説明

有機トランジスタ及びその製造方法

【課題】本発明は、オフ電流が小さく、ON/OFF比が大きい有機トランジスタ及び該有機トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該有機トランジスタを有する有機トランジスタアレイ及び該有機トランジスタアレイを有する表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】有機トランジスタ10において、第一の電極層12は、電気的に接続されているゲート電極12a及びゲート電極12bを有し、第二の電極層14は、ソース電極14a、ドレイン電極14b及びアイランド電極14cを有し、アイランド電極14cは、間隙を介してソース電極14aとドレイン電極14bの間に形成されており、アイランド電極14cとソース電極14aの間の間隙及びアイランド電極14cとドレイン電極14bの間の間隙は、それぞれゲート電極12a上及びゲート電極12b上に形成されていると共に、有機半導体層15で覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機トランジスタ、有機トランジスタの製造方法、有機トランジスタアレイ及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料を用いた有機トランジスタが精力的に研究されている。トランジスタに有機半導体材料を用いる利点としては、材料構成の多様性、製造方法、製品形態等でフレキシビリティが高いこと、大面積化が容易であること、単純な層構成が可能で製造プロセスが単純化できること、安価な製造装置が可能であることが挙げられる。さらに、印刷法、スピンコート法、浸漬法等の手段を用いることで、簡便に薄膜や回路の形成が可能になる結果として、有機トランジスタは、従来のSi系トランジスタより桁違いに安く製造できる。
【0003】
有機トランジスタを集積する場合、パターンの形成が必須になる。パターンを形成せずにトランジスタを集積化すると、トランジスタの動作時にオフ電流が上昇し、消費電力が上昇する。また、画素を表示する場合には、クロストークの原因にもなる。Si系半導体材料を用いたトランジスタでは、フォトリソグラフィー・エッチングにより、パターンが形成される。
【0004】
一方、有機トランジスタの場合は、インクジェット印刷によるパターン形成が有望であり、電荷付与によるパターン化、凹部によるパターン化、レーザー照射によるパターン化を用いて、有機トランジスタを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、インデントを作製した後に、インクジェットにより材料を吐出してソース・ドレイン電極をパターンニングする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
有機半導体層のパターン形成方法としては、フォトレジストを塗布した後に、所望のパターンを露光、現像してレジストパターンを形成し(フォトリソグラフィー)、これをエッチングマスクとしてエッチングを行い、レジストを剥離する方法を用いることが可能である。しかしながら、有機半導体材料として、高分子材料を用いる場合、高分子材料上にフォトレジストを塗布してパターン等を形成すると、トランジスタ特性が劣化することがある。これは、フォトレジストとして、例えば、ナフトキノンジアジドを感光基としたノボラック系樹脂をキシレン、セロソルブ系溶剤等の有機溶媒に溶解させた溶液を使用すると、フォトレジストに含まれる有機溶媒等に高分子材料が溶解するためである。また、有機半導体材料として、ペンタセン等の結晶性材料を用いる場合、程度の差はあるものの、フォトリソグラフィーの後に、トランジスタ特性が劣化することがある。さらに、レジストを剥離する際に用いるエチレングリコールモノブチルエーテル、モノエタノールアミン等の剥離液によりダメージを受けたり、剥離後の純水リンスによりダメージを受けたりすることもある。
【0007】
また、シャドウマスクを用いた真空蒸着法により、ペンタセン等の結晶性材料をパターン形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、シャドウマスクによりパターン寸法が制限されるため、大面積の成膜には不向きである。また、シャドウマスクには寿命があるため、結果として、安価に製造することが困難である。
【0008】
一方、有機半導体材料として、有機溶媒に可溶な高分子材料を用いる場合、インクジェット印刷によるパターン形成が可能である。しかしながら、インクの着弾精度を考慮すると、50μm以下のパターンの形成が困難であり、フォトリソグラフィーより高精細化することができない。
【0009】
なお、インクジェット印刷は、パターンを直接描画することができるため、材料使用率が高くなる。このため、有機半導体層のパターン形成に適用することにより、製造プロセスの簡略化、歩留まりの向上、低コストを実現できる可能性がある。しかしながら、インクジェット印刷は、吐出量を少量化することは困難であるため、さらなる高精細化のためには、特に、ソース・ドレイン電極の形成に関しては、着弾させる表面等に工夫が必要となる。
【0010】
そこで、高エネルギー表面と低エネルギー表面とが存在する表面上に、水溶性インクをインクジェット印刷すると、高エネルギー表面にのみインクが成膜され、高精細なパターンを形成することが可能になる(例えば、特許文献4参照)。有機半導体材料は、無機半導体材料に比べて移動度が低いため、半導体素子のオン電流を大きくするためには、チャネル長を短くする必要があるが、これにより、オフ電流も大きくなり、ON/OFF比が小さくなるという問題がある。
【0011】
一方、無機半導体材料を用いた電界効果トランジスタでは、複数の電界効果トランジスタが直列に接続された、いわゆるデュアルゲート構造にすることでオフ電流を低減できることが知られている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、有機トランジスタでは、このような構造が知られておらず、オフ電流を低減できていないため、ON/OFF比が小さくなる。
【特許文献1】特開2004−297011号公報
【特許文献2】特開2004−141856号公報
【特許文献3】特表2003−536260号公報
【特許文献4】特開2005−310962号公報
【特許文献5】特許第3514002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、オフ電流が小さく、ON/OFF比が大きい有機トランジスタ及び該有機トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該有機トランジスタを有する有機トランジスタアレイ及び該有機トランジスタアレイを有する表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、基板と、該基板上に形成されている第一の電極層と、該第一の電極層が形成されている基板上に形成されている濡れ性変化層と、該濡れ性変化層の表面エネルギーが高い領域に形成されている第二の電極層と、該第二の電極層が形成されている濡れ性変化層上に形成されている有機半導体層を有する有機トランジスタであって、該第一の電極層は、電気的に接続されている第一のゲート電極及び第二のゲート電極を有し、該第二の電極層は、ソース電極、ドレイン電極及びアイランド電極を有し、該アイランド電極は、間隙を介して該ソース電極と該ドレイン電極の間に形成されており、該アイランド電極と該ソース電極の間の間隙及び該アイランド電極と該ドレイン電極の間の間隙は、それぞれ該第一のゲート電極上及び該第二のゲート電極上に形成されていると共に、該有機半導体層で覆われていることを特徴とする。これにより、オフ電流が小さく、ON/OFF比が大きい有機トランジスタを提供することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有機トランジスタにおいて、前記基板と前記第一の電極層の間に濡れ性変化層をさらに有し、前記第一の電極層は、該濡れ性変化層の表面エネルギーが高い領域に形成されていることを特徴とする。これにより、チャネル長を短くしてもオフ電流の上昇を抑制することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の有機トランジスタにおいて、前記アイランド電極は、間隙を介して形成されている2個以上の電極からなり、前記第一の電極層は、前記第一のゲート電極及び第二のゲート電極と電気的に接続されている1個以上のゲート電極をさらに有し、該2個以上の電極の間の間隙は、該1個以上のゲート電極上に形成されていると共に、前記有機半導体層で覆われていることを特徴とする。これにより、ON/OFF比をさらに大きくすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機トランジスタの製造方法であって、基板上に第一の電極層を形成する工程と、該第一の電極層が形成された基板上に濡れ性変化層を形成する工程と、該濡れ性変化層にエネルギーを付与することにより表面エネルギーが高い領域を形成する工程と、導電性材料を含有する液体を用いて該表面エネルギーが高い領域に第二の電極層を形成する工程と、該第二の電極層が形成された濡れ性変化層上に有機半導体層を形成する工程を有することを特徴とする。これにより、オフ電流が小さく、ON/OFF比が大きい有機トランジスタを提供することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の有機トランジスタの製造方法において、前記表面エネルギーが高い領域は、第一の領域と該第一の領域よりも幅の狭い第二の領域を含有し、前記導電性材料を含有する液体を該第一の領域に供給することにより前記第二の電極層を形成することを特徴とする。これにより、ソース・ドレイン電極幅を狭くすることができ、その結果、ゲート電極とソース・ドレイン電極間の寄生容量が小さくなり、動作速度を向上させることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の有機トランジスタの製造方法において、前記基板上に第一の電極層を形成する工程は、前記基板上に濡れ性変化層を形成する工程と、該濡れ性変化層にエネルギーを付与することにより表面エネルギーが高い領域を形成する工程と、導電性材料を含有する液体を用いて該表面エネルギーが高い領域に前記第一の電極層を形成する工程を含有することを特徴とする。これにより、チャネル長を短くしてもオフ電流の上昇を抑制することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の有機トランジスタの製造方法において、前記基板上に第一の電極層を形成する工程で形成される表面エネルギーが高い領域は、第一の領域と該第一の領域よりも幅の狭い第二の領域を含有し、前記導電性材料を含有する液体を該第一の領域に供給することにより前記第一の電極層を形成することを特徴とする。これにより、ゲート電極幅を狭くすることができ、その結果、ゲート電極とソース・ドレイン電極間の寄生容量が小さくなり、動作速度を向上させることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、有機トランジスタアレイにおいて、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機トランジスタを複数有することを特徴とする。これにより、オフ電流が低く、ON/OFF比が高い有機トランジスタアレイを提供することができる。
【0021】
請求項9に記載の発明は、表示装置において、請求項8に記載の有機トランジスタアレイを有することを特徴とする。これにより、良好な画像を高速で表示することが可能な表示装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、オフ電流が小さく、ON/OFF比が大きい有機トランジスタ及び該有機トランジスタの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該有機トランジスタを有する有機トランジスタアレイ及び該有機トランジスタアレイを有する表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0024】
図1に、本発明の有機トランジスタの一例を示す。なお、図1(a)は、上面図、図1(b)は、断面図である。
【0025】
有機トランジスタ10は、基板11上に第一の電極層12が形成されている。第一の電極層12の形成方法としては、特に限定されず、フォトリソグラフィーを用いたエッチング、印刷、切削等の公知の方法を用いることができる。第一の電極層12は、図2に示すように、互いに隣接するゲート電極12a及12b、ゲート電極12aとゲート電極12bを電気的に接続する配線部12c、ゲート電極12a及び12bに給電するための端子部12d、端子部12dへの引き出し配線部12eを有する。なお、本発明において、ゲート電極とは、電界効果トランジスタの構成要素としての電極部を意味する。
【0026】
さらに、有機トランジスタ10は、第一の電極層12が形成されている基板11上に濡れ性変化層13が形成されている。濡れ性変化層13は、エネルギーを付与することにより、表面エネルギー(臨界表面張力)が変化する材料からなる層であり、表面エネルギーの異なる2つの領域、即ち、表面エネルギーの高い領域と低い領域が形成されている。さらに、濡れ性変化層13は、ゲート絶縁層として機能する。
【0027】
また、有機トランジスタ10は、濡れ性変化層13の表面エネルギーが高い領域に導電性材料を含む液体を供給して成膜することにより、第二の電極層14が形成されている。第二の電極層14は、図3に示すように、ソース電極14a、ドレイン電極14b、アイランド電極14c、ソース電極14a及びドレイン電極14bに給電するための端子部14d及び14e、端子部14d及び14eへの引き出し配線部14f及び14gを有する。アイランド電極14cは、間隙(チャネル)を介してソース電極14aとドレイン電極14bの間に形成されており、アイランド電極14cとソース電極14aの間の間隙及びアイランド電極14cとドレイン電極14bの間の間隙は、それぞれゲート電極12a及び12b上に形成されていると共に、有機半導体層15で覆われている。本発明において、ソース電極及びドレイン電極とは、ゲート電極と同様に、電界効果トランジスタの構成要素としての電極部を意味する。
【0028】
一般に、チャネル長が短い程、トランジスタがオンの時の電流(オン電流)が大きくなるが、トランジスタがオフの時の電流(オフ電流)も大きくなるため、ON/OFF比が低下する。しかしながら、有機トランジスタ10は、図4に示すように、デュアルゲート構造であるため、アイランド電極14cとソース電極14aの間隔(チャネル長)及びアイランド電極14cとドレイン電極14bの間隔(チャネル長)を短くしてオン電流を大きくしても、オフ電流を小さくすることができ、ON/OFF比を大きくすることができる。
【0029】
図5に、本発明の有機トランジスタの他の例を示す。なお、図5(a)は、上面図、図5(b)は、断面図であり、図5において、図1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
有機トランジスタ20は、基板11上に濡れ性変化層21が形成されている。濡れ性変化層21は、エネルギーを付与することにより、表面エネルギー(臨界表面張力)が変化する材料からなる層であり、表面エネルギーの異なる2つの領域、即ち、表面エネルギーの高い領域と低い領域が形成されている。さらに、濡れ性変化層21は、絶縁層として機能する。また、有機トランジスタ20は、濡れ性変化層21の表面エネルギーが高い領域に導電性材料を含む液体を供給して成膜することにより、第一の電極層12が形成されている。
【0031】
図6に、本発明の有機トランジスタの他の例を示す。なお、図6(a)は、上面図、図6(b)は、断面図であり、図6において、図1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。有機トランジスタ30は、第一の電極層12がスリット31を介して、ゲート電極12a及び12bが形成されている。
【0032】
以上の有機トランジスタは、ゲート電極を2個有し、アイランド電極を1個有するが、本発明の有機トランジスタは、ゲート電極を3個以上有し、アイランド電極を2個以上有してもよい。図7に、このような有機トランジスタの一例を示す。なお、図7(a)は、上面図、図7(b)は、断面図であり、図7において、図1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0033】
有機トランジスタ40は、第一の電極層12がゲート電極を3個有し、第二の電極層14がアイランド電極を2個有する。このとき、電界効果トランジスタを直列に接続する段数が多い程、オフ電流を低減する効果が大きくなるため、トリプルゲート構造の有機トランジスタ40は、ON/OFF比をさらに大きくすることができる。
【0034】
次に、濡れ性変化層について説明する。濡れ性変化層は、単一の材料からなってもよいし、2種以上の材料からなってもよい。このとき、電気絶縁性が高い材料と濡れ性変化が大きい材料を混合することにより、電気絶縁性に優れ、濡れ性変化にも優れる濡れ性変化層を形成することができる。さらに、濡れ性変化が大きく、成膜性が低い材料と電気絶縁性が高く、成膜性が高い材料を混合することにより、電気絶縁性に優れ、濡れ性変化にも優れる濡れ性変化層を形成することができる。このとき、ゲート絶縁層として機能する濡れ性変化層13の場合には、電気絶縁性が高いことが重要である。
【0035】
濡れ性変化が大きい材料に対する電気絶縁性が高い材料の重量比は、通常、50/50〜99/1であり、60/40〜95/5が好ましく、70/30〜90/10がさらに好ましい。この重量比が50/50未満であると、濡れ性変化層の電気絶縁性が不十分になることがあり、99/1を超えると、濡れ性変化層の濡れ性変化が不十分になることがある。
【0036】
図8に、濡れ性変化層の一例を模式的に示す。濡れ性変化層13は、第二の材料13bよりも電気絶縁性に優れる第一の材料13aからなる層上に、第一の材料31aよりも濡れ性変化に優れる第二の材料13bからなる層が積層されている。このような構造は、第一の材料13aからなる層を形成した後に、第二の材料13bからなる層を形成することにより得られる。成膜方法としては、真空蒸着等の真空プロセス、溶剤を用いた塗布プロセスを用いることができる。
【0037】
また、第一の材料13aと第二の材料13bを混合した溶液を基板に塗布、乾燥することにより、濡れ性変化層13を形成することも可能である。第二の材料13bの極性が第一の材料13aより低い場合、第二の材料13bの分子量が第一の材料13aより小さい場合等では、乾燥時に溶媒が蒸発するまでの間に第二の材料13bが表面側に移行する。なお、塗布プロセスを用いた場合は、図9に示すように、第一の材料13aからなる相と、第二の材料13bからなる相に明確に分離されず、第一の材料13a及び第二の材料13bが混在する相が形成される場合が多い。
【0038】
また、濡れ性変化層13は、図10に示すように、膜厚方向に対して所定の濃度分布で第一の材料13a及び第二の材料13bが混在する相が形成されていてもよい。
【0039】
なお、図8〜図10において、濡れ性変化層13について説明したが、濡れ性変化層21についても同様である。
【0040】
また、濡れ性変化層が2種以上の材料から構成されている場合は、2層以上の層が積層されていてもよいし、膜厚方向に対して所定の濃度分布で2種以上の材料が混在していてもよい。
【0041】
第二の電極層14が形成される濡れ性変化層13の表面は、図11に示すように、第二の材料13bからなることが好ましい。しかしながら、微細なパターニングが可能であれば、図12に示すように、第二の材料13b中に第一の材料13aが分散されている状態、図13に示すように、第一の材料13aからなる領域と、第二の材料13bからなる領域が分離されている海島構造になっていてもよい。なお、このような海島構造は、光学顕微鏡、顕微赤外分光法、ラマン分光法等を用いて観察することが可能であるが、特に、第一の材料13aからなる領域の径が5μm程度であれば、顕微赤外分光法により構成材料を特定することも可能である。
【0042】
なお、図11〜図13において、第二の電極層14が形成される濡れ性変化層13の表面について説明したが、第一の電極層12が形成される濡れ性変化層21の表面についても同様である。
【0043】
また、濡れ性変化層は、側鎖に疎水性基を有する高分子材料を含有することが好ましい。側鎖に疎水性基を有する高分子材料50は、例えば、図14に示すように、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリレート等の骨格を有する主鎖51に、疎水性基を有する側鎖52が結合している。なお、図14において、側鎖52は、主鎖51に直接結合しているが、結合基を介して結合してもよい。
【0044】
側鎖52が有する疎水性基としては、化学式
−CFCH、−CFCF、−CF(CF、−C(CF、−CFH、−CFH
で表される末端基を有する官能基が挙げられる。高分子材料50の分子鎖同士を配向しやすくするためには、疎水性基は、鎖長が長い炭素鎖であることが好ましく、炭素数が4以上の炭素鎖がさらに好ましい。また、疎水性基は、アルキル基の水素原子の2個以上がフルオロ基に置換されたポリフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数4〜20のポリフルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数6〜12のポリフルオロアルキル基が特に好ましい。なお、ポリフルオロアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖が好ましい。さらに、疎水性基は、アルキル基の水素原子の実質的に全てがフルオロ基に置換されたパーフルオロアルキル基であることが好ましい。パーフルオロアルキル基は、一般式
2n+1−(ただし、nは、4〜16、好ましくは6〜12の整数)
で表わされる官能基であることが好ましい。なお、パーフルオロアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖が好ましい。
【0045】
このような高分子材料50は、特開平3−178478号公報等に記載されていて周知であり、加熱状態で液体又は固体と接触させると親液性となり、空気中で加熱すると疎液性となる性質を有する。即ち、接触媒体の選択と、熱エネルギーの付与によって表面エネルギーを変化させることができる。
【0046】
さらに、側鎖52が有する疎水性基としては、化学式
−CHCH、−CH(CH、−C(CH
等で表されるフルオロ基を有さない末端基を有する官能基が挙げられる。高分子材料50の分子鎖同士を配向しやすくするためには、疎水性基は、鎖長が長い炭素鎖であることが好ましく、炭素数が4以上の炭素鎖がさらに好ましい。なお、疎水性基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖が好ましい。さらに、疎水性基は、ハロゲン基、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基又は炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基やアルコキシ基で置換されたフェニル基を有してもよい。
【0047】
これら以外の疎水性基としては、一般式
−SiR(ただし、Rは、シロキサン結合を有する有機基)
で表されるオルガノシリコン基が挙げられる。
【0048】
高分子材料50は、側鎖52が多い程、表面エネルギーが小さくなり、疎水性になる。紫外線等の光エネルギーを高分子材料50に付与することによって、疎水性基の一部が解離する、又は配向状態が変化するために表面エネルギーが大きくなることにより、高分子材料50が親水性になると推察される。
【0049】
濡れ性変化層上に有機半導体層15を形成することを考慮すると、高分子材料50は、ポリイミドを含有することが好ましい。ポリイミドは、耐溶剤性及び耐熱性に優れているため、濡れ性変化層上に半導体層を形成する際に、溶媒、焼成による温度変化によって、膨潤したり、クラックが入ったりすることを抑制することができる。
【0050】
また、濡れ性変化層が2種以上の材料から構成される場合は、耐熱性、耐溶剤性、親和性を考慮すると、高分子材料50以外の材料もポリイミドからなることが好ましい。
【0051】
疎水性基を側鎖に有するポリイミドを合成する際に用いられる疎水性基を有するジアミンとしては、例えば、一般式(1)〜(5)で表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化1】

(式中、Xは、メチレン基又はエチレン基であり、Aは、1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基又は1〜4個のフルオロ基で置換された1,4−フェニレン基であり、A、A及びAは、それぞれ独立に、単結合、1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基又は1〜4個のフルオロ基で置換された1,4−フェニレン基であり、B、B及びBは、それぞれ独立に、単結合又はエチレン基であり、Bは、炭素数1〜10のアルキレン基であり、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基であり、pは、1以上の整数である。)
【0053】
【化2】

(式中、T、U及びVは、それぞれ独立に、フェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、m及びnは、それぞれ独立に、0〜2の整数であり、hは、0〜5の整数であり、Rは、水素原子、フルオロ基、クロロ基、シアノ基又は1価の有機基である。なお、mが2である場合の2個のU及びnが2である場合の2個のVは、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、T、U及びVは、炭素数1〜3のアルキル基、フルオロ基で置換された炭素数1〜3のアルキル基、フルオロ基、クロロ基又はシアノ基で置換されていてもよい。)
【0054】
【化3】

(式中、Zは、メチレン基、フルオロメチレン基、ジフルオロメチレン基、エチレン基又はジフルオロメチレンオキシ基であり、Yは、1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基又は1〜4個の水素原子がフルオロ基若しくはメチル基で置換されている1,4−フェニレン基であり、A、A及びAは、それぞれ独立に、単結合、1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基又は1〜4個の水素原子がフルオロ基若しくはメチル基で置換されている1,4−フェニレン基であり、B、B及びBは、それぞれ独立に、単結合、炭素数1〜4のアルキレン基、オキシ基又は炭素数1〜3のオキシアルキレン基であり、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜9のアルコキシ基若しくはアルコキシアルキル基である。但し、Zがメチレン基である場合には、B、B及びBが炭素数1〜4のアルキレン基であることはなく、Zがエチレン基であって、Yが1,4−フェニレン基である場合には、A及びAが単結合であることはなく、Zがジフルオロメチレンオキシ基である場合には、Yが1,4−シクロへキシレン基であることはない。また、Rにおいて、炭素数1〜10のアルキル基は、任意のメチレン基がジフルオロメチレン基で置換されていてもよく、炭素数1〜9のアルコキシ基若しくはアルコキシアルキル基は、1個のメチレン基がジフルオロメチレン基で置換されていてもよい。)
【0055】
【化4】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基であり、Zは、メチレン基であり、mは、0〜2の整数であり、Aは、フェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、lは、0又は1であり、Y及びYは、それぞれ独立に、オキシ基又はメチレン基であり、n及びnは、それぞれ独立に、0又は1である。)
【0056】
【化5】

(式中、Y及びYは、それぞれ独立に、オキシ基又はメチレン基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又はパーフルオロアルキル基であると共に、R及びRの少なくとも一方は、炭素数3以上のアルキル基又はパーフルオロアルキル基であり、n及びnは、それぞれ独立に0又は1である。)
このようなジアミンを用いて合成されたポリイミドは、特開2002−162630号公報、特開2003−96034号公報、特開2003−267982号公報、特開2004−86184号公報等に記載されている。また、このようなポリイミドの合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物については、脂肪族系、脂環式、芳香族系等の種々の材料を用いることができ、例えば、ピロメリット酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの他に、特開平11−193345号公報、特開平11−193346号公報、特開平11−193347号公報等に記載されているテトラカルボン酸二無水物も用いることができる。また、一般式(1)〜(5)で表されるジアミン以外のジアミンを用いて合成されているポリイミドを用いることもできる。例えば、特許第3097702号公報に記載されている直鎖状アルキル鎖を有する芳香族ジアミン残基を有するポリイミドが挙げられる。
【0057】
側鎖に疎水性基を有するポリイミドは、低温で成膜プロセスが行えることを考慮すると、溶媒に可溶であるポリイミド(可溶性ポリイミド)であることが好ましい。可溶性ポリイミドは、原料の酸二無水物とジアミンを反応させて得られるポリアミック酸を、予め溶液中でイミド化処理することで生成する。一般に、ポリイミドの主鎖が剛直な構造であると、溶媒に溶解しにくい。そこで、ポリイミドの結晶性を乱して、溶媒和を受けやすくするため、嵩高い脂環式シクロカルボン酸二無水物を用いると、可溶性ポリイミドが生成する。
【0058】
ポリイミドの主鎖がどのような酸二無水物を用いて形成されているかは、ポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルによる特性基振動の解析や紫外−可視吸収スペクトルの測定により推察される。嵩高い脂環式シクロカルボン酸二無水物骨格を用いて形成された主鎖を有するポリイミドは、薄膜の赤外吸収スペクトルの吸収端波長が300nm以下となる。詳細については、今井淑夫、横田力男編著、日本ポリイミド研究会編者「最新ポリイミド〜基礎と応用〜」(株式会社エヌ・ティ・エス発行、2002年)や、「次世代のためのエレクトロニクス・電子材料に向けた新しいポリイミドの開発と高機能付与技術」(株式会社技術情報協会発行、2003年)に記載されている。
【0059】
可溶性ポリイミドは、溶媒に溶解するため、溶媒を蒸発させる温度、即ち、200℃以下で成膜することが可能となる。また、ポリイミド薄膜中に未反応のポリアミック酸や副生成物の酸二無水物が残存しにくいため、これらの不純物によりポリイミド薄膜の電気特性が低下する問題が生じにくい。
【0060】
可溶性ポリイミドは、例えば、γ−ブチルラクトン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の極性が高い溶媒に可溶である。このため、可溶性ポリイミドを含有する濡れ性変化層上に、有機半導体層15を形成する際に、トルエン、キシレン、アセトン、イソプロピルアルコール等の極性が低い溶媒を用いると、溶媒による濡れ性変化層の侵食を抑制することができる。
【0061】
また、濡れ性変化層が側鎖に疎水性基を有する可溶性ポリイミド以外の材料を含有する場合、即ち、二種以上の材料からなる場合は、可溶性ポリイミド以外の材料も可溶性材料であることが好ましい。このような可溶性材料としては、特に限定されないが、ポリビニルフェノール等のフェノール樹脂、メラミン樹脂、アセチル化処理等を施したプルラン等の多糖類、シルセスキオキサン等が挙げられる。これにより、低温で濡れ性変化層を成膜することが可能となると共に、耐熱性、耐溶剤性、親和性を向上させることができる。
【0062】
さらに、可溶性ポリイミド以外の可溶性材料は、可溶性ポリイミドに対する相溶性が良好であることが好ましい。これにより、二種以上の材料が溶媒中で相分離しにくくなるため、濡れ性変化層を成膜しやすくなる。
【0063】
疎水性基を側鎖に有する可溶性ポリイミドを合成する際に用いられる疎水性基を有するジアミンとしては、例えば、一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化6】

(式中、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のハロアルキル基又はハロゲン基であり、X及びYは、それぞれ独立に、化学式
【0065】
【化7】

で表わされる官能基であり、aは、1〜5の整数である。)
このようなジアミンを用いて合成される可溶性ポリイミドは、特開平9−272740号公報等に記載されている。また、一般式(1)〜(5)で表されるジアミンを用いて合成されたポリイミドを、化学処理によって溶媒に可溶とすることも可能である。この化学処理については、WO01/000732号公報に記載されている。
【0066】
なお、一般式(1)〜(6)においては、疎水性基を有するジアミンの例を挙げたが、疎水性基を有するテトラカルボン酸を用いることも可能である。
【0067】
また、側鎖52に疎水性基を有する高分子材料50が濡れ性変化層13の表面に存在すると、濡れ性変化層13と有機半導体層15の界面特性を良好とすることができる。界面特性が良好であるとは、
a.有機半導体が結晶質である場合には結晶粒が大きくなり、移動度が増大すること
b.有機半導体が非晶質(高分子)である場合には、界面準位密度が減少し、移動度が増大すること
c.有機半導体が高分子であり、長鎖アルキル基等の側鎖を有する場合には、その配向が規制されることにより、π共役主鎖の分子軸を概ね一方向に配列させることができ、移動度が増大すること
等の現象が出現することを意味する。
【0068】
濡れ性変化層の厚さは、30nm〜3μmであることが好ましく、50nm〜1μmがさらに好ましい。濡れ性変化層の厚さが30nmより薄いと、バルク体としての特性(絶縁性、ガスバリア性、防湿性等)が損なわれることがあり、3μmより厚いと、表面形状が悪化することがある。
【0069】
第一の電極層12及び第二の電極層14は、導電性材料を含有する液体を塗布した後に、加熱、紫外線照射等で固化することによって形成される。なお、導電性材料を含有する液体としては、導電性材料を溶媒に溶解させたもの、導電性材料の前駆体、導電性材料の前駆体を溶媒に溶解させたもの、導電性材料を溶媒に分散させたもの、導電性材料の前駆体を溶媒に分散させたもの等を用いることができる。例えば、Ag、Au、Ni等の金属微粒子を有機溶媒や水に分散させたもの、ドープドPANI(ポリアニリン)、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)にPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドープした導電性高分子の水溶液等が挙げられる。
【0070】
導電性材料を含有する液体を塗布する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等が挙げられる。このとき、濡れ性変化層21上に第一の電極層12を形成する場合及び濡れ性変化層13上に第二の電極層14を形成する場合は、濡れ性変化層の表面エネルギーの影響を受けやすくするために、小さい液滴を供給することができるインクジェット法が好ましい。プリンタに使用されるレベルの通常のヘッドを用いたインクジェット法では、解像度が30μm、位置合わせ精度が±15μm程度であるが、濡れ性変化層の表面エネルギーの差を利用することにより、微細なパターンを形成することが可能となる。
【0071】
また、濡れ性変化層にエネルギーを付与する方法としては、大気中で操作できること、解像度が高いこと、層内部へのダメージが少ないこと等の点から、紫外線照射が好ましい。
【0072】
有機半導体層15は、ペンタセン、アントラセン、テトラセン、フタロシアニン等の有機低分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体等のポリフェニレン系導電性高分子、ポリピロール及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリフラン及びその誘導体等の複素環系導電性高分子、ポリアニリン及びその誘導体等のイオン性導電性高分子等の有機半導体を用いて形成することができる。
【0073】
図15に、本発明の有機トランジスタの製造方法の一例を示す。基板(不図示)上に形成された濡れ性変化層21に、第一のパターン61aと、第一のパターン61aよりも幅の狭い第二のパターン61bを含有する高表面エネルギー領域61を形成する(図15(a)参照)。次に、第一のパターン61aに導電性材料を含有する液体62を供給する(図15(b)参照)。このとき、第一のパターン61aに供給された導電性材料を含有する液体62は、第二のパターン61bに広がるため、第二のパターン61bにも導電性材料を含有する液体62が供給される(図15(c)参照)。これにより、導電性材料を含有する液体62を供給する手段で供給できる解像度よりも微細なパターンに導電性材料を含有する液体62を供給することができ、第一の電極層12を細線化することができる。
【0074】
図16に、図15の有機トランジスタの製造方法を用いて形成された第二の電極層の一例を示し、図17に、第二の電極層14の一部を示す。なお、図16及び図17において、図3と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。図16及び図17に示す第二の電極層14を有する有機トランジスタの第一の電極層12及び第二の電極層14以外の構成は、特に限定されず、前述の構成としてもよい。ソース電極14aがスリット71aを介して、第一のパターン72aと、第一のパターン72aよりも幅の狭い第二のパターン73aを含有する。また、ドレイン電極14bは、スリット71bを介して、第一のパターン72bと、第一のパターン72bよりも幅の狭い第二のパターン73bを含有する。さらに、アイランド電極14cは、スリット71cを介して、第一のパターン72cと、第一のパターン72cよりも幅の狭い第二のパターン73cを含有する。これにより、ゲート電極12aとソース電極14aの間、ゲート電極12bとドレイン電極14bの間、ゲート電極12a及び12bとアイランド電極14cの間の重なりを小さくして、寄生容量を低減することができる。
【0075】
図18に、本発明の有機トランジスタアレイの一例を示す。なお、(a)は、平面図、(b)は、断面図であり、図18において、図1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。有機トランジスタアレイ80は、基板11上に、ゲート電極を有する第一の電極層12と、ゲート絶縁層を兼ねる濡れ性変化層13と、ソース電極、ドレイン電極及びアイランド電極を有する第二の電極層14が2次元アレイ状にパターンニングされており、有機トランジスタが複数個形成されている。なお、有機トランジスタ毎のゲート電極は、走査信号用のドライバーICにより駆動させるため、バスラインに接続されている。また、有機トランジスタ毎のドレイン電極もデータ信号用のドライバーにより駆動させるため、バスラインに接続されている。さらに、有機半導体層15がチャネル領域を覆うようにして島状に形成されている。なお、酸素、水分、放射線等によるトランジスタ特性の劣化を抑制するために、有機トランジスタアレイ80は、パッシベーション膜に覆われていることが好ましい。パッシベーション膜の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等が用いられる。なお、パッシベーション膜の成膜方法としては、CVD法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0076】
なお、有機トランジスタアレイ80に表示素子を積層することにより、表示装置を形成することができる。表示素子としては、TN、STN、ゲスト・ホスト型、高分子分散液晶(Polymer−dispersed Liquid Crystal;PDLC)等の液晶を使用した表示素子が挙げられる。また、セル中又はマイクロカプセル中に含まれる着色粒子の移動により表示を行う電気泳動素子も表示素子として用いることができる。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
化学式
【0078】
【化8】

で表されるポリイミドの前駆体及び化学式
【0079】
【化9】

で表されるポリイミドの前駆体を溶解した溶液を、スピンコート法を用いて、ガラス基板11上に塗布した後、280℃で焼成して、濡れ性変化層21を形成した。
【0080】
図19に、濡れ性変化層の紫外線照射量と水に対する接触角の関係を示す。図19より、紫外線未照射時には、濡れ性変化層の水に対する接触角が90°を超え、疎水性(撥水性)であるが、紫外線照射量が10J/cm以上では、水に対する接触角が20°程度に低下し、親水性に変化している。この変化を誘起するのに有効な光の波長に合わせた光源を用いることによって照射量をさらに小さくすることが可能であると考えられる。
【0081】
また、図20に、液体の表面張力と濡れ性変化層の液体に対する接触角の関係を示す。図20より、濡れ性変化層の臨界表面張力は、紫外線未照射部が約24mN/m、8J/cmの紫外線を照射した紫外線照射部が約45mN/mであることがわかる。なお、図20において、液体は、表面張力が小さい方から順に、トルエン、リン酸トリクレシル、エチレングリコール、ホルムアミド、水である。
【0082】
次に、フォトマスクを介して、図5に示す第一の電極層12の形状で、ゲート電極12a及び12bの幅がそれぞれ80μmとなるように、波長250nmの紫外線を8J/cm照射することにより、高表面エネルギー領域を形成した。さらに、インクジェット法でAgナノメタルインクを高表面エネルギー領域に塗布した後、乾燥、焼成して、図5に示す第一の電極層12を形成した。
【0083】
次に、濡れ性変化層21と同様に、濡れ性変化層13を形成した。さらに、フォトマスクを介して、図5に示す第二の電極層14の形状で、チャネル長が10μm、チャネル幅が300μmとなるように(図21参照)、波長250nmの紫外線を8mJ/cm照射することにより、高表面エネルギー領域を形成した。さらに、インクジェット法でAgナノメタルインクを高表面エネルギー領域に塗布した後、乾燥、焼成して、図5に示す第二の電極層14を形成した。
【0084】
次に、反応式
【0085】
【化10】

に示すようなスキームにより合成した有機半導体をトルエンに溶解させた溶液をインクジェット法で塗布した後、乾燥させて有機半導体層15を形成した。
【0086】
このようにして、複数個の有機トランジスタを作製し、動作させたところ、オフ電流の平均値が1×10−12A、最大値と最小値の比が10倍程度であり、ばらつきも小さく、安定してオフ電流が小さい有機トランジスタが得られた。なお、従来構成のオフ電流は、比較例1に示すように、平均値が1×10−11Aであるが、最大で10−9Aのオーダー、最小で10−12Aのオーダーとばらつきが大きかった。一方、オン電流は、本実施例と比較例1とでほぼ同じであったため、ON/OFF比は、比較例1よりも最大で3桁向上した。
[実施例2]
実施例1と同様のプロセスで、図6に示す第一の電極層12及び第二の電極層14を有する有機トランジスタを作製した。なお、ゲート電極12a及び12bの幅を40μm、引き出し配線部12eの幅を100μmとし、チャネル長及びチャネル幅を実施例1と同様とした。また、インクジェット法でAgナノメタルインクを塗布して第一の電極層12を形成する際に、端子部12dと引き出し配線部12eに塗布した。このとき、Agナノメタルインクが流れることにより、ゲート電極12a及び12bにAgナノメタルインクが供給された。
【0087】
このようにして作製した有機トランジスタは、ゲート電極12a及び12bの幅が狭いため、寄生容量が小さい。
[実施例3]
実施例1と同様のプロセスで、図7に示す第一の電極層12及び第二の電極層14を有する有機トランジスタを作製した。実施例1と同様に動作させたところ、オフ電流の平均値が1×10−13A、最大値と最小値の比が10倍程度であり、ばらつきも小さく、安定してオフ電流が小さい有機トランジスタが得られた。従来構成のオフ電流は、比較例1に示すように、平均値が1×10−11Aであるが、最大で10−9Aのオーダー、最小で10−12Aのオーダーとばらつきが大きかった。一方、オン電流は、本実施例と比較例1とでほぼ同じだったため、ON/OFF比は、比較例1よりも1桁〜4桁向上した。
[実施例4]
実施例2と同様のプロセスで、図18に示す第一の電極層12及び第二の電極層14を有する有機トランジスタアレイ(素子数は32個×32個)を作製した。有機トランジスタアレイを実施例1と同様に動作させたところ、オフ電流の平均値が1×10−12Aであり、安定してオフ電流が小さい有機トランジスタアレイが得られた。
[実施例5]
酸化チタン粒子及びオイルブルーで着色したアイソパーを内包するマイクロカプセルをPVA水溶液と混合した混合液を、ITOからなる透明電極を形成したポリカーボネート基板上に塗布して、マイクロカプセルとPVAからなる層を形成することにより、電気泳動素子を作製した。次に、電気泳動素子の基板と実施例4の有機トランジスタアレイを貼り合わせて表示装置を作製した。表示装置を動作させたところ、コントラストの高い画像を表示することができた。
[比較例1]
実施例1と同様のプロセスで、図22に示すシングルゲート構造の有機トランジスタを作製した。有機トランジスタを実施例1と同様に動作させたところ、オフ電流の平均値が1×10−11A、最大値が10−9Aのオーダー、最小値が10−12Aのオーダーであり、ばらつきが大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の有機トランジスタの一例を示す図である。
【図2】図1の第一の電極層を示す図である。
【図3】図1の第一の電極層及び第二の電極層を示す図である。
【図4】図1の有機トランジスタを示す回路図である。
【図5】本発明の有機トランジスタの他の例を示す図である。
【図6】本発明の有機トランジスタの他の例を示す図である。
【図7】本発明の有機トランジスタの他の例を示す図である。
【図8】濡れ性変化層の一例を示す断面模式図である。
【図9】濡れ性変化層の他の例を示す断面模式図である。
【図10】濡れ性変化層の他の例を示す断面模式図である。
【図11】濡れ性変化層の表面の一例を示す模式図である。
【図12】濡れ性変化層の表面の他の例を示す模式図である。
【図13】濡れ性変化層の表面の他の例を示す模式図である。
【図14】側鎖に疎水性基を有する高分子材料を示す模式図である。
【図15】本発明の有機トランジスタの製造方法の一例を示す上面図である。
【図16】図15の有機トランジスタの製造方法を用いて形成された第二の電極層の一例を示す上面図である。
【図17】図16の第二の電極層の部分拡大図である。
【図18】本発明の有機トランジスタアレイの一例を示す図である。
【図19】濡れ性変化層の紫外線照射量と水に対する接触角の関係を示す図である。
【図20】液体の表面張力と濡れ性変化層の液体に対する接触角の関係を示す図である。
【図21】チャネル長及びチャネル幅を説明する図である。
【図22】比較例1の有機トランジスタを示す図である。
【符号の説明】
【0089】
10、20、30、40 有機トランジスタ
11 基板
12 第一の電極層
12a、12b ゲート電極
13、21 濡れ性変化層
14 第二の電極層
14a ソース電極
14b ドレイン電極
14c アイランド電極
15 有機半導体層
61 高表面エネルギー領域
61a 第一のパターン
61b 第二のパターン
62 導電性材料を含有する液体
80 有機トランジスタアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成されている第一の電極層と、該第一の電極層が形成されている基板上に形成されている濡れ性変化層と、該濡れ性変化層の表面エネルギーが高い領域に形成されている第二の電極層と、該第二の電極層が形成されている濡れ性変化層上に形成されている有機半導体層を有する有機トランジスタであって、
該第一の電極層は、電気的に接続されている第一のゲート電極及び第二のゲート電極を有し、
該第二の電極層は、ソース電極、ドレイン電極及びアイランド電極を有し、
該アイランド電極は、間隙を介して該ソース電極と該ドレイン電極の間に形成されており、
該アイランド電極と該ソース電極の間の間隙及び該アイランド電極と該ドレイン電極の間の間隙は、それぞれ該第一のゲート電極上及び該第二のゲート電極上に形成されていると共に、該有機半導体層で覆われていることを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項2】
前記基板と前記第一の電極層の間に濡れ性変化層をさらに有し、
前記第一の電極層は、該濡れ性変化層の表面エネルギーが高い領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機トランジスタ。
【請求項3】
前記アイランド電極は、間隙を介して形成されている2個以上の電極からなり、
前記第一の電極層は、前記第一のゲート電極及び第二のゲート電極と電気的に接続されている1個以上のゲート電極をさらに有し、
該2個以上の電極の間の間隙は、該1個以上のゲート電極上に形成されていると共に、前記有機半導体層で覆われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機トランジスタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機トランジスタの製造方法であって、
基板上に第一の電極層を形成する工程と、
該第一の電極層が形成された基板上に濡れ性変化層を形成する工程と、
該濡れ性変化層にエネルギーを付与することにより表面エネルギーが高い領域を形成する工程と、
導電性材料を含有する液体を用いて該表面エネルギーが高い領域に第二の電極層を形成する工程と、
該第二の電極層が形成された濡れ性変化層上に有機半導体層を形成する工程を有することを特徴とする有機トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記表面エネルギーが高い領域は、第一の領域と該第一の領域よりも幅の狭い第二の領域を含有し、
前記導電性材料を含有する液体を該第一の領域に供給することにより前記第二の電極層を形成することを特徴とする請求項4に記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記基板上に第一の電極層を形成する工程は、前記基板上に濡れ性変化層を形成する工程と、該濡れ性変化層にエネルギーを付与することにより表面エネルギーが高い領域を形成する工程と、導電性材料を含有する液体を用いて該表面エネルギーが高い領域に前記第一の電極層を形成する工程を含有することを特徴とする請求項4又は5に記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記基板上に第一の電極層を形成する工程で形成される表面エネルギーが高い領域は、第一の領域と該第一の領域よりも幅の狭い第二の領域を含有し、
前記導電性材料を含有する液体を該第一の領域に供給することにより前記第一の電極層を形成することを特徴とする請求項6に記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機トランジスタを複数有することを特徴とする有機トランジスタアレイ。
【請求項9】
請求項8に記載の有機トランジスタアレイを有することを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−270544(P2008−270544A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111830(P2007−111830)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】