説明

接着剤組成物、接着シート及び半導体装置

【課題】低温での加工性(低温貼付性)、及び、耐リフロー性を高度に満足することができ、かつダイボンド後の組立工程で受ける熱履歴による十分な硬化性も達成できる接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】100℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂と、芳香族ビニル化合物とマレイミド基を有するマレイミド化合物とを含む熱硬化性成分と、を含有する、接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、接着シート及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子と支持部材の接合には、銀ペーストが主に使用されていた。しかしながら、近年の半導体素子の大型化、半導体パッケージの小型化・高性能化に伴い、使用される支持部材にも小型化、細密化が要求されている。こうした要求に対して、ぬれ広がり性、はみ出しや半導体素子の傾きに起因して発生するワイヤボンディング時の不具合、銀ペーストの厚み制御の困難性、及び銀ペーストのボイド発生などのために、銀ペーストを用いる接合では十分に対処できなくなってきている。そのため、上記要求に対処するべく、近年、フィルム状の接着剤層を有する接着シートが使用されるようになってきた(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
この接着シートは、個片貼付け方式やウェハ裏面貼付方式などの半導体装置の製造方法において使用されている。
【0004】
前者の個片貼付け方式により半導体装置を製造する場合、まず、リール状の接着シートをカッティング或いはパンチングによって個片に切り出した後、接着剤層を支持部材に貼り合わせる。その後、ダイシング工程によって個片化された半導体素子を、接着剤層付き支持部材に接合する。その後、ワイヤボンド、封止などの組立工程を経て、半導体装置が製造される(例えば、特許文献3を参照)。しかし、個片貼付け方式の場合、接着シートを切り出して支持部材に接着するための専用の組立装置が必要であることから、銀ペーストを使用する方法に比べて製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
一方、ウェハ裏面貼付け方式により半導体装置を製造する場合、まず、半導体ウェハの裏面に接着剤層を貼付け、さらに接着剤層の他方の面にダイシングシートを貼り合わせる。その後、ダイシングによって、接着剤層が貼り合わされた状態で半導体ウェハを個片化して半導体素子を得る。次いで接着剤層付きの半導体素子をピックアップして、支持部材に接合する。その後、ワイヤボンド、封止などの組立工程を経て、半導体装置が得られる。このウェハ裏面貼付け方式は、個片貼付け方式のように専用の組立装置を必要とすることなく、従来の銀ペースト用の組立装置をそのまま、或いはそこに熱盤を付加するなどの装置の一部改良により採用できる。そのため、ウェハ裏面貼付け方式は、接着シートを用いた組立方法の中で製造コストが比較的安く抑えられる方法として注目されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
ところで、最近では、半導体素子の小型薄型化・高性能化に加えて、多機能化が進み、複数の半導体素子を積層した半導体装置が急増している。また、半導体装置の厚みは薄化の方向に進んでいる。そのために、さらに極薄化された半導体ウェハが用いられている。
【0007】
組立工程の簡略化を目的に、接着剤層の一方の面にダイシングシートを貼り合せた接着シート、すなわちダイシングシートとダイボンドフィルムを一体化させたフィルム(以下、場合により「ダイシング・ダイボンド一体型フィルム」という。)を用いる方法により、ウェハ裏面への貼り合せプロセスの簡略化を図る場合がある。この手法によればウェハ裏面へフィルムを貼り付けるプロセスを簡略化できるため、ウェハ割れのリスクを軽減できる。ダイシングテープの軟化温度は、通常100℃以下である。そのため、ダイシング・ダイボンド一体型フィルムの形態の場合は特に、ダイシングテープの軟化温度やウェハ反りの抑制を考慮して100℃よりも低温で貼り付けが可能であること、すなわち低温での優れた加工性を有することが接着シートに求められる。
【0008】
接着シートを用いて製造される半導体装置は、信頼性、より具体的には耐熱性、耐湿性及び耐リフロー性の点で十分なレベルを達成することが求められる。耐リフロー性を確保するためには、260℃前後のリフロー温度において、接着剤層の剥離または破壊を抑制できるような高い接着強度を維持することが求められる。このように、低温での加工性を含むプロセス特性と、耐リフロー性を含む半導体装置の信頼性を高度に両立できる接着シートが強く求められている。
【0009】
これまで、低温での加工性と耐熱性を両立すべく、比較的ガラス転移温度(Tg)が低い熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂とを組み合わせたフィルム接着剤が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−192178号公報
【特許文献2】特開平4−234472号公報
【特許文献3】特開平9−17810号公報
【特許文献4】特開平4−196246号公報
【特許文献5】特許第3014578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の半導体素子用接着剤は、低温での加工性と耐リフロー性の両立と同時に、ダイボンド後の組立工程で受ける熱履歴による硬化性の点でも十分なレベルを達成することはできなかった。ワイヤボンディングのための超音波処理の効率向上のために、ダイボンド後の組立工程で受ける熱履歴で接着剤の硬化が更に進行することが有効である。
【0012】
本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、低温での加工性(低温貼付性)、及び、耐リフロー性を高度に満足することができ、かつダイボンド後の組立工程で受ける熱履歴による十分な硬化性も達成できる接着剤組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、熱可塑性樹脂と、熱硬化性成分とを含有する接着剤組成物に関する。熱可塑性樹脂は、100℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する。接着剤組成物を構成する熱硬化性成分は、芳香族ビニル化合物、及びマレイミド基を有するマレイミド化合物を含む。
【0014】
更に、本発明は接着剤層を備える接着シートに関する。本発明に係る接着シートは、フィルム状に成形された上記本発明に係る接着剤組成物を接着剤層として備える。
【0015】
本発明に係る接着剤組成物及びこれを用いた接着シートは、上記特定の成分を組み合わせて用いたことにより、半導体素子用接着剤として用いられたときに、低温での加工性及び耐リフロー性を高度に満足することができ、かつダイボンド後の組立工程で受ける熱履歴による十分な硬化性も達成することができる。より具体的には、本発明に係る接着シートによれば、より低温で接着剤層を半導体素子及び支持部材等の被着体に貼り付けることが可能であり、また、低温、低圧且つ短時間の条件でのダイボンドを可能とすることができる。同時に、本発明に係る接着剤組成物を用いて半導体装置を製造することにより、耐リフロー性などの半導体装置の信頼性を高度に満足することができる。更には、ダイボンド後のプレキュア(ステップキュア)及び/又はワイヤボンドなどの熱履歴により接着剤組成物の硬化が進行してその弾性率が向上し、その結果、ワイヤボンド時の超音波処理の効率を向上させることができる。
【0016】
特に、フィルム状の接着剤層を備える接着シートは、取り扱いが容易であり、ダイシング工程などの半導体装置組み立てプロセスの効率化に寄与する。
【0017】
上記熱可塑性樹脂は、好ましくはポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂を用いることにより、耐熱性、純度、及び被着体に対する良好な接着性の点で更に高いレベルが達成できる。
【0018】
接着剤組成物を構成する上記熱硬化性成分は、エポキシ樹脂を更に含むことが好ましい。これにより、硬化後の架橋密度が上昇して、低温貼付性及び耐リフロー性向上の効果がより一層顕著に奏される。特に、熱可塑性樹脂としてポリイミド樹脂を用いた場合、ポリイミド樹脂のオリゴマー末端基などに含まれる反応性基とエポキシ基間の熱反応により、相乗的に架橋密度の上昇を図ることができる。架橋密度が上昇すると、より高いレベルの低温貼付性及び耐リフロー性が得られる。
【0019】
本発明に係る接着剤組成物は、フィラーを更に含有することが好ましい。これにより本発明による上述の効果がより顕著に奏される。特に、ダイシング時の易切断性、ピックアップ時のダイシングテープからの易はく離性、耐リフロー性の点でより高いレベルを達成できる。フィラーは、組立工程で受ける熱履歴による弾性率向上、低吸湿性、リフロー工程での破壊強度の向上に寄与し得る。
【0020】
本発明に係る接着シートは支持フィルムを更に備え、該支持フィルム上に接着剤層が設けられていることが好ましい。あるいは、本発明に係る接着シートは、ダイシングシートを更に備え、該ダイシングシート上に接着剤層が設けられていてもよい。ダイシングシートは、基材フィルム及び該基材フィルム上に設けられた粘着剤層を有し、その粘着材層上に接着剤層が設けられていてもよい。
【0021】
支持フィルム又はダイシングシートを備える接着シートは、取り扱い性がより向上する。特にダイシングシートを備える接着シートは、ダイシングシートとダイボンディングフィルムの両方の機能を兼ね備えるダイシング・ダイボンド一体型フィルムとして用いることにより、半導体装置の製造工程をより簡略化することができる。
【0022】
別の側面において、本発明は、支持部材と、該支持部材に搭載された1又は2以上の半導体素子と、支持部材と半導体とを接着する接着剤層、及び/又は、隣り合う半導体素子同士を接着する接着剤層とを備える半導体装置に関する。本発明に係る半導体装置を構成する上記接着剤層のうち少なくとも一つは、本発明に係る接着剤組成物が硬化して形成されたものである。
【0023】
本発明に係る半導体装置は、高性能、高機能及び高い信頼性(特に、耐リフロー性、耐熱性、耐湿性など)を有し、またワイヤボンディングなどの超音波処理を用いる工程を経て、高い効率で製造されることが可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低温での加工性(低温貼付性など)、及び、耐リフロー性を高度に満足することができ、かつダイボンド後の組立工程で受ける熱履歴による十分な硬化性も達成できる接着剤組成物、並びに接着シートが提供される。
【0025】
本発明に係る接着剤組成物は、極薄ウェハを用いて複数の半導体素子を積層した半導体装置をウェハ裏面貼付け方式で製造するために好適に使用することができる。フィルム状の接着剤層を貼り付ける際、通常、接着剤組成物が溶融する温度まで加熱するが、本発明の接着剤組成物を用いることにより、フィルム状の接着剤層を低温でウェハ裏面に貼り付けて、ウェハに対する熱応力を低減することができる。その結果、大径化且つ薄化したウェハを用いた場合であっても、反り等の問題の発生を顕著に抑制できる。
【0026】
本発明によれば、基板表面の配線段差への良好な埋め込みを可能にする熱流動性を確保することも可能である。そのため、複数の半導体素子を積層した半導体装置の製造工程に好適に対応できる。さらには、高温時の高い接着強度を確保できるため、耐熱性及び耐湿信頼性を向上できるとともに、半導体装置の製造工程を簡略化できる。
【0027】
本発明は、ダイシング時のチップ飛びの抑制や、ピックアップ性等の半導体装置の製造時の作業性の向上、及びアウトガス性低減の点でも有利である。また、パッケージの組立熱履歴に対して安定した特性を維持できる。
【0028】
本発明の半導体装置は、製造工程が簡略化された、信頼性に優れるものである。本発明の半導体装置は、半導体素子を実装する場合に要求される耐熱性および耐湿性を十分に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】接着シートの一実施形態を示す断面図である。
【図2】接着シートの一実施形態を示す断面図である。
【図3】接着シートの一実施形態を示す断面図である。
【図4】ダイシングシートを備える接着シートの一実施形態を示す断面図である。
【図5】ダイシングシートを備える接着シートの一実施形態を示す断面図である。
【図6】半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【図7】半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【図8】ピール強度測定装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は適宜省略する。上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0031】
図1、2、3及び4は、それぞれ接着シートの好適な一実施形態を示す断面図である。
【0032】
図1に示す接着シート100は、フィルム状の接着剤層1のみから構成される単層のシートである。接着剤層1は、接着剤組成物をフィルム状に成形して形成されたものである。接着剤層1の厚みは、1〜200μmであることが好ましい。接着シート100は、例えば、幅1〜20mm程度のテープ状や、幅10〜50cm程度のシート状であってよく、その場合、好ましくは巻き芯に巻かれた状態で搬送される。これにより、接着シートの保管や搬送が容易となる。接着シートは、厚膜化を目的に、単層の接着剤層を複数重ねて貼り合せた積層体であってもよい。
【0033】
図2に示す接着シート100は、支持フィルム2と、その両主面上に設けられた接着剤層1とを備える。支持フィルム2は、接着剤層1を支持する基材として機能する。支持フィルム2の片面上のみに接着剤層1が設けられていてもよい。
【0034】
図3に示す接着シート100は、支持フィルム2と、接着剤層1と、保護フィルム3とを備えており、これらがこの順で積層されている。保護フィルム3は、接着剤層1の損傷や汚染を防ぐことを主な目的として、接着剤層1の支持フィルム2とは反対側の主面を覆うように設けられている。通常、保護フィルム3を剥離してから接着シート100がダイボンディングに用いられる。
【0035】
接着剤層1を形成する接着剤組成物は、熱可塑性樹脂と、熱硬化性成分と、必要によりフィラーとを含有する。
【0036】
接着剤層1は、半導体ウェハの保護テープ及びダイシングテープの軟化温度以下の低温で被着体に貼り付け可能であることが好ましい。貼り付け可能な温度が低いことは、半導体ウェハ反り抑制の点でも有利である。具体的には、接着剤層1を被着体に貼り付ける温度は、好ましくは10〜150℃、より好ましくは20〜100℃、更に好ましくは20〜80℃である。このような低温での貼り付けを可能にするために、接着剤層1のTgは100℃以下であることが好ましい。そのために、接着剤層1を構成する熱可塑性樹脂のTgは、好ましくは100℃以下、より好ましくは−20〜80℃である。熱可塑性樹脂のTgが100℃を超えると、半導体ウェハ裏面への貼り付け温度が150℃を超える可能性が高くなり、Tgが−20℃未満であると、Bステージ状態での接着剤層1表面のタック性が強くなり、取り扱い性が徐々に低下する傾向にある。
【0037】
熱可塑性樹脂に関する上記のTgは、フィルム状に成形された当該熱可塑性樹脂の動的粘弾性の温度依存性を測定したときに観測される主分散のピーク温度である。熱可塑性樹脂の動的粘弾性は、例えば、35mm×10mm×40μm厚の試験片を用いて、昇温速度5℃/分、周波数1Hz、測定温度−150〜300℃の条件で測定される。このとき、主分散においてtanδが極大値を示す温度(主分散温度)がTgである。粘弾性の測定は、例えばレオメトリックス株式会社製の粘弾性アナライザー(商品名:RSA−2)を用いて行うことができる。
【0038】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタンイミド樹脂、ポリウレタンアミドイミド樹脂、シロキサンポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂又はそれらの共重合体、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン−マレイミド共重合体、マレイミド−ビニル化合物共重合体、及び(メタ)アクリル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり得る。(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量は好ましくは10万〜100万である。これらの中でも、ポリイミド樹脂が特に好ましい。ポリイミド樹脂は、1種を単独で又は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
上記ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを通常の方法で縮合反応させて得ることができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒中で縮合反応させる。通常80℃以下、好ましくは0〜60℃で付加反応を進行するにつれ反応液の粘度が徐々に上昇し、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸が生成する。生成したポリアミド酸を50〜80℃の温度で加熱して解重合させることによって、その分子量を調整してもよい。このポリアミド酸を脱水閉環させて、ポリイミド樹脂を得ることができる。脱水閉環は、加熱処理する熱閉環法、又は脱水剤を使用する化学閉環法により行うことができる。
【0040】
上記縮合反応におけるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの組成比は等モルであってもよいし、必要に応じてテトラカルボン酸二無水物の合計1.0molに対して、ジアミンの合計0.5〜2.0mol、好ましくは、0.8〜1.0molの範囲で組成比を調整してもよい。各成分の添加順序は任意である。テトラカルボン酸二無水物の合計1.0molに対して、ジアミンの合計が2.0molを超えると、得られるポリイミド樹脂中に、アミン末端を有するポリイミドオリゴマーの量が多くなる傾向がある。ジアミンの合計が0.5mol未満であると、酸末端を有するポリイミドオリゴマーの量が多くなる傾向がある。いずれの場合においても、ポリイミド樹脂の重量平均分子量が低くなり、接着剤組成物の耐熱性を含む種々の特性が低下する傾向がある。また、これらの末端との反応性を有するエポキシ樹脂を配合した場合、上記のポリイミドオリゴマーの量が多くなるにつれて、接着剤組成物の保存安定性が低下する傾向がある。係る傾向は、特にアミン末端のポリイミドオリゴマーの量が多くなるにつれて顕著になる。
【0041】
テトラカルボン酸二無水物は、縮合反応の前に、その融点よりも10〜20℃低い温度で12時間以上加熱乾燥するか、又は、無水酢酸からの再結晶により精製処理されていることが好ましい。テトラカルボン酸二無水物の示差走査熱量測計(DSC)による吸熱開始温度と吸熱ピーク温度との差は、10℃以内であることが好ましい。係る温度差の値はテトラカルボン酸二無水物の純度の指標として用いることができる。吸熱開始温度及び吸熱ピーク温度は、DSC(パーキンエルマー社製、DSC−7型)を用いて、サンプル量:5mg、昇温速度:5℃/分、測定雰囲気:窒素、の条件で測定したときの値を用いる。
【0042】
ポリイミド樹脂の原料として用いられるテトラカルボン酸二無水物は、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,8,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェニルジメチルシリル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリテート無水物)、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(エキソ−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェニル)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェニル)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリット酸無水物)、1,3−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリット酸無水物)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸二無水物)、1,2−(エチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,3−(トリメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,4−(テトラメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,5−(ペンタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,6−(ヘキサメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,7−(ヘプタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,8−(オクタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,9−(ノナメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,10−(デカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,12−(ドデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,16−(ヘキサデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,18−(オクタデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)から1種又は2種以上が選ばれる。これらの中でも、優れた耐湿信頼性を付与できる点で、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、及び4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸二無水物)が好ましい。優れた熱流動性を付与できる点で、1,10−(デカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,12−(ドデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,16−(ヘキサデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)及び1,18−(オクタデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)が好ましい。
【0043】
ポリイミド樹脂の原料として用いられるジアミンは、例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノ−3,5−ジイソプロピルフェニル)メタン、3,3’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2’−(3,4’−ジアミノジフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−(3,4’−ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、3,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,5−ジアミノ安息香酸等の芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、4,7,10−トリオキサトリデカン−1,13−ジアミン、4,9−ジオキサデカン−1,12−ジアミンの他、サンテクノケミカル(株)製ジェファーミン D−230,D−400,D−2000,D−4000,ED−600,ED−900,ED−2001,EDR−148,BASF株式会社製ポリエーテルアミンD−230,D−400,D−2000等のポリオキシアルキレンジアミン等の脂肪族ジアミン、さらに1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサンなどの脂肪族ジアミン、さらに、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(4−アミノフェニル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェノキシ−1,3−ビス(4−アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ビス(2−アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ビス(3−アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(2−アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(3−アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(3−アミノブチル)ジシロキサン、1,3−ジメチル−1,3−ジメトキシ−1,3−ビス(4−アミノブチル)ジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチル−1,5−ビス(4−アミノフェニル)トリシロキサン、1,1,5,5−テトラフェニル−3,3−ジメチル−1,5−ビス(3−アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,5,5−テトラフェニル−3,3−ジメトキシ−1,5−ビス(4−アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5−テトラフェニル−3,3−ジメトキシ−1,5−ビス(5−アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,5,5−テトラメチル−3,3−ジメトキシ−1,5−ビス(2−アミノエチル)トリシロキサン、1,1,5,5−テトラメチル−3,3−ジメトキシ−1,5−ビス(4−アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5−テトラメチル−3,3−ジメトキシ−1,5−ビス(5−アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチル−1,5−ビス(3−アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサエチル−1,5−ビス(3−アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサプロピル−1,5−ビス(3−アミノプロピル)トリシロキサンなどのシロキサンジアミンから選ばれる。これらのジアミンは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
ポリイミド樹脂のTgを100℃以下とするためには、ポリオキシアルキレンジアミン等の脂肪族ジアミンを用いることが好ましい。係る脂肪族ジアミンのジアミン全量に対するの比率は1〜80モル%であることが好ましく、5〜60モル%であることがより好ましい。脂肪族ジアミンの比率が1モル%未満であると、低温接着性、熱時流動性を付与することが困難になる傾向にあり、80モル%を超えると、ポリイミド樹脂のTgが過度に低くなって、フィルムの自己支持性が損なわれる可能性が高くなる。
【0045】
脂肪族ジアミンの市販品としては、例えば、サンテクノケミカル株式会社製ジェファーミン D−230,D−400,D−2000,D−4000,ED−600,ED−900,ED−2001及びEDR−148,BASF株式会社製ポリエーテルアミンD−230,D−400及びD−2000等のポリオキシアルキレンジアミンが挙げられる。
【0046】
ポリイミド樹脂の重量平均分子量は10000〜200000であることが好ましく、10000〜100000であることがより好ましく、20000〜80000であることが更に好ましい。これら重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィー(例えば株式会社島津製作所製、商品名:C−R4A)を用いてGPC測定して得られる、標準ポリスチレン換算値である。
【0047】
重量平均分子量がこれら数値範囲内にあると、接着剤層の強度、可とう性、及びタック性がより良好なものとなる。また、適切な熱時流動性も得られることから、被着体表面の段差への良好な埋込性をより十分に確保することができる。ポリイミド樹脂の重量平均分子量が10000未満であると、接着剤組成物のフィルム形成性が低下したり、接着剤層の強度が小さくなったりする傾向がある。ポリイミド樹脂の重量平均分子量が200000を超えると、徐々に熱流動性が低下する傾向や、被着体の凹凸表面に対する埋め込み性が低下する傾向がある。
【0048】
ポリイミド樹脂のTg及び重量平均分子量を上記の範囲内とすることにより、接着剤層の被着体への貼り付け温度をより低く抑えることができるだけでなく、半導体素子を半導体素子搭載用支持部材に接着固定する際の加熱温度(ダイボンディング温度)も低くすることができる。その結果、半導体素子の反りの増大をより一層顕著に抑制することができる。支持部材が有機基板の場合、ダイボンディング時の加熱温度による上記有機基板の吸湿水分の急激な気化を抑制でき、気化によるダイボンディング材層の発泡を抑制することができる。
【0049】
熱硬化性成分は、加熱によって架橋構造を形成し、接着剤層を硬化させ得る成分である。本実施形態に係る接着剤組成物は、熱硬化性成分として、芳香族ビニル化合物と、マレイミド基を含むマレイミド化合物とを少なくとも含有する。芳香族ビニル化合物及びマレイミド化合物は、それぞれ、1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
芳香族ビニル化合物は、芳香族基によって置換されたビニル基を有する。係る芳香族ビニル化合物は、例えば、1−t−ブチル−4−ビニルベンゼン、1−メチル−4−ビニルベンゼン、1−オクチル−4−ビニルベンゼン、1,3,5−トリメチル−2−ビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸、4−ビニルアニリン、3−ビニルアニリン、1,4−ジメチル−2−ビニルベンゼン、1−メトキシ−2−ビニルベンゼン、1−メトキシ−3−ビニルベンゼン、1−メトキシ−4−ビニルベンゼン、1,3,5−トリメチル−2−ビニルベンゼン、1−エトキシ−4−ビニルベンゼン、1−ニトロ−3−ビニルベンゼン、2−メトキシ−4−ビニルフェノール、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−ビニル安息香酸メチル、2−ビニル安息香酸メチル、1−メトキシメトキシ−4−ビニルベンゼン、2−メトキシ−4−安息香酸メチル、2−(ビニルフェノキシ)テトラヒドロフラン、1−(1−エトキシエトキシ)−4−ビニルベンゼン、2−メチル−4−(1−メチルエチル)アセトキシベンゼン、p−t-ブトキシカルボニルメトキシ−4−ビニルベンゼン、t−ブチルジメトキシ(4−ビニルフェニル)シラン、4−ビニル安息香酸t−ブチル、2−(4−ビニルフェノキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン及び2−メチル−4−(1−メチルエチル)アセトキシベンゼンから選ばれる。
【0051】
芳香族ビニル化合物は、下記一般式(M)又は(N)で表される化合物であってもよい。これらの化合物は、1種で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【化1】

【0052】
式(M)中、R15は水素原子又はまたはメチル基を示し、R16は、−O−、−CH−又は下記一般式(v)で表される2価の基を示し、R17は、−O−、−CH−、−S−又は下記一般式(vi)で表される2価の基を示し、R18及びR19はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はフェニル基を示し、kは1〜8の整数を示し、lは1〜3の整数を示す。式(v)及び(vi)中のR20及びR21はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の直鎖アルキル基又はフェニル基を示す。
【0053】
【化2】

【0054】
【化3】

【0055】
式(N)中、R22は水素原子又はメチル基を示し、R23及びR24はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の直鎖アルキル基又はフェニル基を示し、R25は−O−、−CH−又は下記一般式(vii)で表される2価の基を示し、R26は−O、−CH−、−S−又は下記一般式(viii)で表される基を示し、R27及びR28はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の直鎖アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜8の整数を示し、nは1〜3の整数を示す。式(vii)及び(viii)中のR29及びR30はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5の直鎖アルキル基又はフェニル基を示す。
【0056】
【化4】

【0057】
芳香族ビニル化合物は、芳香族基に置換されたビニル基を2以上有することがより好ましい。係る化合物は、例えば、1,3−ジビニルベンゼン、1,4−ジビニルベンゼン、1,3−イソプロペニルベンゼン、及び下記一般式(O)で示される化合物から選ばれる。式(O)中、R31は芳香族エーテルオリゴマ−鎖を示し、R32及びR33は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。
【0058】
【化5】

【0059】
式(O)の化合物は、例えば、クロロアルキル基を有する芳香族ビニル化合物と芳香族エーテルオリゴマーとの反応により合成することができる。芳香族エーテルオリゴマ−としては、オリゴ(2,6ージメチルフェニレン−1,4ーエーテル)、オリゴ(2ーメチルー6ーエチルフェニレンー1,4ーエーテル)、オリゴ(2,6ージエチルフェニレンー1,4ーエーテル)、オリゴ(2,6ージクロルフェニレンー1,4ーエーテル)、オリゴ(2ークロルー6ーメチルフェニレンー1,4ーエーテル)、オリゴ(2ーフェニルフェニレンー1,4ーエーテル)、オリゴ(2ーメチルー6ーnープロピルフェニレンー1,4ーエーテル)、オリゴ(5ーメチルフェニレンー1,3ーエーテル)、オリゴ(フェニレンー1,3ーエーテル)等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は複数を組み合わせて用いられる。
【0060】
本発明による効果を顕著に奏させる上では、芳香族ビニル化合物は、下記化学式(P)で表される化合物を含むことが好ましい。式(P)の化合物は、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオール・2,6−ジメチルフェノール重縮合物と、クロロメチルスチレンとの反応生成物である。式(P)中、m及びnはそれぞれ独立に1〜50の整数を示す。この化合物は特に、低温貼付性、低温接着性、低アウトガス性、耐湿性及び高温接着性を付与できる点で、好ましい。
【0061】
【化6】

【0062】
芳香族ビニル化合物は、スチリル基等のビニル芳香族基を側鎖として有するアクリルポリマー(アクリルモノマーの重合体)を含むことも好ましい。
【0063】
接着剤組成物に含まれる芳香族ビニル化合物の量は、Bステージでの低温貼付性、低温接着性、及び低アウトガス性と、Cステージでの高温接着性、耐熱性、及び耐湿性との両立の点から、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、5〜100質量部であることがより好ましく、5〜50質量部であることがさらに好ましい。この含有量が1質量部未満であると、上記特性を両立する効果が小さくなる傾向があり、200質量部を超えると、加熱時のアウトガスが多くなる傾向や、フィルム形成性及び取扱い性が徐々に損なわれる傾向がある。
【0064】
接着剤組成物に含まれるマレイミド化合物は、1分子中にマレイミド基を1個以上有する。熱硬化により架橋構造を形成することが望ましいため、マレイミド化合物は2個以上のマレイミド基を有することが好ましい。マレイミド化合物は、好ましくは、下記一般式(1)で表されるビスマレイミド化合物、及び、下記一般式(2)で表されるノボラック型マレイミド化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0065】
【化7】

【0066】
式(1)中、Rは、芳香族環及び/又は直鎖、分岐若しくは環状脂肪族炭化水素基を含む2価の有機基を示す。Rは、好ましくは、ベンゼン残基、トルエン残基、キシレン残基、ナフタレン残基、直鎖、分岐若しくは環状アルキル基、又はこれらの組み合わせから構成される2価の基であることが好ましい。式(2)中、nは0〜20の整数を示す。
【0067】
接着剤組成物のCステージでの耐熱性及び高温接着力を有効に付与できる点で、Rは下記一般式(3)、(4)又は(5)で表される2価の基であることが好ましい。同様の観点から、上記式(2)のノボラック型マレイミド化合物も好ましい。
【0068】
【化8】

【0069】
接着剤組成物に含まれるマレイミド化合物の量は、フィルム形成性、Bステージでの低アウトガス性、及びCステージでの耐熱性の点で、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、5〜100質量部であることがより好ましく、5〜50質量部であることがさらに好ましい。この含有量が1質量部未満であると、上記特性の向上効果が小さくなる傾向にあり、200質量部を超えると、加熱時のアウトガスが多くなる傾向や、フィルム形成性及び取扱い性が徐々に損なわれるとともに、硬化後の接着剤層が脆くなる傾向がある。
【0070】
芳香族ビニル化合物及びマレイミド化合物を含む熱硬化性成分の加熱による硬化を促進するために、必要に応じて有機過酸化物が接着剤組成物に含有されていてもよい。フィルム調製時の硬化抑制、及びBステージでの保存安定性の点から、1分間半減期温度が120℃以上の有機過酸化物が好ましい。
【0071】
接着剤組成物に含まれる有機過酸化物の含有量は、保存安定性、低アウトガス性、硬化性の観点から、マレイミド化合物の量を基準として0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0072】
熱硬化性成分は、芳香族ビニル化合物及びマレイミド化合物に加えて、熱により架橋反応を起こす熱硬化性樹脂を更に含有してもよい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、レゾルシノールホルムアルデヒド樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ケトン樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、ポリイソシアネート樹脂、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌラートを含有する樹脂、トリアリルトリメリタートを含有する樹脂、シクロペンタジエンから合成された熱硬化性樹脂、芳香族ジシアナミドの三量化による熱硬化性樹脂、並びに、多官能のアクリレート及び/又はメタクリレート化合物が挙げられる。これらの中でも、高温での優れた接着力を持たせることができる点で、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、ポリイミド樹脂、特にポリイミドオリゴマーの架橋剤としても作用し得る。これら熱硬化性樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
接着剤組成物に含まれる熱硬化性成分の量(芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物及び必要によりその他の熱硬化性樹脂の合計量)は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、5〜100質量部であることがより好ましく、5〜50質量部であることがさらに好ましい。この含有量が200質量部を超えると、加熱時のアウトガスが多くなる他、フィルム形成性(靭性)が徐々に損なわれる傾向にある。この含有量が1質量部未満であると、Bステージでの熱時流動性、並びに、Cステージでの耐熱性及び高温接着性を有効に付与できなくなる可能性が徐々に高くなる。
【0074】
接着剤組成物は、熱硬化性成分の硬化のために、上述した有機過酸化物の他、硬化剤、及び/又は硬化促進剤(触媒)を含有してもよい。必要に応じて硬化剤と硬化促進剤、又は触媒と助触媒を併用することができる。上記硬化剤、硬化促進剤、触媒、助触媒、及び有機過酸化物の添加量、及び添加の有無については、後述する望ましい熱時の流動性、硬化性、及び硬化後の耐熱性を確保できる範囲で判断、調整する。
【0075】
エポキシ樹脂は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を含むことが好ましい。硬化性や硬化物特性の点からフェノールのグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂が極めて好ましい。このような樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型(又はAD型、S型、F型)のグリシジルエーテル、水添加ビスフェノールA型のグリシジルエーテル、エチレンオキシド付加体ビスフェノールA型のグリシジルエーテル、プロピレンオキシド付加体ビスフェノールA型のグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のグリシジルエーテル、ビスフェノールAノボラック樹脂のグリシジルエーテル、ナフタレン樹脂のグリシジルエーテル、トリスフェノールメタン型などの3官能型(又は4官能型)のグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂のグリシジルエーテル、ダイマー酸のグリシジルエステル、3官能型(又は4官能型)のグリシジルアミン、ナフタレン樹脂のグリシジルアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0076】
エポキシ樹脂は、不純物イオンである、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲンイオン、特に塩素イオンや加水分解性塩素等を300ppm以下に低減した高純度品であることが、エレクトロマイグレーション防止や金属導体回路の腐食防止のために好ましい。
【0077】
必要に応じて、エポキシ樹脂にエポキシ樹脂用硬化剤を組み合わせて使用することもできる。硬化剤としては、例えば、フェノール系化合物、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、脂肪族酸無水物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、三フッ化ホウ素アミン錯体、イミダゾール類、第3級アミン等が挙げられる。これらの中でもフェノール系化合物が好ましく、分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール系化合物がより好ましい。このような化合物としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、t−ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジェンクレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジェンフェノールノボラック樹脂、キシリレン変性フェノールノボラック樹脂、ナフトール系化合物、トリスフェノール系化合物、テトラキスフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ポリ−p−ビニルフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、数平均分子量が400〜1500の範囲内のものが好ましい。これらの硬化剤を用いることにより、半導体装置組立加熱時に、半導体素子又は装置等の汚染の原因となるアウトガスを有効に低減できる。なお、硬化物の耐熱性を確保するためにも、これらのフェノール系化合物の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量と、フェノール系化合物のOH当量との当量比が、0.95:1.05〜1.05:0.95となるように調整することが好ましい。
【0078】
必要に応じて、硬化促進剤を使用することもできる。硬化促進剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させるものであれば特に制限はなく、例えば、イミダゾール類、ジシアンジアミド誘導体、ジカルボン酸ジヒドラジド、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール−テトラフェニルボレート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7−テトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0079】
接着剤組成物は、フィラーを含有することが好ましい。フィラーとしては、例えば、銀粉、金粉、銅粉、ニッケル粉等の金属フィラー、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化鉄、セラミック等の無機フィラー、カーボン、ゴム系フィラー等の有機フィラー等が挙げられる。種類・形状等にかかわらず特に制限なくフィラーを使用することができる。
【0080】
フィラーは、所望する機能に応じて使い分けることができる。例えば、金属フィラーは、接着剤組成物に導電性、熱伝導性、チキソ性等を付与する目的で添加され、非金属無機フィラーは、接着剤層に熱伝導性、低熱膨張性、低吸湿性等を付与する目的で添加され、有機フィラーは接着剤層に靭性等を付与する目的で添加される。これら金属フィラー、無機フィラー又は有機フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、半導体装置用接着材料に求められる、導電性、熱伝導性、低吸湿特性、絶縁性等を付与できる点で、金属フィラー、無機フィラー、又は絶縁性のフィラーが好ましく、無機フィラー、又は絶縁性フィラーの中では、樹脂ワニスに対する分散性が良好で、かつ、熱時の高い接着力を付与できる点で、窒化ホウ素フィラー又はシリカフィラーがより好ましい。
【0081】
接着剤組成物に含まれるフィラーの量は、付与する特性、又は機能に応じて決められる。フィラーの含有量は、接着剤組成物の樹脂成分とフィラーとの合計を基準として1〜40体積%であることが好ましく、5〜30体積%であることがより好ましく、5〜20体積%であることが更に好ましい。フィラーを適度に増量させることにより、フィルム表面低粘着化、及び高弾性率化が図れ、ダイシング性(ダイサー刃による切断性)、ピックアップ性(ダイシングテープとの易はく離性)、ワイヤボンディング性(超音波効率)、熱時の接着強度をより有効に向上できる。フィラーを必要以上に増量させると、低温貼付性、被着体との界面接着性、及び熱時流動性に関する効果が低下し、耐リフロー性を含む信頼性の低下を招く可能性がある。そのため、フィラーの使用量は上記の範囲内に収めることが好ましい。求められる特性のバランスをとるべく、最適なフィラーの含有量を決定することが好ましい。フィラーを用いた場合の混合・混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜、組み合わせて行うことができる。
【0082】
接着剤組成物には、異種材料間の界面結合を良くするために、各種カップリング剤を添加することもできる。カップリング剤としては、例えば、シラン系、チタン系、アルミニウム系等が挙げられ、中でも効果が高い点で、シラン系カップリング剤が好ましい。カップリング剤の使用量は、その効果や耐熱性及びコストの面から、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましい。
【0083】
接着剤組成物には、イオン性不純物を吸着して、吸湿時の絶縁信頼性を良くするために、さらにイオン捕捉剤を添加することもできる。このようなイオン捕捉剤としては、特に制限はなく、例えば、トリアジンチオール化合物、ビスフェノール系還元剤等の銅がイオン化して溶け出すのを防止するための銅害防止剤として知られる化合物、ジルコニウム系、アンチモンビスマス系マグネシウムアルミニウム化合物等の無機イオン吸着剤などが挙げられる。イオン捕捉剤の使用量は、添加による効果や耐熱性、コスト等の点から、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましい。
【0084】
接着剤組成物には、適宜、軟化剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、テルペン系樹脂等の粘着付与剤を添加しても良い。
【0085】
本実施形態に係る接着シートは、例えば、接着剤組成物を有機溶媒中に溶解又は分散させたワニスを基材上に塗工し、塗工されたワニスを加熱乾燥して接着剤層を形成する方法により製造することができる。接着剤層の形成の後、基材を除去してもよいし、基材をそのまま接着シートの支持フィルムとして用いてもよい。加熱乾燥の条件は、ワニス中の有機溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、通常、50〜200℃で、0.1〜90分間程度である。
【0086】
接着剤層を形成するために用いられるワニスは、接着剤組成物を構成する上述の各成分を有機溶媒中で混合し、必要に応じて混合物を混練する方法により調製される。ワニスを調製するための混合及び混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜組み合わせて行うことができる。
【0087】
ワニスに用いられる有機溶媒は、各成分を均一に溶解又は分散できるものであれば特に制限はなく、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、ベンゼン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、ジオキサン、シクロヘキサノン及び酢酸エチルから選ばれる。
【0088】
接着剤層を形成するために用いられる基材(支持フィルム2)は、上記の加熱、乾燥条件に耐えるものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、又はメチルペンテンフィルムが用いられる。これらの基材フィルムは、2種以上を組み合わせた多層フィルムであってもよく、表面がシリコーン系、シリカ系等の離型剤などで処理されたものであってもよい。
【0089】
図4は、ダイシングシートを備えるダイシング・ダイボンド一体型の接着シートの一実施形態を示す断面図である。図4に示す接着シート100は、基材フィルム7及び基材フィルム7上に設けられた粘着剤層6を有するダイシングシート5と、ダイシングシートの粘着剤層6上に設けられたフィルム状の接着剤層1とから構成される積層体である。図4に示す接着シートは、ダイシングシートとダイボンディングフィルムの両者に要求される特性を兼ね備える。図4の接着シート100において用いられる基材フィルム7は、通常、上述の支持フィルム2と同様のものである。
【0090】
図4の接着シート100の接着剤層1は、これが貼り付けられ半導体ウェハに近い形状で予め形成されている(プリカットされている)ことが好ましい。
【0091】
粘着剤層6は、感圧型又は放射線硬化型の粘着剤によって形成されている。粘着剤層6は、ダイシング時には半導体素子が飛散しない十分な粘着力を有し、その後の半導体素子のピックアップ工程においては半導体素子を傷つけない程度の低い粘着力を有する、当該用途で通常用いられているものを使用することができる。例えば、放射線硬化型の粘着剤は、ダイシングの際には高い粘着力を有し、ダイシング後のピックアップの際にはピックアップ前の放射線照射によってその粘着力が低下する。
【0092】
図5の接着シート100のように、粘着材層を有するダイシングシートを用いるのに代えて、ダイシングシートとしての機能を有する基材フィルム7を用いることもできる。図5の接着シート100において用いられる基材フィルム7は、引張張力が加えられたときの伸び(いわゆる“エキスパンド”)を確保できるものである。基材フィルム7としては、例えばポリオレフィンフィルムが好ましく用いられる。
【0093】
図4又は図5に示される接着シート100は、ダイシング時にはダイシングシートとして、ダイボンディング時にはダイボンディングフィルムとしての機能を発揮する。そのため、これら接着シート100の接着剤層1を、加熱しながら半導体ウェハの裏面にラミネートし、ダイシングした後、接着剤層が貼り付けられた状態の半導体素子をピックアップして、ダイボンディングを行うことができる。
【0094】
以上説明した本実施形態に係る接着剤組成物及び接着シートは、IC、LSI等の半導体素子を他の被着体と接着剤、言い換えるとダイボンディング用接着剤として極めて有用である。
【0095】
半導体素子が接着される被着体としては、42アロイリードフレーム、銅リードフレーム等のリードフレーム;ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチックフィルム;ガラス不織布等基材にポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチックを含浸、硬化させたもの;アルミナ等のセラミックス等の半導体素子搭載用支持部材等がある。中でも、表面に有機レジスト層を具備してなる有機基板、表面に配線有する有機基板等の表面に凹凸を有する有機基板と半導体素子とを接着するためのダイボンディング用接着材料として接着シートが好適に用いられる。
【0096】
本実施形態に係る接着剤組成物及び接着シートは、複数の半導体素子を積み重ねた構造の半導体装置(Stacked−PKG)において、隣接する半導体素子同士を接着するために用いられる半導体素子用接着剤としても好適に用いられる。
【0097】
次に、本実施形態に係る接着剤組成物の用途に関連して、半導体素子の実施形態について図面を用いて具体的に説明する。なお、近年は様々な構造の半導体装置が提案されており、本実施形態の接着剤組成物及び接着シートの用途は、以下に説明する構造の半導体装置に限定されるものではない。
【0098】
図6は、半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。図6に示す半導体装置200は、半導体素子9が、上述のフィルム状接着剤によって形成されたダイボンディング層(硬化した接着剤層)1を介して支持部材10に接着され、半導体素子9の接続端子(図示せず)がワイヤ11を介して外部接続端子(図示せず)と電気的に接続され、更に、封止材12によって封止された構成を有している。
【0099】
図7は、半導体装置の別の実施形態を示す模式断面図である。図7に示す半導体装置210は、一段目の半導体素子9aが上記接着剤組成物によって形成されたダイボンディング層(硬化した接着剤層)1を介して端子13が形成された支持部材10に接着され、半導体素子9aの上に半導体素子9bが上記接着剤組成物によって形成されたダイボンディング層(硬化した接着剤層)1を介して接着され、全体が封止材12によって封止された構成を有している。半導体素子9a及び半導体素子9bの接続端子(図示せず)は、それぞれワイヤ11を介して外部接続端子と電気的に接続されている。
【0100】
図6及び図7に示す半導体装置(半導体パッケージ)は、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材との間にフィルム状の接着剤層を挟み、加熱圧着して両者を接着させ、その後ワイヤボンディング工程、必要に応じて封止材による封止工程等の工程を経ることにより製造することができる。上記加熱圧着工程における加熱温度は、通常、20〜250℃であり、荷重は、通常、0.01〜20kgfであり、加熱時間は、通常、0.1〜300秒間である。
【実施例】
【0101】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
ポリイミド樹脂(PI−1)の合成
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:LP−7100)12.42g、ポリオキシプロピレンジアミン(BASF株式会社製、商品名:D400、分子量:452.4)22.62g、及び、N−メチル−2−ピロリドン140gを仕込んで攪拌して、反応液を調製した。ジアミンが溶解した後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸からの再結晶により精製した4,4’−オキシジフタル酸二無水物32.62gを反応液に少量ずつ添加した。室温(25℃)で8時間反応させた後、キシレン80.5gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共にキシレンを共沸除去してポリイミド樹脂(PI−1)を含むワニスを得た。得られたポリイミド樹脂(PI−1)のGPCを測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=14000、重量平均分子量Mw=35000であった。ポリイミド樹脂(PI−1)のTgは45℃であった。
【0103】
ポリイミド樹脂(PI−2)の合成
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン20.52g、4,9−ジオキサデカン−1,12−ジアミン10.20g、及び、N−メチル−2−ピロリドン193.5gを仕込んで撹拌することにより、有機溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン中に上記各ジアミンが溶解した反応液を得た。この反応液にデカメチレンビストリメリテート二無水物52.20gを少量ずつ添加すると共に、窒素ガスを吹き込みながら180℃で5時間加熱して反応を進行させた。このとき発生する水を系外に除去することにより、ポリイミド樹脂(PI−2)を含むワニスを得た。得られたポリイミド樹脂(PI−2)の分子量をGPCにより測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=28900、重量平均分子量Mw=88600であった。ポリイミド樹脂(PI−2)のTgは73℃であった。
【0104】
ポリイミド樹脂(PI−3)の合成
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を備えた300mlフラスコ中に、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン41.00g、及びN−メチル−2−ピロリドン279.6gを仕込んで攪拌することにより、ジアミンが溶解した反応液を調製した。フラスコを氷浴中で冷却しながら、予め無水酢酸で再結晶精製したデカメチレンビストリメリテート二無水物52.20gを反応液に少量ずつ添加した。室温で8時間反応させた後、キシレン186.4gを加え、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱し、水と共にキシレンを共沸除去した。その後、反応液を大量の水中に注ぎ、沈澱したポリマーを濾過により取り出し、乾燥してポリイミド樹脂(PI−3)を得た。得られたポリイミド樹脂(PI−3)のGPCを測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量Mn=22800、重量平均分子量Mw=121000、であった。ポリイミド樹脂(PI−3)のTgは120℃であった。
【0105】
接着剤組成物(ワニス)の調製
上記で得たポリイミド樹脂(PI−1〜PI−3)と、下記に示す各成分を表1に示す各実施例及び比較例の組成比(単位:質量部)で配合して、接着剤層形成用のワニスを得た。
【0106】
・マレイミド化合物
「BMI−1」:東京化成工業株式会社製、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタン
「BMI−2」:ケイ・アイ化成株式会社製、2,2’−ビス−[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン(BMI−80)
・芳香族ビニル化合物
「St−1」:三菱ガス化学株式会社製、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオール・2,6−ジメチルフェノール重縮合物と、クロロメチルスチレンとの反応生成物(OPE−2St,数平均分子量:1200)
「St−2」:綜研化学株式会社製、側鎖スチリル基含有アクリルポリマー(フォレットSCS,重量平均分子量:15000)
・エポキシ樹脂
「ESCN−195」:住友化学株式会社製、クレゾールノボラック型固体状エポキシ樹脂(エポキシ当量:200)
「BEO−60E」:新日本理化株式会社製、エチレンオキサイド6モル付加体ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:373)
・エポキシ樹脂用硬化剤
「TrisP−PA」:本州化学工業株式会社製、α,α,α’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン(OH当量:141)
・エポキシ樹脂用硬化促進剤
「TPPK」:東京化成工業株式会社製、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボラート
・フィラー
「HP−P1」:水島合金鉄株式会社製、窒化ホウ素フィラー
・溶媒
「NMP」:関東化学株式会社製、N−メチル−2−ピロリドン
【0107】
得られたワニスを、乾燥後の膜厚が40μm±5μmとなるように、それぞれ支持フィルム上に塗布した。支持フィルムとして剥離剤処理ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム(厚さ50μm)を用いた。塗布されたワニスをオーブン中にて80℃で30分間、続いて、120℃で30分間加熱することにより乾燥して、支持フィルム及び該支持フィルム上に形成されたフィルム状の接着剤層を有する接着シートを得た。
【0108】
260℃ピール強度の測定
実施例及び比較例で得られた各接着シートの接着剤層(5mm×5mm×40μm厚)を、42アロイリードフレームと、突起部を有するシリコンチップ(5mm×5mm×400μm厚)との間に介在させ、その状態で熱圧着した。加熱温度は実施例1〜3及び比較例1〜3では150℃、実施例4では180℃に、比較例4では250℃に設定した。加圧は荷重:1kgf/chip、時間:5秒間の条件で行った。熱圧着後、オーブン中で150℃で1時間、又は180℃で1時間加熱して接着剤層を硬化させて、ピール強度測定用のサンプルとしての積層体を得た。
【0109】
図8に示す接着力評価装置を用いて260℃ピール強度を測定した。図8に示す接着力評価装置300は、熱盤36とプッシュプルゲージ31とを有する。プッシュプルゲージ31に取り付けられたロッドの先端に、取手32が支点33の周りで角度可変に設けられている。
【0110】
260℃に加熱された熱盤36上に、シリコンウェハ9と42アロイリードフレーム35とが接着剤層1を介して接着された積層体を、42アロイリードフレーム3が熱盤36側になる向きで載置し、サンプルを20秒間加熱した。次いで、シリコンウェハ9の突起部に取手32を引っ掛けた状態で、取手32を0.5mm/秒でサンプルの主面に平行な向きで移動させ、そのときのシリコンチップ9の剥離応力をプッシュプルゲージ31で測定した。測定された剥離応力を260℃ピール強度とした。このピール強度が大きいほど、耐リフロー性に優れ、半導体装置の信頼性を高度に満足することができる。また、より低温の150℃で加熱硬化したサンプルのピール強度が大きいことは、ワイヤボンド等の組立工程で受ける熱履歴での硬化性に優れることを意味する。この値が大きいと、加熱による接着剤層の流動を抑制できるため、ワイヤボンド時に優れた超音波効率を得ることができる。
【0111】
上述の条件で熱圧着したサンプルを、オーブン中にて180℃で5時間の条件で接着剤層を加熱硬化し、その後、85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に48時間放置した。係る吸湿処理を施した後のサンプルを用いて、上記と同様の方法で吸湿後の260℃ピール強度を測定した。
【0112】
低温貼付性の評価
実施例及び比較例で得られた各接着シートから、幅10mm、長さ40mmの試験片を切り出した。この試験片を、支持台上に載せたシリコンウェハ(6インチ径、厚さ400μm)の裏面(支持台と反対側の面)に、接着剤層がシリコンウェハ側になる向きで積層した。積層は、ロール(温度100℃、線圧4kgf/cm、送り速度0.5m/分)で加圧する方法により行った。
【0113】
このようにして準備したサンプルについて、レオメータ(東洋精機製作所社製、「ストログラフE−S」(商品名))を用いて室温で90°ピール試験を行って、接着剤層−シリコンウェハ間のピール強度を測定した。測定結果から、以下の基準により低温貼付性を評価した。
A:ピール強度が2N/cm以上
B:ピール強度が2N/cm未満
【0114】
【表1】

【0115】
表1に示した結果から明らかなように、実施例の接着剤組成物は、低温貼付性に優れ、かつ、加熱硬化後及び吸湿後の260℃ピール強度が十分に高いことが確認された。
【符号の説明】
【0116】
1…接着剤層、2…基材フィルム、3…保護フィルム、5…ダイシングシート、6…粘着剤層、7…基材フィルム、9,9a,9b…半導体素子(シリコンチップ)、10…支持部材、11…ワイヤ、12…封止材、13…端子、31…プッシュプルゲージ、35…42アロイリードフレーム、36…熱盤、100…接着シート、200…半導体装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂と、
芳香族ビニル化合物とマレイミド基を有するマレイミド化合物とを含む熱硬化性成分と、
を含有する、接着剤組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリイミド樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性成分が、エポキシ樹脂を更に含む、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
フィラーを更に含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
半導体素子用接着剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
フィルム状に成形された請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤組成物を接着剤層として備える、接着シート。
【請求項7】
支持フィルムを更に備え、該支持フィルム上に前記接着剤層が設けられている、請求項6に記載の接着シート。
【請求項8】
ダイシングシートを更に備え、該ダイシングシート上に前記接着剤層が設けられている、請求項6に記載の接着シート。
【請求項9】
前記ダイシングシートが、基材フィルム及び該基材フィルム上に設けられた粘着剤層を有しており、前記粘着材層上に前記接着剤層が設けられている、請求項8に記載の接着シート。
【請求項10】
支持部材と、
該支持部材に搭載された1又は2以上の半導体素子と、
前記支持部材と前記半導体とを接着する接着剤層、及び/又は、隣り合う前記半導体素子同士を接着する接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層のうち少なくとも一つが、請求項5に記載の接着剤組成物が硬化して形成されたものである、半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−189469(P2010−189469A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32630(P2009−32630)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】