説明

感光性樹脂積層体

【課題】本来のCTP版の特徴である鮮明な画像を有し、破れ(破損)、キズおよび現像液の汚染等の問題点もなく、かつ、印刷ムラをも解消した感光性樹脂積層体を提供すること。
【解決手段】少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層、非IR感受性高分子樹脂層およびカバーフィルムを有する感光性樹脂積層体であって、前記非IR感受性高分子樹脂層の25%引っ張り弾性率が10〜60kgf/mm2であることを特徴とする感光性樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光性樹脂積層体(以下「感光性印刷用原版」あるいは単に「印刷原版」や「原版」ともいう)に関し、詳しくはコンピュータ製版技術で印刷版やレリーフ板等を作製する際に使用する感光性樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、フレキソ印刷の分野において、デジタル画像形成技術としても知られているコンピュータ製版技術(コンピュータ・トゥ・プレート(CTP)技術)は、極めて一般的なものとなってきている。CTP技術では、感光性印刷版の重合するべきでない領域を覆うために従来から使用されている写真マスク(フォトマスクやネガフィルムともいう)は、印刷版内で形成統合されるマスクに取って代わられている。このような統合マスクを得るための方法として、市場には2つの技術が存在する。一つは感光性印刷原版上にインクジェットプリンターでマスクを印刷する方法であり、もう一つは感光層上に紫外線に対して実質的に不透明で(即ち紫外線を実質的に通さない)、かつ、IRレーザの照射により融除可能な層(この層は、一般に「IRアブレーション層」や「赤外融除層」等と呼ばれており、本明細書では「IRアブレーション層」と呼ぶこととする。)を設け、当該層にIRレーザで画像形成をすることでマスクを形成する方法である。これらの技術を用いることで画像(マスク)が版上に直接形成され、次の工程で当該画像(マスク)を介して紫外線が照射され、製版へといたる。
【0003】
ところで、上記IRアブレーション層を有する感光性印刷用原版において、IRアブレーション層には、一般に、高分子バインダにカーボンブラックを多量に含有させた組成物が使用されている。また、通常、IRアブレーション層上には、原版の保存時や取り扱いの際のIRアブレーション層の保護のためにカバーフィルムが設けられており、このカバーフィルムはIRレーザの照射前またはIRレーザの照射後(通常、主露光後、現像前の時点)に除去される。しかし、本発明者等の研究の結果、カバーフィルムを剥がす際にIRアブレーション層に破れ(破損)やキズを生じ、それが最終的に得られる印刷画像に悪影響を及ぼしていることが判った。また、IRアブレーション装置の回転ドラムへの印刷用原版脱着作業において、印刷原版表面に皺が発生し、これが原因となって製版後版表面に凹凸ができ、印刷ムラを生ずるという問題を有することも判った。さらに、IRアブレーションを実施後、主露光し(紫外線の照射を行い)、現像液で現像する際に、IRアブレーション層中のカーボンブラックが現像液へ移行して現像液が汚れ、現像液を一回の製版作業毎に交換しなければならず、これが印刷コストの上昇の原因になっている。
【0004】
そこで、本発明者等は、IRアブレーション層がIR吸収性金属層のみから成り、その上層に可塑化した非IR感受性高分子樹脂層を設けた感光性樹脂積層体を、先に提案した(特許文献1参照)。これは、上記破れ(破損)、キズおよび現像液の汚染等の問題点を解消する画期的な発明であったが、IRアブレーション装置の回転ドラムへの印刷用原版脱着作業における防皺効果が不充分であり、印刷ムラを生ずるという欠点を有することが判った。
【特許文献1】特許第3518540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、本来のCTP版の特徴である鮮明な画像を有し、破れ(破損)、キズおよび現像液の汚染等の問題点もなく、かつ、印刷ムラをも解消した感光性樹脂積層体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意、検討、研究した結果、印刷ムラが表面の皺発生によるものであることを解明し、さらに皺発生と非IR感受性高分子樹脂層の引っ張り弾性率との関連性を見出すことによって、遂に本発明を完成するに到った。すなわち本発明は、(1)少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層、非IR感受性高分子樹脂層およびカバーフィルムを有する感光性樹脂積層体であって、前記非IR感受性高分子樹脂層の25%引っ張り弾性率が10〜60kgf/mm2であることを特徴とする感光性樹脂積層体。(2)IRアブレーション層がIR吸収性金属層のみである前記(1)記載の感光性樹脂積層体。(3)非IR感受性高分子樹脂層が水系現像液で除去可能である前記(1)記載の感光性樹脂積層体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明感光性樹脂積層体を用いることにより、IRアブレーション後の当該層の皺やクラックの発生を防止できるので、高精度のマスク形成が可能であり、従って、高品位の印刷画像が得られる印刷版を得ることができる。また、現像液時の現像液の汚れが少ないので、複数枚を連続して現像することができる等、産業界に寄与すること大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本発明における非IR感受性高分子樹脂層のポリマーとしては、水系現像液で除去可能であることが好ましく、このようなポリマーとしては、例えば可溶性ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、アルキルセルローズ、セルローズ系ポリマー(特にヒドロキシプロピルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズ、ニトロセルローズ)、セルローズアセテートブチレート、ポリブチラール等が挙げられる。なかでも、可溶性ポリアミドとポリビニルアルコールが好ましい。
【0009】
前記可溶性ポリアミドとしては、公知の合成高分子結合剤を使用できる。例えばポリエーテルアミド(例えば特開昭55−79437号公報等)、ポリエーテルエステルアミド(例えば特開昭58−113537号公報等)、三級窒素含有ポリアミド(例えば特開昭50−76055公報等)、アンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミド(例えば特開昭53−36555公報等)、アミド結合を1つ以上有するアミド化合物と有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開昭58−140737号公報等)、アミド結合を有しないジアミンと有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開平4-97154号公報等)などが挙げられ、そのなかでも三級窒素原子含有ポリアミドが好ましい。また、前記ポリビニルアルコールとしては、けん化度は70〜99モル%が好ましく、さらに好ましくは80〜99モル%である。重合度は1000以上が好ましい。
また、これら水系現像液除去可能ポリマーは、いずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明における非IR感受性高分子樹脂層の25%引っ張り弾性率は10〜60kgf/mm2、好ましくは12〜60kgf/mm2、さらに望ましくは12〜55kgf/mm2である。アブレーションドラムから版を取り外す際に、25%引っ張り弾性率が10kgf/ mm2未満の場合は、非IR感受性高分子樹脂層に幅広い皺が入り、その結果IR吸収性金属層にクラックが入ってしまい、そこから主露光での紫外線が漏れ、現像後不必要な画像が残る。また、60kgf/ mm2を超える場合は、非IR感受性高分子樹脂層に深い皺が入り、その皺が画像部まで伝播し、主露光、現像後に凸部表面に溝となって残るので好ましくない。
なお、非IR感受性高分子樹脂層の25%引っ張り弾性率を10〜60kgf/mm2の範囲内に特定する手段としては、例えば非IR感受性高分子樹脂を高分子量化して弾性率を上げたり、反対に可塑剤等を添加して弾性率を下げたりする方法が挙げられる。
【0011】
本発明の非IR感受性高分子樹脂層には、25%引っ張り弾性率が10〜60kgf/mm2
の範囲内で一般的に用いられる可塑剤を使用できる。このような可塑剤としては、スルホンアミド類、オキシ安息香酸エステル類、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどのアルキレングリコール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、ポリエチレングリコール#300、ポリエチレングリコール#400、ポリエチレングリコール#600、ポリエチレングリコール#1000、ポリエチレングリコール#2000、ポリエチレングリコール#4000、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体などのポリアルキレングリコール類、2,3ブタンジオール、1,3ブタンジオールなどのブタンジオール類、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなど3価以上のアルコール類などの多価アルコール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのエタノールアミン類やN−メチルピロリドン、シクロヘキシルアミン、尿素などのアミン化合物が挙げられる。
【0012】
本発明の非IR感受性高分子樹脂層の厚みは0.01〜50μm、好ましくは0.1〜20μm、特に好ましくは0.5〜10μmである。厚みが50μmを超えると、IRアブレーションをする際に用いるドラムへの装着が困難となったり、また、主露光および現像して得られるレリーフの解像度が低下する虞があり、好ましくない。
【0013】
本発明において、「IRアブレーション層」とは、IR吸収性金属から成り、IRを吸収して融除され得る、金属、合金または含金属化合物を意味する。ここでの合金とは、2種以上の金属元素の融合物だけでなく、2種以上の金属元素とともに金属元素以外の元素を含む融合物も含む。また、「IRアブレーション層」は1種の材料でも2種以上のIR吸収性金属を併用してもよい。
【0014】
上記金属の好ましい例としては、Al、Zn、Cuが挙げられる。また、上記合金の好ましい例としては、Al、Ca、Sc、Ti、V、Sb、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Ta、W、Au、BiおよびPbから選ばれる2種以上の金属の合金や、かかる2種以上の金属とともに、さらに非金属元素(炭素、ケイ素等)および/または希土類元素(Nd、Sm、Gd、Tb等)を含む合金、が挙げられる。また、含金属化合物としては、IRを吸収して融除され得るものであれば、金属酸化物、金属窒化物等の各種化合物を使用できるが、それらの中でも、亜クロム酸銅、酸化クロム、アルミン酸コバルト−クロム等の暗色無機顔料が好ましい。 なお、破れやキズつきの防止(膜強度)の点から、IRアブレーション可能な金属にはAl、Zn、Cu、Bi−In−Cu合金が好ましく、とりわけ好ましくはAlである。
【0015】
IRアブレーション層であるIR吸収性金属層の厚みは、200〜20000Åが好ましく、特に好ましくは200〜8000Å、とりわけ好ましくは300〜5000Åである。厚みが200Å未満であると、IRアブレーション後のマスクとしての機能が劣るので好ましくなく、また、20000Åを超えると、画像形成用のIRではアブレーション(融除)することが困難になるので、好ましくない。
【0016】
本発明において、感光性樹脂層は、エラストマーバインダ、重合性化合物(以下、架橋剤ともいう)及び光開始剤を少なくとも含む組成物の層であり、その組成は、一般に、エラストマーバインダ100重量部に対し、重合性化合物を5〜150重量部程度、光開始剤を0.1〜10重量部程度含む。なお、公知のフレキソ印刷原版で使用されている感光性樹脂層をそのまま適用してもよい。また、単一層であっても、組成の異なる2つ以上の層を積層して使用してもよい。
【0017】
エラストマーバインダとしては、単一のポリマーでも、ポリマー混合物でもよい。また、疎水性のポリマーでも、親水性のポリマーでも、疎水性のポリマーと親水性のポリマーの混合物でもよい。疎水性ポリマーとしては、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、1,2−ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステルコポリマー、アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステルコポリマー、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン、シリコーンゴム、ウレタンゴムが好適である。これらはそれぞれを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。親水性ポリマーとしては、−COOH、−COOM(Mは1価、2価、或いは3価の金属イオンまたは置換または無置換のアンモニウムイオン)、−OH、−NH2、−SO3H、リン酸エステル基などの親水基を有するものが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸またはその塩類の重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類と酢酸ビニルとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアクリロニトリルとの共重合体、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、−COOM基を有するポリウレタン、−COOM基を有するポリウレアウレタン、−COOM基を有するポリアミド酸およびこれらの塩類または誘導体が挙げられる。これらはそれぞれを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
重合性化合物は、重合性印刷版の製造に使用でき且つエラストマーバインダと相溶性である慣用の重合可能なエチレン性モノ又はポリ不飽和有機化合物である。当該化合物の例としては、スチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、n−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,3−ジクロロプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアリルオキシジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンチルジメチレンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタデカンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジイルジメチルジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、オリゴブタジエン(メタ)アクリレート、オリゴイソプレン(メタ)アクリレート、オリゴプロピレン(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
光開始剤の例としては、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが好適であり、具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−アリルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明における感光性樹脂層は、エラストマーバインダ、重合性化合物及び光開始剤以外に、添加剤、例えば、可塑剤、熱重合防止剤、染料、酸化防止剤等を含んでもよい。
【0020】
感光性樹脂層は、各成分の材料を適宜変更することにより、水溶性現像液、半水溶性現像液又は有機溶剤性現像液に可溶或いは分散するものに調製できるが、水又は水性媒体で現像できるものとするのが好ましい。また、かかる水又は水性媒体で現像できる感光性樹脂層とする場合、具体的には、EP−A767407号公報、特開昭60−211451号公報、特開平2−175702号公報、特開平4−3162号公報、特開平2−305805号公報、特開平3−228060号公報、特開平10−339951号公報等に記載されている感光性樹脂層に相当するものとするのが好ましい。
【0021】
本発明のカバーフィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド等が好適である。これらはいずれかを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらに他の有機重合体を少量共重合したり、ブレンドしたりしてもよい。カバーフィルム5の厚みは10〜300μmが好ましく、特に好ましくは10〜200μmである。
【0022】
また、本発明に用いる支持体は、可撓性を有し、かつ、寸法安定性に優れた材料が好ましく用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、或いはポリカーボネートを挙げることができる。支持体の厚みは50〜350μm、好ましくは75〜350μmが原版の機械的特性、形状安定性あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から好ましい。また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着を向上させるために、この種の目的で従来から使用されている公知の接着剤を表面に設けてもよい。
【0023】
本発明の感光性樹脂積層体を作製する方法は特に限定されないが、一般的には、支持体上に塗布、スプレーコーティング等で感光性樹脂層を形成するか、若しくは、市販の感光性フレキソ印刷版から保護フィルムを剥がすことで一方の積層体を作成し、さらにこれとは別に、基材フィルム(カバーフィルム)に真空蒸着、スパッタリング等でIR吸収性金属層を形成するか、若しくは、基材フィルム(カバーフィルム)に塗布、スプレーコーティング等で有機高分子層を形成後、これに続けて真空蒸着、スパッタリング等でIR吸収性金属層を形成して他方の積層体を形成し、このようにして得られた2つの積層体をヒートプレス機等を用いてラミネートすることにより作製する。ラミネート条件は、温度を室温〜150℃、好ましくは50〜120℃とし、圧力を20〜200kg重/cm2、好ましくは50〜150kg重/cm2とするのがよい。
【0024】
本発明積層体から印刷版、あるいはレリーフ板の作製は以下のようにして行うことができる。
カバーフィルムを剥がした後、または、残したまま、IRアブレーション層にIRレーザによる画像照射を行いことでIRアブレーションを実施し、感光性樹脂層上にマスクを形成する。適当なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に適当なレーザシステムは、市販されており、例えばダイオードレーザシステムOmniSetter(登録商標)(Fa. Misomex;レーザ波長:830nm;作業幅:1800mm)或いはND/YAGレーザシステムDigilas(登録商標)(Fa. Schepers)、CDI(登録商標)(Esko Graphic)などを挙げることができる。これらは、それぞれ感光性フレキソ印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置およびレイアウトコンピュータを含む。画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0025】
次に、上記のようにして、マスクをIRアブレーション層に書き込んだ後、感光性フレキソ印刷版にマスクを介して化学線を全面照射する。これはレーザシリンダ上において直接行うことが有利である。或いは、版を、レーザ装置から取り外し、慣用の平板な照射ユニットで照射してもよい。照射工程の間、感光性樹脂層は上記マスクの形成工程(融除工程)で露出した領域において重合し、一方照射光を通さないIRアブレーション層によりなお被覆されているIRアブレーション層領域では、重合は起こらない。化学線の照射は、慣用の真空フレームで酸素を除去して行うことも可能である。また、大気酸素の存在下に行うこともできる。
【0026】
上記のようにして化学線が照射された版は、現像工程に供される。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができ、版の性質に応じて、水、有機溶剤またはこれらの混合物を使用することができる。現像の間に、感光性樹脂層の非重合領域及びIRアブレーション層の残留部は除去される。IRアブレーション層を1種の溶剤又は溶剤混合物でまず除去し、別の現像剤で感光性樹脂層を現像することも可能である。現像工程後、得られた印刷版は乾燥させる。版の乾燥条件は、例えば、45〜80℃で15分〜4時間である。乾燥後に、幾つかの後処理操作をさらに行ってもよい。例えば、印刷版を非粘着性にするために、殺菌灯の照射又はBr2による処理を行うことができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
なお、25%引っ張り弾性率の測定は以下に準じて行った。
試験片の作製方法
非IR感受性高分子樹脂を水あるいは水・イソプロピルアルコール混合液に溶解し、ポリエチレンテレフタレート上にコートし、100℃で5分間乾燥させ、コート膜を剥ぎ取った。コート膜の厚みは約50μmであった。このシートから幅5mmの短冊をミクロトームの刃を用いて切り取った。
弾性率の測定
上記試験片をオリエンテック社製テンシロン万能試験機1210Aでフルスケール5kg、クロスヘッドスピード200mm/分、チャック間距離50mm、チャートスピード200mm/分の条件で引っ張り破断試験を行った。
25%引っ張り弾性率の算出
記録したチャート用紙上の25%伸ばした時の応力から25%引っ張り弾性率を算出した。
【0028】
実施例1
A.可溶性ポリアミドの合成と25%引っ張り破断弾性率の測定
ε―カプロラクタム52.5部、N,N'−ビス(γ―アミノプロピル)ピペラジンアジペート40.0部、1,3−ビスアミノメチルシコロヘキサンアジペート7.5部と水100部を反応器に加え、充分な窒素置換を行った後、密閉して徐々に加熱し、内圧が10kg/mm2に達した時点から反応器内の水を徐々に留出させて約1時間で常圧に戻し、その後0.5時間常圧で反応させた。最高重合温度は210℃で、融点140℃、比粘度1.83の透明淡黄色のポリアミドを得た。得られたポリマーをイソプロピルアルコール/水=50/50%混合液に溶解した。コート、乾燥後の25%引っ張り破断弾性率は、51kgf/mm2であった。
【0029】
B.蒸着シートの作製
ケミカルマット処理を施したPETフィルム(原反は東洋紡績製のE5002で厚さ125μm)に上記可溶性ポリアミド水溶液をバーコーター#26で塗布し、100℃、3分間乾燥して、乾燥後の厚みが2.2μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜の面に、真空蒸着法により、アルミニウムを600Åの厚みに蒸着した。この時の光学濃度(OD)は3.0であった。この光学濃度(OD)は白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン(株)製造)によって測定した。
【0030】
C.原版の作製
厚さ100μmのPETフィルム支持体(東洋紡績製E5002)、感光性樹脂層、ポリビニルアルコール層およびケミカルマット化PETカバーフィルムから構成される感光性フレキソ印刷版(Cosmolight NEO (東洋紡績製))のケミカルマット化PET保護フィルムを剥離し、更に下層のポリビニルアルコール層を感光性樹脂層から慣用の接着テープを用いて除去した。露出させた感光性樹脂層に上記Aで作製したアルミニウム蒸着フィルムの蒸着面を重ね合わせ、ヒートプレス機を用いて100℃、100kg重/cm2でラミネートし、PET支持体、感光性樹脂層、アルミニウム蒸着層、ポリビニルアルコール層およびケミカルマット化PET保護フィルム(カバーフィルム)からなる版を得た。この版の総厚みは1.90mmであった。
【0031】
D.IRアブレーションの実施
レリーフ深度を通常用いられる約0.8mmにするため原版のPET支持体側から化学線(光源Philips10R、365nmにおける照度7.5mW/cm2)を20秒間照射することによって、裏露光を実施し、次にケミカルマット化PET保護フィルム(カバーフィルム)を剥離した。この時保護フィルム(カバーフィルム)のみが剥がれ、ポリビニルアルコール層とアルミニウム蒸着層は感光性樹脂層上に残っていた。この感光性樹脂層上を10倍ルーペで拡大して観察したところ、可溶性ポリアミド層とアルミニウム蒸着層に破れやキズは認められなかった。この版を、Cyrel Digital Imager Spark(バルコ社製)の回転ドラムにポリビニルアルコール層が表側に、支持体のPETフィルムが裏側なるように巻き付け、真空引き後、ダイオードレーザで画像形成を行った。使用した本装置のレーザー出力は4.8mW、レーザー解像度は2540dpi、レーザースポット径は直径15μmであった。回転ドラムは1500rpmで回転させた。IRアブレーション後、版を取り出して10倍ルーペで拡大して観察したところ、問題なくアルミニウム蒸着層がアブレーションされていることを確認した。また、表面層には皺やクラックなど見られず、表面状態は良好であった。
【0032】
E.製版の実施
上記IRアブレーションした、デジタル画像マスクで覆われた感光性フレキソ印刷版全面に、化学線を3分間照射し、その後A&V(株)製現像機(Stuck System)で、40℃、10分間現像した。現像液には、食器洗剤Cascade(米国P&G製)を1%添加した水道水を用いた。現像工程中、IRアブレーション層の残部(アルミニウム蒸着層、ポリビニルアルコール層)および感光性樹脂層の非照射領域は除去され、化学線の照射領域が残った。現像後、60℃で10分間乾燥し、化学線で10分間照射し、最後に表面粘着を除去するため殺菌灯を5分間照射した。
出来上がったフレキソ印刷版を10倍の拡大ルーペで検査した。印刷版表面には皺や不必要な画像は無く、2ポイントの凸部および凹文字、30μm幅の細線、100μmの直径の独立点および150lpi、1%網点全ての試験パターンが正確に形成されていた。
【0033】
実施例2
A.ポリビニルアルコールと25%引っ張り破断弾性率の測定
ポリビニルアルコール(日本合成化学工業製ゴーセノールKH−20、ケン化度80%)/ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体(三洋化成製サンフレックスSE270)/純水=10.0部/7.5部/332.5部の比率で溶解した水溶液をコートし、100℃、5分間乾燥した。コート膜を剥離して25%引っ張り破断弾性率を測定した結果、
13kgf/mm2であった。
【0034】
B.蒸着シートの作製
ケミカルマット処理を施したPETフィルム(原反は東洋紡績製のE5002で厚さ125μm)に上記ポリビニルアルコール水溶液をバーコーター#26で塗布し、100℃、3分間乾燥して、乾燥後の厚みが1.8μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜の面に、真空蒸着法により、アルミニウムを600Åの厚みに蒸着した。この時の光学濃度(OD)は3.2であった。この光学濃度(OD)は白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン(株)製造)によって測定した。
C.原版の作製
実施例1と同様に行った。
D.IRアブレーションの実施
実施例1と同様に行い、IRアブレーション後、版を取り出して10倍ルーペで拡大して観察したところ、問題なくアルミニウム蒸着層がアブレーションされていることを確認した。また、表面層には皺やクラックなど見られず、表面状態は良好であった。
E.製版の実施
実施1と同様に行った。
出来上がったフレキソ印刷版を10倍の拡大ルーペで検査した。印刷版表面には皺や不必要な画像は無く、2ポイントの凸部および凹文字、30μm幅の細線、100μmの直径の独立点および150lpi、1%網点全ての試験パターンが正確に形成されていた。
【0035】
比較例1
実施例2で用いたポリビニルアルコールであるKH20の代わりにAH26(日本合成化学工業製ゴーセノール、ケン化度94%)を使用した。このときの25%引っ張り破断弾性率は63kgf/mm2であった。その後、実施例2と同様に製版まで実施したが、アブレーション後に深い皺が発生しており、製版後、印刷版表面のベタ部やシャドー網点部分には深い伝播した溝が見られ、印刷版として使用できる状態ではなかった。
【0036】
比較例2
実施例2で用いたポリビニルアルコール(日本合成化学工業製ゴーセノールKH−20、ケン化度80%)/ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体(三洋化成製サンフレックスSE270)/純水の配合比率を10.0部/10.0部/330.0部の比率で溶解した以外は全て実施例2と同様に行った。このときの25%引っ張り破断弾性率は8kgf/mm2であった。その後、実施例2と同様に製版まで実施したが、アブレーション後に幅広い皺が多数発生しており、製版後、本来非画像部であるべき所に多数の細線状の筋があり、印刷版として使用できる状態ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上、かかる構成よりなる本発明感光性樹脂積層体は、IRアブレーション後の当該層の皺やクラックの発生を防止できるので、高精度のマスク形成が可能で、高品位の印刷画像が得られ、また、現像液時の現像液の汚れが少ないので、複数枚を連続して現像することができる等の優れた特性を有する印刷用原版として利用することができ、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層、非IR感受性高分子樹脂層およびカバーフィルムを有する感光性樹脂積層体であって、前記非IR感受性高分子樹脂層の25%引っ張り弾性率が10〜60kgf/mm2であることを特徴とする感光性樹脂積層体。
【請求項2】
IRアブレーション層がIR吸収性金属層のみである請求項1記載の感光性樹脂積層体。
【請求項3】
非IR感受性高分子樹脂層が水系現像液で除去可能である請求項1記載の感光性樹脂積層体。

【公開番号】特開2006−3706(P2006−3706A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180908(P2004−180908)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】