説明

旋回制御装置

【課題】運転者の操舵を補助するための出力を小さくすることができ、消費されるエネルギーを小さくすることができるようにする。
【解決手段】車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設され、タイヤに、転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗領域が形成された車輪WLF、WRFと、操舵装置と、該操舵装置の操舵を補助するための操舵補助装置と、該操舵補助装置による操舵の補助が必要であるかどうかを判断する操舵補助判定処理手段と、操舵の補助が必要である場合に、前記車輪WLF、WRFにキャンバ角を付与し、前記低転がり抵抗領域を路面に接触させる出力軽減処理手段とを有する。操舵の補助が必要である場合に、低転がり抵抗領域が路面に接触させられるので、操舵補助装置の駆動部に加わる負荷が小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両にはステアリングホイールが配設され、運転者が、ステアリングホイールを操舵すると、車輪の向きがステアリングホイールの操舵角に応じた転舵角だけ変えられ、車両が旋回させられるようになっている。
【0003】
この場合、例えば、据え切り時(低速走行中)に、ステアリングホイールを操舵して車両を大きく旋回させようとすると、タイヤと路面との間で大きな摩擦力が発生するが、該摩擦力に抗して車輪の向きを変えるためにステアリングホイールの操舵力をその分大きくする必要がある。そこで、ステアリングホイールの操舵軸にトルクセンサを配設し、該トルクセンサによって操舵軸に発生する操舵トルクを検出し、検出された操舵トルクに応じて駆動部としての油圧ピストン、電動機等を駆動することによって、前記車両における運転者の操舵を補助することができるようにしたパワーステアリング装置が提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−335257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のパワーステアリング装置においては、タイヤと路面との間の摩擦係数が大きいと、前記摩擦力がその分大きくなり、それに伴って操舵時の操舵トルクが大きくなってしまう。
【0005】
したがって、油圧ピストン、電動機等に加わる負荷が大きくなり、パワーステアリング装置によって運転者の操舵を補助するための出力が大きくなる。その結果、パワーステアリング装置において消費されるエネルギーが大きくなってしまう。
【0006】
本発明は、前記従来のパワーステアリング装置の問題点を解決して、運転者の操舵を補助するための出力を小さくすることができ、消費されるエネルギーを小さくすることができる旋回制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために、本発明の旋回制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設され、タイヤに、転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗領域が形成された車輪と、操舵装置と、該操舵装置の操舵を補助するための操舵補助装置と、該操舵補助装置による操舵の補助が必要であるかどうかを判断する操舵補助判定処理手段と、操舵の補助が必要である場合に、前記車輪にキャンバ角を付与し、前記低転がり抵抗領域を路面に接触させる出力軽減処理手段とを有する。
【0008】
本発明の他の旋回制御装置においては、さらに、前記操舵補助判定処理手段は、操舵の補助が必要であるかどうかを車両の現在地に基づいて判断する。
【0009】
本発明の更に他の旋回制御装置においては、さらに、前記操舵補助判定処理手段は、操舵の補助が必要であるかどうかを車両の状態に基づいて判断する。
【0010】
本発明の更に他の旋回制御装置においては、さらに、前記出力軽減処理手段は、車速が閾(しきい)値以下である場合に、車輪にキャンバ角を付与する。
【0011】
本発明の更に他の旋回制御装置においては、さらに、前記出力軽減処理手段は、加速度が閾値以下である場合に、車輪にキャンバ角を付与する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、旋回制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設され、タイヤに、転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗領域が形成された車輪と、操舵装置と、該操舵装置の操舵を補助するための操舵補助装置と、該操舵補助装置による操舵の補助が必要であるかどうかを判断する操舵補助判定処理手段と、操舵の補助が必要である場合に、前記車輪にキャンバ角を付与し、前記低転がり抵抗領域を路面に接触させる出力軽減処理手段とを有する。
【0013】
この場合、操舵補助装置による操舵の補助が必要であるかどうかが判断され、操舵の補助が必要である場合に、前記車輪にキャンバ角が付与され、低転がり抵抗領域が路面に接触させられるので、操舵補助装置の駆動部に加わる負荷が小さくなる。したがって、操舵補助装置の出力を小さくすることができるので、操舵補助装置において消費されるエネルギーを小さくすることができる。
【0014】
本発明の他の旋回制御装置においては、さらに、前記操舵補助判定処理手段は、操舵の補助が必要であるかどうかを車両の現在地に基づいて判断する。
【0015】
この場合、例えば、車両が駐車場にある場合に、操舵補助装置の出力を小さくすることができる。
【0016】
本発明の更に他の旋回制御装置においては、さらに、前記操舵補助判定処理手段は、操舵の補助が必要であるかどうかを車両の状態に基づいて判断する。
【0017】
この場合、Rレンジが選択されていたり、ハザードランプが点滅していたり、レンジがR→N→Dと変化したりする場合に、操舵補助装置の出力を小さくすることができる。
【0018】
本発明の更に他の旋回制御装置においては、さらに、前記出力軽減処理手段は、加速度が閾値以下である場合に、車輪にキャンバ角を付与する。
【0019】
この場合、車速が低くても、加速度が高い場合には、車輪にキャンバ角が付与されないので、タイヤがスリップするのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図2は本発明の第1の実施の形態における車両の概念図、図3は本発明の第1の実施の形態における車輪駆動部ユニットの平面図、図4は本発明の第1の実施の形態におけるアクチュエータの動作を説明する図である。
【0022】
図において、11は車両の本体を表すボディ、WLF、WRF、WLB、WRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された前方左側、前方右側、後方左側及び後方右側の車輪であり、それぞれ独立させて回転させることができるようになっている。そして、車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。
【0023】
前記各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの車輪WLF、WRFにおいては、タイヤ19のトレッド37が、幅方向における複数の領域、本実施の形態においては、二つの領域に分割され、トレッド37の幅方向における中心を表す中心線を区分線Ld1としたとき、該区分線Ld1より外側(ボディ11から離れる側)に、後述される損失正接が小さい特性を有する低転がり抵抗領域38が、区分線Ld1より内側(ボディ11側)に、損失正接が大きい特性を有する高グリップ領域39が形成される。
【0024】
前記低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39の各外周面には、互いに異なるパターン(以下「トレッドパターン」という。)の溝が形成される。すなわち、低転がり抵抗領域38には、タイヤ19の円周方向において溝が連続するリブタイプのトレッドパターンが形成され、高グリップ領域39には、タイヤ19の幅方向において溝が連続するラグタイプのトレッドパターンが形成される。また、高グリップ領域39に、独立した複数のブロック間に溝が形成されたブロックタイプのトレッドパターンを形成することもできる。
【0025】
なお、前記損失正接は、トレッド37が変形する際のエネルギーの吸収度合いを示し、貯蔵剪断弾性率に対する損失剪断弾性率の比で表すことができる。損失正接が小さいほど吸収されるエネルギーが少なくなるので、路面との摩擦によってタイヤ19に発生する転がり抵抗が小さくなり、路面を掴む力を表すグリップ力も小さくなる。その結果、タイヤ19に発生する摩耗が少なくなる。これに対して、損失正接が大きいほど吸収されるエネルギーが多くなるので、転がり抵抗が大きくなり、グリップ力も大きくなる。その結果、タイヤ19に発生する摩耗が多くなる。
【0026】
本実施の形態においては、区分線Ld1がトレッド37の中心線にされるようになっているが、区分線Ld1をトレッド37の幅方向における任意の位置に設定し、低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39の各接地面積を互いに異ならせることができる。
【0027】
また、13は操舵装置(操作部材)としてのステアリングホイール、14は加速操作部材としてのアクセルペダル、15は減速操作部材としてのブレーキペダルであり、運転者がステアリングホイール13を回転させて操舵すると、前記ステアリングホイール13の操舵角に応じて車輪WLF、WRFに転舵角が付与され、車輪WLF、WRFの向きが変えられ、車両が旋回させられる。
【0028】
そのために、前記ステアリングホイール13と車輪WLF、WRFとの間に、図示されない操舵軸、該操舵軸に取り付けられたピニオンギヤ、該ピニオンギヤと噛合させられるラック、該ラックと連結されたタイロッド、前記車輪WLF、WRFに取り付けられ、前記タイロッドとボールジョイントを介して連結されたナックルアーム等が配設される。したがって、ステアリングホイール13を回転させると、ピニオンギヤが回転させられ、ラックが進退させられ、それに伴って、車輪WLF、WRFにおいてタイロッドが軸方向に移動させられ、車輪WLF、WRFの向きが変えられる。
【0029】
また、運転者がアクセルペダル14を踏み込むと、踏込量に応じて車両を加速させることができ、運転者がブレーキペダル15を踏み込むと、踏込量に応じて車両を制動することができる。なお、前記操舵角は、ステアリングホイール13を回転させたときの回転角度を表し、前記転舵角は、ステアリングホイール13の操舵角に応じて車輪WLF、WRFの向きが変えられたときの、車両の前後方向と車輪WLF、WRFの向きとが成す角度である。
【0030】
そして、16は車両全体の制御を行う制御部、31〜34は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLF、WRF、WLB、WRBとの間に配設され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBをそれぞれ独立させて回転させる車輪駆動部である。なお、該各車輪駆動部31〜34のうちの車輪駆動部31、32によって、各車輪WLF、WRFにキャンバ角を付与することができるようになっている。そのために、車輪駆動部31、32と油圧制御部40とが連結され、該油圧制御部40によって発生させられた油圧が車輪駆動部31、32に供給される。
【0031】
なお、前記ステアリングホイール13、制御部16、車輪駆動部31、32、油圧制御部40等によって旋回制御装置が、各車輪WLF、WRF、WLB、WRB及び各車輪駆動部31〜34によって、前方左側、前方右側、後方左側及び後方右側の各車輪駆動部ユニット41〜44が構成される。
【0032】
次に、前方左側及び前方右側の各車輪駆動部ユニット41、42の構造について説明する。この場合、各車輪駆動部ユニット41、42の構造は等しいので、前方左側の車輪駆動部ユニット41についてだけ説明する。
【0033】
図3に示されるように、前記車輪駆動部ユニット41は車輪WLF及び車輪駆動部31を備え、前記車輪WLFは、アルミニウム合金等によって形成されたホイール18、及び該ホイール18の外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ19を備え、前記車輪駆動部31は、円形の形状を有する車輪駆動板としてのキャンバプレート45、該キャンバプレート45に取り付けられ、ホイール18内に収容された走行用の駆動部としてのモータ(ホイールモータ)46、前記キャンバプレート45を揺動させる揺動用の駆動部としてのアクチュエータ47、前記キャンバプレート45とアクチュエータ47とを連結する連結部材としてのジョイント部(ユニバーサルジョイント)51等を備える。
【0034】
前記モータ46は、前記キャンバプレート45に固定されたステータ48、該ステータ48内に回転自在に配設された図示されないロータ、該ロータに取り付けられ、先端においてホイール18に固定された出力軸49等を備える。そして、運転者によって前記アクセルペダル14が踏み込まれると、踏込量に比例して、モータ46が駆動され、回転速度が増減させられる。
【0035】
また、前記アクチュエータ47は、第1〜第3の駆動部材としての油圧シリンダ53〜55を備え、該各油圧シリンダ53〜55は、前記ボディ11に固定されたシリンダ部61〜63、及び該各シリンダ部61〜63に対して進退自在に配設されたロッド部64〜66を備え、該各ロッド部64〜66はジョイント部51を介してキャンバプレート45と連結される。
【0036】
ところで、図4に示されるように、前記キャンバプレート45の中心Oを通り、車両の前後方向(長さ方向)に延びる軸をxa軸とし、車両の左右方向(幅方向)に延びる軸をya軸とし、車両の上下方向(高さ方向)に延びる軸をza軸としたとき、前記油圧シリンダ53〜55を駆動して各ロッド部64〜66を矢印A、B方向に進退させることによって、キャンバプレート45を、xa軸を中心にして矢印C、D方向に回動させることができる。そのために、前記キャンバプレート45におけるza軸上の上端の近傍の所定の位置を第1の位置st1とし、該第1の位置st1より下方の、かつ、車両の前後方向における後側の所定の位置を第2の位置st2とし、前記第1の位置st1より下方の、かつ、車両の前後方向における前側の所定の位置を第3の位置st3としたとき、第1〜第3の位置st1〜st3に各ジョイント部51が配設され、該各ジョイント部51を介してキャンバプレート45とロッド部64〜66とが全方向に回動自在に連結される。なお、本実施の形態において、前記第1〜第3の位置st1〜st3は、前記キャンバプレート45の円周方向において等ピッチ角で、本実施の形態においては、120〔°〕の間隔を置いて設定される。
【0037】
そして、前記油圧制御部40によって油圧を発生させ、発生させられた油圧を前記各シリンダ部61〜63に対して選択的に給排することによって車輪WLFにキャンバ角を付与することができる。
【0038】
すなわち、車輪WLFが図示されない路面に対して垂直に、かつ、ボディ11に対して平行に置かれる状態を中立状態としたとき、該中立状態において、ロッド部64を所定の量だけ矢印A方向に移動(後退)させ、ロッド部65、66を同じ量だけ矢印B方向に移動(前進)させると、車輪WLFは矢印C方向に回動させられ、車輪WLFに負の値のキャンバ角(ネガティブキャンバ)が付与される。また、前記中立状態において、ロッド部64を所定の量だけ矢印B方向に移動(前進)させ、ロッド部65、66を同じ量だけ矢印A方向に移動(後退)させると、車輪WLFは矢印D方向に回動させられ、車輪WLFに正の値のキャンバ角(ポジティブキャンバ)が付与される。
【0039】
なお、本実施の形態においては、第1〜第3の駆動部材として油圧シリンダ53〜55を使用し、該油圧シリンダ53〜55を駆動することによってロッド部64〜66を進退させるようにしているが、第1〜第3の駆動部材としてモータを使用し、モータを駆動することによってロッド部64〜66を移動させることができる。
【0040】
また、本実施の形態においては、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに走行用の駆動部としてモータ46が配設されるようになっているが、モータ46に代えてエンジンを使用することができる。その場合、エンジンによって発生させられた回転を、プロペラシャフト、ディファレンシャル装置、ドライブシャフト等の回転伝達系を介して、駆動輪として機能する車輪に伝達することができる。
【0041】
ところで、例えば、据え切り時に、ステアリングホイール13を操舵して車両を大きく旋回させようとすると、車輪WLF、WRFの各タイヤ19と路面との間で大きな摩擦力が発生するが、該摩擦力に抗して車輪WLF、WRFの向きを変えるためにステアリングホイール13の操舵力をその分大きくする必要がある。そこで、本実施の形態においては、操舵補助装置としてのパワーステアリング装置を配設し、該パワーステアリング装置によって、運転者によるステアリングホイール13の操舵を補助するようにしている。そのために、前記パワーステアリング装置においては、ステアリングホイール13を操舵するときの操舵トルクが大きい場合に、図示されない駆動部としての油圧ピストン、電動機等が駆動され、前記ラック及びタイロッドの移動が補助されるようになっている。なお、前記油圧ピストンによって、第1の駆動部が、電動機によって、第2の駆動部が構成される。
【0042】
次に、車両全体の制御装置について説明する。
【0043】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0044】
図において、16は制御部、31はCPU、32は第1の記憶装置としてのRAM、33は第2の記憶装置としてのROM、WLF、WRFは車輪、20はステアリングホイール13(図2)の操作量である操舵量を検出する操舵量検出部としての操舵量センサ、s1〜s3は各シリンダ部61〜63(図3)に対して油圧の給排を行う制御弁、ε1は各車輪WLF、WRFに付与されたキャンバ角を検出するキャンバ角検出部としてのキャンバ角センサである。
【0045】
また、71はパワーステアリング装置、72は車速を検出する車速検出部としての車速センサ、73は車両の加速度を検出する加速度検出部としての加速度センサ、74はナビゲーション装置、81は変速指示部材としてのシフトレバー、82は車両が停車しているとき等に点滅させられるハザードランプである。
【0046】
前記パワーステアリング装置71は、ステアリングホイール13の軸を表す図示されない操舵軸に配設され、運転者がステアリングホイール13を操舵したときに発生する操舵トルクを検出する操舵トルク検出部としてのトルクセンサ75、操舵トルクが閾値より大きい場合に、前記油圧ピストン、電動機等を駆動し、前記ラック及びタイロッドを移動させるパワーステアリング機構76等を備える。また、前記ナビゲーション装置74は、車両、すなわち、自車の現在地を自車位置として検出する現在地検出部としての図示されないGPSセンサ、地図データ等の各種のデータが記録されたデータ記録部等を備える。
【0047】
前記制御部16は、後述されるように、アクチュエータ47を駆動し、キャンバ角を各車輪WLF、WRFに付与する。付与されたキャンバ角は、前記キャンバ角センサε1によって検出され、制御部16に送られ、フィードバック制御が行われる。
【0048】
ところで、前述されたように、タイヤ19と路面との間の摩擦係数が大きいと、車両の向きを変える際に発生する摩擦力がその分大きくなり、それに伴って操舵トルクが大きくなってしまう。
【0049】
その結果、パワーステアリング機構76における前記油圧ピストン、電動機等に加わる負荷が大きくなり、パワーステアリング装置71の出力が大きくなるので、パワーステアリング装置71において消費されるエネルギーが大きくなってしまう。
【0050】
そこで、本実施の形態において、前記CPU31の図示されない旋回制御処理手段は、旋回制御処理を行い、車両を旋回させるに当たり、所定の条件が成立する場合に、車輪WLF、WRFに正の値のキャンバ角を付与し、タイヤ19の主として前記低転がり抵抗領域38を路面と接触させるようにしている。
【0051】
図5は本発明の第1の実施の形態における旋回制御処理手段の動作を示すフローチャート、図6は本発明の第1の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における出力軽減処理のサブルーチンを示す図、図8は本発明の第1の実施の形態における車輪の状態を示す図である。
【0052】
まず、前記旋回制御処理手段の状態判定処理手段は、状態判定処理を行い、パワーステアリング装置71の状態を判定し、操舵の補助が必要であるかどうかを判断する。そのために、前記状態判定処理手段の車両条件取得処理手段は、車両条件取得処理を行い、ナビゲーション装置74から自車位置を読み込み、データ記録部の地図データを参照し、車両(自車)が駐車場内にあるかどうかを車両の環境を表す車両条件として取得する。
【0053】
そして、車両が駐車場内にある場合、状態判定処理手段のパワーステアリング判定処理手段は、パワーステアリング判定処理を行い、パワーステアリング装置71による操舵の補助が必要であると判断する。
【0054】
そして、前記旋回制御処理手段の出力軽減処理手段は、出力軽減処理を行い、パワーステアリング装置71の出力を軽減する。そのために、前記出力軽減処理手段の走行条件取得処理手段は、走行条件処理を行い、車速センサ72によって検出された車速を読み込むとともに、加速度センサ73によって検出された加速度を読み込む。
【0055】
続いて、前記出力軽減処理手段の出力軽減条件判定処理手段は、出力軽減条件判定処理を行い、車速が閾値以下であるかどうかによって、第1の出力軽減条件が成立したかどうかを判断し、加速度が閾値以下であるかどうかによって、第2の出力軽減条件が成立したかどうかを判断する。そして、車速が閾値以下であり、加速度が閾値以下であり、第1、第2の出力軽減条件が成立した場合、前記出力軽減処理手段のキャンバ角付与処理手段は、キャンバ角付与処理を行い、図8に示されるように、車輪WLF、WRFに正の値のキャンバ角αを付与する。
【0056】
したがって、車両を駐車させる場合等において、タイヤ19の据え切り(低速走行)が多く行われる場合に、タイヤ19において、主として低転がり抵抗領域38と路面GNDとが接触し、高グリップ領域39が路面GNDから離れるので、仮に、タイヤ19と路面GNDとの間の摩擦係数が大きくても、車両の向きを変える際に発生する摩擦力をその分小さくすることができ、それに伴って操舵トルクを小さくすることができる。
【0057】
したがって、パワーステアリング機構76における油圧ピストン、電動機等に加わる負荷が小さくなるので、パワーステアリング装置71の出力を小さくすることができる。その結果、パワーステアリング装置71において消費されるエネルギーを小さくすることができる。
【0058】
なお、車速が低くても、加速度が高く、タイヤ19がスリップしてしまう可能性がある場合においては、車輪WLF、WRFに正の値のキャンバ角αが付与されることはない。したがって、高グリップ領域39と路面GNDとを接触させることができるので、タイヤ19がスリップするのを防止することができる。
【0059】
次に、図5のフローチャートについて説明する。
ステップS1 状態判定処理を行う。
ステップS2 出力軽減処理を行い、処理を終了する。
【0060】
次に、図6のフローチャートについて説明する。
ステップS1−1 自車位置を読み込む。
ステップS1−2 車両が駐車場内にあるかどうかを判断する。車両が駐車場内にある場合はステップS1−3に進み、車両が駐車場内にない場合はリターンする。
ステップS1−3 パワーステアリング判定処理を行い、リターンする。
【0061】
次に、図7のフローチャートについて説明する。
ステップS2−1 車速を読み込む。
ステップS2−2 加速度を読み込む。
ステップS2−3 車速が閾値以下であるかどうかを判断する。車速が閾値以下である場合はステップS2−4に進み、車速が閾値より高い場合はリターンする。
ステップS2−4 加速度が閾値以下であるかどうかを判断する。加速度が閾値以下である場合はステップS2−5に進み、加速度が閾値より高い場合はリターンする。
ステップS2−5 正の値のキャンバ角αを付与し、リターンする。
【0062】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0063】
図9は本発明の第2の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図である。
【0064】
この場合、前記車両条件取得処理手段は、変速指示部材としてのシフトレバー81によって選択されたレンジを読み込み、車両を後退させるためのRレンジが選択されているかどうかを、車両の状態を表す車両条件として取得する。
【0065】
そして、Rレンジが選択されている場合、前記パワーステアリング判定処理手段は、操舵補助装置としてのパワーステアリング装置71による操舵の補助が必要であると判断する。
【0066】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1−11 レンジを読み込む。
ステップS1−12 Rレンジが選択されているかどうかを判断する。Rレンジが選択されている場合はステップS1−13に進み、Rレンジが選択されていない場合はリターンする。
ステップS1−13 パワーステアリング判定処理を行い、リターンする。
【0067】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0068】
図10は本発明の第3の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図である。
【0069】
この場合、前記車両条件取得処理手段は、ハザードランプ82を点滅させるためのハザード信号を読み込み、ハザードランプ82が点滅しているかどうかを車両の状態を表す車両条件として取得する。
【0070】
そして、ハザードランプ82が点滅している場合、前記パワーステアリング判定処理手段は、操舵補助装置としてのパワーステアリング装置71による操舵の補助が必要であると判断する。
【0071】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1−21 ハザード信号を読み込む。
ステップS1−22 ハザードランプ82が点滅しているかどうかを判断する。ハザードランプ82が点滅している場合はステップS1−23に進み、ハザードランプ82が点滅していない場合はリターンする。
ステップS1−23 パワーステアリング判定処理を行い、リターンする。
【0072】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0073】
図11は本発明の第4の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図である。
【0074】
この場合、前記車両条件取得処理手段は、変速指示部材としてのシフトレバー81によって選択されたレンジを読み込み、レンジがR→N→Dと変化したかどうか、すなわち、Rレンジ、車両をニュートラル状態に置くためのNレンジ、及び車両を前進させるためのDレンジが順次選択されたかどうかを車両の状態を表す車両条件として取得する。
【0075】
そして、レンジがR→N→Dと変化した場合、前記パワーステアリング判定処理手段は、操舵補助装置としてのパワーステアリング装置71による操舵の補助が必要であると判断する。
【0076】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1−31 レンジを読み込む。
ステップS1−32 レンジがR→N→Dと変化したかどうかを判断する。レンジがR→N→Dと変化した場合はステップS1−33に進み、レンジがR→N→Dと変化していない場合はリターンする。
ステップS1−33 パワーステアリング判定処理を行い、リターンする。
【0077】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両の概念図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車輪駆動部ユニットの平面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるアクチュエータの動作を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における旋回制御処理手段の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における出力軽減処理のサブルーチンを示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における車輪の状態を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態における状態判定処理のサブルーチンを示す図である。
【符号の説明】
【0079】
11 ボディ
13 ステアリングホイール
16 制御部
19 タイヤ
31、32 車輪駆動部
38 低転がり抵抗領域
40 油圧制御部
71 パワーステアリング装置
α キャンバ角
WLF、WRF、WLB、WRB 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設され、タイヤに、転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗領域が形成された車輪と、操舵装置と、該操舵装置の操舵を補助するための操舵補助装置と、該操舵補助装置による操舵の補助が必要であるかどうかを判断する操舵補助判定処理手段と、操舵の補助が必要である場合に、前記車輪にキャンバ角を付与し、前記低転がり抵抗領域を路面に接触させる出力軽減処理手段とを有することを特徴とする旋回制御装置。
【請求項2】
前記操舵補助判定処理手段は、操舵の補助が必要であるかどうかを車両の現在地に基づいて判断する請求項1に記載の旋回制御装置。
【請求項3】
前記操舵補助判定処理手段は、操舵の補助が必要であるかどうかを車両の状態に基づいて判断する請求項1に記載の旋回制御装置。
【請求項4】
前記出力軽減処理手段は、車速が閾値以下である場合に、車輪にキャンバ角を付与する請求項1に記載の旋回制御装置。
【請求項5】
前記出力軽減処理手段は、加速度が閾値以下である場合に、車輪にキャンバ角を付与する請求項4に記載の旋回制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−298388(P2009−298388A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158320(P2008−158320)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】