説明

新規抗凝血組成物、それらを基にした血栓症疾患治療のための医薬組成品、および血液希釈による凝固亢進障害改善のための血漿代用液

本発明は、新規化学化合物、それらをもとにした抗凝血剤、医薬組成品および血漿代用液としてのこれら化合物の利用に関し、心筋梗塞、脳卒中、深部静脈血栓症、または肺動脈血栓塞栓症などの疾病における血栓塞栓性合併症を治療するため、および、負傷、手術、敗血症、種々の産科病態(obstetric pathologies)、災害医学(disaster medicine)、蘇生などの結果としての凝固亢進の進行を予防するために用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化学化合物、それらをもとにした抗凝血剤、医薬組成品および血漿代用液としてのこれら化合物の利用に関し、心筋梗塞、脳卒中、深部静脈血栓症、または肺動脈血栓塞栓症などの疾病における血栓塞栓性合併症を治療するため、および、負傷、手術、敗血症、種々の産科病態(obstetric pathologies)、災害医学(disaster medicine)、蘇生などの結果としての凝固亢進の進行を予防するために用いられ得る。
【0002】
生物の非常に数多くの多種にわたる病変(pathologies)が、止血系における障害によって、引き起こされている。心筋梗塞、脳卒中、深部静脈血栓症、または肺動脈血栓塞栓症などの疾病から進行する血栓塞栓性合併症における疾患によって引き起こされており、全世界で、主な死因になっている。よって、効果的で安全な臨床薬として機能し得る医薬品の開発に、長い間、鋭利努力が重ねられてきたことは驚きに値しない。とりわけ、これら医薬品は、様々な種類の抗凝血特性を示す抗血栓症剤である。
【0003】
トロンビンは、可溶性血漿タンパク質、フィブリノゲンを、不溶性フィブリン塊に転換する血液凝固系における中心酵素であり、同時に、この系において、血小板(thrombocytes)(血小板(platelets))、V、VIII、およびXIII因子並びにプロテインCを活性化して、正および負のフィードバックの大部分を作動させる。また、トロンビンは、内皮細胞の増殖、プラスミノーゲン活性因子の放出など様々な細胞や血管の反応を起こす。トロンビンが、多くの重要な生体制御事象にかかわっていることから考えて、トロンビンを、その活性中心で阻害することは、非常に効果的であるはずで、病生理学的状態(patho-physiological conditions)を制御するにあって非常に有望である。
【0004】
望ましくない血栓症を予防するために、止血系に係る、3つの主な方法がある。それら方法は、凝固系(clotting series)におけるセリンプロテアーゼの直接および間接阻害剤 (はじめに、トロンビンおよびXa因子)を使用すること、血小板の凝集特性を減じてさらなる凝固を防ぐ抗血小板製剤(GPIIb/IIIa拮抗剤、アスピリン、トロンビン受容体拮抗剤など)を使用すること、および、肝臓での凝固因子前駆体の合成を減じるビタミンK拮抗剤を使用することである。
【0005】
今日、3つの主な抗血栓症の製剤が、診療所で用いられている。未分画ヘパリン、経口抗凝血ワルファリン(ビタミンK拮抗剤)、および血小板凝集阻害剤としてのアスピリンである。しかし、これらの製剤は、各々、使用に制限があり、望ましくない副作用を生じる。
【0006】
未分画ヘパリン(UFH)は、天然の陰イオン性の多糖で、ウロン酸(L−イズロンおよび/またはD−グルクロン)残基およびD−グルコサミン残基から成る二糖類単位の繰り返しから構築される様々な長さの多糖鎖の混合物である。その分子量は、異なる供給源によって、3,000〜5,000から30,000〜40,000ダルトンまでと違ったものとなり、12,000から15,000ダルトンの間が主である(peaking)。
【0007】
未分画ヘパリンおよびその低分子量の類似体(低分子量ヘパリンまたはLMWH)は、間接抗凝血剤である。それらは、自身では、トロンビンを阻害せず、天然の血漿凝固阻害因子であるアンチトロンビン(ATIII)の効果を高めるのみである。従って、患者の血漿中のATIII含有量が、なんらかの理由で、非常に低い場合、ヘパリンは、弱い抗凝血性効果を示す。
【0008】
臨床で使用するにあたって、未分画ヘパリンには、多くの欠点がある。
1.未分画ヘパリンの効果は、短時間しか持続せず、その効果は、投薬を中止後、非常に急速に消滅し、UFHは、血栓症の再発危険を下げることができない。
2.ヘパリンは、その抗血栓症の効果を、間接的に示す。ともかく、少しでもその効果を示すには、系中に抗トロンビンが存在する状況で使用しなければならない。
3.ヘパリンは、循環しているトロンビンに対してのみ、活性があり、血塊に吸収されたトロンビンを、ほとんど阻害しない。
4.血漿中のATIIIレベル、個々の製剤注入速度、様々な血漿タンパク質や活性化血小板(血小板因子3、ヘパリナーゼなど)の影響下でのヘパリンの結合や中和(neutralization)など多くの理由から、同一量のヘパリンを投与しても、異なる患者によって、予期できない反応がある。このため、凝集系の状態を、頻繁な間隔で観察する必要がある。
5.出血性合併症の危険性および血小板減少症の可能性
6.長期間におよぶヘパリン治療(6か月超)の後や、十分に(sufficiently)高いヘパリン量(>15000ユニット)を服用した後に、合併症として骨粗しょう症を発症しやすい。
7.ヘパリンは、病院(hospital conditions)での静脈注射でのみでしか投与できない。
【0009】
(ワルファリン型の)ビタミンK拮抗剤も、間接凝固阻害剤である。凝固系においてこれら製剤が有する効果の機序は、肝臓でのビタミンK依存凝固因子の合成を効果的に阻止する能力によるものである。将来の(future)因子のN末端の翻訳後γカルボキシル化は、因子分子の合成に必須である。カルボキシル化は、因子分子が凝固する際、活性化した血小板の負に帯電したリン脂質表面に(Ca+2イオンを経て)結合し、その機能を発揮するために絶対に必要である。ビタミンKは、カルボキシル化の重要な補因子である。反応中、実際にカルボキシル化反応に係るヒドロキシキノンの形と酸化エポキシの形との間を交互にとる。ビタミンK還元酵素の効果のもと、エポキシの形が還元され、再度、カルボキシル化反応に、引き込まれ(drawn)得る。クマリン基中の製剤は、その還元を阻む。
【0010】
ワルファリンにも、いくつかの制限や欠点がある。第一に、治療に対して反応が遅い。投与後24時間で最初の反応がみられ、数日内で最大(full strength)に蓄積される。そのうえ、この製剤は、色々な食物成分と強く結合し、多くの薬剤と著しく重複する。また、ワルファリン代謝酵素の活性には、遺伝的多様性がかなりある。このことは、ワルファリンに対する応答に大きな個人差があることを説明しており、ワルファリンを受ける者に対してある種の食事制限や体系的な観察が必要であることを示唆している。
【0011】
前述したように、抗血小板製剤(アスピリン、GPIIb/IIIa拮抗剤など)は、血小板の完全な活性化や凝固反応の増強への寄与を妨害し、トロンビンの継続した生産を制限する。しかし、これらの薬剤は、すでに形成されているトロンビンの働きには作用しない。
【0012】
まとめると、上で概説した標準的な抗血栓症剤すべてには、それぞれ、固有の欠点がある。いくつかの薬剤は、直接トロンビン阻害剤ではなく、効果を発揮するためにアンチトロンビンIII(UFHまたはLMWH)が血漿中にあることが必要か、または、必須凝固因子の合成を阻害して、ゆっくりとしか、効果をださない(ワルファリンなど)。一方、他の薬剤(抗血栓症剤)は、すでに形成されたトロンビンに影響しない。このことは、同じ効き目をもち、標準的な薬剤がもつ多くの欠点をもたない「理想的な」阻害剤を求めて、集中的な探求が長年にわたって続けられてきたのがなぜかを説明する。
【0013】
この点で、抗凝血剤として作用する、小さな合成トロンビン阻害剤を開発する戦略は、非常に興味をそそる。これら阻害剤は、血中にあるトロンビンに素早い直接的な効果を及し、血漿中にATIIIが欠乏しても、急性の血栓性合併症の制御に効果的である希望を抱かせる。
【発明の概要】
【0014】
凝固系における新しい直接合成セリンプロテアーゼ阻害剤の戦略的な探求は、そのような阻害剤が、満足することが期待される次の要件に合うことに焦点を当てた。
− 標的酵素に対する高い親和性(すなわち、高い阻害効率)
− 他の関連するセリンプロテアーゼと比較して、標的酵素に対する高い選択性.
− 化学的、代謝的安定性
− 無毒性
− 血漿タンパク質との弱い(または非常に強くない)結合
− 経口で投与した場合の高いバイオアベイラビリティ(bioavailability)
− 薬剤の比較的長い半減期。これにより、経口投与の場合、血中の治療レベル(therapeutic level)が、1日1回または2回の薬剤服用で十分であり得るレベルに維持される。
− 薬剤レベルを、簡便にモニターする可能性
【0015】
低分子量トロンビン阻害剤の開発に専念した調査が、これを書いている時点で、数多く発表されている。(Shafer J. A., Cardiovascular Chemotherapy: Anticoagulants, Curr. Opin. Chem. Biol., 1998, 2:458-465; Steinmetzer T., Hauptmann J., Sturzebecher J., Advances in the Development of Thrombin Inhibitors, Exp. Opin. Invest. Drugs, 2001, 10(5):845-864; Edmunds JJ, Rapundalo ST, Siddiqui MA, Thrombin and Factor Xa Inhibition, Ann. Rep. Med. Chem., 1996, 31:51-60; Wiley M.R., Fisher M. J., Small Molecule Direct Thrombin Inhibitors, Expert Opin. Ther. Patents, 1997, 7:1265-1282; Hauptmann J, Sturzebecher J., Synthetic Inhibitors of Thrombin and Factor Xa: from Bench to Bedside, Thromb. Res., 1999, 93(5):203-241; Vacca JP., New Advances in the Discovery of Thrombin and Factor Xa Inhibitors, Curr. Opin. Chem. Biol., 2000, 4(4): 394-400)
【0016】
しかし、新規化学化合物をもとにした医薬を開発するには、その潜在的な薬効を見積もること加えて、薬剤の毒素学的性質やその遺伝への潜在的な影響を注意深く検査すること、その利用にあたって可能性のありそうにない(remote)結果を特定することが要求される。
【0017】
この目的は、緩衝水溶液中でトロンビン活性を減じる各阻害剤が、生物において血液凝固を制御する真の抗凝血剤としての役目をすることからほど遠いということで、複雑になっている。例えば、このことは、阻害機序に関連する。具体的に、もし阻害剤が競合的でないなら、たとえ、血漿トロンビンの活性中心がすべて100%が、そのような阻害剤に結合していたとしても、酵素活性は、完全に抑制されないであろう。残留トロンビン活性は十分に低いかもしれないが、天然のトロンビン阻害剤−ATIIIによって、血漿中で完全に抑制され得ない場合がある。これが起こるのは、阻害剤に結合した際の、ATIIIが活性トロンビン中心に近づくのを妨げ、トロンビン分子コンフォメーションのある種の改変のためである。結果として、血液は、長時間、残留トロンビン活性にさらされ続け、完全な(integral)凝血応答は、低下するどころか、増大する可能性さえある。見込みのあるトロンビン阻害剤が、凝固系の他の構成物(因子または凝固阻害剤)と反応する場合、系の究極の応答を、予め予測することも不可能である。阻害剤と種々の血漿タンパク質との間の強い結合は、所望の抗凝血効果を得るために生物に投与されなければならない量を著しく増加し得る。
【0018】
前述のことを考慮すると、トロンビンを阻害可能な、現在手に入る合成化合物の非常に多くのもののうち、唯一、日本で合成されたトロンビン阻害剤であるアルガトロバン(Argatroban)が、全ての必要なテストを通り、臨床で、事実上公認されてきたのはなぜかということが、明らかである。(米国特許第5,214,052号、1993;Schwarz R.P., The Preclinical and Clinical Pharmacology of Novastan (Argatroban), "NewAnticoagulants for the Cardiovascular Patient," Pifarre R., editor, Hanley and Belfus, Inc., Philadelphia, PA, U.S., 1997, pp. 231-249; Okamoto S, Hijikata A, Kikumoto R, Tonomura S, Hara H, Ninomiya K, Maruyama A, Sugano M, Tamao Y., Potent Inhibition of Thrombin by the Newly Synthesized Arginine Derivative No. 805. The Importance of Stereo-Structure of its Hydrophobic Carboxamide Portion, Biochem. Biophys. Res. Cornmun. 1981, 101(2):440-446)
【0019】
合成低分子量トロンビン阻害剤の中で新規の抗凝血剤を探求することは、引き続き、挑戦的な課題(defiant challenge)である。
【0020】
これら阻害剤は、種々の病変(pathologies)の結果、生物で発現する急性の血栓性疾患を直接的に治療する抗凝血剤として使用され得る。
【0021】
くわえて、凝固亢進を未然に防ぐために使用することもできる。本発明は、血漿中で抗凝血活性を示す合成低分子量トロンビン阻害剤を、標準的な血漿代用液に添加して使用することを提案する。
【0022】
診療所で頻繁に起こっている状況において、多量の失血が、迅速に人工血漿代用液(PSS)で置き換えられる必要がある。失血は、負傷、手術、敗血症、種々の産科病態(obstetric pathologies)、災害医学(disaster medicine)、蘇生などによって起こる。
【0023】
本発明は、次の目的を達成しようとしている。
1.動脈血圧および心拍出量を維持するよう循環血液量(VCB)を置き換える、血管虚脱を予防すること、血液の正常なレオロジー特性および、臓器や組織の正常なかん流を維持すること
2.血漿の正常な膠質浸透圧およびその酸−塩基平衡を維持すること
3.血液の酸素輸送機能および凝固系機能を維持すること
【0024】
はじめの2つの目的を達成するためには、多様な血漿代用液およびアルブミン溶液を輸液することが、一般的なやり方である。酸素輸送機能は、赤血球、改変ヘモグロビンまたはパーフルオラン(perfluorans)の酸素永続(oxygen-enduring)溶液を輸液することで満たされる。また、凝固系機能は、新鮮凍結血漿(FFP)、血小板濃縮物、濃縮プロトロンビン複合体因子または、個々の凝固因子を輸液することで維持される。
【0025】
人工血漿代用液は、晶質および膠質の2つのグループに分類される。第一のグループは、塩の溶液であり、(例えば、0.9%NaCl溶液、生理食塩水)であり、第二のグループは、高分子量ポリマー(デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、ゼラチン誘導体など)の添加剤を含む。
【0026】
標準的なPSSの多量に注入することは、これら溶液で血液を希釈することになる(血液希釈)。今日使用されている標準血漿代用液には、凝固因子や阻害剤を含むものがないため、血液希釈は血中の凝固系成分の濃度を下げることが既に示されている。多量の標準PSS輸液によって起こる血液希釈は、凝固系の平衡を損ない、凝固を増大させる。このようなことが起こるのは、適度な希釈では凝固速度にいかなる大きな影響を及ぼす濃度の減少を引き起こさない程度で、凝固因子の凝固を促進する前駆体が、血漿中に、かなり過剰の量で存在するにもかかわらず、希釈によってその系が凝固阻害剤の濃度の減少により敏感になるからである。多量のPSS輸液により起こる凝固亢進障害の可能性を改善するために、本出願人は、天然トロンビン阻害剤、アンチトロンビンIIIを含む新規のPSSを開発してきた。(2005年12月27日付の通知書によって、出願第2005140841号で公表されたロシア特許(Russian patent issued on Application No. 2005140841 by an Office Action of December 27, 2005))特許権が請求された溶液は、多量のPSS輸液によって起こる凝固亢進障害を部分的に改善することができる新しい世代の血漿代用液の先端(forerunner)を行くものである。アンチトロンビンIIIは、ヒトの血漿から抽出する必要がある天然のタンパク質であるため、この溶液は、最良の選択ではない。そういったことで、該溶液は、むしろ高価であり、薬剤がウィルス(HIV、肝炎ウィルスなど)に感染している可能性を除外しない。合成低分子量トロンビン阻害剤、抗凝血剤は、アンチトロンビンIIIの良い代替物であり得る。
【0027】
実際に、抗凝血性の役割(role)に利用する点で魅力的な化合物、すなわち、血液凝固を遅らせるおよび/また阻む能力のある化合物を、次の基準をもとに選択した。
1.物質は、トロンビン阻害剤である。すなわち、フィブリノゲン分子が分解され、トロンビンが触媒するアミド分解反応を防ぐ能力がある。
2.物質は、血漿中で、結合しない状態で十分な濃度存在するために、許容される物理化学的性質(親油性および親水性)を有しなければならない。言い換えれば、物質は、他の血液血漿タンパク質(アルブミン、グロブリンなど)と適度に結合しなければならない。
3.物質は、元来の治療効果をだすために、血漿中で、十分に長い半減期を有しなければならない。
【0028】
第一の基準に従った選択は、2つの工程でなされた。まず、一般構造式 (I)で表わされる構造を中心とする仮想ライブラリーを構築し、得られた構造を、トロンビン分子の活性中心にドッキングした。最も見込みのありそうなもの(「バーチャルヒット」)、つまり、スコアリング関数の読み取り値(ドッキング過程の間測定)で、少なくとも−5.0kcal/moleと同じと記録される分子が、第一工程の終了時に選択された。第二の選択工程は、トロンビンが、特異的な発光(または蛍光)基質を分解する、水性バッファー緩衝液中で、トロンビン活性に基づき前述のように選択された化合物の直接阻害効果を測定することを含んだ。基質分解反応速度は、阻害剤の存在下で鈍化した。十分に(sufficiently)に低濃度(<1mM)でも、60%を超えてバッファー緩衝液中でトロンビン活性を阻害した構造式(I)の化合物は、血漿中における新規化合物の抗凝血性効果についての、次の試験に選ばれた。
【0029】
生物において効果的な抗凝血剤であり得る新規トロンビン阻害剤の分子を次のように構築した。有益な薬物動態に寄与する、許容される物理化学的特性を、阻害剤分子に付与するために、親水性リンカー(linkers)を選ぶことによって、構造式(I)の分子の全体として疏水性の性質を、ある程度、失なわせる(balance off)ことが好ましい。また、同じ目的で、トロンビン分子のポケットS3に置かれた(deposited)疏水性断片を、溶媒にさらされた側にそのポケットに置かれた(deposited)親水性残基で改変することも可能である。
【0030】
血中での十分な半減期は、阻害剤構造を、化学的または生化学的過程で簡単に分解する不安定な化学基を含まないようにすることで得ることができる。例えば、エステル基が、そのような好ましくない基の例示である。
【0031】
結論として、上記の基準(時に矛盾するとしても)に最適に合う分子を、抗凝血剤としての化学合成や次の実験的試験に向けて、選択することができる。
【0032】
合成を行うかどうかは、推定される複雑さを考慮して、最終的に判断する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】血漿試料の活性トロンビン濃度と時間の関係を示す図である。
【図2】正常な血漿における血塊の成長の連続写真である。
【図3】凝固開始から異なる時間における成長欠塊の光分散分析結果を示す。
【図4】算出した、時間の対する血塊の大きさの割合を示す図である。
【図5】血漿凝固による蛍光基質とトロンビンとの間の分解反応における蛍光産物の蓄積に関して構築した曲線を示す図である。
【図6】図5の曲線を微分することによって測った、実験を通してのトロンビン濃度変化の動態分析結果(kinetic profiles)を示す図である。
【図7】トロンビン産生能の減少にともなって、トロンビン生成曲線上の最大の点に達するのに要する時間を示す図である。
【図8】系中の阻害剤濃度の増加にともなって、トロンビン生成曲線上の最大の点に達するのに要する時間を示す図である。
【図9】凝固が初期の通常の血漿中で進行している間の記録された光分散分析結果(profiles)を示す。
【図10】凝固が1mcMのこの化合物HC−025s−IOCの存在する同じ血漿中で進行している間の記録された光分散分析結果(profiles)を示す。
【図11】コントロール血漿、および1mcMの化合物HC−025s−IOCの存在する血漿の、時間に対する凝固の大きさ(血塊が広がる活性剤からの距離)の成長を示す。
【図12】様々な阻害剤濃度を含むNaCl(0.9%)溶液で希釈した、一連の血漿希釈液におけるETP測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
特に他に指示がない限り、 次の定義が、本明細書において用いられる。
【0035】
活性中心とは、生化学反応において鍵となる役割を果たすタンパク質高分子の領域である。
【0036】
タンパク質とは、タンパク質高分子を意味する。
【0037】
標的タンパク質とは、結合過程に係るタンパク質高分子を意味する。
【0038】
リガンドとは、低分子量の化学構造物の集団(collections)を意味する。
【0039】
結合過程とは、リガンドと標的タンパク質の活性中心との間の、ファン・デル・ワールス力または共有結合による複合体の形成を意味する。
【0040】
スクリーニングとは、タンパク質高分子の特定の領域に選択的に反応する化学的構造物の集団の中で、化合物の集まり(set)を同定することを意味する。
【0041】
位置修正(correct positioning)とは、リガンド−タンパク質複合体の最小の自由エネルギーに対応する位置にリガンドを置くために位置調整をすることである。
【0042】
選択的リガンドとは、特定の標的タンパク質に選択的な方法で結合しているリガンドを意味する。
【0043】
対照タンパク質とは、実験データを踏まえて、または施されている系の検証の際に、モデル計算(スコア)のパラメータを調整するために、若しくは、特定の阻害剤の結合特異性を評価するために用いられるタンパク質を意味する。
【0044】
検証(validation)とは、施されている系の質、および所与の標的タンパク質に確実に結合しているリガンドの任意の集まり(random set)からリガンドを選択する効率を評価する一連の計算および比較のやり法を意味する。
【0045】
特異的に結合するリガンドとは、特定のタンパク質にのみ結合し、他のタンパク質には結合しないリガンドを意味する。
【0046】
阻害剤とは、特定の標的タンパク質の活性中心に結合し、生化学反応の通常の進行を妨げるリガンドを意味する。
【0047】
ドッキングとは、タンパク質の活性中心において、リガンドの位置を調整することを意味する。
【0048】
スコアリングとは、リガンドをタンパク質に結合するために要する自由エネルギーを評価、算出することを意味する。
【0049】
結合自由エネルギー(ΔG binding)とは、リガンドを標的タンパク質に結合するのに要する、結果として生じる(resulting)自由エネルギーの(SOLソフトウェアを用いて)計算された正の変化値(calculation gain)を意味する。
【0050】
C1〜C6アルキル基とは、炭素数が1から6の非分岐または分岐炭化水素鎖を含むアルキル基を意味する。例えば、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチルなどが挙げられる。
【0051】
C1〜C6アルコキシ基とは、炭素数が1から6の非分岐または分岐の炭化水素鎖を含むアルコキシ基を意味する。例えば、メトキシ、エトキシ、n‐プロポキシ、イソプロポキシなどが挙げられる。
【0052】
ハロゲンとは、塩素、臭素、ヨウ素あるいはフッ素を意味する。
【0053】
薬理学的に許容される塩とは、毒性を呈したり、活性化合物の吸収および薬効を阻害する場合を除き、構造式(I)の活性化合物により作られた任意の塩を意味する。このような塩は、構造式(I)の化合物、および、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、メチルアミン、エチルアミンなどの有機または無機塩基との間の反応によって作られる。
【0054】
溶媒和物とは、構造式(I)の活性化合物の結晶形態であり、その結晶格子が、水の分子、または構造式(I)の活性化合物が結晶化する他の溶媒の分子を含む結晶形態を意味する。
【0055】
薬理学的に許容される担体とは、組成物の他の成分と混合可能で、受け手に害を及ぼさない、すなわち、その使用量や使用濃度において細胞または哺乳類に対して無毒でなければならない担体を意味する。しばしば、薬理学的に許容される担体は、水性のpHバッファー溶液である。生理学的(physiologically)に許容される担体として、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、その他の有機酸塩、アスコルビン酸、低分子量(10残基未満)のポリペプチドを含む抗酸化剤、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸、グルコース、マンノースまたはデキストリンなどの単糖類、二糖類および他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、並びに、マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコールを基にした溶液などのバッファーが挙げられる。
【0056】
治療有効量とは、哺乳類生物において、所望の程度のトロンビン阻害を達成するために必要な量を意味する。
【0057】
ここで用いられる意味において、哺乳類は、霊長類(例えば、人間、類人猿、非類人猿およびより下等の猿)、捕食動物(例えば、猫、犬および熊)、げっ歯動物(例えば、マウス、ラットおよびリス)、食虫植物(例えば、トガリネズミとモグラ)などを含む。
【0058】
出願人が定めた実際の目的(practical task)は、高い抗凝血活性を示す新規の低分子量化合物を開発することによって達成される。
【0059】
出願人は、一連のそのような高い抗凝血活性を示す新規の低分子量化合物、具体的に、一般構造式(I)の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物を、記述する。
A−B−C (I)
式中、Cは、次の構造を含む群から選ばれる、
【0060】
【化1】

【0061】
式中、R、R、R、およびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基であり、Bは、−(CH−、nは1〜5の整数であり、Aは、次の構造を含む群から選ばれる、
【0062】
【化2】

【0063】
式中、Rは、水素、C〜Cのアルコキシ基、CHNR1011、およびCH(CH)NR1011を含む群から選ばれ、
【0064】
【化3】

【0065】
式中、RおよびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基またはハロゲンであり、
は、水素または、C〜Cのアルキル基であり、
は、次からなる群から選ばれる、
【0066】
【化4】

【0067】
式中、R10およびR12は、互いに独立して、水素、C〜Cのアルキル基、(CHCOOR13、および(CHCON(R13をからなる群から選ばれ、
【0068】
【化5】

【0069】
式中、mは、1から4の整数であり、
13は、水素またはC〜Cのアルキル基
11は、C〜Cのアルキル基、またはAr
Arは、水素、C〜Cアルキル基、C〜Cアルコキシ基、ハロゲン,N(R13、OH、NO、CN、COOR13、CON(R13およびSO13の群から選ばれた1から5つの置換基をもつ、フェニル、ピリジル、オキサゾリル、チアゾリル、チエニル、フラニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、インドリル、ベンゾフラニル、またはベンゾチオフェニルである。
次は、例外とする。
【0070】
【化6】

【0071】
この羅列(List)から除かれた化合物は、既に知られており、特に、4−アミノ−l−[3−[(2−メチルフェニル)アミノ]−3−オキソプロピル]ピリジニウムクロライドは、Journal of Medicinal Chemistry, 17(7), 739-744, 1974, in "Carbocyclic Derivatives Related to Indoraminに記載されており、4−アミノ−l−(2−フェノキシエチル)−ピリジニウムブロマイドは、Journal of Organic Chemistry, 26, 2740-7, 1961, in "Application of Sodium Borohydride Reduction to Synthesis of Substituted Aminopiperidines, Aminopiperazines, Aminopyridines And Hydrazinesに記載されている。しかし、これらの出典が、記載された化合物がトロンビン阻害剤として使用できるかどうかに触れていないことは、特筆に値する。
【0072】
本発明の好ましい実施態様は、次の請求項1の化合物、および薬理学的に許容される塩または溶媒和物を記載する。
【0073】
【化7】

【0074】
式中、Yは、水素、ハロゲン、COOR13、CON(R13およびSO13からなる群から選ばれ、
rは、2から5の整数である。
【0075】
本出願は、様々な血栓性状態の治療および予防のための抗凝血剤としての、請求項1の化合物、並びに、その薬理学的に許容される塩および溶媒和物の投与、並びに、請求項1で請求された化合物、並びに/若しくは、その薬理学的に許容される塩および/または溶媒和物、および薬理学的に許容される担体の治療有効量を含む、血栓性状態の治療および予防のための医薬組成物も記述する。
【0076】
本出願は、請求項1の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物を、抗凝血剤として含む投新規血漿代用溶液(PSS)を記述する。この液は、請求項1の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物を、標準的な血漿代用液に添加することによって調製される。添加抗凝血剤の濃度は、 その阻害力により、異なる化合物よって(0.01nMから1mMまでの)広い範囲内でかえることができる。抗凝血剤含有液は、ある程度、凝固因子、より重要には、凝固阻害剤を含まない標準的な血漿代用液の多量の輸液の結果、生物において進行する凝固亢進障害を改善することができる。人工合成低分子量抗凝血剤を含む新規PSSは、天然のトロンビン阻害剤、ATIIIを含む同様の溶液より、有利に優れている。その理由は、新規PSSは、高価な天然タンパク質(ATIII)に代わって、より低価格の標準阻害剤を含み、PSSを輸液する際、ウィルス感染の脅威をもたらさないからである。
【0077】
本発明の化合物は、血中に生体蓄積がおこるように、任意の適切なやり方で投与される。投与は、静脈、筋肉、皮内、皮下、また腹腔内注射といった非経口投与の方法でなされる。適切な組成物を経口で服用することによる、消化管を通した吸収など、他の投与方法も用いられ得る。使用が簡単なため、経口服用が好ましい。或いは、この薬剤は、膣および肛門筋肉組織を通して投与し得る。さらに、本発明の化合物は、皮膚を通して(例えば、経皮的に)注入、または、吸入することによって投与し得る。当然のことながら、好適な投与方法は、患者の病状、年齢、感受性による。
【0078】
経口服用用に、医薬組成品を、結合剤(例えば、解膠トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリジノン、または、ヒドロキシプロピル メチルセルロース)、賦形剤(例えば、乳糖、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、トーク酸化物(talk oxide)あるいは酸化シリコン、ジャガイモデンプンまたはでんぷん質のグリコール酸ナトリウム)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬理学的に許容される添加物とともに、例えば、錠剤またはカプセル剤に包み込むことができる。錠剤を、コートしてもよい。液体経口組成物は、溶液、シロップ、または懸濁液の形に、調製することができる。そのような液体組成物は、懸濁剤(例えば、セルロース誘導体)、乳化剤(例えば、レシチン)、希釈剤(精製植物油)および保存料(例えば、メチルまたはプロピル−n−ヒドロキシベンゾエート、ソルビン酸)などの薬理学的に許容される添加物を用いる一般的な方法により得ることができる。組成物は、また、適当な緩衝塩、香料、色素および甘味料を含んでもよい。
【0079】
これらトロンビン阻害剤の毒性を、実験動物で、標準的な製薬学的手順を用い、LD50(個体群の50%に対する致死量)で測定した。本発明の好ましい化合物に対して、LD50量は、367mg/kgを超えており、これは、臨床試験を終えているアルガトロバン(LD50=475mg/kg)の致死量と矛盾がない(consistent)。
【0080】
本発明の主題を、より理解しやすいようにするため、次に、新規化合物の生成、これら化合物の凝血活性を検討するために用いれれた方法、およびその結果を説明するいくつかの例を示す。実施例は、例示であり、本発明の発想(idea)を下記の例の範囲に制限するものではない。
実施例1
中間生成物である3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェノールの合成
【0081】
【化8】

【0082】
3.8g(27mmol)のオルシン水和物、4.8g(30mmol)の1−ブロモ−3−クロロプロパンおよび4.0g(29mmol)の炭酸カリウムの混合物を、30mlのアセトニトリル中で攪拌しながら36時間、煮沸した。次に、この反応混合物を蒸発し、30mlのエーテルに溶解し、15mlの炭酸カリウムの飽和溶液で2回洗った。水層を捨て、エーテル層を、15mlの10%水酸化ナトリウム溶液で、3回抽出した。エーテル層を捨て、水層を注意深く濃HClで酸性にし、15mlのエステルで3回抽出した。エーテル抽出物を合わせ、少量の炭酸水素ナトリウムの飽和溶液で洗った。無水硫酸ナトリウムで乾燥し,約3分の1体積部のヘキサンで希釈し、シリカゲルの層を通してろ過した。蒸発することにより、1.7gの黄色の油、約70%のオルシン(Rf0.10)および約30%の3−(2−クロロプロポキシ)−5−メチルフェノール(Rf0.26、収量 約1.2g(純粋な基質あたり(per pure substance)22%)の混合物を得た。
【0083】
同様の方法を用いて、オルシン水和物およびl−ブロモ−2−クロロエタンから3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェノール(Rf0.26、収量 約1.1g(純粋な基質あたり(per pure substance)20%)を、生成し、オルシン水和物およびl−ブロモ−4−クロロブタンから3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェノールを得た。
【0084】
実施例2
中間生成物であるベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステルの合成
【0085】
【化9】

【0086】
2.05g(10mmol)のベンゼンスルホクロライドおよび1.1g(11mmol)のトリエチルアミンを、30mlの乾燥テトラヒドロフラン(THF)に1.3gの実施例1Aの混合物を溶かした溶液に加えた。混合物を6時間攪拌し、トリエチルアミン塩酸塩の沈澱をろ過して除き、蒸発させた。得られた油を、20mlのエーテルに溶解し、10mlの10−12%アンモニア水溶液で数回洗い、過剰な未反応ベンゼンベンゼンスルホクロライドを分離し(薄層クロマトグラフィー(TLC)によってコントロール)、次に、10mlの約20%の塩酸で洗った。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発することにより、目的生成物とジベンゾイルスルホン酸オルシンの約2:1の割合の混合物である淡黄色の油を2.4g得た。純粋な目的生成物換算の収量は1.6gであった。(反応から97%)(Merck plate 60によるTLC、 ヘキサン−酢酸エチル 2:1、Rf0.35−生成物、Rf0.25−ジベンゼンエステル不純物)
【0087】
同様にして、3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェノール、3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェノール、および3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェノール並びに適当なアリルスルホクロリドから、次を得た。
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル(純粋な基質あたり(per pure substance)77%)、
2−ベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル(60%)、
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル(56%)、
ベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(72%)、
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(35%)、
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(34%)、
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(37%)、
ベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(45%)、
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(27%)、
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(32%)、
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(21%)
実施例3
中間生成物である2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステルの合成
【0088】
【化10】

【0089】
2g(13mmol)のか焼(calcined)ヨウ化ナトリウムを、30mlの乾燥アセトン中の先の実験(2A)の混合物2.4gに加え、27時間煮沸した。次に、この反応混合物を、10mlのヘキサンに希釈し、ろ過し、蒸発した。得られた暗黄色の油を20mlのエーテル−ヘキサン混合物(2.3g)に溶解し、シリカゲル層(2cm、Lancaster)を通してろ過し、蒸発した。結果は、2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(Rf0.35)と個々のオルシンのジベンゾイルスルホン酸エステル(Rf0.25)を含む2.45gの黄色の油であった。
【0090】
同様の技法を用いて、適当な塩化物を、次に加工した。
ベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル
ベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
ベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニル エステル
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニルエステル
実施例4
4−アミノ−l−(3−(3−メチル−5−(2−フルオロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル)−ピリジニウムイオダイド(HC_029c_IOC)の合成
【0091】
【化11】

【0092】
10mlの乾燥ジオキサン中に、0.65gの(実施例3Aからの)「未加工のヨウ化物(raw iodide)」(70%の活性物質に対して計算)と0.09g(0.95mmol)の4−アミノピリジンを混ぜたものを、20時間、煮沸した。混合物を冷却した後、溶液を蒸発し、得られた油を、固体になるまで、少量のエーテルで砕いた。固体沈澱をろ過し、ジオキサンとアセトニトリル(5:1)の混合物から、再結晶した。塩沈澱を、ろ過で取り、エステルで洗った。
真空乾燥することにより、同定されない不純物を約4〜5%含む淡いベージュの塩、0.4g(72%)を得た。その物質を同じ系から再結晶し、不純物を取り除いき、0.25gの薄い色の粉末を得た。
【0093】
同様の技法を用いて、適当なヨウ化物および複素環式化合物、チオ尿素およびチオ尿素誘導体を加工して、次を得た。
4−アミノ−1−(3−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル)−ピリジニウムイオダイド(HC_016s_IOC)
【0094】
【化12】

【0095】
【数1】

【0096】
2−アミノ−1−(3−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル)−チアゾリウムイオダイド(HC_017s_IOC)
【0097】
【化13】

【0098】
【数2】

【0099】
3−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_018s_IOC)
【0100】
【化14】

【0101】
【数3】

【0102】
4−アミノ−1−(2−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル)−ピリジニウムイオダイド(HC_019s_IOC)
【0103】
【化15】

【0104】
【数4】

【0105】
2−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_020s_IOC)
【0106】
【化16】

【0107】
【数5】

【0108】
2−(3−メチル−5−(2−クロロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_024s_IOC)
【0109】
【化17】

【0110】
【数6】

【0111】
3−(3−メチル−5−(2−クロロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_026s_IOC)
【0112】
【化18】

【0113】
【数7】

【0114】
4−アミノ−1−(2−(3−メチル−5−(2−クロロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル)−ピリジニウムイオダイド(HC_025s_IOC)
【0115】
【化19】

【0116】
【数8】

【0117】
同様の方法で、実施例1〜4に記載の技法によって、様々なアリールスルホニル塩化物および複素環式スルホニル塩化物から、化合物を合成した。合成した化合物の化学式、質量分析パラメーター、および算出したスコアリング関数を表1に示す。それら化合物は、ヨウ化物、臭化物、塩化物、または他の塩の形で得られる可能性がある。
【0118】
実施例5
化合物の合成
【0119】
【化20】

【0120】
1.4−クロロ−3−ニトロベンゼン−1−スルホニルクロライド
o−ニトロクロロアニリン(15g)を30mlのクロロスルホン酸に攪拌しながら加え、100°Cで2時間加熱した。引き続き、110°Cで2時間、さらに、127°Cで5時間加熱した。反応混合物を、室温まで冷却し、砕いた氷(140g)に注いだ。沈澱をろ過し、ろ過ケーキを氷水で洗い、風乾した。収穫物は、15gの4 クロロ−3−ニトロベンゼン−1 スルホニルクロライドであった。
2.4−クロロ−N−メチル−3−ニトロ−N−フェニルベンゼンスルホンアミド
【0121】
【化21】

【0122】
4−クロロ−3−ニトロベンゼン−l−スルホニルクロライド(10.6g、0.041mol)を、トルエン(50ml)に溶解し、次いで、トリエチルアミン(4.14g、0.041mol)を加えた。得られた溶液に、N−メチルアニリン(4.4g、0.041mol)を攪拌しながら加えた。反応混合物を70〜80°Cで1時間、インキュベートした後、冷却した。冷した溶液を、30mlの水で2回洗い、真空下で濃縮した。残留物を、エタノールから再結晶化した。4−クロロ−N−メチル−3−ニトロ−N−フェニルベンゼン スルホンアミドの収量は、9.4g(61%)であった。
3.N−メチル−4−(メチルアミノ)−3−ニトロ−N−フェニルベンゼンスルホンアミド
【0123】
【化22】

【0124】
4−クロロ−N−メチル−3−ニトロ−N−フェニルベンゾイルスルホンアミド(9.4g、0.029mol)のエタノール溶液(50ml)を、25mlの40%メチルアミン水溶液と混ぜた。反応混合物を、70°Cに熱し、この温度で1時間攪拌した。冷却、ろ過した後、ろ過ケーキをエタノールで洗い、60°Cで乾燥した。N−メチル−4−(メチルアミノ)−3−ニトロ−N−フェニルベンゾイルスルホンアミドの収量は、9.0g(97%)であった。
4.3−アミノ−N−メチル−4−(メチルアミノ)−N−フェニルベンゼンスルホンアミド
【0125】
【化23】

【0126】
N−メチル−4−(メチルアミノ)−3−ニトロ−N−フェニルベンゾイルスルホンアミド(9g、0.028mol)をイソプロパノール(90ml)に溶解した。この溶液に、ヒドラジン水和物(11ml)、活性炭(2g)およびFeCl6HO(10mlのエタノール中に、0.5 g)を加えた。反応混合物を、8時間煮沸した。炭(charcoal)を、ろ過して除いた。ろ液を、蒸発乾固した。3−アミノ−N−メチル−4−(メチルアミノ)−N−フェニルベンゼンスルホンアミドの収量は、8.1g(99%)であった。
5.3−クロロ−N−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニル)プロパンアミド
【0127】
【化24】

【0128】
氷上で冷やした(〜5°C)、3−アミノ−N−メチル−4−(メチルアミノ)−N−フェニルベンゼンスルホンアミド(5.4g、0.018mol)およびトリエチルアミン(1.81g、0.018mol)のジメチルホルムアミド(16ml)溶液に、クロロプロピオニルクロライド(2.32g、0.018mol)を加えた。室温で、5時間、攪拌しながら反応した。その後すぐに、水(14ml)とアセトニトリル(5ml)を、5時間加えた。生じた沈澱をろ過した。3−クロロ−N−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニル)プロパンアミドの収量は、3.1g(45%)であった。
6.4−アミノ−1−(3−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニルアミノ)−3−オキソプロピル)ピリジニウムクロライド
【0129】
【化25】

【0130】
3−クロロ−N−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニル)プロパンアミド(1g、0.0026mol)および4−アミノピリジニウム(0.73g、0.0078mol)を、無水アセトン(50ml)中で50時間、煮沸した。残留物をろ過し、アセトニトリルとエタノールを10:1で混合したものから、結晶化した。4−アミノ−1−(3−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニルアミノ)−3−オキソプロピル)ピリジニウムクロライドの収量は、0.54g(43%)であった。
7.4−アミノ−1−(2−(1−メチル−5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)エチル)ピリジニウムクロライド
【0131】
【化26】

【0132】
アセトニトリル(8ml)に4−アミノ−l−(3−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニルアミノ)−3−オキソプロピル)ピリジニウムクロライド(0.2g、0.00042mol)を入れた懸濁液に、塩化チオニル(0.2ml)を加えた。反応混合物を10分間煮沸した後、室温で24時間放置し、ジエチルエーテル(8ml)で希釈した。生じた沈澱を、ろ過して回収し、アセトニトリルと無水エタノールを10:1で混合したものから、結晶化した。4−アミノ−l−(2−(l−メチル−5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−lH−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)エチル)ピリジニウムクロライドの収量は、0,055g(26%)であった。
【0133】
同様にして、実施例5に記載の技法によって、様々な化合物を合成した。それらの化学式、質量分析のパラメーター、および算出したスコアリング関数を表2に示す。化合物は、ヨウ化物、臭化物、塩化物、その他の塩の形で得られる可能性がある。
【0134】
実施例6
合成化合物の止血への効果の評価
ここで、新規合成化合物が存在する場合の凝固系の状況を、トロンビン凝固時間(TT)を測定する標準凝固試験、および2つの新しいインビトロ試験(空間での(in space)トロンビン生成および血塊成長速度の測定)を用いて、を評価した。内部または外部経路(internal or external path)での最大凝固活性のバックグランドに対して行い、この理由から、検討される系で凝固亢進状態を検出できない、凝固時間 (TT)を測定する標準試験と異なるので、これらの試験は、生物中で存在する活性に近い、顕著に低い初期活性で実施された。これにより、検討された血漿試料の低凝固および凝固亢進ともに探知できる。
【0135】
トロンビン時間測定
トロンビン凝固時間試験は、一連の凝固反応、すなわち、系に加えられたトロンビンの効果で、血漿フィブリノゲンが不溶性のフィブリン塊への転換の最後である。定まった量の標準的に活性化したレベルにあるトロンビンを、3.8%クエン酸ナトリウム(pH=5.5)で調製した(血液対クエン酸比率=9:1)で調製した血液を遠心分離(1,300gで15分間)して得た貧血小板血漿(PPP)に加えた。この試験で測定される凝固時間は、血中にあるトロンビン阻害剤の数に依存する。強力なトロンビン阻害剤が、系中にある場合、加えられた酵素の活性を減じ、凝固を遅らせて、凝固時間が、長くなった。
【0136】
トロンビン時間は、標準的な方法(Z.S. Barkagan, A.P. Momot, "Diagnostics and Controlled Therapy of Hemostatic Disorders," Newdiamed, Moscow, 2001, pp. 87-89) で、測定された。具体的に、水槽で3分間37℃に熱したPPPの90 マイクロリットルを、血小板凝集測定装置(Biola社、ロシア)のキュベットに入れ、次いで、10マイクロリットルの試験基質とバッファーの混合物(キュベット中の異なる化合物よって0.005mMから5mMまでの終濃度)および100マイクロリットルのトロンビン溶液(コントロール結晶の活性によって標準化)を加えた。凝固時間を測定し、3回の独立した実験から、結果を平均した。
【0137】
内在性トロンビン潜在能の測定(トロンビン生成試験)
多くの論文で、この方法は詳細に記述されている。(Hemker HC, Giesen PL, Ramjee M, Wagenvoord R, Beguin S. The thrombogram: monitoring thrombin generation in platelet-rich plasma. Thromb. Haemost, 2000; 83(4): 589-591; Hemker HC, AlDieri R, Beguin S. Thrombin generation assays: accruing clinical relevance. Curr. Opin. Hematol., 2004, ll(3):170-175; Hemker HC, Giesen P, AlDieri R, Regnault V, de Smed E, Wagenvoord R, Lecompte T, Beguin S. The calibrated automated thrombogram (CAT): a universal routine test for hyper- and hypocoagulability. Pathophysiol. Haemost. Thromb., 2002, 32(5-6):249-253)この試験は、試料中における標準的な凝固活性レベルにおける、ある定まった時間内での血漿試料中で精製された活性トロンビンの動態および全量を測定するために用いられる。この出願人らの方法は、トロンビンによって分解され際に、高い蛍光性をもつ産物を生じる、ゆっくりと作用する蛍光基質(BOC−Ile−Gly−Arg−AMC)を用いて、トロンビン濃度を測定するのに適している。発行物質よりも蛍光物質を使用することは、蛍光レベルが、測定する細胞中で、形成された固体フィブリン塊にほとんど影響を受けないことによって、決定される。しかし、これは、発光物質の利用を制限する条件(qualification)である。(Hemker HC, Giesen P, AlDieri R, Regnault V, de Smed E, Wagenvoord R, Lecompte T, Beguin S. The calibrated automated thrombogram (CAT): a universal routine test for hyper- and hypocoagulability. Pathophysiol. Haemost. Thromb., 2002, 32(5-6) :249-253)他方、試料中のトロンビンの大部分(約95%)は、はじめの塊が形成された後に生じることは、一般的な知識である。(Hemker HC, AlDieri R, Beguin S. Thrombin generation assays: accruing clinical relevance. Curr. Opin. Hematol., 2004, ll(3):170-175)
【0138】
トロンビン生成および凝固活性化後の血漿中での最終的な消滅の動態を、図1に示す。図1は、血漿試料の活性トロンビン濃度と時間の関係を明らかにしている。トロンビン生成時間曲線の下の面積(本発明では、インキュベーション0分から50分)は、内在性トロンビン産生能(ETP)と呼ばれる。曲線は、tmax、試料中のトロンビンが、最大濃度に達する時間、Amax、系の最大トロンビン濃度、およびtlag通常、トロンビンが5nMの濃度に達する時間である、凝固開始前の時間によって、さらに特徴付けされる。
【0139】
明らかに、重要な凝固についての情報は、時間に対するトロンビン濃度曲線の形および積分ETPレベルに含まれる。具体的に、低い因子濃度および凝固阻害剤濃度のバックグランドに対して、全ETPは全く変化ないかもしれないが、トロンビン濃度最大値は低く、幅広くなり得る。血漿中にさらにトロンビン阻害剤が存在すると、ETPおよび得られうる最大トロンビン濃度は減少し、凝固遅れ(lag)およびトロンビンが最大濃度に達するのに要する時間は増加するはずである。
【0140】
測定は、次のようになされた。90マイクロリットルの健常な提供者の血漿 (PPP)、0〜20マイクロリットルの試験基質溶液、および20〜0マイクロリットルのバッファー溶液(20mMのHEPES、140mMのNaCal、pH7.5)を、96穴ボード(board)の穴部に、添加した基質およびバッファーの全量が常に20マイクロリットルになるように入れた。直ちに、20マイクロリットルの蛍光基質溶液(初期濃度5mM)をボードの各穴部に加え、血漿を37℃で3分から5分熱した。次に、25マイクロリットルの凝固活性化溶液を、すべての穴部に(マルチチャネルピペットを用いて)、同時に加えた。プロトロンビン時間(PT)測定用に、80mMのCaClをさらに含む同じバッファーを用いて原液濃度を1:250に希釈した標準トロンボプラスチン試薬から調製したトロンボプラスチン溶液(RENAM、ロシア)を活性剤として用いた。活性剤を加えた時間を、時間計測の開始とした。蛍光反応生成物蓄積(AMC)の動態を60分間記録した。各時間における生成物蓄積時間は、その時点の血漿中のトロンビン濃度 に比例する。AMC蓄積曲線を微分して、時間に対する系中のトロンビン濃度の割合を測定することができ、その結果、曲線を特徴付けるパラメーターを測定することができる。各試料に対して、これら血漿試料で既知のAMC濃度のシグナル(signals)に基づいて、シグナル(signal)を修正することによって、従来の蛍光単位を、絶対AMC濃度に換えた。予め、この方法の直線性を、AMC濃度の広い範囲にわたって、テストした。
【0141】
空間での(in space)血塊成長速度の測定
空間での血塊成長速度は、時間をかけて空間にわたって進行する過程である凝固の動態について表す。この方法は、いったん凝固が開始し、異なる時間における血塊の大きさを決めるために、光分散を測定する。凝固は、空間に正確に位置された活性剤によって、攪拌することなしに、系において活性化される。或いは、活性剤は、内部経路(internal path)で接触活性化を引き起こす、接地した端(ground edge)を有する簡単なガラス板、または、外部経路(external path)で凝固を活性化する組織因子をその表面に付与する、線維芽細胞をコートしたポリエチレンテレフタル酸エステル膜であった。外部経路(external path)で凝固が活性化された場合、トウモロコシトリプシン阻害剤を、初期血漿に、濃度200mkg/ml で加え、系における接触凝固活性化を防止した。測定は、PPPを10,000gで10分間、さらに遠心分離して得た無血小板血漿(PFP)で行った。
【0142】
マイクロカメラを、35mmのポリスチレンペトリ皿に設置した。凝固を、外部経路(external path)で活性化したとき、線維芽細胞が増殖した、1mm厚のガラス板の端をポリエチレンテレフタル酸エステル膜で包んだ。次に、ガラス板を、ペトリ皿の底部に両面テープで固定した。ガラス板の端は、活性剤でコートされたマイクロカメラの側端として役目を果たす。同様に、外側を黒色の塗料で覆われ、ガラス板の端を超えて伸びているポリスチレン板を、ガラス板の上部表面に貼り、マイクロカメラの上部表面を規定した。見込みのあるトロンビン阻害剤を含有するまたは含有しない、カルシウム再加無血小板血漿(添加CaCl最終濃度20mM)を、上部板とカメラ底部の間に注意深く注ぎ、凝固活性化壁に接触することを避けた。血漿が、活性剤と接触した瞬間を、t=0とした。ペトリ皿を、しっかりと密閉し、透明底の恒温37℃キュベットに入れた。透明底を通して、皿の血漿を赤色ダイオード光(波長660nm)で照射した。常置の(permanent)マイクロカメラ領域(area)(7.2x5.4mm)の画像を、30秒毎に画像取り込みプレートEZ98(ライフビュー社(Lifeview Inc.)、米国)につなげたビデオカメラOS−75(Mintron Enterprise、台湾)で記録し、デジタル化、およびビデオカメラから画像コンピューターのメモリーに入力した。
【0143】
実験開始から様々な時間に相当する光分散分析結果(profiles)を、一連の記録画像を加工することによって得た。血塊が成長するにつれて、血塊が、活性剤表面から血漿に広がっていた。各コマにおける血塊の大きさを、活性剤から、光分散が最大値の半分である点であると仮定された血塊端までの距離として測定した。次に、血塊成長速度を、時間に対する血塊の直線の傾斜角の正接として、見出した。この方法は、次の論文に、より詳しく記述されている。Ovanesov MV, Krasotkina JV, Ul'yanova LI, Abushinova KV, Plyushch OP, Domogatskii SP, Vorob'ev AI, Ataullakhanov FI. Hemophilia A and B are associated with abnormal spatial dynamics of clot growth. Biochim. Biophys. Acta, 2002, 1572(l):45-57; Ovanesov MV, Lopatina EG, Saenko EL, Ananyeva NM, Ul'yanova LI, Plyushch OP, Butilin AA, Ataullakhanov FI. Effect of factor VIII on tissue factor-initiated spatial clot growth. Thromb. Haemost, 2003, 89(2):235-242
【0144】
図2は、正常な血漿における血塊の成長の連続写真を示す。(左のバンドはガラス活性剤で、フィブリンは、明るい領域で明らかにされている。)最初のコマは、活性剤に直交したバンドを示す。そこで、光分散分析結果(profiles)が産算出された。
【0145】
凝固開始から異なる時間における成長欠塊の光分散分析結果(profiles)を、図3に示す。
【0146】
アウトプット(output)加工段階の最後は、得られた光分散分析結果(profiles)をもとに、血塊成長速度を算出することである。各時間における血塊の大きさを、活性剤からの個々の光分散分析結果(profile)の距離として(最大分析結果高(maximum profile height)の半分のところで)算定した。図4は、算出した、時間の対する血塊の大きさの割合を示す。血塊の準定常(quasi-stationary)成長速度を、その曲線の直線部分の傾斜角から算出した。
【0147】
行った試験は、本出願で特許権が請求されている新規合成化合物が、抗凝血特性を有する、すなわち、新規合成化合物が、血漿凝固を遅らせることを示している。
【0148】
血漿中に様々な濃度の化合物HC−020s−IOCが存在する場合のトロンビン生成試験で測定された所定のパラメーターの変化を、実施例を使って、次に再検討した(表3を参照のこと)。図5は、血漿凝固による蛍光基質とトロンビンとの間の分解反応における蛍光産物の蓄積に関して構築した曲線を示す。直接、レコーダーによって記録された(従来蛍光単位を、予め調製した既製の較正(ready calibrations)を用いて絶対AMC濃度に換算した。)図6は、図5の曲線を微分することによって測った、実験を通してのトロンビン濃度変化の動態分析結果(kinetic profiles)を示す。トロンビン産生能の減少および系中の阻害剤濃度の増加にともなって、トロンビン生成曲線上の最大の点に達するのに要する時間を、それぞれ、図7および図8示す。これら結果は、試験化合物(HC−020s−IOC)の濃度の増加とともに、血漿凝固が著しく遅くなることを示す。内在性トロンビン産生能の50%減少を引き起こした化合物の濃度(IC50)が、0.9mcMであることを見出した。従って、この化合物は、強力な抗凝血剤である。
【0149】
次の3つの図は、化合物HC−025s−IOCの存在下での空間(spatial)血塊成長動態における変化を示す。図9および図10は、凝固が初期の通常の血漿中、および、1mcMのこの化合物HC−025s−IOCの存在する同じ血漿中で進行している間の記録された光分散分析結果(profiles)を、それぞれ示す。図11は、コントロール血漿、および1mcMの化合物HC−025s−IOCの存在する血漿の、時間に対する凝固の大きさ(血塊が広がる活性剤からの距離)の成長を示す。得られた曲線の比較をすることもまた、血漿中にある化合物HC−025s−IOCは凝固を阻害することを示す。
【0150】
いくつかの新規合成化合物の抗凝血効果を示す例を、表3に示す。
【0151】
実施例7
健常提供者血液の晶質血漿代用液(NaCl0.9%)での希釈における凝固の増大、および代用液への様々な濃度のトロンビン活性阻害化合物HC−025s−IOCの添加による改善
3.8%クエン酸ナトリウム(血液対クエン酸比率=9:1)で調製した提供者の血液を、1,300gで15分間遠心分離した。いくらかの貧血小板血漿(PPP)は、さらに10,000gで10分間遠心分離し、無血小板血漿(PFP)を得た。次に、このようにして得られたPFPを、内在性トロンビン産生能を測定するために用いた.
【0152】
輸液グレードの生理食塩水(NaCl0.9%)、または、トロンビン阻害剤 HC−025s−IOCを(濃度0.25、0.5または1mcMで)追加して含む同溶液を用いて、PFPを、1.5、2、3および4の割合で希釈した。カルシウム再加後、試験を通して一定のCa+2濃度を維持するために、クエン酸ナトリウム濃度を、最初の未希釈血漿中の濃度と同じになるように、すべての血漿希釈で一定に維持した。その目的のため、血漿を希釈するのに用いた最初の血漿代用液を、まず、初期血液と同様に、溶液対クエン酸塩比9:1で3.8%クエン酸ナトリウムと混合した。
【0153】
上記のETP測定法に用いた血漿試料を、常に1:5の割合で希釈した。PSS で血漿を希釈する実験において、未希釈の血漿中でETPを測定する機会は、設けられなければならない。従って、特別な方法を開発し、測定の際に実際に血漿を希釈することなしに、これらの実験でETPを測定した。測定するため、200マイクロリットルの血漿試料(未希釈PSSまたは所望の倍数(number of times)を、96穴ボード(board)のセル(cell)に細胞に入れ、測定を行った。次に、2マイクロリットルのDMSO中の蛍光基質溶液(開始濃度30.75mM)を、各セルに加えた。凝固が開始すると、3マイクロリットルの活性剤を各セルに加えた。活性剤溶液を、プロトロンビン時間を測定するために用いた標準トロンボプラスチン(Renam社、ロシア)から20mMのHEPES、140mMのNaClおよび1.235MのCaClを含むバッファー(pH7.5)で20倍希釈して調製した。次いで、先に説明した方法で、測定を行った。内在性トロンビン産生能を、様々な濃度のHC−025s−IOCの存在下で、希釈した血漿の各々について、測定した。
【0154】
図12は、様々な阻害剤濃度を含むNaCl(0.9%)溶液で希釈した、一連の血漿希釈液におけるETP測定の結果を示す。明らかに、阻害剤を添加しない場合、血漿を代用溶液で徐々に希釈するにつれて、内在性トロンビン産生能が、顕著に増加し、これは、この条件において凝固が増強されることを示唆する。具体的に、ETPの変化がわずか20%ある場合、血栓症危険因子とみなされる。(Hemker HC, Al Dieri R, Beguin S. thrombosis generation assays: accruing clinical relevance. Curr. Opin. Hematol. 2004, l l(3):170-175). しかし、我々の実験では、1.5〜4の割合で希釈した初期血漿で、最大ETPは、異なる血漿によって1.5倍から4倍超まで増加する。阻害剤の追加は、血漿希釈による凝固増強効果を完全に中和せず、異なる血漿希釈に対するETP値を減じて、凝固増強効果を顕著に調整する。さらに、溶液中0.25〜0.5mcMのHC−025s−IOC濃度は、異なる血漿希釈に対するETP値が、最も正常に近いものである曲線を形成した。
【0155】
【表1−1】

【0156】
【表1−2】

【0157】
【表1−3】

【0158】
【表1−4】

【0159】
【表1−5】

【0160】
【表2−1】

【0161】
【表2−2】

【0162】
【表3−1】

【0163】
【表3−2】

【0164】
【表3−3】

【0165】
【表3−4】

【0166】
【表3−5】

【0167】
【表3−6】

【0168】
【表3−7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造式(I)の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物であって、
A−B−C (I)
式中、Cは、次の構造を含む群から選ばれる、
【化1】

式中、R、R、R、およびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基であり、Bは、−(CH−、nは1〜5の整数であり、Aは、次の構造を含む群から選ばれる、
【化2】

式中、Rは、水素、C〜Cのアルコキシ基、CHNR1011、およびCH(CH)NR1011を含む群から選ばれ、
【化3】

式中、RおよびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基またはハロゲンであり、
は、水素または、C〜Cのアルキル基であり、
は、次からなる群から選ばれる、
【化4】

式中、R10およびR12は、互いに独立して、水素、C〜Cのアルキル基、(CHCOOR13、および(CHCON(R13を含む群から選ばれ、
【化5】

式中、mは、1から4の整数であり、
13は、水素またはC〜Cのアルキル基
11は、C〜Cのアルキル基、またはAr
Arは、水素、C〜Cアルキル基、C〜Cアルコキシ基、ハロゲン,N(R13、OH、NO、CN、COOR13、CON(R13およびSO13の群から選ばれた1から5つの置換基をもつ、フェニル、ピリジル、オキサゾリル、チアゾリル、チエニル、フラニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、インドリル、ベンゾフラニル、またはベンゾチオフェニルであり、
次を、例外とする、
【化6】

一般構造式(I)の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物。
【請求項2】
具体的に
【化7】

式中、Yは、水素、ハロゲン、COOR13、CON(R13およびSO13からなる群から選ばれ、
rは、2から5の整数である、
請求項1に記載の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物。
【請求項3】
血漿凝固を鈍化する能力のある、請求項1に記載の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物の、哺乳類の血栓症疾患を治療するための抗凝血剤としての利用。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物および/若しくはその薬理学的に許容される塩または溶媒和物の治療有効量、並びに薬理学的に許容される担体を含む、血栓症疾患を治療するための医薬組成品。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物並びに/若しくはその薬理学的に許容される塩および/または溶媒和物を含むの含む、血液希釈における凝固亢進障害を改善するための血漿代用液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−531353(P2010−531353A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514672(P2010−514672)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/RU2008/000401
【国際公開番号】WO2009/002229
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510002257)
【Fターム(参考)】