説明

強誘電体薄膜

【課題】高密度のメモリデバイスとして有用な強誘電体メソ結晶を基板表面に配向して規則正しく並んだ構造の強誘電体薄膜およびその製造方法の提供。
【解決手段】各種基板上へスピンコーティングにより原料溶液を塗布(1段目、2000回転、10秒、2段目、4000回転、30秒)し、その後、大気中で熱処理して規則的に配列されたナノサイズの細孔からなる珪酸塩メソ多孔体薄膜を作製する。次に強誘電体前駆体溶液を合成し、この溶液中に珪酸塩メソ多孔体薄膜の形成された基板をつけ込み、1日静置し、取り出した後、空気中で焼成することにより珪酸塩ナノ多孔質薄膜の細孔内に強誘電体メソ結晶が充填されてなる強誘電体担持薄膜を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体結晶からなる強誘電体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体メソ結晶を基板に対して配向して規則正しく並んだ微細ドメイン構造を作成できれば、テラビット毎平方インチ級の新しいメモリデバイスなどとしての応用できることは知られている。しかしながら、従来の面方向に規則的に配列した微細ドメイン構造の強誘電体結晶の薄膜を作成する方法としては、強誘電体結晶の均一薄膜を形成後、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィーなどの光技術を応用したプロセス、いわゆる、トップダウンプロセスがあるが、このプロセスではメソ結晶サイズで配列した薄膜を作ろうとしても困難であった。また、気相成長により、メソ結晶を基板上に規則配列させる方法もあるが、複合化合物の場合には均一組成のものを形成することは難しく、汎用性がない。
【0003】
【非特許文献1】Shigemi Kohiki et al,「Large frequency dependence of lowered maximum dielectric constant temperature of LiTaO3 nanocrystals dispersed in mesoporous sillicate」,Applied Physics Letters, Vol.82,No.23,2003,JUNE,9,p4134-4135
【特許文献1】特開2003−205500号公報、特許請求の範囲、〔0011〕〜〔0015〕、〔0023〕
【非特許文献2】(1)Ogawa M.,Ishikawa H.,Kikuchi T., ”Preparation of Transparent Mesoporous Silica Films by a Rapid Solvent Evaporation Method”, J.Mater.Chem.,8, 1783-1786 (1998).(2)Ogawa M.,Kikuchi T.,”Preparation of Self-Standing Transparent Films of Silica-Surfactant Mesostructured Materials and the Conversion to Porous Silica Films”, Adv.Mater., 10, 1077-1080 (1998).
【0004】
非特許文献1、及び特許文献1には、メソポーラスシリケート中に分散した誘電体、例えばLiTaO3ナノ結晶において、最大誘電率定数温度の周波数依存性が観察されること、ナノ結晶はそのサイズが数nmであることにより数十テラビット/平方インチの記録密度を有する情報ストレージ材料の有力候補となりうることが記載されている。しかしながら、誘電体メソ結晶を基板表面に配向して規則正しく並んだ構造の誘電体薄膜を製造する技術については言及していない。また、非特許文献2には珪酸塩メソ多孔体の薄膜、六方配列したメソ多孔体の薄膜を製造する方法が記載されている。しかしながら、前記珪酸塩メソ多孔体の薄膜を誘電体メソ結晶の鋳型として利用することについては言及していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、前記高密度のメモリデバイスとして応用が考えられる強誘電体メソ結晶が基板表面に配向して規則正しく並んだ構造の薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1は、強誘電体結晶からなる強誘電体薄膜であって、規則的に配列されたナノサイズの細孔からなる珪酸塩ナノ多孔質薄膜の細孔内に強誘電体結晶が充填されてなることを特徴とする強誘電体薄膜
【0007】
発明2は、発明1の強誘電体薄膜において、前記強誘電体結晶がBaTiO、BiTi12、LiTaO又はLiNbOのメソ結晶であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
発明の効果として、特に注目されている強誘電性不揮発メモリー材料を規則正しく配列したSiO2メソ孔中に形成しているため、高密度、低電圧作動、書き込み後に元の状態に復元しないこと、ドットの一体化がし難いことが期待される構造材料が提供されたこと、及び前記材料が比較的簡単な方法により、安定に提供できたことを挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明をより詳細に説明する。
A.均一なナノサイズの規則的に配列した細孔が形成された薄膜は、ケイ素の、メトキシ、エトキシ、i−プロポキシなどのアルコキシド、界面活性剤、水、アルコール、酸などの触媒からなる出発溶液の組成、特に界面活性剤の種類により、細孔の径を制御することができる。
B.ソル−ゲル法により作られる材料は、最終製品に含まれる金属が単独の場合には安定的組成のものが得られるが、複数金属を含む強誘電体の結晶を生成させるためには原料に用いる金属を供給する化合物(複合アルコキシドなどの金属有機化合物)を選択する必要がある。
本発明においては、前記A.で得られた細孔を鋳型として化学量論量組成の強誘電体の微結晶が形成できるように、金属アルコキシド又は金属アセチルアセトナトを前記鋳型に吸収させるソルを調製する原料として用いた。
生成される強誘電体材料としては、BaTiO3、SrBa2Ta2O9、Bi4Ti3O12、LiTaO3及びLiNbO3などを挙げることができる。
【実施例1】
【0010】
強誘電体特性評価測定機器
誘電率の周波数依存性(インピーダンスアナライザ4192A, YHP)
誘電率の温度依存性(インピーダンスアナライザ4192A, YHP)
FE−SEM像(JSM-6320F,日本電子)
X線回折パターン(ガイガーフレックス2013,理学電機)
【0011】
本発明の実施例1を具体的に示す。
A.各種基板上への珪酸塩メソ多孔体薄膜の作製
1.テトラエチルオルソシリケート(TEOS)4.003g、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成製、商品名I−0453)0.533g、水4.020g、12N 塩酸0.125g、エタノール45.89gを混合撹拌して,原料溶液を合成した。
2.各種基板上(石英ガラス、硼珪酸ガラス、マグネシア、サファイア、Pt/Ti/SiO2/Siシリコンウエハー)に,2段階のスピンコーティングにより溶液を塗布(1段目、2000回転、10秒、2段目、4000回転、30秒)した。その後、600℃、1分間、大気中で熱処理した。スピンコートと焼成を5回繰り返して珪酸塩メソ多孔体薄膜を作製した。得られた珪酸塩メソ多孔体薄膜のX線回折パターンを図1に示す。約2.8nmの周期構造を示している。また、Pt上に形成された薄膜の断面FE−SEM像を図2に示す。
【0012】
B.前記A.で作成した薄膜の珪酸塩メソ多孔中にタンタル酸リチウム(LiTaO3)メソ結晶を生成・担持させた強誘電体薄膜の作製
金属リチウムを溶解したエタノール溶液にタンタルエトキシド(Ta(OEt)5)を溶解し、組成がLi/Ta=1.0(モル比)で、0.1mol/kgの濃度のLi−Ta前駆体溶液を合成した。この溶液中に先に作製した珪酸塩メソ多孔体薄膜の形成された基板をつけ込み、1日静置した。取り出した後、600℃、5分間、空気中で焼成してLiTaO3結晶担持薄膜を作製した。珪酸塩メソ多孔体薄膜のメソ孔は周期2.8nm、壁厚約1nmであり、その中に1.8nmφ程度のLiTaO3メソ結晶が生成した。
また、図3は、比誘電率の周波数(Hz)依存性を測定したデータを示し、本発明のLiTaO3結晶担持薄膜(△)は前記非特許文献1に示すLiTaO3担持粉体を用いた試料(○)より高い誘電率を示した。このことは、本発明のLiTaO3結晶担持薄膜が高密度の強誘電性不揮発メモリー材料としてより適していることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明で得られた強誘電体材料の薄膜は、高密度のメモリー材料として有望であり、前記材料の活用例として、FE−RAMに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の珪酸塩メソ多孔体薄膜のX線回折パターンである
【図2】実施例1の珪酸塩メソ多孔体薄膜のFE−SEM像である
【図3】本発明のLiTaO3結晶担持薄膜の比誘電率の周波数(Hz)依存性の測定結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体結晶からなる強誘電体薄膜であって、規則的に配列されたナノサイズの細孔からなる珪酸塩ナノ多孔質薄膜の細孔内に強誘電体結晶が充填されてなることを特徴とする強誘電体薄膜
【請求項2】
請求項1に記載の強誘電体薄膜において、前記強誘電体結晶がBaTiO、BiTi12、LiTaO又はLiNbOのメソ結晶であることを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−214180(P2008−214180A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29848(P2008−29848)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【分割の表示】特願2003−390498(P2003−390498)の分割
【原出願日】平成15年11月20日(2003.11.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2003年8月30日 社団法人 応用物理学会発行の「2003年(平成15年)秋季 第64回応用物理学会学術講演会講演予稿集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】