説明

強磁性層を有する自己参照磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セル

【課題】小さい書き込み磁界及び読み出し磁界をそれぞれ使用して書き込みされ得て読み出しされ得るMRAMセルを提供する。
【解決手段】MRAMセル1は、磁気トンネル接合2が高温閾値で加熱されるときに第1方向から第2方向に調整可能であり且つ低温閾値でピン止めされる正味の記憶磁化方向を有する記憶層23と、可逆性である正味のセンス磁化方向を有するセンス層21と、このセンス層をこの記憶層から分離するトンネル障壁層22とから構成された磁気トンネル接合を有する。記憶層23とセンス層21とのうちの少なくとも1つの層の補償温度で、その第1磁化方向とその第2磁化方向とがほぼ等しいように、記憶層23とセンス層21とのうちの少なくとも1つの層が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、その材料が、第1磁化方向を提供する3d遷移金属原子の副格子と、第2磁化方向を提供する4f希土類原子の副格子とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、低いスイッチング磁界を有するフェリ磁性センス層及び/又は記憶層を使用する自己参照磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルに関する。また、本発明は、MRAMセルが小さい書き込み磁界及び読み出し磁界をそれぞれ使用して書き込みされ得て読み出しされ得るように、MRAMセルに書き込むための方法及びMRAMセルを読み出すための自己参照方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
一般に、いわゆる自己参照読み出し操作を使用する磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルが、その方向が第1安定方向から第2安定方向に変更され得る磁化方向を有する磁気記憶層と、薄い絶縁層と、可逆性の方向を有するセンス層とから構成された磁気トンネル接合を有する。自己参照MRAMセルが、書き込み及び読み出し操作を低い電力消費と向上された速さとで実施することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ヨーロッパ特許出願第2276034号明細書
【特許文献2】ヨーロッパ特許出願公開第2232495号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、センス層の磁化方向を記憶層の磁化方向に閉じられた磁束線で結合する漂遊局所磁界に起因して、双極子カップリングが、書き込み操作中にこの記憶層とこのセンス層との間で発生する。このとき、書き込み操作中に記憶層の磁化方向を切り替えることが、当該双極子カップリングに打ち勝つために十分に高い磁界を印加することを必要とする。磁界サイクルを記憶層のヒステリシスループを測定するために印加するときに、当該双極子カップリングが、このヒステリシスループをシフト(バイアス)させる。この双極子カップリングは、記憶層とセンス層との厚さと磁化方向とに依存し且つ磁気トンネル接合のサイズに依存する。特に、双極子カップリングが、磁気トンネル接合の直径の減少と共に増大し、したがってMRAMセルを縮小するときに、大きな問題になりうる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本発明は、磁気トンネル接合に基づくランダムアクセスメモリ(MRAM)セルに関する。当該MRAMセルは、磁気トンネル接合が高温閾値で加熱されるときに第1方向から第2方向に調整可能であり且つ低温閾値でピン止めされる正味の記憶磁化方向を有する記憶層と、印加された磁界の下で可逆性であるセンス磁化方向を有するセンス層と、このセンス層をこの記憶層から分離するトンネル障壁層とから構成された磁気トンネル接合を有する。前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの層の補償温度で、その第1磁化方向とその第2磁化方向とがほぼ等しいように、前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの層が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料が、第1磁化方向を提供する3d遷移金属原子の副格子と、第2磁化方向を提供する4f希土類原子の副格子とを有する。
【0006】
一実施の形態では、前記センス層は、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成る。その第1磁化方向は、第1センス磁化方向である。その第2磁化方向は、第2センス磁化方向である。この場合、前記センス層の補償温度が、前記高温閾値にほぼ一致する。
【0007】
別の実施の形態では、前記記憶層は、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成る。その第1磁化方向は、第1記憶磁化方向である。その第2磁化方向は、第2記憶磁化方向である。この場合、前記記憶層の補償温度が、前記低温閾値にほぼ一致する。
【0008】
さらに別の実施の形態では、前記センス層は、第1磁化方向と第2磁化方向とを提供する3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成る。前記記憶層は、第1磁化方向と第2磁化方向とを提供する3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成る。この記憶層の補償温度が、このセンス層の補償温度より大きい。
【0009】
さらに別の実施の形態では、前記記憶層の前記補償温度は、前記低温閾値にほぼ一致する。前記センス層の前記補償温度は、前記高温閾値にほぼ一致する。
【0010】
さらに別の実施の形態では、前記補償温度は、前記3d遷移金属の副格子〜前記4f希土類の副格子の相対組成にしたがって調整され得る。
【0011】
さらに別の実施の形態では、前記フェリ磁性材料は、Gd、Sm又はTbを伴うCo又はFeを含有する合金から成る。
【0012】
また、本発明は、MRAMセルに書き込むための方法に関する。当該方法は:
前記磁気トンネル接合を前記高温閾値に加熱し、
前記磁気トンネル接合が、前記高温閾値に達すると、データを前記記憶層に書き込むため、この記憶層の磁化方向を切り替えることから成る。
【0013】
前記高温閾値が、前記補償温度にほぼ一致する。
【0014】
さらに、本発明は、MRAMセルを読み出すための方法に関する。当該方法は:
前記正味のセンス磁化方向を第1方向に整合させ、
切り替えられた前記記憶磁化方向の向きに対する前記正味のセンス磁化方向の前記第1方向によって決定される、前記磁気トンネル接合の第1抵抗を測定し、
前記正味のセンス磁化方向を第2方向に整合させ、
切り替えられた前記記憶磁化方向の向きに対する前記正味のセンス磁化方向の前記第2方向によって決定される、前記磁気トンネル接合の第2抵抗を測定し、
前記第1抵抗の値と前記第2抵抗の値との差を決定することから成る。
【0015】
前記正味のセンス磁化方向を前記第1方向と前記第2方向とに整合させることは、前記補償温度より下の読み出し温度で実行される。
【0016】
当該開示されたMRAMセルは、小さい書き込み磁界及び読み取り磁界をそれぞれ使用して書き込まれて読み出され得る。
【0017】
図面の簡単な説明
本発明は、事例によって付与され且つ図面によって示された実施の形態の説明を用いてより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施の形態による、自己参照ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルを示す。
【図2】本発明による、MRAMセル内でセンス層として使用される強磁性層の磁化方向の温度依存性を示す。
【図3】本発明による、MRAMセル内で記憶層として使用される強磁性層の磁化方向の温度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の可能な実施の形態の詳細な説明
図1は、一実施の形態による自己参照ランダムアクセスメモリ(MRAM)セル1を示す。このMRAMセル1が、磁気トンネル接合2を有する。この磁気トンネル接合2が、正味の記憶磁化方向230を有する強磁性記憶層23、正味のセンス磁化方向210を有するフェリ磁性センス層21及びこの記憶層23とこのセンス層21との間に追加されたトンネル障壁層22から構成される。層25が、金属接触電極を示す。記憶磁化方向230の方向が、熱アシストされた切り替え(TAS)書き込み操作を使用することによって第1安定方向から第2安定方向に調整可能である。換言すれば、記憶層23が、高温閾値で加熱され、低温閾値でピン止めされるときに、正味の記憶磁化方向230が調整され得る。この記憶層23は、例えば鉄−コバルト(CoFe)、鉄−コバルト−ホウ素(CoFeB)、鉄−ニッケル(NiFe)、コバルト(Co)等のような強磁性材料から製作されてもよい。図1の実施の形態では、記憶層23が、反強磁性記憶層24によって交換結合される。この反強磁性記憶層24が、正味の記憶磁化方向230を低温閾値でピン止めし、この正味の記憶磁化方向230を高温閾値で自由にするために適合されている。この反強磁性記憶層24は、IrMn、FeMn又はその他の適切な材料のようなマンガンを母材とした合金から製作され得る。一般に、当該高温閾値は、室温より上であり、例えば120°〜220°である。
【0020】
トンネル障壁層22は、好ましくはAl及びMgOを有するグループから選択された材料から製作される。磁気トンネル接合2のトンネル抵抗が、当該絶縁層の厚さに指数関数的に依存し、当該磁気トンネル接合の抵抗−面積の積(RA)によって測定される。磁気トンネル接合2(記憶層23及び反強磁性層24)の温度を上げる十分に大きい電流をこの磁気トンネル接合に通電させるためには、このRAは十分に小さい必要がある。センス層21が、低い保持力の、一般に鉄、コバルト、ニッケル又はこれらの合金を含有する軟フェリ磁性材料から製作され得る。このセンス層21の正味のセンス磁化方向210が、容易に可逆可能である。つまり、当該正味のセンス磁化方向210は、低温閾値と高温閾値とで調整され得る。
【0021】
一実施の形態によれば、当該TAS書き込み操作が:
磁気トンネル接合2を高温閾値に加熱すること、
この磁気トンネル接合2が、この高温閾値に達すると、正味の記憶磁化方向230を(データを書き込む)書き込み状態に切り替え、
この正味の記憶磁化方向230を書き込み状態に固定するため、この磁気トンネル接合2を低温閾値に冷却することから成る。
【0022】
磁気トンネル接合2を加熱することは、(図1の実施の形態中に示されたように)例えば電流線5を通じて加熱電流31を印加することから成ってもよい。高温閾値は、ブロッキング温度TBSより上の温度に相当し得る。反強磁性層24と記憶層23との間の交換結合が、当該温度で消滅し、もはやピン止めされていない正味の記憶磁化方向230が、任意に調整され得る。正味の記憶方向230を切り替えることは、外部の書き込み磁界42を印加することから成ってもよい。このとき、正味の記憶磁化方向230が、印加された磁界42の方向に応じて一方向に切り替えられる。この書き込み磁界42は、(図1の実施の形態中に示されたように)磁気トンネル接合2とやりとりする磁界線4中に書き込み電流41を通電することによって印加され得る。当該磁界線4は、一般には磁気トンネル接合2の上又は下に配置される。低温閾値は、反強磁性層24のブロッキング温度TBSより下の温度に相当する。反強磁性層24が、当該温度で正味の記憶磁化方向230をピン止めする。磁気トンネル接合2を冷却することは、例えば磁気トンネル接合2が高温閾値に達した後に、加熱電流31を抑制することから成ってもよい。
【0023】
一実施の形態では、MRAMセル1の自己参照読み出し操作が、第1読み出し磁界52の第1方向に応じて、正味のセンス磁化方向210を当該第1方向に整合させるために適合された当該第1読み出し磁界52を印加することから成る第1読み出しサイクルを有する。当該第1読み出し磁界52が、第1極性を有する第1読み出し磁界電流51を磁界線4中に通電することによって印加され得る。このとき、正味のセンス磁化方向210の第1方向が、センス電流32を磁気トンネル接合2に通電することによって(データを書き込む)正味の記憶磁化方向230と比較される。この磁気トンネル接合2に対応する第1抵抗値Rが、この磁気トンネル接合2にわたって測定された電圧を発生させる。正味のセンス磁化方向210が、記憶磁化方向230に対してほぼ平行に整合される場合は、第1抵抗値Rは小さい(R=Rmin)。他方で、正味のセンス磁化方向210が、記憶磁化方向230に対してほぼ反平行に整合される場合は、第1抵抗値Rは大きい(R=Rmax)。
【0024】
当該第1抵抗値Rが、(ヨーロッパ特許出願第2276034号明細書中に記された)一般にRminとRmaxとの間の半分である参照抵抗と比較され得る。好ましくは、MRAMセル1の読み出し操作は、第2読み出し磁界54の第2方向に応じて、正味のセンス磁化方向201を第1方向と反対の当該第2方向に整合させるために適合された当該第2読み出し磁界54を印加することから成る第2読み出しサイクルをさらに有する。この第2読み出し磁界54が、第2極性を有する第2読み出し磁界電流53を磁界線4中に通電することによって印加され得る。このとき、正味のセンス磁化方向210の第2方向が、センス電流32を磁気トンネル接合2に通電することによって切り換えられた正味の記憶磁化方向230と比較される。センス電流32が、この磁気トンネル接合2に通電されるときに、この磁気トンネル接合2に対応する第2抵抗値Rが、この磁気トンネル接合2にわたって測定された電圧を発生させる。このとき、書き込みデータが、当該第2抵抗値Rと第1読み出しサイクル中に測定された第1抵抗値Rとの差によって決定され得る。当該第1抵抗値Rと第2抵抗値Rとの差は、磁気トンネルの磁気抵抗又は磁気抵抗ΔRとも呼ばれる。当該記憶された第1抵抗値Rと当該第2抵抗値Rとの差が、負又は正の磁気抵抗ΔRを発生させ得る。
【0025】
高温閾値での書き込み操作中は、記憶層23が、反強磁性層24にもはや交換結合されず、記憶磁化方向230が自由に調整され得る。しかしながら、センス磁化方向210に起因した記憶層23とセンス層21との双極子カップリングが、この記憶層23をこのセンス層21に結合する(図示されなかった)漂遊局所磁界を誘導しうる。当該漂遊局所磁界の値に応じて、すなわち正味のセンス磁化方向210の値に応じて、記憶磁化方向230が、MRAMセル1の書き込みを抑制する当該双極子カップリングによってピン止めされうる。換言すれば、印加された書き込み磁界42の大きさが増大されない限り、当該印加された書き込み磁界42が、センス層21による記憶層23の双極子カップリングに打ち勝つことができない。
【0026】
正味の記憶磁化方向230も、記憶層23をセンス層21に結合する(図示されなかた)漂遊局所磁界を誘導しうる。読み出し操作中は、増大された大きさの、第1読み出し磁界52と第2読み出し磁界54とが、記憶磁化方向230に起因した記憶層23とセンス層21とのこの双極子カップリングのために必要とされうる。
【0027】
一実施の形態では、センス層21が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金から成る。当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金が、3d遷移金属〜4f希土類材料で適切な元素と相対組成とを選択することによって提供され得る。MRAMデバイスで使用される当該3d−4fアモルファスフェリ磁性材料が、ヨーロッパ特許出願公開第2232495号明細書中に記されている。ここで開示された当該材料は、異なる目的のためのものである。さらに特に、センス層21の3d−4fアモルファスフェリ磁性材料が、第1センス磁化方向、ここでは第1センス磁化方向211を提供する3d遷移金属の副格子と、第2磁化方向、ここでは第2センス磁化方向212を提供する4f希土類原子の副格子とから成る。したがって、センス層21の正味のセンス磁化方向210は、第1センス磁化方向211と第2センス磁化方向212とのベクトル和である。図2は、当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金から製作されたセンス層21の磁化方向の温度依存性を示す。さらに特に、この図は、3d遷移金属原子の副格子の第1センス磁化方向211の絶対値と、4f遷移金属原子の副格子の第2センス磁化方向212の絶対値とを温度の関数として示す。温度の関数としての正味のセンス磁化方向210も示されている。図2の例では、第1センス磁化方向211が、第2センス磁化方向212に対して反平行に配向されるように、3d遷移金属の副格子と4f希土類材料の副格子とのそれぞれの組成が選択されてある。センス層21の補償温度TCOMPでは、第1センス磁化方向211と第2センス磁化方向212とが、ほぼ等しい大きさで且つ反対の符号を有する。これらの条件では、第1センス磁化方向211と第2センス磁化方向212とが相殺され、その正味のセンス磁化方向210が、ほぼ零になる。
【0028】
補償温度TCOMPより下では、第2センス磁化方向212が、第1センス磁化方向211より大きくなり、正味のセンス磁化方向210が、この第2センス磁化方向212の向きに配向される。反対に、補償温度TCOMPより上では、第1センス磁化方向211が、第2センス磁化方向212より大きくなり、正味のセンス磁化方向210が、この第1センス磁化方向211の向きに配向される。温度が、センス層21のキュリー温度TCW以上に上昇されると、正味のセンス磁化方向210がほぼ零になり、センス層21が常磁性になるように、熱変動が起こる。図2中に示されたように、センス層21の保持力場Hが発生する。保持力場Hが、補償温度TCOMPで異なり、理論的には無限に増大する。補償温度TCOMPの両側では、温度が、補償温度TCOMPに近づくほど、保持力場Hが、専らより速く減少する。
【0029】
好適な実施の形態では、センス層21の補償温度TCOMPが、高温閾値にほぼ一致する。この高温閾値での書き込み操作中は、正味のセンス磁化方向210が、ほぼ零であり、センス層21による記憶層23の双極子カップリングが発生しない。結果として、正味の記憶磁化方向230が、印加された小さい大きさの書き込み磁界42を使用して容易に切り替えられ得る。
【0030】
読み出し操作が、補償温度TCOMPより下の読み出し温度Treadで実行される。この読み出し温度Treadは、低温閾値に相当する。第1読み出し磁界53及び第2読み出し磁界54が、正味の記憶磁化方向230を切り替えできないように、この正味の記憶磁化方向230が、この低温閾値で反強磁性記憶層24によってピン止めされる。当該読み出し操作中は、正味の記憶磁化方向230が、第1読み出し磁界53及び第2読み出し磁界54によって切り替えられ得ないように、この正味の記憶磁化方向230が、反強磁性記憶層24によってピン止めされる。
【0031】
好ましくは、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金が、Gd、Sm、又はTbを伴うCo又はFeを含有する合金から成る。補償温度TCOMPが、当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金の組成にしたがって調整され得る。例えば、当該補償温度TCOMPが、相対組成を3d遷移金属と4f希土類材料との間で選択することによって調整され得る。
【0032】
ここで開示されたMRAMセル1と書き込み操作方法との利点は、補償温度TCOMPでの低い又は零の漂遊磁界に起因して、記憶磁化層230が、書き込み操作中に小さい大きさの書き込み磁界42を使用して切り替えられ得る点である。さらに、正味のセンス磁化方向210が、容易に可逆可能であるので、第1読み出し磁界52と第2読み出し磁界54とが、読み出し操作中に小さくできる。
【0033】
別の実施の形態では、記憶層23が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金から成る。さらに特に、当該記憶層23の3d−4fアモルファスフェリ磁性合金が、第1磁化方向、ここでは第1記憶磁化方向231を提供する3d遷移金属原子の副格子と、第2磁化方向、ここでは第2記憶磁化方向を提供する4f希土類原子の副格子とから成る。すなわち、当該記憶層23の正味の記憶磁化方向230は、第1記憶磁化方向231と第2記憶磁化方向232とのベクトル和である。図3は、当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金から製作された記憶層23の磁化方向の温度依存性を示す。さらに特に、この図は、3d遷移金属原子の副格子の第1センス磁化方向231の絶対値と、4f遷移金属原子の副格子の第2センス磁化方向232の絶対値とを温度の関数として示す。温度の関数としての正味のセンス磁化方向230も示されている。図3の例では、第1記憶磁化方向231が、第2記憶磁化方向232に対して反平行に配向されるように、3d遷移金属の副格子と4f希土類材料の副格子とのそれぞれの組成が選択されてある。記憶層23の補償温度TCOMPでは、第1記憶磁化方向231と第2記憶磁化方向232とが、ほぼ等しい大きさで且つ反対の符号を有し、その正味の記憶磁化方向230がほぼ零になるように相殺される。
【0034】
フェリ磁性記憶層23の補償温度TCOMPが、読み出し温度Tread(又は低温閾値)にほぼ一致するように、当該フェリ磁性記憶層23の補償温度TCOMPが調整され得る。読み出し操作が、読み出し温度Tread(又は低温閾値)で実行される間は、記憶層23によるセンス層21の双極子カップリングが発生しない。結果として、正味のセンス磁化方向210が、小さい大きさの第1読み出し磁界52と第2読み出し磁界54とによって切り替えられ得る。
【0035】
さらに別の実施の形態では、センス層21と記憶層23との双方が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金から成る。この場合、センス層21が、第1センス磁化方向211と第2センス磁化方向212とから成り、記憶層23が、第1記憶磁化方向231と第2記憶磁化方向232とから成る。記憶層23の補償温度TCOMPが、センス層21の補償温度TCOMPより大きいように、記憶層23の3d−4fアモルファスフェリ磁性合金とセンス層21の3d−4fアモルファスフェリ磁性合金とが配合され得る。好適な実施の形態では、記憶層23の補償温度TCOMPが、読み出し温度Tread(又は低温閾値)にほぼ一致し、センス層21の補償温度TCOMPが、高温閾値にほぼ一致する。
【符号の説明】
【0036】
1 磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セル
2 磁気トンネル接合
21 センス層
210 正味のセンス磁化方向
211 第1センス磁化方向
212 第2センス磁化方向
22 トンネル障壁層
23 記憶層
24 反強磁性記憶層
25 電極
230 正味の記憶磁化方向
231 第1記憶磁化方向
232 第2記憶磁化方向
31 加熱電流
32 センス電流
4 磁界線
41 書き込み電流
42 書き込み磁界
5 電流線
52 第1読み出し磁界
54 第2読み出し磁界

保持力場
comp 補償温度(相殺温度)
read 読み出し温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルにおいて、
当該磁気ランダムアクセスメモリセルは、磁気トンネル接合が高温閾値で加熱されるときに第1方向から第2方向に調整可能であり且つ低温閾値でピン止めされる正味の記憶磁化方向を有する記憶層と、可逆性である正味のセンス磁化方向を有するセンス層と、このセンス層をこの記憶層から分離するトンネル障壁層とから構成された磁気トンネル接合を有し、
前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの前記層の補償温度で、その第1磁化方向とその第2磁化方向とがほぼ等しいように、前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの層が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料が、第1磁化方向を提供する3d遷移金属原子の副格子と、第2磁化方向を提供する4f希土類原子の副格子とを有する当該磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項2】
前記センス層は、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、その第1磁化方向は、第1センス磁化方向であり、その第2磁化方向は、第2センス磁化方向であり、前記センス層の補償温度が、前記高温閾値にほぼ一致する請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項3】
前記記憶層は、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、その第1磁化方向は、第1記憶磁化方向であり、その第2磁化方向は、第2記憶磁化方向であり、前記記憶層の補償温度が、前記低温閾値にほぼ一致する請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項4】
前記センス層は、第1磁化方向と第2磁化方向とを提供する3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、前記記憶層は、第1磁化方向と第2磁化方向とを提供する3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、この記憶層の補償温度が、このセンス層の補償温度より大きい請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項5】
前記記憶層の前記補償温度は、前記低温閾値にほぼ一致し、前記センス層の前記補償温度は、前記高温閾値にほぼ一致する請求項4に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項6】
前記補償温度は、前記3d遷移金属の副格子〜前記4f希土類の副格子の相対組成にしたがって調整され得る請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項7】
前記フェリ磁性材料は、Gd、Sm又はTbを伴うCo又はFeを含有する合金から成る請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項8】
磁気ランダムアクセスメモリに書き込むための方法において、
当該磁気ランダムアクセスメモリセルは、磁気トンネル接合が高温閾値で加熱されるときに第1方向から第2方向に調整可能であり且つ低温閾値でピン止めされる正味の記憶磁化方向を有する記憶層と、可逆性である正味のセンス磁化方向を有するセンス層と、このセンス層をこの記憶層から分離するトンネル障壁層とから構成された磁気トンネル接合を有し、
前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの前記層の補償温度で、その第1磁化方向とその第2磁化方向とがほぼ等しいように、前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの層が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料が、第1磁化方向を提供する3d遷移金属原子の副格子と、第2磁化方向を提供する4f希土類原子の副格子とを有し、
当該方法は、前記磁気トンネル接合を前記高温閾値に加熱すること、及び前記磁気トンネル接合が前記高温閾値に達すると、データを前記記憶層に書き込むため、この記憶層の磁化方向を切り替えることから成り、前記高温閾値が、前記補償温度にほぼ一致する当該方法。
【請求項9】
磁気ランダムアクセスメモリを読み出すための方法において、
当該磁気ランダムアクセスメモリセルは、磁気トンネル接合が高温閾値で加熱されるときに第1方向から第2方向に調整可能であり且つ低温閾値でピン止めされる正味の記憶磁化方向を有する記憶層と、可逆性である正味のセンス磁化方向を有するセンス層と、このセンス層をこの記憶層から分離するトンネル障壁層とから構成された磁気トンネル接合を有し、
前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの前記層の補償温度で、その第1磁化方向とその第2磁化方向とがほぼ等しいように、前記記憶層と前記センス層とのうちの少なくとも1つの層が、3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料から成り、当該3d−4fアモルファスフェリ磁性合金材料が、第1磁化方向を提供する3d遷移金属原子の副格子と、第2磁化方向を提供する4f希土類原子の副格子とを有し、
当該方法は、
前記正味のセンス磁化方向を第1方向に整合させること、
切り替えられた前記記憶磁化方向の向きに対する前記正味のセンス磁化方向の前記第1方向によって決定される、前記磁気トンネル接合の第1抵抗を測定すること、
前記正味のセンス磁化方向を第2方向に整合させること、
切り替えられた前記記憶磁化方向の向きに対する前記正味のセンス磁化方向の前記第2方向によって決定される、前記磁気トンネル接合の第2抵抗を測定すること、
前記第1抵抗の値と前記第2抵抗の値との差を決定することから成り、
前記正味のセンス磁化方向を前記第1方向と前記第2方向とに整合させることは、前記補償温度より下の読み出し温度で実行される当該方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−80920(P2013−80920A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−207985(P2012−207985)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【出願人】(509096201)クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム (33)
【Fターム(参考)】