説明

拡散炉

【課題】長期使用に伴う性能劣化を抑制する拡散炉を提供すること。
【解決手段】拡散炉は、円筒状の断熱筒21と、断熱筒21の内周面に螺旋状に配置される電熱線22とを備え、断熱筒21の径外方向に移動可能な移動式セパレーター23Bに電熱線22を固定する。制御回路部31は、電流値に基づいて電熱線22の劣化状態を検出すると、モーター241を制御して移動式セパレーターを断熱筒21の径外方向に移動させる処理をする。このため、電熱線22の一部が垂れ下がった場合でも、電熱線22を径外方向に移動することで、電熱線22の接触による断線を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内の被処理物を熱処理する拡散炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば半導体素子を含む集積回路を形成する半導体ウエハー等の被処理物を熱処理する拡散炉が知られている。このような拡散炉は、その内部の処理室に格納した被処理物を加熱することによって、例えばアニール処理、薄膜などの成膜処理、及び不純物の拡散を行なう拡散処理等の各種処理を実施する装置である。
【0003】
そして、このような拡散炉は、一般に、円筒状内壁を有する処理室と、この処理室の内壁周面に配置されるヒーター(電熱線)とを備えて構成され、電熱線を発熱させて、被処理物が格納された処理室を目的の温度まで昇温させる。ところで、このような拡散炉に用いられる電熱線は、長期使用に伴って経年変化などによる劣化が生じる。そして、劣化した電熱線は、発熱量の低下や断線などの不具合を生じ、これらの不具合によって処理室の温度を好適に目的の高温にすることができなくなるという問題が生じる。このような問題に対して、従来より、電熱線の劣化や拡散炉の性能低下を防止する構成が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
特許文献1に記載の炉は、炉壁断熱材と、炉壁断熱材の内周に沿って配置されるヒーター発熱部と、これらの炉壁断熱材およびヒーター発熱部の間に配置されるスペーサーを備えている。この炉では、スペーサーが高温耐酸化性および耐熱性に優れた絶縁材料により形成され、このスペーサーにより炉壁断熱材とヒーター発熱部との間を離間させることでヒーターの寿命を延ばす構成が採られている。また、この炉では、U字形ピンや固定ピンなどの固定部材によりヒーター発熱部が炉壁断熱材の所定位置に位置決め固定される構成が採られている。
【0005】
また、特許文献2に記載のヒーターは、コイル状のヒーター素線を収めた円筒状のヒーターシェルと、ヒーターシェルを覆う水冷冷却ユニットとを備えている。ヒーターシェルの円筒部には90°ずつ4方向にスパイクサーモカップル取り付け穴が設けられ、水冷冷却ユニットは、側壁を約90°幅に切り開いた切欠が設けられている。そして、このヒーターでは、定期的にヒーターシェルを90°ずつずらしてローテーションさせて、水冷冷却ユニットに覆われる部分のヒーター素線を冷却することで、ヒーター素線の劣化による垂れを緩和させる構成が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−313153号公報
【特許文献2】特開平6−310450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の発明では、固定用のU字系ピンや固定ピンにより、炉内壁の断熱材にヒーター発熱部が固定されている。このような従来の構成では、例えば、炉を横置きにして、ヒーター発熱部が略水平方向に沿って並列するように配置されると、上側に配置されるヒーター素線の中央部分が垂れ下がり、下方に配置されるヒーター素線と接触する場合がある。このようなヒーター発熱部同士の接触が発生すると、ヒーター発熱部の温度が過剰に上昇し、断線してしまうという問題がある。
また、特許文献2に記載のような炉では、ヒーターシェル内の水冷冷却ユニットに覆われている部位が冷却され、水冷冷却ユニットに覆われていない範囲に比べて低温となる。このため、ヒーター内の温度を均一にすることができず、被処理物の熱処理効率が低下してしまうという問題がある。また、通常、製造工場などにおいて使用される拡散炉は常に一定温度となるように管理されているため、長期使用によるヒーター素線の劣化による伸長は回避できない。このようなヒーター素線の劣化による伸長が発生した場合、鉛直上方側に配置されるヒーター素線が下方側に垂れ下がり、上記特許文献1と同様、ヒーター素線同士が接触し、断線してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、長期使用に伴う性能劣化を抑制する拡散炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の拡散炉は、断熱材により形成される円筒状の断熱筒と、この断熱筒の内周面に沿って、所定間隔で互いに隣接して配置される電熱線と、を備えた拡散炉であって、前記断熱筒の内周面に沿って、所定方向に移動可能に設けられ、前記電熱線を保持するための移動保持部と、前記移動保持部を、互いに隣接する前記電熱線が離隔する所定の方向に移動させる移動手段と、前記電熱線の劣化状態を検出する電熱線状態検出手段と、前記電熱線の劣化状態に応じて、前記移動手段を制御して前記移動保持部を移動させる移動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の拡散炉によれば、断熱筒の内周面の所定位置に電熱線を保持するための移動保持部が移動手段により所定方向に移動可能に設けられている。そして、電熱線の劣化状態に応じて、移動制御手段は移動手段を制御し、移動保持部を移動させる。
ここで、拡散炉では、炉内を効率的に昇温させ、かつ均一な温度分布とするために、電熱線を等間隔で複数並列させて配置することが好ましく、例えば円筒状の断熱筒内周面に螺旋状やsin波状に配置される。このような構成では、電熱線の経年劣化により電熱線が伸長すると、隣り合う電熱線同士が接触したり、電熱線が底面に接触したりし、電熱線の寿命低下を引き起こす。これに対して、本発明では、電熱線状態検出手段により電熱線が劣化していると検出されると、移動制御手段は、移動手段を制御して移動保持部を移動させ、電熱線の配置位置をずらす。これにより、電熱線同士の接触や、電熱線と他の部材との接触を防止でき、電熱線同士の接触による断線や、熱処理効率の低下などを防止でき、拡散炉の長寿命化を図ることができる。なお、電熱線を移動させる方向としては、電熱線の配置により適宜設定することが可能であり、例えば鉛直方向に対して電熱線が並列して配置される場合、鉛直方向に対して1つおきに配設される移動保持部を移動させる。これにより、鉛直上側に配置される電熱線が伸長して撓んだとしても、鉛直下側に配置される電熱線とは断熱筒の径方向に沿ってずれた位置に撓むことになり、電熱線同士の接触が防止される。また、sin波状に配置される電熱線では、sin波の折り返し部に移動保持部を設け、電熱線を引っ張るように移動させてもよく、この場合、電熱線が撓まないように引っ張ることで、他の電熱線との接触や、炉底面などの他の部分への電熱線の接触を防止することができる。
【0011】
本発明の拡散炉では、前記電熱線状態検出手段は、前記電熱線に供給する電流量を検出する電流検出器であり、前記移動制御手段は、前記電流検出器により検出される電流量に基づいて前記移動手段を制御し、前記移動保持部を移動させることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、電熱線状態検出手段は、電熱線に供給する電流量を検出する電流検出器であり、移動制御手段は、この電流検出器で検出した電流量に基づいて、移動保持部を移動させる。すなわち、電熱線は経年変化により劣化が進行すると、電熱線の物性の変化などにより、抵抗値が低下し、同じ電圧をかけた場合でも、徐々に電流値が増大する。すなわち、電流値を検出することで、電熱線の劣化状態を判別することが可能であり、電流値が所定閾値以上となった場合、電熱線が劣化して伸長している可能性が大きいと判別することができる。したがって、移動制御手段は、電流検出器により検出される電流値に基づいて、移動手段を移動させることで、電熱線の劣化タイミングに合わせて電熱線を移動させることができる。
また、拡散炉では、炉内温度を一定に維持するために、電熱線に供給する電力量を制御することが一般的である。このような拡散炉では、電熱線が劣化して発熱量が低下すると、炉内温度を維持するために、電熱線への電流を増大させて発熱量を上げる処理を実施する。このような拡散炉において、本発明では、移動制御手段は電熱線の電流増加を検出することで、電熱線の劣化を検出し、移動手段を制御して電熱線を移動させることができる。また、この場合、拡散炉の温度を一定に維持するための電流検出回路をそのまま利用することができるため、別途電流検出手段を設ける必要がなく、構成の簡略化を図ることができる。
【0013】
本発明の拡散炉では、前記断熱筒は、円筒軸方向が鉛直方向となるように配置され、前記電熱線は、前記断熱筒の内周面に沿って螺旋状に配置され、前記移動手段は、前記移動保持部を前記断熱筒の径方向に沿って移動させることが好ましい。
【0014】
この発明では、断熱筒の軸方向が鉛直方向となるように配置され、その内周面に螺旋状に電熱線が配置される。そして、移動手段は、移動保持部を断熱筒の径方向に移動させることで、電熱線の配置位置を径方向に移動させる。
このような構成では、電熱線が円筒内周面に鉛直方向に沿って螺旋状に配置されるため、鉛直方向に沿って電熱線の一部が並列配置されることになる。そして、本発明では、移動制御手段は、鉛直上側に配置される電熱線と鉛直下側に配置される電熱線とを、断熱材中心軸からの距離が異なるように配置位置をずらすように移動手段を制御する。これにより、鉛直上側に配置される電熱線が垂れ下がった場合でも、鉛直下側に配置される電熱線に接触せず、電熱線同士の接触が防止される。また、移動手段により電熱線を径外方向に引っ張ることで、電熱線が撓んだ場合でも、その撓みを伸ばすことができ、電熱線同士の接触をより確実に防止することができる。
【0015】
本発明の拡散炉では、前記断熱筒の内周面に前記電熱線を固定する固定保持部を備え、前記固定保持部および前記移動保持部は、前記断熱筒の軸方向に沿って交互に配設されることを特徴とする。
上記のように断熱筒の内部に螺旋状の電熱線が配置される構成では、断熱筒を軸方向から見た平面視において、上方に位置する電熱線と下方に位置する電熱線とが異なる位置に設けられていればよい。したがって、例えば上方に位置する電熱線を径内方向に、下方に位置する電熱線を径外方向に移動させてもよいが、この場合、移動手段を複数段に並列する電熱線の各部に対してそれぞれ移動手段を設ける必要があり、コスト面や処理面で問題となる。これに対して、本発明では、軸方向に沿って、固定保持部と移動保持部とを交互に配置するため、移動保持部に対応する位置にのみ移動手段を設ければよく、部品点数の削減を図れる。
【0016】
本発明の拡散炉は、前記断熱筒の内周面に前記電熱線を固定する固定保持部を備え、螺旋n段目に配置される電熱線は、複数の固定保持部により保持され、螺旋n+1断面に配置される電熱線は、複数の移動保持部により保持され、前記移動保持部および前記固定保持部は、前記断熱筒を円筒軸方向から見た断面視において、前記断熱筒の内周方向に沿って交互に均等配置されることが好ましい。
【0017】
この発明では、螺旋n+1段、すなわち上段に位置する電熱線を移動保持部により固定し、螺旋n段目、すなわち下段に位置する電熱線を固定保持部におより固定し、これらの移動保持部および固定保持部が断熱筒の円筒軸方向から見た断面視において、断熱筒の内周面に沿って均等配置される。ここで、連続する固定保持部間の電熱線、または連続する移動保持部間の電熱線では、その中点近傍の撓み量が最大となり、上下段に沿って隣接する電熱線に接触する可能性が高くなる。これに対して、この発明によれば、撓み量が最大となる電熱線の中点近傍の直下に下段の電熱線を固定する電熱線保持部または移動保持部が設けられるため、これらの電熱線保持部や移動保持部の上端面で垂れ下がった電熱線を受けることができる。これにより、電熱線同士の接触をより確実に防止することができる。
【0018】
本発明の拡散炉は、前記電熱線は、前記断熱筒の内周面の周方向に沿って、前記断熱筒の両端部間を往復するsin波状に配設され、前記断熱筒の両端側のうち、いずれか一方の端部側で、前記電熱線の折り返し部を固定する固定保持部が設けられ、前記移動保持部は、前記固定保持部により固定されない他方の端部側で、前記電熱線の折り返し部を保持し、前記移動手段は、前記移動保持部を、前記断熱筒の軸方向に沿って移動させることが好ましい。
【0019】
この発明では、電熱線は、断熱筒の内周面に沿って、内周方向に波状に配置される。このような拡散炉でも、電熱線が劣化すると、隣り合う電熱線同士が近接して接触したり、垂れ下がった電熱線が拡散炉の底部に接触したりするおそれがある。これに対して、本発明では、sin波状に配置される電熱線の波折り返り部に移動保持部を設け、電熱線が劣化した場合に、移動保持部を断熱筒の軸方向に沿って移動させる。このような構成では、電熱線が劣化により伸長した場合でも、移動保持部の移動により電熱線を引っ張り、電熱線の伸びや撓みを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る拡散炉の断面構造を示す断面図である。
【図2】第一実施形態に係る拡散炉の筒状ヒーターの断面構造を示す断面図である。
【図3】第一実施形態に係る拡散炉の筒状ヒーターの概念構造を示す概念図である。
【図4】第一実施形態に係る半導体製造装置の筒状ヒーターの一部を断面にした斜視構造を示す斜視図である。
【図5】電流検出回路311により検出される電流値の変化を示す図である。
【図6】第一実施形態に係る拡散炉の制御フローチャートである。
【図7】第二実施形態に係る半導体製造装置の筒状ヒーターの一部を断面にした斜視構造を示す斜視図である。
【図8】第三実施形態に係る半導体製造装置の筒状ヒーターの一部を断面にした斜視構造を示す斜視図である。
【図9】第四実施形態に係る半導体製造装置の筒状ヒーターの一部を断面にした斜視構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第一実施形態]
〔拡散炉の構成〕
以下、本発明に係る第一実施形態の拡散炉について、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る拡散炉1の断面構造を示す断面図である。
図1において、半導体製造装置において被処理物である半導体基板上シリコン薄膜を形成するCVD(Chemical Vapor Deposition)装置としての拡散炉1(以降、拡散炉1と称す)を例示する。なお、このような拡散炉1としては、CVD装置に限られず、炉内に配置された被処理物を熱処理する装置として、いかなる用途に用いてもよく、例えば、アニール処理、熱分解処理などの各種熱処理を実施する装置として使用することができる。
そして、この拡散炉1は、筐体10と、筐体10の内部に配置される筒状ヒーター11と、その筒状ヒーター11の内部に設けた筒状ヒーター11と同心円筒形状の内管12と、炉内温度を制御する制御回路部31(図3参照)と、を有している。そして、内管12の内部には、複数の被処理基板(ワーク)Wを搭載したボート13が配置されるようになっている。
【0022】
筐体10は、拡散炉1の外装を構成する部材であり、保守などに用いられる図示しない扉を有している。そして、この扉を開けると筐体10内部に配設されている筒状ヒーター11の外側面11A等を筐体10の外側から見ることができるようになっている。
【0023】
筐体10の内側面には、ヒーター支持部10Aが延出形成され、そのヒーター支持部10Aの中心位置には、内管12の外径と略同じ大きさの穴10Bが貫通形成されている。そして、ヒーター支持部10Aは、筐体10の天板10Cとの間において、筒状ヒーター11などを配設可能に設けられていて、ヒーター支持部10Aの上面は、略水平に構成されている。
【0024】
ヒーター支持部10Aの上面には、筒状ヒーター11の底面と略同じ大きさの環状のヒーター基台14が固設されている。ヒーター基台14の上面には、筒状ヒーター11の底面が支持固定されている。また、筒状ヒーター11の上面には、筒状ヒーター11の上面開口部を覆う断熱材14Aが固定されている。
【0025】
前記ヒーター支持部10Aに貫通形成された穴10Bの内周面には、環状の炉口フランジ15が嵌合固着されている。
炉口フランジ15の上部は、ヒーター支持部10Aの上面よりも上方に延出されるとともに、内管12の径と略同じ大きさの環状に形成されている。そして、炉口フランジ15の上部には、内管12の底部が気密固定されている。また、炉口フランジ15の内径は、内管12の内径と略同じ大きさに形成されている。
【0026】
内管12の内部(処理室12A)には、ボート13が挿抜可能に配設されている。ボート13は、そのフレーム13Aによって支持された天板13Bと底板13Cの間に複数のワークWを搭載するようになっている。
【0027】
ボート13は、シールキャップ16に断熱キャップ17を介して載置固定されている。断熱キャップ17の上面は、ボート13の底板13Cを着脱可能に載置固定するようになっている。断熱キャップ17の下面は、シールキャップ16に固着されている。
【0028】
シールキャップ16は、炉口フランジ15の下部を下方から蓋状に覆うことができる大きさに形成されていて、図示しない昇降装置によって上下動されることで炉口フランジ15の下部に対して接離可能に構成されている。シールキャップ16の上面周辺部は、炉口フランジ15の下部と接触するようになっていて、炉口フランジ15の下面と接触すると炉口フランジ15との間を気密するようになっている。すなわち、内管12の内部(処理室12A)は、炉口フランジ15にシールキャップ16が接触すると外部から気密封止されるようになっている。
【0029】
つまり、ボート13は、シールキャップ16が最も下動したときに断熱キャップ17の上面に載置固定されて、シールキャップ16の上動により内管12に挿入されるとともに処理室12Aに気密封止されるようになっている。また、ボート13は、処理室12Aに気密封止された状態から、シールキャップ16の下動により内管12から離脱されて、シールキャップ16が最も下動したときに断熱キャップ17の上面から取り外すことができるようになっている。
【0030】
処理室12Aには、内管12の外部からのガス導入管18及び排気管19が連通されている。ガス導入管18は、炉口フランジ15の外部から処理室12Aの上部まで連通されている。排気管19は、処理室12Aから炉口フランジ15の外部に連通されている。
【0031】
上記構成により、拡散炉1は、ボート13に搭載された各ワークWを処理室12Aに密封して筒状ヒーター11により加熱処理する。また、拡散炉1は、密封された処理室12Aにガス導入管18からガスを導入するとともに、処理室12Aのガスを排気管19から排出できるようになっている。
【0032】
筒状ヒーター11は、図2ないし図4に示すように、断熱材からなる円筒形状の断熱筒21と、断熱筒21の内周面に沿って螺旋状に配置される1本の電熱線22と、電熱線22を保持するセパレーター23と、移動手段を構成するセパレーター駆動機構24と、炉内温度検出用の温度センサー25と、を備えている。
【0033】
断熱筒21は、例えばアルミナファイバーやセラミックファイバーなどを積層形成した円筒状のブロックである。この断熱筒21は、内周面に電熱線22を固定する複数の固定式セパレーター23A(本発明の固定保持部)が設けられている。また、断熱筒21は、後述する移動式セパレーター23B(本発明の移動保持部)に対応して、セパレーター駆動機構24が収納される設置孔211が形成されている。
【0034】
電熱線22は、制御回路部31に接続され、制御回路部31から供給される電力により発熱して、筒状ヒーター11の内部の処理室12Aを所定の温度まで過熱する。なお、本実施形態では、1本の電熱線22により炉内を加熱する構成を示すが、これに限定されず、例えば2本以上の電熱線22が設けられる構成などとしてもよい。
電熱線22としては、拡散炉1の使用目的に応じて適切な電熱線を用いればよく、例えばカンタル線、アルミナ線、ニクロム線などを用いることができる。また、電熱線22は、使用する線種により、最大発熱温度が設定されているが、例えば半導体製造装置に用いられる拡散炉では、常時炉内温度を一定に保つ必要があり、このような場合、最大発熱温度で駆動を続けると電熱線22の劣化速度が速くなり、拡散炉の寿命が短くなる。したがって、拡散炉1では、電熱線22毎に設定される最大発熱温度に対して、十分低い温度で駆動させることが好ましい。例えば、カンタル線は、最大発熱温度が約1500度であるが、700〜900度までの温度範囲で使用することが好ましく、アルミナ線は、最大発熱温度が約2000度であるが、1100度〜1200度で使用することが好ましい。
また、電熱線22の線径においても、特に限定されず、拡散炉1の使用目的に応じて適切に設定することができ、例えば半導体製造装置のCVD装置として用いられる本実施形態の拡散炉1では、5mmに設定されている。
【0035】
セパレーター23は、固定保持部としての固定式セパレーター23Aと、移動保持部としての移動式セパレーター23Bとを含んで構成されている。
これらのセパレーター23は、図4に示すように、断熱筒21の内周面に螺旋状に配置される電熱線22の螺旋方向に沿って、当角度間隔で配置されている。この時、上段に位置する電熱線22を保持するセパレーター23と、下段に位置する電熱線22を保持するセパレーター23とは、断熱筒21の円筒軸方向、すなわち鉛直方向に沿って直列に配列される。さらに、鉛直方向に沿って、固定式セパレーター23Aと移動式セパレーター23Bとが交互に直列配列され、セパレーター群23Cを構成する。
例えば、電熱線22の螺旋方向に沿って、約30度間隔でセパレーター23が配列される場合、螺旋方向に沿って、約30度間隔で固定式セパレーター23Aが連続して12個配置され、その後、螺旋方向に沿って、約30度間隔で移動式セパレーター23Bが連続して12個配置され、その後、再び固定式セパレーター23Aが配置される。このような構成とすることで、断熱筒21を円筒軸方向から見た断面視において、鉛直方向に沿って直列配列されるセパレーター群23Cが30度間隔で配置され、かつ各セパレーター群23Cにおいて、固定式セパレーター23Aと移動式セパレーター23Bとが交互に配置される構成となる。
【0036】
固定式セパレーター23Aは、上述したように、断熱筒21の内側面に固定配置されている。また、固定式セパレーター23Aは、断熱筒21の周方向に略沿う固定孔231を備えている。この固定孔231には、図4に示すように電熱線22が挿通されるとともに、挿通された電熱線22が固定される。この固定としては、例えば固定孔231の孔径を電熱線22の線径より僅かに小さく形成し、電熱線22の挿入時に圧接することにより固定する固定方法を用いてもよく、例えば電熱線22を固定式セパレーター23Aに固定する固定部材を別途用いてもよい。
【0037】
移動式セパレーター23Bは、断熱筒21の径方向に沿って移動可能に設けられている。具体的には、移動式セパレーター23Bは、断熱筒21の内側面に形成される設置孔211内に出没可能に設けられる。この移動式セパレーター23Bにも、固定式セパレーター23Aと同様に、固定孔231が形成され、電熱線22が固定されている。
また、移動式セパレーター23Bは、設置孔211に挿通されるラック部23B1を備えており、ラック部23B1には、ラック23B2が形成されている。
【0038】
セパレーター駆動機構24は、上述のように、断熱筒21に形成される設置孔211内に設置されている。このセパレーター駆動機構24は、モーター241と、モーター241により回転されるモーター軸242とを備えている。モーター241は、制御回路部31に接続され、制御回路部31から出力される駆動信号により駆動される。モーター軸242は、外周面に雄ねじ状のスクリューが形成され、移動式セパレーター23Bのラック部23B1に形成されるラック23B2に噛合している。そして、制御回路部31からモーター241に駆動信号が出力されモーター241が駆動されると、モーター軸242が回転し、モーター軸242から移動式セパレーター23Bに駆動力が伝達されることで移動式セパレーター23Bが断熱筒21の径方向に沿って進退移動する。
【0039】
温度センサー25は、棒状に形成されていて、先端部に温度を測定するための熱電対が設けられている。そして、温度センサー25は、筒状ヒーター11の外部から筒状ヒーター11の内部へ貫通支持され、先端部を内管12の近傍に配置させて、内管12の近傍の温度を測定できるようになっている。そして、この温度センサー25は、制御回路部31に接続され、検出した温度に応じた電気信号を適宜制御回路部31に出力する。
【0040】
制御回路部31は、拡散炉1全体の動作を制御する部分であり、電流検出器としての電流検出回路311、温度制御回路312、および移動制御手段である移動制御回路313を備えて構成されている。
【0041】
電流検出回路311は、電熱線22に出力される交流電流の電流値を検出する。図5は、電流検出回路311により検出される電流値の変化を示す図である。
【0042】
温度制御回路312は、温度センサー25から入力される電気信号(検出信号)に基づいて、炉内温度を認識し、この炉内温度が所定温度低下した場合に、電熱線22に入力する交流電流を増大させる。
拡散炉1を常時運転する場合、経過時間に応じて電熱線22が劣化し、例えば電熱線22の物性変化などの要因により電熱線22の発熱効率が低下する。図5のAは、電熱線の劣化により炉内温度が予め設定された所定温度を下回るタイミングを示す点である。このように、炉内温度が所定温度を下回ると、拡散炉1の内部においてCVD処理を適切に実施することができなくなるため、温度制御回路312は、図5に示すように、タイミングAで電熱線22への電流供給量を増大させ、炉内温度を一定温度範囲内に維持させる。
【0043】
移動制御回路313は、温度制御回路312において、電流供給量が増大された場合に、モーター241に駆動信号を出力し、移動式セパレーター23Bを径外方向に移動させる。すなわち、上述したように、温度制御回路312において、電熱線22に供給する電流量が増大するタイミングは、電熱線22の劣化により温度が低下するタイミングAであり、この時、電熱線22が劣化により、伸長している可能性が大きい。移動制御回路313は、このタイミングAにおいて、モーター241を駆動させて、移動式セパレーター23Bを径外方向に移動させる。これにより、固定式セパレーター23により上段側に配置される電熱線22が劣化によりさらに垂れ下がったとしても、移動式セパレーター23により保持される下段側に配置される電熱線22は径外方向に移動されており、電熱線22同士の接触が防止される。また、移動式セパレーター23Bに保持される電熱線22が垂れ下がったとしても、鉛直下側に、下段側に配置される固定式セパレーター23Aに保持される電熱線22がないため、電熱線22同士の接触が防止される。また、移動式セパレーター23Bが径外方向に移動することで、移動式セパレーター23B間で保持される電熱線の一部が伸長していた場合でも、線方向に引っ張れられることとなり、撓み量が小さくなる。
【0044】
〔拡散炉の動作〕
次に、上述したような拡散炉1の動作について説明する。
本実施形態の拡散炉1は、半導体にCVD処理を実施するCVD装置としての拡散炉1であり、このような拡散炉1は、製造ラインが駆動している状態で常時運転されている。このような拡散炉1では、上記したように、経時変化に伴って電熱線22が劣化し、セパレーター23間における電熱線22の配置の状態が変化する。例えば、新品の電熱線22では、歪みや撓みがなく、断熱筒21の内周面に沿って螺旋配置される際に、上下段に並列する電熱線22が略平行となるように配置される。一方、電熱線22が劣化すると、伸長により歪みや撓みが生じ、セパレーター23に固定される一部を除き、下方に湾曲して垂れ下がる状態となる。
このような劣化による電熱線22の伸長が生じると、隣接する電熱線22同士が接触し、温度が接触点に集中して断線したり、発熱ムラを生じる虞があり、電熱線22の交換作業を頻繁に実施する必要が生じる。本発明では、以下の図6に示すような処理により、電熱線22の接触を防止する。図6は、拡散炉の動作を制御する制御装置の拡散炉制御動作を示すフローチャートである。
【0045】
拡散炉1は、上記のように、炉内温度が一定となるように常時駆動されるものであり、制御回路部31は、温度制御回路312の制御により、炉内温度を一定に保つ処理を実施する。すなわち、上記のように電熱線22が劣化すると、物性変化などの要因で電熱線22の単位電流量当たりの発熱量が低下する。したがって、制御回路部31は、拡散炉1の内部の温度を一様に一定温度に維持するために、温度センサー25から入力される検出信号に基づいて、炉内温度を検出する。そして、温度制御回路312は、炉内温度が所定の許容温度以下となった場合に、電熱線22への電流量を徐々に増大させる処理を実施する。この時、制御回路部31の温度制御回路312は、常時電熱線22に入力する電流値を監視(計測)する(ステップST11)。
【0046】
この後、移動制御回路313は、計測された電流値に基づいて、電熱線22の伸長量を算出する(ステップST12)。この電熱線22の伸長量の算出では、予め電流値に対する電熱線22の伸長量を計測してテーブルデータ化して図示しない記憶回路に記憶しておき、このテーブルデータと検出された電流値とを比較して伸長量を求める処理を実施してもよい。
【0047】
次に、移動制御回路313は、電熱線22の伸長量が所定閾値以上か否かを判断する(ステップST13)。このステップST13において、伸長量が閾値より小さいと判断された場合、移動制御回路313は特に処理を実施せず、温度制御回路312による炉内温度の維持動作を継続し、ステップST11の電流検出回路311による電流値計測処理を継続する。
【0048】
一方、ステップST13において、電流値が所定閾値よりも大きい判断された場合、上述のように、電熱線22の劣化が進行している可能性が大きく、この場合、移動制御回路313は、まず、伸長量に対する移動式セパレーター23Bの移動量を計算する(ステップST14)。この移動式セパレーター23Bの計算においても、伸長量に対する移動式セパレーター23Bの移動量を予めテーブルデータとして記憶手段に記憶しておき、このテーブルデータから伸長量に対する移動量を読み出す処理を実施してもよい。なお、この移動量としては、本実施形態では、電熱線22の線径が5mmに設定されているため、少なくとも5mm以上の移動量を算出され、電熱線22の伸長量がより大きくなれば、電熱線22同士の接触可能性も大きくなるため、より多くの移動量が算出される。
【0049】
この後、移動制御回路313は、移動式セパレーター23Bを径外方向に移動可能であるか否かを判断する(ステップST15)。ここで、例えばすでに移動式セパレーター23Bが移動可能限界量まで移動され、移動不可能であると判断された場合、移動制御回路313は特に処理を実施せず、温度制御回路312による炉内温度の維持動作を継続し、ステップST11の電流検出回路311による電流値計測処理を継続する。この場合、制御回路部31は、例えば図示しない画像表示手段や音声出力装置などにより、電熱線22の交換を促す警告情報を報知する処理を実施してもよい。
【0050】
また、ステップST15において、移動式セパレーター31がステップST14で算出される移動量だけ移動可能であると判断した場合、移動量に応じた駆動信号をモーター241に出力し、移動式セパレーター23Bを断熱筒21の径外方向に移動させる処理を実施する(ステップST16)。
【0051】
〔第一実施形態の作用効果〕
上述したように、上記第一実施形態の拡散炉1では、円筒状の断熱筒21と、断熱筒21の内周面に螺旋状に配置される電熱線22とを備え、断熱筒21の径外方向に移動可能な移動式セパレーター23Bに電熱線22を固定する。そして、制御回路部31の移動制御回路313は、電流検出回路311から入力される電流値に基づいて電熱線22の劣化状態を検出すると、モーター241を制御して移動式セパレーターを断熱筒21の径外方向に移動させる処理をする。
このため、拡散炉1の長期使用に伴う電熱線22の劣化により電熱線22の一部が垂れ下がり、互いに隣り合う電熱線22同士が近接した場合でも、上段に位置する電熱線22および下段に位置する電熱線22のうちいずれか一方が、径外方向に引っ張られて移動することで、電熱線22同士の接触を防止することができ、電熱線22の接触による断線を防止できる。したがって、電熱線22の交換頻度が少なくなり、拡散炉1の長寿命化を図ることができる。また、電熱線22に伴うメンテナンス頻度が少なくなるため、メンテナンスに伴う拡散炉1の駆動停止の頻度も下がり、半導体などの被処理物の生産性を高めることができる。
【0052】
また、制御回路部31は、電流検出回路311により電熱線22に供給される電流量を検出し、移動制御回路313は、検出された電流値が所定閾値以上である場合に移動式セパレーター23Bを移動させる。
すなわち、拡散炉1では、温度制御回路312は、炉内温度を一定に維持するために、電熱線が劣化して発熱量が低下すると、炉内温度を維持するために、電熱線22への電流を増大させて発熱量を上げる処理を実施する。したがって、電流検出回路311により、電熱線22に入力される電流値を検出することで、電熱線22の劣化状態を判断することができ、電流値増大のタイミングAでモーター241に駆動信号を出力して、電熱線22を移動させることができる。また、電熱線22が劣化していない状態では、電熱線22が移動されないため、断熱筒21の円筒軸から等距離となるように電熱線22の螺旋を形成することができ、炉内温度を一様に均等分布させることができる。
さらに、拡散炉1の温度を一定に維持するために、従来用いられる電流検出回路311および温度制御回路312をそのまま利用することができるため、別途電熱線22の劣化状態を検出するセンサーなどを用いる必要がなく、構成の簡略化を図ることができる。
【0053】
また、電流値から電熱線22の伸び量を計算するので、実際に電熱線22の長さを計測しなくとも、電流値による演算により求めることができ、構成を簡単にすることができる。
【0054】
また、電熱線22は、螺旋状に配置され、移動式セパレーター23Bは、電熱線22の劣化時に、径外方向に移動される。
このため、電熱線22の劣化時において、例えば上下段に並列配置される電熱線22において、下段に位置する電熱線22が径外方向に移動されることで、上段に位置する電熱線22の螺旋径寸法よりも、下段に位置する電熱線22の螺旋径寸法が大きくなる。したがって、上段に位置する電熱線22が劣化による伸長で延長した側に垂れ下がった場合でも、上段の電熱線22の鉛直下側に下段の電熱線22が配置されておらず、電熱線22同士の接触が防止される。また、電熱線22を径外方向に引っ張ることで、隣り合う移動式セパレーター23B間の距離が大きくなり、電熱線22を線方向に引っ張ることができるため、移動式セパレーター23B間に配置される電熱線22の撓み量を減少させることができる。
【0055】
また、固定式セパレーター23Aと移動式セパレーター23Bとが、鉛直方向に沿って交互に配置されている。
このため、例えば上下段に並列配置される電熱線22において、上段の電熱線22と下段の電熱線22との螺旋径寸法をそれぞれ異なる寸法にすることができ、上記のように電熱線22同士の接触を防止することができる。また、固定式セパレーター23Aは、断熱筒21に固定されているため、移動式セパレーター23Bに対応する位置のみセパレーター駆動機構24を設ければよい。したがって、全てのセパレーター23に対してセパレーター駆動機構24を設ける必要がないため、部品点数の増大を抑えることができ、コスト増大を抑えることができる。
【0056】
また、移動制御回路313は、電流検出回路311により検出される電流値に基づいて、電熱線22の伸長量、および伸長量に対する移動式セパレーター23Bの移動量を算出し、この移動量だけ移動式セパレーター23Bを移動させる。
すなわち、上下段に並列配置される電熱線22において、上段の電熱線22の垂れ下がりによる電熱線22同士の接触を防止するためには、上段もしくは下段に配置される電熱線22をその線径分だけ移動させればよいが、さらに電熱線22の劣化が進行してさらに電熱線22が他方向に撓む場合が考えられる。このような場合、電熱線22の線径分だけの移動では、電熱線22同士が接触してしまうおそれがある。また、電熱線22の劣化が最初に検出された状態で、移動式セパレーター23Bを移動可能な限界量移動させる場合、移動式セパレーター23Bが径外方向に移動しすぎるため、炉内温度に温度ムラが生じたり、温度低下を招くおそれがある。これに対して、本実施形態では、伸長量が大きくなれば、それに応じて移動式セパレーター23Bの移動量を大きくする。これにより、電熱線22同士をより遠ざけることができ、より確実に電熱線22同士の接触を防止することができ、炉内の温度ムラの発生や温度低下も抑えることができる。
【0057】
[第二実施形態]
次に本発明に係る第二実施形態の拡散炉について説明する。なお、以下の各実施形態において、前記第一実施形態の拡散炉1と同一の構成については同符号を付し、その説明を簡略もしくは省略する。
図7は、本実施形態に係る拡散炉の筒状ヒーターの一部を断面にした斜視構造を示す斜視図である。
【0058】
上記第一実施形態の筒状ヒーター11は、断熱筒21の内周面に沿って、螺旋状に電熱線22を配置する構成を例示したが、第二実施形態の筒状ヒーター11Bは、電熱線22の配置構成、およびセパレーター23の設置位置が、上記筒状ヒーター11と異なる。
すなわち、第二実施形態の筒状ヒーター11Bでは、図7に示すように、断熱筒21の内周面に、周方向に沿ってsin波状に電熱線22が配置される。すなわち、電熱線22は、断熱筒21の筒底面に近接する下端側から、断熱筒21の上端側に亘って、直線状に電熱線22が配置され、断熱筒21の上端側で周方向に沿って折り返され、断熱筒21の上端側から下端側に亘って再び直線状に電熱線22が配置される。以上のように、電熱線22は、断熱筒21の上端側および下端側で折り返し部221を形成しつつ、鉛直方向に沿う直線部を周方向に並列配置することで、sin波状の電熱線22が形成される。
【0059】
そして、このような筒状ヒーター11Bでは、電熱線22の折り返し部221にセパレーター23が配置され、電熱線22を固定する。
ここで、断熱筒21の下端側に位置する折り返し部221には、固定式セパレーター23Aが配置され、上端側の折り返し部221には、移動式セパレーター23Bが配置される。
【0060】
また、断熱筒21の移動式セパレーター23Bに対応する内周面には設置孔211が形成され、移動式セパレーター23Bは、この設置孔211に挿通され、円筒軸方向に沿って移動可能に保持されている。第二実施形態では、移動式セパレーター23Bは、図示は省略するが、設置孔211に挿通されるラック部に円筒軸方向と平行にラックが形成されている。また、設置孔211には、第一実施形態と同様に、モーター241、およびラックに係合するモーター軸242を備えるセパレーター駆動機構24が設置されるが、モーター軸242は、円筒軸方向に沿って配置されている。これにより、モーター241によりモーター軸242が回転すると、移動式セパレーター23Bは、円筒軸方向に沿って移動する。
【0061】
なお、筒状ヒーター11Bのその他の構成は、前記第一実施形態と同じである。すなわち、筒状ヒーター11Bにおいても、筒状ヒーター11と同様に、制御回路部31が設けられ、温度制御回路312による制御により炉内温度が一定となるように維持される。そして、制御回路部31の移動制御回路313は、電流検出回路311により検出される電流値が所定閾値以上となった場合に、モーター241を駆動させ、移動式セパレーター23Bを鉛直下側に向かって移動させる。
【0062】
〔第二実施形態の作用効果〕
上記第二実施形態の筒状ヒーター11Bにおいても、前記第一実施形態の筒状ヒーター11と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、筒状ヒーター11Bは、円筒状の断熱筒21と、断熱筒21の内周面にsin波状に配置される電熱線22とを備え、断熱筒21の円筒軸方向に移動可能な移動式セパレーター23Bに電熱線22を固定する。そして、制御回路部31の移動制御回路313は、電流検出回路311から入力される電流値に基づいて電熱線22の劣化状態を検出すると、モーター241を制御して移動式セパレーターを断熱筒21の鉛直上側方向に移動させる処理をする。
筒状ヒーター11Bの長期使用に伴う電熱線22の劣化により電熱線22が伸長し、下端側の折り返し部221を挟んで電熱線22が垂れ下がって、底面に接触したり、周方向に沿って撓み、隣接する電熱線に接触したりする場合がある。特に、断熱筒21の下端側では底面からの跳ね返り熱の影響により、この撓み量の影響も大きくなる。これに対して、筒状ヒーター11Bでは、電熱線22の劣化時に、移動式セパレーター23Bが上方に移動することで、電熱線22の直線部分を引き伸ばし、撓み量を減少させることができる。これにより、電熱線22が底面に接触したり、隣接する電熱線22同士が接触したりし、炉内温度の異常や、断線を防止することができる。
【0063】
[第三実施形態]
次に本発明に係る第三実施形態の拡散炉について、図面に基づいて説明する。図8は、第三実施形態の拡散炉の筒状ヒーターの一部を断面にした斜視構造を示す斜視図である。
上述した第一実施形態の筒状ヒーター11では、鉛直方向に沿って、固定式セパレーター23Aと、移動式セパレーター23Bとが、交互に配置されるセパレーター郡23Cが形成される例を示した。これに対して、第三実施形態の筒状ヒーター11Cでは、図8に示すように、固定式セパレーター23Aが設けられる位置と、移動式セパレーター23Bが設けられる位置とがずれて構成される。すなわち、断熱筒21を円筒軸方向から見た断面視において、螺旋2n段目(偶数段目)に配置される電熱線22に固定される複数の固定式セパレーター23A間の中点に、螺旋2n−1段目(奇数段目)に配置される電熱線22に固定される移動式セパレーター23Bが配置される。
なお、セパレーター23の配置位置以外の構成は、前記第一実施形態と同様の構成であり、ここでの説明を省略する。
【0064】
〔第三実施形態の作用効果〕
上記のような第三実施形態では、上記第一実施形態の作用効果に加え、次の効果が得られる。
すなわち、電熱線22は、劣化により鉛直下側に垂れ下がる場合、セパレーター23間の中点近傍が最も撓み量が多くなり、隣接する上下段に沿って隣接する電熱線22と接触する可能性が大きくなる。これに対して、筒状ヒーター11Cでは、上段のセパレーター23間の中点の鉛直下側に、下段のセパレーター23が配置されているため、劣化により垂れ下がった電熱線22が、下段のセパレーター23の上端面に当接し、鉛直下側への垂れ下がりを防止する。これにより、電熱線22同士の接触をより確実に防止することができる。
【0065】
[第四実施形態]
次に、第四実施形態の拡散炉について、図面に基づいて説明する。図9は、第四実施形態に係る拡散炉の筒状ヒーター11Dの一部を断面にした斜視構造を示す斜視図である。
第四実施形態の筒状ヒーター11Dは、第三実施形態の筒状ヒーター11Cを変形したものである。すなわち、第三実施形態では、螺旋2n段目の電熱線22を固定式セパレーター23Aに固定し、螺旋2n+1段目の電熱線22を移動式セパレーター23Bに固定したが、第四実施形態の拡散炉1では、螺旋各段の電熱線22に対して、螺旋方向に沿って固定式セパレーター23Aと移動式セパレーター23Bとが交互に配置される。
この時、螺旋偶数段目に配置される電熱線22に着目すると、鉛直方向に沿って、固定式セパレーター23Aと移動式セパレーター23Bとが交互に配設される2nセパレーター群23Dが形成される。同様に、螺旋奇数段目に配置される電熱線22に着目すると、鉛直方向に沿って、固定式セパレーター23Aと移動式セパレーター23Bとが交互に配設される2n−1セパレーター群23Eが形成される。そして、断熱筒21を円筒軸方向から見た断面視において、断熱筒21の周方向に沿って、2nセパレーター群23Dおよび2n−1セパレーター群23Eが交互に均等配置されている。
【0066】
このような構成では、上記第三実施形態と同様に、電熱線22の劣化時に最も撓み量が大きくなる、セパレーター23間を下段に配置されるセパレーター23の上端面で受けることができるため、電熱線22同士の接触をより確実に防止することができる。
また、固定式セパレーター23Aおよび移動式セパレーター23Bは、螺旋方向に沿って交互に配置され、かつ、2nセパレーター群23Dおよび2n−1セパレーター群23Eにおいても、鉛直方向に沿って交互に配置されている。このため、移動式セパレーター23Bを断熱筒21の径外方向に移動させた場合でも、断熱筒21内の温度ムラを抑えることができ、熱処理の効率低下を抑えることができる。
【0067】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、移動制御回路313は、電流検出回路311により検出される電流量に基づいて、電熱線22の伸長量を求め、さらにその伸長量に応じた移動式セパレーター23Bの移動量を求める処理を実施したが、これに限定されない。例えば、電熱線22の劣化を検出した時点で、移動式セパレーター23Bを移動限界量だけ移動させる構成としてもよく、電熱線22の線径だけ移動式セパレーター23Bを移動させる構成としてもよい。
【0068】
また、上記実施の形態において、電熱線状態検出手段として、電流検出器である電流検出回路311を用いる例を示したが、これに限定されない。例えば、電熱線22の伸長量を計測する歪ゲージを設け、移動制御回路313は、歪ゲージにより計測される伸長量が所定量以上となった場合に、移動式セパレーター23Bを、伸長量に応じて移動させる構成としてもよい。この場合、正確な電熱線22の伸長量が計測されるため、電熱線22同士の接触の前に、移動式セパレーター23Bを移動させることができる。
さらに、電熱線検出手段としては、さらに温度センサー25を用いて電熱線22の劣化状態を検出する構成などとしてもよい。
【0069】
また、第二実施形態において、筒状ヒーター11Bを円筒軸方向が鉛直方向に配置される例を示したが、これに限定されず、例えば円筒軸方向が水平となるように配置される構成としてもよい。この場合、第一実施形態と同様に、移動式セパレーター23Bを移動させることで、鉛直上段に配置される電熱線22が垂れ下がり、鉛直下側に配置される電熱線22との接触を防ぐことができる。さらに、この場合、例えば周方向に沿って奇数番目の電熱線22の直線部に複数の固定式セパレーター23Aを配置し、偶数番目の電熱線22の直線部に複数の移動式セパレーター23Bを配置する構成などとしてもよい。
【0070】
また、第一、第三、および第四実施形態において、移動式セパレーター23Bを断熱筒21の径外方向に移動させる構成を示したが、例えば、モーター軸242により移動式セパレーター23Bを押し出すなどして、径内方向に移動させる構成としてもよい。
さらに、第一、第三、および第四実施形態において、固定式セパレーター23Aを用いる例を示したが、これらの固定式セパレーター23Aを径内方向に移動可能な第二移動式セパレーターとしてもよい。このような構成では、第二移動式セパレーターを径内方向に移動させ、移動式セパレーター23Bを径外方向に移動させることで、上下段に沿って隣接する電熱線22を、引き離すことで、より確実に電熱線22同士の接触を防止することができる。
【0071】
そして、上記第一ないし第四実施形態において、制御回路部31は、温度制御回路312により、炉内温度が一定をなるように電熱線22に入力する電流値を制御する構成としたが、これに限らない。例えば、炉内温度を一定に維持する機能がないものに対しても、電熱線22に入力される電流値を電流検出回路311により検出することで電熱線22の劣化状態を判断することができる。すなわち、電熱線22は、長期使用により劣化が進むと、電熱線22自身の物性変化により電気抵抗が低下する。これにより、電熱線22に一定の電圧を加え続けた場合、電熱線に流れる電流が大きくなる。したがって、電流検出回路311により電流値を検出することで、電熱線22の劣化状態を検出することができ、上記実施の形態と同様に、電熱線22の劣化状態に応じて移動式セパレーター23Bを移動させることができる。
【0072】
また、移動手段として、モーター241およびモーター軸242により、移動式セパレーター23Bを移動させる構成としたが、これに限定されず、例えば、油圧式ピストンにより移動式セパレーター23を移動させる構成など、いかなる構成としてもよい。
【0073】
さらに、移動制御回路313は、底面側に位置する移動式セパレーター23Bの移動量を断熱筒21の上端側に位置する移動式セパレーター23Bよりも大きく移動させる制御をしてもよい。すなわち、上記実施形態のような縦型拡散炉1では、断熱筒21の下端側は、底面からの跳ね返り熱により、温度が高くなる傾向がある。このような場合、断熱筒21の下端側に配置される電熱線22の劣化がより早く進行し、伸長量も増大することが考えられる。したがって、上記のように拡散炉1の底面に近い断熱筒21の下端側に位置する移動式セパレーター23Bの移動量を大きくすることで、より確実に電熱線22の接触による断線を防止することができる。
【0074】
さらには、各移動式セパレーター23Bの近傍に歪ゲージを配置し、移動制御回路313は、電熱線22の伸長量が大きい部分に対して、移動式セパレーター23Bの移動量を大きくする構成としてもよい。このように、各移動式セパレーター23Bに対してそれぞれ個別に移動量を設定することで、より確実に電熱線22の接触を防止することができる。
【0075】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0076】
1…拡散炉、10…筐体、11…筒状ヒーター、21…断熱筒、22…電熱線、23…セパレーター、24…セパレーター駆動機構、31…制御回路部、241…モーター、242…モーター軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材により形成される円筒状の断熱筒と、この断熱筒の内周面に沿って、所定間隔で互いに隣接して配置される電熱線と、を備えた拡散炉であって、
前記断熱筒の内周面に沿って、所定方向に移動可能に設けられ、前記電熱線を保持するための移動保持部と、
前記移動保持部を、互いに隣接する前記電熱線が離隔する所定の方向に移動させる移動手段と、
前記電熱線の劣化状態を検出する電熱線状態検出手段と、
前記電熱線の劣化状態に応じて、前記移動手段を制御して前記移動保持部を移動させる移動制御手段と、
を備えることを特徴とする拡散炉。
【請求項2】
請求項1に記載の拡散炉において、
前記電熱線状態検出手段は、前記電熱線に供給する電流量を検出する電流検出器であり、
前記移動制御手段は、前記電流検出器により検出される電流量に基づいて前記移動手段を制御し、前記移動保持部を移動させる
ことを特徴とする拡散炉。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の拡散炉において、
前記断熱筒は、円筒軸方向が鉛直方向となるように配置され、
前記電熱線は、前記断熱筒の内周面に沿って螺旋状に配置され、
前記移動手段は、前記移動保持部を前記断熱筒の径方向に沿って移動させる
ことを特徴とする拡散炉。
【請求項4】
請求項3に記載の拡散炉において、
前記断熱筒の内周面に前記電熱線を固定する固定保持部を備え、
前記固定保持部および前記移動保持部は、前記断熱筒の軸方向に沿って交互に配設される
ことを特徴とする拡散炉。
【請求項5】
請求項3に記載の拡散炉において、
前記断熱筒の内周面に前記電熱線を固定する固定保持部を備え、
螺旋n段目に配置される電熱線は、複数の固定保持部により保持され、
螺旋n+1断面に配置される電熱線は、複数の移動保持部により保持され、
前記移動保持部および前記固定保持部は、前記断熱筒を円筒軸方向から見た断面視において、前記断熱筒の内周方向に沿って交互に均等配置される
ことを特徴とする拡散炉。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の拡散炉において、
前記電熱線は、前記断熱筒の内周面の周方向に沿って、前記断熱筒の両端部間を往復するsin波状に配設され、
前記断熱筒の両端側のうち、いずれか一方の端部側で、前記電熱線の折り返し部を固定する固定保持部が設けられ、
前記移動保持部は、前記固定保持部により固定されない他方の端部側で、前記電熱線の折り返し部を保持し、
前記移動手段は、前記移動保持部を、前記断熱筒の軸方向に沿って移動させる
ことを特徴とする拡散炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−23565(P2011−23565A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167537(P2009−167537)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】