説明

摩擦車式無段変速機

【課題】トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止するものでありながら、出力トルクの低下を抑えてドライバに違和感を与えることの防止を図ることが可能な摩擦車式無段変速機を提供する。
【解決手段】摩擦車式無段変速機1は、リングが両コーンにトラクションオイルを介して挟持されていると共に、出力軸に作用する出力トルクに応じてリングの押付力を発生させる押付装置を有するように構成されている。油温判定手段53により判定されたトラクションオイルの油温が所定温度以下の場合に、変速比制御手段51が変速比を所定変速比よりもダウンシフト側の範囲に制限する。変速比が制限されたことに基づきエンジン30の駆動力が低下するが、該駆動力がその変速比により増大されて出力トルクの低下は抑えられる。これにより、押付装置の押付力が維持されてスリップの発生が防止され、かつドライバの違和感の発生も防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側摩擦車及び出力側摩擦車にトラクションオイルを介して挟持される摩擦部材の接触位置を変更して変速を行うと共に、押付機構によって該摩擦部材の挟持圧となる押付力を出力トルクに応じて発生させる無段変速機構を備えた摩擦車式無段変速機に係り、特にトラクションオイルの所定温度以下の場合にスリップを防止する制御を行う摩擦車式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、入力側摩擦車(入力ディスクやインプットコーン)及び出力側摩擦車(出力ディスクやアウトプットコーン)に対してトラクションオイルを介して摩擦接触しつつ動力伝達(いわゆるトラクションドライブ)を行う摩擦部材(パワーローラやリング)の接触位置(接触半径)を変更することで無段変速を行うトロイダル式無段変速機(特許文献1参照)や円錐摩擦リング式無段変速機(特許文献2参照)が提案されている。
【0003】
ところで、上記トラクションオイルを介したトルク伝達力(トラクション力)は、その油温に依存して変化することが知られており、特に極低温の環境下では、トルク伝達力の低下によってエンジン等の駆動力が伝達しきれず、スリップを招く虞がある。そのため、特許文献1のものは、油温が低いときにエンジン出力を制限することで、スリップの防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−98965号公報
【特許文献2】WO2010/073556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のものは、エンジン出力を低下させることで、トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止しているが、エンジン出力を低下させるため、出力トルクも低下してしまい、運転者が要求する要求駆動力(即ちアクセル開度)に応じることができず、運転者に違和感を与えてしまう虞がある。
【0006】
一方、トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止するためには、摩擦部材の挟持圧を上昇することで、摩擦係数の低下に対応することも考えられ、例えば油圧等によって上記挟持圧を発生させる構造であれば、油圧を一時的に上昇する等の対応手法も考えられる。
【0007】
しかしながら、例えば特許文献2のように出力トルクに応じて機械的なトルクカムによって軸力を発生させるような構造においては、トラクションオイルの低油温時だけ挟持圧(軸力)を上昇させることは難しいという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止するものでありながら、出力トルクの低下を抑えてドライバに違和感を与えることの防止を図ることが可能な摩擦車式無段変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は(例えば図1乃至図9参照)、駆動源(30)からの駆動力(Tin)が入力される入力軸(4)に駆動連結された入力側摩擦車(2)と、車輪(40)に出力トルク(Tout)を出力する出力軸(11)に駆動連結された出力側摩擦車(10)と、これら入力側摩擦車(2)及び出力側摩擦車(10)にトラクションオイルを介して挟持されつつ摩擦接触して動力伝達すると共に、それら入力側摩擦車(2)及び出力側摩擦車(10)に対する接触位置が変更されることで変速比(Gr)を変更する摩擦部材(3)と、前記入力側摩擦車(2)及び前記出力側摩擦車(10)に対する前記摩擦部材(3)の挟持圧となる押付力を、前記出力軸(11)に作用する前記出力トルク(Tout)に応じて発生させる押付装置(12)と、を有する無段変速機構(5)と、
運転者の要求トルク(Tr)を検出する要求トルク検出手段(55)と、
前記要求トルク(Tr)に基づき、前記摩擦部材(3)を移動制御して前記無段変速機構(5)の変速比(Gr)を設定する変速比制御手段(51)と、
前記出力トルク(Tout)が前記要求トルク(Tr)となるように、前記要求トルク(Tr)と前記変速比(Gr)とに応じて前記駆動源(30)に出力させる駆動力(Tin)を設定する駆動力制御手段(54)と、
前記トラクションオイルの油温(Temp)を判定する油温判定手段(53)と、を備え、
前記変速比制御手段(51)は、前記判定された油温が所定温度(Temp1)以下の場合に、変速比を所定変速比(GrA)よりもダウンシフト側の範囲に制限する、
ことを特徴とする摩擦車式無段変速機(1)にある。
【0010】
また本発明は(例えば図3、図5、図9参照)、前記制限された変速比で前記出力トルク(Tout)が前記要求トルク(Tr)となるように前記駆動源(30)の駆動力(Tin)を設定した場合に、前記判定された油温(Temp)における前記摩擦部材(3)の挟持圧に基づく摩擦接触の摩擦力が前記設定した駆動源(30)の駆動力(Tin)に対して不足することが判定された際に、前記摩擦力により伝達し得る駆動力以下に前記駆動源(30)の駆動力(Tin)を制限する駆動力制限手段(56)と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
さらに本発明は(例えば図5、図7参照)、前記油温判定手段(53)は、前記摩擦部材(3)に作用した伝達トルク(例えばTin)とその作用した時間を加味して前記トラクションオイルの油温(Temp)を判定することを特徴とする。
【0012】
そして、本発明は(例えば図1、図2参照)、前記押付装置(12)は、前記出力軸(11)と前記出力側摩擦車(10)との間に配置され、前記出力トルク(Tout)に応じて前記押付力を発生させるトルクカム(15、20)を有するトルクカム機構からなることを特徴とする。
【0013】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によると、判定されたトラクションオイルの油温が所定温度以下の場合に、変速比を所定変速比よりもダウンシフト側の範囲に制限し、該変速比が制限されたことに基づき、駆動源の駆動力が低下するので、つまり駆動源が高回転・低トルクに制御されて、入力側摩擦車から摩擦部材に入力される駆動源の駆動力が低下されるが、ダウンシフト側に変速比が設定されることで低下された駆動源の駆動力がその変速比により増大され、出力トルクの低下を抑えることができ、出力軸に作用する出力トルクに応じて発生する押付装置の押付力は維持されるので、トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止できる。その上、出力トルクの低下は押さえられているので、ドライバに違和感を与えることの防止を図ることができる。
【0015】
請求項2に係る本発明によると、変速比をダウンシフト側に制限し、かつ駆動源の駆動力を低下しても、摩擦部材における摩擦力が不足する場合に、該摩擦力で伝達し得る駆動力に駆動源の駆動力を制限するので、出力トルクが要求トルクに対して僅かに少なくなったとしても、確実に摩擦部材のスリップの発生を防止することができる。
【0016】
請求項3に係る本発明によると、摩擦部材に作用した伝達トルクとその作用した時間を加味してトラクションオイルの油温を判定するので、無段変速機の運転状態によって上昇していくトラクションオイルの温度状態を素早く反映することができ、変速比の制限や駆動源の駆動力の制限をレスポンス良く解除していくことができる。
【0017】
請求項4に係る本発明によると、押付装置が出力トルクに応じて押付力を発生させるトルクカム機構であるので、トラクションオイルの油温の低下に応じて押付力を上昇させることができないが、変速比をダウンシフト側に制限しかつ駆動源に出力させる駆動力を低下するので、トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止するものでありながら、出力トルクの低下を抑えることができてドライバに違和感を与えることの防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る車両を示す伝動系統図。
【図2】本発明に係る押付装置の作動を示す模式図で、(a)は第1段階の図、(b)は第2段階の図、(c)は第3段階の図、(d)が出力トルクと軸力との関係を示す図。
【図3】本発明に係る無段変速機の制御装置を示すブロック図。
【図4】油温センサの取付位置を示す概略図。
【図5】本発明に係るスリップ防止制御を示すフローチャート。
【図6】トラクション係数と油温との関係を示す図。
【図7】リングに作用したトルク及びその作用した時間と表面温度との関係を示す図。
【図8】変速マップの一例を示す図で、(a)は常温時の変速マップの図、(b)は低温時の変速マップの図。
【図9】軸力及び入力トルクと出力トルクと変速比との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態を図に沿って説明する。まず、本発明に係る摩擦車式無段変速機1を備えた車両の動力伝達系について図1に沿って説明する。自動車等の車両に搭載される摩擦車式無段変速機1は、図1に示すように、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータや多板湿式クラッチ等の発進装置31、前後進切換え装置32、円錐摩擦リング式無段変速装置5、及びディファレンシャル装置33からなり、これら各装置がケース6(図4参照)に組み込まれて構成される。円錐摩擦リング式無段変速装置5は、油密状のケース6に収納されており、該ケース6内にはトラクションオイルが封入されて、その下方側にオイル溜り8を形成している。
【0020】
エンジン(駆動源)30によって発生した動力は、発進装置31、該発進装置31の動力伝達経路下流側に配置される前後進切換え装置32を介して円錐摩擦リング式無段変速装置5の入力軸4へ動力伝達され、円錐摩擦リング式無段変速装置5によって無段変速され、セカンダリシャフト(出力軸)11へ出力される。さらに、該セカンダリシャフト11に設けられたセカンダリギヤ36及びそれと噛合するマウントギヤ34によりディファレンシャル装置33へ動力伝達され、左右の駆動軸35,35に出力されて、車輪40,40に伝達される。
【0021】
なお、本摩擦車式無段変速機1は、円錐摩擦リング式無段変速装置5を適用した一例として示すもので、これに限らず、エンジン及びモータを駆動源とするハイブリッド駆動装置等の他の装置に適用してもよい。また、上記円錐摩擦リング式無段変速装置は、摩擦車式無段変速装置の一例として代表して示すものであり、リングを両円錐摩擦車を囲むように配置したリングコーン式無段変速装置、その外、トロイダル式無段変速装置等、入力側摩擦車と出力側摩擦車との間にオイルを介在して摩擦部材を接触し、該接触位置を変更することにより入力軸と出力軸との間の回転を無段に変速する摩擦車式無段変速装置に適用可能である。また、本円錐摩擦リング式無段変速装置5は、トラクションオイルに一部浸されており、接触部分に掻上げ等により上記トラクションオイルが介在しており、該オイルの剪断力を介して摩擦接触し、その摩擦力によって動力伝達される。なお、上記接触部へのオイルの供給は、掻上げ式に限らず、オイルポンプにより供給する強制式でもよい。
【0022】
上記円錐摩擦リング式無段変速装置5(以下、単に「無段変速装置5」という)は、入力側摩擦車であるプライマリコーン2と、出力側摩擦車であるセカンダリコーン10と、プライマリコーン2及びセカンダリコーン10との間に介在してトラクションオイルを介して挟持されつつ摩擦接触する摩擦部材であるリング3と、上記プライマリコーン2及びセカンダリコーン10とリング3との間に挟圧力(挟持圧)を付与するための軸力(押圧力)を発生する押付装置12と、によって構成されている。
【0023】
プライマリコーン2は、前後進切換え装置32と連結しているプライマリシャフト(入力軸)4に一体に連結されていると共にケース6に回転自在に支持されており、一定の傾斜角を有した円錐形状をしている。また、該プライマリコーン2には、鋼製のリング3がその外周を取り囲むようにしてセカンダリコーン10との間に配置されている。
【0024】
なお、上記リング3は、例えば不図示の電動アクチュエータ等によって軸方向に移動駆動されると共に該リング3を回転自在に支持する移動部材を備えた変速操作機構によって、両コーン2,10に対する軸方向位置が位置制御され、それによって、両コーン2,10に対する接触半径を変更することで、両コーン2,10の間で変速比を変更する。
【0025】
セカンダリコーン10は、プライマリコーン2と同じ傾斜角を有した円錐中空形状をしており、プライマリシャフト4と平行に設けられたセカンダリシャフト11(出力軸)に、プライマリコーン2とは軸方向反対向きに嵌挿されて、ケース6にベアリング37,38により回転自在に支持されている。そして、上記セカンダリコーン10とセカンダリシャフト11との間に押付装置(トルクカム機構)12が介在されている。
【0026】
上記押付装置12は、図1及び図2に示すように、セカンダリコーン10の中空部内に配置されており、セカンダリシャフト11に対して固定されるフランジ部19と、受圧部材14と、予圧スプリング13と、受圧部材14及びフランジ部19の間に配置された第1トルクカム15と、セカンダリコーン10及びフランジ部19の間に配置された第2トルクカム20とによって構成されている。
【0027】
上記フランジ部19は、段付きのフランジ状に形成された部材で、セカンダリシャフト11と駆動連結される。即ち、詳しくは後述する第1及び第2トルクカム15,20によってセカンダリコーン10から離れる方向に力を受けるフランジ部19は、セカンダリシャフト11に対して軸方向に固定されており、セカンダリシャフト11は、ケース6に対して円錐コロ軸受け39により回転自在、かつ軸方向、特にセカンダリコーン10から離れる方向のスラスト力を担持して一体に支持されている。
【0028】
上記受圧部材14は、セカンダリコーン10の小径側の内周面において、該セカンダリコーン10に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に配置されている。また、上記予圧スプリング13は、上記受圧部材14と上記セカンダリコーン10との間に縮設されている。即ち、セカンダリシャフト11に対して軸方向移動が規制されているフランジ部19とセカンダリコーン10との間に、第1トルクカム15、受圧部材14、予圧スプリング13が軸方向に直列状に配置されている。なお、予圧スプリング13は、皿ばねが望ましいが、例えばコイルスプリングであってもよく、つまりセカンダリコーン10に予圧を付与し得るスプリングであればどのようなスプリングであってもよい。
【0029】
上記第1トルクカム15は、上記受圧部材14とフランジ部19とが対向した第1対向部にそれぞれ配置された複数の第1ボール18が配置されて構成されており、受圧部材14とフランジ部19との相対回転により一方の部材に対して他方の部材が軸方向に沿って互いが離反する方向に移動するように構成されている。即ち、上述のようにフランジ部19の軸方向への移動は規制されており、受圧部材14が軸方向に移動し、予圧スプリング13を圧縮するように構成されている。
【0030】
上記第2トルクカム20は、上記セカンダリコーン10とフランジ部19とが対向した第2対向部にそれぞれ配置された複数の第2ボール23が配置されて構成されており、つまり、第2トルクカム20は、上記第1トルクカム15よりも外周側に配置されている。上記第2対向部は周方向に延びる長溝形状からなり、所定回転量では第2ボール23がその底面を遊転する所定遊びlを形成している(図2(b)参照)。そして、第2トルクカム20は、セカンダリコーン10とフランジ部19との上記所定遊びを越えた相対回転により一方の部材に対して他方の部材が軸方向に沿って互いが離反する方向に移動するように構成されている。即ち、上述のようにフランジ部19の軸方向への移動は規制されており、上記所定遊びを越えた相対回転によって、セカンダリコーン10が軸方向に押圧されるように構成されている。
【0031】
即ち、図2に示すように、第1トルクカム15は、セカンダリコーン10からセカンダリシャフト11(と一体のフランジ部19)に作用する出力トルクに応じて直ちに軸力を発生するが、第2トルクカム20は、セカンダリコーン10とセカンダリシャフト11との間に所定相対回転(遊び)をした後、出力トルクに応じた軸力を発生する。また、第2トルクカム20のカム角度が第1トルクカム15のカム角度より大きく設定されている。
【0032】
以上のように構成された押付装置12は、まず、予圧スプリング13が軸方向に固定されているセカンダリシャフト11に対してセカンダリコーン10を軸方向に常時(つまり、円錐摩擦リング式無段変速装置5による動力伝達が行われない非作動時でも)付勢することで、リング3をプライマリコーン2及びセカンダリコーン10に押付ける(圧接させる)軸力の予圧F1として作用する(第1段階:図2(a)及び図2(d)参照)。
【0033】
次に、押付装置12は、セカンダリコーン10からセカンダリシャフト11にトルクが伝達される作動時となる際に、セカンダリシャフト11に作用する負荷トルク(出力トルク)に対応して(順じて)第1トルクカム15が相対回転する。該第1トルクカム15の相対回転に基づき、軸方向に固定されているセカンダリシャフト11(フランジ部19)に対してセカンダリコーン10(受圧部材14)は、該負荷トルクに対して角度γに応じて軸力の増加率の大きい勾配αの軸方向の軸力が付与される(第2段階:図2(b)及び図2(d)参照)。
【0034】
ついで、押付装置12は、上記第2段階の場合よりも強い負荷トルク(出力トルク)が伝達されて、第2トルクカム20の遊びを越えてセカンダリコーン10とセカンダリシャフト11(フランジ部19)とが相対回転すると、セカンダリシャフト11に作用する負荷トルクに対応して第2トルクカム20のカム部分が作動する。該第2トルクカム20の相対回転に基づき、軸方向に固定されているセカンダリシャフト11(フランジ部19)に対してセカンダリコーン10は、角度δに応じて第2段階の軸力よりも増加率の小さい勾配βの軸方向の軸力が付与される(第3段階:図2(c)及び図2(d)参照)。
【0035】
このように、予圧スプリング13、第1トルクカム15、及び第2トルクカム20によりセカンダリコーン10に作用する軸方向の軸力は、軸方向へ移動が規制されているプライマリコーン2に対して、リング3を両コーン2,10に押付ける狭圧力として作用し、トラクションオイルの中でリング3と両コーン2,10との間でトルク伝達に必要とするトラクションを付与し、両コーン2,10の間で動力伝達がなされる。また、押付装置12によって付与される軸力は、図2(d)に示すように、第1段階、第2段階、及び第3段階の3段階となっており、伝動効率の向上を図ることができる。
【0036】
なお、上記説明は、セカンダリコーン10からセカンダリシャフト11へトルク伝達する正トルクについて述べたが、エンジンブレーキ等で、セカンダリシャフト11からセカンダリコーン10へトルク伝達する逆トルク(逆駆動)にあっても、トルクカムの形状が波状からなるため、同様に軸方向の軸力が発生する。
【0037】
ついで、本発明に係る摩擦車式無段変速機1の制御部50について図3に沿って説明する。図3に示すように、本摩擦車式無段変速機1の制御装部(ECU)50は、変速マップmapを有する変速比制御手段51、低油温時変速比制限手段52、油温判定手段53、駆動力制御手段54、要求トルク検出手段55、駆動力制限手段56、挟持力不足判定手段57などを備えている。
【0038】
また、制御部50には、不図示のアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ61、プライマリシャフト(入力軸)4の回転数を検出する入力軸回転速度センサ62、セカンダリシャフト(出力軸)11の回転数を検出する出力軸回転数(即ち車速)センサ63、トラクションオイルの油温を検出する油温センサ65、などが接続されている。
【0039】
なお、上記油温センサ65は、図4に示すように、プライマリコーン2及びセカンダリコーン10の斜面に挟持されたリング3がそれら両コーン2,10に接触しつつ移動する部分の下方側にあって、トラクションオイルの油溜り8の内部に浸かるように配置されている。
【0040】
なお、本実施の形態では、便宜的に、各手段51〜57などを同じ制御部(ECU)50内に備えたものとして説明しているが、各手段を2個以上の制御部(ECU)で相互に通信可能に構成してもよく、それぞれ個別の制御部(ECU)を備えているような形態であってもよい。
【0041】
上記要求トルク検出手段55は、アクセル開度センサ61により検出されるアクセル開度θに基づき、運転者が車両の出力として要求する要求トルクTrを検出する。
【0042】
上記変速比制御手段51は、例えば通常(常温)の走行中にあって、入力軸回転速度センサ62により検出されるプライマリシャフト4の入力軸回転数Ninと、出力軸回転速度センサ63により検出される車速V(セカンダリシャフト11の回転数Nout)と、上記要求トルク検出手段55により検出される運転者の要求トルクTrとに基づき、詳しくは後述する図8に示す変速マップmapを参照することで、エンジン30における燃料消費が最適となるように変速比Grを設定し、図示を省略した電気モータ等を駆動制御して上記リング3を移動制御し(リング3の接触位置を変更し)、無段変速装置5の変速比Grを変速制御する。
【0043】
上記駆動力制御手段54は、車輪40に出力される出力トルクToutが上記要求トルクTrとなるように、該要求トルクTrと上記設定された変速比Grとに応じてプライマリシャフト4に入力させる入力トルクTin、つまりエンジン30に出力させるエンジントルクを設定し、設定したエンジントルクとなるようにエンジン30の燃料噴射量やスロットル開度を制御する。
【0044】
ついで、本発明に係る油温判定手段53、低油温時変速比制限手段52、挟持力不足判定手段57、駆動力制限手段56の作用について、図5のフローチャートに沿って図6乃至図8を参照しつつ説明する。
【0045】
例えばイグニッションスイッチがONされてエンジン30が始動され、車両の走行が開始されると、本制御部50によって図5に示す制御が開始される(S1)。すると、まず制御部50は、各種データの取得、即ち、アクセル開度センサ61により検出されたアクセル開度θ、出力軸回転速度センサにより検出された車速V、入力軸回転速度センサ62により検出された入力軸回転数Nin、変速比制御手段51により設定された変速比Gr(Gear−ratio)、油温センサ65により検出された油温Temp、をそれぞれ取得する(S2)。
【0046】
ステップS3においては、詳しくは後述するリング表面温度の前回算出値の取得を行うが、制御開始時の初回においては油温センサ65により検出された油温Tempを初期値として用いる。つづいて、ステップS4において、上記油温判定手段53は、油温センサ65により検出された油温Temp或いはリング表面温度の前回算出値に対し、リング3に作用した伝達トルク(本実施の形態では入力トルクTin)とその入力トルクTinが作用した時間を加味してトラクションオイルのリング表面における油温Temp(以下、この値を「リング表面温度」とする)を判定(算出)し、ステップS5において、算出したリング表面温度Tempを記録する。
【0047】
ここで、トラクションオイルのトラクション係数(摩擦係数)μと油温Tempとの関係、並びに、リング表面温度の上昇について図6及び図7を用いて説明する。
【0048】
トラクションオイルは、図6に示すように、油温Tempによって、そのトラクション係数μが変化する性質を有しており、油温Temp1〜油温Temp2(例えば−20度〜120度)の間における「常温」の範囲内であれば、比較的トラクション係数μが高く、この常温状態では、無段変速装置5における両コーン2,10とリング3とが押付装置12の押付力(挟持力)に基づきスリップしない摩擦力を発生するように構成されている。
【0049】
言い換えると、押付装置12における第1及び第2トルクカムにより発生する押付力の第2段階や第3段階の勾配(図2(d)参照)は、この常温状態でスリップが発生せず、かつリング3や両コーン2,10の表面が傷付くことが無いように押付力が強過ぎないように設定されている。要するに、押付装置12に設定される押付力の勾配は、常温状態にあって、出力トルクが0における軸力0の点と、プライマリコーン2からセカンダリコーン10に伝達する回転速度を最高速側に設定した状態(最もアップシフト(オーバードライブO/D)側の変速比)で両コーン2,10との間でのリング3を介してエンジン30の最大トルクを伝達し得る軸力の点と、を結んだ勾配に基づき設定されていることになり、つまり過剰な押付力が発生しないように構成されている。
【0050】
従って、油温Temp1よりも低い「低温」の状態や油温Temp2よりも高い「高温」の状態では、トラクション係数μが低くなると共に、押付装置12により発生する押付力が常温状態と同様に付与されるため、リング3の両コーン2,10の挟持力が不足して、通常の車両走行をそのまま行うと、リング3がスリップしてしまう虞がある。なお、油温Temp2よりも高い「高温」の状態は、一般的にはトラクションオイルの冷却構造等で対応することが望ましい状態であるため、本実施の形態では何ら制御を行わないが、後述する「低温」の状態と同様な制御を行って対応することも可能である。
【0051】
ところで、トラクションオイルの油温は、リング3の表面において、摩擦接触における負荷量(即ち発熱量)に応じて比較的短時間で上昇するが、上述したように、油温センサ65はトラクションオイルの油溜り8内に浸かるように配置されているため(図4参照)、リング表面温度Tempを直接的に検出することができず、また、リング表面温度Tempを直接的に検出するような温度センサの配置も難しい。
【0052】
そこで、油温判定手段53は、図7に示すように、プライマリコーン2に入力された入力トルクTinの大きさと、その入力トルクTinが作用した時間との関係によって、リング表面温度Tempを判定(算出)する。即ち、図7に示す相関関係のデータには、所定入力軸回転数Ninにあって、トルクTa<Tc<Te(例えばTaがトルク0で、Teがエンジン30の性能に基づく最大トルク)の大小関係とすると、入力トルクTinが「Ta」の場合、入力トルクTinが「Tc」の場合、入力トルクTinが「Te」の場合が記録されており、入力トルクTinとその作用時間とから線形補完することでリング表面温度Tempを算出することができる。なお、図7に示す相関関係のデータは、ある入力回転数(例えば2000rpm)の場合の負荷量を記録したものの一例であり、油温判定手段53は、このようなデータを異なる入力回転数ごとに複数有していて、入力軸回転数Ninに応じて別途準備されたデータを参照することになる。
【0053】
以上のように、図5のステップS4において油温判定手段53がリング表面温度Tempを算出し、ステップS5において算出したリング表面温度Tempを記録すると、ステップS6に進み、低油温時変速比制限手段52は、リング表面温度Tempが所定温度Temp1以下(図6参照)であるか否かを判定し、つまり低温時であるか否かを判定する。
【0054】
リング表面温度Tempが所定温度Temp1よりも大きい場合は(S6のNo)、上述したようにトラクション係数μが高く(図6参照)、リング3がスリップする虞が無いので、変速比制御手段51は、図8(a)に示す常温時の変速マップmapを選択し(S7)、つまり入力軸回転数Nin、車速V、及び要求トルクTrに基づき通常の変速比Grを設定してリング3の位置を移動制御し(S8)、そして、駆動力制御手段54は、該設定した変速比Grで要求トルクTrが出力されるように入力トルクTin、つまりエンジン30のエンジントルク(エンジン出力)を設定して、該エンジントルクとなるようにエンジン30の燃料噴射量やスロットル開度等を制御し(S9)、リターンする(S16)。
【0055】
一方、リング表面温度Tempが所定温度Temp1以下の場合は(S6のYes)、上述したようにトラクション係数μが低く(図6参照)、このままではリング3がスリップする虞があるので、低油温時変速比制限手段52は、変速比制御手段51により変更される変速比Grが所定変速比GrAよりもダウンシフト(アンダードライブU/D)側の範囲に制限されるように、図8(b)に示す低温時の変速マップmapを選択し(S10)、つまり入力軸回転数Nin、車速V、及び要求トルクTrに基づき設定する変速比Grを所定変速比GrAよりもダウンシフト側に設定し、リング3の位置を移動制御する(S11)。
【0056】
すると、変速比Grが通常の変速比よりもダウンシフト側に設定されるので、つまり無段変速装置5によりエンジン30の回転が減速されてトルクが増大される形となる。そこで、駆動力制御手段54は、該制限された変速比Grで要求トルクTrが出力されるように入力トルクTin、つまりエンジン30のエンジントルク(エンジン出力)を設定し(S12)、つまりエンジン30は低トルク・高回転に制御されると共に、出力トルクToutは要求トルクTrに維持されるように設定される。
【0057】
この際、リング表面温度Tempが低すぎたり、或いは要求トルクTrが大きくてエンジントルク(入力トルクTin)が大きすぎたりすると、変速比Grをダウンシフト側に制限しただけでは、リング3の挟持力(摩擦力)が不足する虞がある。
【0058】
そこで、挟持力不足判定手段57は、リング表面温度Tempに基づき上記図6に示したトラクション係数μと油温との関係から、リング3の摩擦力を算出し(S13)、上述のように設定したエンジントルク(エンジン出力)(低下させた入力トルクTin)がリング3の挟持力に基づく摩擦接触の摩擦力よりも大きいか否かを判定し、つまりリング3の摩擦力が入力トルクTinに対して不足しているか否かを判定する(S14)。
【0059】
リング3の摩擦力が入力トルクTinよりも大きく、リング3の摩擦力が入力トルクTinに対して不足していないと判定された場合は(S14のNo)、つまりリング3はこのままでスリップしないので、上記のように設定したエンジン出力で該エンジン30を制御したまま、リターンする(S16)。
【0060】
以上のような場合は、制限された変速比Grに基づきエンジン30が制御され、出力トルクToutが要求トルクTrに維持されるように設定されるので、出力トルクToutに応じて押付力を付与する上記押付装置12によるリング3の挟持力は維持されるように設定され、リング3の伝達するトルクだけが低下されるので、該リング3のスリップの防止が図られる。
【0061】
なお、仮に押付装置がプライマリシャフト4とプライマリコーン2との間に配置されていたとすると、エンジン出力(入力トルクTin)の低下に伴って押付力が低下し、挟持力の低下に伴ってリング3の摩擦力が低下してしまうことになるので、押付装置12は、出力トルクToutに応じて押付力を発生させるように構成されている必要がある。
【0062】
一方、上記ステップS13において挟持力不足判定手段57がリング3の摩擦力を算出した結果、上述のように低下させたエンジン出力(入力トルクTin)が該リング3の摩擦力よりも大きく、つまりリング3の摩擦力が入力トルクTinに対して不足していることを判定した場合は(S14のYes)、このままではリング3がスリップしてしまうことになる。
【0063】
そこで、駆動力制限手段56は、リング3の摩擦力により伝達し得る駆動力以下にエンジン出力(入力トルクTin)を制限する指令を駆動力制御手段54に出力し、つまりエンジン出力をリング3の摩擦力に制限するように設定してエンジン30を制御し(S15)、リターンする(S16)。
【0064】
以上のような場合は、制限された変速比Grに基づきエンジン出力が低下され、更に、算出されたリング3の摩擦力に基づきエンジン出力が制限される形でエンジン出力が低下されるようにエンジン30が制御されるので、出力トルクToutが要求トルクTrに対して僅かに小さくなってしまうが、リング3の摩擦力以下に制限された入力トルクTinが入力されるので、該リング3のスリップが確実に防止される。
【0065】
また、変速比Grをダウンシフト側に制限した分、エンジン30を高回転・低トルクの状態に移行することができ、その分、出力トルクToutを低下させる量が減るので、例えば特開2001−98965号公報のようにエンジン出力の低下だけでスリップを予防するものに比して、出力トルクの大幅な低下が避けられ、運転者に与える違和感を充分に減らす効果がある。
【0066】
なお、駆動力制限手段56によってエンジン出力をリング3の摩擦力以下になるように制限する場合は、エンジン出力を制限することによって出力トルクも低下して、その分、押付装置12による押付力も低下するので、その押付力の低下分も加味してエンジン出力を制限する値を設定すべきである。
【0067】
また、本実施の形態では、挟持力不足判定手段57がリング3の摩擦力を算出し、それをエンジン出力(入力トルクTin)と対比することで、挟持力が不足しているか否か(スリップするか否か)を判定しているが、随時算出する手法に限らず、例えばリング表面温度とリング3の摩擦力との相関関係を記録したマップをあらかじめ準備し、そのマップに基づき判断するように構成してもよい。
【0068】
以上説明したように、リング表面温度Tempが所定温度Temp1以下である場合には、変速比Grを所定変速比GrAよりもダウンシフト側に制限した状態でエンジン出力を低下させて、かつなるべく出力トルクToutが要求トルクTrとなるように制御することになる。そして、この制御(S6〜S15)を繰り返している間に、リング3の摩擦接触部分におけるトルク伝達によって、図7に示すようにリング表面温度Tempが時間経過と共に上昇していき、その後、リング表面温度Tempが所定温度Temp1よりも高くなると(S6のNo)、常温の状態、つまり変速比を制限しない通常の走行状態に移行し(S7〜S9)、以降は通常走行を行うことになる。
【0069】
ついで、上述した本制御によって変化する、軸力(リング3の摩擦力)及び入力トルクと出力トルクとの関係を図9に沿って説明する。
【0070】
例えばエンジン出力が最大であって入力トルクTinが「Te」であり、かつ変速比Grがオーバードライブ(O/D)側にあるような、図中「点TA」で示す走行を行おうとした際に、リング表面温度Tempが所定温度Temp1以下であった場合は、図中太線で示す低油温時の軸力X(リング3の摩擦力)を上回ってしまい、リング3がスリップする虞がある。
【0071】
そこで、低油温時変速比制限手段52が変速マップmapを変更して変速比Grをダウンシフト側(変速比として中間のMID付近)に制限すると(S10,S11)、駆動力制御手段54が制限した変速比Grで要求トルクTrとなるように入力トルクTinを「Tb」に設定し(S12)、つまり「点TB」の状態に移行する。この際は、入力トルクTinが軸力X以下となり、スリップが生じないので(S14のNo)、入力トルクTinを「Tb」をそのまま出力する。これにより、図9から明らかのように、「点TA」から「点TB」に移行しても、出力トルクToutが低下することなく、リング3のスリップが防止されると共に、運転者に違和感を与えることの防止が図られる。
【0072】
一方、例えばエンジン出力が最大であって入力トルクTinが「Te」であり、かつ変速比Grが中間MIDよりもアンダードライブ(U/D)側にあるような、図中「点TC」で示す走行を行おうとした際に、リング表面温度Tempが所定温度Temp1以下であった場合は、図中太線で示す低油温時の軸力X(リング3の摩擦力)を上回ってしまい、リング3がスリップする虞がある。
【0073】
そこで、低油温時変速比制限手段52が変速マップmapを変更して変速比Grを最もダウンシフト側(U/D付近)に制限すると(S10,S11)、駆動力制御手段54が制限した変速比Grで要求トルクTrとなるように入力トルクTinを「Tc」に設定し(S12)、つまり「点TD」の状態に移行する。このままでは、入力トルクTinが軸力X以下となっていないので、リング3の摩擦力が不足してスリップが生じる虞があるので、挟持力不足判定手段57がリング3の摩擦力が不足していることを判定し(S14のYes)、駆動力制限手段56により更に入力トルクTinの制限を行う(S15)。これにより、入力トルクTinが、図9に示す「点TE」まで低下され、出力トルクToutは「点TD」から「点TE」に制限されることで低下されるが、入力トルクTinが軸力X以下に制限されてリング3のスリップの防止が図られる。
【0074】
以上説明したように、本無段変速機1によると、判定されたトラクションオイルのリング表面温度Tempが所定温度Temp1以下の場合に、変速比Grを所定変速比GrAよりもダウンシフト側の範囲に制限し、該変速比Grが制限されたことに基づき、エンジン30のエンジン出力(入力トルクTin)が低下するので、つまりエンジン30が高回転・低トルクに制御されて、プライマリコーン2からリング3に入力される入力トルクTinが低下されるが、ダウンシフト側に変速比が設定されることで低下されたエンジン30のエンジン出力がその変速比により増大され、出力トルクの低下を抑えることができ、セカンダリシャフト11に作用する出力トルクに応じて発生する押付装置12の押付力は維持されるので、トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止できる。その上、出力トルクの低下は押さえられているので、ドライバに違和感を与えることの防止を図ることができる。
【0075】
また、変速比Grをダウンシフト側に制限し、かつ入力トルクTinを低下しても、リング3における摩擦力が不足する場合に、該摩擦力で伝達し得る入力トルクTinとなるようにエンジン30を制限するので、出力トルクToutが要求トルクTrに対して僅かに少なくなったとしても、確実にリング3のスリップの発生を防止することができる。
【0076】
更に、リング3に作用した伝達トルク(入力トルクTin)とその作用した時間を加味してトラクションオイルのリング表面温度Tempを判定するので、無段変速機1の運転状態によって上昇していくトラクションオイルの温度状態を素早く反映することができ、変速比Grの制限やエンジン30のエンジン出力の制限をレスポンス良く解除していくことができる。
【0077】
そして、押付装置12が出力トルクToutに応じて押付力を発生させるトルクカム機構であるので、トラクションオイルの油温の低下に応じて押付力を上昇させることができないが、変速比Grをダウンシフト側に制限しかつエンジン30に出力させるエンジン出力を低下するので、トラクションオイルの油温低下に伴うスリップの発生を防止するものでありながら、出力トルクToutの低下を抑えることができてドライバに違和感を与えることの防止を図ることができる。
【0078】
なお、以上説明した本実施の形態においては、無段変速機構5が円錐摩擦リング式無段変速機構であるものを説明したが、これに限らず、トロイダル式無段変速機構であってもよく、つまりトラクションオイルを介してトルク伝達を行う無段変速機構であれば、どのような変速機構であってもよい。
【0079】
また、本実施の形態においては、駆動源としてエンジン30だけを備えたものを一例として説明したが、駆動源としてモータ・ジェネレータだけを備えたEV車両や、内燃エンジン及びモータ・ジェネレータを兼ね備えたハイブリッド車両であっても、本発明を適用することができる。この場合は、駆動力制御手段54は、エンジン30の代わりにモータ・ジェネレータの出力トルク、或いはエンジン及びモータの総合出力トルクを制御することになる。
【0080】
また、本実施の形態では、便宜上、エンジン出力が入力トルクTinと同等であることを前提として説明したが、例えば発進装置31がトルクコンバータ等であってトルク増大効果を発生させるものであれば、その点を加味して、エンジン30の駆動力を制御すべきであることは、勿論のことである。
【0081】
また、本実施の形態では、トラクションオイルの油温を判定する際に、油溜り8に浸かった油温センサ65の検出によって得た油温を元にリング表面温度を判定するものについて説明したが、リング表面温度が判定できる手法であれば、どのような手法でも良く、例えば無段変速機1の環境温度を元にしたり、車両に付属した外気温センサの検出温度を元にしてリングに発生した発熱量を加味してもよく、また反対、リング3の温度を直接的に検出することも考えられる。
【符号の説明】
【0082】
1 摩擦車式無段変速機
2 入力側摩擦車(プライマリコーン)
3 摩擦部材(リング)
4 入力軸(プライマリシャフト)
5 無段変速機構(円錐摩擦リング式無段変速装置)
10 出力側摩擦車(セカンダリコーン)
11 出力軸(セカンダリシャフト)
12 押付装置
15 トルクカム(第1トルクカム)
20 トルクカム(第2トルクカム)
30 駆動源(エンジン)
40 車輪
51 変速比制御手段
53 油温判定手段
54 駆動力制御手段
55 要求トルク検出手段
56 駆動力制限手段
Gr 変速比
GrA 所定変速比
Temp 油温
Temp1 所定温度
Tin 駆動力(入力トルク)
Tout 出力トルク
Tr 要求トルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力が入力される入力軸に駆動連結された入力側摩擦車と、車輪に出力トルクを出力する出力軸に駆動連結された出力側摩擦車と、これら入力側摩擦車及び出力側摩擦車にトラクションオイルを介して挟持されつつ摩擦接触して動力伝達すると共に、それら入力側摩擦車及び出力側摩擦車に対する接触位置が変更されることで変速比を変更する摩擦部材と、前記入力側摩擦車及び前記出力側摩擦車に対する前記摩擦部材の挟持圧となる押付力を、前記出力軸に作用する前記出力トルクに応じて発生させる押付装置と、を有する無段変速機構と、
運転者の要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、
前記要求トルクに基づき、前記摩擦部材を移動制御して前記無段変速機構の変速比を設定する変速比制御手段と、
前記出力トルクが前記要求トルクとなるように、前記要求トルクと前記変速比とに応じて前記駆動源に出力させる駆動力を設定する駆動力制御手段と、
前記トラクションオイルの油温を判定する油温判定手段と、を備え、
前記変速比制御手段は、前記判定された油温が所定温度以下の場合に、変速比を所定変速比よりもダウンシフト側の範囲に制限する、
ことを特徴とする摩擦車式無段変速機。
【請求項2】
前記制限された変速比で前記出力トルクが前記要求トルクとなるように前記駆動源の駆動力を設定した場合に、前記判定された油温における前記摩擦部材の挟持圧に基づく摩擦接触の摩擦力が前記設定した駆動源の駆動力に対して不足することが判定された際に、前記摩擦力により伝達し得る駆動力以下に前記駆動源の駆動力を制限する駆動力制限手段と、を備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の摩擦車式無段変速機。
【請求項3】
前記油温判定手段は、前記摩擦部材に作用した伝達トルクとその作用した時間を加味して前記トラクションオイルの油温を判定する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の摩擦車式無段変速機。
【請求項4】
前記押付装置は、前記出力軸と前記出力側摩擦車との間に配置され、前記出力トルクに応じて前記押付力を発生させるトルクカムを有するトルクカム機構からなる、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載の摩擦車式無段変速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−7396(P2013−7396A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138577(P2011−138577)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】