説明

排水枡及びその製造方法

【課題】 胴部の外径を開口部の外径よりも小さくして軽量化を図った3層構造の排水枡およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 排水枡1は、肉厚方向に3層以上の別種材料からなる硬質塩化ビニル製であって、胴部3と、胴部3の側壁3bの上方に接続された開口部5と、胴部3の側壁3bの下部から側方に突き出す、筒状の出側排水管取付部7と、筒状の入側排水管取付部9とを備える。入側排水管取付部9は、出側排水管取付部7より上方の胴部側壁3bから、出側排水管取付部7と直交する方向に突き出している。胴部3の外径は、開口部5の外径よりも小さい。また、出側排水管取付部7の肉厚T出と、入側排水管取付部9と胴部側壁3bとの接続部9Xの肉厚T入との比は、T出:T入=1:2.5〜1:4.5である。これにより、第2の原料(再生原料)の含有率を比較的高くした場合でもブレークスルーの発生を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭などから排出される下水の排水管路に装備される排水枡及びその製造方法に関する。特には、再生原料などを原料の一部に使用した層構造の硬質塩化ビニル製排水枡において、その再生原料などのコア層の原料の割合を高くしつつコア層が製品の表面に露出する成形不良(ブレイクスルー)が発生しないように改良した排水枡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂製品のスクラップや、使用済み樹脂製品などの廃材の処理が大きな問題となっている。このようなスクラップは、樹脂製の家電製品筺体や管継ぎ手等の建材を射出成形する際などに発生する。特に、合成樹脂管を連続押出成形するプロセスにおいて、成形条件が安定するまでの初期段階では、多量のスクラップが発生する。また、耐用年数が経過して老朽化した合成樹脂管などの廃材も多量に発生している。
【0003】
このような樹脂スクラップや使用済み廃材は、従来は焼却や埋め立てにより廃棄処分されていた。埋め立て処分する場合は、処分場が少ないことはもちろん、合成樹脂は長期間分解・腐食しないため、環境破壊の問題が生じうるとされている。そこで、このような樹脂スクラップや樹脂廃材を粉砕して、再生原料として利用することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1には、再生原料を含有する硬質塩化ビニルを中間層として使用した三層管が提案されている。また、本出願人による特許文献2には、改質剤を含有した再生原料を中間層として使用した3層構造の排水枡が提案されている。
【0005】
このような排水枡の形状の一例を説明する。
図1は、排水枡の形状の一例を示す斜視図である。
この例の排水枡1は、例えば、一般家庭から出る下水を集めて下水本管に送るために使用されるものである。この排水枡1は、胴部3と、胴部3の上方の開口部5と、胴部3の下部から側方に突き出す筒状の出側排水管取付部7を有する。また、この出側排水管取付部7の上方の位置において、胴部3から出側排水管取付部7と平面視交差(この場合は直交)するように側方に突き出す、2個の入側排水管取付部9A及び9Bを有する。さらに、出側排水管取付部7と反対方向に突き出す、1個の入側排水管取付部9Cと、を有する。
【0006】
開口部5は受口であり、その内孔には、点検口から延びるパイプ(図示されず)が差し込まれて接続される。このため、開口部5の内面と胴部3の内面との境には、パイプの先端面が当たる内段部4が形成されており、開口部5の内径が胴部3の内径よりも大きくなっている。入側排水管取付部9も受口であり、各々、台所、風呂、トイレなどからの排水管が接続される。出側排水管取付部7は差口であり、その外周には、下水道本管に延びる排水管が接続される。
【0007】
また、開口部5の外周と胴部3の外周との境には、外段部6が形成されている。つまり、胴部3の外径が開口部5の外径よりも小さくなっており、開口部5の外周が胴部3の外周よりも外側に出っ張る形となっている。これにより、胴部3の径・肉厚を薄くできて、排水枡の重量を軽減できる。
【0008】
次に、図1に示した排水枡の製法の一例を説明する。
前述のように、開口部5の外周と胴部3の外周との境には、外段部6が存在する。この場合、開口部5が胴部3よりも外側に出っ張る形となり、胴部外周の成形型が上に抜けないため、金型は横割り構造となる。金型を横割り構造とした場合、入側排水管取付部9の外周成形用の金型には抜き勾配を付けなければならないため、入側排水管取付部9の胴部3との接続部分(根元部分9X、図2(B)も参照)の肉厚が厚くなる。一方、出側排水管取付部7が差口の場合は外径の寸法規制が厳しく、抜き勾配が小さくなる。また、流路を確保するため内径の寸法をできるだけ大きくする必要がある。このため、出側排水管取付部7は、通常は最も肉厚の薄い部位となっており、最後に樹脂が充填される部位となる。
【0009】
このように樹脂製排水枡の肉厚が部位によって大きく異なる場合、成形時に樹脂の流動特性が大きく影響を受ける。再生原料を使用した排水枡の場合には、樹脂の流動特性は再生原料の含有率にも影響される。再生原料の含有率を高くすると、前述の樹脂廃材の再利用等の点で好ましく、原料費を抑えることができる。しかし、再生原料の含有率を上げた場合、樹脂の流動状態によっては、再生原料が製品の表面に露出する成形不良(ブレイクスルー)が発生することがある。また、前述のように、出側排水管取付部7は最後に樹脂が充填される部位であるため、成形時に樹脂が流れ込み難く、ブレイクスルーが発生しやすいという問題もある。
【0010】
【特許文献1】特開2001−41362
【特許文献2】特開2004−60158
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、肉厚方向に3層構造の硬質塩化ビニル樹脂製の排水枡において、再生原料などのコア部の原料の充填率を高くしつつ該原料が製品の表面に露出する成形不良(ブレイクスルー)が発生しないように改良した排水枡およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の排水枡は、 周状の側壁及び底を有する胴部と、 該胴部の内空部が上方に開口する、前記側壁の上方に接続された、前記胴部よりも外径の大きい開口部と、 前記胴部側壁の下部から側方に突き出す、前記内空部と連通する筒状の出側排水管取付部と、 該出側排水管取付部より上方の位置において、前記出側排水管取付部と平面視交差する方向に前記側壁から突き出す、前記内空部と連通する筒状の入側排水管取付部と、具備し、 第1の樹脂原料からなるスキン層と第2の樹脂原料からなるコア層とを有する3層以上の硬質塩化ビニル製の排水枡であって、 前記胴部の底の下面のほぼ中心に成形時の樹脂流入口が設けられており、 前記第2の原料の充填率が10%以上であり、 前記出側排水管取付部の肉厚T出と、前記入側排水管取付部と前記胴部側壁との接続部の肉厚T入との比が、T出:T入=1:2.5〜1:4.5であることを特徴とする。
【0013】
樹脂製排水枡の肉厚が部位によって大きく異なる場合、成形時に樹脂の流動特性が大きく影響を受ける。再生原料を使用した排水枡の場合には、樹脂の流動特性は再生原料の含有率にも影響される。再生原料の含有率を上げた場合、樹脂の流動状態によっては、再生原料が製品の表面に露出する成形不良(ブレイクスルー)が発生することがある。また、出側排水管取付部は最後に樹脂が充填される部位であるため、成形時に樹脂が流れ込み難く、ブレイクスルーが発生しやすいという問題もある。
【0014】
そこで、出側排水管取付部の肉厚T出と、入側排水管取付部の胴部との接続部の肉厚T入との比を、T出:T入=1:2.5〜1:4.5と設定することにより、再生原料(第2の樹脂原料)の含有率を比較的高くした場合(約10%以上)でも、入側排水管取付部及び出側排水管取付部へ、量的及び時間的にバランスよく樹脂(再生原料を含む)が充填される。このため、再生原料の含有率を上げた場合でも、スキン層(外面及び内面)に再生原料が露出しない(ブレークスルーが起こらない)ように成形できる。
【0015】
なお、前述の特許文献2の排水枡は、胴部の外径が開口部の外径と同じタイプのものであって、金型の割構造が縦割りとなるため、そもそも本件発明の前提となる問題は生じない。
【0016】
本発明の排水枡の製造方法は、 周状の側壁及び底を有する胴部と、 該胴部の内空部が上方に開口する、前記側壁の上方に接続された、前記胴部よりも外径の大きい開口部と、 前記胴部の下部から側方に突き出す、前記内空部と連通する筒状の出側排水管取付部と、 該出側排水管取付部より上方の位置において、前記出側排水管取付部と平面視交差する方向に前記側壁から突き出す、前記内空部と連通する筒状の入側排水管取付部と、を具備し、 第1の樹脂原料からなるスキン層と第2の原料からなるコア層とを有し、第2の樹脂原料の充填率が10%以上の3層以上の硬質塩化ビニル製の排水枡を製造する方法であって、 前記排水枡の外形を成形する横割り構造の外金型と、前記排水枡の胴部内空部及び前記排水管取付部の内孔を成形する内金型と、を型締めして成形キャビティを形成し、 該成形キャビティの前記胴部底のほぼ中心に当たる部分に樹脂流入口を設け、 前記出側排水管取付部の肉厚T出と、前記入側排水管取付部と前記胴部側壁との接続部の肉厚T入との比を、T出:T入=1:2.5〜1:4.5となるように設定し、 前記成形キャビティ内に第1の樹脂原料を射出してスキン層を形成し、 次に、第2の樹脂原料を射出して、前記スキン層に覆われたコア層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、樹脂スクラップや樹脂廃材を再生した原料を、比較的高い含有率(約10%以上)でコア層として使用していながら、外観が良好な(コア層がスキン層に露出していない、ブレークスルーが発生しない)排水枡を提供できる。具体的には、胴部が開口部よりも小径化されて軽量化されているとともに、肉薄の出側排水管取付部を有する排水枡において、出側排水管取付部にブレークスルーの発生し難い排水枡およびその製造方法を提供できる。さらには、再生原料の含有率を上げることができるので、樹脂廃材の再利用の点で好ましいとともに原料費を安くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る排水枡の構造を示す斜視図である。
図2(A)は、図1のZ方向断面図であり、図2(B)は、図2(A)の一部を拡大して示す図である。
図3(A)は、図1のX方向断面図であり、図3(B)は、図3(A)の一部を拡大して示す図である。
図4は、図1の排水枡の肉厚を色分けして示す斜視図である。赤色が肉厚が厚い部分を、紫色が肉厚が薄い部分を表示する。
【0019】
図1を参照して排水枡1の構造を再度詳細に説明する。この排水枡1は、内側に内空部3aを画する周状の側壁3b、及び、底3cを有する胴部3と、内空部3aが上方に開口する、側壁3bの上方に接続された開口部5と、を有する。側壁3bの下部には、側方に突き出す、内空部3aと連通する筒状の出側排水管取付部7が設けられている。さらに、この出側排水管取付部7より上方の位置には、胴部側壁3bから、出側排水管取付部7と平面視交差(直交する側方に突き出す、筒状の入側排水管取付部9A及び9Bと、出側排水管取付部7と反対方向に突き出す、筒状の入側排水管取付部9Cが設けられている。
【0020】
図2(A)、図3(A)に示すように、開口部5の内径d3は胴部3の内径d2よりも大きく、開口部5の内面と胴部3の内面との間には、排水管などの端面が当たる内段部4が形成される。また、開口部5の外径d1は胴部3の外径d4よりも大きく、開口部5の外面と胴部3の外面との間には、外段部6が形成される。このような構造とすることにより、前述のように胴部3の体積を減らして軽量化できる。胴部3の側壁3aの肉厚は、サイズが150〜350(管呼び径)の排水枡の場合、5〜20mm程度である。
【0021】
各入側排水管取付部9は同じ径であり、その内面には取り付けられる排水管の端部が当たる段部9aが形成されている。また、入側排水管取付部9は受口であり、成形用金型に管軸方向の抜き勾配が設けられているため、胴部3と同取付部9との接続部9X(段部9aの根元の部分)の肉厚は厚い。図4では赤く着色されており、最も肉厚が厚くなっている。
【0022】
この例の場合、出側排水管取付部7の呼び径は、入側排水管取付部9の呼び径と同じである。また、出側排水管取付部7は差口であり、接続される排水管の寸法との関連で外径の寸法規制が厳しく、流路を確保するため内径の寸法をできるだけ大きくする必要があるため、抜き勾配が小さく、根元部の肉厚が薄くなっている。図4では紫に着色されており、最も肉厚が薄くなっている。
ここで、出側排水管取付部7の肉厚T出(図3(B)参照)と、胴部3と入側排水管取付部9との接続部9Xの肉厚T入(図2(B)参照)との比は、T出:T入=1:2.5〜1:4.5である。この数値設定の根拠及び実験例については後述する。
【0023】
この排水枡1は、図2(B)、図3(B)に示すように、第1の樹脂からなる表裏スキン層10と、第2の樹脂からなるコア層11とが肉厚方向に3層積層された構造を有する。つまり、コア層11の表面(内面及び外面)が表裏のスキン層10で覆われている。第1の樹脂や第2の樹脂としては、PVC、ABS、PP、PE等の樹脂原料を使用することができる。特には、塩化ビニル樹脂からなる廃材やスクラップが大量に発生している現状や、排水枡に接続する排水管として硬質塩化ビニル樹脂が使用されていることを考慮すると、第2の樹脂として、硬質塩化ビニル樹脂の再生原料を使用し、第1の樹脂として、第2の樹脂と異なる硬質塩化ビニル樹脂を使用することが好ましい。
【0024】
なお、再生原料には、添加剤として、熱安定剤、滑剤、加工助剤、顔料、可塑剤、充填剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などを添加することもできる。
【0025】
また、第2の樹脂として、改質剤が含有された硬質塩化ビニル樹脂を使用することもできる。改質剤としては、摺動性改質剤、耐摩耗性改質剤、導電性改質剤、耐衝撃性改質剤などを使用できる。配合例としては、ポリ塩化ビニル100重量部に対し、改質剤8〜15重量部、安定剤0.5〜3重量部、滑剤0.1〜1.0重量部、加工助剤0.1〜1.0重量部、顔料0.1〜1.0重量部である。
【0026】
次に、この排水枡1の製造方法を説明する。
図5は、排水枡の製造に使用される金型を説明する図である。
この排水枡1は、排水枡1の外形を成形する横割り構造の外金型20と、排水枡1の内形を成形する内金型(コア)30とで成形される。外金型20と内金型30を型締めすることにより成形キャビティCが形成される。
【0027】
外金型20は、図5の左側に示す可動外金型21と、図5の右側に示す固定外金型22とを有する。固定外金型22には、樹脂原料を射出するゲート23が設けられている。ゲート23の射出口23aは、枡1の底部3cの中央(胴部3の中央)に位置する。このように胴部3の中央に射出口23aを設けることにより、成形キャビティC内に原料をほぼ万遍なく行き渡らせることができる。また、射出口23aが底部3cの下面となり、外観を損ねないという利点もある。ゲート23には、射出成形機のノズル24が接続する。ノズル24には、第1の樹脂用の流路25と、第2の樹脂用の流路26とが形成されている。
【0028】
内金型30は、開口部5及び胴部3の内形を成形する可動金型31、各入側排水管取付部9の内径を成形する可動金型32、33、出側排水管取付部7の内形を成形する可動金型(図示されず)とを有する。
【0029】
成形作業の一例を説明する。
まず、外金型20と内金型30とを型締めして成形キャビティCを形成する。そして、ノズル24の第1樹脂流路25からゲート23を通して成形キャビティC内に所定量の第1の樹脂を射出する。次に、ノズル24の第2樹脂流路26からゲート23を通して所定量の第2の樹脂を射出し、成形キャビティCを樹脂でほぼ充満させる。この際、先に射出された第1の樹脂原料のスキン層の間に第2の樹脂原料が入り込み、両方の樹脂原料がキャビティの末端まで満遍なく行き渡る。すなわち、第2の樹脂原料が第1の樹脂原料で覆われた状態でキャビティC内に行き渡るため、第2の樹脂原料が第1の樹脂原料の表面に露出することがない。これにより、第1の樹脂原料からなる表裏のスキン層10と第2の樹脂原料からなるコア層11とが形成される。
【0030】
最後に、第1樹脂流路25からゲートを通して、少量の第1の樹脂原料をキャビティC内に射出する。これにより、ゲート23の射出口23aを第1の樹脂原料で覆うことができる。さらに、次のショットのために、ノズル24の先端部に滞留している第2の樹脂原料を、第1の樹脂原料に置換することもできる。その後、内金型20及び外金型30を型開きする。
【0031】
次に、出側排水管取付部7の肉厚T出(図3(B)参照)と、胴部3と入側排水管取付部9との接続部9Xの肉厚T入(図2(B)参照)との比を可変した場合に、成形した排水枡1の出側排水管取付部7にブレークスルーが発生するかどうかを調べた。
金型内に肉厚調整用スペーサをインサートし、出側排水管取付部7の肉厚T出と、胴部3と入側排水管取付部9との接続部の肉厚T入との比を、T出:T入=1:2.3、1:3及び1:3.5となるように設定した。前述と同様の成形方法で、第2の原料の含有率を10%として排水枡を作製し、出側排水管取付部7にブレークスルーが発生しているかどうかを目視により観察した。なお、実験した排水枡の具体的な寸法は、入出側管呼び径100A、T出=3.6mm、出側排水管取付部7の長さ110mm、入側排水管取付部9の長さ60mmであった。
【0032】
表1は、目視観察結果を示す表である。
【表1】



この表からわかるように、T出:T入が、1:2.3の場合、ブレークスルーが観察され、1:3及び1:3.5の場合ブレークスルーは観察されなかった。この結果からは、ブレークスルーの発生しない出側排水管取付部7の肉厚T出と、胴部3と入側排水管取付部9との接続部の肉厚T入との適切な比は、T出:T入=1:3〜1:3.5といえる。なお、この例の排水枡の構造上、出側排水管取付部7のT出が最も薄くなるため、T出よりT入が薄い構造(T出:T入=1:0.5など)は存在しない。
【0033】
次に、樹脂流動解析CAE(解析ソフト名「moldflow」)を使用して、T出:T入=1:1.2、1:2.3、1:2.5、1:3、1:3.5及び1:4.5とした場合の成形結果を解析した。なお、比が5以上の場合は、硬質塩化ビニルの成形技術上選択し得ないので、考慮しない。測定条件は試作条件と同じで、金型温度:20〜40℃、樹脂温度:190〜200℃、充填速度:20〜40cc/secとした。T出:T入を前述の値に設定し、充填率を約1%ずつ増やして、ブレークスルーが発生する最大充填率を求めた。
【0034】
図6は、ブレークスルー発生と、T出:T入及び第2の原料の充填率との関係を示すグラフである。縦軸は最大充填率(%)、横軸はT出:T入を表す。T出:T入を前述の値に設定し、充填率を約1%ずつ増やして、ブレークスルーが発生しない最大充填率をプロットした。例えば、T出:T入が1:1.2の場合、充填率が約9.3%まではブレークスルーが発生せず、それ以上とするとブレークスルーが発生する。
【0035】
グラフからわかるように、T出:T入が1:1.2及び1:2.3の場合、ブレークスルーが発生しない最大充填率は約9%及び約7%であり、ほぼ同じ結果であるが、T出:T入が1:2.5となると、最大充填率は約18%となり急激に約2倍に増加する。そして、比を大きくしても、ほぼ横ばいの傾向を示す。これは、表1に示した試作品のブレークスルー目視観察結果と同じ結果である。
【0036】
つまり、T出:T入が1:2.3と1:2.5の間で樹脂の充填特性(流動特性)が大きく変わったといえる。そして、第2の原料の充填率が2倍程度に高くなってもブレークスルーが起こらなくなっている。したがって、T出:T入=1:2.5〜1:4.5とすることにより、ブレークスルーの発生を抑えつつ第2の原料の充填率を約18%程度に上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る排水枡の構造を示す斜視図である。
【図2】図2(A)は、図1のZ方向断面図であり、図2(B)は、図2(A)の一部を拡大して示す図である。
【図3】図3(A)は、図1のX方向断面図であり、図3(B)は、図3(A)の一部を拡大して示す図である。
【図4】図1の排水枡の肉厚を色分けして示す斜視図である。
【図5】排水枡の製造に使用される金型を説明する図である。
【図6】ブレークスルー発生と、T出:T入及び第2の原料の充填率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 排水枡 3 胴部
5 開口部 4 内段部
6 外段部 7 出側排水管取付部
9 入側排水管取付部
10 スキン層 11 コア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周状の側壁及び底を有する胴部と、
該胴部の内空部が上方に開口する、前記側壁の上方に接続された、前記胴部よりも外径の大きい開口部と、
前記胴部側壁の下部から側方に突き出す、前記内空部と連通する筒状の出側排水管取付部と、
該出側排水管取付部より上方の位置において、前記出側排水管取付部と平面視交差する方向に前記側壁から突き出す、前記内空部と連通する筒状の入側排水管取付部と、
を具備し、
第1の樹脂原料からなるスキン層と第2の樹脂原料からなるコア層とを有する3層以上の硬質塩化ビニル製の排水枡であって、
前記胴部の底の下面のほぼ中心に成形時の樹脂流入口が設けられており、
前記第2の原料の充填率が10%以上であり、
前記出側排水管取付部の肉厚T出と、前記入側排水管取付部と前記胴部側壁との接続部の肉厚T入との比が、T出:T入=1:2.5〜1:4.5であることを特徴とする排水枡。
【請求項2】
周状の側壁及び底を有する胴部と、
該胴部の内空部が上方に開口する、前記側壁の上方に接続された、前記胴部よりも外径の大きい開口部と、
前記胴部の下部から側方に突き出す、前記内空部と連通する筒状の出側排水管取付部と、
該出側排水管取付部より上方の位置において、前記出側排水管取付部と平面視交差する方向に前記側壁から突き出す、前記内空部と連通する筒状の入側排水管取付部と、
を具備し、
第1の樹脂原料からなるスキン層と第2の原料からなるコア層とを有し、第2の樹脂原料の充填率が10%以上の3層以上の硬質塩化ビニル製の排水枡を製造する方法であって、
前記排水枡の外形を成形する横割り構造の外金型と、前記排水枡の胴部内空部及び前記排水管取付部の内孔を成形する内金型と、を型締めして成形キャビティを形成し、
該成形キャビティの前記胴部底のほぼ中心に当たる部分に樹脂流入口を設け、
前記出側排水管取付部の肉厚T出と、前記入側排水管取付部と前記胴部側壁との接続部の肉厚T入との比を、T出:T入=1:2.5〜1:4.5となるように設定し、
前記成形キャビティ内に第1の樹脂原料を射出してスキン層を形成し、
次に、第2の樹脂原料を射出して、前記スキン層に覆われたコア層を形成することを特徴とする排水枡の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−270385(P2009−270385A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123699(P2008−123699)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】