説明

搬送用制振制御システムのフィ−ドバックコントロ−ラ

【課題】搬送時に搬送物に生じる振動を防止し、かつ制御系の設計及びコントロ−ラの導出も平易な搬送用制振制御システムのフィ−ドバックコントロ−ラを提供する。
【解決手段】 フィ−ドバックコントロ−ラの形を、少なくともノッチフィルタ若しくはロ−パスフィルタを有する周波数制御要素と位置制御要素の組み合わせに限定し、そのフィ−ドバックコントロ−ラの要素の値を最適に与えるために、設計仕様を周波数仕様と時間仕様の両方で与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送時に搬送物に生じる振動を防止する制振制御システムのフィ−ドバックコントロ−ラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種工場において、振動を防止しながら搬送物を搬送するシステムは知られている。たとえば、液体の搬送の際に、液体の振動と、液体搬送タンクの搬送位置という2出力をフィ−ドバックし、高速高精度位置決めと残留振動抑制を行なう液体搬送制御は公知である。つまり、この制振制御システムは搬送位置をセンシングすると共に搬送物の振動をセンシングして制振制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−091005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような搬送中の搬送物の振動をセンシングすることを前提とする制振搬送制御システムは、搬送物にセンサを取り付けることが困難な場合には機能しない。また、外乱などでセンシングシングの精度が悪い場合には、その値をフィ−ドバックするとかえって制御性能が劣化する。センシングに時間がかかってしまう時も、制振搬送制御は機能しない。更に、多くのセンサを使用する場合には制振制御システムは高価になる。
一方、最近H無限大ロバスト制御など、振動抑制に有力な制御法が提案されているが、得られたコントロ−ラの次元が大きくなり、計算などの点から非実用的な場合が多い。また、H無限大ロバスト制御は、周波数領域の設計法であるため、時間仕様を満足させるためには試行錯誤が多い(特許文献1参照)。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は制御系の設計及びコントロ−ラの導出も平易な搬送用制振制御システムのフィ−ドバックコントロ−ラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる搬送用制振制御システムのフィ−ドバックコントロ−ラは、その形を、少なくともノッチフィルタ若しくはロ−パスフィルタを有する周波数制御要素と位置制御要素の組み合わせに限定し、そのフィ−ドバックコントロ−ラの要素の値を最適に与えるために、設計仕様を周波数仕様と時間仕様の両方で与えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータによる駆動系の運動モデルは従来のモデルより簡単なモデルで表されることから既知とするが、振動系のモデルは不要で振動系の固有振動数のみ必要であるというモデリング作業が簡単な設定のもとで、フィ−ドバックコントロ−ラの次元が小さくでき、制御系の設計及びフィ−ドバックコントロ−ラの導出も平易なことから、実用性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のフィ−ドバック制御系を示す概念図である。
【図2】本発明の参考例の搬送駆動システムを示す概要図である。
【図3】本発明の参考例に用いた評価関数を示す図である。
【図4】本発明の参考例に用いたフィ−ドバックコントロ−ラのゲイン線図である。
【図5】本発明の参考例に用いたシミュレ−ションの結果を示す図である。
【図6】本発明の参考例の結果を示す図である。
【図7】本発明の比較例の結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例に用いた液面挙動シミュレ−ションの結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例の設計手順を示すフロ−図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、図1に示すようなフィ−ドバック制御系を考えている。具体的には、駆動系の目標値に対して出力が追従するサ−ボ系である。
【0010】
設計手順を以下に述べる。
(1)フィ−ドバックコントロ−ラの選択
フィ−ドバックコントロ−ラK(s)に望ましい特性を持たせるため、フィ−ドバックコントロ−ラの伝達関数を式(1)のように定義し、Ki(s)を与えていく。
【0011】
【数1】

【0012】
次数や計算時間等の制約がなければ、nを無限に大きくし、複雑な周波数特性を持つフィ−ドバックコントロ−ラを求めることも可能である。以下に、フィ−ドバックコントロ−ラの構成要素Ki(s)のいくつかの例を示す。
【0013】
[1]位置制御コントロ−ラ: 駆動を与えるコントロ−ラを与える。制御対象G(s)や制御仕様に応じて、P制御、PI制御、PID制御などから選択する。ただし、定常位置偏差をなくすために、一巡伝達関数G(s)K(s)に少なくともひとつの積分要素を含むようにコントロ−ラを選ぶ必要がある。
【0014】
【数2】

【0015】
[2]ロ−パスフィルタ: フィ−ドバックコントロ−ラK(s)にロ−パス特性を持たせたい場合には、次の伝達関数を用いる。
【0016】
【数3】

【0017】
[3]ハイパスフィルタ: フィ−ドバックコントロ−ラK(s)にハイパス特性を持たせたい場合には、次の伝達関数を用いる。
【0018】
【数4】

【0019】
[4]ノッチフィルタ: フィ−ドバックコントロ−ラK(s)のゲイン特性を、ある帯域だけ低くしたい場合には、次の伝達関数を用いる。
【0020】
【数5】

【0021】
ここで、
【0022】
【数6】

【0023】
ζnに対する制約は、この伝達関数がピ−クをもつための条件である。 このフィルタは、振動数ωnのときに下向きにピ−クを持つ。また、ζn=0.0001として、ω〜n=aωn(aはωnとω〜nの比)とすると、0.9<a<1.1では、ゲインを相対的に最低20dB低く整形できる特性を持つ。
また、0.75<a<1.45では、ゲインを相対的に最低10dB低く整形できる特性を持つ。
【0024】
[5]バンドパスフィルタ: フィ−ドバックコントロ−ラK(s)のゲイン特性を、ある帯域だけ高くしたい場合には、次の伝達関数を用いる。
【0025】
【数7】

【0026】
ここで、
【0027】
【数8】

【0028】
このフィルタは、振動数ωbのときに上向きのピ−クをもつ。また、ζb=0.001として、
ω〜b=aωb(aはωbとω〜bの比)とすると、0.9<a<1.1では、ゲインを相対的に最低20dB高く整形できる特性を持つ。
また、0.75<a<1.45では、ゲインを相対的に最低10dB高く整形できる特性を持つ。
【0029】
(2)制御仕様の定式化
制御系を設計するには、種々の制御仕様を与えることができる。本発明では、その仕様を最適化問題のペナルティ項として定式化し、仕様を満足するフィ−ドバックコントロ−ラK(s)を導出する。以下に、時間領域、周波数領域における制約条件のいくつかの例を示す。
【0030】
[1]安定性: 制御対象とする駆動系の制御システムに関して、閉ル−プ系の安定性を保証するためには、次の場合にペナルティを課せばよい。
【0031】
【数9】

【0032】
ただし、rclは閉ル−プの特性根である。または、次の場合にペナルティを課せばよい。
【0033】
【数10】

【0034】
ただし、Gm、Pmは、それぞれ、一巡伝達関数G(s)K(s)のゲイン余裕、位相余裕である。
フィ−ドバックコントロ−ラK(s)の安定性を保証するためには、次の場合にペナルティを課せばよい。
【0035】
【数11】

【0036】
ただし、rkはフィ−ドバックコントロ−ラの特性根である。
【0037】
[2]フィ−ドバックコントロ−ラの周波数特性:特定の周波数ωcでフィ−ドバックコントロ−ラのゲインをkc以下(以上)にしたい場合には、次の場合にペナルティを課せばよい。
【0038】
【数12】

【0039】
また、細かく周波数整形を行う場合には、この制約を複数個課すことにより、実現できる。なお、振動の固有振動数に対して、この仕様を課すことにより、振動系の制振性を保証することができる。
【0040】
[3]オ−バ−シュ−ト: 目標位置に対するオ−バ−シュ−トの量を制限するには、次の場合にペナルティを課せばよい。
【0041】
【数13】

【0042】
ただし、Osはシミュレ−ションにより求まるオ−バ−シュ−ト量、opは許容できるオ−バ−シュ−ト量である。
【0043】
[4]入力制限: 制御入力量uを制限するには、次の場合にペナルティを課せばよい。
【0044】
【数14】

【0045】
ただし、uはシミュレ−ションにより求まる制御入力量、upは入力に対する制限である。これらの制御仕様以外にも、閉ル−プ系の周波数特性に関する制約や、立ち上がり時間、遅れ時間、整定時間などの時間応答に関する制約など、いくらでもその制御系に応じて加えることが可能である。
【0046】
(3)最適化問題の定式化
上記の制約条件を考慮して、式(15)に示すように最適化問題を定式化する。
【0047】
【数15】

【0048】
ここで、Wiは重み、Jiは目的評価関数、Jpはペナルティ項である。評価関数Jiは、搬送の整定時間Tsを評価するのであれば、次のように与えることができる。
【0049】
【数16】

【0050】
ただし、tは時間、y(t)は時間tにおける搬送位置、yfは目標到達位置、yεは許容偏差である。また、過度応答を評価する場合は、目標軌道と搬送位置との2乗誤差を評価関数として与える。
【0051】
【数17】

【0052】
r(t)はtにおける目標軌道である。当然、整定時間と過度応答を同時に評価することも可能である。
【0053】
【数18】

【0054】
(4)フィ−ドバックコントロ−ラの算出
最終的に式(15)のペナルティ項を含んだ制約付きの最適化問題を、例えば、シンプレックス法により解き、式(1)で与えられたフィ−ドバックコントロ−ラK(s)のパラメ−タを決定する。
【0055】
(5)以上のように、決定されたフィ−ドバックコントロ−ラK(s)のパラメ−タを、前記搬送駆動システムのコントロ−ラに搭載することで搬送用制振制御ができる。
なお、本発明では、搬送時に搬送物に生じる振動を防止する制振制御システムについて述べたが、搬送系(駆動系)と搬送物(振動系)を含むシステムであれば、本発明は、適用可能であり、またさらに駆動系が振動をもつ場合も適用可能である。例えば、クレ−ンなどでは、駆動系は荷物を動かすガ−タや台車であり、振動系は荷物を吊すロ−プである。また、ロボットア−ムでは駆動系は各関節部を動かすモ−タであり、振動系はア−ム先端位置の振れである。
【0056】
(参考例)
以下、本発明の参考例を図面に基づき説明する。
図2は、本発明の有効性を確認するための搬送駆動システムの概要図である。図1において、タンク1は、ACサ−ボモ−タ2によりボ−ルネジ3を介して直線搬送される。タンク1は、容積が底面0.14×0.14m2、高さ0.3mのものを使用しており、タンク1の搬送距離は1.0mである。また、タンク1内には水Wが静止液位hs=0.14mとした。タンク1の位置は、モ−タ2に取り付けられたロ−タリ−エンコ−ダ4により測定する。液面の挙動は、タンク1に取り付けられてたレベルセンサ5により測定する。レベルセンサ5は、直径2×10−3の2本のステンレス線を電極として、液位変化(スロッシング)を両電極間の抵抗の変化として捉えることにより液位を検出する。レベルセンサ5は、タンク1の内壁から、5×10−3mの位置に取り付けた。
また、ACサ−ボモ−タ2は、ドライバ6、コントロ−ラ7で制御されるように構成されており、さらに、コントロ−ラ7は、記憶媒体8を介して入力演算手段9に接続可能になっている。そして、ACサ−ボモ−タに付属したロ−タリ−エンコ−ダ4から、ドライバ6に制御信号が送出され、さらに、コントロ−ラ7に送出される。
【0057】
以下、このように構成された搬送駆動システムへの搬送用制振制御の適用を順を追って説明する。
【0058】
(1)モ―タ特性及び駆動系のモデリング
本実施の形態では、入力電圧E(s)からタンクの速度V(s)までの伝達関数を一次遅れ系として、式(19)の様に表現する。
【0059】
【数19】

【0060】
ここで、モ−タ2のゲインKmと時定数Tmは、ステップ状の入力を加え、シミュレ−ション結果と実験結果が等しくなるように求めた。駆動系のモデリングについては、後述する。結果として、ゲインKmと時定数Tmは、以下のように求まった。
【0061】
【数20】

【0062】
【数21】

【0063】
よって、プラントG(s)における入力電圧からタンク位置までの伝達関数は、式(22)の様になる。
【0064】
【数22】

【0065】
(2)スロッシング特性
フィ−ドバックコントロ−ラに、スロッシングを励起しない特性を与えるためには、まず、スロッシングの固有振動数を特定する必要がある。
一般に、完全流体の2次元容器や3次元直方体容器内におけるスロッシングの各モ−ド振動数fnは、式(23)で与えられる。
【0066】
【数23】

【0067】
ただし、k=(πn)/ls、n=1,2,・・・であり、また、hsは静止液位、lsは容器の搬送方向の長さ、nはモ−ドの字数である。
本実施の形態における一次モ−ド振動数f1は、hs=0.14m、ls=0.14m、i=1を代入することによって得られ、f1=2.3558=2.36Hzとなる。
【0068】
(3)フィ−ドバックコントロ−ラの選択
ここでは、振動モデルを用いず、式(19)の駆動系のモデルと振動系の固有振動数の情報のみを用いてフィ−ドバックコントロ−ラの設計を行う。
【0069】
式(19)より、フィ−ドバックコントロ−ラK(s)によらず、一巡伝達関数に積分器を一つ含んでいることがわかる。従って、内部モデル原理より、フィ−ドバックコントロ−ラK(s)に積分特性を持たせなくても目標位置軌道への定常位置偏差のない制御系を構築できることが分かる。そこで、搬送コントロ−ルとしてはP制御を用いることとする。
【0070】
【数24】

【0071】
次に、フィ−ドバックコントロ−ラにスロッシングを励起させない特性を持たせるために、ノッチフィルタを用いる。
【0072】
【数25】

【0073】
式(23)より、1次モ−ドの固有振動数は、2.36Hz(14.8rad/s)である。よって、
ωn=14.8、ζn=0.0001とする。これにより、スロッシングの固有振動数でフィ−ドバックコントロ−ラのゲインを相対的に最低でも20dB低く整形できる。本参考例では、一つのノッチフィルタのみで周波数整形を行うこととした。また、高次モ−ドの影響が大きい場合や複数の振動のモ−ドを持つ制御対象に対しては式(5)に示すノッチフィルタを複数個用いることにより、周波数整形を行うことができる。
【0074】
次に、ノイズや高次モ−ドの影響を防ぐために、高周波領域でゲインが低くなるように、ロ−パス特性を持たせる。
【0075】
【数26】

【0076】
結果として、式(1)、式(24)〜式(26)より、最終的なフィ−ドバックコントロ−ラの伝達関数は次式のようになる。
【0077】
【数27】

【0078】
式(27)において、未知のパラメ−タはKp及びTlである。Tlに関しては、スロッシングの高次モ−ドでゲインが低くなるようにTlを決めることもできる。しかし、本発明では、Tlはフィ−ドバックコントロ−ラのバンド幅に関係するために、整定時間や過渡応答性などに強く影響を与えるので、Tlは未知のパラメ−タとして扱い、最適化問題を解くことにより決定する。
【0079】
(4)設計仕様の定式化
フィ−ドバックコントロ−ラの仕様としては、以下のものを挙げ、ペナルティ関数として定式化した。
[1]閉ル−プ系及びフィ−ドバックコントロ−ラが安定。
【0080】
【数28】

【0081】
【数29】

【0082】
[2]スロッシングの固有振動数において、フィ−ドバックコントロ−ラのゲインが−20dB以下。
【0083】
【数30】

【0084】
[3]ノイズや高次モ−ドの影響低減のために、ωl=314rad/s(50Hz)で、フィ−ドバックコントロ−ラゲインが0dB以下。
【0085】
【数31】

【0086】
[4]装置の制限である入力電圧が±5Vを越えない。
【0087】
【数32】

【0088】
[5]最大オ−バ−シュ−ト量が、0.001mを越えない。
【0089】
【数33】

【0090】
(5)最適化問題の定式化
式(28)〜式(33)の仕様を、次のペナルティ項を用いた制約付きの最適化問題に定式化した。
【0091】
【数34】

【0092】
ただし、
【0093】
【数35】

【0094】
である。また、Tsは、目標位置1.0m、許容誤差1.0×10−3mとしたときの整定時間である。パナルティ関数ωiは、ωi=108(i=1,2,・・・,8)と与えた。最適値計算において、上記のペナルティ条件が成立した場合には、莫大な評価関数値になる。このため、パラメ−タの変更はその組み合わせ以外の方向に進む結果となり、仕様を満足するようなフィ−ドバックコントロ−ラが算出される。
【0095】
(6)フィ−ドバックコントロ−ラの算出
評価関数の最適化には、シンプレックス法を用いた。ただし、鏡像係数α=1.0、収縮係数β=0.5、拡張係数γ=2.0とした。また、初期シンプレックスを表1に示すように設定した。これらの値は、数回の試行の結果、Jが最小となったときの組み合わせである。
また、制御シミュレ−ションにおける位置の目標軌道は、加速度2.0m/s2で加速し、速度0.5m/sで等速移動し、さらに加速度−2.0m/s2で減速して目標位置に到達させる台形型速度カ−ブを積分することにより求めた。
【0096】
【表1】

【0097】
計算の結果、4回目のイタレ−ションでペナルティにかからなくなり、評価関数の値は、29回の繰り返し計算で一定になった。最適解が求まるまでの実際の計算時間は、クロック・スピ−ド600MHzのCPU搭載のパソコンで20秒程度であった。このときの評価関数を図3に示す。
【0098】
結果として、J=Ts=2.82sが最小となり、そのときKp=1.7×10、Tl=5.44×10−2となった。また、特性根部は、−707978×10、−1.0454×10±1.2332×10j、−5.6221±3.4035jであり、フィ−ドバックコントロ−ラの特性根は、−1.8378×10、−7.4142±1.2842×10jであり、実部が全部負であるので、閉ル−プ、フィ−ドバックコントロ−ラともに安定であることがわかる。よって本制御システムは安定である。
【0099】
次に、求められたフィ−ドバックコントロ−ラのゲイン線図を図4に示す。図4により、スロッシングの固有周波数2.36Hzでは、ノッチ状にゲインが低く、制御仕様どおりに−20dB以下になっていることが分かる。また、設計仕様で指定した周波数50Hzにおいても、仕様どおり0dB以下になっていることが確認できた。高周波領域では単調減少しており、制振効果及び高次モ−ドの影響低減という特性が得られた。さらに、低周波域において、ハイゲインとなっていることから搬送の高速化が図られていることが伺える。
【0100】
このフィ−ドバックコントロ−ラによる制御シミュレ−ションの結果を、図5に示す。ここで、図中において、上図は搬送位置を示し、下図は制御入力を示す。図5により、オ−バ−シュ−トのない搬送を行っていること確認できた。また、max(Os)=0.0009m、max|u|=3.0084Vであり、仕様を満たすフィ−ドバックコントロ−ラであることが分かった。
【0101】
また、図6は、本発明の実験実証結果を示している。なお、図6(a)は、タンク位置、図6(b)は、制御入力、図6(c)は、液面振動値を示す。これにより、オ−バ−シュ−トすることなく、位置決めを行った上で、スロッシング現象をほぼ完璧に制振することが可能になった。なお、図6においては、図5のシミュレ−ションの結果も併せて表示しているが、シミュレ−ション結果は、実験結果とほぼ同じ結果を示していることから、モ−タおよび、スロッシングのモデルの妥当性が確認できた。また、この際には、記憶媒体8を介してコントロ−ラ7及びドライバ6に信号を与えてモ−タ2を位置速度制御した。
【比較例】
【0102】
ノッチ特性をフィ−ドバックコントロ−ラに加えずに、P制御のみにより、位置決め制御を行った場合の制御実験結果を図7に示す。その他の条件は、参考例と同じである。ここで、P制御のゲインとしては、本発明による手法と最終目標値への整定時間が等しくなるようにKp=36.0とした。なお、図7(a)は、タンク位置、図7(b)は、制御入力、図7(c)は、液面振動値を示す。
【0103】
図7(c)により、P制御では、位置決め制御はシミュレ−ションと同様に行えているが、スロッシング抑制を考慮していないため、大きくスロッシングを発生している。
【実施例】
【0104】
次に、本発明の実施例を説明する。
図5にて得られた制御入力を式(36)に示す単振り子型モデルに適用した場合の液面挙動シミュレ−ション結果を図8に示す。ここで、単振り子型モデルは、液面を直線で近似し、タンク中心よりL離れた観測点での液位hを振子の振れ角θの関数として表現したものである。
【0105】
【数36】

【0106】
ただし、αはタンクに加えられる加速度、cは液体自身の粘性や、液体と容器壁面の摩擦を考慮した等価粘性係数、mはタンク内液体質量、gは重力加速度、lは等価振子長さを示す。ここで、液位がhs=0.14mのとき、c=1.88Ns/m、m=2.74Kg、l=4.46×10−2mである。
【0107】
この結果、本発明の制御方法で求められたフィ−ドバックコントロ−ラにより、設計時に要求した制御仕様を満たしつつ、液体の残留振動も殆ど起こすことなく、搬送制御できていることがわかった。このことにより、液体若しくは搬送物の固有振動数のみを事前に把握しておけば、液体(搬送物)の動的モデルを用いることなく、制振制御の設計が可能であることが分かった。
【0108】
以上の設計手順を、図示すると、図9に示すようになる。なお、図9において、設計仕様の定式化から、フィ−ドバックコントロ−ラを算出する際には、必ずしも、最適化問題を定式化してくても良い。
(1)モ―タ特性及び駆動系のモデリング
(2)スロッシング特性(搬送物の固有振動数)の同定
(3)フィ−ドバックコントロ−ラの選択
(4)設計仕様の定式化
(5)フィ−ドバックコントロ−ラの算出
【符号の説明】
【0109】
2 モ−タ
4 ロ−タリ−エンコ−ダ
6 ドライバ
7 コントロ−ラ
8 記憶媒体
9 入力演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送用制振制御システムのフィ−ドバックコントロ−ラであって、その形を、少なくともノッチフィルタ若しくはロ−パスフィルタを有する周波数制御要素と位置制御要素の組み合わせに限定し、そのフィ−ドバックコントロ−ラの要素の値を最適に与えるために、設計仕様を周波数仕様と時間仕様の両方で与えることを特徴とする搬送用制振制御システムのフィ−ドバックコントロ−ラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−259264(P2009−259264A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162662(P2009−162662)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【分割の表示】特願2001−162708(P2001−162708)の分割
【原出願日】平成13年5月30日(2001.5.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2000年12月4日〜8日 開催の「THE FIFTH INTERNATIONAL CONFERENCE ON MOTION AND VIBRATION CONTROL」において文書をもって発表
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(597052075)
【Fターム(参考)】