説明

強靭なダイヤモンド及びその製法

マイクロ波プラズマ化学蒸着により成長した単結晶ダイヤモンドは、50〜90 GPaの硬さおよび11〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有する。単結晶ダイヤモンドを成長させる方法は、ホルダーに種晶ダイヤモンドを入れ、単結晶ダイヤモンドが11〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有するように約1000℃から約1100℃の温度で単結晶ダイヤモンドを成長させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照により本明細書に含めるものとする2003年7月14日に申請された特許仮出願番号第60/486,435号の恩恵を主張する。
【0002】
政府の権益の記述
本発明は、国立科学財団(National Science Foundation)からの付与番号EAR−0135626のもとに米国政府の支持を受けて為された。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、ダイヤモンド、更に詳しくは蒸着チャンバー内でマイクロ波プラズマ化学蒸着(MPCVD)を用いて製造された強靭なダイヤモンドに関する。
【背景技術】
【0004】
合成ダイヤモンドの大規模な製造は、長らく、研究および工業の両方の目標であった。ダイヤモンドは、その宝石特性に加えて、最も硬い公知の物質であり、最も高い公知の熱伝導率を有し、そして種々の電磁放射線を通す。宝石としてのその価値に加えて、多数の産業におけるその広い応用範囲故にそれは価値がある。しかしながら、ダイヤモンドは、多くの応用、例えば高衝撃工作機械にとってそれを不適切なものにする低い破壊靱性(fracture toughness)を有する場合がある。
【0005】
少なくともこの20年間、化学蒸着(CVD)による少量のダイヤモンドを製造する方法があった。"ダイヤモンドおよび他の表面上のダイヤモンドの気相成長(Vapor Growth of Diamond on Diamond and Other Surfaces)," Journal of Crystal Growth, vol. 52, pp. 219-226 においてB. V. Spitsyn により報告されたように、その方法は、減圧下で800〜1200℃の温度にてメタンまたは他の単純な炭化水素ガスおよび水素ガスの組合せを用いることによる基板上のダイヤモンドのCVDを含む。水素ガスの包含は、ダイヤモンドが核生成し成長する時、黒鉛の形成を妨げる。1μm/時までの成長速度が、この方法で報告されている。
【0006】
次の研究、例えば"マイクロ波プラズマ中の気相によるダイヤモンド合成(Diamond Synthesis from Gas Phase in Microwave Plasma)," Journal of Crystal Growth, vol. 62, pp. 642-644 に報告されたようなカモ等のそれは、2.45GHzの周波数で300〜700Wのマイクロ波電力を用い800〜1000℃の温度にて1〜8Kpaの圧でダイヤモンドを製造するマイクロ波プラズマ化学蒸着(MPCVD)の使用を示した。1〜3%の濃度のメタンガスが、カモ等の方法に用いられた。3μm/時の最大成長速度が、このMPCVD法を用いて報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の方法および多数のより最近報告された方法において、ダイヤモンドの破壊靱性は、ある場合には天然のダイヤモンドより良好である。特に、単に多結晶形態のダイヤモンドを製造する又は成長させる更に高い成長速度のプロセスが、天然のダイヤモンドより高い破壊靱性を有するダイヤモンドを製造することが知られている。焼なましされているいくつかの高圧高圧(HPHT)合成ダイヤモンド以外のほとんどのダイヤモンドは、11 MPa m1/2未満の破壊靱性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明は、関連技術の制限および欠点による一つ以上の問題を実質的に回避するダイヤモンドを製造するための装置および方法に向けられる。
【0009】
本発明の目的は、マイクロ波プラズマ化学蒸着システムによる増大した破壊靱性を有するダイヤモンドを製造する装置および方法に関する。
【0010】
本発明の更なる特徴および効果(advantages)は、部分的には後に続く説明にて述べられており、そして部分的にはその説明から明白である、または本発明の実施により知ることができる。本発明の目的および他の効果は、ここに記載された説明および請求項にて特に指摘される構成により理解され、また達成される。
【0011】
これら及び他の有利性を達成するために、具体的に示され広く述べられる本発明の目的に従い、マイクロ波プラズマ化学蒸着により成長した単結晶ダイヤモンドは、50〜90 GPaの硬さ(hardness)および15〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有する。
【0012】
別の態様において、単結晶ダイヤモンドは、18〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有する。
【0013】
本発明の別の態様によれば、単結晶ダイヤモンドを成長させる方法は、ホルダーに種晶ダイヤモンドを入れ、単結晶ダイヤモンドが11〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有するように約1000℃から約1100℃の温度で単結晶ダイヤモンドを成長させることを含む。
【0014】
前記一般的説明および次に示す本発明の詳細な説明の両方が、例示的かつ説明的で、請求項に記載の本発明の更なる説明を提供することを意図していることが理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
そこで、本発明の好ましい態様に詳細に言及するが、それらの結果は、添付図面に示されている。
【0016】
本明細書で述べているマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドは、参照により本明細書に含めるものとする“ダイヤモンド製造のための装置および方法(Apparatus and Method for Diamond Production)”と題する2002年11月6日に申請された米国特許出願番号第10/288,499号で述べられた装置を用いて成長させた。一般に、種晶ダイヤモンドを、種晶ダイヤモンド/ダイヤモンドが成長するにつれ成長したダイヤモンドを動かすホルダーに入れる。本明細書の発明者等は、米国特許出願番号第10/288,499号における発明者等でもある。
【0017】
1ミリメートルを越える厚さを有するマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドを、Ib型{100}合成ダイヤモンド上に蒸着させた。成長速度を増大させ(50〜150μm/h)、平滑{100}面成長を促進するために、単結晶ダイヤモンドを、CVDチャンバー内のマイクロ波誘導プラズマによりN2/CH4=0.2〜5.0%、CH4/H2=12〜20%の雰囲気下で120〜220トールの総合圧および900〜1500℃で成長させた。ラマンスペクトルは、<950℃および>1400℃で褐色ダイヤモンドができる原因になる少量の水素化無定形炭素(a−C:H)4および窒素含有a−C:H(N:a−C:H)4を示す。光ルミネセンス(PL)スペクトルは、窒素−空格子点(vacancy)(N−V)不純物を示す。厚さが4.5mmまでの単結晶ダイヤモンドは、従来の多結晶CVD成長法よりも2けたほど大きい成長速度で製造されてきた。
【0018】
図1は、ダイヤモンドの硬さおよび破壊靱性を試験するための圧子の図形である。ビッカース硬さおよび破壊靱性試験を、マイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドに関し、図1に示す圧子1を用いて実施した。図1における圧子1は、台3上に位置する突き当て物質2を有する。突き当て物質2は、炭化ケイ素、ダイヤモンドまたは他の硬い物質であってもよい。突き当て物質は、角錐形ビッカース圧子の複数の面の形状が136°の角度を有する角錐形ビッカース圧子形状の概観を有する。
【0019】
圧子は、試験ダイヤモンド2にくぼみ又は割れ目が形成されるまで、試験ダイヤモンド2に点荷重をかける。圧子の弾性変形を防止するため、試験ダイヤモンドの<100>方向における{100}面上の荷重を1から3kgまで変えた。図2は、マイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドにできたくぼみの写真である。くぼみ及び割れ目の寸法は、光学顕微鏡検査を介して測定されるくぼみと関係している。
【0020】
くぼみの長さDおよび高さhを測定することにより、試験ダイヤモンドの硬さHVは、以下の式(1):
(1):HV=1.854xP/D2
から決定することができる。Pは、試験ダイヤモンドにくぼみを形成するために圧子上に用いられる最大荷重である。Dは、図1に示すように試験ダイヤモンドにおける圧子により形成された最も長い割れ目の長さであり、そしてhは、試験ダイヤモンド中のくぼみの深さである。
【0021】
試験ダイヤモンドの破壊靱性KCは、以下の式(2):
(2):KC=(0.016±0.004)(E/HV1/2(P/C3/2
に式(1)より硬さHVを用いることにより決定することができる。Eは、ヤング率であり、1000 GPaであると推定される。Pは、試験ダイヤモンドにくぼみを形成するために圧子上に用いられる最大荷重である。用語dは、d=(d1+d2)/2のような図2に示す試験ダイヤモンドのくぼみ空洞の平均の長さである。用語cは、c=(c1+c2)/2のような図2に示す試験ダイヤモンドの放射状割れ目の平均の長さである。
【0022】
図3は、IIa型天然ダイヤモンドと比較したマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドの硬さおよび靱性を示す図である。図3に示すマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドは、高い成長速度を達成するように約1300℃の温度で成長させた。図3に示すように、マイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドは、天然のIIaダイヤモンドと相対して6〜18 MPa m1/2のずっと高い破壊靱性を有する。ほとんどのマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドは、図3において点を打った四角10により示されるIIa型天然ダイヤモンドの破壊靱性の報告された範囲、および図3において点を打った四角20により示される多結晶CVDダイヤモンドの破壊靱性の報告された範囲よりも高い破壊靱性を有する。図3に示すマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドは、50〜90 GPaの硬さと共に11〜18 MPa m1/2の破壊靱性を有する。
【0023】
図3に示すマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドの破壊靱性における差異は、処理温度と幾分相互関係があると考えられる。よって、本発明者等は、特定の処理温度範囲内で更なるマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドを成長させた。言い換えると、種晶ダイヤモンドをホルダーに入れ、単結晶ダイヤモンドを、明記した処理温度範囲内で成長させた。次いで、これらの更なるマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドを、同じ硬さおよび破壊靱性試験に供した。
【0024】
図4は、IIa型天然ダイヤモンドと比較した、異なる温度で形成したマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドの硬さおよび靱性を示す図である。更に詳しくは、図4は、1300℃超、1150℃〜1250℃、および1000℃〜1100℃でそれぞれ形成されるマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドの硬さおよび靱性を示す。図4に示すように、1000℃〜1100℃で成長したマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドは、60〜70 GPaの硬さと共に約18〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有する。
【0025】
単結晶ダイヤモンドの成長速度は、より緩慢であるが、1000℃〜1100℃で18〜20 MPa m1/2の高い破壊靱性を有する単結晶ダイヤモンドを製造することができる。他のダイヤモンドは、合成または天然に関わらず、このような高い破壊靱性を有すると報告されていない。更に、より高い温度例えば1150℃〜1350℃で成長したダイヤモンドは、必ずしも高い破壊靱性を達成できるとは限らないが、このようなダイヤモンドを他の目的にとって有用なものにする高い硬さを有する傾向がある。
【0026】
本発明はその精神または不可欠な特性から逸脱することなくいくつかの形態で実施することができることから、上述の実施態様は特に断らない限り前記の説明の細部により制限されないことはやはり理解されるべきであり、むしろ付記する請求項で定義されるその精神および範囲内でひろく解釈されるべきであり、従って、請求項の境界および範囲、またはこのような境界および範囲と同等なものの内側にある全ての変更および改変は、従って付記する請求項により包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
付随する図面は、本発明の更なる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み入れられその一部を構成しているが、本発明の態様を具体的に説明し、記述と合せて本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図1】図1は、ダイヤモンドの硬さおよび破壊靱性を試験するための圧子の図形である。
【図2】図2は、マイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドにできたくぼみの写真である。
【図3】図3は、IIa型天然ダイヤモンドと比較したマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドの硬さおよび靱性を示す図である。
【図4】図4は、IIa型天然ダイヤモンドと比較した、異なる温度で形成したマイクロ波プラズマCVD成長単結晶ダイヤモンドの硬さおよび靱性を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1:圧子
2:突き当て物質
3:台3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50〜90 GPaの硬さおよび11〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有するマイクロ波プラズマ化学蒸着により成長した単結晶ダイヤモンド。
【請求項2】
破壊靱性が18〜20 MPa m1/2である、請求項1の単結晶ダイヤモンド。
【請求項3】
硬さが60〜70 GPaである、請求項1の単結晶ダイヤモンド。
【請求項4】
硬さがHV=1.854xP/D2の式(式中、Pは、単結晶ダイヤモンドにくぼみを形成するために圧子上に用いられる最大荷重であり、Dは、単結晶ダイヤモンドにおける圧子により形成された最も長い割れ目の長さであり、そしてhは、単結晶ダイヤモンド中のくぼみの深さである)により決定される、請求項1の単結晶ダイヤモンド。
【請求項5】
単結晶ダイヤモンドの破壊靱性Kcが、Kc=(0.016±0.004)(E/HV1/2(P/C3/2)の式(式中、Eは、ダイヤモンドのヤング率であり、dは、単結晶ダイヤモンドのくぼみ空洞の平均の長さであり、そしてcは、単結晶ダイヤモンドの放射状割れ目の平均の長さである)により決定される、請求項4の単結晶ダイヤモンド。
【請求項6】
18〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有する単結晶ダイヤモンド。
【請求項7】
60〜70 GPaの硬さを有する、請求項6の単結晶ダイヤモンド。
【請求項8】
硬さがHV=1.854xP/D2の式(式中、Pは、単結晶ダイヤモンドにくぼみを形成するために圧子上に用いられる最大荷重であり、Dは、単結晶ダイヤモンドにおける圧子により形成された最も長い割れ目の長さであり、そしてhは、単結晶ダイヤモンド中のくぼみの深さである)により決定される、請求項6の単結晶ダイヤモンド。
【請求項9】
単結晶ダイヤモンドの破壊靱性KCが、KC=(0.016±0.004)(E/HV1/2(P/C3/2)の式(式中、Eは、ダイヤモンドのヤング率であり、dは、単結晶ダイヤモンドのくぼみ空洞の平均の長さであり、そしてcは、単結晶ダイヤモンドの放射状割れ目の平均の長さである)により決定される、請求項8の単結晶ダイヤモンド。
【請求項10】
ホルダーに種晶ダイヤモンドを入れ、単結晶ダイヤモンドが11〜20 MPa m1/2の破壊靱性を有するように約1000℃から約1100℃の温度で単結晶ダイヤモンドを成長させることを含む、単結晶ダイヤモンドを成長させる方法。
【請求項11】
単結晶ダイヤモンドを成長させるのにマイクロ波プラズマ化学蒸着を含む、請求項10の方法。
【請求項12】
単結晶ダイヤモンドの成長が120〜220トールの総合圧でN2/CH4=0.2〜5.0%およびCH4/H2=12〜20%の雰囲気下にて起きる、請求項10の方法。
【請求項13】
単結晶ダイヤモンドの成長が60〜70 GPaの硬さを有する単結晶ダイヤモンドに帰する、請求項10の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−531679(P2007−531679A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520303(P2006−520303)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/022610
【国際公開番号】WO2005/007935
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(500026234)カーネギー インスチチューション オブ ワシントン (25)
【Fターム(参考)】