説明

接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着剤シート及びそれを用いた半導体装置

【課題】被着体に対する充填性、低温ラミネート性及びダイシング後のピックアップ性などのプロセス特性、並びに、耐リフロー性などを含む半導体装置の信頼性向上に寄与する特性を十分に兼ね備えたフィルム状接着剤、接着剤シート及びその実現を可能とする接着剤組成物を提供する。
【解決手段】テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂であり、テトラカルボン酸二無水物は、エーテル結合含有特定のテトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸二無水物成分全量に対して30モル%以上含み、ジアミンは、特定のポリプロピレンオキシド含有ジアミンをジアミン成分全量に対して30モル%以上含み、ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度が10℃〜100℃であり、100℃での溶融粘度が6000Pa・s以下であり、フィルム状に形成したときに当該フィルムの40℃でのフィルム表面タック力が200gf以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着剤シート及びそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材の接合には、銀ペーストが主に使用されていた。しかしながら、近年の半導体素子の大型化、半導体パッケージの小型化・高性能化に伴い、使用される支持部材にも小型化、細密化が要求されるようになってきている。こうした要求に対して、銀ペーストでは、ぬれ広がり性、はみ出しや半導体素子の傾きに起因して発生するワイヤボンディング時の不具合、銀ペーストの厚み制御の困難、及び銀ペーストのボイド発生などにより、対処しきれなくなってきている。そのため、上記要求に対処するべく、近年、フィルム状の接着剤が使用されるようになってきた(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0003】
このフィルム状接着剤は、個片貼付け方式やウェハ裏面貼付方式などの半導体装置の製造方法において使用されている。前者の個片貼付け方式により半導体装置を製造する場合、まず、リール状のフィルム状接着剤をカッティング或いはパンチングによって個片に切り出した後、支持部材に接着し、このフィルム状接着剤付き支持部材に、ダイシング工程によって個片化された半導体素子を接合して、半導体素子付き支持部材を作製する。その後、ワイヤボンド工程、封止工程などを経ることによって半導体装置が得られる(例えば、特許文献3を参照)。しかし、個片貼付け方式の場合、フィルム状接着剤を切り出して支持部材に接着する専用の組立装置が必要であることから、銀ペーストを使用する方法に比べて製造コストが高くなるという問題があった。
【0004】
一方、ウェハ裏面貼付け方式により半導体装置を製造する場合、まず、半導体ウェハの裏面にフィルム状接着剤の一方の面を貼付け、さらにフィルム状接着剤の他方の面にダイシングシートを貼り合わせる。その後、上記の半導体ウェハからダイシングによって半導体素子を個片化し、個片化したフィルム状接着剤付き半導体素子をピックアップして、それを支持部材に接合する。その後、ワイヤボンド、封止などの工程を経ることにより、半導体装置が得られる。このウェハ裏面貼付け方式は、フィルム状接着剤を切り出して支持部材に接着する専用の組立装置を必要とせず、従来の銀ペースト用の組立装置をそのまま、或いはそこに熱盤を付加するなどの装置の一部を改良することにより使用できる。そのため、ウェハ裏面貼付け方式は、フィルム状接着剤を用いた組立方法の中で製造コストが比較的安く抑えられる方法として注目されている(例えば、特許文献4を参照)。
【0005】
ところで、最近では、半導体素子の小型薄型化・高性能化に加えて、多機能化が進み、複数の半導体素子を積層化した半導体装置が急増している。また、半導体装置の厚みについても薄化の方向に進んでいる。そのため、半導体ウェハはさらなる極薄化が進んでいる。これに伴い、搬送時のウェハ割れ、ウェハ裏面へフィルム状接着剤を貼付けた時のウェハ割れが顕在化してきた。この問題を防止するため、ウェハ表面に軟質保護テープ(通称、バックグラインドテープ)を貼り合わせる手法が採用されつつある。
【0006】
バックグラインドテープの軟化温度が100℃以下であることや、貼り合せ時の熱応力によるウェハ反りの抑制などの事情により、ウェハ裏面に100℃よりも低い温度で貼り付けが可能なフィルム状接着剤の要求が強くなってきている。また、半導体装置組立時のプロセス特性の観点から、ダイシング後のピックアップ性が良好であること、すなわち一旦貼り合せたフィルム状接着剤とダイシングシートとの易剥離性も兼ね備えることが求められている。
【0007】
また、ウェハ裏面への貼り合せプロセスの簡略化を目的に、フィルム状接着剤の一方の面に、ダイシングシートを貼り合せたフィルム状接着剤、すなわちダイシングシートとダイボンドフィルムを一体化させたフィルム(以下、「ダイシング・ダイボンド一体型フィルム」という場合もある)を用いる手法が提案されている。ダイシングテープの軟化温度も上記のバックグラインドテープと同様に通常100℃以下である。そのため、上記の一体型フィルムの形態においても、上述の易剥離性などの良好なプロセス特性を有していることに加えて、ダイシングテープの軟化温度やウェハ反りの抑制を考慮して100℃よりも低温で貼り付けが可能であることがフィルム状接着剤に求められる。
【0008】
他方、フィルム状接着剤を用いて作製される半導体装置に対しては、信頼性、すなわち、耐熱性、耐湿性、耐リフロー性なども求められている。耐リフロー性を確保するためには、260℃前後のリフロー加熱温度において、ダイボンド層の剥離または破壊を抑制できる高い接着強度を有することが求められる。このように、低温ラミネート性を含むプロセス特性と、耐リフロー性を含む半導体装置の信頼性を高度に両立できるフィルム状接着剤に対する要求が強くなってきている。
【0009】
更に、支持部材が表面に配線を有する有機基板である場合、フィルム状接着剤は配線段差に対する十分な充填性(埋め込み性)を有していることが、半導体装置の耐湿信頼性及び配線間の絶縁信頼性を確保する上で重要である。接着剤の埋め込みが不十分であると、未充填部の空隙が原因で耐湿信頼性及び耐リフロー性の低下する可能性が高くなる。接着剤の埋め込み性については、半導体装置の組立工程のうちの封止工程でのトランスファモールド時の熱と圧力を利用することによっても確保されてきた。しかしながら、上述したように複数の半導体素子の積層化が進むにつれて、個々の半導体素子を接合して積層化するために要する熱履歴プロセス(ダイボンド及びワイヤボンドなど)は、半導体素子の積層数の増大と共に長時間化する傾向にある。複数の半導体素子を積層した半導体装置を製造する場合、最下段である半導体素子と配線段差付き有機基板間の接合に用いられるダイボンディングフィルムには、ダイボンドからトランスファモールドの工程までの間に、上段の半導体素子を積層するための熱履歴を受けることになる。加熱硬化により接着剤の流動性が低下すると、トランスファモールド時の熱と圧力によっても基板表面の配線段差に対する埋め込み性の確保が困難となる。
【0010】
よって、このような半導体装置の最下段に位置する半導体素子及び配線段差付き有機基板間の接合に用いられるダイボンディングフィルムにおいては、半導体組成を有機基板に接合する工程、すなわちダイボンドの時点で、基板表面の配線段差への埋め込みを十分確保できることが望まれる。しかし、ダイボンド時の熱と圧力の条件は、熱応力による半導体素子の反り、及び半導体素子上の回路面へのダメージの抑制から、トランスファモールド時の熱と圧力よりも低温、低圧であり、さらに短時間の条件となる。そのため、上記のダイボンディングフィルムは、この条件であっても基板表面の配線段差への埋め込み性を確保できる熱時流動性を有し、発泡やボイドの発生を十分抑制できるものであることが望まれる。
【0011】
これまで、低温加工性と耐熱性を両立すべく、比較的Tgが低い熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂とを組み合わせたフィルム接着剤が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。
【0012】
【特許文献1】特開平3−192178号公報
【特許文献2】特開平4−234472号公報
【特許文献3】特開平9−17810号公報
【特許文献4】特開平4−196246号公報
【特許文献5】特許第3014578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来技術は、上述した低温、低圧、及び短時間の条件での基板表面の配線段差への埋め込みを可能にする熱時流動性の確保と、耐リフロー性を含めた高温時の耐熱性とを両立できる材料を提供するには未だ十分ではない。また、ウェハの極薄化に伴い、ダイシング後に良好なピックアップ性を確保できる特性の要求が強まっている中で、これらの特性を兼ね備える材料を開発するためには、更に詳細或いは精密な材料設計が必要である。
【0014】
すなわち、上記特許文献4及び5に記載のものをはじめとする従来のフィルム状接着剤においては、比較的Tgが低いポリイミド樹脂又はアクリルゴムの配合や、低分子量で低粘度のエポキシ樹脂の比率を増量した配合によって、Bステージにおける熱時流動性とCステージにおける耐熱性との両立が図られていた。しかしながら、ベース樹脂のTgを下げる設計や低粘度のエポキシ樹脂を増量する設計は、フィルム表面の粘着性(タック)の上昇、ダイシング時のダイボンド層バリの増大(フィルム延性による破断性の低下)、及びダイシング後のダイボンド層切断面再融着などの問題を招き、ダイシング後のピックアップ性の確保が困難となる方向に進む。
【0015】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑み、被着体に対する充填性(埋め込み性)、低温ラミネート性及びダイシング後のピックアップ性などのプロセス特性、並びに、耐リフロー性などを含む半導体装置の信頼性向上に寄与する特性を十分に兼ね備えたフィルム状接着剤、接着剤シート及びその実現を可能とする接着剤組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、それらを用いて得られる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂を含有する接着剤組成物であって、テトラカルボン酸二無水物は、下記式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸二無水物成分全量に対して30モル%以上含み、ジアミンは、下記一般式(II)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して30モル%以上含み、ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度が10℃〜100℃であり、100℃での溶融粘度が6000Pa・s以下であり、フィルム状に形成したときに当該フィルムの40℃でのフィルム表面タック力が200gf以下である接着剤組成物を提供する。
【化1】



【化2】



(式中、mは0〜10の整数を示す。)
【0017】
上記のフィルム表面タック力とは、ポリイミド樹脂をフィルム状に形成したフィルムの表面について、レスカ製プローブタッキング試験機を用いて、JISZ0237−1991に記載の方法(プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm、接触時間1s)に準拠して、40℃におけるタック強度(粘着力)を測定したときの値である。
【0018】
本発明の接着剤組成物によれば、上記構成を有することにより、被着体に対する充填性(埋め込み性)、低温ラミネート性及びダイシング後のピックアップ性などのプロセス特性、並びに、耐リフロー性などを含む半導体装置の信頼性向上に寄与する特性を十分に兼ね備えたフィルム状の接着剤層を形成することができる。
【0019】
上記ポリイミド樹脂のガラス転移温度が10℃未満であると、接着剤層の表面の粘着力が強くなりすぎてBステージ状態での取扱い性が悪くなるため、フィルム状に形成して用いることが困難となる。一方、ガラス転移温度が100℃を超えると、フィルム状に形成したときに、ウェハ裏面への貼付け温度を100℃以下にすることが困難となる。
【0020】
上記ポリイミド樹脂の100℃での溶融粘度が6000Pa・sを超えると、フィルム状に形成したときに、低温、低圧及び短時間の条件での熱時流動性を十分に確保することができず、被着体に対する充填性(埋め込み性)が損なわれる。
【0021】
上記ポリイミド樹脂の40℃でのフィルム表面タック力が200gfを超えると、得られるフィルム状接着剤の室温におけるフィルム表面の粘着性が強くなり、フィルム取扱い性が悪くなる傾向にある他、ダイシング時のフィルム延性による破断性の低下によってバリが残存し易くなる。また、上記タック力が200gfを超えると、ダイシング後のダイシングテープとのはく離性が低下し、ダイシング後のフィルム切断面再融着などによるピックアップ性の低下を招く傾向にある。なお、本明細書における室温とは5〜30℃を意味する。
【0022】
上記ジアミンは、下記一般式(III)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して10モル%以上さらに含むことができる。
【化3】



式中、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキレン基、又はフェニレン基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基又はフェノキシ基を示す。
【0023】
上記ジアミンとして、上記式(III)で表されるジアミンを上記の割合で用いることにより、接着性を更に向上させることができる。
【0024】
また、上記ジアミンは、下記一般式(IV)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して10モル%以上さらに含むことができる。
【化4】



(式中、qは1〜20の整数を示す。)
【0025】
上記ジアミンとして、上記式(IV)で表されるジアミンを上記の割合で用いることにより、低Tg化と同時に低吸湿性を付与することが容易となる。
【0026】
上記ジアミンは、上記一般式(II)で表されるジアミン以外の下記式(V)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して10モル%以上さらに含むことができる。
【化5】



(式中、Q、Q及びQは、炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Pは0〜10の整数を示す。)
【0027】
上記ジアミンとして、上記式(V)で表されるジアミンを上記の割合で用いることにより、熱時の高い流動性を付与することが容易となる。
【0028】
本発明の接着剤組成物は熱硬化性樹脂をさらに含有することができる。
【0029】
本発明の接着剤組成物は、半導体素子を、他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いることができる。
【0030】
また、本発明の接着剤組成物が、半導体素子を半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いられる場合、半導体素子搭載用支持部材が配線段差付き有機基板であることが好ましい。
【0031】
本発明はまた、本発明の接着剤組成物をフィルム状に形成してなるフィルム状接着剤を提供する。
【0032】
本発明のフィルム状接着剤は、本発明の接着剤組成物からなるものであることにより、被着体に対する充填性(埋め込み性)、低温ラミネート性及びダイシング後のピックアップ性などのプロセス特性、並びに、耐リフロー性などを含む半導体装置の信頼性向上に寄与する特性を十分に兼ね備えることができる。
【0033】
本発明のフィルム状接着剤は、半導体素子を、他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いることができる。
【0034】
また、本発明のフィルム状接着剤が、半導体素子を半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いられる場合、半導体素子搭載用支持部材が配線段差付き有機基板であることが好ましい。
【0035】
本発明はまた、基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも一面上に設けられた本発明の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる接着剤層とを備える接着剤シートを提供する。本発明の接着剤シートは、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を備えることにより、被着体に対する充填性(埋め込み性)、低温ラミネート性及びダイシング後のピックアップ性などのプロセス特性、並びに、耐リフロー性などを含む半導体装置の信頼性向上に寄与する特性を十分に兼ね備えることができる。また、本発明の接着剤シートが備える接着剤層は、ダイシングシートとダイボンドフィルムの両機能を併せ持った粘接着剤層として機能することができる。
【0036】
本発明はまた、本発明の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる接着剤層と、ダイシングシートとが積層されてなる接着剤シートを提供する。
【0037】
本発明の接着剤シートにおいて、上記ダイシングシートは、基材フィルム及び該基材フィルム上に設けられた粘着剤層を有するものとすることができる。
【0038】
本発明の接着剤シートは半導体素子を、他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いることができる。
【0039】
また、本発明の接着剤シートが、半導体素子を半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いられる場合、半導体素子搭載用支持部材が配線段差付き有機基板であることが好ましい。
【0040】
本発明はまた、本発明の接着剤組成物によって、半導体素子と他の半導体素子、及び/又は、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材が接着されてなる構造を有する半導体装置を提供する。
【0041】
本発明はまた、本発明のフィルム状接着剤によって、半導体素子と他の半導体素子、及び/又は、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材が接着されてなる構造を有する半導体装置を提供する。
【0042】
本発明はまた、本発明の接着剤シートによって、半導体素子と他の半導体素子、及び/又は、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材が接着されてなる構造を有する半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、被着体に対する充填性(埋め込み性)、低温ラミネート性及びダイシング後のピックアップ性などのプロセス特性、並びに、耐リフロー性などを含む半導体装置の信頼性向上に寄与する特性を十分に兼ね備えたフィルム状接着剤、接着剤シート及びその実現を可能とする接着剤組成物を提供することができる。また、本発明は、それらを用いて得られる半導体装置を提供することができる。
【0044】
また、本発明によれば、極薄ウェハ及び複数の半導体素子を積層した半導体装置に対応できるウェハ裏面貼付け方式の半導体素子固定用フィルム状接着剤を提供することができる。ウェハ裏面にフィルム状接着剤を貼り付ける際には、通常、フィルム状接着剤が溶融する温度まで加熱するが、本発明のフィルム状接着剤を半導体素子固定用フィルム状接着剤として使用すれば、極薄ウェハの保護テープ、又は貼り合わせるダイシングテープの軟化温度よりも低い温度でウェハ裏面に貼り付けることが可能となる。これにより、熱応力も低減され、大径化薄化するウェハの反り等の問題を解決することができる。
【0045】
また、本発明のフィルム状接着剤は、ダイボンド時の熱と圧力によって、基板表面の配線段差への良好な埋め込みを可能にする熱時流動性を有することができるので、複数の半導体素子を積層した半導体装置の製造工程に好適に対応できる。また、本発明のフィルム状接着剤は、高温時の高い接着強度を有することができるため、耐熱性に優れ、半導体装置の製造工程を簡略化できる。さらに、本発明のフィルム状接着剤は、低温での貼り付けが可能であるため、ウェハの反り等の熱応力を低減しつつ、ダイシング時のチップ飛びを抑えることができる。また、ダイシング時の良好な切断性、及びダイシング後の良好なピックアップ性を確保できるため、半導体装置の製造時の作業性を向上できる。
【0046】
また、本発明の接着剤シートによれば、ダイシング工程までの貼付工程を簡略化でき、パッケージの組立熱履歴に対しても安定した特性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の接着剤組成物は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂を含有する接着剤組成物であって、テトラカルボン酸二無水物は、下記式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸二無水物成分全量に対して30モル%以上含み、ジアミンは、下記一般式(II)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して30モル%以上含み、ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度が10℃〜100℃であり、100℃での溶融粘度が6000Pa・s以下であり、フィルム状に形成したときに当該フィルムの40℃でのフィルム表面タック力が200gf以下である。
【化6】



【化7】



(式中、mは0〜10の整数を示す。)
【0048】
本発明に係るポリイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを公知の方法で縮合反応させて得ることができる。具体的には、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを等モルで、又は、必要に応じてテトラカルボン酸二無水物成分の合計1.0molに対して、ジアミン成分を合計で0.5〜2.0mol、好ましくは0.8〜1.0molの範囲で調整(各成分の添加順序は任意)し、反応温度80℃以下、好ましくは0〜60℃で付加反応させる。反応が進行するにつれ反応液の粘度が徐々に上昇し、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が生成する。なお、接着剤組成物の諸特性の低下を抑えるため、上記のテトラカルボン酸二無水物は無水酢酸で再結晶精製処理されることが好ましい。
【0049】
なお、上記の縮合反応におけるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの組成比については、テトラカルボン酸二無水物成分の合計1.0molに対して、ジアミン成分の合計が2.0molを超えると、得られるポリイミド樹脂中に、アミン末端のポリイミドオリゴマーの量が多くなる傾向があり、一方、ジアミン成分の合計が0.5molを下回ると、酸末端のポリイミドオリゴマーの量が多くなる傾向がある。いずれの場合においても、ポリイミド樹脂の重量平均分子量が過度に低くなり、フィルム状に形成した接着剤の耐熱性などの特性が低下する傾向にある。
【0050】
ポリイミド樹脂の分子量は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの組成比を上記の範囲内で調整することによって調整することができる。
【0051】
使用する酸二無水物は、使用前に、モノマーの融点よりも10〜20℃低い温度で12時間以上、加熱乾燥する、又は無水酢酸で再結晶精製処理されることが好ましく、原料の純度の指標として、示差走査熱量測計(DSC)による吸熱開始温度と吸熱ピーク温度の差が10℃以内であることが好ましい。なお、上記の吸熱開始温度および吸熱ピーク温度とは、DSC(パーキンエルマー社製DSC−7型)を用いて、サンプル量5mg、昇温速度5℃/min、測定雰囲気:窒素、の条件で測定したときの値を用いる。
【0052】
なお、上記ポリアミド酸は、50〜80℃の温度で加熱して解重合させることによって、その分子量を調整することもできる。ポリイミド樹脂は、上記反応物(ポリアミド酸)を脱水閉環させて得ることができる。脱水閉環は、加熱処理する熱閉環法と、脱水剤を使用する化学閉環法で行うことができる。
【0053】
ポリイミド樹脂の原料であるテトラカルボン酸二無水物は、上記式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸二無水物成分全量に対して30モル%以上含むが、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上含むことが好ましい。なお、上記式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含有量が、30モル%を下回ると、反応させるジアミンとの反応性が損なわれる他、後述する常温でのフィルム状接着剤の表面低粘着性の確保が困難になる。また、耐加水分解性などの耐湿信頼性の確保が困難になる傾向にある。
【0054】
併用するテトラカルボン酸二無水物としては特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,8,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェニルジメチルシリル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリテート無水物)、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(エキソ−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン−2,3−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ−〔2,2,2〕−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2、−ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェニル)フェニル〕プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2、−ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェニル)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリット酸無水物)、1,3−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリット酸無水物)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、下記一般式(VII)で表されるテトラカルボン酸二無水物、下記一般式(VIII)で表されるテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、中でも、優れた耐湿信頼性を付与できる点で、下記一般式(VIII)で示されるテトラカルボン酸二無水物が好ましい。これらテトラカルボン酸二無水物は単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
【化8】



(式中、nは2〜20の整数を示す)
【0056】
【化9】



【0057】
本発明に係るポリイミド樹脂の原料として用いられるジアミンとしては、上記一般式(II)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して30モル%以上含むが、好ましくは35モル%以上、より好ましくは40モル%以上含むことが好ましい。なお、上記一般式(II)で表されるジアミンの含有量が30モル%を下回ると、低Tg化及び熱時流動性の同時達成が困難になる傾向にあり、好ましくない。上記一般式(II)で表されるジアミンとしては、具体的には、サンテクノケミカル株式会社製ジェファーミン ED−230,ED−400,ED−600,BASF(製)ポリエーテルアミンD−230,D−400等のポリオキシアルキレンジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0058】
併用するジアミンとしては特に制限はないが、例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテメタン、ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノ−3,5−ジイソプロピルフェニル)メタン、3,3’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2’−(3,4’−ジアミノジフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−(3,4’−ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、3,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−(3−アミノエノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(4−アミノエノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(3−アミノエノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノエノキシ)フェニル)スルフォン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,5−ジアミノ安息香酸等の芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンなどの他、下記一般式(III)で表されるシロキサンジアミンが挙げられる。
【0059】
【化10】



(式中R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキレン基又はフェニレン基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基又はフェノキシ基を示す。)
【0060】
上記式(III)で表されるシロキサンジアミンとしては、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(4−アミノフェニル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェノキシ−1,3−ビス(4−アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ビス(2−アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ビス(3−アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(2−アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(3−アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(3−アミノブチル)ジシロキサン、1,3−ジメチル−1,3−ジメトキシ−1,3−ビス(4−アミノブチル)ジシロキサンが挙げられる。
【0061】
また、その他、下記一般式(IV)で表される脂肪族ジアミン、具体的には1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサンなどの脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0062】
【化11】



(qは1〜20の整数を示す。)
【0063】
また、その他、下記一般式(V)で表されるエーテル系ジアミンなどが挙げられる。
【0064】
【化12】



(ただし、Q、Q及びQは炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Pは0〜10の整数を示す。なお、Q、Q及びQは、それぞれ独立に直鎖状の炭素数1〜10のアルキレン基であることが好ましく、直鎖状の炭素数2〜4のアルキレン基であることがより好ましい。)
【0065】
更に、上記エーテル系ジアミンの具体例としては、下記構造式の脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0066】
【化13】



【0067】
中でも、良好な接着性を付与できる点で上記式(III)で表されるシロキサンジアミンが、また、低Tg化と同時に低吸湿性を付与できる点で上記式(IV)で表される脂肪族ジアミンが、また、熱時の高い流動性を付与できる点で上記(V)で表されるエーテル系ジアミンを併用することが好ましい。また、使用量はいずれも全ジアミンの10モル%以上であることが好ましく、10〜70モル%がより好ましい。使用量が10モル%を下回ると、上述の効果が得られにくくなる傾向にあり、70モル%を超えるとワニスの安定性が悪くなり、いずれも好ましくない。なお、これらのジアミンは単独でも又は2種類以上組み合わせてもよい。また、上記ポリイミド樹脂は単独又は必要に応じて2種以上を混合(ブレンド)してもよい。
【0068】
本発明のフィルム状接着剤のウェハ裏面への貼り付け可能温度は、ウェハの保護テープ及びダイシングテープの軟化温度以下であることが好ましく、また半導体ウェハの反りを抑えるという観点からも、上記の貼り付け温度は、20〜120℃が好ましく、さらに好ましくは20〜100℃、特に好ましくは20〜80℃である。このような温度での貼り付けを可能にするためには、含有される本発明に係るポリイミド樹脂のTgが10〜100℃であることが必要である。本発明に係るポリイミド樹脂のTgが100℃を超えると、ウェハ裏面への貼り付け温度が100℃を超える可能性が高くなり、Tgが10℃を下回ると、Bステージ状態でのフィルム表面の粘着力が強くなり、取り扱い性が悪くなる傾向にあり、いずれも好ましくない。更に、本発明に係るポリイミド樹脂のTgは、10〜80℃であることが好ましく、20〜80℃であることがより好ましい。
【0069】
また、本発明に係るポリイミド樹脂の重量平均分子量は20000〜100000の範囲内で制御されていることが好ましく、30000〜80000がより好ましく、30000〜60000が特に好ましい。重量平均分子量がこの範囲にあると、シート状又はフィルム状としたときの成膜性、可とう性、及び破断性が適当であり、また、熱時流動性が適当であるため、ダイシング性と基板表面配線段差への良好な埋込性を両立できる。上記重量平均分子量が20000より小さいと、フィルム形成性が悪くなる傾向や、フィルムの靭性が小さくなる傾向にあり、100000を超えると、破断性と熱時流動性が低下傾向にあり、ダイシング性の低下、すなわちダイシング時のフィルム延性による切れ残りが増大する傾向や、基板上の凹凸に対する埋め込み性が低下する傾向にあるので、いずれも好ましくない。
【0070】
上記ポリイミド樹脂のTg、及び重量平均分子量を上記の範囲内とすることにより、ウェハ裏面への貼り付け温度を低く抑えることができるだけでなく、低温でのダイボンドも確保することができ、半導体素子の反りの増大を抑制できる。また、ダイシング時の良好な切断性を確保できる。さらに、本発明の特徴であるダイボンディング時の流動性を有効に付与できる。また、上記半導体素子搭載用支持部材が有機基板の場合、ダイボンディング時の加熱温度による有機基板の吸湿水分の気化を抑制でき、気化によるダイボンディング材層の発泡を抑制できる。なお、上記のTgとは、ポリイミドの主分散ピーク温度であり、レオメトリック サイエンティフィック製、回転型レオメーターARESを用いて、平行円板(直径8mm)にポリイミド樹脂をフィルム状に形成したフィルムサンプルをサンプル厚みより2〜5μm小さなギャップ幅で挟み、周波数1Hz、歪み1%、昇温速度5℃/分、測定温度30℃〜300℃の条件で測定したときのtanδピーク温度を測定し、これをTgとした。また、上記の重量平均分子量とは、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製C−R4A)を用いて、ポリスチレン換算で測定したときの重量平均分子量である。
【0071】
さらに、本発明に係るポリイミド樹脂は、100℃での溶融粘度が6000Pa・s以下である。ここで、溶融粘度とは、平行円板(直径8mm)にポリイミド樹脂をフィルム状に形成したフィルムサンプルをサンプル厚みより2〜5μm小さなギャップ幅で挟み、レオメトリック サイエンティフィック製、回転型レオメーターARESを用いて、周波数1Hz、歪み1%、昇温速度5/分、測定温度30℃〜300℃の条件で測定したときの100℃における複素粘度の値である。100℃での溶融粘度を上記の範囲内とすることにより、得られるフィルム状接着剤を用いて、表面に配線などが形成されている有機基板のような表面凹凸を有する支持部材に、半導体素子を80〜150℃の温度で1MPa以下の圧力で圧着したときに、支持部材表面凹凸への良好な段差埋込を確保できる。本発明に係るポリイミド樹脂は、100℃での溶融粘度が100〜6000Pa・sであることが好ましく、500〜3000Pa・sであることがより好ましい。上記溶融粘度が100Pa・s未満であると、得られるフィルム状接着剤を用いたときの80〜150℃での加熱圧着時の熱流動が大きくなりすぎて、支持部材界面に残存する空気の巻き込み、あるいは発泡などにより、フィルム状接着剤内部にボイドが残存し易くなる傾向にあり、溶融粘度が6000Pa・sを超えると、得られるフィルム状接着剤を用いたときの上述の熱圧着による熱流動の確保が困難となり、凹凸を有する基板への段差埋込の確保が困難となる傾向にあり、いずれも好ましくない。本発明に係るポリイミド樹脂の溶融粘度は、例えば、一般式(I)の酸無水物を30モル%以上使用し、一般式(II)のジアミンを30モル%以上使用することで、イミド骨格の間に長鎖アルキル基のジアミンを導入することが可能となり、それによってポリマの剛直性が低下され、低Tg化を図ることができることにより、高温時の流動性が改善され、6000Pa・s以下の範囲に調整することができる。
【0072】
また、本発明に係るポリイミド樹脂は、フィルム状に形成したときに当該フィルムの40℃でのフィルム表面タック強度が200gf以下となるものである。ここで、フィルム表面タック強度とは、フィルムの塗工した上面について、レスカ製プローブタッキング試験機を用いて、JISZ0237−1991に記載の方法(プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm、接触時間1s)により、40℃におけるタック強度(粘着力)を測定したときの値である。上記フィルム表面タック強度が200gfを超えると、得られるフィルム状接着剤の室温におけるフィルム表面の粘着性が強くなり、フィルム取扱い性が悪くなる傾向にある他、ダイシング時のフィルム延性による破断性の低下によってバリが残存し易くなる傾向、ダイシング後のダイシングテープとのはく離性が低下する傾向、及び、ダイシング後のフィルム切断面再融着などによるピックアップ性の低下を招く傾向にあるため好ましくない。なお、本発明において、室温とは、5〜30℃である。本発明に係るポリイミド樹脂は、フィルム状に形成したときに当該フィルムの40℃でのフィルム表面タック強度が100gf以下であるものが好ましく、50gf以下であるものがより好ましい。本発明に係るポリイミド樹脂の上記フィルム表面タック強度は、例えば、一般式(I)の酸無水物を30モル%以上使用し、一般式(II)のジアミンを30モル%以上使用することにより、イミド骨格の間に長鎖アルキル基のジアミンを導入することが可能となり、それによってポリマの剛直性が低下され、更に一般式(II)における繰り返し単位を調整することでTgの調整が可能となり、200gf以下の範囲に調整することができる。
【0073】
本発明の接着剤組成物は、(B)熱硬化性樹脂を更に含有することができる。この(B)熱硬化性樹脂は、熱により架橋反応を起こす反応性化合物からなる成分であれば特に限定されることはなく、例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、マレイミド樹脂、アリルナジイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、レゾルシノールホルムアルデヒド樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ケトン樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、ポリイソシアネート樹脂、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌラートを含有する樹脂、トリアリルトリメリタートを含有する樹脂、シクロペンタジエンから合成された熱硬化性樹脂、芳香族ジシアナミドの三量化による熱硬化性樹脂等が挙げられる。中でも、本発明に係るポリイミド樹脂との組み合せにおいて、高温での優れた接着力を持たせることができる点で、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、及びアリルナジイミド樹脂が好ましい。なお、これら熱硬化性樹脂は単独で又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
上記熱硬化性樹脂を使用する場合、その含量は、低アウトガス性、フィルム形成性(靭性)、熱時流動性、さらには熱硬化による高温時の高い接着力を有効に付与できる点で、本発明に係るポリイミド樹脂100質量部に対して、1〜200質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましい。
【0075】
また、本実施形態の接着剤組成物は、上記熱硬化性樹脂の硬化のために、硬化剤や触媒を含有させることができ、必要に応じて硬化剤と硬化促進剤、又は触媒と助触媒を併用することができる。上記硬化剤及び硬化促進剤の添加量、及び添加の有無については、後述する望ましい熱時の流動性、及び硬化後の耐熱性を確保できる範囲で判断、調整する。
【0076】
好ましい熱硬化性樹脂の一つであるエポキシ樹脂としては、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を含むものがより好ましく、硬化性や硬化物特性の点からフェノールのグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂が極めて好ましい。このような樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型(又はAD型、S型、F型)のグリシジルエーテル、水添加ビスフェノールA型のグリシジルエーテル、エチレンオキシド付加体ビスフェノールA型のグリシジルエーテル、プロピレンオキシド付加体ビスフェノールA型のグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のグリシジルエーテル、ビスフェノールAノボラック樹脂のグリシジルエーテル、ナフタレン樹脂のグリシジルエーテル、3官能型(又は4官能型)のグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂のグリシジルエーテル、ダイマー酸のグリシジルエステル、3官能型(又は4官能型)のグリシジルアミン、ナフタレン樹脂のグリシジルアミン等が挙げられる。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。また、これらのエポキシ樹脂には不純物イオンである、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲンイオン、特に塩素イオンや加水分解性塩素等を300ppm以下に低減した高純度品を用いることがエレクトロマイグレーション防止や金属導体回路の腐食防止のために好ましい。
【0077】
上記エポキシ樹脂を使用する場合は、必要に応じて硬化剤を使用することもできる。硬化剤としては、例えば、フェノール系化合物、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、脂肪族酸無水物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、三フッ化ホウ素アミン錯体、イミダゾール類、第3級アミン等が挙げられ、中でもフェノール系化合物が好ましく、分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール系化合物がより好ましい。このような化合物としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、t−ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジェンクレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジェンフェノールノボラック樹脂、キシリレン変性フェノールノボラック樹脂、ナフトール系化合物、トリスフェノール系化合物、テトラキスフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ポリ−p−ビニルフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂等が挙げられる。これらの化合物は、数平均分子量が400〜1500の範囲内のものが好ましい。これにより、半導体装置組立加熱時に、半導体素子又は装置等の汚染の原因となるアウトガスを有効に低減できる。
【0078】
また、必要に応じて、硬化促進剤を使用することもできる。硬化促進剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させるものであれば特に制限はなく、例えば、イミダゾール類、ジシアンジアミド誘導体、ジカルボン酸ジヒドラジド、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール−テトラフェニルボレート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7−テトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0079】
好ましい熱硬化性樹脂の一つであるマレイミド樹脂としては、分子内にマレイミド基を2個以上含む化合物のことで、下記一般式(1)で表されるビスマレイミド樹脂、及び、下記一般式(2)で表されるノボラック型マレイミド樹脂などが挙げられる。
【0080】
【化14】



[式中、R11は芳香族環及び/又は直鎖、分岐若しくは環状脂肪族炭化水素を含む2価の有機基を示す。]
【0081】
【化15】



[式中、nは0〜20の整数を示す。]
【0082】
上記一般式(1)中のR11は芳香族環及び/又は直鎖、分岐若しくは環状脂肪族炭化水素を含む2価の有機基であれば特に限定されることはないが、好ましくは、ベンゼン残基、トルエン残基、キシレン残基、ナフタレン残基、直鎖、分岐、若しくは環状アルキル基、又はこれらの混合基が挙げられ、さらに好ましくは下記構造の2価の有機基が挙げられる。
【0083】
【化16】



【0084】
【化17】



[式中、tは1〜10の整数を示す。]
【0085】
中でも、接着フィルムの硬化後の耐熱性及び高温接着力を付与できる点で、下記式(3)で表される構造のビスマレイミド樹脂、及び/又は、上記一般式(2)で表される構造のノボラック型マレイミド樹脂が好ましく用いられる。
【0086】
【化18】



【0087】
上記マレイミド樹脂の硬化のために、アリル化ビスフェノールA、シアネートエステル化合物などを併用するか、又は過酸化物などの触媒を使用することもできる。上記化合物及び触媒の添加量、及び添加の有無については、目的とする特性を確保できる範囲で適宜調整する。
【0088】
好ましい熱硬化性樹脂の一つであるアリルナジイミド樹脂としては、分子内にアリルナジミド基を2個以上含む化合物のことで、下記一般式(4)で表されるビスアリルナジイミド樹脂が挙げられる。
【0089】
【化19】



[式中、R12は芳香族環及び/又は直鎖、分岐若しくは環状脂肪族炭化水素を含む2価の有機基を示す。]
【0090】
上記一般式(4)中のR12は、芳香族環及び/又は直鎖、分岐若しくは環状脂肪族炭化水素を含む2価の有機基であり、好ましくは、ベンゼン残基、トルエン残基、キシレン残基、ナフタレン残基、直鎖、分岐、若しくは環状アルキル基、又はこれらの混合基が挙げられ、さらに好ましくは下記構造の2価の有機基が挙げられる。
【0091】
【化20】



【0092】
【化21】



[式中、tは1〜10の整数を示す。]
【0093】
中でも、下記式(5)で表される液状のヘキサメチレン型ビスアリルナジイミド、下記式(6)で表される低融点(融点:40℃)固体状のキシリレン型ビスアリルナジイミドが、接着剤組成物を構成する異種成分間の相溶化剤としても作用し、接着フィルムのBステージでの良好な熱時流動性を付与できる点で、また、固体状のキシリレン型ビスアリルナジイミドは、良好な熱時流動性に加えて、室温におけるフィルム表面の粘着性の上昇を抑制でき、取り扱い性、及びピックアップ時のダイシングテープとの易はく離性、ダイシング後の切断面の再融着の抑制の点で、より好ましい。なお、これらのビスアリルナジイミドは、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
【化22】



【0095】
【化23】



【0096】
なお、上記のアリルナジイミド樹脂は、無触媒下での単独硬化では、250℃以上の硬化温度が必要で、実用化に際しては大きな障害となっている。また、触媒を用いる系においても、強酸やオニウム塩など、電子材料においては重大な欠点となる金属腐食性の触媒しか使用できず、かつ最終硬化には250℃前後の温度が必要である。しかしながら、上記のアリルナジイミド樹脂と、2官能以上のアクリレート化合物、又はメタクリレート化合物、又はマレイミド樹脂のいずれかを併用することによって、200℃以下の低温での硬化が可能である(文献:A.Renner,A.Kramer,“Allylnadic−Imides:A New Class of Heat−Resistant Thermosets”,J.Polym.Sci.,Part A Polym.Chem.,27,1301(1989))。
【0097】
なお、上記のアクリレート化合物としては、1分子中に含まれるアクリル官能基の数が2個以上の化合物であれば、特に制限は無く、例えば、ペンテニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレンオキシド変性ネオペンチルグリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリアクリレートなどが挙げられる。また、2官能以上のメタクリレート化合物としては、1分子中に有するメタクリル官能基の数が2個以上の化合物であれば、特に制限は無く、例えば、ペンテニルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレンオキシド変性ネオペンチルグリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、トリシクロデカンジメチロールジメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリメタクリレートなどが挙げられる。これらのアクリレート化合物又はメタクリレート化合物は、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0098】
本発明の接着剤組成物は、さらに無機フィラーを含有することもできる。上記無機フィラーとしては、例えば、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化鉄、セラミック等のフィラーが挙げられ、これらの無機フィラーは二種類以上を併用することもできる。中でもシリカは、高い接着力が得られ、かつ金属腐食を起こす原因となる不純物を少なくできるため、半導体装置の信頼性を向上できるので好ましい。また、使用する無機フィラーの形状は球状であることが、後述するようにフィルム厚方向の熱流動性と高い接着力の点で好ましい。上記球状とは、真球状、円粒状、楕円状などの形状も含まれる。
【0099】
上記フィラーの使用量は、付与する特性、又は機能に応じて決められるが、樹脂成分とフィラーの合計の体積を基準として、好ましくは10〜40体積%、より好ましくは10〜30体積%、特に好ましくは10〜20体積%である。フィラーを適度に増量させることにより、フィルム表面低粘着化、及び高弾性率化が図れ、ダイシング性(ダイサー刃による切断性)、ピックアップ性(ダイシングテープとの易はく離性)、ワイヤボンディング性(超音波効率)、熱時の接着強度を有効に向上できる。フィラーを必要以上に増量させると、本発明の特徴である低温貼付性、被着体との界面接着性、及び熱時流動性が損なわれ、耐リフロー性を含む信頼性の低下を招くため、フィラーの使用量は上記の範囲内に収めることが好ましい。求められる特性のバランスをとるべく、最適フィラー含量を決定する。フィラーを用いた場合の混合・混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜、組み合わせて行うことができる。
【0100】
また、上記無機フィラーは、最大粒径が25.0μm以下であることが好ましく、20.0μm以下であることがより好ましい。最小粒径の下限値は特に設けないが、0.001μm以上であることが好ましい。上記の粒径が0.001μm未満であると、樹脂との界面積が増大し、樹脂ワニスへの分散性が低下する他、熱時溶融粘度の上昇による熱時流動性の低下を招く傾向にあり、上記の粒径が25.0μmを超えると、高い接着力が得られなくなる傾向にある他、薄膜フィルム状に加工して使用する際、表面が粗くなり、成膜性が損なわれる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0101】
さらに、上記無機フィラーは、最大粒径が25.0μm以下の範囲で少なくとも2つの粒度分布を有し、各粒度分布の頻度がピークとなる粒径の差が1μm以上であることが望ましく、2μm以上であることがより好ましい。このように、粒度分布の異なる大小無機フィラーを併用することによって、接着フィルム中の無機フィラーの充填密度が高まり、Bステージでのフィルム表面タックの低減、ダイシング時のフィルム切断性向上、ダイシング後のフィルム切断面再融着抑制などの効果が得られる。また、粒径の異なるフィラーを併用することによって、フィラー充填量の増大によるBステージでの熱時溶融粘度の上昇を有効に抑制できる。すなわち、熱圧着によって樹脂が流動状態にあるときに、接着フィルムの厚さ方向への応力伝達効果が大きくなると考えられる。さらに球状のフィラーを使用することによって、圧力によりフィラー同士が接触したときの滑り効果が得られると考えられる。以上の設計によって、フィラー配合系では通常相反関係にある低粘着性と熱時流動性を有効に両立できる。さらにこの設計は、フィラーの充填密度を高める効果もあり、ダイシング後の接着フィルムの切断面において、見かけの樹脂の占有面積を低減できるため、ダイシング後の切断面再融着の抑制効果が得られる。また、異なる粒径を有するフィラーを併用することによってフィラーの充填密度が高まることと、異粒径フィラー混在による形状因子の相乗効果によって、ダイシング時のダイシングブレードに対して、フィラーが研磨剤的に作用し、ダイシング時の接着フィルムの切断面に対する研磨効率が向上すると考えられる。上述した各粒度分布の頻度がピークとなる粒径同士の差が1μm未満であると、上記の効果を得にくくなる傾向にあるため好ましくない。
【0102】
使用する無機フィラーに2つの粒度分布を持たせる方法として、2つの粒度分布を有するように設計された単一の無機フィラーを用いる他、平均粒径の異なる2種の無機フィラーを併用する方法がある。この場合、各フィラーの平均粒径の差が1μm以上であることが好ましい。また、2種の無機フィラーを併用する際には、一方のフィラーの平均粒径が0.01〜2.0μm、もう一方のフィラーの平均粒径が2.0〜10.0μmであることが好ましく、双方の平均粒径の差が1μm以上となる様フィラーを選択、組み合せる。上記フィラーの平均粒径が0.01μm未満、または上記フィラーの平均粒径が10.0μmを超えると、それぞれ上述と同様の理由でいずれも好ましくない。
【0103】
平均粒径の異なる2種のフィラーを併用する場合は、平均粒径の小さいフィラーの比率がフィラー全量を基準として10〜70質量%、平均粒径の大きいフィラーの比率がフィラー全量を基準として30〜90質量%の範囲で調整することによって、上述の効果を有効に確保できる。なお、上記フィラーの粒径又は平均粒径とは、粒度分布測定時に得られる値である。接着フィルムに充填された無機フィラーの粒度分布、粒径、及び平均粒径は、接着フィルムを600℃のオーブンで2時間加熱し、樹脂成分を分解、揮発させ、残った無機フィラーをSEMで観察、又はその粒度分布測定から算出するなどの方法で見積もることができる。
【0104】
本発明の接着剤組成物には、異種材料間の界面結合を良くするために、各種カップリング剤を添加することもできる。カップリング剤としては、例えば、シラン系、チタン系、アルミニウム系等が挙げられ、中でも効果が高い点で、シラン系カップリング剤が好ましい。上記カップリング剤の使用量は、その効果や耐熱性及びコストの面から、ポリイミド樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部とするのが好ましい。
【0105】
本発明の接着剤組成物には、上記各成分の他に、必要に応じて、熱可塑系高分子成分、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、カップリング剤、充填剤等を適宜配合してもよい。
【0106】
本発明の接着剤組成物を用いたフィルム状接着剤の厚みは、1〜100μmであることが好ましい。
【0107】
図1は、本発明に係るフィルム状接着剤の一実施形態を示す模式断面図である。図1に示すフィルム状接着剤1は、本発明の接着剤組成物をフィルム状に成形したものである。図2は、本発明に係る接着シートの一実施形態を示す模式断面図である。図2に示す接着シート100は、基材フィルム2と、これの一方面上に設けられた本発明の接着剤組成物をフィルム状に成形してなる接着剤層1’とから構成される。図3は、本発明に係る接着シートの他の一実施形態を示す模式断面図である。図3に示す接着シート110は、基材フィルム2と、これの両面上に設けられた本発明の接着剤組成物をフィルム状に成形してなる接着剤層1’とから構成される。なお、接着剤層の損傷・汚染を防ぐために適宜接着剤層にカバーフィルムを設けることなどもできる。例えば、図4に示されるように、基材フィルム2の上に設けられた接着剤層1’の基材フィルム2とは反対側面上に、さらにカバーフィルム3を設けた構造を有する接着剤シート120としてもよい。
【0108】
図1に示すような単層のフィルム状接着剤1の形態の場合、1〜20mm幅程度のテープ状や、10〜50cm程度のシート状とし、巻き芯に巻いた形態で搬送することが好ましい。
【0109】
本発明に係るフィルム状接着剤は、以下の手順により作製することができる。まず、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層形成用ワニスを調製する。このワニスは、例えば、有機溶媒中で合成した本発明に係るポリイミド樹脂ワニスに、(B)熱硬化性樹脂、必要に応じてフィラーやその他の成分を配合し、混練することにより得ることができる。次に、基材フィルム上に接着剤層形成用ワニスを塗工してワニス層を形成する。次に、ワニス層を加熱乾燥した後に基材フィルムを除去することにより、フィルム状接着剤を得ることができる。
【0110】
ワニスの調製に用いる有機溶媒、即ちワニス溶剤としては、材料を均一に溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、ベンゼン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、ジオキサン、シクロヘキサノン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0111】
本発明のフィルム状接着剤の製造時に使用する基材フィルムとしては、上記の加熱、乾燥条件に耐えるものであれば特に限定されず、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、メチルペンテンフィルム等が挙げられる。これらの基材としてのフィルムは、2種以上組み合わせて多層フィルムとしてもよく、表面がシリコーン系、シリカ系等の離型剤などで処理されたものであってもよい。
【0112】
上記の混合、混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜、組み合わせて行うことができる。上記の加熱乾燥の条件は、使用した溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、通常50〜200℃で、0.1〜90分間加熱して行う。
【0113】
接着シート100,110,120を構成する基材フィルム2としては、例えば、PET、OPPが挙げられる。
【0114】
また、カバーフィルム3としては、例えば、PET、PE、OPPが挙げられる。
【0115】
接着剤層1’は、基材フィルム2に、予め得られた本発明に係るフィルム状接着剤を積層することにより設けることができる。また、接着剤層1’は、本発明に係るフィルム状接着剤を製造する場合と同様に、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層形成用ワニスを基材フィルム2上に塗工し、これを加熱乾燥することにより形成することもできる。
【0116】
また、本発明の接着剤シートの好適な実施形態として、本発明のフィルム状接着剤とダイシングシートとを積層した構造を有してなる接着剤シートが挙げられる。この接着剤シートが備えるフィルム状接着剤は、半導体素子固定用フィルム状接着剤として機能することができる。
【0117】
ダイシングシートの例としては、基材フィルム上に粘着剤層が積層されてなる構造を有してなるダイシングシート、又は基材フィルムのみからなるダイシングシートなどが挙げられる。この態様の場合、接着剤シートが予めウェハに近い形状に形成されている(プリカット)ことが好ましい。
【0118】
本実施形態の接着剤シートとしては、例えば、図2に示される構成や、図5に示される構成を有するものが挙げられる。図2に示す接着剤シート100の場合、ダイシングシートとしての基材フィルム2上に、本発明のフィルム状接着剤からなる接着剤層1’が設けられている。また、図5に示す接着剤シート130の場合、引張テンションを加えたときの伸び(通称、エキスパンド)を確保できる基材フィルム7上に粘着剤層6及び本発明のフィルム状接着剤からなる接着剤層1’がこの順に設けられている。これらの接着剤シートによれば、ダイボンディングフィルムとしての機能とダイシングシートとしての機能とを併せ持つことができ、半導体装置製造工程を簡略化することが可能となる。
【0119】
すなわち、図5に示す接着剤シートのように、基材フィルムの上にダイシングシートとしての機能を果たす粘着剤層を設け、さらに粘着剤層の上にダイボンディングフィルムとしての機能を果たす本発明のフィルム状接着剤とを積層させる、又は、図2に示す接着剤シートのように、エキスパンド可能な基材フィルムと、本発明のフィルム状接着剤とを貼り合せることにより、ダイシング時にはダイシングシートとして、ダイボンディング時にはダイボンディングフィルムとしての機能を発揮させることができる。このようなダイシングシート・ダイボンディングフィルム一体型の接着剤シートは、半導体ウェハの裏面に上記接着剤シートのフィルム状接着剤を加熱しながらラミネートし、この積層体をダイシングした後、フィルム状接着剤付き半導体素子をピックアップするという使用が可能である。
【0120】
粘着剤層6は、感圧型、又は放射線硬化型のどちらでも良く、ダイシング時には半導体素子が飛散しない十分な粘着力を有し、その後の半導体素子のピックアップ工程においては半導体素子を傷つけない程度の低い粘着力を有するものであれば特に制限されることなく従来公知の材料を使用して形成することができる。
【0121】
また、基材フィルム7は、引張テンションを加えたときの伸び(通称、エキスパンド)を確保できるフィルムであれば特に制限はないが、材質がポリオレフィンのフィルムが好ましく用いられる。
【0122】
本発明の接着剤組成物、フィルム状接着剤及び接着剤シートは、IC、LSI等の半導体素子と、42アロイリードフレーム、銅リードフレーム等のリードフレーム;ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチックフィルム;ガラス不織布等基材にポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチックを含浸、硬化させたもの;アルミナ等のセラミックス等の半導体搭載用支持部材等の被着体とを貼り合せるためのダイボンディング用接着材料として用いることができる。中でも、表面に有機レジスト層を具備してなる有機基板、表面に配線有する有機基板等の表面に凹凸を有する有機基板と、半導体素子とを接着するためのダイボンディング用接着材料として好適に用いられる。
【0123】
また、本発明の接着剤組成物、フィルム状接着剤及び接着剤シートは、複数の半導体素子を積み重ねた構造のStacked−PKGにおいて、半導体素子と半導体素子とを接着するための接着材料としても好適に用いられる。
【0124】
本発明のフィルム状接着剤の用途として、フィルム状接着剤を備える半導体装置について図面を用いて具体的に説明する。なお、近年は様々な構造の半導体装置が提案されており、本発明のフィルム状接着剤の用途は、以下に説明する構造の半導体装置に限定されるものではない。
【0125】
図6は、本発明の半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。図6に示す半導体装置200において、半導体素子9は本発明のフィルム状接着剤1を介して半導体素子搭載用支持部材10に接着され、半導体素子9の接続端子(図示せず)はワイヤ11を介して外部接続端子(図示せず)と電気的に接続され、封止材12によって封止されている。
【0126】
また、図7は、本発明の半導体装置の他の一実施形態を示す模式断面図である。図7に示す半導体装置210において、一段目の半導体素子9aは本発明のフィルム状接着剤1を介して、端子13が形成された半導体素子搭載用支持部材10に接着され、一段目の半導体素子9aの上に更に本発明のフィルム状接着剤1を介して二段目の半導体素子9bが接着されている。一段目の半導体素子9a及び二段目の半導体素子9bの接続端子(図示せず)は、ワイヤ11を介して外部接続端子と電気的に接続され、封止材12によって封止されている。このように、本発明のフィルム状接着剤は、半導体素子を複数重ねる構造の半導体装置にも好適に使用できる。
【0127】
図6及び図7に示す半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、半導体素子と半導体搭載用支持部材若しくは半導体素子との間に本発明のフィルム状接着剤を挾み、加熱圧着して両者を接着、又は、上述したフィルム状接着剤付き半導体素子を半導体素子搭載用支持部材若しくは半導体素子に加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程、必要に応じて封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。上記加熱圧着における加熱温度は、通常、20〜250℃であり、荷重は、通常、0.01〜20kgfであり、加熱時間は、通常、0.1〜300秒間である。
【実施例】
【0128】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0129】
合成したポリイミド樹脂のTg及び平均分子量は以下に示す方法で求めた。
<ポリイミド樹脂のTg>
レオメトリック サイエンティフィック製、回転型レオメーターARESを用いて、平行円板(直径8mm)にポリイミド樹脂をフィルム状に形成したフィルムサンプルをサンプル厚みより2〜5μm小さなギャップ幅で挟み、周波数1Hz、歪み1%、昇温速度5℃/分、測定温度30℃〜300℃の条件で測定したときのtanδピーク温度を測定し、これをTgとした。
<ポリイミド樹脂の平均分子量>
高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製C−R4A)を用いて、ポリスチレン換算による重量平均分子量及び数平均分子量を求めた。
【0130】
<ポリイミド樹脂の合成>
(ポリイミドPI−1の合成)
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、エーテルジアミン(東京化成製、B13(分子量:220.31))11.01g(0.05mol)、ポリエーテルジアミン(BASF製、D400(分子量:452.4))22.62g(0.05mol)、及びN−メチル−2−ピロリドン133gを仕込んだ反応液を攪拌した。ジアミンが溶解した後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸からの再結晶により精製した4,4’−オキシジフタル酸二無水物32.62g(0.1mol)を少量ずつ添加した。室温で8時間反応させた後、キシレン78.5gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(以下「ポリイミドPI−1」という)ワニスを得た。得られたポリイミド樹脂の平均分子量をGPCにより測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=20000、重量平均分子量Mw=39000であった。また、得られたポリイミド樹脂のTgは40℃であった。
【0131】
(ポリイミドPI−2の合成)
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(信越化学製、LP−7100(分子量:248.51))12.42g(0.05mol)、ポリエーテルジアミン(BASF製、D400(分子量:452.4))22.62g(0.05mol)、及びN−メチル−2−ピロリドン140gを仕込んだ反応液を攪拌した。ジアミンが溶解した後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸からの再結晶により精製した4,4’−オキシジフタル酸二無水物32.62g(0.1mol)を少量ずつ添加した。室温で8時間反応させた後、キシレン80.5gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(以下「ポリイミドPI−2」という)ワニスを得た。得られたポリイミド樹脂の平均分子量をGPCにより測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=14000、重量平均分子量Mw=35000であった。また、得られたポリイミド樹脂のTgは45℃であった。
【0132】
(ポリイミドPI−3の合成)
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(信越化学製、LP−7100(分子量:248.51))9.94g(0.04mol)、ポリエーテルジアミン(BASF製、D400(分子量:452.4))18.09g(0.04mol)、1,12−ドデカンジアミン(東京化成製:分子量200.36)4.0g(0.02mol)及びN−メチル−2−ピロリドン140gを仕込んだ反応液を攪拌した。ジアミンが溶解した後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸からの再結晶により精製した4,4’−オキシジフタル酸二無水物32.62g(0.1mol)を少量ずつ添加した。室温で8時間反応させた後、キシレン80.5gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(以下「ポリイミドPI−3」という)ワニスを得た。得られたポリイミド樹脂のGPCを測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=20000、重量平均分子量Mw=35000であった。また、得られたポリイミド樹脂のTgは40℃であった。
【0133】
(ポリイミドPI−4の合成)
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、1,12−ジアミノドデカン2.10g(0.035mol)、ポリエーテルジアミン(BASF製、D2000(分子量:1923))17.31g(0.03mol)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(信越化学製、LP−7100)2.61g(0.035mol)、及びN−メチル−2−ピロリドン113gを仕込んだ反応液を攪拌した。1,12−ジアミノドデカン、及びポリエーテルジアミンが溶解した後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸からの再結晶により精製した4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸二無水物)15.62g(0.1mol)を少量ずつ添加した。室温で8時間反応させた後、キシレン75.5gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(以下「ポリイミドPI−4」という)ワニスを得た。得られたポリイミド樹脂の平均分子量をGPCにより測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=12000、重量平均分子量Mw=54000であった。また、得られたポリイミド樹脂のTgは22℃であった。
【0134】
(ポリイミドPI−5の合成)
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、エーテルジアミン(東京化成製B−12:分子量204.31)10.21g(0.05mol)、及びN−メチル−2−ピロリドン140gを仕込んだ反応液を攪拌した。ジアミンが溶解した後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸からの再結晶により精製したデカメチレンビストリメリテート酸二無水物52.2g(0.1mol)を少量ずつ添加した。室温で8時間反応させた後、キシレン80.5gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(以下「ポリイミドPI−5」という)ワニスを得た。得られたポリイミド樹脂の平均分子量をGPCにより測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=28000、重量平均分子量Mw=83000であった。また、得られたポリイミド樹脂のTgは80℃であった。
【0135】
(ポリイミドPI−6の合成)
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を備えた300mlフラスコに、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(和歌山精化製:分子量410.5)41g(0.1mol)、及びN−メチル−2−ピロリドン122gを仕込み攪拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸で再結晶精製した4,4’−オキシジフタル酸二無水物32.62g(0.1mol)を少量ずつ添加した。室温で8時間反応させたのち、キシレン83gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱し、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(以下「ポリイミドPI−6」という)ワニスを得た。得られたポリイミド樹脂の平均分子量をGPCにより測定した結果、ポリスチレン換算で、Mw=72000、Mn=23000であった。また、得られたポリイミド樹脂のTgは200℃であった。
【0136】
(ポリイミドPI−7の合成)
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、ポリエーテルジアミン(BASF製、D400(分子量:452.4))45.24g(0.1mol)、及びN−メチル−2−ピロリドン133gを仕込んだ反応液を攪拌した。ジアミンが溶解した後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸からの再結晶により精製した4,4’−オキシジフタル酸二無水物32.62g(0.1mol)を少量ずつ添加した。室温で8時間反応させた後、キシレン78.5gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(以下「ポリイミドPI−7」という)ワニスを得た。得られたポリイミド樹脂の平均分子量をGPCにより測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=26000、重量平均分子量Mw=56000であった。また、得られたポリイミド樹脂のTgは26℃であった。
【0137】
上記で合成されたポリイミドPI−1〜7について、100℃溶融粘度及び40℃でのフィルム表面タック力(強度)を以下に示す方法により評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0138】
<100℃溶融粘度>
ポリイミド樹脂ワニスを乾燥後の膜厚が40μmとなるように基材フィルム(剥離剤処理PETフィルム)上に塗布し、オーブン中にて80℃で30分間、続いて、120℃で30分間加熱し、基材フィルムを剥離して厚み40μmのポリイミド樹脂フィルムを形成した。このフィルムを3〜7枚重ねて貼り合せて、100〜300μm厚に調整したフィルムサンプルを作成した。平行円板(直径8mm)間に上記フィルムサンプルをサンプル厚みより2〜5μm小さなギャップ幅で挟み、回転型レオメーターARES(レオメトリック サイエンティフィック製)を用いて、周波数1Hz、歪み1%、昇温速度5/分、測定温度30℃〜300℃の条件でサンプルの粘度を測定した。このときの100℃における複素粘度の値を100℃溶融粘度とした。
【0139】
<40℃でのフィルム表面タック力(強度)>
上記<100℃溶融粘度>の測定時と同様にして厚み40μmのポリイミド樹脂フィルムを形成した。このフィルムの上面について、レスカ製プローブタッキング試験機を用いて、JISZ0237−1991に記載の方法(プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm、接触時間1s)に準拠して、40℃におけるタック力(粘着力)を測定した。このときの値を40℃でのフィルム表面タック力(強度)とした。
【0140】
【表1】



【0141】
【表2】



【0142】
ポリイミドPI−1〜3及び7はいずれも、100℃での溶融粘度が6000Pa・s以下、40℃でのフィルム表面タック力が200gf以下の特性を有していることが確認された。
【0143】
<接着剤組成物の調製及び半導体装置の製造>
(実施例1〜4及び比較例1〜3)
上記のポリイミドPI−1〜7をそれぞれ用い、下記表3〜4に示す組成比(単位:質量部)にて各成分を配合し、接着剤組成物(接着剤層形成用ワニス)を得た。なお、表3〜4中の各材料の詳細は以下の通りである。
【0144】
VG−3101:プリンテック社製、3官能エポキシ樹脂
YDF−8170:東都化成株式会社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂
NHN−100:日本化薬株式会社製、クレゾールナフトールホルムアルデヒド重縮合物
SE6050:株式会社アドマテックス製
SE2050:株式会社アドマテックス製
【0145】
[接着剤シートの製造方法]
上記接着剤組成物を基材フィルム(剥離剤処理PETフィルム)上に塗布し、オーブン中にて80℃で30分間、続いて、120℃で30分間加熱し、基材フィルムを剥離して厚み30μmのフィルム状接着剤を得た。作製したフィルム状接着剤を直径210mmに切り抜き、電気化学工業製のT−80MW(80μm)上に、株式会社JCM製のDM−300−Hを用いて室温(25℃)で貼り合せた。これにより、フィルム状接着剤とダイシングシートとが積層された接着剤シートを得た。
【0146】
[低温ラミネート性の確認]
上記接着剤シートに、200μm厚の半導体ウェハを熱板設定温度80℃でラミネートし、ラミネート性を評価した。ラミネートは株式会社JCM製のDM−300−Hを用い、貼り付けが可能であった場合を「良好」、半導体ウェハ裏面にフィルム状接着剤が貼り付かなかった場合を「不良」とした。その結果を表3〜4に示す。
【0147】
[ピックアップ性の確認]
上記接着剤シートに、100μm厚の半導体ウェハを熱板上でラミネートし、ダイシングサンプルを作製した。ラミネート時の熱板表面温度は、実施例1〜4及び比較例1は80℃で行い、比較例2〜3は180℃で行った。
【0148】
次に、株式会社ディスコ製のフルオートダイサーDFD−6361を用いて、上記半導体ウェハ、フィルム状接着剤及びダイシングシートの積層品を切断して10mm×10mmの半導体チップとした。切断はブレード1枚で加工を完了するシングルカット方式で、ブレードに株式会社ディスコ製のダイシングブレードNBC−ZH104F−SE 27HEDDを用い、ブレード回転数45000rpm、切断速度50mm/sの条件にて行った。切断時のブレードハイトは接着剤シートを10μm残す設定とした。
【0149】
上記方法で作製した半導体チップのピックアップ性について、ルネサス東日本セミコンダクタ社製フレキシブルダイボンダーDB−730を使用して評価した。使用したピックアップ用コレットにはマイクロメカニクス社製RUBBER TIP 13−087E−33(サイズ:10×10mm)、突上げピンにマイクロメカニクス社製EJECTOR NEEDLE SEN2−83−05(直径:0.7mm、先端形状:直径350μmの半円)を用いた。突上げピンの配置はピン中心間隔4.2mmで9本配置した。ピックアップ時のピンの突上げ速度:10mm/s、突上げ高さ:1000μmの条件でピックアップ性を評価した。連続100チップをピックアップし、チップ割れ、ピックアップミス、等が発生しない場合を「良好」、1チップでもチップ割れ、ピックアップミス、等が発生した場合を「不良」とした。その結果を表3〜4に示す。
【0150】
[埋め込み性の確認]
上記接着剤シートに、100μm厚の半導体ウェハを熱板上でラミネートし、ダイシングサンプルを作製した。ラミネート時の熱板表面温度は、実施例1〜4及び比較例1は80℃で行い、比較例2〜3は180℃で行った。
【0151】
次に、株式会社ディスコ製のフルオートダイサーDFD−6361を用いて、上記半導体ウェハ、フィルム状接着剤及びダイシングシートの積層品を切断した。切断はブレード1枚で加工を完了するシングルカット方式で、ブレードに株式会社ディスコ製のダイシングブレードNBC−ZH104F−SE 27HEDDを用い、ブレード回転数45000rpm、切断速度50mm/sの条件にて行った。切断時のブレードハイトは接着剤シートを10μm残す設定とした。半導体ウェハを切断するサイズは7.5×7.5mmとした。
【0152】
上記のダイシング工程で得たフィルム状接着剤付き半導体チップを配線付き基板への半導体チップ圧着はルネサス東日本セミコンダクタ社製のフレキシブルダイボンダDB−730を用い、熱板表面温度130℃、圧着荷重5N、圧着時間2sとした。配線付き基板は、基材に日立化成工業社製のE−679F(0.2mm厚)、回路保護層には太陽インキ社製のソルダレジストAUS−308を用い、配線付き基板表面の段差は最大10μm程度とした。圧着後のサンプルを日立建機ファインテック社製の超音波探査映像装置HYFOCUSを用いて観察し、フィルム状接着剤と配線付き基板間にボイドが無い場合を「良好」、ボイドがある場合を「不良」とした。その結果を表3〜4に示す。
【0153】
[信頼性]
上記埋め込み性の実験で得られたサンプルをオーブンで100℃、110℃、120℃/各1時間ずつ処理してフィルム状接着剤を硬化した後に、汎用プレスを用いて配線付き基板上面に封止材を成形した。封止材には日立化成工業社製のCEL−9750ZHF10を用い、成形条件は180℃/6.75MPa/90sとした。成形後のサンプルをオーブンで175℃/5hの硬化処理を行った後、ダイサーで個片化し、半導体パッケージを得た。
【0154】
上記半導体パッケージを125℃/12時間オーブンで乾燥処理した後、JEDECレベル2(85℃/85%RH/168時間)吸湿後、最大温度265℃のリフロー処理を3回行った。リフロー処理には古河電気工業社製のサラマンダーXNA−645PCを用い、リフロープロファイルはJEDEC規格J−STD−020Cに則って設定した。リフロー処理後の半導体パッケージを超音波映像装置を用いて観察し、はく離等の不具合が無いものを「良好」、はく離、クラック等が発生したものを「不良」とした。その結果を表3〜4に示す。
【0155】
【表3】



【0156】
【表4】



【0157】
以上説明したとおり、本発明によれば、低温ラミネート性及びダイシング後のピックアップ性などのプロセス特性、並びに、耐リフロー性などを含む半導体装置の信頼性向上に寄与する特性を十分に兼ね備えたフィルム状接着剤を形成できる接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明のフィルム状接着剤の一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】本発明の接着シートの一実施形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明の接着シートの他の一実施形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明の接着シートの他の一実施形態を示す模式断面図である。
【図5】本発明の接着シートの他の一実施形態を示す模式断面図である。
【図6】本発明の半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。
【図7】本発明の半導体装置の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0159】
1…フィルム状接着剤、1’…接着剤層、2…基材フィルム、3…カバーフィルム、6…粘着剤層、7…基材フィルム、9、9a、9b…半導体素子、10…半導体搭載用支持部材、11…ワイヤ、12…封止材、100,110,120,130…接着剤シート、200,210…半導体装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリイミド樹脂を含有する接着剤組成物であって、
前記テトラカルボン酸二無水物は、下記式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸二無水物成分全量に対して30モル%以上含み、
前記ジアミンは、下記一般式(II)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して30モル%以上含み、
前記ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度が10℃〜100℃であり、100℃での溶融粘度が6000Pa・s以下であり、フィルム状に形成したときに当該フィルムの40℃でのフィルム表面タック力が200gf以下である、接着剤組成物。
【化1】



【化2】



(式中、mは0〜10の整数を示す。)
【請求項2】
前記ジアミンが、下記一般式(III)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して10モル%以上さらに含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【化3】



(式中、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキレン基、又はフェニレン基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基又はフェノキシ基を示す。)
【請求項3】
前記ジアミンが、下記一般式(IV)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して10モル%以上さらに含む、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【化4】



(式中、qは1〜20の整数を示す。)
【請求項4】
前記ジアミンが、前記一般式(II)で表されるジアミン以外の下記式(V)で表されるジアミンをジアミン成分全量に対して10モル%以上さらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【化5】



(式中、Q、Q及びQは、炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Pは0〜10の整数を示す。)
【請求項5】
熱硬化性樹脂をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
半導体素子を、他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記半導体素子搭載用支持部材が配線段差付き有機基板である、請求項6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる、フィルム状接着剤。
【請求項9】
半導体素子を、他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いられる、請求項8に記載のフィルム状接着剤。
【請求項10】
前記半導体素子搭載用支持部材が配線段差付き有機基板である、請求項9に記載のフィルム状接着剤。
【請求項11】
基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも一面上に設けられた請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる接着剤層と、を備える、接着剤シート。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる接着剤層と、ダイシングシートとが積層されてなる、接着剤シート。
【請求項13】
前記ダイシングシートが、基材フィルム及び該基材フィルム上に設けられた粘着剤層を有するものである、請求項12に記載の接着剤シート。
【請求項14】
半導体素子を、他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材に接着するために用いられる、請求項11〜13のいずれか一項に記載の接着剤シート。
【請求項15】
前記半導体素子搭載用支持部材が配線段差付き有機基板である、請求項14に記載の接着剤シート。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤組成物によって、半導体素子と他の半導体素子、及び/又は、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材が接着されてなる構造を有する、半導体装置。
【請求項17】
請求項8に記載のフィルム状接着剤によって、半導体素子と他の半導体素子、及び/又は、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材が接着されてなる構造を有する、半導体装置。
【請求項18】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の接着剤シートによって、半導体素子と他の半導体素子、及び/又は、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材が接着されてなる構造を有する、半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−68004(P2009−68004A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212070(P2008−212070)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】