説明

成膜装置およびそれを用いた成膜方法

【課題】超臨界流体に原料を溶解させた処理媒体を用いてトレンチ内部を埋め込むに際し、トレンチ内部にボイドが残されないように成膜を行う。
【解決手段】切替部30によって処理媒体供給部10から処理媒体70をチャンバ40に供給することにより基板50の表面51側に埋め込み膜60を形成する成膜工程と、切替部30によってエッチング媒体供給部20からエッチング媒体80を供給することにより溝53の開口部側に形成された埋め込み膜60をエッチングするエッチング工程と、を繰り返し行う。これにより、溝53の開口部側に形成された埋め込み膜60をエッチング媒体80によって選択的にエッチングして溝53の開口部が埋め込み膜60によって閉塞されることを抑制しつつ、基板50の表面51側に成膜を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界流体に原料を溶解させた処理媒体を用いて、基板に成膜を行う成膜装置およびそれを用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体装置を製造する際に、半導体基板に形成されたトレンチに埋め込み材を埋め込む方法としてCVD法が知られている。しかし、CVD法では成膜反応にガスを用いるためにガス中での成膜原料の密度が小さく、トレンチ入口で原料の大部分が分解されて成膜されてしまう。このため、トレンチ内部に原料がほとんど供給されずにトレンチの開口部が埋め込み材によって閉じられてしまい、トレンチ内にボイドが残される。このように、従来のCVD法では、トレンチ内部にボイドが生じることなくトレンチを埋め込むことは困難であった。
【0003】
そこで、超臨界流体を成膜原料の溶媒として用いる成膜方法が注目されている。超臨界流体は液体と気体との中間の性質を示し、液体より拡散性が高く、粘性が小さいためトレンチのような狭所に侵入することができる媒体である。また、超臨界流体は、気体よりも密度が高く溶解性があるため、溶媒として利用することができる。このため、このような超臨界流体の性質を利用することにより、トレンチ内部にボイドが生じることなく埋め込み材を埋め込むことが可能である。
【0004】
しかし、成膜原料の溶媒として超臨界流体を用いたとしても、トレンチが高アスペクト比になるに従って、成膜原料がトレンチ入口付近での成膜に使われてしまう。これにより、成膜原料をトレンチ底部に供給できなくなり、埋め込み時に上記のようにトレンチ内にボイドが発生してしまう。
【0005】
そこで、特許文献1では、基板の温度を成膜が生じる温度の下限である成膜下限温度未満である第1の温度とし、基板上に成膜原料を溶解させた超臨界流体を導入した後、基板の温度を第1の温度から成膜下限温度以上の第2の温度に上昇させて基板に成膜を行う成膜方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−120713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、基板全体を同一の第2の温度に固定して成膜を行うため、トレンチ全体に同一厚さの膜が形成される。このため、例えば、トレンチが逆テーパになっている場合、基板に同一厚さの膜が形成されることで先にトレンチの開口部が塞がってしまい、トレンチの内部にボイドが残されてしまう。
【0007】
このように、成膜原料を溶解させた超臨界流体を用いた成膜方法を採用しても、内部の空間に対して入口が小さいパターンに埋め込みを行うことができない。すなわち、基板に設けられたトレンチの一部が逆テーパになっていれば、その部分にボイドが取り残されることになり、基板全体に良好な成膜を行うことはできない。
【0008】
本発明は、上記点に鑑み、超臨界流体に原料を溶解させた処理媒体を用いてトレンチ内部を埋め込むに際し、トレンチ内部にボイドが残されないように成膜を行うことができる成膜装置およびそれを用いた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、処理媒体(70)を供給する処理媒体供給手段(10)と、エッチング媒体(80)を供給するエッチング媒体供給手段(20)と、処理媒体供給手段(10)から供給された処理媒体(70)とエッチング媒体供給手段(20)から供給されたエッチング媒体(80)とをチャンバ(40)に交互に供給することにより、処理媒体(70)をチャンバ(40)に供給する間に基板(50)の表面(51)側に埋め込み膜(60)を形成し、エッチング媒体(80)を供給する間に溝(53)の開口部側に形成された埋め込み膜(60)をエッチングするようにする切替手段(30)とを備えていることを特徴とする。
【0010】
これによると、埋め込み膜(60)の成膜中にエッチング工程が追加されるため、埋め込み膜(60)のうち溝(53)の開口部側に形成された部分をエッチング除去することができる。したがって、埋め込み膜(60)による溝(53)の塞がりを抑制することができる。もちろん、溝(53)が逆テーパの構造をなしていても、溝(53)の塞がりを防止できる。以上により、溝(53)内にボイドが発生しないようにすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、エッチング媒体(80)は、液体のエッチング原料、もしくは固体のエッチング材料を液体溶媒に溶解させた液体原料であることを特徴とする。
【0012】
これによると、液状のエッチング媒体(80)は、処理媒体(70)を構成する超臨界流体に比べて粘性が高く、拡散性が低い。このため、液状のエッチング媒体(80)は溝(53)の底部まで入り込むことができず、その結果、溝(53)の開口部側に成膜された埋め込み膜(60)を選択的に除去することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、エッチング媒体(80)がチャンバ(40)に供給されている間に、印加された電圧に応じて基板(50)の表面(51)側を加熱する加熱手段(47)を備えていることを特徴とする。
【0014】
これにより、温度が高いとエッチング速度が速くなることを利用して、基板(50)の表面(51)側のエッチング速度を速くすることができる。このため、溝(53)の底部側よりも開口部側の埋め込み膜(60)のエッチング速度を速くすることができる。したがって、溝(53)の開口部側の埋め込み膜(60)を積極的にエッチングすることができ、溝(53)の開口部が埋め込み膜(60)によって閉じられないようにすることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、加熱手段(47)に対して第1の電圧とこの第1の電圧よりも低い第2の電圧とを交互に繰り返し印加するパルス駆動を行う駆動手段(43)を備えていることを特徴とする。
【0016】
これにより、基板(50)の表面(51)が高温、裏面(52)が低温となるように、溝(53)の深さ方向に対して温度勾配を創出することができる。したがって、基板(50)の温度分布を安定させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明では、超臨界流体は、二酸化炭素であることを特徴とする。この二酸化炭素は、超臨界流体として用いられるものの中で常温・常圧に近いところに臨界点を持つ。したがって、二酸化炭素を超臨界流体として用いることにより、処理媒体供給手段(10)を大がかりな構成とすることなく処理媒体(70)を生成・供給することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、処理媒体供給手段(10)から前記チャンバ(40)への処理媒体(70)の供給と、エッチング媒体供給手段(20)からチャンバ(40)へのエッチング媒体(80)の供給とを切替手段(30)によって交互に切り替える工程を含んでおり、交互に切り替える工程では、処理媒体供給手段(10)から処理媒体(70)をチャンバ(40)に供給することにより基板(50)の表面(51)側に埋め込み膜(60)を形成する成膜工程と、エッチング媒体供給手段(20)からエッチング媒体(80)を供給することにより溝(53)の開口部側に形成された埋め込み膜(60)をエッチングするエッチング工程と、を繰り返し行うことにより、基板(50)の表面(51)側に成膜を行うことを特徴とする。
【0019】
これにより、埋め込み膜(60)のうち溝(53)の開口部側に形成された部分をエッチング除去しつつ、埋め込み膜(60)を成膜することができる。したがって、埋め込み膜(60)を形成していく上で、埋め込み膜(60)による溝(53)の塞がりを抑制することができる。もちろん、溝(53)が逆テーパの構造をなしていても、溝(53)の塞がりを防止できる。以上により、溝(53)内にボイドが発生しないように成膜することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明では、エッチング媒体(80)として、液体のエッチング原料、もしくは固体のエッチング材料を液体溶媒に溶解させた液体原料を用いることを特徴とする。
【0021】
これにより、超臨界流体に比べて粘性が高く、拡散性が低い液状のエッチング媒体(80)を溝(53)の底部まで入り込ませずにエッチングすることができる。したがって、溝(53)の開口部側に成膜された埋め込み膜(60)を選択的に除去することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明では、エッチング工程では、加熱手段(47)を用いて基板(50)の表面(51)側を加熱することを特徴とする。
【0023】
これにより、基板(50)の表面(51)側の温度を裏面(52)側よりも高くすることができる。このため、温度が高いとエッチング速度が速くなることを利用して、基板(50)の表面(51)側のエッチング速度を速くすることができ、溝(53)の開口部側の埋め込み膜(60)を積極的にエッチングすることができる。
【0024】
請求項9に記載の発明では、エッチング工程では、加熱手段(47)に第1の電圧とこの第1の電圧よりも低い第2の電圧とを交互に繰り返し印加するパルス駆動を行うことを特徴とする。
【0025】
これにより、基板(50)の表面(51)が高温、裏面(52)が低温となるように加熱することができ、ひいては基板(50)の温度分布を安定させることができる。
【0026】
請求項10に記載の発明では、超臨界流体として、二酸化炭素を用いることを特徴とする。これにより、請求項5と同様の効果を得ることができる。
【0027】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。本実施形態で示される成膜装置は、超臨界流体に成膜原料を溶解させた処理媒体を基板等にさらして原料を基板上に析出させることで成膜を行うものである。特に、基板に設けられたトレンチなどの溝内に成膜を行う際に用いられる。
【0030】
本実施形態では、溶媒として超臨界流体に変化する二酸化炭素(CO)を用いる。二酸化炭素の臨界点については、温度が31.1℃であり、圧力が7.38MPaである。これら温度および圧力の両方を満たすとき、二酸化炭素は超臨界流体の状態に変化する。なお、超臨界流体の状態に変化する物質として水(HO)もある。水の臨界点は、温度が374℃であり、圧力が22.12MPaである。
【0031】
図1は、本実施形態に係る成膜装置の構成図である。この図に示されるように、成膜装置は、処理媒体供給部10と、エッチング媒体供給部20と、切替部30と、チャンバ40とを備えて構成されている。
【0032】
処理媒体供給部10は、成膜を行うための処理媒体を生成・供給するものである。処理媒体供給部10は、二酸化炭素タンク11と、冷却装置12と、ポンプ13と、TEOSタンク14と、ポンプ15と、加熱装置16とを備えている。
【0033】
二酸化炭素タンク11は、溶媒として用いられるCOが気体の状態で閉じこめられたタンクである。この二酸化炭素タンク11は、バルブ17aを介して冷却装置12に接続されており、気体のCOが冷却装置12で例えば0℃に冷やされて液体に変化させられる。冷却装置12にて液体に変化したCOは、ポンプ13によって例えば10MPaに加圧され、バルブ17bを介して加熱装置16に供給される構成になっている。
【0034】
また、TEOSタンク14は、成膜原料として液体のTEOS(Si(OC)が液体の状態で閉じこめられたタンクである。TEOSタンク14内の液体のTEOSは、ポンプ15およびバルブ17cを介して加熱装置16に供給される構成になっている。
【0035】
加熱装置16は、液体のCOとTEOSとを例えば37℃を超える温度に加熱するものである。これにより、液体のCOが超臨界流体に変化させられ、超臨界流体としてのCOと液体のTEOSが混ざり合うことで処理媒体が生成される。この処理媒体は導入通路18に導入され、該導入通路18を介して切替部30に供給される。
【0036】
エッチング媒体供給部20は、チャンバ40内で形成された膜をエッチングするためのエッチング媒体を供給するものである。このエッチング媒体供給部20は、フッ化水素タンク21とポンプ22とを備えている。フッ化水素タンク21は、液体のエッチング原料として液状のフッ化水素(HF)が格納されたタンクである。このフッ化水素タンク21から供給されたHFは、ポンプ22で加圧されて切替部30に供給される。
【0037】
切替部30は、処理媒体供給部10から供給された処理媒体とエッチング媒体供給部20から供給されたエッチング媒体とをチャンバ40に交互に供給するものである。このような切替部30は、処理媒体供給部10とチャンバ40とを繋ぐバルブ31と、エッチング媒体供給部20とチャンバ40とを繋ぐバルブ32とによって構成されている。切替部30は、各バルブ31、32のいずれか一方が開通するように経路の切り替えを行うことにより、チャンバ40に処理媒体またはエッチング媒体を供給する。切り替えのタイミングは、例えば、成膜による膜厚が一定値を超えたとき等である。
【0038】
そして、切替部30はバルブ41を介してチャンバ40に接続され、切替部30から処理媒体およびエッチング媒体のいずれか一方がチャンバ40に供給されるようになっている。
【0039】
図2は、チャンバ40の構成の一部を示した図である。チャンバ40は、成膜を行うための処理室が設けられたものであり、処理室内には処理媒体またはエッチング媒体が導入される。
【0040】
チャンバ40は、ヒータ42と駆動部43とを備えている。ヒータ42は印加された電圧に応じて加熱されるものである。また、駆動部43はヒータ42に電圧を印加してヒータ42の加熱を制御するものである。
【0041】
ヒータ42には基板50が設置されている。基板50の表面51側には基板50の裏面52側に延設された溝53が設けられている。この溝53は、素子分離用のトレンチや素子を構成するトレンチなどである。基板50として、Siウェハやガラス基板などが採用される。
【0042】
ヒータ42は基板50の裏面52側に配置された状態となっている。すなわち、ヒータ42に電圧を印加することにより基板50を裏面52側から加熱することとなる。そして、処理媒体に基板50の表面51側がさらされ、処理媒体に溶解された成膜原料が基板50の表面51や溝53内に析出することにより成膜が行われる。
【0043】
このため、駆動部43は基板50の裏面52側を成膜最低温度以上に加熱するように、ヒータ42の加熱を制御する。例えば、駆動部43は基板50が300℃になるようにヒータ42を加熱する。
【0044】
そして、図1に示されるように、チャンバ40で成膜に用いられた処理媒体は、バルブ44を介して排出通路45に排出される。排出通路45に排出された処理媒体は、超臨界流体からTEOSが回収されて無害化されると共に気体に戻されたCOが大気に排出される構成になっている。また、エッチング媒体は回収される。
【0045】
さらに、処理媒体やエッチング媒体がチャンバ40に導入される前にバルブ46を介して排出通路45に処理媒体やエッチング媒体を移動できるようにもなっている。以上が、本実施形態に係る成膜装置の全体構成である。なお、処理媒体供給部10のバルブ17a〜17c、切替部30の各バルブ31、32の切り替え、チャンバ40周りの各バルブ41、44、46の開閉は、図示しない制御装置によって制御される。
【0046】
次に、上記成膜装置を用いた成膜方法について、図を参照して説明する。まず、COを冷却装置12、ポンプ13、および加熱装置16で超臨界流体に変化させる。そして、超臨界流体にTEOSが溶解した処理媒体を作り、導入通路18に導入する。一方、エッチング媒体供給部20では、液状のエッチング媒体を供給できるようにしておく。
【0047】
また、 チャンバ40内では、溝53が設けられた基板50をヒータ42の上に配置し、ヒータ42によって基板50を例えば300℃に加熱する。そして、切替部30のバルブ31を開放することによって処理媒体供給部10から処理媒体をチャンバ40に供給することにより基板50の表面51側に埋め込み膜を形成する成膜工程と、切替部30のバルブ32を開放することによってエッチング媒体供給部20からエッチング媒体をチャンバ40に供給することにより溝53の開口部側に形成された埋め込み膜をエッチングするエッチング工程と、を繰り返し行うことにより、基板50の表面51側に成膜を行う。
【0048】
成膜工程では、基板50に成膜が行われ、エッチング工程では基板50に形成された膜がエッチングされる。その様子を図3に示す。図3(a)は成膜工程において基板50に埋め込み膜60を形成する様子を示した基板50の一部断面図であり、図3(b)はエッチング工程において埋め込み膜60をエッチングする様子を示した基板50の一部断面図である。
【0049】
図3(a)に示されるように、成膜工程では、基板50の表面51側に処理媒体70が流れていく。これにより、処理媒体に溶解された原料が基板50の表面51や溝53内に析出することにより埋め込み膜60が形成される。超臨界流体は液体より拡散性が高く、粘性が小さいため、溝53のような狭所に容易に侵入することができる。したがって、溝53内に埋め込み膜60を成膜することが可能となる。このようにして、処理媒体70をチャンバ40に供給する間に基板50の表面51側に埋め込み膜60を形成する。
【0050】
一方、図3(b)に示されるように、エッチング工程では、基板50の表面51側にエッチング媒体80が流れていく。このエッチング媒体80は、超臨界流体で構成された処理媒体70よりも粘性が高く、狭所に入り込むことができない。このため、エッチング媒体80は、埋め込み膜60のうち基板50の表面51側に形成された部位をエッチングしながら流れていく。溝53内には、粘性が小さい処理媒体70が残されている。
【0051】
これにより、基板50の表面51上や溝53の開口部側に形成された埋め込み膜60をエッチング媒体80によって選択的にエッチングすることとなる。このエッチングにより、溝53の開口部が埋め込み膜60によって閉塞されることを抑制する。このようにして、エッチング媒体80を供給する間に溝53の開口部側に形成された埋め込み膜60のエッチングを行う。
【0052】
図4は、成膜工程とエッチング工程とを繰り返し行うことにより、溝53に埋め込み膜60を埋め込む様子を示した基板50の一部断面図である。上記のように、成膜工程とエッチング工程とを繰り返し行うことで、図4に示されるように溝53の壁面の埋め込み膜60が少しずつ厚くなっていく。このとき、エッチング工程ごとに溝53の開口部側の埋め込み膜60がエッチングされるため、エッチング工程ごとに溝53が開口し、溝53が閉塞されることはない。もちろん、溝53が逆テーパの構造をなしていても、溝53が塞がることはない。このようにして、溝53に埋め込み膜60を埋め込む。
【0053】
図4においては、埋め込み膜60によって溝53が閉じられる前に埋め込み膜60をエッチングしているが、埋め込み膜60によって溝53が閉じられた後に埋め込み膜60をエッチングして溝53を開口するようにしても良い。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、成膜工程とエッチング工程とを交互に繰り返し行うことにより、溝53内に埋め込み膜60を形成することが特徴となっている。この場合、成膜装置に切替部30を設け、この切替部30の切り替えによってチャンバ40に処理媒体70とエッチング媒体80とを交互に供給できる構成としている。
【0055】
これにより、埋め込み膜60の成膜中にエッチング工程を追加することができる。したがって、埋め込み膜60の形成中に溝53の開口部側に形成された埋め込み膜60をエッチングにより除去することができる。このため、埋め込み膜60によって溝53が塞がれてしまうことを防止することができる。そして、成膜工程とエッチング工程とを繰り返すことで、溝53内にボイドが発生しないように埋め込み膜60を成膜することができる。
【0056】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、処理媒体供給部10が特許請求の範囲の処理媒体供給手段に対応し、エッチング媒体供給部20が特許請求の範囲のエッチング媒体供給手段に相当する。また、切替部30が特許請求の範囲の切替手段に相当する。
【0057】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。本実施形態では、温度が高くなるほど、エッチング速度が速くなることを利用して、基板50の表面51側すなわち溝53の開口部側のエッチング速度を速くすることが特徴となっている。
【0058】
図5(a)は、基板50の表面51からの深さと温度との関係を示した図であり、図5(b)は図5(a)の温度分布における基板50の表面51からの深さとエッチング速度との関係を示した図である。
【0059】
図5(a)に示されるように、基板50の表面51の温度がもっとも高く、基板50の裏面52側に向かうほど温度が低くなれば、図5(b)に示されるように、基板50の表面51でのエッチング速度がもっとも速くなり、基板50の深さ方向に遅くなる。
【0060】
このような関係を利用するため、本実施形態では基板50の表面51側をランプで加熱する。図6は、チャンバ40内でのランプ47による加熱の様子を示した図である。
【0061】
図6に示されるように、ランプ47は基板50の表面51側に配置されており、基板50の表面51側を例えば350℃に加熱する。このランプ47の加熱制御は、駆動部43により行われる。
【0062】
ランプ47による加熱は、埋め込み膜60のエッチングを行うエッチング工程で行う。すなわち、基板50には図5(a)に示されるような温度分布を作り、基板50の表面51つまり溝53の開口部付近での温度を裏面52側よりも高くする。
【0063】
これにより、溝53の開口部付近でのエッチング速度が溝53の底部よりも速くなるため、溝53の開口部付近に成膜された埋め込み膜60を積極的に除去できる。この場合、エッチング媒体80は液体ではなく、例えば気体や超臨界流体であっても良い。
【0064】
以上のように、エッチング工程において、ランプ47によって基板50の表面51側を加熱することにより、基板50の表面51側に形成された埋め込み膜60を積極的にエッチングして溝53が埋め込み膜60で閉塞されないようにすることができる。
【0065】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、ランプ47が特許請求の範囲の加熱手段に対応する。
【0066】
(第3実施形態)
本実施形態では、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。本実施形態では、ランプ47をパルス駆動することが特徴となっている。
【0067】
図7(a)は、ランプ47に印加する電圧の時間変化を示した図であり、図7(b)は、基板50の表面51側および裏面52側の温度変化を示した図である。
【0068】
図7(a)に示されるように、駆動部43は、エッチング工程において、ランプ47に対して第1の電圧とこの第1の電圧よりも低い第2の電圧とを交互に繰り返し印加するパルス駆動を行う。該パルス駆動としては、第1の電圧として例えば100Vを印加し、第2の電圧として0Vを印加する。つまり、駆動部43は、ランプ47のON/OFFを繰り返し行う。
【0069】
このようなパルス駆動が行われることで、図7(b)に示されるように、基板50の表面温度ならびに基板50の裏面温度をそれぞれの平均温度付近で保つことができる。これにより、溝53の深さ方向に対して温度勾配を創出することができる。したがって、基板50の温度分布を安定させることができる。
【0070】
以上のように、エッチング工程において、ランプ47をパルス駆動して、基板50の表面51側の温度を裏面52側よりも高くすると共に温度を安定させた状態でエッチングを行うことができる。
【0071】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、駆動部43が特許請求の範囲の駆動手段に対応する。
【0072】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、埋め込み膜60としてSiOの成膜を行っているが、SiOの成膜は一例であって、他の膜を形成しても良い。例えば、金属や酸化物を成膜することもできる。また、金属や酸化物を成膜する際に還元材料が必要な場合には、適宜、還元材料を用いるようにすれば良い。
【0073】
上記各実施形態では、エッチング媒体80として、液体のエッチング原料であるフッ化水素を用いたが、固体のエッチング材料を用いても良い。この場合、固体のエッチング材料を液体溶媒に溶解させて液体原料として用いる。これにより、超臨界流体よりも粘性が大きいエッチング媒体80でエッチングすることができる。
【0074】
例えば、Cuの成膜媒体(超臨界流体のCO、Cu(hfac)、H)とCuのエッチング媒体(希硝酸)との組み合わせや、Cuの成膜媒体(超臨界流体のCO、Cu(dibm)、H)とCuのエッチング媒体(希硝酸)との組み合わせが可能である。なお、Cu(hfac)およびCu(dibm)は共に固体原料であり、Cu(hfac)=Cu(CHF)(ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅)、Cu(dibm)=Cu(C15(ジイソブチリルメタナート銅)である。
【0075】
このような成膜原料およびエッチング媒体の組み合わせで成膜を行う場合の成膜装置の構成を図8に示す。この図に示されるように、処理媒体供給部10には水素タンク19および混合器90が設けられ、エッチング媒体供給部20には希硝酸タンク23が設けられている。これによると、加熱装置16には液体のCOと水素タンク19からの液体水素とが供給されて混合され、COが超臨界流体に変化させられる。
【0076】
そして、超臨界流体となったCOが加熱装置16と切替部30との間に設けられた混合器90に導入される。これにより、混合器90に格納されたCu(hfac)やCu(dibm)の固体原料91が超臨界流体に溶解することで処理媒体が得られる。この処理媒体は切替部30に供給される。
【0077】
一方、切替部30には、希硝酸タンク23からポンプ22を介してエッチング媒体である希硝酸が供給される。また、チャンバ40、バルブ41、44、46、排出通路45等の構成は図1に示される成膜装置と同様である。
【0078】
このような成膜装置を用いることにより、切替部30によって各バルブ31、32のいずれか一方が開通するように経路の切り替えを行う。具体的には、切替部30のバルブ31を開放することによって混合器90から処理媒体70をチャンバ40に供給し、切替部30のバルブ32を開放することによってエッチング媒体供給部20からエッチング媒体80をチャンバ40に供給する。
【0079】
以上のように、TEOS以外の成膜原料を用いる場合にも、切替部30を用いることによって処理媒体70とエッチング媒体80とを交互にチャンバ40に供給することが可能である。
【0080】
第2、第3実施形態では、エッチング工程において基板50の表面51側を加熱するものとしてランプ47を用いたが、加熱手段はランプ47に限らず他のものでも良い。例えば、ヒータを用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1実施形態に係る成膜装置の構成図である。
【図2】チャンバの構成の一部を示した図である。
【図3】(a)は成膜工程における基板の一部断面図であり、(b)はエッチング工程における基板の一部断面図である。
【図4】溝に埋め込み膜を埋め込む様子を示した基板の一部断面図である。
【図5】(a)は基板の表面からの深さと温度との関係を示した図であり、(b)は(a)の温度分布におけるエッチング速度を示した図である。
【図6】第2実施形態において、チャンバ内でランプによる加熱を行う様子を示した図である。
【図7】(a)はランプに印加する電圧の時間変化を示した図であり、(b)は基板の表面側および裏面側の温度変化を示した図である。
【図8】他の実施形態に係る成膜装置の構成図である。
【符号の説明】
【0082】
10 処理媒体供給部
20 エッチング媒体供給部
30 切替部
40 チャンバ
43 駆動部
47 ランプ
50 基板
51 基板の表面
52 基板の裏面
53 溝
60 埋め込み膜
70 処理媒体
80 エッチング媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(51)および裏面(52)を有する基板(50)において前記基板(50)の表面(51)側に溝(53)が形成されたものに成膜を行うに際し、チャンバ(40)内で超臨界流体に成膜原料が溶解された処理媒体(70)に前記基板(50)の表面(51)側をさらし、前記基板(50)を加熱することで前記基板(50)の表面(51)側の溝(53)内に成膜を行う成膜装置であって、
前記処理媒体(70)を供給する処理媒体供給手段(10)と、
エッチング媒体(80)を供給するエッチング媒体供給手段(20)と、
前記処理媒体供給手段(10)から供給された前記処理媒体(70)と前記エッチング媒体供給手段(20)から供給された前記エッチング媒体(80)とを前記チャンバ(40)に交互に供給することにより、前記処理媒体(70)を前記チャンバ(40)に供給する間に前記基板(50)の表面(51)側に埋め込み膜(60)を形成し、前記エッチング媒体(80)を供給する間に前記溝(53)の開口部側に形成された前記埋め込み膜(60)をエッチングするようにする切替手段(30)とを備えていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記エッチング媒体(80)は、液体のエッチング原料、もしくは固体のエッチング材料を液体溶媒に溶解させた液体原料であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記エッチング媒体(80)が前記チャンバ(40)に供給されている間に、印加された電圧に応じて前記基板(50)の表面(51)側を加熱する加熱手段(47)を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記加熱手段(47)に対して第1の電圧とこの第1の電圧よりも低い第2の電圧とを交互に繰り返し印加するパルス駆動を行う駆動手段(43)を備えていることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記超臨界流体は、二酸化炭素であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の成膜装置。
【請求項6】
表面(51)および裏面(52)を有する基板(50)において前記基板(50)の表面(51)側に溝(53)が形成されたものに成膜を行うに際し、チャンバ(40)内で超臨界流体に成膜原料が溶解された処理媒体(70)に前記基板(50)の表面(51)側をさらし、前記基板(50)を加熱することで前記基板(50)の表面(51)側の溝(53)内に成膜を行う成膜方法であって、
処理媒体供給手段(10)から前記チャンバ(40)への前記処理媒体(70)の供給と、エッチング媒体供給手段(20)から前記チャンバ(40)へのエッチング媒体(80)の供給とを切替手段(30)によって交互に切り替える工程を含んでおり、
前記交互に切り替える工程では、前記処理媒体供給手段(10)から前記処理媒体(70)を前記チャンバ(40)に供給することにより前記基板(50)の表面(51)側に埋め込み膜(60)を形成する成膜工程と、前記エッチング媒体供給手段(20)から前記エッチング媒体(80)を供給することにより前記溝(53)の開口部側に形成された前記埋め込み膜(60)をエッチングするエッチング工程と、を繰り返し行うことにより、前記基板(50)の表面(51)側に成膜を行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
前記エッチング媒体(80)として、液体のエッチング原料、もしくは固体のエッチング材料を液体溶媒に溶解させた液体原料を用いることを特徴とする請求項6に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記エッチング工程では、加熱手段(47)を用いて前記基板(50)の表面(51)側を加熱することを特徴とする請求項6または7に記載の成膜方法。
【請求項9】
前記エッチング工程では、前記加熱手段(47)に第1の電圧とこの第1の電圧よりも低い第2の電圧とを交互に繰り返し印加するパルス駆動を行うことを特徴とする請求項8に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記超臨界流体として、二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1つに記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−56146(P2010−56146A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216895(P2008−216895)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】