説明

機械装置における潤滑方法

【課題】海底の地盤処理機の摺動部廻りの潤滑において、海水等の周囲環境の汚染を防止する潤滑方法を提供する。
【解決手段】密度が大きく海水に沈降するような生分解性グリースを使用する。このグリースは例えば生分解性基油,増ちょう剤,比重調整剤から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,軟弱地盤等の地盤にセメントを注入して固化する地盤処理機,地盤を掘削する掘削機,ゲート等の負荷体を往復移動させるアクチュエータ等の機械装置において,支持鋼管で摺動自在に支持された回転軸を回転支持する軸受等の摺動部廻りや往復動部材の摺動部廻りに潤滑グリースを供給する機械装置における潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,地盤改良工事について,深層混合処理工法が知られている。深層混合処理工法は,例えば,海底等の軟弱地盤等改良層を掘削機で掘削攪拌し,掘削土にスラリー化したセメント系硬化材を注入し,掘削土とセメント系硬化材とを攪拌混合して混合材を固化させる機械攪拌式の地盤処理工法である。セメント系硬化材は,計量されたセメント,水及びAD剤をミキサで混合し,アジテータで攪拌した混合材を圧送ポンプで計量しつつ処理機に送り込み,処理機から回転軸を通じて掘削土に供給し,攪拌翼で攪拌しつつ混合し,固化させている。このような地盤処理機において,回転軸を軸受を介して支持鋼管で回転自在に支持しているが,該軸受には潤滑グリースを供給する必要がある。現在では,掘削機の軸受に供給する潤滑グリースは,種々のものが使用されており,水面に浮上するものや水底に沈降するものが知られている。
【0003】
従来,シールド掘進機用テールシール組成物が知られている。該組成物は,生分解性の基油,生分解性のグリース,又はこれらの混合物を55〜33重量%,生分解性の流動点降下剤を12〜2重量%,粉末状無機物,ペースト状無機物又はこれらの混合物を30〜60重量%,及び長さ1〜5mm,太さ0.5〜2デニールの繊維質を30〜60重量%を含み,NLGIちょう度グレードが150〜280である(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,生分解性グリース組成物として,事前環境で生分解性をもち,潤滑寿命や酸化安定性を備えたものが知られている。ペンタエリスリトールの炭素数2nの直鎖脂肪エステルを少なくとも80%を含む基油,増ちょう剤,硫黄−燐系の極圧剤及び酸化防止剤をふくむものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,生分解性グリース組成物として,植物油を基油としたものが知られている。該生分解性グリース組成物は,基油として40℃における動粘度が25〜80mm2 /sである植物油を少なくとも80重量%を含み,カルシウム石けん,有機化ベントナイト,シリカの増ちょう剤,硫黄−燐系の極圧剤,及び酸化防止剤を含んでいるものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,生分解性グリース組成物として,水洗耐水性に優れたものが知られている。該生分解性グリース組成物は,エステル油又は動植物油を基油として,それにシリカ,アルミナ,マグネシア等の無機物,金属石けん,及び増ちょう剤を添加したものである(例えば,特許文献4参照)。
【0007】
また,本出願人は,生分解性グリース組成物として,河川,地下水,土壌,海洋等に混入しても大部分が分解され,水質汚染,土壌汚染,海洋汚染のないものを開発し,先に特許出願したものが知られている。該生分解性グリース組成物は,基油としてポリオールエステル油を少なくとも80重量%以上含み,これに増ちょう剤を添加し,生分解率を80%以上としたものである(例えば,特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平9−208943号公報
【特許文献2】特開平8−20789号公報
【特許文献3】特開平8−20788号公報
【特許文献4】特開2003−277780号公報
【特許文献5】特開平6−1989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,従来の地盤処理工法等の機械装置において,地盤処理機の回転軸の摺動部である軸受廻りに供給する潤滑グリースは,主原料のベースオイルが鉱物油であるため,潤滑グリースを給脂した場所で漏洩した場合に,潤滑グリースが生分解せずにその場所に残留するという問題があった。また,例えば,地盤処理機を海上で使用した場合には,潤滑グリースの比重が0.9程度であり,潤滑グリースが海面に浮上し,海水を汚染するという問題があった。そのため,海面に浮上した潤滑グリースを回収する作業が必要になり,回収した潤滑グリースを処理するため産廃物処理コストが発生するという問題があった。また,地盤処理機を搭載した作業船の移送時には,それに先立って船底に付着した潤滑グリースを脱落させたり,地盤処理機に付着した潤滑グリースを洗浄して地盤処理機から脱落させる作業が必要になり,そのため,後処理に高コストがかかると共に,海水等を汚染し周囲環境を汚染するという問題があった。
【0009】
また,従来の地盤処理機について,軸受に供給する潤滑グリースとして,海水に沈降するもの,例えば,ベースオイルとして合成油であるポリグリコール油にリチウム石けんを添加した潤滑グリースが使用されており,その比重が1.1と重いため,海面に浮上せずに海底に沈降するものが知られているが,このような潤滑グリースは,ポリグリコール油は生分解性でないため,海底に沈降して海底を汚染すると共に,長期にわたっては潤滑グリースが海水に溶解したり海水に運ばれて海水中に散乱する恐れがあり,海水等の周囲環境を汚染するという問題があった。
【0010】
この発明の目的は,上記の課題を解決するため,地盤処理機等の機械装置の回転軸を回転自在に支持する軸受等の支持部材の廻りに供給する潤滑グリースを少なくとも海水に沈降する比重に作製すると共に,潤滑グリースに生分解性の性状を持たせて潤滑グリースをバクテリア等によって分解させて無害の物質に戻して周囲環境の汚染を防止する機械装置における潤滑方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,互いに相対移動する相対移動部材を有する機械装置における前記相対移動部材間の摺動部に潤滑グリースを給脂して前記摺動部を潤滑する機械装置における潤滑方法において,
一方の前記相対移動部材を貫通する他方の前記相対移動部材を相対移動自在に支持する前記摺動部の廻りに給脂される前記潤滑グリースとして,少なくとも海水に沈降する生分解性グリースを使用したことを特徴とする機械装置における潤滑方法に関する。
【0012】
この機械装置における潤滑方法において,前記生分解性グリースは,実質的に,60〜90wt%のベースオイルと,40〜10wt%の増ちょう剤及び比重調整材等の添加剤とから構成されている。
【0013】
この機械装置における潤滑方法において,前記生分解性グリースは,密度が1.1g/cm3 以上である。
【0014】
この機械装置における潤滑方法において,前記生分解性グリースは,前記ベースオイルとしてポリオールエステル油等の合成油及び/又は植物油の生分解性油に,前記増ちょう剤としてリチウム−カルシウム石けん,リチウム石けん,カルシウム石けん,アルミニウム石けん,それらの複合石けんから選ばれる一種又は複数種,及び前記比重調整添加剤として潤滑性を損害しない酸化亜鉛(ZnO),二硫化モリブデン(MoS2 ),酸化チタン(TiO2 ),グラファイト,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン),MCA(メラミンシアヌレレート),炭酸カルシウム(CaCO3 ),窒化ホウ素(BN),二硫化タングステン(WS2 ),タルク,雲母,銅粉末,アルミナ粉末等の潤滑性能を阻害しない金属粉末から選択された1種又は複数種が添加されているものである。
【0015】
この機械装置における潤滑方法において,前記生分解性グリースは,−50℃〜+130℃の温度範囲で使用できるものである。海底等で使用する場合には,実用的には,0℃〜80℃程度の温度範囲が好ましい温度条件である。また,合成油では最低温度が−50℃でも凝結することなく使用できるが,植物油,動物油では最低温度が0℃程度が実用的な温度である。
【0016】
また,前記機械装置は,海底等の軟弱地盤を掘削した掘削土にスラリー化したセメント系硬化材を注入し,前記掘削土と前記セメント系硬化材とを攪拌混合した混合材を固化させた機械攪拌式の地盤処理機,立て坑,トンネル,水底の地盤等の地中を掘削する掘削機,又は水門,ゲート,バルブ等の負荷体を往復移動させる支持装置である。
【0017】
また,前記機械装置おける前記地盤処理機は,一方の前記相対移動部材が回転軸であり,他方の前記相対移動部材がスライド軸に隔置状態に配設されて前記回転軸を回転自在に支持する支持鋼管であり,前記回転軸の少なくとも1本が前記セメント系硬化材の供給通路を有し,前記潤滑グリースが前記回転軸を回転自在に支持する少なくとも前記摺動部廻りにグリースポンプの駆動でグリースホースを通じてそれぞれ給脂されるものである。
【0018】
更に,前記地盤処理機は,海底や水底の前記軟弱地盤を前記セメント系硬化材を混合して固化するため,作業船に搭載されているものである。
【0019】
この機械装置における潤滑方法において,前記地盤処理機における前記回転軸は,先端に掘削翼と攪拌翼とを備えた駆動回転軸と前記駆動回転軸に順次に継ぎ足し連結される連結回転軸から成り,前記支持鋼管は,前記駆動回転軸と前記連結回転軸との前記摺動部を備えた連結部及び前記連結回転軸同士の前記摺動部を備えた連結部にそれぞれ配設されているものである。
【0020】
この機械装置における潤滑方法において,前記生分解性グリースは,前記地盤処理機における前記回転軸に設けた前記掘削翼によって前記軟弱地盤を掘削して前記回転軸の前記連結部が前記軟弱地盤に順次に進入する時に,前記軟弱地盤に進入した前記連結部の前記摺動部廻りに前記グリースポンプを作動して前記グリースタンクから前記グリースホースを通じて順次に給脂され,前記軟弱地盤からの前記回転軸の引き抜きに応じて前記摺動部廻りへの給脂が停止されるものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明による機械装置における潤滑方法は,上記のように,相対移動部材間の軸受に給脂される潤滑グリースを少なくとも海水に沈降する生分解性グリースを使用したので,潤滑グリースが軸受から外部に出るものが有ったとしても,海面等の水面に浮上することなく,船底を汚染したり,海水等の水中を汚染することなく,特に,潤滑グリースが無毒性であって生分解して自然に返すことができ,安全性と信頼性に富み,環境汚染等が発生しない。また,本件の潤滑グリースは耐水性に優れており,軸受から流出し難いが,流出したとしても,漏洩したグリースを回収する必要がないので,グリースを回収する産廃処理コストを不要にし,安価に製造することができる。また,この機械装置における潤滑方法では,本発明に使用される前記生分解性グリースは,既存の生分解性グリースに比重調整材等の添加剤を加えて調整することによって作製でき,その場合には極めて容易に調製して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明による機械装置における潤滑方法は,例えば,水底,海底の軟弱地盤等の地盤を強固な地盤に改良する地盤処理機,水底,海底,トンネル,立て坑等の地盤を掘削する掘削機,或いは,水門,ゲート,バルブ等の負荷体を往復移動させる支持装置等の機械装置の潤滑に適用して好ましいものである。この機械装置における潤滑方法は,図1〜図4に示すように,一方の相対移動部材として水中で作動される互いに相対移動する回転軸2と他方の相対移動部材として回転軸2を回転自在に支持する軸受4を持つ支持鋼管3から成る機械装置である地盤処理機1に適用でき,回転軸2と支持鋼管3との間の摺動部である軸受4に潤滑グリースを給脂して摺動部を潤滑するものである。又は,図示していないが,この機械装置における潤滑方法は,一方の相対移動部材として駆動軸と駆動軸を摺動又は回転自在に支持する軸受を持つベースや機台とから成る掘削機に適用でき,駆動軸とベースや機台との間の摺動部に潤滑グリースを給脂して摺動部を潤滑するものである。或いは,この機械装置における潤滑方法は,図示していないが,一方の相対移動部材としてロープ等の支持部材と該支持部材を支持する摺動自在に支持するベースや機台を有する機械装置における負荷体支持装置に適用でき,支持部材とベースや機台との間の摺動部に潤滑グリースを給脂して摺動部を潤滑するものである。
【0023】
以下では,実施例として図1〜図4を参照して,海底29や水底の軟弱地盤21の地盤を強固な地盤に改良する地盤処理機1に適用したものについて説明するが,上記の掘削機や負荷体支持装置にも以下で説明する事項は同様に適合するものである。この機械装置における潤滑方法は,特に,一方の相対移動部材である回転軸2を貫通する他方の相対移動部材である支持鋼管3を相対移動自在に支持する摺動部である軸受4の廻りに給脂される潤滑グリースとして,少なくとも海水に沈降する生分解性グリース20を使用することを特徴としている。
【0024】
生分解性グリース20は,実質的に,60〜90wt%のベースオイルと,40〜10wt%の増ちょう剤及び比重調整材等の添加剤とから構成されている。生分解性グリース20における添加剤は,比重調整材の他,更に,耐荷重性能,耐摩耗性,耐水性を向上させるためそれらの性状を持つ添加剤を添加することができるものである。また,生分解性グリース20は,実質的には,密度が1.1g/cm3 以上になるように,比重調整材が加えられている。
【0025】
この機械装置における潤滑方法において,ベースオイルは,例えば,ポリオールエステル油等の合成油及び/又は動植物油の生分解性油を用いることができ,特に,ポリオールエステル油を使用することが好ましい。また,増ちょう剤は,リチウム−カルシウム石けん,リチウム石けん,カルシウム石けん,アルミニウム石けん,それらの複合石けんから選ばれる一種又は複数種であり,特に,リチウム−カルシウム石けんを用いることが好ましい。更に,比重調整材の添加剤は,潤滑性を損害しない物質,例えば,酸化亜鉛(ZnO),二硫化モリブデン(MoS2 ),酸化チタン(TiO2 ),グラファイト,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン),MCA(メラミンシアヌレレート),炭酸カルシウム(CaCO3 ),窒化ホウ素(BN),二硫化タングステン(WS2 ),タルク,雲母,銅粉末,アルミナ粉末等の潤滑性能を阻害しない金属粉末から選択された1種又は複数種であり,特に,炭酸カルシウムを用いることが好ましい。また,生分解性グリース20は,−50℃〜+130℃の温度範囲で使用できるように構成されている。
【0026】
この機械装置における潤滑方法は,この実施例では,機械装置としては地盤処理機1に適用されており,地盤処理機1は,特に,図3に示すように,一方の相対移動部材が回転軸2であり,他方の相対移動部材がスライド軸であるスライド管5に隔置状態に配設され且つ回転軸2を回転自在に支持する支持鋼管3である。また,回転軸2の少なくとも1本は,セメント系硬化材のセメント供給通路22を有しており,潤滑グリースが少なくとも回転自在に支持する摺動部廻りにグリースポンプ7の駆動によってグリースタンク6からグリースホース8を通じてそれぞれ供給されるように構成されている。ここで,グリースタンク6は,搬送移動できるドラム缶,ジャバラ容器,パレット容器等の移動式容器,作業船13,機台等に設置されているタンク等の設置型容器を総称しているものである。また,グリースホース8は,図2では説明を分かり易くするため海水28中に延びるように図示しているが,好ましくは,例えば,スライド管5に沿って配設することが破損等が発生せずに好ましいことは勿論である。生分解性グリース20の連結部25への給脂は,各連結部25へ生分解性グリース20を給脂するグリースポンプ7がそれぞれ設けられており,グリースポンプ7は,グリースタンク6から,それぞれのグリースホース8を通じてそれぞれの連結部25に生分解性グリース20が供給されるように構成されている。図3に示すように,回転軸2は,スライド管5に隔置状態に配設された支持鋼管3によって回転自在に支持されている。スライド管5は,隣接する一対の回転軸2の間に延びており,支持鋼管3は,隣接する一対の回転軸2を軸受4を介して回転自在に支持されている。
【0027】
地盤処理機1は,図1〜図4に示すように,海底29の軟弱地盤21をセメント系硬化材を混合して固化するため,作業船13に搭載されているものである。作業船13には,地盤処理機1が搭載されており,地盤処理機1は,プラント14,セメントサイロ15,タワー17,油圧ジャッキ18,発電機19,モータ9等の地盤処理機1を構成する各種機器,及びこれらを制御する制御装置を備えた中央制御室16から構成されている。また,この機械装置における潤滑方法において,地盤処理機1における回転軸2は,図3に示すように,モータ9の回転が伝達される減速機12やガイド機構等を備えた動力伝達手段30,先端部26に掘削翼10と攪拌翼11とを備えた駆動回転軸23,及び駆動回転軸23に順次に継ぎ足し連結され且つ動力伝達手段30からの回転が伝達される複数の連結回転軸24から成る。また,支持鋼管3は駆動回転軸23と連結回転軸24との連結部25,及び連結回転軸24同士の連結部25にそれぞれ配設されている。連結回転軸24は,図2及び図4に示すように,5段に接続されており,連結回転軸24の最先端には掘削翼10と攪拌翼11とを備えた駆動回転軸23が連結されている。
【0028】
次に,生分解性グリース20の給脂タイミングを説明する。図4に示すように,この機械装置における潤滑方法において,地盤処理機1は,中央制御室16で作動が制御されるが,作業開始に当たって発電機19を発電されて油圧ジャッキ18を作動して地盤処理機1を所定の位置に設定するためタワー17を移動させ,そこで回転軸2を海水28に向かって降下させ,海面27に駆動回転軸23を進入させて海水28中に沈める(ステップS1)。次いで,地盤処理機1の駆動回転軸23を海底29に到達させ,モータ9を駆動して減速機12を介して連結回転軸24及び駆動回転軸23を回転させる(ステップS2)。駆動回転軸23が回転駆動して掘削翼10が海底の軟弱地盤21を掘削して回転軸2を軟弱地盤21に貫入させ,次いで,軟弱地盤21に進入した回転軸2の連結部25の摺動部廻りに生分解性グリース20を給脂するため,グリースポンプ7を順次に駆動してグリースタンク6からグリースホース8を通じて摺動部廻りに生分解性グリース20を順次に給脂すると共に,攪拌翼11が掘削土を攪拌しつつセメントサイロ15から回転軸2のセメント供給通路22を通じてセメント系硬化材を掘削土に供給して混合する(ステップS3)。図4では,生分解性グリース20が給脂された連結部25には×印で示されている。地盤処理機1は,回転軸2が地盤改良すべき軟弱地盤21の所定の位置に到達する(ステップS4)と,セメント系硬化材の供給を停止し,次いで回転軸2を回転しつつ回転軸2を軟弱地盤21から引き抜く操作に移行する。次いで,軟弱地盤21からの回転軸2が引き抜かれると,回転軸2を駆動するモータ9を作動を停止し,連結部25の摺動部廻りへの生分解性グリース20を給脂しているグリースポンプ7を順次に停止し,生分解性グリース20の給脂を停止する(ステップS5)。次いで,回転軸2の連結部25が海水中に引き抜かれると,全てのグリースポンプ7の作動が停止され,連結部25への生分解性グリース20の給脂が停止され,地盤処理機1の作動を停止する(ステップS6)。
【0029】
この機械装置における潤滑方法において使用される生分解性グリース20は,具体的には,生分解性合成エステル系のベースオイルにリチウム−カルシウム石けんの増ちょう剤を添加し,炭酸カルシウムの比重調整材を添加したものであり,海水中に沈むのに十分な比重が1.1程度であり,銅板腐食試験で合格するものであった。ここで作製した生分解性グリース20について,各種の性状を測定すると,ちょう度が220〜430WP,好ましくは315程度であり,滴点が187℃であり,離油度が100℃で24時間試験が2.5mass%であり,蒸発量が99℃で22時間試験で0.22mass%であることが確認できた。更に,生分解性グリース20は,水洗耐水性が79℃で1時間試験で1.4mass%であり,高い耐水性を示すことが確認できた。また,生分解性グリース20は,見掛け粘度が0℃で10sec-1で51.3Pa・sであり,100sec-1で12.3Pa・sであり,グリースポンプ7での圧送性が良好であることを確認できた。生分解性グリース20は,4球耐摩耗性能試験,75℃,1200rpm,40kgf,1時間で,0.39mmであり,耐摩耗性が良好であることが確認できた。更に,生分解性グリース20は,10%含水4球耐摩耗性能試験,75℃,1200rpm,40kgf,1時間で,0.52mmであり,含水潤滑性が良好であることが確認できた。
【0030】
生分解性グリース20は,上記のとおりであり,新基準エコマークを取得できる高い生分解性と低い急性毒性を有するものであり,海水中に沈降すること,コストは既存に高比重グリースよりも安価であり,潤滑性、耐水性、圧送性等の一般性状は既存潤滑グリースと同等以上であることが確認できた。また,生分解性グリース20は,エコマーク新基準をクリアする生分解性度を持ち,比重が大きいので海底および海面上を汚染しないと期待でき,ヒメダカによる急性毒性試験において無毒性を示すことが確認できた。更に,生分解性グリース20は,汎用グリースを凌ぐ耐荷重性能及び耐摩耗性能を示し,特に,広い温度範囲(−50℃〜+130℃)で使用できることが確認でき,耐水性に優れており、水がかかる部位でも流出し難い性状を示し,現行グリースとほぼ同等の良好な圧送性を有することが確認できた。特に,生分解性グリース20は,含水潤滑性が良好であり,高い耐水性を示すので,海底の地盤処理機1に適用してグリース給脂量を削減できることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明による機械装置における潤滑方法は,特に,海底等の軟弱地盤等の地盤を強固な地盤に改良する地盤処理機,海底等の地盤を掘削する掘削機,或いは,水門,ゲート,バルブ等の負荷体を往復移動させる支持装置等の機械装置の潤滑に適用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明による機械装置における潤滑方法を達成するための地盤処理機の概念を示す概略説明図である。
【図2】図1の地盤処理機において,回転軸を回転自在に支持する支持鋼管の摺動部の廻りに潤滑グリースを給脂する概念を説明する概略図である。
【図3】図1の地盤処理機における掘削翼と攪拌翼を備えた回転軸を支持鋼管に回転自在に支持する概念を示す概略図である。
【図4】図1の地盤処理機における摺動部まわりへの給脂タイミングを示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 地盤処理機
2 回転軸(相対移動部材)
3 支持鋼管(相対移動部材)
4 軸受(摺動部)
5 スライド管
6 グリースタンク
7 グリースポンプ
8 グリースホース
10 掘削翼
11 攪拌翼
13 作業船
20 生分解性グリース
21 軟弱地盤
23 駆動回転軸
24 連結回転軸
25 連結部
26 先端部
27 海面
28 海水
29 海底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対移動する相対移動部材を有する機械装置における前記相対移動部材間の摺動部に潤滑グリースを給脂して前記摺動部を潤滑する機械装置における潤滑方法において,
一方の前記相対移動部材を貫通する他方の前記相対移動部材を相対移動自在に支持する前記摺動部の廻りに給脂される前記潤滑グリースとして,少なくとも海水に沈降する生分解性グリースを使用したことを特徴とする機械装置における潤滑方法。
【請求項2】
前記生分解性グリースは,実質的に,60〜90wt%のベースオイルと,40〜10wt%の増ちょう剤及び比重調整材等の添加剤とから構成されていることを特徴とする請求項1に記載の機械装置における潤滑方法。
【請求項3】
前記生分解性グリースは,密度が1.1g/cm3 以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機械装置における潤滑方法。
【請求項4】
前記生分解性グリースは,前記ベースオイルとしてのポリオールエステル油等の合成油及び/又は動植物油の生分解性油に,前記増ちょう剤としてのリチウム−カルシウム石けん,リチウム石けん,カルシウム石けん,アルミニウム石けん,それらの複合石けんから選ばれる一種又は複数種,及び前記比重調整添加剤としての酸化亜鉛,二硫化モリブデン,酸化チタン,グラファイト,PTFE,MCA,炭酸カルシウム,窒化ホウ素,二硫化タングステン,タルク,雲母,銅,アルミナ等の金属粉末から選択された1種又は複数種が添加されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の機械装置における潤滑方法。
【請求項5】
前記生分解性グリースは,−50℃〜+130℃の温度範囲で使用できることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑グリースの供給方法。
【請求項6】
前記機械装置は,海底等の軟弱地盤を掘削した掘削土にスラリー化したセメント系硬化材を注入し,前記掘削土と前記セメント系硬化材とを攪拌混合した混合材を固化させた機械攪拌式の地盤処理機,立て坑,トンネル,水底の地盤等の地中を掘削する掘削機,又は水門,ゲート,バルブ等の負荷体を往復移動させる支持装置であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の機械装置における潤滑方法。
【請求項7】
前記機械装置おける前記地盤処理機は,一方の前記相対移動部材が回転軸であり,他方の前記相対移動部材がスライド軸に隔置状態に配設されて前記回転軸を回転自在に支持する支持鋼管であり,前記回転軸の少なくとも1本が前記セメント系硬化材の供給通路を有し,前記支持鋼管による前記回転軸の回転自在に支持する少なくとも前記摺動部廻りに前記生分解性グリースがグリースポンプの駆動によってグリースタンクからグリースホースを通じてそれぞれ給脂されることを特徴とする請求項6に記載の機械装置における潤滑方法。
【請求項8】
前記地盤処理機は,海底や水底の前記軟弱地盤に前記セメント系硬化材を混合して固化するため,作業船に搭載されていることを特徴とする請求項7に記載の機械装置における潤滑方法。
【請求項9】
前記地盤処理機における前記回転軸は,先端に掘削翼と攪拌翼とを備えた駆動回転軸と前記駆動回転軸に順次に継ぎ足し連結される連結回転軸から成り,前記支持鋼管は,前記駆動回転軸と前記連結回転軸との前記摺動部を備えた連結部及び前記連結回転軸同士の前記摺動部を備えた連結部にそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の機械装置における潤滑方法。
【請求項10】
前記生分解性グリースは,前記地盤処理機における前記回転軸に設けた前記掘削翼によって前記軟弱地盤を掘削して前記回転軸の前記連結部が前記軟弱地盤に順次に進入する時に,前記軟弱地盤に進入した前記連結部の前記摺動部廻りに前記グリースポンプを作動して前記グリースタンクから前記グリースホースを通じて順次に給脂され,前記軟弱地盤からの前記回転軸の引き抜きに応じて前記摺動部廻りへの給脂が停止されることを特徴とする請求項9に記載の機械装置における潤滑方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−16066(P2007−16066A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196135(P2005−196135)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(390022275)株式会社日本礦油 (25)
【Fターム(参考)】