生されているときは、動力が回生されていないときに比べ、前記燃料カットリカバ回転速度を下げる、燃料カットリカバ回転速度変更手段と、
を備えたことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両。
【請求項2】
請求項1に記載の廃熱回収装置搭載車両であって、
前記燃料カットリカバ回転速度変更手段は、前記回生動力が大きいほど、前記燃料カットリカバ回転速度を下げる、
ことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の廃熱回収装置搭載車両であって、
前記車両は、ロックアップ機構付きのトルクコンバータを備えた変速機を有し、前記エンジンの出力回転が該変速機を介して駆動輪に伝達され、
前記燃料カット制御手段は、前記燃料カット開始後、前記トルクコンバータのロックアップが解除されても、前記エンジンの回転速度が前記燃料カットリカバ回転速度まで低下するまでは前記燃料カットを継続する、
ことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の廃熱回収装置搭載車両であって、
前記回生動力によって駆動されるジェネレータを備え、
前記燃料カットリカバ回転速度変更手段は、前記ジェネレータによって消費される動力よりも前記回生動力が大きいときに、動力が回生されていないときに比べ、前記燃料カットリカバ回転速度を下げる、
ことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両。
【請求項5】
請求項4に記載の廃熱回収装置搭載車両であって、
燃料カットリカバ回転速度変更手段は、前記ジェネレータによって消費される動力よりも前記回生動力が大きいときに、前記回生動力から前記ジェネレータによって消費される動力を減じた値である余裕動力が大きいほど、前記燃料カットリカバ回転速度を下げる、
ことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の廃熱回収装置搭載車両であって、
前記廃熱回収装置は、前記エンジンの廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を膨張機で前記回生動力として回生するランキンサイクルシステムである、
ことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両。
【請求項7】
請求項6に記載の廃熱回収装置搭載車両であって、
前記膨張機に流入する冷媒の圧力である上流側冷媒圧力、あるいは、前記膨張機の上流側と下流側の冷媒圧力差に基づき、前記回生動力を予測する回生動力予測手段を備えた、
ことを特徴とする廃熱回収装置搭載車両。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−190186(P2010−190186A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37926(P2009−37926)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】