説明

懸架装置の支持構造

【課題】支持軸受の潤滑性を高めて耐久性の向上を図った懸架装置の支持構造を提供する。
【解決手段】ダブルアクスルサスペンションからなる懸架装置の支持構造において、上部回動機構4が、前記車体側ナックル2に固定ボルト28を介して分離可能に結合された上部枢軸29と、この上部枢軸29と車輪側ナックル1との間に装着された上部支持軸受30とを備えると共に、この上部支持軸受30が、内周にテーパ状の複列の外側転走面31aが形成された外輪31と、外周に複列の外側転走面31aに対向するテーパ状の内側転走面33aが形成された一対の内輪33と、両転走面間に転動自在に収容された複列の円錐ころ32とを備えた背面合せタイプの総ころ型複列円錐ころ軸受で構成され、この上部支持軸受30に固体潤滑剤37が充填されているので、グリースの偏りを防止して良好な潤滑性を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等、車両の懸架装置の支持構造に関し、特に、ダブルアクスルサスペンション(以下DASと呼ぶ)からなる懸架装置の支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架装置としてDASが知られている。このDASは、図5に示すように、懸架装置を構成するナックル51が、懸架装置の上下動を受持つ車体側ナックル51aと、車輪52の旋回を受持つ車輪側ナックル51bの二分割構造になっている。ここで、二股状に形成された車体側ナックル51aの下部は、ロアリンク53の外端部に回動可能に連結されている。ロアリンク53は、車幅方向内方に延びて、その内端部はサスペンションメンバー等の車体側部材(図示せず)に上下方向へ揺動可能に連結されている。また、車体側ナックル51aの上部と車体との上下方向の間にはショックアブソーバ54が配設され、このショックアブソーバ54の外周には、コイルスプリング(図示せず)が略同軸に配置されている。車輪52は、車輪側ナックル51bに対して車輪用軸受55を介して回転自在に支持されている。
【0003】
ここで、車輪側ナックル51bの上部は、図6に示すように、上部回動機構56を介して車体側ナックル51aに回動可能に支持されている。この上部回動機構56は、車体側ナックル51aに固定ボルト57を介して締結された上部枢軸58と、この上部枢軸58と車輪側ナックル51bとの間に装着された上部支持軸受59とからなる。なお、この上部支持軸受59は、例えば、複列円錐ころ軸受からなり、車輪側ナックル51bに内嵌された外輪60と、この外輪60に複列の円錐ころ61、61を介して回転自在に内挿された一対の内輪62、62を備えている。そして、上部枢軸58は一端部に鍔部58aを有し、この鍔部58aと、車輪側ナックル51bの上部と車体側ナックル51aとの間に介装された蓋部材63とで一対の内輪62、62を挟持した状態で軸方向に固定している。
【0004】
一方、車輪側ナックル51bの下部は、下部回動機構64を介して車体側ナックル51aに回動可能に支持されている。この下部回動機構64は、車体側ナックル51aに固定ボルト57を介して締結された下部枢軸65と、この下部枢軸65と車輪側ナックル51bとの間に装着された下部支持軸受66とからなる。なお、この下部支持軸受66は針状ころ軸受で構成されている。この下部回動機構64および前述した上部回動機構56で、所謂キングピン軸67が構成されている。このキングピン軸67は、車輪52の中心に対して所定の角度傾斜するように設定され、このキングピン軸67周りに、車輪側ナックル51bが回動可能となっている。
【0005】
車輪用軸受55は、車輪52を支持するハブ68と車輪側ナックル51bとの間に嵌合されている。そして、等速自在継手69によってエンジンからの回転トルクがドライブシャフト70を介してハブ68に伝達されると共に、車輪側ナックル51bに対して車輪52が車輪用軸受55を介して回転自在に支承されている。
【0006】
ここで、図示しない操舵機構を介して操舵力が車輪側ナックル51bに伝達されると、この車輪側ナックル51bは上部および下部回動機構56、64によってキングピン軸67周りに回動し、この車輪側ナックル51bに支持された車輪52が転舵される。また、車体重量は、ショックアブソーバ54、車体側ナックル51a、上部回動機構56、車輪側ナックル51bを介して車輪に支持される。そして、車両が走行路面上の凹凸を通過する等して発生する車輪52の上下動に対しては、ショックアブソーバ54の伸縮によって減衰されると共に、このショックアブソーバ54と同軸に配設されたコイルスプリングの撓みによって吸収される。
【特許文献1】EP1319533A1公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
然しながら、こうした従来のDASでは、例えば、車体側ナックル51aを支持する上部支持軸受59は、通常の軸受のように回転運動ではなく揺動運動のみであると共に、懸架装置および車両の上下動に晒され、かつ、その回転軸心が略鉛直であるため、内部に封入されている潤滑用グリースが、振動や重力によって下方に偏る傾向がある。したがって、良好、かつ安定したな潤滑性を発揮することが難しく、潤滑不良によって上部支持軸受59の耐久性が低下する恐れがあった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、支持軸受の潤滑性を高めて耐久性の向上を図った懸架装置の支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、車輪の旋回を受持つ車輪側ナックルと懸架装置の上下動を受持つ車体側ナックルの二分割構造からなり、前記車輪側ナックルが、車輪用軸受装置を介して車輪を回転自在に支持すると共に、略車幅方向に延在する前記車体側ナックルに上部および下部回動機構を介して回動可能に連結された懸架装置の支持構造において、前記上部回動機構が、前記車体側ナックルに固定ボルトを介して分離可能に結合された上部枢軸と、この上部枢軸と前記車輪側ナックルとの間に装着された上部支持軸受とを備え、この上部支持軸受に固形潤滑剤が充填されている。
【0010】
このように、ダブルアクスルサスペンションからなる懸架装置の支持構造において、上部回動機構が、車体側ナックルに固定ボルトを介して分離可能に結合された上部枢軸と、この上部枢軸と車輪側ナックルとの間に装着された上部支持軸受とを備え、この上部支持軸受に固形潤滑剤が充填されているので、グリースの偏りを防止して良好、かつ安定した潤滑性を発揮することができ、上部支持軸受の耐久性の向上を図ることができる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明のように、前記固形潤滑剤が、平均分子量約1〜5×10の超高分子量ポリエチレン95〜1wt%と、その超高分子量ポリエチレンのゲル化温度より高い融点を有するグリース5〜99wt%を有していても良いし、請求項3に記載の発明のように、発泡樹脂からなる固形成分とグリースからなる潤滑成分で構成されていても良い。
【0012】
また、請求項4に記載の発明のように、前記上部支持軸受が、前記車輪側ナックルの筒状部に内嵌され、内周にテーパ状の複列の外側転走面が形成された外輪と、外周にこれら複列の外側転走面に対向するテーパ状の内側転走面が形成された一対の内輪と、前記両転走面間に転動自在に収容された複列の円錐ころとを備えた背面合せタイプの総ころ型複列円錐ころ軸受で構成されていれば、従来と同一のスペースでより多くの円錐ころを収容することができ、上部支持軸受を高負荷容量化、高剛性化することができる。一方、円錐ころのサイズを小さく設定しても、負荷容量、剛性を確保し、省スペース化が可能となり、軽量・高剛性化を図ると共に、低コスト化を図った懸架装置の支持構造を提供することができる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明のように、前記車輪用軸受装置が、ハブ輪と複列の転がり軸受および等速自在継手がユニット化された第4世代構造からなり、外周に前記車輪側ナックルに取り付けられる車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪に内嵌される中空状の軸部を一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された前記等速自在継手の外側継手部材からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記ハブ輪と外側継手部材とが一体に塑性結合されていれば、従来のようにナット等で強固に緊締して予圧量を管理する必要がないため、軽量・コンパクト化を図ることができると共に、ハブ輪の強度・耐久性を向上させ、かつ長期間その予圧量を維持することができ、さらに、車両への組込性を簡便にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る懸架装置の支持構造は、車輪の旋回を受持つ車輪側ナックルと懸架装置の上下動を受持つ車体側ナックルの二分割構造からなり、前記車輪側ナックルが、車輪用軸受装置を介して車輪を回転自在に支持すると共に、略車幅方向に延在する前記車体側ナックルに上部および下部回動機構を介して回動可能に連結された懸架装置の支持構造において、前記上部回動機構が、前記車体側ナックルに固定ボルトを介して分離可能に結合された上部枢軸と、この上部枢軸と前記車輪側ナックルとの間に装着された上部支持軸受とを備え、この上部支持軸受に固形潤滑剤が充填されているので、グリースの偏りを防止して良好、かつ安定した潤滑性を発揮することができ、上部支持軸受の耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
車輪の旋回を受持つ車輪側ナックルと懸架装置の上下動を受持つ車体側ナックルの二分割構造からなり、前記車輪側ナックルが、車輪用軸受装置を介して車輪を回転自在に支持すると共に、略車幅方向に延在する前記車体側ナックルに上部および下部回動機構を介して回動可能に連結された懸架装置の支持構造において、前記上部回動機構が、前記車体側ナックルに固定ボルトを介して分離可能に結合された上部枢軸と、この上部枢軸と前記車輪側ナックルとの間に装着された上部支持軸受とを備えると共に、この上部支持軸受が、前記車輪側ナックルの筒状部に内嵌され、内周にテーパ状の複列の外側転走面が形成された外輪と、外周にこれら複列の外側転走面に対向するテーパ状の内側転走面が形成された一対の内輪と、前記両転走面間に転動自在に収容された複列の円錐ころとを備えた背面合せタイプの総ころ型複列円錐ころ軸受で構成され、この上部支持軸受に固形潤滑剤が充填されている。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る懸架装置の支持構造の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の車輪用軸受装置を示す縦断面図、図3は、図1の上部回動機構における上部支持軸受を示す縦断面図、図4(a)は、図3の上部支持軸受を構成する内輪、転動体サブアッセンブリーを示す縦断面図、(b)は、(a)のIV−IV線に沿った矢視図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図面左側)、中央寄り側をインナー側(図面右側)という。
【0017】
この懸架装置は、車輪(図示せず)の旋回を受持つ車輪側ナックル1と、懸架装置の上下動を受持つ車体側ナックル2との二分割構造からなるDASを構成している。車輪側ナックル1は車輪用軸受装置3を介して車輪を回転自在に支持すると共に、略車幅方向に延在してこの車輪側ナックル1の径方向外方側に位置する車体側ナックル2に上部および下部回動機構4、5を介して回動可能に連結されている。
【0018】
車輪用軸受装置3は、図2に拡大して示すように、ハブ輪6と複列の転がり軸受7および等速自在継手8がユニット化された第4世代と呼称される構成を備えている。ハブ輪6は、アウター側の端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジ9を一体に有し、その円周等配位置にハブボルト9aが植設されている。ハブ輪6はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼からなり、その内周面に凹凸部10が形成され、高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、凹凸部10はアヤメローレット状に形成され、旋削等により独立して形成された複数の環状溝と、ブローチ加工等により形成された複数の軸方向溝とを略直交させて構成した交叉溝、あるいは、互いに傾斜した螺旋溝で構成した交叉溝からなる。また、凹凸部10の凸部は良好な食い込み性を確保するために、その先端部が三角形状等の尖塔形状に形成されている。
【0019】
複列の転がり軸受7は、外方部材11と内方部材12と複列の転動体(ボール)13、13とを備えている。外方部材11は、外周に車輪側ナックル1に取り付けられる車体取付フランジ11bを一体に有し、内周に複列の外側転走面11a、11aが形成されている。
【0020】
一方、内方部材12は、ハブ輪6と、このハブ輪6の小径段部6bに突合せ状態に内嵌される後述する外側継手部材17で構成され、外周に複列の外側転走面11a、11aに対向する一方(アウター側)の内側転走面6aがハブ輪6の外周に、他方(インナー側)の内側転走面17aが外側継手部材17の外周にそれぞれ形成されている。そして、複列の転動体13、13がこれら転走面11a、6aと11a、17a間にそれぞれ収容され、保持器14、14によって転動自在に保持されている。また、外方部材11の端部にはシール15、16が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0021】
等速自在継手8は、外側継手部材17と継手内輪18とケージ19およびトルク伝達ボール20を備えている。外側継手部材17は、カップ状のマウス部21と、このマウス部21の底部をなす肩部22と、この肩部22から軸方向に延びる中空の軸部23とを有している。この軸部23の外周には、ハブ輪6の小径段部6bに内嵌される小径段部23aと、この小径段部23aから軸方向に延びる嵌合部23bとが一体に形成されている。マウス部21の開口側の外周にはブーツ24が装着され、中空の軸部23に装着されたエンドキャップ25とで、マウス部21内に封入されたグリースの漏洩と、外部から雨水やダスト等が継手内部に侵入するのを防止している。
【0022】
また、外側継手部材17はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、肩部22から軸部23の小径段部23aに亙って高周波焼入れによって、表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、軸部23の嵌合部23bは鍛造後の硬さのままとされている。
【0023】
ここで、ハブ輪6と外側継手部材17の固定は塑性結合によって行われる。すなわち、外側継手部材17の軸部23をハブ輪6に内嵌すると共に、中空の軸部23にマンドレル等の拡径治具を押し込んで嵌合部23bを拡径し、この嵌合部23bをハブ輪6の凹凸部10に食い込ませて加締め、ハブ輪6と外側継手部材17とが一体に結合されている。これにより、従来のようにナット等で強固に緊締して予圧量を管理する必要がないため、軽量・コンパクト化を図ることができると共に、ハブ輪6の強度・耐久性を向上させ、かつ長期間その予圧量を維持することができる。さらに、車両への組込性を簡便にすることができる。なお、ハブ輪6と外側継手部材17の固定はこれ以外にも、図示はしないが、例えば、外側継手部材17の軸部23をハブ輪6に内嵌すると共に、軸部23の端部を径方向外方に塑性変形させて加締部を形成し、この加締部によってハブ輪6と外側継手部材17とを、所謂揺動加締で塑性結合しても良い。
【0024】
図1において、車輪側ナックル1の下部は、下部回動機構5を介して車体側ナックル2に回動可能に支持されている。この下部回動機構5は、車体側ナックル2に固定ボルト25を介して締結された下部枢軸26と、この下部枢軸26と車輪側ナックル1との間に装着された下部支持軸受27とからなる。この下部支持軸受27は針状ころ軸受からなる。
【0025】
一方、上部回動機構4は、車体側ナックル2に固定ボルト28を介して固定された上部枢軸29と、この上部枢軸29と車輪側ナックル1の筒状部1aとの間に装着された上部支持軸受30とを備えている。この上部回動機構4と前述した下部回動機構5とでキングピン軸K/Sが構成されている。このキングピン軸K/Sは、車輪の中心に対して所定の角度傾斜するように設定され、車体側ナックル2に対してこのキングピン軸K/Sの周りに車輪側ナックル1が回動可能となっている。
【0026】
上部支持軸受30は、図3に拡大して示すように、車輪側ナックル1の筒状部1aに内嵌され、内周に複列のテーパ状の外側転走面31a、31aが形成された外輪31と、この外輪31に複列の円錐ころ32、32を介して回転自在に内挿され、外周にテーパ状の内側転走面33aが形成された一対の内輪33、33とを備え、一対の内輪33、33の小径側端面が突き合された状態でセットされた背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。外輪31と内輪33および円錐ころ32はSUJ2等の高炭素クロム鋼からなり、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0027】
また、複列の円錐ころ32、32は保持器34、34を介して周方向等間隔に保持されていると共に、一対の内輪33、33の小径側端部33bには断面が略コの字型に形成された環状の連結環35が装着され、一対の内輪33、33が一体に連結されている。この連結環35は、鋼板をプレス加工にて形成され、表面に硬化処理が施されている。この連結環35により、上部支持軸受30の分解・組立性が向上する。
【0028】
また、外輪31と内輪33との間に形成される環状空間の開口部にはシール36、36が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から軸受内部に雨水やダスト等の異物が侵入するのを防止している。
【0029】
ここで、本実施形態では、上部支持軸受30の複列の円錐ころ32、32が保持器34、34によって保持されたものを例示したが、この保持器34、34が廃止された、所謂総ころタイプで構成されていても良い。これにより、従来と同一のスペースでより多くの円錐ころ32を収容することができ、上部支持軸受30を高負荷容量化、高剛性化することができる。一方、円錐ころ32のサイズを小さく設定しても、負荷容量、剛性を確保し、省スペース化が可能となる。なお、この種の支持軸受は、通常の軸受のように回転することなく揺動運動のみであるため、総ころタイプであっても極めて周速が低く発熱や異音の発生はない。
【0030】
さらに、本実施形態では、図4(b)に示すように、保持器34が廃止された総ころタイプであっても、上部支持軸受30の組立時に円錐ころ32の脱落等を防止し、安定して円錐ころ32を保持するために固形潤滑剤37が充填されている。これにより、グリースの偏りを防止して良好、かつ安定したな潤滑性を発揮することができ、上部支持軸受30の耐久性の向上を図ることができる。
【0031】
この固形潤滑剤37は、プラスチックグリース、ポリルーブ等の商品名で知られているものであり、平均分子量約1〜5×10の超高分子量ポリエチレン95〜1wt%と、その超高分子量ポリエチレンのゲル化温度より高い融点を有するグリース5〜99wt%とからなる(特公昭63−23239号公報参照)。
【0032】
その他の例として、平均分子量約1〜5×10の超高分子量ポリエチレン95〜1wt%と、その超高分子量ポリエチレンのゲル化温度より高い融点を有するグリース5〜99wt%に、粒径1〜100μmの前記超高分子量ポリエチレン粉末95〜1wt%を混合して前記ゲル化点以上の温度で分散保持させたものでも良い。
【0033】
また、前述した固形潤滑剤37以外にも、発泡樹脂からなる固形成分とグリース等からなる潤滑成分とからなる、所謂発泡グリースからなる固形潤滑剤であっても良い。この発泡グリースは、軸受空間全域に充填された発泡ウレタン、発泡ポリエチレンあるいはポリアミド樹脂等からなる発泡樹脂と、この発泡樹脂の気泡中に侵入させたグリースからなる。
【0034】
なお、ここでは、上部支持軸受30が総ころ型の複列円錐ころ軸受で構成され、この上部支持軸受30に固形潤滑剤が充填されたものを例示したが、これに限らず、下部支持軸受27を総ころ型針状ころ軸受で構成し、この下部支持軸受27に固形潤滑剤を充填しても良い。これにより、下部支持軸受27をも高負荷容量化、高剛性化することができると共に、グリースの偏りを防止して良好な潤滑性が得られ、耐久性を向上させることができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る懸架装置の支持構造は、懸架装置を構成するナックルが、懸架装置の上下動を受持つ車体側ナックルと、車輪の旋回を受持つ車輪側ナックルの二分割構造からなるDASに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る懸架装置の支持構造の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図3】図1の上部支持軸受を示す縦断面図である。
【図4】(a)は、総ころタイプの上部支持軸受を構成する内輪、転動体サブアッセンブリーを示す縦断面図である。 (b)は、(a)のIV−IV線に沿った矢視図である。
【図5】従来の懸架装置を示す模式図である。
【図6】従来の懸架装置の支持構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1・・・・・・・・・・・・車輪側ナックル
1a・・・・・・・・・・・筒状部
2・・・・・・・・・・・・車体側ナックル
3・・・・・・・・・・・・車輪用軸受装置
4・・・・・・・・・・・・上部回動機構
5・・・・・・・・・・・・下部回動機構
6・・・・・・・・・・・・ハブ輪
6a、17a、33a・・・内側転走面
6b、23a・・・・・・・小径段部
7・・・・・・・・・・・・複列の転がり軸受
8・・・・・・・・・・・・等速自在継手
9・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
9a・・・・・・・・・・・ハブボルト
10・・・・・・・・・・・凹凸部
11・・・・・・・・・・・外方部材
11a、31a・・・・・・外側転走面
12・・・・・・・・・・・内方部材
13・・・・・・・・・・・転動体
14、34・・・・・・・・保持器
15、16、36・・・・・シール
17・・・・・・・・・・・外側継手部材
18・・・・・・・・・・・継手内輪
19・・・・・・・・・・・ケージ
20・・・・・・・・・・・トルク伝達ボール
21・・・・・・・・・・・マウス部
22・・・・・・・・・・・肩部
23・・・・・・・・・・・軸部
23b・・・・・・・・・・嵌合部
24・・・・・・・・・・・ブーツ
25・・・・・・・・・・・エンドキャップ
26・・・・・・・・・・・下部枢軸
27・・・・・・・・・・・下部支持軸受
28・・・・・・・・・・・固定ボルト
29・・・・・・・・・・・上部枢軸
30・・・・・・・・・・・上部支持軸受
31・・・・・・・・・・・外輪
32・・・・・・・・・・・円錐ころ
33・・・・・・・・・・・内輪
33b・・・・・・・・・・小径側端部
35・・・・・・・・・・・連結環
37・・・・・・・・・・・固形潤滑剤
51・・・・・・・・・・・ナックル
51a・・・・・・・・・・車体側ナックル
51b・・・・・・・・・・車輪側ナックル
52・・・・・・・・・・・車輪
53・・・・・・・・・・・ロアリンク
54・・・・・・・・・・・ショックアブソーバ
55・・・・・・・・・・・車輪用軸受
56・・・・・・・・・・・上部回動機構
57・・・・・・・・・・・固定ボルト
58・・・・・・・・・・・上部枢軸
58a・・・・・・・・・・鍔部
59・・・・・・・・・・・上部支持軸受
60・・・・・・・・・・・外輪
61・・・・・・・・・・・円錐ころ
62・・・・・・・・・・・内輪
63・・・・・・・・・・・蓋部材
64・・・・・・・・・・・下部回動機構
65・・・・・・・・・・・下部枢軸
66・・・・・・・・・・・下部支持軸受
67・・・・・・・・・・・キングピン軸
68・・・・・・・・・・・ハブ
69・・・・・・・・・・・等速自在継手
70・・・・・・・・・・・ドライブシャフト
K/S・・・・・・・・・・キングピン軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の旋回を受持つ車輪側ナックルと懸架装置の上下動を受持つ車体側ナックルの二分割構造からなり、前記車輪側ナックルが、車輪用軸受装置を介して車輪を回転自在に支持すると共に、略車幅方向に延在する前記車体側ナックルに上部および下部回動機構を介して回動可能に連結された懸架装置の支持構造において、
前記上部回動機構が、前記車体側ナックルに固定ボルトを介して分離可能に結合された上部枢軸と、この上部枢軸と前記車輪側ナックルとの間に装着された上部支持軸受とを備え、この上部支持軸受に固形潤滑剤が充填されていることを特徴とする懸架装置の支持構造。
【請求項2】
前記固形潤滑剤が、平均分子量約1〜5×10の超高分子量ポリエチレン95〜1wt%と、その超高分子量ポリエチレンのゲル化温度より高い融点を有するグリース5〜99wt%を有している請求項1に記載の懸架装置の支持構造。
【請求項3】
前記固形潤滑剤が、発泡樹脂からなる固形成分とグリースからなる潤滑成分で構成されている請求項1に記載の懸架装置の支持構造。
【請求項4】
前記上部支持軸受が、前記車輪側ナックルの筒状部に内嵌され、内周にテーパ状の複列の外側転走面が形成された外輪と、外周にこれら複列の外側転走面に対向するテーパ状の内側転走面が形成された一対の内輪と、前記両転走面間に転動自在に収容された複列の円錐ころとを備えた背面合せタイプの総ころ型複列円錐ころ軸受で構成されている請求項1乃至3いずれかに記載の懸架装置の支持構造。
【請求項5】
前記車輪用軸受装置が、ハブ輪と複列の転がり軸受および等速自在継手がユニット化された第4世代構造からなり、外周に前記車輪側ナックルに取り付けられる車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪に内嵌される中空状の軸部を一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された前記等速自在継手の外側継手部材からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記ハブ輪と外側継手部材とが一体に塑性結合されている請求項1乃至4いずれかに記載の懸架装置の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−121708(P2008−121708A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303017(P2006−303017)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】