説明

抗酸化性化合物

【課題】 医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品等の分野で有用な新規N−ジヒドロフェルロイルアミノ酸を提供するとともに、それらを含む抗酸化剤あるいはチロシナーゼ活性阻害剤を提供する。
【解決手段】 L−α−アミノ酸又はその誘導体とジヒドロフェルラ酸を縮合させて得られる下記一般式(A)で表わされる化合物である。さらに、一般式(A)で表わされる化合物を含有することを特徴とする抗酸化剤あるいはチロシナーゼ活性阻害剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−ジヒドロフェルロイルアミノ酸とその用途に関するものであり、当該化合物は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品等の分野において抗酸化剤あるいはチロシナーゼ活性阻害剤として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、活性酸素やフリーラジカルが、様々な疾病を引き起こすことが明らかになってきている。元来活性酸素は生体の免疫機構の中で生成し、外部から侵入した病原菌などを攻撃する働きをもっている。しかし活性酸素が過剰に生成し残存してしまうと、生体内の構成成分、すなわち脂質、タンパク質、DNAなどと反応し悪影響を及ぼす。なかでも生体膜等の構成成分である不飽和脂肪酸は酸化され易く、フリーラジカル中間体を経て過酸化脂質を生成する。この過酸化脂質は、動脈硬化、高血圧症、肝機能障害などを誘起することが知られており、老化現象にも密接に関係しているとも言われている。最近では腋臭の原因としても不飽和脂肪酸の酸化分解物が挙げられている(例えば、非特許文献1参照)。また、酸化を受け易い不飽和脂肪酸を含む食品、医薬品、化粧品等は保存中の品質低下が起こり易いという問題もある。
【0003】
かかる不飽和脂肪酸等の酸化を防止するためには、抗酸化剤を使用する必要がある。抗酸化剤としては多数の化合物が知られており、具体的にはブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール類、アスコルビン酸及びその誘導体、ユビキノン及びその誘導体、フラボン誘導体、没食子酸誘導体、ポリフェノール類が挙げられる(例えば、非特許文献2および非特許文献3参照)。しかしながら、上記BHTやBHA等の合成化学物質は、人体への安全性に欠け用途的な制約があり、他の天然性の抗酸化物質は性能的に今一歩であったり、入手が困難であるという問題があった。
【0004】
一方、しみ、そばかすは紫外線の暴露などに起因して表皮色素細胞内でメラニン色素が形成され、表皮に色素沈着することにより発生する。メラニン色素は、アミノ酸の一種であるL−チロシンが酸化酵素であるチロシナーゼの作用によりL−ドーパ、L−ドーパキノンへと代謝され、さらに各種の過程を経ることにより合成される(例えば非特許文献4および非特許文献5参照)。したがって、しみ、そばかすなどの色素沈着を防止するには、メラニン色素の合成に重要な役割を果たしているチロシナーゼの活性を阻害することが重要である。
【0005】
従来、しみ、そばかすなどの予防・改善には、胎盤抽出物、ビタミンC及びその誘導体、コウジ酸、アルブチンなどの薬剤が使用されているが、必ずしも十分な効果は得られていない。また、欧米では、ハイドロキノンが色素斑の脱色を目的に用いられているが、安全性の点で問題があるために使用制限がなされている。さらに最近、コウジ酸にも発ガン性がある可能性が指摘され問題となっている。
【0006】
大麦中に存在する化合物としてN−フェルロイルグリシンが知られており、この化合物の関連酵素であるN−フェルロイルグリシンアミドヒドロラーゼの研究において、N−フェルロイルアラニンが合成されている(非特許文献6参照)。また、N−ジヒドロフェルロイルアミノ酸に構造が類似した化合物であるカフェ酸アミド誘導体が抗酸化活性及びチロシナーゼ阻害活性を有することが知られている(特許文献1参照)。しかし、N−フェルロイルアラニンならびにカフェ酸アミド誘導体はいずれも、アミド基とフェニル基との間が炭素−炭素二重結合であり、アミド基とフェニル基との間が飽和炭化水素で結ばれているN−ジヒドロフェルロイルアミノ酸とは構造上の特徴が相違する。
【0007】
【特許文献1】特開2003−192522号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】飯田悟、外7名、「体臭発生機構の解析と対処」、第51回SCCJ研究討論会講演要旨集、2002年、p.64−67
【非特許文献2】福沢健治、「フリーラジカル防御の薬理学と薬物開発の展望」、日本臨床、1988年10月、46巻、10号、p.2269−2276
【非特許文献3】Sies, H.、外2名、「Antioxidant Functions of Vitamins」、Annals New York Academy of Sciences、1992年、669巻、p.7−20
【非特許文献4】「ファインケミカル誌」特集 美白剤の開発と製品展開、シーエムシー出版編集・発行、1999年3月15日号
【非特許文献5】「フレグランス ジャーナル誌」特集 最近の美白剤の研究開発動向、フレグランスジャーナル社編集・発行、1997年9月号
【非特許文献6】Martens,M.外5名、Phytochemistry、27巻、8号、p.2465−2475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述のような状況をふまえ、優れた抗酸化剤、あるいはチロシナーゼ活性阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは抗酸化剤及びチロシナーゼ活性阻害剤に関する研究を重ねた結果、N−ジヒドロフェルロイルアミノ酸が優れた抗酸化活性及びチロシナーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、L−α−アミノ酸又はその誘導体とジヒドロフェルラ酸を縮合させて得られる下記一般式(A)で表わされる化合物である。
【0010】
【化1】

【0011】
さらに、前記一般式(A)で表わされる化合物を含有することを特徴とする抗酸化剤、及び前記一般式(A)で表わされる化合物を含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のN−ジヒドロフェルロイルアミノ酸は、優れた抗酸化活性及びチロシナーゼ阻害活性を有することから、医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品等の分野において、抗酸化剤あるいはチロシナーゼ活性阻害剤として有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
○一般式(A)で表わされる化合物
一般式(A)におけるRは、L−α−アミノ酸におけるアミノ基と結合した残基である。ジヒドロフェルラ酸と縮合するL−α−アミノ酸の誘導体としては、アミノ酸残基が塩で置換されたL−α−アミノ酸塩又はL−α−アミノ酸エステル等が含まれる。
本明細書で言うL−α−アミノ酸とは、カルボシキル基とアミノ基が同一炭素原子に結合したアミノ酸(α−アミノ酸)であり、その立体配置はL−型を有するものである。具体的には、L−α−アラニン、L−バリン、L−α−ロイシン、L−α−イソロイシン、L−α−セリン、L−α−スレオニン、L−α−フェニルアラニン、L−α−チロシン、L−α−トリプトファン、L−α−リジン、L−α−アルギニン、L−α−ヒスチジン、L−α−システイン、L−α−シスチン、L−α−メチオニン、L−プロリン、L−3−ヒドロキシプロリン、 L−4−ヒドロキシプロリン、L−α−アスパラギン酸、L−α−グルタミン酸、L−α−アスパラギン又はL−α−グルタミンなどが挙げられる。これらのL−α−アミノ酸は市販のものを使用することができる。
【0014】
L−α−アミノ酸塩としては、アミノ酸残基中のカルボキシル基がナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等や、あるいは塩基性アミノ酸であるトリプトファン、リジン、アルギニン又はヒスチジンなどの塩基性残基が、塩酸、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸などの無機酸又は有機酸等の酸成分と塩を形成したものを示す。
【0015】
L−α−アミノ酸エステルとは、アミノ酸残基中のカルボキシル基がアルコール類とエステル結合を形成したものであり、炭素数1〜18の分子を有しても良いエステル基を有するものである。エステル基としては、メチルエステル基、エチルエステル基、n−ブチルエステル基、ステアリルエステル基などの直鎖のエステル基、イソプロピルエステル基、2−エチルヘキシルエステル基などの分枝構造を有するエステル基、メタリルエステル基、ベンジルエステル基、ゲラニルエステル基、オレイルエステル基などの不飽和結合を有するエステル基が例示され、原料の入手容易なメチルエステル基、エチルエステル基、n−プロピルエステル基、n−ブチルエステル基、ベンジルエステル基が好適である。
【0016】
なお、本明細書において、上記L−α−アミノ酸、L−α−アミノ酸塩及びL−α−アミノ酸エステルの表示で、「α−」表記を省略して表示することもある。
【0017】
一般式(A)で表わされる化合物は、たとえば、下記式(1)で表わされる化合物(以下、化合物1ともいう。その他の式で表わされる後記の化合物についても同様に略記する場合もある。)と、L−α−アミノ酸又はL−α−アミノ酸エステルとを縮合させることにより合成することができる。縮合反応は、脱水縮合剤を用いる方法、化合物1を活性エステル化合物に変換した後、L−α−アミノ酸またはL−α−アミノ酸エステルと反応させる方法など、常法に従って実施することができる。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(A)で表わされる化合物の合成法として、化合物1をN−ヒドロキシスクシンイミドと反応させて活性エステル化合物(化合物2)に変換した後、L−アミノ酸エステルとの反応を行う方法を例に説明する。
【0020】
【化3】

【0021】
化合物2は、有機溶媒中で化合物1とN−ヒドロキシスクシンイミドとを縮合剤を用いて反応させることにより、調製することができる。
本反応で使用するN−ヒドロキシスクシンイミドの量は、基本的には化合物1に対して1化学当量であり、0.7〜1.3化学当量であることが好ましく、さらに好ましくは、0.9〜1.1化学当量である。
【0022】
縮合剤としては、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミプロピル)カルボジイミド、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド、ジ−2−ピリジルカルボネート、ジ−2−ピリジルチオノカルボネートなどが例示され、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドを好適に使用することができる。縮合剤の使用量は、基本的には化合物1に対して1化学当量であり、0.7〜1.3化学当量であることが好ましく、さらに好ましくは、0.9〜1.1化学当量である。
【0023】
本反応は有機溶媒中、なかでも、非プロトン性の溶媒中で行うことが好ましく、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルプロピレンウレアおよびこれらの混合溶媒等を好適に使用することができる。
上記反応の温度は、0〜50℃が好ましく、より好ましくは、10〜30℃である。この反応温度が低すぎる場合は温度維持にコストがかかり、また、反応温度が高すぎる場合は副反応が進行する場合がある。
本反応時間は条件により異なるが、通常、数時間である。
この反応終了後、化合物2を未精製のまま使用することもでき、また、再結晶等の公知の方法により、化合物2を単離精製することもできる。
【0024】
上述のように調製した化合物2にL−アミノ酸エステルを反応させることにより、一般式(A)で表される化合物を合成することができる。
本反応で使用する化合物2の量は、基本的にはL−アミノ酸エステルに対して1化学当量であり、0.7〜1.3化学当量であることが好ましく、さらに好ましくは、0.9〜1.1化学当量である。
本反応は、塩基性条件下で行うことが好ましく、好適には炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムをL−アミノ酸エステルに対して、0.7〜5.0化学当量、より好適には1.0〜3.0化学当量使用する。
【0025】
本反応は、化合物2、L−アミノ酸エステル、及び炭酸水素ナトリウムなどの塩基性物質を溶解する溶媒中で実施することが好ましく、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルプロピレンウレア、メタノール、エタノール、イソプロピリアルコール、トルエン、塩化メチレン、水、および、これらの混合溶媒が好適である。
上記反応の温度は、0〜50℃が好ましく、より好ましくは、10〜30℃である。この反応温度が低すぎる場合は温度維持にコストがかかり、また、反応温度が高すぎる場合は副反応が進行する場合がある。
この反応時間は条件により異なるが、通常、数時間から数10時間である。
この反応終了後は、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の公知の方法により、一般式(A)で表される化合物を単離精製することができる。
【0026】
一般式(A)で表わされる化合物は、抗酸化活性及びチロシナーゼ阻害活性を有することから、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品の分野において、抗酸化剤あるいはチロシナーゼ活性阻害剤として、例えば、食品添加物や美白化粧料成分などに用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
<合成例1>
ジヒドロフェルラ酸(化合物1)とN−ヒドロキシスクシンイミドとの縮合反応を行い、化合物2を得た。
すなわち、ジヒドロフェルラ酸(23.6g,120mmol)、N−ヒドロキシコハク酸イミド(13.9g,121mmol)のテトラヒドロフラン(250ml)溶液に、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(25.0g,121mmol)を加えた。室温で3時間攪拌後、蒸留水5mlを加え、16時間放置した。つぎに、生成した不溶物を濾別し、濾液を濃縮した。得られた残渣を酢酸エチルとn−ヘキサンとの混合溶媒から再結晶し、無色結晶性の化合物(25.0g、収率71%)を得た。1H−NMRスペクトルおよび赤外線吸収(IR)スペクトル分析(以下、特に記載しないかぎり、IRスペクトルはKBrペレット法による。)を行ない、得られた化合物が化合物2であることを確認した。
【0029】
化合物2の融点は140−142℃であった。化合物2の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、2.80-2.92(6H,m), 2.96-3.02(2H,m), 3.89(3H,s), 5.57(1H,s), 6.70-6.75(2H,m), 6.85(1H,d,J=7.6Hz)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3430, 2940, 1820, 1780, 1730, 1520, 1370, 1220, 1070, 820, 650であった。
【0030】
<合成例2>
合成例1で用いたN−ヒドロキシスクシンイミドの代わりにN−ヒドロキシベンゾトリアゾールを用いて、化合物3を得た。
【0031】
○化合物3の構造式
【0032】
【化4】

【0033】
化合物3の融点は147−149℃であった。化合物3の重クロロホルムと重メタノールの混合溶媒中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、3.11(2H,t,J=7.6Hz), 3.48(2H,t,J=7.6Hz), 3.88(3H,s), 6.726.85(3H,m), 7.66(1H,t,J=8.0Hz), 7.86(1H,t,J=8.0Hz), 8.03(1H,d,J=8.4Hz), 8.43(1H,d,J=8.4Hz)であった。
【0034】
<実施例1>
合成例1で得た化合物2とL−α−アラニンエチルエステル塩酸塩との反応を行い、本発明の化合物4を合成した。
すなわち、L−α−アラニンエチルエステル塩酸塩(1.54g,10.0mmol)および炭酸水素ナトリウム(850mg,10.1mmol)を蒸留水(10ml)に溶解した。つぎに、化合物2(2.94g,10.0mmol)をテトラヒドロフラン(30ml)に溶解した溶液を加え、室温で攪拌した。18時間後、反応溶液に、20%炭酸ナトリウム水溶液(10ml)、飽和食塩水(20ml)および酢酸エチル(10ml)を加えて分配した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、無色液状の化合物(2.74g、収率93%)を得た。1H−NMRスペクトルおよびIRスペクトル分析により、得られた化合物が化合物4であることを確認した。
【0035】
○化合物4の構造式
【0036】
【化5】

【0037】
化合物4の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、1.27(3H,t,J=7.2Hz), 1.35(3H,d,J=7.2Hz), 2.43-2.54(2H,m), 2.87-2.94(2H,m), 3.86(3H,s), 4.19(2H,q,J=7.2Hz), 4.56(1H,t,J=7.2Hz), 5.58(1H,br), 5.98(1H,br), 6.67−6.75(2H,m), 6.82(1H,d,J=8.0Hz)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3350, 2980, 1740, 1650, 1520, 1450, 1280, 1210, 1160, 1120, 1060, 1030であった。
【0038】
<実施例2>
実施例1で用いたL−α−アラニンエチルエステル塩酸塩の代わりに、L−セリンエチルエステル塩酸塩を用い、本発明の化合物5を合成した。
【0039】
○化合物5の構造式
【0040】
【化6】

【0041】
化合物5の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、1.28(3H,t,J=7.2Hz), 2.53(2H,t,J=7.6Hz), 2.77(1H,br), 2.91(2H,t,J=7.6Hz), 3.82-3.94(5H,m), 4.22(2H,q, J=7.2Hz), 4.60-4.66(1H,m), 5.72(1H,br), 6.46(1H,br), 6.69(1H,d,J=8.4Hz), 6.72(1H,s), 6.83(1H,d,J=8.4Hz)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3370, 2940, 1740, 1660, 1520, 1450, 1380, 1280, 1210, 1160, 1030, 820であった。
【0042】
<実施例3>
実施例1で用いたL−α−アラニンエチルエステル塩酸塩の代わりに、L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩を用い、本発明の化合物6を合成した。
【0043】
○化合物6の構造式
【0044】
【化7】

【0045】
化合物6の融点は113−115℃であった。化合物6の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、2.38-2.53(2H,m), 2.83-2.92(2H,m), 3.06(2H,d,J=5.6Hz), 3.71(3H,s), 3.85(3H,s), 4.85-4.92(1H,m), 5.53(1H,br), 5.82(1H,br), 6.65-6.73(2H,m), 6.83(1H,d,J=8.0Hz), 6.90-6.96(2H,m), 7.20-7.25(3H,m)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3420, 3310, 3000, 2940, 1730, 1650, 1550, 1520, 1430, 1280, 1230, 1030, 700であった。
【0046】
<実施例4>
実施例1で用いたL−α−アラニンエチルエステル塩酸塩の代わりに、L−メチオニンメチルエステル塩酸塩を用い、本発明の化合物7を合成した。
【0047】
○化合物7の構造式
【0048】
【化8】

【0049】
化合物7の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、1.86-1.97(1H,m), 2.03-2.18(4H,m), 2.33-2.42(2H,m), 2.48-2.59(2H,m), 2.88-2.95(2H,m), 3.74(3H,s), 3.87(3H,s), 4.69-4.75(1H,m), 5.55(1H,br), 6.06(1H,br), 6.68-6.75(2H,m), 6.83(1H,d,J=8.0Hz)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3350, 2950, 1740, 1660, 1520, 1440, 1280, 1120, 1030, 820であった。
【0050】
<実施例5>
合成例1で得た化合物2とL−ヒスチジンメチルエステル二塩酸塩との反応を行い、本発明の化合物8を合成した。
すなわち、L−ヒスチジンメチルエステル二塩酸塩(2.43g,10mmol)および炭酸水素ナトリウム(2.52g,30.0mmol)を蒸留水(10ml)に溶解した。つぎに、化合物2(2.94g,10.0mmol)をテトラヒドロフラン(30ml)に溶解した溶液を加え、室温で攪拌した。18時間後、反応溶液に、20%炭酸ナトリウム水溶液(10ml)、飽和食塩水(20ml)および酢酸エチル(10ml)を加えて分配した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、無色粉末状の化合物(3.05g、収率97%)を得た。1H−NMRスペクトルおよびIRスペクトル分析により、得られた化合物が化合物8であることを確認した。
【0051】
○化合物8の構造式
【0052】
【化9】

【0053】
化合物8の重クロロホルムと重メタノールの混合溶媒中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、2.46-2.56(2H,m), 2.80-2.87(2H,m), 2.97-3.06(2H,m), 3.70(3H,s), 3.83(3H,s), 4.68(1H,t,J=7.2Hz), 6.60-6.67(2H,m), 6.71(1H,s), 6.75(1H,d,J=8.0Hz), 7.47(1H,s)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3290, 1740, 1660, 1520, 1440, 1370, 1280, 1130, 1030, 750であった。
【0054】
<実施例6>
合成例2で得た化合物3とL−チロシンメチルエステルとの反応を行い、本発明の化合物9を合成した。
すなわち、L−チロシンメチルエステル(980mg,5.02mmol)および化合物3(1.58g,5.04mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解し、室温で攪拌した。18時間攪拌後、5%炭酸ナトリウム水溶液(80ml)、酢酸エチル(30ml)を加えて分配した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、無色粉末状の化合物(935mg、収率53%)を得た。
1H−NMRスペクトルおよびIRスペクトル分析により、得られた化合物が化合物9であることを確認した。
【0055】
○化合物9の構造式
【0056】
【化10】

化合物9の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、2.40-2.55(2H,m), 2.79-3.03(4H,m), 3.71(3H,s), 3.81(3H,s), 4.81-4.89(1H,m), 5.72(1H,br), 5.98(1H,br), 6.62-6.85(8H,m)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3350, 2950, 1740, 1650, 1610, 1520, 1450, 1370, 1230, 1120, 1030, 820であった。
【0057】
<実施例7>
実施例2で得た化合物5を加水分解することで、本発明の化合物10を合成した。
すなわち、化合物5(1.56g,5.00mmol)をイソプロピルアルコール(15ml)に溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液(5ml)を加えて、室温で攪拌した。24時間後、1N塩酸(5ml)を加えて、中和した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、無色結晶性の化合物(1.01g、収率71%)を得た。1H−NMRスペクトルおよびIRスペクトル分析により、得られた化合物が化合物10であることを確認した。
【0058】
○化合物10の構造式
【0059】
【化11】

【0060】
化合物10の融点は137−139℃であった。化合物10の重ジメチルスルフィド中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、2.42(2H,t,J=7.6Hz), 2.68(2H,t,J=7.6Hz), 3.55-3.80(6H,m), 4.23-4.36(1H,m), 6.58(1H,d,J=7.6Hz), 6.65(1H,d,J=7.6Hz), 6.77(1H,s), 8.00(1H,br), 8.65(1H,br)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3520, 3310, 2940, 1750, 1710, 1650, 1540, 1520, 1280, 1270, 1220, 1030, 860, 820, 800であった。
【0061】
<実施例8>
実施例4で得た化合物7を加水分解することで、本発明の化合物11を合成した。
すなわち、化合物6(1.71g,5.00mmol)をイソプロピルアルコール(15ml)に溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液(5ml)を加えて、室温で攪拌した。24時間後、反応混合物を減圧濃縮し、残渣をメタノールから再結晶することにより、淡黄色結晶性の化合物(450mg、収率43%)を得た。1H−NMRスペクトルおよびIRスペクトル分析により、得られた化合物が化合物11であることを確認した。
【0062】
○化合物11の構造式
【0063】
【化12】

【0064】
化合物11の融点は221−222℃であった。化合物11の重ジメチルスルフィドと重メタノールの混合溶媒中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、1.73-1.85(1H,m), 1.91-2.07(4H,m), 2.29-2.50(4H,m), 2.73-2.81(2H,m), 3.79(3H,s), 4.07-4.14(1H,m), 6.62(1H,d,J=8.0Hz), 6.68(1H,d,J=8.0Hz), 6.81(1H,s)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3370, 2930, 1650, 1650, 1600, 1520, 1400, 1280, 1260, 1230, 1130, 1040, 820であった。
【0065】
<比較例1>
合成例1で用いたジヒドロフェルラ酸(化合物1)の代わりにtrans−フェルラ酸を用いて活性エステル化合物を調製し、得られた活性エステル化合物とL−ヒスチジンメチルエステル二塩酸塩との反応を実施例5と同様の手順で行ない、化合物12を得た。
【0066】
○化合物12の構造式
【0067】
【化13】

【0068】
化合物12の重クロロホルムと重メタノールの混合溶媒中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、3.08(2H,m), 3.74(3H,s), 3.90(3H,s), 4.80-4.90(1H,m), 6.44(1H,d,J=16.0Hz), 6.81-6.90(2H,m), 7.01-7.12(2H,m), 7.50(1H,s), 7.56(1H,s)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3300, 1740, 1660, 1590, 1510, 1280, 1210, 1130, 980, 820であった。
【0069】
<比較例2>
実施例5で用いた化合物2の代わりに、3−(p−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(和光純薬工業製)を用い、化合物13を得た。
【0070】
○化合物13の構造式
【0071】
【化14】

【0072】
化合物13の重ジメチルスルフィド中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、2.32(2H,t,J=8.0Hz), 2.64(2H,t,J=8.0Hz), 2.79-2.95(2H,m), 3.58(3H,s), 4.42-4.53(1H,m), 6.64(2H,d,J=8.8Hz), 6.77(1H,br), 6.95(2H,d,J=8.8Hz), 7.52(1H,br), 8.21(1H,br), 9.12(1H,br), 11.80(1H,br)であった。
また、IRスペクトルで吸収のあった波数(cm-1)は、3290, 1740, 1660, 1520, 1440, 1370, 1250, 990, 830, 620であった。
【0073】
<実施例9>
抗酸化活性を確認するための試験として、常法である1,1−Diphenyl−2−picrylhydrazyl(DPPHと略記)ラジカルの消去試験を行った。すなわち、上述の実施例で得られた化合物4〜化合物11、ならびに比較対照としてdl−α−トコフェロール(東京化成工業製)、化合物12、化合物13及びL−ヒスチジンを用いて、DPPHラジカルの消去試験を行った。
具体的な試験手順は以下のとおりである。
【0074】
96穴プレートの各ウェルに100mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)(80μl)と被験試料(最終濃度50μg/ml)のエタノール溶液(20μl)を分注し混合した。ここに800μMのDPPHエタノール溶液(100μl,最終400μM)を添加し良く攪拌した。これを室温、暗所にて20分間静置した後、540nmの吸光度を測定した(試料溶液の吸光度)。
対照として100mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)(80μl)、エタノール(20μl)及び800μMのDPPHエタノール溶液(100μl)を用いて上記と同様に操作し、吸光度を測定した(対照溶液の吸光度)。
それぞれ化合物について4回同様の測定を行い、その平均値を以下の式に代入し、DPPHラジカル消去率を算出した。
DPPHラジカル消去率(%)=[1−(a/b)]×100
a=試料溶液の吸光度
b=対照溶液の吸光度
【0075】
【表1】

【0076】
構造類似の化合物8と化合物12および化合物13とを比較した場合、アミド基とフェニル基との間が炭素−炭素二重結合である化合物12に対して、アミド基とフェニル基との間が飽和炭化水素で結ばれている本発明の化合物8の方が、ラジカル消去率が高いことが分かった。また、フェニル基上にメトキシ基が存在しない化合物13に比べ、フェニル基上にメトキシ基が存在する本発明の化合物8の方が、ラジカル消去率が高いことが分かった。また、本発明の化合物は、dl−α−トコフェロールと同等以上のラジカル消去活性を有することがわかった。したがって、本発明の化合物は活性酸素、特にヒドロキシラジカルの消去剤として使用できると考えられる。
【0077】
<実施例10>
上述の合成例で得られた化合物4〜化合物11、ならびに比較対照としてdl−α−トコフェロール(東京化成工業製)およびL−ヒスチジン(和光純薬工業製)を用いて、リノール酸における過酸化脂質生成抑制試験を行った。
【0078】
具体的な試験手順は以下のとおりである。
1)スクリューバイアル(容量50ml)に取ったリノール酸(0.2g、東京化成工業
製)、化合物4(0.01g)、および界面活性剤ニッサンOT−221(0.4g、
日本油脂(株)製)にエタノール(2.0g)を添加して溶解させた後、蒸留水
(17.39g)を加え攪拌し、密栓をして40℃の恒温槽に放置した。これを2個調
製した。
化合物5〜化合物11、dl−α―トコフェロール、L−ヒスチジンおよび検体無
添加(ブランク)についても同様に行った。
2)試験開始から10日後、20日後および30日後のリノール酸残量をHPLCにより
定量した。
HPLCの分析条件は、検出波長:210nm、移動相:pH2.6に調整したM
cIlvaine緩衝液とメタノールとの混合溶液(10:90)、流速:1ml/m
in、カラム:ODS−80Ts(4.6φmm×150mm)、カラム温度40℃の
条件にて実施した。
3)HPLCでの定量はそれぞれの試料について1回ずつ行い、計2回の測定値の平均値
からリノール酸残存率を算出した。この結果を表2に示した。
【0079】
【表2】

【0080】
試験の結果、本発明の化合物は、L−ヒスチジンならびに既存の過酸化脂質生成抑制剤であるdl−α−トコフェロール以上の効果を有することがわかった。
【0081】
<実施例11>
上述で得られた化合物4〜化合物10、ならびに比較対照としてアルブチン(東京化成工業製)及びL−ヒスチジン(和光純薬工業製)を用いて、L−ドーパを基質としたチロシナーゼ活性阻害試験を行った。
【0082】
具体的な試験手順は以下のとおりである。
はじめに以下の[1]〜[4]溶液をそれぞれ調製した。
[1]リン酸二水素ナトリウム(1.000g)及びリン酸水素二ナトリウム
(1.186g)を蒸留水(500ml)に溶解し、リン酸緩衝液を調製した。
[2]L−DOPA(32.7mg)を蒸留水(200ml)に溶解し、基質溶液を調
製した。
[3]検体のジメチルスルホキシド溶液を、リン酸緩衝液で10倍に希釈し、試験溶液
を調製した。
[4]マッシュルームチロシナーゼ(3.0mg,2400unit)を蒸留水
(7.0ml)に溶解した後、さらにリン酸緩衝液で5倍に希釈しチロシナーゼ溶
液を調製した。
【0083】
次に、下記の1)及び2)の手順で試験を行った。
1)96穴プレートの各ウェルにL−DOPA溶液(80μl)および被検試料溶液
(80μl)を分注し混合した。ここにチロシナーゼ溶液(80μl)を加えて、15
秒間攪拌した。得られた溶液を25℃で保持し、1分45秒後および2分45秒間後の
490 nmでの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。
2)上記1)の試験操作をそれぞれの検体およびブランク試験(ジメチルスルホキシドの
み)について各4回行い、得られた数値を下記計算式に代入して、その平均値をチロシ
ナーゼ活性阻害率(%)とした。
チロシナーゼ活性阻害率(%)=[(T1−T2)/T1]×100
T1=ブランク溶液の2分45秒間後と1分45秒後の吸光度の差
T2=試験溶液の2分45秒間後と1分45秒後の吸光度の差
【0084】
本発明の化合物4〜化合物10、ならびにアルブチン及びL−ヒスチジンをそれぞれ、酵素反応液中に2.00mg/ml用いた場合の結果を表3に示した。
【0085】
【表3】

【0086】
試験の結果、本発明の化合物は、L−ヒスチジンとは異なり、既存のチロシナーゼ活性阻害剤であるアルブチンと同様に、チロシナーゼ阻害活性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の一般式(A)で表わされる化合物は、優れた抗酸化活性及びチロシナーゼ阻害活性を有しており、医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品等の分野で、抗酸化剤あるいはチロシナーゼ活性阻害剤として使用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−α−アミノ酸又はその誘導体とジヒドロフェルラ酸を縮合させて得られる下記一般式(A)で表わされる化合物。
【化1】

【請求項2】
前記一般式(A)で表わされる化合物を含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項3】
前記一般式(A)で表わされる化合物を含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤。



【公開番号】特開2006−52152(P2006−52152A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233102(P2004−233102)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】