有機半導体およびそれを用いた電子機器
【課題】高性能な新規有機半導体を提供する。
【解決手段】スマネン(式(1)においてX1〜X3=CH2)またはその誘導体を含む有機半導体および製造法。X1〜X3はメチレン、ビニリデン、カルボニル、チオカルボニル、イミノメチレン、イミノまたは酸素を表わす。
【解決手段】スマネン(式(1)においてX1〜X3=CH2)またはその誘導体を含む有機半導体および製造法。X1〜X3はメチレン、ビニリデン、カルボニル、チオカルボニル、イミノメチレン、イミノまたは酸素を表わす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体およびそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、本発明者らは、スマネン(Sumanene)と呼ばれる有機化合物(下記式(84))の合成に世界ではじめて成功した(非特許文献1等参照)。この化合物は、学術的観点のみならず産業上の観点からも多大な利用可能性が見込まれており、例えば電子材料等への応用の可能性が注目されている。以下、本発明者らがスマネンおよびその製造方法の発明をするに至った経緯について説明する。
【0003】
【化8】
【0004】
C60(下記式(82))やC70をはじめとする各種フラーレンおよびカーボンナノチューブと呼ばれる一群の炭素同族体(以下、これらを総称して「フラーレン類」と呼ぶことがある)は、その特異的な物性から次世代材料として注目されている。フラーレン類は、C60やC70以外にも種々の構造のものが知られており、それぞれが固有の物性を有している。それらを化学修飾することにより、さらに多様な機能を付加しようとする研究も全世界的に活発に行なわれている。
【0005】
【化9】
【0006】
しかし、現状では、フラーレン類の製造方法はいわゆるアーク放電法等に限定されており、C60およびC70は比較的容易に得られるが、その他のフラーレン類はごく微量しか生産することができず、入手が非常に困難である。したがって、フラーレン類を化学修飾して種々の構造の高機能材料を製造しようとしても、出発原料の種類の貧困さが問題となる。
【0007】
上記の事情に鑑み、フラーレン類を化学的に合成しようとする試みが世界各地で盛んに行なわれているが、この研究はようやく端緒についたばかりであり、いまだ誰も成功していない。しかしながら、有機合成化学の手法によれば、前記アーク放電法等と異なり生成物の分子構造を自由自在に制御できるため、研究が進めば、従来は入手困難であったフラーレン類も自由に得られることが期待できる。さらに、既存のフラーレン類に限定されず、新規なフラーレン類およびその誘導体についても合成できれば、新規材料の設計に大きな風穴を開けることになると考えられる。例えば、フラーレン類の炭素原子の一部をヘテロ原子で置き換えたヘテロフラーレン類は、理論研究によりその挙動が注目されている(例えば、非特許文献2参照)が、C59N(非特許文献3参照)等のごく一部の化合物を除いていまだ製造されておらず、その有機化学的合成法の確立が期待される。
【0008】
現在は、C60の部分的構造である非平面共役系炭素骨格を含む化合物を合成すべく研究が進められている。しかし、従来は、コランニュレン(Corannulene)と呼ばれる化合物(下記式(83))およびその誘導体が1966年に合成されたことが報告されているのみであり、かつ、実験室レベルでの合成しか行われていなかった。なお、1999年には、フラスコ内の穏やかな条件下においてコランニュレンを比較的大量に合成できるルートも報告されている(非特許文献4)。
【0009】
【化10】
【0010】
コランニュレンは、前記C60の部分的構造を含む化合物としては世界ではじめて合成された化合物であり、その学術的意義は大きいが、産業上利用等の観点から見ると難点があった。なぜならば、その骨格の炭素原子が全てベンゼン核に取り込まれているため反応性がさほど高くないからである。したがって、コランニュレンは、前記C60の部分的構造を含むにも関わらず、実際にC60等のフラーレン類およびその他の化合物の合成原料等として用いるには困難を伴う。実際に、コランニュレン誘導体も、現時点ではごく限られた構造のものが合成されているだけである。
【0011】
研究者の間で、コランニュレンの他にもう一つ注目されてきた化学構造が、前記スマネン(Sumanene)であった。コランニュレンがC60のC5対称部分骨格を含むのに対し、スマネンはC60のC3対称部分骨格を含む。そして、スマネンは、コランニュレンと異なり、ベンジル位炭素を3ヶ所に含んでいることが大きな特徴である。一般に、ベンジル位炭素を含む化合物は合成原料として価値が高い。なぜならば、ベンジル位炭素は非常に活性が高く、カチオン種、アニオン種、カルベンなど様々な活性種を発生させることができ、その活性種を足がかりにさらなる結合生成反応への応用が可能だからである。したがって、スマネンはコランニュレンよりもはるかに反応性が高く、例えば、ベンジル位の酸化反応などにより様々な官能基を直接導入し、多種多様な誘導体を合成できると考えられる。そして、さらにそれら誘導体を原料としてフラーレン類のみならず様々な化合物を合成できることが期待される。
【0012】
また、ベンジル位炭素を含むことは、合成原料として有利なだけでなく、前記活性種自体にも大きな利用価値がある。例えば、スマネンのベンジルアニオン種はシクロペンタジエニルアニオンと同様の構造を含むことから、金属包摂能等を有すると考えられる。したがって、それ自体に大きな産業上の利用可能性があるだけでなく、金属内包型フラーレン化合物のモデル研究用化合物としての発展等も期待できる。
【0013】
このように、スマネンは、学術的にも絶大な価値を有し、そして産業上利用価値も多大なものが見込まれることから、多くの研究者がその合成に取り組んできた。しかし、その分子ひずみが大きいためか、合成に成功したとの報告はいまだになかった。スマネンについて述べた文献は少なくないが、いずれも理論計算等を行なうに止まっていた(例えば、非特許文献5および6参照)。
【0014】
なお、スマネンのベンジル位炭素を硫黄原子に置き換えた化合物(下記式(85))が合成されている(非特許文献7)。これ自体興味深い化合物ではあるが、合成するには、今のところ真空中で1000℃という厳しい条件が必要であり、大量生産して産業ベースに載せることは難しい状況である。また、そもそもスマネンとは物性が大いに異なる。例えば、前記硫黄原子の反応性はベンジル位炭素のように自由自在ではなく、オキソ基等を付加できるに止まると思われる。このように、スマネンの化学構造および有用性は予想されてはいるものの、合成に成功した例は今までになかった。
【0015】
【化11】
【0016】
以上のような状況の中で、本発明者らは、鋭意検討の結果、前述の通り、スマネンの合成に世界で初めて成功し、その製造方法を確立するに至った。この製造方法によれば、有機合成化学の手法を用いてスマネンおよびその誘導体を困難なく得ることができる。例えば、安価で容易に入手可能なノルボルナジエンから、フラスコ内において、穏和な条件下、わずか3ステップでスマネンを合成することも可能である。
【0017】
【非特許文献1】Hidehiro Sakurai, Taro Daiko, Toshikazu Hirao, Science, 2003, 301, p.1878.
【非特許文献2】M. Riad Manaa, David W. Sprehn, and Heather A. Ichord, J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, p.13990-13991.
【非特許文献3】Science, 1995, 269, p.1554.
【非特許文献4】Andrzej Sygula and Peter W. Rabideau, J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, p.6323-6324.
【非特許文献5】U. Deva Priyakumar and G. Narahari Sastry, J. Phys. Chem. A, 2001, 105, p.4488-4494.
【非特許文献6】U. Deva Priyakumar and G. Narahari Sastry, Tetrahedron Letters, 2001, 42, p.1379-1381.
【非特許文献7】Koichi Imamura, Kazuo Takimiya, Yoshio Aso and Tetsuo Otsubo, Chem. Commun., 1999, p.1859-1860.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
スマネンおよびその誘導体については、前述の通り、学術的にも絶大な価値を有し、そして産業上利用価値も多大なものが見込まれている。しかしながら、スマネンは、世界ではじめて合成に成功したばかりの化合物であるため、その物性等についてはいまだ未知の部分が多いのも事実である。そのため、産業上利用可能性の探求等の観点から、スマネンについてさらなる研究が望まれている。一方、有機半導体の分野では、さらに性能が優れた半導体の開発が要求されている。
【0019】
したがって、本発明は、高性能な新規有機半導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明の有機半導体は、下記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む有機半導体である。
【0021】
【化12】
【0022】
式(1)中、A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
X1〜X3はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基(下記式(2))、ビニリデン基(下記式(3))、カルボニル基(下記式(4))、チオカルボニル基(下記式(5))、イミノメチレン基(下記式(6))、イミノ基(下記式(7))、または酸素原子(下記式(8))、であり、X1〜X3上に水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
【0023】
【化13】
【0024】
前記X1〜X3上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機半導体は、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことにより、半導体として優れた性能を発揮する。なお、本発明の有機半導体では、前記式(1)で表される化合物の分子は、中性分子であってもよいが、前記の通り、正または負の電荷を持ったイオンの状態であっても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。
【0027】
前記式(1)で表される化合物(スマネンおよびその誘導体)およびそれを含む組成物については、前述の通り多大な産業上利用価値が見込まれており、例えば、各種電子材料等の工業用材料、金属内包型フラーレン化合物のモデル化合物等の基礎研究用材料、光増感剤、重合触媒等、あらゆる用途への応用が期待されている。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、前記式(1)で表される化合物が、その電気的性質等の観点から有機半導体に好ましく使用できることをつきとめた。そして、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む本発明の有機半導体が、半導体として高性能であることを見出した。
【0028】
本発明の有機半導体中における分子の構造は特に限定されないが、例えば、前記式(1)で表される化合物の分子またはイオンが上下方向に積層した構造を有することが、電気的性質等においてさらに優れる等の観点から好ましい。
【0029】
本発明の有機半導体中における分子の構造、および本発明の有機半導体が電気的性質等に優れる理由は、必ずしも全てが明らかではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、まず、前記式(1)で表される化合物(スマネンおよびその誘導体)は、その分子構造中にベンゼン環構造を含み、前述の通り芳香族化合物としての性質を示す。しかしながら、その分子骨格が、通常の状態では、平面ではなく若干湾曲したボウル状であるために、π電子が完全には非局在化されず、若干の電荷の偏りが生じていると考えられる。分子中におけるこの若干の電荷の偏りのために、本発明の有機半導体は、電気的性質等において優れ、特に電気伝導性、電子移動性等において優れると推測される。さらに、前記式(1)で表される化合物分子は、前記電荷の偏りのために、分子間において電子密度の高い部分と低い部分とが引き合い、その結果、固体中においては規則正しく積層された構造をとると考えられる。そして、分子がこのような構造をとる結果、芳香環のπ電子が効率よくパッキング(充填)されるため、そのことも電気伝導性、電子移動性等に対して有利に働くと思われる。ただし、この説明は、推測されるメカニズムの一例であり、本発明を限定するものではない。また、前述の通り、本発明の有機半導体中における分子の構造は特に限定されず、前記式(1)で表される化合物またはイオンが上下方向に積層した構造を含む構造に限られるものではない。
【0030】
本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩のみからなっていても良いが、必要に応じてその他の成分を含んでいても良い。また、本発明の有機半導体は、電気的性質等の観点から、結晶構造を有することが好ましく、理想的には、いわゆる単結晶の状態であるのが良いが、これに限定されず、例えば、いわゆる多結晶その他任意の状態が可能である。
【0031】
このような本発明の有機半導体の製造方法も特に限定されないが、例えば、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを、溶媒に溶解後、再結晶するか、または融解後、固体化する工程を含む製造方法により製造することができる。このとき、必要であれば、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つに、さらにその他の成分を加えても良い。ただし、分子の規則正しい配列の妨げとなる不要な不純物は、あらかじめクロマトグラフィー等により除去しておくことが好ましい。再結晶する場合、溶媒は特に限定されず、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩の溶解度等を考慮して適宜決定すれば良いが、例えば、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸エチル等のエステル、ジエチルエーテル、THF(テトラヒドロフラン)、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等があげられ、これらは単独で用いても良いし二種類以上併用しても良い。再結晶により結晶を析出させる方法としては、温度による溶解度の相違を利用して、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩および必要に応じてその他の成分(以下、単に「溶質」と呼ぶことがある)を含む高温の飽和溶液を冷却する方法、溶質を含む溶液から溶媒を蒸発させて濃縮する方法、溶質を含む溶液に他の適切な溶媒を加えて前記溶質の溶解度を減少させる方法等を用いることができる。いずれの方法を用いる場合も、結晶を析出および成長させるための時間は、極力長くかければ、分子が規則正しく配列した大きい結晶が得られる等の利点があるが、この時間は、結晶の製造効率等も考慮して適宜決定することが好ましい。
【0032】
再結晶方法としては、より具体的には、例えば、前記溶質を適切な溶媒に添加し、その溶媒の沸点付近まで加熱して前記溶質を完全に溶解させた後に、静置したまま冷却して過冷却(過飽和)溶液とし、さらにそのままの温度で静置して結晶を析出させる方法等を用いることができる。静置する際には、例えば室温で静置しても良いし、必要に応じて冷蔵庫等で冷却しても良い。静置する際の温度も特に限定されないが、例えば、0〜20℃が好ましく、また、前記の通り、例えば室温でも良い。なお、「室温」とは、本発明では特に限定されないが、例えば、JIS K 0050の規定によれば5〜35℃である。なお、本発明の有機半導体の製造においては、例えば、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を、必要に応じてその他の成分と混合するのみでも良いが、電気的性質等のために有機半導体中の分子を規則正しく配列させる等の観点から、例えば、前記の通り、再結晶するか、または融解後、固体化する等の方法を用いることが好ましい。
【0033】
本発明の有機半導体は、前述の通り、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンの積層構造を含むことが好ましいが、電気伝導性、電子移動性等の観点から、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンが平行に積層されていることがより好ましい。より具体的には、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、原子団X1中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIとし、原子団X2中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIとし、原子団X3中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIIとし、xI、xIIおよびxIIIの3原子を含む平面をx面と定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、各分子またはイオンの前記x面同士が互いに平行であることがより好ましい。また、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、前記xI、xIIおよびxIIIの3原子を頂点とする三角形を定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、任意の前記分子またはイオン中における前記三角形が、その上または下に接して積層されている分子またはイオンの前記三角形に対し、前記x面内で60°±10°、180°±10°または300°±10°回転させた角度で位置することがさらに好ましい。なお、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンが、例えば母体化合物のスマネン(前記式(84))のようにC3対称性を有する場合は、前記角度が60°である状態、180°である状態、および300°である状態は、みな同じ状態を指す。また、本発明において、式(1)で表される化合物分子またはそのイオンが「平行」であると言う場合は、厳密に平行な状態のみならず実質的に平行である状態をも含む。
【0034】
なお、本発明の有機半導体中における各分子の構造および各分子間の位置関係等は、例えば、X線構造解析等の機器分析方法を用いて確認することができる。前述の通り、本発明の有機半導体中における分子構造は、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンの積層構造を含むことが、電気的性質等においてさらに優れるため、より好ましいが、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンの積層構造を含む構造に限られない。例えば、前記分子またはそのイオンが、各分子またはイオンの前記x面と平行な方向に規則正しく配列していれば、前記x面と平行方向の電気伝導性、電子移動性等が優れると考えられる。また、前記分子またはそのイオンは、必ずしも規則正しく配列していなくても、良好な電気伝導性、電子移動性等を得ることができる。
【0035】
本発明の有機半導体は、種々の電子機器に使用可能であり、中でも有機トランジスタ材料として有用である。本発明の有機半導体の形状は特に限定されないが、電子機器等に使用する場合は、例えば薄膜状であることが好ましい。また、本発明の有機半導体は、例えば、前述の通り再結晶法等により製造することもできるが、薄膜状の場合は、例えば以下のような方法で製造することができる。
【0036】
前記薄膜状の有機半導体の製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを薄膜状に形成する工程を含む。前記薄膜状に形成する方法は、特に限定されず公知の製膜法を用いることができるが、例えば、蒸着法、化学的気相成長法、スピンコート法および印刷法からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。また、薄膜状に形成する際に、必要に応じ、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩以外の成分を適宜併用しても良い。このような製造方法によれば、例えば、製造条件の適宜な設定により、前記式(1)で表される化合物分子またはイオンが上下方法に規則正しく積層した構造を有する有機半導体を容易に製造することも可能である。
【0037】
また、本発明の有機半導体は、導電性を所望の範囲とする等の目的で、ドーパントをさらに含んでいても良い。ドーパントとは、例えば、半導体の導電性を向上する等の目的で添加する物質であり、有機材料、例えば導電性高分子等の導電性を向上する目的で添加することもできる。
【0038】
本発明の有機半導体に含まれるドーパントは特に限定されず、公知のドーパント等を適宜用いることができ、例えば、下記のものが使用可能である。例えば、電子供与性の化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属、ユウロピウム等のランタノイド、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等があげられる。電子受容性の化合物として、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンおよびハロゲン元素を含む化合物、五フッ化リン、五フッ化砒素、五フッ化アンチモン、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素等のルイス酸、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸等の無機酸、各種有機酸、アミノ酸、三塩化鉄、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム、五塩化ニオブ、五塩化タンタル、三塩化セリウム等の遷移金属化合物、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等の電解質アニオン等があげられる。また、各種金属、例えば、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、オスミウム(Os)等の遷移金属もあげられる。ドーピング方法も特に限定されず、例えば電圧印加、レーザー光照射等の公知の方法を適宜用いることができる。
【0039】
本発明の有機半導体は、例えば、電気伝導性、電子移動性等の観点から、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩の純度が高いことが好ましい。具体的には、例えば、本発明の有機半導体の質量から前記ドーパントの質量を除いた部分において、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩の含有率が10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、理想的には100質量%である。例えば、前記一般式(1)で表される化合物が不純物を多く含む場合、蒸着法、化学的気相成長法等の方法により、純度を高めることができる。しかし、本発明の有機半導体は、必ずしも前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩の純度が高くなくても良い。例えば、本発明の有機半導体は、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される物質以外に、必要に応じて、有機半導体としての性質を示すその他の物質を適宜含んでいても良い。
【0040】
本発明の電子機器、特にトランジスタは、本発明の有機半導体を含むことにより優れた性能を有する。本発明のトランジスタの構成は特に限定されず、任意の構成が可能であり、例えば、公知のトランジスタの半導体部分に代え、またはそれに加え、本発明の有機半導体を含む構成であってもよい。本発明のトランジスタとしては、具体的には、例えば、薄型化等の観点から、薄層フィルム型トランジスタ(薄膜フィルム型トランジスタまたは薄膜フィルム型コンデンサなどとも呼ばれる)がより好ましい。また、本発明のトランジスタは、いわゆるバイポーラトランジスタでも電界効果型トランジスタ(電界効果型コンデンサなどとも呼ばれる)でも良いが、特に薄層フィルム型トランジスタである場合等は、製造しやすさ等の観点から、電界効果型トランジスタがより好ましい。
【0041】
本発明のトランジスタの構成は、例えば、本発明の有機半導体から形成された有機半導体層に加え、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、および絶縁層を含む構成であっても良い。これら各構成要素は、例えば絶縁基板上に形成されていても良い。これら各構成要素の位置関係は、例えば従来のトランジスタと同様でも良く、例えば、前記有機半導体層と前記ゲート電極との間は前記絶縁層により隔てられており、かつ、前記ソース電極およびドレイン電極が前記有機半導体層に直接接していても良い。さらに、前記有機半導体層以外の各構成要素の材質および大きさ等は特に限定されず、例えば、従来のトランジスタと同様でも良い。また、本発明のトランジスタの構成はこれに限定されず、前述の通り任意の構成が可能である。さらに、本発明のトランジスタの製造方法も特に限定されず、例えば、従来のトランジスタと同様でも良く、より具体的には、例えば、前記有機半導体層を、前記蒸着法、化学的気相成長法、スピンコート法または印刷法等により形成し、それ以外の各構成要素は従来と同様に形成しても良い。
【0042】
次に、前記式(1)で表される化合物およびその製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0043】
本発明者らは、前述の通り、スマネンの合成に世界で初めて成功した。そして、前記一般式(1)で表される本発明の化合物(すなわち、スマネンおよびその誘導体)とその製造方法とを確立した。
【0044】
前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩の製造方法は特に限定されず、どのような方法により製造しても良いが、例えば、以下に説明する製造方法により製造することが好ましい。この製造方法によれば、有機合成化学の手法を用いてスマネンおよびその誘導体を困難なく得ることができる。例えば母体化合物のスマネンについては、下記スキーム1に示すように、安価で容易に入手可能なノルボルナジエン(下記式(86))から、フラスコ内において、穏和な条件下、わずか3ステップで合成することも可能である。
【0045】
【化14】
【0046】
以下、前記製造方法についてさらに具体的に説明する。すなわち、まず、下記式(76)で表される化合物を準備する。この化合物およびその塩は、本発明者らの発明に係る新規化合物であり、さらに酸化(脱水素)反応を経由してスマネンおよびその誘導体に変換することができる。
【0047】
【化15】
【0048】
式(76)中、R1〜R6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、好ましくは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、またはナフチル基である。X11、X21およびX31はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基、イミノ基または酸素原子であり、イミノ基の場合は、その水素原子は保護基により置換されていても良い。以下、この化合物の製造方法について説明する。
【0049】
前記式(76)で表される化合物およびその塩の製造方法は特に限定されないが、下記式(77)で表される化合物のメタセシス反応を含む製造方法がより好ましい。この製造方法は本発明者らの発明に係る新規な製造方法である。メタセシス反応はよく知られている反応であるが、本発明者らはそれを下記式(77)で表される化合物に適用することを見出した。この方法を発明したことにより、スマネンおよびその誘導体を困難なく得ることができるようになった。
【0050】
【化16】
【0051】
式(77)中、R1〜R6、X11、X21およびX31はそれぞれ前記式(76)と同じである。
【0052】
前記メタセシス反応の条件は特に限定されず、従来のメタセシス反応と同様に行なうことができるが、触媒を用いて行なうことが好ましい。前記触媒は特に限定されず、いわゆるメタセシス触媒として通常用いられているものを使用することができ、単独で使用しても良いし二種類以上併用しても良い。また、前記触媒は、例えば、ルテニウム、アルミニウム、チタン、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含むことがより好ましい。このようなメタセシス触媒、特にルテニウムやモリブデンを含む触媒は多数開発されている。本発明に使用する前記触媒としては、具体的には、例えば、(PCy3)2RuCl2=CHPhすなわちビス(トリシクロヘキシルホスフィノ)ベンジリデンルテニウム(II)クロリド、Al(C2H5)3-TiCl4、Al(C2H5)3-MoCl3、およびAl(C2H5)3-WCl6からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが特に好ましいが、これらに限定されるものではない。前記触媒の使用量も特に限定されず、反応効率やコスト等を考慮して適宜調整すれば良いが、例えば、いわゆる化学量論量以下が好ましい。前記触媒の適切な使用量は、触媒の種類や反応スケール等によって変化し、一定ではないが、フラスコレベルの反応では、前記式(77)で表される化合物に対し、例えば5mol%程度である。なお、一般に、触媒反応では、反応スケールが大きくなれば、相対的に触媒使用量を減らせる(すなわち、基質量に対する触媒使用量の比率を小さくできる)傾向がある。
【0053】
また、前記メタセシス反応は、前記式(77)の化合物と反応するもう一種類のオレフィンを用いて行なうことが反応効率や収率の観点から好ましい。この場合のオレフィンは特に限定されないが、反応効率、コスト、扱いやすさ等の観点から、例えばエチレンがより好ましい。
【0054】
前記もう一種類のオレフィン、例えばエチレンを用いる場合の操作および反応原理は、例えば以下のように説明される。すなわち、まず、前記式(77)の化合物とエチレンとをメタセシス反応により化合させ、前記式(77)の化合物におけるオレフィン結合部分を開環させる。そして、その反応生成物をさらにメタセシス反応させて閉環させることにより、前記式(76)で表される化合物を生成させる。この閉環反応により再びエチレンが生成し、最終的に系中から除かれる。このようにすると、前記式(76)で表される化合物をさらに効率よく得ることができる。
【0055】
前記メタセシス反応におけるその他の使用物質や反応条件は特に限定されず、従来のメタセシス反応等を参考にして適宜設定すれば良い。溶媒は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化物や、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒や、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の高極性溶媒が使用可能であり、これら溶媒は単独で用いても二種類以上併用しても良い。反応温度および反応時間も特に限定されず、前記式(77)中におけるR1〜R6、X11、X21およびX31の構造や反応スケール等により適宜設定すれば良い。また、反応生成物の分離や精製の方法も特に限定されず、カラムクロマトグラフィーやGPC等の公知の手段を適宜用いて行なうことができる。
【0056】
以上のようにして、前記式(77)の化合物から前記式(76)の化合物を製造することができる。前記式(77)で表される化合物の製造方法も特に限定されないが、下記式(78)〜(80)で表される化合物をハロゲン化し、さらにWurtz型カップリングにより環化させることを含む製造方法が好ましい。
【0057】
【化17】
【0058】
ただし、式(78)〜(80)中、R1〜R6、X11、X21およびX31はそれぞれ前記式(77)と同じである。
【0059】
Wurtz型カップリングとは、ハロゲン化物同士のカップリング反応として知られており、本発明者らは、この反応を前記式(77)の化合物の製造に用いることを見出した。前記ハロゲンとしては、例えばフッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられ、これらの中で臭素がより好ましい。反応は、例えば金属ナトリウム、金属リチウム等のアルカリ金属や触媒等の存在下で行なわれ、前記触媒としては、例えば、銅触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒等があげられ、これらの中で銅触媒がより好ましい。また、ハロゲン化物は、単離状態で準備し、それをカップリングさせても良いが、反応系中でハロゲン化物を生成させ、同一の反応系中で(単離することなく)カップリングさせても良い。本発明では、前記Wurtz型カップリングの具体的な操作や反応条件は特に限定されないが、例えば以下の通りである。すなわち、まず、前記式(78)〜(80)の化合物(以下、単に「ジエン」と呼ぶことがある)と、カリウムt-ブトキシド、n-ブチルリチウムヘキサン溶液、1,2-ジブロモエタン、ヨウ化銅(I)、および溶媒としてのTHFを準備し、これら全ての反応物質および溶媒と、反応容器とを十分に乾燥させる。ジエンおよび溶媒以外の物質の使用量は特に限定されないが、副反応等を抑制するために全て同じ化学等量ずつ用いることがより好ましい。次に、前記反応容器内を不活性ガス置換し、t-BuOKおよびTHFを加えて溶解させる。その後、反応系温度をマイナス78 ℃まで下げ、ジエンを加え、さらにn-BuLiのヘキサン溶液を2時間かけ滴下する。滴下終了後、反応系の温度をマイナス40 ℃まで昇温し、さらに30分攪拌する。そして、前記系の温度をマイナス78℃に再び下げた後、1,2-ジブロモエタンを加え、その後再びマイナス40 ℃に昇温し、1時間半攪拌する。次に、再び前記系の温度をマイナス78 ℃に戻した後、ヨウ化銅(I)を加える。そして、マイナス78℃で4時間攪拌後、冷却を停止し、徐々に室温まで戻しながらさらに7時間攪拌する。その後、定法によりワークアップして、前記式(77)で表される目的化合物を得る。
【0060】
この反応における使用物質、反応温度および反応時間等は前記には限定されず、従来のWurtz型カップリング反応等を参考にして適宜設定することができる。また、前記式(78)〜(80)において、前記X11〜X31のうちいずれかがイミノ基である場合は、その水素原子は、副反応等を抑制するため保護基により置換されていることがより好ましい。保護基としては特に限定されず、公知の保護基を適宜用いることができるが、例えば、Greene and Wuts著 "Protective Groups in Organic Synthesis" 第2版(2nd Edition)に記載の保護基等があげられ、具体的には、t-ブトキシカルボニル基(Boc)、アセチル基(Ac)、ベンジルオキシカルボニル基(Z)、ベンジル基(Bz)等がある。
【0061】
なお、前記式(77)の化合物はsyn体であるが、通常、その異性体であるanti体との混合物として得られる。これらはGPC等の一般に用いられている手段により分離することができる。さらに、前記X11〜X31の全てが同一ではない場合、目的とする前記式(77)の化合物以外に多数の副生成物が得られるが、これらも、カラムクロマトグラフィーやGPC等の手段により分離することができる。
【0062】
また、前記式(77)の化合物の製造方法は、前記Wurtz型カップリング法には限定されず、公知の方法で合成することもできる。これら公知の方法としては、例えば、 "Giuseppe Borsato, Ottorino De Lucchi, Fabrizio Fabris, Luca Groppo, Vittorio Lucchini, and Alfonso Zambon, J. Org. Chem., 2002, 67, p.7894-7897." に記載されたハロゲン化物と有機金属試薬とのクロスカップリング法や、 "Harold Hart, Abdollah Bashir-Hashemi, Jihmei Luo and Mary Ann Meador, Tetrahedron, 1986, 42, p.1641-1654." , "Harold Hart, Chung-yin Lai, Godson Chukuemeka Nwokogu and Shamouil Shamouilian, Tetrahedron, 1987, 43, p.5203-5224." および "Francisco Raymo, Franz H. Kohnke and Francesca Cardullo, Tetrahedron, 1992, 48, p.6827-6838." 等に記載の合成法等がある。しかし、前記Wurtz型カップリング法を用いれば、例えば前述の通り、前記式(78)〜(80)で表される化合物をハロゲン化した後、前記ハロゲン化と同一の反応系中で(単離することなく)環化を行なうこともできる。このようにすれば、前記式(77)の化合物を、前記式(78)〜(80)の化合物から1ステップで簡便に合成できるため好ましく、前記X11〜X31の全てがメチレン基である場合には特に有効である。
【0063】
そして、前記式(77)の化合物が得られたら、前記の通り、この化合物のメタセシス反応により前記式(76)の化合物を得る。
【0064】
なお、前記式(77)の化合物から前記式(76)の化合物を得る方法として、前記メタセシス反応以外に、例えば以下のような製造方法もある。すなわち、まず、前記式(77)で表される化合物をオゾン分解して、下記式(77')で表される化合物を得る。このオゾン分解の条件は特に限定されず、公知のオゾン分解反応等を参考にして適宜設定することができる。
【0065】
【化18】
【0066】
式(77’)中、R1〜R6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、X11、X21およびX31はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基、イミノ基または酸素原子であり、イミノ基の場合は、その水素原子は保護基により置換されていても良い。
【0067】
オゾン分解とは、炭素−炭素不飽和結合を持つ化合物をオゾン化し、それをさらに分解してカルボニル化合物を得る反応として知られている。オゾン化物(オゾニド)を分解してカルボニル反応を得る方法としては、例えば、水により分解する方法および還元剤を用いる方法があり、より具体的には、例えば、酢酸存在下Zn−H2Oにより還元する方法、白金触媒やパラジウム触媒等の存在下で水素を用いて接触還元する方法、ラネーニッケルを用いて還元する方法等があげられる。オゾン分解について記述している文献は多数あるが、例えば、 "P. S. Bailely, Chem. Rev., 1958, 58, p.925." および "R. W. Murray, Acc. Chem. Res., 1968, 1, p.313." 等があげられる。
【0068】
なお、前記式(77')で表される化合物およびその塩は本発明に係る新規化合物であり、前記式(77)で表される化合物のオゾン分解を含む製造方法により製造されることが好ましいが、この製造方法に限定されずどのような方法により製造しても良い。
【0069】
そして、前記式(77')で表される化合物が得られたら、その分子内カップリング反応により前記式(76)で表される化合物を得る。この分子内カップリング反応の条件は特に限定されず、公知の反応を参考にするなどして適宜設定することができる。前記分子内カップリング反応は、遷移金属元素を用いた還元的カップリング反応が好ましく、前記遷移金属元素がチタンを含むことがより好ましい。なお、低原子価チタンを用いたカルボニル化合物の還元的カップリングはMcMurry反応として知られている。前記低原子価チタンは、例えばTiCl3やTiCl3(DME)1.5錯体(DMEはジメトキシエタンを表す)を反応系中で還元して発生させる方法がよく用いられており、この場合の還元剤としては、例えばZn(Cu)やC8K(カリウムグラファイト)等が用いられる。McMurry反応について述べた文献も多数あるが、例えば、 "J. E. McMurry, Acc. Chem. Res., 1974, 7, p.281." , "J. E. McMurry, Acc. Chem. Res., 1983, 16, p.405." , "J. E. McMurry and K. L. Kees, J. Org. Chem., 1977, 42, p.2655."および "D. L. J. Clive et al., J. Am. Chem. Soc., 1988, 110, p.6914." 等があげられる。
【0070】
以上のようにして前記化学式(76)で表される化合物が準備できたら、それを酸化して下記式(81)で表される化合物を製造する。
【0071】
【化19】
【0072】
式(81)中、R1〜R6、X11、X21およびX31はそれぞれ前記式(76)と同じである。
【0073】
前記酸化反応の条件は特に限定されず、従来の脱水素反応と同様の条件で行なうことができる。例えば、DDQやクロラニル等の酸化剤を用いても良いが、工業的には触媒を用いることが好ましい。前記触媒は特に限定されず、脱水素反応に通常用いられるものを使用することができるが、例えば、Pd−C(パラジウムカーボン)、白金、ロジウム、金属硫黄および金属セレン等が使用可能である。また、これら触媒は単独で用いても良いが、二種類以上併用しても良い。
【0074】
その他の使用物質や反応条件も特に限定されず、従来の脱水素反応を参考にするなどして適宜設定することができる。前記DDQ等の酸化剤やPd−C等の触媒を用いる場合、反応溶媒は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒が使用可能であり、これら溶媒は単独で用いても二種類以上併用しても良い。この場合の反応温度および反応時間も特に限定されず、反応物質の種類等により適宜選択すればよい。
【0075】
そして、前記式(81)で表される化合物が得られたら、X11〜X31上の水素原子およびR1〜R6上のベンジル位水素原子を必要に応じ置換して、前記式(1)で表される本発明の化合物を得ることができる。X11〜X31のうちいずれかがイミノ基であって、その水素原子が保護基により置換されている場合は、イミノ基を必要に応じ脱保護してからあらためて置換しても良い。脱保護の方法は特に限定されず、前記保護基の種類等に応じて公知の方法を適宜使用すれば良い。
【0076】
前記X11〜X31上の水素原子を置換する方法も特に限定されず、類似の化学構造を有するジフェニルメタン、フルオレンおよびカルバゾール等の置換反応と同様の方法で様々な置換基を導入することが可能である。例えば、X11〜X31のいずれかがメチレン基である場合、そのメチレン基をアルキル化するためには、前記メチレン基の水素をブチルリチウム等により脱離させてカルボアニオンを生成させ、さらにヨウ化アルキル等を加える等の方法を用いることができる。また、アルコキシ化するためには、ベンジル位のアルコキシ化に通常用いられる方法、例えばハロゲン化の後アルコーリシス反応させる方法等を使用することができる。さらに、R1〜R6上にベンジル位水素原子が存在する場合、その水素原子を置換する方法も特に限定されず、一般的なベンジル位置換反応と同様に行なうことができる。例えば、アルキル基やアルコキシ基で置換するには上述と同様の方法等を用いることが可能である。
【0077】
以上のようにすれば、前記式(1)で表される化合物を、有機合成化学的手法により困難なく得ることができる。しかし、前記式(1)で表される化合物の製造方法はこれに限定されず、どのような方法により製造しても良い。
【0078】
そして、前記式(1)で表される化合物を用いて、例えば前述の製造方法により、本発明の有機半導体を得ることができる。
【0079】
なお、本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記式(1)で表される化合物の分子から誘導される基が、二個以上、共有結合および架橋鎖の少なくとも一方により連結されている構造を有する化合物分子もしくはそのイオン(以下、単に「架橋体」と呼ぶことがある)を含んでいても良い。ただし、前記二個以上の基の構造は互いに同一でも異なっていても良い。このような有機半導体を製造する場合、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記架橋体を用いることができる。前記架橋鎖は特に限定されず、例えば、アルキレン基でも、ポリエンでも、エステル結合やエーテル結合等を含む架橋鎖等であっても良い。これらの中で、例えばアルキレン基が好ましく、メチレン基または炭素数2〜10のポリメチレン基がより好ましい。そして、前記二個以上の基が、それぞれ少なくとも一つのベンジル位炭素を含み、前記共有結合または架橋鎖との結合部位が前記ベンジル位炭素であることが好ましい。
【0080】
このような架橋体の製造方法も特に限定されず、目的とする架橋体の構造等に応じて公知の方法を適宜用いることができるが、一例として以下のような方法がある。すなわち、まず、スマネン(前記式(84)の化合物)のベンジル位を一箇所、モノハロゲン化し、ハロゲン化アルキレン、例えば1,4-ジブロモブタンとカップリング反応させる。この方法は特に限定されないが、例えば、前記スマネンのモノハロゲン化物に金属Mgを加えてGrignard試薬とした後、1,4-ジブロモブタンを加えてカップリングさせる方法がある。このようにすると、スマネンのベンジル位同士がテトラメチレン基で連結された化合物が得られる。さらに、必要に応じ、残りのベンジル位に前記の方法等で置換基を導入して目的の架橋体を得る。
【0081】
また、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンもしくは架橋体に互変異性体、立体異性体、光学異性体等の異性体が存在する場合は、本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンもしくは架橋体に代え、またはそれに加え、前記異性体を含むものであっても良い。さらに、前記式(1)の化合物およびその他本発明に係る化合物が塩を形成し得る場合は、本発明の有機半導体は、その塩を含む有機半導体であっても良い。前記塩は特に限定されず、例えば酸付加塩でも塩基付加塩でも良く、さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でも良い。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸および、ヨウ化水素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。
【0082】
前記式(1)で表される化合物の塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記式(1)で表される化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0083】
本発明の有機半導体では、前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たすことが好ましい。
【0084】
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基である。
【0085】
また、前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たすことがより好ましい。
【0086】
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【0087】
そして、前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たすことがさらに好ましい。
【0088】
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、炭素数1〜3000(特に好ましくは1〜300、最適には1〜30)の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、下記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、
【0089】
【化20】
【0090】
【化21】
【0091】
【化22】
【0092】
ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000(特に好ましくは1〜300、最適には1〜30)の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000(特に好ましくは1〜300、最適には1〜30)の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【0093】
なお、本発明で「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指すが、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。また、アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基等があげられ、アルキル基をその構造中に含む基(例えば、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等)についても同様である。不飽和炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基および2−ブテニル基等があげられる。アルカノイル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基およびイソバレリル基等があげられ、アルカノイル基をその構造中に含む基(アルカノイルオキシ基、アルカノイルアミノ基等)についても同様である。また、炭素数1のアルカノイル基とはホルミル基を指すものとし、アルカノイル基をその構造中に含む基についても同様とする。
【0094】
前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖は、ポリフェニレン、オリゴフェニレン、ポリフェニレンビニレン、オリゴフェニレンビニレン、ポリエン、オリゴビニレン、ポリアセチレン、オリゴアセチレン、ポリピロール、オリゴピロール、ポリチオフェン、オリゴチオフェン、ポリアニリンおよびオリゴアニリン(ただし、これらは1個以上の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い)からなる群から選択される少なくとも一つであることがさらに好ましく、この場合の置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つであることが特に好ましい。また、前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖は、その式量が30〜30000の範囲であることがさらに好ましい。前記式量は、特に好ましくは50〜5000、最適には50〜1000である。
【0095】
また、前記式(1)において、前記同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)または同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士が共有結合により結合され、それらの結合するArまたはXaとともに炭素環またはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成する場合、前記環の構成原子数が3〜20であり、前記置換基が、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0096】
また、前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基のうち少なくとも一つが、その結合するXaおよびさらにそのXaが結合するベンゼン核と一体となって共役系を形成していれば、電気伝導性、電子移動性等の観点から、有機半導体の用途にさらに好ましく使用することができる。このような化合物は多数存在するが、例えば下記式(89)〜(91)で表される化合物等がある。ただし式(89)〜(91)の化合物は例示に過ぎず、これらに限定されるものではない。
【0097】
【化23】
【0098】
前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基が存在しない(すなわち、前記X1〜X3上の水素原子のいずれもが前記置換基により置換されていない)化合物は、そのまま本発明の有機半導体の原料として用いても良いが、その他の誘導体の合成原料等に使用しやすいため、前記その他の誘導体に変換してから本発明の有機半導体の原料として用いても良い。A1〜A6については、全て水素原子であることが、同様に、その他の誘導体の合成原料等や本発明の有機半導体の原料に使用しやすく好ましい場合があるが、A1〜A6がアルキル基や芳香族炭化水素基を含んでいても良い。
【0099】
また、前記式(1)において、X1〜X3は、例えば、メチレン基、ビニリデン基、イミノ基および酸素原子からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましく、X1〜X3の全てがメチレン基であることがより好ましい。特に、A1〜A6の全てが水素原子であり、かつ、X1〜X3の全てがメチレン基であり、そのいずれもが置換されていない化合物、すなわち母体化合物のスマネンは、各種誘導体の合成原料等として利用しやすいのみならず、それ自体も有機半導体用材料として好適である。
【0100】
さらに、本発明者らは、前記一般式(1)に記載の化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩のうち、X1〜X3がビニリデン基であり、X1〜X3は、それぞれ、フェニル基、チエニル基およびオリゴチオフェン鎖からなる群から選択される少なくとも1個の置換基(前記置換基は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)で置換されている化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩が、本発明の有機半導体に好ましく使用できることを見出した。前記オリゴチオフェン鎖の重合度は、特に限定されないが、例えば2〜8である。また、前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、特に好ましくはメチル基である)およびアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基である)が挙げられ、前記電子求引基としては、例えば、ハロゲンおよびハロゲン化アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝ハロゲン化アルキル基であり、特に好ましくはトリフルオロメチル基である)が挙げられる。これらの化合物のうち、特に好ましいのは、下記式(101)〜(109)のいずれかで表される化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩である。
【0101】
【化24】
【0102】
【化25】
【0103】
これらの化合物が本発明の有機半導体に好ましく使用できる理由としては、例えば以下の理由が挙げられる。すなわち、まず、ビニリデン基およびそれに結合するフェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖が、スマネン構造のベンゼン核と一体となって共役系を形成するため、前述の通り、電気伝導性、電子移動性等の観点から好ましい。また、溶媒に対する溶解度等に優れることにより、例えば再結晶、薄膜形成等の操作を簡便に行うことが可能であり、有機半導体を製造しやすい。さらに、例えば、フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖が電子供与基または電気求引基により置換されていることで、バンドギャップエネルギーがさらに減少し、電気伝導性、電子移動性等がより向上することが考えられる。
【0104】
なお、前記式(101)〜(109)中、波線で表した結合は、ビニリデン基のいずれの側に結合していても良いことを示す。例えば、前記式(101)の化合物は、下記式(101−1)で表される対称型化合物であっても良いし、下記式(101−2)で表される非対称型化合物であっても良い。前記式(102)〜(109)の化合物についても同様である。
【0105】
【化26】
【0106】
また、本発明者らは、前記一般式(1)に記載の化合物のX1〜X3の少なくとも一つがメチレン基である場合に、そのメチレン基を効率良くビニリデン基に変換できる方法を見出した。この方法を用いた本発明の有機化合物の製造方法によれば、前記式(101)〜(109)で表される化合物等を効率良く製造することができる。前記本発明の製造方法は、より具体的には、有機化合物の製造方法であって、前記式(1)に記載の化合物のうちX1〜X3の少なくとも一つがメチレン基である化合物を、無機塩基および相間移動触媒の存在下、アルデヒドまたはケトンと反応させ、前記メチレン基がビニリデン基(置換基によって置換されていてもいなくても良い)に変換された生成物とする工程を含む製造方法である。なお、前記無機塩基および相間移動触媒に代えてブチルリチウム等のリチオ化試薬を用いても、X1〜X3のうち少なくとも一つのメチレン基を効率良くビニリデン基に変換することはできる。しかし、無機塩基および相間移動触媒を用いた前記本発明の製造方法によれば、前記ビニリデン基への変換反応を極めて効率良く行うことができる。
【0107】
前記生成物におけるビニリデン基の水素原子が置換基によって置換されている場合、前記置換基は、特に限定されないが、例えば、前記式(1)でX1〜X3がビニリデン基である場合における、前述の好ましい置換基等であっても良い。例えば、これらの置換基に対応した構造を有するアルデヒドまたはケトンを用いれば、これらの置換基を有する化合物を簡便に製造することができる。
【0108】
前記本発明の有機化合物の製造方法において、前記アルデヒドまたはケトンが、芳香環にホルミル基が直接結合した芳香族アルデヒドであることが、反応性が高い、生成物の電気伝導性、電子移動性等が良好である等の理由により好ましい。前記芳香族アルデヒドの芳香環は、フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖であることがさらに好ましく、前記フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い。前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、特に好ましくはメチル基である)およびアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基である)が挙げられ、前記電子求引基としては、例えば、ハロゲンおよびハロゲン化アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝ハロゲン化アルキル基であり、特に好ましくはトリフルオロメチル基である)が挙げられる。
【0109】
なお、前記本発明の有機化合物の製造方法において、前記アルデヒドまたはケトンに代え、他の求電子剤を用いても良い。この場合の生成物としては、X1〜X3のうち少なくとも一つのメチレン基がビニリデン基に変換された前記生成物に代え、求電子剤に対応した生成物を得ることができる。例えば、前記求電子剤として、ハロゲン化炭化水素またはその誘導体を用い、前記メチレン基の水素原子が、炭化水素基または前記炭化水素基から誘導される基で置換された生成物を得ることもできる。前記ハロゲン化炭化水素は特に限定されず、例えばアルキル基等の飽和炭化水素基がハロゲン置換されたものでも、芳香族炭化水素基等の不飽和炭化水素基がハロゲン置換されたものでも良い。この中で、例えば、ハロゲン化アリル、ハロゲン化ベンジル等のハロゲン化不飽和炭化水素が、反応性が高い等の観点から好ましい。一例として、3-ブロモプロペン等のハロゲン化アリルを用いれば、前記X1〜X3のうち少なくとも一つのメチレン基における水素原子がアリル基で置換された生成物を得ることができる。
【0110】
また、前記本発明の有機化合物の製造方法において、前記無機塩基は、特に限定されないが、例えば、反応性等の観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。前記相間移動触媒も特に限定されないが、反応性等の観点から、例えば、アンモニウム塩およびホスホニウム塩の少なくとも一方を含むことが好ましく、前記アンモニウム塩としては、例えば4級アルキルアンモニウム塩がより好ましい。前記相間移動触媒は、例えば、n-Bu4NBr, n-Bu4NI, n-Bu4NCl, n-Bu4NHSO4, n-Bu4NF, n-Bu4NOH, n-Bu4NBF4, n-Bu4NPF6-, Me4NBr, Me4NI, Me4NCl, Me4NHSO4, Me4NF, Me4NOH, Me4NBF4, Me4NPF6-, Et4NBr, Et4NI, Et4NCl, Et 4NHSO4, Et 4NF, Et 4NOH, Et 4NBF4, Et 4NPF6-, (n-C3H7)4NBr, (n-C3H7)4NI, (n-C3H7)4NCl, (n-C3H7)4NHSO4, (n-C3H7)4NF, (n-C3H7)4NOH, (n-C3H7) 4NBF4, (n-C3H7)4NPF6-, (i-C3H7)4NBr, (i-C3H7)4NI, (i-C3H7)4NCl, (i-C3H7)4NHSO4, (i-C3H7)4NF, (i-C3H7)4NOH, (i-C3H7) 4NBF4, (i-C3H7)4NPF6-, (n-C5H11)4NBr, (n-C5H11)4NI, (n-C5H11)4NCl, (n-C5H11)4NHSO4, (n-C5H11)4NF, (n-C5H11)4NOH, (n-C5H11)4NBF4, (n-C5H11)4NPF6-, (n-C6H13)4NBr, (n-C6H13)4NI, (n-C6H13)4NCl, (n-C6H13)4NHSO4, (n-C6H13)4NF, (n-C6H13)4NOH, (n-C6H13)4NBF4, (n-C6H13)4NPF6-, (n-C7H15)4NBr, (n-C7H15)4NI, (n-C7H15)4NCl, (n-C7H15)4NHSO4, (n-C7H15)4NF, (n-C7H15)4NOH, (n-C7H15)4NBF4, (n-C7H15)4NPF6-, (n-C8H17)4NBr, (n-C8H17)4NI, (n-C8H17)4NCl, (n-C8H17)4NHSO4, (n-C8H17)4NF, (n-C8H17)4NOH, (n-C8H17)4NBF4, (n-C8H17)4NPF6-, (n-C9H19)4NBr, (n-C9H19)4NI, (n-C9H19)4NCl, (n-C9H19)4NHSO4, (n-C9H19)4NF, (n-C9H19)4NOH, (n-C9H19)4NBF4, (n-C9H19)4NPF6-, (n-C10H21)4NBr, (n-C10H21)4NI, (n-C10H21)4NCl, (n-C10H21)4NHSO4, (n-C10H21)4NF, (n-C10H21)4NOH, (n-C10H21)4NBF4, (n-C10H21)4NPF6-, (n-C11H23)4NBr, (n-C11H23)4NI, (n-C11H23)4NCl, (n-C11H23)4NHSO4, (n-C11H23)4NF, (n-C11H23)4NOH, (n-C11H23)4NBF4, (n-C11H23)4NPF6-, (n-C12H25)4NBr, (n-C12H25)4NI, (n-C12H25)4NCl, (n-C12H25)4NHSO4, (n-C12H25)4NF, (n-C12H25)4NOH, (n-C12H25)4NBF4, (n-C12H25)4NPF6-, Bn4NBr, Bn4NI, Bn4NCl, Bn4NHSO4, Bn4NF, Bn4NOH, Bn4NBF4, Bn4NPF6-, BnMe3NBr, BnMe3NI, BnMe3NCl, BnMe3NHSO4, BnMe3NF, BnMe3NOH, BnMe3NBF4, BnMe3NPF6-, BnEt3NBr, BnEt3NI, BnEt3NCl, BnEt3NHSO4, BnEt3NF, BnEt3NOH, BnEt3NBF4, およびBnEt3NPF6- からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが特に好ましい。反応温度、反応時間、使用溶媒等も特に限定されず、例えば、原料の種類等に応じて適宜設定しても良いし、相間移動触媒を用いた従来の有機合成反応等を参考にして適宜設定しても良い。前記反応温度は、例えば3〜150℃、好ましくは10〜35℃、特に好ましくは20〜30℃、であり、前記反応時間は、例えば0.1〜72時間、好ましくは1〜24時間、特に好ましくは1〜3時間である。前記使用溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、アニソール、クロロベンゼン等の芳香族溶媒、アセトニトリル等のニトリル、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール、および水が挙げられる。
【0111】
以上、前記式(1)で表される化合物およびその製造方法等について説明した。
【0112】
さらに、本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される本発明の化合物またはその架橋体と、金属元素との錯形成構造を含む有機半導体であっても良く、前記式(1)の化合物またはその架橋体は、その互変異性体または立体異性体であっても良い。前記金属元素は、単一の金属元素でも二種類以上の金属元素を含んでいても良いが、例えば、遷移金属元素を含むことが好ましく、この遷移金属が、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)およびオスミウム(Os)からなる群から選択される少なくとも一つを含むことがより好ましい。
【0113】
本発明の有機半導体は、前述の通り、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことにより、高性能であり、有機トランジスタ等の種々の電子機器に使用可能である。また、本発明の有機半導体は、有機トランジスタに限定されず、他にもあらゆる電子機器に使用可能であるが、例えば、公知の有機デバイス、有機半導体、導電性ポリマー等が使用されている電子機器と同じ種類の電子機器に使用可能であり、より具体的には、例えば、コンデンサ、キャパシタ、電池、有機EL、燃料電池、有機太陽電池等の電子機器に用いることができる。
【実施例】
【0114】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0115】
(測定条件等)
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、Varian社製のMercury300(商品名)という機器(1H測定時300MHz)を用いて測定した。ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。内部標準0ppmには、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。結合定数(J)は、ヘルツで示しており、略号s、d、t、q、mおよびbrは、それぞれ、一重線(singlet)、二重線(doublet)、三重線(triplet)、四重線(quartet)、多重線(multiplet)および広幅線(broad)を表す。高分解能質量分析(HRMS)は、JEOL社製 JMS-DX-303(商品名)を用い、電子衝撃法または化学的イオン化法により測定した。溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル(UV-VIS)は、株式会社日立製作所製U-3500(商品名)を用いて測定した。測定値(波長)はnmで表している。固体(薄膜)のUV-VISスペクトルは、Agilent Technologies社製分光光度計Agilent8453(商品名)を用いて測定した。測定値(波長)はnmで表している。赤外線吸収スペクトル(IR)は、日本分光株式会社製FT/IR 480 plus(商品名)を用い、KBr法により測定した。測定値(波数)はcm-1で表しており、略号mおよびwは、それぞれ、mediumおよびweakを表す。融点は、株式会社柳本製作所製Yanagimoto MicroPoint Apparatus(商品名)を用いて測定した。元素分析値は、Perkin-Elmer社製CHN-Corder PERKIN-ELMER 240C(商品名)を用いて測定した。X線構造解析は、株式会社リガク製 AFCC5R(商品名)X線回折装置を用い、グラファイトで単色化されたMo−Kα線を用いて解析した。電気伝導度は、ケースレーインスツルメンツ株式会社製エレクトロメーター6517(商品名)を用いて測定した。カラムクロマトグラフィー分離には、シリカゲル(商品名Wakogel CF-200、和光純薬工業株式会社)を用いた。薄層クロマトグラフィー(TLC)用のプレートは、和光純薬工業株式会社製Wakogel BF-5(商品名)を用いた。GPCは、日本分析工業株式会社製LC-908(商品名)を用いて行なった。全ての化学物質は、試薬級である。ノルボルナジエンは、東京化成工業株式会社から購入した(500mL、16000円)。n-BuLiのヘキサン溶液は関東化学株式会社から、(PCy3)2RuCl2=CHPhはAldrich社から、エチレンは大阪酸素工業株式会社から、t-BuOK、1,2-ジブロモエタン、ヨウ化銅(I)、トルエンおよびDDQは和光純薬工業株式会社からそれぞれ購入した。
【0116】
〔実施例1:スマネンを用いた有機半導体〕
本実施例では、以下の通り、前記式(84)で表されるスマネンを合成し、それを用いて有機半導体を製造し、さらに、その有機半導体の電気的性質を測定した。
【0117】
(スマネンの合成)
前記スキーム1に従い、スマネンを合成した。前記スキーム1を下に再掲する。
【0118】
【化27】
【0119】
以下、具体的な操作および手順等について説明する。
【0120】
[ステップa: syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(前記式(87))の合成]
まず、1 L の3口フラスコを真空加熱乾燥した後アルゴン置換し、その中に、t-BuOK (120 mmol, 13.5 g)および脱水THFを180 mL 加えて攪拌した。次に、反応系の温度をマイナス78 ℃まで下げた後、攪拌を続けながら前記式(86)で表される化合物であるノルボルナジエン(2,5-norbornadiene, 240 mmol, 22.1 g)を加え、続いてn-BuLiのヘキサン溶液(濃度1.56 mol/L、n-BuLi 120 mmol相当量)を2時間かけ滴下した。滴下終了後、反応系の温度をマイナス40 ℃まで昇温し、さらに30分攪拌した。そして、前記系の温度をマイナス78℃に再び下げた後、1,2-ジブロモエタン (60 mmol, 11.3 g)を加え、その後再びマイナス40 ℃に昇温し、1時間半攪拌した。次に、再び前記系の温度をマイナス78 ℃に戻した後、ヨウ化銅(I) (120 mmol, 22.9 g)を加えた。そして、マイナス78℃で4時間攪拌後、冷却を停止し、徐々に室温まで戻しながらさらに7時間攪拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を用いて反応を停止し、セライト濾過した。その濾液をエーテルで抽出し、残った水層をさらにエーテルで十分抽出した後、合わせた有機層を水で洗浄し、MgSO4で乾燥した。そして、減圧下溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : ジクロロメタン = 4 :1)により分離し、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(syn-benzotris(norbornadiene)、)とanti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(anti-benzotris(norbornadiene))のジアステレオマー混合物を得た。さらに、その混合物をGPCにより分離し、目的物であるsyn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(収量108 mg、単離収率2%)と、anti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(収量270 mg、単離収率5%)とを得た。以下に、これらの化合物の物性値を示す。
【0121】
syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン): HRMS:270.1403、融点:195 ℃ (dec)、1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ= 6.57 (t, J=1.8 Hz, 6 H), 3.90-3.87 (m, 6 H), 2.22 (dt, J=7.2, 1.5 Hz, 3H), 2.08 (dt, J=7.2, 1.5 Hz, 3 H); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): 141.59, 137.66, 66.73, 17.44 ppm.
anti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン): 1H-NMR (300 MHz, CDCl3):δ= 6.68 (t, J= 1.8 Hz, 2 H), 6.65 (dd, J=5.4, 3.0 Hz, 2 H), 6.59 (dd, J= 5.4, 3.0 Hz, 2 H), 3.90-3.87 (m, 2 H), 3.87-3.85 (m, 4 H), 2.05 (dt, J=7.2 1.5 Hz, 4 H), 2.00(dt, J=7.2, 1.5 Hz, 4 H)
【0122】
[ステップb: ヘキサヒドロスマネン(前記式(88))の合成]
まず、200 mL3口フラスコを真空加熱乾燥後アルゴン置換し、その中に、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(0.074 mmol, 20 mg)をトルエン100 mLに溶かした溶液を加えた。次に、系の温度をマイナス78 ℃に下げ、エチレンガスをバブリングして充分導入し、前記系内をエチレン雰囲気下とした。その後、前記系の温度を室温に戻し、(PCy3)2RuCl2=CHPh (0.0037 mmol, 3 mg, 5 mol%)を加え、エチレン雰囲気を維持したまま室温で24時間攪拌した。さらに、前記系内をアルゴン雰囲気下にし48時間加熱環流した後、反応混合物をシリカゲルによりろ過した。その濾液を減圧下溶媒留去し、得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=5 : 1)により単離し、さらに最終的にGPCにより精製し、目的化合物であるヘキサヒドロスマネン(hexahydrosumanene)を得た(収量4 mg、単離収率20%)。以下に、この化合物の物性値を示す。
【0123】
HRMS:Found:m/z = 270.1412, Calcd for C21H18:M = 270.1408、融点:180 ℃(dec)、1H-NMR(300 MHz, CDCl3):δ= 5.69 (s, 6 H), 3.81 (dd, 6 H, J = 9.9 and 7.2 Hz), 2.78 (dt, 3 H, J = 11.4 and 7.2 Hz), 1.01 (dt, 3H, J = 9.9 and 11.4 Hz); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): 141.91, 129.28, 43.66, 40.35 ppm.、IR(KBr):ν = 3010(m), 2919(m), 2814(m), 1595(w), 1445(w), 1260(w) cm-1、UV-VIS(CH2Cl2):最大吸収波長(Absorption λmax) = 240 nm, 最大発光波長(Emission λmax) = 331 nm(励起波長(Excitation λ) = 240 nm)
【0124】
[ステップc: スマネン(前記式(84))の合成]
まず、10 mLの2口フラスコを真空加熱乾燥した後アルゴン置換した。次に、その中に、ヘキサヒドロスマネン (0.011 mmol, 3 mg)をトルエン2 mLに溶かした溶液をシリンジで加え、さらにDDQ (0.0385 mmol, 9 mg)を加えたのち、110℃で20時間加熱した。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、残渣を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン)により分離し、目的化合物のスマネンを得た(収量2 mg、単離収率67%)。以下に、この化合物の物性値を示す。また、図1〜5にこの化合物のUV-VIS吸収スペクトル図を示す。使用溶媒は、図1ではシクロヘキシルアミン(CHA)、図2ではテトラヒドロフラン(THF)、図3ではアセトニトリル(CH3CN)、図4ではジクロロメタン(CH2Cl2)であり、溶液の濃度はいずれも1.0×10-4 Mである。また、図5は、図1〜4の全てのスペクトル図を1つにまとめて示した図である。
【0125】
元素分析値:Found; C; 95.22, H; 4.77%; Calcd for C21H12 : C; 95.42, H; 4.58%、HRMS:Found:m/z = 264.0923, Calcd for C21H12:M = 264.0939、融点:115 ℃(空気中)、>290 ℃(窒素封入キャピラリー中)、1H-NMR(300 MHz, CDCl3): δ= 7.01 (s, 6 H), 4.71 (d, J = 19.5 Hz, 3 H), 3.42 (d, J = 19.5 Hz, 3 H); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): 148.78, 148.60, 123.15, 41.77 ppm.、IR(KBr):ν = 2950(m), 2922(s), 2852(m), 1653(m), 1558(m), 1260(w), 803(s) cm-1、UV-VIS(シクロヘキシルアミン(CHA)、1.0×10-4 M):最大吸収波長(Absorption λmax) = 279 nm(logε=4.56)、UV-VIS(テトラヒドロフラン(THF)、1.0×10-4 M):最大吸収波長(Absorption λmax) = 278 nm(logε=4.62)、UV-VIS(アセトニトリル(CH3CN)、1.0×10-4 M):最大吸収波長(Absorption λmax) = 276 nm(logε=4.25)、UV-VIS(CH2Cl2):最大吸収波長(Absorption λmax) = 278 nm(logε=4.52)、 最大発光波長(Emission λmax) = 376 nm(励起波長(Excitation λ) = 278 nm)
なお、温度可変1H-NMR(300 MHz, d10-p-xylene)を25℃〜140℃まで測定したところ、臨界温度Tcは140℃以上であり、反転エネルギーΔG‡は、前記Tcとケミカルシフト値とカップリング定数Jとから19.4 kcal/mol以上と計算された。
【0126】
以上の通り、安価で容易に入手可能なノルボルナジエンからわずか3段階でスマネンを合成することができた。また、全てのステップが極めで穏やかな条件であり、例えばDDQに変えて脱水素触媒を用いる等の工夫により、容易に工業プロセス化、大量合成が可能である。
【0127】
なお、ベンゾトリス(ノルボルナジエン)は、前記ステップaに代えて、"Giuseppe Borsato, Ottorino De Lucchi, Fabrizio Fabris, Luca Groppo, Vittorio Lucchini, and Alfonso Zambon, J. Org. Chem., 2002, 67, p.7894-7897." に記載されたハロゲン化物と有機金属試薬とのクロスカップリング法、すなわち下記スキーム2の方法を用いても合成することができた。さらに、前記ステップbは、ベンゾトリス(ノルボルナジエン)をsyn体とanti体に分離しなくても行うことができた。前記ステップbにおいて、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)に代えてsyn体とanti体の混合物を原料に用いることと、ヘキサヒドロスマネンの精製方法をGPCからシリカゲルカラムクロマトグラフィーに変えること以外は上記と同様にして合成を行ったところ、目的化合物のスマネンが、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)とanti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)との混合物からの収率2.2%で得られた。
【0128】
【化28】
【0129】
(結晶の製造および構造解析)
以下のようにして、スマネン結晶を製造し、その構造を解析した。すなわち、まず、前述のようにして製造したスマネンをテトラヒドロフランに溶かし、再結晶することにより、無色板状結晶(0.80mm×0.40mm×0.30mm)を得た。
【0130】
次に、この結晶の構造を、X線構造解析により解析した。以下、このX線構造解析について具体的に説明する。
【0131】
[データ採取]
全ての測定は、前記スマネン結晶をグラスファイバー上に据え付け、グラファイト単色化Mo-Kα放射および回転陽極発生装置を備えた株式会社リガク製 AFCC5R(商品名)X線回折装置によって行った。
【0132】
データ採取のためのセル定数および配向マトリックスは、反射を斜方面体晶(六方晶軸)六方晶セル(ラウエクラス:−3ml)に対応する28.55 < 2θ < 29.49°の範囲に注意深く集中させた25の取り付け角を用いる最小二乗法から得た。そして、格子パラメーターを、下記(数1)の通り決定した。
【0133】
【数1】
【0134】
z=6およびF.W.=264.33であり、密度の計算値は、1.42g/cm3である。下記(数2)の消滅則に基づき、パッキングの考察、強度分布の統計的解析、構造の解析および最適化、空間群を、下記(数3)の通り決定した。
【0135】
【数2】
【0136】
【数3】
【0137】
前記データは、55.0°の最大2θ値のω-2θスキャン技術を用いる23±1℃の温度で収集した。データ収集に先だち、いくつかの強い反射のオメガスキャンが、6.0°のテイクオフ角度を伴う0.32°の高さの半分の平均幅を有していた。(1.68+0.30tanθ)°のスキャンは、16.0°/分(オメガ中)のスピードで行った。弱い反射(I<10.0σ(I))は、再スキャンし(最大5スキャン)、良い係数統計を確保するために計数を集積した。静止バックグラウンド係数は、前記反射の各面上で記録した。ピーク係数時間とバックグラウンド係数時間との比は、2:1であった。入射ビームコリメーターの直径は1.0mm、結晶から検知器までの距離は258mm、および前記検知器口径は9.0×13.0mm(水平×垂直)であった。
【0138】
[データ整理]
前述の方法で収集した1063の反射のうち525が特別であった(Rint=0.016)。3個の典型的な反射の強さを、150反射毎の後に測定した。データ収集の進行によって、標準は2.5%増加した。直線の補正係数は、この現象を説明するためにデータに加えた。
【0139】
Mo-Kα放射の前記直線の吸収係数μは、0.8cm-1である。いくつかの反射の方位角スキャンに基づいた経験的吸収補正は、0.96から0.99に分布している透過率に帰着する。
【0140】
[構造解析および最適化]
構造は直接法(下記参考文献1)によって解析し、フーリエ法(下記参考文献2)を用いて拡張した。非水素原子は、異方性で最適化を行い、水素原子は等方性で最適化を行った。フルマトリックス最小二乗法最適化(下記参考文献3)の最終サイクルは、493の観測された反射(I>2σ(I))および80の可変的なパラメーターに基づき、下記(数4)の減量および増量の一致した因子に集約した。
【0141】
【数4】
【0142】
単位重量の観測の標準偏差(下記参考文献4)は、1.22であった。フーリエ合成図の最終的な差の最大および最小ピークは、それぞれ0.36および-0.65e-/Å3に対応している。全ての計算は、Molecular Structure CorporationのteXsan(参考文献5)結晶学ソフトウェアパッケージを用いて行った。
【0143】
参考文献
(1) SIR92: Altomare, A., Burla, M.C., Camalli, M., Cascarano, M., Giacovazzo, C., Guagliardi, A., Polidori, G., (1994). J. Appl. Cryst. 27, 435.
(2) DIRDIF94: Beurskens, P.T., Admiraal, G., Beurskens, G., Bosman, W.P., de Gelder, R., Israel, R. and Smits, J.M.M.(1994). The DIRDIF-94 プログラムシステム, Technical Report of the Crystallography Laboratory, University of Nijmegen, The Netherlands.
(3) SHELXL-97: Sheldrick, G.M. (1997). 結晶構造最適化のためのプログラム University of Goettingen, Germany.
(4) 単位重量の観測の標準偏差:
【数5】
(5) teXsan: 結晶構造解析パッケージ, Molecular Structure Corporation (1985 & 1999)
【0144】
以上の通り行なったX線構造解析により得られた実験データを、下記(数6)〜(数8)、および(表1)〜(表9)に示す。なお、スマネンの分子式はC21H12であるが、分子がC3対称性を有するため、各原子に付された番号は、表中に示す通り、C(1)〜C(7)およびH(1)〜H(4)となっている。また、1Åは0.1nm(10-10m)に等しい。
【0145】
【数6】
【0146】
【数7】
【0147】
【数8】
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】
【0153】
【表6】
【0154】
【表7】
【0155】
【表8】
【0156】
【表9】
【0157】
図6および7に、前記X線構造解析により解析したスマネン結晶構造の概略図を示す。図6は、スマネン結晶中における分子配列を分子側面から見た概略図であり、図7は、スマネン結晶中における分子配列を分子上面から見た概略図である。図示の通り、得られた結晶中では、スマネン分子がボウル状構造を有しており、その二次配列は、ボウルが平行に重なるようにパッキングし、積層体を形成していた。また、各スマネン分子が、実質的に60°ずれながら、すなわち、その上または下に接して積層されているスマネン分子を60°回転させた角度で位置していた。なお、「60°回転させた角度で」と表現したが、スマネン分子はC3対称性を有するため、前記角度を「180°」または「300°」と表現しても、同じ状態を表す。
【0158】
さらに、前記表中に示したスマネン分子中の炭素原子間結合長を、下記化学式に示す。単位はÅである。なお、前述の通り、1Åは0.1nm(10-10m)に等しい。図示の通り、前記X線構造解析により解析したスマネン分子中のベンゼン環構造、特に中心部位のベンゼン環構造中では、各結合長間にわずかな違いが見られる。これは、電荷の若干の偏りを反映していると考えられる。そして、各スマネン分子間において電子密度の高い部分と低い部分とが引き合うために、前述の通り、各分子が、その上または下に接した分子と実質的に60°(または180°もしくは300°)ずれながら平行に積層され、芳香環のπ電子が効率よくパッキングされると推測される。ただし、この説明は、推測されるメカニズムの一例であり、本発明を限定するものではない。
【0159】
【化29】
【0160】
次に、このようなスマネン結晶の電気伝導度および電子移動性を測定し、前記結晶が、有機半導体として優れた電気伝導性および電子移動性を示すことを確認した。
【0161】
(スマネン結晶の電気伝導度測定)
まず、前述のようにして製造したスマネンを、X線構造解析測定時と同様にしてテトラヒドロフラン中で再結晶することにより、無色板状結晶を得た。次に、これを、断面積0.00044cm、結晶長0.10cmのサンプルサイズにカットし、半導体サンプルを得た。このサンプルを用いて電気伝導度をアルゴン雰囲気下で測定したところ、伝導度は7×10-10 S/cmであった。
【0162】
(スマネンの電子移動度)
前記と同様のスマネン単結晶(半導体)について電子移動度を測定したところ、有機トランジスタ材料として、特に電界効果型トランジスタや薄層フィルム型トランジスタ材料として有用な大きな電子移動度を示した。
【0163】
(薄層フィルム型トランジスタ)
さらに、前記のようにして合成したスマネンを用い、スマネンから形成された有機半導体層を有する、電界効果型の薄層フィルム型トランジスタを作成した。この薄層フィルム型トランジスタの性能を評価したところ、電気伝導度および電子移動度等が高く、トランジスタとして優れた性能を有していた。
【0164】
なお、上述の実施例は、スマネン分子の単結晶を用いた半導体の例であるが、本発明はこれに限定されず、例えば、結晶でないスマネンまたはその誘導体を用いた半導体であっても良い。
【0165】
〔実施例2〜19:スマネン誘導体を用いた有機半導体〕
前記式(101)〜(109)で表される化合物を合成し、分光学的挙動を測定した。さらに、それぞれの化合物を用いて有機半導体を製造し、その電気的性質を測定した。前記構造式(101)〜(109)を下に再掲する。なお、以下、式(101)の化合物をsu-phまたはS-Ph等と呼ぶことがある。同様に、以下、化合物(102)をsu-ph-MeまたはS-Ph-Me等と、化合物(103)をsu-ph-OMeまたはS-Ph-OMe等と、化合物(104)をsu-ph-ClまたはS-Ph-Cl等と、化合物(105)をsu-ph-CF3またはS-Ph-CF3等と、化合物(106)をsu-1TまたはS-Th等と、化合物(107)をsu-2TまたはS-2Th等と、化合物(108)をsu-3TまたはS-3Th等と、それぞれ呼ぶことがある。
【0166】
【化30】
【0167】
【化31】
【0168】
(合成)
以下のようにして、化合物(101)〜(109)を合成した。
【0169】
【化32】
【0170】
(化合物(101)の合成)
まず、5 mL二口ナスフラスコに、スマネン(5 mg, 0.019 mmol)およびn-Bu4NBr (6 mg, 0.0095 mmol)を入れ、真空乾燥後アルゴン置換した。そこに、あらかじめアルゴンバブリングにより脱気しておいた30 wt%水酸化ナトリウム水溶液 (1 mL)、THF (0.1 mL)を加えた。その後、ベンズアルデヒド (0.085 mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、エーテルを加え、脱イオン水、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、さらにカラムクロマトグラフィーにより単離し、目的の化合物(101)を得た。以下に、この化合物の収率および機器分析データを示す。
【0171】
Rf値0.8(ヘキサン:トルエン=1:1)、黄色固体8 mg (収率79%)
1H NMR (600 MHz, CD2Cl2) δ: 7.93 (3H, dd, J = 7.2 Hz, 3.6 Hz), 7.87 (3H, dd, J = 7.2 Hz, 3.3 Hz), 7.70 (1H, dd, J = 2.7 Hz, 1.5 Hz), 7.55 (1H, dd, J = 3.0 Hz, 1.8 Hz), 7.52-7.42 (18 H, m), 7.39-7.37 (3H, m), 7.22-7.19 (3H, m)
13C NMR (150 MHz, CD2Cl2) δ: 131.26, 130.05, 130.00, 129.16, 129.12, 129.06, 128.97, 128.90, 128.64, 123.89, 123.76, 121,21, 121,11, 68.39, 39.18, 30.07, 29.32, 24.14, 23.02, 14.24, 11.13
MS(MALDI-TOF): 528 (M)+
【0172】
(化合物(102)〜(106)の合成)
ベンズアルデヒドに代えてp-メチルベンズアルデヒドを用いる以外は化合物(101)の合成と同様にして化合物(102)を合成した。同様に、ベンズアルデヒドに代えてp-メトキシベンズアルデヒド、p-クロロベンズアルデヒド及びp-トリフルオロメチルベンズアルデヒドをそれぞれ用いて化合物(103)〜(105)を合成した。さらに、ベンズアルデヒドに代えて2−ホルミルチオフェンを用いて化合物(106)を合成した。これらは、全て対称型と非対称型の混合物として得られた。以下に、化合物(102)〜(106)の収率および機器分析データを示す。
【0173】
化合物(102)(su-ph-Me):
Rf値0.6 (ヘキサン:トルエン=1:1)
黄色固体6.9 mg (収率64%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 7.83 (3H, dd, J = 6.3 Hz), 7.77 (3H, dd, J = 6.6 Hz), 7.51 (1H, d, J = 2.1 Hz), 7.49 (1H, d, J = 2.1 Hz), 7.41 (2H, s), 7.39 (2H, d, J = 3.9 Hz), 7.33-7.26 (11H, m), 7.20 (1H, d, i = 4.5 Hz), 7.17 (1H, d, J = 4.5 Hz), 7.12 (1H, s), 2.45 (3H, s), 2.44 (3H, s), 2.41 (3H, s), 2.40 (3H,s)
HRMS(FAB): Calcd for C45H30 570.2347; Found 570.2336 (M)+
【0174】
化合物(103)(su-ph-OMe):
Rf値0.4 (ヘキサン:トルエン=1:3)、
黄色固体9.5 mg (収率81%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 7.90 (3H, dd, J = 8.4 Hz, 5.1 Hz), 7.85 (3H, dd, J = 8.7 Hz, 5.4 Hz), 7.54 (1H, d, J = 1.5 Hz), 7.51 (1H, d, J = 1.5 Hz), 7.41 (2H, d, J = 2.1 Hz), 7.37 (2H, d, J = 3.0 Hz), 7.31 (2H, s), 7.21 (1H, d, J = 4.5 Hz), 7.18 (1H, d, J = 3.9 Hz), 7.05-6.96 (10H, m), 3.90 (3H, s), 3.89 (3H, s), 3.87 (3H, s), 3.86 (3H, s)
HRMS(FAB): Calcd for C45H30O3 618.2195; Found 618.2186 (M)+
【0175】
化合物(104)(su-ph-Cl):
Rf値0.8 (ヘキサン:トルエン=1:1)、
黄色固体10.2 mg (収率85%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 7.87 (3H, dd, J = 8.4 Hz, 6.0 Hz), 7.81 (3H, dd, J = 8.1 Hz, 5.7 Hz), 7.49-7.36 (12H, m), 7.26-7.08 (10H, m)
HRMS(FAB): Calcd for C42H21Cl3 630.0709; Found 630.0718 (M)+
【0176】
化合物(105)(su-ph-CF3):
Rf値0.7 (ヘキサン:トルエン=1:1)、
黄色固体 7.9 mg (収率57% )
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 8.05 (3H, dd, J = 7.5 Hz), 7.98 (3H, dd, J = 7.5 Hz), 7.78-7.71 (6H, m), 7.49-7.37 (6H, m), 7.26-7.08 (10H, m)
HRMS(FAB): Calcd for C45H21F9 732.1499; Found 732.1502 (M)+
【0177】
化合物(106)(su-ph-1T):
Rf値0.4(ヘキサン:トルエン=1:1)、橙色固体8mg (収率72%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 8.01 (2H, d, J = 7.8 Hz), 7.91 (2H, s), 7.72-7.69 (4H, m), 7.53-7.50 (6H, m), 7.37 (2H, s), 7.28 (2H, d, J = 3.3 Hz), 7.26 (2H, d, J = 3.3 Hz), 7.22-7.17 (4H, m)MS(MALDI-TOF): 546 (M)+
【0178】
(化合物(108)の合成)
以下のようにして、スマネンにトリチオフェン鎖を導入した化合物(108)を合成した。
【0179】
[2,2':5',2"-ターチオフェン -5-カルボキシアルデヒドの合成]
【化33】
【0180】
まず、冷却管を備え付けた50 mL二口ナスフラスコを真空乾燥後アルゴン置換した。次に、2,2':5',2"-ターチオフェン (1 g, 4 mmol)とDMF (0.36 mL, 4.4 mmol)をジクロエタンに溶かし、これを前記ナスフラスコ中に加えた。この反応系を氷-食塩で氷冷し、POCl3 (0.41 mL, 4.4 mmol)を加え、室温で1時間攪拌し、その後、60 ℃で12時間攪拌した。反応終了後、塩化メチレンを用い、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、脱イオン水、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、さらにカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=1:1)により単離した。このようにして、2,2':5',2"-ターチオフェン -5-カルボキシアルデヒドを、Rf値0.4(塩化メチレン)の黄色固体として得た。収量は552 mg (収率50%)であった。以下に、この化合物の機器分析データを示す。
【0181】
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 9.85 (1H, s), 7.70 (1H, d, J = 3.9 Hz), 7.32-7.26 (4H, m), 7.17 (1H, J = 3.9 Hz), 7.06 (1H, dd, J = 5.4 Hz, 3.9 Hz)
【0182】
[化合物(108)の合成]
【化34】
【0183】
まず、20 mL二口ナスフラスコにスマネン(5 mg, 0.019 mmol)およびn-Bu4NBr (18 mg, 0.0285 mmol)を入れ、真空乾燥後アルゴン置換した。そこに、あらかじめアルゴンバブリングにより脱気しておいた30 wt%水酸化ナトリウム水溶液 (1 mL)、THF (0.1 mL)を加えた。その後、2,2':5',2"-ターチオフェン -5-カルボキシアルデヒド (23.8 mg, 0.086 mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、エーテルを加え、脱イオン水、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、さらにGPCにより単離した。このようにして、赤色固体状の目的化合物(108)を、収量10.6 mg (収率54%)で得た。以下に、この化合物の機器分析データを示す。
【0184】
化合物(108)(su-ph-3T):
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 8.11-8.00 (6H, m), 7.71-7.07 (34 H, m)
HRMS(FAB): Calcd for C60H30S9 1037.9834; Found 1037.9819 (M)+
【0185】
また、上記と同様にして、化合物(107)(su-ph-2T)も合成した。さらに、スマネンにビニリデン基(アリル基)を導入した化合物(109)も合成した。
【0186】
[化合物(109)の合成]
まず、20 mL二口ナスフラスコにスマネン (4 mg, 0.015 mmol)およびn-Bu4NBr (15 mg, 0.045 mmol)を入れ、真空乾燥後アルゴン置換した。そして、あらかじめアルゴンバブリングにより脱気しておいた30 wt%水酸化ナトリウム水溶液 (2 mL)、THF (0.1 mL)を加えた。その後、3-ブロモプロペン(0.13 ml, 1.5 mmol)を加え、室温で45時間攪拌した。反応終了後、エーテルを加え、脱イオン水、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離した。このようにして、白色固体の目的化合物(109)を、収量7.2 mg (収率90 %)で得た。以下に、この化合物の機器分析データを示す。
【0187】
化合物(109):
1H-NMR (600 MHz): 2.64 (d, J = 6.6 Hz, 6H), 3.09 (d, J = 7.2 Hz, 6H), 3.51 (ddt, J = 17.4 Hz, J = 10.2 Hz, J = 6.6 Hz, 3H), 3.96 (dd, J = 10.2 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 4.26 (dd, J =17.4 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 5.20 (dd, J = 10.2 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 5.24 (dd, J = 17.4 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 6.23 (ddt, J = 17.4 Hz, J = 10.2 Hz, J = 7.2 Hz, , 3H), 6.98 (s, 6H)
13C-NMR (150 MHz): 39.7, 44.9, 63.0, 116.0, 117.9, 123.2, 133.9, 135.2, 146.8, 153.5
【0188】
(化合物(101)〜(108)の分光学的挙動)
化合物(101)〜(108)の分光学的挙動を測定した。図8〜16および表10〜14に、その測定結果を示す。以下、この測定結果について、より具体的に説明する。
【0189】
図8に、ベンジリデン基を導入したスマネン誘導体su-ph(化合物(101))のUV-VIS(紫外可視)吸収スペクトルを、スマネンのスペクトルと共に示す。図示の通り、スマネンにおいては278 nmにπ-π*遷移に基づく吸収が見られた。一方、su-phでは345 nm、457 nmに吸収極大波長を持つ吸収が観測され、スマネンと比較して吸収スペクトルの長波長シフトが見られた。また、下記表10に、su-phの溶媒依存性を示す。表10から分かる通り、溶媒の極性に応じた吸収波長の変化は観測されなかった。この結果から、su-phの吸収スペクトルの長波長シフトの原因は、ベンジリデン基の導入によりπ共役系が拡張し、スマネンのπ-π*遷移に基づく吸収がシフトしたためと推測される。また、固体状態では、スマネンは白色固体であるのに対し、得られたsu-phは黄色固体であったことからも、su-phではスマネンと比較してπ共役系が拡張していると考えられる。π共役系が拡張していることは、電気伝導度、電子移動性等の観点から、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0190】
【表10】
【0191】
図9に、su-phの蛍光スペクトルを、スマネン(sumanene)の蛍光スペクトルとともに示す。図9の縦軸は蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 M、励起波長は345 nmである。図示の通り、スマネンでは蛍光は376 nmに観測され、su-phでは蛍光は530 nmに観測された。ベンジリデン基を導入することでπ共役系が拡張され、蛍光波長の長波長シフトが誘起されたものと推測される。また、図10に、su-phの吸収スペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す。図10の縦軸は吸光度および蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 M、蛍光スペクトルの励起波長は345 nmである。図示の通り、吸収スペクトルと蛍光スペクトルの重なりから、0→0遷移は498 nmに観測された。また、HOMO-LUMO間のエネルギー差に対応するS0、S1間のエネルギー差(ΔE0-0)は2.5 eV(ΔE0-0 =1/(498 × 10-7) = 20080 cm-1 = 2.48 eV)であった。すなわち、su-ph(化合物(101))は、HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さいと考えられる。HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さいことは、電気伝導度、電子移動性等の観点から、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0192】
図11に、電子供与基であるMe基、OMe基を導入した誘導体su-ph-Me(化合物(102))およびsu-ph-OMe(化合物(103))のUV-VIS吸収スペクトルの測定結果を、su-ph(化合物(101))の測定結果と併せて示す。図11の縦軸は吸光度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。また、下記表11に、この測定における各吸収のλmaxとlog εの値を示す。図10および表11に示す通り、電子供与基であるMe基、OMe基を含む誘導体su-ph-Me、su-ph-OMeでは、吸収波長の長波長シフトが起こった。長波長シフトの大きさと置換基の電子供与能との相関関係は、Hammett則に良く一致していた。吸収波長の長波長シフトは、バンドギャップエネルギーが小さくなったことを示す。すなわち、ベンジリデン置換基を導入したスマネン誘導体において末端フェニル部位のp位に電子供与基を導入することで、バンドギャップエネルギーの減少が可能であることが分かる。バンドギャップエネルギーが小さければ、電気伝導度、電子移動性等の観点から、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0193】
【表11】
【0194】
一方、図12に、電子求引基であるCl基、CF3基を導入した誘導体su-ph-Cl(化合物(104))、su-ph-CF3(化合物(105))のUV-VIS吸収スペクトルの測定結果を、su-ph(化合物(101))の測定結果と併せて示す。図12の縦軸は吸光度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。また、下記表12に、この測定における各吸収のλmaxとlog εの値を示す。図12および表12に示す通り、電子求引基であるCl基、CF3基を含む誘導体su-ph-Cl、su-ph-CF3では、吸収波長の長波長シフトが起こった。Hammett則によれば、電子求引基を導入した場合では電子供与基と逆に短波長シフトが起こると予測されるが、実際には、前記の通り長波長シフトした。すなわち、電子供与基のみならず電子求引基を導入することによっても、バンドギャップエネルギーを減少させることができる。この原因は必ずしも明らかではないが、例えば、電子求引基を導入することによる分子構造の平面化が寄与していると推測される。
【0195】
【表12】
【0196】
図13に、オリゴチオフェンを二重結合を介して導入したスマネン誘導体su-1T(化合物(106))、およびsu-3T(化合物(108))のUV-VIS吸収スペクトルの測定結果を、スマネンの測定結果と併せて示す。図13の縦軸は吸光度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。また、下記表13に、この測定における各吸収のλmaxとlog εの値を示す。さらに、下記表14に、su-1Tおよびsu-3Tの、UV-VIS吸収スペクトルにおける溶媒効果を示す。
【0197】
【表13】
【0198】
【表14】
【0199】
図13および表13に示す通り、スマネンにチエニルメチリデン基を導入したsu-1Tでは373 nmと482 nmに、ターチエニルメチリデン基を導入したsu-3Tでは434 nmと545 nmに吸収が観測された。すなわち、スマネンと比較して長波長シフトが見られた。この長波長シフトの原因は必ずしも明らかではないが、表14に示す通り溶媒の極性に応じた吸収波長の変化がないことから、おそらく、オリゴチオフェンの電子ドナー性による分子内電荷移動(ICT)が原因ではないと推測される。すなわち、フェニルメチリデン基を導入したsu-ph(化合物(101))等と同様、チオフェンまたはオリゴチオフェンを二重結合を介して導入することによりπ共役系が拡張し、スマネンのπ-π*遷移に基づく吸収がシフトしたと考えられる。前述の通り、π共役系が拡張していることは、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0200】
図14に、su-1TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルの測定結果を併せて示す。また、図15に、su-3TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルの測定結果を併せて示す。図14および15の縦軸は吸光度および蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。蛍光スペクトルの励起波長は、図14(su-1T)では373 nmであり、図15(su-3T)では434 nmである。図14に示す通り、su-1Tでは564 nmに蛍光が観測された。また、その重なりから0→0遷移は530 nmに観測され、S0、S1間のエネルギー差(ΔE0-0)は2.3eV(ΔE0-0 =1/(530 × 10-7) = 18868 cm-1 = 2.33 eV)であった。また、図15に示す通り、su-3Tでは、489 nmと650 nmに蛍光が観測された。これらの蛍光は、励起波長が434 nmであることからオリゴチオフェン部位とスマネン部位を両方励起した結果であると考えられ、489 nmの蛍光はオリゴチオフェンからの蛍光、また650 nmの蛍光はスマネンからの蛍光であると推測される。また、吸収スペクトルと蛍光スペクトルの重なりから0→0遷移は602 nmに観測され、S0、S1間のエネルギー差(ΔE0-0)は2.1 eV(ΔE0-0 =1/(602 × 10-7) = 16611 cm-1 = 2.05 eV)であった。すなわち、チオフェンまたはオリゴチオフェンを二重結合を介してスマネンに導入することで吸収波長と同様に蛍光波長も長波長シフトしており、より効果的にπ共役系が拡張しているという結果が得られた。また、HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さいことも確認された。
【0201】
図16に、su-ph(化合物(101))、su-1T(化合物(106))、およびsu-3T(化合物(108))の蛍光スペクトルを、蛍光強度の比較のために併せて示す。図16の縦軸は蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒、測定濃度および励起波長等の測定条件は、それぞれ図9、10、14および15と同じである。同図から分かる通り、チオフェン単量体または三量体を二重結合を介して導入することでの蛍光強度の減少が観測された。この原因は必ずしも明らかではないが、可能性の一つとして、スマネン部位を励起後、オリゴチオフェンからの電子移動が起こることが考えられる。このように、スマネンにチオフェンまたはオリゴチオフェンを二重結合を介して導入した化合物は、有機半導体等の電子材料としての有用性を表す特徴的な電気的性質を示す。
【0202】
(有機半導体)
以下のようにして、実施例2〜19の有機半導体を製造した。
【0203】
すなわち、まず、n型半導体Siウエハ(フルウチ化学機械株式会社、SiN型(100)0.02Ω・cm以下、SiO2 300nm)上にSiO2膜(300nm)を熱酸化成膜した基板を所定の大きさにカットし、2−プロパノール中で約10分間超音波洗浄した。次に、前記SiO2膜上に、化合物(101)〜(109)のいずれかを、蒸着法またはスピンコート法で30nmの厚さに成膜し、さらにその上に、Au電極(ソース・ドレイン電極)を、真空蒸着法により30nmの厚さに形成した。この時、マスクを用い、電極間距離が20μm、電極長が5.0mmとなるように電極形成した。化合物(101)〜(109)のそれぞれを用いて蒸着法により形成した有機半導体を、(101)〜(109)の化合物番号順にそれぞれ実施例2〜10とする。また、化合物(101)〜(109)のそれぞれを用いてスピンコート法により形成した有機半導体を、(101)〜(109)の化合物番号順にそれぞれ実施例11〜19とする。
【0204】
[分光学的挙動]
上記のように形成した実施例2〜19の有機半導体(薄膜)について、実施例1のスマネンと併せ、イオン化エネルギーおよびUV-VIS吸収スペクトルを測定し、エネルギー準位を計算した。イオン化エネルギーは、理研計器製大気中光電子分光装置AC−III(商品名)で測定した。測定サンプルは、ガラス基板上に膜厚30nmのスマネンまたはその誘導体薄膜を形成することで作製した。図17に、実施例2〜7および9の有機半導体について計算されたエネルギー準位を、実施例1と併せて示す。同図におけるグラフの上限値はLUMOエネルギー値であり、下限値はHOMOエネルギー値である。図示の通り、いずれの実施例でもバンドギャップエネルギーが小さく、また、実施例2〜9では、スマネンへの置換基の導入により、さらなるバンドギャップエネルギーの減少が得られていた。さらに、図18に、実施例4および6の有機半導体(薄膜)のUV-VIS吸収スペクトルを併せて示す。図示の通り、電子供与基であるメトキシ基を導入した場合(実施例4)および、電子求引基であるトリフルオロメチル基を導入した場合(実施例6)のいずれも、長波長領域に大きい吸収が存在していた。
【0205】
[電子移動度]
上記のように製造した実施例2〜19の有機半導体(薄膜)について、電子移動度(正孔移動度)を測定した。測定は、有機半導体製造に用いた真空蒸着機と連結したグローブボックス内で行い、有機半導体製造から電子移動度(正孔移動度)測定までを一貫してアルゴンガス雰囲気下で行った。測定機器としては、KEITHLEY社製エレクトロメーター(商品名K2400)を2台用いた。測定方法は、電界効果トランジスタ評価法を用い、正孔移動度μ(cm2・V-1・s-1)を下記数9により算出した。数9中、Wは電界効果トランジスタ中のチャンネル長(cm)であり、本実施例では、Wは20μm(2.0×10-3cm)である。Lはチャンネル幅(cm)であり、本実施例では、Lは5.0mm(5.0×10-1cm)である。Ciは、SiO2層のキャパシタンス(F/cm2)であり、本実施例では、Ciは11nF/cm2(1.1×10-8F/cm2)である。Idsはドレイン−ソース間の飽和電流値を表す。本実施例では、ドレイン−ソース間電圧100V時のドレイン−ソース間電流値(Id)をIdsとみなして近似した。また、Vgはゲート電圧(V)を表し、Vtは閾値電圧(V)を表す。
【0206】
(数9)
Ids1/2=(μWCi/2L)1/2(Vg-Vt)
【0207】
図19に、実施例13の有機半導体(薄膜)における上記電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す。図の横軸は、ドレイン−ソース間電圧Vd(V)であり、縦軸はドレイン−ソース間電流値Id(A)である。実施例13の有機半導体薄膜は、前記の通り、S-Ph-OCH3(化合物(103))をスピンコート法により形成した薄膜である。また、図20に、実施例4の有機半導体(薄膜)における上記電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す。図の横軸は、ドレイン−ソース間電圧Vd(V)であり、縦軸はドレイン−ソース間電流値Id(A)である。実施例4の有機半導体薄膜は、前記の通り、実施例13と同じS-Ph-OCH3(化合物(103))を蒸着法により形成した薄膜である。
【0208】
図19および20に示す通り、スピンコート法により形成した実施例13および蒸着法により形成した実施例4のいずれの有機半導体薄膜も、p型特性の増幅効果を示した。また、前記(数9)に基き正孔移動度μを計算したところ、実施例13では1.1×10-5(cm2・V-1・s-1)であり、実施例4では7.0×10-7(cm2・V-1・s-1)であり、いずれも良好な値を示した。すなわち、実施例4および13の有機半導体薄膜は、いずれも、有機トランジスタ、特に電界効果型トランジスタまたは薄層フィルム型トランジスタの用途に有用な性質を示した。
【産業上の利用可能性】
【0209】
以上説明した通り、本発明の有機半導体は、高い性能を有し、種々の電子機器に使用可能であり、中でも有機トランジスタ材料として有用である。本発明の電子機器、特にトランジスタは、本発明の有機半導体を含むことにより優れた性能を有する。本発明の有機半導体は、例えば、電界効果型トランジスタまたは薄層フィルム型トランジスタに特に好ましく用いることができる。また、本発明の有機半導体は、有機トランジスタに限定されず、他にもあらゆる電子機器に使用可能である。本発明の有機半導体は、例えば、公知の有機デバイス、有機半導体、導電性ポリマー等が使用されている電子機器と同じ種類の電子機器に使用可能であり、より具体的には、例えば、コンデンサ、キャパシタ、電池、有機EL、燃料電池、有機太陽電池等の電子機器にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はCHAである。
【図2】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はTHFである。
【図3】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はCH3CNである。
【図4】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はCH2Cl2である。
【図5】図1〜4の全てのスペクトル図を1つにまとめて示した図である。
【図6】スマネン結晶中における分子配列を分子側面から見た概略図である。
【図7】スマネン結晶中における分子配列を分子上面から見た概略図である。
【図8】su-ph(化合物(101))およびスマネンのUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図9】su-phおよびスマネンの蛍光スペクトル図である。
【図10】su-phのUV-VIS吸収スペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図11】su-ph-Me(化合物(102))、su-ph-OMe(化合物(103))およびsu-ph(化合物(101))のUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図12】su-ph-Cl(化合物(104))、su-ph-CF3(化合物(105))およびsu-ph(化合物(101))のUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図13】su-1T(化合物(106))、su-3T(化合物(108))およびスマネンのUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図14】su-1TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図15】su-3TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図16】su-ph(化合物(101))、su-1T(化合物(106))およびsu-3T(化合物(108))の蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図17】実施例1〜7および9の有機半導体のエネルギー準位を示す図である。
【図18】実施例4および6の有機半導体薄膜のUV-VIS吸収スペクトルを併せて示す図である。
【図19】実施例13の有機半導体薄膜における電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す図である。
【図20】実施例4の有機半導体薄膜における電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体およびそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、本発明者らは、スマネン(Sumanene)と呼ばれる有機化合物(下記式(84))の合成に世界ではじめて成功した(非特許文献1等参照)。この化合物は、学術的観点のみならず産業上の観点からも多大な利用可能性が見込まれており、例えば電子材料等への応用の可能性が注目されている。以下、本発明者らがスマネンおよびその製造方法の発明をするに至った経緯について説明する。
【0003】
【化8】
【0004】
C60(下記式(82))やC70をはじめとする各種フラーレンおよびカーボンナノチューブと呼ばれる一群の炭素同族体(以下、これらを総称して「フラーレン類」と呼ぶことがある)は、その特異的な物性から次世代材料として注目されている。フラーレン類は、C60やC70以外にも種々の構造のものが知られており、それぞれが固有の物性を有している。それらを化学修飾することにより、さらに多様な機能を付加しようとする研究も全世界的に活発に行なわれている。
【0005】
【化9】
【0006】
しかし、現状では、フラーレン類の製造方法はいわゆるアーク放電法等に限定されており、C60およびC70は比較的容易に得られるが、その他のフラーレン類はごく微量しか生産することができず、入手が非常に困難である。したがって、フラーレン類を化学修飾して種々の構造の高機能材料を製造しようとしても、出発原料の種類の貧困さが問題となる。
【0007】
上記の事情に鑑み、フラーレン類を化学的に合成しようとする試みが世界各地で盛んに行なわれているが、この研究はようやく端緒についたばかりであり、いまだ誰も成功していない。しかしながら、有機合成化学の手法によれば、前記アーク放電法等と異なり生成物の分子構造を自由自在に制御できるため、研究が進めば、従来は入手困難であったフラーレン類も自由に得られることが期待できる。さらに、既存のフラーレン類に限定されず、新規なフラーレン類およびその誘導体についても合成できれば、新規材料の設計に大きな風穴を開けることになると考えられる。例えば、フラーレン類の炭素原子の一部をヘテロ原子で置き換えたヘテロフラーレン類は、理論研究によりその挙動が注目されている(例えば、非特許文献2参照)が、C59N(非特許文献3参照)等のごく一部の化合物を除いていまだ製造されておらず、その有機化学的合成法の確立が期待される。
【0008】
現在は、C60の部分的構造である非平面共役系炭素骨格を含む化合物を合成すべく研究が進められている。しかし、従来は、コランニュレン(Corannulene)と呼ばれる化合物(下記式(83))およびその誘導体が1966年に合成されたことが報告されているのみであり、かつ、実験室レベルでの合成しか行われていなかった。なお、1999年には、フラスコ内の穏やかな条件下においてコランニュレンを比較的大量に合成できるルートも報告されている(非特許文献4)。
【0009】
【化10】
【0010】
コランニュレンは、前記C60の部分的構造を含む化合物としては世界ではじめて合成された化合物であり、その学術的意義は大きいが、産業上利用等の観点から見ると難点があった。なぜならば、その骨格の炭素原子が全てベンゼン核に取り込まれているため反応性がさほど高くないからである。したがって、コランニュレンは、前記C60の部分的構造を含むにも関わらず、実際にC60等のフラーレン類およびその他の化合物の合成原料等として用いるには困難を伴う。実際に、コランニュレン誘導体も、現時点ではごく限られた構造のものが合成されているだけである。
【0011】
研究者の間で、コランニュレンの他にもう一つ注目されてきた化学構造が、前記スマネン(Sumanene)であった。コランニュレンがC60のC5対称部分骨格を含むのに対し、スマネンはC60のC3対称部分骨格を含む。そして、スマネンは、コランニュレンと異なり、ベンジル位炭素を3ヶ所に含んでいることが大きな特徴である。一般に、ベンジル位炭素を含む化合物は合成原料として価値が高い。なぜならば、ベンジル位炭素は非常に活性が高く、カチオン種、アニオン種、カルベンなど様々な活性種を発生させることができ、その活性種を足がかりにさらなる結合生成反応への応用が可能だからである。したがって、スマネンはコランニュレンよりもはるかに反応性が高く、例えば、ベンジル位の酸化反応などにより様々な官能基を直接導入し、多種多様な誘導体を合成できると考えられる。そして、さらにそれら誘導体を原料としてフラーレン類のみならず様々な化合物を合成できることが期待される。
【0012】
また、ベンジル位炭素を含むことは、合成原料として有利なだけでなく、前記活性種自体にも大きな利用価値がある。例えば、スマネンのベンジルアニオン種はシクロペンタジエニルアニオンと同様の構造を含むことから、金属包摂能等を有すると考えられる。したがって、それ自体に大きな産業上の利用可能性があるだけでなく、金属内包型フラーレン化合物のモデル研究用化合物としての発展等も期待できる。
【0013】
このように、スマネンは、学術的にも絶大な価値を有し、そして産業上利用価値も多大なものが見込まれることから、多くの研究者がその合成に取り組んできた。しかし、その分子ひずみが大きいためか、合成に成功したとの報告はいまだになかった。スマネンについて述べた文献は少なくないが、いずれも理論計算等を行なうに止まっていた(例えば、非特許文献5および6参照)。
【0014】
なお、スマネンのベンジル位炭素を硫黄原子に置き換えた化合物(下記式(85))が合成されている(非特許文献7)。これ自体興味深い化合物ではあるが、合成するには、今のところ真空中で1000℃という厳しい条件が必要であり、大量生産して産業ベースに載せることは難しい状況である。また、そもそもスマネンとは物性が大いに異なる。例えば、前記硫黄原子の反応性はベンジル位炭素のように自由自在ではなく、オキソ基等を付加できるに止まると思われる。このように、スマネンの化学構造および有用性は予想されてはいるものの、合成に成功した例は今までになかった。
【0015】
【化11】
【0016】
以上のような状況の中で、本発明者らは、鋭意検討の結果、前述の通り、スマネンの合成に世界で初めて成功し、その製造方法を確立するに至った。この製造方法によれば、有機合成化学の手法を用いてスマネンおよびその誘導体を困難なく得ることができる。例えば、安価で容易に入手可能なノルボルナジエンから、フラスコ内において、穏和な条件下、わずか3ステップでスマネンを合成することも可能である。
【0017】
【非特許文献1】Hidehiro Sakurai, Taro Daiko, Toshikazu Hirao, Science, 2003, 301, p.1878.
【非特許文献2】M. Riad Manaa, David W. Sprehn, and Heather A. Ichord, J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, p.13990-13991.
【非特許文献3】Science, 1995, 269, p.1554.
【非特許文献4】Andrzej Sygula and Peter W. Rabideau, J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, p.6323-6324.
【非特許文献5】U. Deva Priyakumar and G. Narahari Sastry, J. Phys. Chem. A, 2001, 105, p.4488-4494.
【非特許文献6】U. Deva Priyakumar and G. Narahari Sastry, Tetrahedron Letters, 2001, 42, p.1379-1381.
【非特許文献7】Koichi Imamura, Kazuo Takimiya, Yoshio Aso and Tetsuo Otsubo, Chem. Commun., 1999, p.1859-1860.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
スマネンおよびその誘導体については、前述の通り、学術的にも絶大な価値を有し、そして産業上利用価値も多大なものが見込まれている。しかしながら、スマネンは、世界ではじめて合成に成功したばかりの化合物であるため、その物性等についてはいまだ未知の部分が多いのも事実である。そのため、産業上利用可能性の探求等の観点から、スマネンについてさらなる研究が望まれている。一方、有機半導体の分野では、さらに性能が優れた半導体の開発が要求されている。
【0019】
したがって、本発明は、高性能な新規有機半導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明の有機半導体は、下記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む有機半導体である。
【0021】
【化12】
【0022】
式(1)中、A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
X1〜X3はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基(下記式(2))、ビニリデン基(下記式(3))、カルボニル基(下記式(4))、チオカルボニル基(下記式(5))、イミノメチレン基(下記式(6))、イミノ基(下記式(7))、または酸素原子(下記式(8))、であり、X1〜X3上に水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
【0023】
【化13】
【0024】
前記X1〜X3上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機半導体は、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことにより、半導体として優れた性能を発揮する。なお、本発明の有機半導体では、前記式(1)で表される化合物の分子は、中性分子であってもよいが、前記の通り、正または負の電荷を持ったイオンの状態であっても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。
【0027】
前記式(1)で表される化合物(スマネンおよびその誘導体)およびそれを含む組成物については、前述の通り多大な産業上利用価値が見込まれており、例えば、各種電子材料等の工業用材料、金属内包型フラーレン化合物のモデル化合物等の基礎研究用材料、光増感剤、重合触媒等、あらゆる用途への応用が期待されている。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、前記式(1)で表される化合物が、その電気的性質等の観点から有機半導体に好ましく使用できることをつきとめた。そして、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む本発明の有機半導体が、半導体として高性能であることを見出した。
【0028】
本発明の有機半導体中における分子の構造は特に限定されないが、例えば、前記式(1)で表される化合物の分子またはイオンが上下方向に積層した構造を有することが、電気的性質等においてさらに優れる等の観点から好ましい。
【0029】
本発明の有機半導体中における分子の構造、および本発明の有機半導体が電気的性質等に優れる理由は、必ずしも全てが明らかではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、まず、前記式(1)で表される化合物(スマネンおよびその誘導体)は、その分子構造中にベンゼン環構造を含み、前述の通り芳香族化合物としての性質を示す。しかしながら、その分子骨格が、通常の状態では、平面ではなく若干湾曲したボウル状であるために、π電子が完全には非局在化されず、若干の電荷の偏りが生じていると考えられる。分子中におけるこの若干の電荷の偏りのために、本発明の有機半導体は、電気的性質等において優れ、特に電気伝導性、電子移動性等において優れると推測される。さらに、前記式(1)で表される化合物分子は、前記電荷の偏りのために、分子間において電子密度の高い部分と低い部分とが引き合い、その結果、固体中においては規則正しく積層された構造をとると考えられる。そして、分子がこのような構造をとる結果、芳香環のπ電子が効率よくパッキング(充填)されるため、そのことも電気伝導性、電子移動性等に対して有利に働くと思われる。ただし、この説明は、推測されるメカニズムの一例であり、本発明を限定するものではない。また、前述の通り、本発明の有機半導体中における分子の構造は特に限定されず、前記式(1)で表される化合物またはイオンが上下方向に積層した構造を含む構造に限られるものではない。
【0030】
本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩のみからなっていても良いが、必要に応じてその他の成分を含んでいても良い。また、本発明の有機半導体は、電気的性質等の観点から、結晶構造を有することが好ましく、理想的には、いわゆる単結晶の状態であるのが良いが、これに限定されず、例えば、いわゆる多結晶その他任意の状態が可能である。
【0031】
このような本発明の有機半導体の製造方法も特に限定されないが、例えば、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを、溶媒に溶解後、再結晶するか、または融解後、固体化する工程を含む製造方法により製造することができる。このとき、必要であれば、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つに、さらにその他の成分を加えても良い。ただし、分子の規則正しい配列の妨げとなる不要な不純物は、あらかじめクロマトグラフィー等により除去しておくことが好ましい。再結晶する場合、溶媒は特に限定されず、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩の溶解度等を考慮して適宜決定すれば良いが、例えば、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸エチル等のエステル、ジエチルエーテル、THF(テトラヒドロフラン)、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等があげられ、これらは単独で用いても良いし二種類以上併用しても良い。再結晶により結晶を析出させる方法としては、温度による溶解度の相違を利用して、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩および必要に応じてその他の成分(以下、単に「溶質」と呼ぶことがある)を含む高温の飽和溶液を冷却する方法、溶質を含む溶液から溶媒を蒸発させて濃縮する方法、溶質を含む溶液に他の適切な溶媒を加えて前記溶質の溶解度を減少させる方法等を用いることができる。いずれの方法を用いる場合も、結晶を析出および成長させるための時間は、極力長くかければ、分子が規則正しく配列した大きい結晶が得られる等の利点があるが、この時間は、結晶の製造効率等も考慮して適宜決定することが好ましい。
【0032】
再結晶方法としては、より具体的には、例えば、前記溶質を適切な溶媒に添加し、その溶媒の沸点付近まで加熱して前記溶質を完全に溶解させた後に、静置したまま冷却して過冷却(過飽和)溶液とし、さらにそのままの温度で静置して結晶を析出させる方法等を用いることができる。静置する際には、例えば室温で静置しても良いし、必要に応じて冷蔵庫等で冷却しても良い。静置する際の温度も特に限定されないが、例えば、0〜20℃が好ましく、また、前記の通り、例えば室温でも良い。なお、「室温」とは、本発明では特に限定されないが、例えば、JIS K 0050の規定によれば5〜35℃である。なお、本発明の有機半導体の製造においては、例えば、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を、必要に応じてその他の成分と混合するのみでも良いが、電気的性質等のために有機半導体中の分子を規則正しく配列させる等の観点から、例えば、前記の通り、再結晶するか、または融解後、固体化する等の方法を用いることが好ましい。
【0033】
本発明の有機半導体は、前述の通り、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンの積層構造を含むことが好ましいが、電気伝導性、電子移動性等の観点から、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンが平行に積層されていることがより好ましい。より具体的には、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、原子団X1中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIとし、原子団X2中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIとし、原子団X3中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIIとし、xI、xIIおよびxIIIの3原子を含む平面をx面と定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、各分子またはイオンの前記x面同士が互いに平行であることがより好ましい。また、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、前記xI、xIIおよびxIIIの3原子を頂点とする三角形を定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、任意の前記分子またはイオン中における前記三角形が、その上または下に接して積層されている分子またはイオンの前記三角形に対し、前記x面内で60°±10°、180°±10°または300°±10°回転させた角度で位置することがさらに好ましい。なお、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンが、例えば母体化合物のスマネン(前記式(84))のようにC3対称性を有する場合は、前記角度が60°である状態、180°である状態、および300°である状態は、みな同じ状態を指す。また、本発明において、式(1)で表される化合物分子またはそのイオンが「平行」であると言う場合は、厳密に平行な状態のみならず実質的に平行である状態をも含む。
【0034】
なお、本発明の有機半導体中における各分子の構造および各分子間の位置関係等は、例えば、X線構造解析等の機器分析方法を用いて確認することができる。前述の通り、本発明の有機半導体中における分子構造は、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンの積層構造を含むことが、電気的性質等においてさらに優れるため、より好ましいが、前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンの積層構造を含む構造に限られない。例えば、前記分子またはそのイオンが、各分子またはイオンの前記x面と平行な方向に規則正しく配列していれば、前記x面と平行方向の電気伝導性、電子移動性等が優れると考えられる。また、前記分子またはそのイオンは、必ずしも規則正しく配列していなくても、良好な電気伝導性、電子移動性等を得ることができる。
【0035】
本発明の有機半導体は、種々の電子機器に使用可能であり、中でも有機トランジスタ材料として有用である。本発明の有機半導体の形状は特に限定されないが、電子機器等に使用する場合は、例えば薄膜状であることが好ましい。また、本発明の有機半導体は、例えば、前述の通り再結晶法等により製造することもできるが、薄膜状の場合は、例えば以下のような方法で製造することができる。
【0036】
前記薄膜状の有機半導体の製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを薄膜状に形成する工程を含む。前記薄膜状に形成する方法は、特に限定されず公知の製膜法を用いることができるが、例えば、蒸着法、化学的気相成長法、スピンコート法および印刷法からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。また、薄膜状に形成する際に、必要に応じ、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩以外の成分を適宜併用しても良い。このような製造方法によれば、例えば、製造条件の適宜な設定により、前記式(1)で表される化合物分子またはイオンが上下方法に規則正しく積層した構造を有する有機半導体を容易に製造することも可能である。
【0037】
また、本発明の有機半導体は、導電性を所望の範囲とする等の目的で、ドーパントをさらに含んでいても良い。ドーパントとは、例えば、半導体の導電性を向上する等の目的で添加する物質であり、有機材料、例えば導電性高分子等の導電性を向上する目的で添加することもできる。
【0038】
本発明の有機半導体に含まれるドーパントは特に限定されず、公知のドーパント等を適宜用いることができ、例えば、下記のものが使用可能である。例えば、電子供与性の化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属、ユウロピウム等のランタノイド、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等があげられる。電子受容性の化合物として、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンおよびハロゲン元素を含む化合物、五フッ化リン、五フッ化砒素、五フッ化アンチモン、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素等のルイス酸、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸等の無機酸、各種有機酸、アミノ酸、三塩化鉄、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム、五塩化ニオブ、五塩化タンタル、三塩化セリウム等の遷移金属化合物、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等の電解質アニオン等があげられる。また、各種金属、例えば、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、オスミウム(Os)等の遷移金属もあげられる。ドーピング方法も特に限定されず、例えば電圧印加、レーザー光照射等の公知の方法を適宜用いることができる。
【0039】
本発明の有機半導体は、例えば、電気伝導性、電子移動性等の観点から、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩の純度が高いことが好ましい。具体的には、例えば、本発明の有機半導体の質量から前記ドーパントの質量を除いた部分において、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩の含有率が10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、理想的には100質量%である。例えば、前記一般式(1)で表される化合物が不純物を多く含む場合、蒸着法、化学的気相成長法等の方法により、純度を高めることができる。しかし、本発明の有機半導体は、必ずしも前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩の純度が高くなくても良い。例えば、本発明の有機半導体は、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される物質以外に、必要に応じて、有機半導体としての性質を示すその他の物質を適宜含んでいても良い。
【0040】
本発明の電子機器、特にトランジスタは、本発明の有機半導体を含むことにより優れた性能を有する。本発明のトランジスタの構成は特に限定されず、任意の構成が可能であり、例えば、公知のトランジスタの半導体部分に代え、またはそれに加え、本発明の有機半導体を含む構成であってもよい。本発明のトランジスタとしては、具体的には、例えば、薄型化等の観点から、薄層フィルム型トランジスタ(薄膜フィルム型トランジスタまたは薄膜フィルム型コンデンサなどとも呼ばれる)がより好ましい。また、本発明のトランジスタは、いわゆるバイポーラトランジスタでも電界効果型トランジスタ(電界効果型コンデンサなどとも呼ばれる)でも良いが、特に薄層フィルム型トランジスタである場合等は、製造しやすさ等の観点から、電界効果型トランジスタがより好ましい。
【0041】
本発明のトランジスタの構成は、例えば、本発明の有機半導体から形成された有機半導体層に加え、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、および絶縁層を含む構成であっても良い。これら各構成要素は、例えば絶縁基板上に形成されていても良い。これら各構成要素の位置関係は、例えば従来のトランジスタと同様でも良く、例えば、前記有機半導体層と前記ゲート電極との間は前記絶縁層により隔てられており、かつ、前記ソース電極およびドレイン電極が前記有機半導体層に直接接していても良い。さらに、前記有機半導体層以外の各構成要素の材質および大きさ等は特に限定されず、例えば、従来のトランジスタと同様でも良い。また、本発明のトランジスタの構成はこれに限定されず、前述の通り任意の構成が可能である。さらに、本発明のトランジスタの製造方法も特に限定されず、例えば、従来のトランジスタと同様でも良く、より具体的には、例えば、前記有機半導体層を、前記蒸着法、化学的気相成長法、スピンコート法または印刷法等により形成し、それ以外の各構成要素は従来と同様に形成しても良い。
【0042】
次に、前記式(1)で表される化合物およびその製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0043】
本発明者らは、前述の通り、スマネンの合成に世界で初めて成功した。そして、前記一般式(1)で表される本発明の化合物(すなわち、スマネンおよびその誘導体)とその製造方法とを確立した。
【0044】
前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩の製造方法は特に限定されず、どのような方法により製造しても良いが、例えば、以下に説明する製造方法により製造することが好ましい。この製造方法によれば、有機合成化学の手法を用いてスマネンおよびその誘導体を困難なく得ることができる。例えば母体化合物のスマネンについては、下記スキーム1に示すように、安価で容易に入手可能なノルボルナジエン(下記式(86))から、フラスコ内において、穏和な条件下、わずか3ステップで合成することも可能である。
【0045】
【化14】
【0046】
以下、前記製造方法についてさらに具体的に説明する。すなわち、まず、下記式(76)で表される化合物を準備する。この化合物およびその塩は、本発明者らの発明に係る新規化合物であり、さらに酸化(脱水素)反応を経由してスマネンおよびその誘導体に変換することができる。
【0047】
【化15】
【0048】
式(76)中、R1〜R6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、好ましくは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、またはナフチル基である。X11、X21およびX31はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基、イミノ基または酸素原子であり、イミノ基の場合は、その水素原子は保護基により置換されていても良い。以下、この化合物の製造方法について説明する。
【0049】
前記式(76)で表される化合物およびその塩の製造方法は特に限定されないが、下記式(77)で表される化合物のメタセシス反応を含む製造方法がより好ましい。この製造方法は本発明者らの発明に係る新規な製造方法である。メタセシス反応はよく知られている反応であるが、本発明者らはそれを下記式(77)で表される化合物に適用することを見出した。この方法を発明したことにより、スマネンおよびその誘導体を困難なく得ることができるようになった。
【0050】
【化16】
【0051】
式(77)中、R1〜R6、X11、X21およびX31はそれぞれ前記式(76)と同じである。
【0052】
前記メタセシス反応の条件は特に限定されず、従来のメタセシス反応と同様に行なうことができるが、触媒を用いて行なうことが好ましい。前記触媒は特に限定されず、いわゆるメタセシス触媒として通常用いられているものを使用することができ、単独で使用しても良いし二種類以上併用しても良い。また、前記触媒は、例えば、ルテニウム、アルミニウム、チタン、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含むことがより好ましい。このようなメタセシス触媒、特にルテニウムやモリブデンを含む触媒は多数開発されている。本発明に使用する前記触媒としては、具体的には、例えば、(PCy3)2RuCl2=CHPhすなわちビス(トリシクロヘキシルホスフィノ)ベンジリデンルテニウム(II)クロリド、Al(C2H5)3-TiCl4、Al(C2H5)3-MoCl3、およびAl(C2H5)3-WCl6からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが特に好ましいが、これらに限定されるものではない。前記触媒の使用量も特に限定されず、反応効率やコスト等を考慮して適宜調整すれば良いが、例えば、いわゆる化学量論量以下が好ましい。前記触媒の適切な使用量は、触媒の種類や反応スケール等によって変化し、一定ではないが、フラスコレベルの反応では、前記式(77)で表される化合物に対し、例えば5mol%程度である。なお、一般に、触媒反応では、反応スケールが大きくなれば、相対的に触媒使用量を減らせる(すなわち、基質量に対する触媒使用量の比率を小さくできる)傾向がある。
【0053】
また、前記メタセシス反応は、前記式(77)の化合物と反応するもう一種類のオレフィンを用いて行なうことが反応効率や収率の観点から好ましい。この場合のオレフィンは特に限定されないが、反応効率、コスト、扱いやすさ等の観点から、例えばエチレンがより好ましい。
【0054】
前記もう一種類のオレフィン、例えばエチレンを用いる場合の操作および反応原理は、例えば以下のように説明される。すなわち、まず、前記式(77)の化合物とエチレンとをメタセシス反応により化合させ、前記式(77)の化合物におけるオレフィン結合部分を開環させる。そして、その反応生成物をさらにメタセシス反応させて閉環させることにより、前記式(76)で表される化合物を生成させる。この閉環反応により再びエチレンが生成し、最終的に系中から除かれる。このようにすると、前記式(76)で表される化合物をさらに効率よく得ることができる。
【0055】
前記メタセシス反応におけるその他の使用物質や反応条件は特に限定されず、従来のメタセシス反応等を参考にして適宜設定すれば良い。溶媒は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化物や、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒や、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の高極性溶媒が使用可能であり、これら溶媒は単独で用いても二種類以上併用しても良い。反応温度および反応時間も特に限定されず、前記式(77)中におけるR1〜R6、X11、X21およびX31の構造や反応スケール等により適宜設定すれば良い。また、反応生成物の分離や精製の方法も特に限定されず、カラムクロマトグラフィーやGPC等の公知の手段を適宜用いて行なうことができる。
【0056】
以上のようにして、前記式(77)の化合物から前記式(76)の化合物を製造することができる。前記式(77)で表される化合物の製造方法も特に限定されないが、下記式(78)〜(80)で表される化合物をハロゲン化し、さらにWurtz型カップリングにより環化させることを含む製造方法が好ましい。
【0057】
【化17】
【0058】
ただし、式(78)〜(80)中、R1〜R6、X11、X21およびX31はそれぞれ前記式(77)と同じである。
【0059】
Wurtz型カップリングとは、ハロゲン化物同士のカップリング反応として知られており、本発明者らは、この反応を前記式(77)の化合物の製造に用いることを見出した。前記ハロゲンとしては、例えばフッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられ、これらの中で臭素がより好ましい。反応は、例えば金属ナトリウム、金属リチウム等のアルカリ金属や触媒等の存在下で行なわれ、前記触媒としては、例えば、銅触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒等があげられ、これらの中で銅触媒がより好ましい。また、ハロゲン化物は、単離状態で準備し、それをカップリングさせても良いが、反応系中でハロゲン化物を生成させ、同一の反応系中で(単離することなく)カップリングさせても良い。本発明では、前記Wurtz型カップリングの具体的な操作や反応条件は特に限定されないが、例えば以下の通りである。すなわち、まず、前記式(78)〜(80)の化合物(以下、単に「ジエン」と呼ぶことがある)と、カリウムt-ブトキシド、n-ブチルリチウムヘキサン溶液、1,2-ジブロモエタン、ヨウ化銅(I)、および溶媒としてのTHFを準備し、これら全ての反応物質および溶媒と、反応容器とを十分に乾燥させる。ジエンおよび溶媒以外の物質の使用量は特に限定されないが、副反応等を抑制するために全て同じ化学等量ずつ用いることがより好ましい。次に、前記反応容器内を不活性ガス置換し、t-BuOKおよびTHFを加えて溶解させる。その後、反応系温度をマイナス78 ℃まで下げ、ジエンを加え、さらにn-BuLiのヘキサン溶液を2時間かけ滴下する。滴下終了後、反応系の温度をマイナス40 ℃まで昇温し、さらに30分攪拌する。そして、前記系の温度をマイナス78℃に再び下げた後、1,2-ジブロモエタンを加え、その後再びマイナス40 ℃に昇温し、1時間半攪拌する。次に、再び前記系の温度をマイナス78 ℃に戻した後、ヨウ化銅(I)を加える。そして、マイナス78℃で4時間攪拌後、冷却を停止し、徐々に室温まで戻しながらさらに7時間攪拌する。その後、定法によりワークアップして、前記式(77)で表される目的化合物を得る。
【0060】
この反応における使用物質、反応温度および反応時間等は前記には限定されず、従来のWurtz型カップリング反応等を参考にして適宜設定することができる。また、前記式(78)〜(80)において、前記X11〜X31のうちいずれかがイミノ基である場合は、その水素原子は、副反応等を抑制するため保護基により置換されていることがより好ましい。保護基としては特に限定されず、公知の保護基を適宜用いることができるが、例えば、Greene and Wuts著 "Protective Groups in Organic Synthesis" 第2版(2nd Edition)に記載の保護基等があげられ、具体的には、t-ブトキシカルボニル基(Boc)、アセチル基(Ac)、ベンジルオキシカルボニル基(Z)、ベンジル基(Bz)等がある。
【0061】
なお、前記式(77)の化合物はsyn体であるが、通常、その異性体であるanti体との混合物として得られる。これらはGPC等の一般に用いられている手段により分離することができる。さらに、前記X11〜X31の全てが同一ではない場合、目的とする前記式(77)の化合物以外に多数の副生成物が得られるが、これらも、カラムクロマトグラフィーやGPC等の手段により分離することができる。
【0062】
また、前記式(77)の化合物の製造方法は、前記Wurtz型カップリング法には限定されず、公知の方法で合成することもできる。これら公知の方法としては、例えば、 "Giuseppe Borsato, Ottorino De Lucchi, Fabrizio Fabris, Luca Groppo, Vittorio Lucchini, and Alfonso Zambon, J. Org. Chem., 2002, 67, p.7894-7897." に記載されたハロゲン化物と有機金属試薬とのクロスカップリング法や、 "Harold Hart, Abdollah Bashir-Hashemi, Jihmei Luo and Mary Ann Meador, Tetrahedron, 1986, 42, p.1641-1654." , "Harold Hart, Chung-yin Lai, Godson Chukuemeka Nwokogu and Shamouil Shamouilian, Tetrahedron, 1987, 43, p.5203-5224." および "Francisco Raymo, Franz H. Kohnke and Francesca Cardullo, Tetrahedron, 1992, 48, p.6827-6838." 等に記載の合成法等がある。しかし、前記Wurtz型カップリング法を用いれば、例えば前述の通り、前記式(78)〜(80)で表される化合物をハロゲン化した後、前記ハロゲン化と同一の反応系中で(単離することなく)環化を行なうこともできる。このようにすれば、前記式(77)の化合物を、前記式(78)〜(80)の化合物から1ステップで簡便に合成できるため好ましく、前記X11〜X31の全てがメチレン基である場合には特に有効である。
【0063】
そして、前記式(77)の化合物が得られたら、前記の通り、この化合物のメタセシス反応により前記式(76)の化合物を得る。
【0064】
なお、前記式(77)の化合物から前記式(76)の化合物を得る方法として、前記メタセシス反応以外に、例えば以下のような製造方法もある。すなわち、まず、前記式(77)で表される化合物をオゾン分解して、下記式(77')で表される化合物を得る。このオゾン分解の条件は特に限定されず、公知のオゾン分解反応等を参考にして適宜設定することができる。
【0065】
【化18】
【0066】
式(77’)中、R1〜R6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、X11、X21およびX31はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基、イミノ基または酸素原子であり、イミノ基の場合は、その水素原子は保護基により置換されていても良い。
【0067】
オゾン分解とは、炭素−炭素不飽和結合を持つ化合物をオゾン化し、それをさらに分解してカルボニル化合物を得る反応として知られている。オゾン化物(オゾニド)を分解してカルボニル反応を得る方法としては、例えば、水により分解する方法および還元剤を用いる方法があり、より具体的には、例えば、酢酸存在下Zn−H2Oにより還元する方法、白金触媒やパラジウム触媒等の存在下で水素を用いて接触還元する方法、ラネーニッケルを用いて還元する方法等があげられる。オゾン分解について記述している文献は多数あるが、例えば、 "P. S. Bailely, Chem. Rev., 1958, 58, p.925." および "R. W. Murray, Acc. Chem. Res., 1968, 1, p.313." 等があげられる。
【0068】
なお、前記式(77')で表される化合物およびその塩は本発明に係る新規化合物であり、前記式(77)で表される化合物のオゾン分解を含む製造方法により製造されることが好ましいが、この製造方法に限定されずどのような方法により製造しても良い。
【0069】
そして、前記式(77')で表される化合物が得られたら、その分子内カップリング反応により前記式(76)で表される化合物を得る。この分子内カップリング反応の条件は特に限定されず、公知の反応を参考にするなどして適宜設定することができる。前記分子内カップリング反応は、遷移金属元素を用いた還元的カップリング反応が好ましく、前記遷移金属元素がチタンを含むことがより好ましい。なお、低原子価チタンを用いたカルボニル化合物の還元的カップリングはMcMurry反応として知られている。前記低原子価チタンは、例えばTiCl3やTiCl3(DME)1.5錯体(DMEはジメトキシエタンを表す)を反応系中で還元して発生させる方法がよく用いられており、この場合の還元剤としては、例えばZn(Cu)やC8K(カリウムグラファイト)等が用いられる。McMurry反応について述べた文献も多数あるが、例えば、 "J. E. McMurry, Acc. Chem. Res., 1974, 7, p.281." , "J. E. McMurry, Acc. Chem. Res., 1983, 16, p.405." , "J. E. McMurry and K. L. Kees, J. Org. Chem., 1977, 42, p.2655."および "D. L. J. Clive et al., J. Am. Chem. Soc., 1988, 110, p.6914." 等があげられる。
【0070】
以上のようにして前記化学式(76)で表される化合物が準備できたら、それを酸化して下記式(81)で表される化合物を製造する。
【0071】
【化19】
【0072】
式(81)中、R1〜R6、X11、X21およびX31はそれぞれ前記式(76)と同じである。
【0073】
前記酸化反応の条件は特に限定されず、従来の脱水素反応と同様の条件で行なうことができる。例えば、DDQやクロラニル等の酸化剤を用いても良いが、工業的には触媒を用いることが好ましい。前記触媒は特に限定されず、脱水素反応に通常用いられるものを使用することができるが、例えば、Pd−C(パラジウムカーボン)、白金、ロジウム、金属硫黄および金属セレン等が使用可能である。また、これら触媒は単独で用いても良いが、二種類以上併用しても良い。
【0074】
その他の使用物質や反応条件も特に限定されず、従来の脱水素反応を参考にするなどして適宜設定することができる。前記DDQ等の酸化剤やPd−C等の触媒を用いる場合、反応溶媒は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒が使用可能であり、これら溶媒は単独で用いても二種類以上併用しても良い。この場合の反応温度および反応時間も特に限定されず、反応物質の種類等により適宜選択すればよい。
【0075】
そして、前記式(81)で表される化合物が得られたら、X11〜X31上の水素原子およびR1〜R6上のベンジル位水素原子を必要に応じ置換して、前記式(1)で表される本発明の化合物を得ることができる。X11〜X31のうちいずれかがイミノ基であって、その水素原子が保護基により置換されている場合は、イミノ基を必要に応じ脱保護してからあらためて置換しても良い。脱保護の方法は特に限定されず、前記保護基の種類等に応じて公知の方法を適宜使用すれば良い。
【0076】
前記X11〜X31上の水素原子を置換する方法も特に限定されず、類似の化学構造を有するジフェニルメタン、フルオレンおよびカルバゾール等の置換反応と同様の方法で様々な置換基を導入することが可能である。例えば、X11〜X31のいずれかがメチレン基である場合、そのメチレン基をアルキル化するためには、前記メチレン基の水素をブチルリチウム等により脱離させてカルボアニオンを生成させ、さらにヨウ化アルキル等を加える等の方法を用いることができる。また、アルコキシ化するためには、ベンジル位のアルコキシ化に通常用いられる方法、例えばハロゲン化の後アルコーリシス反応させる方法等を使用することができる。さらに、R1〜R6上にベンジル位水素原子が存在する場合、その水素原子を置換する方法も特に限定されず、一般的なベンジル位置換反応と同様に行なうことができる。例えば、アルキル基やアルコキシ基で置換するには上述と同様の方法等を用いることが可能である。
【0077】
以上のようにすれば、前記式(1)で表される化合物を、有機合成化学的手法により困難なく得ることができる。しかし、前記式(1)で表される化合物の製造方法はこれに限定されず、どのような方法により製造しても良い。
【0078】
そして、前記式(1)で表される化合物を用いて、例えば前述の製造方法により、本発明の有機半導体を得ることができる。
【0079】
なお、本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記式(1)で表される化合物の分子から誘導される基が、二個以上、共有結合および架橋鎖の少なくとも一方により連結されている構造を有する化合物分子もしくはそのイオン(以下、単に「架橋体」と呼ぶことがある)を含んでいても良い。ただし、前記二個以上の基の構造は互いに同一でも異なっていても良い。このような有機半導体を製造する場合、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記架橋体を用いることができる。前記架橋鎖は特に限定されず、例えば、アルキレン基でも、ポリエンでも、エステル結合やエーテル結合等を含む架橋鎖等であっても良い。これらの中で、例えばアルキレン基が好ましく、メチレン基または炭素数2〜10のポリメチレン基がより好ましい。そして、前記二個以上の基が、それぞれ少なくとも一つのベンジル位炭素を含み、前記共有結合または架橋鎖との結合部位が前記ベンジル位炭素であることが好ましい。
【0080】
このような架橋体の製造方法も特に限定されず、目的とする架橋体の構造等に応じて公知の方法を適宜用いることができるが、一例として以下のような方法がある。すなわち、まず、スマネン(前記式(84)の化合物)のベンジル位を一箇所、モノハロゲン化し、ハロゲン化アルキレン、例えば1,4-ジブロモブタンとカップリング反応させる。この方法は特に限定されないが、例えば、前記スマネンのモノハロゲン化物に金属Mgを加えてGrignard試薬とした後、1,4-ジブロモブタンを加えてカップリングさせる方法がある。このようにすると、スマネンのベンジル位同士がテトラメチレン基で連結された化合物が得られる。さらに、必要に応じ、残りのベンジル位に前記の方法等で置換基を導入して目的の架橋体を得る。
【0081】
また、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンもしくは架橋体に互変異性体、立体異性体、光学異性体等の異性体が存在する場合は、本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンもしくは架橋体に代え、またはそれに加え、前記異性体を含むものであっても良い。さらに、前記式(1)の化合物およびその他本発明に係る化合物が塩を形成し得る場合は、本発明の有機半導体は、その塩を含む有機半導体であっても良い。前記塩は特に限定されず、例えば酸付加塩でも塩基付加塩でも良く、さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でも良い。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸および、ヨウ化水素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。
【0082】
前記式(1)で表される化合物の塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記式(1)で表される化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0083】
本発明の有機半導体では、前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たすことが好ましい。
【0084】
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基である。
【0085】
また、前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たすことがより好ましい。
【0086】
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【0087】
そして、前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たすことがさらに好ましい。
【0088】
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、炭素数1〜3000(特に好ましくは1〜300、最適には1〜30)の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、下記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、
【0089】
【化20】
【0090】
【化21】
【0091】
【化22】
【0092】
ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000(特に好ましくは1〜300、最適には1〜30)の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000(特に好ましくは1〜300、最適には1〜30)の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【0093】
なお、本発明で「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指すが、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。また、アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基等があげられ、アルキル基をその構造中に含む基(例えば、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等)についても同様である。不飽和炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基および2−ブテニル基等があげられる。アルカノイル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基およびイソバレリル基等があげられ、アルカノイル基をその構造中に含む基(アルカノイルオキシ基、アルカノイルアミノ基等)についても同様である。また、炭素数1のアルカノイル基とはホルミル基を指すものとし、アルカノイル基をその構造中に含む基についても同様とする。
【0094】
前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖は、ポリフェニレン、オリゴフェニレン、ポリフェニレンビニレン、オリゴフェニレンビニレン、ポリエン、オリゴビニレン、ポリアセチレン、オリゴアセチレン、ポリピロール、オリゴピロール、ポリチオフェン、オリゴチオフェン、ポリアニリンおよびオリゴアニリン(ただし、これらは1個以上の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い)からなる群から選択される少なくとも一つであることがさらに好ましく、この場合の置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つであることが特に好ましい。また、前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖は、その式量が30〜30000の範囲であることがさらに好ましい。前記式量は、特に好ましくは50〜5000、最適には50〜1000である。
【0095】
また、前記式(1)において、前記同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)または同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士が共有結合により結合され、それらの結合するArまたはXaとともに炭素環またはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成する場合、前記環の構成原子数が3〜20であり、前記置換基が、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0096】
また、前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基のうち少なくとも一つが、その結合するXaおよびさらにそのXaが結合するベンゼン核と一体となって共役系を形成していれば、電気伝導性、電子移動性等の観点から、有機半導体の用途にさらに好ましく使用することができる。このような化合物は多数存在するが、例えば下記式(89)〜(91)で表される化合物等がある。ただし式(89)〜(91)の化合物は例示に過ぎず、これらに限定されるものではない。
【0097】
【化23】
【0098】
前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基が存在しない(すなわち、前記X1〜X3上の水素原子のいずれもが前記置換基により置換されていない)化合物は、そのまま本発明の有機半導体の原料として用いても良いが、その他の誘導体の合成原料等に使用しやすいため、前記その他の誘導体に変換してから本発明の有機半導体の原料として用いても良い。A1〜A6については、全て水素原子であることが、同様に、その他の誘導体の合成原料等や本発明の有機半導体の原料に使用しやすく好ましい場合があるが、A1〜A6がアルキル基や芳香族炭化水素基を含んでいても良い。
【0099】
また、前記式(1)において、X1〜X3は、例えば、メチレン基、ビニリデン基、イミノ基および酸素原子からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましく、X1〜X3の全てがメチレン基であることがより好ましい。特に、A1〜A6の全てが水素原子であり、かつ、X1〜X3の全てがメチレン基であり、そのいずれもが置換されていない化合物、すなわち母体化合物のスマネンは、各種誘導体の合成原料等として利用しやすいのみならず、それ自体も有機半導体用材料として好適である。
【0100】
さらに、本発明者らは、前記一般式(1)に記載の化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩のうち、X1〜X3がビニリデン基であり、X1〜X3は、それぞれ、フェニル基、チエニル基およびオリゴチオフェン鎖からなる群から選択される少なくとも1個の置換基(前記置換基は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)で置換されている化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩が、本発明の有機半導体に好ましく使用できることを見出した。前記オリゴチオフェン鎖の重合度は、特に限定されないが、例えば2〜8である。また、前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、特に好ましくはメチル基である)およびアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基である)が挙げられ、前記電子求引基としては、例えば、ハロゲンおよびハロゲン化アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝ハロゲン化アルキル基であり、特に好ましくはトリフルオロメチル基である)が挙げられる。これらの化合物のうち、特に好ましいのは、下記式(101)〜(109)のいずれかで表される化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩である。
【0101】
【化24】
【0102】
【化25】
【0103】
これらの化合物が本発明の有機半導体に好ましく使用できる理由としては、例えば以下の理由が挙げられる。すなわち、まず、ビニリデン基およびそれに結合するフェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖が、スマネン構造のベンゼン核と一体となって共役系を形成するため、前述の通り、電気伝導性、電子移動性等の観点から好ましい。また、溶媒に対する溶解度等に優れることにより、例えば再結晶、薄膜形成等の操作を簡便に行うことが可能であり、有機半導体を製造しやすい。さらに、例えば、フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖が電子供与基または電気求引基により置換されていることで、バンドギャップエネルギーがさらに減少し、電気伝導性、電子移動性等がより向上することが考えられる。
【0104】
なお、前記式(101)〜(109)中、波線で表した結合は、ビニリデン基のいずれの側に結合していても良いことを示す。例えば、前記式(101)の化合物は、下記式(101−1)で表される対称型化合物であっても良いし、下記式(101−2)で表される非対称型化合物であっても良い。前記式(102)〜(109)の化合物についても同様である。
【0105】
【化26】
【0106】
また、本発明者らは、前記一般式(1)に記載の化合物のX1〜X3の少なくとも一つがメチレン基である場合に、そのメチレン基を効率良くビニリデン基に変換できる方法を見出した。この方法を用いた本発明の有機化合物の製造方法によれば、前記式(101)〜(109)で表される化合物等を効率良く製造することができる。前記本発明の製造方法は、より具体的には、有機化合物の製造方法であって、前記式(1)に記載の化合物のうちX1〜X3の少なくとも一つがメチレン基である化合物を、無機塩基および相間移動触媒の存在下、アルデヒドまたはケトンと反応させ、前記メチレン基がビニリデン基(置換基によって置換されていてもいなくても良い)に変換された生成物とする工程を含む製造方法である。なお、前記無機塩基および相間移動触媒に代えてブチルリチウム等のリチオ化試薬を用いても、X1〜X3のうち少なくとも一つのメチレン基を効率良くビニリデン基に変換することはできる。しかし、無機塩基および相間移動触媒を用いた前記本発明の製造方法によれば、前記ビニリデン基への変換反応を極めて効率良く行うことができる。
【0107】
前記生成物におけるビニリデン基の水素原子が置換基によって置換されている場合、前記置換基は、特に限定されないが、例えば、前記式(1)でX1〜X3がビニリデン基である場合における、前述の好ましい置換基等であっても良い。例えば、これらの置換基に対応した構造を有するアルデヒドまたはケトンを用いれば、これらの置換基を有する化合物を簡便に製造することができる。
【0108】
前記本発明の有機化合物の製造方法において、前記アルデヒドまたはケトンが、芳香環にホルミル基が直接結合した芳香族アルデヒドであることが、反応性が高い、生成物の電気伝導性、電子移動性等が良好である等の理由により好ましい。前記芳香族アルデヒドの芳香環は、フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖であることがさらに好ましく、前記フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い。前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、特に好ましくはメチル基である)およびアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基である)が挙げられ、前記電子求引基としては、例えば、ハロゲンおよびハロゲン化アルキル基(好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分枝ハロゲン化アルキル基であり、特に好ましくはトリフルオロメチル基である)が挙げられる。
【0109】
なお、前記本発明の有機化合物の製造方法において、前記アルデヒドまたはケトンに代え、他の求電子剤を用いても良い。この場合の生成物としては、X1〜X3のうち少なくとも一つのメチレン基がビニリデン基に変換された前記生成物に代え、求電子剤に対応した生成物を得ることができる。例えば、前記求電子剤として、ハロゲン化炭化水素またはその誘導体を用い、前記メチレン基の水素原子が、炭化水素基または前記炭化水素基から誘導される基で置換された生成物を得ることもできる。前記ハロゲン化炭化水素は特に限定されず、例えばアルキル基等の飽和炭化水素基がハロゲン置換されたものでも、芳香族炭化水素基等の不飽和炭化水素基がハロゲン置換されたものでも良い。この中で、例えば、ハロゲン化アリル、ハロゲン化ベンジル等のハロゲン化不飽和炭化水素が、反応性が高い等の観点から好ましい。一例として、3-ブロモプロペン等のハロゲン化アリルを用いれば、前記X1〜X3のうち少なくとも一つのメチレン基における水素原子がアリル基で置換された生成物を得ることができる。
【0110】
また、前記本発明の有機化合物の製造方法において、前記無機塩基は、特に限定されないが、例えば、反応性等の観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。前記相間移動触媒も特に限定されないが、反応性等の観点から、例えば、アンモニウム塩およびホスホニウム塩の少なくとも一方を含むことが好ましく、前記アンモニウム塩としては、例えば4級アルキルアンモニウム塩がより好ましい。前記相間移動触媒は、例えば、n-Bu4NBr, n-Bu4NI, n-Bu4NCl, n-Bu4NHSO4, n-Bu4NF, n-Bu4NOH, n-Bu4NBF4, n-Bu4NPF6-, Me4NBr, Me4NI, Me4NCl, Me4NHSO4, Me4NF, Me4NOH, Me4NBF4, Me4NPF6-, Et4NBr, Et4NI, Et4NCl, Et 4NHSO4, Et 4NF, Et 4NOH, Et 4NBF4, Et 4NPF6-, (n-C3H7)4NBr, (n-C3H7)4NI, (n-C3H7)4NCl, (n-C3H7)4NHSO4, (n-C3H7)4NF, (n-C3H7)4NOH, (n-C3H7) 4NBF4, (n-C3H7)4NPF6-, (i-C3H7)4NBr, (i-C3H7)4NI, (i-C3H7)4NCl, (i-C3H7)4NHSO4, (i-C3H7)4NF, (i-C3H7)4NOH, (i-C3H7) 4NBF4, (i-C3H7)4NPF6-, (n-C5H11)4NBr, (n-C5H11)4NI, (n-C5H11)4NCl, (n-C5H11)4NHSO4, (n-C5H11)4NF, (n-C5H11)4NOH, (n-C5H11)4NBF4, (n-C5H11)4NPF6-, (n-C6H13)4NBr, (n-C6H13)4NI, (n-C6H13)4NCl, (n-C6H13)4NHSO4, (n-C6H13)4NF, (n-C6H13)4NOH, (n-C6H13)4NBF4, (n-C6H13)4NPF6-, (n-C7H15)4NBr, (n-C7H15)4NI, (n-C7H15)4NCl, (n-C7H15)4NHSO4, (n-C7H15)4NF, (n-C7H15)4NOH, (n-C7H15)4NBF4, (n-C7H15)4NPF6-, (n-C8H17)4NBr, (n-C8H17)4NI, (n-C8H17)4NCl, (n-C8H17)4NHSO4, (n-C8H17)4NF, (n-C8H17)4NOH, (n-C8H17)4NBF4, (n-C8H17)4NPF6-, (n-C9H19)4NBr, (n-C9H19)4NI, (n-C9H19)4NCl, (n-C9H19)4NHSO4, (n-C9H19)4NF, (n-C9H19)4NOH, (n-C9H19)4NBF4, (n-C9H19)4NPF6-, (n-C10H21)4NBr, (n-C10H21)4NI, (n-C10H21)4NCl, (n-C10H21)4NHSO4, (n-C10H21)4NF, (n-C10H21)4NOH, (n-C10H21)4NBF4, (n-C10H21)4NPF6-, (n-C11H23)4NBr, (n-C11H23)4NI, (n-C11H23)4NCl, (n-C11H23)4NHSO4, (n-C11H23)4NF, (n-C11H23)4NOH, (n-C11H23)4NBF4, (n-C11H23)4NPF6-, (n-C12H25)4NBr, (n-C12H25)4NI, (n-C12H25)4NCl, (n-C12H25)4NHSO4, (n-C12H25)4NF, (n-C12H25)4NOH, (n-C12H25)4NBF4, (n-C12H25)4NPF6-, Bn4NBr, Bn4NI, Bn4NCl, Bn4NHSO4, Bn4NF, Bn4NOH, Bn4NBF4, Bn4NPF6-, BnMe3NBr, BnMe3NI, BnMe3NCl, BnMe3NHSO4, BnMe3NF, BnMe3NOH, BnMe3NBF4, BnMe3NPF6-, BnEt3NBr, BnEt3NI, BnEt3NCl, BnEt3NHSO4, BnEt3NF, BnEt3NOH, BnEt3NBF4, およびBnEt3NPF6- からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが特に好ましい。反応温度、反応時間、使用溶媒等も特に限定されず、例えば、原料の種類等に応じて適宜設定しても良いし、相間移動触媒を用いた従来の有機合成反応等を参考にして適宜設定しても良い。前記反応温度は、例えば3〜150℃、好ましくは10〜35℃、特に好ましくは20〜30℃、であり、前記反応時間は、例えば0.1〜72時間、好ましくは1〜24時間、特に好ましくは1〜3時間である。前記使用溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、アニソール、クロロベンゼン等の芳香族溶媒、アセトニトリル等のニトリル、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール、および水が挙げられる。
【0111】
以上、前記式(1)で表される化合物およびその製造方法等について説明した。
【0112】
さらに、本発明の有機半導体は、前記式(1)で表される本発明の化合物またはその架橋体と、金属元素との錯形成構造を含む有機半導体であっても良く、前記式(1)の化合物またはその架橋体は、その互変異性体または立体異性体であっても良い。前記金属元素は、単一の金属元素でも二種類以上の金属元素を含んでいても良いが、例えば、遷移金属元素を含むことが好ましく、この遷移金属が、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)およびオスミウム(Os)からなる群から選択される少なくとも一つを含むことがより好ましい。
【0113】
本発明の有機半導体は、前述の通り、前記式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことにより、高性能であり、有機トランジスタ等の種々の電子機器に使用可能である。また、本発明の有機半導体は、有機トランジスタに限定されず、他にもあらゆる電子機器に使用可能であるが、例えば、公知の有機デバイス、有機半導体、導電性ポリマー等が使用されている電子機器と同じ種類の電子機器に使用可能であり、より具体的には、例えば、コンデンサ、キャパシタ、電池、有機EL、燃料電池、有機太陽電池等の電子機器に用いることができる。
【実施例】
【0114】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0115】
(測定条件等)
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、Varian社製のMercury300(商品名)という機器(1H測定時300MHz)を用いて測定した。ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。内部標準0ppmには、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。結合定数(J)は、ヘルツで示しており、略号s、d、t、q、mおよびbrは、それぞれ、一重線(singlet)、二重線(doublet)、三重線(triplet)、四重線(quartet)、多重線(multiplet)および広幅線(broad)を表す。高分解能質量分析(HRMS)は、JEOL社製 JMS-DX-303(商品名)を用い、電子衝撃法または化学的イオン化法により測定した。溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル(UV-VIS)は、株式会社日立製作所製U-3500(商品名)を用いて測定した。測定値(波長)はnmで表している。固体(薄膜)のUV-VISスペクトルは、Agilent Technologies社製分光光度計Agilent8453(商品名)を用いて測定した。測定値(波長)はnmで表している。赤外線吸収スペクトル(IR)は、日本分光株式会社製FT/IR 480 plus(商品名)を用い、KBr法により測定した。測定値(波数)はcm-1で表しており、略号mおよびwは、それぞれ、mediumおよびweakを表す。融点は、株式会社柳本製作所製Yanagimoto MicroPoint Apparatus(商品名)を用いて測定した。元素分析値は、Perkin-Elmer社製CHN-Corder PERKIN-ELMER 240C(商品名)を用いて測定した。X線構造解析は、株式会社リガク製 AFCC5R(商品名)X線回折装置を用い、グラファイトで単色化されたMo−Kα線を用いて解析した。電気伝導度は、ケースレーインスツルメンツ株式会社製エレクトロメーター6517(商品名)を用いて測定した。カラムクロマトグラフィー分離には、シリカゲル(商品名Wakogel CF-200、和光純薬工業株式会社)を用いた。薄層クロマトグラフィー(TLC)用のプレートは、和光純薬工業株式会社製Wakogel BF-5(商品名)を用いた。GPCは、日本分析工業株式会社製LC-908(商品名)を用いて行なった。全ての化学物質は、試薬級である。ノルボルナジエンは、東京化成工業株式会社から購入した(500mL、16000円)。n-BuLiのヘキサン溶液は関東化学株式会社から、(PCy3)2RuCl2=CHPhはAldrich社から、エチレンは大阪酸素工業株式会社から、t-BuOK、1,2-ジブロモエタン、ヨウ化銅(I)、トルエンおよびDDQは和光純薬工業株式会社からそれぞれ購入した。
【0116】
〔実施例1:スマネンを用いた有機半導体〕
本実施例では、以下の通り、前記式(84)で表されるスマネンを合成し、それを用いて有機半導体を製造し、さらに、その有機半導体の電気的性質を測定した。
【0117】
(スマネンの合成)
前記スキーム1に従い、スマネンを合成した。前記スキーム1を下に再掲する。
【0118】
【化27】
【0119】
以下、具体的な操作および手順等について説明する。
【0120】
[ステップa: syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(前記式(87))の合成]
まず、1 L の3口フラスコを真空加熱乾燥した後アルゴン置換し、その中に、t-BuOK (120 mmol, 13.5 g)および脱水THFを180 mL 加えて攪拌した。次に、反応系の温度をマイナス78 ℃まで下げた後、攪拌を続けながら前記式(86)で表される化合物であるノルボルナジエン(2,5-norbornadiene, 240 mmol, 22.1 g)を加え、続いてn-BuLiのヘキサン溶液(濃度1.56 mol/L、n-BuLi 120 mmol相当量)を2時間かけ滴下した。滴下終了後、反応系の温度をマイナス40 ℃まで昇温し、さらに30分攪拌した。そして、前記系の温度をマイナス78℃に再び下げた後、1,2-ジブロモエタン (60 mmol, 11.3 g)を加え、その後再びマイナス40 ℃に昇温し、1時間半攪拌した。次に、再び前記系の温度をマイナス78 ℃に戻した後、ヨウ化銅(I) (120 mmol, 22.9 g)を加えた。そして、マイナス78℃で4時間攪拌後、冷却を停止し、徐々に室温まで戻しながらさらに7時間攪拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を用いて反応を停止し、セライト濾過した。その濾液をエーテルで抽出し、残った水層をさらにエーテルで十分抽出した後、合わせた有機層を水で洗浄し、MgSO4で乾燥した。そして、減圧下溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : ジクロロメタン = 4 :1)により分離し、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(syn-benzotris(norbornadiene)、)とanti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(anti-benzotris(norbornadiene))のジアステレオマー混合物を得た。さらに、その混合物をGPCにより分離し、目的物であるsyn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(収量108 mg、単離収率2%)と、anti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(収量270 mg、単離収率5%)とを得た。以下に、これらの化合物の物性値を示す。
【0121】
syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン): HRMS:270.1403、融点:195 ℃ (dec)、1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ= 6.57 (t, J=1.8 Hz, 6 H), 3.90-3.87 (m, 6 H), 2.22 (dt, J=7.2, 1.5 Hz, 3H), 2.08 (dt, J=7.2, 1.5 Hz, 3 H); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): 141.59, 137.66, 66.73, 17.44 ppm.
anti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン): 1H-NMR (300 MHz, CDCl3):δ= 6.68 (t, J= 1.8 Hz, 2 H), 6.65 (dd, J=5.4, 3.0 Hz, 2 H), 6.59 (dd, J= 5.4, 3.0 Hz, 2 H), 3.90-3.87 (m, 2 H), 3.87-3.85 (m, 4 H), 2.05 (dt, J=7.2 1.5 Hz, 4 H), 2.00(dt, J=7.2, 1.5 Hz, 4 H)
【0122】
[ステップb: ヘキサヒドロスマネン(前記式(88))の合成]
まず、200 mL3口フラスコを真空加熱乾燥後アルゴン置換し、その中に、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)(0.074 mmol, 20 mg)をトルエン100 mLに溶かした溶液を加えた。次に、系の温度をマイナス78 ℃に下げ、エチレンガスをバブリングして充分導入し、前記系内をエチレン雰囲気下とした。その後、前記系の温度を室温に戻し、(PCy3)2RuCl2=CHPh (0.0037 mmol, 3 mg, 5 mol%)を加え、エチレン雰囲気を維持したまま室温で24時間攪拌した。さらに、前記系内をアルゴン雰囲気下にし48時間加熱環流した後、反応混合物をシリカゲルによりろ過した。その濾液を減圧下溶媒留去し、得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=5 : 1)により単離し、さらに最終的にGPCにより精製し、目的化合物であるヘキサヒドロスマネン(hexahydrosumanene)を得た(収量4 mg、単離収率20%)。以下に、この化合物の物性値を示す。
【0123】
HRMS:Found:m/z = 270.1412, Calcd for C21H18:M = 270.1408、融点:180 ℃(dec)、1H-NMR(300 MHz, CDCl3):δ= 5.69 (s, 6 H), 3.81 (dd, 6 H, J = 9.9 and 7.2 Hz), 2.78 (dt, 3 H, J = 11.4 and 7.2 Hz), 1.01 (dt, 3H, J = 9.9 and 11.4 Hz); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): 141.91, 129.28, 43.66, 40.35 ppm.、IR(KBr):ν = 3010(m), 2919(m), 2814(m), 1595(w), 1445(w), 1260(w) cm-1、UV-VIS(CH2Cl2):最大吸収波長(Absorption λmax) = 240 nm, 最大発光波長(Emission λmax) = 331 nm(励起波長(Excitation λ) = 240 nm)
【0124】
[ステップc: スマネン(前記式(84))の合成]
まず、10 mLの2口フラスコを真空加熱乾燥した後アルゴン置換した。次に、その中に、ヘキサヒドロスマネン (0.011 mmol, 3 mg)をトルエン2 mLに溶かした溶液をシリンジで加え、さらにDDQ (0.0385 mmol, 9 mg)を加えたのち、110℃で20時間加熱した。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、残渣を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン)により分離し、目的化合物のスマネンを得た(収量2 mg、単離収率67%)。以下に、この化合物の物性値を示す。また、図1〜5にこの化合物のUV-VIS吸収スペクトル図を示す。使用溶媒は、図1ではシクロヘキシルアミン(CHA)、図2ではテトラヒドロフラン(THF)、図3ではアセトニトリル(CH3CN)、図4ではジクロロメタン(CH2Cl2)であり、溶液の濃度はいずれも1.0×10-4 Mである。また、図5は、図1〜4の全てのスペクトル図を1つにまとめて示した図である。
【0125】
元素分析値:Found; C; 95.22, H; 4.77%; Calcd for C21H12 : C; 95.42, H; 4.58%、HRMS:Found:m/z = 264.0923, Calcd for C21H12:M = 264.0939、融点:115 ℃(空気中)、>290 ℃(窒素封入キャピラリー中)、1H-NMR(300 MHz, CDCl3): δ= 7.01 (s, 6 H), 4.71 (d, J = 19.5 Hz, 3 H), 3.42 (d, J = 19.5 Hz, 3 H); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): 148.78, 148.60, 123.15, 41.77 ppm.、IR(KBr):ν = 2950(m), 2922(s), 2852(m), 1653(m), 1558(m), 1260(w), 803(s) cm-1、UV-VIS(シクロヘキシルアミン(CHA)、1.0×10-4 M):最大吸収波長(Absorption λmax) = 279 nm(logε=4.56)、UV-VIS(テトラヒドロフラン(THF)、1.0×10-4 M):最大吸収波長(Absorption λmax) = 278 nm(logε=4.62)、UV-VIS(アセトニトリル(CH3CN)、1.0×10-4 M):最大吸収波長(Absorption λmax) = 276 nm(logε=4.25)、UV-VIS(CH2Cl2):最大吸収波長(Absorption λmax) = 278 nm(logε=4.52)、 最大発光波長(Emission λmax) = 376 nm(励起波長(Excitation λ) = 278 nm)
なお、温度可変1H-NMR(300 MHz, d10-p-xylene)を25℃〜140℃まで測定したところ、臨界温度Tcは140℃以上であり、反転エネルギーΔG‡は、前記Tcとケミカルシフト値とカップリング定数Jとから19.4 kcal/mol以上と計算された。
【0126】
以上の通り、安価で容易に入手可能なノルボルナジエンからわずか3段階でスマネンを合成することができた。また、全てのステップが極めで穏やかな条件であり、例えばDDQに変えて脱水素触媒を用いる等の工夫により、容易に工業プロセス化、大量合成が可能である。
【0127】
なお、ベンゾトリス(ノルボルナジエン)は、前記ステップaに代えて、"Giuseppe Borsato, Ottorino De Lucchi, Fabrizio Fabris, Luca Groppo, Vittorio Lucchini, and Alfonso Zambon, J. Org. Chem., 2002, 67, p.7894-7897." に記載されたハロゲン化物と有機金属試薬とのクロスカップリング法、すなわち下記スキーム2の方法を用いても合成することができた。さらに、前記ステップbは、ベンゾトリス(ノルボルナジエン)をsyn体とanti体に分離しなくても行うことができた。前記ステップbにおいて、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)に代えてsyn体とanti体の混合物を原料に用いることと、ヘキサヒドロスマネンの精製方法をGPCからシリカゲルカラムクロマトグラフィーに変えること以外は上記と同様にして合成を行ったところ、目的化合物のスマネンが、syn-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)とanti-ベンゾトリス(ノルボルナジエン)との混合物からの収率2.2%で得られた。
【0128】
【化28】
【0129】
(結晶の製造および構造解析)
以下のようにして、スマネン結晶を製造し、その構造を解析した。すなわち、まず、前述のようにして製造したスマネンをテトラヒドロフランに溶かし、再結晶することにより、無色板状結晶(0.80mm×0.40mm×0.30mm)を得た。
【0130】
次に、この結晶の構造を、X線構造解析により解析した。以下、このX線構造解析について具体的に説明する。
【0131】
[データ採取]
全ての測定は、前記スマネン結晶をグラスファイバー上に据え付け、グラファイト単色化Mo-Kα放射および回転陽極発生装置を備えた株式会社リガク製 AFCC5R(商品名)X線回折装置によって行った。
【0132】
データ採取のためのセル定数および配向マトリックスは、反射を斜方面体晶(六方晶軸)六方晶セル(ラウエクラス:−3ml)に対応する28.55 < 2θ < 29.49°の範囲に注意深く集中させた25の取り付け角を用いる最小二乗法から得た。そして、格子パラメーターを、下記(数1)の通り決定した。
【0133】
【数1】
【0134】
z=6およびF.W.=264.33であり、密度の計算値は、1.42g/cm3である。下記(数2)の消滅則に基づき、パッキングの考察、強度分布の統計的解析、構造の解析および最適化、空間群を、下記(数3)の通り決定した。
【0135】
【数2】
【0136】
【数3】
【0137】
前記データは、55.0°の最大2θ値のω-2θスキャン技術を用いる23±1℃の温度で収集した。データ収集に先だち、いくつかの強い反射のオメガスキャンが、6.0°のテイクオフ角度を伴う0.32°の高さの半分の平均幅を有していた。(1.68+0.30tanθ)°のスキャンは、16.0°/分(オメガ中)のスピードで行った。弱い反射(I<10.0σ(I))は、再スキャンし(最大5スキャン)、良い係数統計を確保するために計数を集積した。静止バックグラウンド係数は、前記反射の各面上で記録した。ピーク係数時間とバックグラウンド係数時間との比は、2:1であった。入射ビームコリメーターの直径は1.0mm、結晶から検知器までの距離は258mm、および前記検知器口径は9.0×13.0mm(水平×垂直)であった。
【0138】
[データ整理]
前述の方法で収集した1063の反射のうち525が特別であった(Rint=0.016)。3個の典型的な反射の強さを、150反射毎の後に測定した。データ収集の進行によって、標準は2.5%増加した。直線の補正係数は、この現象を説明するためにデータに加えた。
【0139】
Mo-Kα放射の前記直線の吸収係数μは、0.8cm-1である。いくつかの反射の方位角スキャンに基づいた経験的吸収補正は、0.96から0.99に分布している透過率に帰着する。
【0140】
[構造解析および最適化]
構造は直接法(下記参考文献1)によって解析し、フーリエ法(下記参考文献2)を用いて拡張した。非水素原子は、異方性で最適化を行い、水素原子は等方性で最適化を行った。フルマトリックス最小二乗法最適化(下記参考文献3)の最終サイクルは、493の観測された反射(I>2σ(I))および80の可変的なパラメーターに基づき、下記(数4)の減量および増量の一致した因子に集約した。
【0141】
【数4】
【0142】
単位重量の観測の標準偏差(下記参考文献4)は、1.22であった。フーリエ合成図の最終的な差の最大および最小ピークは、それぞれ0.36および-0.65e-/Å3に対応している。全ての計算は、Molecular Structure CorporationのteXsan(参考文献5)結晶学ソフトウェアパッケージを用いて行った。
【0143】
参考文献
(1) SIR92: Altomare, A., Burla, M.C., Camalli, M., Cascarano, M., Giacovazzo, C., Guagliardi, A., Polidori, G., (1994). J. Appl. Cryst. 27, 435.
(2) DIRDIF94: Beurskens, P.T., Admiraal, G., Beurskens, G., Bosman, W.P., de Gelder, R., Israel, R. and Smits, J.M.M.(1994). The DIRDIF-94 プログラムシステム, Technical Report of the Crystallography Laboratory, University of Nijmegen, The Netherlands.
(3) SHELXL-97: Sheldrick, G.M. (1997). 結晶構造最適化のためのプログラム University of Goettingen, Germany.
(4) 単位重量の観測の標準偏差:
【数5】
(5) teXsan: 結晶構造解析パッケージ, Molecular Structure Corporation (1985 & 1999)
【0144】
以上の通り行なったX線構造解析により得られた実験データを、下記(数6)〜(数8)、および(表1)〜(表9)に示す。なお、スマネンの分子式はC21H12であるが、分子がC3対称性を有するため、各原子に付された番号は、表中に示す通り、C(1)〜C(7)およびH(1)〜H(4)となっている。また、1Åは0.1nm(10-10m)に等しい。
【0145】
【数6】
【0146】
【数7】
【0147】
【数8】
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】
【0153】
【表6】
【0154】
【表7】
【0155】
【表8】
【0156】
【表9】
【0157】
図6および7に、前記X線構造解析により解析したスマネン結晶構造の概略図を示す。図6は、スマネン結晶中における分子配列を分子側面から見た概略図であり、図7は、スマネン結晶中における分子配列を分子上面から見た概略図である。図示の通り、得られた結晶中では、スマネン分子がボウル状構造を有しており、その二次配列は、ボウルが平行に重なるようにパッキングし、積層体を形成していた。また、各スマネン分子が、実質的に60°ずれながら、すなわち、その上または下に接して積層されているスマネン分子を60°回転させた角度で位置していた。なお、「60°回転させた角度で」と表現したが、スマネン分子はC3対称性を有するため、前記角度を「180°」または「300°」と表現しても、同じ状態を表す。
【0158】
さらに、前記表中に示したスマネン分子中の炭素原子間結合長を、下記化学式に示す。単位はÅである。なお、前述の通り、1Åは0.1nm(10-10m)に等しい。図示の通り、前記X線構造解析により解析したスマネン分子中のベンゼン環構造、特に中心部位のベンゼン環構造中では、各結合長間にわずかな違いが見られる。これは、電荷の若干の偏りを反映していると考えられる。そして、各スマネン分子間において電子密度の高い部分と低い部分とが引き合うために、前述の通り、各分子が、その上または下に接した分子と実質的に60°(または180°もしくは300°)ずれながら平行に積層され、芳香環のπ電子が効率よくパッキングされると推測される。ただし、この説明は、推測されるメカニズムの一例であり、本発明を限定するものではない。
【0159】
【化29】
【0160】
次に、このようなスマネン結晶の電気伝導度および電子移動性を測定し、前記結晶が、有機半導体として優れた電気伝導性および電子移動性を示すことを確認した。
【0161】
(スマネン結晶の電気伝導度測定)
まず、前述のようにして製造したスマネンを、X線構造解析測定時と同様にしてテトラヒドロフラン中で再結晶することにより、無色板状結晶を得た。次に、これを、断面積0.00044cm、結晶長0.10cmのサンプルサイズにカットし、半導体サンプルを得た。このサンプルを用いて電気伝導度をアルゴン雰囲気下で測定したところ、伝導度は7×10-10 S/cmであった。
【0162】
(スマネンの電子移動度)
前記と同様のスマネン単結晶(半導体)について電子移動度を測定したところ、有機トランジスタ材料として、特に電界効果型トランジスタや薄層フィルム型トランジスタ材料として有用な大きな電子移動度を示した。
【0163】
(薄層フィルム型トランジスタ)
さらに、前記のようにして合成したスマネンを用い、スマネンから形成された有機半導体層を有する、電界効果型の薄層フィルム型トランジスタを作成した。この薄層フィルム型トランジスタの性能を評価したところ、電気伝導度および電子移動度等が高く、トランジスタとして優れた性能を有していた。
【0164】
なお、上述の実施例は、スマネン分子の単結晶を用いた半導体の例であるが、本発明はこれに限定されず、例えば、結晶でないスマネンまたはその誘導体を用いた半導体であっても良い。
【0165】
〔実施例2〜19:スマネン誘導体を用いた有機半導体〕
前記式(101)〜(109)で表される化合物を合成し、分光学的挙動を測定した。さらに、それぞれの化合物を用いて有機半導体を製造し、その電気的性質を測定した。前記構造式(101)〜(109)を下に再掲する。なお、以下、式(101)の化合物をsu-phまたはS-Ph等と呼ぶことがある。同様に、以下、化合物(102)をsu-ph-MeまたはS-Ph-Me等と、化合物(103)をsu-ph-OMeまたはS-Ph-OMe等と、化合物(104)をsu-ph-ClまたはS-Ph-Cl等と、化合物(105)をsu-ph-CF3またはS-Ph-CF3等と、化合物(106)をsu-1TまたはS-Th等と、化合物(107)をsu-2TまたはS-2Th等と、化合物(108)をsu-3TまたはS-3Th等と、それぞれ呼ぶことがある。
【0166】
【化30】
【0167】
【化31】
【0168】
(合成)
以下のようにして、化合物(101)〜(109)を合成した。
【0169】
【化32】
【0170】
(化合物(101)の合成)
まず、5 mL二口ナスフラスコに、スマネン(5 mg, 0.019 mmol)およびn-Bu4NBr (6 mg, 0.0095 mmol)を入れ、真空乾燥後アルゴン置換した。そこに、あらかじめアルゴンバブリングにより脱気しておいた30 wt%水酸化ナトリウム水溶液 (1 mL)、THF (0.1 mL)を加えた。その後、ベンズアルデヒド (0.085 mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、エーテルを加え、脱イオン水、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、さらにカラムクロマトグラフィーにより単離し、目的の化合物(101)を得た。以下に、この化合物の収率および機器分析データを示す。
【0171】
Rf値0.8(ヘキサン:トルエン=1:1)、黄色固体8 mg (収率79%)
1H NMR (600 MHz, CD2Cl2) δ: 7.93 (3H, dd, J = 7.2 Hz, 3.6 Hz), 7.87 (3H, dd, J = 7.2 Hz, 3.3 Hz), 7.70 (1H, dd, J = 2.7 Hz, 1.5 Hz), 7.55 (1H, dd, J = 3.0 Hz, 1.8 Hz), 7.52-7.42 (18 H, m), 7.39-7.37 (3H, m), 7.22-7.19 (3H, m)
13C NMR (150 MHz, CD2Cl2) δ: 131.26, 130.05, 130.00, 129.16, 129.12, 129.06, 128.97, 128.90, 128.64, 123.89, 123.76, 121,21, 121,11, 68.39, 39.18, 30.07, 29.32, 24.14, 23.02, 14.24, 11.13
MS(MALDI-TOF): 528 (M)+
【0172】
(化合物(102)〜(106)の合成)
ベンズアルデヒドに代えてp-メチルベンズアルデヒドを用いる以外は化合物(101)の合成と同様にして化合物(102)を合成した。同様に、ベンズアルデヒドに代えてp-メトキシベンズアルデヒド、p-クロロベンズアルデヒド及びp-トリフルオロメチルベンズアルデヒドをそれぞれ用いて化合物(103)〜(105)を合成した。さらに、ベンズアルデヒドに代えて2−ホルミルチオフェンを用いて化合物(106)を合成した。これらは、全て対称型と非対称型の混合物として得られた。以下に、化合物(102)〜(106)の収率および機器分析データを示す。
【0173】
化合物(102)(su-ph-Me):
Rf値0.6 (ヘキサン:トルエン=1:1)
黄色固体6.9 mg (収率64%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 7.83 (3H, dd, J = 6.3 Hz), 7.77 (3H, dd, J = 6.6 Hz), 7.51 (1H, d, J = 2.1 Hz), 7.49 (1H, d, J = 2.1 Hz), 7.41 (2H, s), 7.39 (2H, d, J = 3.9 Hz), 7.33-7.26 (11H, m), 7.20 (1H, d, i = 4.5 Hz), 7.17 (1H, d, J = 4.5 Hz), 7.12 (1H, s), 2.45 (3H, s), 2.44 (3H, s), 2.41 (3H, s), 2.40 (3H,s)
HRMS(FAB): Calcd for C45H30 570.2347; Found 570.2336 (M)+
【0174】
化合物(103)(su-ph-OMe):
Rf値0.4 (ヘキサン:トルエン=1:3)、
黄色固体9.5 mg (収率81%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 7.90 (3H, dd, J = 8.4 Hz, 5.1 Hz), 7.85 (3H, dd, J = 8.7 Hz, 5.4 Hz), 7.54 (1H, d, J = 1.5 Hz), 7.51 (1H, d, J = 1.5 Hz), 7.41 (2H, d, J = 2.1 Hz), 7.37 (2H, d, J = 3.0 Hz), 7.31 (2H, s), 7.21 (1H, d, J = 4.5 Hz), 7.18 (1H, d, J = 3.9 Hz), 7.05-6.96 (10H, m), 3.90 (3H, s), 3.89 (3H, s), 3.87 (3H, s), 3.86 (3H, s)
HRMS(FAB): Calcd for C45H30O3 618.2195; Found 618.2186 (M)+
【0175】
化合物(104)(su-ph-Cl):
Rf値0.8 (ヘキサン:トルエン=1:1)、
黄色固体10.2 mg (収率85%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 7.87 (3H, dd, J = 8.4 Hz, 6.0 Hz), 7.81 (3H, dd, J = 8.1 Hz, 5.7 Hz), 7.49-7.36 (12H, m), 7.26-7.08 (10H, m)
HRMS(FAB): Calcd for C42H21Cl3 630.0709; Found 630.0718 (M)+
【0176】
化合物(105)(su-ph-CF3):
Rf値0.7 (ヘキサン:トルエン=1:1)、
黄色固体 7.9 mg (収率57% )
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 8.05 (3H, dd, J = 7.5 Hz), 7.98 (3H, dd, J = 7.5 Hz), 7.78-7.71 (6H, m), 7.49-7.37 (6H, m), 7.26-7.08 (10H, m)
HRMS(FAB): Calcd for C45H21F9 732.1499; Found 732.1502 (M)+
【0177】
化合物(106)(su-ph-1T):
Rf値0.4(ヘキサン:トルエン=1:1)、橙色固体8mg (収率72%)
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 8.01 (2H, d, J = 7.8 Hz), 7.91 (2H, s), 7.72-7.69 (4H, m), 7.53-7.50 (6H, m), 7.37 (2H, s), 7.28 (2H, d, J = 3.3 Hz), 7.26 (2H, d, J = 3.3 Hz), 7.22-7.17 (4H, m)MS(MALDI-TOF): 546 (M)+
【0178】
(化合物(108)の合成)
以下のようにして、スマネンにトリチオフェン鎖を導入した化合物(108)を合成した。
【0179】
[2,2':5',2"-ターチオフェン -5-カルボキシアルデヒドの合成]
【化33】
【0180】
まず、冷却管を備え付けた50 mL二口ナスフラスコを真空乾燥後アルゴン置換した。次に、2,2':5',2"-ターチオフェン (1 g, 4 mmol)とDMF (0.36 mL, 4.4 mmol)をジクロエタンに溶かし、これを前記ナスフラスコ中に加えた。この反応系を氷-食塩で氷冷し、POCl3 (0.41 mL, 4.4 mmol)を加え、室温で1時間攪拌し、その後、60 ℃で12時間攪拌した。反応終了後、塩化メチレンを用い、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、脱イオン水、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、さらにカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=1:1)により単離した。このようにして、2,2':5',2"-ターチオフェン -5-カルボキシアルデヒドを、Rf値0.4(塩化メチレン)の黄色固体として得た。収量は552 mg (収率50%)であった。以下に、この化合物の機器分析データを示す。
【0181】
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 9.85 (1H, s), 7.70 (1H, d, J = 3.9 Hz), 7.32-7.26 (4H, m), 7.17 (1H, J = 3.9 Hz), 7.06 (1H, dd, J = 5.4 Hz, 3.9 Hz)
【0182】
[化合物(108)の合成]
【化34】
【0183】
まず、20 mL二口ナスフラスコにスマネン(5 mg, 0.019 mmol)およびn-Bu4NBr (18 mg, 0.0285 mmol)を入れ、真空乾燥後アルゴン置換した。そこに、あらかじめアルゴンバブリングにより脱気しておいた30 wt%水酸化ナトリウム水溶液 (1 mL)、THF (0.1 mL)を加えた。その後、2,2':5',2"-ターチオフェン -5-カルボキシアルデヒド (23.8 mg, 0.086 mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、エーテルを加え、脱イオン水、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、さらにGPCにより単離した。このようにして、赤色固体状の目的化合物(108)を、収量10.6 mg (収率54%)で得た。以下に、この化合物の機器分析データを示す。
【0184】
化合物(108)(su-ph-3T):
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ: 8.11-8.00 (6H, m), 7.71-7.07 (34 H, m)
HRMS(FAB): Calcd for C60H30S9 1037.9834; Found 1037.9819 (M)+
【0185】
また、上記と同様にして、化合物(107)(su-ph-2T)も合成した。さらに、スマネンにビニリデン基(アリル基)を導入した化合物(109)も合成した。
【0186】
[化合物(109)の合成]
まず、20 mL二口ナスフラスコにスマネン (4 mg, 0.015 mmol)およびn-Bu4NBr (15 mg, 0.045 mmol)を入れ、真空乾燥後アルゴン置換した。そして、あらかじめアルゴンバブリングにより脱気しておいた30 wt%水酸化ナトリウム水溶液 (2 mL)、THF (0.1 mL)を加えた。その後、3-ブロモプロペン(0.13 ml, 1.5 mmol)を加え、室温で45時間攪拌した。反応終了後、エーテルを加え、脱イオン水、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水により洗浄、抽出した。得られた有機層は硫酸マグネシウムにより乾燥後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離した。このようにして、白色固体の目的化合物(109)を、収量7.2 mg (収率90 %)で得た。以下に、この化合物の機器分析データを示す。
【0187】
化合物(109):
1H-NMR (600 MHz): 2.64 (d, J = 6.6 Hz, 6H), 3.09 (d, J = 7.2 Hz, 6H), 3.51 (ddt, J = 17.4 Hz, J = 10.2 Hz, J = 6.6 Hz, 3H), 3.96 (dd, J = 10.2 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 4.26 (dd, J =17.4 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 5.20 (dd, J = 10.2 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 5.24 (dd, J = 17.4 Hz, J = 1.2 Hz, 3H), 6.23 (ddt, J = 17.4 Hz, J = 10.2 Hz, J = 7.2 Hz, , 3H), 6.98 (s, 6H)
13C-NMR (150 MHz): 39.7, 44.9, 63.0, 116.0, 117.9, 123.2, 133.9, 135.2, 146.8, 153.5
【0188】
(化合物(101)〜(108)の分光学的挙動)
化合物(101)〜(108)の分光学的挙動を測定した。図8〜16および表10〜14に、その測定結果を示す。以下、この測定結果について、より具体的に説明する。
【0189】
図8に、ベンジリデン基を導入したスマネン誘導体su-ph(化合物(101))のUV-VIS(紫外可視)吸収スペクトルを、スマネンのスペクトルと共に示す。図示の通り、スマネンにおいては278 nmにπ-π*遷移に基づく吸収が見られた。一方、su-phでは345 nm、457 nmに吸収極大波長を持つ吸収が観測され、スマネンと比較して吸収スペクトルの長波長シフトが見られた。また、下記表10に、su-phの溶媒依存性を示す。表10から分かる通り、溶媒の極性に応じた吸収波長の変化は観測されなかった。この結果から、su-phの吸収スペクトルの長波長シフトの原因は、ベンジリデン基の導入によりπ共役系が拡張し、スマネンのπ-π*遷移に基づく吸収がシフトしたためと推測される。また、固体状態では、スマネンは白色固体であるのに対し、得られたsu-phは黄色固体であったことからも、su-phではスマネンと比較してπ共役系が拡張していると考えられる。π共役系が拡張していることは、電気伝導度、電子移動性等の観点から、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0190】
【表10】
【0191】
図9に、su-phの蛍光スペクトルを、スマネン(sumanene)の蛍光スペクトルとともに示す。図9の縦軸は蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 M、励起波長は345 nmである。図示の通り、スマネンでは蛍光は376 nmに観測され、su-phでは蛍光は530 nmに観測された。ベンジリデン基を導入することでπ共役系が拡張され、蛍光波長の長波長シフトが誘起されたものと推測される。また、図10に、su-phの吸収スペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す。図10の縦軸は吸光度および蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 M、蛍光スペクトルの励起波長は345 nmである。図示の通り、吸収スペクトルと蛍光スペクトルの重なりから、0→0遷移は498 nmに観測された。また、HOMO-LUMO間のエネルギー差に対応するS0、S1間のエネルギー差(ΔE0-0)は2.5 eV(ΔE0-0 =1/(498 × 10-7) = 20080 cm-1 = 2.48 eV)であった。すなわち、su-ph(化合物(101))は、HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さいと考えられる。HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さいことは、電気伝導度、電子移動性等の観点から、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0192】
図11に、電子供与基であるMe基、OMe基を導入した誘導体su-ph-Me(化合物(102))およびsu-ph-OMe(化合物(103))のUV-VIS吸収スペクトルの測定結果を、su-ph(化合物(101))の測定結果と併せて示す。図11の縦軸は吸光度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。また、下記表11に、この測定における各吸収のλmaxとlog εの値を示す。図10および表11に示す通り、電子供与基であるMe基、OMe基を含む誘導体su-ph-Me、su-ph-OMeでは、吸収波長の長波長シフトが起こった。長波長シフトの大きさと置換基の電子供与能との相関関係は、Hammett則に良く一致していた。吸収波長の長波長シフトは、バンドギャップエネルギーが小さくなったことを示す。すなわち、ベンジリデン置換基を導入したスマネン誘導体において末端フェニル部位のp位に電子供与基を導入することで、バンドギャップエネルギーの減少が可能であることが分かる。バンドギャップエネルギーが小さければ、電気伝導度、電子移動性等の観点から、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0193】
【表11】
【0194】
一方、図12に、電子求引基であるCl基、CF3基を導入した誘導体su-ph-Cl(化合物(104))、su-ph-CF3(化合物(105))のUV-VIS吸収スペクトルの測定結果を、su-ph(化合物(101))の測定結果と併せて示す。図12の縦軸は吸光度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。また、下記表12に、この測定における各吸収のλmaxとlog εの値を示す。図12および表12に示す通り、電子求引基であるCl基、CF3基を含む誘導体su-ph-Cl、su-ph-CF3では、吸収波長の長波長シフトが起こった。Hammett則によれば、電子求引基を導入した場合では電子供与基と逆に短波長シフトが起こると予測されるが、実際には、前記の通り長波長シフトした。すなわち、電子供与基のみならず電子求引基を導入することによっても、バンドギャップエネルギーを減少させることができる。この原因は必ずしも明らかではないが、例えば、電子求引基を導入することによる分子構造の平面化が寄与していると推測される。
【0195】
【表12】
【0196】
図13に、オリゴチオフェンを二重結合を介して導入したスマネン誘導体su-1T(化合物(106))、およびsu-3T(化合物(108))のUV-VIS吸収スペクトルの測定結果を、スマネンの測定結果と併せて示す。図13の縦軸は吸光度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。また、下記表13に、この測定における各吸収のλmaxとlog εの値を示す。さらに、下記表14に、su-1Tおよびsu-3Tの、UV-VIS吸収スペクトルにおける溶媒効果を示す。
【0197】
【表13】
【0198】
【表14】
【0199】
図13および表13に示す通り、スマネンにチエニルメチリデン基を導入したsu-1Tでは373 nmと482 nmに、ターチエニルメチリデン基を導入したsu-3Tでは434 nmと545 nmに吸収が観測された。すなわち、スマネンと比較して長波長シフトが見られた。この長波長シフトの原因は必ずしも明らかではないが、表14に示す通り溶媒の極性に応じた吸収波長の変化がないことから、おそらく、オリゴチオフェンの電子ドナー性による分子内電荷移動(ICT)が原因ではないと推測される。すなわち、フェニルメチリデン基を導入したsu-ph(化合物(101))等と同様、チオフェンまたはオリゴチオフェンを二重結合を介して導入することによりπ共役系が拡張し、スマネンのπ-π*遷移に基づく吸収がシフトしたと考えられる。前述の通り、π共役系が拡張していることは、有機半導体等の電子材料に用いる際に好ましい。
【0200】
図14に、su-1TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルの測定結果を併せて示す。また、図15に、su-3TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルの測定結果を併せて示す。図14および15の縦軸は吸光度および蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒は塩化メチレン、濃度は1.0×10-4 Mである。蛍光スペクトルの励起波長は、図14(su-1T)では373 nmであり、図15(su-3T)では434 nmである。図14に示す通り、su-1Tでは564 nmに蛍光が観測された。また、その重なりから0→0遷移は530 nmに観測され、S0、S1間のエネルギー差(ΔE0-0)は2.3eV(ΔE0-0 =1/(530 × 10-7) = 18868 cm-1 = 2.33 eV)であった。また、図15に示す通り、su-3Tでは、489 nmと650 nmに蛍光が観測された。これらの蛍光は、励起波長が434 nmであることからオリゴチオフェン部位とスマネン部位を両方励起した結果であると考えられ、489 nmの蛍光はオリゴチオフェンからの蛍光、また650 nmの蛍光はスマネンからの蛍光であると推測される。また、吸収スペクトルと蛍光スペクトルの重なりから0→0遷移は602 nmに観測され、S0、S1間のエネルギー差(ΔE0-0)は2.1 eV(ΔE0-0 =1/(602 × 10-7) = 16611 cm-1 = 2.05 eV)であった。すなわち、チオフェンまたはオリゴチオフェンを二重結合を介してスマネンに導入することで吸収波長と同様に蛍光波長も長波長シフトしており、より効果的にπ共役系が拡張しているという結果が得られた。また、HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さいことも確認された。
【0201】
図16に、su-ph(化合物(101))、su-1T(化合物(106))、およびsu-3T(化合物(108))の蛍光スペクトルを、蛍光強度の比較のために併せて示す。図16の縦軸は蛍光強度であり、横軸は波長(nm)である。測定溶媒、測定濃度および励起波長等の測定条件は、それぞれ図9、10、14および15と同じである。同図から分かる通り、チオフェン単量体または三量体を二重結合を介して導入することでの蛍光強度の減少が観測された。この原因は必ずしも明らかではないが、可能性の一つとして、スマネン部位を励起後、オリゴチオフェンからの電子移動が起こることが考えられる。このように、スマネンにチオフェンまたはオリゴチオフェンを二重結合を介して導入した化合物は、有機半導体等の電子材料としての有用性を表す特徴的な電気的性質を示す。
【0202】
(有機半導体)
以下のようにして、実施例2〜19の有機半導体を製造した。
【0203】
すなわち、まず、n型半導体Siウエハ(フルウチ化学機械株式会社、SiN型(100)0.02Ω・cm以下、SiO2 300nm)上にSiO2膜(300nm)を熱酸化成膜した基板を所定の大きさにカットし、2−プロパノール中で約10分間超音波洗浄した。次に、前記SiO2膜上に、化合物(101)〜(109)のいずれかを、蒸着法またはスピンコート法で30nmの厚さに成膜し、さらにその上に、Au電極(ソース・ドレイン電極)を、真空蒸着法により30nmの厚さに形成した。この時、マスクを用い、電極間距離が20μm、電極長が5.0mmとなるように電極形成した。化合物(101)〜(109)のそれぞれを用いて蒸着法により形成した有機半導体を、(101)〜(109)の化合物番号順にそれぞれ実施例2〜10とする。また、化合物(101)〜(109)のそれぞれを用いてスピンコート法により形成した有機半導体を、(101)〜(109)の化合物番号順にそれぞれ実施例11〜19とする。
【0204】
[分光学的挙動]
上記のように形成した実施例2〜19の有機半導体(薄膜)について、実施例1のスマネンと併せ、イオン化エネルギーおよびUV-VIS吸収スペクトルを測定し、エネルギー準位を計算した。イオン化エネルギーは、理研計器製大気中光電子分光装置AC−III(商品名)で測定した。測定サンプルは、ガラス基板上に膜厚30nmのスマネンまたはその誘導体薄膜を形成することで作製した。図17に、実施例2〜7および9の有機半導体について計算されたエネルギー準位を、実施例1と併せて示す。同図におけるグラフの上限値はLUMOエネルギー値であり、下限値はHOMOエネルギー値である。図示の通り、いずれの実施例でもバンドギャップエネルギーが小さく、また、実施例2〜9では、スマネンへの置換基の導入により、さらなるバンドギャップエネルギーの減少が得られていた。さらに、図18に、実施例4および6の有機半導体(薄膜)のUV-VIS吸収スペクトルを併せて示す。図示の通り、電子供与基であるメトキシ基を導入した場合(実施例4)および、電子求引基であるトリフルオロメチル基を導入した場合(実施例6)のいずれも、長波長領域に大きい吸収が存在していた。
【0205】
[電子移動度]
上記のように製造した実施例2〜19の有機半導体(薄膜)について、電子移動度(正孔移動度)を測定した。測定は、有機半導体製造に用いた真空蒸着機と連結したグローブボックス内で行い、有機半導体製造から電子移動度(正孔移動度)測定までを一貫してアルゴンガス雰囲気下で行った。測定機器としては、KEITHLEY社製エレクトロメーター(商品名K2400)を2台用いた。測定方法は、電界効果トランジスタ評価法を用い、正孔移動度μ(cm2・V-1・s-1)を下記数9により算出した。数9中、Wは電界効果トランジスタ中のチャンネル長(cm)であり、本実施例では、Wは20μm(2.0×10-3cm)である。Lはチャンネル幅(cm)であり、本実施例では、Lは5.0mm(5.0×10-1cm)である。Ciは、SiO2層のキャパシタンス(F/cm2)であり、本実施例では、Ciは11nF/cm2(1.1×10-8F/cm2)である。Idsはドレイン−ソース間の飽和電流値を表す。本実施例では、ドレイン−ソース間電圧100V時のドレイン−ソース間電流値(Id)をIdsとみなして近似した。また、Vgはゲート電圧(V)を表し、Vtは閾値電圧(V)を表す。
【0206】
(数9)
Ids1/2=(μWCi/2L)1/2(Vg-Vt)
【0207】
図19に、実施例13の有機半導体(薄膜)における上記電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す。図の横軸は、ドレイン−ソース間電圧Vd(V)であり、縦軸はドレイン−ソース間電流値Id(A)である。実施例13の有機半導体薄膜は、前記の通り、S-Ph-OCH3(化合物(103))をスピンコート法により形成した薄膜である。また、図20に、実施例4の有機半導体(薄膜)における上記電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す。図の横軸は、ドレイン−ソース間電圧Vd(V)であり、縦軸はドレイン−ソース間電流値Id(A)である。実施例4の有機半導体薄膜は、前記の通り、実施例13と同じS-Ph-OCH3(化合物(103))を蒸着法により形成した薄膜である。
【0208】
図19および20に示す通り、スピンコート法により形成した実施例13および蒸着法により形成した実施例4のいずれの有機半導体薄膜も、p型特性の増幅効果を示した。また、前記(数9)に基き正孔移動度μを計算したところ、実施例13では1.1×10-5(cm2・V-1・s-1)であり、実施例4では7.0×10-7(cm2・V-1・s-1)であり、いずれも良好な値を示した。すなわち、実施例4および13の有機半導体薄膜は、いずれも、有機トランジスタ、特に電界効果型トランジスタまたは薄層フィルム型トランジスタの用途に有用な性質を示した。
【産業上の利用可能性】
【0209】
以上説明した通り、本発明の有機半導体は、高い性能を有し、種々の電子機器に使用可能であり、中でも有機トランジスタ材料として有用である。本発明の電子機器、特にトランジスタは、本発明の有機半導体を含むことにより優れた性能を有する。本発明の有機半導体は、例えば、電界効果型トランジスタまたは薄層フィルム型トランジスタに特に好ましく用いることができる。また、本発明の有機半導体は、有機トランジスタに限定されず、他にもあらゆる電子機器に使用可能である。本発明の有機半導体は、例えば、公知の有機デバイス、有機半導体、導電性ポリマー等が使用されている電子機器と同じ種類の電子機器に使用可能であり、より具体的には、例えば、コンデンサ、キャパシタ、電池、有機EL、燃料電池、有機太陽電池等の電子機器にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はCHAである。
【図2】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はTHFである。
【図3】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はCH3CNである。
【図4】スマネンのUV-VISスペクトル図であり、使用溶媒はCH2Cl2である。
【図5】図1〜4の全てのスペクトル図を1つにまとめて示した図である。
【図6】スマネン結晶中における分子配列を分子側面から見た概略図である。
【図7】スマネン結晶中における分子配列を分子上面から見た概略図である。
【図8】su-ph(化合物(101))およびスマネンのUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図9】su-phおよびスマネンの蛍光スペクトル図である。
【図10】su-phのUV-VIS吸収スペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図11】su-ph-Me(化合物(102))、su-ph-OMe(化合物(103))およびsu-ph(化合物(101))のUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図12】su-ph-Cl(化合物(104))、su-ph-CF3(化合物(105))およびsu-ph(化合物(101))のUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図13】su-1T(化合物(106))、su-3T(化合物(108))およびスマネンのUV-VIS吸収スペクトル図である。
【図14】su-1TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図15】su-3TのUV-VISスペクトルと蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図16】su-ph(化合物(101))、su-1T(化合物(106))およびsu-3T(化合物(108))の蛍光スペクトルを併せて示す図である。
【図17】実施例1〜7および9の有機半導体のエネルギー準位を示す図である。
【図18】実施例4および6の有機半導体薄膜のUV-VIS吸収スペクトルを併せて示す図である。
【図19】実施例13の有機半導体薄膜における電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す図である。
【図20】実施例4の有機半導体薄膜における電界効果トランジスタ評価法の測定結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む有機半導体。
【化1】
式(1)中、A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
X1〜X3はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基(下記式(2))、ビニリデン基(下記式(3))、カルボニル基(下記式(4))、チオカルボニル基(下記式(5))、イミノメチレン基(下記式(6))、イミノ基(下記式(7))、または酸素原子(下記式(8))、であり、X1〜X3上に水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
【化2】
前記X1〜X3上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良い。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物の分子またはそのイオンが上下方向に積層した構造を有する請求項1記載の有機半導体。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、原子団X1中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIとし、原子団X2中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIとし、原子団X3中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIIとし、xI、xIIおよびxIIIの3原子を含む平面をx面と定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、各分子またはイオンの前記x面同士が互いに平行である、請求項2記載の有機半導体。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、前記xI、xIIおよびxIIIの3原子を頂点とする三角形を定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、任意の前記分子またはイオン中における前記三角形が、その上または下に接して積層されている分子またはイオンの前記三角形に対し、前記x面内で60°±10°、180°±10°または300°±10°回転させた角度で位置する、請求項3記載の有機半導体。
【請求項5】
結晶構造を有する請求項1〜4のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項6】
前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の有機半導体。
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基である。
【請求項7】
前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の有機半導体。
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【請求項8】
前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の有機半導体。
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、炭素数1〜3000の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、下記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、
【化3】
【化4】
【化5】
ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【請求項9】
前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖が、ポリフェニレン、オリゴフェニレン、ポリフェニレンビニレン、オリゴフェニレンビニレン、ポリエン、オリゴビニレン、ポリアセチレン、オリゴアセチレン、ポリピロール、オリゴピロール、ポリチオフェン、オリゴチオフェン、ポリアニリンおよびオリゴアニリン(ただし、これらは1個以上の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い)からなる群から選択される少なくとも一つである請求項7または8記載の有機半導体。
【請求項10】
前記置換基が、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つである請求項9記載の有機半導体。
【請求項11】
前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖の式量が30〜30000の範囲である請求項7〜10のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項12】
前記式(1)において、前記同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)または同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士が共有結合により結合され、それらの結合するArまたはXaとともに炭素環またはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成する場合、前記環の構成原子数が3〜20であり、前記置換基が、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1〜11のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項13】
前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基のうち少なくとも一つが、その結合するXaおよびさらにそのXaが結合するベンゼン核と一体となって共役系を形成する請求項1〜12のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項14】
前記式(1)において、A1〜A6の全てが水素原子である請求項1〜13のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項15】
前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基が存在しない(すなわち、前記X1〜X3上の水素原子のいずれもが前記置換基により置換されていない)請求項1〜14のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項16】
前記式(1)において、X1〜X3が、メチレン基、ビニリデン基、イミノ基および酸素原子からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1〜15のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項17】
前記式(1)において、X1〜X3の全てがメチレン基である請求項1〜16のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項18】
前記式(1)で表される化合物またはその互変異性体もしくは立体異性体と、金属元素との錯形成構造を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項19】
前記金属元素が遷移金属元素を含む請求項18記載の有機半導体。
【請求項20】
前記遷移金属元素が、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)およびオスミウム(Os)からなる群から選択される少なくとも一つを含む請求項19記載の有機半導体。
【請求項21】
前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記式(1)で表される化合物分子から誘導される基が、二個以上、共有結合および架橋鎖の少なくとも一方により連結されている構造を有する化合物分子もしくはそのイオンを含み、前記二個以上の基の構造は互いに同一であるかまたは異なる、請求項1〜20のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項22】
前記架橋鎖が、メチレン基または炭素数2〜10のポリメチレン基であり、さらに、前記二個以上の基が、それぞれ少なくとも一つのベンジル位炭素を含み、前記共有結合または架橋鎖との結合部位が前記ベンジル位炭素である請求項21記載の有機半導体。
【請求項23】
前記式(1)において、
X1〜X3がビニリデン基であり、X1〜X3は、それぞれ、フェニル基、チエニル基およびオリゴチオフェン鎖からなる群から選択される少なくとも1個の置換基(前記置換基は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)で置換されている、請求項1記載の有機半導体。
【請求項24】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(101)〜(109)のいずれかで表される化合物である、請求項1記載の有機半導体。
【化6】
【化7】
【請求項25】
ドーパントをさらに含む請求項1〜24のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項26】
その形状が薄膜状である請求項1〜25のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項27】
請求項1〜25のいずれかに記載の有機半導体の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを溶媒に溶解後、再結晶する工程を含む製造方法。
【請求項28】
請求項1〜25のいずれかに記載の有機半導体の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを融解後、固体化する工程を含む製造方法。
【請求項29】
請求項26記載の有機半導体の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを薄膜状に形成する工程を含む製造方法。
【請求項30】
前記薄膜状に形成する方法が、蒸着法、化学的気相成長法、スピンコート法および印刷法からなる群から選択される少なくとも一つである請求項29に記載の製造方法。
【請求項31】
請求項27〜30のいずれかに記載の製造方法であって、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記式(1)で表される化合物の分子から誘導される基が、二個以上、共有結合および架橋鎖の少なくとも一方により連結されている構造を有する化合物分子もしくはそのイオンを用い、前記二個以上の基の構造は互いに同一であるかまたは異なる製造方法。
【請求項32】
請求項1〜26のいずれかに記載の有機半導体を含む電子機器。
【請求項33】
請求項1〜26のいずれかに記載の有機半導体を含むトランジスタ。
【請求項34】
電界効果型トランジスタである請求項33記載のトランジスタ。
【請求項35】
薄層フィルム型トランジスタである請求項33記載のトランジスタ。
【請求項36】
請求項1の一般式(1)に記載の化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩であって、
X1〜X3がビニリデン基であり、X1〜X3は、それぞれ、フェニル基、チエニル基およびオリゴチオフェン鎖からなる群から選択される少なくとも1個の置換基(前記置換基は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)で置換されている化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項37】
請求項24に記載の式(101)〜(109)のいずれかで表される請求項36に記載の化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項38】
有機化合物の製造方法であって、請求項1の一般式(1)に記載の化合物のうちX1〜X3の少なくとも一つがメチレン基である化合物を、無機塩基および相間移動触媒の存在下、アルデヒドまたはケトンと反応させ、前記メチレン基がビニリデン基(置換基によって置換されていてもいなくても良い)に変換された生成物とする工程を含む製造方法。
【請求項39】
前記アルデヒドまたはケトンが、芳香環にホルミル基が直接結合した芳香族アルデヒドである請求項38記載の製造方法。
【請求項40】
前記芳香族アルデヒドの芳香環が、フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖(前記フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)である請求項39記載の製造方法。
【請求項41】
前記無機塩基が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項38〜40のいずれかに記載の製造方法。
【請求項42】
前記相間移動触媒がアンモニウム塩およびホスホニウム塩の少なくとも一方を含む、請求項38〜41のいずれかに記載の製造方法。
【請求項43】
前記相間移動触媒が、n-Bu4NBr, n-Bu4NI, n-Bu4NCl, n-Bu4NHSO4, n-Bu4NF, n-Bu4NOH, n-Bu4NBF4, n-Bu4NPF6-, Me4NBr, Me4NI, Me4NCl, Me4NHSO4, Me4NF, Me4NOH, Me4NBF4, Me4NPF6-, Et4NBr, Et4NI, Et4NCl, Et 4NHSO4, Et 4NF, Et 4NOH, Et 4NBF4, Et 4NPF6-, (n-C3H7)4NBr, (n-C3H7)4NI, (n-C3H7)4NCl, (n-C3H7)4NHSO4, (n-C3H7)4NF, (n-C3H7)4NOH, (n-C3H7) 4NBF4, (n-C3H7)4NPF6-, (i-C3H7)4NBr, (i-C3H7)4NI, (i-C3H7)4NCl, (i-C3H7)4NHSO4, (i-C3H7)4NF, (i-C3H7)4NOH, (i-C3H7) 4NBF4, (i-C3H7)4NPF6-, (n-C5H11)4NBr, (n-C5H11)4NI, (n-C5H11)4NCl, (n-C5H11)4NHSO4, (n-C5H11)4NF, (n-C5H11)4NOH, (n-C5H11)4NBF4, (n-C5H11)4NPF6-, (n-C6H13)4NBr, (n-C6H13)4NI, (n-C6H13)4NCl, (n-C6H13)4NHSO4, (n-C6H13)4NF, (n-C6H13)4NOH, (n-C6H13)4NBF4, (n-C6H13)4NPF6-, (n-C7H15)4NBr, (n-C7H15)4NI, (n-C7H15)4NCl, (n-C7H15)4NHSO4, (n-C7H15)4NF, (n-C7H15)4NOH, (n-C7H15)4NBF4, (n-C7H15)4NPF6-, (n-C8H17)4NBr, (n-C8H17)4NI, (n-C8H17)4NCl, (n-C8H17)4NHSO4, (n-C8H17)4NF, (n-C8H17)4NOH, (n-C8H17)4NBF4, (n-C8H17)4NPF6-, (n-C9H19)4NBr, (n-C9H19)4NI, (n-C9H19)4NCl, (n-C9H19)4NHSO4, (n-C9H19)4NF, (n-C9H19)4NOH, (n-C9H19)4NBF4, (n-C9H19)4NPF6-, (n-C10H21)4NBr, (n-C10H21)4NI, (n-C10H21)4NCl, (n-C10H21)4NHSO4, (n-C10H21)4NF, (n-C10H21)4NOH, (n-C10H21)4NBF4, (n-C10H21)4NPF6-, (n-C11H23)4NBr, (n-C11H23)4NI, (n-C11H23)4NCl, (n-C11H23)4NHSO4, (n-C11H23)4NF, (n-C11H23)4NOH, (n-C11H23)4NBF4, (n-C11H23)4NPF6-, (n-C12H25)4NBr, (n-C12H25)4NI, (n-C12H25)4NCl, (n-C12H25)4NHSO4, (n-C12H25)4NF, (n-C12H25)4NOH, (n-C12H25)4NBF4, (n-C12H25)4NPF6-, Bn4NBr, Bn4NI, Bn4NCl, Bn4NHSO4, Bn4NF, Bn4NOH, Bn4NBF4, Bn4NPF6-, BnMe3NBr, BnMe3NI, BnMe3NCl, BnMe3NHSO4, BnMe3NF, BnMe3NOH, BnMe3NBF4, BnMe3NPF6-, BnEt3NBr, BnEt3NI, BnEt3NCl, BnEt3NHSO4, BnEt3NF, BnEt3NOH, BnEt3NBF4, およびBnEt3NPF6- からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項38〜41のいずれかに記載の製造方法。
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む有機半導体。
【化1】
式(1)中、A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
X1〜X3はそれぞれ同一であるかまたは異なり、メチレン基(下記式(2))、ビニリデン基(下記式(3))、カルボニル基(下記式(4))、チオカルボニル基(下記式(5))、イミノメチレン基(下記式(6))、イミノ基(下記式(7))、または酸素原子(下記式(8))、であり、X1〜X3上に水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
【化2】
前記X1〜X3上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、電子供与基または電子求引基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良い。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物の分子またはそのイオンが上下方向に積層した構造を有する請求項1記載の有機半導体。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、原子団X1中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIとし、原子団X2中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIとし、原子団X3中でスマネン骨格中のベンゼン環と直接結合している原子をxIIIとし、xI、xIIおよびxIIIの3原子を含む平面をx面と定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、各分子またはイオンの前記x面同士が互いに平行である、請求項2記載の有機半導体。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物分子またはそのイオンにおいて、前記xI、xIIおよびxIIIの3原子を頂点とする三角形を定義した場合に、前記分子またはそのイオンの積層構造中において、任意の前記分子またはイオン中における前記三角形が、その上または下に接して積層されている分子またはイオンの前記三角形に対し、前記x面内で60°±10°、180°±10°または300°±10°回転させた角度で位置する、請求項3記載の有機半導体。
【請求項5】
結晶構造を有する請求項1〜4のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項6】
前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の有機半導体。
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族炭化水素基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、直鎖状もしくは分枝状の低分子もしくは高分子鎖(ただし、その主鎖および側鎖中には、ヘテロ原子を含んでいてもいなくても良く、不飽和結合を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い)、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、飽和もしくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換されたアルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルカノイル基、またはアルコキシカルボニル基である。
【請求項7】
前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の有機半導体。
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素鎖、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、環構成原子数が3〜20である炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【請求項8】
前記式(1)において、A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基が下記の条件を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の有機半導体。
(A1〜A6、および前記X1〜X3上の置換基の条件)
A1〜A6はそれぞれ同一であるかまたは異なり、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基またはナフチル基であり、A1〜A6上にベンジル位水素原子が存在する場合は、その水素原子は置換基によって置換されていても良く、
前記A1〜A6上の置換基は、それぞれ同一であるかまたは異なり、ハロゲン、炭素数1〜3000の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、下記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、
【化3】
【化4】
【化5】
ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するArとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
前記X1〜X3上の置換基は互いに同一であるかまたは異なり、
その結合するXa(aは1から3までのいずれかの整数)がメチレン基またはビニリデン基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、アミノ基、オキシアミノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基(ただし、そのアルキル基は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基である)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホニル基(ただし、そのアルキル基は1個以上のハロゲンで置換されていても良い。)、スルファモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基であるか、または、同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士は、共有結合により結合され、それらの結合するXaとともに炭素環もしくはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成しても良く、
その結合するXaがイミノメチレン基またはイミノ基である場合は、ハロゲン、炭素数1〜3000の直鎖状炭化水素基(ただし、主鎖中の結合はそれぞれ飽和結合でも不飽和結合でも良く、主鎖上の水素原子は任意にハロゲン、またはメチル基で置換されていても良い)、共役系高分子鎖もしくはオリゴマー鎖、前記式(9)〜(75)のいずれかの化合物から任意の1個の水素を除いた構造を有する環状置換基(ただし、上記環状置換基は、1個または複数の置換基でさらに置換されていても良く、それらの置換基は互いに同一であるかまたは異なり、前記置換基は、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、またはアミノ基である)、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝不飽和炭化水素基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイルオキシ基、1個以上のハロゲンで置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。
【請求項9】
前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖が、ポリフェニレン、オリゴフェニレン、ポリフェニレンビニレン、オリゴフェニレンビニレン、ポリエン、オリゴビニレン、ポリアセチレン、オリゴアセチレン、ポリピロール、オリゴピロール、ポリチオフェン、オリゴチオフェン、ポリアニリンおよびオリゴアニリン(ただし、これらは1個以上の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い)からなる群から選択される少なくとも一つである請求項7または8記載の有機半導体。
【請求項10】
前記置換基が、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つである請求項9記載の有機半導体。
【請求項11】
前記共役系高分子鎖またはオリゴマー鎖の式量が30〜30000の範囲である請求項7〜10のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項12】
前記式(1)において、前記同一のAr(rは1から6までのいずれかの整数)または同一のXa(aは1から3までのいずれかの整数)に結合する置換基同士が共有結合により結合され、それらの結合するArまたはXaとともに炭素環またはヘテロ環(ただし、単環でも縮合環でも、飽和でも不飽和でも良く、置換基を有していてもいなくても良い)を形成する場合、前記環の構成原子数が3〜20であり、前記置換基が、ハロゲン、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、オキソ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1〜11のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項13】
前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基のうち少なくとも一つが、その結合するXaおよびさらにそのXaが結合するベンゼン核と一体となって共役系を形成する請求項1〜12のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項14】
前記式(1)において、A1〜A6の全てが水素原子である請求項1〜13のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項15】
前記式(1)において、前記X1〜X3上の置換基が存在しない(すなわち、前記X1〜X3上の水素原子のいずれもが前記置換基により置換されていない)請求項1〜14のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項16】
前記式(1)において、X1〜X3が、メチレン基、ビニリデン基、イミノ基および酸素原子からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1〜15のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項17】
前記式(1)において、X1〜X3の全てがメチレン基である請求項1〜16のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項18】
前記式(1)で表される化合物またはその互変異性体もしくは立体異性体と、金属元素との錯形成構造を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項19】
前記金属元素が遷移金属元素を含む請求項18記載の有機半導体。
【請求項20】
前記遷移金属元素が、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)およびオスミウム(Os)からなる群から選択される少なくとも一つを含む請求項19記載の有機半導体。
【請求項21】
前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記式(1)で表される化合物分子から誘導される基が、二個以上、共有結合および架橋鎖の少なくとも一方により連結されている構造を有する化合物分子もしくはそのイオンを含み、前記二個以上の基の構造は互いに同一であるかまたは異なる、請求項1〜20のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項22】
前記架橋鎖が、メチレン基または炭素数2〜10のポリメチレン基であり、さらに、前記二個以上の基が、それぞれ少なくとも一つのベンジル位炭素を含み、前記共有結合または架橋鎖との結合部位が前記ベンジル位炭素である請求項21記載の有機半導体。
【請求項23】
前記式(1)において、
X1〜X3がビニリデン基であり、X1〜X3は、それぞれ、フェニル基、チエニル基およびオリゴチオフェン鎖からなる群から選択される少なくとも1個の置換基(前記置換基は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)で置換されている、請求項1記載の有機半導体。
【請求項24】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(101)〜(109)のいずれかで表される化合物である、請求項1記載の有機半導体。
【化6】
【化7】
【請求項25】
ドーパントをさらに含む請求項1〜24のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項26】
その形状が薄膜状である請求項1〜25のいずれかに記載の有機半導体。
【請求項27】
請求項1〜25のいずれかに記載の有機半導体の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを溶媒に溶解後、再結晶する工程を含む製造方法。
【請求項28】
請求項1〜25のいずれかに記載の有機半導体の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを融解後、固体化する工程を含む製造方法。
【請求項29】
請求項26記載の有機半導体の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物、その互変異性体、その立体異性体、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを薄膜状に形成する工程を含む製造方法。
【請求項30】
前記薄膜状に形成する方法が、蒸着法、化学的気相成長法、スピンコート法および印刷法からなる群から選択される少なくとも一つである請求項29に記載の製造方法。
【請求項31】
請求項27〜30のいずれかに記載の製造方法であって、前記式(1)で表される化合物分子もしくはそのイオンに代え、またはそれに加え、前記式(1)で表される化合物の分子から誘導される基が、二個以上、共有結合および架橋鎖の少なくとも一方により連結されている構造を有する化合物分子もしくはそのイオンを用い、前記二個以上の基の構造は互いに同一であるかまたは異なる製造方法。
【請求項32】
請求項1〜26のいずれかに記載の有機半導体を含む電子機器。
【請求項33】
請求項1〜26のいずれかに記載の有機半導体を含むトランジスタ。
【請求項34】
電界効果型トランジスタである請求項33記載のトランジスタ。
【請求項35】
薄層フィルム型トランジスタである請求項33記載のトランジスタ。
【請求項36】
請求項1の一般式(1)に記載の化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩であって、
X1〜X3がビニリデン基であり、X1〜X3は、それぞれ、フェニル基、チエニル基およびオリゴチオフェン鎖からなる群から選択される少なくとも1個の置換基(前記置換基は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)で置換されている化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項37】
請求項24に記載の式(101)〜(109)のいずれかで表される請求項36に記載の化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項38】
有機化合物の製造方法であって、請求項1の一般式(1)に記載の化合物のうちX1〜X3の少なくとも一つがメチレン基である化合物を、無機塩基および相間移動触媒の存在下、アルデヒドまたはケトンと反応させ、前記メチレン基がビニリデン基(置換基によって置換されていてもいなくても良い)に変換された生成物とする工程を含む製造方法。
【請求項39】
前記アルデヒドまたはケトンが、芳香環にホルミル基が直接結合した芳香族アルデヒドである請求項38記載の製造方法。
【請求項40】
前記芳香族アルデヒドの芳香環が、フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖(前記フェニル基、チエニル基またはオリゴチオフェン鎖は、1個以上の電気供与基または電気求引基によりさらに置換されていても良い)である請求項39記載の製造方法。
【請求項41】
前記無機塩基が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項38〜40のいずれかに記載の製造方法。
【請求項42】
前記相間移動触媒がアンモニウム塩およびホスホニウム塩の少なくとも一方を含む、請求項38〜41のいずれかに記載の製造方法。
【請求項43】
前記相間移動触媒が、n-Bu4NBr, n-Bu4NI, n-Bu4NCl, n-Bu4NHSO4, n-Bu4NF, n-Bu4NOH, n-Bu4NBF4, n-Bu4NPF6-, Me4NBr, Me4NI, Me4NCl, Me4NHSO4, Me4NF, Me4NOH, Me4NBF4, Me4NPF6-, Et4NBr, Et4NI, Et4NCl, Et 4NHSO4, Et 4NF, Et 4NOH, Et 4NBF4, Et 4NPF6-, (n-C3H7)4NBr, (n-C3H7)4NI, (n-C3H7)4NCl, (n-C3H7)4NHSO4, (n-C3H7)4NF, (n-C3H7)4NOH, (n-C3H7) 4NBF4, (n-C3H7)4NPF6-, (i-C3H7)4NBr, (i-C3H7)4NI, (i-C3H7)4NCl, (i-C3H7)4NHSO4, (i-C3H7)4NF, (i-C3H7)4NOH, (i-C3H7) 4NBF4, (i-C3H7)4NPF6-, (n-C5H11)4NBr, (n-C5H11)4NI, (n-C5H11)4NCl, (n-C5H11)4NHSO4, (n-C5H11)4NF, (n-C5H11)4NOH, (n-C5H11)4NBF4, (n-C5H11)4NPF6-, (n-C6H13)4NBr, (n-C6H13)4NI, (n-C6H13)4NCl, (n-C6H13)4NHSO4, (n-C6H13)4NF, (n-C6H13)4NOH, (n-C6H13)4NBF4, (n-C6H13)4NPF6-, (n-C7H15)4NBr, (n-C7H15)4NI, (n-C7H15)4NCl, (n-C7H15)4NHSO4, (n-C7H15)4NF, (n-C7H15)4NOH, (n-C7H15)4NBF4, (n-C7H15)4NPF6-, (n-C8H17)4NBr, (n-C8H17)4NI, (n-C8H17)4NCl, (n-C8H17)4NHSO4, (n-C8H17)4NF, (n-C8H17)4NOH, (n-C8H17)4NBF4, (n-C8H17)4NPF6-, (n-C9H19)4NBr, (n-C9H19)4NI, (n-C9H19)4NCl, (n-C9H19)4NHSO4, (n-C9H19)4NF, (n-C9H19)4NOH, (n-C9H19)4NBF4, (n-C9H19)4NPF6-, (n-C10H21)4NBr, (n-C10H21)4NI, (n-C10H21)4NCl, (n-C10H21)4NHSO4, (n-C10H21)4NF, (n-C10H21)4NOH, (n-C10H21)4NBF4, (n-C10H21)4NPF6-, (n-C11H23)4NBr, (n-C11H23)4NI, (n-C11H23)4NCl, (n-C11H23)4NHSO4, (n-C11H23)4NF, (n-C11H23)4NOH, (n-C11H23)4NBF4, (n-C11H23)4NPF6-, (n-C12H25)4NBr, (n-C12H25)4NI, (n-C12H25)4NCl, (n-C12H25)4NHSO4, (n-C12H25)4NF, (n-C12H25)4NOH, (n-C12H25)4NBF4, (n-C12H25)4NPF6-, Bn4NBr, Bn4NI, Bn4NCl, Bn4NHSO4, Bn4NF, Bn4NOH, Bn4NBF4, Bn4NPF6-, BnMe3NBr, BnMe3NI, BnMe3NCl, BnMe3NHSO4, BnMe3NF, BnMe3NOH, BnMe3NBF4, BnMe3NPF6-, BnEt3NBr, BnEt3NI, BnEt3NCl, BnEt3NHSO4, BnEt3NF, BnEt3NOH, BnEt3NBF4, およびBnEt3NPF6- からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項38〜41のいずれかに記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図7】
【公開番号】特開2006−76995(P2006−76995A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219143(P2005−219143)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発表した刊行物:「平成16年度 大阪大学 大学院工学研究科 物質・生命工学専攻(化学系)/分子化学専攻/物質化学専攻 修士論文発表会 要旨集」第63〜64頁 発行者名:国立大学法人大阪大学 発行年月日:平成17年2月14日 発表した研究集会:平成16年度 大阪大学 大学院工学研究科 物質化学専攻 修士論文発表会 主催者名:国立大学法人大阪大学大学院工学研究科 共催者名:国立大学法人大阪大学 開催日:平成17年2月18日〜平成17年2月19日 発表日:平成17年2月19日
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発表した刊行物:「平成16年度 大阪大学 大学院工学研究科 物質・生命工学専攻(化学系)/分子化学専攻/物質化学専攻 修士論文発表会 要旨集」第63〜64頁 発行者名:国立大学法人大阪大学 発行年月日:平成17年2月14日 発表した研究集会:平成16年度 大阪大学 大学院工学研究科 物質化学専攻 修士論文発表会 主催者名:国立大学法人大阪大学大学院工学研究科 共催者名:国立大学法人大阪大学 開催日:平成17年2月18日〜平成17年2月19日 発表日:平成17年2月19日
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
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