説明

成形回路部品の製造方法

【課題】触媒に含まれる貴重な貴金属の省資源化ができると共に、基体を粗面化しないでも密着性に優れる精密な3次元的な導電性回路を形成する。
【解決手段】第1の基体1の表面にOH基1aを生成した後にチオール反応性アルコキシシラン化合物からなる機能性分子接着剤2を塗布して加熱乾燥する。アルコール洗浄によって未反応の機能性分子接着剤2を除去後に、ポリグリコール酸からなる被覆材3を部分的に被覆して第2の基体4を形成する。第2の基体4の表面に触媒5を付与後に、被覆材3の表面に残存する触媒を水洗除去する。被覆材3で被覆されていない部分に、浴組成が酸性または中性のいずれかの無電解めっきAを行なった後で被覆材をアルカリ水溶液で除去する。機能性分子接着剤2が第1の基体1の表面のOH基と化学結合してチオール基を生成し、このチオール基が触媒5を介して無電解めっきAと強固に化学結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材からなる基体に、三次元的な導電性回路を形成した成形回路部品の製造方法に関し、特に絶縁材からなる基体に機能性分子接着剤を付与し、この機能性分子接着剤を介して、基体に無電解めっき等による導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より絶縁材からなる基体の表面に、無電解めっきによって、選択的に導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法が各種提案されている。これらの製造方法においては、無電解めっき層と、被めっき体である基体との密着性を確保することが必要である。そこで従来より、無電解めっき層と基体との密着性を確保する手段として、予め基体の表面をアルカリ溶液等によってエッチングして、粗面化しておく手段が提案されている(例えば特許文献1、2、及び3参照。)。
【0003】
これらの成形回路部品の製造方法は、いずれも粗化した基体の表面を被覆材で部分的に被覆して、触媒を付与した後に被覆材を除去する。そして被覆材で被覆されていなかったために触媒が付着した基体の表面部分に、無電解めっきを行って導電性回路を形成するものである。したがってこの被覆材は、触媒付与後の工程において、簡単に溶出して除去できるものが望ましい。このため特許文献1および2に記載の製造方法では、被覆材として、容易に水に溶出して除去できる高分子材料であるポリビニルアルコール系樹脂を使用している。また特許文献3に記載の製造方法では、容易にアルカリ性溶液で加水分解して除去できる高分子材料であるポリ乳酸等を使用している。
【0004】
また無電解めっき層と基体との密着性を確保する他の手段として、チオール反応性アルコキシシラン化合物である機能性分子接着剤を付与する手段が提供されている(特許文献4参照。)。この手段は、基体の表面にプラズマ処理等によってOH基を生成した後に、機能性分子接着剤を付与して加熱乾燥する。この加熱乾燥によって、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基は、基体の表面に生成したOH基と反応して化学結合すると共に、この基体の表面に反応性チオール基(SH基)を導入する。次に、このSH基を導入した基体を、導電性回路を形成すべき部分からなる樹脂等のマスクで覆って紫外線を照射する。紫外線を照射したSH基は、ジスルフィド基(SS基)に変化するが、マスクで覆われて紫外線の照射に曝されなかった導電性回路を形成すべき部分は、SH基の状態がそのまま保持される。
【0005】
次にマスクを外して、上記基体に触媒を付与する。触媒は基体の表面に導入されたSH基と化学的に結合するが、紫外線を照射したSS基とは結合しない。そこで水洗すると、導電性回路を形成すべき部分以外に付着した触媒は、容易に脱落し、導電性回路を形成すべき部分にのみ触媒が残存する。このように触媒を付与した基体を無電解めっき液に浸漬すると、触媒が残存する導電性回路を形成すべき部分にのみ、無電解めっきが析出する。この無電解めっきは、触媒を介して、基体の表面に導入されたSH基との化学結合により基体と強固に結合する。
【特許文献1】特開平11−145583号公報(1〜4頁)
【特許文献2】特開2000−80480号公報(1〜8頁)
【特許文献3】特開2002−344116号公報(1〜4頁)
【特許文献4】特開2008−005041号公報(1〜14頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、絶縁材からなる基体の全表面に、上述した機能性分子接着剤を付与し、この機能性分子接着剤の表面を、射出成形による被覆材によって部分的に被覆して、被覆されない部分に、無電解めっきによる三次元的な導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法の着想を得た。しかるにこの製造方法には、次の解決すべき課題があることが判明した。すなわち上述した特許文献1及び2に記載の方法においては、いずれも被覆材として、後工程において溶出除去が容易な、水溶性のポリビニルアルコール系樹脂等の高分子材料を使用しているため、触媒付与の工程において、この被覆材の表面が膨潤して親水性となり、その結果、被覆材の表面に付着した触媒が、洗浄しても除去できないという問題がある。このため、後工程において被覆材を溶解除去するときに、触媒も一緒に溶解液に混入し、溶解液の廃却と共に、混入した触媒も廃棄される。しかるに触媒には、パラジウムや金等の希少金属が用いられるため、これらの貴重な貴金属に対する省資源化を図る必要がある。
【0007】
また上記特許文献3に記載の方法においては、被覆材として、加水分解性のポリ乳酸や脂肪族ポリエステル等の高分子材料を使用し、触媒を付与した後に、加水分解を促進するアルカリ性溶液を用いて被覆材を除去するため、この被覆材の除去工程において、被覆材で被覆されていない基体の表面部分、すなわち導電性回路を形成する部分に付与された触媒までもが、このアルカリ性溶液の洗浄効果によって脱落し、その結果、この導電性回路を形成する部分に、無電解めっきが十分析出しないという問題がある。
【0008】
さらに上述した特許文献1〜4の手段では、いずれも被覆材を除去後に無電解めっきを行なっているため、いわゆる通常行なわれるバレルめっき(すなわち基体を容器内にバラバラな状態で投入し、容器をめっき浴槽内で回転させる。)では、無電解めっきの初期段階において、触媒付与面が互いに擦れ合って触媒が脱落し、めっきの未着不良が生じ易い。
【0009】
そこで本願発明の目的は、絶縁材からなる基体との密着性に優れる三次元的な導電性回路が容易に形成できると共に、触媒に含まれる貴重な貴金属の省資源化が可能な、環境性に優れる成形回路部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明による成形回路部品の製造方法の特徴は、基体の表面を粗化する替わりに、機能性分子接着剤を介して、この基体の表面と無電解めっきとを強固に密着させること、機能性分子接着剤付与前に、基体の表面にOH基を生成すること、導電性回路を形成するために、基体の表面を部分的に覆う被覆材として耐酸性の樹脂を用いること、触媒付与後に被覆材の表面に残存する触媒を水洗除去すること、無電解めっきを酸性または中性のいずれかの浴組成で行なうこと、被覆材の除去は、無電解めっき後に行なうことにある。
【0011】
すなわち、この成形回路部品の製造方法の第1の特徴は、絶縁体からなる第1の基体を成形する第1工程と、この第1の基体の表面に、OH基を生成する第2工程と、このOH基を生成した第1の基体の表面に、下記一般式(化1)で表わされるチオール反応性アルコキシシラン化合物の一種または2種以上である機能性分子接着剤を付与する第3工程と、この機能性分子接着剤を付与した第1の基体を加熱または減圧のいずれかによって乾燥する第4工程と、この乾燥させた第1の基体を、アルコール洗浄する第5工程と、このアルコール洗浄した第1の基体の表面に、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体からなる被覆材を、部分的に被覆して第2の基体を形成する第6工程と、上記第2の基体の表面に触媒を付与する第7工程と、上記被覆材の表面に残存する上記触媒を、水洗除去する第8工程と、上記第2の基体の表面であって、上記被覆材で被覆されていない部分に、浴組成が酸性または中性のいずれかの無電解めっきAをする第9工程と、上記被覆材を除去する第10工程とを備えることにある。
【0012】
【化1】

【0013】
(上記化学式におて、Rは、水素原子または炭化水素基を示し、Rは炭化水素鎖または異種原子もしくは官能基が介在してもよい炭化水素鎖を示し、Xは、水素原子または炭化水素基を示し、Yはアルコキシ基を示し、nは1から3までの整数あり、Mはアルカリ金属である。)
【0014】
この成形回路部品の製造方法の第2の特徴は、前記第6工程を、前記第2工程と第3工程との間に移動したことにある。
【0015】
この成形回路部品の製造方法の第3の特徴は、前記Rが、硫黄原子、窒素原子、またはカルバモイル基もしくはウレア基のいずれかの1を介在させた炭化水素鎖であることにある。
【0016】
この成形回路部品の製造方法の第4の特徴は、前記Rが、H−,CH−,C−,n−C−,CH=CHCH−,n−C−、C−,またはC11−のいずれかの1であり、前記Rは、−CHCH−,−CHCHCH−,−CHCHCHCHCHCH−,−CHCHSCHCH−,−CHCHCHSCHCHCH,−CHCHNHCHCHCH2−,−(CHCH)NCHCHCH−,−C−,−C−,−CHCH−,−CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−,−CHCHOCONHCHCHCH−,−CHCHNHCONHCHCHCH−,または−(CHCH)CHOCONHCHCHCH−のいずれかの1であり、前記Xが、H−,CH−,C−n−C−,i−C, n−C−,i−C−,またはt−C−のいずれかの1であり、前記Yが、CHO−,CO−,n−CO−,i−CO−,n−CO−,i−CO−,またはt−CO−のいずれかの1であり、前記Mが、Li,Na, K,またはCsのいずれかの1であることにある。
【0017】
この成形回路部品の製造方法の第5の特徴は、前記第1〜4の特徴のいずれかの1において、前記第9工程と第10工程との間に、前記無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの電解めっきAを積層する第9.5A工程を備えることにある。
【0018】
この成形回路部品の製造方法の第6の特徴は、前記第1〜第4の特徴のいずれかの1において、前記第10工程の後に、前記無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の電解めっきB、または無電解めっきBのいずれかを積層する第11A工程を備えることにある。
【0019】
この成形回路部品の製造方法の第7の特徴は、前記第1〜第4、または第6の特徴のいずれかの1において、前記第9工程と第10工程との間に、前記無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの無電解めっきCを積層する第9.5B工程を備えることにある。
【0020】
この成形回路部品の製造方法の第8の特徴は、前記第5の特徴において、前記第10工程の後に、前記電解めっきAの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の電解めっきD、または無電解めっきDのいずれかを積層する第11B工程を備えることにある。
【0021】
ここで「絶縁体からなる第1の基体」は、3次元的な立体形状のものに限らず、平板状のものであってもよく、表裏面等の相異なる面を開口孔で連結したものも含む。「絶縁体」としては、熱可塑性樹脂が望ましいが、熱硬化性樹脂であってもよい。かかる樹脂としては、例えば芳香族系液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリアミド、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ノルボルネン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が該当する。
【0022】
これらの樹脂には、所要の性質、機能を付加するための各種の配合または添加成分を含有してもよい。たとえば、熱による変形を防ぐため補強する場合には、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、湿式及び乾式シリカなどの充填剤やレーヨン、ナイロン、ポリエステル、ビニロン、スチール、ケブラ(デュポン社の商品名)、炭素繊維、あるいはガラス繊維などの繊維や布を入れたり、過酸化物などの架橋剤や多官能性モノマーを加えたりしてもよい。
【0023】
「OH基を生成する」手段には、例えばコロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、あるいはUV照射のような公知の手段を使用することができる。また「機能性分子接着剤を付与する」手段としては、例えば機能性分子接着剤の溶液に浸漬、あるいはこの溶液を噴霧したり刷毛塗りしたりする手段が該当する。なおここで機能性分子接着剤の溶液とは、機能性分子接着剤を、水をはじめ、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、若しくはジエチレングリコールなどのアルコール類、アセトン若しくはメチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、塩化メチレンなどのハロゲン化物、ブタン若しくはヘキサンなどのオレフィン類、テトラヒドロフラン若しくはブチルエーテルなどのエーテル類、ベンゼン若しくはトルエンなどの芳香族類、ジメチルホルムアミド若しくはメチルピロリドンなどのアミド類等、またはこれらを混合した溶剤に溶解したものを意味する。
【0024】
「ポリグリコール酸」とは、例えば、株式会社クレハ製の図17に示す化学構造式のものが該当する。「ポリ乳酸」とは、例えば、三井化学株式会社製のレイシア♯H−100J/Fが該当する。「脂肪族ポリエステル」とは、例えば、ポリヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、脂肪族多価塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル、ヒドロキシカルボン酸や脂肪族多価アルコールから選ばれた複数種のモノマー成分と、脂肪族多価塩基酸から選ばれる複数種のモノマー成分とからなるランダム共重合体やブロック共重合体などが該当する。
【0025】
このポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合量、共重合量は、混合体又は共重合体の全量に対して1〜10重量%程度がよい。アルカリ分解促進剤を、混合体全量に対して1〜100重量%程度、混合してもよい。また必要に応じてアルカリ分解促進剤、有機無機充填剤、着色剤などの、合成樹脂に使用できる汎用の添加剤を混合してもよい。
【0026】
「部分的に被覆する」とは、後工程において導電性回路を形成すべき部分以外の部分を、選択的に被覆するということを意味している。「第2の基体」とは、第1の基体と、この第1の基体の表面に付与して加熱処理等をした機能性分子剤接着剤と、この機能性分子剤接着剤を部分的に被覆した被覆材とからなる部材を意味する。「触媒」とは、後工程における無電解めっきを最初に析出させる金属を意味し、パラジウム、金、あるいは銀等の貴金属が該当する。
【0027】
「水洗除去」とは、疎水性を維持している被覆材の表面に残存している触媒を、水洗によって洗い流すことを意味する。この水洗は、pH7以上の中性からアルカリ組成の洗浄水を使用し、例えば15〜70℃の洗浄水に、第2の基体を5〜120秒間浸して攪拌したり、100〜170℃の洗浄水の蒸気を、第2の基体に高圧で噴き付けたりして行なう。「浴組成」とは、無電解めっき液のpH(水素イオン濃度)を意味しており、「浴組成が酸性または中性」とは、無電解めっき液、または電解めっき液のpHが7以下であることを意味する。なお本願発明においては、無電解めっきの「浴組成」が、7〜7.5程度の弱アルカリ性であっても、酸性または中性の浴組成と同様に作用するが、無電解めっき液の劣化を早めるため注意が必要である。
【発明の効果】
【0028】
被覆材として、加水分解によって容易に除去でき、かつ触媒液によって膨潤することなく疎水性を維持できるポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体を使用することによって、触媒付与の際に、触媒が被覆材に強固に密着することを防止できる。そして触媒付与後に水洗浄の工程を設けることによって、被覆材の疎水性の表面に残存する触媒を、容易かつ確実に除去できるので、この洗浄水に洗い出された触媒を容易に分離回収可能となり、高価な貴金属の省資源化が可能となる。また上記被覆材は耐酸性を有するので、無電解めっき若しくは電解めっきを、酸性または中性のいずれかの浴組成で行なうことによって、この被覆材の溶解等を防止して、導電性回路を精密に形成することができる。
【0029】
さらに被覆材の溶解除去を、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを形成した後に行うことによって、無電解めっき前に被覆材の溶解除去をする従来手法の問題点、すなわち被覆材の除去に用いるアルカリ性の溶解液によって、被覆材で被覆されていない第1の基体の表面に付与した触媒までもが脱落してしまうという問題を回避できるので、無電解めっきを十分に析出させることができる。また被覆材を除去した後は、被覆材の溶解等を考慮する必要がなくなるため、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれであっても、この被覆材の除去前に行った電解めっき、または無電解めっきに重ねて、さらに電解めっき、または無電解めっきを積層することができる。
【0030】
また無電解めっき、または電解めっきの上に、重ねて無電解めっき、または電解めっきを積層することによって、成形回路の厚みや強度等を増大させることができる。また材質の異なるめっきを積層することによって、成形回路に半田付け性の向上等、他の有用な特性を付与することができる。さらに被覆材の溶解除去を、無電解めっきを形成した後に行うことによって、無電解めっきの際には、導電性回路を形成する部分の周囲を、被覆材の壁で取囲まれた状態にすることができる。このためバレルめっきを行なう場合にも、被覆材の壁によって、触媒付与が付与された導電性回路を形成する部分が、相互に擦れ合うことを回避でき、めっきの未着不良が生じることが防止できる。
【0031】
以上の本願発明に特有の効果に加え、第1の基体の表面に、機能性分子接着剤を介して無電解めっきを積層することによって、次の公知の作用効果も、併せて発揮することができる。すなわち機能性分子接着剤によって、第1の基体と無電解めっきとを強固に密着させることができるため、従来のように第1の基体の表面を、六価クロム酸によるエッチングにより粗化する必要がなくなる。したがって環境管理物資である六価クロム酸を排除することができる。また従来の六価クロム酸によるエッチングは湿式工程であるため、生成回路部品の製造工程の途中で、その他の乾式工程を行なう工場から、一旦湿式工程を行なう工場に搬出する必要がある。しかるにこの湿式工程を削除することによって、乾式工程の工場内で生成回路部品の製造が可能となるため、大幅な製造コストの削減が可能となる。
【0032】
また第1の基体の表面を粗化しないため、疲労強度の向上と、無電解めっき表面の平滑性の向上とが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1〜図17を参照しつつ、本発明による成形回路部品の製造方法の具体例を説明する。さて図1に示すように、第1工程として、絶縁体からなる熱可塑性樹脂を射出成形して、ブロック形状の第1の基体1を形成する。ここで熱可塑性樹脂としては、芳香族系液晶ポリマーを使用する。次に図2に示すように、第2工程として、第1の基体1の全表面に、大気圧プラズマ処理を施して、OH基1aを導入、結合させる。なお大気圧プラズマ処理は、公知の大気圧プラズマ発生装置(例えば、松下電工(株)製、Aiplasuma)等を使用し、例えばプラズマ処理速度:10〜100mm/s、電源:200又は220 V AC(30A)、圧縮エア:0.5MPa(1NL/min)、電力:100W、照射時間:0.1秒〜60秒の処理条件で行う。
【0034】
次に図3に示すように、第3工程として、OH基1aを生成した第1の基体1の表面に、機能性分子接着剤2を付与する。すなわち機能性分子接着剤2は、図14に示す化学式(化2)を有するトリエトキシシリルプロピルトリアジンジチオール(Triethoxysiyl Propyl Triazinedithiols:TESTD)であって、その0.1gを、エタノール/水混合溶媒100ml(エタノール95g:水5g)に溶解した溶液に、OH基1aを生成した第1の基体1を、溶液温度を20℃にして1分間浸漬する。次に図4に示すように、第4工程として、機能性分子接着剤2を付与した第1の基体1を、オーブン、ドライヤー、または高周波加熱等のいずれかを用いて、温度範囲:50〜200℃にて、1〜60分間、加熱乾燥する。
【0035】
加熱乾燥した後は、図15に示すように、機能性分子接着剤2は、そのアルコキシシル基が、第1の基体1の表面に生成されたOH基1aと反応して、強固に化学結合すると共に、反応性チオール基(SH基)が導入される。次いで図5に示すように、第5工程として、加熱乾燥した第1の基体1をアルコール洗浄すると、OH基1aと接触しない上層部の未反応の機能性分子接着剤2が除去される。なお未反応の機能性分子接着剤2を除去した後には、第1の基体1の表面と強固に化学結合した、厚さが1〜数nm程度の極めて薄い機能性分子接着剤2の層が、この第1の基体の表面に形成される。
【0036】
さて次に図6に示すように、第6工程として、機能性分子接着剤2を付与した第1の基体1の表面に、被覆材3を部分的に被覆して、第2の基体4を形成する。被覆材3としては、ポリグリコール酸の単体を使用するが、これに限らず、ポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体を使用してもよい。これらの樹脂は、アルカリ水溶液で加水分解する性質を有し、酸性水溶液に対して耐性を示す性質がある。被覆の方法としては、射出成形金型内に、機能性分子接着剤2を付与した第1の基体1をセットして、この第1の基体の表面のうち、所定の導電性回路が形成されるべき部分2bを金型等で覆い、それ以外の部分、すなわち導電性回路を形成しない部分2aの表面に形成されるキャビティ内に、ポリ乳酸樹脂を注入することにより、被覆材3を一体的に形成する。なお被覆材3の厚さは、0.1〜1mmが望ましく、0.3〜0.5mmが、さらに望ましい。
【0037】
次に図7に示すように、第7工程として、第2の基体4の全表面に、触媒5を付与する。触媒5の付与は、例えば室温の塩化パラジウム溶液中に、第2の基体4を5分間程度浸漬して行なう。なお触媒5の付与手段は、上述したパラジウム塩の水溶液に限らず、金塩、白金塩、銀塩、または塩化錫等のいずれかの1の水溶液に、第2の基体4を浸漬等してもよい。
【0038】
次に図8に示すように、第8工程として、触媒5を付与した第2の基体4を水洗浄すると、被覆材3は疎水性であるため、この被覆材の表面に残存する触媒5aは、全て脱落除去できる。一方被覆材3で覆われていない、導電性回路が形成されるべき部分に付与された触媒5bは、図16に示すように、機能性分子接着剤2の反応性チオール基(SH基)と、強固に化学的に結合するため、水洗浄によっても脱落することはない。したがって水洗浄後は、図8に示すように、被覆材3で覆われていない、導電性回路が形成されるべき部分にだけ触媒5bが残存する。なおこの水洗浄は、第2の基体4を、温度15〜25℃の水槽に浸して、5〜30秒間、ワークを遥動して行なう。
【0039】
次に図9に示すように、第9工程として、第2の基体4の表面であって、被覆材3で被覆されていない部分、すなわち触媒5bが残存する部分に、無電解めっきAとして、浴組成が酸性の無電解ニッケルめっき6を行い、導電性回路を形成する。無電解ニッケルめっき6は、例えば、pH4.7、温度90℃の酸性浴に、35分間浸漬して行なう。無電解めっきAは、上述したように、第1の基体1と強固に化学結合した触媒5を核として析出するため、この第1の基体1の表面に強固に密着する。
【0040】
次に図10に示すように、第10工程として、第2の基体4の表面を被覆した被覆材3を、アルカリ性溶液によって除去する。上述したように被覆材3のポリ乳酸等は、酸性水溶液に対して耐性を示すが、アルカリ水溶液では簡単に加水分解するので、第2の基体4を、濃度2〜15重量%、温度25〜70℃の苛性アルカリ(NaOH、KOHなど)水溶液中に、1〜120分程度浸漬して、被覆材3を除去する。したがって手作業によるマスク除去に比べ作業効率が著しく向上する。かかる場合、被覆材3で被覆されていない部分は、既に、無電解ニッケルめっき6による導電性回路が形成されているので、この部分の触媒が、この被覆材を加水分解するアルカリ性の溶液によって脱落するという従来の問題点とは、全く無縁となる。
【0041】
さて図11に示すように、上述した第9工程(無電解めっきA)と、第10工程(被覆材3の除去)との間に、この無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性または中性の電解めっきAからなる電解銅めっき7を行なって、二次めっき層を形成する第9.5A工程を挿入することができる。電解銅めっきを行う場合、酸性の硫酸銅浴の浴組成は、例えばCuSO・5HO(75g)/lHSO(190g)/lCl(60ppm)/添加剤(適量)とする。また陽極材料を含リン銅として、浴温度は25℃に設定し、陰極電流密度を2.5A/dm2とする。
【0042】
このように第10の工程の前、すなわち被覆材3の除去前に、浴組成が酸性または中性の電解銅めっき7を行なう9.5A工程を挿入しても、この被覆材は、耐酸性を有するので、この電解銅めっきの溶液に溶解することはなく、無電解めっき6を形成した導電性回路の表面上に、正確に二次めっき層を形成することができる。
【0043】
また図11において、電解めっきAに替えて、無電解めっきCからなる無電解銅めっき7を行なうこともできる。すなわち上述した第9工程(無電解めっきAからなる無電解ニッケルめっき6)と、第10工程(被覆材3の除去)との間に、この無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性または中性の無電解めっきCからなる無電解銅めっき7を行なって、二次めっき層を形成する第9.5B工程を挿入することができる。
【0044】
さて図12は、図10に示す無電解めっきA、すなわち第10工程において被覆材3を除去した後の無電解ニッケルめっき6の上に、重ねて電解めっきBからなる電解銅めっき6、または無電解めっきBからなる無電解銅めっき6のいずれかを積層する第11A工程を示している。この電解めっきBまたは無電解めっきBは、いずれも第10工程において被覆材3を除去した後に行なうものであるため、浴組成は、酸性または中性に限らず、アルカリ性であってもよい。
【0045】
次に図13は、被覆材3を除去する第10工程の前後において共に、電解めっき、または無電解めっきのいずれかを行なったものを示している。すなわち無電解めっきA(電解ニッケルめっき6)を行なう第9工程と、被覆材3を除去する第10工程との間に、上述した第9.5B工程による無電解めっきC(無電解銅めっき8)を行い、その後に上述した第10工程によって被覆材3を除去する。そして被覆材3を除去した後に、上述した第11A工程による電解めっきB(電解銅めっき9)、または無電解めっきB(無電解銅めっき9)のいずれかを行なう。あるいは、この第9.5B工程による無電解めっきCの替わりに、上述した第9.5A工程による電解めっきA(電解銅めっき8)を行い、被覆材3を除去した後に、第11B工程による電解めっきD(電解銅めっき9)、または無電解めっきD(無電解銅めっき9)のいずれかを行なうこともできる。
【0046】
なお上述した第11A工程による電解めっきB若しくは無電解めっきB、または第11B工程による電解めっきD若しくは無電解めっきDは、いずれも第10工程において被覆材3を除去した後に行なうものであるため、浴組成は、酸性または中性に限らず、アルカリ性であってもよい。
【0047】
なお上述した第9.5B工程の無電解めっきC、第11A工程の無電解めっきB、及び第11B工程の無電解めっきDは、いずれも無電解銅めっき8、9に替えて、無電解金めっき等の他の金属めっきを行なうこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明による成形回路部品の製造方法は、絶縁材からなる基体との密着性に優れる三次元的な導電性回路が容易に形成できると共に、触媒に含まれる貴重な貴金属の省資源化が可能で、かつ環境性に優れるため、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1の基体を形成する第1工程を示す図である。
【図2】第1の基体の表面にOH基を生成する第2工程を示す図である。
【図3】OH基を生成した第1の基体の表面に機能性分子接着剤を塗布する第3工程を示す図である。
【図4】機能性分子接着剤を塗布した第1の基体を加熱乾燥する第4工程を示す図である。
【図5】加熱乾燥した第1の基体をアルコール洗浄して、未反応の機能性分子接着剤を除去する第5工程を示す図である。
【図6】未反応の機能性分子接着剤を除去した第1の基体を被覆材で被覆して、第2の基体を形成する第6工程を示す図である。
【図7】第2の基体に触媒を付与する第7工程を示す図である。
【図8】触媒を付与した第2の基体を水洗して、被覆材の表面に残留する触媒を除去する第8工程を示す図である。
【図9】第2の基体の触媒が付与された部分に無電解めっきを行なう第9工程を示す図である。
【図10】第2の基体の表面に形成した被覆材を除去する第10工程を示す図である。
【図11】無電解めっきを行なう第9工程と被覆材を除去する第10工程との間に、電解めっき、または無電解めっきのいずれかを行なう第9.5A工程、または第9.5C工程のいずれかを示す図である。
【図12】第9工程によって無電解めっきを行ない、次いで第10工程よって被覆材を除去した後に、電解めっき、または無電解めっきのいずれかを行なう第11A工程を示す図である。
【図13】第9工程によって無電解めっきを行なった後で、第9.5Aによる電解めっき、または第9.5Bによる無電解めっきを行ない、次いで第10工程よって被覆材を除去した後に、電解めっき、または無電解めっきのいずれかを行なう第11A工程または第11B工程のいずれかを示す図である。
【図14】機能性分子接着剤の1例であるトリエトキシシリルプロピルトリアジンジチオールの化学式(化2)である。
【図15】トリエトキシシリルプロピルトリアジンジチオールがOH基を生成した第1の基体と化学結合した状態を示す説明図である。
【図16】トリエトキシシリルプロピルトリアジンジチオールのチオール基(SH基)が触媒と化学結合した状態を示す説明図である。
【図17】ポリグリコール酸の化学構造式である。
【符号の説明】
【0050】
1 第1の基体
1a OH基
2 トリエトキシシリルプロピルトリアジンジチオール(機能性分子接着剤)
2a 被覆材で被覆されていない部分
3 被覆材
4 第2の基体
5 触媒
5a 被覆材に付着した触媒
6 無電解ニッケルめっき(無電解めっきA)
7 電解銅めっき、または無電解銅めっき(電解めっきA、または無電解めっきC)
8 電解銅めっき、または無電解銅めっき(電解めっきB、または無電解めっきB)
9 電解銅めっき、または無電解銅めっき(電解めっきB若しくは無電解めっきB、または電解めっきD若しくは無電解めっきD)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体からなる第1の基体を成形する第1工程と、
上記第1の基体の表面に、OH基を生成する第2工程と、
上記OH基を生成した第1の基体の表面に、下記一般式(化1)で表わされるチオール反応性アルコキシシラン化合物の一種または2種以上である機能性分子接着剤を付与する第3工程と、
上記機能性分子接着剤を付与した第1の基体を加熱または減圧のいずれかによって乾燥する第4工程と、
上記乾燥させた第1の基体を、アルコール洗浄する第5工程と、
上記アルコール洗浄した第1の基体の表面に、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体からなる被覆材を、部分的に被覆して第2の基体を形成する第6工程と、
上記第2の基体の表面に触媒を付与する第7工程と、
上記被覆材の表面に残存する上記触媒を水洗除去する第8工程と、
上記第2の基体の表面であって上記被覆材で被覆されていない部分に、浴組成が酸性または中性のいずれかの無電解めっきAをする第9工程と、
上記被覆材を除去する第10工程とを備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【化1】

(上記化学式において、Rは、水素原子または炭化水素基を示し、Rは炭化水素鎖または異種原子もしくは官能基が介在してもよい炭化水素鎖を示し、Xは、水素原子または炭化水素基を示し、Yはアルコキシ基を示し、nは1から3までの整数あり、Mはアルカリ金属である。)
【請求項2】
請求項1において、前記第6工程を、前記第2工程と第3工程との間に移動した
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、前記Rは、硫黄原子、窒素原子、またはカルバモイル基もしくはウレア基のいずれかの1を介在させた炭化水素鎖である
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの1において、前記Rは、H−,CH−,C−,n−C−,CH=CHCH−,n−C−、C−,またはC11−のいずれかの1であり、
前記Rは、−CHCH−,−CHCHCH−,
−CHCHCHCHCHCH−,−CHCHSCHCH−,
−CHCHCHSCHCHCH,−CHCHNHCHCHCH2−,
−(CHCH)NCHCHCH−,−C−,−C−,
−CHCH−,−CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−,
−CHCHOCONHCHCHCH−,
−CHCHNHCONHCHCHCH−,または
−(CHCH)CHOCONHCHCHCH−のいずれかの1であり、
前記Xは、H−,CH−,C−n−C−,i−C, n−C−,
i−C−,またはt−C−のいずれかの1であり、
前記Yは、CHO−,CO−,n−CO−,i−CO−,
n−CO−,i−CO−,またはt−CO−のいずれかの1であり、
前記Mは、Li,Na, K,またはCsのいずれかの1である
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの1において、前記第9工程と第10工程との間に、前記無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの電解めっきAを積層する第9.5A工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの1において、前記第10工程の後に、前記無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の電解めっきBまたは無電解めっきBのいずれかを積層する第11A工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4、または6のいずれかの1において、前記第9工程と第10工程との間に、前記無電解めっきAの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの無電解めっきCを積層する第9.5B工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項8】
請求項5において、前記第10工程の後に、前記電解めっきAの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の電解めっきD、または無電解めっきDのいずれかを積層する第11B工程を備える
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−302081(P2009−302081A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151217(P2008−151217)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(308012509)株式会社いおう化学研究所 (5)
【出願人】(508173831)株式会社東亜エレクトロニクス (2)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】