説明

建設車両

【課題】車両が停止した状態でも迅速に変速段の切換を行うことができる建設車両を提供する。
【解決手段】本発明に係る建設車両では、制御部は、現在速度段から目標速度段へ変速段の切り替えを行う際、現在速度段に対応する現在変速段ギアと現在変速段ギアに対応する現在変速軸とが連結され、且つ、入力軸と現在変速軸との間で回転の伝達が可能である状態において、入力軸との間で回転の伝達が不能な状態にある目標変速軸と、目標速度段に対応する目標変速段ギアとを連結するプリシフトを行った後に変速段の切り替えを行う。そして、制御部は、車速検知部が検知した車速がゼロである場合には、目標変速軸と複数の変速段ギアとが非連結である状態で入力軸の回転を目標変速軸に入力するプリシフト補助制御を行った後に、プリシフトを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用トランスミッションの変速制御装置として、特許文献1に示されたようなツインクラッチ式トランスミッションの変速制御装置が提供されている。この種の変速制御装置では、一方の変速段グループに属する現在速度段から、他方の変速段グループに属する目標速度段へ変速段の切り替えが行われる前に、プリシフトが行われる。プリシフトとは、変速段の切り替えの前に、2つの変速軸のうち入力軸と非連結状態にある変速軸と、目標速度段に対応する目標変速段ギアとを連結機構によって連結しておくことであり、これにより変速段の切替の際のタイムラグを短縮することができる。例えば、2速から3速に速度段が切り替えられる場合、一方の変速軸が入力軸および2速の変速段ギアと連結され2速での走行が行われている間に、連結機構が中立位置から3速の変速段ギアに向けて移動し、連結機構側に設けられたギアと、変速段ギア側に設けられた連結用のギアとが係合することにより、入力軸と非連結状態である他方の変速軸が3速の変速段ギアと連結される。そして、2速の変速段ギアと連結された変速軸が入力軸から開放されると共に、3速の変速段ギアと連結された変速軸が入力軸と連結されることにより、2速から3速への速度段の切替が行われる。
【特許文献1】特開2006−194405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ホイールローダ等の建設車両では、土砂に向かって前進した状態のまま停止してしまった場合のように、停止した状態で変速段の切り替えが行われることがある。この場合、上記のようなプリシフトにおいて、変速軸と変速段ギアとの連結が迅速に行われない恐れがある。すなわち、プリシフトに係る変速軸は、入力軸と連結されていない状態であるため、入力軸から回転が伝達されず回転していない。また、車両が停止状態では出力軸が回転していないため、プリシフトに係る変速段ギアも回転していない。このように、変速軸と変速段ギアとの相対速度がゼロである場合、図11に示すように、連結機構側のギアG1の山と、変速段ギア側の連結用のギアG2との山とが当接した状態にあると、各ギアの山の位置が変化しないため、連結機構側のギアG1と変速段ギア側のギアG2とが噛み合わず、連結機構が移動不能な状態が維持されてしまう。これにより、変速段の切り替えに遅れが生じる恐れがある。なお、図11は、結機構側のギアG1と変速段ギア側の連結用のギアG2との山の一部を軸方向から見た図である。
【0004】
本発明の課題は、車両が停止した状態でも迅速に変速段の切換を行うことができる建設車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明に係る建設車両は、入力軸と、第1変速軸及び第2変速軸と、出力軸と、クラッチ機構と、第1変速機構と、第2変速機構と、第1連結機構と、第2連結機構と、車速検知部と、制御部とを備える。入力軸は、エンジン側からの回転が入力される軸である。第1変速軸および第2変速軸は、入力軸からの回転が入力される軸である。出力軸は、第1変速軸および第2変速軸からの回転が入力される軸である。クラッチ機構は、入力軸から第1変速軸への回転の伝達・非伝達および入力軸から第2変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替えるための機構である。第1変速機構は、第1変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアを有し、第1変速軸の回転を第1変速段グループに属する複数の変速段の間で変速して出力軸に伝達するための機構である。第2変速機構は、第2変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアを有し、第2変速軸の回転を第2変速段グループに属する複数の変速段の間で変速して出力軸に伝達するための機構である。第1連結機構は、第1変速機構の変速段ギア側に設けられたクラッチギアとの係合・係脱によって、第1変速軸と第1変速機構の変速段ギアとの連結・非連結を切り換える。第2連結機構は、第2変速機構の変速段ギア側に設けられたクラッチギアとの係合・係脱によって、第2変速軸と第2変速機構の変速段ギアとの連結・非連結を切り換える。車速検知部は、車速を検知する。制御部は、第1変速段グループと第2変速段グループとのうち一方の変速段グループに属する現在速度段から他方の変速段グループに属する目標速度段へ変速段の切り替えを行う際、複数の変速段ギアのうち現在速度段に対応する現在変速段ギアと、第1変速軸と第2変速軸とのうち現在変速段ギアに対応する一方の変速軸である現在変速軸とが連結され、且つ、入力軸と現在変速軸との間で回転の伝達が可能である状態において、第1変速軸と第2変速軸とのうち入力軸との間で回転の伝達が不能な状態にある他方の変速軸である目標変速軸と、複数の変速段ギアのうち目標速度段に対応する目標変速段ギアとを連結するプリシフトを行った後に、現在変速軸と入力軸との間での回転の伝達を不能にすると共に目標変速軸と入力軸との間での回転の伝達を可能にすることにより変速段の切り替えを行う。そして、制御部は、車速検知部が検知した車速がゼロである場合には、目標変速軸と複数の変速段ギアとが非連結である状態で入力軸の回転を目標変速軸に入力するプリシフト補助制御を行った後に、プリシフトを行う。
【0006】
この建設車両では、車速がゼロの場合、プリシフトを行う前に、目標変速軸に入力軸からの回転が入力される。目標変速軸に入力軸からの回転が入力されると、プリシフトを行う際に目標変速軸と変速段ギアとを連結するための各ギアの山同士が当接して噛み合わない状態であっても、連結機構と目標変速段ギア側のクラッチギアとの相対位置がずれて、各ギアが噛み合うことができる。これにより、この建設車両では、車両が停止した状態でも、プリシフトを行うことができ、迅速に変速段の切換を行うことができる。
【0007】
第2発明に係る建設車両は、第1発明の建設車両であって、エンジン側から入力軸への回転の伝達・非伝達を切り替えるメインクラッチをさらに備える。また、クラッチ機構は、入力軸から第1変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える第1クラッチと、入力軸から第2変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える第2クラッチとを有する。そして、制御部は、プリシフト補助制御において、メインクラッチから入力軸への入力回転数がゼロになると、第1クラッチと第2クラッチとのうち入力軸から現在変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える一方のクラッチの伝達トルク容量を低減させる。そして、制御部は、メインクラッチから入力軸への入力回転数が増加すると、第1クラッチと第2クラッチとのうち入力軸から目標変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える他方のクラッチの伝達トルク容量を増大させる。
【0008】
この建設車両では、車速がゼロになると、出力軸が回転不能になり、この出力軸からの負荷が変速機構、第1連結機構または第2連結機構、現在変速軸、第1クラッチまたは第2クラッチを介して入力軸に伝わる。これにより、メインクラッチから入力軸への入力回転数がゼロになる。この場合、制御部は、入力軸から現在変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える方のクラッチの伝達トルク容量を低減させる。これにより、出力軸から入力軸へ伝達される負荷が低減され、メインクラッチから入力軸への入力回転数が増大する。メインクラッチから入力軸への入力回転数が増大すると、制御部は、入力軸から目標変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える方のクラッチの伝達トルク容量を増大させる。これにより、入力軸の回転が目標変速軸に入力される。
【0009】
以上により、この建設車両では、停止中であっても入力軸を回転させ、入力軸の回転を目標変速軸に入力することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、この建設車両では、車両が停止した状態でも、プリシフトを行うことができ、迅速に変速段の切換を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔全体構成〕
図1に本発明の一実施形態による建設車両100の概略構成を示すブロック図を示す。この建設車両100は、例えば、ホイールローダであり、エンジン51、変速機1、作業機用油圧ポンプ62、作業機63、制御用油圧ポンプ64、制御部55、操作部56、各種センサSN1〜11等が設けられており、エンジン51で発生した出力トルクが変速機1、作業機用油圧ポンプ62、制御用油圧ポンプ64等に分配され、作業機63の駆動や走行時の駆動力となる。
【0012】
エンジン51は、ディーゼル式のエンジン51であり、エンジン51の出力トルクと回転数とを制御する燃料噴射装置57が付設されている。エンジン51の出力軸には変速機1が連結され、エンジン51による駆動力が変速機1を介してタイヤ59に伝達される。変速機1は高速から低速まで複数段階に減速比を切り換え可能であり、後述する制御部55からの制御信号に基づいて減速比が切り換えられる。変速機1については後に詳細に説明する。
【0013】
作業機用油圧ポンプ62は、エンジン51の出力によって駆動される可変容量型の油圧ポンプであり、作業機用油圧ポンプ62には、作業機用油圧ポンプ62から吐出される圧油を利用して作業機用油圧ポンプ62の斜板の傾転角を調整するレギュレータ60と、制御部55からの制御信号に基づいてレギュレータ60を制御する電磁制御弁61とが設けられている。
【0014】
作業機63は、図示しないリフトアーム、バケット、および、これらを駆動する作業機シリンダなどを有し、作業機用油圧ポンプ62から吐出される圧油によって駆動される。
【0015】
制御用油圧ポンプ64は、エンジン51の出力によって駆動される油圧ポンプであり、後述する変速機1の各種クラッチ(メインクラッチMC、第1スナップクラッチSC1、第2スナップクラッチSC2)や第1シフトアクチュエータSA1、第2シフトアクチュエータSA2、第3シフトアクチュエータSA3を作動させる油圧を発生させる。また、制御用油圧ポンプ64と各種クラッチとを結ぶ油圧回路には、メインクラッチ制御弁MCV、第1クラッチ制御弁CV1、第2クラッチ制御弁CV2が設けられている。メインクラッチ制御弁MCVは、制御部55によって電気的に制御されることにより、メインクラッチMCに供給される油圧を調整することができる。第1クラッチ制御弁CV1は、制御部55によって電気的に制御されることにより、第1スナップクラッチSC1に供給される油圧を調整することができる。第2クラッチ制御弁CV2は、制御部55によって電気的に制御されることにより、第2スナップクラッチSC2に供給される油圧を調整することができる。
【0016】
制御部55は、各種センサSN1〜11からの検知信号や、図示しない運転室に配置される操作部56からの運転指令信号等に基づいて、上記の各種装置を制御する。制御部55については、後に詳細に説明する。
【0017】
〔変速機1の構成〕
図2に変速機1の展開断面構成を、図3にその後方から見た概略の軸等の配置図を示す。また、図4に本変速機1のスケルトン図を示す。
【0018】
図2に示す変速機1は、前後進ともに10段の変速段を有している。この変速機1は、エンジン51からの回転が入力されるメインクラッチMCと、メインクラッチMCを介してエンジン51からの回転が入力される入力軸2と、第1変速軸12と、第1変速機構3と、第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3と、第2変速軸20と、第2変速機構4と、第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6と、クラッチ機構5と、回転方向切換機構6と、出力軸7とを備えている。また、第1及び第2変速機構3,4と出力軸7との間には変速用アイドル軸8と、出力用アイドル軸9と、が設けられている。
【0019】
[メインクラッチMC]
メインクラッチMCは、油圧式のクラッチであり、メインクラッチ制御弁MCV(図1参照)を介して供給される油圧を制御することによって伝達トルク容量を制御することが可能である。このメインクラッチMCは、入力側の部材1aがエンジン51側の部材に連結されており、出力側の部材1bが入力軸2に連結されている。これにより、メインクラッチMCは、エンジン51側から入力軸2への回転の伝達・非伝達を切り替えることができる。なお、メインクラッチMCの入力側の部材1aには、補機類を駆動するためのパワーテイクオフ機構(図示せず)が連結されている。
【0020】
[入力軸2]
入力軸2は変速機1のハウジング10に対して1対の軸受によって回転自在に支持されている。この入力軸2の先端部には、メインクラッチMCの出力側部材1bがスプライン結合されるとともに、メインクラッチMCの入力側部材1aが軸受を介して回転自在に支持されている。
【0021】
[第1変速軸12および第1変速機構3]
第1変速軸12は、入力軸2と偏倚してかつ入力軸2と平行に配置され、ハウジング10に対して1対の軸受により回転自在に支持されている。
【0022】
第1変速機構3は、第1変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアを有し、第1変速軸12の回転を第1変速段グループに属する複数の変速段の間で変速して出力軸7に伝達するための機構である。具体的には、第1変速段グループとは、10段の変速段のうちの奇数段(1&3速,5速,7&9速)のグループである。また、第1変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアとは、第1速・第3速用(以下、1&3速)ドライブギア13と、第5速用(以下、5速)ドライブギア14と、第7速・第9速用(以下、7&9速)ドライブギア15と、減速用ギア16とである。従って、第1変速機構3は、奇数段の変速段が選択されたときに回転が入力されるものである。また、1&3速ドライブギア13、5速ドライブギア14及び7&9速ドライブギア15は、それぞれ第1変速軸12に1対の軸受により回転自在に支持されている。また、1&3速ドライブギア13、5速ドライブギア14及び7&9速ドライブギア15の軸方向端部の外周面には、第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3と係合可能なクラッチギアが設けられている。なお、減速ギア16は第1変速軸12のエンジン51側先端部に相対回転不能に装着されている。
【0023】
[第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3]
第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3は、軸方向に移動して各ドライブギア13〜15を第1変速軸12に相対回転不能に固定するか、あるいは2つのドライブギアを互いに連結するためのクラッチである。第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3は、軸方向に移動可能に装着されており、第1変速軸12と共に回転する。第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3は、上述した1&3速ドライブギア13、5速ドライブギア14及び7&9速ドライブギア15のクラッチギアと係合可能なスリーブギアを内周面に有しており、第1変速機構3の各ドライブギア13〜15側に設けられたクラッチギアとの係合・係脱によって、第1変速軸12と各ドライブギア13〜15との連結・非連結を切り換える第1連結機構に相当する。例えば、図5に示すように、7&9速ドライブギア15の軸方向端部の外周面にはクラッチギア15aが設けられており、第3カップリングスリーブC3には、クラッチギア15aと係合可能なスリーブギアC3aが設けられている。
【0024】
具体的には、第1カップリングスリーブC1は、第1変速軸12と1&3速ドライブギア13との間をオン(連結)するか、1&3速ドライブギア13と5速ドライブギア14との間をオンするか、あるいはオフ(いずれの間も連結しない)するか、を切り換える。第2カップリングスリーブC2は、第1変速軸12と5速ドライブギア14との間をオンするか、5速ドライブギア14と7&9速ドライブギア15との間をオンするか、あるいはオフするか、を切り換える。第3カップリングスリーブC3は、第1変速軸12と7&9速ドライブギア15との間をオンするか、オフするかを切り換える。
【0025】
なお、第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3は、第1シフトアクチュエータSA1(図1参照)によって移動する。例えば、図5に示すように、第3カップリングスリーブC3には、第1シフトアクチュエータSA1によって移動するシフトフォークC3bが設けられており、シフトフォークC3bが移動することにより第3カップリングスリーブC3が第1変速軸12の軸方向に移動する。第1、第2カップリングスリーブC1,C2も第3カップリングスリーブC3と同様の構成である。
【0026】
[第2変速軸20および第2変速機構4]
第2変速軸20は、入力軸2と偏倚してかつ入力軸2及び第1変速軸12と平行に配置され、ハウジング10に対して1対の軸受により回転自在に支持されている。
【0027】
第2変速機構4は、第2変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアを有し、第2変速軸20の回転を第2変速段グループに属する複数の変速段の間で変速して出力軸7に伝達するための機構である。具体的には、第2変速段グループとは、10段の変速段のうちの偶数段(2&4速,6速,8&10速)のグループであり、第2変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアとは、第2速・第4速用(以下、2&4速)ドライブギア21と、第6速用(以下、6速)ドライブギア22と、第8速・第10速用(以下、8&10速)ドライブギア23とである。従って、第2変速機構4は、偶数段の変速段が選択されたときに回転が入力されるものである。2&4速ドライブギア21、6速ドライブギア22及び8&10速ドライブギア23は、それぞれ第2変速軸20に1対の軸受により回転自在に支持されている。また、2&4速ドライブギア21、6速ドライブギア22及び8&10速ドライブギア23の軸方向端部の外周面には第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6と係合可能なクラッチギアが設けられている。
【0028】
[第4〜第6カップリングスリーブC4〜C6]
第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6は、軸方向に移動して各ドライブギア21〜23を第2変速軸20に固定(相対回転不能)にするか、あるいは2つのドライブギアを互いに連結するためのクラッチである。第4〜第6カップリングスリーブC4〜C6は、軸方向に移動可能に装着されており、第2変速軸20と共に回転する。第4〜第6カップリングスリーブC4〜C6は、上述した2&4速ドライブギア21、6速ドライブギア22及び8&10速ドライブギア23に設けられたクラッチギアと係合可能なスリーブギアを内周面に有しており、第2変速機構4の各ドライブギア21〜23側に設けられたクラッチギアとの係合・係脱によって、第2変速軸20と各ドライブギア21〜23との連結・非連結を切り換える第2連結機構に相当する。
【0029】
具体的には、第4カップリングスリーブC4は、第2変速軸20と2&4速ドライブギア21との間をオンするか、2&4速ドライブギア21と6速ドライブギア22との間をオンするか、あるいはオフするか、を切り換えるためのクラッチである。第5カップリングスリーブC5は、第2変速軸20と6速ドライブギア22との間をオンするか、6速ドライブギア22と8&10速ドライブギア23との間をオンするか、あるいはオフするか、を切り換えるためのクラッチである。第6カップリングスリーブC6は、第2変速軸20と8&10速ドライブギア23との間をオンするか、オフするかを切り換えるためのクラッチである。
【0030】
なお、第4〜第6カップリングスリーブC4〜C6は、第2シフトアクチュエータSA2(図1参照)によって移動する。
【0031】
さらに、この第2変速軸20には、変速時におけるカップリングスリーブの噛み合いをスムーズに行わせるためのシンクロ機構24が設けられている。シンクロ機構24は、図4に示すように、第2変速軸20に対してそれぞれ相対回転自在に支持された第1シンクロギア24a及び第2シンクロギア24bと、これらのシンクロギア24a,24bと第2変速軸20とを連結するためのコーンクラッチ24cとを有している。
【0032】
[変速用アイドル軸8]
変速用アイドル軸8は、各変速軸12,20と同様に、ハウジング10に対して1対の軸受によって回転自在に支持されている。また、図3に示すように、変速用アイドル軸8は、第1及び第2変速軸12,20の下方でこれらの軸12,20と平行に、かつ入力軸2と同じ鉛直線上に配置されている。この変速用アイドル軸8には、第1及び第2変速機構3,4に設けられた各ドライブギアに噛み合うドリブンギアと、第7及び第8カップリングスリーブC7,C8とが設けられている。より詳細には、変速用アイドル軸8には、エンジン51側から順に、第1〜第5ドリブンギア26,27,28,29,30がそれぞれ軸受を介して回転自在に支持されている。なお、第1ドリブンギア26と第2ドリブンギア27とは互いに一体的に回転するように、また第4ドリブンギア29と第5ドリブンギア30とは互いに一体的に回転するように構成されている。そして、第1ドリブンギア26は7&9速ドライブギア15に、第2ドリブンギア27は2&4速ドライブギア21に、第3ドリブンギア28は5速ドライブギア14及び6速ドライブギア22に、第4ドリブンギア29は1&3速ドライブギア13に、第5ドリブンギア30は8&10速ドライブギア23に、それぞれ常時噛み合っている。従って、各ドリブンギアは、上述したドライブギアと共に、第1変速軸12又は第2変速軸20からの回転を出力軸7に伝達する変速段ギアとして機能する。
【0033】
第7及び第8カップリングスリーブC7,C8は、軸方向に移動して各ドリブンギアを変速用アイドル軸8に相対回転不能に固定するためのクラッチである。
【0034】
具体的には、第7カップリングスリーブC7は、変速用アイドル軸8と第1及び第2ドリブンギア26,27との間をオン、オフするためのクラッチであり、第8カップリングスリーブC8は、変速用アイドル軸8と第4及び第5ドリブンギア29,30との間をオン、オフするためのクラッチである。第7及び第8カップリングスリーブC7,C8は、第3シフトアクチュエータSA3(図1参照)によって移動する。
【0035】
なお、変速用アイドル軸8の後端(エンジン51とは逆側の端部)には、パーキングブレーキ32が設けられている。
【0036】
[出力用アイドル軸9]
出力用アイドル軸9は、他の軸と同様に、ハウジング10に対して1対の軸受によって回転自在に支持されている。また、出力用アイドル軸9は、図3から明らかなように、変速用アイドル軸8の下方で変速用アイドル軸8と平行に、かつ後方から見て左側(第2変速軸20)側に偏倚して配置されている。この出力用アイドル軸9には、第1及び第2出力用アイドルギア35,36が固定されている。そして、第1出力用アイドルギア35は変速用アイドル軸8の第3ドリブンギア28と噛み合っている。
【0037】
[出力軸7]
出力軸7は、他の軸と同様に、ハウジング10に対して1対の軸受によって回転自在に支持されており、その両端にはアクスル側の部材に連結される出力フランジ40,41が装着されている。また、出力軸7は、図3から明らかなように、出力用アイドル軸9の下方で各軸と平行に、かつ入力軸2及び変速用アイドル軸8と同じ鉛直線上に配置されている。この出力軸7には、出力ギア42が固定されており、この出力ギア42は出力用アイドル軸9の第2出力用アイドルギア36と噛み合っている。出力軸7には、変速用アイドル軸8および出力用アイドル軸9を介して第1変速軸12および第2変速軸20からの回転が入力される。
【0038】
[クラッチ機構5]
クラッチ機構5は、入力軸2から第1変速軸12への回転の伝達・非伝達および入力軸2から第2変速軸20への回転の伝達・非伝達を切り替えるための機構であり、入力軸2と同軸上に配置された第1クラッチ対5Fと、第2変速機構4の第2変速軸20と同軸上に配置された第2クラッチ対5Rと、を有している。
【0039】
〈第1クラッチ対:前進用クラッチ+第1スナップクラッチSC1〉
図4から明らかなように、第1クラッチ対5Fは、前進走行時にオン(動力伝達状態)となる前進用クラッチFと、入力軸から第1変速軸12への回転の伝達・非伝達を切り替えるための第1スナップクラッチSC1とを有している。なお、前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1はともに油圧式多板クラッチであり、互いに同軸上に配置されている。また、前進用クラッチFは、図示しない前進用クラッチ制御弁を介して供給される油圧を制御することにより、伝達トルク容量を制御することが可能である。第1スナップクラッチSC1は、第1クラッチ制御弁CV1(図1参照)を介して供給される油圧を制御することによって伝達トルク容量を制御することが可能である。
【0040】
より詳細には、前進用クラッチFは、入力軸2に相対回転不能に固定された前進用入力ギアFGと、入力軸2の回りに相対回転自在に設けられたクラッチケース45と、前進用入力ギアFGとクラッチケース45との間に設けられた複数のクラッチプレートとを有している。
【0041】
また、第1スナップクラッチSC1は、前進用クラッチFのクラッチケース45と共通のクラッチケースと、入力軸2に対して相対回転自在に支持された中間ギア46と、クラッチケース45と中間ギア46との間に設けられた複数のクラッチプレートとを有している。中間ギア46は、入力側に配置された第1中間ギア46aと、出力側に配置された第2中間ギア46bとを有している。第1中間ギア46aはシンクロ機構24の第1シンクロギア24aに噛み合い、第2中間ギア46bはシンクロ機構24の第2シンクロギア24bに噛み合っている。そして、第1中間ギア46aと第2中間ギア46bとは一体に形成されている。なお、クラッチケース45の外周において、出力側(図2の右側)端部には、クラッチケースギア47が形成されている。
【0042】
このような構成では、前進用クラッチFがオンすることにより、前進用入力ギアFG(すなわち入力軸2)とクラッチケース45との間で動力の伝達が可能になる。また、第1スナップクラッチSC1がオンすることにより、クラッチケース45と中間ギア46との間で動力の伝達が可能になる。
【0043】
〈第2クラッチ対:後進用クラッチ+第2スナップクラッチSC2〉
図4から明らかなように、第2クラッチ対5Rは、後進走行時にオン(動力伝達状態)となる後進用クラッチRと、入力軸から第2変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替えるための第2スナップクラッチSC2とを有している。なお、後進用クラッチR及び第2スナップクラッチSC2はともに油圧式多板クラッチであり、互いに同軸上に配置されている。また、後進用クラッチRは、図示しない後進用クラッチ制御弁を介して供給される油圧を制御することにより、伝達トルク容量を制御することが可能である。第2スナップクラッチSC2は、第2クラッチ制御弁CV2(図1参照)を介して供給される油圧を制御することによって伝達トルク容量を制御することが可能である。
【0044】
より詳細には、後進用クラッチRは、第2変速軸20と同軸上に配置されたクラッチ軸48と、クラッチ軸48に相対回転自在に支持された後進用入力ギアRGと、クラッチ軸48の回りに相対回転自在に設けられたクラッチケース49と、後進用入力ギアRGとクラッチケース49との間に設けられた複数のクラッチプレートとを有している。クラッチ軸48の出力側(図2の右側)端部にはスプライン孔が形成されており、このスプライン孔に、第2変速軸20の先端に形成されたスプライン軸が係合している。後進用入力ギアRGは、ハウジング10に回転自在に支持されたアイドルギアIG(図3及び図4参照)を介して前進用入力ギアFGに連結されている。
【0045】
また、第2スナップクラッチSC2は、後進用クラッチRのクラッチケース49と共通のクラッチケースと、クラッチケース49とクラッチ軸48との間に設けられた複数のクラッチプレートとを有している。そして、クラッチケース49の外周において、出力側(図2の右側)端部には、クラッチケースギア50が形成されており、このクラッチケースギア50が第1スナップクラッチSC1のクラッチケースギア47に噛み合っている。
【0046】
このような構成では、後進用クラッチRがオンすることにより、後進用入力ギアRG(すなわち入力軸2)とクラッチケース49との間で動力の伝達が可能になる。また、第2スナップクラッチSC2がオンすることにより、クラッチケース49と第2変速軸20との間で動力の伝達が可能になる。
【0047】
[回転方向切換機構]
回転方向切換機構6は、クラッチ機構5での前後進の切換に応じて、第1変速機構3又は第2変速機構4への入力回転方向を、前進用回転方向又は後進用回転方向とするための機構である。この回転方向切換機構6は、図4に示すように、第1クラッチ対5F及び第2クラッチ対5Rに同方向の回転を入力するための第1ギア52と、第1クラッチ対5F及び第2クラッチ対5Rの互いの出力回転を逆方向にして相手側に伝達するための第2ギア53と、第1クラッチ対5Fの出力の回転方向を逆方向にして第1変速機構3に入力する第3ギア54と、を有している。
【0048】
具体的には、第1ギア52は前進用入力ギアFG、アイドルギアIG及び後進用入力ギアRGからなるギアであり、第2ギア53は第1スナップクラッチSC1のクラッチケースギア47及び第2スナップクラッチSC2のクラッチケースギア50からなるギアであり、第3ギア54は中間ギア46及び第1変速機構3に設けられた減速用ギア16からなるギアである。
【0049】
〔変速機1における動力伝達経路:入力側共通経路〕
次に、以上のように構成された変速機1の動力伝達経路について説明する。まず、各変速段において共通の経路、すなわち、入力軸2から各変速機構3,4に至るまでの動力伝達経路について説明する。
【0050】
[前進用クラッチON+第1スナップクラッチSC1ON]
前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1がオン(他の各クラッチはオフ)の場合は、入力軸2からの回転は前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1を介して中間ギア46に伝達され、さらにこの中間ギア46と噛み合う減速ギア16を介して第1変速軸12に入力される。
【0051】
このときの回転方向は、エンジン51の回転方向を第1方向とすると(以下、すべて同様)、入力軸2及び中間ギア46は第1方向となり、第1変速軸12の回転方向は第2方向(前進)となる。
【0052】
[前進用クラッチON+第2スナップクラッチSC2ON]
前進用クラッチF及び第2スナップクラッチSC2がオン(他の各クラッチはオフ)の場合は、入力軸2からの回転は前進用クラッチF及び第2スナップクラッチSC2を介してクラッチ軸48に伝達され、このクラッチ軸48とスプライン結合している第1変速軸12に入力される。
【0053】
このときの回転方向は、入力軸2及び第1スナップクラッチSC1のクラッチケースギア47は第1方向であるので、第2スナップクラッチSC2のクラッチケースギア50及びクラッチ軸48は第2方向となり、第2変速軸20の回転方向は第2方向(前進)となる。
【0054】
[後進用クラッチON+第1スナップクラッチSC1ON]
後進用クラッチR及び第1スナップクラッチSC1がオン(他の各クラッチはオフ)の場合は、入力軸2からの回転は前進用入力ギアFG、アイドルギアIG及び後進用入力ギアRGを介して後進用クラッチRに入力される。そして、後進用クラッチRの回転は、両クラッチケースギア47,50の噛み合いを介して第1スナップクラッチSC1に入力される。この回転は、中間ギア46に伝達され、さらにこの中間ギア46と噛み合う減速ギア16を介して第1変速軸12に入力される。
【0055】
このときの回転方向は、入力軸2は第1方向であるので、クラッチ軸48及び後進用クラッチR(第2スナップクラッチSC2)も第1方向となり、したがって第1スナップクラッチSC1の回転方向は第2方向となる。したがって、第1変速軸12の回転方向は第1方向(後進)となる。
【0056】
[後進用クラッチON+第2スナップクラッチSC2ON]
後進用クラッチR及び第2スナップクラッチSC2がオン(他の各クラッチはオフ)の場合は、入力軸2からの回転は前進用入力ギアFG、アイドルギアIG及び後進用入力ギアRGを介して後進用クラッチRに入力される。そして、後進用クラッチRの回転は、第2スナップクラッチSC2を介してクラッチ軸48及び第2変速軸20に入力される。
【0057】
このときの回転方向は、入力軸2は第1方向であるので、クラッチ軸48及び後進用クラッチR(第2スナップクラッチSC2)も第1方向となり、したがってクラッチ軸48及び第2変速軸20の回転方向も第1方向(後進)となる。
【0058】
〔変速機1における動力伝達経路:各変速段〕
以上のようにして第1変速軸12又は第2変速軸20に入力された回転は、各変速段においては以下のようにして変速される。
【0059】
[前進第1速]
前進第1速の場合は、前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第1変速軸12に入力される。また、前進第1速では、図6Aに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0060】
第1カップリングスリーブC1:第1変速軸12+1&3速ドライブギア13
第2カップリングスリーブC2:5速ドライブギア14+7&9速ドライブギア15
第4カップリングスリーブC4:第2変速軸20+2&4速ドライブギア21
第5カップリングスリーブC5:6速ドライブギア22+8&10速ドライブギア23
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第1変速軸12に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Aでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第2変速機構4側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第2速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。プリシフトについては後に詳細に説明する。
【0061】
第1変速軸12→第1カップリングスリーブC1→1&3速ドライブギア13→第4及び第5ドリブンギア29,30→8&10速ドライブギア23→第5カップリングスリーブC5→6速ドライブギア22→第3ドリブンギア28→変速用アイドル軸8
[前進第2速]
前進第2速の場合は、前進用クラッチF及び第2スナップクラッチSC2がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第2変速軸20に入力される。また、前進第2速では、図6Bに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0062】
第1カップリングスリーブC1:第1変速軸12+1&3速ドライブギア13
第2カップリングスリーブC2:5速ドライブギア14+7&9速ドライブギア15
第4カップリングスリーブC4:第2変速軸20+2&4速ドライブギア21
第8カップリングスリーブC8:第4ドリブンギア29+変速用アイドル軸8
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第2変速軸20に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Bでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第1変速機構3側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第3速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0063】
第2変速軸20→第4カップリングスリーブC4→2&4速ドライブギア21→第1及び第2ドリブンギア26,27→7&9速ドライブギア15→第2カップリングスリーブC2→5速ドライブギア14→第3ドリブンギア28→変速用アイドル軸8
[前進第3速]
前進第3速の場合は、前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第1変速軸12に入力される。また、前進第3速では、図6Cに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0064】
第1カップリングスリーブC1:第1変速軸12+1&3速ドライブギア13
第4カップリングスリーブC4:第2変速軸20+2&4速ドライブギア21
第7カップリングスリーブC7:第2ドリブンギア27+変速用アイドル軸8
第8カップリングスリーブC8:第4ドリブンギア29+変速用アイドル軸8
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第1変速軸12に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Cでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第2変速機構4側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第4速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0065】
第1変速軸12→第1カップリングスリーブC1→1&3速ドライブギア13→第4ドリブンギア29→第8カップリングスリーブC8→変速用アイドル軸8
[前進第4速]
前進第4速の場合は、前進用クラッチF及び第2スナップクラッチSC2がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第2変速軸20に入力される。また、前進第4速では、図6Dに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0066】
第2カップリングスリーブC2:第1変速軸12+5速ドライブギア14
第4カップリングスリーブC4:第2変速軸20+2&4速ドライブギア21
第7カップリングスリーブC7:第2ドリブンギア27+変速用アイドル軸8
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第2変速軸20に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Dでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第1変速機構3側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第5速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0067】
第2変速軸20→第4カップリングスリーブC4→2&4速ドライブギア21→第2ドリブンギア27→第7カップリングスリーブC7→変速用アイドル軸8
[前進第5速]
前進第5速の場合は、前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第1変速軸12に入力される。また、前進第5速では、図6Eに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0068】
第2カップリングスリーブC2:第1変速軸12+5速ドライブギア14
第5カップリングスリーブC5:第2変速軸20+6速ドライブギア22
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第1変速軸12に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Eでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第2変速機構4側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第6速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0069】
第1変速軸12→第2カップリングスリーブC2→5速ドライブギア14→第3ドリブンギア28→変速用アイドル軸8
[前進第6速]
前進第6速の場合は、前進用クラッチF及び第2スナップクラッチSC2がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第2変速軸20に入力される。また、前進第6速では、図6Fに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0070】
第3カップリングスリーブC3:第1変速軸12+7&9速ドライブギア15
第5カップリングスリーブC5:第2変速軸20+6速ドライブギア22
第7カップリングスリーブC7:第1及び第2ドリブンギア26,27+変速用アイドル軸8
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第2変速軸20に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Fでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第1変速機構3側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第7速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0071】
第2変速軸20→第5カップリングスリーブC5→6速ドライブギア22→第3ドリブンギア28→変速用アイドル軸8
[前進第7速]
前進第7速の場合は、前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第1変速軸12に入力される。また、前進第7速では、図6Gに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0072】
第3カップリングスリーブC3:第1変速軸12+7&9速ドライブギア15
第6カップリングスリーブC6:第2変速軸20+8&10速ドライブギア23
第7カップリングスリーブC7:第1及び第2ドリブンギア26,27+変速用アイドル軸8
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第1変速軸12に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Gでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第2変速機構4側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第8速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0073】
第1変速軸12→第3カップリングスリーブC3→7&9速ドライブギア15→第1及び第2ドリブンギア26,27→第7カップリングスリーブC7→変速用アイドル軸8
[前進第8速]
前進第8速の場合は、前進用クラッチF及び第2スナップクラッチSC2がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第2変速軸20に入力される。また、前進第8速では、図6Hに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0074】
第3カップリングスリーブC3:第1変速軸12+7&9速ドライブギア15
第4カップリングスリーブC4:2&4速ドライブギア21+6速ドライブギア22
第6カップリングスリーブC6:第2変速軸20+8&10速ドライブギア23
第8カップリングスリーブC8:第4及び第5ドリブンギア29,30+変速用アイドル軸8
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第2変速軸20に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Hでは動力伝達経路を実線で示している。この場合の第1変速機構3側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第9速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0075】
第2変速軸20→第6カップリングスリーブC6→8&10速ドライブギア23→第4及び第5ドリブンギア29,30→第8カップリングスリーブC8→変速用アイドル軸8
[前進第9速]
前進第9速の場合は、前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第1変速軸12に入力される。また、前進第9速では、図6Iに示すように、各カップリングスリーブは以下の部材間をオン(連結)するように制御される。
【0076】
第1カップリングスリーブC1:1&3速ドライブギア13+5速ドライブギア14
第3カップリングスリーブC3:第1変速軸12+7&9速ドライブギア15
第4カップリングスリーブC4:2&4速ドライブギア21+6速ドライブギア22
第6カップリングスリーブC6:第2変速軸20+8&10速ドライブギア23
他のカップリングスリーブ:オフ
ここでは、第1変速軸12に入力された回転は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。図6Iでは動力伝達経路を実線で示している。また、この場合の第2変速機構4側の回転伝達経路を点線で示している。この点線で示す経路は第10速の回転伝達経路であり、プリシフトされていることを示している。
【0077】
第1変速軸12→第3カップリングスリーブC3→7&9速ドライブギア15→第1及び第2ドリブンギア26,27→2&4速ドライブギア21→第4カップリングスリーブC4→6速ドライブギア22→第3ドリブンギア28→変速用アイドル軸8
[前進第10速]
前進第10速の場合は、前進用クラッチF及び第2スナップクラッチSC2がオンされ、他のクラッチがオフされる。この場合は、前述のように、第2方向の回転が第2変速軸20に入力される。また、前進第10速では、各カップリングスリーブのオン、オフは前進第9速の場合と同様である。
【0078】
ここでは、第2変速軸20に入力された動力は、以下の経路により変速用アイドル軸8に伝達される。なお、この場合の第1変速機構3側の回転伝達経路は前進第9速の場合と同様である。
【0079】
第2変速軸20→第6カップリングスリーブC6→8&10速ドライブギア23→第4及び第5ドリブンギア29,30→1&3速ドライブギア13→第1カップリングスリーブC1→5速ドライブギア14→第3ドリブンギア28→変速用アイドル軸8
[後進第1速〜第10速]
後進の場合は、前進用クラッチFをオフし、後進用クラッチRをオンすることが前進の場合と異なる。したがって、後進の場合は、第1変速軸12及び第2変速軸20に前進とは逆方向の回転が入力されるが、各速度段でのカップリングスリーブの制御や動力の伝達経路は前進の各変速段の場合と全く同様である。
【0080】
なお、上記の動力伝達経路に関する説明では、アップシフト時のプリシフトが行われているが、ダウンシフト時にも同様にして下段の変速段にプリシフトが行われる。
【0081】
〔変速機1における動力伝達経路:出力側共通経路〕
以上のようにして各変速段において変速用アイドル軸8に出力された回転は、変速用アイドル軸8の第3ドリブンギア28に噛み合う第1出力用アイドルギア35、出力用アイドル軸9及び第2出力用アイドルギア36を介して出力ギア42に伝達され、さらに出力軸7及び出力フランジ40,41を介してアクスルに出力される。
【0082】
〔各種センサ、操作部56、制御部55〕
この建設車両100には、上述したように各種センサSN1〜11や操作部56が備えられており、これらからの信号に基づき、制御部55が各種の運転制御を行うことができる。
【0083】
具体的には、各種センサSN1〜11には、図7に示すように、入力軸回転数センサSN1、第1出力回転数センサSN2、第2出力回転数センサSN3、出力軸回転数センサSN4、スリーブ状態センサSN5、メインクラッチ油圧センサSN6、第1クラッチ油圧センサSN7、第2クラッチ油圧センサSN8、アクセル開度センサSN9、エンジン回転数センサSN10、吐出圧センサSN11などがあり、これらのセンサSN1〜SN11は、検知結果を検知信号として制御部55に送る。
【0084】
入力軸回転数センサSN1は、メインクラッチMCからの出力回転数すなわち入力軸2の回転数を検知する。
【0085】
第1出力回転数センサSN2は、第1スナップクラッチSC1からの出力回転数すなわち第1変速軸12の回転数を検知する。
【0086】
第2出力回転数センサSN3は、第2スナップクラッチSC2からの出力回転数すなわち第2変速軸20の回転数を検知する。
【0087】
出力軸回転数センサSN4は、出力軸7の回転を検知する。制御部55は、出力軸7の回転数から車速を算出することができるため、出力軸回転数センサSN4は、車速を検知する車速検知部に相当する。
【0088】
スリーブ状態センサSN5は、各カップリングスリーブC1〜C8に設けられたバレルカム(図示せず)の位相を検出することにより、各カップリングスリーブC1〜C8と、各ドライブギア13〜15,21〜23および各ドリブンギア26,27,29,30との連結状態を検知することができる。
【0089】
メインクラッチ油圧センサSN6は、メインクラッチ制御弁MCVを介してメインクラッチに供給される油圧を検知する。
【0090】
第1クラッチ油圧センサSN7は、第1クラッチ制御弁CV1を介して第1スナップクラッチSC1に供給される油圧を検知する。
【0091】
第2クラッチ油圧センサSN8は、第2クラッチ制御弁CV2を介して第2スナップクラッチSC2に供給される油圧を検知する。
【0092】
アクセル開度センサSN9は、建設車両100の運転室内に設けられたアクセルの操作量を検知する。
【0093】
エンジン回転数センサSN10は、エンジン51の回転数を検知する。
【0094】
吐出圧センサSN11は、作業機用油圧ポンプ62の吐出圧力を検出する。
【0095】
操作部56は、図示しない運転室に内装されており、方向レバー、アクセルペダル、シフトレバーなどを有している。操作部56は、オペレータによる操作内容を操作信号として制御部55に送る。
【0096】
制御部55は、上記の各種センサや上述した操作部56からの信号に基づき、エンジン51の回転数や、作業機用油圧ポンプ62の吐出量の制御を行う。また、制御部55は、メインクラッチ制御弁MCV、第1クラッチ制御弁CV1、第2クラッチ制御弁CV2に制御信号を送り、メインクラッチMC、第1スナップクラッチSC1、第2スナップクラッチSC2に供給される油圧を制御することにより、上記のような変速機1における各クラッチの連結・非連結状態の切換および、伝達トルク容量の制御を行うことができる。また、制御部55は、各カップリングスリーブC1〜C8に設けられたシフトフォークを移動させるシフトアクチュエータSA1,SA2,SA3を制御することにより、各カップリングスリーブC1〜C8の移動を制御することができる。なお、第1シフトアクチュエータSA1は、制御用油圧ポンプ64から供給される油圧によって駆動され、第1〜第3カップリングスリーブC1〜C3を移動させることができる。第2シフトアクチュエータSA2は、制御用油圧ポンプ64から供給される油圧によって駆動され、第4〜第6カップリングアクチュエータC4〜C6を移動させることができる。第3シフトアクチュエータSA3は、制御用油圧ポンプ64から供給される油圧によって駆動され、第7,第8カップリングアクチュエータC7,C8を移動させることができる。
【0097】
[プリシフトについて]
この建設車両100では、前述のように、奇数段の変速段については第1変速軸12および第1変速機構3に回転を入力し、偶数段の変速段については第2変速軸20および第2変速機構4に回転を入力するようにしている。そして、現在速度段から次の目標速度段へ変速段の切り替えを行う際に、目標変速段側を担当する変速機構においてプリシフトを行うとともに、シンクロ機構24を用いてカップリングスリーブの噛み合いがスムーズに行えるようにしている。
【0098】
このプリシフトは、複数のドライブギア13〜15,21〜23のうち現在速度段に対応するドライブギア(以下「現在変速段ギア」)と、第1変速軸12と第2変速軸20とのうち現在変速段ギアに対応する一方の変速軸(以下「現在変速軸」)とが連結され、且つ、入力軸2と現在変速軸との間で回転の伝達が可能である状態において行われる。この状態において、制御部55は、目標速度段に対応し入力軸2との間で回転の伝達が不能な状態にある他方の変速軸(以下「目標変速軸」)と、複数のドライブギア13〜15,21〜23のうち目標速度段に対応するドライブギア(以下「目標変速段ギア)とを連結するプリシフトを行う。そして、制御部55は、プリシフトを行った後に、入力軸2と現在変速軸との間で回転の伝達を不能にすると共に入力軸2と目標変速軸との間で回転の伝達を可能とすることにより変速段の切り替えを行う。
【0099】
以下、図8A〜図8Eを用いて、現在速度段である第5速から、目標速度段である第4速に変速する場合を例にとって、プリシフトおよびシンクロ機構の動作について説明する。
【0100】
第5速では、図8Aの実線で示すような経路で動力が伝達されている。この場合、第2カップリングスリーブC2によって5速ドライブギア14(現在変速段ギア)と第1変速軸12(現在変速軸)とが連結されている。また、前進用クラッチF及び第1スナップクラッチSC1がオン状態であり、入力軸2から第1変速軸12への回転の伝達が可能となっている。他のクラッチはオフ状態であり、入力軸2から第2変速軸20(目標変速軸)への回転の伝達は不能となっている。
【0101】
ここで、制御部55は、図8Bに示すように、第2変速軸20と6速ドライブギア22を連結している第5カップリングスリーブC5を中立位置に移動させる。これにより、第2変速軸20と6速ドライブギア22との連結が解除され、非連結状態となる。
【0102】
次に、制御部55は、シンクロ機構24を制御して同期化を行う。ここでは、制御部55は、図8Cに示すように、シンクロ機構24のコーンクラッチ24cを入力側に移動させて、第2変速軸20と第1シンクロギア24aとを瞬間的に連結する。このとき、第1シンクロギア24aは第1中間ギア46aに噛み合っているので、第1変速機構3側の回転は、第1中間ギア46a及び第1シンクロギア24aを介して第2変速軸20に伝達される。ここで、各変速段は、それらの段間差が一定になるように設定されており、また、その段間差は第1中間ギア46aと第1シンクロギア24aとの歯数比、あるいは第2中間ギア46bと第2シンクロギア24bとの歯数比に等しくなるように、それぞれのギアの歯数が設定されている。したがって、第5速が選択されている状態で、第5カップリングスリーブC5をオフし、シンクロ機構24を瞬間的に作動させることにより、第2変速軸20の回転数は第4速が選択された場合の回転数と同じか、それに近い回転数になる。
【0103】
以上のような同期化を行った後に、制御部55は、図8Dに示すように(シンクロ機構24は既にオフ)、第4カップリングスリーブC4を移動させて、第2変速軸20(目標変速軸)と2&4速ドライブギア21(目標変速段ギア)とを連結するプリシフトを行う。このとき、前述のようなシンクロ機構24による同期化によって、第2変速軸20の回転数が制御されているので、第4カップリングスリーブC4をスムーズに噛み合わせることができる。
【0104】
この後、制御部55は、図8Eに示すように、第1スナップクラッチSC1をオフするとともに、第2スナップクラッチSC2をオンする。これにより、入力軸2と第1変速軸12との間で回転の伝達が不能になると共に、第2変速軸20と入力軸2との間で回転の伝達が可能となり、図8Eの実線で示す経路で動力が伝達される。このようにして、第5速から第4速への速度段の切り換えが完了する。
【0105】
他の変速動作時についても、以上の動作と基本的に同様の動作によって同期化が行われ、スムーズな変速が可能となる。
【0106】
[プリシフト補助制御について]
この建設車両100では、車速がゼロである場合には、目標変速軸と複数のドライブギアとが非連結である状態で入力軸2の回転を目標変速軸に入力するプリシフト補助制御が行われた後に、上記のプリシフトが行われる。このプリシフト補助制御について、図9に示すフローチャートおよび図10に示すタイミングチャートに基づいて説明する。なお、ここでは、現在変速段として第1変速段グループに属する変速段すなわち奇数変速段が選択されており、第2変速段グループに属する変速段すなわち偶数変速段が目標変速段である場合について説明している。また、図10において、「Nout」は、出力軸回転数センサSN4が検知した出力軸7の回転数、「Nsc1」は、第1出力回転数センサSN2が検知した第1変速軸12の回転数、「Nsc2」は、第2出力回転数センサSN3が検知した第2変速軸20の回転数、「Nmc」は、入力軸回転数センサSN1が検知したメインクラッチMCからの出力回転数をそれぞれ示している。また、「Psc1」は、第1スナップクラッチSC1への供給油圧の指令値、「Psc2」は、第2スナップクラッチSC2への供給油圧の指令値をそれぞれ示している。なお、「Barrel cam」は、スリーブ状態センサSN5が検知した第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6の位相であり、各カップリングスリーブC4,C5,C6と各ドライブギア21〜23との連結状態を示している。
【0107】
まず、第1ステップS1において、Noutがゼロであるか否かが判断される。Noutがゼロである場合(図10のP1参照)は、第2ステップS2へ進む。Noutがゼロではない場合は、プリシフト補助制御は行われず、通常のプリシフトが行われる。なお、ここでNoutがゼロである場合とは、建設車両100が土砂等の障害物に突っ込んだ状態のまま移動不能となった場合や、走行中に急ブレーキをかけた場合などのように、エンジン51が駆動され、メインクラッチMCおよび第1スナップクラッチSC1がオン状態となっており、且つ、第1変速軸12がいずれかのドライブギア13〜15と連結されており、エンジン51からの回転が出力軸7に伝達可能な状態となっているのにも関わらず、出力軸7に大きな負荷が加わっていることにより、出力軸7が回転していない状態を示している。また、Noutが厳密にゼロである場合に限られず、上記のような状態を示す極小さな回転数になった場合に第2ステップS2に進むように判断されてもよい。
【0108】
第2ステップS2では、制御部55は、Psc1を徐々に低減する指令を第1クラッチ制御弁CV1に送る(図10のP2参照)。これにより、第1スナップクラッチSC1への供給油圧が徐々に低下して、第1スナップクラッチSC1の伝達トルク容量が低減される。第1スナップクラッチSC1の伝達トルク容量が低下すると、出力軸7から第1変速軸12を介して入力軸2に加わる負荷が軽減される。
【0109】
次に、第3ステップS3では、スリーブ状態センサSN5からの検知信号に基づいて、第2変速軸20に対応するカップリングスリーブすなわち第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6が中立位置にあるか否かが判断される。第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6が中立位置にない場合は、第4ステップS4において、制御部55は、第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6が中立位置に移動するように、第2シフトアクチュエータSA2に指令を送る。これにより、第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6が中立位置に移動する。第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6が中立位置にある場合(図10のP3参照)は、第5ステップS5に進む。
【0110】
第5ステップS5では、制御部55は、Psc2を増大させる信号を瞬間的に第2クラッチ制御弁CV2に送信した後、そのピークよりも小さな圧力を維持する信号を送信する(図10のP4参照)。なお、この制御は、後にPsc2を増大させるためのトリガーとなっている。
【0111】
次に、第6ステップS6において、Nmcが所定の閾値n1より大きくなったか否かが判断される。ここでは、第2ステップS2において、出力軸7から第1変速軸12を介して入力軸2に加わる負荷が軽減されたことにより、入力軸2が回転し始めたか否かが判断される。Nmcが閾値n1より大きくない場合は、第2ステップS2に戻る。Nmcが閾値n1より大きい場合(図10のP5参照)は、第7ステップS7に進む。
【0112】
第7ステップS7では、制御部55は、Psc1を制御することによって、Nmcを制御する(図10のP6参照)。ここでは、Nmcが閾値n1より大きい所定の回転数に維持されるように、Psc1が制御される。
【0113】
また、第8ステップS8において、制御部55は、Psc2を所定の圧力まで増大させる信号を第2クラッチ制御弁CV2に送信する(図10のP7参照)。これにより、第2スナップクラッチSC2への供給油圧が増大し、第2スナップクラッチSC2の伝達トルク容量が増大する。
【0114】
次に、第9ステップS9において、Nsc2が所定の閾値n2より大きいか否かが判断される。ここでは、第8ステップS8において、第2スナップクラッチSC2の伝達トルク容量が増大した結果、入力軸2の駆動力の一部が第2変速軸20に伝達されて第2変速軸20が回転し始めたか否かが判断される。Nsc2が閾値n2より大きくない場合は、第7ステップS7に戻る。Nsc2が閾値n2より大きい場合(図10のP8参照)は、第10ステップS10に進む。
【0115】
第10ステップS10では、Nsc2が閾値n2より大きくなってから所定時間Tが経過したか否かが判断される。所定時間Tが経過した場合は、第11ステップS11に進む。
【0116】
第11ステップS11では、Psc2をゼロまで下げる信号を第2クラッチ制御弁CV2に送信する(図10のP9参照)。これにより、第2スナップクラッチSC2がオフ状態となり、入力軸2から第2変速軸20への回転の伝達が不能とされる。
【0117】
次に、第12ステップS12において、制御部55は、第4〜第6カップリングスリーブC4,C5,C6のうちプリシフトの対象となる変速段に対応したカップリングスリーブが移動するように第2シフトアクチュエータSA2に信号を送信する。これにより、カップリングスリーブが移動して、対象となる変速段に対応したドライブギアと第2変速軸20とが連結される。
【0118】
第13ステップS13では、スリーブ状態センサSN5からの検知信号に基づいて、プリシフトが完了したか否かが判断される。プリシフトが完了した場合(図10のP10参照)は、第14ステップS14に進む。
【0119】
第14ステップS14では、Psc1をプリシフト補助制御開始前のセット圧Psetまで増大させる信号を第1クラッチ制御弁CV1に送信する。これにより、第1スナップクラッチSC1が完全にオン状態となり、入力軸2からの回転が第1変速軸12に完全に伝達される。
【0120】
そして、制御部55は、上記のようにプリシフト補助制御およびプリシフトが完了した後に、第1スナップクラッチSC1をオフするとともに、第2スナップクラッチSC2をオンする。これにより、第1変速段グループに属する現在変速段から、第2変速段グループに属する目標変速段への変速段の切換が完了する。
【0121】
なお、第2変速段グループに属する現在変速段から、第1変速段グループに属する目標変速段への変速段の切換が行われる場合には、上記とは逆の変速段グループに対応したスナップクラッチおよびカップリングスリーブが制御される。
【0122】
[本実施形態の効果]
この建設車両100では、建設車両100が停止して出力軸の回転数がゼロになった場合であっても、プリシフト時にカップリングスリーブと各ドライブギアとが連結不能となることが防止される。これにより、建設車両100が停止状態でも変速段の切換を行うことができる。また、低速度段からの再発進時のタイムラグを短縮化することができる。
【0123】
[他の実施形態]
(a)
前記実施形態では、前後進10段の変速段を有する変速機を例にとって説明したが、変速段数はこの実施形態に限定されるものではない。
【0124】
(b)
前前進用クラッチF、第1スナップクラッチSC1、後進用クラッチR、第2スナップクラッチSC2の配置や構造は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0125】
(c)
上記の実施形態では、出力軸回転数センサSN4が検知した出力軸7の回転数がゼロになったときにプリシフト補助制御が行われているが、車速を検知する他の車速センサが用いられ、該車速センサが検知した車速がゼロになったときにプリシフト補助制御が行われてもよい。
【0126】
また、出力軸回転数センサSN4が検知した出力軸の回転数がゼロであり、且つ、入力軸回転数センサSN1が検知したメインクラッチMCからの出力回転数がゼロである場合に、プリシフト補助制御が行われてもよい。すなわち、図9に示すプリシフト補助制御のフローチャートにおいて、閾値n1=0とされてもよい。この場合、制御部55は、出力軸からの負荷によりメインクラッチがすべっている状態を精度よく把握してプリシフト補助制御を行うことができる。なお、図9のフローチャートにおいて、ステップS6は、ステップS1の直後に実行されてもよい。
【0127】
(d)
上記の実施形態では、ホイールローダに対して本発明が適用されているが、他の建設車両に適用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】建設車両の概略構成を示すブロック図。
【図2】変速機の展開断面構成図。
【図3】前記変速機を後方から見た図。
【図4】前記変速機のスケルトンを示す図。
【図5】カップリングスリーブとドライブギアとの構成を示す概略図。
【図6A】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6B】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6C】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6D】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6E】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6F】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6G】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6H】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図6I】前記変速機の各変速段における動力伝達経路を説明するための模式図。
【図7】各種センサを示すブロック図。
【図8A】前記変速機の変速時の動作を説明するための図。
【図8B】前記変速機の変速時の動作を説明するための図。
【図8C】前記変速機の変速時の動作を説明するための図。
【図8D】前記変速機の変速時の動作を説明するための図。
【図8E】前記変速機の変速時の動作を説明するための図。
【図9】プリシフトおよびプリシフト補助制御のフローチャート。
【図10】プリシフトおよびプリシフト補助制御のタイミングチャート。
【図11】結機構側のギアと変速段ギア側の連結用のギアとの山の一部を軸方向から見た図。
【符号の説明】
【0129】
2 入力軸
3 第1変速機構
4 第2変速機構
5 クラッチ機構
7 出力軸
12 第1変速軸
13〜15,21〜23 ドライブギア(変速段ギア)
20 第2変速軸
51 エンジン
55 制御部
100 建設車両
C1〜C3 第1〜第3カップリングスリーブ(第1連結機構)
C4〜C6 第4〜第6カップリングスリーブ(第2連結機構)
SN4 出力軸回転数センサ(車速検知部)
MC メインクラッチ
SC1 第1スナップクラッチ(第1クラッチ)
SC2 第2スナップクラッチ(第2クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側からの回転が入力される入力軸と、
前記入力軸からの回転が入力される第1変速軸および第2変速軸と、
前記第1変速軸および前記第2変速軸からの回転が入力される出力軸と、
前記入力軸から前記第1変速軸への回転の伝達・非伝達および前記入力軸から前記第2変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替えるためのクラッチ機構と、
第1変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアを有し、前記第1変速軸の回転を前記第1変速段グループに属する複数の変速段の間で変速して前記出力軸に伝達するための第1変速機構と、
第2変速段グループに属する複数の変速段に対応する複数の変速段ギアを有し、前記第2変速軸の回転を前記第2変速段グループに属する複数の変速段の間で変速して前記出力軸に伝達するための第2変速機構と、
前記第1変速機構の変速段ギア側に設けられたクラッチギアとの係合・係脱によって、前記第1変速軸と前記第1変速機構の変速段ギアとの連結・非連結を切り換える第1連結機構と、
前記第2変速機構の変速段ギア側に設けられたクラッチギアとの係合・係脱によって、前記第2変速軸と前記第2変速機構の変速段ギアとの連結・非連結を切り換える第2連結機構と、
車速を検知する車速検知部と、
前記第1変速段グループと前記第2変速段グループとのうち一方の変速段グループに属する現在速度段から他方の変速段グループに属する目標速度段へ変速段の切り替えを行う際、複数の前記変速段ギアのうち前記現在速度段に対応する現在変速段ギアと、前記第1変速軸と前記第2変速軸とのうち前記現在変速段ギアに対応する一方の変速軸である現在変速軸とが連結され、且つ、前記入力軸と前記現在変速軸との間で回転の伝達が可能である状態において、前記第1変速軸と前記第2変速軸とのうち前記入力軸との間で回転の伝達が不能な状態にある他方の変速軸である目標変速軸と、複数の前記変速段ギアのうち前記目標速度段に対応する目標変速段ギアとを連結するプリシフトを行った後に、前記現在変速軸と前記入力軸との間での回転の伝達を不能にすると共に前記目標変速軸と前記入力軸との間での回転の伝達を可能にすることにより変速段の切り替えを行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記車速検知部が検知した車速がゼロである場合には、前記目標変速軸と複数の前記変速段ギアとが非連結である状態で前記入力軸の回転を前記目標変速軸に入力するプリシフト補助制御を行った後に、前記プリシフトを行う、
建設車両。
【請求項2】
エンジン側から前記入力軸への回転の伝達・非伝達を切り替えるメインクラッチをさらに備え、
前記クラッチ機構は、前記入力軸から前記第1変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える第1クラッチと、前記入力軸から前記第2変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える第2クラッチとを有し、
前記制御部は、前記プリシフト補助制御において、前記メインクラッチから前記入力軸への入力回転数がゼロになると、前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうち前記入力軸から前記現在変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える一方のクラッチの伝達トルク容量を低減させ、前記メインクラッチから前記入力軸への入力回転数が増加すると、前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうち前記入力軸から前記目標変速軸への回転の伝達・非伝達を切り替える他方のクラッチの伝達トルク容量を増大させる、
請求項1に記載の建設車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図6I】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−240937(P2008−240937A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83845(P2007−83845)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】