説明

歯車減速機の軸封部構造

【課題】異物を効果的に除去するフィルタによりオイルシールを保護しつつ、フィルタと軸の摩耗も防ぐことのできる歯車減速機の軸封部構造を提供すること。
【解決手段】歯車減速機の軸封部構造であって、出力軸40を支持する軸受42と、ギヤケース34の軸受支持部34a及び/又は軸受支持部材38と、オイルシール46と、油孔50と、フィルタ52とからなり、軸受42は少なくともギヤケース内部側に遮蔽手段44を具え、油孔50は軸受とオイルシール間の空隙部及びギヤケース内部空間とを連通させ潤滑油をオイルシールに誘導するように、出力軸の下方で、軸受支持部及び/又は軸受支持部材に少なくとも1つ形成されてなり、フィルタ52は油孔50の開口部を覆うように軸受支持部34a及び/又は軸受支持部材38に装着されている。これにより、軸受の遮蔽手段とフィルタによる効果的な異物の除去とオイルシールの保護を実現しながら、適度な潤滑と軸・フィルタを含めた各部材の長寿命化も図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車減速機の出力軸からの潤滑剤の漏洩を、オイルシールにより防止する歯車減速機の軸封部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車減速機のオイルシールの損傷事例の中でも多いものとして、内部異物による、オイルシールの密封機構の損傷が挙げられる。内部異物とは、主にギアの回転により発生する摩耗粉である。使用に伴いこの摩耗粉が潤滑油に混入し、オイルシールの密封機構を損傷するため、油漏れが発生し、機械、製品、床を汚損する。従って、内部異物による損傷からオイルシールを保護することは、潤滑油を封入した動力伝達装置における、従来からの課題である。
【0003】
このような課題を解決するため、従来から、種々の手段が提供されている。
例えば、出願人が従来実施してきた技術として、ギヤケースを延長させて設けた圧力低減部とオイルシールの間にフィルタを取付け、これにより摩耗粉を濾過するように構成したものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−46653
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来技術において、フィルタには、出力軸の外周面に回転自在に密着する内径の中心孔が形成され、フィルタが軸に接触するように構成されている。このため、経年的に、フィルタに付着した摩耗粉により軸が損傷する、フィルタにより軸に摺動痕が付く、フィルタ自体が摩耗し軸との間に空隙が生じる、等の問題があった。当然ながら、これらは油漏れの原因となる。また、フィルタが軸に接触していることにより、僅かながら損失トルクも発生し、発熱の要因にもなっていた。
【0006】
そこで、本発明は、フィルタやそれに付着した摩耗粉による軸の損傷を生じさせず、上記のようなフィルタを用いない従来製品と同程度の損失トルク、発熱を維持しながら、オイルシールの適度な潤滑と長寿命化を実現する、歯車減速機の軸封部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ギヤケース内に出力軸を具えた歯車減速機構が内蔵され、前記ギヤケース内に前記歯車減速機構を潤滑する潤滑油が封入され、前記出力軸からの潤滑油の漏洩を、オイルシールによりシールする歯車減速機の軸封部構造であって、
前記軸封部構造は、前記出力軸を支持する軸受と、該軸受外周に位置する前記ギヤケースの軸受支持部及び/又は軸受支持部材と、前記軸受の近傍に装着された前記オイルシールと、前記潤滑油を前記オイルシールに誘導する油孔と、前記潤滑油を濾過するフィルタとからなり、
前記軸受は、少なくともギヤケース内部側に遮蔽手段を具え、
前記油孔は、前記軸受と前記オイルシール間の空隙部及び前記ギヤケース内部空間とを連通させ前記潤滑油を前記オイルシールに誘導するように、前記出力軸の下方で、前記軸受支持部及び/又は軸受支持部材に少なくとも1つ形成され、
前記フィルタが、前記油孔の開口部を覆うように装着されていることを特徴とする歯車減速機の軸封部構造によって、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軸受からの潤滑油漏れを防ぎ、ギヤケース内部で生じた摩耗粉がオイルシールを直接損傷することを防止しつつ、適度な潤滑を確保し、オイルシールの長寿命化を実現することができる。また、フィルタが、出力軸と接触せず、非摺動箇所に装着されているため、フィルタやこれに付着した摩耗粉により軸が損傷を受けることがなく、且つ、フィルタ自体の摩耗も防ぐことができる。余分な損失トルクや発熱を生じさせることもない。
よって、本発明の構成により、軸受の遮蔽手段とフィルタによる効果的な摩耗粉の除去を実現しながら、オイルシールの適度な潤滑と軸・フィルタを含めた各部材の長寿命化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の軸封部構造を具えたギヤードモータの一部断面を含む正面図。
【図2】(a)は図1の2−2線断面図で、本発明の実施例1の軸封部構造の全体を示す図、(b)は軸封部をギヤケース内部側から見た図。
【図3】(a)は本発明の実施例1の軸封部構造の要部断面図、(b)は(a)をギヤケース内部側から見た図。
【図4】(a)は本発明の実施例2の軸封部構造の要部断面図、(b)は(a)をギヤケース内部側から見た図。
【実施例1】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の軸封部構造を具えたギヤードモータの概要につき説明する。本発明のギヤードモータ10は、図1に示すように、モータ部20と減速機部30とから構成され、モータ部20と減速機部30とは、モータ部20の負荷側軸受けブラケット22を介して連結されている。
【0011】
モータ部20は、図1に示すように、両端側が回転自在に支持されたモータ軸24と、フレーム26とを具えている。フレーム26には、その一端部に、モータ軸24の負荷側を、負荷側軸受28を介して支持する負荷側軸受ブラケット22が取付けられ、その他端部に、モータ軸24の反負荷側を反負荷側軸受(図示せず。)を介して支持する反負荷側軸受ブラケット(図示せず。)が取付けられている。
【0012】
また、モータ軸24の負荷側は、負荷側軸受28を貫通して延長されており、この延長部の外周にはウォーム32が形成されている。そして、このウォーム32は減速機部30のギヤケース34内に位置し、ウォームホイール36と噛合っている。これにより、モータ軸24は減速機部30の入力軸として機能するようになっている。
【0013】
減速機部30は、図1、2に示すように、モータ部24の負荷側軸受ブラケット22に取付けられるギヤケース34と軸受支持部材38とを具えている。
【0014】
ギヤケース34内には、ウォーム32と噛合うウォームホイール36と、ウォームホイール36に連結された出力軸40とが組込まれており、ウォーム32とウォームホイール36が歯車減速機構を構成している。また、ギヤケース34内には、この歯車減速機構を潤滑する潤滑油が封入されている。
【0015】
出力軸40の両端部は、ギヤケース34と軸受支持部材38にそれぞれ組込まれた軸受42,42´により回転自在に取付けられている。
すなわち、本実施例においては、図2に示すように、左側の軸封部構造は、軸受42がギヤケース34の軸受支持部34aによって支持され、右側の軸封部構造は、ギヤケース34と別個の軸受支持部材(軸受ブラケット)38によって支持される構成となっている。
【0016】
そして、図2に示すように、軸受42,42´は、ギヤケース内部側が、遮蔽手段44,44´によって遮蔽されている。具体的には、片シールドタイプの軸受を用いるか、或いは通常の軸受に軸受用金属製シールを装着して使用するとよい。これにより、軸受からの潤滑油漏れを極力防ぎ、ギヤケース内部で生じた摩耗粉がオイルシールを直接損傷することを防止することができる。
【0017】
しかし、このような構成を採ると、オイルシールの潤滑が不十分となり得るため、本発明では、以下のような構成を採用し、これにより、適度な潤滑を確保しつつ、摩耗粉やフィルタによりオイルシールや軸を損傷することのない軸封部構造を提供することを可能とした。
【0018】
図3(a)は、図2中左側下部の軸封部構造の拡大図である。軸受42の外側には、ギヤケース34内の潤滑油の漏洩を防止するためのオイルシール46が、空隙部48を介して装着されている。
このオイルシール46は、リップ46aと塵除け46bとガータばね46cを具え、ガータばね46cの締付力によりリップ46aを出力軸40の外周面に押付け、リップ46aと出力軸40の外周面との間の摺動部が適切な接触を維持するようになっている。
【0019】
そして、実施例1では、出力軸40の下部において、軸受42とギヤケース34の軸受支持部34aの間に、出力軸方向に延びる油孔50が設けられ、軸受42・オイルシール46間に形成された空隙部48と連通されている。そして、この油孔50の開口部を塞ぐように、フィルタ52が、軸受支持部34aの正面にボルト54により固定されている。フィルタ52の装着は、他にも接着剤による固定等、種々の方法を用いることができる。
【0020】
また、フィルタ52の素材としては、摩耗粉のような微粒子を濾過して潤滑油を透過することができる素材であればよく、高密度多孔性部材からなる不織布により構成されるのが好適である。
【0021】
さらに、出力軸の上方に通気孔を設けると、オイルシールの潤滑をよりスムーズに行うことが可能となる。
図2(a)、(b)に示すように、実施例1では、出力軸の軸線を中心として油孔50と線対称となる位置(出力軸40の上部)に、やはり軸受42・オイルシール46間の空隙部48に連通される通気孔56を設けている。このような構成を採ると、軸受・オイルシール間の通気性が高まり、潤滑油がオイルシールに、より誘導されやすくなる。
この通気孔56は、空気を抜くためのものであり、また、歯車減速機構から離れた位置で摩耗粉の影響を受けにくいから、フィルタは装着しなくてもよい。
【0022】
なお、他端側の軸封部構造についても、フィルタ52が軸受支持部材38上に装着されることを除き、上記と同様の構成を採ることができる。
【実施例2】
【0023】
実施例2においては、油孔50の形成位置とフィルタ52の装着位置が、上記実施例1と異なる。
すなわち、図4(a)に示すように、油孔50は、軸受42・オイルシール46間の空隙部48から軸受支持部34aの下面に向けて延びるように、すなわち、出力軸42に対し斜め方向に形成され、フィルタ52が、その開口部を塞ぐように軸受支持部34aの下面に装着されている。なお、図4では、接着剤により装着した例を示している。
【0024】
実施例1の場合と同様、他端側においても、フィルタ52が軸受支持部材38上に装着されることを除き、上記と同様の構成を採ることができる。また、フィルタの装着方法及び好適な素材、通気孔の形成についても、上記実施例1と同様である。
なお、油孔50と通気孔56は、実施例1,2にそれぞれ記載したような構成、その他種々のものを組合わせる形で形成することができる。
【符号の説明】
【0025】
34:ギヤケース
34a:軸受支持部
38:軸受支持部材
40:出力軸
42:軸受
44:遮蔽手段
46:オイルシール
48:空隙部
50:油孔
52:フィルタ
56:通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤケース内に出力軸を具えた歯車減速機構が内蔵され、前記ギヤケース内に前記歯車減速機構を潤滑する潤滑油が封入され、前記出力軸からの潤滑油の漏洩を、オイルシールによりシールする歯車減速機の軸封部構造であって、
前記軸封部構造は、前記出力軸を支持する軸受と、該軸受外周に位置する前記ギヤケースの軸受支持部及び/又は軸受支持部材と、前記軸受の近傍に装着された前記オイルシールと、前記潤滑油を前記オイルシールに誘導する油孔と、前記潤滑油を濾過するフィルタとからなり、
前記軸受は、少なくともギヤケース内部側に遮蔽手段を具え、
前記油孔は、前記軸受と前記オイルシール間の空隙部及び前記ギヤケース内部空間とを連通させ前記潤滑油を前記オイルシールに誘導するように、前記出力軸の下方で、前記軸受支持部及び/又は軸受支持部材に少なくとも1つ形成され、
前記フィルタが、前記油孔の開口部を覆うように装着されていることを特徴とする、
歯車減速機の軸封部構造。
【請求項2】
前記出力軸の上方に、前記軸受と前記オイルシール間の空隙部及び前記ギヤケース内部空間とを連通させる通気孔が少なくとも1つ形成されている、請求項1の歯車減速機の軸封部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127700(P2011−127700A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287178(P2009−287178)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【Fターム(参考)】