説明

振動片、振動子、発振器及び電子機器

【課題】厚さ方向に振動する振動腕を備えた振動片のQ値の維持、及びQ値が維持された振動片を備えた振動子、発振器、電子機器の提供。
【解決手段】水晶振動片1は、基部10と、基部10からY軸方向に延びる3本の振動腕11a,11b,11cと、を備え、振動腕11a,11b,11cは、Y軸方向と直交するX軸方向に配列されると共に、Y軸方向とX軸方向とで特定される平面に沿った主面10aに励振電極12a,12b,12cを有し、主面10aと直交するZ軸方向に振動し、振動腕11a,11b,11cの内、配列の中央に位置する振動腕11bのX軸方向の腕幅をW1、振動腕11a,11cのX軸方向の腕幅をWとし、振動腕11bの励振電極12bのX軸方向の電極幅をA1、振動腕11a,11cの励振電極12a,12cのX軸方向の電極幅をAとしたとき、1.35<W1/W<1.90、且つ、1.35<A1/A<1.90である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片、この振動片を備えた、振動子、発振器及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動片としては、第1方向へ向けて配置された第1面を有し、第1方向と交差する第2方向に沿って配列された3個の腕部(以下、振動腕という)と、この振動腕の各々の第1面上に1個ずつ設けられた圧電体素子(励振電極)と、振動腕の一端を連結する基部と、を備えた音叉型振動子(以下、振動片という)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−5022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、振動片は、小型化の進展によりQ値(振動の状態を現す無次元数であって、この値が大きいほど振動が安定であることを意味する)の低下の抑制が課題となっている。
上記特許文献1の振動片は、振動腕が上記第1面と直交する方向に屈曲振動する振動形態(面外振動モード)の構成となっており、中央の振動腕と両側の振動腕との振動方向を互いに逆方向(逆相)にして、両者の振動のバランスを取ることにより、Q値の低下の抑制(換言すれば、Q値の向上)を図るというものである。
【0005】
しかしながら、上記振動片は、実施の形態において3個(以下、3本という)の振動腕の腕幅が同一に形成され、3本の振動腕の振動時の振幅が同一となっている場合、運動量保存の法則などによれば、中央の振動腕と両側の振動腕との振動のバランスが十分に取れない虞がある。
これにより、上記振動片は、振動腕の振動エネルギーが基部に伝わり易くなり、振動エネルギーが基部を介して外部部材へ漏れることによって、Q値が低下する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例にかかる振動片は、基部と、前記基部から第1方向に延びる少なくとも3本の振動腕と、を備え、前記各振動腕は、前記第1方向と直交する第2方向に配列されると共に、前記第1方向と前記第2方向とで特定される平面に沿った主面の少なくとも一方に励振電極を有し、前記各振動腕は、前記励振電極によって前記主面と直交する第3方向に振動し、前記各振動腕の内、配列の中央に位置する振動腕を第1振動腕とし、配列の両端に位置する振動腕の各々を第2振動腕としたとき、前記第1振動腕と前記第2振動腕とは互いに逆方向に振動し、前記第1振動腕の前記第2方向の腕幅をW1、前記第2振動腕の前記第2方向の腕幅をWとし、前記第1振動腕における前記励振電極の前記第2方向の電極幅をA1、前記第2振動腕における前記励振電極の前記第2方向の電極幅をAとしたとき、1.35<W1/W<1.90、且つ、1.35<A1/A<1.90であることを特徴とする。
【0008】
これによれば、振動片は、第1振動腕の第2方向の腕幅をW1、第2振動腕の第2方向の腕幅をWとし、第1振動腕における励振電極の第2方向の電極幅をA1、第2振動腕における励振電極の第2方向の電極幅をAとしたとき、1.35<W1/W<1.90、且つ、1.35<A1/A<1.90であることから、第3方向における第1振動腕の振動と第2振動腕の振動との力学的なバランスを十分に取ることができる。
このことから、振動片は、各振動腕の振動エネルギーが基部に伝わり難くなり、基部を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが減少することによって、Q値の低下を抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる(換言すれば、従来構成に対して、Q値を向上させることができる)。
なお、上記範囲は、発明者らがシミュレーションや実験による解析の結果などから得た知見に基づいて設定したものである。
【0009】
[適用例2]上記適用例にかかる振動片において、前記励振電極は、前記主面側に設けられた第1電極と、前記第1電極に対向して設けられた第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に延在する圧電体と、を備えたことが好ましい。
【0010】
これによれば、振動片は、励振電極が第1電極と、第1電極に対向して設けられた第2電極と、両電極間に延在する圧電体と、を備えたことから、励振電極自体の伸縮によって振動腕を振動させることができる。
従って、振動片は、基材(構成の基本となる材料)に必ずしも圧電材料を用いる必要がないことから、基材の選択肢が広がり、例えば、シリコンなどの半導体材料を基材として用いることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例2にかかる振動片において、前記第3方向から見たときに、前記第1振動腕の前記第1電極、前記第2電極、及び前記圧電体が重複する幅をA1’、前記第2振動腕の各々の前記第1電極、前記第2電極、及び前記圧電体が重複する幅をA’としたとき、1.35<A1’/A’<1.90であることが好ましい。
【0012】
これによれば、振動片は、第1振動腕の励振電極の上記幅をA1’、第2振動腕の励振電極の上記幅をA’としたとき、1.35<A1’/A’<1.90であることから、励振電極の圧電体の伸縮による各振動腕の振動のバランスが十分に取られ、Q値の低下をより抑制することができる。
【0013】
[適用例4]上記適用例にかかる振動片において、前記第3方向における前記基部の厚さは、前記第3方向における前記各振動腕の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0014】
これによれば、振動片は、第3方向における基部の厚さが、第3方向における各振動腕の厚さよりも厚いことから、基部の質量の増加によって、基部の質量と振動腕の質量との差が大きくなり、振動腕の振動エネルギーが基部へ伝わり難くなる。
この結果、振動片は、基部を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが、より減少することから、Q値の低下をより抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる。
【0015】
[適用例5]上記適用例にかかる振動片において、前記基部の前記第2方向の両端部に固定部が設けられていることが好ましい。
【0016】
これによれば、振動片は、基部の第2方向の両端部に固定部が設けられていることから、振動腕から基部の固定部までの経路を長くすることが可能となる。
この結果、振動片は、基部の固定部を外部部材へ固定した際の、固定部を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが、更に減少することから、Q値の低下を更に抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる。
【0017】
[適用例6]上記適用例にかかる振動片において、前記W1と前記Wとの比が、W1/W=1.60であることが好ましい。
【0018】
これによれば、振動片は、W1/W=1.60であることから、第3方向における第1振動腕の振動と第2振動腕の振動との力学的なバランスを、最適な状態で取ることができる。
このことから、振動片は、振動腕の振動エネルギーが基部に最も伝わり難くなり、基部を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが最も減少することによって、Q値の低下を最も抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる。
なお、上記値は、発明者らがシミュレーションや実験による解析の結果などから得た知見に基づいて設定したものである。
【0019】
[適用例7]本適用例にかかる振動子は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、前記振動片を収容したパッケージと、を備えたことを特徴とする。
【0020】
これによれば、振動子は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、振動片を収容したパッケージと、を備えたことから、上記適用例のいずれかに記載の効果を奏する振動子を提供することができる。
【0021】
[適用例8]本適用例にかかる発振器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、前記振動片を発振させる発振回路と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
これによれば、発振器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、振動片を発振させる発振回路と、を備えたことから、上記適用例のいずれかに記載の効果を奏する発振器を提供することができる。
【0023】
[適用例9]本適用例にかかる電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えたことを特徴とする。
【0024】
これによれば、電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えたことから、上記適用例のいずれかに記載の効果を奏する電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態の水晶振動片の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線での断面図。
【図2】図1(a)のC−C線での断面図及び各励振電極の配線図。
【図3】水晶振動片のQ値と、各振動腕間の腕幅比及び各励振電極間の電極幅比との関係を示したグラフであり、(a)は、Q値に関わる周波数変化量Δfと、中央の振動腕の腕幅W1/両端の振動腕の腕幅Wとの関係を示すグラフ、(b)は、周波数変化量Δfと、中央の振動腕の励振電極の電極幅A1/両端の振動腕の励振電極の電極幅Aとの関係を示すグラフ。
【図4】第2実施形態の水晶振動子の概略構成を示す模式図であり、(a)はリッド(蓋体)側から俯瞰した平面図、(b)は(a)のD−D線での断面図。
【図5】第3実施形態の水晶発振器の概略構成を示す模式図であり、(a)はリッド側から俯瞰した平面図、(b)は(a)のD−D線での断面図。
【図6】第4実施形態の携帯電話を示す模式斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
(第1実施形態)
ここでは、振動片の一例として、基材に水晶を用いた水晶振動片について説明する。
図1は、第1実施形態の水晶振動片の概略構成を示す模式図である。図1(a)は、平面図、図1(b)は、図1(a)のB−B線での断面図である。なお、各配線は省略してあり、各構成要素の寸法比率は実際と異なる。
図2は、図1(a)のC−C線での断面図及び各励振電極の配線図である。
【0028】
図1に示すように、水晶振動片1は、基部10と、基部10から第1方向としての水晶結晶軸のY軸方向に延びる少なくとも3本の振動腕11a,11b,11cと、を備えている。
振動腕11a,11b,11cは、略角柱状に形成され、平面視において、Y軸方向と直交する第2方向としての水晶結晶軸のX軸方向に配列されると共に、Y軸方向とX軸方向とで特定される主面10a,10bの少なくとも一方に(ここでは主面10aに)、励振電極12a,12b,12cを有している。
振動腕11a,11b,11cは、励振電極12a,12b,12cによって、主面10aと直交する第3方向としての水晶結晶軸のZ軸方向(図1(b)の矢印方向)に屈曲振動(面外振動:主面10aに沿わない方向の振動)する。
【0029】
水晶振動片1は、振動腕11a,11b,11cの内、配列の中央に位置する第1振動腕としての振動腕11bのX軸方向の腕幅をW1、配列の両端に位置する第2振動腕としての振動腕11a,11cのX軸方向の腕幅をWとし、振動腕11bにおける励振電極12bのX軸方向の電極幅をA1、振動腕11a,11cにおける励振電極12a,12cのX軸方向の電極幅をAとしたとき、1.35<W1/W<1.90、且つ、1.35<A1/A<1.90となるように構成されている。
なお、水晶振動片1は、W1/W=1.60となるように構成されていることが、より好ましい。
【0030】
励振電極12a,12b,12cは、主面10a側に設けられた第1電極12a1,12b1,12c1と、第1電極12a1,12b1,12c1に対向するように設けられた第2電極12a2,12b2,12c2と、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2との間に延在する圧電体13と、を備えた積層構造となっている。
【0031】
ここで、図2に示すように、水晶振動片1は、Z軸方向から見たときに、振動腕11bの励振電極12bの第1電極12b1、圧電体13、第2電極12b2が重複するX軸方向の幅をA1’、振動腕11a,11cの励振電極12a,12cの第1電極12a1,12c1、圧電体13、第2電極12a2,12c2が重複するX軸方向の幅をA’としたとき、1.35<A1’/A’<1.90となるように構成されている。
なお、図1、図2に示すように本実施形態では、A1=A1’、A=A’となっている。
【0032】
励振電極12a,12b,12cの第1電極12a1,12b1,12c1、第2電極12a2,12b2,12c2には、例えば、Cr、Auなどの比較的に導電性の高い金属の膜が用いられ、圧電体13には、ZnO、AlN、PZTなどの比較的に圧電性の高い圧電材料の膜が用いられている。
なお、励振電極12a,12b,12cは、振動腕11a,11b,11cの根元部(基部10との境界を含む周辺部分)から先端部に延び、振動腕11a,11b,11cの全長(Y軸方向の根元から先端までの長さ)の半分程度の長さで設けられているのが好ましい。
【0033】
なお、図1(b)に示すように、基部10のZ軸方向の厚さは、振動腕11a,11b,11cのZ軸方向の厚さよりも厚く形成されている。
また、図1(a)に2点鎖線で示すように、基部10のX軸方向の両端部の主面10b側には、パッケージなどの外部部材への固定領域である固定部10c,10dが設けられている。なお、固定部10c,10dは、Y軸方向において基部10の振動腕11a,11b,11c側とは反対側の端部に設けられていることが好ましい。
【0034】
ここで、水晶振動片1の動作について説明する。
図2に示すように、水晶振動片1の励振電極12a,12b,12cは、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2とが交差配線によって交流電源に接続され、駆動電圧としての交番電圧が印加されるようになっている。
【0035】
具体的には、振動腕11aの第1電極12a1と、振動腕11bの第2電極12b2と、振動腕11cの第1電極12c1とが同電位になるように接続され、振動腕11aの第2電極12a2と、振動腕11bの第1電極12b1と、振動腕11cの第2電極12c2とが同電位になるように接続されている。
【0036】
この状態で、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2との間に交番電圧を印加すると、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2との間に電界が発生し、逆圧電効果により、圧電体13に歪みが生じ、圧電体13がY軸方向に伸縮する。
水晶振動片1は、上記交差配線によって励振電極12a,12cと励振電極12bとに発生する電界の方向を逆にして、圧電体13の伸縮が振動腕11a,11cと振動腕11bとの間で逆になるように構成されている。
具体的には、振動腕11a,11cの圧電体13が伸張したとき、振動腕11bの圧電体13が収縮し、振動腕11a,11cの圧電体13が収縮したとき、振動腕11bの圧電体13が伸張する。
【0037】
このような圧電体13の伸縮によって、水晶振動片1は、交番電圧が一方の電位のときに振動腕11a,11b,11cが実線矢印の方向に屈曲し、交番電圧が他方の電位のときに振動腕11a,11b,11cが破線矢印の方向に屈曲する。
これを繰り返すことで、水晶振動片1は、振動腕11a,11b,11cがZ軸方向に屈曲振動(面外振動)することになる。この際、隣り合う振動腕(ここでは、11aと11b、11bと11c)は、互いに逆方向に(逆相で)屈曲振動する。
【0038】
上述したように、本実施形態の水晶振動片1は、振動腕11a,11b,11cがZ軸方向(厚さ方向)に屈曲振動する振動形態(面外振動モード)であって、振動腕11a,11b,11cの内、配列の中央に位置する振動腕11bのX軸方向の腕幅をW1、両端に位置する振動腕11a,11cのX軸方向の腕幅をWとし、振動腕11bにおける励振電極12bのX軸方向の電極幅をA1、振動腕11a,11cにおける励振電極12a,12cのX軸方向の電極幅をAとしたとき、1.35<W1/W<1.90、且つ、1.35<A1/A<1.90となるように構成されている。
また、水晶振動片1は、振動腕11bの第1電極12b1、圧電体13、第2電極12b2が重複するX軸方向の幅をA1’、振動腕11a,11cの第1電極12a1,12c1、圧電体13、第2電極12a2,12c2が重複するX軸方向の幅をA’としたとき、1.35<A1’/A’<1.90となるように構成されている。
【0039】
これらにより、上記範囲内において、水晶振動片1は、励振電極12a,12b,12cの圧電体13の伸縮による振動腕11a,11b,11c間のZ軸方向の振動の力学的なバランスが、十分に取られている。
このことから、水晶振動片1は、振動腕11a,11b,11cの振動エネルギーが基部10に伝わり難くなり、基部10を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが減少することによって、Q値の低下を抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる(換言すれば、従来構成に対して、Q値を向上させることができる)。
なお、上記範囲は、発明者らがシミュレーションや実験による解析の結果などから得た知見に基づいて設定したものである。
【0040】
上記に関してグラフを用いて説明する。
図3は、本実施形態の水晶振動片のQ値と各振動腕間の腕幅比及び各励振電極間の電極幅比との関係を示したグラフである。
図3(a)は、水晶振動片のQ値に関わる周波数変化量Δfと、中央の振動腕の腕幅W1/両端の振動腕の腕幅Wとの関係を示すグラフであり、図3(b)は、水晶振動片のQ値に関わる周波数変化量Δfと、中央の振動腕の励振電極の電極幅A1(A1’)/両端の振動腕の励振電極の電極幅A(A’)との関係を示すグラフである。
【0041】
なお、図3(a)においては、横軸がW1/Wを表し、縦軸が、基部の固定の有無(fix、free)による水晶振動片の周波数変化量Δfをppmで表している。
また、図3(b)においては、横軸がA1/A(A1’/A’)を表し、縦軸が、基部の固定の有無(fix、free)による水晶振動片の周波数変化量Δfをppmで表している。
なお、周波数変化量Δfは、少ないほどQ値の低下が少なく、−1ppm程度までであれば、実用上十分なQ値が得られることが過去の実績から裏付けられている。
【0042】
図3(a)に示すように、W1/Wについては、1.35を越えて1.90未満の範囲において、周波数変化量Δfが−1ppm以内となっている。そして、W1/W=1.60で周波数変化量Δfが最少となっている。つまり、Q値の低下量が最少となっている。
また、図3(b)に示すように、A1/A(A1’/A’)についても同様に、1.35を越えて1.90未満の範囲において、周波数変化量Δfが−1ppm以内となっている。
【0043】
これらの結果により、本実施形態の水晶振動片1は、1.35<W1/W<1.90、且つ、1.35<A1/A(A1’/A’)<1.90となるように構成されていることによって、励振電極12a,12b,12cの圧電体13の伸縮による振動腕11a,11b,11c間のZ軸方向の振動のバランスが十分に取られ、振動腕11a,11b,11cの振動エネルギーが基部10に伝わり難くなり、基部10を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが減少することから、Q値の低下が抑制され、Q値を所定のレベルに維持できることが裏付けられたといえる。
加えて、水晶振動片1は、W1/W=1.60とすることによって、Z軸方向における振動腕11bの振動と振動腕11a,11cの振動とのバランスを、最適な状態で取ることができ、基部10を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが最も減少することから、Q値の低下が最も抑制され、Q値を所定のレベルに維持できることが裏付けられたといえる。
【0044】
また、水晶振動片1は、励振電極12a,12b,12cが第1電極12a1,12b1,12c1と、第1電極12a1,12b1,12c1に対向して設けられた第2電極12a2,12b2,12c2と、両電極間に延在する圧電体13と、を備えたことから、励振電極12a,12b,12c自体の伸縮によって振動腕11a,11b,11cを振動させることができる。
従って、水晶振動片1は、基材に必ずしも水晶などの圧電材料を用いる必要がないことから、基材の選択肢が広がり、例えば、シリコンなどの半導体材料を基材として用いることができる。
【0045】
また、水晶振動片1は、Z軸方向における基部10の厚さが、Z軸方向における振動腕11a,11b,11cの厚さよりも厚いことから、基部10の質量の増加によって、基部10の質量と振動腕11a,11b,11cの質量との差が大きくなっている。
これにより、水晶振動片1は、振動腕11a,11b,11cの振動エネルギーが基部10へ伝わり難くなることから、基部10を介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが、より減少することによって、Q値の低下をより抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる。
【0046】
また、水晶振動片1は、基部10のX軸方向の両端部に固定部10c,10dが設けられていることから、振動腕11a,11b,11cから基部10の固定部10c,10dまでの経路を、固定部10c,10dが他の部分に設けられている場合と比較して、長くすることが可能となる。
この結果、水晶振動片1は、基部10の固定部10c,10dを外部部材へ固定した際の、固定部10c,10dを介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが、固定部10c,10dが他の部分に設けられている場合(例えば、固定部10c,10dが振動腕11a,11b,11cの近傍に設けられている場合)と比較して、更に減少することから、Q値の低下を更に抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、上記第1実施形態で述べた水晶振動片(振動片)を備えた振動子としての水晶振動子について説明する。
図4は、第2実施形態の水晶振動子の概略構成を示す模式図である。図4(a)は、リッド(蓋体)側から俯瞰した平面図であり、図4(b)は、図4(a)のD−D線での断面図である。なお、平面図では、リッドを省略してある。また、各配線は省略してある。
なお、上記第1実施形態との共通部分には、同一符号を付して詳細な説明を省略し、上記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0048】
図4に示すように、水晶振動子5は、上記第1実施形態で述べた水晶振動片1と、水晶振動片1を収容したパッケージ20と、を備えている。
【0049】
パッケージ20は、平面形状が略矩形で凹部を有したパッケージベース21と、パッケージベース21の凹部を覆う平面形状が略矩形で平板状のリッド22と、を有し、略直方体形状に形成されている。
パッケージベース21には、セラミックグリーンシートを成形して積層し焼成した酸化アルミニウム質焼結体、水晶、ガラス、シリコンなどが用いられている。
リッド22には、パッケージベース21と同材料、または、コバール、42アロイ、ステンレス鋼などの金属が用いられている。
【0050】
パッケージベース21には、内底面(凹部の内側の底面)23に、内部端子24,25が設けられている。
内部端子24,25は、水晶振動片1の基部10に設けられた接続電極18a,18bの近傍となる位置に略矩形状に形成されている。接続電極18a,18bは、図示しない配線により、水晶振動片1の各励振電極(12bなど)の第1電極(12b1など)及び第2電極(12b2など)に接続されている。
例えば、図2の配線において、交流電源の一方側の配線が接続電極18aに接続され、他方側の配線が接続電極18bに接続されている。
【0051】
パッケージベース21の外底面(内底面23の反対側の面、外側の底面)26には、電子機器などの外部部材に実装される際に用いられる一対の外部端子27,28が形成されている。
外部端子27,28は、図示しない内部配線によって内部端子24,25と接続されている。例えば、外部端子27は、内部端子24と接続され、外部端子28は、内部端子25と接続されている。
内部端子24,25及び外部端子27,28は、W(タングステン)などのメタライズ層にNi、Auなどの各被膜をメッキなどの方法により積層した金属膜からなる。
【0052】
水晶振動子5は、水晶振動片1の基部10の固定部10c,10dが、エポキシ系、シリコーン系、ポリイミド系などの接着剤30を介して、パッケージベース21の内底面23に固定されている。
そして、水晶振動子5は、水晶振動片1の接続電極18a,18bが、Au、Alなどの金属ワイヤー31により内部端子24,25と接続されている。
水晶振動子5は、水晶振動片1がパッケージベース21の内部端子24,25と接続された状態で、パッケージベース21の凹部がリッド22により覆われ、パッケージベース21とリッド22とがシームリング、低融点ガラス、接着剤などの接合部材29で接合されることにより、パッケージ20の内部が気密に封止されている。
なお、パッケージ20の内部は、減圧状態(真空度の高い状態)または窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが充填された状態となっている。
【0053】
なお、パッケージは、平板状のパッケージベースと凹部を有するリッドなどから構成されていてもよい。また、パッケージは、パッケージベース及びリッドの両方に凹部を有していてもよい。
また、水晶振動片1の基部10は、固定部10c,10dに代えて、固定部10c,10d以外の部分、例えば、固定部10cと固定部10dとを結んだ直線の中心を含む部分の1個所で固定されていてもよい。
これによれば、水晶振動片1は、1個所で固定されることによって、固定部に生じる熱応力に起因する基部10の歪みを抑制することができる。
【0054】
水晶振動子5は、外部端子27,28、内部端子24,25、金属ワイヤー31、接続電極18a,18bを経由して励振電極(12bなど)に印加される駆動信号(交番電圧)によって、水晶振動片1の各振動腕(11bなど)が所定の周波数(例えば、約32kHz)で、厚さ方向(図4(b)の矢印方向)に発振(共振)する。
【0055】
上述したように、第2実施形態の水晶振動子5は、水晶振動片1を備えたことから、上記第1実施形態に記載された効果を奏する振動子(例えば、Q値の低下を抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる振動子)を提供することができる。
【0056】
(第3実施形態)
次に、上記第1実施形態で述べた水晶振動片(振動片)を備えた発振器としての水晶発振器について説明する。
図5は、第3実施形態の水晶発振器の概略構成を示す模式図である。図5(a)は、リッド側から俯瞰した平面図であり、図5(b)は、図5(a)のD−D線での断面図である。なお、平面図では、リッド及び一部の構成要素を省略してある。また、各配線は省略してある。
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態との共通部分には、同一符号を付して詳細な説明を省略し、上記第1実施形態及び第2実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0057】
図5に示すように、水晶発振器6は、上記第1実施形態で述べた水晶振動片1と、水晶振動片1を発振させる発振回路としてのICチップ40と、水晶振動片1及びICチップ40を収容したパッケージ20と、を備えている。
【0058】
パッケージベース21の内底面23には、内部接続端子23aが設けられている。
発振回路を内蔵するICチップ40は、パッケージベース21の内底面23に、図示しない接着剤などを用いて固定されている。
ICチップ40は、図示しない接続パッドが、Au、Alなどの金属ワイヤー41により内部接続端子23aと接続されている。
【0059】
内部接続端子23aは、W(タングステン)などのメタライズ層にNi、Auなどの各被膜をメッキなどにより積層した金属膜からなり、図示しない内部配線を経由して、パッケージ20の外部端子27,28、内部端子24,25などに接続されている。
なお、ICチップ40の接続パッドと内部接続端子23aとの接続には、金属ワイヤー41を用いたワイヤーボンディングによる接続方法以外に、ICチップ40を反転させてのフリップチップ実装による接続方法などを用いてもよい。
【0060】
水晶発振器6は、ICチップ40から内部接続端子23a、内部端子24,25、金属ワイヤー31、接続電極18a,18bを経由して励振電極(12bなど)に印加される駆動信号によって、水晶振動片1の各振動腕(11bなど)が所定の周波数(例えば、約32kHz)で発振(共振)する。
そして、水晶発振器6は、この発振に伴って生じる発振信号をICチップ40、内部接続端子23a、外部端子27,28などを経由して外部に出力する。
【0061】
上述したように、第3実施形態の水晶発振器6は、水晶振動片1を備えたことから、上記第1実施形態に記載された効果を奏する発振器(例えば、Q値の低下を抑制し、Q値を所定のレベルに維持することができる発振器)を提供することができる。
なお、水晶発振器6は、ICチップ40をパッケージ20に内蔵ではなく、外付けした構成のモジュール構造(例えば、1つの基板上に水晶振動子及びICチップが搭載されている構造)としてもよい。
【0062】
(第4実施形態)
次に、上記第1実施形態で述べた水晶振動片(振動片)を備えた電子機器としての携帯電話について説明する。
図6は、第4実施形態の携帯電話を示す模式斜視図である。
図6に示す携帯電話700は、上記第1実施形態で述べた水晶振動片1を、基準クロック発振源などとして備え、更に液晶表示装置701、複数の操作ボタン702、受話口703、及び送話口704を備えて構成されている。
【0063】
上述した水晶振動片1は、上記携帯電話に限らず、電子ブック、パーソナルコンピューター、テレビ、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ビデオレコーダー、ナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器などの基準クロック発振源などとして好適に用いることができ、いずれの場合にも上記実施形態で説明した効果を奏する電子機器を提供することができる。
【0064】
なお、振動片の基材としての水晶には、水晶の原石などから所定の角度で切り出された、例えば、Zカット板、Xカット板などを用いることができる。なお、Zカット板を用いた場合には、その特性によってエッチング加工が容易となり、Xカット板を用いた場合には、その特性によって温度−周波数特性が良好となる。
また、振動片の基材は、水晶に限定するものではなく、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ホウ酸リチウム(Li247)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)などの圧電材料、またはシリコンなどの半導体材料であってもよい。
また、振動片の振動腕の数は、3本に限定するものではなく、5本、7本、9本など5以上の奇数本でもよい。
なお、振動片の基部の厚さは、振動腕と同じ厚さにしてもよい。これによれば、振動片は、平板状となることから、製造が容易となる。
【符号の説明】
【0065】
1…振動片としての水晶振動片、5…振動子としての水晶振動子、6…発振器としての水晶発振器、10…基部、10a,10b…主面、10c,10d…固定部、11b…第1振動腕としての振動腕、11a,11c…第2振動腕としての振動腕、12a,12b,12c…励振電極、12a1,12b1,12c1…第1電極、12a2,12b2,12c2…第2電極、13…圧電体、18a,18b…接続電極、20…パッケージ、21…パッケージベース、22…リッド、23…内底面、23a…内部接続端子、24,25…内部端子、26…外底面、27,28…外部端子、29…接合部材、30…接着剤、31…金属ワイヤー、40…発振回路としてのICチップ、41…金属ワイヤー、700…携帯電話、701…液晶表示装置、702…操作ボタン、703…受話口、704…送話口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部から第1方向に延びる少なくとも3本の振動腕と、を備え、
前記各振動腕は、前記第1方向と直交する第2方向に配列されると共に、前記第1方向と前記第2方向とで特定される平面に沿った主面の少なくとも一方に励振電極を有し、
前記各振動腕は、前記励振電極によって前記主面と直交する第3方向に振動し、
前記各振動腕の内、配列の中央に位置する振動腕を第1振動腕とし、配列の両端に位置する振動腕の各々を第2振動腕としたとき、前記第1振動腕と前記第2振動腕とは互いに逆方向に振動し、
前記第1振動腕の前記第2方向の腕幅をW1、前記第2振動腕の前記第2方向の腕幅をWとし、
前記第1振動腕における前記励振電極の前記第2方向の電極幅をA1、前記第2振動腕における前記励振電極の前記第2方向の電極幅をAとしたとき、
1.35<W1/W<1.90、且つ、1.35<A1/A<1.90であることを特徴とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片において、前記励振電極は、前記主面側に設けられた第1電極と、
前記第1電極に対向して設けられた第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に延在する圧電体と、
を備えたことを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項2に記載の振動片において、前記第3方向から見たときに、前記第1振動腕の前記第1電極、前記第2電極、及び前記圧電体が重複する幅をA1’、前記第2振動腕の各々の前記第1電極、前記第2電極、及び前記圧電体が重複する幅をA’としたとき、
1.35<A1’/A’<1.90であることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の振動片において、前記第3方向における前記基部の厚さは、前記第3方向における前記各振動腕の厚さよりも厚いことを特徴とする振動片。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の振動片において、前記基部の前記第2方向の両端部に固定部が設けられていることを特徴とする振動片。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の振動片において、前記W1と前記Wとの比が、
W1/W=1.60であることを特徴とする振動片。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を収容したパッケージと、
を備えたことを特徴とする振動子。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を発振させる発振回路と、
を備えたことを特徴とする発振器。
【請求項9】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の振動片を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−160996(P2012−160996A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20414(P2011−20414)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】