説明

建築物診断システム

【課題】電力消費電力を削減し、使い勝手が良く、小型化や安全性の面で優れた建築物診断システムを実現する。
【解決手段】複数の同軸ケーブル40によりタンデム状に接続された中継モジュール10、及び複数のセンサ26付きのRFIDモジュール20−1,20−2,・・・により構成されて壁等に埋設される伝送路と、リーダ/ライタモジュール50との間に、中継モジュール10を設け、その伝送路とリーダ/ライタモジュール10とを分離している。前記伝送路は、使用しない時には、給電の必要がない。使用時に、リーダ/ライタモジュール10から中継モジュール10を介して前記伝送路へ給電される。RFIDモジュール20に接続されたセンサ26の検知信号は、前記伝送路及び中継モジュール10を介してリーダ/ライタモジュール10にて読み取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築物におけるひび割れ、雨漏り、歪み等の欠陥等を外部より容易に取得して管理することができる建築物診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物診断システムに関する技術としては、例えば、下記の特許文献1に記載された技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、住宅等の建築物における壁内面、天井裏等にセンサ機能付きRFID(Radio Frequency Identification)タグを設置し、外部のリーダ/ライタより測定データを読み取る住宅内環境情報取得管理システムの技術が記載されている。ここで、RFIDとは、誘導電磁界又は電波によって、非接触で半導体メモリのデータを読み出し、書き込みのために近距離通信を行うものの総称である。RFIDタグ(又は「RFタグ」)は、半導体メモリを内蔵して、誘導電磁界又は電波によって書き込まれたデータを保持し、非接触で読み出しできる情報媒体である。リーダ/ライタとは、RFIDタグのデータを書き込み、読み出しをする装置であり、アンテナ及び制御装置等で構成されている。
【0004】
このようなRFIDタグに関連する技術として、例えば、下記の特許文献2の技術が知られている。特許文献2には、ケーブル上にセンサ機能付きRFIDタグを配置し、そのケーブル上の一端に接続した質問器(例えば、リーダ/ライタ)から複数のセンサ機能付きRFIDタグを一括で読み出すRFIDタグシステム及び質問器の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−310506号公報
【0006】
【特許文献2】特開2008−26979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1等に記載された従来の建築物診断システムでは、次の(i)、(ii)のような課題があった。
【0008】
(i) 特許文献1に記載された技術では、建築物の複数の個所に配置したセンサ機能付きRFIDタグを読に出すために各個所におもむき、リーダ/ライタ用アンテナを近接しなければならず、読み出し作業が煩わしく、作業時間の短縮が困難であるという課題がある。
【0009】
(ii) 前記(i)の課題を解決するために、特許文献2の技術を適用することが考えられる。しかし、特許文献1の技術と特許文献2の技術を単に組み合わせて建築物診断システムを構築した場合、以下の(1)〜(3)のような課題が生じる。
【0010】
(1) 特許文献2の技術を建築物診断システムに適用する場合には、例えば、ケーブルと、これに接続された質問器及び複数のセンサ機能付きRFIDタグとを、壁等に埋め込む。しかし、ケーブルに接続された質問器に対しては電源電力の供給(即ち、給電)が必要であり、RFIDタグを読み出す時に、給電の必要があり、使い勝手が悪い。そこで、給電部を壁等に埋め込むことも考えられるが、小型化や安全性の観点で問題が残る。
【0011】
(2) 特許文献2の技術では、ケーブルの一端に接続された質問器側からしかRFIDタグのデータを読み出すことができないので、読み出し場所に制限が加わり、読み出し作業効率が悪い場合もあり得る。
【0012】
(3) RFIDタグ等を壁等に埋め込んだ場合、近傍に存在する導電体等の影響や、あるいは、建築物の倒壊等によりケーブルが切断したり、接続不良になった時には、質問器からRFIDタグのデータを読み出すことができないことが生じるが、これに対する対策が取られていない。
【0013】
従って、未だ技術的に十分満足できる建築物診断システムを実現することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の建築物診断システムは、建築物の状態を診断するために複数の診断個所に配置され、電源電力が重畳された質問信号が送られてくると、前記電源電力により動作し、前記診断個所の状態を検知して検知信号を返送するシステムである。
【0015】
この建築物診断システムでは、質問器用アンテナを有し、前記電源電力に前記質問信号を重畳して前記質問器用アンテナから送信すると共に、前記検知信号を前記質問器用アンテナを介して受信する質問器と、前記質問器用アンテナに対し所定間隔隔てて電磁結合される中継アンテナを有し、前記質問器用アンテナから送られてくる前記電源電力が重畳された前記質問信号を前記中継アンテナにより受信すると共に、前記検知信号を前記中継アンテナから前記質問器用アンテナへ返送する1つ又は複数の中継モジュールと、前記中継モジュールに接続されて前記複数の診断個所近傍に延設され、前記各診断個所に対応する位置にケーブル用ループアンテナがそれぞれ直列に接続されたケーブルと、複数のRFIDモジュールと、終端モジュールとを備えている。
【0016】
ここで、前記複数のRFIDモジュールは、前記複数の診断個所にそれぞれ配置され、前記各ケーブル用ループアンテナに対し所定間隔隔てて電磁結合されるRFID用ループアンテナと、前記ケーブル用ループアンテナから前記RFID用ループアンテナを介して受信された前記電源電力により動作し、前記診断個所の状態を検知して前記検知信号を前記RFID用ループアンテナを介して前記ケーブル用アンテナへ返送するセンサ機能付きRFIDタグと、をそれぞれ有している。更に、前記終端モジュールは、前記ケーブルの終端に接続され、前記中継モジュール、前記ケーブル、及び前記RFIDモジュールにより構成される伝送路の伝送特性を安定化させるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、質問器とケーブル間に中継モジュールを設け、ケーブルと質問器とを分離しているので、壁等に埋設する部分には給電をしなくても良い。そのため、使い勝手が良く、しかも、小型化や安全性の観点で何ら問題が生じない。
【0018】
又、終端モジュールに中継モジュールの機能を持たせれば(例えば、ケーブル終端の折り返し部分に、質問器用アンテナと電磁結合するアンテナを設ければ)、ケーブルの両端のいずれからでもセンサ機能付きRFIDタグのデータを読み出すことができ、読み出し場所の制限が少なくなって、読み出し作業の効率を向上できる。又、ケーブル用ループアンテナに補助コイルを設ければ、センサ機能付きRFIDタグのデータを確実に読むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施例1における建築物診断システムを示す概略の構成図である。
【図2】図2は、図1中のRFIDモジュール20−1を示す概略の構成図である。
【図3】図3は、図1中のリード/ライタモジュール50を示す概略の構成図である。
【図4】図4は、図1の建築物診断システムを住宅等の建築物に施工する例を示す概略の構成図である。
【図5】図5は、図2のRFIDモジュール20−1における電磁結合の状態を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施例2における建築物診断システムを示す概略の構成図である。
【図7】図7は、本発明の実施例3におけるケーブル用ループアンテナの概略の構成を示す模式図である。
【図8】図8は、図7のケーブル用ループアンテナの動作を説明するための図である。
【図9】図9は、本発明の実施例4におけるケーブル用ループアンテナの概略の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
(実施例1の構成)
図1は本発明の実施例1における建築物診断システムを示す概略の構成図である。
【0022】
この建築物診断システムは、住宅等の建築物の状態(例えば、ひび割れ、雨漏り、歪み等の欠陥等)を診断するために複数の診断個所に分散して配置された1つの中継モジュール10、複数のRFIDモジュール20(=20−1,20−2,・・・)、及び1つの終端モジュール30を備え、これらが、複数の診断個所近傍にそれぞれ延設された複数のケーブル(例えば、同軸ケーブル)40(=40−0,40−1,40−2,・・・)により、直列(即ち、タンデム状)に接続されている。中継モジュール10の近傍には、これに対して電源電力が重畳された質問信号の送信とその中継モジュール10からの検知信号の受信とを行う固定又は移動可能な質問器(例えば、リーダ/ライタモジュール)50が設けられている。リーダ/ライタモジュール50は、プログラム制御によりデータ処理機能を有するパーソナルコンピュータ(以下、「パソコン」という。)等の上位装置60との間で、データの送受信が可能な構成になっている。
【0023】
中継モジュール10は、パッケージ11を有し、このパッケージ11の側面に1つのコネクタ12が取り付けられている。コネクタ12には、同軸ケーブル40−0が着脱自在に接続されている。各同軸ケーブル40(=40−0,40−1,40−2,・・・)は、中心の同軸芯線41の外周に外部導体12が同軸状に配置された所定の特性インピーダンス(例えば、50Ω)を有するケーブルである。パッケージ11内には、リーダ/ライタモジュール50に対して電磁結合されるループ状の中継アンテナ13が収容され、この中継アンテナ13の一端が、コネクタ12を介して同軸ケーブル40−0中の同軸芯線41に接続され、中継アンテナ13の他端が、コネクタ12を介して同軸ケーブル40−0中の外部導体42に接続されている。
【0024】
複数の診断個所近傍にそれぞれ延設された各同軸ケーブル40における複数の診断個所に対応する位置には、ケーブル用ループアンテナ43がそれぞれ直列に接続されている。各ループアンテナ43は、周回するように配置された同軸ケーブル40中の同軸芯線41と、直線で結んだような配線形状の同軸ケーブル40中の外部導体42とにより形成されている。同軸芯線41及び外部導体42により形成されるループアンテナ43は、完全なループではなく、互いに分離した見かけ上のループアンテナであって仮想的なループアンテナである。
【0025】
複数の診断個所にそれぞれ配置されたRFIDモジュール20(例えば、20−1)は、パッケージ21を有し、このパッケージ21の側面に2つのコネクタ22,23が取り付けられている。2つのコネクタ22,23の外部には、同軸ケーブル40−0、40−1がそれぞれ着脱自在に接続されている。更に、この2つのコネクタ22,23の内部には、同軸ケーブル40−0,40−1中の同軸芯線41及び外部同導体42により形成されたケーブル用ループアンテナ43が着脱自在に接続されて、パッケージ21内に収容されている。パッケージ21内には、ケーブル用ループアンテナ43に対し所定間隔(例えば、数十mm〜数百mm)隔てて、平行且つ重なるように配置されて電磁結合されるRFID用ループアンテナ24が収容されている。RFID用ループアンテナ23には、センサ機能付きRFIDタグが接続されている。センサ機能付きRFIDタグは、例えば、集積回路(以下「IC」という。)で構成されてパッケージ21内に収容されたRFID用ICチップ25と、このRFID用ICチップ25に接続されてパッケージ21外の診断個所に配置された複数のセンサ26(=26−1,26−2,・・・)とにより構成されている。
【0026】
複数のセンサ26は、住宅等の建築物の環境情報を収集するためのものであり、例えば、ひび割れ検知センサ、雨漏り検知センサ、歪みセンサ、地震センサ(加速度センサ)、温度センサ、湿度センサ、結露センサ、火災検知センサ等がある。RFID用ICチップ25は、ケーブル用ループアンテナ43からRFID用ループアンテナ24を介して受信された電源電力により動作し診断個所の状態を検知してその電源電力に重畳された検知信号をRFID用ループアンテナ24を介してケーブル用アンテナ43へ返送する機能を有している。
【0027】
複数の同軸ケーブル40の終端には、終端モジュール30が接続されている。終端モジュール30は、複数の同軸ケーブル40によりタンデム状に接続された中継モジュール10及び複数のRFIDモジュール20−1,20−2,・・・により構成される伝送路の伝送特性を安定化させるためのものであり、パッケージ31を有している。パッケージ31の側面には、1つのコネクタ32が取り付けられ、このコネクタ32に対して、同軸ケーブル40が着脱自在に接続されている。パッケージ31内には、コンデンサ33a、抵抗33b等の受動部品からなる終端部33が収容され、この終端部33がコネクタ32を介して同軸ケーブル40の同軸芯線41及び外部導体42に接続されている。
【0028】
リーダ/ライタモジュール50は、パッケージ51を有し、このパッケージ51内に、ループ状のリーダ/ライタ用アンテナ52と、このアンテナ52に接続されたリーダ/ライタ本体53とが収容されている。リーダ/ライタ用アンテナ52は、これを中継アンテナ13又はRFID用ループアンテナ24に近づけることにより、これらと電磁結合して電源電力及びデータを送受信する機能を有している。リーダ/ライタ本体53は、電源電力に重畳された質問信号をリーダ/ライタ用アンテナ52を介して中継アンテナ13又はRFID用ループアンテナ24へ送信すると共に、中継アンテナ13又はRFID用ループアンテナ24から返送されてくる検知信号をリーダ/ライタ用アンテナ52を介して受信する機能を有している。リーダ/ライタ本体53は、データの送受信を行うために、有線又は無線等により上位装置60と接続されている。
【0029】
図2は、図1中のRFIDモジュール20−1を示す概略の構成図である。
RFID用モジュール20−1において、RFID用ICチップ25は、RFID用ループアンテナ24に接続された送受信部25a及び電源部25bと、送受信部25a及び電源部25bに接続された制御部25cと、電源部25b及び制御部25cに接続されたインタフェース(以下「I/F」という。)部25d等とにより構成されている。I/F部25aには、複数のセンサ26−1,26−2,・・・が信号線により接続されている。
【0030】
送受信部25aは、例えば、RFID用ループアンテナ24に接続されたコイルを有し、ループアンテナ24に同調して質問信号を受信する同調回路と、この同調回路により受信された質問信号を復調する復調回路と、送信するための検知信号を変調して同調回路へ送る変調回路等とにより構成されている。電源部25bは、ループアンテナ24及び同調回路により受信された質問信号を直流(以下「DC」という。)電源電力に整流する整流回路と、整流されたDC電源電力の電荷を蓄積するコンデンサ等の充電回路等とにより構成され、RFID用ICチップ25内の各回路にDC電源電力を供給する機能を有している。
【0031】
制御部25cは、中央処理装置(以下「CPU」という。)及びメモリ等により構成され、RFID用ICチップ25全体を制御する機能、復調回路にて復調された質問信号を復号化してセンサ26−1,26−2,・・・へ与えるための制御信号を生成する機能、及び、センサ26−1,26−2,・・・から受信した検知信号を符号化して変調回路へ与える送信信号を生成する機能等を有している。I/F部25dは、制御部25cと複数のセンサ26−1,26−2,・・・との間における制御信号及び検知信号の授受を行う機能を有している。
【0032】
図3は、図1中のリード/ライタモジュール50を示す概略の構成図である。
リード/ライタモジュール50は、リーダ/ライタ用アンテナ52及びリーダ/ライタ本体53がパッケージ51内に収容されている。リーダ/ライタ本体53は、例えば、リーダ/ライタ用アンテナ52に接続された電源部53a及び送受信部53bと、電源部53a及び送受信部53bに接続された制御部53cと、電源部53a及び制御部53cに接続されたキーボード等の入力部53dと、表画面を有する表示部53eと、上位装置60に対する信号の授受を行うI/F部53f等とにより構成されている。
【0033】
電源部53aは、電池を内蔵し、リード/ライタモジュール50内の各回路にDC電源電力を供給するものである。送受信部53aは、周波数13.56MHz等の発振信号を出力する発振器と、発振信号及びDC電源電力に基づき、送信するための質問信号を電源電力に重畳させて変調してリーダ/ライタ用アンテナ52へ出力する変調回路と、発振信号に基づき、アンテナ52により受信された検知信号を復調する復調回路等とにより構成されている。制御部53cは、CPU及びメモリ等により構成され、診断プログラムに従ってリード/ライタモジュール50全体を制御する機能、質問信号を符号化して送信信号を生成し、変調回路へ与える機能、及び復調回路にて復調された検知信号を復号化してデータ処理を行う機能等を有している。
【0034】
(建築物診断システムの施工例)
図4は、図1の建築物診断システムを住宅等の建築物に施工する例を示す概略の構成図である。
【0035】
図1の建築物診断システムを住宅等の建築物70に設置する場合は、例えば、壁内面、天井裏、屋根裏、床下、窓内側等の複数の診断個所を階、部屋等を考慮して複数の診断領域に区分し、この各区分内において、中継モジュール10、複数のRFIDモジュール20(=20−1,20−2,・・・)、及び終端モジュール30を設置する。図4では、建築物70内の診断領域を階毎に区分し、例えば、1階と2階に、中継モジュール10、複数のRFIDモジュール20及び終端モジュール30がそれぞれ設置されている。
【0036】
各階において、複数の同軸ケーブル40(=40−0,40−1,40−2,・・・)により、中継モジュール10、複数のRFIDモジュール20(=20−1,20−2,・・・)及び終端モジュール30を接続する。各RFIDモジュール20内には、予めケーブル用ループアンテナ43が収容されているので、中継モジュール10のコネクタ12、各RFIDモジュール20のコネクタ22,23、及び終端モジュール30のコネクタ32を、複数の同軸ケーブル40を用いて接続すれば、これらの中継モジュール10、複数のRFIDモジュール20及び終端モジュール30がタンデム状に接続される。各診断個所にセンサ26−1,26−2,・・・をそれぞれ設置し、信号線により近傍のRFIDモジュール20にそれぞれ接続する。
【0037】
所定個所(例えば、1階)に上位装置60を設置し、この上位装置60に接続したLAN(Local Area Network;ローカル・エリア・ネットワーク)ケーブル等の信号線61を各階へ延設する。各階において、中継モジュール10に近接して固定又は移動可能なリーダ/ライタモジュール50を設置する。このリーダ/ライタモジュール50と上位装置60との間でデータの送受信を行う時には、リーダ/ライタモジュール50をUSB(Universal Serial Bus;ユニバーサル・シリアル・バス)ケーブル等を介して信号線61に接続する。なお、リーダ/ライタモジュール50と上位装置60との間のデータの送受信を、無線LAN等を用いた無線で行う場合には、信号線61は不要である。
【0038】
(建築物診断システムの動作)
図5は、図2のRFIDモジュール20−1における電磁結合の状態を示す模式図である。
【0039】
例えば、図4に示す建築物70における2階部分のひび割れ、雨漏り、歪み等の有無を診断する場合の動作を説明する。
【0040】
通常は、2階部分に設置された中継モジュール10、複数のRFIDモジュール20、及び終端モジュール30により構成される伝送路には、電源電流が流れていない。診断を行う場合、作業者が、中継モジュール10に近接して設置された図3に示すリーダ/ライタモジュール50において、図示しない電源スイッチをオン状態にすると、電源部53aからDC電源電力が出力されてリード/ライタモジュール50内の各回路へ供給される。作業者は、診断個所のRFIDモジュール(例えば、20−1)におけるセンサ(例えば、26−2)のアドレスを入力部53dから入力する。制御部53cは、診断プログラムに従い、符号化された質問信号を生成し、入力されたアドレスを付加して送受信部53bへ送る。送受信部53b内の図示しない変調回路は、アドレスが付加された質問信号と電源電力とを重畳し、変調した13.56MHz等の高周波(以下「RF」という。)信号を生成し、リーダ/ライタ用アンテナ52へ出力する。
【0041】
リーダ/ライタ用アンテナ52にRF信号が流れると、このリーダ/ライタ用アンテナ52に磁束が発生し、これに近接した中継モジュール10内の中継アンテナ13との電磁結合効果により、電源電力に重畳された質問信号が、リーダ/ライタ用アンテナ52から中継アンテナ13へ送信され、同軸ケーブル40(=40−0,40−1,40−2,・・・)を介して複数のRFIDモジュール40及び終端モジュール30へ伝送される。
【0042】
図2に示す各RFIDモジュール20(例えば、20−1)において、中継モジュール10から伝送された質問信号は、同軸ケーブル40−0及びコネクタ22を介してRFIDモジュール20−1内の同軸芯線41と外部導体42に到達する。到達した質問信号は、RF信号であるが、ある時間において図2中に示す矢印方向へ流れる。同軸芯線41と外部導体42を流れる質問信号は、あたかもループを形成するように逆方向に流れており、これにより磁束Φが発生する。この様子が図5に示されており、ループアンテナと同様の効果が発生する。図5中において、ある時間におけるRF信号の流れが矢印で示されている。この際、RFID用ループアンテナ24がその磁束Φを貫通するように配置されているので、ケーブル用ループアンテナ43とRFID用ループアンテナ24との電磁結合効果により、電源電力に重畳された質問信号がケーブル用ループアンテナ43からRFID用ループアンテナ24へ送信される。
【0043】
RFID用ループアンテナ24へ送信された質問信号は、RFID用ICチップ25内における送受信部25a中の図示しない同調回路で受信され、電源部25bへ送られる。電源部25bでは、同調回路で受信された電源電力を図示しない整流回路で整流してDC電源電力を生成し、このDC電源電力を図示しない充電回路に蓄積すると共に、RFID用ICチップ25内の各回路に供給する。これにより、RFID用ICチップ25内の同調回路を除く他の回路が動作する。送受信部25aにおいて、図示しない復調回路は、同調回路で受信された質問信号を復調し、制御部25cへ送る。
【0044】
制御部25cは、復調された質問信号を復号化し、この質問信号に付加されたアドレスを解読し、自己宛の質問信号か否かを判定する。この場合、RFIDモジュール20−1内の制御部25cは、自己宛の質問信号であると判定し、I/F部25dを介して、アドレスで指定されたセンサ26−2に対し、このセンサ26−2が検出したひび割れ、雨漏り、歪み等の検出信号の読み出しを行う。制御部25cは、読み出した検出信号を符号化して送受信部25aへ送る。送受信部25aでは、図示しない変調回路により、制御部25cから送られてきた検出信号をRF信号に変調し、RFID用ループアンテナ24へ出力する。これにより、RFID用ループアンテナ24とケーブル用ループアンテナ43との電磁結合効果により、変調された検出信号がRFID用ループアンテナ24からケーブル用ループアンテナ43へ返送される。
【0045】
なお、他のRFIDモジュール20−2,・・・内の制御部25cでは、送られてきた質問信号が自己宛でないので、センサ26の読み出し動作を行わない。
【0046】
RFIDモジュール20−1内のケーブル用ループアンテナ43へ返送された検出信号は、コネクタ22を介して同軸ケーブル40−0へ出力され、中継モジュール10へ伝送される。中継モジュール10は、中継アンテナ13とリーダ/ライタ用アンテナ52との電磁結合効果により、返送された検知信号をリーダ/ライタモジュール50へ送信する。
【0047】
図3に示すリード/ライタモジュール50において、リーダ/ライタ用アンテナ52で受信された検知信号は、送受信部53b内の図示しない復調回路により復調され、制御部53cにより復号化等のデータ処理が行われ、図示しないメモリに格納される。操作者は、入力部53dを操作して、メモリに格納された検知データを表示部53eの画面に表示して検知データの内容(即ち、診断結果)を確認したり、あるいは、検知データをI/F部53f及び信号線61を介して(又はI/F部53fと無線伝送路を介して)上位装置60へ送信する。これにより、上位装置60では、診断結果の集計、解析処理等を行うことができる。
【0048】
(実施例1の効果)
本実施例1によれば、次の(a)、(b)のような効果がある。
【0049】
(a) 複数の同軸ケーブル40によりタンデム状に接続された中継モジュール10及び複数のRFIDモジュール20−1,20−2,・・・により構成されて壁等に埋設された伝送路と、リーダ/ライタモジュール50との間に、中継モジュール10を設け、その伝送路とリーダ/ライタモジュール10とを分離している。そのため、前記伝送路は、使用しない時には、給電の必要がなく、使用時に、リーダ/ライタモジュール10から中継モジュール10を介して給電されるので、消費電力を削減でき、使い勝手が良く、しかも、小型化や安全性の観点で何ら問題が生じない。
【0050】
(b) 同軸ケーブル40と中継モジュール10、RFIDモジュール20、及び終端モジュール30とを、コネクタ12,22,23,32を用いて着脱自在に接続する構成になっているので、施工や保守点検等が容易である。
【0051】
(c) 同軸ケーブル40の切断や、あるいは、これらの同軸ケーブル40と中継モジュール10、RFIDモジュール20、終端モジュール30との接続不良等により、質問信号及び検知信号の送受信が不能になった場合には、これに対処するために、例えば、次のような構成にしておけば良い。RFID用ループアンテナ24は、リーダ/ライタ用アンテナ52と単独で電磁結合効果を発揮できる程度の大きさにしておくことと、リーダ/ライタモジュール50を移動可能な構成にしておく。これにより、リーダ/ライタモジュール50を診断個所のRFIDモジュール20に近接させれば、センサ26に対する質問信号及び検知信号の送受信を行うことができる。
【実施例2】
【0052】
図6は、本発明の実施例2における建築物診断システムを示す概略の構成図であり、実施例1を示す図1中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0053】
本実施例2の建築物診断システムでは、実施例1の建築物診断システムにおける中継モジュール10及び終端モジュール30に代えて、伝送路の両端に双方向終端モジュール80−1,80−2がそれぞれ接続されている。一端側の双方向終端モジュール80−1は、実施例1の中継モジュール10に対して終端機能を付加した構成であり、他端側の双方向終端モジュール80−2は、実施例1の終端モジュール30に対して中継機能を付加した構成になっており、これらの2つの双方向終端モジュール80−1,80−2は、同一の構成になっている。
【0054】
即ち、双方向終端モジュール80−1は、パッケージ81を有している。パッケージ81の側面には、1つのコネクタ82が取り付けられ、このコネクタ82に対して、同軸ケーブル40−0が着脱自在に接続されている。パッケージ81内には、同軸ケーブル40−0の同軸芯線41及び外部導体42に接続されたコンデンサ83,84及び抵抗85からなる終端部と、この終端部の折り返し部分がループアンテナ状に布線されて形成された終端アンテナ86とが、収容されている。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0055】
このような構成では、固定又は移動可能なリーダ/ライタモジュール50を各双方向終端モジュール80−1,80−2に近接させることにより、終端アンテナ86とリーダ/ライタ用アンテナ52との電磁結合効果により、伝送路の両端のいずれからでも、センサ26が接続されたRFIDモジュール20に対する質問信号及び検知信号の送受信が可能になる。そのため、RFIDモジュール20に対する読み出し場所の制限が少なくなって、読み出し作業の効率を向上できる。
【実施例3】
【0056】
図7は、本発明の実施例3におけるケーブル用ループアンテナの概略の構成を示す模式図であり、実施例1を示す図2中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0057】
本実施例3のケーブル用ループアンテナ43では、同軸ケーブル40−0,40−1の同軸芯線41に補助コイル44が延設されている。即ち、補助コイル44は、同軸ケーブル40−0,40−1の同軸芯線41及び外部導体42により形成されるケーブル用ループアンテナ43の平面内で、且つこの平面に平行に設けられている。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0058】
図8は、図7のケーブル用ループアンテナの動作を説明するための図であり、実施例1を示す図5中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0059】
この図8では、ケーブル用ループアンテナ43のみにより生成される磁束Φに比べて、補助コイル44により生成される磁束分だけ磁束量が増加し、RFID用ループアンテナ24との電磁結合効果が大きくなる様子が示されている。
【0060】
本実施例3では、ケーブル用ループアンテナ43及び補助コイル44にRF信号が流れた場合、ケーブル用ループアンテナ43が生成する磁束Φと補助コイル44が生成する磁束とが、図8中の矢印で示すように、同じ方向を向くので、補助コイル44を設けることにより、ケーブル用ループアンテナ43で生起する磁束量を増やすことができる。そのため、補助コイル44付きのケーブル用ループアンテナ43とRFID用ループアンテナ24との電磁結合効果が大きくなり、RFIDモジュール20に接続されたセンサ26からの検知信号に対する読み取り精度を向上できる。
【実施例4】
【0061】
図9は、本発明の実施例4におけるケーブル用ループアンテナの概略の構成を示す模式図であり、実施例3を示す図7中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0062】
本実施例4では、エッチング等により、基板の導体面にケーブル用ループアンテナ43Aと巻数が複数の補助コイル44Aとのパターン配線が形成されている。更に、基板上に、補助コイル44Aの巻数を切り替えるためのスイッチ45が設けられている。スイッチ45は、例えば、端子45a,45b,45c,45dを有し、この端子45a〜45d間の接続を次のように切り替えれば、補助コイル44Aの巻数を切り替えることができる。
端子45a―端子45bを接続;巻数1
端子45a―端子45b―端子45cを接続;巻数2
端子45a―端子45b―端子45c―端子45dを接続;巻数3
【0063】
このように、スイッチ45により、補助コイル44Aの巻数が変更可能な構成になっているので、電磁結合効果を変更してRFIDの読み取り精度を調整できる。
【0064】
(変形例)
本発明は、上記実施例に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(a)〜(d)のようなものがある。
【0065】
(a) 図1、図4では、伝送路上に中継モジュール10を1つ設けた例を説明したが、伝送路が長い場合には、その伝送路上に複数の中継モジュール10を設けても良い。これにより、読み出し場所の制限がより少なくなって、読み出し作業の効率をより向上できる。
【0066】
(b) 中継モジュール10、RFIDモジュール20、終端モジュール30、及びリーダ/ライタモジュール50は、図示以外の構成に変更しても良い。例えば、リーダ/ライタモジュール50には、外部から電源電力を供給可能な構成にしても良い。
【0067】
(c) 同軸ケーブル40は、TVフィーダ、ベル線、電話線、撚り線等の一対の線路を有する他のケーブルに置き換えても良い。
【0068】
(d) 図9において、補助コイル44Aの巻数を図示以外の他の数に変更したり、補助コイル44aを基板の両面に形成したり、あるいは、積層基板を用いて補助コイル44aをその内部に設ける等しても良い。又、スイッチ45は、トランジスタ等により種々の構成に変更できる。
【符号の説明】
【0069】
10 中継モジュール
12,22,23,32 コネクタ
13 中継アンテナ
20,20−1,20−2 RFIDモジュール
24 RFID用ループアンテナ
25 RFID用ICチップ
26,26−1,26−2 センサ
30 終端モジュール
33 終端部
40,40−0,40−1,40−2 同軸ケーブル
43 ケーブル用ループアンテナ
44 補助コイル
50 リーダ/ライタモジュール
52 リーダ/ライタ用アンテナ
60 上位装置
70 建築物
80−1,80−2 双方向終端モジュール
86 終端アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の状態を診断するために複数の診断個所に配置され、電源電力が重畳された質問信号が送られてくると、前記電源電力により動作し、前記診断個所の状態を検知して検知信号を返送する建築物診断システムであって、
質問器用アンテナを有し、前記電源電力に前記質問信号を重畳して前記質問器用アンテナから送信すると共に、前記検知信号を前記質問器用アンテナを介して受信する質問器と、
前記質問器用アンテナに対し所定間隔隔てて電磁結合される中継アンテナを有し、前記質問器用アンテナから送られてくる前記電源電力が重畳された前記質問信号を前記中継アンテナにより受信すると共に、前記検知信号を前記中継アンテナから前記質問器用アンテナへ返送する1つ又は複数の中継モジュールと、
前記中継モジュールに接続されて前記複数の診断個所近傍に延設され、前記各診断個所に対応する位置にケーブル用ループアンテナがそれぞれ直列に接続されたケーブルと、
前記複数の診断個所にそれぞれ配置され、前記各ケーブル用ループアンテナに対し所定間隔隔てて電磁結合されるRFID用ループアンテナと、前記ケーブル用ループアンテナから前記RFID用ループアンテナを介して受信された前記電源電力により動作し、前記診断個所の状態を検知して前記検知信号を前記RFID用ループアンテナを介して前記ケーブル用アンテナへ返送するセンサ機能付きRFIDタグと、をそれぞれ有する複数のRFIDモジュールと、
前記ケーブルの終端に接続され、前記中継モジュール、前記ケーブル、及び前記RFIDモジュールにより構成される伝送路の伝送特性を安定化させる終端部を有する終端モジュールと、
を備えたことを特徴とする建築物診断システム。
【請求項2】
請求項1記載の建築物診断システムにおいて、
前記中継モジュールは、前記中継アンテナに接続され、前記終端部と同様の機能を有する他の終端部を有し、
前記終端モジュールは、前記終端部に接続され、前記中継アンテナと同様の機能を有する他のアンテナを有することを特徴とする建築物診断システム。
【請求項3】
前記ケーブル用ループアンテナには、前記RFID用ループアンテナに対し所定間隔隔てて電磁結合される補助コイルが延設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の建築物診断システム。
【請求項4】
前記補助コイルは、スイッチにより巻数が変更可能な構成になっていることを特徴とする請求項3記載の建築物診断システム。
【請求項5】
前記ケーブルは、同軸ケーブルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の建築物診断システム。
【請求項6】
前記中継モジュール、前記RFIDモジュール、及び前記終端モジュールと、前記ケーブルとは、着脱自在のコネクタによりそれぞれ接続されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の建築物診断システム。
【請求項7】
前記質問器は、リーダ/ライタモジュールにより構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の建築物診断システム。
【請求項8】
前記リーダ/ライタモジュールは、前記質問器用アンテナとして質問器用ループアンテナを有し、前記RFIDモジュールに対して電磁結合により、前記電源電力が重畳された前記質問信号の送信、及び前記質問信号の受信が可能な構成になっていることを特徴とする請求項7記載の建築物診断システム。
【請求項9】
前記リーダ/ライタモジュールは、プログラムによりデータ処理機能を有する上位装置との間で、データの送受信が可能な構成になっていることを特徴とする請求項7又は8記載の建築物診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−211381(P2010−211381A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55024(P2009−55024)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】