説明

有機半導体素子及びその製造方法並びに有機光電変換素子

【課題】光電変換効率及び応答速度に優れ、かつ暗電流が低減された有機光電変換素子を提供すること。
【解決手段】導電性電極と、前記導電性電極と接する有機半導体層とを含む有機半導体素子であって、前記導電性電極と前記有機半導体層との接合界面における真空準位シフトが、前記接合界面への光照射により調整された、有機半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体素子及びその製造方法並びに有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電界発光素子や有機光電変換素子等といった有機半導体を用いた素子の研究が盛んに行われている。これらの素子では、電極と有機半導体とが接する界面が形成されており、その界面における電荷の状態が素子性能に重要な影響を与えると考えられる。
従来、有機光電変換素子の性能を向上させる手段として、特許文献1〜3に記載の技術が知られている。特許文献1は、有機光電変換素子において、最適な仕事関数を有する電極を用いることで暗電流の低減と効率の向上を図っている。特許文献2では、ショットキー型有機太陽電池において、有機半導体にドーピングを行うことでエネルギー変換効率の向上を図っている。特許文献3は、電極表面への光照射等を行うことにより、電極の仕事関数を調整し、有機半導体素子の性能向上を図っている。
特許文献1,2に記載されているように、従来は、望ましい物性値の有機半導体材料及び電極材料を選択することによって有機光電変換素子の性能を向上させる方法が一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−067914号公報
【特許文献2】特開2004−335610号公報
【特許文献3】特開2005−277282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機半導体素子においては、フェルミ準位を有する有機半導体層が電極と接触する場合、有機半導体と電極との接合界面では、電極のフェルミ準位と有機半導体のフェルミ準位が一致するように有機半導体と電極間でキャリアが移動することにより、有機半導体層のエネルギーバンドが曲がる(Phys. stat. sol. (a) 201,1075(2004)等)。電極のフェルミ準位よりも有機半導体のフェルミ準位が浅いと、電極から有機半導体への電子注入に対してショットキー障壁が形成される。すなわち、有機半導体から電極への電子取り出しに対しては、エネルギー障壁が形成される。
【0005】
有機半導体素子が有機光電変換素子である場合、有機光電変換層と電子捕集電極との接合界面において上記のようなエネルギー障壁が形成されると、有機光電変換層から電子捕集電極への電子輸送が阻害されてしまい、光電変換効率及び応答速度の低下を招く。
【0006】
この問題を解消するには、仕事関数の小さい電極を用いるか(特許文献1)、真空準位とフェルミ準位の差が大きい有機光電変換層を用いるという方法(特許文献2)が考えられるが、仕事関数の低い電極はいずれも不安定であり、安定した素子作製には向かない。
また、有機光電変換層についても、暗時キャリア密度の増加を抑制しつつ、フェルミ準位を大きく変化させるのは困難である。
上記特許文献3に記載される電極の仕事関数を調整する方法は、酸素雰囲気中下でのアニール処理や、電極表面のOプラズマ処理、電極表面へのUV光照射等を行うものであるが、いずれも電極の仕事関数を大きくする処理であり、上記課題に対しては有効ではない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、光電変換効率及び応答速度に優れ、かつ暗電流が低減された有機光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者の検討の結果、有機半導体素子において、電極と有機半導体層との接合界面に光照射を行うことにより、電極のフェルミ準位と有機半導体層のフェルミ準位の相対エネルギー関係を調整することができることを見出した。また、これを光電変換素子に応用すれば、光電変換効率及び応答速度に優れ、かつ暗電流を低減させた有機光電変換素子が得られることがわかった。
すなわち、上記課題は以下の手段により解決することができる。
[1]
導電性電極と、前記導電性電極と接する有機半導体層とを含む有機半導体素子であって、
前記導電性電極と前記有機半導体層との接合界面における真空準位シフトが、前記接合界面への光照射により調整された、有機半導体素子。
[2]
前記有機半導体層に含まれる有機半導体材料がフェルミ準位を有する、上記[1]に記載の有機半導体素子。
[3]
前記接合界面における真空準位シフトの調整が、前記接合界面における真空準位をプラス(+)方向にシフトさせることである、上記[1]又は[2]に記載の有機半導体素子。
[4]
前記光照射が紫外線の照射である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の有機半導体素子。
[5]
上記[1]に記載の有機半導体層が有機光電変換層である、有機光電変換素子。
[6]
前記有機光電変換層が、p型有機半導体とn型有機半導体とを含む、複数の材料の混合層である、上記[5]に記載の有機光電変換素子。
[7]
前記n型有機半導体がフラーレン又はフラーレン誘導体である、上記[5]又は[6]に記載の有機光電変換素子。
[8]
上記[5]〜[7]のいずれかに記載の有機光電変換素子を含む、固体撮像装置。
[9]
導電性電極と、前記導電性電極と接する有機半導体層とを含む有機半導体素子の製造方法であって、
導電性電極上に有機半導体層を形成する工程と、
導電性電極上に有機半導体層を形成した後、前記導電性電極と前記有機半導体層との接合界面に光照射を行うことにより、前記導電性電極と前記有機半導体層との接合界面における真空準位シフトを調整する工程を含む、有機半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る有機半導体素子によれば、電極と有機半導体層との接合界面における電子エネルギー状態を光照射により調節することにより、光電変換効率及び応答速度に優れ、かつ暗電流が低減された有機光電変換素子を提供することができる。また、本発明によれば、従来においては望ましくない物性値を持つとされていた有機半導体層用材料や電極材料を用いても、より性能の高い有機光電変換素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る有機半導体素子の一実施形態を示す断面模式図である。
【図2】(A)は、導電性電極及び有機半導体層それぞれのエネルギー準位を示す模式図である。(B)は、導電性電極と有機半導体層との接合界面におけるエネルギー準位を示す模式図である。
【図3】光照射後の導電性電極と有機半導体層との接合界面におけるエネルギー準位を示す模式図である。
【図4】本発明に係る有機光電変換素子の一実施形態を示す断面模式図である。
【図5】本発明に係る固体撮像装置の構成例を示す断面模式図である。
【図6】Al及びITO上にそれぞれ形成した有機半導体層の表面電位の測定結果を示すグラフである。
【図7】ITO上にそれぞれ形成した有機半導体層に対して光照射を行ったものと無処理のものの表面電位の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る有機半導体素子10は、下部電極11と、この下部電極11に接する有機半導体層12と、更にこの有機半導体層12上に形成される上部電極15とを有している。下部電極11又は上部電極15は本発明における導電性電極として機能する。
【0012】
下部電極11及び上部電極15に使用する材料は、有機半導体素子で用いられるものであればいずれのものでもよい。具体的には後述する材料が挙げられる。
【0013】
有機半導体層12には、有機半導体素子の用途に応じた有機半導体材料を使用することができる。有機半導体層12に使用する有機半導体材料は、フェルミ準位を有するものであることが好ましい。
一般に有機半導体材料はフェルミ準位を有さないが、一部のフェルミ準位を有する有機半導体化合物や、有機化合物にドーパントを混入させることによってフェルミ準位を有するもの等を用いることができる。
【0014】
有機半導体素子10は、下部電極11と有機半導体層12との接合界面Sにおける真空準位シフトが、接合界面Sへの光照射により調整されている。
より具体的には、下部電極11上に有機半導体層12を形成し、更にこの有機半導体層12上に上部電極15を形成した後、下部電極11と有機半導体層12との接合界面Sにおいて光照射を行うことで、接合界面Sにおける真空準位シフトが調整された有機半導体素子10を得ることができる。光照射は、接合界面Sに光が入射すれば、上部電極15側及び下部電極11側のどちらから行ってよい。
【0015】
この下部電極11と有機半導体層12の接合界面Sにおける真空準位シフトの調整についてより詳しく説明する。図2(A)、図2(B)及び図3に下部電極11と有機半導体層12のエネルギー準位の関係を示す。(以下の説明においては、下部電極11を単に電極と呼ぶ。)
前述したように、電極と有機半導体層と接触していない状態で有機半導体層のフェルミ準位と真空準位の差(Φorg)が電極の仕事関数(Φ)よりも小さい場合(図2(A)),Φ>Φorg)、電極と有機半導体層とで接合界面が形成されると、その接合界面において、両者のフェルミ準位が一致するように有機半導体層と電極との間でキャリアが移動して、有機半導体層のエネルギーバンドが電極側に向かってマイナス(−)方向に曲がる。このとき、有機半導体層から電極への電子の取り出しに対してはエネルギー障壁が形成される(図2(B))。
【0016】
これに対し、電極と有機半導体層との接合界面に光を照射すると、図3に示すように、接合界面Sにおいてプラス(+)方向の真空準位シフトが起こり、有機半導体層のバンドベンディングの方向が逆になる。すなわち、有機半導体層のエネルギーバンドが電極側に向かってプラス(+)方向に曲がる。このバンドベンディングに伴って、有機半導体層から電極への電子の取り出しに対するエネルギー障壁が消失し、電極から有機半導体層への正孔注入に対してエネルギー障壁(正孔注入障壁)が大きくなる。
【0017】
有機半導体素子が有機光電変換素子である場合、電極への電子の取り出しに対するエネルギー障壁が消失することによって、有機半導体層(有機光電変換層)から電極(電子捕集電極)への電子が流入しやすくなるため、光電変換効率及び応答速度を向上させることができる。また、電極から有機半導体層への正孔注入に対してエネルギー障壁(正孔注入障壁)が大きくなるので、電極に正のバイアスを印加したときでも、電極から有機半導体層(有機光電変換層)への正孔の注入が抑制され、暗電流の低減に寄与する。
【0018】
接合界面に対し照射する光の波長は特に限定されないが、紫外線であることが好ましい。ここで、紫外線とは10〜400nmの範囲の波長の光を意味する。好ましくは、280〜380nmの波長の紫外線である。
また、照射光が紫外線である場合、その紫外線強度は、10μW/cm〜100mW/cmの範囲であることが好ましく、100μW/cm〜10mW/cmの範囲であることがより好ましい。
【0019】
光照射は、上部電極15(図1)側から行っても良いし、下部電極11(図1)側からから行っても良い。また、光照射は上部電極15を形成する前に行ってもよい。
なお、下部電極11上に有機半導体層12及び上部電極15を形成する手法は、使用する材料に応じて適宜選択することができる。より具体的には、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜や塗布法、転写法、印刷法等の湿式製膜法で製膜することができる。
【0020】
[光電変換素子]
本発明に係る有機半導体素子の用途は特に限定されないが、光電変換素子として利用するのが好ましい。以下、本発明に係る有機半導体素子が光電変換素子である場合の実施形態について説明する。
図4は、本発明に係る有機光電変換素子の好ましい実施形態を示している。図4に示す有機光電変換素子20は、下部電極21上に、有機光電変換層22、電荷ブロッキング層24、上部電極25をこの順に有する。
この光電変換素子20は、上部電極25を透明導電性材料で構成し、この上部電極25上方から光が入射するものとしている。この光の入射によって光電変換層22で発生した電荷(正孔及び電子)のうち、正孔を上部電極25に移動させ、電子を下部電極21に移動させるように、下部電極21及び上部電極25間にバイアス電圧が印加される。つまり、上部電極25を正孔捕集電極とし、下部電極21を電子捕集電極としている。
【0021】
有機光電変換素子20は、下部電極21と有機光電変換層22との接合界面における真空準位シフトが、接合界面への光照射により調整されている。従って、有機光電変換素子20は、下部電極21と有機光電変換層22との接合界面では、図3に示す状態と同様のバンドベンディングが形成されているので、光電変換効率及び応答速度に優れ、暗電流が低減された素子である。
この有機光電変換素子20を作製するには、下部電極21上に有機光電変換層22、電子ブロッキング層24、上部電極25を順に積層した後、前述したように下部電極21と光電変換層22との接合界面に光を照射することにより行うことができる。光の照射条件等は前述と同様とすることができる。
【0022】
下部電極21及び上部電極25は、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物からなる導電性材料により形成することができる。
具体的には、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、TiN等の金属窒化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属薄膜、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITOとの積層物などが挙げられる。
各電極を形成する方法は特に限定されず、使用する導電性材料との適正を考慮して適宜選択することができる。具体的には、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式等により形成することができる。
【0023】
有機光電変換層22に使用する材料は、p型有機半導体とn型有機半導体とを含むことが好ましい。p型有機半導体とn型有機半導体を接合させてドナ−アクセプタ界面を形成することにより励起子解離効率を増加させることができる。このために、p型有機半導体とn型有機半導体を接合させた構成の有機光電変換層22は高い光電変換効率を発現する。特に、p型有機半導体とn型有機半導体を混合した有機光電変換層22は、接合界面が増大して光電変換効率が向上するので好ましい。
【0024】
p型有機半導体は、ドナ性有機半導体であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。したがって、ドナ性有機化合物は、電子供与性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等を用いることができる。なお、これに限らず、上記したように、n型(アクセプタ性)化合物として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であればドナ性有機半導体として用いてよい。
【0025】
n型有機半導体は、アクセプタ性有機半導体であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは、n型有機半導体とは、2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプタ性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、フルオランテン、フラーレン、又はこれらの誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、上記したように、ドナ性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプタ性有機半導体として用いてよい。
【0026】
n型有機半導体として、フラーレン又はフラーレン誘導体を用いることが好ましい。
フラーレンとは、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC80、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC96、フラーレンC240、フラーレン540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブを表し、フラーレン誘導体とはこれらに置換基が付加された化合物のことを表す。置換基としては、アルキル基、アリール基、又は複素環基が好ましい。
フラーレン及びフラーレン誘導体としては、日本化学会編 季刊化学総説No.43(1999)、特開平10−167994号公報、特開平11−255508号公報、特開平11−255509号公報、特開2002−241323号公報、特開2003−196881号公報等に記載の化合物を用いることもできる。
【0027】
有機光電変換層22において、フラーレン又はフラーレン誘導体と共に混合されるp型有機半導体として、特許第4213832号公報等に記載されたトリアリールアミン化合物を用いると光電変換素子の高SN比が発現可能になり、特に好ましい。有機光電変換層22内のフラーレン又はフラーレン誘導体の比率が大きすぎると該トリアリールアミン化合物が少なくなって入射光の吸収量が低下する。これにより光電変換効率が減少するので、有機光電変換層22に含まれるフラーレン又はフラーレン誘導体は85%以下の組成であることが好ましい。
【0028】
電荷ブロッキング層24を構成する材料は、電子供与性材料を用いることが好ましい。電子供与性材料としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アニールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体などを用いることができ、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体や、その誘導体を用いることができる。電子供与性化合物でなくとも、十分なホール輸送性を有する化合物であれば用いることは可能である。
【0029】
有機光電変換層22及び電荷ブロッキング層24は、蒸着により形成することができる。蒸着は、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)のいずれでもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。真空蒸着により成膜する場合、真空度、蒸着温度等の製造条件は常法に従って設定することができる。
【0030】
[固体撮像装置]
次に、本発明に係る固体撮像装置の他の構成例を説明する。
図5は、本発明に係る固体撮像装置の構成例を示す模式的な断面図である。
この構成例の固体撮像装置は、基板101と、絶縁層102と、下部電極104と、接続部105と、有機光電変換層212と、電荷ブロッキング層115と、上部電極108と、緩衝層109と、封止層110と、封止補助層110aと、カラーフィルタ(図中、CFで示す。)111と、隔壁112と、遮光層113と、保護層114と、読出し回路116とを備える。
【0031】
基板101は、ガラス基板又はSi等の半導体基板である。基板101上には絶縁層102が形成されている。絶縁層102の表面には複数の下部電極104が形成されている。
下部電極104は、下部電極104とそれに対向する上部電極108との間にある有機光電変換層212で発生した電荷を捕集するための電荷捕集用の電極である。読出し回路116は、複数の下部電極104の各々に対応して基板101に設けられており、対応する下部電極104で捕集された電荷に応じた信号を読出すものである。読出し回路116は、例えばCCD、MOS回路、又はTFT回路等で構成されており、絶縁層102内に配置された図示しない遮光層によって遮光されている。
【0032】
下部電極104は、絶縁層102の表面と下部電極104の表面が同一平面となる完全平坦化した構成になっている。絶縁層102及び下部電極104を覆うように有機光電変換層212が設けられている。
下部電極104と有機光電変換層212との接合界面においては、真空準位シフトが接合界面への光照射により調整されている。このため、下部電極104と有機光電変換層212との接合界面では、図3に示す状態と同様のバンドベンディングが形成されており、この固体撮像装置は光電変換効率及び応答速度に優れ、暗電流が低減されている。
【0033】
有機光電変換層212上には、電荷ブロッキング層115が設けられている。
電荷ブロッキング層115は、上部電極108から有機光電変換層212に電子が注入されることを抑える機能を有する。この構成は、下部電極104の電位より上部電極108の電位を低くして、下部電極104から上部電極108に向かって電流が通る(つまり、電子が下部電極104に捕集される)構成である。
【0034】
上部電極108は、下部電極104と対向する電極であり、電荷ブロッキング層115上にこれを覆って設けられている。上部電極108は、有機光電変換層212に光を入射させるため、入射光に対して透明な導電性材料で構成されている。
【0035】
緩衝層109は、上部電極108上に、上部電極108を覆って形成されている。封止層110は、緩衝層109上に、緩衝層109を覆って形成されている。封止補助層110aは、封止層110上に、封止層110を覆って形成されている。カラーフィルタ111は、封止補助層110a上の各下部電極104と対向する位置に形成されている。隔壁112は、カラーフィルタ111同士の間に設けられており、カラーフィルタ111に入射した光を下部電極104上の有機光電変換層212へ集光させるための集光手段として機能する。遮光層113は、封止補助層110a上のカラーフィルタ111及び隔壁112を設けた領域以外に形成されており、有効画素領域以外に形成された有機光電変換層212に光が入射することを防止する。保護層114は、カラーフィルタ111、隔壁112、及び遮光層113上に形成されており、有機光電変換層212等を保護する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下のようにして、下部電極上に、光電変換層、電子ブロッキング層、上部電極の順に各層及び上部電極を形成し、下部電極/光電変換層/電子ブロッキング層/上部電極で構成された光電変換素子を作製した。
(比較例1)
下部電極としてITOを使用した。下部電極(ITO)上に、光電変換層として、下記化合物(1)とフラーレン(C60)を真空中で共蒸着することにより、これらの混合膜を400nmの膜厚で形成した。光電変換層中における化合物(1)とフラーレン(C60)の比は、化合物(1):フラーレン=1:3(体積比)とした。この光電変換層上に、電荷ブロッキング層として、化合物(4)で表される有機化合物を真空蒸着法で300nmの膜厚で形成した。この電荷ブロッキング層上に、上部電極として、ITOを高周波マグネトロンスパッタにより5nmの膜厚で形成し、素子を作製した。
さらに、作製した素子を、大気に曝すことなく、水分、酸素をそれぞれ1ppm以下に保ったグローブボックスに搬送し、グローブボックス中で、吸湿剤を貼ったガラスの封止管で封止した。
【0037】
(比較例2,3)
比較例1において、化合物(1)を化合物(2),化合物(3)に変更したこと以外は同様にして、実施例2,3の素子を作製した。
【0038】
(実施例1)
比較例1において、上部電極を形成した後、紫外線ランプ(UVGL−25、UVP社)を用いて、下部電極側から1mW/cmの紫外線(波長:365nm)を10分間照射し、その後封止を行ったこと以外は同様とした。
【0039】
(実施例2,3)
実施例1において、化合物(1)を化合物(2),化合物(3)に変更したこと以外は同様にして、実施例2,3の素子を作製した。
【0040】
以上で使用した化合物を下記に示す。
【0041】
【化1】

【0042】
表1に、実施例1〜3及び、比較例1〜3の光電変換素子に、下部電極に正のバイアスを1.5E+5V/cm、3.0E+5V/cm印加した状態での光電変換効率、暗電流密度を示す。実施例1〜3及び、比較例1〜3の光電変換素子のIPCE及び暗電流密度を示す。1.5E+5V/cmでは、比較例に対して光電変換効率の向上を示し。3.0E+5V/cmでは、暗電流密度の低下を示した。さらに、一週間後に同様の測定を行ったが、実施例、比較例ともに測定後の素子特性変化は観察されなかった。
【0043】
【表1】


【0044】
(実施例4)
次に、光照射による上記表1に示す効果が、真空準位シフトを調整したことによるものであることを以下の実験に基づいて説明する。
まず、Al及びITO上に、上記実施例1で使用した化合物(1)とフラーレン(C60)の混合膜(化合物(1):フラーレン(C60)=1:3(体積比))を真空中で共蒸着により成膜した。成膜した有機層を、大気に曝すことなく、水分、酸素をそれぞれ1ppm以下に保ったグローブボックスに搬送し、グローブボックス中で、有機層の表面電位をケルビンプローブ法により測定した。
図6に、有機層の膜厚を0nm〜200nmまで変えた時の表面電位の測定結果を示す。膜厚の変化に伴って表面電位が変化していき、Al上、ITO上ともに、4.15eVに収束した。これより、化合物(1)とフラーレン(C60)の混合膜(化合物(1):フラーレン(C60)=1:3(体積比))は4.15eVのフェルミ準位を有し、電極の仕事関数と、フェルミ準位の一致を伴ってバンドベンディングが起こっていることがわかる。
【0045】
次に、ITO上に、化合物(1)とフラーレン(C60)の混合膜(化合物(1):フラーレン(C60)=1:3(体積比))を真空中で共蒸着により成膜した有機層に、紫外線照射(365nm、1mW/cm、10min)を行い、その後有機層の表面電位をケルビンプローブ法により測定した。
図7に、無処理の有機層と、紫外線照射を行った有機層の表面電位の測定結果を示す。紫外線照射を行うことで、有機層の膜厚が10nm以下の範囲において、一旦表面電位が低下し、その後、無処理の有機層と同様に、4.15eVに収束した。これにより、ITOと有機層との接合界面に光照射を行ったことにより、接合界面においてプラス(+)の方向に真空準位シフトが起こり、図3に示すようなバンドベンディングに変化していることがわかる。
【符号の説明】
【0046】
10 有機半導体素子
11,21,104 下部電極
12 有機半導体層
15,25,108 上部電極
20 有機光電変換素子
22,212 有機光電変換層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性電極と、前記導電性電極と接する有機半導体層とを含む有機半導体素子であって、
前記導電性電極と前記有機半導体層との接合界面における真空準位シフトが、前記接合界面への光照射により調整された、有機半導体素子。
【請求項2】
前記有機半導体層に含まれる有機半導体材料がフェルミ準位を有する、請求項1に記載の有機半導体素子。
【請求項3】
前記接合界面における真空準位シフトの調整が、前記接合界面における真空準位をプラス(+)方向にシフトさせることである、請求項1又は2に記載の有機半導体素子。
【請求項4】
前記光照射が紫外線の照射である、請求項1〜3のいずれかに記載の有機半導体素子。
【請求項5】
請求項1に記載の有機半導体層が有機光電変換層である、有機光電変換素子。
【請求項6】
前記有機光電変換層が、p型有機半導体とn型有機半導体とを含む複数の材料の混合層である、請求項5に記載の有機光電変換素子。
【請求項7】
前記n型有機半導体がフラーレン又はフラーレン誘導体である、請求項5又は6に記載の有機光電変換素子。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の有機光電変換素子を含む、固体撮像装置。
【請求項9】
導電性電極と、前記導電性電極と接する有機半導体層とを含む有機半導体素子の製造方法であって、
導電性電極上に有機半導体層を形成する工程と、
導電性電極上に有機半導体層を形成した後、前記導電性電極と前記有機半導体層との接合界面に光照射を行うことにより、前記導電性電極と前記有機半導体層との接合界面における真空準位シフトを調整する工程を含む、有機半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−77390(P2011−77390A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228686(P2009−228686)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】