説明

微細パターンの製造方法

【課題】本発明は、工程数が少なく、高精度かつ高アライメント精度で微細パターンを形成できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(1)基板の上に、感光性樹脂からなる第一の樹脂層を形成する工程と、(2)前記第一の樹脂層の上に、第2級または第3級アルキニルアルコールと光酸発生剤とベース樹脂とを含有する第二の樹脂層を形成する工程と、(3)前記第二の樹脂層をパターン露光する工程と、(4)前記第二の樹脂層において前記パターン露光した部分をマスクとして、第一の樹脂層を露光する工程と、(5)前記第二の樹脂層及び第一の樹脂層を除去する工程と、を有する微細パターンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂を用いた微細パターンの製造方法に関する。特に、液体流路を有する液体吐出ヘッドの製造に好適に用いることができる微細パターンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の発展に伴い、様々な分野で微細な構造体の形成技術に対する要求が高まっている。マイクロアクチュエータ、電子デバイス、光学デバイス等の分野で研究が盛んに行われており、例えば、各種小型センサー、マイクロプローブ、薄膜磁気ヘッド、インクジェットヘッドなどでは研究が進んでいる。そのような微細構造体の作製方法としては、スタンパー、ドライエッチング、フォトリソグラフィーなど種々の方法が応用されている。これらの中でも、感光性樹脂材料を用いたフォトリソグラフィーによるパターン形成は、高アスペクト比を有する良好な形状を高精度かつ簡便に形成することができる。
【0003】
また、特許文献1では、フォトリソグラフィーを用いた微細パターンからなるインクジェットヘッドの製法を開示している。この方法では、以下の工程を有する方法によりインクジェットヘッドを作製している。まず、エネルギー発生素子が形成された基板上に、溶解可能な樹脂にてインク流路のパターンを形成する。次に、インク流路パターン上に、インク流路壁となるエポキシ樹脂及び光カチオン重合開始剤を含む被覆樹脂層を形成し、フォトリソグラフィーによりエネルギー発生素子上に吐出口を形成する。次に、前記溶解可能な樹脂を溶出し、インク流路壁となる被覆樹脂層を硬化させる。この方法においては、インク流路パターンと被覆樹脂層は異なる感光波長域を有する材料を用いる必要がある。例えば、インク流路パターンの材料には300nm付近に感度を有するイソプロペニルケトンを含むポジ型感光性樹脂とし、被覆樹脂層の材料としては、300nm以上に感度を有するネガ型感光性樹脂とすることができる。300nm以上に感度を有するネガ型感光性樹脂としては、(株)ADEKAから市販されている光重合開始剤SP−172(商品名)を含んだカチオン重合型エポキシ樹脂が例として挙げられる。
【0004】
しかしながら、インク流路パターンに用いる感光性樹脂を露光するために用いる露光装置としては、単波長の光を縮小投影光学系で照射する所謂ステッパーではなく、1対1の倍率で基板全体を一括で露光するタイプの露光装置が用いられる。それぞれの感光性樹脂の感光波長であるDeep−UV光を一括で照射するタイプの露光装置を用いて、これらの感光性樹脂を露光する場合、以下のような問題が発生する場合がある。
【0005】
まず、第一の問題として、大面積のエリアを一括で露光する装置構成のため、基板とマスクの位置合わせ精度に問題が生じる場合がある。特に8〜12インチ程度の大型ウエハを露光する際には、基板の反りやマスクのたわみ等の影響を受けるため、基板内および基板間でアライメント精度がばらつく場合がある。
【0006】
第二の問題として、上述したような主鎖分解型のポジ型感光性樹脂を用いる場合、該樹脂は本質的に感度が低いため、分解反応を十分に生じさせるために大量のエネルギーを照射する必要がある。そのため、露光時の発熱によりマスクと基板に不均一な熱膨張が生じ、解像性およびアライメント精度に劣る場合がある。
【0007】
上記の露光工程において、インク流路パターンや流路壁となる感光性樹脂の露光は、基板上に形成されたアライメントマークを基準にして行うことが一般的である。しかし、上述したような問題が発生した場合、エネルギー発生素子や吐出口とインク流路パターンとの位置関係が所望のものとは異なってしまう場合が生じる。さらには、インクの吐出方向のヨレ、サテライトの大量発生等の障害へとつながり、印字特性の不良となる場合がある。
【0008】
そこで、上述のようなフォトリソグラフィーによる解像性、およびアライメント精度を改善するパターン形成方法の一つとして、2層感光性樹脂を用いるPCM(ポータブルコンフォーマブルマスク)製法が知られている。PCM製法は、下層に感光性樹脂を用い、下層の感光波長を遮光する材料で上層を形成した後、上層を露光、現像してパターニングしてマスクを作製し、このマスクを使用して下層の感光性樹脂をパターニングする方法である。高解像性、高精度のパターンが得られる手法として広く用いられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6−45242号公報
【特許文献2】特公昭63−58367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の方法の場合、上層を露光した後に現像してマスクを形成しているため、工程が多く、製造上の負荷が高くなる場合がある。また、上層をパターニングする際の現像液が下層を溶解させないように、材料を選択する必要がある。
【0011】
そこで、本発明は、工程数が少なく、高精度かつ高アライメント精度で微細パターンを形成できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
(1)基板の上に、感光性樹脂からなる第一の樹脂層を形成する工程と、
(2)前記第一の樹脂層の上に、第2級または第3級アルキニルアルコールと光酸発生剤とベース樹脂とを含有する第二の樹脂層を形成する工程と、
(3)前記第二の樹脂層をパターン露光する工程と、
(4)前記第二の樹脂層において前記パターン露光した部分をマスクとして、第一の樹脂層を露光する工程と、
(5)前記第二の樹脂層及び第一の樹脂層を除去する工程と、
を有する微細パターンの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工程数が少なく、高精度かつ高アライメント精度で微細パターンの形成が可能となる。さらに、微細パターンに使用する材料の選択性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の微細パターンの製造方法について説明するための断面工程図である。
【図2】本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法について説明するための断面工程図である。
【図3】液体吐出ヘッドの構成例を表す模式的斜視図である。
【図4】第2級または第3級アルキニルアルコールの代表例である1,1,3−トリフェニルプロパルギルアルコールの転移反応による吸光度の変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明について詳しく説明する。
【0016】
(実施形態1)微細パターンの形成方法
まず、図1(a)に示すように、基板101を用意する。
【0017】
基板としては、形成する微細構造体の支持体として機能し得るものであれば、その形状、材質等に特に限定されることなく使用することができるが、例えばシリコン基板を用いることができる。
【0018】
次に、基板101上に、感光性樹脂からなる第一の樹脂層102を形成する。
【0019】
第一の樹脂層に用いられる感光性樹脂には、感光性を有しパターニングできるものであれば特に制限されるものではないが、ポジ型感光性樹脂であることが好ましい。ポジ型感光性樹脂としては、例えば、ポリメチルイソプロペニルケトンやメタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型の感光性樹脂が挙げられる。メタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のホモポリマー、又は、メタクリル酸メチルとメタクリル酸、アクリル酸、グリシジルメタクリレート若しくはフェニルメタクリレート等との共重合体等を挙げることができる。これらのメタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂の感光波長域は、一般的に200〜240nm付近に存在する。また、ポリメチルイソプロペニルケトンは、260〜320nm付近に感光波長域を有している。
【0020】
次に、図1(b)に示すように、第一の樹脂層102の上に、第2級または第3級アルキニルアルコールと光酸発生剤とベース樹脂とを含有する第二の樹脂層103を形成する。
【0021】
第二の樹脂層に用いるベース樹脂は、第2級または第3級アルキニルアルコールを定着させ、層形成するために使用する。使用可能な材料としては、第一の感光性樹脂層を露光する際の波長を透過するものである。
【0022】
本発明においては、第二の樹脂層を現像してパターニングせずに、第一の樹脂層を露光することができる。ベース樹脂としては、第一の樹脂層の露光に用いる光をまったく吸収がないものが好ましいが、わずかであれば吸収があってもかまわない。例えば、ベース樹脂が、第一の樹脂層に用いる感光性樹脂の感光波長域の光を10%以上透過する性質を有していることが好ましい。
【0023】
また、第二の樹脂層は、アライメント精度の観点からステッパーを用いて露光することが好ましく、最も汎用的なi線(365nm)でパターニングできることが好ましい。
【0024】
第2級または第3級アルキニルアルコールは、酸で処理すると、Meyer−Schuster転移反応によりビニルケトンを生成することが知られている。
【0025】
第2級または第3級アルキニルアルコールとしては、以下の式で表される第3級アルキニルアルコールを用いることが好ましい。
【0026】
【化1】

[式中、R1は水酸基、又は炭素数1〜6のアルキル基若しくはアリール基を表し、R2は水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基若しくはアリール基を表し、R3はアリール基を表す。]
【0027】
例として、代表的な3級アルキニルアルコールである、1,1,3−トリフェニルプロパルギルアルコールの転移反応を式1に示す。さらに、この反応による材料の吸光度の変化を図4のグラフに示す。
【0028】
【化2】

【0029】
第3級アルキニルアルコールである1,1,3−トリフェニルプロパルギルアルコールの吸収スペクトルは、260nmより短波長域の光を吸収し、280nm以上では吸収がなく、透過性が高い。一方、酸によるMeyer−Schuster転移反応後に生成するビニルケトンは、1,1,3−トリフェニルプロパルギルアルコールと比較して、230〜260nmの波長域の光を吸収する能が弱く、260nm〜350nmの間で光を強く吸収する。
【0030】
したがって、第2の樹脂層に露光を行い、第2級または第3級アルキニルアルコールにMeyer−Schuster転移反応を起こさせた場合、露光部は260〜350nmの波長を吸収し、未露光部は280nm以上の光を透過するようになる。そのため、例えば、280nm〜350nmの範囲の光を含む光で第1の樹脂層と第2の樹脂層とを露光する場合に、第2の樹脂層の露光部がマスクとなり、未露光部を透過した光で感光性を有する第1の樹脂層を露光することができる。
【0031】
これにより第2の樹脂層を現像せずに第1の樹脂層の露光をおこなうことができ、工程を簡略化することが可能となる。
【0032】
(1)第1の樹脂層として、ポジ型のポリメチルイソプロペニルケトンを用いた場合
まず、第1の樹脂層上にある第2の樹脂層を第1のレチクル104を介してパターン露光(第1の露光)105し(図1(c))、露光された個所に、酸を発生させる。この際、第2の樹脂層に含まれる光酸発生剤の感光波長領域で露光を行い、本具体例における光酸発生剤の感光光の波長は例えば365nmとすることができる。
【0033】
ここで、第2の樹脂層のベース樹脂としては、ポリメチルイソプロペニルケトンを感光させうる波長域(260〜320nm)を透過し、転移反応の反応場として作用するものであれば特に限定されるのもではない。また、下層への積層や後の除去の容易さを考慮してベース樹脂を選択することが望ましい。具体的には、フェノール樹脂、PMMAなどがベース樹脂の一例としてあげられる。また、これらベース樹脂の塗布溶媒としては、ベース樹脂を溶解させうるものであれば特に限定されるものではない。例えば、具体的には、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの極性溶媒を好適に用いることができる。
【0034】
露光手段としては、アライメント精度の観点からステッパーを用いることが好ましい。また、露光手段として、最も汎用的なi線(365nm)を用いることも好ましい。
【0035】
光酸発生剤としては、オニウム塩、ボレート塩、トリアジン化合物、アゾ化合物、過酸化物等が挙げられる。また、感度、安定性、反応性、溶解性の面から、芳香族スルフォニウム塩、芳香族ヨードニウム塩が好適に用いられる。芳香族スルフォニウム塩としては、例えば、みどり化学(株)より市販されている「TPS−102、103、105」、「MDS−103、105、205、305」、「DTS−102、103」、又は、ADEKA社より市販されている「SP−152、SP−172」を挙げることができる。また、芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、みどり化学(株)より市販されている「DPI−105」、「MPI−103、105」、「BBI−101、102、103、105」等を挙げることができる。なお、本具体例においては、365nmの光に感光するものであれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0036】
また、これら光酸発生剤の365nmにおける吸収が小さい場合には、増感剤を併用しても構わない。
【0037】
露光により発生した酸は、第2級または第3級アルキニルアルコールに対して、Meyer−Schuster転移反応を進行させ、ビニルケトンを生成する。この時、転移反応を促進させるために適宜加熱工程を加えることが好ましい。特に、本発明では、Meyer−Schuster転移反応の反応場が樹脂層であるため、通常の液体の反応場に比べて反応が進行しにくいため、反応の有無のコントラストを明確にするためにも、加熱をして反応収率を向上させることが好ましい。一方、Meyer−Schuster転移反応の反応場が樹脂層であることにより、潜像マスク形成後に全面露光によってパターニングをする際に、酸の発生が多少生じるものの、加熱工程を通さなければ、潜像マスクのコントラストを損なうことはない。転移反応を効果的に進行させるために行う加熱の温度については、第一の樹脂層における反応性を損なわないためにも、90℃以下で反応を進行させることが好ましい。
【0038】
転移反応の結果、第二の樹脂層中の露光部にはビニルケトンが、未露光部には第2級または第3級アルキニルアルコールが存在し、面内に吸光度差を持った潜像パターン103’が形成される(図1(c)参照)。
【0039】
ここで、第一の樹脂層がポジ型のポリメチルイソプロペニルケトンを含む場合は、260〜320nm付近に感光波長を有している。そこで、第二の樹脂層を通して260〜320nmの光により第1の樹脂層を露光(第二の露光)106すると、第2級または第3級アルキニルアルコールを有する第2の樹脂層部分では、280nm以上の光が透過する。そして、第2級または第3級アルキニルアルコールを有する第2の樹脂層部分の下側にあるポリメチルイソプロペニルケトンは露光される(図1(d)102’参照)。一方、上層にビニルケトンが存在する部分では、230〜350nmの光が遮光されるため、未露光部分となる。結果として、第二の樹脂層内の潜在パターンがマスクとなり、第一の樹脂層へのパターンの転写が可能となる。
【0040】
(2)第一の樹脂層として、ポジ型のメタクリル酸系のポリマー等のアクリル共重合体を用いた場合
(1)と同様の方法でマスクを介した露光を行い、適宜加熱工程を経て、第二の樹脂層に吸光度差を有する潜像パターンを形成する。第一の樹脂層がポジ型のメタクリル酸系のポリマーの場合は、200〜240nm付近に感光波長を有している。また、上層に第2級または第3級アルキニルアルコールを有する樹脂層部分が存在する場所では、遮光され未露光部分となる。一方、ビニルケトンが存在する第2の樹脂層部分では、230〜260nmの吸光が第2級又は第3級アルキニルアルコールが存在する第2の樹脂層部分よりも低下するために、第一の樹脂層が露光される。結果として、第二の樹脂層内の潜在パターンがマスクとなり、第一の樹脂層へのパターンの転写が可能となる。
【0041】
第2級または第3級アルキニルアルコール、及び転移反応によって生成するビニルケトンは、製造ラインを汚染することが少なく、さらにはこの後に酸による硬化反応を行う場合には反応の阻害を引き起こすことがない。
【0042】
更に、各々の添加量としては、第2級または第3級アルキニルアルコールが第二の樹脂層の固形分に対して1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。また、光酸発生剤が第2級または第3級アルキニルアルコールの1重量%以上50重量%以下であることが好ましい。なお、遮光性能が確保出来ればこれらに限られるものではなく、第一の樹脂層の吸光度によって適宜添加量を調整することが望ましい。また、本明細書においては、第一の樹脂層にポジ型感光性樹脂を用いた場合について記載したが、本発明においては第一の樹脂層がポジ型である必要がなく、ネガ型であっても問題なくパターニングすることができる。
【0043】
次いで、上述した第二の樹脂層の潜像パターン越しに、第一の樹脂層の感光波長を用いて全面露光を行い、第二の樹脂層の除去及び、第一の樹脂層の現像を行って、パターンを形成する。
【0044】
この時、第二の樹脂層は転移反応が進行しているものの、架橋反応は進行していないため、除去の困難さがない。更には、第一の樹脂層の現像液に対して溶解可溶な樹脂を用いれば、第一の樹脂層の現像工程時に一括現像が可能となる。
【0045】
以上のような工程を経ることで、高精度にアライメントが制御された微細パターンを形成することができる。
【0046】
また、第一の樹脂層及び第二の樹脂層の形成には、既知のスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法を用いることができる。また、ドライフィルム化されたポジ型感光性樹脂を用い、ラミネート法により形成しても良い。さらに、第一の樹脂層には、基板面からの反射を防止する目的で、光吸収剤等の添加剤を添加して用いても良い。
【0047】
(実施形態2)インクジェット記録ヘッドの製造方法
次に、本発明の実施形態であるインクジェット記録ヘッドなどの液体吐出ヘッド(図3参照)の製造方法について説明する。なお、図3において、シリコン等からなる基板1上に流路形成部材4が形成されている。流路形成部材4は、液滴を吐出する吐出口5及び該吐出口に連通するインク流路等の液体流路を構成する。基板1上であって液体流路3内に吐出エネルギー発生素子2が形成されており、該吐出エネルギー発生素子2が発生するエネルギーにより液滴が吐出される。また、基板1には液体流路3にインク等の液体を供給するための供給口6が形成されている。
【0048】
まず、図2(a)に示すように、エネルギー発生素子208を有する基板201を用意する。
【0049】
基板は、インク流路の底面を構成する部材として機能し、また、後述のインク流路およびインク吐出口を構成する流路形成部材の支持体として機能し得るものであれば、その形状、材質等に特に限定されることなく用いることができる。基板としては、例えばシリコン基板を用いることができる。
【0050】
基板201はエネルギー発生素子208を有する。例えば基板201上に電気熱変換素子や圧電素子等のエネルギー発生素子208が所望の個数配置することができる。エネルギー発生素子208の駆動によってインク液滴を吐出するための吐出エネルギーをインクに与えて液滴を記録媒体に吐出し、記録を行う。例えば、エネルギー発生素子208として電気熱変換素子を用いる場合は、エネルギー発生素子が近傍のインクを加熱することにより、インクに状態変化を生起させ、吐出エネルギーを発生する。また、例えば、圧電素子を用いる場合は、エネルギー発生素子の機械的振動によって、吐出エネルギーを発生する。
【0051】
なお、これらのエネルギー発生素子208には、素子を駆動させるための制御信号入力用電極(不図示)が接続されている。また、一般にはこれらエネルギー発生素子208の耐用性の向上を目的とした保護層(不図示)を設けることができる。また、後述する流路形成部材の基板との密着性の向上を目的とした密着向上層(不図示)を基板上に設けることができる。本発明においてもこれらのような各種機能層を設けることは一向に差し支えない。
【0052】
次に、図2(b)に示すように、エネルギー発生素子208を含む基板201上に、第一の樹脂層として、ポジ型感光性樹脂層からなる第一の樹脂層202を形成する。
【0053】
ポジ型感光性樹脂層としては、上述したように、例えば、ポリメチルイソプロペニルケトンやメタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型の感光性樹脂を用いることができる。
【0054】
次に、図2(c)及び(d)に示すように、第一の樹脂層202上に、第2級または第3級アルキニルアルコール及び光酸発生剤を含有する第二の樹脂層203を形成する。そして、マスクAを用いて露光(第一の露光)205することにより、パターン潜像203’を形成する。
【0055】
次に、図2(e)に示すように、上述した(A)の微細パターンの形成方法と同様の方法で、パターン潜像203’をマスクとして第一の樹脂層を露光(第二の露光)206する。
【0056】
次に、図2(f)に示すように、第二の樹脂層203の除去、並びに第一の樹脂層202の現像を行うことで、インク流路の型材となる流路パターンを形成する。
【0057】
次に、図2(g)に示すように、流路パターン209上に、流路形成部材210をスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の方法で形成する。
【0058】
流路形成部材は、インク流路やインク吐出口を構成する部材として機能するものであることから、高い機械的強度、下地との密着性、耐インク性、ならびにインク吐出口の微細なパターンをパターニングするための解像性等が要求される。これらの特性を満足する材料の観点から、カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0059】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物のうち分子量がおよそ900以上のもの、含ブロモビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物、フェノールノボラックあるいはo−クレゾールノボラックとエピクロルヒドリンとの反応物等が挙げられる。また、特開昭60−161973号明細書、特開昭63−221121号明細書、特開昭64−9216号明細書、特開平2−140219号明細書に記載のオキシシクロヘキサン骨格を有する多官能エポキシ樹脂等があげられるが、これら化合物に限定されるものではない。
【0060】
また、上述のエポキシ樹脂としては、好ましくはエポキシ当量が2000以下、さらに好ましくはエポキシ当量が1000以下の化合物が好適に用いられる。これは、エポキシ当量を2000以下とすることで、硬化反応の際に架橋密度を適切な範囲とし、密着性、耐インク性を良好にすることができるからである。
【0061】
上記エポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、光照射により酸を発生する光酸発生剤を用いることができる。光酸発生剤としては、特に制限はないが、例えば、芳香族スルフォニウム塩や芳香族ヨードニウム塩等を用いることができる。芳香族スルフォニウム塩としては、例えばみどり化学(株)より市販されている「TPS−102」、「TPS−103」、「TPS−105」、「MDS−103」、「MDS−105」、「MDS−205」、「MDS−305」、「DTS−102」、「DTS−103」、(株)ADEKAより市販されている「SP−170」、「SP−172」等を挙げることができる。また、芳香族ヨードニウム塩としては、みどり化学(株)より市販されている「DPI−105」、「MPI−103」、「MPI−105」、「BBI−101」、「BBI−102」、「BBI−103」、「BBI−105」等を、好適に用いることができる。また、添加量は、目標とする感度となるよう任意の添加量とすることができるが、特に、エポキシ樹脂組成物中0.5〜5wt%の範囲で好適に用いることができる。また、必要に応じて波長増感剤を添加してもよく、波長増感剤としては、例えば(株)ADEKAより市販されている「SP−100」等を挙げられる。
【0062】
さらに上記エポキシ樹脂組成物に必要に応じて添加剤などを適宜添加することが可能である。例えば、弾性率を下げる目的で可撓性付与剤を添加したり、あるいは下地との更なる密着力を得るためにシランカップリング剤を添加することができる。
【0063】
また、流路形成部材210上に、必要に応じてネガ型の感光性を有する撥インク剤層を形成することができる(不図示)。撥インク剤は、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法により形成可能である。また、未硬化の流路形成部材の上に形成される場合は、両者が必要以上に相溶しないことが求められる。
【0064】
次に、図2(h)に示すように、例えばi線ステッパーを用い、マスクBを介して吐出口を形成するための露光207を行う。
【0065】
次に、図2(i)に示すように、現像処理を施して吐出口212を形成する。
【0066】
この際、現像と同時にポジ型感光性樹脂からなるインク流路パターンを溶解除去することも可能である。なお、一般的に、基板上には複数のインクジェットヘッドが形成され、切断工程を経て個々のインクジェットヘッドとして使用される。そのため、切断時のごみ対策として、切断時はインク流路パターンを残しておき、切断工程後に溶解除去することが好ましい。このようにすることで、インク流路パターンが残存するため、切断時に発生する流路内に入り込むことを防止できる。
【0067】
次に、図2(j)に示すように、エネルギー発生素子208を含む基板201を貫通するインク供給口214を形成する。
【0068】
インク供給口の形成方法としては、サンドブラスト、ドライエッチング、ウエットエッチング等の手法、あるいはこれらの手法の組み合わせ等が挙げられる。
【0069】
例として、アルカリ系のエッチング液である水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の水溶液を用いた異方性エッチングについて説明する。結晶方位として、<100>、<110>の方位を有するシリコン基板は、アルカリ系の化学エッチングを行うことにより、エッチングの進行方向に関して、深さ方向と幅方向の選択を行うことができる。これによりエッチングの異方性を得ることができる。特に、<100>の結晶方位を有するシリコン基板は、エッチングを行う幅によってエッチングされる深さが幾何学的に決定されるため、エッチング深さを制御することができる。例えば、エッチングの開始面から深さ方向に54.7°の傾斜で狭くなる孔を形成することができる。
【0070】
エッチング液に対して耐性を有する適当な樹脂材料をマスクとして上述の異方性エッチングを行なうことで、基板を貫通するインク供給口を形成することができる。
【0071】
次に、図2(k)に示すように、必要に応じて流路形成部材の上面から第一のポジ型感光性樹脂層の感光波長を照射し、インク流路パターンを溶解除去することで、インク流路213を形成する。
【0072】
その後、切断工程を経た後(不図示)、必要に応じて加熱処理を施すことにより流路形成部材をさらに硬化させる。その後、インクを供給するための部材(不図示)を接合し、エネルギー発生素子を駆動するための電気的接合(不図示)を行って、インクジェットヘッドを作製する。
【0073】
(実施例)
以下に本発明の実施例をインクジェットの製造方法によって示す。
【0074】
<実施例1>
図2(a)〜(k)に示した工程に従って、インクジェットヘッドを作製した。
【0075】
まず、図2(a)に示すように、基板201を用意した。本実施例においては、8インチのシリコン基板を用意した。該シリコン基板上に、エネルギー発生素子として電気熱変換素子(TaSiNからなるヒーター)と、インク流路およびノズル形成部位にSiN(下層)とTa(上層)の積層膜(不図示)と、を有するシリコン基板を用意した。
【0076】
次に、図2(b)に示すように、基板201上に、第一の樹脂層202として、ポジ型感光性樹脂を形成した。具体的には、ポリメチルイソプロペニルケトンを基板201上にスピンコートし、120℃で6分間のベークを行い、第一の樹脂層202を形成した。ベーク後の第一の樹脂層の膜厚は15μmであった。
【0077】
次に、図2(c)に示すように、第二の樹脂層203を以下の組成物を第一の樹脂層202の上に膜厚4μmとなるように積層した。
【0078】
AVライトEP4050G(商品名、旭有機材工業(株)) 40質量部
1,1,3−トリフェニルプロパルギルアルコール 2質量部
SP−172(商品名、(株)ADEKA) 0.4質量部
2−ヘプタノン 60質量部
【0079】
次に、図2(d)に示すように、i線ステッパー(キヤノン社製、商品名;i5)を用いて、第一のフォトマスクAを介して3000J/m2の露光量で露光し、90℃3分でMeyer−Schuster転移反応を進行させた。該露光により、露光部分にMeyer−Schuster転移反応が起こり、第二の樹脂層の露光部分の吸光度が変化する。その結果、第二の樹脂層203に吸光度の異なる潜像パターン203’が形成された。
【0080】
次に、図2(e)に示すように、第二の樹脂層の潜像パターン203’をマスクとして、Deep−UV露光装置(ウシオ電機製、商品名;UX−3000)を用いて14J/cm2の露光量で全面露光した。
【0081】
次に、図2(f)に示すように、メチルイソブチルケトンを用いて第二の樹脂層の除去と第一の樹脂層の現像を同時に行い、流路パターン209を形成した。
【0082】
次に、図2(g)に示すように、以下の組成からなる感光性樹脂組成物をスピンコート法を用いて、流路パターン209及び基板201の上に膜厚15μmで形成し、90℃で2分間(ホットプレート)のプリベークを行い、流路形成部材210を形成した。
【0083】
EHPE(ダイセル化学工業社製) 100質量部
SP−172((株)ADEKA) 5質量部
A−187(東レ・ダウコーニング社製) 5質量部
メチルイソブチルケトン 100質量部
【0084】
次に、流路形成部材210上に以下の組成からなる感光性樹脂組成物をスピンコート法を用いて1μmの膜厚となるように塗布し、80℃で3分間(ホットプレート)のプリベークを行い、撥液層を形成した(不図示)。
【0085】
EHPE(ダイセル化学工業社製) 35質量部
2、2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)ヘキサフロロプロパン
25質量部
1、4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフロロイソプロピル)ベンゼン 25質量部
3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシ−1、2−エポキシプロパン
16質量部
A−187(東レ・ダウコーニング社製) 4質量部
SP―172((株)ADEKA) 5質量部
ジエチレングリコールモノエチルエーテル 100質量部
【0086】
次に、図2(h)に示すように、i線ステッパー(キヤノン社製、i5;商品名)を用いて、4000J/m2の露光量にてパターン露光した。また、ホットプレートにて90℃で240秒のPEBを行なった。
【0087】
次に、図2(i)に示すように、メチルイソブチルケトンにて現像、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行い、140℃で60分間の熱処理を行なって、インク吐出口212を形成した。なお、本実施例ではφ8μmの吐出口を形成した。また、図2(j)に示すように、インク供給口214を形成した。
【0088】
次に、図2(k)に示すように、Deep−UV露光装置(ウシオ電機社製、商品名;UX−3000)を用い、流路形成部材側から250000mJ/cm2の露光量で全面露光を行い、インク流路パターンを可溶化した。そして、乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬することでインク流路パターンを溶解除去し、インク流路213を形成した。なお、本実施例においては、インク供給口214の形成は省略した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)基板の上に、感光性樹脂からなる第一の樹脂層を形成する工程と、
(2)前記第一の樹脂層の上に、第2級または第3級アルキニルアルコールと光酸発生剤とベース樹脂とを含有する第二の樹脂層を形成する工程と、
(3)前記第二の樹脂層をパターン露光する工程と、
(4)前記第二の樹脂層において前記パターン露光した部分をマスクとして、第一の樹脂層を露光する工程と、
(5)前記第二の樹脂層及び第一の樹脂層を除去する工程と、
を有する微細パターンの製造方法。
【請求項2】
前記第2級または第3級アルキニルアルコールが、以下の式1で表わされる化合物である請求項1に記載の微細パターンの製造方法。
【化1】

[式中、R1は水酸基、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基を表し、R3はアリール基を表す。]
【請求項3】
前記光酸発生剤が、波長が365nmの光に対して感度を有する請求項1又は2に記載の微細パターンの製造方法。
【請求項4】
前記ベース樹脂が、前記感光性樹脂の感光波長域の光を10%以上透過する性質を有している請求項1乃至3のいずれかに記載の微細パターンの製造方法。
【請求項5】
前記感光性樹脂がポジ型感光性樹脂である請求項1乃至4のいずれかに記載の微細パターンの製造方法。
【請求項6】
前記ポジ型感光性樹脂が主鎖分解型のポジ型感光性樹脂である請求項5に記載の微細パターンの製造方法。
【請求項7】
前記ポジ型感光性樹脂が、ポリメチルイソプロペニルケトン、あるいはアクリル共重合体である請求項6に記載の微細パターンの製造方法。
【請求項8】
液体を吐出するためのエネルギー発生素子を有する基板と、該基板の上に前記液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する液体流路とを構成する流路形成部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
請求項1乃至7のいずれかに記載の微細パターンの製造方法を用いて、前記液体流路の型材となる流路パターンを形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−252967(P2011−252967A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125031(P2010−125031)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】