説明

後処理バーナシステムの暖機方法

【課題】バーナの雰囲気温度が低い条件下で走行してもバーナと燃料タンクとの間を繋ぐフィード配管とリターン配管とに凍結が生じないようにする。
【解決手段】排気管11の途中に装備したパティキュレートフィルタ12(排気浄化材)の上流にバーナ14を設け、該バーナ14の燃焼により前記パティキュレートフィルタ12を加熱し得るようにした後処理バーナシステムの暖機方法に関し、バーナ14の雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下で前記バーナ14の燃料噴霧を担う電磁弁式のインジェクタ15に対し燃料供給を停止した状態で通電を行い、インジェクタ15内部の電磁コイルに通電によるジュール熱を発生させて暖機を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後処理バーナシステムの暖機方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼルエンジンにおいては、排気ガスが流通する排気管の途中にパティキュレートフィルタを装備し、該パティキュレートフィルタを通して排気ガス中に含まれるパティキュレート(Particulate Matter:粒子状物質)を捕集するようにしているが、通常のディーゼルエンジンの運転状態においては、パティキュレートが自己燃焼するほどの高い排気温度が得られる機会が少ないため、PtやPd等を活性種とする酸化触媒をパティキュレートフィルタに一体的に担持させるようにしている。
【0003】
即ち、このような酸化触媒を担持させたパティキュレートフィルタを採用すれば、捕集されたパティキュレートの酸化反応が促進されて着火温度が低下し、従来より低い排気温度でもパティキュレートを燃焼除去することが可能となる。
【0004】
ただし、斯かるパティキュレートフィルタを採用した場合であっても、排気温度の低い運転領域では、パティキュレートの処理量よりも捕集量が上まわってしまうので、このような低い排気温度での運転状態が続くと、パティキュレートフィルタの再生が良好に進まずに該パティキュレートフィルタが過捕集状態に陥る虞れがある。
【0005】
そこで、パティキュレートフィルタの前段にフロースルー型の酸化触媒を付帯装備させ、パティキュレートの堆積量が増加してきた段階で前記酸化触媒より上流の排気ガス中に燃料を添加してパティキュレートフィルタを強制再生することが考えられている。
【0006】
つまり、酸化触媒より上流の排気ガス中に燃料を添加すれば、その添加燃料(HC)が前段の酸化触媒を通過する間に酸化反応するので、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により直後のパティキュレートフィルタの触媒床温度が上げられてパティキュレートが燃やし尽くされ、パティキュレートフィルタの再生化が図られることになる。
【0007】
ただし、渋滞路ばかりを走行する都市部の路線バス等のように排気温度の低い運転状態が長く続く運行形態の車輌にあっては、前段の酸化触媒が十分な触媒活性を発揮し得る触媒床温度まで昇温し難く、該酸化触媒における添加燃料の酸化反応が活発化してこないため、パティキュレートフィルタを短時間のうちに効率良く再生することができないという問題があった。
【0008】
このため、近年においては、パティキュレートフィルタの入側にバーナを設け、車輌の運転状態に拘わらず前記バーナの燃焼により捕集済みパティキュレートを焼却し、パティキュレートフィルタを短時間のうちに効率良く再生させることが検討されている。
【0009】
尚、この種の排気浄化触媒や排気ガスをバーナを用いて加熱する技術に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1や特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−86845号公報
【特許文献2】特開平6−167212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、寒冷地等における冷間始動時において、直ぐにパティキュレートフィルタの強制再生を行いたい場合や、パティキュレートフィルタの下流側に配置される各種触媒(尿素水やHCを還元剤としてNOxを還元浄化する選択還元型触媒等)の床温度を上げて活性化を促したい場合に、冷え切った状態のバーナで燃焼を開始しようとしても、インジェクタ内部における燃料が冷えて粘度の高い状態となっているため、燃料噴霧が良好に微粒化されず、着火が不安定になるという不具合があった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、冷間始動時にバーナを暖機して着火の安定性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、排気管の途中に装備した排気浄化材の上流にバーナを設け、該バーナの燃焼により前記排気浄化材を加熱し得るようにした後処理バーナシステムの暖機方法であって、バーナの雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下で前記バーナの燃料噴霧を担う電磁弁式のインジェクタに対し燃料供給を停止した状態で通電を行い、インジェクタ内部の電磁コイルに通電によるジュール熱を発生させて暖機を行うことを特徴とするものである。
【0014】
而して、このようにすれば、寒冷地等における冷間始動時にバーナが冷え切った状態となっていても、バーナの雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下でインジェクタに対し通電が成され、該通電によりインジェクタ内部の電磁コイルがジュール熱を発生し、これによりインジェクタ内部の燃料が加熱されて粘度が低下するので、燃料噴霧が良好に微粒化されて着火の安定性が大幅に向上されることになる。
【0015】
尚、電磁コイルに通電してバーナを暖機するにあたっては、燃料供給を停止した状態で行うようにしているので、電磁コイルが通電により励磁してインジェクタ内部の燃料回路が切り替わってもインジェクタから燃料が噴霧されることはない。
【0016】
更に、本発明の方法においては、インジェクタに対する通電時間をバーナの雰囲気温度に応じて変更することが好ましく、このようにすれば、バーナの雰囲気温度が低いほどインジェクタに対する通電時間が長くなるようにしてジュール熱の発生量を増やすことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
上記した本発明の後処理バーナシステムの暖機方法によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0018】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、バーナの雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下でインジェクタに対し通電を行い、該通電によりインジェクタ内部の電磁コイルにジュール熱を発生させ、インジェクタ内部の燃料を加熱して粘度を低下させることができるので、寒冷地等における冷間始動時にバーナが冷え切った状態となっていても、燃料噴霧を良好に微粒化することができて着火の安定性を大幅に改善することができる。
【0019】
(II)本発明の請求項1に記載の発明によれば、冷間始動時にバーナを暖機するにあたり、特殊な付帯設備を新たに増設する必要がなく、インジェクタ内部に既設の電磁コイルに通電することによるジュール熱を利用してバーナの暖機を行うことができるので、極めて安価なコストで実施することができる。
【0020】
(III)本発明の請求項2に記載の発明によれば、バーナの雰囲気温度が低いほどインジェクタに対する通電時間が長くなるようにしてジュール熱の発生量を増やすことができるので、より確実にバーナを暖機して着火の安定性を改善することができると共に、過剰な通電を極力回避して該通電に要する消費電力を必要最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用する後処理バーナシステムの基本構成を示す概略図である。
【図2】図1の制御装置で行われる制御手順を説明するフローチャートである。
【図3】図2のバーナ暖機処理に関する詳細な制御手順を示すフローチャートである。
【図4】バーナの雰囲気温度と通電時間との関係を示すグラフである。
【図5】図2のバーナ作動処理に関する詳細な制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1〜図5は本発明を適用する後処理バーナシステムの基本構成を示すもので、図1中における符号1はターボチャージャ2を装備したディーゼルエンジンを示しており、エアクリーナ3から導かれた吸気4が吸気管5を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへと送られ、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4がインタークーラ6へと送られて冷却され、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へと吸気4が導かれてディーゼルエンジン1の各気筒8(図1では直列6気筒の場合を例示している)に分配されるようになっており、また、前記ディーゼルエンジン1の各気筒8から排出された排気ガス9は、排気マニホールド10を介しターボチャージャ2のタービン2bへと送られ、該タービン2bを駆動した後に排気管11へと送り出されるようになっている。
【0024】
そして、前記排気管11の途中に、酸化触媒を一体的に担持したパティキュレートフィルタ12(排気浄化材)がマフラ13に抱持されて装備されていると共に、該パティキュレートフィルタ12の前段には、適量の燃料を噴射して着火燃焼せしめるバーナ14が装備されている。
【0025】
このバーナ14には、該バーナ14の燃料噴霧を担う電磁弁式のインジェクタ15と、その噴射口から噴射された燃料に点火するための点火プラグ16と、火炎温度を検出する温度センサ17とが備えられているが、この温度センサ17は、バーナ14の非燃焼時にあってもバーナ14の雰囲気温度を検出するようになっており、その検出信号17aはエンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置18に入力されるようになっている。
【0026】
そして、前記制御装置18においては、前記検出信号17aに基づいて把握されるバーナ14の雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下で、前記インジェクタ15へ向け作動を指令する作動信号15aが出力されるようになっており、より具体的には、前記インジェクタ15に対して通電が成されるようになっている。
【0027】
この際、インジェクタ15に燃料を供給する燃料ポンプ19には、該燃料ポンプ19の作動を指令する作動信号19aが出力されないようにしてあり、より具体的には、前記燃料ポンプ19に対する通電が遮断されるようになっている。
【0028】
尚、通常のバーナ14の作動状態にあっては、前記燃料ポンプ19に対し作動を指令する作動信号19aが出力されると共に、前記点火プラグ16に対しスパークを指令する点火信号16aが出力され、更には、ターボチャージャ2のコンプレッサ2aの下流から吸気4の一部を抜き出して燃焼用空気としてバーナ14に導く燃焼用空気供給管20の燃焼エアバルブ21に対し開弁動作を指令する開弁信号21aが出力された上で、前記インジェクタ15へ向け作動を指令する作動信号15aが出力されるようになっている。
【0029】
図2は前記制御装置で行われる制御手順をフローチャートで説明したものであり、バーナ14の作動要求が生じた時に、温度センサ17により検出されるバーナ14の雰囲気温度が0℃を下まわっているか否かが判定され、0℃を下まわっている場合には、バーナ暖機処理が選択され、その処理後に再び雰囲気温度の判定が行われるようになっており、バーナ14の雰囲気温度が0℃以上の場合には、通常のバーナ作動処理が選択されるようになっている。尚、ここではバーナ暖機処理への移行を判定する閾値を0℃として説明しているが、この閾値を0℃以外の任意の温度で設定し得ることは勿論である。
【0030】
図3は図2のフローチャートにおけるバーナ暖機処理に関する詳細な制御手順を示したもので、先ずインジェクタ15の通電が開始されると、雰囲気温度に応じた通電時間が図4の如き制御マップから読み出され、その読み出された通電時間が経過するのを待ってインジェクタ15の通電が終了し、これによりバーナ暖機処理が終了されるようになっている。
【0031】
因みに図5は図2のフローチャートにおける通常のバーナ作動処理に関する詳細な制御手順を示したもので、このような通常のバーナ14の作動の制御においては、燃料ポンプ19の作動、点火プラグ16のスパークの開始、燃焼用空気供給管20の燃焼エアバルブ21の開弁動作が夫々実行された上でインジェクタ15の制御が開始され、バーナ14の着火制御、パティキュレートフィルタ12を強制再生するための再生制御、或いは、その下流側に配置される各種触媒(尿素水やHCを還元剤としてNOxを還元浄化する選択還元型触媒等)の床温度を上げて活性化を促すための昇温制御が実施され、その再生条件又は昇温条件がクリアされた時にバーナ作動処理が終了されるようになっている。
【0032】
而して、このような制御手順でバーナ14を制御すれば、寒冷地等における冷間始動時にバーナ14が冷え切った状態となっていても、温度センサ17により検出されるバーナ14の雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下でインジェクタ15に対し通電が成され、該通電によりインジェクタ15内部の電磁コイルがジュール熱を発生し、これによりインジェクタ15内部の燃料が加熱されて粘度が低下するので、燃料噴霧が良好に微粒化されて着火の安定性が大幅に向上されることになる。
【0033】
尚、電磁コイルに通電してバーナ14を暖機するにあたっては、燃料ポンプ19に対し作動を指令する作動信号19aを出力しないようにして、燃料供給を停止した状態で行うようにしているので、電磁コイルが通電により励磁してインジェクタ15内部の燃料回路が切り替わってもインジェクタ15から燃料が噴霧されることはない。
【0034】
従って、上記形態例によれば、バーナ14の雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下でインジェクタ15に対し通電を行い、該通電によりインジェクタ15内部の電磁コイルにジュール熱を発生させ、インジェクタ15内部の燃料を加熱して粘度を低下させることができるので、寒冷地等における冷間始動時にバーナ14が冷え切った状態となっていても、燃料噴霧を良好に微粒化することができて着火の安定性を大幅に改善することができる。
【0035】
また、冷間始動時にバーナ14を暖機するにあたり、特殊な付帯設備を新たに増設する必要がなく、インジェクタ15内部に既設の電磁コイルに通電することによるジュール熱を利用してバーナ14の暖機を行うことができるので、極めて安価なコストで実施することができる。
【0036】
更に、バーナ14の雰囲気温度が低いほどインジェクタ15に対する通電時間が長くなるようにしてジュール熱の発生量を増やすことができるので、より確実にバーナ14を暖機して着火の安定性を改善することができると共に、過剰な通電を極力回避して該通電に要する消費電力を必要最小限に抑制することができる。
【0037】
尚、本発明の後処理バーナシステムの暖機方法は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、図示例においては、バーナ直後の排気浄化材がパティキュレートフィルタの場合について説明しているが、本発明の後処理バーナシステムは、酸素共存下でも選択的にNOxを還元剤と反応させる性質を備えた選択還元型触媒や、排気空燃比がリーンの時に排気ガス中のNOxを酸化して硝酸塩の状態で一時的に吸蔵し且つ排気ガス中のO2濃度が低下した時に未燃HCやCO等の介在によりNOxを分解放出して還元浄化する性質を備えたNOx吸蔵還元触媒等といった各種の排気浄化触媒を排気浄化材としてパティキュレートフィルタに替えて配置、或いは、パティキュレートフィルタの下流側に別途配置した場合にも同様に適用することができる、即ち、これらの排気浄化触媒を冷間時に活性温度域まで昇温させるためにバーナを使用する形態の後処理バーナシステムにも同様に適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
11 排気管
12 パティキュレートフィルタ(排気浄化材)
14 バーナ
15 インジェクタ
15a 作動信号
17 温度センサ
17a 検出信号
18 制御装置
19 燃料ポンプ
19a 作動信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管の途中に装備した排気浄化材の上流にバーナを設け、該バーナの燃焼により前記排気浄化材を加熱し得るようにした後処理バーナシステムの暖機方法であって、バーナの雰囲気温度が所定温度以下となっている条件下で前記バーナの燃料噴霧を担う電磁弁式のインジェクタに対し燃料供給を停止した状態で通電を行い、インジェクタ内部の電磁コイルに通電によるジュール熱を発生させて暖機を行うことを特徴とする後処理バーナシステムの暖機方法。
【請求項2】
インジェクタに対する通電時間をバーナの雰囲気温度に応じて変更することを特徴とする請求項1に記載の後処理バーナシステムの暖機方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−62821(P2012−62821A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207730(P2010−207730)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】