説明

成膜装置

【課題】 長尺な基材を長手方向に搬送しつつ、プラズマCVDによって成膜を行う装置において、プラズマによる基材の損傷を防止して、プラズマCVDによる成膜を行うことができる成膜装置を提供する。
【解決手段】 成膜電極を囲むアースシールドの少なくとも上流側を、成膜電極よりも低くすることにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺な基材を長手方向に搬送しつつ、プラズマCVDによって成膜を行う成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタや反射防止フィルム等の光学フィルムなど、各種の機能性フィルム(機能性シート)が利用されている。
これらの機能性フィルムの製造にプラズマCVDが利用されている。
【0003】
また、プラズマCVDによって、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうためには、長尺な基材(ウェブ状の基材)を長手方向に搬送しつつ、連続的に成膜を行なうのが好ましい。
このような成膜方法を実施する装置として、長尺な基材をロール状に巻回してなる基材ロールから基材を送り出し、成膜済みの基材をロール状に巻回する、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll(以下、RtoRともいう))の成膜装置が知られている。
このRtoRの成膜装置は、基材に成膜を行なう成膜位置を通過する所定の経路で、基材ロールから巻取り軸まで長尺な基材を通紙し、基材ロールからの基材の送り出しと、巻取り軸による成膜済の基材の巻取りとを同期して行いつつ、成膜位置において、長手方向に搬送される基材に連続的に成膜を行なう。
【0004】
周知のように、プラズマCVDは(容量結合型プラズマCVD)、成膜される基材を挟んで、成膜電極と対向電極とからなる電極対を形成し、電極対の間に成膜ガスを供給すると共に、成膜電極に高周波電力等を供給することにより、プラズマを生成して、成膜を行うものである。
このようなプラズマCVDでは、効率の良い成膜を行うために、アースシールドが用いられている。アースシールドとは、成膜電極を囲んで配置される、接地される導電性の筒状部材であり、基材と成膜電極との間以外でのプラズマの生成を防止し、基材と成膜電極との間に生成したプラズマを封じ込めることにより、プラズマを有効利用して、効率の良い成膜を行うことができる。
特許文献1や特許文献2に示されるように、前述のRtoRによるプラズマCVD装置でも、アースシールドが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−111900号公報
【特許文献2】特開2010−121159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラズマCVDでは、一般的に、成膜電極の中央部と端部とで(プラズマの中央とプラズマ端とで)、プラズマの性質が異なることが知られている。
ここで、アースシールドを用いるプラズマCVDでは、成膜電極の中央の領域では、ほぼ均一密度のプラズマが生成されるが、成膜電極の周辺部では、中央領域に比してプラズマの密度が高くなってしまう。
不要に密度の高いプラズマに基材が接触すると、基材が熱で変形したり、プラズマによって表面が荒らされる等、基板がダメージを受けてしまう。
【0007】
一般的な、いわゆるバッチ式の成膜であれば、成膜中、成膜される基材の位置が変わることが無い。従って、基材を成膜電極の中央領域に配置することで、基材を、中央の適正なプラズマにのみに接触した状態で成膜を行うことができる。
これに対し、RtoRによるプラズマCVDでは、長尺な基材を長手方向に搬送している。そのため、成膜電極の(基板搬送方向)上流側の端部と下流側の端部で、高密度なプラズマと基材(あるいはさらに、成膜された膜)とが接触することが避けられない。
【0008】
そのため、RtoRによるプラズマCVDでは、成膜電極の上下流の端部において、基板が高密度なプラズマによってダメージを受けてしまい、基板の熱変形や変質、表面の粗面化などが生じ、適正な製品を安定して製造することが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、基材を長手方向に搬送しつつプラズマCVDによって成膜を行う成膜装置において、アースシールドを有することによるプラズマの有効利用効果を好適に得ると共に、成膜電極の端部近傍、特に、成膜電極の基材搬送方向の上流端で高密度なプラズマに基材が接触することを防止して、高密度なプラズマによる基材の変形や変質、粗面化等を防止して、適正な製品を安定して製造することを可能にする成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の成膜装置は、長尺な基材を長手方向に搬送する搬送手段と、前記基材と対面して配置される成膜電極、および、前記基材に対して前記成膜電極と逆側に配置され、前記成膜電極と共に電極対を形成する対向電極と、前記成膜電極と基材との間に成膜ガスを供給するガス供給手段と、前記基材の面方向に成膜電極を囲んで配置されるアースシールドとを有し、前記基材の位置を上側と見なして、前記アースシールドの基材搬送方向上流側の高さが、前記成膜電極の基材搬送方向上流側の端部よりも低いことを特徴とする成膜装置を提供する。
【0011】
このような本発明の成膜装置において、前記アースシールドの基材搬送方向下流側の高さが、前記成膜電極の基材搬送方向下流の端部よりも低いのが好ましく、また、前記アースシールドの基材幅方向の両側の高さが、前記成膜電極の基材幅方向の端部よりも低いのが好ましい。
また、前記アースシールドの高さが成膜電極よりも低い部分において、前記アースシールドが成膜電極よりも1〜20mm低いのが好ましく、また、前記アースシールドの高さが成膜電極よりも低い部分以外は、アースシールドが、成膜電極以上の高さを有するのが好ましい。
【0012】
また、前記成膜電極の基材と対面する角部が、半径2mm以上の曲面であるのが好ましい。
また、前記基材の面方向にアースシールドを囲んで配置される、第2アースシールドを有するのが好ましく、この際において、前記第2アースシールドが、全域で前記成膜電極以上の高さを有するのが好ましい。
【0013】
また、前記成膜電極は、内部に形成されるガス供給空間と、前記基材と対向する面に形成される、前記ガス供給空間に連通する複数のガス供給孔とを有し、前記ガス供給手段は、前記ガス供給空間に成膜ガスを供給するのが好ましい。
さらに、前記搬送手段は、円筒状のドラムの周面の所定領域に前記基材を巻き掛けて搬送するものであり、かつ、前記ドラムが、前記対向電極として作用するのが好ましく、この際において、前記成膜電極は、前記基材との対向面が、前記ドラムの周面と平行な曲面となっているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成を有する本発明の成膜装置は、基材の位置を上方と見なした際に、少なくとも成膜電極の基材搬送方向の上流側において、アースシールドの高さを、成膜電極の上流側の端部よりも低くする。
そのため、このアースシールドが成膜電極の端部よりも低い部分から、成膜電極の端部近傍のプラズマをアースシールドの外部に放出するとができ、成膜電極端部において、高密度なプラズマに基材が接触することを防止できる。
【0015】
そのため、本発明によれば、高密度なプラズマによる熱によって基材が変形や変質することや、高密度なプラズマに接触することで基材表面が荒らされる等を防止して、適正な基材に成膜が行われた高品質な製品を、安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の成膜装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】(A)は、図1に示す成膜装置の成膜領域を上方から見た図、(B)は、図1の部分拡大図、(C)は、本発明に利用可能な成膜電極の別の例を概念的に示す図である。
【図3】(A)〜(C)は、本発明の成膜装置の別の例を概念的に示す図であり、(A)は成膜領域を上方から見た図、(B)は成膜領域を基材搬送方向に見た図、(C)は正面図である。
【図4】本発明の成膜装置の別の例の成膜領域を上方から見た概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の成膜装置について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0018】
図1に、本発明の成膜装置の一例を概念的に示す。
図示例の成膜装置10は、長尺な基材Z(ウエブ状のフィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基材Zの表面に、CCP−CVD(Capacitively Coupled Plasma 容量結合プラズマ)−CVD)による成膜を行って、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムを製造するものである。
また、この成膜装置10は、長尺な基材Zをロール状に巻回してなる基材ロール12から基材Zを送り出し、基材Zを長手方向に搬送しつつCCP−CVDによる成膜を行って、成膜済の基材Zを巻取り軸14に、再度、ロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRともいう)による成膜を行なう装置である。
【0019】
本発明の成膜装置10において、成膜を行う基材(基板)Zには、特に限定はなく、プラズマCVDによる成膜が可能な、長尺な各種のシート状物が、全て、利用可能である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなるプラスチック(樹脂)フィルムが、基材Zとして、好適に利用可能である。
【0020】
また、本発明においては、このようなプラスチックフィルム等を支持体として、その上に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されているシート状物を基材Zとして用いてもよい。
この際においては、基材の上に1層のみが形成されたシート状物を基材Zとして用いてもよく、あるいは、基材の上に、複数層が形成されたシート状物を基材Zとして用いてもよい。また、基材Zが、基材の上に複数層が形成されたシート状物である場合には同じ層を複数層有してもよい。
【0021】
前述のように、図1に示す成膜装置10は、長尺な基材Zを巻回してなる基材ロール12から基材Zを送り出し、基材Zを長手方向に搬送しつつ成膜を行って、再度、巻取り軸14によってロール状に巻き取る、いわゆるRtoRによる成膜を行なう装置である。この成膜装置10は、供給室18と、成膜室20と、巻取り室24とを有する。
なお、成膜装置10は、図示した部材以外にも、各種のセンサ、搬送ローラ対や基材Zの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基材Zを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)等、RtoRによってプラズマCVDによる成膜を行なう装置が有する各種の部材を有してもよい。
【0022】
供給室18は、回転軸26と、ガイドローラ28と、真空排気手段30とを有する。
長尺な基材Zを巻回した基材ロール12は、供給室18の回転軸26に装填される。
回転軸26に基材ロール12が装填されると、基材Zは、供給室18から、成膜室20を通り、巻取り室24の巻取り軸14に至る所定の搬送経路を通紙される。
成膜装置10においては、基材ロール12からの基材Zの送り出しと、巻取り室24の巻取り軸14における基材Zの巻き取りとを同期して行なって、長尺な基材Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室20において、基材Zに、CCP−CVDによる成膜を連続的に行なう。
【0023】
供給室18は、図示しない駆動源によって回転軸26を図中時計方向に回転して、基材ロール12から基材Zを送り出し、ガイドローラ28によって所定の経路を案内して、基材Zを、隔壁38に設けられたスリット38aから、成膜室20に送る。
【0024】
図示例の成膜装置10においては、好ましい態様として、供給室18に真空排気手段30を、巻取り室24に真空排気手段70を、それぞれ設けている。これらの室に真空排気手段を設け、成膜中は、後述する成膜室20と同じ圧力(真空度)、もしくは、若干、高い圧力とすることにより、隣接する室の圧力が、成膜室20の圧力(すなわち、成膜室20での成膜)に影響を与えることを防止している。
真空排気手段30には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ドライポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段60および70も同様である。
【0025】
前述のように、基材Zは、ガイドローラ28によって案内されて、隔壁38のスリット38aから成膜室20に搬送される。
成膜室20は、基材Zの表面に、CCP−CVDによって成膜(膜を形成)するものである。図示例において、成膜室20は、ドラム42と、成膜電極46と、アースシールド48と、ガイドローラ50および52と、高周波電源54と、ガス供給手段56と、真空排気手段60とを有する。
【0026】
成膜室20のドラム42は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ48によって所定の経路に案内された基材Zを、周面の所定領域(所定の巻き掛け角)に掛け回して、基材Zを、後述する成膜電極46に対面する所定位置に保持しつつ、長手方向に搬送する。
【0027】
このドラム42は、CCP−CVDにおける対向電極としても作用する(すなわち、ドラム42と成膜電極46とで電極対を形成する)。
そのため、ドラム42には、バイアス電源を接続してもよく、あるいは、接地してもよい。あるいは、バイアス電源との接続と接地とが、切り換え可能であってもよい。
【0028】
また、成膜装置10において、ドラム42は、成膜中の基材Zの温度を調節する温度調整手段を有してもよい。
ドラム42の温度調節手段には、特に限定はなく、ドラム内部に冷媒や温媒等を循環する温度調節手段等、各種の温度調節手段が、全て利用可能である。
【0029】
成膜電極46は、基材Zの対向面から成膜ガスを噴射する、CCP−CVDによる成膜に利用される公知のシャワー電極(シャワープレート)である。
図2(A)に、成膜電極46(成膜領域)を上方から見た概念図(基材Z側から見た概念図)を、図2(B)に、図1と同方向に見た成膜電極46近傍の拡大図を、それぞれ、概念的に示す。なお、図2(A)において、基材Zの搬送方向は、図中左から右方向である。
【0030】
図示例において、成膜電極46は、一例として、一面がドラム42(すなわち基材Z)に対面して配置される、中空の略直方体形状を有するものである。
図示例においては、成膜電極46のドラム42と対向する面は、ドラム42と周面と平行になるように(すなわち、ドラム42との対向面は、ドラム42との間隔が全面的に均一になるように)、曲面となっている。
【0031】
成膜電極46のドラム42との対向面には、図2(A)に示すように、多数のガス供給孔46aが形成されている。このガス供給孔46aは、成膜電極46の内部の空間(ガス供給空間)に連通している。また、後述するガス供給手段56は、この成膜電極46の内部の空間に成膜ガスを供給する。
従って、ガス供給手段56から供給された成膜ガスは、成膜電極46のガス供給孔46aから、ドラム42(基材Z)と成膜電極46との間に供給される。
【0032】
なお、本発明において、成膜電極46は、図示例のような湾曲面を有するものに限定はされず、中空の直方体(中空の板状)状であってもよく、あるいは、ドラム周面とは平行ではない湾曲面を有するものであってもよい。
すなわち、本発明においては、CCP−CVDにおいて使用されている公知のシャワー電極が、全て、利用可能である。
【0033】
また、成膜電極は、図2(C)に概念的に示す成膜電極46aのように、基材Z(ドラム42)と対面する面の角部(端部)が、曲面状なっているのが好ましく、特に、半径2mm以上の曲面状であるのが好ましい。
これにより、成膜電極46aの角部から外部にプラズマを放出し易くして、成膜電極46aの端部におけるプラズマの高密度化を防止して、後述するアースシールド48の高さを成膜電極の端部よりも低くする効果と相俟って、高密度プラズマによる基材Zの変形等を、より好適に防止できる。
【0034】
図示例においては、成膜室20には成膜電極46(CCP−CVDによる成膜手段)が、1個、配置されているが、本発明は、これに限定はされず、基材Zの搬送方向に、複数の成膜電極を配列してもよい。
また、本発明は、シャワー電極を用いる構成にも限定はされず、成膜ガスの吹き出し口(成膜ガスの供給手段)を有さない電極と、電極対の間に成膜ガスを供給するノズル等を用いるCCP−CVDであってもよい。
【0035】
ガス供給手段56は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる、公知のガス供給手段である。
前述のように、ガス供給手段56は、成膜電極46の内部空間に、成膜ガスを供給する。また、成膜電極46のドラム42との対向面(曲面)には、多数のガス供給孔46aが形成されている。従って、成膜電極46に供給された成膜ガスは、このガス供給孔46aから、成膜電極46とドラム42との間に供給される。
【0036】
なお、ガス供給手段56が供給する成膜ガス(プロセスガス/原料ガス)は、基材Zの表面に成膜する膜に応じた、公知のものでよい。
例えば、基材Zの表面に窒化ケイ素膜を成膜する場合であれば、ガス供給手段56は、成膜ガスとして、シランガス、アンモニアガスおよび水素ガスの組み合わせや、シランガス、アンモニアガスおよび窒素ガスの組み合わせ等を供給すればよい。
【0037】
高周波電源54は、成膜電極46に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源54も、13.56MHzの高周波電力を供給する電源等、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
【0038】
真空排気手段60は、プラズマCVDによる成膜のために、成膜室内を排気して、所定の成膜圧力に保つものであり、前述のように、真空成膜装置に利用されている、公知の真空排気手段である。
【0039】
本発明において、成膜ガスの供給量やプラズマ励起電力の強さなどの成膜条件には、特に限定はない。
すなわち、成膜条件は、通常のプラズマCVDによる成膜と同様、成膜する膜、窒化ケイ素膜の成膜と同様、要求される成膜速度、成膜する膜厚、基材Zの種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0040】
図示例の成膜装置10に成膜室20においては、アースシールド48が配置される。
アースシールド48は、基材Zの面方向で、成膜電極46を囲むように配置された筒状(図示例においては、略四角筒状)の部材である。
公知のプラズマCCP−CVDに用いられるアースシールドと同様、アースシールド48は、導電性の材料で形成されるもので、通常、接地(アース)されている。また、公知のアースシールドと同様、アースシールド48は、成膜電極46との間隔(基板面方向の間隔)を狭くして、成膜電極46との間で放電(プラズマの生成)が生じないように、形成/配置される。
【0041】
図示例においては、好ましい態様として、アースシールド48も、上端(基板Z側の端部)が、ドラム42の周面と平行になる形状を有している。
すなわち、基材搬送方向の上流側および下流側(以下、単に上流側/下流側という)の上端は、基材Zの幅方向(搬送方向と直交する方向 以下、単に幅方向という)に延在する直線状で、幅方向両端側の上端は、ドラム42の周面に平行な曲線状である。
【0042】
ここで、本発明の成膜装置10においては、基材Z側を上方と見なした際に、少なくとも基材搬送方向の上流側において、アースシールド48の高さが、成膜電極46の上流側端部の対面する位置よりも低い。言い換えると、成膜電極46(その基材Zとの対向面)と基材Z(ドラム42)との間隙の方向を高さ方向として、上方の基材Zに対して、少なくとも、アースシールド48の上流側の高さが、成膜電極46の上流側端部の対面する位置の高さよりも低い。
図示例においては、成膜電極46を囲む全周において、アースシールド48の高さが、成膜電極46の対面する位置(対向する面)よりも、差hだけ低い。
【0043】
本発明においては、このような構成を有することにより、成膜電極46の端部近傍の高密度なプラズマによって、基材Zが加熱されて変形/変質したり、基材Zの表面が荒らされてしまう等の不都合を解消している。
【0044】
前述のように、プラズマCVDにおいては、成膜電極を囲むようにアースシールドを設けることにより、基材と成膜電極との間(成膜領域)以外でのプラズマの生成を防止し、基材と成膜電極との間に生成したプラズマを封じ込めることにより、プラズマを有効利用して、効率の良い成膜を行うことができる。
ところが、アースシールドを用いるプラズマCVDでは、成膜電極の端部近傍(プラズマ端)において、プラズマ密度が高くなってしまう。基材が高密度なプラズマと接触すると、熱による基材の変形や変質、プラズマによる基材表面の荒れ等が生じ、適正な製品を製造することができない。
【0045】
基材が固定されるバッチ式の成膜であれば、基材を成膜電極の中央領域に配置することで、高密度なプラズマに基材を曝すことを防止できる。しかしながら、RtoRでは、長尺な基材を長手方向に搬送しているため、成膜電極の上下流の端部で、高密度なプラズマと基材とが接触することが避けられない。
【0046】
ここで、特許文献1や特許文献2にも示されるように、アースシールドを用いるプラズマCVDでは、不要な領域でプラズマが生成することを確実に防止し、また、生成したプラズマの利用効率を向上(すなわち電極と基板との間(成膜領域)へのプラズマの封じ込め)するために、アースシールドは、成膜電極の端部と同じ高さ(面一)にする、あるいは、成膜電極の端部よりも高くする(基材に近接させる)のが通常である。
【0047】
これに対し、本発明の成膜装置10においては、少なくともアースシールド48の上流側において、アースシールド48の高さを、成膜電極46の上流側端部の対面する位置よりも低くする。
このような構成を有することにより、アースシールド48の成膜電極46よりも低い部分から、プラズマを、アースシールド48の外部に放出できる。その結果、成膜電極46の端部近傍におけるプラズマの密度を低減することができ、高密度なプラズマと接触することに起因する、基材Zの変質や変形、表面の粗面化(以下、これらをまとめて、『基材Zのダメージ』とも言う)を防止できる。
【0048】
本発明の成膜装置10において、アースシールド48と成膜電極46との高さの差hには、特に限定は無く、アースシールド48の高さが、若干でも、成膜電極46よりも低ければ、効果を得ることができる。
しかしながら、高密度なプラズマによる基材Zの変形や粗面化等を、十分に抑制するためには、この高さの差hは、1mm以上であるのが好ましい。
また、この高さの差hが大きくなると、アースシールド48の外部に放出されるプラズマの量が多くなってしまう。すなわち、アースシールド48の本来の作用が低下してしまい、その結果、成膜へのプラズマの利用効率が低減してしまう。この点を考慮すると、この高さの差hは、20mm以下とするのが好ましい。
さらに、上記効果を好適に得られる等の点で、このアースシールド48と成膜電極46との高さの差hは、特に、5〜10mmとするのが好ましい。
【0049】
図1および図2に示される例は、成膜電極46を囲む全周、すなわち、上下流の両側、および、幅方向の両側において、アースシールド48の高さが、成膜電極46の対面する位置(対向する面)よりも、低い。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、少なくとも、上流側において、アースシールド48の高さが、成膜電極46の対面する位置よりも低ければよい。
【0050】
すなわち、成膜電極46の上流側端部は、必ず、基材Zの表面がプラズマと接触する。そのため、この上流側端部の領域に高密度なプラズマが存在すると、基材Zがダメージを受けるので、この部分のみは、必ず、成膜電極46よりも、アースシールド48の高さを低くする。
これに対し、幅方向の両側や、下流側では、此処に高密度プラズマが存在しても、必ずしも基材Zが高密度プラズマによってダメージを受けるとは限らない。従って、この場合には、成膜電極46の幅方向の両端部や下流側端部では、通常の装置と同様に、アースシールド48の高さは、成膜電極46と同じ、もしくは、成膜電極46よりも高くしてもよい(アースシールド48を、成膜電極46以上に基材Zに近接してもよい)。
【0051】
図3に、その一例を概念的に示す。
なお、図3において、(A)は、成膜電極46を上方から見た図であり、(B)は、成膜電極46を基材Zの搬送方向に(上流側から下流側に向かって)見た図であり、(C)は、正面図(図1と同方向)である。なお、図2(A)と同様、図3(A)においても、基材Zの搬送方向は、図中左から右側である。
【0052】
例えば、図3(A)に概念的に示すように、基材Zの幅が狭く、基材Zの幅方向の両端部が、成膜電極46の幅方向の両端部よりも内側に位置する場合には、成膜電極46の幅方向両端部のプラズマが高密度になっても、基材Zは、この成膜電極46の幅方向両端部の高密度なプラズマに接触することは無い。
従って、この場合には、図3(B)および(C)に概念的に示すアースシールド48aのように、上流側(あるいはさらに下流側)のみ、アースシールド48の高さを成膜電極46の上流側端部よりも低くし、アースシールド48の幅方向の両側は、成膜電極46の幅方向両端部の対面する位置以上の高さとしてもよい。
逆に、成膜領域すなわちプラズマを成膜電極46と基材Z(ドラム42)との間で有効利用して、成膜効率を向上するためには、成膜領域のプラズマが幅方向両端部から放出される防止するために、アースシールド48の幅方向の両側(あるいはさらに下流側)は、成膜電極46の対面する位置よりも高くしてもよい。例えば、アースシールド48の幅方向の両側を、ドラム42の周面の直前(直下)まで、高くしてもよい。
【0053】
これに対し、図2に示すように、基材Zの幅が成膜電極46の幅方向のサイズよりも大きく、基材Zが成膜電極46の幅方向の両端部に位置する場合には、成膜電極46の幅方向の両端部に高密度プラズマが存在すると、この高密度プラズマによって基材Zがダメージを受けてしまう可能性が有る。
従って、この場合には、図1や図2に示すアースシールド48のように、アースシールド48の幅方向の両側も、成膜電極46の幅方向両端部の対面する位置よりも低くするのが好ましい。
【0054】
また、多くの場合、成膜電極46の下流側では、既に成膜が行われているので、基材Zが、直接的に、プラズマに曝されることはない。さらに、成膜するのが無機膜(無機化合物からなる膜)である場合には、厚さが十分であれば、膜が高密度なプラズマに対して、十分な強度を有する場合も多い。
【0055】
従って、成膜電極46の下流側端部において、十分な厚さの無機膜が成膜されており、プラズマによるダメージを、基材Zあるいはさらに成膜した膜が受ける可能性が無い場合には、アースシールド48の下流側においても、高さを、成膜電極46の下流側端部と同じ高さにしてもよい。
あるいは、前述のプラズマの封じ込めによる成膜効率の向上を考慮して、アースシールド48の下流側の高さを、成膜電極46の下流側端部よりも高くして、例えば、ドラム42の周面直前まで高くしてもよい。
【0056】
すなわち、本発明の成膜装置においては、基材Z側を上方と見なして(基材Z(ドラム42)と成膜電極46との間隙方向を高さ方向として、上側の基材Zに対して)、上流側のみ成膜電極46の対面する位置よりも高さが低いアースシールド: 上流側と下流側とで成膜電極46の対面する位置よりも高さが低いアースシールド: 上流側と幅方向の両側で成膜電極46の対面する位置よりも高さが低いアースシールド: および、上下流および幅方向の両側の全周で成膜電極46の対面するよりも高さが低いアースシールドの、4種のアースシールドが利用可能である。
【0057】
また、本発明の成膜装置10においては、図4に概念的に示すように、アースシールド48を囲んで、第2アースシールド62を有してもよい。
第2アースシールド62を有することにより、成膜電極46と基材Z(ドラム)42の間からのプラズマの放出を、より好適に抑制して、生成したプラズマの利用効率を、より向上して、さらに効率のよい成膜を行うことが可能になる。
ここで、第2アースシールド62は、通常のアースシールドと同様、プラズマの封じ込め効果を向上するために、高さは、成膜電極46以上であるのが好ましい。
【0058】
前述のように、ガイドローラ48によって所定の経路に案内された基材Zは、ドラム42の周面に掛け回されて、所定の位置に保持されつつ長手方向に搬送される。ドラム42と成膜電極46とからなる電極対の間では、成膜電極46へのプラズマ励起電力の供給によってプラズマが励起され、成膜ガスからラジカルが生成されて、ドラム42によって支持されつつ搬送される基材Zの表面に、CCP−CVDによって成膜される。
表面に所定の膜を成膜された基材Zは、次いで、ガイドローラ50に案内されて、隔壁64のスリット64aから、巻取り室24に搬送される。
【0059】
図示例において、巻取り室24は、ガイドローラ68と、巻取り軸14と、真空排気手段70とを有する。
巻取り室24に搬送された基材Zは、ガイドローラ58に案内されて巻取り軸14に搬送され、巻取り軸14によってロール状に巻回されガスバリアフィルムロールとして、次の工程に供される。
また、先の供給室18と同様、巻取り室24にも真空排気手段70が配置され、成膜中は、巻取り室24も、成膜室20における成膜圧力に応じた真空度に減圧される。
【0060】
以下、成膜装置10の作用を説明する。
回転軸26に基材ロール12が装填されると、基材Zは、基材ロール12から引き出され、供給室18からガイドローラ28によって案内されて成膜室20に至り、成膜室20において、ガイドローラ48に案内されて、ドラム42の周面の所定領域に掛け回され、次いで、ガイドローラ50によって案内されて巻取り室24に至り、ガイドローラ68に案内されて巻取り軸14に至る、所定の搬送経路を通紙される。
【0061】
次いで、真空排気手段30、60、および70が駆動され、各室が、所定の圧力まで減圧される。各室の真空度が安定したら、成膜室20において、ガス供給手段56から成膜電極46に、成膜ガスが供給される。
成膜室20の圧力が成膜に対応する所定圧力で安定したら、供給室18から巻取り室24に向かう基材Zの搬送が、開始され、また、高周波電源54から成膜電極46へのプラズマ励起電力の供給を開始する。
【0062】
供給室18から成膜室20に搬送された基材Zは、ガイドローラ48によって案内され、ドラム42に巻き掛けられた状態で搬送されつつ、ドラム42と成膜電極46とが対面している領域において、CCP−CVDによって、目的とする膜を成膜される。
ここで、成膜室20には、成膜電極46を囲んでアースシールド48が配置されているので、ドラム42と成膜電極46とが対面している領域に、好適にプラズマを封じ込めて、プラズマの利用効率が高い、高効率な成膜を行うことができる。
また、成膜装置10においては、アースシールド48の少なくとも上流側が、成膜電極46の上流側端部における、対面する位置よりも、高さが低い。そのため、成膜電極46の上流端におけるプラズマの高密度化を抑制して、高密度プラズマによる基材Zのダメージを抑制した、高品質な製品を、安定して製造できる。
【0063】
所定の膜を成膜された基材Zは、ガイドローラ50に案内されて巻取り室24に搬送される。
巻取り室24に搬送された基材Zは、ガイドローラ68によって所定の経路に案内され、巻取り軸14によってロール状に巻回され、次の工程に供される。
【0064】
以上、本発明の成膜装置について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
例えば、図1に示す例は、円筒状のドラムの周面に基材Zを巻き掛けた状態で、長手方向に搬送しつつ、成膜を行う装置であるが、本発明は、これに限定はされない。例えば、本発明の成膜装置は、前述の特許文献1に示されるように、直線状(平面状)に基材Zを搬送しつつ、成膜を行う装置にも、好適に利用可能である。すなわち、本発明は、長尺な基材を長手方向に搬送しつつ、プラズマCVDによって成膜を行う装置であれば、各種の構成の成膜装置が、全て、利用可能である。
【実施例】
【0065】
[実施例1]
図1に示すような成膜装置10を用いて、基材Zに窒化ケイ素膜を成膜した。
基材Zは、厚さ100μmのPETフィルムを用いた。なお、原子間力顕微鏡(AFM)によって、この基材Zの表面粗さRaを測定したところ、表面粗さRaは0.7nmであった。
【0066】
また、アースシールド48は、アルミニウム製のものを用いた。成膜電極46との間隔は1mmとして、接地した。
また、アースシールド48は、図1および図2に示すように、上流側および下流側、ならびに、幅方向の両側において(すなわち、成膜電極46を囲む全面において)、成膜電極46の対面する位置よりも5mm、高さを低くした。すなわち、アースシールド48と成膜電極46との高さの差h(Δh)を、全域に渡って5mmとした。
【0067】
成膜ガスは、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)、窒素ガス(N2)および水素ガス(H2)を用いた。供給量は、シランガスが100sccm、アンモニアガスが200sccm、窒素ガスが500sccm、水素ガスが500sccmとした。
成膜電極46には、周波数13.5MHzで、2000Wのプラズマ励起電力を供給した。
また、成膜圧力は30Paとした。
【0068】
上記成膜条件の下、基材Zに、厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。成膜レートは、460nm/minであった。なお、窒化ケイ素の膜厚は、接触式段差計によって確認して、基材Zの搬送速度を調整することによって調整した。
成膜後、成膜した窒化ケイ素膜を剥離して、基材Zの表面と同様に、AFMを用いて成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定した。その結果、成膜後の基材Zの表面粗さRaは1.7nmであった。
【0069】
[実施例2]
アースシールド48と成膜電極46との高さの差hを10mmとし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは400nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定したところ、表面粗さRaは1.4nmであった。
【0070】
[実施例3]
アースシールド48と成膜電極46との高さの差hを15mmとし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは290nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定したところ、表面粗さRaは1.3nmであった。
【0071】
[比較例1]
アースシールド48と成膜電極46との高さの差hを0mm(すなわち同じ高さ)とし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは500nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定したところ、表面粗さRaは3.1nmであった。
【0072】
[実施例4]
成膜電極46のドラム42と対面する領域の角部を半径5mmの曲面状とし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは440nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定したところ、表面粗さRaは1.5であった。
【0073】
[実施例5]
アースシールド48の上流側のみを、成膜電極46の上流側端部よりも5mm低くし、それ以外の領域は、アースシールド48と成膜電極46の高さを同じにし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは480nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定したところ、表面粗さRaは1.9nmであった。
【0074】
[実施例6]
アースシールド48の外側に、1mmの間隔を有して第2アースシールド62を設け、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは440nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定したところ、表面粗さRaは1.5nmであった。
【0075】
[実施例7]
アースシールド48と成膜電極46との高さの差hを1mmとし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは490nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定した所、表面粗さRaは2.2nmであった。
【0076】
[実施例8]
成膜する窒化ケイ素膜の膜厚を10nmとし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例5と全く同様にして基材Zの表面に窒化ケイ素膜を成膜した。
成膜レートは480nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定した所、表面粗さRaは2.1nmであった。
【0077】
[実施例9]
下流側のみ、アースシールド48とドラム42との間隔が5mmとなるように高くし、かつ、目的膜厚とするために基材Zの搬送速度を変更した以外は、実施例1と全く同様にして基材Zの表面に厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜した。なお、以上の実施例および比較例において、成膜電極46とドラム42との間隔は、全域で20mmである。
成膜レートは490nm/minであった。実施例1と同様に成膜後の基材Zの表面粗さRaを測定した所、表面粗さRaは1.6nmであった。
【0078】
結果を下記表にまとめて示す。
【表1】

【0079】
以上のように、アースシールド48と成膜電極46との高さの差(Δh)が大きい程、プラズマによる基材Zの表面のダメージは減らせるが、その反面、成膜レートが低くなってしまう。また、比較例1および実施例7に示されるように、アースシールド48と成膜電極46との高さの差は、1mm有れば、高密度プラズマからの基材Zの表面の保護効果は得られる。従って、実施例1〜3および実施例7より明らかなように、アースシールド48と成膜電極46との高さの差hは、要求される基材表面の状態や、成膜レート等に応じて、適宜、設定すればよく、前述のように、1〜20mmとすることで、基材の保護と成膜レートとのバランスを好適に取ることができる。
また、実施例4に示されるように、成膜電極46の角部を曲面とすることにより、電極端部からプラズマを逃がしやすくなり、その結果、より良好な基材Zの表面粗さを低減できる。さらに、実施例5および実施例9に示されるように、アースシールド48を成膜電極46よりも低くするのが、基材Zがプラズマに直接接触する上流側のみでも、好適に、基材Zの表面粗さの低減効果が得られる。
また、実施例6に示されるように、アースシールド48の外側に、第2アースシールド62を設置することにより、プラズマの広がりを、より公的に抑制でき、従って、基材Zの粗さ低減を図りつつ比較的高いレートを確保できる。
また、実施例8や実施例9に示されるように、基材Zに十分な厚さの膜が形成されていない場合には、基材Zの表面粗さの低減を十分に行うためには、アースシールド48の下流側も、成膜電極46より低くするのが好ましいが、基材Zに十分な厚さの膜が成膜されていれば、シャワー電極の下流側に高密度なプラズマに曝されても、基材Zへの影響は少なくできる。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
ガスバリアフィルムや反射防止フィルムの製造など、各種の機能性フィルムの製造に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 成膜装置
12 基材ロール
14 巻取り軸
18 供給室
20 成膜室
24 巻取り室
26 回転軸
28,50,52,68 ガイドローラ
30,60,70 真空排気手段
38,64 隔壁
42 ドラム
46 成膜電極
48,48a アースシールド
54 高周波電源
56 ガス供給手段
62 第2アースシールド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な基材を長手方向に搬送する搬送手段と、
前記基材と対面して配置される成膜電極、および、前記基材に対して前記成膜電極と逆側に配置され、前記成膜電極と共に電極対を形成する対向電極と、
前記成膜電極と基材との間に成膜ガスを供給するガス供給手段と、
前記基材の面方向に成膜電極を囲んで配置されるアースシールドとを有し、
前記基材の位置を上側と見なして、前記アースシールドの基材搬送方向上流側の高さが、前記成膜電極の基材搬送方向上流側の端部よりも低いことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記アースシールドの基材搬送方向下流側の高さが、前記成膜電極の基材搬送方向下流の端部よりも低い請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記アースシールドの基材幅方向の両側の高さが、前記成膜電極の基材幅方向の端部よりも低い請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記アースシールドの高さが成膜電極よりも低い部分において、前記アースシールドが成膜電極よりも1〜20mm低い請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記アースシールドの高さが成膜電極よりも低い部分以外は、アースシールドが、成膜電極以上の高さを有する請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記成膜電極の基材と対面する角部が、半径2mm以上の曲面である請求項1〜5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記基材の面方向にアースシールドを囲んで配置される、第2アースシールドを有する請求項1〜6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
前記第2アースシールドが、全域で前記成膜電極以上の高さを有する請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記成膜電極は、内部に形成されるガス供給空間と、前記基材と対向する面に形成される、前記ガス供給空間に連通する複数のガス供給孔とを有し、
前記ガス供給手段は、前記ガス供給空間に成膜ガスを供給する請求項1〜8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
前記搬送手段は、円筒状のドラムの周面の所定領域に前記基材を巻き掛けて搬送するものであり、かつ、前記ドラムが、前記対向電極として作用する請求項1〜9のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項11】
前記成膜電極は、前記基材との対向面が、前記ドラムの周面と平行な曲面となっている請求項10に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−52171(P2012−52171A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194238(P2010−194238)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】